(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】飛行体の制御方法、飛行体、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B64D 27/24 20240101AFI20240305BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240305BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240305BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20240305BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240305BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240305BHJP
B64U 10/25 20230101ALI20240305BHJP
B64U 30/10 20230101ALI20240305BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240305BHJP
B64U 50/31 20230101ALI20240305BHJP
B64U 50/32 20230101ALI20240305BHJP
【FI】
B64D27/24
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/35 K
H02J7/00 302A
B64C39/02
B64U10/25
B64U30/10
B64U50/19
B64U50/31
B64U50/32
(21)【出願番号】P 2020035226
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘将
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-186346(JP,A)
【文献】特許第5887641(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 27/24
H01M 10/44
H01M 10/48
H02J 7/35
H02J 7/00
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池を有する発電装置と蓄電装置とを備える飛行体を、前記飛行体の
第1モードによる飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合
であり、且つ前記発電装置により前記蓄電素子が再充電されるまでの時間が所定の時間以上である場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させ
る第2モードにより前記飛行体を飛行及び/又は下降させ
、
前記蓄電素子は、前記下限電圧より低い電圧範囲において、所定の放電容量を発現可能である、飛行体の制御方法。
【請求項2】
前記蓄電素子は、前記下限電圧より低い電圧範囲で、負極から電解液中にリチウムイオンを溶解して正極に受け渡し可能である、請求項
1に記載の飛行体の制御方法。
【請求項3】
前記負極は、リチウム金属を含む負極活物質層を有する、請求項
2に記載の飛行体の制御方法。
【請求項4】
太陽電池を有する発電装置と、
蓄電装置と、を備え、
第1モードによる飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合
であり、且つ前記発電装置により前記蓄電素子が再充電されるまでの時間が所定の時間以上である場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させ
る第2モードにより飛行及び/又は下降し
、
前記蓄電素子は、前記下限電圧より低い電圧範囲において、所定の放電容量を発現可能である、飛行体。
【請求項5】
太陽電池を有する発電装置と蓄電装置とを備える飛行体の
第1モードによる飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達したかを判定し、
前記下限電圧に到達したと判定した場合に、
前記発電装置により前記蓄電素子が再充電されるまでの時間が所定の時間以上であるかを判定し、
前記蓄電素子が再充電されるまでの時間が所定の時間以上であると判定した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させ
る第2モードにより前記飛行体を飛行及び/又は下降させ
、
前記蓄電素子は、前記下限電圧より低い電圧範囲において、所定の放電容量を発現可能である
処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体の制御方法、飛行体、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な電動の飛行体が開発されている。ドローン等の無人飛行機は、二次電池及び電池制御回路を備え、二次電池の放電によってモータを回転させ、回転翼を回転させている。重量増加を抑制しつつ所定の航続距離を確保するために、二次電池は、これまで以上に高エネルギー密度であることが求められている。
【0003】
無線中継局を搭載し、高度が11km~50kmである成層圏内の空域を飛行又は滑空するHAPS(High-altitude platform station:成層圏プラットフォーム局)も開発されている(例えば特許文献1を参照)。ソーラープレーン、飛行船、成層圏ジェット等、様々なHAPSが開発されている。HAPSは、そのオペレーション中、成層圏内の例えば高度20kmの位置に滞在する。HAPSにより広範囲の多数の端末装置と同時接続を行うことができ、HAPSと人工衛星、地上局との間で連携を取ることで、高速の通信インフラを構築することができる。災害時においても、安定した通信環境を維持できる。
【0004】
HAPSは太陽電池を有するソーラーパネルと、リチウムイオン二次電池等の蓄電素子を有する蓄電装置とを備えてもよい。HAPSは、成層圏を、昼間はソーラーパネルにより発電された電力により飛行し、夜間は蓄電装置が放電する電力により飛行してもよい。HAPSに備えられる蓄電素子は、大型の飛行体を夜間に飛行させ続けるために、高い放電容量(満充電容量)を有することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常予見されない何らかの事情により、夜間に蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合にHAPSの飛行を続行させるための安全対策を、本発明者は検討した。HAPS以外の飛行体においても、二次電池の放電エネルギーがなくなった場合の安全対策に対するニーズが今後高まると予想される。
本発明の目的は、飛行オペレーションの安全性向上に資する飛行体の制御方法、飛行体、及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る飛行体の制御方法は、太陽電池を有する発電装置と蓄電装置とを備える飛行体を、前記飛行体の飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら前記飛行体を飛行及び/又は下降させる。
【0008】
本発明の一態様に係る飛行体は、太陽電池を有する発電装置と、蓄電装置と、を備え、飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら飛行及び/又は下降する。
【0009】
本発明の一態様に係るコンピュータプログラムは、太陽電池を有する発電装置と蓄電装置とを備える飛行体の飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達したかを判定し、前記下限電圧に到達したと判定した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら前記飛行体を飛行及び/又は下降させる処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上記の態様によれば、飛行オペレーションの安全性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲における電池セルの充電曲線及び放電曲線である。
【
図6】制御部による下降制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態の概要)
実施形態に係る飛行体の制御方法は、太陽電池を有する発電装置と蓄電装置とを備える飛行体を、前記飛行体の飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合に、前記蓄電装置を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら前記飛行体を飛行及び/又は下降させる。
【0013】
発電装置としては、例えば太陽電池を配列したモジュールを複数並べて接続したソーラーパネルを用いてもよい。
蓄電装置としては、例えばリチウムイオン二次電池等の電池セル(蓄電素子)、該電池セルを複数直列及び/又は並列に接続した電池モジュール、複数の電池モジュールを直列に接続したもの(バンク)、又はバンクを並列に接続したものを用いてもよい。
飛行体は、例えばHAPS、eVTOL(electric vertical takeoff and landing aircraft)であってもよいが、これらに限定はされない。飛行体は、発電装置と蓄電装置とを備えて、好ましくは内燃機関を有しない。
【0014】
上記構成によれば、発電装置により十分に発電できない夜間等に、蓄電装置内の蓄電素子の電圧が下限電圧に到達したとき、蓄電素子を下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら飛行体を飛行及び/又は下降させる。飛行体の重力落下を防ぎつつ飛行体を着陸させることや、低空域でドローン等を用いて蓄電素子を交換・追加したり蓄電素子を充電したりする等の処理を行うことができる。
【0015】
上述の飛行体の制御方法において、前記蓄電素子が再充電されるまでの時間が所定の時間以上である場合に、前記飛行体を下降させてもよい。
【0016】
上記構成によれば、発電装置により発電して蓄電素子を再充電するまでに所定時間以上を要し、安全に飛行を続行することが困難であると判定される場合には飛行体を下降させ着陸させることが可能となる。例えば、蓄電装置を充電するように発電装置が発電できるまでの時間が、待機可能時間以上であるか否かが判定されてもよい。
【0017】
上述の飛行体の制御方法において、前記蓄電素子は、前記下限電圧に到達した場合に、該下限電圧より低い電圧範囲において、所定の放電容量を発現可能であってもよい。
【0018】
上記構成によれば、緊急時に、飛行体の飛行及び/又は下降のためのエネルギーを発現することができる。
【0019】
上述の飛行体の制御方法において、前記蓄電素子は、前記下限電圧より低い電圧範囲で、負極から電解液中にリチウムイオンを溶解して正極に受け渡し可能であってもよい。
【0020】
上記構成によれば、緊急時に、下限電圧より低い電圧範囲において負極から正極にリチウムイオンを受け渡すことができ、放電容量を発現することができる。
【0021】
上述の飛行体の制御方法において、前記負極は、リチウム金属を含む負極活物質層を有してもよい。
【0022】
上記構成によれば、緊急時に、下限電圧より低い電圧範囲において負極から正極にリチウムイオンを十分に受け渡すことができる。
【0023】
実施形態に係る飛行体は、太陽電池を有する発電装置と、蓄電装置と、を備え、飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら飛行及び/又は下降する。
【0024】
上記構成によれば、発電装置により十分に発電できない夜間等に、蓄電装置内の蓄電素子の電圧が下限電圧に到達した場合、蓄電素子を下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら飛行体が飛行及び/又は下降する。
【0025】
実施形態に係るコンピュータプログラムは、太陽電池を有する発電装置と蓄電装置とを備える飛行体の飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達したかを判定し、前記下限電圧に到達したと判定した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら前記飛行体を飛行及び/又は下降させる処理をコンピュータに実行させる。
【0026】
(実施形態1)
HAPSを例に実施形態1を説明する。以下、緊急時に蓄電装置7による、HAPS1の飛行及び/又は下降のための放電を緊急放電という。ここでは、緊急時にHAPS1を下降させる場合につき説明するが、代替的に、HAPS1を下降させずに飛行させ続けてもよい。
図1はHAPS1の外観の斜視図、
図2はHAPS1の構成を示すブロック図である。
図2中、制御装置8と各部との接続は省略している。
HAPS1は、翼部2と、複数のプロペラ3と、複数の脚部4と、複数のソーラーパネル5と、蓄電装置7と、制御装置8と、無線中継局9と、第1コンバータ回路11と、第2コンバータ回路12と、切替部13と、インバータ回路14と、車輪15と、温度センサ16と、温調装置17とを備える。プロペラ3はモータ(電動機)10に接続されている。HAPS1の構成は、この例に限定はされない。蓄電装置7、制御装置8、無線中継局9、第1コンバータ回路11、第2コンバータ回路12、切替部13、インバータ回路14、温度センサ16、及び温調装置17は、脚部4内に収容されている。代替的に、これらは翼部2に設けられてもよい。
【0027】
ソーラーパネル5は、例えばシリコン系の太陽電池を複数配列したモジュールを複数並べ、接続してなる。
蓄電装置7は、例えばリチウムイオン二次電池等の電池セル6、電池セル6を複数直列及び/又は並列に接続した電池モジュール、複数の電池モジュールを直列に接続したもの(バンク)、又はバンクを並列に接続したものである。
図2においては、蓄電装置の一部をなす電池モジュールを例として示している。
温度センサ16は蓄電装置7の温度を検出し、検出結果を制御装置8へ出力する。
温調装置17は、蓄電装置7を暖めるヒータと、蓄電装置7から放熱させる放熱器とを備えてもよい。
【0028】
制御装置8は、制御部81、記憶部82、入力部83、通信部84、及びモータ駆動部85を備える。
制御部81は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等により構成され、HAPS1の各部の動作を制御する。制御部81は、後述する下降制御プログラム821を読み出して実行することにより、下降制御の処理を実行する。ここで、下降制御の処理とは蓄電装置7の放電電圧が下限電圧に到達し、再充電までの時間t1 が待機できる時間t2 より大きい場合に、下限電圧より低い電圧範囲で放電しながらHAPS1を下降させ着陸させる処理をいう。緊急時の制御部81による下降制御の処理は、HAPS1を下降させ着陸させる場合に限定されない。代替的に、低空域で、ドローン等により蓄電装置7又は電池セル6を交換・追加してもよいし、蓄電装置7又は電池セル6を充電してもよい。
【0029】
記憶部82は、下降制御プログラム821を含む各種のプログラム、及び履歴DB(データベース)822を記憶している。下降制御プログラム821は、例えばCD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体80に格納された状態で提供され、制御装置8にインストールすることにより記憶部82に格納される。代替的に、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータから下降制御プログラム821を取得し、記憶部82に記憶させてもよい。
【0030】
履歴DB822は、ソーラーパネル5の発電及び放電の履歴データ、蓄電装置7の充放電の履歴データ、蓄電装置7の温度の履歴データ、気象情報の履歴データ、及びHAPS1の飛行制御の履歴データ等を記憶してもよい。ソーラーパネル5の発電及び放電の履歴とは、ソーラーパネル5の動作履歴であり、使用期間を示す情報、発電に関する情報(電力等)、又は放電に関する情報(電圧、レート等)の履歴を含んでもよい。蓄電装置7の充放電の履歴とは、蓄電装置7の動作履歴であり、使用期間を示す情報、充電又は放電に関する情報(電圧、レート等)の履歴を含んでもよい。
【0031】
温度の履歴とは、温度センサ16が検出した蓄電装置7の温度の履歴であってもよい。
気象情報の履歴とは、気象サーバ20から取得した、取得時点のHAPS1の位置における風速及び風向、並びに日照量等の履歴であってもよい。
飛行制御の履歴とは、モータ10の回転数及び回転時間等の回転駆動を含む、HAPS1の飛行の制御の履歴であってもよい。
【0032】
入力部83は、ソーラーパネル5、蓄電装置7の電流及び電圧の検出結果、温度センサ16の温度検出結果の入力を受け付ける。
図2において電流計及び電圧計は省略している。
通信部84は、無線中継局9等の他の装置との間で通信を行う機能を有し、所要の情報の送受信を行う。
モータ駆動部85は、各プロペラ3の各モータ10の回転駆動を制御する。モータ駆動部85によるモータ10の回転駆動には、通常の放電時の放電モードと、該放電モードと回転数及び回転時間等が異なり、緊急時にHAPS1を着陸させることが可能な緊急放電モードとがある。
【0033】
第1コンバータ回路11は、DC/DCコンバータであり、ソーラーパネル5に接続され、ソーラーパネル5の出力電圧を昇圧して出力する。
第2コンバータ回路12は蓄電装置7に接続されており、蓄電装置7の放電及び充電を行う双方向のDC/DCコンバータである。
インバータ回路14は、DCをACに変換する。即ち切替部13から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。
【0034】
切替部13は、例えば直列に接続された2つのスイッチ131とスイッチ132とを備える。
図2において、充放電を制御する制御回路は省略している。スイッチ131及びスイッチ132は、リレーやパワーMOSFET等のスイッチング素子からなる。スイッチ131とスイッチ132との接続点はインバータ回路14に接続されている。スイッチ131の他端、スイッチ132の他端は夫々、第1コンバータ回路11、第2コンバータ回路12に接続されている。
【0035】
インバータ回路14には、無線中継局9、及びモータ10等の負荷が接続されている。
【0036】
ソーラーパネル5から負荷に放電する場合、スイッチ131をオンにして、負荷にソーラーパネル5を接続する。
図2においては、スイッチ131がオンであり、ソーラーパネル5から負荷へ電力が供給されている状態を示している。
蓄電装置7から負荷に放電する場合、スイッチ132をオンにして、負荷に蓄電装置7を接続する。
ソーラーパネル5及び蓄電装置7から負荷に放電する場合、スイッチ131及びスイッチ132の両方をオンにして、負荷にソーラーパネル5及び蓄電装置7を接続する。
【0037】
無線中継局9は、第1通信部91、第2通信部92、及び第3通信部93を備える。
第1通信部91は、アンテナ、送受共用器、及び増幅器等を有し、飛行機の中でユーザが使用する端末装置30、又はドローンの通信端末装置30等と無線信号の送受信を行う。第2通信部92は、アンテナ、送受共用器、及び増幅器等を有し、地上又は海上の中継局との間で、無線信号の送受信を行う。該中継局を介し無線中継局9は、移動通信網のネットワークNWに接続される。ネットワークNWには端末装置30が接続されている。
図2中、地上又は海上の中継局は省略している。第3通信部93は、レーザ光等により人工衛星及び他のHAPSとの間で送受信を行う。無線中継局9の構成は、この例に限定はされない。
モータ10はプロペラ3を回転駆動する。代替的に、モータ10は、
図1に示した形態以外の飛行体推進装置や飛行体上昇装置を駆動してもよい。
【0038】
図3は、蓄電装置(電池モジュール)7の例を示す斜視図である。
蓄電装置7は、直方体状のケース71と、ケース71に収容された複数の電池セル6とを備える。
【0039】
電池セル6は、直方体状(プリズマティック)のケース本体61と、蓋板62と、蓋板62に設けられた、正極端子63及び負極端子66と、破裂弁64と、電極体65とを備える。プリズマティックセルに代えて、電池セルはラミネートケースを有する、所謂パウチセルであってもよい。電極体65は正極板、セパレータ、及び負極板を積層してなり、ケース本体61に収容されている。
電極体65は、正極板と負極板とをセパレータを介して扁平状に巻回して得られるものであってもよいし、複数の正極版と負極板をセパレータを介し積層して得られるものであってもよい。
【0040】
電池セル6は、前記下限電圧に到達した場合に、下限電圧より低い電圧範囲において、所定の放電容量を発現可能であるのが好ましい。これによりHAPS1の下降用のエネルギーを発現することができる。
電池セル6は、下限電圧より低い電圧範囲で、負極から電解液(非水電解質)中にリチウムイオンを溶解して正極に受け渡し可能であるのが好ましい。下限電圧より低い電圧範囲において負極から正極にリチウムイオンを受け渡すことができ、所要の放電容量を発現することができる。
【0041】
正極板は、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金等からなる板状(シート状)又は長尺帯状の金属箔である正極基材箔上に活物質層が形成されたものである。負極板は、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金等からなる板状(シート状)又は長尺帯状の金属箔である負極基材箔上に活物質層が形成されたものである。セパレータは、合成樹脂からなる微多孔性のシートである。
【0042】
正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β≦1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0043】
正極の活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤としては、例えば、カーボンブラック等の炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。バインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等が挙げられる。
【0044】
負極活物質層に用いられる負極活物質としては、リチウム金属を含むのが好ましい。負極活物質がリチウム金属を含むので余剰のリチウムイオンを有し、負極から正極にリチウムイオンを受け渡して、所要の放電容量を発現することができる。リチウム金属には、リチウム単体の他、リチウム合金が含まれる。リチウム合金としては、例えば、リチウムアルミニウム合金等が挙げられる。リチウム金属を含む負極は、リチウム金属を所定の形状に切断するか、所定の形状に成形することにより製造できる。
【0045】
さらに、負極活物質層は、Na、K、Ca、Fe、Mg、Si、N等の元素を含有してもよい。
上記負極活物質に占めるリチウム金属の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。含有量の上限は、100質量%であってよい。
【0046】
ケース本体61には、電解液が注入されている。電解液は、非水溶媒、並びに非水溶媒に溶解している硫黄系環状化合物、フッ素化環状カーボネート、鎖状カーボネート、及び電解質塩を含む。硫黄系環状化合物として、スルトン構造又は環状サルフェート構造を有する化合物等が挙げられる。フッ素化環状カーボネートとして、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートとしては、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0047】
電池セル6の負極活物質がリチウム金属を含み、正極活物質がリチウム過剰型であってもよい。このような電池セル6によれば、高い放電容量を発揮できる。
【0048】
正極活物質として、Lix (Nia Cob Mnc )O2 (a+b+c=1、0<x<1.1)で表されるNCM(Ni+Co+Mn系の混合正極活物質)等を用いてもよい。電池セル6の高エネルギー密度化を実現するために、Niの含有量を多くしてもよい。
【0049】
蓄電装置7の隣り合う電池セル6の正極端子63及び負極端子66がバスバー72により電気的に接続されることで、複数の電池セル6が直列に接続されている。
蓄電装置7の両端の電池セル6の、正極端子63、負極端子66には、電力を取り出すための正極リード74、負極リード73が設けられている。
【0050】
電池セル6の具体例について説明する。
[正極]
正極活物質として、α-NaFeO2 型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2 (Meは遷移金属)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いる。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、NiとMnのモル比Ni/Mn=1/2である。
【0051】
N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とし、前記正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック(AB)、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を92.5:4.5:3.0の質量比率で含有する正極ペーストを作製する。正極基材としての厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、正極ペーストを塗布し、乾燥し、プレス後、切断し、幅30mm、長さ40mmの矩形状に正極活物質層が配置された正極を作製する。正極活物質層の厚さは約150μmであり、正極合剤が単位面積あたり26mg/cm2含まれる。前記正極は、120℃で14時間以上減圧乾燥して用いる。
【0052】
[負極の作製]
幅30mm、長さ42mm、厚さ6100μmのリチウム金属板を負極板とする。リチウム金属板は、金属樹脂複合フィルムを介し1.4MPaの圧力でプレスする。リチウム金属板には、長さ5mmの端部のみにステンレス鋼製の負極基材を接続する。
【0053】
[電解液の調製]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)をFEC:EMC=30:70の体積比で混合した混合溶媒にLiPF6 を1mol dm-3の濃度で溶解させた溶液を作製する。さらに1,3-プロペンスルトンを前記溶液に対して2質量%添加し、電解液を得る。
【0054】
[電池セル6の作製]
ポリアクリレートで表面改質した厚さ27μmのポリプロピレン製微孔膜をセパレータとして用いる。セパレータを4枚重ね合わせ、一辺を残して周囲を融着することで、3箇所の袋部を備えた袋状セパレータを作製する。袋状セパレータの中央の袋部に、負極を挿入し、その両側の袋部に、2枚の正極を夫々正極活物質層が配置された面が負極と対向するように挿入する。以上のようにして、正極及び負極の対向面を2面備えた積層型の電極体65を作製する。
【0055】
ケース61である金属樹脂複合フィルムに、あらかじめ上記正極及び負極に夫々接続したリード端子の開放端部が外部に露出するように、電極体65を収納し、注液孔となる部分を除いて封止し、電解液を注液した後、注液孔を気密封止する。以上のようにして、電池セル6を作製する。
【0056】
電池セル6の構成は上述の場合に限定されない。負極にリチウムを貼付してもよい。電解液に、緊急放電時に正極にリチウムイオンを供給できるようなリチウム塩を含んでもよい。
【0057】
図4は、上述のようにして作成した電池セル6に対し、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲における充電曲線及び放電曲線を示す。
図4の横軸は容量(mAh/g)、縦軸は電圧(V)である。
図4中、aは充電曲線、bは放電曲線である。
図4より、通常使用時において、電池セル6を4.6Vから2Vまでの範囲で放電できることが分かる。
【0058】
図5は、緊急放電時の正極の放電曲線を示す。
図5の横軸は容量(mAh/g)、縦軸は電位V(vsLi/Li
+:Li/Li
+平衡電位を基準にしたときの電位)である。
図5より、下限電圧である2Vより低い電圧範囲に対応する電位範囲において、電池セル6は放電容量を発現できることが分かる。従って、高い信頼性で、HAPS1を下降させ着陸させるためのエネルギーを発現することができる。
【0059】
上述の電池セル6の場合、正極では、以下の反応が生じる。
【0060】
【0061】
電池セル6の負極活物質はリチウム金属を含むので、下限電圧2.0V以下の電圧範囲においても負極から電解液中にリチウムイオンを溶解して正極に受け渡し可能であり、還元反応が進行し、放電容量を発現できる。
【0062】
以上のように構成されたHAPS1は、斜め上方に向かって地面から離れた後、所定の水平方向の領域内を旋回しながら揚力で浮揚し、空域Aまで上昇する。空域Aとして、例えば高度11km~50kmの成層圏内の空域が挙げられる。中でも高度20kmの空域が好ましい。空域Aまで上昇した後、HAPS1は水平方向の位置Bまで水平移動し、位置Bに滞在する。夜間は、下向きの角度を付けた状態で旋回しながら空域A内を滑空する。
【0063】
本実施形態においては、HAPS1の飛行中に、蓄電装置7の電圧が下限電圧に到達し、再充電までの時間t1 が待機できる時間t2 より大きい場合に、HAPS1を下降させて着陸させる。電池セル6にデンドライトが生じる等して劣化し、SOHが低下して早期に下限電圧に到達し、ソーラーパネル5により蓄電装置7を充電できない場合等に、緊急放電が適用されることになる。
【0064】
図6は、制御部81による下降制御の処理手順を示すフローチャートである。
制御部81は蓄電装置7の電圧が下限電圧に到達したか否かを判定する(S1)。蓄電装置7の電圧とは、蓄電装置7が備える電池セル6の電圧の総和であってもよい。制御部81は、下限電圧に到達していない場合(S1:NO)、処理を終了する。
【0065】
制御部81は、下限電圧に到達した場合(S1:YES)、再充電までの時間t1 を算出する(S2)。制御部81は、ソーラーパネル5が、蓄電装置7を充電させるように発電できるまでの時間t1 を算出する。例えば夜間飛行をしている場合、気象サーバ20から日の出までの時間及び推定の日照量等を取得し、時間t1 を算出する。制御部81は、ソーラーパネル5が発電する電力によりHAPS1を飛行させながら蓄電装置7を充電させるようになるまでの時間t1 を算出してもよい。時間t1 は発電を開始するまでの時間でもよいし、蓄電装置7が所要のSOCに到達するまでの時間でもよい。HAPS1が夜間飛行をしている場合に限定されず、日照量が少なく、ソーラーパネル5により蓄電装置7を十分に充電できない場合に、蓄電装置7が所要のSOCに到達するまでの時間t1 を算出してもよい。
【0066】
制御部81は、待機可能な時間t2 を算出する(S3)。制御部81は、例えば気象サーバ20から風速及び風向等を取得し、滑空等を行いながら発電を待機できる時間t2 を算出する。
【0067】
制御部81は、t1 >t2 であるか否かを判定する(S4)。
制御部81は、t1 >t2 でない場合(S4:NO)、処理を終了する。
制御部81は、t1 >t2 である場合(S4:YES)、緊急放電を開始する(S5)。制御部81は、緊急放電モードでモータ10を回転駆動する。緊急放電モードは、風速及び風向等を考慮して設定してもよい。
【0068】
制御部81は、HAPS1が着陸したか否かを判定する(S6)。制御部81は、着陸していない場合(S6:NO)、この判定を繰り返す。
制御部81は、HAPS1が着陸した場合(S6:YES)、処理を終了する。
【0069】
下降制御処理は、HAPS1を着陸させる場合に限定されない。代替的に、低空域で、ドローン等により蓄電装置7又は電池セル6を交換、追加又は充電してもよい。
【0070】
上記構成によれば、ソーラーパネル5が発電できない夜間等に、蓄電装置7の電圧が下限電圧に到達した場合、蓄電装置7を下限電圧より低い電圧範囲で放電させながらHAPS1を下降させる。HAPS1は墜落することなく、高い信頼性で着陸する。又は低空域でドローン等により蓄電装置7若しくは電池セル6を交換若しくは追加され、又は充電される。
蓄電装置7を温調装置17により暖めることにより、放電容量を所望の容量まで引き上げてもよい。こうすることで、着陸する場所の気温を問わず、HAPS1が高い信頼性で、着陸することができる。
待機可能な時間t2 は、予め設定された時間であってもよい。
【0071】
前記実施の形態は、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
発電装置は、太陽電池を有するものに限定はされない。発電装置は、発電時の二酸化炭素排出量が内燃機関の駆動時のそれよりも少ないものが好ましい。以下の実施形態も本発明に含まれる。
(1)発電装置と蓄電装置とを備える飛行体を、前記飛行体の飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら前記飛行体を飛行及び/又は下降させる、飛行体の制御方法。
(2)発電装置と、
蓄電装置と、を備え、
飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら飛行及び/又は下降する、飛行体。
(3)発電装置と蓄電装置とを備える飛行体の飛行中に、前記蓄電装置内の蓄電素子の電圧が、可逆的に充放電を繰り返すことが可能な電圧範囲の下限電圧に到達したかを判定し、
前記下限電圧に到達したと判定した場合に、前記蓄電素子を前記下限電圧より低い電圧範囲で放電させながら前記飛行体を飛行及び/又は下降させる
処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【0072】
制御装置8を、飛行体に備える場合に限定はされない。飛行体と無線接続されるコンピュータやサーバが、飛行体の下降放電を制御してもよい。
【0073】
HAPS1はソーラープレーンに限定はされない。HAPS1は飛行船、成層圏ジェット等であってもよい。
飛行体はHAPSに限定はされない。本発明はeVTOL等の他の電動飛行体や、発電装置と内燃機関とを搭載するハイブリッド飛行体にも適用できる。
本発明はドローン等、蓄電装置は備えるが発電装置を備えない飛行体にも適用できる。例えば蓄電装置のSOHが所定値以下になり、下限電圧に到達した場合に本発明の下降放電を行う。
【0074】
蓄電素子はリチウムイオン二次電池には限定されない。蓄電素子は、他の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 HAPS
2 翼部
3 プロペラ
4 脚部
5 ソーラーパネル(発電装置)
6 電池セル(蓄電素子)
7 蓄電装置
8 制御装置
80 記録媒体
81 制御部
82 記憶部
821 下降制御プログラム
822 履歴DB
83 入力部
84 通信部
85 モータ駆動部
9 無線中継局
10 モータ
11 第1コンバータ回路
12 第2コンバータ回路
13 切替部
14 インバータ回路
15 車輪
16 温度センサ
17 温調装置
30 端末装置