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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】磁気軸受装置および真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20240305BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020033228
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134886
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-089821(JP,A)
【文献】特開2003-161321(JP,A)
【文献】特開2017-075666(JP,A)
【文献】特開2018-132167(JP,A)
【文献】米国特許第6323614(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/00-32/06
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転駆動されるロータを磁気浮上支持し、4軸のラジアル軸と1軸のアキシャル軸とから成る5軸制御型の磁気軸受と、
前記ロータの浮上目標位置からの変位を検出して変位信号を出力する信号生成部と、
前記モータのモータ回転信号および前記変位信号に基づいて、前記アキシャル軸の電磁石で発生する周期的な振動モーメントを算出する演算部と、
前記振動モーメントを低減する電磁石力を発生させる制御電流を、前記ラジアル軸の電磁石に出力する電流制御部と、を備え、
前記演算部は、
前記ラジアル軸の前記変位信号および前記モータ回転信号に基づいて変位回転成分を抽出する抽出部と、
前記変位回転成分から円錐モード振れ回りの傾き角振幅および位相を算出する円錐モード演算部と、
前記円錐モード振れ回りの前記傾き角振幅および前記位相に基づいて、前記振動モーメントの振幅および位相を算出するモーメント演算部と、
を備える磁気軸受装置。
【請求項2】
請求項に記載の磁気軸受装置において、
前記電流制御部は、ステータ重心位置と各ラジアル軸の電磁石との軸方向位置関係に基づいて、前記振動モーメントを相殺する前記ラジアル軸の電磁石力を算出し、算出した電磁石力を発生させる制御電流を生成する、磁気軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気軸受装置において、
前記変位回転成分に起因する電磁石力を低減する電流変動量を前記ラジアル軸の電磁石に出力する振動低減部をさらに備える、磁気軸受装置。
【請求項4】
モータにより回転駆動されるロータと、
前記モータのモータ回転信号を生成する回転信号生成部と、
前記ロータを磁気浮上支持する5軸制御型の磁気軸受を有する請求項1からまでのいずれか一項に記載の磁気軸受装置と、を備える真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受装置および真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気懸垂式ロータでは、ロータアンバランスがあると、そのロータアンバランスに起因する回転周波数成分の振動が発生し、電磁石力の反作用によりその振動がステータ側に伝達される。特許文献1に記載の発明では、浮上制御の変位信号に含まれる回転周波数成分を低減して電磁石電流に含まれる回転周波数成分の電流を低減することで、回転周波数の振動を低減するようにしている。
【0003】
さらに、特許文献2に記載の発明では、電磁石電流に含まれる回転周波数成分の電流を単純に低減するにとどまらず、ロータ変位の回転成分に起因して電磁石で発生する力を相殺するように電磁石電流を制御することで、さらなる低振動化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭52-93852号公報
【文献】特開2017-75666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献2に記載の発明では、ロータ変位に関してラジアル方向の振れ回りに起因して発生する力を相殺するように制御している。しかしながら、本発明者は、ラジアル方向の振れ回りに起因して電磁石で発生する力に対応するだけでは振動低減効果が不十分であり、ロータの傾き変位に起因する振動発生が振動低減を阻害していることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様による磁気軸受装置は、モータにより回転駆動されるロータを磁気浮上支持し、4軸のラジアル軸と1軸のアキシャル軸とから成る5軸制御型の磁気軸受と、前記ロータの浮上目標位置からの変位を検出して変位信号を出力する信号生成部と、前記モータのモータ回転信号および前記変位信号に基づいて、前記アキシャル軸の電磁石で発生する周期的な振動モーメントを算出する演算部と、前記振動モーメントを低減する電磁石力を発生させる制御電流を、前記ラジアル軸の電磁石に出力する電流制御部と、を備える。
本発明の第2の態様による真空ポンプは、モータにより回転駆動されるロータと、前記モータのモータ回転信号を生成する回転信号生成部と、前記ロータを磁気浮上支持する5軸制御型の磁気軸受を有する上記磁気軸受装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁気軸受装置および真空ポンプの振動低減の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、磁気軸受装置を備える真空ポンプの概略構成を示す図である。
図2図2は、磁気軸受の電磁石配置を模式的に示した図である。
図3図3は、ターボ分子ポンプのモータ制御系および磁気軸受制御系の概略構成を示すブロック図である。
図4図4は、アキシャル磁気軸受に関する磁気浮上制御部のブロック図である。
図5図5は、ラジアル磁気軸受に関する磁気浮上制御部のブロック図である。
図6図6は、振動低減制御部の機能ブロック図である。
図7図7は、一軸分のラジアル磁気軸受に関する電磁石と変位センサを示す図である。
図8図8は、回転成分抽出部におけるX1軸の機能ブロック図を示す。
図9図9は、基準位相θで回転する座標上におけるΔdr1(Ω)/2を説明する図である。
図10図10は、円錐モード成分および円筒モード成分の成分分解のイメージ図である。
図11図11は、ロータ軸3が円錐モード成分の傾き角振幅τで傾いた場合のモーメントMを説明する図である。
図12図12は、変形例2における回転成分抽出部の機能ブロック図を示す図である。
図13図13は、基準位相θで回転する座標上におけるΔdr1x(Ω)を説明する図である。
図14図14は、ステータ重心Gsとラジアル電磁石の軸方向位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本実施の形態の磁気軸受装置を備える真空ポンプ1の概略構成を示す図である。図1に示す真空ポンプ1は磁気浮上式のターボ分子ポンプであり、ポンプ本体1Aと、ポンプ本体1Aを駆動するコントローラ1Bとを備えている。なお、コントローラ1Bはポンプ本体1Aと別体でも良いし、一体に設けられていても良い。
【0010】
ポンプ本体1Aに設けられた回転体Rは、ポンプロータ2とロータ軸3とを一体に締結したものである。ロータ軸3を磁気浮上支持する磁気軸受は5軸制御型磁気軸受であって、ロータ軸方向第1の位置に設けられたラジアル磁気軸受4x1,4y1と、ロータ軸方向第2の位置に設けられたラジアル磁気軸受4x2,4y2と、ロータ軸3を軸方向(Z軸方向)に沿って支持するアキシャル磁気軸受4zとを備えている。
【0011】
図2は、磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2,4zの電磁石の配置を模式的に示した図である。X1軸方向のラジアル磁気軸受4x1は、ロータ軸3を挟んで対向配置された一対の電磁石41p,41mを備えている。Y1軸方向のラジアル磁気軸受4y1は、ロータ軸3を挟んで対向配置された一対の電磁石42p,42mを備えている。X2軸方向のラジアル磁気軸受4x2は、ロータ軸3を挟んで対向配置された一対の電磁石43p,43mを備えている。Y2軸方向のラジアル磁気軸受4y2は、ロータ軸3を挟んで対向配置された一対の電磁石44p,44mを備えている。Z軸方向のアキシャル磁気軸受4zは、ロータ軸3に固定されたスラストディスク300を挟んで対向配置された一対の電磁石45p、45mを備えている。なお、本実施の形態では、図2の各軸において、電磁石41pのように符号にpを含む電磁石をp側の電磁石と呼び、反対側の電磁石41mをm側の電磁石と呼ぶことにする。
【0012】
図1に示すように、X1軸およびY1軸のラジアル磁気軸受4x1,4y1の各々に対応して、ラジアル変位センサ5x1,5y1が設けられている。同様に、X2軸およびY2軸のラジアル磁気軸受4x2,4y2の各々に対応して、ラジアル変位センサ5x2,5y2が設けられている。また、Z軸のアキシャル磁気軸受4zに対応してアキシャル変位センサ5zが設けられている。磁気軸受により磁気浮上支持されたロータ軸3の浮上位置は、ラジアル変位センサ5x1,5y1,5x2,5y2およびアキシャル変位センサ5zによって検出される。
【0013】
磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2,4zによって回転自在に磁気浮上されたロータ軸3はモータ6により回転駆動される。モータ6には、例えば、ブラシレスDCモータ等が用いられる。磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2,4zが動作していないときには、ロータ軸3は非常用のメカニカルベアリング7a,7bによって支持される。磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2,4z、変位センサ5x1,5y1,5x2,5y2,5z、モータ6およびメカニカルベアリング7a,7bは、ベース8に配置されている。
【0014】
ポンプロータ2には、回転側排気機能部を構成する複数段の回転翼2aと円筒部2bとが形成されている。一方、固定側には、固定側排気機能部である固定翼8aとネジステータ8bとが設けられている。複数段の固定翼8aはスペーサ9を介して積層され、軸方向に対して回転翼2aと交互に配置される。ネジステータ8bは、円筒部2bの外周側に所定のギャップを隔てて設けられている。
【0015】
図3は、ターボ分子ポンプ1のモータ制御系および磁気軸受制御系の概略構成を示すブロック図である。コントローラ1Bは、AC/DCコンバータ20、DC/DCコンバータ21、DC電源23、インバータ24、励磁アンプ25、センサ回路26、モータ制御部30および軸受制御部31を備えている。外部からのAC入力は、AC/DCコンバータ20によってDC出力(DC電圧)に変換される。AC/DCコンバータ20から出力されたDC電圧はDC/DCコンバータ21に入力され、DC/DCコンバータ21によってモータ駆動用のDC電圧と磁気軸受駆動用のDC電圧とが生成される。
【0016】
モータ駆動用のDC電圧はインバータ24に入力される。磁気軸受駆動用のDC電圧はDC電源23に入力される。上述したように磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2,4zは5軸制御型磁気軸受であって、各軸には一対の電磁石がそれぞれ設けられている。各電磁石には、電磁石電流を供給する励磁アンプ25がそれぞれ設けられている。すなわち、10個の励磁アンプ25が設けられている。また、5軸の各軸に対応して設けられた5組の変位センサ5x1,5y1,5x2,5y2,5zに対して、センサ回路26がそれぞれ設けられている。
【0017】
モータ制御部30は、モータ6を駆動制御する。軸受制御部31は、磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2,4zを駆動制御する。モータ制御部30および軸受制御部31は、CPU、メモリ(RAMおよびROM)および周辺回路を備えるマイクロプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)等で構成される。
【0018】
インバータ24からモータ制御部30へは、モータ6の相電圧および相電流に関する信号302が入力される。モータ制御部30からインバータ24へは、インバータ24に設けられたスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号301が出力される。軸受制御部31は、各センサ回路26に対してセンサキャリア信号(搬送波信号)305を出力する。各センサ回路26から軸受制御部31へは、浮上位置変化により変調された浮上位置信号(変位センサ信号)306が入力される。また、軸受制御部31は、励磁アンプ25に設けられたスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号(制御信号)303を各励磁アンプ25へ出力する。各励磁アンプ25から軸受制御部31へは、磁気軸受の電磁石電流に関する電流信号304が入力される。
【0019】
前述したように、特許文献2に記載の発明では、ロータ変位に関してラジアル方向の振れ回りに起因して発生する力を相殺するように制御している。ところで、回転体Rのアンバランスで生じる回転成分の振れ回り変位は、円筒(パラレル)モードの成分と円錐(コニカル)モードの成分とから構成される。円錐モードにおいては、アキシャル電磁石の軸(図1のZ軸)に対してロータ軸3が傾く。ロータ軸3が傾くとスラストディスク300も傾いて、アキシャル電磁石45p,45mの吸引力によるモーメントMが回転体Rに対して発生する。そして、そのモーメントMの反作用により、アキシャル軸の電磁石力を介してベース8側に振動が伝達されることになる。
【0020】
上述した特許文献2に記載の発明では、ラジアル方向の振れ回りに起因して発生する力を相殺するように制御しており、上記モーメントMに起因する振動は考慮されていなかった。本実施の形態では、後述するように、アキシャル電磁石の吸引力による周期的な振動モーメントMを相殺するような電磁石力をラジアル電磁石により発生させることで、モーメントMに起因する振動あるいは騒音の低減を可能とした。
【0021】
図4~6は、軸受制御部31の主要機能を示す機能ブロック図である。図4および5は、軸受制御部31における磁気浮上制御に関する磁気浮上制御部310のブロック図である。図4はアキシャル磁気軸受4zに関する磁気浮上制御部310aを示したものであり、図5はラジアル磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2に関する磁気浮上制御部310bを示したものである。図5の磁気浮上制御部310bはラジアル4軸の内の1軸分の制御に関する構成を示したものであり、各ラジアル磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2に対して磁気浮上制御部310bがそれぞれ設けられる。また、図6は、軸受制御部31における振動低減に関する振動低減制御部320のブロック図である。
【0022】
図4に示すアキシャル磁気軸受4zに関する磁気浮上制御部310aにおいて、浮上制御器417には、アキシャル磁気軸受4zの変位センサ5zに関するセンサ回路26から出力された変位センサ信号Szが入力される。浮上制御器417は、入力された変位センサ信号Szに基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正、その他の制御補償を行い、浮上制御電流設定量を生成する。
【0023】
浮上制御器417から出力された浮上制御電流設定量には、バイアス電流設定量(直流成分)が加算される。電磁石45pの制御には、浮上制御電流設定量にマイナス符号を付したものにバイアス電流設定量を加算したものが用いられる。電磁石45mの制御には、浮上制御電流設定量にバイアス電流設定量を加算したものが用いられる。バイアス電流設定量が加算された浮上制御電流設定量は、それぞれ電流リミッタ回路440p,440mに入力される。なお、電流リミッタ回路440p,440mに図示した入出力特性は、浮上制御電流設定量を横軸として図示している。
【0024】
例えば、図2のスラストディスク300が電磁石45pに近づいた場合、電磁石45pに近づくほど浮上制御器417から出力される浮上制御電流設定量は大きくなり、(バイアス電流設定量)-(浮上制御電流設定量)は小さくなる。この場合、電流リミッタ回路440pに入力される浮上制御電流設定量は電磁石電流を小さくするような設定となる。通常、電流下限値はゼロに設定される。ただし、変位センサを用いる代わりに電磁石自体でロータ変位を検出する、所謂、セルフセンシング方式においては、浮上制御電流設定量が過大になった場合でも電磁石電流がゼロにならないように、電流リミッタ回路440pは下限を設けて出力を設定することがある。電磁石45mの電流リミッタ回路440mも、スラストディスク300が電磁石45mに近づき過ぎた場合に、電流リミッタ回路440pと同様の動作をする。
【0025】
電流リミッタ回路440p,440mから出力された電流設定(出力信号)は、それぞれフィードバックされた励磁電流信号との差分がとられる。励磁アンプ25p,25mの電流制御器250p,250mは、電流設定とフィードバックされた電磁石電流成分との差分がゼロとなるように、例えばPI演算により励磁電流信号を生成する。励磁アンプ25p,25mは生成した励磁電流信号に基づいて、電磁石45p,45mに電磁石電流ipz,imzを供給する。電磁石電流ipz,imzの電流値信号(以下では、電磁石電流と同一符号ipz,imzで表す)は振動低減制御部320に入力される。
【0026】
図5はラジアル1軸分の磁気浮上制御部310bを示すブロック図であり、ラジアル磁気軸受4x1(X1軸)に関するものを示す。他のラジアル磁気軸受4y1(Y1軸),4x2(X2軸),4y2(Y2軸)についても同様の構成となる。図5に示すラジアル軸に関しては、センサ回路26から出力された変位センサ信号Sx1は、磁気浮上制御部310bの浮上制御器417に入力されると共に振動低減制御部320にも入力される。
【0027】
また、磁気浮上制御部310bでは、電流リミッタ回路440p,440mから出力された電流設定(出力信号)は、それぞれフィードバックされた励磁電流信号との差分がとられる。さらに、磁気浮上制御部310bには振動低減制御部320から後述する制御信号が入力され、励磁アンプ25pの電流制御器250pへ加算入力され、励磁アンプ25mの電流制御器250mへは減算入力される。本実施の形態では、このように差分信号に振動低減制御部320からの制御信号を加算・減算した信号に基づいて励磁電流信号を生成することにより、ポンプ振動の低減を図るようにしている。
【0028】
なお、図5に示す例では、振動低減制御部320からの制御信号を電磁石の電流制御器250p,250mへ入力したが、特許文献2に記載のように浮上制御器417の入力部へ入力しても良い。ただし、その場合には、予め浮上制御器417のゲイン分、位相分を補正しておく必要がある。
【0029】
図6は、振動低減制御部320の機能ブロック図である。振動低減制御部320には、ラジアル4軸(X1軸、Y1軸、X2軸、Y2軸)の各変位センサ5x1,5y1,5x2,5y2で検出された変位センサ信号Sx1,Sy1, Sx2, Sy2、ラジアル4軸およびアキシャル軸の各電磁石45p,45mに対して設けられた各励磁アンプ25で検出された電流値信号ipx1,imx1, ipy1,imy1,ipx2,imx2,ipy2,imy2, ipz,imzが入力される。さらに、振動低減制御部320には、モータ制御部30から基準回転信号(基準電気角)θが入力される。なお、以下では各軸の電磁石のp側を各軸の変位の正方向とする。また、基準回転信号θは、X軸正方向(X1軸、X2軸)を位相0°、Y軸(Y1軸、Y2軸)正方向を位相90°とし、反時計方向へ回転するものとする。
【0030】
なお、本実施の形態では、特許文献2に記載の発明の場合と同様にモータ駆動系を回転センサレス方式であることを前提とし、モータ制御部30から基準回転信号θが入力される構成とした。しかしながら、回転センサ(ホールセンサ、レゾルバなど)を備える方式のモータ駆動系を備えるものであって、回転センサによる回転信号を基準回転信号として用いても良い。
【0031】
振動低減制御部320は、入力された各信号に基づいて振動低減のための制御信号を生成し、その制御信号を各ラジアル軸の磁気浮上制御部310bへと出力する。本実施の形態では、制御信号生成に関する以下の(A)~(F)の処理について順に説明する。
(A)電流変動量及び変位変動量による電磁石力変動量の線形定式化
(B)変位変動量に起因する電磁石力を相殺するための電流変動量の演算
(C)ロータアンバランスによる振れ回り変位回転成分のモード分解
(D)アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの演算
(E)モーメントMを相殺するラジアル軸の電磁石力の演算
(F)モーメントMを相殺するラジアル軸の電磁石力に対応する電流相当変動量の演算
【0032】
まず、図6の振動低減制御部320における各機能ブロックの概略を説明する。図6の振動低減制御部320は、モーメントMに起因する振動の低減に関するブロック(円錐モード抽出部324,モーメント演算部325,相殺力演算部326)と、変位変動量に起因する振動の低減に関するブロック(電流変動成分演算部328)とを備えている。
【0033】
振動低減制御部320において、X1軸Y1軸およびX2軸Y2軸の変位回転数成分を抽出する回転成分抽出部321a,321bでは上記(B)の演算に必要な変位センサ信号の回転数成分を抽出する。X1軸Y1軸、X2軸Y2軸に関する直流電流抽出部322a,322bでは、上記(B)の演算に必要な電流値信号の直流成分を抽出する。また、Z軸の電流値信号の直流成分は直流電流抽出部323で抽出され、モーメント演算部325に入力される。円錐モード抽出部324では、X1軸Y1軸およびX2軸Y2軸に関する回転成分抽出部321a,321bからの変位回転成分値に基づいて上記(C)のモード分解を行い、回転成分振れ回り変位の円錐モード成分(τ、φ_co)を求める。
【0034】
モーメント演算部325では、Z軸の電流値信号の直流成分と円錐モード成分(τ、φ_co)に基づいて上記(D)のモーメントMの演算、すなわち、モーメント値の振幅|M(Ω)|および位相φ_Mを演算する。モーメント演算部325で演算されたモーメントMを打ち消すための相殺力を演算する相殺力演算部326では、モーメント演算部325の演算結果に基づいて、X1軸Y1軸およびX2軸Y2軸で必要なモーメント相殺力の振幅|F1(Ω)| ,|F2(Ω)|および位相φ_F1,φ_F2を演算する。
【0035】
出力信号演算部327では、相殺力演算部326で演算されたモーメント相殺力の振幅および位相に基づいて、モーメントMを相殺するための電磁石力をラジアル磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2で発生させるに必要な電流相当出力信号を演算する。また、出力信号演算部327は、電流変動成分演算部328により算出される変位変動に起因する振動低減するための電流回転成分Δi(Ω)に基づく電流相当出力信号も出力する。演算された電流相当出力信号は、制御信号としてラジアル4軸の磁気浮上制御部310bに入力される。
【0036】
次いで、上述した(A)~(F)処理の詳細内容、および、それらに対応する機能ブロックにおける処理動作について説明する。
[(A):電流変動量及び変位変動量による電磁石力変動量の線形定式化]
図1に示したポンプ本体1Aは、ユーザの用途に応じて、ロータ軸方向が重力方向と一致する正立姿勢で設置されたり、ポンプ本体1Aを斜めに傾けた姿勢で設置されたりする。従って、電磁石力については重力方向の影響も考慮して説明する。重力の影響を受ける軸では、互いに対向するp側の電磁石の力とm側の電磁石の力とは非対称になるので、励磁電流信号の直流電流値成分も非対称になる。
【0037】
図7は、ロータ軸3と、1軸分のラジアル磁気軸受4x1の電磁石41p,41mと、それらに対応して設けられた変位センサ5x1とを示す図である。変位センサ5x1は、p側の電磁石41pに対応して設けられる変位センサ5x1pと、m側の電磁石41mに対応して設けられる変位センサ5x1mとを備えている。
【0038】
電磁石41p,41mに流れる電磁石電流ip、imには、所定の軸受剛性を確保するための直流電流成分(バイアス電流とも呼ばれる)と、ロータ軸5の浮上位置を制御するための電流変動成分とが含まれている。ここでは、電磁石電流ipの直流電流成分および電流変動成分をIp,Δipと表し、電磁石電流imの直流電流成分および電流変動成分をIm,Δimと表す。一般に、Δip=-Δim=Δiのように設定される。電流変動成分Δiを変動させることで、ロータ軸3の浮上位置(以下では、ロータ浮上位置と呼ぶ)が目標浮上位置Jとなるように制御する。
【0039】
直流電流成分Ip,Imは、図6の直流電流抽出部322a,322bで抽出される。直流電流抽出部322aは、入力されたX1軸およびY1軸の電流値信号ipx1,imx1, ipy1,imy1をローパスフィルタ(LPF)によりフィルタリングして、それぞれの直流電流成分Ipx1,Imx1, Ipy1,Imy1を抽出する。同様に、X2軸およびY2軸に関する直流電流抽出部322bは、入力された電流値信号ipx2,imx2,ipy2,imy2をローパスフィルタ(LPF)によりフィルタリングして直流電流成分Ipx2,Imx2, Ipy2,Imy2を抽出する。
【0040】
なお、予め重力に対するポンプ本体1A(磁気軸受)設置姿勢がわかっている場合は、励磁電流の直流電流値は予めわかるので、直流電流値検出用のLPFをすることが省略できる。すなわち、図6の直流電流抽出部322a,322b,323が不要となる。
【0041】
真空ポンプなど磁気軸受装置が設置されると重力方向が固定されるので、基本的に電磁石に流れる直流電流値は変化しない。そのため、直流電流抽出部322a,322b,323には、極めて低い周波数(例えば0.1Hz以下)にコーナー周波数を設定したLPFを使用する。なお、上述のように観測測定した直流電流値を適用する以外に、本発明の振動低減制御を実施したい条件が予め定まっているのであれば、その条件に適切な直流電流値を予め記憶しておき、その直流電流値を適用しても良い。
【0042】
図7において、ロータ浮上位置の目標浮上位置Jから電磁石41p方向への変位変動量、すなわち、X1軸の正方向の変位変動量をΔdrと表す。回転体Rが回転すると、回転体Rのアンバランスによる振れ回り変位(すなわち、変位変動量Δdr)が必ず存在する。Dp,Dmは、ロータ浮上位置が目標浮上位置Jに浮上している場合の、ロータ軸3と電磁石41p,41mとのギャップ(クリアランス)である。図7に示す瞬間のロータ軸3と電磁石41p,41mとのギャップは、Dp-Δdr、Dm+Δdrである。なお、図7に示す関係はX1軸に限らずラジアル4軸の各々で成立する。
【0043】
ロータ軸3が目標浮上位置Jにおいて平衡状態(すなわち、変動しない状態)にあるときには、対向するp側の電磁石41pの吸引力Fpおよびm側の電磁石41mの吸引力Fmは、それぞれ次式(1),(2)のように表される。なお、係数k[Nm/A]は電磁石係数である。
Fp=k(Ip/Dp) …(1)
Fm=k(Im/Dm) …(2)
【0044】
図7では、吸引力Fpの増加に対応する変位変動量Δdr(>0)と電流変動成分Δiを示している。このような変位変動量Δdrおよび電流変動成分Δiに対する吸引力Fp,Fmの変動量ΔFp,ΔFmは、式(1)、(2)を用いて次式(3)、(4)のように表される。
ΔFp=(2k×Ip/Dp)Δi+(2k×Ip/Dp)Δdr …(3)
ΔFm=(-2k×Im/Dm)Δi+(-2k×Im/Dm)Δdr …(4)
【0045】
吸引力Fp,Fmは互いに逆向きになっているので、ロータ軸3に作用する電磁石力の変動量はΔFp-ΔFmとなり、式(5)で表される。
ΔFp-ΔFm={(2k×Ip/Dp)+(2k×Im/Dm)}Δi
+{(2k×Ip/Dp)+(2k×Im/Dm)}Δdr …(5)
【0046】
式(3)~(5)において、右辺第1項は電流変動成分Δiに起因する電磁石力の変動であって、右辺第2項は目標浮上位置からの変位変動量Δdrに起因する電磁石力の変動である。すなわち、各軸の電磁石力の変動量は、電流変動量に起因する力と変位変動量に起因する力から構成されることを示している。本実施の形態で低減対象となっている振動はロータアンバランスに起因する振動なので、式(3)~(5)における各変動量は回転成分の振れ回りのみを考えればよい。すなわち、式(5)において、右辺第1項は振れ回り電流に起因する力であり、右辺第2項は振れ回り変位に起因する力である。
【0047】
[(B):変位変動量に起因する電磁石力を相殺するための電流変動量]
図6の電流変動成分演算部328では、変位変動量に起因する電磁石力を相殺するための電流変動量を算出する。本実施の形態においては、特許文献2に記載の発明の場合と同様に、式(5)の右辺第2項に示す振れ回り変位に起因する力、すなわち、変位変動量Δdrに起因する力を、電磁石電流の電流変動成分Δiに起因する力で相殺する。そのためには、式(5)のΔFp-ΔFmがゼロとなるように、電流変動成分Δiを次式(6)のように設定する必要がある。I_Dはポンプ本体1Aの設置姿勢により決まる定数である。ギャップDp,Dmは、精度良く製作されている場合には設計値を用いることができ、予め軸受制御部31のメモリに記憶しておく。
Δi=-I_D×Δdr …(6)
ただし、I_D={(Ip/Dp+Im/Dm)/(Ip/Dp+Im/Dm)}
【0048】
一般には、目標浮上位置は電磁石45p,45mの中間位置に設定されるのでDp=Dm=Dとなり、Δiは次式(7)のようになる。
Δi=-(1/D)×{(Ip+Im)/(Ip+Im)}×Δdr …(7)
【0049】
ここで、変位変動量Δdrの内の角振動数Ωを有する周波数成分である変位回転成分Δdr(Ω)は、回転基準信号θ(=Ω×t)を用いてオイラー表示で表すと、次式(8)のように表される。まお、変位回転成分Δdr(Ω)の算出方法については後述する。同様に、電流変動成分Δiの内の角振動数Ωを有する周波数成分である電流回転成分Δi(Ω)は、次式(9)のように表される。|dr(Ω)|は変位回転成分Δdr(Ω)の振幅値であり、|i(Ω)|は電流回転成分の振幅値である。
Δdr(Ω)=|dr(Ω)|expj(θ+φ1) …(8)
Δi(Ω)=|i(Ω)| expj(θ+φ2) …(9)
【0050】
なお、回転基準信号θは、ロータ軸3の回転速度(角振動数)Ωを用いてθ=Ω×tと表される基準電気角であり、本実施形態では図6に示すように、モータ制御部30から入力される基準電気角θが用いられる。モータ駆動系では、回転センサ、例えば、モータ磁極位置を検出するホールセンサ等を備える場合にはその検出信号から基準電気角θが生成され、回転センサレス構成の場合にはモータ起電圧を利用して基準電気角θが生成される。本実施形態では、基準電気角θの生成方法については特に限定されない。
【0051】
変位回転成分Δdr(Ω)に起因する力の変動を電流回転成分Δi(Ω)に起因する力の変動で打ち消して回転成分の振動を除去するためには、次式(10)の振幅条件および次式(11)の位相条件を満たす必要がある。図6の電流変動成分演算部328は、電流回転成分Δi(Ω)に関する演算結果(式(8)~式(11))を出力信号演算部327へ出力する。
|i(Ω)|=I_D×|dr(Ω)| …(10)
θ+φ2=θ+φ1+π …(11)
【0052】
本実施の形態の真空ポンプのように高速回転状態を対象とする場合、|dr(Ω)|はX軸とY軸の振幅値が等しいと考えて良く、振れ回り変位である変位回転成分Δdr(Ω)はX-Y座標上で円軌道を描くことになる。ただし、|i(Ω)|は、回転体Rが重力に対してXY対称配置で無い限りX軸とY軸とで等しくないので、Δi(Ω)はX-Y座標上で楕円軌道を描くことになる。オイラー表示の式(8)、(9)をXY座標表示に書き換えると、次式(12)~(15)となる。ここで、Δi(Ω)はX-Y座標上で楕円軌道をとるので、改めて各々の振幅|i(Ω)|を|ix(Ω)|, |iy(Ω)|と表現している。
Δdrx(Ω)=Re(Δdr(Ω))=|dr(Ω)|cos(θ+φ1) …(12)
Δdry(Ω)=Im(Δdr(Ω))=|dr(Ω)|sin(θ+φ1) …(13)
Δix(Ω)=Re(Δix(Ω))=|ix(Ω)|cos(θ+φ2) …(14)
Δiy(Ω)=Im(Δiy(Ω))=|iy(Ω)|sin(θ+φ2) …(15)
【0053】
図6の出力信号演算部327は、ラジアル4軸の各軸に対して、式(10),(11)を満たす次式(16)~(19)に示すような制御信号を生成し、図6の振動低減制御部320から各磁気浮上制御部310bへ出力する。その結果、変位回転成分Δdr(Ω) に起因して発生する変動力を、各軸においてそれぞれ電流回転成分Δi(Ω)に起因する変動力により相殺する。
【0054】
ラジアルX1軸Y1軸へ出力される制御信号は、次式(16),(17)のように表される。
Δix1(Ω)=|ix1(Ω)|cos(θ+φ21) …(16)
Δiy1(Ω)=|iy1(Ω)|sin(θ+φ21) …(17)
ただし、式(10),(11)から、
|ix1(Ω)|=I_Dx1×|dr1(Ω)|、|iy1(Ω)|=I_Dy1×|dr1(Ω)|
θ+φ21=θ+φ11+π
である。なお、φ11およびφ21は、式(11)のφ1およびφ2に対応する位相である。
【0055】
同様に、ラジアルX2軸Y2軸へ出力される制御信号は、次式(18),(19)のように表される。
Δix2(Ω)=|ix2(Ω)|cos(θ+φ22) …(18)
Δiy2(Ω)=|iy2(Ω)|sin(θ+φ22) …(19)
ただし、
|ix2(Ω)|=I_Dx2×|dr2(Ω)|、|iy2(Ω)|=I_Dy2×|dr2(Ω)|
θ+φ22=θ+φ12+π
である。なお、φ22およびφ12は、式(11)のφ1およびφ2に対応する位相である。
【0056】
[(C):ロータアンバランスによる振れ回り変位回転成分のモード分解]
本実施の形態では、上述した変位回転成分Δdr(Ω)に起因する振動の低減に加えて、アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMに起因する振動の低減を図る。モーメントMは、変位回転成分の円錐モード成分に起因して発生する。そこで、アキシャル磁気軸受4zの電磁石45p,45mで発生するモーメントMを推定演算するために、モーメントMの原因となる変位回転成分の円錐モード成分を求める必要がある。
【0057】
(変位回転成分の抽出)
まず、図2の上側のラジアル軸(X1軸Y1軸)の変位センサ信号Sx1,Sy1および下側のラジアル軸(X2軸Y2軸)の変位センサ信号Sx2,Sy2に基づいて、変位回転成分を抽出する。変位回転成分の抽出は、図6の回転成分抽出部321a,321bによって行われる。
【0058】
図8は、回転成分抽出部321aにおけるX1軸の機能ブロック図を示したものである。Y1軸、X2軸およびY2軸の各々に対しても同様の機能ブロックが設けられる。ここでは、X1軸を例に説明する。回転成分抽出部321aの信号乗算部330は、入力された変位センサ信号Sx1から回転成分を抽出するために、モータ制御部30から入力された回転基準信号θに基づく信号cosθ,sinθを生成し、変位センサ信号Sx1に信号cosθ,sinθを乗算する。変位センサ信号Sx1に信号cosθ,sinθを乗算した信号をローパスフィルタ331に通過させると、回転成分のみにフィルタリングされ、cosθ成分およびsinθ成分の各振幅値に分離される。
【0059】
変位センサ信号Sx1は変位にほぼ比例した信号となり、変位センサ信号Sx1の回転成分はX1軸Y1軸の変位回転成分Δdr1(Ω)のX1軸成分に比例した信号と考えることができる。ここで、変位センサ信号Sx1の回転成分が、回転基準信号θに対してSx1=S0×cos(θ+φ11)のように変動している場合を考える。φ11は回転基準信号θに対する位相ずれを表す。このとき、変位センサ信号Sx1の回転成分の代わりに、それに比例する量である変位回転成分Δdr1(Ω)のx成分をΔdr1x(Ω)と表すと、Δdr1x(Ω)は、式(12)の場合と同様に式(20)で表される。さらに、Δdr1x(Ω)にcosθ、sinθを乗算したものは次式(21),(22)のように表される。|dr1(Ω)|は変位回転成分Δdr1(Ω)の振幅値である。
Δdr1x(Ω)=|dr1(Ω)| cos(θ+φ11)
=|dr1(Ω)|(cosθcosφ11-sinθsinφ11) …(20)
Δdr1x(Ω)×cosθ=(|dr1(Ω)|/2){cosφ11(1+cos2θ)-sinφ11 sin2θ}
…(21)
Δdr1x(Ω)×sinθ=(|dr1(Ω)|/2){cosφ11 sin2θ-sinφ11 (1-cos2θ)}
…(22)
【0060】
式(21),(22)で表される信号をローパスフィルタ331でフィルタリングすると、2θを含む項は除去され、式(21)のΔdr1x(Ω)×cosθからは直流成分としてad=(|dr1(Ω)|/2)cosφ11が抽出され、式(22)のΔdr1x(Ω)×sinθからは直流成分としてbd=-(|dr1(Ω)|/2)sinφ11が抽出される。変位回転成分Δdr1(Ω)に関して、Δdr1(Ω)/2を図9に示すように基準位相θで回転する座標上の矢線ベクトルで表すと、横軸(基準位相θ方向)の成分は(|dr1(Ω)|/2)cosφ11=adで、縦軸(基準位相θ+π/2方向)の成分は(|dr1(Ω)|/2)sinφ11=-bdである。
【0061】
振幅演算部332では、adおよびbdに基づいて、振幅|dr1(Ω)|が次式(23)のように算出される。位相演算部333では、回転基準信号θに対する位相φ11が次式(24)のように算出される。なお、式(20)~式(24)は、回転成分抽出部321aで得られるX1軸Y1軸の変位回転成分Δdr1(Ω)に関するものであるが、X2軸Y2軸に関する回転成分抽出部321bでは、X2軸Y2軸の変位回転成分Δdr2(Ω)に関して、式(20)~式(24)おいて符号dr1、φ11を符号dr2、φ12で置き換えた同様の式が算出される。
|dr1(Ω)|=2√(ad+bd) …(23)
φ11=arctan(-bd/ad) …(24)
【0062】
通常、抽出する回転成分信号は振幅が微小(数μmレベル以下)であるため、ローパスフィルタだけではノイズ除去が不完全なことがある。そのような観測環境ではローパスフィルタだけでなく最小二乗法など最適化手法も併用すると振幅値、位相値の精度アップに効果的である。なお、ここでは単独軸ごとに計算結果が出るので、理想的には、X軸信号入力とY軸信号入力の両結果が同一値になるが、現実には誤差を有する。そのため、例えば、振幅値、位相値ともに両者の平均値を回転成分の振幅値、位相値として適用する。
【0063】
(円錐モード成分の演算)
次に、変位回転成分から円錐モード成分を求める。円錐モード抽出部324は、回転成分抽出部321aで抽出されたラジアルX1軸Y1軸の振れ回り変位(変位回転成分)の振幅|dr1(Ω)|および位相φ11と、回転成分抽出部321bで抽出されたラジアルX2軸Y2軸の振れ回り変位(変位回転成分)の振幅|dr2(Ω)|および位相φ12とから、円錐モードの傾き角振幅τおよび位相φ_coを求める。
【0064】
図10は、ラジアルX1軸Y1軸における変位回転成分Δdr1(Ω)とラジアルX2軸Y2軸における変位回転成分Δdr2(Ω)とに基づく、円錐モード振れ回り成分および円筒モード振れ回り成分への成分分解のイメージ図である。円錐モード振れ回りの傾き角振幅τ、位相φ_coに対して、円筒モード振れ回りの振幅をε、位相をφ_cyとする。変位回転成分Δdr1(Ω),Δdr2(Ω)は次式(25),(26)で表される。
Δdr1(Ω)=|dr1(Ω)|expj(θ+φ11) …(25)
Δdr2(Ω)=|dr2(Ω)|expj(θ+φ12) …(26)
【0065】
図10においてL1,L2は、回転体Rの重心G、すなわちロータ重心Gからセンサ位置までの距離を表しており、予め軸受制御部31のメモリに記憶しておく。変位回転成分Δdr1(Ω),Δdr2(Ω)に対して、ロータ重心Gから単位長さ(=1)位置における円錐モード振れ回りΔdr_co(Ω)および円筒モード振れ回りΔdr_cy(Ω)は、次式(27),(28)で表される。
Δdr_co(Ω)=1×tanτ×expj(θ+φ_co) …(27)
Δdr_cy(Ω)=ε×expj(θ+φ_cy) …(28)
【0066】
Δdr1(Ω)はロータ重心Gから長さL1位置における変位回転成分であるから、式(27),(28)から次式(29)のように表される。同様に、Δdr2(Ω)はロータ重心Gから長さL2位置における変位回転成分であるから、式(27),(28)から次式(30)のように表される。
Δdr1(Ω)=L1×Δdr_co(Ω)+Δdr_cy(Ω) …(29)
Δdr2(Ω)=L2×Δdr_co(Ω)+Δdr_cy(Ω) …(30)
【0067】
式(29),(30)から円錐モード振れ回りΔdr_co(Ω)および円筒モード振れ回りΔdr_cy(Ω)を求めると、次式(31),(32)のようになる。
Δdr_co(Ω)=(Δdr1(Ω)-Δdr2(Ω))/(L1+L2) …(31)
Δdr_cy(Ω)=(L2×Δdr1(Ω)+L1×Δdr2(Ω))/(L1+L2) …(32)
【0068】
式(31),(32)より円錐モード振れ回りおよび円筒モード振れ回りの振幅,位相を求めると、以下のようになる。
(円錐モード成分)
傾き角振幅:τ=atan[1/(L1+L2) √H]
H=(|dr1(Ω)|cosφ11-|dr2(Ω)|cosφ12)
+(|dr1(Ω)|sinφ11-|dr2(Ω)|sinφ12)
位相:φ_co=atan[K]
K=(|dr1(Ω)|sinφ11-|dr2(Ω)|sinφ12) / (|dr1(Ω)|cosφ11-|dr2(Ω)|cosφ12)
(円筒モード成分)
振幅:ε=1/(L1+L2)√N
N=(L2×|dr1(Ω)|cosφ11+L1×|dr2(Ω)|cosφ12)
+(L2×|dr1(Ω)|sinφ11+L1×|dr2(Ω)|sinφ12)
位相:φ_cy=atan[P/Q]
P=L2×|dr1(Ω)|sinφ11+L1×|dr2(Ω)|sinφ12
Q=L2×|dr1(Ω)|cosφ11+L1×|dr2(Ω)|cosφ12
【0069】
[(D):アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの演算]
アキシャル電磁石で発生するモーメントMの演算は、図6のモーメント演算部325で行われる。なお、後述する電磁石係数kz、ギャップDz、スラストディスク300の吸引力半径rは、軸受制御部31のメモリに予め記憶しておく。アキシャル軸の電磁石に関しても、上述した電磁石力の線形化が成立する。すなわち、アキシャル方向の変位変動量|drz(Ω)|に起因する電磁石力の変動量は、次式(33)のように表される。アキシャル軸方向に配置された電磁石間の中央位置を浮上位置とし、Dpz=Dmz=Dzとおくと、次式(34)が得られる。
{(2kz×Ipz/Dpz)+(2kz×Imz/Dmz)} |Δdrz(Ω)| …(33)
(2kz/Dz)(Ipz+Imz) |Δdrz(Ω)| …(34)
【0070】
図11は、ロータ軸3が円錐モード成分の傾き角振幅τで傾いた場合のモーメントMを説明する図である。スラストディスク300への吸引力作用点を軸心から半径rとする。なお、傾き角τは極めて小さい値なので半径rは軸心からの距離とみなして良い。ここで、モーメントMの力に対応する|Δdrz(Ω)|は円錐モードの傾きτによる変位変動量のみであるから、|Δdrz(Ω)|は半径rの円周ξ(0≦ξ<2π)に沿ってr×sinτ×cosξのように変化する。そのため、式(34)の電磁石の分布力の変動量も次式(35)のようになる。
(2kz/Dz)(Ipz+Imz)/(2π)×rsinτ×cosξ …(35)
【0071】
一方、モーメントMを構成する距離は、rcosξで変化する。従って、モーメントMは(分布力)×(距離)の円周ξの0度から360度までの積分となる。ξの0→90度→180度→270度→360度という変化に関して、式(35)の電磁石力の変動量も距離(rcosξ)も90度ごとで対称性があることから、0度から360度までの積分値は、0度から90度までの積分値の4倍となる。すなわち、モーメントMの振幅|M(Ω)|は次式(36)のようになる。なお、∫(cosξ)dξ(0≦ξ≦π/2)=π/4を用いた。
|M(Ω)|=4×(2kz/Dz)(Ipz+Imz)/(2π)×rsinτ×∫(cosξ)
=(kz/Dz)(Ipz+Imz)rsinτ …(36)
【0072】
また、モーメントMの位相φ_Mは、振れ回り変位の円錐モードの位相φ_coの90度位相進みとなるので、次式(37)で表される。
φ_M=φ_co+π/2 …(37)
【0073】
[(E):モーメントMを相殺するラジアル軸の電磁石力]
モーメント演算部325によりモーメントMが式(36),(37)のように算出されたならば、そのモーメントMを相殺するラジアル4軸(X1軸,Y1軸,X2軸,Y2軸)の電磁石力の演算が相殺力演算部326において行われる。図1に示したポンプ本体1Aから回転体Rを除いた固定側(ステータ側)構造体の重心Gs、すなわちステータ重心GsからラジアルX1-Y1軸の電磁石位置までの距離をLm1、ステータ重心GsからラジアルX2-Y2軸の電磁石位置までの距離をLm2とし、予め軸受制御部31のメモリに記憶しておく。なお、上記固定側構造体は回転体Rほど厳密な軸対称性が無いことが多く、重心位置が軸心からわずかにずれることもあるが、その場合は最も近い軸心位置をステータ重心Gsとみなす。またポンプ本体1Aに対して回転体Rの占める質量が小さい(例えば10分の1以下)場合はポンプ本体1Aの重心位置の最も近い軸心位置をステータ重心Gsとしても良い。図14にステータ重心Gsとラジアル電磁石の軸方向位置を示す。ラジアルX1-Y1軸の電磁石力をF1、ラジアルX2-Y2軸の電磁石力をF2とすると、モーメントの釣合より次式(38)が成り立つ。但し、力F1、F2の位相基準はモーメントMの位相から90度遅れ位相位置とする。
M+Lm1×F1-Lm2×F2=0 …(38)
【0074】
力の釣合よりF1+F2=0であるから、式(38)からF1,F2が次式(39),(40)のように求まる。
F1=-M/(Lm1+Lm2) …(39)
F2=+M/(Lm1+Lm2) …(40)
【0075】
従って、モーメントMを相殺するためのラジアルX1-Y1軸の電磁石力は、次式(41),(42)のように設定される。
振幅:|F1(Ω)| =|M(Ω)|/(Lm1+Lm2) …(41)
位相:φ_F1=φ_M+π/2=φ_co+π …(42)
また、モーメントMを相殺するためのラジアルX2-Y2軸の電磁石力は、次式(43),(44)のように設定される。
振幅:|F2(Ω)|=|M(Ω)|/(Lm1+Lm2) …(43)
位相:φ_F2=φ_M-π/2=φ_co …(44)
【0076】
[(F):モーメントMを相殺するラジアル軸の電磁石力に対応する電流相当変動量]
図6の相殺力演算部326においてモーメントMを相殺するためのラジアル4軸の電磁石力が式(41)~(44)のように算出されたならば、出力信号演算部327は、磁気浮上制御部310bへ出力する制御信号として上記電磁石力に対応する電流変動量信号を生成する。ここでも上述した式(5)が用いられるが、式(5)の変位変動量に関する右辺第2項は必要なく電流変動量に関する右辺第1項のみで良いので、電流変動量Δiは次式(45)で表される。
Δi=(ΔFp-ΔFm)/ {(2k×Ip/Dp)+(2k×Im/Dm)} …(45)
【0077】
ここで、Dp=Dm=Dとすると、式(45)は次式(46)のようになる。式(46)の(ΔFp-ΔFm)の部分に式(41),(43)を適用することで、モーメントMを相殺するための電流変動量が求まる。位相量については、式(42),(43)がそのまま適用される。
Δi=(D/2k)×(ΔFp-ΔFm)/(Ip+Im) …(46)
【0078】
ラジアルX1-Y1軸の電磁石力に対応する電流変動量の位相φ_Δi_F1は、次式(47)のように設定される。振幅に関しては式(46)のkをk1と書き換え、X1軸の振幅|Δi_Fx1(Ω)|はX1軸の電流値Ipx1,Imx1を用いて式(48)のように表され、Y1軸の振幅|Δi_Fy1(Ω)|はY1軸の電流値Ipy1,Imy1を用いて式(49)のように表される。
φ_Δi_F1=φ_F1 …(47)
|Δi_Fx1(Ω)|=(D/2k1)×|F1(Ω)|/(Ipx1+Imx1) …(48)
|Δi_Fy1(Ω)|=(D/2k1)×|F1(Ω)|/(Ipy1+Imy1) …(49)
【0079】
また、ラジアルX2-Y2軸の電磁石力に対応する設定電流変動量の位相φ_Δi_F2は、次式(50)のように設定される。振幅に関しては式(46)のkをk2と書き換え、X2軸の振幅|Δi_Fx2(Ω)|はX2軸の電流値Ipx2,Imx2を用いて式(51)のように表され、Y2軸の振幅|Δi_Fy2(Ω)|はY2軸の電流値Ipy2,Imy2を用いて式(52)のように表される。
φ_Δi_F2=φ_F2 …(50)
|Δi_Fx2(Ω)|=(D/2k2)×|F2(Ω)|/(Ipx2+Imx2) …(51)
|Δi_Fy2(Ω)|=(D/2k2)×|F2(Ω)|/(Ipy2+Imy2) …(52)
【0080】
すなわち、次式(53)に示す正弦波信号が出力信号演算部327から出力され、それがX1軸の磁気浮上制御部310b(図5参照)のP側に加算され、M側においては減算される。Y1軸に関しては、次式(54)に示す正弦波信号が出力信号演算部327から出力され、それがY1軸の磁気浮上制御部310bのP側に加算され、M側においては減算される。
Δi_Fx1(Ω)=|Δi_Fx1(Ω)|×cos(θ+φ_Δi_F1) …(53)
Δi_Fy1(Ω)=|Δi_Fy1(Ω)|×sin(θ+φ_Δi_F1) …(54)
【0081】
また、次式(55)に示す正弦波信号が出力信号演算部327から出力され、それがX2軸の磁気浮上制御部310bのP側に加算され、M側においては減算される。Y2軸に関しては、次式(56)に示す正弦波信号が出力信号演算部327から出力され、それがY2軸の磁気浮上制御部310bのP側に加算され、M側においては減算される。
Δi_Fx2(Ω)=|Δi_Fx2(Ω)|×cos(θ+φ_Δi_F2) …(55)
Δi_Fy2(Ω)=|Δi_Fy2(Ω)|×sin(θ+φ_Δi_F2) …(56)
【0082】
[振動への影響の検討]
次に、アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの振動への影響の度合いと、各軸の変位変動量に起因する電磁石力の振動への影響の度合いと比較してみる。ここでは、ロータ重心G、ステータ重心Gsの両位置が共にラジアルX1軸Y1軸の電磁石位置(X1軸Y1軸の変位センサ位置も電磁石とほぼ同一位置とみなす)と同じ場合、すなわちL1=Lm1=0の場合を考える。一方、ロータ重心Gの位置からラジアルX2軸Y2軸の電磁石位置(X2軸Y2軸の変位センサ位置も電磁石とほぼ同一位置とみなす)までの距離をL2=Lm2=0.15[m]とする。
【0083】
このような重心配置ケースでは、ポンプ本体1Aを横向き姿勢で設置した場合、ロータ(回転体R)に作用する重力を全てラジアルX1軸の電磁石で支持することになる。そのため、ラジアルX1軸Y1軸の電磁石の吸引能力は、ラジアルX2軸Y2軸の電磁石の吸引能力よりも大きく設定されることになる。一方、ポンプ本体1Aを正立姿勢で設置した場合、ロータに作用する重力を全てアキシャルZ軸の電磁石で支持するので、アキシャルZ軸の電磁石の吸引能力も大きく設定される。また、一般に、真空ポンプ(ターボ分子ポンプ等)など流体機械では流体によるスラスト荷重力にも耐え得るように、アキシャルZ軸の電磁石の吸引能力はラジアル軸の電磁石よりも大きく設定される。以下では、これらを踏まえ、アキシャルZ軸の電磁石に発生するモーメントを相殺するために必要なラジアル4軸の電磁石力と、ラジアルX1軸Y1軸の変位変動量に起因する電磁石力とを比較する。
【0084】
(設定条件)
比較計算に当たり、他のパラメータは以下のように設定する。
・ギャップに関しては、D=250μm、Dz=300μmとする。
・ロータ質量をm=10kgとする。
・スラストディスク300の吸引力作用点半径rをr=0.03[m] とする。
・電磁石係数は、kz=10k1、k1=5×10-6[N・m/A]とする。
・円筒モードの変位振幅ε(=|dr1(Ω)|)を、ε=5μmとする。
・円錐モードを円筒モードと同等レベルに選ぶべく、ラジアルX2-Y2軸位置での振れ回り変位振幅が0μm(|dr2(Ω)|)=0μm)になるように円錐モードの位相を円筒モードの位相と逆位相関係とする。すなわち、φ_co=φ_cy+πとする。
【0085】
|dr2(Ω)|=0を式(26)に代入するとΔdr2(Ω)=0が得られる。ε=5、φ_co=φ_cy+πを式(27)、(28)に代入すると、Δdr_co(Ω)=-1×tanτ×expj(θ+φ_cy)、および、Δdr_cy(Ω)=5[μm]×expj(θ+φ_cy)が得られる。これらを式(30)に適用すると、tanτ=5[μm]/L2が得られる。L2=0.15[m]であるから、τ=3.33×10-5[rad]となる。
【0086】
初期設定の電磁石の直流電流であるバイアス電流を、ラジアル軸およびアキシャル軸とも0.2Aとする。つまり、ロータ重力を支持するために0.4A以上になる場合(後述の正立設置時のアキシャルZ軸、横向き設置時のラジアルX1軸Y1軸)は対向する反対側の直流電流は0Aとなる。
【0087】
(比較例1:正立姿勢で設置)
(1A)変位変動量に起因する電磁石力による影響
正立姿勢で設置した場合にはロータ自重はラジアル軸で支持しないので、ラジアル軸の直流電流はバイアス電流のままで、Ip1=Im1=0.2[A]となる。ラジアルX1軸Y1軸で発生する力は、式(5)の右辺第2項が振れ回り変位に起因する力であり、次式で表される。
{(2k1×Ip1/D)+(2k1×Im1/D)} ε
k1=5×10-6[N・m/A]、ε=5μmなので、ラジアルX1軸Y1軸の電磁石で発生する振れ回り変位に起因する力は、4×5×10-6×0.2/(250×10-6×5×10-6=0.256[N]となる。
【0088】
(1B)アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの影響
正立姿勢の場合、ロータ自重m×gをアキシャルZ軸の電磁石のみで支持するので、m×g=kz(Ipz/Dz)となっている。すなわち、10×9.8=5×10-5×(Ipz/3×10-4なので、Ipz=0.422[A]となる。
【0089】
ここで、図5に示すように、浮上制御器の出力信号にはバイアス電流設定信号(直流分)が加算されているが、対向するP側電磁石-m側電磁石間の直流電流値の非対称が大きい場合に電流を制限するための電流リミッタ回路440p,440mも設けられ、電流が制限される。これにより、片側(例えばp側)の電流の直流成分がバイアス電流設定値の2倍以上になると、反対側(例えばm側)は0[A]にされるのが一般的である。
【0090】
バイアス電流は0.2[A]であってIpz=0.422[A]は0.2[A]の2倍よりも大きいので、ImzはImz=0[A]に設定されることになる。kz=5×10-5[N・m/A]、Dz=300μm、r=0.03[m]、τ=3.33×10-5[rad]なので、アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの振幅|M(Ω)|を式(36)により計算すると、|M(Ω)|=0.0099[N・m]となる。さらに、モーメントMを相殺するためのラジアルX1-Y1軸の電磁石力の振幅|F1(Ω)|を式(41)により計算すると、|F1(Ω)| =0.0099/(0+0.15)=0.066[N]となる。
【0091】
以上の結果を比較すると、下記のような大小関係となる。
(ラジアル軸の電磁石で発生する振れ回り変位に起因する力=0.256N)
<(モーメントMを相殺するためのラジアル軸の電磁石力=0.066N)
すなわち、正立姿勢で設置した場合には、モーメントMの影響に対する振動低減対策を行わないときの振動は、振れ回り変位の影響よりも25%程度(0.066/0.256)大きくなることが分かる。
【0092】
(比較例2:横向き姿勢で設置)
(2A)変位変動量に起因する電磁石力による影響
ロータ重心位置をラジアルX1軸Y1軸の電磁石位置としたので、ロータ自重をラジアルX1軸Y1軸の電磁石のみで支持することになる。但し、X1軸およびY1軸のペアで支持するので、荷重負荷を合理的に軽減すべく均等に支持される姿勢、すなわち、X1軸およびY1軸を鉛直方向に対して45度傾けた横向き姿勢で設置するものとする。その結果、X1軸とY1軸とで、ロータ自重の1/√2ずつが支持される。従って、式(1)からm×g/√2=k1(Ip1/Dp1)で釣り合っており、Ip1=0.931[A]となる。
【0093】
この場合も、図5に示すように電流リミッタ回路440p,440mが設けられているので、片側(例えばp側)の電流の直流成分がバイアス電流設定値の2倍以上になるともう反対側(例えばm側)は0[A]にされるのが一般的である。バイアス電流は0.2[A]であってIp1=0.931[A]は0.2[A]の2倍よりも大きいので、Im1はIm1=0[A]に設定されることになる。振れ回り変位に起因する力は、式(5)の右辺第2項を参照すると、次式(57)のように表される。
{(2k1×Ip1/D)+(2k1×Im1/D)}×ε …(57)
式(57)により振れ回り変位に起因する力を計算すると2.77[N]となる。
【0094】
(2B)アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの影響
ポンプ本体1Aを横向き姿勢で設置した場合には、アキシャル軸の電磁石はロータ自重を支持しないので直流電流はバイアス電流のままであって、Ipz=Imz=0.2[A]となる。よって、アキシャル軸の電磁石で発生するモーメントMの振幅|M(Ω)|を式(36)により計算すると、|M(Ω)|=0.0044[N・m]となる。さらに、モーメントMを相殺するためのラジアルX1-Y1軸の電磁石力の振幅|F1(Ω)|を式(41)により計算すると、|F1(Ω)| =0.030[N]となる。
【0095】
以上の結果を比較すると、下記のような大小関係となる。
(ラジアル軸の電磁石で発生する振れ回り変位に起因する力=2.77N)
>>(モーメントMを相殺するためのラジアル軸の電磁石力=0.030N)
すなわち、横向き姿勢で設置した場合には、モーメントMの影響に対する振動低減対策を行わないときの振動は、無視できるほど小さくなることがわかる。
【0096】
[変形例1]
上述した実施の形態では、振動の周波数を回転体Rの回転周波数(Ω)として説明したが、制御システムの非線形性で発生する整数倍の高調波成分(例えば、2倍高調波ならば2Ω)に対しても本発明は適用可能であり、同様の振動低減効果が得られる。例えば、2倍高調波に対して適用する場合には、基準回転振動θとしてθ=2Ωtの信号を生成して実施することになる。
【0097】
[変形例2]
上述した実施の形態では、図8に示すように変位回転成分の抽出を各軸毎に行っているが、図12に示すように、X1軸とY1軸とのペアで変位回転成分の抽出を行うようにしても良い。X2軸とY2軸とのペアについても同様である。もちろん、2つのペアの内の1ペアだけに適用しても良い。図12は、変形例2における回転成分抽出部321aの機能ブロック図を示したものである。説明は省略するが、回転成分抽出部321bも同様の構成である。
【0098】
信号乗算部330aは、入力された変位センサ信号Sx1,Sy1から回転成分を抽出するための信号、すなわち図12の信号乗算部330aのブロックに示すように行列で表される信号を、モータ制御部30から入力された回転基準信号θに基づいて生成する。信号乗算部330aでは、変位センサ信号ベクトル(Sx1、Sy1)に上記行列信号を作用させる。
【0099】
ここで、図8の説明の場合と同様に、変位センサ信号Sx1,Sy1が、回転基準信号θに対してSx1=S0×cos(θ+φ11)、Sy1=S0×sin(θ+φ11)のように変動している場合を考える。行列信号を作用させた後の信号をベクトル(Vx、Vy)で表すと、信号Vx、Vyは次式(58),(59)で表される。
Vx=Sx1×cosθ+Sy1×sinθ
=S0×cosθcos(θ+φ11)+S0×sinθsin(θ+φ11)
=(S0/2){cosφ11(1+cos2θ)-sinφ11 sin2θ}
+(S0/2){(1-cos2θ)cosφ11+sin2θsinφ11} …(58)
Vy=-Sx1×sinθ+Sy1×cosθ
=-S0×cos(θ+φ11)sinθ+S0×sin(θ+φ11)cosθ
=-(S0/2){sin2θcosφ11-(1-cos2θ)sinφ11}
+(S0/2){sin2θcosφ11+(1+cos2θ)sinφ11} …(59)
【0100】
式(58),(59)で表される信号Vx、Vyをローパスフィルタでフィルタリングすると、信号VxからはS0×cosφ11が得られ、信号VyからはS0×sinφ11が抽出される。図8の場合と同様に、変位センサ信号を変位回転成分に置き換えて考えると、S0×cosφ11は|dr1(Ω)|×cosφ11と置き換えられ、S0×sinφ11は|dr1(Ω)|×sinφ11と置き換えられる。すなわち、変位回転成分Δdr1x(Ω)を、図13に示すように基準位相θで回転する座標上の矢線ベクトルで表すと、横軸(基準位相θ方向)の成分は|dr1(Ω)|×cosφ11=adで、縦軸(基準位相θ+π/2方向)の成分は|dr1(Ω)|×sinφ11=bdである。
【0101】
振幅演算部332では、adおよびbdに基づく振幅|dr1(Ω)|が次式(60)のように算出される。位相演算部333では、回転基準信号θに対する位相φ11が次式(61)のように算出される。
|dr1(Ω)|=√(ad+bd) …(60)
φ11=arctan(bd/ad) …(61)
【0102】
[変形例3]
上述した実施の形態では、振動低減制御部320に入力される変位センサ信号は、振幅低減、位相遅延が無いとして説明したが、変位センサ信号を生成する変位センサ回路フィルタのゲイン変化、位相遅延が無視できない場合は、それらの値を補正ゲイン、補正位相として予め軸受制御部31のメモリに記憶しておき、目標振幅値、目標位相差を補正すればよい。
【0103】
[変形例4]
モーメントMに起因する振動を低減する制御の場合には、モーメントMの推定によるフィードフォーワード制御であるため、推定を乱す環境では適用を控えるのが好ましい。その観点で、効果が薄いと判断される条件では適用を控えても良い。例えば、モーメント推定値が下限閾値以下である場合や、モーメント推定値の大きさの時間的なばらつきが所定の閾値よりも大きい場合には適用を控える。
【0104】
また、モーメントMの振動に対する影響は、比較例1、2で説明したように正立姿勢で設置した時が特に大きくなる。そのため、各軸の直流電流成分値から判断して正立姿勢に近い設置状態(例えば、鉛直方向からから±30°以内)であれば、例えば、電磁石電流の直流電流値の大きさから姿勢を検知する姿勢検知回路を設けて、正立姿勢が検知された場合には本発明の制御信号を出力するようにしても良い。
【0105】
[その他の変形例]
上述した実施の形態では、振れ回りの変位変動量に起因する振動の低減(上記(B)の対策)とモーメントMに起因する振動の低減(上記(F)の対策)の両方を適用したが、上述した正立姿勢、横向き姿勢のように状況に応じてモーメントMに起因する振動の低減のみを適用しても良い。一般的には、モーメントMに起因する振動の低減と、振れ回りの変位変動量に起因する振動の低減との両方を適用することにより、振動低減効果あるいは騒音低減効果がより高まる。
【0106】
また、モーメントMに起因する振動の低減と特許文献1に記載の振動低減対策とを組み合わせて用いても良いし、または、特許文献1に記載の振動低減対策の代わりに、回転周波数付近でゲインの谷をなすノッチフィルタを各軸へ設ける振動低減対策と組み合わせても良い。
【0107】
さらにまた、上述した実施の形態では、変位センサでロータ変位を検出する構成としたが、電磁石に電流に重畳した変位検出用信号で変位を検出する、いわゆるセルフセンシング方式の磁気軸受装置にも適用することができる。その場合、変位検出用信号に基づいて算出される変位信号を、回転成分抽出部321a,321bに入力すれば良い。
【0108】
上述した例示的な実施の形態や変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0109】
[1]一態様に係る磁気軸受装置は、モータにより回転駆動されるロータを磁気浮上支持し、4軸のラジアル軸と1軸のアキシャル軸とから成る5軸制御型の磁気軸受と、前記ロータの浮上目標位置からの変位を検出して変位信号を出力する信号生成部と、前記モータのモータ回転信号および前記変位信号に基づいて、前記アキシャル軸の電磁石で発生する周期的な振動モーメントを算出する演算部と、前記振動モーメントを低減する電磁石力を発生させる制御電流を、前記ラジアル軸の電磁石に出力する電流制御部と、を備える。
【0110】
図6に示すように、モーメント演算部325は、モータ回転信号である回転基準信号θおよび変位信号である変位センサ信号Sx1,Sy1,Sx2,Sy2に基づいて算出された円錐モード成分(傾き角振幅τおよび位相φ_co)とアキシャル軸(Z軸)の電流値信号の直流成分とに基づいて、アキシャル軸の電磁石で発生する周期的な振動モーメントMを算出する。電流制御部としての出力信号演算部327では、相殺力演算部326で演算されたモーメント相殺力の振幅および位相に基づいて、モーメントMを相殺するための電磁石力をラジアル磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2で発生させるのに必要な制御電流を指令する電流相当出力信号を演算する。その結果、アキシャル軸の電磁石で発生する周期的な振動モーメントMに起因する振動あるいは騒音を低減することができる。
【0111】
なお、変位センサ5x1,5y1,5x2,5y2および変位センサ5zを備えないいわゆるセルフセンシング方式の磁気軸受装置の場合には、電磁石電流に重畳された変位検出用信号から変位信号を抽出する回路が変位信号生成部に相当する。また、上述した回転センサレス方式のモータ駆動系に代えて、回転センサ(ホールセンサ、レゾルバなど)を備える方式のモータ駆動系を採用した場合には、モータ回転信号である回転基準信号θはその回転センサからの信号に基づいて生成される。
【0112】
[2]上記[1]に記載の磁気軸受装置において、前記演算部は、前記ラジアル軸の前記変位信号および前記モータ回転信号に基づいて変位回転成分を抽出する抽出部と、前記変位回転成分から円錐モード振れ回りの傾き角振幅および位相を算出する円錐モード演算部と、前記円錐モード振れ回りの前記傾き角振幅および前記位相に基づいて、前記振動モーメントの振幅および位相を算出するモーメント演算部と、を備える。すなわち、ラジアル軸の変位回転成分から円錐モードの傾き角振幅τおよび位相φ_coを算出し、振動モーメントMの振幅|M(Ω)|と、位相φ_Mとを式(36),(37)のように算出する。
【0113】
[3]上記[2]に記載の磁気軸受装置において、前記電流制御部は、ステータ重心位置と各ラジアル軸の電磁石との軸方向位置関係に基づいて、前記振動モーメントを相殺する前記ラジアル軸の電磁石力を算出し、算出した電磁石力を発生させる制御電流を生成する。すなわち、電流制御部としての相殺力演算部326は振動モーメントMを相殺するラジアルX1-Y1軸の電磁石力(振幅|F1(Ω)|、位相φ_F1)およびラジアルX2-Y2軸の電磁石力(振幅|F2(Ω)|、位相φ_F2)し、電流制御部としての出力信号演算部327は、相殺力演算部326で演算されたモーメント相殺力の(振幅|F1(Ω)|、位相φ_F1)、(振幅|F2(Ω)|、位相φ_F2)に基づいて、モーメントMを相殺するための電磁石力をラジアル磁気軸受4x1,4y1,4x2,4y2で発生させるに必要な電流相当出力信号を演算する。
【0114】
[4]上記[2]または[3]に記載の磁気軸受装置において、前記変位回転成分に起因する電磁石力を低減する電流変動量を前記ラジアル軸の電磁石に出力する振動低減部をさらに備える。すなわち、ラジアル軸の変位信号から変位回転成分Δdr(Ω)を抽出し、変位回転成分Δdr(Ω) に起因する電磁石力を相殺するラジアル軸の電磁石の電流変動量Δiを算出し、電流変動量Δiをラジアル軸の電磁石に与えるための式(16)~(19)に示すような制御信号を生成する。その結果、振動モーメントMに起因する振動の低減に加えて、振れ回り変位に起因する振動も低減することができる。
【0115】
[5]一態様に係る真空ポンプは、モータにより回転駆動されるロータと、前記モータのモータ回転信号θを生成する回転信号生成部と、前記ロータを磁気浮上支持する5軸制御型の磁気軸受を有する上記[1]から[4]までのいずれかに記載の磁気軸受装置と、を備える。その結果、真空ポンプの振動低減あるいは騒音低減を図ることができる。
【0116】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1…真空ポンプ、1A…ポンプ本体、1B…コントローラ、2…ポンプロータ、3…ロータ軸、4x1,4y1,4x2,4y2…ラジアル磁気軸受、4z…アキシャル磁気軸受、5x1,5y1,5x2,5y2,5z…変位センサ、30…モータ制御部、310a,310b…磁気浮上制御部、320…振動低減制御部、321a,321b…回転成分抽出部、322a,322b,323…直流電流抽出部、324…円錐モード抽出部、325…モーメント演算部、326…相殺力演算部、327…出力信号演算部、328…電流変動成分演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14