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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】接合構造体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20240305BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20240305BHJP
   B29C 48/51 20190101ALI20240305BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240305BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20240305BHJP
   B29C 65/08 20060101ALI20240305BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240305BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B29C65/02
B23K26/352
B29C48/51
B32B15/08 Z
B29C65/16
B29C65/08
B29C45/14
B29C70/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020013900
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120196
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】李 卓唯
(72)【発明者】
【氏名】西川 和義
(72)【発明者】
【氏名】神岡 渉
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-208932(JP,A)
【文献】特開2016-144823(JP,A)
【文献】特開2018-051775(JP,A)
【文献】特表2017-524554(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 - 45/84
B29C 48/00 - 48/96
B29C 65/00 - 65/82
B29C 70/00 - 70/88
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に突起および穿孔の少なくともいずれか一方が形成された金属加工物である第一部材と、
熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂中に解繊された状態で分散された炭素繊維とを含み、前記突起および前記穿孔の少なくともいずれか一方を介して前記第一部材と接合された、第二部材と、を備え、
前記穿孔は深さが15μm以上であり、
前記突起は独立しており、かつ前記突起の間隔は5~150μmであ
前記突起の間隔は、突起の先端側から見た場合の、突起の輪郭線から、隣接する他の突起の輪郭線までの距離である、
接合構造体。
【請求項2】
前記炭素繊維の下記式から導かれる解繊率は、50%以上である、請求項1に記載の接合構造体。
解繊率(%)=(単独で存在する炭素繊維の本数)/(炭素繊維の総本数)×100
【請求項3】
前記突起の幅は、10~200μmである、請求項1または2に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記突起の高さは、15μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項5】
前記穿孔の開口径は、5~150μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項6】
金属材料の表面に突起および穿孔の少なくともいずれか一方を形成して第一部材を得る工程と、
内部帰還型スクリューによって熱可塑性樹脂中に炭素繊維を解繊された状態で分散させて第二部材を得る工程と、
前記第一部材と前記第二部材とを接合する工程と、を含み、
前記穿孔は深さが15μm以上であり、
前記突起は独立しており、かつ前記突起の間隔は5~150μmであ
前記突起の間隔は、突起の先端側から見た場合の、突起の輪郭線から、隣接する他の突起の輪郭線までの距離である、
接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維複合樹脂と金属との接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性炭素繊維複合樹脂(CFRTP)はアルミ合金等の金属に代替し得る剛性を有し、また炭素繊維を含むために軽量であることから、航空機および自動車の構造材料、スポーツ用品などに使用されている。CFRTPは、熱可塑性であるため射出成形機で成形できる。そのため、CFRTPは、従来の熱硬化性炭素繊維複合樹脂と比較して、生産性の向上、形状自由度の向上が実現できる。
【0003】
CFRTPでは材料強度が足りない部位においては、一部金属が使用される。その場合、CFRTPと金属との接合が要求される。
【0004】
接合方法としては一般的に、接着剤を用いる方法が挙げられる。しかしながら、材料の熱膨張差から生じるせん断応力に耐えるためには、用いることのできる接着剤は弾性接着剤に限定される。一方で、弾性接着剤は、膨潤性および分解性を示すため、接合の維持が困難となり得る。したがって、接着剤を介さずに接合させる手段が望まれていた。
【0005】
例えば特許文献1では、アルミニウム合金形状物の表面が特定の径の超微細凹部に覆われ、かつ、アミン系分子が化学吸着している状態にする工程と、前記アルミニウム合金形状物を射出成形金型にインサートし、特定の樹脂または樹脂組成物を射出して射出接合物を作製する工程と、熱プレス金型に前記射出接合物を装填し、その上に特定のマトリックス樹脂を含むFRTPプリプレグまたはFRTP成形物を積層して装填する工程と、前記樹脂同士の熱融着を行う熱プレス工程とを有する、金属とFRTPの複合体の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では1パルスが複数のサブパルスで構成された、周期が15ns以下のレーザを第一部材の表面に照射することにより、開口を有する穿孔部を形成する工程と、前記穿孔に第二部材を充填して固化させる工程とを備える、接合構造体の製造方法が開示されている。
【0007】
加えて非特許文献1では、超音波接合によりCFRTPと金属との機械的な接合を実現したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-60051号公報
【文献】特開2016-43382号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Balle et al., Ultrasonic spot welding of aluminum sheet/carbon fiber reinforced polymer joints, Materialwissenschaft und Werkstofftechnik, Vol. 38, Issue 11, p. 934-938, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の複合体の製造方法は、金属部と樹脂部との固着力が強く、また量産した場合でも製品安定性を確保できるとされている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、金属の表面に粗面を形成する際、粗面の凹凸の形状を制御できない。したがって、その後のNMT(Nano Molding Tech.)による接着処理を経ても、接合面は制御されていない不規則な表面形状を有することになる。これにより、接合時のアンカー効果にバラつきが生じることになる。そのため、実際の商品に即した複雑な接合形状に加工した場合、接合面には応力が集中する点が多数発生し、成型後の熱収縮応力、および、冷熱衝撃試験による繰り返しの応力振幅によって、当該応力が集中する点において剥離が発生する可能性がある。
【0012】
特許文献2に記載の接合構造体の製造方法は、樹脂と穿孔との間に生じるアンカー効果を利用することで、より強固な金属と樹脂との接合が実現できるとされている。しかしながら、樹脂として熱可塑性炭素繊維複合樹脂を用いた場合、通常は炭素繊維が十分に解繊されていないため、炭素繊維と穿孔との絡み合い効果が生じず、接合部における接合強度の観点から改善の余地があった。
【0013】
また、加工方法がサブパルスレーザに限定され、穿孔の形状も限定されているため加工性の観点からも改善の余地があった。
【0014】
また、非特許文献1に記載の接合体はCFRTPと金属を超音波接合によって直接接合することによって得られるが、せん断強度において改善の余地があった。
【0015】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は高い接合強度と冷熱衝撃耐性を有する接合構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0017】
すなわち、本発明の一側面に係る接合構造体は、表面に突起および穿孔の少なくともいずれか一方が形成された金属加工物である第一部材と、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂中に解繊された状態で分散された炭素繊維とを含み、前記突起および前記穿孔の少なくともいずれか一方を介して前記第一部材と接合された、第二部材と、を備える。
【0018】
上記構成によれば、第一部材の金属加工物の突起が第二部材の熱可塑性樹脂に食い込むこと、または第一部材の金属加工物の穿孔に第二部材の熱可塑性樹脂が充填されることにより、第一部材と第二部材とが接合する。加えて、第二部材に含まれる解繊された炭素繊維が第一部材の金属加工物の突起または穿孔と絡み合う。これにより、接合部では炭素繊維によるフィラー効果と、突起または穿孔に対するアンカー効果が生じる。したがって、応力が印加された場合でも、第一部材と第二部材との間で強固な接合を維持できる。さらに第一部材に多数の突起または穿孔が形成され、第二部材の炭素繊維が解繊されていることにより、接合部におけるせん断応力を分散し、応力集中を抑制できる。このため、前記接合構造体は、繰り返しの冷熱衝撃に耐性を有する。したがって、先行技術と比べ、本発明の一側面ではより強固に接合し、且つ冷熱衝撃耐性が高い接合構造体を得られる。
【0019】
本明細書において「解繊された状態」とは、凝集した束ではなく、単独で存在する炭素繊維が含まれる状態を意味する。必ずしも全ての炭素繊維が単独で存在していなくてもよい。単独で存在する炭素繊維の割合は、後述の解繊率として規定され得る。また本明細書において炭素繊維が突起または穿孔と「絡み合う」とは、炭素繊維の少なくとも一部が突起の間または穿孔の中に挿入されることを意味する。
【0020】
上記一側面に係る接合構造体において、炭素繊維の下記式から導かれる解繊率は、50%以上であってもよい。当該構成により、突起または穿孔と絡み合う炭素繊維の割合が増加する。したがって、より強固に接合した接合構造体を得られる。
解繊率(%)=(単独で存在する炭素繊維の本数)/(炭素繊維の総本数)×100
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の間隔は、5~150μmであってもよい。当該構成によればアンカー効果が発揮されやすい。本明細書において、「突起の間隔」とは、突起の先端側から見て、突起の輪郭線を等距離拡大させた時、隣接する他の突起の輪郭線と最初に接する距離を意味する。また本明細書において、「突起の先端」とは、突起が突出している側から平面を接近させた場合に最初に当該平面に接する突起の部位を意味する。
【0021】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の幅は10~200μmであってもよい。当該構成によればアンカー効果が発揮されやすい。本明細書において、「突起の幅」とは突起の先端側から見た突起輪郭線の最大フェレ径を意味する。
【0022】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さは15μm以上であってもよい。当該構成によればアンカー効果が発揮されやすい。本明細書において、「突起の高さ」とは、突起の先端から基部までの距離を意味する。
【0023】
上記一側面に係る接合構造体において、前記穿孔の開口径は、5μm以上150μm以下であってもよい。当該構成によれば、接合構造体の接合強度が向上する。本明細書において、「穿孔の開口径」とは、穿孔の開口部における最小フェレ径を意味する。また本明細書において、「穿孔の開口部」とは、穿孔が開口している側から平面を接近させた場合に最初に当該平面に接する金属加工物表面の非金属部位、すなわち金属が存在しない部位を意味する。
【0024】
上記一側面に係る接合構造体において、前記穿孔の深さは、15μm以上であってもよい。当該構成によれば、接合構造体の接合強度が向上する。本明細書において、「穿孔の深さ」とは、穿孔の開口部から底部までの距離を意味する。
【0025】
上記一側面に係る接合構造体の製造方法は、金属材料の表面に突起および穿孔の少なくともいずれか一方を形成して第一部材を得る工程と、内部帰還型スクリューによって熱可塑性樹脂中に炭素繊維を解繊された状態で分散させて第二部材を得る工程、すなわち高せん断加工により第二部材を得る工程と、前記第一部材と前記第二部材とを接合する工程と、を含む。当該製造方法によれば、炭素繊維が解繊された状態で第二部材に含まれるため、接合強度が向上する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、高い接合強度と冷熱衝撃耐性を有する接合構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施形態に係る接合構造体の断面の一例を模式的に例示する。
図2図2は、実施形態に係る突起を形成するためのレーザ照射の方法を模式的に表す。
図3図3は、実施例に係る第一部材のレーザ加工部を模式的に表す。
図4図4は、実施例に係る引張試験の方法を模式的に表す。
図5図5は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図6図6は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図7図7は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図8図8は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図9図9は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図10図10は、実施形態に係る第一部材の穿孔の一例を模式的に表す。
図11図11は、実施形態に係る第一部際の穿孔の一例を模式的に表す。
図12図12は、実施形態に係る第一部材の突起の配列の一例を模式的に表す。
図13図13は、実施形態に係る第一部材の突起の配列の一例を模式的に表す。
図14図14は、実施形態に係る第一部材の突起の配列の一例を模式的に表す。
図15図15は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図16図16は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
図17図17は、実施形態に係る第一部材の穿孔の一例を模式的に表す。
図18図18は、実施形態に係る第一部材の穿孔の一例を模式的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
【0029】
§1適用例
まず、図1を用いて本発明の一態様に係る接合構造体の概要を説明する。図1は、一態様に係る接合構造体の断面の一例を模式的に例示する。
【0030】
図1では二種類の接合構造体101および102が例示されている。まず接合構造体101について説明する。接合構造体101は、表面に突起3が形成された金属加工物である第一部材1と、前記突起3を介して第一部材1と接合している、炭素繊維5と熱可塑性樹脂とを含む第二部材2と、を備える。
【0031】
接合構造体101において、第二部材2の熱可塑性樹脂は、第一部材1に形成された突起3を包み込むように固化し、加えて第二部材2に含まれる炭素繊維5と前記突起3とが絡み合って接合しているため、物理的に強固なアンカー効果が得られる。そのため、高い接合強度を示す接合構造体を提供することができる。
【0032】
次に、接合構造体102について説明する。接合構造体102は、表面に穿孔4が形成された金属加工物である第一部材1と、前記穿孔4を介して第一部材1と接合している、炭素繊維5と熱可塑性樹脂とを含む第二部材2と、を備える。
【0033】
接合構造体102において、第二部材2の熱可塑性樹脂は、第一部材1に形成された穿孔4に充填されるように固化し、加えて第二部材2に含まれる炭素繊維5の少なくとも一部が前記穿孔4に挿入されるため、物理的に強固なアンカー効果が得られる。その結果、高い接合強度を示す接合構造体を提供することができる。
【0034】
また、これらの接合構造体において、炭素繊維は解繊された状態で熱可塑性樹脂中に分散されている。炭素繊維は一般に十分に解繊されていない。炭素繊維が解繊されず束の状態で存在する場合、炭素繊維自体は高い剛性を備えるため、炭素繊維の束が前記突起あるいは前記穿孔による第一部材と第二部材の接合を阻害し得る。炭素繊維を解繊することにより、炭素繊維は前記突起あるいは穿孔と十分に絡み合い、接合構造体の接合強度が向上する。
【0035】
§2構成例
<第一部材>
第一部材は金属加工物であり、突起もしくは穿孔、またはその両方が形成されている。金属加工物の材料としては、例えば、鉄系金属、ステンレス系金属、銅系金属、アルミ系金属、マグネシウム系金属、および、それらの合金等が挙げられる。また、金属加工物は、金属成型体であってもよく、亜鉛ダイカスト、アルミダイカスト、粉末冶金等であってもよい。
【0036】
<突起>
突起は、第一部材の表面に形成される。第一部材が突起を備えることで、第二部材との間に、前記突起を介したアンカー効果が得られる。また、第二部材が炭素繊維を含有することで、前記突起との間に絡み合い効果が得られる。したがって、接合強度が向上する。
【0037】
前記突起は、第一部材と一体的に形成されていることが好ましい。すなわち、第一部材とは別の部材として形成された突起を第一部材の表面に付着させるのではないことが好ましい。これにより、第一部材に対して突起を付着させる場合に比べて接合強度が向上する。
【0038】
前記突起は整列していることが好ましい。本明細書において、「整列した突起」とは、規則的に配置された突起を意味する。これにより、接合構造体全体の強度が安定する。
【0039】
前記突起の間隔は、5μm以上、150μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上、100μm以下である。突起の間隔が5μm以上であれば、炭素繊維が突起に絡み合い易く、接合性が向上する。また、150μm以下であれば、単位面積当たりの突起の数が増加し、アンカー効果および絡み合い効果が向上する。
【0040】
前記突起の幅は、10μm以上、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、100μm以下である。突起の幅が10μm以上であれば、突起形成が容易である。また突起の幅が200μm以下であれば、単位面積当たりの突起の数が増加し、アンカー効果および絡み合い効果が向上する。
【0041】
前記突起の高さは、15μm以上であることが好ましく、より好ましくは20μm以上である。突起の高さが15μm以上であればアンカー効果および絡み合い効果が向上する。突起の高さの上限は特に限定されないが、300μm以下であれば、加工時間が短く済むため好ましい。
【0042】
前記突起の形状は特に限定されない。例えば、突起は、高さ方向に垂直な断面の径が一定であってもよく、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部に向かって拡大する領域および縮小する領域の少なくともいずれか一方を有していてもよい。特に突起が、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部に向かって縮小する領域を有している場合、垂直引きはがし強度に優れる。また、突起の先端の形状も特に限定されず、分岐していてもよい。
【0043】
図5図9および図15~16は突起の一例を模式的に例示する。図5に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって拡大する領域21に次いで、縮小する領域22を備える。図6に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって縮小する領域22に次いで、拡大する領域21を備える。また、図7に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで縮小する領域22のみを備える。図8に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで拡大する領域21のみを備える。図9に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで一定である。図15に示す突起3は、突起の先端側が分岐している。なお、この場合の突起の間隔とは、図15に示す矢印31の部分を意味し、突起の先端側に存在する分岐の間隔は含まない。図16に示す突起3は、突起先端の分岐が基部まで達している。なお、分岐の間隔が5μm未満であれば、分岐全体を一つの突起であるとみなしてよい。すなわち、この場合の突起の間隔とは、図16に示す矢印31の部分を意味し、分岐の間隔は含まない。また複数の形状の突起を部分的に使い分けてもよい。すなわち、例えば図5に示す形状と図6に示す形状とが併存してもよい。
【0044】
上述のように一つの大きな突起に複数の小さな分岐が設けられていてもよい。また分岐が基部まで達しているために、複数の突起が密着しているように見える態様であってもよい。しかし、前記突起は独立していることが好ましい。本明細書において、「独立した突起」とは、突起の先端から見た場合に、突起の輪郭線が重畳または接しておらず、突起同士の境界線が明確であることを意味する。つまり、突起1個あたり、ただ1つの先端とただ1つの基部とを有することが好ましい。これにより、接合に寄与する突起3と炭素繊維5の数を最大化することができるため、第二部材に含有される熱可塑性樹脂とのアンカー効果および炭素繊維との絡み合い効果が向上し、接合性が向上する。
【0045】
前記突起の配列は特に限定されない。図12図14は突起の配列の一例を模式的に例示する。図12~14では便宜的に、突起の先端を繋いだ形状を太線で示している。突起の先端側から見た突起の配列は、例えば図12のように四角形状であってもよく、図13のように三角形状であってもよく、図14のように六角形状であってもよい。
【0046】
本明細書において、突起の配列が「四角形状」であるとは、突起の配列が格子型であることを意味する。本明細書において突起の配列が「三角形状」であるとは、突起の配列が最密配置されていることを意味する。また、本明細書において突起の配列が「六角形状」であるとは、突起の配列が亀甲形状であることを意味する。また複数の種類の配列を部分的に使い分けてもよい。すなわち、例えば図12に示す配列と図13に示す配列とが併存してもよい。
【0047】
<穿孔>
穿孔は、第一部材の表面に形成される。第一部材に穿孔が形成されていることで、第二部材との間に、前記穿孔を介したアンカー効果が得られる。また、第二部材が炭素繊維を含有することで、前記穿孔との間に絡み合い効果が得られる。したがって、接合強度が向上する。
【0048】
図10は、実施形態に係る第一部材の穿孔の一例を模式的に例示する。図10に示すように、第一部材1は、互いに独立している穿孔を備えていることが好ましい。つまり、穿孔が形成された表面に垂直な方向から見た場合に、穿孔の開口部が重畳しておらず、穿孔同士の境界線が明確であることが好ましい。前記穿孔は、連続する溝とは異なる。穿孔が独立していれば、接合に寄与する穿孔4と炭素繊維5の数を最大化することができ、第二部材に含有される熱可塑性樹脂とのアンカー効果および炭素繊維5との絡み合い効果が向上し、接合性が向上する。
【0049】
前記穿孔の開口径は5~150μmが好ましく、より好ましくは10~100μmが好ましい。開口径が5μm以上であれば炭素繊維との絡み合い効果が向上する。また開口径が150μm以下であれば単位面積当たりの穿孔数が増加し、アンカー効果と絡み合い効果が向上する。
【0050】
前記穿孔の深さは15μm以上であることが好ましく、より好ましくは20μm以上である。深さが15μm以上であると、穿孔におけるアンカー効果と絡み合い効果が向上し、その結果、全体の接合強度が向上する。穿孔の深さの上限は特に限定されないが、300μm以下であれば、加工時間が短く済むため好ましい。
【0051】
また前記穿孔は整列していることが好ましい。本明細書において、「整列した穿孔」とは、規則的に配置された穿孔を意味する。これにより、接合構造体全体の強度が安定する。穿孔の配列は特に限定されず、前記突起と同様の配列が使用できる。また前記突起と同様に、複数の種類の配列を併存させることも可能である。加えて、開口径の異なる穿孔を併存させてもよい。
【0052】
穿孔の形状は特に限定されない。例えば、穿孔は、深さ方向に垂直な断面の径が一定であってもよく、深さ方向に垂直な断面の径が開口部から底部に向かって拡大する領域および縮小する領域の少なくともいずれか一方を有していてもよい。
【0053】
図10~11および17~18は穿孔の一例を模式的に例示する。例えば図10に示すように穿孔の深さ方向に垂直な断面の径が縮小する領域に次いで、拡大する領域を備える形状であってもよい。図11に示す穿孔内部の径がほぼ一定であってもよい。図17に示す、穿孔の内部に複数の小さな穿孔を備える形状であってもよく、図18に示す複数の穿孔が重畳する形状であってもよい。ただし、穿孔が重畳しているよりは、上述のように穿孔が独立していることがより好ましい。また複数の形状の穿孔を部分的に使い分けてもよい。すなわち、例えば図10に示す形状と図11に示す形状とが併存してもよい。
【0054】
<第二部材>
第二部材は熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む。第二部材は炭素繊維複合樹脂を含むとも言える。
【0055】
熱可塑性樹脂の材料としては、PVC(ポリ塩化ビニル)、PS(ポリスチレン)、AS(アクリロニトリル・スチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PA6(ポリアミド6)、PA66(ポリアミド66)、POM(ポリアセタール)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PSF(ポリサルホン)、PAR(ポリアリレート)、PEI(ポリエーテルイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、および、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)が挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、TPE(熱可塑性エラストマ)であってもよく、TPEの一例としては、TPO(オレフィン系)、TPS(スチレン系)、TPEE(エステル系)、TPU(ウレタン系)、TPA(ナイロン系)、および、TPVC(塩化ビニル系)が挙げられる。材料強度の観点から、上記の中でも結晶性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0056】
前記第二部材は、上述の効果を損なわない範囲で、必要に応じて前記熱可塑性樹脂と前記炭素繊維以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の一例としては、前記炭素繊維と前記熱可塑性樹脂との親和性を高めるためのサイジング剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、結晶核材、可塑剤、染料、顔料、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0057】
前記第二部材の材料強度を向上させる目的で、結晶核材として、層状ケイ酸塩を用いることが好ましい。層状ケイ酸塩は、Siを4個の酸素が囲んだ四面体が、3つの頂点を隣の四面体と共有することにより、2次元的に拡がった構造単位(四面体シート)を形成している層状構造をもったケイ酸塩の一群である。また、Siの一部がAlに置換されていてもよい。前記ケイ酸塩の一例としては、マイカ、雲母、タルク、カオリン、モンモリロナイト等が挙げられる。また、Siに加えてMg、Alなどを6個の酸素またはOHが囲んだ八面体の2次元的なつながりである八面体シートも結晶核剤となる。前記八面体シートは層面に平行な劈開が完全であり、一般に板状又は薄片状の形態である。前記八面体シートは化学的には、Si以外にAl、Mg、Fe、アルカリなどを含有する含水ケイ酸塩である。いずれも市販品を利用することができる。
【0058】
<炭素繊維>
炭素繊維は第二部材に強度を付与する充填剤である。炭素繊維は、例えば有機高分子繊維を800℃以上、3000℃以下の段階的加熱処理により繊維形状を保ったまま炭化させるか、または紡糸したピッチを熱処理することによって得られる。有機高分子繊維の一例としては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系が挙げられる。また、炭素繊維は市販品を用いてもよい。炭素繊維は、新品材でもよく、再生材でもよい。再生材としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から、樹脂成分を分離し、炭素繊維を回収する熱分解法、または化学溶解法、もしくは超臨界流体法で再生された炭素繊維を用いてもよい。
【0059】
前記炭素繊維は前記熱可塑性樹脂に応じて、適宜選択することができる。以下に限定されないが、炭素繊維の一例としては、SIGRAFIL C C6-4.0/240-T190(SGLカーボン製)、SIGRAFIL C C6-4.0/240-T130(SGLカーボン製)、HT C413(東邦テナックス製)、IM C702(東邦テナックス製)、TR06NE(三菱レーヨン製)、MR06NE(三菱レーヨン製)等が挙げられる。
【0060】
前記第二部材中の、前記熱可塑性樹脂と前記炭素繊維との重量比(炭素繊維:熱可塑性樹脂)は、好ましくは10:90~60:40であり、より好ましくは20:80~40:60である。炭素繊維の比率が10重量%以上であれば、前記第二部材の機械強度が向上する。炭素繊維の比率が60重量%以下であれば、溶融混錬工程で炭素繊維と熱可塑性樹脂との混合ムラが小さくなるため、前記第二部材の機械強度が向上する。
【0061】
前記炭素繊維の繊維長は、特に制限されるものではないが、熱可塑性樹脂中への分散性の観点からは、50mm以下が好ましく、炭素繊維の樹脂中への分散性の観点から、より好ましくは5mm以下である。また、前記複合樹脂の機械強度(引張強度または曲げ強度)の観点からは0.1mm以上が好ましい。なお、炭素繊維の繊維長は一定である必要はなく、バラつきがあってもよい。その場合、前記記載の好ましい範囲外の繊維長を有する炭素繊維が含まれていてもよい。
【0062】
前記炭素繊維の解繊率は下記式から求められ、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上である。解繊率が50%以上であると、前記突起あるいは前記穿孔と絡み合う炭素繊維が増加し、接合構造体の接合強度が向上する。
解繊率(%)=(単独で存在する炭素繊維の本数)/(炭素繊維の本数)×100
解繊率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0063】
<接合構造体の製造方法>
前記接合構造体は、例えば金属材料の表面に突起および穿孔の少なくともいずれか一方を形成して第一部材を得る工程と、内部帰還型スクリューによって熱可塑性樹脂中に炭素繊維を解繊された状態で分散させて第二部材を得る工程と、前記第一部材と前記第二部材とを接合する工程と、を含む製造方法によって得られる。
【0064】
第一部材の突起または穿孔の形成方法は特に限定されず、レーザ加工または化学エッチング、放電加工、超精密金型、微細切削加工等によって行ってもよい。
【0065】
突起または穿孔の形成に用いるレーザは例えばファイバレーザ、YAGレーザ、YVO4レーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ等が挙げられる。突起の先端から基部に向かって外周部の径が縮小する領域を有する突起を形成する場合はパルスレーザが適しており、それ以外の場合は連続波レーザでもよい。パルスレーザとしては、サブパルスレーザがより好ましい。
【0066】
図2は、実施形態に係る突起を形成するためのレーザ照射の方法を模式的に表す。前記金属材料に対して、図2に示すレーザ照射部11が一部重畳するようにレーザ加工することで、レーザ非照射部13が独立した突起となる。図2では、レーザ照射部が重畳する領域をレーザ照射重畳部12として示している。
【0067】
第二部材は、例えば以下のように作製される。まず、熱可塑性樹脂に炭素繊維を添加して混練する。ここで、せん断条件下で混練することにより、炭素繊維が解繊された状態で分散させることができる。通常の二軸押出機を用いてもよいが、好ましくは内部帰還型スクリューを有する高せん断加工機を用いて混練する。
【0068】
内部帰還型スクリューはシリンダ内に設けられる。以下の1、2が繰り返されることにより、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む溶融樹脂組成物が混練される。
1.スクリューの回転によって溶融樹脂組成物がシリンダの前部に押し出される。
2.スクリューの軸方向に設けられた通路を通って前記溶融樹脂組成物がシリンダの後部に戻る。
【0069】
これにより、溶融樹脂組成物の内部に強いせん断流動場および伸長場が発生するため、炭素繊維の解繊が促進される。内部帰還型スクリューの回転数は200rpm以上、3000rpm以下であることが好ましい。また、せん断速度は300/s以上、4500/s以下であることが好ましい。溶融樹脂組成物を循環させる時間は、10秒以上、8分以下であることが好ましい。
【0070】
その後、得られた溶融樹脂組成物を成形することで、第二部材を得られる。成形には一般の射出成形方法を用いることができる。
【0071】
第一部材と第二部材とを接合する方法としては、レーザ接合、射出成形接合、超音波溶着、熱プレス溶着、IH加熱、3Dプリンタ積層等が挙げられる。
【0072】
レーザ接合は、例えば以下のように行われる。第一部材の加工部に、第二部材を押圧しながらレーザを照射して、熱により第二部材を溶融させる。レーザは第一部材側から照射する。その後、レーザ照射を停止すると、冷却されて第二部材に含まれる炭素繊維と、突起あるいは穿孔とが絡み合った状態で、第二部材が固化することで、第一部材と第二部材が接合した接合構造体が得られる。
【0073】
レーザ接合を行う場合、第一部材のレーザ吸収効率を向上させる目的で、第一部材のレーザ照射面を同種のレーザマーカで粗加工してもよい。また、金属のレーザ吸収効率を向上させる方法は前記レーザマーカに限らず、サンドペーパーによる粗加工、または黒体スプレー等を行ってもよい。
【0074】
射出成形接合は、例えば電動射出成形機を用いて行われる。具体的には、第一部材を前記成形機に設置した金型内にインサートし、当該金型内に溶融した樹脂を充填することにより、第二部材を成形し、接合構造体を得られる。
【0075】
超音波溶着は、第一部材と第二部材とを接合部を介して重ね合わせ、超音波溶着用の機器に設置することにより行われる。超音波溶着用のホーンを介して超音波溶着させ、接合構造体を得る。
【0076】
熱プレス接着は、第一部材と第二部材とを接合部を介して重ね合わせ、熱プレス用の機器、あるいは金型に設置することにより行われる。第二部材側から熱と圧力をかけて接合させ、接合構造体を得る。
【0077】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
〔炭素繊維解繊率の評価〕
第二部材に用いた炭素繊維複合樹脂を、炭素繊維を含まない同種の熱可塑性樹脂とともに溶融混錬することにより10倍~30倍に希釈した。具体的には、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、前記炭素繊維複合樹脂および熱可塑性樹脂の混合物を熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱しながら、回転速度を数十rpm程度に設定して混錬することで希釈した。回転速度をこのように制御することにより、樹脂に対するせん断応力を抑制し、炭素繊維の解繊状態が変化しないようにした。希釈した樹脂から、加熱プレス機を用いて、サイズ50mm×50mm、厚み約0.2mmのシートサンプルを作製した。前記シートサンプルの任意の3点をΦ5mmの視野にて光学顕微鏡で観察し、単独で存在する炭素繊維の本数および2本以上の束で存在する炭素繊維の本数を数えた。そして、上述の式から解繊率を求めた。解繊率は、前記3点から得られた平均値として表した。なお、前記平均値は1の位を四捨五入して、10%ごとで表した。
【0080】
〔接合評価方法〕
図4は実施例に係る引張試験の方法を模式的に表す。接合評価に用いた接合構造体は、第一部材の長手方向と第二部材の長手方向とが平行になるように接合することによって得た。冷熱衝撃試験機(エスペック社製)を用いて接合構造体に対して、低温と高温とで処理を行う冷熱衝撃試験を行った。温度条件は、低温側は-40℃で30分、高温側は70℃で30分を1サイクルとした。サイクル回数は5サイクル、50サイクルまたは1000サイクルとした。冷熱衝撃試験後、電気機械式万能試験機5900(インストロン社製)を用いて、接合構造体をせん断方向(図4に示す矢印方向)に引っ張った。引張速度は1mm/minで行った。接合性は試験後の破壊面および破壊部を観測し、破壊の状態によって評価を行った。評価は以下のように決定した。冷熱衝撃5サイクル後に接合界面が剥離した場合×、すなわち冷熱衝撃に耐えることができず不合格だと判断した。5サイクル後は樹脂材料のみが破壊されたが、50サイクル後は接合界面の剥離と樹脂材料の破壊とが混在している場合を〇とし、比較的温和な使用環境で用いられる機器、例えば家庭用電気機器等に適用できるレベルだと判断した。50サイクル後は樹脂材料のみが破壊されたが、1000サイクル後は接合界面の剥離と樹脂材料の破壊とが混在している場合を◎とし、室外環境で用いられ、且つ比較的長寿命が要求される機器、例えば輸送機器等に適用できるレベルだと判断した。1000サイクル後は樹脂材料のみが破壊された場合を◎◎とし、低温および高温の両方にさらされる、厳しい使用環境でも長寿命が要求される機器、例えば産業機器等に適用できるレベルだと判断した。
【0081】
〔実施例1〕
金属材料であるSUS316(100mm×20mm、厚さ0.5mm)に対して、ファイバーレーザマーカMX-Z2000H(オムロン製)を用いて赤外線レーザを照射することにより突起を形成し、第一部材を作製した。
【0082】
図3は第一部材のレーザ加工部6を模式的に表す。レーザ加工部6を第一部材1の長手方向の一方の端部に形成した。突起形成時のレーザ照射条件は、出力:6W、周波数:10kHz、走査回数:30回、サブパルス:20本、走査速度:1060mm/sとし、突起の間隔が20μm、幅が50μmになるよう走査軌道を適宜調整した。
【0083】
突起の形状は図6に示す形であり、突起の配列は図13に示す形であった。また、突起を形成した面の反対側を同種のレーザで粗加工した。
【0084】
次に、PBT樹脂に炭素繊維を70:30(重量比)となるように添加した。全自動高せん断成形装置(NHSS2-28、ニイガタマシンテクノ製)を用いて高せん断加工を行った。前記装置は、可塑化部と高せん断加工部を備えている。
【0085】
まず、可塑化部にPBT樹脂(ノバデュラン5010L、三菱エンジニアリングプラスチックス製)および炭素繊維(SIGRAFIL C C6-4.0/240-T130、SGLカーボン製)を添加した。当該可塑化部にて、シングルスクリューによって、PBT樹脂と炭素繊維とを溶融混錬し、樹脂組成物を得た。溶融混錬の条件は、シリンダ温度:250℃、スクリュー回転数:20rpmとした。
【0086】
得られた樹脂組成物を、バルブゲートを介して高せん断加工部に供給した。前記樹脂組成物を内部帰還型スクリューによって循環させることにより、解繊した炭素繊維が熱可塑性樹脂中に分散している、炭素繊維複合樹脂を得た。高せん断加工部では、シリンダ温度260℃、スクリュー回転数500rpm、滞留時間:約45sec。
【0087】
得られた炭素繊維複合樹脂を、一般の射出成形手法に準じて100mm×25mm×厚み2.0mmの成形体とすることにより、第二部材を得た。
【0088】
第一部材に第二部材を図4に示す、長手方向の端部を接合する形で重ね合わせ、接合用の治具に設置した。次に第一部材の加工面の反対側を、LDレーザ(イエナオプティック社製)を用い、赤外線レーザを繰り返し照射して加熱した。レーザ照射条件は以下の通りである;出力:24W、波長:808nm、レーザスポット径:2mm、走査回数:10回。第一部材の伝熱により、第二部材の表面を溶融させ、第一部材と第二部材とを加圧することで接合構造体を得た。加圧はシリンダCQ2Φ20(SMC社製)を接合構造体に対して垂直に配置して行った。加圧条件はシリンダのエア圧0.3MPaで行った。
【0089】
〔実施例2〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件のうち出力を3Wとし、第一部材の加工形状を図10に示す形状の穿孔とし、穿孔配列を図13に示す形としたこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。穿孔の開口径は20μm、穿孔の深さは50μmであった。
【0090】
〔実施例3〕
高せん断加工条件をスクリュー回転数300rpm、滞留時間約30secとして、炭素繊維の解繊率を50%としたこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。
【0091】
〔実施例4〕
高せん断加工条件をスクリュー回転数300rpm、滞留時間約30secとして、炭素繊維の解繊率を50%としたこと以外は実施例2と同様に接合構造体を得た。
【0092】
〔比較例1〕
高せん断加工を行わず、炭素繊維の解繊率を0%としたこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。
【0093】
〔比較例2〕
高せん断加工を行わず、炭素繊維の解繊率を0%としたこと以外は実施例2と同様に接合構造体を得た。
【0094】
実施例1~4、比較例1~2の試験結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1より、炭素繊維が解繊している実施例1~4は、全く解繊していない比較例1および2と比較して、より強い冷熱衝撃耐性と接合を示すことがわかった。
【0097】
〔実施例5〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起配列を図12に示す形に、突起形状が図5に示す形になるようレーザ走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:380mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。
【0098】
〔実施例6〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起形状が図7に示す形になるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:900mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
【0099】
〔実施例7〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起配列を図12に示す形に、突起形状を図8に示す形になるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:700mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。
【0100】
〔実施例8〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起配列を図12に示す形に、突起形状が図9に示す形になるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:1W、周波数:10kHz、走査速度:380mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。
【0101】
〔実施例9〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、穿孔配列を図13に示す形に、穿孔形状が図11に示す形になるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:20回、サブパルス:5本。
【0102】
〔比較例3〕
第一部材に加工を行わなかったこと以外は実施例1と同様に、接合構造体を得た。
【0103】
実施例5~9および比較例3の結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2より、突起または穿孔を備える実施例5~9は、どちらも備えない比較例3と比較して、より強い冷熱衝撃耐性と接合を示すことがわかった。
【0106】
〔実施例10〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1200mm/s、走査回数:40回、サブパルス:20本。
【0107】
〔実施例11〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:40回、サブパルス:20本。
【0108】
〔実施例12〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:600mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
【0109】
〔実施例13〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起の間隔が約100μmになるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1040mm/s、走査回数:40回、サブパルス:20本。
【0110】
〔実施例14〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起の間隔が約150μmになるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1040mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
【0111】
実施例1および10~14の試験結果を表3に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
表3より、突起の間隔が5~150μmである実施例10~14は、いずれも良好な冷熱衝撃耐性と強い接合を示す。特に突起の間隔が10~100μmである場合により良好な耐性と接合を示し、さらに突起の間隔が20~50μmの場合に最も強い耐性と接合を示すことが分かった。
【0114】
〔実施例15〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:380mm/s、走査回数:40回、サブパルス:20本。
【0115】
〔実施例16〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:520mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
【0116】
〔実施例17〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起の幅が約100μmになるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1040mm/s、走査回数:40回、サブパルス:20本。
【0117】
〔実施例18〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更し、突起の幅が約200μmになるよう、走査軌道を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1040mm/s、走査回数:40回、サブパルス:20本。
【0118】
実施例1および15~18の試験結果を表4に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
表4より、突起の幅が10~200μmである実施例15~18は、いずれも良好な冷熱衝撃耐性と接合を示す。特に突起の幅が10~100μmである場合により良好な耐性と接合を示し、さらに突起の幅が20~50μmの場合に最も強い耐性と接合を示すことが分かった。
【0121】
〔実施例19〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:5回、サブパルス:20本。
【0122】
〔実施例20〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:10回、サブパルス:20本。
【0123】
〔実施例21〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:65回、サブパルス:20本。
【0124】
〔実施例22〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:130回、サブパルス10本。
【0125】
〔実施例23〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:200回、サブパルス:10本。
【0126】
実施例1および19~23の試験結果を表5に示す。
【0127】
【表5】
【0128】
表5より、突起の高さが15μm以上である実施例19~23は、いずれも良好な冷熱衝撃耐性と接合を示す。特に突起の高さが20μm以上である場合により良好な耐性と接合を示し、さらに突起の高さが50μm以上の場合に最も強い耐性と接合を示すことが分かった。
【0129】
〔実施例24〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:1W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
【0130】
〔実施例25〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:1W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。
【0131】
〔実施例26〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:20回、サブパルス:10本。
【0132】
〔実施例27〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1470mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
【0133】
〔実施例28〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:1840mm/s、走査回数:20回、サブパルス:10本。
【0134】
実施例2および24~28の試験結果を表6に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
表6より、穿孔の開口径が5~150μmである実施例24~28はいずれも良好な冷熱衝撃耐性と接合を示す。特に穿孔の開口径が10~100μmである場合により良好な耐性と接合を示し、さらに穿孔の開口径が50μmの場合に最も強い耐性と接合を示すことが分かった。
【0137】
〔実施例29〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:5回、サブパルス:20本。
【0138】
〔実施例30〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:10回、サブパルス:20本。
【0139】
〔実施例31〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:65回、サブパルス:15本。
【0140】
〔実施例32〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:130回、サブパルス:10本。
【0141】
〔実施例33〕
第一部材の穿孔を形成するためのレーザ照射条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例2と同様に接合構造体を得た。出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:1060mm/s、走査回数:200回、サブパルス:5本。
【0142】
実施例2および29~33の試験結果を表7に示す。
【0143】
【表7】
【0144】
表7より、穿孔の深さが15~300μmである実施例29~33はいずれも良好な冷熱衝撃耐性と接合を示す。特に穿孔の深さが20μm以上である場合により良好な耐性と接合を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の一態様は、例えば金属と炭素繊維複合樹脂による接合が必要な機器全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0146】
1 第一部材
2 第二部材
3 突起
4 穿孔
5 炭素繊維
6 レーザ加工部
11 レーザ照射部
12 レーザ照射重畳部
13 レーザ非照射部
21 径が拡大する領域
22 径が縮小する領域
31 突起の間隔
101、102 接合構造体
図1
図2
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