(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】表面保護樹脂部材形成用キット、及び表面保護樹脂部材
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20240305BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240305BHJP
C09D 175/08 20060101ALI20240305BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240305BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D133/00
C09D175/08
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2019230290
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 正啓
(72)【発明者】
【氏名】山下 嘉郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝子
(72)【発明者】
【氏名】岩永 猛
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲也
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108347(JP,A)
【文献】特開2012-107101(JP,A)
【文献】特開2014-189600(JP,A)
【文献】特開2002-155126(JP,A)
【文献】特開2011-225655(JP,A)
【文献】特開2019-094468(JP,A)
【文献】特開2013-060586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂、及び、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールを含む第1剤と、
数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを含む第2剤と、
から構成され
、
前記ポリオールが、ポリカプロラクトンポリオールである
表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン構造の数平均分子量が600以上7,000以下である、請求項1に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレン構造の数平均分子量が1,000以上5,000以下である、請求項2に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン構造がポリオキシプロピレン構造である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項5】
前記ポリイソシアネートが2官能又は3官能のイソシアネートである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項6】
前記第1剤が、少なくとも主鎖両末端に、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するシリコーン樹脂を更に含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂が、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有し、当該官能基の官能基当量が100g/mol以上2500g/mol以下である、請求項6に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項8】
前記アクリル樹脂が、フッ素原子を有する請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の表面保護樹脂部材形成用キットの、第1剤と第2剤との混合物の硬化物である表面保護樹脂部材。
【請求項10】
水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂と、
複数のヒドロキシル基を有し且つ前記複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールと、
数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートと、
の混合物の硬化物であ
り、
前記ポリオールが、ポリカプロラクトンポリオールである
表面保護樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護樹脂部材形成用キット、及び表面保護樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野において、表面での傷付きを抑制する観点から表面保護膜等の表面保護樹脂部材を設けることが行われている。表面保護樹脂部材の用途としては、例えば、携帯電話、ポータブルゲーム機等のポータブル機器における画面、画面以外のボディ、その他、車のボディ、車のドアの取っ手、ピアノの外装、画像形成装置用の各種部材(例えば中間転写体)などを保護するための表面保護膜が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、(A)エステル結合と、2以上のヒドロキシ基とを有する、分子量が500未満である化合物からなり、1分子あたりの平均ヒドロキシ基数が2.2以上であるポリオール、及び、(B)エステル結合を有さず、芳香族炭化水素基又は脂環式炭化水素基と、2以上のヒドロキシ基とを有し、分子量が450未満である化合物からなるポリオールを含有するポリオール組成物と、ポリイソシアネートと、を含有し、ポリオール組成物に由来するヒドロキシ基の合計モル量に対する、ポリイソシアネートに由来するイソシアネート基の合計モル量の比が0.8~1.1である塗料組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、(a)水酸基含有アクリル樹脂、(b)ポリカーボネートポリオール、及び(c)硬化剤を含み、(b)ポリカーボネートポリオールの一分子中の平均水酸基価数が2.2~3.5であり、(b)ポリカーボネートポリオールの数平均分子量が500~5000である、塗料組成物が記載されている。
【0005】
特許文献3には、(a)1分子中に少なくとも2つ以上のイソシアナート基を有するポリイソシアナート化合物;(b)特定構造の脂肪族ポリカーボネートジオール;及び(c)平均粒子径が0.1から10μmのシリカ系艶消し剤を必須成分として含有する硬化性塗料用組成物であって、(c)のシリカ系艶消し剤を、硬化性塗料用組成物の全固形分において3から30質量%含有する、組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-14803号公報
【文献】特開2018-59072号公報
【文献】特開2009-280665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂、及び、複数のヒドロキシル基を有し且つ複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールを含む第1剤と、数平均分子量が500未満又は10,000超であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを含む第2剤と、から構成される場合と比較し、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
<1> 水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂、及び、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールを含む第1剤と、
数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを含む第2剤と、
から構成される表面保護樹脂部材形成用キット。
【0009】
<2>
前記ポリオキシアルキレン構造の数平均分子量が600以上7,000以下である、<1>に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
<3>
前記ポリオキシアルキレン構造の数平均分子量が1,000以上5,000以下である、<2>に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
<4>
前記ポリオキシアルキレン構造がポリオキシプロピレン構造である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
<5>
前記ポリイソシアネートが2官能又は3官能のイソシアネートである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【0010】
<6>
前記第1剤が、少なくとも主鎖両末端に、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するシリコーン樹脂を更に含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
<7>
前記シリコーン樹脂が、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有し、当該官能基の官能基当量が100g/mol以上2500g/mol以下である、<6>に記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
<8>
前記アクリル樹脂が、フッ素原子を有する<1>~<7>のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材形成用キット。
【0011】
<9>
<1>~<8>のいずれか1つに記載の表面保護樹脂部材形成用キットの、第1剤と第2剤との混合物の硬化物である表面保護樹脂部材。
<10>
水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂と、
複数のヒドロキシル基を有し且つ前記複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールと、
分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートと、
の混合物の硬化物である表面保護樹脂部材。
【発明の効果】
【0012】
<1>に係る発明によれば、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂、及び、複数のヒドロキシル基を有し且つ複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールを含む第1剤と、数平均分子量が500未満又は10,000超であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを含む第2剤と、から構成される場合と比較し、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
【0013】
<2>に係る発明によれば、第2剤に、数平均分子量が600未満又は7,000超のポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを用いる場合に比べ、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
<3>に係る発明によれば、第2剤に、数平均分子量が1,000未満又は5,000超のポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを用いる場合に比べ、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
<4>に係る発明によれば、第2剤におけるポリイソシアネートのポリオキシアルキレン構造がポリオキシエチレン構造である場合に比べ、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
<5>に係る発明によれば、第2剤におけるポリイソシアネートが4官能以上のイソシアネートである場合に比べ、優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
【0014】
<6>又は<7>に係る発明によれば、第1剤が、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基を主鎖片末端に有するシリコーン樹脂を含む場合に比べ、耐引っ掻き性に優れる表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
<8>に係る発明によれば、第1剤におけるアクリル樹脂がフッ素原子を含まない場合に比べ、高い防汚性を有し、表面の摩擦係数が低い表面保護樹脂部材を形成しうる表面保護樹脂部材形成用キットが提供される。
【0015】
<9>に係る発明によれば、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂、及び、複数のヒドロキシル基を有し且つ複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールを含む第1剤と、数平均分子量が500未満又は10,000超であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートを含む第2剤との混合物の硬化物である場合に比べ、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材が提供される。
<10>に係る発明によれば、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオールと、数平均分子量が500未満又は10,000超であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネートとの混合物の硬化物である場合に比べ、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について以下説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書において、段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の双方を含む表現であり、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の双方を含む表現であり、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を含む表現である。
【0018】
<表面保護樹脂部材形成用キット>
本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットは、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂(以下、単に(1-1)アクリル樹脂ともいう)、及び、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオール(以下、単に(1-2)長鎖ポリオールともいう)を含む第1剤と、数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネート(以下、単に(2-1)ポリイソシアネートともいう)を含む第2剤と、から構成される。
【0019】
なお、本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットは、第1剤と第2剤との混合物の硬化物にて表面保護樹脂部材を形成するキットである。つまり、本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットにより形成された表面保護樹脂部材は、第1剤と第2剤との混合物の反応生成物(硬化物)であるポリウレタン樹脂を含む。
そして、本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットは、上記の構成を有することで、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうる
その理由は、以下のように推察される。
【0020】
まず、本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットは、(1-1)アクリル樹脂、及び(1-2)長鎖ポリオールを含む第1剤を、(2-1)ポリイソシアネートを含む第2剤と混合すると、(1-1)アクリル樹脂が有するOH基と(1-2)長鎖ポリオールが有するOH基とが(2-1)ポリイソシアネートと反応する。そのため、(1-1)アクリル樹脂が、(1-2)長鎖ポリオール及び/又は(2-1)ポリイソシアネートを介して架橋されたポリウレタン樹脂が合成される。
このように(1-1)アクリル樹脂が(1-2)長鎖ポリオール及び/又は(2-1)ポリイソシアネートを介して架橋を形成しているポリウレタン樹脂とすることで、形成された表面保護樹脂部材では自己修復性が発揮されるものと考えられる。また、(2-1)ポリイソシアネートは、分子内に長いポリオキシアルキレン構造を含むため、この構造に由来して、得られた表面保護樹脂部材に柔軟性を付与しうると考えられる。一般的には、部材の柔軟性が高まると耐薬品性が低下する傾向にあるが、(2-1)ポリイソシアネートを用いて得られた表面保護樹脂部材は、耐薬品性の低下が抑えられていた。これは、(1-1)アクリル樹脂及び(1-2)長鎖ポリオールに含まれる水酸基が多く、これらと(2-1)ポリイソシアネートとが反応し、架橋が高密度で形成されたためと推測される。
【0021】
〔第1剤〕
[(1-1)アクリル樹脂]
本実施形態における第1剤は、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂(即ち、(1-1)アクリル樹脂)を含む。
本開示において、「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリル化合物(後述するモノマー)に由来する構成単位を有する樹脂を指し、当該構成単位の含有量が、樹脂の全質量に対し、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
ここで、(メタ)アクリル化合物とは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を指す。
【0022】
(1-1)アクリル樹脂は、上記の水酸基価を満たすため、分子内にヒドロキシル基(-OH)を有するアクリル樹脂である。
ヒドロキシル基を有するアクリル樹脂としては、分子内にヒドロキシル基を有するものに加えて、カルボキシ基を有するものも含まれる。
【0023】
ヒドロキシル基は、例えば、アクリル樹脂の原料となるモノマーとして、ヒドロキシル基を有するモノマー及び/又はカルボキシ基を有するモノマーを用いることで導入される。
ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、及びN-メチロールアクリルアミン等の、(1)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル化合物等が挙げられる。
また、カルボキシ基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、及びマレイン酸等の、(2)カルボキシ基を有する(メタ)アクリル化合物を用いてもよい。
【0024】
また、アクリル樹脂の原料となるモノマーには、ヒドロキシル基を有しないモノマーを併用してもよい。
ヒドロキシル基を有しないモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、及び(メタ)アクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなど、前記(メタ)アクリル化合物(1)及び(2)と共重合し得る(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0025】
(フッ素原子)
(1-1)アクリル樹脂は、分子構造中にフッ素原子を有することが好ましい。(1-1)アクリル樹脂中にフッ素原子が含まれることで、防汚性を高め、表面の摩擦係数が低い表面保護樹脂部材を形成し易くなる。
フッ素原子は、例えば、(1-1)アクリル樹脂の原料となるモノマーとして、フッ素原子を有するモノマーを用いることで導入される。
フッ素原子を有するモノマーとしては、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、(パーフルオロヘキシル)エチレン、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0026】
フッ素原子は、(1-1)アクリル樹脂の側鎖に含まれることが好ましい。
なお、フッ素原子を含む側鎖の炭素数としては、例えば、2以上20以下のものが挙げられる。また、フッ素原子を含む側鎖における炭素鎖は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
フッ素原子を有するモノマー1分子に含まれるフッ素原子数は特に限定されないが、例えば、1以上25以下が好ましく、3以上17以下がより好ましい。
【0027】
(1-1)アクリル樹脂全体に対するフッ素原子の割合としては、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0028】
(シランカップリング剤)
(1-1)アクリル樹脂は、分子構造中にシランカップリング剤に由来する構造を有することが好ましい。(1-1)アクリル樹脂中にシランカップリング剤に由来する構造が含まれることで、基材への密着性が高くなり、また、表面の摩擦係数が低い表面保護樹脂部材を形成し易くなる。
【0029】
シランカップリング剤に由来する構造は、例えば(1-1)アクリル樹脂の原料となるモノマーとしてシランカップリング剤を用いること、つまり、ビニル基(-CH2=C(-R11)-、R11は水素原子又は炭素数1以上8以下のアルキル基を表す)を有するシランカップリング剤をモノマーとして用いることで導入される。なお、ビニル基を有するシランカップリング剤をモノマーに用いることで、ビニル基を有するシランカップリング剤に由来する構成単位を有する樹脂が得られ、シランカップリング剤中のケイ素原子を含む部分が(1-1)アクリル樹脂の側鎖に導入される。
これにより、このケイ素原子を有する部分が表面保護樹脂部材において表面に表出し易くなり基材密着性を向上させ、また、表面保護樹脂部材の摩擦係数がより低減され易くなる。
【0030】
ビニル基を有するシランカップリング剤が有するビニル基の数は、1つの分子構造中に1つのみであることが好ましい。ビニル基が1つであることで、ケイ素原子を含む部分が導入された側鎖は、その末端側(アクリル樹脂の主鎖と結合する側とは反対側)が固定されない。そのため、側鎖の動き易さがより向上して、ケイ素原子を有する部分が表面保護樹脂部材において表面により表出し易くなり、基材密着性を向上させ、表面保護樹脂部材の摩擦係数がより低減され易くなる。
【0031】
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、下記一般式(S1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0032】
【0033】
一般式(S1)中、R11は水素原子又は炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、R12は2価の連結基を表し、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、nは0又は1を表す。
【0034】
R11で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。
R11としては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0035】
R12で表される連結基としては、C、H、O、及びNからなる原子群からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む基が挙げられる。R12で表される連結基としては、例えば、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基(例えばアルキレン基)、-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-等の基、又はこれらの基を2つ以上組み合わせてなる基が挙げられる。
R12としては、-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-のいずれか1つの基(より好ましくは-C(=O)-O-)と、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基(より好ましくはアルキレン基、更に好ましくは炭素数2以上4以下のアルキレン基)と、を組み合わせてなる基が好ましい。これらの中でも、-COO-(CH2)3-、又は-COO-(CH2)2-がより好ましい。
また、nは1であることが好ましい。
【0036】
R13、R14、及びR15で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。
R13、R14、及びR15としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はエチル基が好ましい。
【0037】
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルエチル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルエチル等が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピルが好ましい。
【0038】
また、シランカップリング剤に由来する構造は、例えば、ヒドロキシル基に対して反応性を示す官能基を有するシランカップリング剤(以下、「ヒドロキシル基反応性シランカップリング剤」ともいう)を、(1-1)アクリル樹脂が有するヒドロキシル基に反応させることで導入してもよい。
(1-1)アクリル樹脂が有するヒドロキシル基に対しヒドロキシル基反応性シランカップリング剤を反応させることで、シランカップリング剤中のケイ素原子を有する部分が(1-1)アクリル樹脂の側鎖に導入される。これにより、このケイ素原子を有する部分が表面保護樹脂部材において表面に表出し易くなり、基材への密着性が向上し、表面保護樹脂部材の摩擦係数がより低減され易くなる。
【0039】
ヒドロキシル基に対して反応性を示す官能基としては、例えば、イソシアネート基(-NCO)、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、エポキシ基等が挙げられる。これらの中でも、イソシアネート基が好ましい。
【0040】
ヒドロキシル基反応性シランカップリング剤が有するヒドロキシル基に対して反応性を示す官能基の数は、1つの分子構造中に1つのみであることが好ましい。該官能基が1つであることで、ケイ素原子を有する部分が導入された側鎖は、その末端側(アクリル樹脂の主鎖と結合する側とは反対側)が固定されない。そのため、側鎖の動き易さがより向上して、ケイ素原子を有する部分が表面保護樹脂部材において表面により表出し易くなり、基材への密着性が向上し、表面保護樹脂部材の摩擦係数がより低減され易くなる。
【0041】
ヒドロキシル基反応性シランカップリング剤としては、例えば、下記一般式(S2)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0042】
【0043】
一般式(S2)中、Xはヒドロキシル基に対して反応性を示す官能基を表し、R22は2価の連結基を表し、R23、R24、及びR25は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を表し、nは0又は1を表す。
【0044】
R22で表される連結基としては、C、H、O、及びNからなる原子群からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む基が挙げられる。例えば、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基(例えばアルキレン基)、-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-等の基、又はこれらの基を2つ以上組み合わせてなる基が挙げられる。
R22としては、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基(より好ましくはアルキレン基、更に好ましくは炭素数1以上10以下のアルキレン基)が好ましい。これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基がより好ましい。
また、nは1であることが好ましい。
【0045】
R23、R24、及びR25で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
R23、R24、及びR25としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はエチル基が好ましい。
【0046】
ヒドロキシル基反応性シランカップリング剤としては、イソシアン酸トリメトキシシリルプロピル、イソシアン酸トリエトキシシリルプロピル、イソシアン酸トリメトキシシリルエチル、イソシアン酸トリエトキシシリルエチル、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、ヒドロキシエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、イソシアン酸トリメトキシシリルプロピル、又はイソシアン酸トリエトキシシリルプロピルが好ましい。
【0047】
ビニル基を有するシランカップリング剤、及びヒドロキシル基反応性シランカップリング剤の少なくとも一方を用いて、(1-1)アクリル樹脂にシランカップリング剤に由来する構造を導入する場合、(1-1)アクリル樹脂全体に対するケイ素原子(Si)の割合としては、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下が更に好ましい。
【0048】
(水酸基価)
(1-1)アクリル樹脂の水酸基価は40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、70mgKOH/g以上200mgKOH/g以下がより好ましい。
水酸基価が40mgKOH/g以上であることにより架橋密度が高いポリウレタン樹脂が重合され、一方、水酸基価が280mgKOH/g以下であることにより適度な柔軟性をもつポリウレタン樹脂が得られる。
(1-1)アクリル樹脂の水酸基価は、(1-1)アクリル樹脂を合成する全モノマー中における、ヒドロキシル基を有するモノマーの割合等によって調整される。また、ヒドロキシル基反応性シランカップリング剤の少なくとも一方を用いて、(1-1)アクリル樹脂にシランカップリング剤に由来する構造を導入する場合には、(1-1)アクリル樹脂の水酸基価は、ヒドロキシル基反応性シランカップリング剤の導入量にて調整される。
【0049】
なお、水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。本実施形態における水酸基価の測定は、JIS K 0070:1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。但し、サンプルが溶解しない場合は、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒が用いられる。
【0050】
(1-1)アクリル樹脂の合成は、例えば、前述のモノマーを混合し、通常のラジカル重合、イオン重合等を行った後、精製することによって行なわれる。
【0051】
第1剤において、(1-1)アクリル樹脂は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
[(1-2)長鎖ポリオール]
本実施形態における第1剤は、複数のヒドロキシル基を有し且つ複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオール(即ち、(1-2)長鎖ポリオール)を含む。
ここで、炭素数6以上の炭素鎖とは、ヒドロキシル基同士を結ぶ鎖状部分における炭素数が6以上である炭素鎖を指す。
(1-2)長鎖ポリオールは、分子内の全てのヒドロキシル基同士が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ鎖状部分における炭素数)が6以上の炭素鎖によって連結されるポリオールである。
【0053】
(1-2)長鎖ポリオールにおけるヒドロキシル基の官能基数は、例えば、2以上5以下であることが好ましく、2以上3以下であることがより好ましい。
【0054】
(1-2)長鎖ポリオールにおける炭素数6以上の炭素鎖としては、アルキレン基、又は1種以上のアルキレン基と、-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-からなる群より選択される1つ以上の基と、を組み合わせてなる2価の基が挙げられる。
(1-2)長鎖ポリオールは、具体的には、-[CO(CH2)n1O]n2-H(n1は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n2は1以上50以下(好ましくは1以上35以下、より好ましくは1以上10以下、更に好ましくは2以上6以下)を表す)で表される構造を含むことが好ましい。
【0055】
(1-2)長鎖ポリオールとしては、例えば、ポリラクトン構造を有するジオール、ポリラクトン構造を有するトリオール、ポリラクトン構造を有する4官能以上のポリオール等が挙げられる。
【0056】
ポリラクトン構造を有するジオールとしては、例えば-[CO(CH2)n11O]n12-H(n11は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n12は1以上50以下(好ましくは3以上35以下)を表す)で表される構造を含み、末端にヒドロキシル基を有する基を2つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【0058】
一般式(1)中、R1はアルキレン基、又は、アルキレン基と-O-及び-C(=O)-からなる群より選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1以上35以下の整数を表す。
【0059】
一般式(1)中、R1で表される2価の基に含まれるアルキレン基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。該アルキレン基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上5以下のアルキレン基がより好ましい。
Rで表される2価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数2以上5以下)の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキレン基が好ましく、又は、炭素数1以上5以下(好ましくは炭素数1以上3以下)の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキレン基2つが-O-若しくは-C(=O)-(好ましくは-O-)で連結されてなる基が好ましい。これらの中でも、R1としては、-C2H4-、-C2H4OC2H4-、又は、-C(CH3)2-(CH2)2-がより好ましい。
m及びnはそれぞれ独立に1以上35以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。
【0060】
ポリラクトン構造を有するトリオールとしては、例えば、-[CO(CH2)n21O]n22-H(n21は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n22は1以上50以下(好ましくは1以上28以下)を表す)で表される構造を含み、末端にヒドロキシル基を有する基を3つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0061】
【0062】
一般式(2)中、R2はアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基、又はアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基とアルキレン基、-O-、及び-C(=O)-からなる群より選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる3価の基を表す。l、m、及びnはそれぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、l+m+nは3以上30以下である。
【0063】
一般式(2)中、R2がアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基を表す場合、その基は直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。このアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基がより好ましい。
また、R2は、上記に示すアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基(例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基)、-O-、及び-C(=O)-からなる群より選択される1つ以上の基と、を組み合わせてなる3価の基であってもよい。
Rで表される3価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数3以上6以下)の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基が好ましい。これらの中でも、*-CH2-CH(-*)-CH2-*、CH3-C(-*)(-*)-(CH2)2-*、CH3CH2C(-*)(-*)(CH2)3-*で表される3価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した3価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
l、m、及びnはそれぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。l+m+nは3以上30以下であり、6以上30以下であることが好ましく、6以上20以下であることがより好ましい。
【0064】
(1-2)長鎖ポリオールとして、フッ素原子を含む長鎖ポリオールを用いてもよい。
フッ素原子を含む長鎖ポリオールとしては、炭素数6以上12以下のジオール(例えば2つのヒドロキシル基が炭素数6以上12以下のアルキレン基で結合されたジオール)においてC原子に結合するH原子の一部又は全てがF原子に置き換えられた長鎖ジオール、炭素数6以上12以下のポリオレフィングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のオレフィングリコールが複数重合してなる、炭素数6以上12以下のポリオレフィングリコール)においてC原子に結合するH原子の一部又は全てがF原子に置き換えられた長鎖グリコール等が挙げられる。
具体的には、1H,1H,9H,9H-Perfluoro-1,9-nonanediol、Fluorinated tetraethylene glycol、1H,1H,8H,8H-Perfluoro-1,8-octanediol等が挙げられる。
【0065】
なお、(1-2)長鎖ポリオールは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
第1剤において、(1-1)アクリル樹脂に対する(1-2)長鎖ポリオールの添加量としては、例えば、(1-1)アクリル樹脂に含有される全ヒドロキシル基の総モル量[A]と、(1-2)長鎖ポリオールに含有されるヒドロキシル基の総モル量[B]と、の比率[B]/[A]が、0.1以上10以下となる範囲が挙げられ、1以上4以下となる範囲であってもよい。
【0067】
なお、(1-2)長鎖ポリオールとしては、水酸基価が30mgKOH/g以上320mgKOH/g以下のものを用いることが好ましく、40mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが更に好ましい。
(1-2)長鎖ポリオールの水酸基価が30mgKOH/g以上であることにより、架橋密度が高いウレタン樹脂が重合され、一方、水酸基価が320mgKOH/g以下であることにより、適度な柔軟性をもつウレタン樹脂が得られるものと推察される。
【0068】
なお、(1-2)長鎖ポリオールの水酸基価は、(1-1)アクリル樹脂と同様の方法で測定される。
【0069】
[(1-3)シリコーン樹脂]
本実施形態における第1剤は、少なくとも主鎖両末端に、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基(以下、特定官能基ともいう)を有するシリコーン樹脂(以下、(1-3)シリコーン樹脂ともいう)を更に含むことが好ましい。
(1-3)シリコーン樹脂は、少なくとも主鎖両末端に特定官能基を有するポリシロキサンである。
(1-3)シリコーン樹脂を含む第1剤を用いることで、主鎖片末端に、特定官能基を有するシリコーン樹脂を用いる場合と比較して、優れた耐引っ掻き性を有する表面保護樹脂部材が得られやすくなる。
(1-3)シリコーン樹脂は、特定官能基を有することで、(1-1)アクリル樹脂と共に、後述するポリイソシアネート化合物(2-1)と反応する。その結果、(1-1)アクリル樹脂の側鎖に、ポリイソシアネート化合物(2-1)を介して、(1-3)シリコーン樹脂の主鎖両末端が結合された状態を形成しうる。(1-3)シリコーン樹脂の主鎖両末端が固定化されることで、シロキサン結合による摩擦係数の低減効果に加え、上記のように、優れた耐引っ掻き性を有する表面保護樹脂部材が形成されるものと推測される。
【0070】
(1-3)シリコーン樹脂が有するヒドロキシアルキル基としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基を含むヒドロキシアルキル基が好ましく、エチレン基を含むヒドロキシアルキル基、即ちメチロール基が特に好ましい。
(1-3)シリコーン樹脂が有するアルコキシ基としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基を含むアルコキシ基が好ましく、エチレン基を含むアルコキシ基、即ちメトキシ基が特に好ましい。
(1-3)シリコーン樹脂が有するアミノ基としては、-NRaRbで表される基であって、Ra及びRbは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を表す。中でも、Ra及びRbは、いずれも水素原子であるアミノ基が好ましい。
【0071】
(1-3)シリコーン樹脂は、主鎖両末端にのみ特定官能基を有するシリコーン樹脂であってもよいし、主鎖両末端に加え、側鎖の一部に特定官能基を有するシリコーン樹脂であってもよい。
(1-3)シリコーン樹脂は、特定官能基の中でも、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、又はアルコキシ基を、主鎖両末端に有するシリコーン樹脂であることが好ましい。
また、(1-3)シリコーン樹脂は、側鎖の一部に特定官能基を有する場合、側鎖に導入される特定官能基はアミノ基であることが好ましい。
【0072】
(1-3)シリコーン樹脂は、後述するポリイソシアネート化合物(2-1)との反応性を高める観点、及び、表面保護樹脂部材の耐引っ掻き性を高める観点から、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有し、当該官能基の官能基当量が100g/mol以上2500g/mol以下であることが好ましい。
上記官能基当量は、200g/mol以上2200g/mol以下が好ましく、300g/mol以上2000g/mol以下がより好ましい。
【0073】
主鎖両末端にのみ特定官能基を有するシリコーン樹脂としては、具体的には、下記一般式(P1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
主鎖両末端に特定官能基を有し、且つ、側鎖の一部に特定官能基以外の有機基を有しているシリコーン樹脂としては、具体的には下記一般式(P2)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0074】
【0075】
一般式(P1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、又はアミノ基を表し、R31は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表し、m1は1以上の整数を表す。なお、一般式(P1)中に複数存在するR31はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0076】
一般式(P1)中、入手容易性の観点から、X1及びX2は同じであることが好ましい。
【0077】
一般式(P1)中、R31で表されるアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状、又は環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は1以上8以下が好ましく、1以上3以下がより好ましい。R31で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0078】
R31で表されるアリール基は、その炭素数は4以上20以下が好ましい。R31で表されるアリールとしては、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0079】
R31としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。一般式(P1)中に複数存在するR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0080】
一般式(P1)中、m1は、特に限定されるものではないが、例えば、3以上1000以下が挙げられる。
【0081】
【0082】
一般式(P2)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、又はアルコキシ基を表し、X3はアミノ基又はアミノ基を含む置換基を表し、R33は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表し、m2及びm3はそれぞれ独立に1以上の整数を表す。なお、一般式(P2)中に複数存在するR33はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0083】
一般式(P2)中、入手容易性の観点から、X1及びX2は同じであることが好ましい。
【0084】
一般式(P2)中、X3で表されるアミノ基は、既述の、-NRaRbで表される基であって、Ra及びRbも既述と同様であり、好ましい態様も同様である。
一般式(P2)中、X3で表されるアミノ基を含む置換基は、上記アミノ基と、一般式(P2)の主鎖構造中の「Si」との間に連結基を有する置換基を指す。
【0085】
一般式(P2)中、R33で表されるアルキル基及びアリール基は、いずれも一般式(P1)においてR31で表されるアルキル基及びアリール基と同義である。
R33としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基であることが更に好ましい。一般式(P2)中に複数存在するR33はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0086】
一般式(P2)中、m2とm3との合計は、特に限定されるものではないが、例えば、3以上1000以下が挙げられる。
中でも、m2は、既述の官能基当量を満たすよう、決定されることが好ましい。
【0087】
一般式(P1)で表される化合物及び一般式(P2)で表される化合物としては、市販品を用いることができる。
一般式(P1)で表される化合物の市販品としては、信越化学工業(株)のカルビノール変性シリコーンオイル(KF-6000、KF-6001、KF-6002)、シラノール変性シリコーンオイル(KF-9701、X-21-5841)、JNC(株)のシラノール変性シリコーンオイル(両末端サイラプレーン(登録商標)FM-4411、FM-4421、FM-4425)等が挙げられる。
一般式(P2)で表される化合物の市販品としては、信越化学工業(株)の側鎖アミノ・両末端メトキシ変性シリコーンオイル(KF-857、KF-862、KF-8001)、等が挙げられる。
【0088】
(1-3)シリコーン樹脂の重量平均分子量としては、例えば、250以上50,000以下が挙げられ、500以上20000以下であってもよい。
【0089】
(ケイ素原子とフッ素原子との比率)
本実施形態における第1剤は、(1-3)シリコーン樹脂を含み、且つ、(1-1)アクリル樹脂が、分子構造中にシランカップリング剤に由来する構造(具体的には、ヒドロキシル基に対して反応性を示す官能基を有するシランカップリング剤が側鎖に結合した構造、及びビニル基を有するシランカップリング剤がモノマーとして重合された構造の少なくとも一方の構造)を有し、更に、分子構造中にフッ素原子を有する、ことが好ましい態様の1つである。
この場合、(1-1)アクリル樹脂中に含まれるフッ素原子の量[F1]と、(1-1)アクリル樹脂中に含まれるケイ素原子の量[Si2]と、(1-3)シリコーン樹脂中に含まれるケイ素原子の量[Si3]と、の総量に対して[F1]及び[Si3]のそれぞれの比率(質量比)は、以下の範囲であることが好ましい。
質量比[F1/(F1+Si2+Si3)]は、0.1以上0.95以下が好ましく、0.6以上0.95以下がより好ましい。
質量比[F1/(F1+Si2+Si3)]が上記範囲であることで、基材への密着性、表面のすべり性、及び防汚性が高い表面保護樹脂部材を形成し得る。
【0090】
質量比[Si3/(F1+Si2+Si3)]は、0.01以上0.9以下が好ましく、0.03以上0.6以下がより好ましい。
質量比[Si3/(F1+Si2+Si3)]が上記範囲であることで、基材への密着性、表面のすべり性、及び防汚性が高い表面保護樹脂部材を形成し得る。
【0091】
〔第2剤〕
本実施形態における第2剤は、数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネート(即ち、(2-1)ポリイソシアネート)を含む。
【0092】
[(2-1)ポリイソシアネート]
本実施形態における第2剤は、数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネート(即ち、(2-1)ポリイソシアネート)を含む。
(2-1)ポリイソシアネートは、イソシアネート基(-NCO)を複数有する化合物であり、例えば、(1-1)アクリル樹脂が有するヒドロキシル基、(1-2)長鎖ポリオールが有するヒドロキシル基、(1-3)シリコーン樹脂が有する特定官能基等と反応する。そして、(1-1)アクリル樹脂、(1-2)長鎖ポリオール、及び(1-3)シリコーン樹脂等を、種々の組み合わせにて架橋する架橋剤として機能する。
【0093】
(2-1)ポリイソシアネートが有するポリオキシアルキレン構造は、その数平均分子量が500以上10,000以下である。
(2-1)ポリイソシアネートを用いると、上記の範囲の分子量を有するポリオキシアルキレン構造が表面保護樹脂部材に導入されることで、耐薬品性の低下を抑制しつつ柔軟性に優れた表面保護樹脂部材が得られる。
ポリオキシアルキレン構造の数平均分子量は、600以上7,000以下であることが好ましく、1,000以上5,000以下であることがより好ましい。
【0094】
ここで、ポリオキシアルキレン構造の分子量は、例えば、特開2010-965779号公報等を参考にして、イオン化質量分析法と液体クロマトグラフィー法とを組み合わせることで求められる。
【0095】
ポリオキシアルキレン構造としては、ポリオキシエチレン構造又はポリオキシプロピレン構造が挙げられる。(2-1)ポリイソシアネートは、ポリオキシエチレン構造とポリオキシプロピレン構造との両方を含んでいてもよい。
耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を維持する観点から、ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシプロピレン構造であることが好ましい。
【0096】
(2-1)ポリイソシアネートにおけるイソシアネート基の官能基数は、反応性の観点から、また、柔軟性付与の観点から、例えば、2以上5以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましく、2以上3以下であることが特に好ましい。
つまり、(2-1)ポリイソシアネートは、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を維持する観点から、2官能又は3官能のイソシアネート、又は2官能イソシアネートと3官能イソシアネートとの混合物であることが好ましい。
【0097】
(2-1)ポリイソシアネートは、数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造と、末端基であるイソシアネート基と、を有していれば、それ以外の構造(具体的には、ポリオキシアルキレン構造とイソシアネート基とを連結する連結基)は特に制限はない。
(2-1)ポリイソシアネートとしては、例えば、数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリオールに対し、イソシアネート基を導入した化合物が挙げられる。
また、例えば、有機溶剤(特に極性の低い有機溶剤)への溶解性の観点からは、(2-1)ポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートからなる群より選択される1種以上のジイソシアネートと、炭素数が1以上20以下のモノアルコールと、数平均分子量が500以上10,000であり且つポリオキシプロピレン構造を有するポリエーテルポリオールと、の反応生成物(以下、特定ポリイソシアネートともいう)であることが好ましい。
【0098】
(特定ポリイソシアネート)
特定ポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートからなる群より選択される1種以上のジイソシアネート(a)と、炭素数が1以上20以下のモノアルコール(b)と、数平均分子量が500以上10,000であり且つポリオキシプロピレン構造を有するポリエーテルポリオール(c)と、の反応生成物である。
特定ポリイソシアネートとしては、特に、分子内に、アロファネート基及びイソシアヌレート基を含み、アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比が87/13~74/26であることが好ましい。
【0099】
-ジイソシアネート(a)-
ジイソシアネート(a)としては、脂肪族ジイソシアネートであってもよいし、脂環式ジイソシアネートであってもよいし、これらを併用してもよい。
脂肪族ジイソシアネートとは分子中に飽和脂肪族基を有するジイソシアネート化合物であり、脂環式ジイソシアネートとは、分子中に環状脂肪族基を有するジイソシアネート化合物である。中でも、得られる特定ポリイソシアネートが低粘度となる観点から、脂肪族ジイソシアネートが好ましい。
【0100】
脂肪族ジイソシアネートとして、例えば、1,4-ジイソシアナトブタン、1,5-ジイソシアナトペンタン、1,6-ジイソシアナトヘキサン(以下、HDI)、1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン、2,6-ジイソシアナトヘキサン酸メチル(リジンジイソシアネート)等が挙げられる。
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、5-イソシアナト-1-イソシアナトメチル-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水添キシリレンジイソシアネート)、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添ジフェニルメタンジイソシアネート)、1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン等が挙げられる。
これらの中でも、入手容易性の観点から、HDI、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、及び水添ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、特に、HDIが好ましい。
【0101】
-モノアルコール(b)-
モノアルコール(b)の炭素数の下限は、2が好ましく、3がより好ましく、4が更に好ましく、6が最も好ましい。一方、モノアルコール(b)の炭素数の上限は、16が好ましく、12がより好ましく、9が更に好ましい。
モノアルコール(b)としては、飽和炭化水素基のみを有するモノアルコールであることが好ましく、分岐状の飽和炭化水素基を有するモノアルコールであることがより好ましい。
【0102】
モノアルコール(b)として、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、イソアミルアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,3,5-トリメチル-1-ヘキサノール、トリデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール等が挙げられる。
この中でも、イソブタノール、2-ヘキサノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,3,5-トリメチル-1-ヘキサノールが好ましい。
【0103】
-ポリエーテルポリオール(c)-
ポリエーテルポリオール(c)は、分子鎖の中に、ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリオールであって、数平均分子量が500以上10,000であるものを指す。
ポリエーテルポリオール(c)として、具体的には、ポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させた所謂プルロニックタイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックポリマージオールあるいはトリオール、ポリテトラメチレングリコールあるいはトリオール、ポリオキシジメチルプロピレンポリオキシブチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシジメチルプロピレンポリオキシブチレンブロックポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシシクロヘキサンジオールなどが挙げられる。
特に、(2-1)ポリイソシアネート中に「数平均分子量が500以上10,000以下であるポリオキシプロピレン構造」を導入し易い観点から、ポリエーテルポリオール(c)は、ポリプロピレングリコールであることが好ましい。
【0104】
ポリエーテルポリオール(c)の数平均分子量の下限は、600が好ましく、1,000がより好ましい。ポリエーテルポリオール(c)の数平均分子量の上限は、7,000であることが好ましく、5,000であることがより好ましい。
【0105】
ポリエーテルポリオール(c)としては、市販品を用いてもよい。
ポリエーテルポリオール(c)の市販品としては、例えば、AGC(株)の、エクセノール230(ポリプロピレングリコール、数平均分子量3,000)、エクセノール720(ポリプロピレングリコール、数平均分子量700)、エクセノール837(ポリプロピレングリコール、数平均分子量6000)、エクセノール820(ポリプロピレングリコール、数平均分子量4,900)、エクセノール828(ポリプロピレングリコール、数平均分子量5,000)、エクセノール1020(ポリプロピレングリコール、数平均分子量1,000)、エクセノール2020(ポリプロピレングリコール、数平均分子量2,000)、エクセノール3020(ポリプロピレングリコール、数平均分子量3,200)、純正化学(株)、関東化学(株)などから提供される試薬等が挙げられる。
【0106】
-特定ポリイソシアネートの合成方法-
特定ポリイソシアネートは、既述の、ジイソシアネート(a)と、モノアルコール(b)と、ポリエーテルポリオール(c)と、の反応生成物であり、この反応生成物を合成しうる方法であれば、その合成方法は特に制限はない。
例えば、特定ポリイソシアネートは、(1)ジイソシアネート(a)とモノアルコール(b)とポリエーテルポリオール(c)とを反応させる方法が用いられる。
特定ポリイソシアネートとして、より具体的には、以下(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1):モノアルコール(b)とジイソシアネート(a)とをウレタン化反応させ、その後又は同時に、アロファネート化反応及び必要に応じてイソシアヌレート化反応を行い、未反応のジイソシアネート(a)を精製により除去した後、上記のウレタン化反応による生成物と、ポリエーテルポリオール(c)とをウレタン化反応させる方法。
(2)モノアルコール(b)とジイソシアネート(a)とウレタン化反応させ、その後又は同時に、アロファネート化反応及び必要に応じてイソシアヌレート化反応を行い、反応停止剤でアロファネート化反応及びイソシアヌレート化反応を停止した後、上記のウレタン化反応による生成物と、ポリエーテルポリオール(c)とをウレタン化反応させ、その後、未反応のジイソシアネート(a)を精製により除去する方法。
(3)モノアルコール(b)とジイソシアネート(a)とポリエーテルポリオール(c)とをウレタン化反応させ、その後又は同時に、アロファネート化反応及び必要に応じてイソシアヌレート化反応を行った後、未反応のジイソシアネート(a)を精製により除去する方法。
【0107】
ウレタン化反応は、20℃以上200℃以下の温度で、10分以上24時間以下にて行うことが好ましい。ウレタン化反応は、無触媒で、又は、スズ系、アミン系等の触媒の存在下で行うことができる。
アロファネート化反応は、20℃以上200℃以下の温度で、10分以上24時間以下にて行うことが好ましい。
イソシアヌレート化反応、又は、アロファネート化及びイソシアヌレート化反応は、20℃以上180℃以下の温度で、10分以上24時間以下にて行うことが好ましい。
【0108】
アロファネート化反応には、例えば、鉛、錫、ジルコニル、ジルコニウムのカルボン酸塩、あるいはこれらの混合物等の触媒を用いることが好ましい。
イソシアヌレート化反応には、例えば、テトラアルキルアンモニウム、ヒドロキシアルキルアンモニウム、アルカリ金属塩のカルボン酸塩、ハイドロオキサイドや、アミノシリル基含有化合物、あるいはこれらの混合物等の触媒を用いることが好ましい。
アロファネート化反応及びイソシアヌレート化反応には、例えば、亜鉛のカルボン酸塩、ビスマスのカルボン酸塩、亜鉛、錫、ジルコニウム、ジルコニル等のアルコキシド等の触媒を用いることが好ましい。
アロファネート化触媒、イソシアヌレート化触媒、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒の使用量は、反応液総質量を基準にして、0.001質量%以上2.0質量%以下の範囲にて用いればよい。
アロファネート化触媒、イソシアヌレート化触媒、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒の添加のタイミング及び方法は特に限定されない。
【0109】
特定ポリイソシアネートを合成する際の、上記の各反応(即ち、ウレタン化反応、アロファネート化反応、イソシアヌレート化反応、アロファネート化及びイソシアヌレート化反応)は、無溶媒中で行ってもよいし、溶媒中で行ってもよい。
また、上記の各反応は、室温に冷却するか、又は、反応停止剤の添加により停止させうる。
反応停止剤を添加する場合、反応停止剤の添加量は、例えば、触媒に対して、0.25倍モル以上20倍モル以下の範囲が好ましい。
また、上記の各反応後には、未反応のジイソシアネートを、例えば、薄膜蒸留法、溶剤抽出法等により除去することが好ましい。
【0110】
反応停止剤としては、触媒を失活させるものであれば特に制限はなく、例えば、リン酸、ピロリン酸等のリン酸酸性を示す化合物、リン酸、ピロリン酸等のモノアルキル又はジアルキルエステル、モノクロロ酢酸などのハロゲン化酢酸、塩化ベンゾイル、スルホン酸エステル、硫酸、硫酸エステル、イオン交換樹脂、キレート剤等が挙げられる。
また、シリカゲル、活性炭等の吸着剤を反応停止剤として用いてもよい。
【0111】
なお、特定ポリイソシアネートの合成方法については、特許第5388405号公報の段落[0036]~[0056]に記載の方法も適用することができる。
【0112】
-特定ポリイソシアネートの好ましい態様-
特定ポリイソシアネートは、低極性有機溶剤への溶解性等の観点から、アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比が90/10~70/30であることが好ましい。
アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比の上限は、87/13以上がより好ましく、84/16であることが更に好ましい。アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比の下限は、74/26がより好ましく、77/23が更に好ましく、80/20が特に好ましい。
ここで、特定ポリイソシアネートにおけるアロファネート基及びイソシアヌレート基のモル比は、1H-NMRにより求められる。
【0113】
特定ポリイソシアネートにおけるイソシアネート基の含有量(以下、NCO含有量)は、低極性有機溶剤への溶解性の観点、及び、反応性の観点から、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
NCO含有量の下限は、7質量%が好ましく、9質量%がより好ましく、11質量%が更に好ましい。NCO含有量の上限は、19質量%が好ましく、18質量%がより好ましく、17質量が更に好ましい。
【0114】
特定ポリイソシアネートの粘度は、100mPa.s以上2000mPa.s以下が好ましい。粘度の下限は、より好ましくは150mPa.s、より一層好ましくは200mPa.s、更に一層好ましくは250mPa.sである。粘度の上限は、より好ましくは1700mPa.s、より一層好ましくは1500mPa.sである。100mPa.s以上であれば十分な架橋性を有するポリイソシアネート組成物を得ることができる。2000mPa.s以下であればVOC成分を減らした二液型ポリウレタン組成物を得ることが可能となる。
【0115】
特定ポリイソシアネートの数平均官能基数(イソシアネート基)は、低極性有機溶剤への溶解性の観点、及び、反応性の観点から、2.10以上2.50以下であることが好ましい。数平均官能基数の下限は、2.15がより好ましく、2.20が更に好ましい。数平均官能基数の上限は、2.40がより好ましく、2.35が更に好ましい。
ここで、特定ポリイソシアネートの数平均官能基数は、以下の式(1)で求めることができる。
式(1) : 数平均官能基数=数平均分子量×NCO含有量(%)/4200
【0116】
(2-1)ポリイソシアネートは、1種のみを用いても、2種以上を混ぜて用いてもよい。
【0117】
〔その他の成分〕
本実施形態では、第1剤及び/又は第2剤に、その他の成分が含まれていてもよい。
例えば、その他の成分としては、帯電防止剤、反応促進剤、溶剤等が挙げられる。
【0118】
[帯電防止剤]
帯電防止剤の具体例としては、カチオン系の界面活性化合物(例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルアミンの塩酸塩、イミダゾリウム塩等)、アニオン系の界面活性化合物(例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフォスフェート等)、非イオン系の界面活性化合物(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N-ビス-2-ヒドロキシエチルアルキルアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル等)、両性の界面活性化合物(例えば、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン等)等が挙げられる。
【0119】
帯電防止剤として、4級アンモニウムを含有する化合物も挙げられる。
4級アンモニウムを含有する化合物として具体的には、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパラトルエンスルフォネート、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレンステアリルアミンの塩酸塩等が挙げられる。これらの中でも、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミドが好ましい。
【0120】
帯電防止剤として、高分子量の帯電防止剤を用いてもよい。
高分子量の帯電防止剤としては、例えば、4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物、ポリスチレンスルホン酸型高分子化合物、ポリカルボン酸型高分子化合物、ポリエーテルエステル型高分子化合物、エチレンオキシド-エピクロルヒドリン型高分子化合物、ポリエーテルエステルアミド型高分子化合物等が挙げられる。
【0121】
4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物としては、例えば、下記の構成単位(A)を少なくとも有する高分子化合物などが挙げられる。
【0122】
【0123】
構成単位(A)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキル基を表し、X-はアニオンを表す。
【0124】
なお、高分子量の帯電防止剤の重合は公知の方法が用いられる。
高分子量の帯電防止剤は、同じモノマーからなる高分子化合物のみを用いても、異なるモノマーからなる2種以上の高分子化合物を併用してもよい。
【0125】
帯電防止剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0126】
[反応促進剤]
(1-1)アクリル樹脂、(1-2)長鎖ポリオール、及び(2-1)ポリイソシアネート、必要に応じて、(1-3)シリコーン樹脂における反応を促進させる反応促進剤としては、例えば、スズ、ビスマス等を含む金属触媒がある。
反応促進剤として具体的には、例えば、日東化成(株)の無機スズ(ネオスタン U-28、ネオスタン U-50)無機ビスマス(ネオスタン U-600)、ステアリン酸スズ(II)が挙げられる。また、楠本化成(株)のカルボン酸ビスマス(XC-C277、XK-640)等も反応促進剤として用いられる。
【0127】
[溶剤]
第1剤及び/又は第2剤は、溶剤を含んでいてもよい。
溶剤としては、例えば、既述の、(1-1)アクリル樹脂、(2-1)ポリイソシアネート等の合成時に用いた溶剤であってもよいし、第1剤及び/又は第2剤の取り扱い性等を考慮して添加された溶剤であってもよい。
【0128】
<表面保護樹脂部材>
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、既述の本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットの、第1剤と第2剤との混合物の硬化物である。
具体的には、本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下のアクリル樹脂(即ち、(1-1)アクリル樹脂)と、複数のヒドロキシル基を有し且つ複数のヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介して結合しているポリオール(即ち、(1-2)長鎖ポリオール)と、分子量が500以上10,000以下であるポリオキシアルキレン構造を有するポリイソシアネート(即ち、(2-1)ポリイソシアネート)と、の混合物の硬化物である。
【0129】
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、例えば、既述の本実施形態に係る表面保護樹脂部材形成用キットの、第1剤と第2剤とを混合し硬化させることで形成しうる。
【0130】
ここで、具体例を挙げて、本実施形態に係る表面保護樹脂部材の形成方法について説明する。
例えば、(1-1)アクリル樹脂と(1-2)長鎖ポリオールと(1-3)シリコーン樹脂とを含有する第1剤と、(2-1)ポリイソシアネートを含有する第2剤と、をそれぞれ準備する。
この第1剤及び第2剤を混合し、減圧下で脱泡した後、基材(例えば、ポリイミドのフィルム、アルミニウム板、ガラス板等)上にキャストして膜状物を形成する。次いで、加熱(例えば、85℃で60分、次いで160℃で0.5時間)して、膜状物を硬化させることで、樹脂層(即ち、表面保護樹脂部材)が形成される。
ただし、本実施形態では表面保護樹脂部材の形成方法は上記の方法には限られない。また、減圧脱泡の代わりに、超音波を用いて脱泡する、混合液を放置して脱泡する等の方法を用いてもよい。
【0131】
表面保護樹脂部材の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上100μm以下とすることができ、10μm以上30μm以下としてもよい。
【0132】
・マルテンス硬度
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、23℃でのマルテンス硬度が0.5N/mm2以上220N/mm2以下であることが好ましく、1N/mm2以上80N/mm2以下であることがより好ましく、1N/mm2以上70N/mm2以下であることが更に好ましく、1N/mm2以上5N/mm2以下であることが更に好ましい。マルテンス硬度(23℃)が0.5N/mm2以上であることにより、樹脂部材として求められる形状を保持し易くなる。一方、220N/mm2以下であることにより、傷の修復のし易さ(つまり自己修復性)が向上し易くなる。
【0133】
・戻り率
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、23℃での戻り率が70%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下であることが更に好ましい。戻り率は、樹脂材料の自己修復性(応力によってできた歪を応力の除荷後1分以内に復元する性質、即ち傷の修復の度合い)を示す指標である。つまり、戻り率(23℃)が70%以上であることで傷の修復のし易さ(つまり自己修復性)が向上する。
【0134】
表面保護樹脂部材におけるマルテンス硬度及び戻り率は、例えば、(1-1)アクリル樹脂の水酸基価、(1-2)長鎖ポリオールにおけるヒドロキシル基同士を連結する鎖の炭素数、(1-1)アクリル樹脂に対する(1-2)長鎖ポリオールの比率、(2-1)ポリイソシアネートにおける官能基(イソシアネート基)の数、(1-1)アクリル樹脂に対する(2-1)ポリイソシアネートの比率等を制御することで調整される。
【0135】
マルテンス硬度及び戻り率の測定は、測定装置としてフィッシャースコープHM2000(フィッシャー社製)を用い、表面保護樹脂部材(サンプル)をスライドガラスに接着剤で固定して、上記測定装置にセットする。表面保護樹脂部材に特定の測定温度(例えば23℃)で0.5mNまで15秒間かけて荷重をかけていき0.5mNで5秒間保持する。その際の最大変位を(h1)とする。その後、15秒かけて0.005mNまで除荷していき、0.005mNで1分間保持したときの変位を(h2)として、戻り率〔(h1-h2)/h1〕×100(%)を計算する。また、この際の荷重変位曲線から、マルテンス硬度が求められる。
【0136】
〔用途〕
本実施形態に係る表面保護樹脂部材は、例えば、異物との接触により表面に擦り傷が発生する可能性のある物品などに対する表面保護部材として、用いることができる。
具体的には、ポータブル機器(例えば、携帯電話、ポータブルゲーム機等)における画面、画面以外のボディ、タッチパネルの画面、建材(例えば、床材、タイル、壁材、壁紙等)、自動車用部材(例えば、車の内装、車のボディ、ドアの取っ手等)、収納容器(例えばスーツケース等)、化粧品の容器、メガネ(例えば、フレーム、レンズ等)、スポーツ用品(例えば、ゴルフクラブ、ラケット等)、筆記用具(例えば、万年筆等)、楽器(例えば、ピアノの外装等)、衣類収納道具(例えば、ハンガー等)、複写機等の画像形成装置用の部材(例えば、転写ベルトなどの転写部材等)、皮製品(例えば、バッグ、ランドセル等)、装飾フィルム、フィルムミラーなどが挙げられる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下において「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0138】
〔実施例1〕
<アクリル樹脂(A)の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子含有アクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック(株))と、の各モノマーを、2.5:3:0.5のモル比で混合した。更に、対モノマー比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))及び対モノマー比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加してモノマー溶液を調製した。
このモノマー溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対モノマー比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。更に対モノマー比10質量%のMEKと対モノマー比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。なお、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。こうしてアクリル樹脂(A)を合成し、アクリル樹脂(A)溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(A)の水酸基価を、JIS K 0070:1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価175mgKOH/gであった。
【0139】
<第1剤(1)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(1)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
【0140】
<ポリイソシアネート(a)の合成>
撹拌器、温度計、冷却管を取り付けた四ッ口フラスコの内部を窒素置換し、この中に、HDIを1000g、2-エチルヘキサノールを100g、及び、エクセノール230(商品名、AGC(株)のポリプロピレングリコール(末端EO付加タイプ)、分子量=3000)を80g仕込み、撹拌化90℃で1時間ウレタン化反応を行った。次いで、アロファネート化/イソシアヌレート化触媒としての2-エチルヘキサン酸ビスマスの固形分25%エチルヘキサン溶液(富士フイルム和光純薬(株))をエチルヘキサンで希釈したもの)を0.55g加えた。反応液の屈折率の上昇が0.01となった時点で、リン酸2-エチルヘキシル(東京化成工業(株))を2.3g(触媒に対して4.0倍モル)を加え反応を停止した。
その後、反応液をろ過し、流下式薄膜蒸留装置を用いて未反応のHDIを除去した。
以上のようにして、ポリイソシアネート(a)を合成した。
得られたポリイソシアネート(a)は、ジイソシアネート(a)とモノアルコール(b)とポリエーテルポリオール(c)との反応生成物であり、NMRにて測定したところ、アロファネート/イソシアヌレートのモル比は83/17であった。また、ポリイソシアネート(a)は、数平均分子量が3000であるポリオキシプロピレン構造を有するポリイソシアネートであって、イソシアネート基の官能基数は2~3の混合物であった。
【0141】
<第2剤(1)の準備>
上記のようにして得られたポリイソシアネート(a)をそのまま第2剤(1)として用いた。
【0142】
<樹脂層(1)の形成>
上記の方法で得られた第1剤(1):5.7部に対し、上記の方法で得られた第2剤(1):5.4部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(1)を得た。
【0143】
〔実施例2〕
<ポリイソシアネート(b)の合成>
撹拌器、温度計、冷却管を取り付けた四ッ口フラスコの内部を窒素置換し、この中に、HDIを1000g、2-エチルヘキサノールを100g、及び、エクセノール720(商品名、AGC(株)のポリプロピレングリコール(末端EO付加タイプ)、分子量=700)を80g仕込み、撹拌化90℃で1時間ウレタン化反応を行った。次いで、アロファネート化/イソシアヌレート化触媒としての2-エチルヘキサン酸ビスマスの固形分25%エチルヘキサン溶液(富士フイルム和光純薬(株))をエチルヘキサンで希釈したものを0.55g加えた。反応液の屈折率の上昇が0.01となった時点で、リン酸2-エチルヘキシル(東京化成工業(株))を2.3g(触媒に対して4.0倍モル)を加え反応を停止した。
その後、反応液をろ過し、流下式薄膜蒸留装置を用いて未反応のHDIを除去した。
以上のようにして、ポリイソシアネート(b)を合成した。
得られたポリイソシアネート(b)は、ジイソシアネート(a)とモノアルコール(b)とポリエーテルポリオール(c)との反応生成物であり、アロファネート/イソシアヌレートのモル比は80/20であった。また、ポリイソシアネート(b)は、数平均分子量が700であるポリオキシプロピレン構造を有するポリイソシアネートであって、イソシアネート基の官能基数は2~3の混合物であった。
【0144】
<第2剤(2)の準備>
上記のようにして得られたポリイソシアネート(b)をそのまま第2剤(1)として用いた。
【0145】
<樹脂層(2)の形成>
実施例1で用いた第1剤(1):5.7部に対し、上記の方法で得られた第2剤(2):5.8部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(2)を得た。
【0146】
〔実施例3〕
<ポリイソシアネート(c)の合成>
撹拌器、温度計、冷却管を取り付けた四ッ口フラスコの内部を窒素置換し、この中に、HDIを1000g、2-エチルヘキサノールを100g、及び、エクセノール837(商品名、AGC(株)のポリプロピレングリコール(末端EO付加タイプ)、分子量=6000)を80g仕込み、撹拌化90℃で1時間ウレタン化反応を行った。次いで、アロファネート化/イソシアヌレート化触媒としての2-エチルヘキサン酸ビスマスの固形分25%エチルヘキサン溶液(富士フイルム和光純薬(株))をエチルヘキサンで希釈したもの)を0.55g加えた。反応液の屈折率の上昇が0.01となった時点で、リン酸2-エチルヘキシル(東京化成工業(株))を2.3g(触媒に対して4.0倍モル)を加え反応を停止した。
その後、反応液をろ過し、流下式薄膜蒸留装置を用いて未反応のHDIを除去した。
以上のようにして、ポリイソシアネート(c)を合成した。
得られたポリイソシアネート(c)は、ジイソシアネート(a)とモノアルコール(b)とポリエーテルポリオール(c)との反応生成物であり、アロファネート/イソシアヌレートのモル比は78/22であった。また、ポリイソシアネート(c)は、数平均分子量が6000であるポリオキシプロピレン構造を有するポリイソシアネートであって、イソシアネート基の官能基数は2~3の混合物であった。
【0147】
<第2剤(3)の準備>
上記のようにして得られたポリイソシアネート(c)をそのまま第2剤(3)として用いた。
【0148】
<樹脂層(3)の形成>
実施例1で用いた第1剤(1):5.7部に対し、上記の方法で得られた第2剤(3):5.1部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(3)を得た。
【0149】
〔実施例4〕
<アクリル樹脂(B)の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子含有アクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック(株))と、の各モノマーを、4.5:1:0.5のモル比で混合した。更に、対モノマー比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))及び対モノマー比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加してモノマー溶液を調製した。
このモノマー溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対モノマー比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。更に対モノマー比10質量%のMEKと対モノマー比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。なお、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。
こうしてアクリル樹脂(B)を合成し、アクリル樹脂(B)溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(B)の水酸基価を、JIS K 0070:1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価40mgKOH/gであった。
【0150】
<第1剤(2)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(2)を調製した。
・アクリル樹脂(B)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):0.6部
【0151】
<樹脂層(4)の形成>
上記の方法で得られた第1剤(2):3.6部に対し、実施例1で得られた第2剤(1):1.3部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(4)を得た。
【0152】
〔実施例5〕
<アクリル樹脂(C)の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子含有アクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック(株))と、の各モノマーを、3.5:2:0.5のモル比で混合した。更に、対モノマー比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))及び対モノマー比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加してモノマー溶液を調製した。
このモノマー溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対モノマー比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。更に対モノマー比10質量%のMEKと対モノマー比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。なお、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。
こうしてアクリル樹脂(C)を合成し、アクリル樹脂(C)溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(C)の水酸基価を、JIS K 0070:1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価270mgKOH/gであった。
【0153】
<第1剤(3)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(3)を調製した。
・アクリル樹脂(C)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):4.1部
【0154】
<樹脂層(5)の形成>
上記の方法で得られた第1剤(3):7.1部に対し、実施例1で得られた第2剤(1):8.4部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(5)を得た。
【0155】
〔実施例6〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(6)を得た。
【0156】
<第1剤(4)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(4)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトンジオール、プラクセル 220、(株)ダイセル、分子量2,000、水酸基価56mgKOH/g):9.4部
【0157】
〔実施例7〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(5)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(7)を得た。
【0158】
<第1剤(5)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(5)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 305、(株)ダイセル、分子量550、水酸基価308mgKOH/g):1.7部
【0159】
〔実施例8〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(6)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(8)を得た。
【0160】
<第1剤(6)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(6)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にヒドロキシアルキル基を有するシリコーン樹脂(両末端型/カルビノール変性シリコーンオイル KF-6002、 信越化学工業(株)、官能基当量1,600):0.05部
【0161】
〔実施例9〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(9)を得た。
【0162】
<第1剤(7)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(7)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にヒドロキシアルキル基を有するシリコーン樹脂(両末端型/カルビノール変性シリコーンオイル KF-6002、 信越化学工業(株)、官能基当量1,600):1.8部
【0163】
〔実施例10〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(8)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(10)を得た。
【0164】
<第1剤(8)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(8)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にヒドロキシアルキル基を有するシリコーン樹脂(両末端型/カルビノール変性シリコーンオイル KF-6002、 信越化学工業(株)、官能基当量1,600):0.01部
【0165】
〔実施例11〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(9)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(11)を得た。
【0166】
<第1剤(9)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(9)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にヒドロキシ基を有するシリコーン樹脂(両末端型/シラノール変性シリコーンオイル KF-9701、 信越化学工業(株)、官能基当量1,500):0.05部
【0167】
〔実施例12〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(10)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(12)を得た。
【0168】
<第1剤(10)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(10)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にアルコキシ基を有し且つ側鎖の一部にアミノ基を有するシリコーン樹脂(側鎖両末端型/側鎖アミノ・両末端メトキシ変性シリコーンオイル、KF-857、 信越化学工業(株)、官能基当量790):0.05部
【0169】
〔実施例13〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(11)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(13)を得た。
【0170】
<第1剤(11)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(11)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にアルコキシ基を有し且つ側鎖の一部にアミノ基を有するシリコーン樹脂(側鎖両末端型/側鎖アミノ・両末端メトキシ変性シリコーンオイル、KF-862、 信越化学工業(株)、官能基当量1,900):0.05部
【0171】
〔実施例14〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(12)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(14)を得た。
【0172】
<第1剤(12)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(12)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):2.7部
・主鎖両末端にヒドロキシアルキル基を有するシリコーン樹脂(両末端型/カルビノール変性シリコーンオイル KF-6000、 信越化学工業(株)、官能基当量467):0.05部
【0173】
〔実施例15〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(13)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(15)を得た。
【0174】
<第1剤(13)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(13)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトンジオール、プラクセル 240、(株)ダイセル、分子量4,000、水酸基価28mgKOH/g):18.8部
【0175】
〔実施例16〕
第1剤(1)の代わりに、下記第1剤(14)を用いた以外は、実施例1と同様にして、90μm厚のポリイミドフィルム上に40μmの膜厚の樹脂層(16)を得た。
【0176】
<第1剤(14)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(14)を調製した。
・アクリル樹脂(A)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 303、(株)ダイセル、分子量300、水酸基価540mgKOH/g):1.0部
【0177】
〔比較例1〕
<ポリイソシアネート(d)の合成>
撹拌器、温度計、冷却管を取り付けた四ッ口フラスコの内部を窒素置換し、この中に、HDIを1000g、2-エチルヘキサノールを100g、及び、エクセノール420(商品名、AGC(株)のポリプロピレングリコール(末端EO付加タイプ)、分子量=400)を80g仕込み、撹拌化90℃で1時間ウレタン化反応を行った。次いで、アロファネート化/イソシアヌレート化触媒としてのカプリン酸テトラメチルアンモニウムの固形分10%n-ブタノール溶液を0.36g加えた。反応液の屈折率の上昇が0.01となった時点で、リン酸2-エチルヘキシル(東京化成工業(株))を2.3g(触媒に対して4.0倍モル)を加え反応を停止した。
その後、反応液をろ過し、流下式薄膜蒸留装置を用いて未反応のHDIを除去した。
以上のようにして、ポリイソシアネート(d)を合成した。
得られたポリイソシアネート(d)は、ジイソシアネート(a)とモノアルコール(b)とポリエーテルポリオール(c)との反応生成物であり、アロファネート/イソシアヌレートのモル比は70/30であった。また、ポリイソシアネート(d)は、数平均分子量が400であるポリオキシプロピレン構造を有するポリイソシアネートであって、イソシアネート基の官能基数は2~3の混合物であった。
【0178】
<第2剤(4)の準備>
上記のようにして得られたポリイソシアネート(d)をそのまま第2剤(4)として用いた。
【0179】
<樹脂層(17)の形成>
実施例1で用いた第1剤(1):5.7部に対し、上記の方法で得られた第2剤(4):5.4部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(17)を得た。
【0180】
〔比較例2〕
<ポリイソシアネート(e)の合成>
撹拌器、温度計、冷却管を取り付けた四ッ口フラスコの内部を窒素置換し、この中に、HDIを1000g、2-エチルヘキサノールを100g、及び、エクセノール4013E(商品名、AGC(株)のポリプロピレングリコール(末端EO付加タイプ)、分子量=12000)を80g仕込み、撹拌化90℃で1時間ウレタン化反応を行った。次いで、アロファネート化/イソシアヌレート化触媒としてのカプリン酸テトラメチルアンモニウムの固形分10%n-ブタノール溶液を0.36g加えた。反応液の屈折率の上昇が0.01となった時点で、リン酸2-エチルヘキシル(東京化成工業(株))を2.3g(触媒に対して4.0倍モル)を加え反応を停止した。
その後、反応液をろ過し、流下式薄膜蒸留装置を用いて未反応のHDIを除去した。
以上のようにして、ポリイソシアネート(e)を合成した。
得られたポリイソシアネート(e)は、ジイソシアネート(a)とモノアルコール(b)とポリエーテルポリオール(c)との反応生成物であり、アロファネート/イソシアヌレートのモル比は73/27であった。また、ポリイソシアネート(e)は、数平均分子量が12000であるポリオキシプロピレン構造を有するポリイソシアネートであって、イソシアネート基の官能基数は2~3の混合物であった。
【0181】
<第2剤(5)の準備>
上記のようにして得られたポリイソシアネート(e)をそのまま第2剤(5)として用いた。
【0182】
<樹脂層(18)の形成>
実施例1で用いた第1剤(1):5.7部に対し、上記の方法で得られた第2剤(5):5.4部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(18)を得た。
【0183】
〔比較例3〕
<アクリル樹脂(D)の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子含有アクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック(株))と、の各モノマーを、4.5:1:0.5のモル比で混合した。更に、対モノマー比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))及び対モノマー比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加してモノマー溶液を調製した。
このモノマー溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対モノマー比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。更に対モノマー比10質量%のMEKと対モノマー比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。なお、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。
こうしてアクリル樹脂(D)を合成し、アクリル樹脂(D)溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(D)の水酸基価を、JIS K 0070:1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価30mgKOH/gであった。
【0184】
<第1剤(15)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(15)を調製した。
・アクリル樹脂(D)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):0.5部
【0185】
<樹脂層(19)の形成>
上記の方法で得られた第1剤(15):3.5部に対し、実施例1で得られた第2剤(1):0.9部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(19)を得た。
【0186】
〔比較例4〕
<アクリル樹脂(E)の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子含有アクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック(株))と、の各モノマーを、3.5:2:0.5のモル比で混合した。更に、対モノマー比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))及び対モノマー比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加してモノマー溶液を調製した。
このモノマー溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対モノマー比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。更に対モノマー比10質量%のMEKと対モノマー比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。なお、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。
こうしてアクリル樹脂(E)を合成し、アクリル樹脂(E)溶液を得た。
得られたアクリル樹脂(E)の水酸基価を、JIS K 0070:1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価320mgKOH/gであった。
【0187】
<第1剤(16)の調製>
下記の成分を混合して、第1剤(16)を調製した。
・アクリル樹脂(E)溶液(固形分50質量%):3.0部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル 308、(株)ダイセル、分子量850、水酸基価196mgKOH/g):4.9部
【0188】
<樹脂層(20)の形成>
上記の方法で得られた第1剤(16):7.9部に対し、実施例1で得られた第2剤(1):9.9部を加え、10分間減圧下で脱泡した。それを90μm厚のポリイミドフィルム上にキャストして膜状物を形成し、85℃で1時間、更に130℃で30分、膜状物を硬化して、40μmの膜厚の樹脂層(20)を得た。
【0189】
〔評価〕
各例で得られた樹脂層について、以下の方法で評価を行った。
評価結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0190】
[自己修復性]
上記実施例及び比較例で得られた各樹脂層について、下記の方法により自己修復性を評価した。
樹脂層に対し、傷付性試験(ISO 12137-2:1997)に従い、サファイア針(0.03mm)を使用し、0~200gの荷重、移動速度600mm/minにて、スクラッチ試験を実施した。
スクラッチ試験にて形成された傷について、ルーペで観察し、傷が消失するまでの時間を測定した。
-評価基準-
A:傷が消失するまでの時間が5秒未満
B:傷が消失するまでの時間が5秒以上10分未満
C:傷が消失するまでの時間が10分以上
【0191】
[柔軟性]
上記実施例及び比較例で得られた各樹脂層について、下記の方法により引張り破断伸度を測定し、柔軟性を評価した。
樹脂層を幅40mmの短冊状に切り出して得られた測定試料を、精密荷重測定器(MODEL-1605N、アイコーエンジニアリング(株))にて、引張り速度:20mm/minにて引張り、測定試料の引張り破断伸度を測定した。引張り破断伸度の値が大きいほど、柔軟性に優れると評価する。
-評価基準-
A:引張り破断伸度が150%以上
B:引張り破断伸度が100%以上150%未満
C:引張り破断伸度が100%未満
【0192】
[耐薬品性]
上記実施例及び比較例で得られた各樹脂層について、下記の方法により耐薬品性を評価した。
まず、樹脂層の表面の水接触角を測定した。続いて、樹脂層を5%の水酸化ナトリウム溶液に浸漬して、55℃の環境下で24時間経過したのち、取り出した樹脂層の水接触角を測定した。得られた測定結果から、水酸化ナトリウム溶液への浸漬前後での水接触角の変化率を求めた。
なお、水接触角は、23℃の環境下、接触角計(協和界面科学(株)の型番:CA-X型)を用いて、樹脂層の表面に注射器で1μlの水滴を落とし、1分後に測定を行った。
-評価基準-
A:水接触角の変化率が5°未満
B:水接触角の変化率が5°以上10°未満
C:水接触角の変化率が10°以上
【0193】
[耐引っ掻き性]
上記実施例及び比較例で得られた各樹脂層について、下記の方法により耐引っ掻き性を評価した。
樹脂層の表面に対し、JIS K 5600-5-5:1999に準じて、ペンシル型引掻き硬度計(型番:318S型、エリクセン社)にて引っ掻き試験を行い、傷の付き方を目視で判断した。
-評価基準-
A:傷は付くが消える
B:傷は付くが薄くなる
C:傷が残る
【0194】
【0195】
【0196】
表1及び表2に示す通り、実施例の表面保護樹脂部材形成用キット(即ち、第1剤と第2剤とから構成される表面保護樹脂部材形成用キット)は、比較例と比べて、耐薬品性の低下を抑制しつつ優れた柔軟性を有する表面保護樹脂部材を形成しうることが分かる。
また、実施例の表面保護樹脂部材形成用キットは、自己修復性、及び耐引っ掻き性に優れる表面保護樹脂部材を形成しうることもわかる。