(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】殺菌方法
(51)【国際特許分類】
C05G 5/20 20200101AFI20240305BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20240305BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20240305BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C05G5/20
C05D9/02
A01G31/00 601A
A61L2/10
(21)【出願番号】P 2019211546
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-233712(JP,A)
【文献】特開2011-055795(JP,A)
【文献】特開2014-226108(JP,A)
【文献】特開2012-205514(JP,A)
【文献】国際公開第2011/043326(WO,A1)
【文献】LIU, Yu-Wei, et al.,Effects of the Circulation Pump Type and Ultraviolet Sterilization on Nutrient Solutions and Plant G,HortTechnology,Vol.29, No.2,pp.189-198 (2019).,Publication Date: 28/03/2019
【文献】YAO, K. S., et al.,Photocatalytic Inactivation of Enterobacter cloacae SM1 by TiO2 Thin Film under UV-A Light Irradiati,Plant Pathology Bulletin,Vol.14, No.4,pp.265-268 (2005).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00 - 21/00
C05C 1/00 - 13/00
C05D 1/00 - 11/00
C05F 1/00 - 17/993
C05G 1/00 - 5/40
A61L 2/00 - 2/28
A61L 11/00 - 12/14
A01G 31/00 - 31/06
C02F 1/20 - 1/26
C02F 1/30 - 1/38
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体肥料の殺菌方法であって、
前記液体肥料は、少なくとも鉄を含む金属イオンを含有しており、
前記液体肥料に対して、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光を照射する工程(a)を含み、
前記工程(a)で前記紫外光が照射される範囲内に光触媒が存在せず、
前記工程(a)は、貯留槽に貯留された前記液体肥料に対して前記紫外光を照射する工程であることを特徴とす
る殺菌方法。
【請求項2】
液体肥料の殺菌方法であって、
前記液体肥料は、少なくとも鉄を含む金属イオンを含有しており、
前記液体肥料に対して、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光を照射する工程(a)を含み、
前記工程(a)で前記紫外光が照射される範囲内に光触媒が存在せず、
前記工程(a)は、前記液体肥料が貯留されている領域の外側から、前記液体肥料に対して前記紫外光を照射する工程であることを特徴とす
る殺菌方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、前記液体肥料の液面から離間した位置に配置された光源から前記液面に向けて前記紫外光を照射する工程であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の殺菌方法。
【請求項4】
前記金属イオンは、鉄(II)イオンであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項5】
前記工程(a)は、LEDからなる光源から前記紫外光を照射する工程であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項6】
前記紫外光は、主たる発光波長が405nmであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項7】
前記工程(a)によって前記紫外光が照射された後の前記液体肥料を、当該液体肥料を用いて生育される植物の育成領域に対して、配管を通じて供給する工程(b)を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項8】
前記育成領域から配管を通じて、前記紫外光が照射される領域に対して前記液体肥料を送り出す工程(c)を有し、
前記工程(a)、前記工程(b)、及び前記工程(c)が繰り返し実行されることを特徴とする、請求項7に記載の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌方法に関し、特に植物育成に利用される液体肥料の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌を用いずに、液体肥料(「養液」とも称される。)を用いて、植物を育成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、養液が収容された養液槽からポンプによって養液が吸い上げられて、植物が載置されている栽培槽に対して養液が供給されることで、植物が育成される。なお、この養液は、栽培槽と養液槽との間で循環される。
【0003】
ところで、栽培槽内で病原菌が発生するなどの事情により、栽培を継続していく過程で、養液に病原菌が繁殖する場合がある。特許文献1では、養液を光触媒反応器に導入することで、養液を除菌(殺菌)する方法が開示されている。より詳細には、酸化ケイ素を主成分とした繊維スリーブを基材とし、この基材に酸化チタンからなる光触媒を担持させてなる光触媒反応器に対して、殺菌灯から主波長200nm~300nmの光を照射する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物育成に利用される液体肥料(養液)には、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどの金属元素からなるイオンが含まれる。特に、鉄(II)イオンは、光合成に不可欠なクロロフィルの合成に必要であるとされており、液体肥料に含まれる重要な要素な一つである。
【0006】
しかし、殺菌灯として一般的に利用されている低圧水銀灯からの紫外光(ピーク波長185nm、254nm)が、直接液体肥料に対して照射されると、鉄(II)イオンが酸化されて、鉄(III)イオンに変化してしまう。この変化は、下記(1)式の反応によるものと考えられる。
2Fe2+ + (1/2)O2 + H+ = 2Fe3+ + H2O (1)
【0007】
植物の多くは、鉄(III)イオンの状態では吸収できない。このため、上記(1)式の反応が生じると、事実上、植物にとって、育成に必要な要素の吸収量が低下することになる。このため、液体肥料に対して鉄(II)イオンの成分を追加(補充)する工程が必要となる。
【0008】
本発明は、液体肥料に含まれる金属イオンの酸化を抑制しつつ、殺菌効果を実現することのできる殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体肥料の殺菌方法であって、
前記液体肥料は、少なくとも鉄を含む金属イオンを含有しており、
前記液体肥料に対して、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光を照射する工程(a)を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明者(ら)の鋭意研究により、低圧水銀灯から発せられる紫外光のピーク波長である254nmの近傍の光は、液体肥料に対する吸光度が比較的高いことが確認された。一方、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光は、液体肥料に対する吸光度が、前記254nm近傍の光と比べて、著しく低いことが確認された。
【0011】
液体肥料に対する吸光度が高いということは、紫外光が液体肥料に対して照射されると、その光エネルギーが吸収されることで上記(1)式の反応を生じやすいことを意味する。一方、液体肥料に対する吸光度が低いということは、紫外光が液体肥料に対して照射されると、この紫外光は養液を透過しやすいため、上記(1)式の反応は生じにくいことを意味する。
【0012】
一般的に、殺菌の用途には、DNAの吸収スペクトルのピーク値に近い254nmの紫外光が用いられることが多い。これに対し、本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、前記254nmよりも長波長である、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光を用いることで、液体肥料に含まれる金属イオンの酸化の進行を抑制しながらも、殺菌能力を担保できることを新たに見出したことでなされた発明である。詳細は、「発明を実施するための形態」の項で後述される。
【0013】
なお、好ましくは、紫外光の主たる発光波長は390nm以上、410nm以下であり、より好ましくは、紫外光の主たる発光波長は405nmである。菌の代謝物の一種であるポルフィリンは、特に波長390nm~410nmの範囲の光に対して高い吸収を示し、この吸収の際に発生される一重項酸素によって、殺菌性能が実現されるものと考えられる。
【0014】
ところで、光触媒の材料として一般的に利用される二酸化チタンは、バンドギャップエネルギーが388nmである。そして、光触媒の効果を確実に示す観点から、388nmよりも充分に短波長であり、且つ、容易に入手できるため、光源として低圧水銀灯が利用される。しかし、このような低圧水銀灯からの紫外光が、液体肥料に対して直接照射されると、例えば上記(1)式が進行して、液体肥料に含まれる、植物の育成に必要な要素が低下してしまうことは上述した通りである。
【0015】
鉄以外の、マンガン、銅、亜鉛についても同様に、短波長の紫外光が照射されることで、酸化反応が生じる。上記方法によれば、これらの金属イオンを含む液体肥料が用いられている場合であっても、同様に、植物の育成に必要な要素の低下を抑制しながら、殺菌効果を示すことが可能となる。
【0016】
なお、本明細書において、「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。
【0017】
前記工程(a)は、LEDからなる光源から前記紫外光を照射する工程であるものとしても構わない。
【0018】
上述したように、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光は、養液に対する吸光度が低く、透過率が高い。このため、光源の近傍のみならず、光源から離れた領域まで紫外光を進行させることができる。よって、光源をLED素子で実現することで、液体肥料が貯留されている装置の壁面や底面、天井などに容易に取り付けることができる
【0019】
前記殺菌方法は、前記工程(a)によって前記紫外光が照射された後の前記液体肥料を、当該液体肥料を用いて生育される植物の育成領域に対して、配管を通じて供給する工程(b)を有するものとしても構わない。
【0020】
この場合において、前記殺菌方法は、更に前記育成領域から配管を通じて、前記紫外光が照射される領域に対して前記液体肥料を送り出す工程(c)を有し、
前記工程(a)、前記工程(b)、及び前記工程(c)が繰り返し実行されるものとしても構わない。
【0021】
かかる方法によれば、不足する金属イオンを補給する別途の工程を実行することなく、殺菌処理が施された液体肥料を常時植物に対して供給することができる。
【0022】
前記工程(a)は、前記液体肥料が貯留されている領域の外側から、前記液体肥料に対して前記紫外光を照射する工程であるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0023】
本発明の殺菌方法によれば、液体肥料に含まれる金属イオンの酸化を抑制しつつ、液体肥料に対する殺菌が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る殺菌方法の利用態様の一例である、植物育成システムを模式的に示す図面である。
【
図2】各液体Q1~Q4の吸光度を示すグラフである。
【
図3】実施例1において用いられた紫外光のスペクトルを示すグラフである。
【
図4】実施例1及び比較例1のそれぞれの光源によって照射された紫外光の露光量と、液体Q2に含まれる鉄(II)イオンの減少量との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1の光源から照射された紫外光の露光量と、液体Q2に含まれる黄色ブドウ球菌の含有量の減少量との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明に係る殺菌方法の利用態様の別の一例である、植物育成システムを模式的に示す図面である。
【
図7】本発明に係る殺菌方法の利用態様の別の一例である、植物育成システムを模式的に示す図面である。
【
図8A】
図7に示す植物育成システムにおいて、ある期間T1内における液体肥料の通流の態様を模式的に示す図面である。
【
図8B】
図7に示す植物育成システムにおいて、ある期間T2内における液体肥料の通流の態様を模式的に示す図面である。
【
図9】本発明に係る殺菌方法の利用態様の別の一例である、植物育成システムを模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る殺菌方法の実施形態につき、図面を参照して説明する。
【0026】
[システム構成例]
図1は、本発明に係る殺菌方法の利用態様の一例である、植物育成システムを模式的に示す図面である。植物育成システム1は、植物10を育成する領域(栽培槽6)と、栽培槽6に対して供給される液体肥料3が貯留される貯留槽2とを備える。液体肥料3には、鉄を初めとして、銅、亜鉛、マンガンなど、植物10の種類に応じて、植物10の育成に必要な成分が含まれている。なお、液体肥料3には少なくとも鉄イオンが含まれているものとして構わない。
【0027】
貯留槽2には、複数のLED光源4aを含む光源部4が備えられている。各LED光源4aは、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光L1を出射可能に構成されている。一例として、各LED光源4aは、主たる発光波長が405nmである紫外光L1を出射する。
図1に示す植物育成システム1では、光源部4は、貯留槽2内において液体肥料3が貯留されている領域の外側に配置されている。
【0028】
貯留槽2と栽培槽6とは、配管5a及び配管5bによって連絡されている。ポンプ7が駆動することで、貯留槽2に貯留されている液体肥料3が、配管5aを介して栽培槽6に対して供給されると共に、栽培槽6内に留まっていた液体肥料3は、配管5bを介して貯留槽2側に送られる。
【0029】
貯留槽2内に貯留された液体肥料3に対して、光源部4から紫外光L1が照射されることで、液体肥料3に対して殺菌処理が施される。よって、栽培槽6に溜まっていた液体肥料3に病原菌が含まれていた場合であっても、貯留槽2で殺菌処理が施された後に、再び栽培槽6側に戻すことができる。これにより、栽培槽6では、滅菌された液体肥料3によって植物10の育成を行うことができる。
【0030】
光源部4から発せられる紫外光L1の主たる発光波長を370nm以上、430nm以下の範囲内とすることで、液体肥料3に含まれる鉄イオンの酸化を抑制しつつ、液体肥料3に対する殺菌を行うことができる。以下、この理由について説明する。
【0031】
[検証]
〈検証1〉
図2は、液体肥料(Q1)、1/10に希釈した液体肥料(Q2)、キレート鉄水溶液(Q3)、及び水(Q4)の各液体に対し、405nmの紫外光を照射したときの吸光度を測定した結果を示すグラフである。液体Q1~Q4は、以下の方法で得られたものが採用された。
【0032】
[利用された液体]
液体Q1としては、OATアグリオ株式会社製の養液栽培用肥料「OATハウス1号」を用い、A処方によって規定された濃度の下で水道水に対して混合された液体が利用された。なお、液体Q1において水道水が利用された理由は、実際の植物育成の現場を模擬する目的である。
【0033】
液体Q2としては、1mLの液体Q1に対して、9mLの超純水で希釈されたものが利用された。
【0034】
液体Q3は、以下の方法で調整された液体が利用された。
100mLの超純水に対して、キレート鉄13%の溶液栽培肥料作成用肥料(製品名EDTA-FE-13、たまごや商店製)1gを溶解して、原液を作製した。次に、405nmの紫外光に対する吸光度のピークが0.5以上、1.5以下の範囲内で測定できるようになるまで、原液を超純水に対して希釈して、液体Q3とした。なお、この希釈処理は、吸光度がピークを示す波長の検証を可能にする目的で行われたものである。
【0035】
液体Q4としては、超純水が利用された。
【0036】
[測定方法]
Thermo Fisher Scientific社製の超微量分光光度計「NanoDrop One」(登録商標)を利用し、測定ポートに対してサンプルとなる各液体Q1~Q4を滴下して、吸光度を測定した。
【0037】
[結果]
図2は、各液体Q1~Q4の吸光度を示すグラフである。
図2によれば、水(超純水)である液体Q4は、低圧水銀灯の主たるピーク波長である254nm近傍を含む、240nm~430nmの広い帯域の波長の光に対して吸光度が極めて低く、すなわち高い透過率を示すことが分かる。
【0038】
液体肥料である液体Q1は、低圧水銀灯の主たるピーク波長である254nmの光に対しては吸光度が高い一方、波長370nm以上、430nm以下の範囲内の光に対しては吸光度が低いことが分かる。具体的には、液体Q1は、波長254nmの光に対する吸光度は2.8(a.u.)であり、波長370nm以上430nm以下の範囲内の光に対する平均吸光度は0.2(a.u.)程度である。つまり、液体Q1は、波長370nm以上430nm以下の範囲内の光を、波長254nmの光よりも14~15倍程度透過させる。言い換えれば、液体肥料である液体Q1は、低圧水銀灯の主たるピーク波長である254nm近傍の紫外光を多く吸収する一方、370nm以上、430nm以下の範囲内の紫外光を概ね透過させることが分かる。
【0039】
図2の結果からは、254nm近傍の紫外光を液体肥料に対して照射すると、液体肥料に対する吸収量が高いことから、液体肥料が貯留している貯留槽内のうち、光源に近い位置において多くの紫外光が吸収されてしまい、貯留槽内の広い範囲にわたっては紫外光が進行しないことが予想される。つまり、このような波長帯の紫外光を用いて液体肥料に対する殺菌を行う場合には、液体肥料の全体にわたって紫外光を照射させるために、貯留槽の深さを極めて浅くするか、速い流速で液体肥料を移動・撹拌させながら紫外光を照射する必要があるという仮説が立つ。
【0040】
〈検証2〉
異なる波長の紫外光を液体肥料に対して照射したときの、液体肥料に含まれる鉄(II)イオンの量の変動の程度を比較した。具体的には、1/10に希釈した液体肥料である液体Q2を利用し、この液体Q2に対して、主たる発光波長が405nmの紫外光を照射した場合(実施例1)と、主たる発光波長が254nmの紫外光を照射した場合(比較例1)の双方について、紫外光の照射前後における鉄(II)イオンの量の変動の程度を比較した。
【0041】
[利用された光源]
図3は、実施例1において用いられた紫外光のスペクトルを示すグラフである。実施例1の光源としては、波長405nmのLED照射機(ウシオ電機株式会社製、UniFiled SF150)が利用された。
【0042】
また、比較例1としては、低圧水銀灯から発せられる紫外光のうち、300nm以上の紫外光を遮断するフィルタを透過して得られた紫外光とすることで、実質的に254nm近傍の波長のみがスペクトル強度として現れる紫外光が利用された。
【0043】
[測定方法]
液体Q2をφ30のシャーレに収容し、照射前の鉄(II)イオンの含有濃度を、デジタルパックテスト(株式会社共立理化学研究所製)により測定した。次に、照射距離50mmから、上記実施例1及び比較例1のそれぞれの光源から発せられる紫外光を照射し、照射後の鉄(II)イオンの含有濃度を同様の方法により測定した。上記測定を、露光量を変えて複数回行った。
【0044】
[結果]
図4は、実施例1及び比較例1のそれぞれにおいて、照射された紫外光の露光量と、液体Q2に含まれる鉄(II)イオンの減少量との関係をグラフ化したものである。鉄(II)イオンの減少量は、照射前の液体Q2に含有されている鉄(II)イオンの量に対する、照射後の液体Q2に含有されている鉄(II)イオンの量の比率のLog値によって算定された。
【0045】
図4によれば、実施例1及び比較例1の双方とも、露光量(照射線量)が増加するほど、液体Q2に含有されている鉄(II)イオンの量が減少することが確認される。
【0046】
より詳細には、鉄(II)イオン濃度の減少量が-0.95(Log)に達するのに必要な露光量で比較すると、波長254nmの紫外光(比較例1)では1.8J/cm2であるのに対し、波長405nmの紫外光(実施例1)では2160J/cm2であった。このことから、波長405nmの紫外光が液体肥料に対して照射されることに伴う、鉄(II)イオン濃度の減少の程度は、波長254nmの紫外光に対して、1/1200程度であると見積もられる。すなわち、液体肥料に対して波長405nmの紫外光を照射した場合、波長254nmの紫外光を同じ露光量で照射した場合と比べて、鉄(II)イオン濃度の減少量は格段に少ないことが分かる。
【0047】
この結果は、検証1の結果として
図2に示されるように、キレート鉄水溶液からなる液体Q3において、240nm~280nmの波長帯の紫外光に対する吸光度が高く、370nm~430nmの波長帯の紫外光に対する吸光度が低い結果に整合する。
【0048】
なお、検証2において、液体肥料そのものである液体Q1ではなく、1/10に希釈された液体Q2が採用された理由は以下の通りである。
図2を参照して上述したように、液体Q1の場合には、そもそも254nmの紫外光をほとんど透過しない。このため、比較例1の紫外光(254nm)が液体Q1に対して照射されても、その表面でほとんどの紫外光が吸収される結果、実施例1の紫外光(405nm)と同じ条件下で、鉄(II)イオン濃度の減少の程度を比較できないことによる。
【0049】
〈検証3〉
波長405nmの紫外光によっても、殺菌性能が実現できる点につき、以下検証した。
【0050】
[利用された光源]
検証2の実施例1と同じ光源が利用された。
【0051】
[測定方法]
液体Q1(液体肥料)に対して、黄色ブドウ球菌(NBRC.12732)の菌液3mLを、107CFU/mLになるように加えた。この液体を、φ30のシャーレに収容し、実施例1の光源で照射距離50mmから照射した。このときの照射面での照度は150mW/cm2であった。なお、この照度値は、紫外線積算光量計(ウシオ電機株式会社製、UIT-250/UVD-S405)で測定されたものである。
【0052】
光源からの紫外光が照射される時間を変化させることで、露光量を調整して、照射前後で液体Q1に含有される黄色ブドウ球菌の量の減少の程度を比較した。なお、紫外光が照射された後の黄色ブドウ球菌の量は、標準寒天培地に塗抹して37℃で48時間培養後、発生したコロニーをカウントすることで測定された。
【0053】
[結果]
図5は、実施例1の光源から照射された紫外光の露光量と、液体Q2に含まれる黄色ブドウ球菌の含有量の減少量との関係をグラフ化したものである。縦軸の「不活化率」は、照射前の液体Q1に含有されている黄色ブドウ球菌の含有量に対する、照射後の液体Q1に含有されている黄色ブドウ球菌の含有量のLog値によって算定された。
【0054】
図5の結果によれば、405nmの波長の紫外光を50J/cm
2の露光量で照射すると、液体Q1に含有されている黄色ブドウ球菌をほぼ1/10に低下できることが分かる。更に、露光量を100J/cm
2とすることで、液体Q1に含有されている黄色ブドウ球菌をほぼ1/100に低下でき、露光量を280J/cm
2とすることで、液体Q1に含有されている黄色ブドウ球菌をほぼ1/100000に低下できることが分かる。すなわち、405nmの波長の紫外光が照射されることで、殺菌効果が示されていることが分かる。この理由としては、検証1において上述したように、405nmの波長の紫外光が液体肥料を透過する性質を示すことで、液体肥料の全体にわたって紫外光が進行するためと考えられる。
【0055】
なお、この検証3において、波長254nmの紫外光(比較例2)が利用されていないのは、この波長帯の紫外光がそもそも液体肥料を透過しないために、液体肥料の全体にわたって充分な殺菌作用を示すことができないためである。
【0056】
〈検証のまとめ〉
以上の検証により、波長405nmの紫外光によれば、液体肥料に含まれる鉄(II)イオンの減少を抑制しながらも、液体肥料に対する殺菌作用を実現できることが分かる。なお、
図2の結果より、波長405nmと同様に、370nm以上、430nm以下の波長帯の紫外光に対しても、液体肥料(Q1)に対する吸光度が低いことが分かる。また、前記波長帯の紫外光に対してはポルフィリン類が高い吸光度を示す。このため、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光によっても、同様の効果が実現できることが分かる。
【0057】
ただし、ポルフィリン類に対する紫外光の吸光度に鑑みると、液体肥料の殺菌に用いられる紫外光の主たる発光波長は、390nm以上、410nm以下とするのがより好ましい。
【0058】
上述したように、光源部4が、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の波長帯である紫外光L1を発するLED光源4aによって構成されることで、この紫外光L1は、貯留槽2内に貯留された液体肥料3内を透過して進行する。このため、必ずしも液体肥料3内に光源部4を設置する必要はなく、
図1に示すように、液体肥料3から離れた位置に光源部4を設置することができる。この場合、光源部4に対する防水設計は必ずしも必要がない。
【0059】
なお、貯留槽2、栽培槽6、配管(5a,5b)、ポンプ7の入口又は出口等に、フィルタが設置されていても構わない。
【0060】
[別のシステム構成例]
本発明に係る液体肥料の殺菌方法を利用する態様は、
図1に図示されるようなシステムに限定されない。以下、別のシステム構成例について説明する。
【0061】
〈1〉
図6に示すように、貯留槽2とは別に設けられた殺菌処理槽9内で、液体肥料3に対する殺菌処理が行われるものとしても構わない。殺菌処理槽9は、内部に、防水に設計された外套管内に配置された光源部4を有している。貯留槽2内に貯留された液体肥料3は、ポンプ7によって配管5aを介して殺菌処理槽9に対して送り込まれる。殺菌処理槽9内に配置された光源部4から照射される紫外光L1によって、液体肥料3に対して殺菌処理がされる。殺菌処理がされた液体肥料3は、配管5cを介して栽培槽6へと送られる。また、栽培槽6内である程度の期間にわたって留まっていた液体肥料3は、配管5bを介して貯留槽2へと送られる。
【0062】
なお、殺菌処理槽9は、内部が液体肥料3によって完全に満たされていても構わないし、液体肥料3の液面が大気に触れた状態で収容されていても構わない。
【0063】
〈2〉
図7に示すように、植物育成システム1は、光源部4が内蔵された複数の貯留槽2(2a,2b)を備えるものしても構わない。この場合、液体肥料3に対して殺菌処理を行いつつ、事前に既に殺菌処理が完了した液体肥料3を栽培槽6に対して供給することが可能となる。なお、
図7に示す例では、配管5bと配管5dとは逆止弁11を介して連絡されており、配管5aと配管5cとは逆止弁12を介して連絡されている。
【0064】
具体的な処理方法の一例について説明する。まず、
図8Aに示すように、既に殺菌処理が行われた液体肥料3が貯留されている貯留槽2aから、配管5aを介して栽培槽6に対して殺菌処理済の液体肥料3が供給される。このとき、ある程度の期間にわたって栽培槽6内に留められていた液体肥料3は、配管5bを通じて貯留槽2aに送り出される。
図8Aでは、このときの液体肥料3の流れが、破線の矢印d1によって図示されている。
【0065】
貯留槽2aと栽培槽6との間で液体肥料3の通流が行われている期間T1にわたって、貯留槽2bでは、貯留されている液体肥料3に対して光源部4からの紫外光L1が照射されることで殺菌処理が行われる。なお、この期間T1内において、貯留槽2a内の光源部4については、消灯しても構わないし、殺菌処理時と同様の出力で点灯させておいても構わないし、減光状態で点灯させておいても構わない。
【0066】
次に、ある程度の期間が経過した後、
図8Bに示すように、既に殺菌処理が行われた液体肥料3が貯留されている貯留槽2bから、配管5cを介して栽培槽6に対して殺菌処理済の液体肥料3が供給される。このとき、前記期間にわたって栽培槽6内に留められていた液体肥料3は、配管5dを通じて貯留槽2bに送り出される。
図8Bでは、このときの液体肥料3の流れが、破線の矢印d2によって図示されている。
【0067】
貯留槽2bと栽培槽6との間で液体肥料3の通流が行われている期間T2にわたって、貯留槽2aでは、貯留されている液体肥料3に対して光源部4からの紫外光L1が照射されることで殺菌処理が行われる。なお、この期間T2内において、貯留槽2b内の光源部4については、消灯しても構わないし、殺菌処理時と同様の出力で点灯させておいても構わないし、減光状態で点灯させておいても構わない。
【0068】
以下、同様の処理が繰り返し実行される。これにより、栽培槽6に対しては、常に充分に殺菌された液体肥料3を供給し続けることができる。
【0069】
〈3〉
図9に示すように、殺菌用の光源部4は、貯留槽2に貯留されている液体肥料3の液中に配置されていても構わない。この場合、
図6を参照して上述した構成と同様に、光源部4は防水に設計された外套管内に配置されているものとして構わない。
【0070】
〈4〉上述した実施例では、光源部4は、複数のLED光源4aを含んでなるものとした。しかし、光源部4は、主たる発光波長が370nm以上、430nm以下の範囲内である紫外光L1を出射可能な構成である限りにおいて、その構造は限定されない。ただし、貯留されている液体肥料3に対して、面方向に広がりを有した光を照射する観点からは、面光源で構成されるのが好適である。
【符号の説明】
【0071】
1 :植物育成システム
2 :貯留槽
2a :貯留槽
2b :貯留槽
3 :液体肥料
4 :光源部
4a :LED光源
5a :配管
5b :配管
5c :配管
5d :配管
6 :栽培槽
7 :ポンプ
9 :殺菌処理槽
10 :植物
11 :逆止弁
12 :逆止弁
L1 :紫外光