(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】タイヤトレッド及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240305BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240305BHJP
C08F 212/04 20060101ALI20240305BHJP
C08F 236/04 20060101ALI20240305BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60C11/00 D
C08L21/00
C08F212/04
C08F236/04
B60C11/00 B
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019218711
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 健介
(72)【発明者】
【氏名】久次米 智之
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-079808(JP,A)
【文献】特開2016-210937(JP,A)
【文献】特開平06-278410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
C08L 21/00
C08F 212/04
C08F 236/04
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物が積層された2層構造のタイヤトレッドであって、
前記上層ゴム組成物の動的歪2.5%におけるtanδピーク温度が5℃以下であり、
前記上層ゴム組成物及び前記下層ゴム組成物の動的歪2.5%、温度50℃におけるtanδ及びE
*[MPa]が下記式(1)及び(2)を満た
し、
前記上層ゴム組成物において、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、及び、リン酸エステル系可塑剤からなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であるタイヤトレッド。
(1) (上層ゴム組成物のtanδ/E
*)×1000≧100
(2) 上層ゴム組成物のtanδ/E
*>下層ゴム組成物のtanδ/E
*
【請求項2】
前記下層ゴム組成物において、
鉱物油の含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上である請求項1記載のタイヤトレッド。
【請求項3】
前記上層ゴム組成物において、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定された重量平均分子量が300~10万の低分子量ポリマーの含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上である請求項1又は2記載のタイヤトレッド。
【請求項4】
前記低分子量ポリマーのモノマー成分が、芳香族ビニルモノマー及びその誘導体、並びに、共役ジエンモノマー及びその誘導体から構成される少なくとも1種である請求項3記載のタイヤトレッド。
【請求項5】
前記上層ゴム組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定された重量平均分子量が15万以上の高分子量ポリマーを含有し、
前記上層ゴム組成物において、前記高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量及び前記低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量が、下記式(3)を満たす請求項3又は4記載のタイヤトレッド。
(3) 高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量-低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量≦20 [質量%]
【請求項6】
前記上層ゴム組成物において、示差走査熱量測定によって測定されたガラス転移温度が50℃以上である樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上である請求項1~
5のいずれかに記載のタイヤトレッド。
【請求項7】
前記上層ゴム組成物において、160℃以上で液状である成分の含有量が、ゴム成分100質量部に対して70質量部以上である請求項1~
6のいずれかに記載のタイヤトレッド。
【請求項8】
前記上層ゴム組成物において、充填剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して40質量部以上である請求項1~
7のいずれかに記載のタイヤトレッド。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載のタイヤトレッドを備えるタイヤ。
【請求項10】
高性能タイヤである請求項
9記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ(特に競技に使用される高性能タイヤ)のトレッドには、一般的に高いグリップ性能と耐摩耗性との両立が要求される。
【0003】
従来、高いグリップ性能を示すゴム組成物を得るために、例えば、ガラス転移温度(Tg)の高いスチレンブタジエンゴム(SBR)をゴム成分として使用したゴム組成物、プロセスオイルを高軟化点樹脂に等量置換したゴム組成物、軟化剤やカーボンブラックを高充填したゴム組成物、粒子径の小さいカーボンブラックを使用したゴム組成物や、これらの手法を組み合わせたゴム組成物が知られている。しかし、Tgの高いSBRを使用したゴム組成物は、温度依存性が大きくなり、温度変化に対する性能変化が大きくなる傾向がある。また、プロセスオイルを高軟化点樹脂に等量置換した場合、置換量が多量であると、該高軟化点樹脂の影響により温度依存性が大きくなる傾向がある。さらに、粒子径の小さいカーボンブラックや多量の軟化剤を使用した場合、カーボンブラックの分散性が悪くなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0004】
これらの点を改良するために、特許文献1においては、低分子量のSBRを用いたゴム組成物が提案されている。また、部分的に水素添加された低分子スチレン-ブタジエン共重合体を用いたゴム組成物も知られているが、低分子成分のブリードのため、水素添加率には制限があった。
【0005】
ここで、ゴムのウェットグリップ性能とドライグリップ性能の指標としては、例えば、動的歪(振幅)0.1%、周波数10Hzにおけるtanδが用いられている。一般に、0℃のtanδが高ければウェットスキッド性能が高く、50℃のtanδが高ければドライグリップ性が高い傾向がある。さらに、グリップ性能の持続、すなわち初期グリップ、中期グリップ、後期グリップの変化量を少なくするためには、トレッドを構成するゴムの硬度の温度依存性を小さくすることが必要である。
【0006】
一方、耐摩耗性の観点で言えば、ゴムのtanδが高くなると、室温におけるゴムの硬度も大きくなるため、耐摩耗性は悪化する傾向がある。したがって、耐摩耗性とグリップ性能とは背反関係にあり、両立は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、耐摩耗性及びグリップ性能に優れたタイヤトレッド及びタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物が積層された2層構造のタイヤトレッドであって、前記上層ゴム組成物の動的歪2.5%におけるtanδピーク温度が5℃以下であり、前記上層ゴム組成物及び前記下層ゴム組成物の動的歪2.5%、温度50℃におけるtanδ及びE*[MPa]が下記式(1)及び(2)を満たすタイヤトレッドに関する。
(1) (上層ゴム組成物のtanδ/E*)×1000≧100
(2) 上層ゴム組成物のtanδ/E*>下層ゴム組成物のtanδ/E*
【0010】
前記下層ゴム組成物において、ヘテロ元素を含まない可塑剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることが好ましい。
【0011】
前記上層ゴム組成物において、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定された重量平均分子量が300~10万の低分子量ポリマーの含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることが好ましい。
【0012】
前記低分子量ポリマーのモノマーが、芳香族ビニルモノマー及びその誘導体、並びに、共役ジエンモノマー及びその誘導体から構成される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記上層ゴム組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定された重量平均分子量が15万以上の高分子量ポリマーを含有し、前記上層ゴム組成物において、前記高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量及び前記低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
(3) 高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量-低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量≦20 [質量%]
【0014】
前記上層ゴム組成物において、ヘテロ元素を含む可塑剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることが好ましい。
【0015】
前記上層ゴム組成物において、示差走査熱量測定によって測定されたガラス転移温度が50℃以上である樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることが好ましい。
【0016】
前記上層ゴム組成物において、160℃以上で液状である成分の含有量が、ゴム成分100質量部に対して70質量部以上であることが好ましい。
【0017】
前記上層ゴム組成物において、充填剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して40質量部以上であることが好ましい。
【0018】
本発明はまた、前記タイヤトレッドを備えるタイヤに関する。
【0019】
前記タイヤは、高性能タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物が積層された2層構造のタイヤトレッドであって、上層ゴム組成物の動的歪2.5%におけるtanδピーク温度が5℃以下であり、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物の動的歪2.5%、温度50℃におけるtanδ及びE*[MPa]が式(1)及び(2)を満たすタイヤトレッドであるため、優れた耐摩耗性及びグリップ性能が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物が積層された2層構造のタイヤトレッドであって、上層ゴム組成物の動的歪2.5%におけるtanδピーク温度が5℃以下であり、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物の動的歪2.5%、温度50℃におけるtanδ及びE*[MPa]が式(1)及び(2)を満たすタイヤトレッドである。
【0022】
本発明者らが検討したところ、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物が積層された2層構造のタイヤトレッドにおいて、上層ゴム組成物のtanδピーク温度、並びに、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物のtanδ及びE*を特定の範囲に調整することで、優れた耐摩耗性及びグリップ性能が得られることを見出した。
【0023】
上記タイヤトレッドでは、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物のtanδ及びE*が式(1)及び(2)を満たすことで、上層ゴム組成物によって優れたグリップ性能が、下層ゴム組成物によって優れた耐摩耗性が発揮される。さらに、上層ゴム組成物のtanδピーク温度が5℃以下であることで、優れたグリップ性能が得られる。これらの作用により、従来は困難であった耐摩耗性及びグリップ性能の両立が実現されると考えられる。
【0024】
なお、本発明の目的、すなわち、本発明が解決しようとする課題は、優れた耐摩耗性及びグリップ性能を得ることである。そして、この課題を解決する手段が、上記タイヤトレッドにおいて、式(1)及び(2)で表される関係を満たすように調整することや、上層ゴム組成物のtanδのピーク温度を特定の範囲に調整することである。
【0025】
上記タイヤトレッドは、タイヤに取り付けられた際、タイヤ内面側から、下層ゴム組成物、上層ゴム組成物の順に積層された構造を有する。このようなタイヤトレッドとしては、例えば、キャップトレッド(上層ゴム組成物)及びベーストレッド(下層ゴム組成物)が積層された2層構造のトレッド等が挙げられる。
【0026】
上層ゴム組成物のtanδピーク温度は、5℃以下であればよいが、好ましくは0℃以下、より好ましくは-4℃以下、更に好ましくは-8℃以下であり、また、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-15℃以上、更に好ましくは-10℃以上である。tanδピーク温度が高くなると、グリップ性能が向上するものの、脆化温度が高くなり、脆化が生じやすくなる傾向があるが、上記範囲内であると、良好なグリップ性能及び脆化温度が両立される傾向がある。
なお、tanδピーク温度は、加硫後の上層ゴム組成物に対し、動的歪2.5%の条件で測定したもので、後述の実施例の方法で測定できる。
【0027】
tanδピーク温度の調整方法は特に限定されないが、例えば、ポリマーのスチレン量を増やす、樹脂成分の含有量を増やす、可塑剤成分の含有量を減らす、等の方法で高く、ポリマーのスチレン量を減らす、樹脂成分の含有量を減らす、可塑剤成分の含有量を増やす、等の方法で低くすることができる。
【0028】
上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物のtanδ及びE*は、下記式(1)及び(2)を満たす。
(1) (上層ゴム組成物のtanδ/E*)×1000≧100
(2) 上層ゴム組成物のtanδ/E*>下層ゴム組成物のtanδ/E*
なお、tanδ及びE*は、加硫後の上層ゴム組成物及び加硫ゴム組成物に対し、動的歪2.5%、温度50℃の条件で測定したもので、後述の実施例の方法で測定できる。
【0029】
式(1)において、「(上層ゴム組成物のtanδ/E*)×1000」は、100以上であればよいが、好ましくは115以上、より好ましくは130以上、更に好ましくは136以上、特に好ましくは138以上である。また、「(上層ゴム組成物のtanδ/E*)×1000」は、好ましくは200以下、より好ましくは180以下、更に好ましくは160以下、特に好ましくは150以下である。上記範囲内であると、良好なグリップ性能が得られる傾向がある。
【0030】
下層ゴム組成物のtanδ/E*は、式(2)を満たす範囲で適宜調整可能であるが、「(下層ゴム組成物のtanδ/E*)×1000」は、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、特に好ましくは97以上であり、好ましくは140以下、より好ましくは120以下、更に好ましくは110以下、特に好ましくは100以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0031】
上層ゴム組成物のtanδ/E*及び下層ゴム組成物のtanδ/E*の差×1000は、好ましくは20以上、より好ましくは35以上、更に好ましくは39以上、特に好ましくは41以上であり、また、好ましくは60以下、より好ましくは50以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0032】
上層ゴム組成物において、tanδ及びE*は、式(1)及び(2)を満たす範囲で適宜調整可能であるが、通常、tanδは0.15~0.90、E*は2.0~7.0MPaである。
同様に、下層ゴム組成物において、通常、tanδは0.10~0.90、E*は2.0~10.0MPaである。
【0033】
tanδの調整方法は特に限定されないが、例えば、ポリマーのスチレン量を増やす、樹脂成分の含有量を増やす、カーボンブラックの含有量を増やす、等の方法で高く、ポリマーのスチレン量を減らす、樹脂成分の含有量を減らす、カーボンブラックの含有量を減らす、とすることで低くすることができる。
同様に、E*は、例えば、ポリマーの分子量を大きくする、カーボンブラックの含有量を増やす、可塑剤成分の含有量を減らす、等の方法で高く、ポリマーの分子量を小さくする、カーボンブラックの含有量を減らす、可塑剤成分の含有量を増やす、等の方法で低くすることができる。
【0034】
上記タイヤトレッドにおいて、上層ゴム組成物のゲージ比率(厚み比率)は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%、更に好ましくは70%以下であり、また、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0035】
以下、上層ゴム組成物、下層ゴム組成物のそれぞれに使用可能な薬品について、説明する。なお、上層ゴム組成物、下層ゴム組成物には、以下で説明するもの以外も使用可能である。
【0036】
<上層ゴム組成物>
上層ゴム組成物は、ゴム成分として、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定された重量平均分子量(Mw)が15万以上の高分子量ポリマー(後述の実施例における成分A)を含有することが好ましい。これにより、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0037】
高分子量ポリマーのMwは、好ましくは25万以上、より好ましくは30万以上、更に好ましくは35万以上であり、また、好ましくは100万以下、より好ましくは70万以下、更に好ましくは50万以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0038】
高分子量ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.90以上、更に好ましくは1.12以上であり、また、好ましくは2.50以下、より好ましくは1.50以下、更に好ましくは1.25以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0039】
高分子量ポリマーのモノマー成分としては、例えば、芳香族ビニルモノマー及びその誘導体、並びに、共役ジエンモノマー及びその誘導体から構成される少なくとも1種を使用できる。
【0040】
芳香族ビニルモノマーとしては、スチレンや、その誘導体であるα-メチルスチレン、t-ブトキシスチレン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、スチレンが好ましい。
【0041】
共役ジエンモノマーとしては、ブタジエンや、その誘導体であるイソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、ミルセン、ファルネセン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、ブタジエンが好ましい。
【0042】
高分子量ポリマーのモノマー成分としては、芳香族ビニルモノマー及び共役ジエンモノマーの併用が好ましく、スチレン及びブタジエンの併用がより好ましい。
【0043】
高分子量ポリマーの重合方法は特に限定されず、アニオン重合、カチオン重合、配位重合、乳化重合等、公知の方法を使用できる。
【0044】
高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量(芳香族ビニルモノマー由来の構成単位の含有量)は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは38質量%以上であり、また、好ましくは55質量%以下、より好ましくは48質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0045】
高分子量ポリマーは、水素添加反応、グラフト反応、末端変性反応等、公知の変性反応で変性されていてもよい。
水素添加反応は、重合後の重合体を、遷移金属及び水素の存在下で、接触水素化反応によって二重結合部に水素を付加する反応である。
グラフト反応は、重合体の二重結合部に無水マレイン酸等のグラフト剤を反応させる反応である。
末端変性反応は、重合停止時にヘテロ元素を含む末端変性剤を添加することで末端に極性基を導入する方法であり、ヘテロ元素としては、ケイ素、窒素、酸素等が挙げられる。
【0046】
高分子量ポリマーに該当するゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBRが好ましい。
【0047】
SBRの市販品としては、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0048】
ゴム成分100質量%中の高分子量ポリマーの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0049】
上層ゴム組成物は、GPCで測定されたMwが300~10万の低分子量ポリマー(後述の実施例における成分B)を含有することが好ましい。これにより、特に良好なグリップ性能が得られる傾向がある。
なお、低分子量ポリマーは、ゴム成分には含まれない。
【0050】
低分子量ポリマーのMwは、グリップ性能向上効果の観点から、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上、更に好ましくは3000以上であり、また、良好な初期グリップ性能を確保するという観点から、好ましくは5万以下、より好ましくは1万以下、更に好ましくは6000以下である。
【0051】
低分子量ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.90以上、更に好ましくは1.10以上であり、また、好ましくは2.50以下、より好ましくは1.50以下、更に好ましくは1.25以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0052】
低分子量ポリマーには、上述の高分子量ポリマーと同様のモノマー成分、すなわち、芳香族ビニルモノマー及びその誘導体、並びに、共役ジエンモノマー及びその誘導体から構成される少なくとも1種等を使用できる。なかでも、芳香族ビニルモノマー及び共役ジエンモノマーの併用が好ましく、スチレン及びブタジエンの併用がより好ましい。
また、重合方法、変性反応についても高分子量ポリマーと同様のものを使用できる。
【0053】
低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量(芳香族ビニルモノマー由来の構成単位の含有量)は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0054】
高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量及び低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量は、下記式(3)を満たすことが好ましい。これにより、低分子量ポリマーのブリードに起因するトレッド剥離を抑制することができる。
(3) 高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量-低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量≦20 [質量%]
【0055】
式(3)において、「高分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量-低分子量ポリマー中の芳香族ビニル部の含有量」は、20質量%以下であればよいが、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下である。下限は特に限定されず、0であってもよい。上記範囲内であると、特に良好なグリップ性能が得られる傾向がある。
【0056】
低分子量ポリマーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは175質量部以下、更に好ましくは155質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0057】
上層ゴム組成物は、ヘテロ元素を含まない可塑剤(後述の実施例における成分C)を含有することが好ましい。これにより、良好な加工性及びグリップ性能が得られる傾向がある。
【0058】
ヘテロ元素を含まない可塑剤としては、鉱物油等が挙げられ、鉱物油としては、アロマチック系鉱物油、ナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油等を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、アロマチック系鉱物油が好ましい。
【0059】
ヘテロ元素を含まない可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0060】
上層ゴム組成物は、ヘテロ元素を含む可塑剤(後述の実施例における成分D)を含有することが好ましい。これにより、良好な加工性及びグリップ性能(特に、初期グリップ性能)が得られる傾向がある。
【0061】
ヘテロ元素としては、ケイ素、窒素、酸素、硫黄、リン、塩素、ヨウ素、臭素等が挙げられる。これらは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。なかでも、酸素が好ましい。
【0062】
ヘテロ元素を含む可塑剤としては、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。植物油としては、アマニ油、ベニバナ油、ダイズ油、トウモロコシ油、綿実油、アブラナ油、ヒマシ油、キリ油、パイン油、ヒマワリ油、パーム油、オリーブ油、ココナツ油、ピーナッツ油等をエーテル系可塑剤としては、ポリエチレングリコール等を、エステル系可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル等を、リン酸エステル系可塑剤としては、リン酸トリクレシル等を、それぞれ使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、エステル系可塑剤が好ましく、アジピン酸エステルがより好ましく、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペートが更に好ましい。
【0063】
ヘテロ元素を含む可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0064】
ヘテロ元素を含まない可塑剤、ヘテロ元素を含む可塑剤の市販品としては、第八化学工業(株)、出光興産(株)、三共油化工業(株)、JXTGエネルギー(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0065】
上層ゴム組成物は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定されたガラス転移温度(Tg)が50℃以上である樹脂(後述の実施例における成分E)を含有することが好ましい。これにより、良好なグリップ性能(特に、後期グリップ性能)が得られる傾向がある。
【0066】
樹脂のTgは、好ましくは50℃以上であればよいが、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、Tgは、JIS-K7121:1987に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0067】
Tgが50℃以上である樹脂としては、炭化水素樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。炭化水素系樹脂としては、C5、C9の石油系樹脂等を、テルペン樹脂としては、テルペン樹脂、芳香族テルペン樹脂等を、フェノール樹脂としては、テルペンフェノール樹脂、フェノールアセチレン縮合物、フェノールホルマリン縮合物等を、アクリル樹脂としては、芳香族アクリル樹脂等を、それぞれ使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、クマロンインデン樹脂、芳香族テルペン樹脂(特に、スチレンテルペン樹脂)が好ましい。
【0068】
Tgが50℃以上である樹脂の市販品としては、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXTGエネルギー(株)、日本ゼオン(株)、ハリマ化成(株)、東亞合成(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0069】
Tgが50℃以上である樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0070】
上層ゴム組成物は、160℃以上で液状である成分の含有量が特定の範囲内であることが好ましい。これにより、良好な加工性及びグリップ性能が得られる傾向がある。
【0071】
160℃以上で液状である成分の典型例として、上述の低分子量ポリマー(成分B)、ヘテロ元素を含まない可塑剤(成分C)、ヘテロ元素を含む可塑剤(成分D)、Tgが60℃以上の樹脂(成分E)が挙げられる。なお、低分子量ポリマー、Tgが60℃以上の樹脂については、160℃以上で液状でないものも存在する。
【0072】
160℃以上で液状である成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは70質量部以上、より好ましくは80質量部以上であり、また、好ましくは250質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは185質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0073】
上層ゴム組成物は、充填剤を含有することが好ましい。これにより、良好な耐摩耗性が得られる傾向がある。
【0074】
充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは120質量部以上、特に好ましくは130質量部以上であり、また、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは170質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0075】
充填剤としては、炭素原子系充填剤、無機物系充填剤等が挙げられる。炭素原子系充填剤としては、カーボンブラック等を、無機物系充填剤としては、シリカ、硫酸の金属塩、炭化ケイ素、下記式で表される化合物等を、それぞれ使用できる。
mM・xSiOy・zH2O
(式中、MはAl、Mg、Ti、CaおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属、該金属の酸化物または水酸化物であり、mは1~5の整数、xは0~10の整数、yは2~5の整数、zは0~10の整数である。)
上記式で表される化合物としては、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、チタン白、チタン黒、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムカルシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸マグネシウム、ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0076】
これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、カーボンブラック、シリカが好ましく、カーボンブラックがより好ましい。
【0077】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは75m2/g以上、より好ましくは95m2/g以上であり、また、好ましくは120m2/g以下、より好ましくは100m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K6217-2:2001に準拠して測定される値である。
【0079】
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。市販品としては、エボニックデグッサ社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上であり、また、好ましくは250m2/g以下、より好ましくは220m2/g以下、更に好ましくは200m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0081】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは12質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0083】
上層ゴム組成物は、ワックスを含有してもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。市販品としては、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0085】
上層ゴム組成物は、老化防止剤を含有してもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。市販品としては、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0086】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0087】
上層ゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、日油(株)、NOF社、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0089】
上層ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0091】
上層ゴム組成物は、硫黄を含有してもよい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等が挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.8質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0093】
上層ゴム組成物は、加硫促進剤を含有してもよい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。市販品としては、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0095】
上層組成物には、上記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0096】
上層ゴム組成物は、例えば、上述の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0097】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは85~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。加硫時間は、通常5~15分である。
【0098】
<下層ゴム組成物>
下層ゴム組成物は、上層ゴム組成物と同様の薬品を用いて、同様の方法で製造できる。
以下、下層ゴム組成物における各薬品の好適な含有量を説明するが、ここで言及されていない薬品の好適な含有量は、上層ゴム組成物におけるものと同様である。
【0099】
下層ゴム組成物において、低分子量ポリマーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0100】
下層ゴム組成物において、ヘテロ元素を含まない可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、特に好ましくは60質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0101】
下層ゴム組成物において、ヘテロ元素を含む可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下であり、0質量部であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0102】
下層ゴム組成物において、160℃以上で液状である成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上、更に好ましくは70質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは75質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0103】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述の上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上述の上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物を、未加硫の段階で、それぞれキャップトレッド、ベーストレッド等の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、上層ゴム組成物及び下層ゴム組成物が積層されたタイヤトレッドを備えるタイヤを得る。
【0104】
上記タイヤとしては、特に限定されず、例えば、空気入りタイヤ、ソリッドタイヤ、エアレスタイヤ等が挙げられる。なかでも、空気入りタイヤが好ましい。
【0105】
上記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用タイヤ、大型SUV用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ(競技用タイヤ等)、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤ等)、オールシーズンタイヤ、ランフラットタイヤ、航空機用タイヤ、鉱山用タイヤ等として用いることができる。なかでも、高性能タイヤが好ましい。
【実施例】
【0106】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0107】
以下に、製造例で用いた各種薬品について説明する。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
ヘキサン:関東化学(株)製の無水ヘキサン
イソプロパノール:関東化学(株)製のイソプロパノール
TMEDA:富士フイルム和光純薬(株)製のテトラメチルエチレンジアミン
n-ブチルリチウム:東ソー(株)製のn-ブチルリチウム
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製の1,3-ブタジエン
スチレン:富士フイルム和光純薬(株)製のスチレン
【0108】
なお、製造例で得た重合体の分析方法は、以下のとおりである。
【0109】
(重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn))
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、東ソー(株)製GPC-8000シリーズの装置を用い、検知器として示差屈折計を用い、標準ポリスチレン換算により求めた。
【0110】
(芳香族ビニル部の含有量(スチレン量))
芳香族ビニル部の含有量(スチレン量)は、JIS-K-6239に従い算出した。
【0111】
(製造例1-1:高分子量共重合体A-1)
乾燥し窒素置換した3Lの耐圧ステンレス重合容器にヘキサン900g、ブタジエン62g、スチレン38gとともにTMEDA0.02mmolを投入した。次に、重合開始剤の失活に作用する不純物をあらかじめ無毒化させるためにスカベンジャーとして少量のn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(n-ブチルリチウムの含有量:0.3mmol)を重合容器に投入した。更にn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液を加えた後、50℃で3時間重合反応を行った。3時間後、1Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を1.15ml滴下し、反応を終了させた。次に重合液を24時間室温で蒸発させ、さらに80℃で24時間減圧乾燥し、高分子量共重合体A-1(SBR)を得た。重合転化率はほぼ100%であった。得られた高分子量共重合体A-1は、Mw35万、分子量分布1.12であり、芳香族ビニル部の含有量(スチレン量)は38質量%であった。
【0112】
(製造例1-2:高分子量共重合体A-2)
n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液中のn-ブチルリチウムの含有量を0.7mmolとした点以外は製造例1-1と同様の手法により、高分子量共重合体A-2(SBR)を得た。重合転化率はほぼ100%であった。得られた高分子量共重合体A-2は、Mw15万、分子量分布1.12であり、芳香族ビニル部の含有量(スチレン量)は38質量%であった。
【0113】
(製造例2-1:低分子量共重合体B-1)
乾燥し窒素置換した3Lの耐圧ステンレス重合容器にヘキサン900g、ブタジエン75g、スチレン 25gとともにTMEDA0.02mmolを投入した。次に、重合開始剤の失活に作用する不純物をあらかじめ無毒化させるためにスカベンジャーとして少量のn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(n-ブチルリチウムの含有量:30.0mmol)を重合容器に投入した。更にn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液を加えた後、50℃で3時間重合反応を行った。3時間後、1Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を50ml滴下し、反応を終了させた。次に重合液を24時間室温で蒸発させ、さらに80℃で24時間減圧乾燥し、低分子量共重合体B-1(SBR)を得た。重合転化率はほぼ100%であった。得られた低分子量共重合体B-1は、Mw0.3万、分子量分布1.10であり、芳香族ビニル部の含有量(スチレン量)は25質量%であった。
【0114】
(製造例2-2:低分子量共重合体B-2)
n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液中のn-ブチルリチウムの含有量を300.0mmolとした点以外は製造例2-1と同様の手法により、高分子量共重合体B-2(SBR)を得た。重合転化率はほぼ100%であった。得られた高分子量共重合体B-2は、Mw300、分子量分布1.10であり、芳香族ビニル部の含有量(スチレン量)は25質量%であった。
【0115】
(製造例2-3:低分子量共重合体B-3)
n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液中のn-ブチルリチウムの含有量を10.0mmolとした点以外は製造例2-1と同様の手法により、高分子量共重合体B-3(SBR)を得た。重合転化率はほぼ100%であった。得られた高分子量共重合体B-3は、Mw10万、分子量分布1.10であり、芳香族ビニル部の含有量(スチレン量)は25質量%であった。
【0116】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
(成分A)
高分子量共重合体A-1:製造例1-1
高分子量共重合体A-2:製造例1-2
(成分B)
低分子量共重合体B-1:製造例2-1
低分子量共重合体B-2:製造例2-2
低分子量共重合体B-3:製造例2-3
(成分C)ヘテロ元素を含まない可塑剤
可塑剤C:ジャパンエナジー製のX-140(アロマチック系鉱物油、室温(約25℃)で液状
(成分D)ヘテロ元素を含む可塑剤
可塑剤D:第八化学工業(株)製のBXAN(ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート)、室温(約25℃)で液状)
(成分E)Tgが50℃以上の樹脂
樹脂E-1:日塗化学(株)製のG-90(クマロンインデン樹脂、Tg:50℃、160℃で液状)
樹脂E-2:ヤスハラケミカル(株)製のTO125(スチレンテルペン樹脂、Tg:65℃、160℃で液状)
(その他の成分)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイヤブラックN220(N2SA:111m2/g)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸椿
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
加硫促進剤:住友化学(株)製のソクシノールD
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
【0117】
<実施例及び比較例>
表1、2に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練物を得た(バンバリー工程)。次に、得られた混練物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間混練し、未加硫ゴム組成物を得た(オープンロール工程)。
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、未加硫ゴム組成物をキャップトレッド、ベーストレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材と共に貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃で30分間加硫し、試験用タイヤを得た。
【0118】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤを下記試験方法により評価し、結果を表2、3に示した。
【0119】
(ゴムの密着性)
バンバリー工程及びオープンロール工程におけるゴムの密着程度を以下の基準で3段階評価した。
○:密着はほとんどなく、問題ない。
△:密着しており、「○」に比べてゴム排出に時間がかかる。
×:密着がひどく、「△」に比べてゴムの排出に時間がかかる。
【0120】
(加工性指数)
上記未加硫ゴム組成物について、JIS K6300 (1994)に従って、100℃にてムーニー粘度を測定し、比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど、ムーニー粘度が低く、加工性が優れていることを示す。
【0121】
(tanδ/E*x1000)
上記加硫ゴム組成物から幅2mm、長さ40mmの短冊状試験片を打ち抜き、粘弾性測定装置((株)上島製作所製)を用いて、初期歪0.5%、動的歪2.5%、周波数10Hz、温度50℃の条件下で、tanδ及びE*[MPa]を測定し、tanδ/E*x1000を算出した。
【0122】
(tanδのピーク温度)
上記加硫ゴム組成物から幅2mm、長さ40mmの短冊状試験片を打ち抜き、粘弾性測定装置((株)上島製作所製)を用いて、初期歪0.5%、動的歪2.5%、周波数10Hz、昇温速度1℃/分の条件下で、-50℃から150℃の温度範囲でtanδを測定し、tanδの温度曲線を得た。該温度曲線から、tanδのピーク温度を算出した。
【0123】
(タイヤ表面の脆化)
上記試験用タイヤの表面を目視で観察し、表面にひび割れがあれば脆化していると判断した。なお、脆化を起こしたものでは実車走行できないため、下記タイヤ評価は脆化を起こしていないもののみ実施した。
【0124】
(トレッド上層(キャップトレッド)の剥離)
上記試験用タイヤを切断して観察用のタイヤセクションを作成し、トレッド上層の剥離状態を目視で確認した。なお、剥離を起こしたものでは実車走行できないため、下記タイヤ評価は剥離を起こしていないもののみ実施した。
【0125】
(グリップ性能)
上記試験用タイヤを用いて、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際における操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが下記基準で評価し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど、グリップ性能が優れていることを示す。
初期グリップ 1周目ラップタイム(指数)
中期グリップ 6周目ラップタイム(指数)
後期グリップ 10周目ラップライム(指数)
絶対グリップ指数 (指数平均)
【0126】
(耐摩耗性)
上記試験用タイヤを用いて、タイヤを用いて、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際におけるタイヤトレッドゴムの残溝量を測定し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど、残溝量が多く、耐摩耗性が優れていることを示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
表2、3より、実施例は、グリップ性能及び耐摩耗性の両方が比較例1よりも向上しており、一方、比較例2以降は、いずれかの項目が比較例1よりも劣っていた。
また、実施例は、タイヤ表面の脆化、トレッド上層の剥離もみられなかった。