(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】表面保護樹脂部材
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20240305BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240305BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20240305BHJP
C08G 18/61 20060101ALI20240305BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240305BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20240305BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240305BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D183/04
C08G18/62 075
C08G18/61
C08G18/42 069
C08G18/40 063
B32B27/40
C09D133/00
(21)【出願番号】P 2019223784
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 嘉郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝子
(72)【発明者】
【氏名】大木 正啓
(72)【発明者】
【氏名】岩永 猛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和世
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲也
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107101(JP,A)
【文献】特開2014-189600(JP,A)
【文献】特開2012-025821(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221490(WO,A1)
【文献】特開2015-038163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08G 18/61
C08G 18/42
C08G 18/40
B32B 27/40
C08G 18/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であるフッ素含有アクリル樹脂と、
複数のヒドロキシ基を有し、且つ、前記ヒドロキシ基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、
イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシリコーン樹脂と、
多官能イソシアネートと、
を含む組成物の硬化物であって、
前記ポリオールが、ポリカプロラクトンポリオールであり、
周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55以上0.90以下である、表面保護樹脂部材。
【請求項2】
表面の動摩擦係数が0.5以下である、請求項1に記載の表面保護樹脂部材。
【請求項3】
前記表面の動摩擦係数が0.5以下であり、且つ、前記周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.65以上0.9以下である、請求項2に記載の表面保護樹脂部材。
【請求項4】
前記フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))が、0.6超え1.3以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材。
【請求項5】
前記フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))が、0.7以上1.2以下である、請求項4に記載の表面保護樹脂部材。
【請求項6】
前記フッ素含有アクリル樹脂の水酸基価[OH
A]と、前記ポリオールの水酸基価[OH
B]との比([OH
A]/[OH
B])が、0.5以上1.8以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂における水酸基のモル量Dに対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/D)が、120以上1200以下である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野において、表面での傷つきを抑制する観点から、表面保護膜等の表面保護樹脂部材を設けることが行われている。例えば、傷に対する自己修復性を有する表面保護部材は、自動車内装、建材等の保護膜、タッチパネル画面等の保護フィルムなどに用いられている。
【0003】
ここで、特許文献1には、「ポリウレタンからなる保護層を最表面に有し、前記ポリウレタンの国際ゴム硬さ(IRHD)が87.0以上98.0以下、tanδピーク値が0.6以上であることを特徴とする表面保護フィルム」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「自己修復性を有し、且つ、表面にサファイヤ針を一定荷重で押し付けながら往復させた際の動摩擦係数が0.4以下である透明保護膜」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/221490号
【文献】特開2015-038164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、「水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であるフッ素含有アクリル樹脂」と「複数のヒドロキシ基を有し且つ前記ヒドロキシ基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオール」とのみを含む組成物の硬化物である表面保護樹脂部材は、鋭利な先端に対するひっかき耐性が低い傾向にあった。
本発明では、前記フッ素含有アクリル樹脂、前記ポリオール、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシリコーン樹脂及び多官能イソシアネートを含む表面保護樹脂部材において、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55未満又は0.90超えである場合に比べて、鋭利な先端に対するひっかき耐性に優れる表面保護樹脂部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0008】
[1] 水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であるフッ素含有アクリル樹脂と、
複数のヒドロキシ基を有し、且つ、前記ヒドロキシ基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、
イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシリコーン樹脂と、
多官能イソシアネートと、
を含む組成物の硬化物であって、
周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55以上0.90以下である、表面保護樹脂部材。
[2] 表面の動摩擦係数が0.5以下である、[1]に記載の表面保護樹脂部材。
[3] 前記表面の動摩擦係数が0.5以下であり、且つ、前記周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.65以上0.9以下である、[2]に記載の表面保護樹脂部材。
[4] 前記フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))が、0.6超え1.3以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材。
[5] 前記フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))が、0.7以上1.2以下である、[4]に記載の表面保護樹脂部材。
[6] 前記フッ素含有アクリル樹脂の水酸基価[OHA]と、前記ポリオールの水酸基価[OHB]との比([OHA]/[OHB])が、0.5以上1.8以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材。
[7] 前記シリコーン樹脂における水酸基のモル量Dに対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/D)が、120以上1200以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材。
【発明の効果】
【0009】
[1]に係る発明によれば、前記フッ素含有アクリル樹脂、前記ポリオール、前記シリコーン樹脂及び前記多官能イソシアネートを含む表面保護樹脂部材において、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55未満又は0.90超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性に優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【0010】
[2]に係る発明によれば、表面保護樹脂部材の表面における動摩擦係数が0.5超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【0011】
[3]に係る発明によれば、前記表面保護樹脂部材の表面における動摩擦係数が0.5超えであり、且つ、前記周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.65未満又は0.9超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【0012】
[4]に係る発明によれば、前記フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))が、0.6以下又は1.3超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【0013】
[5]に係る発明によれば、前記フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))が、0.7未満又は1.2超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【0014】
[6]に係る発明によれば、前記フッ素含有アクリル樹脂の水酸基価[OHA]と、前記ポリオールの水酸基価[OHB]との比([OHA]/[OHB])が、0.5未満又は1.8超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【0015】
[7]に係る発明によれば、前記シリコーン樹脂における水酸基のモル量Dに対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/D)が、120未満又は1200超えである場合に比べ、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる表面保護樹脂部材を提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0017】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
本明細書において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0019】
本明細書において、「自己修復性」とは、他の物質との接触によって、硬化物の表面に傷(例えば擦り傷)が生じた場合であっても、その傷が経時的に修復され、元の状態又はそれに近い状態に復元される性質を指す。
【0020】
-表面保護樹脂部材-
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であるフッ素含有アクリル樹脂と、複数のヒドロキシ基を有し、且つ、前記ヒドロキシ基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシリコーン樹脂と、多官能イソシアネートと、を含む組成物の硬化物であって、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55以上0.90以下である。
【0021】
従来、フッ素含有アクリル樹脂、長鎖ポリオール、及び多官能イソシアネートを含む組成物の硬化物では、フッ素含有アクリル樹脂中のヒドロキシ基と、長鎖ポリオール中のヒドロキシ基と、多官能イソシアネート中のイソシアネート基とが反応して、ウレタン結合(-NHCOO-)が形成される。この形成されたウレタン樹脂では、フッ素含有アクリル樹脂が、ポリオールと多官能イソシアネートとを介して、架橋構造を形成し、これにより、硬化物となったときに自己修復性を発現する。
【0022】
しかしながら、従来の表面保護樹脂部材は、弾性力によって変形することで優れた耐傷性を得ており、柔らかく設計されることが多いため、鋭利な先端に対するひっかき耐性が低くなる傾向にあった。
【0023】
一方、本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、鋭利な先端に対するひっかき耐性に優れる。この要因は必ずしも明らかではないが、以下のように推察することができる。
【0024】
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、フッ素含有アクリル樹脂、長鎖ポリオール、及び多官能イソシアネートに加えて、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシリコーン樹脂を含む組成物の硬化物である。これにより、シリコーン樹脂中のイソシアネート基に対して反応性を示す官能基と、多官能イソシアネートとが反応して形成された架橋構造の側鎖に、シロキサン結合が導入される。そのため、硬化物、つまり表面保護樹脂部材の表面における動摩擦係数が低減される傾向にある。その結果、鋭利な先端によるひっかき耐性に優れると考えられる。
【0025】
さらに、本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55以上である。そのため、表面保護樹脂部材(硬化物)の表面に対して、局所的に圧力負荷がかかったとしても、そのエネルギーが吸収される傾向にある。その結果、鋭利な先端によるひっかき耐性に優れると考えられる。
他方、本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.90以下である。そのため、表面保護樹脂部材(硬化物)の表面に対し、局所的に圧力負荷がかかったとしても、過度にエネルギーが吸収されて自己修復性が低下することが抑制される傾向にあると考えられる。
【0026】
≪表面保護樹脂部材の性質≫
表面保護樹脂部材は、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.55以上0.90以下であり、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点からは、0.60以上0.9以下であることが好ましく、0.65以上0.9以下であることがより好ましく、0.65以上0.85以下であることがさらに好ましい。
【0027】
周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値は、以下のようにして求める。
表面保護樹脂部材(硬化物)を一部切り取り、動的粘弾性測定に必要な縦30mm×横5mm、膜厚約120μmの試験片を切り出す。粘弾性測定装置(例えば、セイコーインスツル株式会社製の製品番号DMS-6100)を用いて、周波数11Hz、昇温速度5℃/minで-40℃から120℃までの動的粘弾性の温度依存性を測定する。得られた損失正接tanδと温度との関係図における、損失正接tanδがピーク値(最大値)となる際の温度、及びその際の損失正接tanδの値を測定する。
【0028】
表面保護樹脂部材の周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値を、上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、(1)フッ素含有アクリル樹脂のモル量A及び長鎖ポリオールの水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))を後述する範囲とする手法;(2)長鎖ポリオールの水酸基価を高くする手法;(3)多官能イソシアネートをイソシアヌレートタイプ(イソシアネートの三量体;イソシアヌレートと、イソシアネート及びポリオールが反応して形成されるウレタン結合と、の複合体)を有するものとする手法;などが挙げられる。
【0029】
表面保護樹脂部材の表面における動摩擦係数は、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点からは、0.50以下であることが好ましく、0.05以上0.45以下であることがより好ましく、0.05以上0.40以下であることがさらに好ましい。
【0030】
表面保護樹脂部材の表面の動摩擦係数は、以下のようにして求める。
荷重変動型摩擦摩耗試験システム(例えば、HEIDONトライボギアTYPE14、新東科学株式会社製)の一定荷重摩擦測定モードにより、引掻針を用いて、表面保護樹脂部材の表面を、前記引掻針にかかる走査方向の動摩擦抵抗を測定する。測定条件は、温度:23℃、湿度:55%RH、垂直荷重:30g、速度:10mm/1sec、距離50mm、引掻針(サファイア製)の先端半径r=0.1mmとする。そして、得られた動摩擦抵抗力から動摩擦係数を求める。
【0031】
表面保護樹脂部材の表面における動摩擦係数を、上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、組成物を多官能イソシアネートとシリコーン樹脂とを含む組成とする手法;フッ素含有アクリル樹脂に含まれるフッ素原子の存在量を制御する手法;などが挙げられる。
【0032】
特に、表面保護樹脂部材の表面における動摩擦係数が0.50以下であり、且つ、前記周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値が0.65以上0.9以下であると、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる。
【0033】
表面保護樹脂部材(硬化物)の形成方法は、特に制限されず、公知の手法が適用できる。下記に具体例を挙げて、本実施形態に係る表面保護樹脂部材の形成方法(樹脂の重合方法)について説明する。
例えば、フッ素含有アクリル樹脂と長鎖ポリオールとイソシアネート基反応性シリコーン樹脂とを含有するA液と、多官能イソシアネートを含有するB液と、をそれぞれ準備する。このA液及びB液を混合し、減圧下で脱泡したのち基材(例えば樹脂フィルム、アルミニウム板、ガラス板等)上にキャストして樹脂層を形成する。次いで、加熱して硬化させることで、形成することができる。
ただし、本実施形態では表面保護樹脂部材の形成方法は上記の方法には限られない。例えば、ブロック化された多官能イソシアネートを用いる場合は、ブロックが外れる温度以上に加熱して硬化することが好ましい。また、減圧脱泡のかわりに超音波を用いたり、混合液を放置して脱泡したりする等の方法によって重合し硬化物を形成していてもよい。
【0034】
表面保護樹脂部材の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上100μm以下とすることができ、15μm以上60μm以下としてもよい。
【0035】
≪組成物≫
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、後述するフッ素含有アクリル樹脂、長鎖ポリオール、シリコーン樹脂及び他官能イソシアネートを含む組成物の硬化物である。
【0036】
フッ素含有アクリル樹脂の水酸基価[OHA]と、ポリオールの水酸基価[OHB]との比([OHA]/[OHB])は、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点から、0.5以上1.8以下であることが好ましく、0.7以上1.7以下であることがより好ましく、0.8以上1.5以下であることがさらに好ましい。
【0037】
フッ素含有アクリル樹脂における水酸基のモル量A、及び、前記ポリオールにおける水酸基のモル量Bの総和(A+B)に対する、前記多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/(A+B))は、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点から、0.6超え1.3以下であることが好ましく、0.65以上1.25以下であることがより好ましく、0.7以上1.2以下であることがさらに好ましい。
【0038】
シリコーン樹脂における水酸基のモル量Dに対する、多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基のモル量Cの比率(C/D)は、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点から、120以上1200以下であることが好ましく、200以上1100以下であることがより好ましく、300以上900以下であることがさらに好ましい。
【0039】
フッ素含有アクリル樹脂、ポリオール及びシリコーン樹脂における水酸基のモル量は、それぞれ、水酸基価を測定し、KOHの分子量、及び表面保護樹脂部材を作製する際に使用する各材料の配合量から求めることができる。水酸基価の測定方法は、JIS K-1557-1に準じる。
【0040】
〔フッ素含有アクリル樹脂〕
本実施形態に係る組成物は、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であるフッ素含有アクリル樹脂を含む。
【0041】
「フッ素含有アクリル樹脂」とは、フッ素原子を分子構造中に含むアクリル樹脂を意味する。
【0042】
フッ素含有アクリル樹脂は、アクリル樹脂を構成する構造中に、ヒドロキシ基を有する。前記ヒドロキシ基は、例えば、アクリル樹脂の原料となるモノマーとしてヒドロキシ基を有するモノマーを用いることで導入される。ヒドロキシ基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、及びN-メチロールアクリルアミン等の、(1)ヒドロキシ基を有するエチレン性モノマー等が挙げられる。
また、フッ素含有アクリル樹脂は、アクリル樹脂を構成する構造中に、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、及びマレイン酸等の、(2)カルボキシ基を有するエチレン性モノマーを用いてもよい。
【0043】
アクリル樹脂の原料となるモノマーには、ヒドロキシ基を有しないモノマーを併用してもよい。ヒドロキシ基を有しないモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、及び(メタ)アクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなど、前記モノマー(1)及び(2)と共重合し得るエチレン性モノマーが挙げられる。
【0044】
本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両者を包含する概念である。
【0045】
・フッ素原子
アクリル樹脂中にフッ素原子が含まれるフッ素含有アクリル樹脂を使用すると、水に対する接触角が高い表面保護樹脂部材を形成し易くなる。つまり、自己修復性がより高まる傾向にある。
【0046】
フッ素原子は、例えば、アクリル樹脂の原料となるモノマーとして、フッ素原子を有するモノマーを用いることで、樹脂構造中に導入することができる。フッ素原子を有するモノマーとしては、2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルエチレン、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロペンエポキサイド、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0047】
フッ素原子は、水に対する接触角を高め易くする観点から、フッ素含有アクリル樹脂の側鎖に含まれることが好ましい。なお、フッ素原子を含む側鎖の炭素数としては、例えば2以上20以下のものが挙げられる。またフッ素原子を含む側鎖における炭素鎖は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
フッ素原子を有するモノマー1分子に含まれるフッ素原子数は特に限定されないが、例えば1以上25以下が好ましく、3以上17以下がより好ましい。
【0048】
フッ素含有アクリル樹脂に含まれるフッ素原子の割合としては、フッ素含有アクリル樹脂全体に対して、1質量%以上33質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
フッ素原子の含有割合が、1質量%以上であることで、水に対する接触角が高い表面保護部材が得られ易く、また33質量%以下であることで、可使時間が長い溶液とし易くなる。
【0049】
・水酸基価
フッ素含有アクリル樹脂の水酸基価は、40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である。前記水酸基価は、70mgKOH/g以上210mgKOH/g以下であることが好ましい。
水酸基価が40mgKOH/g以上であることにより架橋密度が高いポリウレタン樹脂が得られる傾向にある。一方、水酸基価が280mgKOH/g以下であることにより適度な柔軟性をもつポリウレタン樹脂が得られる傾向にある。
フッ素含有アクリル樹脂の水酸基価は、フッ素含有アクリル樹脂を合成する全モノマー中における、ヒドロキシ基を有するモノマーの割合等によって調整される。
【0050】
水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシ基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。
【0051】
水酸基価の測定は、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。ただし、測定試料が前記手法に記載される溶媒に溶解しない場合は、溶媒にジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒が用いられる。
【0052】
フッ素含有アクリル樹脂の合成は、例えば、前述のモノマーを混合し通常のラジカル重合やイオン重合等を行った後、精製することによって行なわれる。
【0053】
フッ素含有アクリル樹脂の重量平均分子量Mwは、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点から、10,000以上50,000以下であることが好ましく、10,000以上30,000以下であることがより好ましい。
【0054】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定する。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー製GPC・HLC-8120GPCを用い、東ソー製カラム・TSKgel SuperHM-M(15cm)を使用し、THF溶媒で行う。重量平均分子量及び数平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0055】
〔長鎖ポリオール〕
本実施形態に係る組成物は、複数のヒドロキシ基を有し、且つ、前記ヒドロキシ基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオール(以下、「長鎖ポリオール」とも称す。)を含む。
【0056】
長鎖ポリオールは、複数のヒドロキシル基(-OH)を有し、且つ前記ヒドロキシル基が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数)が6以上の炭素鎖を介するポリオールである。つまり、長鎖ポリオールは全てのヒドロキシル基同士が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数)が6以上の炭素鎖によって連結されるポリオールである。
【0057】
長鎖ポリオールは、官能基数(すなわち、長鎖ポリオール1分子中に含まれるヒドロキシル基の数)が、例えば2以上5以下の範囲が挙げられ、2以上3以下であってもよい。
【0058】
長鎖ポリオールにおける炭素数が6以上の炭素鎖とは、ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数が6以上である鎖を表す。炭素数が6以上の炭素鎖としては、アルキレン基、又は1種以上のアルキレン基と-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基が挙げられる。炭素数が6以上の炭素鎖によってヒドロキシル基同士が連結される長鎖ポリオールは、-[CO(CH2)n1O]n2-H(ここで、n1は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n2は1以上50以下(好ましくは1以上35以下、より好ましくは1以上10以下、さらに好ましくは2以上6以下)を表す。)の構造を有することが好ましい。
【0059】
長鎖ポリオールとしては、例えば、2官能ポリカプロラクトンジオール、3官能ポリカプロラクトントリオール、4官能以上のポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0060】
2官能ポリカプロラクトンジオールとしては、例えば-[CO(CH2)n11O]n12-H(ここで、n11は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n12は1以上50以下(好ましくは3以上35以下)を表す。)で表される、末端にヒドロキシル基を有する基を2つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0061】
【0062】
一般式(1)中、Rはアルキレン基、又はアルキレン基と、-O-及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1以上35以下の整数を表す。
【0063】
一般式(1)中、Rで表される2価の基に含まれるアルキレン基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。該アルキレン基としては、例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上5以下のアルキレン基がより好ましい。
Rで表される2価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数2以上5以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基が好ましく、また炭素数1以上5以下(好ましくは炭素数1以上3以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基2つが-O-もしくは-C(=O)-(好ましくは-O-)で連結されてなる基が好ましい。これらの中でも、*-C2H4-*、*-C2H4OC2H4-*、又は*-C(CH3)2-(CH2)2-*で表される2価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した2価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
m及びnは、それぞれ独立に1以上35以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。
【0064】
3官能ポリカプロラクトントリオールとしては、例えば-[CO(CH2)n21O]n22-H(ここで、n21は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n22は1以上50以下(好ましくは1以上28以下)を表す。)で表される、末端にヒドロキシル基を有する基を3つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0065】
【0066】
一般式(2)中、Rはアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基、又はアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基、-O-、及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる3価の基を表す。l、m、及びnはそれぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、l+m+nは3以上30以下である。
【0067】
一般式(2)中、Rがアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基を表す場合、その基は直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。このアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基としては、例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルキレン基がより好ましい。
また上記Rは、上記に示すアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基(例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基)、-O-、及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基と、を組み合わせてなる3価の基であってもよい。
Rで表される3価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数3以上6以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基が好ましい。これらの中でも、*-CH2-CH(-*)-CH2-*、CH3-C(-*)(-*)-(CH2)2-*、CH3CH2C(-*)(-*)(CH2)3-*で表される3価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した3価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
l、m、及びnは、それぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。l+m+nは3以上30以下であり、6以上30以下であることが好ましく、6以上20以下であることがより好ましい。
【0068】
長鎖ポリオールとして、フッ素原子を含む長鎖ポリオールを用いてもよい。
フッ素原子を含む長鎖ポリオールとしては、炭素数6以上12以下のジオール(例えば2つのヒドロキシル基が炭素数6以上12以下のアルキレン基で結合されたジオール)においてC原子に結合するH原子の一部又は全てがF原子に置き換えられた長鎖ジオール、炭素数6以上12以下のポリオレフィングリコール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール等のオレフィングリコールが複数重合してなる、炭素数6以上12以下のポリオレフィングリコール)においてC原子に結合するH原子の一部又は全てがF原子に置き換えられた長鎖グリコール等が挙げられる。具体的には、1H,1H,9H,9H-Perfluoro-1,9-nonanediol、Fluorinated tetraethylene glycol、1H,1H,8H,8H-Perfluoro-1,8-octanediol等が挙げられる。
【0069】
なお、長鎖ポリオールは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0070】
フッ素含有アクリル樹脂に対する長鎖ポリオールの添加量としては、例えば、フッ素含有アクリル樹脂に含有される全ヒドロキシル基の総モル量[A]と、長鎖ポリオールに含有されるヒドロキシル基の総モル量[B]との比率[B]/[A]が、0.1以上10以下の範囲が挙げられ、1以上4以下であってもよい。
【0071】
なお、長鎖ポリオールとしては、水酸基価が30mgKOH/g以上320mgKOH/g以下のものを用いることが好ましく、50mgKOH/g以上310mgKOH/g以下であることがより好ましく、60mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが更に好ましい。
水酸基価が30mgKOH/g以上であることにより、架橋密度が高いウレタン樹脂が重合され、一方320mgKOH/g以下であることにより、適度な柔軟性をもつウレタン樹脂が得られるものと推察される。
【0072】
尚、上記水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。本実施形態における上記水酸基価の測定は、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。但しサンプルが溶解しない場合は溶媒にジオキサン、THF等の溶媒が用いられる。
【0073】
〔シリコーン樹脂〕
本実施形態に係る組成物は、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を有するシリコーン樹脂(以下、「イソシアネート基反応性シリコーン樹脂」とも称す。)を含む。
【0074】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂が有する、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基としては、例えばアミノ基(-N(-R11)(-R12)/なおR11及びR12はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を表す)、ヒドロキシアルキル基(-R21-OH/なおR21は炭素数1以上10以下のアルキレン基を表す)、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、シラノール基(-SiOH)、エポキシ基等が挙げられる。上記の中でも、ヒドロキシアルキル基、又はヒドロキシル基が好ましい。
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂は、前記官能基を1つの分子構造中に1種のみ有していても2種以上有していてもよい。
【0075】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂が1つの分子構造中に有する前記官能基の数は、特に制限されるものではない。ただし、1つの分子構造中に前記官能基を1つ又は2つ有するシリコーン樹脂であることが好ましい。1つの分子構造中に有する前記官能基の数が1つ又は2つであることで、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂がフッ素含有アクリル樹脂と結合して固定される箇所が1箇所又は2箇所となる。そのため、シロキサン結合を有する鎖の動き易さがより向上して、ケイ素原子を有する部分が表面保護樹脂部材において表面により表出し易くなる。その結果、表面保護樹脂部材の動摩擦係数が調整され、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れる傾向にある。
1つの分子構造中に前記官能基を1つ有する場合、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点から、前記官能基を有する位置はシリコーン樹脂の主鎖の末端(片末端)であることがより好ましい。
1つの分子構造中に前記官能基を2つ有する場合、鋭利な先端に対するひっかき耐性により優れるものとする観点から、前記官能基を有する位置はシリコーン樹脂の主鎖の末端(両末端)であることがより好ましい。
【0076】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂としては、例えば前記官能基をシリコーン樹脂の主鎖の少なくとも片方の末端に有する化合物が挙げられ、具体的には下記一般式(P1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
また、前記官能基をシリコーン樹脂の側鎖の一部に有する化合物が挙げられ、具体的には下記一般式(P2)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
なお、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂としては下記一般式(P1)で表される構造を有する化合物がより好ましい。
【0077】
【0078】
一般式(P1)中、X1はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を、m1は1以上の整数を、表す。なお、一般式(P1)中に複数存在するR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0079】
一般式(P1)中、R31又はR32で表されるアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状、又は環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は1以上8以下が好ましく、1以上3以下がより好ましい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0080】
R31又はR32で表されるアリール基は、その炭素数は4以上20以下が好ましい。該アリール基としては、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0081】
R31としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。一般式(P1)中に複数存在するR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0082】
R32としては、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基であることがより好ましく、メチル基又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基であることがさらに好ましい。
【0083】
m1は、特に限定されるものではないが、例えば100以上2500以下であることが好ましく、300以上2000以下であることがより好ましい。
【0084】
一般式(P1)で表される構造を有する化合物は、前記官能基をX1のみに有している構造又はX1及びR32のみに有している構造であることが好ましい。
【0085】
【0086】
一般式(P2)中、X2はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を、R33はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を、m2及びm3はそれぞれ独立に1以上の整数を、表す。なお、一般式(P2)中に複数存在するR33はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0087】
一般式(P2)中、R33で表されるアルキル基及びアリール基は、いずれも一般式(P1)においてR32で表されるアルキル基及びアリール基と同義である。
R33としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。一般式(P2)中に複数存在するR33はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0088】
m2とm3との合計は、特に限定されるものではないが、例えば3以上1000以下が挙げられる。
【0089】
一般式(P2)で表される構造を有する化合物は、前記官能基をX2のみに有している構造であることが好ましく、さらにm2の数が1であることがより好ましい。
【0090】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂の重量平均分子量としては、例えば250以上50000以下が挙げられ、500以上20000以下であってもよい。
【0091】
(ケイ素原子とフッ素原子との比率)
本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用の溶液(A液)は、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂を含み、またフッ素含有アクリル樹脂が分子構造中にシランカップリング剤に由来する構造(例えばヒドロキシル基に対して反応性を示す官能基を有するシランカップリング剤が側鎖に結合した構造、及びビニル基を有するシランカップリング剤がモノマーとして重合された構造の少なくとも一方の構造)を有していてもよく、さらにフッ素含有アクリル樹脂がフッ素原子を有していてもよい。
この場合、フッ素含有アクリル樹脂中に含まれるフッ素原子の量[F1]と、フッ素含有アクリル樹脂中に含まれるケイ素原子の量[Si2]と、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂中に含まれるケイ素原子の量[Si3]と、の総量に対して[F1]及び[Si3]のそれぞれの比率(質量比)は、以下の範囲であることが好ましい。
質量比[F1/(F1+Si2+Si3)]は、0.1以上0.95以下が好ましく、0.6以上0.95以下がより好ましい。
質量比[F1/(F1+Si2+Si3)]が上記範囲であることで、基材への密着性、表面のすべり性、及び防汚性が高い表面保護樹脂部材を形成し得る。
【0092】
質量比[Si3/(F1+Si2+Si3)]は、0.01以上0.9以下が好ましく、0.03以上0.6以下がより好ましい。
質量比[Si3/(F1+Si2+Si3)]が上記範囲であることで、基材への密着性、表面のすべり性、及び防汚性が高い表面保護樹脂部材を形成し得る。
【0093】
〔多官能イソシアネート〕
本実施形態に係る組成物は、多官能イソシアネートを含む。
【0094】
多官能イソシアネートは、イソシアネート基(-NCO)を複数有する化合物である。
多官能イソシアネートは、例えば、フッ素含有アクリル樹脂が有するヒドロキシ基、長鎖ポリオールが有するヒドロキシ基等と反応してウレタン結合(-NHCOO-)を形成し得る。そして、フッ素含有アクリル樹脂同士、フッ素含有アクリル樹脂と長鎖ポリオール、長鎖ポリオール同士を架橋する架橋剤として機能する。
【0095】
多官能イソシアネートとしては、例えば、メチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の2官能のジイソシアネート;ヘキサメチレンポリイソシアネートの多量体であるビウレット構造、イソシアヌレート構造、アダクト構造、弾性型構造等の多量体イソシアネート;などが挙げられる。
多官能イソシアネートは、市販品であっても合成品であってもよい。
多官能イソシアネートの市販品としては、例えば、旭化成株式会社製のデュラネート(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
多官能イソシアネートは1種単独であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0096】
多官能イソシアネートの含有量は、特に制限されない。
多官能イソシアネートの含有量は、例えば、フッ素含有アクリル樹脂及び長鎖ポリオール中のヒドロキシ基の総量に対して、多官能イソシアネートに含まれるイソシアネート基の割合が、モル比で0.8以上1.6以下となる量に調整されることが好ましく、モル比で1以上1.3以下となる量に調整されることがより好ましい。
多官能イソシアネートの量を、多官能イソシアネートに含まれるイソシアネート基の割合が、モル比で0.8以上となる量に調整すると、架橋密度の高いウレタン樹脂が重合される傾向にある。その結果、形成される硬化物である表面保護樹脂部材の自己修復性がより高まる傾向にある。一方、多官能イソシアネートの量を、多官能イソシアネートに含まれるイソシアネート基の割合が、モル比で1.6以下となる量に調整すると、適度な弾性をもつウレタン樹脂が得られる傾向にある。
【0097】
〔その他の材料〕
本実施形態に係る組成物は、鋭利な先端に対するひっかき耐性を阻害しない範囲で、フッ素含有アクリル樹脂、ポリオール、シリコーン樹脂及び他官能イソシアネート以外のその他の材料を含んでいてもよい。
その他の材料としては、例えば、帯電防止剤、フッ素含有アクリル樹脂及び長鎖ポリオールにおけるヒドロキシ基と多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基との反応を促進させる反応促進剤等が挙げられる。
【0098】
・帯電防止剤
帯電防止剤としては、界面活性化合物、4級アンモニウム含有化合物、高分子量化合物等が挙げられる。帯電防止剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
界面活性化合物としては、例えば、カチオン系の界面活性化合物(例えばテトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルアミンの塩酸塩、イミダゾリウム塩等)、アニオン系の界面活性化合物(例えばアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフォスフェート等)、非イオン系の界面活性化合物(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N-ビス-2-ヒドロキシエチルアルキルアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル等)、両性の界面活性化合物(例えばアルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン等)などが挙げられる。
【0099】
4級アンモニウム含有化合物としては、例えば、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパラトルエンスルフォネート、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレンステアリルアミンの塩酸塩等が挙げられる。これらの中でも、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミドが好ましい。
【0100】
高分子量化合物としては、例えば、4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物、ポリスチレンスルホン酸型高分子化合物、ポリカルボン酸型高分子化合物、ポリエーテルエステル型高分子化合物、エチレンオキシド-エピクロルヒドリン型高分子化合物、ポリエーテルエステルアミド型高分子化合物等が挙げられる。
【0101】
なお、4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物としては、例えば下記の構成単位を少なくとも有する高分子化合物などが挙げられる。
【0102】
【0103】
(構成単位中、R1は水素原子又はメチル基を、R2、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキル基を、X-はアニオンを、表す。)
【0104】
・反応促進剤
フッ素含有アクリル樹脂及び長鎖ポリオールにおけるヒドロキシ基と多官能イソシアネートにおけるイソシアネート基との反応を促進させる反応促進剤としては、例えばスズやビスマスの金属触媒がある。たとえば、日東化成株式会社のネオスタンU-28、U-50、U-600、U-100、U-200、U-810、ステアリン酸スズ(II)がある。また、楠本化成株式会社のXC-C277、XK-640、XK-628、348、XC-C227等、Borchers社のBorchi Kat 315、Borchi Kat 320、Borchi Kat 24、三菱ケミカル社のスタノクト等が挙げられる。反応促進剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0105】
≪用途≫
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、例えば、鋭利な先端を有する物質との接触により表面にひっかき傷が発生する可能性があり、且つ自己修復性が求められる物などに対する表面保護部材として用いることができる。
具体的には、自動車用部材(例えば車の内装、車のボディ、ドアの取っ手等)、建材(例えば床材、タイル、壁材、壁紙等)、ポータブル機器(例えばスマートフォン、携帯電話、ポータブルゲーム機等)における画面や画面以外のボディ、タッチパネルの画面、収納容器(例えばスーツケース等)、化粧品の容器、メガネ(例えばフレーム、レンズ等)、スポーツ用品(例えばゴルフクラブ、ラケット等)、筆記用具(例えば万年筆等)、楽器(例えばピアノの外装等)、衣類収納道具(例えばハンガー等)、皮製品(例えばバッグ、ランドセル等)、装飾フィルム、フィルムミラー、複写機等の画像形成装置用の部材(例えば転写ベルトなどの転写部材等)などが挙げられる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0107】
≪材料の準備≫
(フッ素含有アクリル樹脂の合成)
(1)水酸基価175mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂1
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、パーフルオロ基を有するアクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を、25:30:5のモル比で混合した。さらに、対重合性単量体比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))、及び対重合性単量体比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加して重合性単量体溶液を調製した。
この重合性単量体溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対重合性単量体比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。さらに対重合性単量体比10質量%のMEKと対重合性単量体比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。なお、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。こうしてフッ素含有アクリル樹脂1を合成した。
得られたフッ素含有アクリル樹脂1の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価175mgKOH/gであった。フッ素含有アクリル樹脂1の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いた前述の方法により測定したところ、重量平均分子量17000であった。フッ素含有アクリル樹脂1が有する全側鎖に対する、フッ素(パーフルオロ基)を有する側鎖のモル比は8.3%であった。
【0108】
(2)水酸基価200mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂2
上記フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法において、前記各重合性単量体を、20:35:5のモル比で混合する仕様とした以外は、フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法と同様の操作で、水酸基価200mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂2を得た。
フッ素含有アクリル樹脂2は、重量平均分子量18000であった。また、フッ素含有アクリル樹脂2が有する全側鎖に対する、フッ素(パーフルオロ基)を有する側鎖のモル比は8.4%であった。
【0109】
(3)水酸基価135mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂3
上記フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法において、前記各重合性単量体を、35:20:5のモル比で混合する仕様とした以外は、フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法と同様の操作で、水酸基価135mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂3を得た。
フッ素含有アクリル樹脂3は、重量平均分子量16000であった。また、フッ素含有アクリル樹脂3が有する全側鎖に対する、フッ素(パーフルオロ基)を有する側鎖のモル比は8.1%であった。
【0110】
(4)水酸基価155mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂4
上記フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法において、前記各重合性単量体を、30:25:5のモル比で混合する仕様とした以外は、フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法と同様の操作で、水酸基価155mgKOH/gのフッ素含有アクリル樹脂4を得た。
フッ素含有アクリル樹脂4は、重量平均分子量17000であった。また、フッ素含有アクリル樹脂4が有する全側鎖に対する、フッ素(パーフルオロ基)を有する側鎖のモル比は8.2%であった。
【0111】
(フッ素原子を含有しないアクリル樹脂)
上記フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法において、パーフルオロ基を有するアクリルモノマーを含有せず、n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との各重合性単量体を、30:30のモル比で混合する仕様とした以外は、フッ素含有アクリル樹脂1の合成方法と同様の操作で、水酸基価200mgKOH/gのフッ素原子を含有しないアクリル樹脂を得た。
フッ素原子を含有しないアクリル樹脂は、重量平均分子量19000であった。
【0112】
(長鎖ポリオール)
・長鎖ポリオール1(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル製、分子量850、水酸基価200mgKOH/g)
・長鎖ポリオール2(ポリカプロラクトントリオール、製品番号プラクセル305、株式会社ダイセル製、分子量550、水酸基価300mgKOH/g)
・長鎖ポリオール3(ポリカプロラクトントリオール、製品番号プラクセル312、株式会社ダイセル製、分子量1250、水酸基価135mgKOH/g)
・長鎖ポリオール4(ポリカプロラクトントリオール、製品番号プラクセル320、株式会社製、分子量2000、水酸基価85mgKOH/g)
【0113】
(短鎖ポリオール)
・短鎖ポリオール1(複数のヒドロキシ基を有し、且つ、前記ヒドロキシ基が炭素数5以下の炭素鎖を介するポリオール;1,2,4-ペンタントリオール、水酸基価1400mgKOH/g)
【0114】
(シリコーン樹脂)
・両末端にヒドロキシル基を有するシリコーン樹脂1(KF-9701、信越化学工業株式会社製、官能基当量1500g/mol)
・両末端にヒドロキシル基を有するシリコーン樹脂2(KF-6001、信越化学工業株式会社製、官能基当量900g/mol)
・両末端にヒドロキシル基を有するシリコーン樹脂3(KF-6002、信越化学工業株式会社製、官能基当量1600g/mol)
・両末端にヒドロキシル基を有するシリコーン樹脂4(KF-6003、信越化学工業株式会社製、官能基当量2550g/mol)
・両末端にヒドロキシル基を有するシリコーン樹脂5(X-21-5841、信越化学工業株式会社製、官能基当量500g/mol)
【0115】
(多官能イソシアネート)
・多官能イソシアネート1(ヘキサメチレンジイソシアネートの多量体(イソシアヌレート構造)、デュラネートTPA-100、旭化成ケミカルズ株式会社製)
・多官能イソシアネート2(ヘキサメチレンジイソシアネートの多量体(イソシアヌレート構造)、デュラネートTSE-100、旭化成ケミカルズ株式会社製)
・多官能イソシアネート3(ヘキサメチレンジイソシアネートの多量体(アダクト構造)、デュラネートE405-70B、旭化成ケミカルズ株式会社製)
【0116】
[実施例1~11及び比較例1~5]
表1に示す多官能イソシアネート以外の材料と、メチルエチルケトンと、を混合撹拌し、混合物を得た。続いて、前記混合物に対し、多官能イソシアネートを表1に示す量で添加して撹拌した。その後、反応触媒として無機ビスマス(ネオスタンU-600、日東化成株式会社製)を更に添加し、これを表面保護樹脂部材形成用の溶液とした。
【0117】
上記で得られた各例の表面保護樹脂部材形成用の溶液を、ワイヤーバーにてポリエチレンテレフタレートフィルム(基材)の上に塗布した。その後、これを80℃で1時間、乾燥硬化させ、平均膜厚30μmの硬化膜を含有する表面保護樹脂部材を作製した。
【0118】
表1中、*1で示される比較例4では、「長鎖ポリオール」の代わりに、「短鎖ポリオール1」を用いた。
表1中、*2で示される比較例5では、「フッ素含有アクリル樹脂」の代わりに、「フッ素原子を含有しないアクリル樹脂」を用いた。
【0119】
各例の表面保護樹脂部材の硬化膜における、周波数11Hzにおける損失正接tanδの最大値、及び、表面の動摩擦係数を、先述の測定方法により求めた。各例で得られた測定結果を表1に示す。
【0120】
[評価1/耐ひっかき性]
各例の表面保護樹脂部材における硬化膜の表面を、先端にタングステンカーバイドボールのついた直径1mmのスクラッチチップを用いて、荷重3N、1mm/sの速度で引っ掻いた。その後、引っ掻いた部分の状態を以下の基準で評価した。なお、許容できるのはG1~G3である。結果を表1に示す。
G1:引っ掻いた部分全体で、引っ掻き傷は見られなかった。
G2:引っ掻いた部分において、キズの深さが1μm未満であった。
G3:引っ掻いた部分において、キズの深さが1μm以上5μm以下であった。
G4:引っ掻いた部分において、キズの深さが5μm超え20μm以下であった。
G5:引っ掻いた部分において、キズの深さが20μm超え、あるいは、キズが塗膜最深部まで到達し基材が露出した。
【0121】
[評価2/自己修復性]
各例の表面保護樹脂部材における硬化膜の表面を、25℃環境下で、荷重0.3Nで真鍮ブラシを押し当てながら、30cm/sで3cm幅を5往復させて引っ掻き傷をつけた。その後、25℃環境下で、作製された引っ掻き傷が修復されるまでの修復時間を測定した。なお、「引っ掻き傷が修復される」とは、引っ掻き傷が作製された時間から、目視で確認できなくなるまでの時間を表す。その後、各修復時間を、以下の基準で評価した。許容できるのは、G1及びG2である。結果を表1に示す。
G1:引っ掻き傷は、2時間以内に修復された。
G2:引っ掻き傷は、2時間以上10日以内に修復された。
G3:引っ掻き傷は、10日以上30日以内に修復された。
G4:引っ掻き傷は、30日経過しても修復されなかった。
【0122】
【0123】
表1に示す通り、実施例の表面保護樹脂部材は、比較例の表面保護樹脂部材に比べて、鋭利な先端に対するひっかき耐性に優れることがわかった。