(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】シームレス缶体及びシームレス缶体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20240305BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20240305BHJP
B21D 22/28 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B21D51/26 R
B21D51/26 X
B21D22/28 L
(21)【出願番号】P 2020040382
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 具実
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-285832(JP,A)
【文献】特開平11-123481(JP,A)
【文献】特開2018-104095(JP,A)
【文献】特開2018-103227(JP,A)
【文献】特開2016-047541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/16
B21D 51/26-51/34
B21D 22/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状胴部と、
前記筒状胴部の下端から連なる周状接地部と、
前記周状接地部から中心軸側に向かって連なる上げ底部と、を含み、
前記上げ底部の外面表面積をA
D、前記周状接地部を輪郭とする仮想平面の面積をA
B、
前記仮想平面と前記上げ底部とで囲まれる空間の容積をV
D
、前記上げ底部を形成する金属部材の体積をV
M
、とそれぞれ規定したとき、
1.55≧(A
D/A
B)≧1.40
、且つ、
25.5≧(V
D
/V
M
)≧22.0
の関係を満たすことを特徴とするシームレス缶。
【請求項2】
金属素材を、筒状胴部と、前記筒状胴部の下端から続く外周底部と、前記外周底部から開口部へ向けて第1の高さで膨出する膨出部と、を有するカップ体に成形する第1成形工程と、
前記第1の高さより低い第2の高さとなるように前記膨出部を押し下げて、前記筒状胴部の下端から連なる周状接地部と、前記周状接地部から中心軸側に向かって連なる上げ底部とを形成する第2成形工程と、を含み、
前記上げ底部の外面表面積をA
D、前記周状接地部を輪郭とする仮想平面の面積をA
B、
前記仮想平面と前記上げ底部とで囲まれる空間の容積をV
D
、前記上げ底部を形成する金属部材の体積をV
M
、とそれぞれ規定したとき、
1.55≧(A
D/A
B)≧1.40
、且つ、
25.5≧(V
D
/V
M
)≧22.0
の関係を満たす、ことを特徴とするシームレス缶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス缶体及びシームレス缶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絞りしごき加工によって缶胴部などが成形される、いわゆるシームレス缶体が知られている。このシームレス缶体は、浅絞り後のしごき加工により缶胴部が薄肉化されているため、軽量性に優れている。その一方で、これらのシームレス缶体において、缶底部を薄肉化しても耐圧性能を維持又は向上させるための種々の提案が従来なされている。
【0003】
例えば特許文献1や特許文献2には、缶の内圧が耐圧強度を超えたときに現れる、缶底のドーム部が反転する現象(バックリング)を防止する目的で施す、いわゆるボトムリフォーム加工が開示されている。具体的には、缶底の接地部の、缶軸に直交する径方向の内側に位置する内周壁を押圧することにより、凹部を成形するボトムリフォーム加工が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-103227号公報
【文献】特開2016-47541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、上記したボトムリフォーム工程では、缶底の内周壁を成形ローラ等を使用して押圧することにより凹部を成形することが一般的である。
また昨今、シームレス缶体の軽量化を図るために、絞りしごき加工を行う前の素板(ブランク)の板厚を益々薄くすることが求められている。しかしながら上記ボトムリフォーム加工を施した場合、上記の成形ローラ等が当接される押圧部の金属素材の厚みはその加工により延ばされて薄くなるため、素板(ブランク)の板厚を薄くすることに関しての限界があった。
【0006】
本発明者は上記に例示した課題に鑑みて鋭意検討を繰り返した結果、優れた耐圧性能を備えるシームレス缶体及びその製造方法を提供することを可能とし、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態におけるシームレス缶体は、(1)筒状胴部と、前記筒状胴部の下端から連なる周状接地部と、前記周状接地部から中心軸側に向かって連なる上げ底部と、を含み、前記上げ底部の外面表面積をAD、前記周状接地部を輪郭とする仮想平面の面積をAB、前記仮想平面と前記上げ底部とで囲まれる空間の容積をV
D
、前記上げ底部を形成する金属部材の体積をV
M
、とそれぞれ規定したとき、1.55≧(AD/AB)≧1.40、且つ、25.5≧(V
D
/V
M
)≧22.0の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明の一実施形態におけるシームレス缶体の製造方法は、(3)金属素材を、筒状胴部と、前記筒状胴部の下端から続く外周底部と、前記外周底部から開口部へ向けて第1の高さで膨出する膨出部と、を有するカップ体に成形する第1成形工程と、前記第1の高さより低い第2の高さとなるように前記膨出部を押し下げて、前記筒状胴部の下端から連なる周状接地部と、前記周状接地部から中心軸側に向かって連なる上げ底部とを形成する第2成形工程と、を含み、前記上げ底部の外面表面積をAD、前記周状接地部を輪郭とする仮想平面の面積をAB、前記仮想平面と前記上げ底部とで囲まれる空間の容積をV
D
、前記上げ底部を形成する金属部材の体積をV
M
、とそれぞれ規定したとき、1.55≧(AD/AB)≧1.40、且つ、25.5≧(V
D
/V
M
)≧22.0の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐圧性能に優れた上げ底部によってバックリングの発生を防止したシームレス缶体をより少ない量の材料で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態におけるシームレス缶体の全体の縦断面を示す模式図である。
【
図2】実施形態におけるシームレス缶体の缶底を示す拡大図である。
【
図3】上げ底部の外面表面積A
D、周状接地部を輪郭とする仮想平面の面積A
B、仮想平面と上げ底部とで囲まれる空間の容積V
D、および上げ底部を形成する金属部材の体積V
Mをそれぞれ説明するための模式図である。
【
図4】実施形態におけるシームレス缶体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態のシームレス缶体の製造方法のうち第1成形工程を示す図である。
【
図6】実施形態のシームレス缶体の製造方法のうち第2成形工程を示す図である。
【
図7】実施形態において立ち上がり部に付与される圧縮応力を示す模式図である。
【
図8】実施形態におけるシームレス缶体のうち、第1成形工程後における暫定周状接地部と、第2成形工程後の周状接地部と、の状態遷移を説明する模式図である。
【
図9】シームレス缶体の缶底への有機被膜の塗布例を示す模式図である。
【
図10】実験例における缶底部の周辺を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明のシームレス缶体及びその製造方法について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示してその内容について説明するものであり、本発明を意図的に限定するものではない。
【0013】
[第1実施形態]
<シームレス缶体1>
図1に示すように、本実施形態のシームレス缶体1は、筒状胴部10と、この筒状胴部10の下端から連続する外周底部20aを少なくとも備えた缶底部20と、を有するシームレス缶体である。なお図示では筒状胴部10より上方は一例としてネック・フランジ形状が描かれているが、筒状胴部10より上方は開口部10aを有する公知のシームレス缶体の構造が適用できる。
【0014】
筒状胴部10は、シームレス缶体1の側面を構成する部位であり、後述するアルミニウムやスチールなど公知の金属板を絞りしごき加工することで形成される。この筒状胴部10は、用途により幅はあるが例えば一例として概ね0.07~0.40mm程度の厚みを持つように構成されている。
本実施形態における筒状胴部10は、後述する下端10eを下端部として、上端部は
図1に示すようにネックショルダー(軸方向上方に向かうに従って縮径される部位)との境界までと定義される。
【0015】
缶底部20は、
図1のとおり上記した筒状胴部10の下端10eから内側へ縮径するように連続する外周底部20aと、この外周底部20aの内側から開口部10aに向かって膨出する上げ底部30とを少なくとも含んで構成されている。
なお
図1からも明らかなとおり、本実施形態における外周底部20aと上げ底部30は、シームレス缶体1をテーブルなどの平面上に載置した際に接地する周状接地部20bを境に区分けされている。換言すれば、周状接地部20bは筒状胴部10の下端10eから連なる部位であり、外周底部20aは筒状胴部10と周状接地部20bの間に位置する部位であるとも言える。
【0016】
このようにシームレス缶体1は、周状接地部20bから上方に向けて凸状に形成された上げ底部30を具備してなる。図示から明らかなとおり、本実施形態の上げ底部30は、周状接地部20bから中心軸側に向かって連なるように形成されている。なお、この上げ底部30は、本実施形態では周状接地部20bから立ち上がった後に緩やかなドーム(先に向かって凸)状のごとき形状となっているが、この形態に限られず、頂部の少なくとも一部が平板状となっていてもよい。
【0017】
なお、本実施形態において、シームレス缶体1に用いられる金属素材の種類としては特に制限されない。すなわち、シームレス缶体に通常用いられる公知の金属板、例えばアルミニウム合金板や鋼板(例えばブリキ等)を使用することができる。また、金属板は少なくとも片面に公知のフィルムを積層したものや、有機樹脂を塗装したもの、化成処理を施したもの等、表面被覆を適宜施していてもよい。
また、本実施形態のシームレス缶体1は、例えば公知のフランジ加工やネッキング加工、ねじ加工等が施され、また、ビールや炭酸飲料、コーヒー、ジュース、流動食品等が内容物として収容された後に、開口部10aに公知の方法で蓋やキャップなどが取り付けられる。
【0018】
<上げ底部30の構造的特徴>
次に
図1及び3なども参照しつつ、本実施形態における上記した上げ底部30の構造について詳述する。
これらの図から明らかなとおり、本実施形態のシームレス缶体1における上げ底部30は、この上げ底部30の外面表面積をA
D、周状接地部20bを輪郭とする仮想平面VPの面積をA
B、とそれぞれ規定したとき、以下の式(1)で示す関係を満たしている。
1.55≧(A
D/A
B)≧1.40 ・・・(1)
【0019】
上述したとおり、近年ではいわゆる強炭酸など缶の内圧が高めとなる炭酸飲料も提供されるなど、飲料市場に投入される飲料の種類も豊富となってきている。このニーズの広範囲化に伴って、これら強炭酸やビールなどの炭酸飲料や果汁飲料などの非炭酸飲料が保存されるシームレス缶体にも優れた耐圧性能が希求されることが想定できる。シームレス缶体の耐圧性能を向上させるには板厚を単純に増加させることも考えられるが、缶自体の重量増やコスト増を招き現実的ではない。
【0020】
そこで本発明者が鋭意検討した結果、本実施形態で開示する上げ底部30は、上記(1)の関係式を満たすときに優れた耐圧性能を示せることに帰結した。すなわち、上記した(AD/AB)は、本実施形態における上げ底部30の上方への膨出度合いをパラメータ(数値)化した概念であり、この膨出度合いとしての(AD/AB)が1.40を超えると、製品市場において通常受け入れられる板厚と耐圧性能とのバランスが確保できる。
【0021】
なお上げ底部30の外面表面積ADや仮想平面VPの面積ABは、公知の計算式により計算することもできるが、例えば市販の形状測定機によって容易にかつ精度よく求めることができる。本実施形態では、かような形状測定機として、株式会社東京精密製のコンターレコード(型番1600DH)を用いて測定した。すなわち、カップの中心軸を通る平面上を移動する触針の上下動により生成した形状データをCADに移して断面形状を得て、これを元に回転体としての表面積ならびに(別途測定した板厚データを掛け合わせて)体積を十分な高精度をもって測定した。
【0022】
一方でこの膨出度合いとしての(AD/AB)が1.40未満であると、上げ底部の剛性確保が行えず、例えば板厚をより大きくせねばならずコスト増や資源の無駄使いにつながるなどの不具合が発生し得るようになってしまい、上記した板厚と耐圧性能とのバランスを確保することが困難となる。
なお膨出度合いとしての(AD/AB)の上限については、市場が要求する缶体の仕様によって種々設定できるが、例えば1.55以下であることが好ましい。(AD/AB)>1.55となると、材料面積が過剰となりコストの増大または資源の無駄使いにつながるという不具合が発生し得るからである。
【0023】
さらに輸送コストなども鑑みると、本実施形態のシームレス缶体1は、耐圧性能に優れながらも軽量であることが望ましい。かような観点に基づいて本発明者が追求したところ、本実施形態で開示する上げ底部30は、上記(2)の関係式を更に満たすときに、上記した優れた耐圧性能に加えて軽量化も実現できることに帰結した。
すなわち、上記した仮想平面VPと上げ底部30とで囲まれる空間の容積をVD、上げ底部30を形成する金属部材の体積をVM、とそれぞれ規定したときに、以下の式(2)で示す関係を満たすことが望ましい。
26.0≧(VD/VM)≧22.0 ・・・(2)
【0024】
なお上記と同様に、上げ底部30の上記した容積VDや金属部材の体積VMは、公知の計算式により計算することもできるが、市販の形状測定機によって容易にかつ精度よく求めることができる。本実施形態では、上記した形状測定機(株式会社東京精密製、商品名;コンターレコード、型番1600DH)を用いて容積VDと体積VMの測定も行った。
【0025】
なお、上記した(VD/VM)は本実施形態においては耐圧性能と軽量化および容器の内容量のバランス指標として機能しており、(VD/VM)の上限は26以下であることが好ましい。(VD/VM)>26となると、耐圧性能の向上よりコスト増や内容量低下などのデメリットが発生し得るからである。
【0026】
<シームレス缶体1の製造方法>
次に本実施形態におけるシームレス缶体1の製造方法について、
図4~8も適宜参照しつつ説明する。
本実施形態におけるシームレス缶体1の製造方法としては、
図1に示すような筒状胴部10と缶底部20とを有するシームレス缶体の製造方法であって、
図4に示すとおりSTEP1としての第1成形工程と、これに後続するSTEPとしての第2成形工程を少なくとも含む。
【0027】
[第1成形工程]
本実施形態におけるシームレス缶体1の製造方法は、この第1成形工程において、金属素材(前駆体3)を、筒状胴部10と、この筒状胴部10の下端10eから続く外周底部20aと、この外周底部20aから開口部へ向けて第1の高さHoで膨出する膨出部4と、を有するカップ体2に成形する(
図5参照)。このとき、筒状胴部10よりも内側の下端であって膨出部4との境には、暫定周状接地部20a´が位置付けられている。このカップ体2は絞り・再絞り成形、絞り・しごき成形などの公知の成形加工法により成形可能である。
換言すれば、この第1成形工程では、金属素材(前駆体3)を、筒状胴部10と、この筒状胴部10よりも内側の下端に位置する暫定周状接地部20a´と、この暫定周状接地部20a´よりも内側に位置する第1の高さHoを有する膨出部4と、を有するカップ体2に成形しているとも言える。
【0028】
なお図示のとおり、本実施形態におけるカップ体2の膨出部4は、この外周底部20aから内側上方に向けて延出する傾斜部Sと、この傾斜部Sの端部Seから内側のカップドーム部Dと、で構成されている。また、本実施形態のシームレス缶体の製造方法において、筒状胴部10の成形方法としては、例えば特開平9-285832号公報に記載のような公知の方法を採用可能である。
【0029】
より詳細に
図5(a)~(c)に例示する工程を説明する。
まず、上述した金属素材(ブランク)を用いて、公知の方法により缶胴部を形成することにより、カップ形状を有する前駆体3を準備する。
そして金属素材(前駆体3)を、筒状胴部10と、前記筒状胴部10の下端10eから縮径するように続くカップ外周底部Aと、このカップ外周底部Aから内側上方に向けて第1の高さHoで膨出する上記した膨出部4と、を有するカップ体2に成形する。ここで傾斜部Sの端部Seは、カップドーム部Dとの接続点ともいうことができる。
【0030】
図5に示される第1成形工程は、公知のプレス工程等により筒状胴部10が成形された前駆体3に対し、上型と下型とを用いて、分離した工程として実施することもできるし、しごき加工を行う工程に続くストローク終段で行うこともできる。
具体的な例としては、
図5に示されるように、カップ形状を有する前駆体3内に位置してこれを支持する筒状のパンチ401と、前駆体3の外周底部を前記パンチ401と協動して支持するホールドダウンリング501と、ドーミングダイ502と、により上記第1成形工程が実施される。
【0031】
まず、パンチ401のテーパ部402とホールドダウンリング501のテーパ状支持部503とで前駆体3の外周底部を保持し、パンチ401とドーミングダイ502とがかみ合うように駆動して相対的に近接させて、ボトムにHoのカップドーム部Dを有するカップ体2を得ることができる。
ここで、上記第1成形工程により得られたカップ体2の形状について説明する。すなわち、カップ体2における傾斜部Sは、前記カップ外周底部Aから内側上方に向けて延出するものである。
【0032】
すなわちカップ体2の傾斜部Sは、
図5に示すように、Z軸方向においてカップ体2の最も低い部分と、カップドーム部Dとの境(端部Se)とで挟まれた曲線部分及び直線部分を言うものとする。
なお上記したカップドーム部Dの形状は一例であって、ドームの頂上を曲面状とせず例えば水平面状としてもよい。
【0033】
図5(c)に示すように傾斜部Sは、垂直でもかまわないが、所定の角度θ
1で傾斜させることがより好ましい。すなわち、傾斜部SとZ軸のなす角度θ
1については、5°~30°であることが好ましく、第1成形工程後に内面にスプレー塗装法により塗膜を形成する場合にスプレー塗装がしやすくなるため10°~30°であることがより好ましい。
【0034】
また、カップ外周底部Aから傾斜部Sのなす角θ
2における曲率半径R(
図5(c)参照)については単一の曲率半径の他に複数の異なる曲率半径を連ねた曲線を設定することもできる。例えば単一の曲率半径Rであれば、素板(ブランク)の板厚をt0として、R=5×t0~15×t0とすることが、第1成形工程後に内面にスプレー塗装法により塗膜を形成する場合にスプレー塗装がしやすくなるため、より好ましい。
さらに、カップ体2におけるカップドーム部Dの第1の高さHoは、後述する第2成形工程により得られるシームレス缶体1における上げ底部30の高さHpよりも大きいことが好ましい。この理由としては、後述する第2成形工程においてカップ体2におけるカップドーム部Dを押し下げながら、傾斜部Sに圧縮応力を付与するためである。すなわち、カップ体2におけるカップドーム部Dの第1の高さHoを事前に大きくしておき、最終的にシームレス缶体1において好ましい上げ底部30の高さHpを得るためである。
【0035】
[第2成形工程]
次に
図6を参照しつつ、本実施形態におけるシームレス缶体1の製造方法のうち第2成形工程について説明する。
上記第1成形工程によって暫定周状接地部20a´及び傾斜部Sを有するカップ体2が成形された後は、以下に詳述する第2成形工程が実施される。
【0036】
すなわち本実施形態におけるシームレス缶体1の製造方法は、この第2成形工程において、上記した第1の高さHoより低い第2の高さHpとなるように上記した膨出部4を押し下げて、筒状胴部10の下端10eから連なる周状接地部20bと、この周状接地部20bから中心軸側に向かって連なる上げ底部30とを形成する。
換言すれば、この第2成形工程において、カップ体2に対して上記した膨出部4を押し下げることで、暫定周状接地部20a´とは異なる位置に配置された周状接地部20bと、第1の高さHoよりも低い高さHpを有する上げ底部30と、を形成しているとも言える。
【0037】
このときの上げ底部30の形状は、上述のとおり、外面表面積ADと仮想平面VPの面積ABとで規定される上記式(1)を満たしている。また、このときの上げ底部30の形状は、仮想平面VPと上げ底部30とで囲まれる空間の容積VDと、上げ底部を形成する金属部材の体積をVMとで規定される上記式(2)を満たすことが望ましい。
【0038】
より具体的に第2成形工程においては、前記カップ体2に対して、上述の第1成形工程における成形金型とは異なる金型により加工を施し、シームレス缶体1が成形される。すなわち、カップ体2を下型成形部材に当接させながら、上型成形部材を用いてカップ体2のカップドーム部Dに対して缶外方向(-Z軸方向)に押圧力を加える。
あるいは、カップ体2を下型成形部材及び上型成形部材に当接させながら、下型成形部材を用いて+Z軸方向に押圧力を加えてもよい。
【0039】
より詳細には
図6に示すように、カップ体2のカップ外周底部Aをカップ外周側ホルダー60に載せる。ドーム押し下げ工具70が相対的に下降し、カップドーム部Dにドーム押し下げ工具70の支持部701が接触する。ここで、カップ外周側ホルダー60はテーパ面601及び溝602を有しており、カップ体2のカップ外周底部Aが前記テーパ面601に接触した後に、ドーム押し下げ工具70がさらに押し下げられることにより、カップ体2の傾斜部Sの金属が、圧縮応力を受けながら溝602内に案内され、押し込まれる。
【0040】
そして、前記第1の高さHoより低い第2の高さHpとなるように、前記カップドーム部Dを押し下げる。同時に、上型成形部材(ドーム押し下げ工具70)及び下型成形部材(カップ外周側ホルダー60)を用いて、前記傾斜部Sに対して、子午線方向の圧縮応力σ
φならびに周方向の圧縮応力σ
θを作用させる。
なお
図7は、本実施形態において、傾斜部Sが立ち上がり部20dに形成される際に付与される圧縮応力を示す模式図である。すなわち、傾斜部Sを前記下型成形部材の溝602内に押し込まれる際、該傾斜部Sにはドーム押し下げ工具70の押す力により子午線方向の圧縮応力σ
φと下型成形部材に倣おうとして径方向内側に移動することによる周方向の圧縮応力σ
θが同時に作用して、当該傾斜部Sにおける金属素材の厚みは増大する(
図7における矢印方向σ
ψ)。
【0041】
このようにして、第2成形工程を経た後にシームレス缶体1が得られる。
成形が終了したら、ドーム押し下げ工具を相対的に上昇させ、シームレス缶体1をカップ外周側ホルダー60から取り出せばよい。
ここで、第2成形工程後に得られるシームレス缶体1としては、上述した本実施形態におけるシームレス缶体1であることが好ましい。
すなわち、第2成形工程後に得られるシームレス缶体1としては、
図1に示すように、外周底部20a及び周状接地部20bを有するものである。
【0042】
なお、第2成形工程は、以下の特徴を有することがさらに好ましい。
すなわち、第2成形工程では、上述したカップ体2を第2成形工程の下型成形部材(カップ外周側ホルダー60)に押し込むことで、傾斜部Sを、外周底部20aよりも内側に位置する周状接地部20bと、前記周状接地部20bよりも内側に位置する内側端部20cと、前記内側端部20cから上方に立ち上がる立ち上がり部20dと、に形成する。
【0043】
さらにこの第2成形工程では、シームレス缶体1の立ち上がり部20dとドーム部20fとの接続点(最外端20e)の内径が、内側端部20cの内径よりも大きくなるように、缶体軸の外方に向かって最外端20eが凸となるリング溝を形成する。言い換えると、同図のとおり、最外端20eの付近では、断面図において概ね「⊂」又は「⊃」形状となっている。
従来、回転ロールや割型を用いて上記したようなリング溝を形成するリフォーム成形方法(ボトムリフォーム加工)が存在した。しかしながら従来の方法では、加工部位が薄くなりやすく十分に深い溝を形成することが困難であった。
これに対して本実施形態で示した方法によればリング溝部の板厚は薄くならず逆に厚くなる傾向が生じ、且つ無理なく深い溝が形成できる。
【0044】
本実施形態のシームレス缶体の製造方法において、第1成形工程と第2成形工程との間で、カップ体2のカップ外周底部Aの上部の形状や長さに変化は与えられない。
すなわち、カップ体2をカップ外周側ホルダー60に載せた際に、カップ体2のカップ外周底部Aとカップ外周側ホルダー60のテーパ面601とが接触する面の、Z軸方向において最も低い点をT点とする。このT点は、ドーム押し下げ工具70の下降及びカップドーム部Dの押し下げに伴って、位置は変化しない。(
図6参照)
【0045】
一方で、第2成形工程により、カップ体2の傾斜部Sであった部分は、シームレス缶体1の外周底部20aの一部と周状接地部20bと内側端部20cと立ち上がり部20dとに成形される(
図2なども適宜参照)。すなわちカップ体2の傾斜部Sは、カップ外周側ホルダー60の溝602に最終的には大半が入り込む。
なおこの第2成形工程において、カップ体2と上下金型との間の接触には著しい摺動がない。そのため、カップ体2の金属表面の損傷を生じることはなく、もとより潤滑剤を使用する必要はない。
【0046】
また、素板(ブランク)の板厚t0としては、通常シームレス缶体を製造される場合の板厚であればよく、用途により概ねt0=0.15mm~0.4mm程度の厚さの金属板を打ち抜いて素板(ブランク)として使用することができるが、上記厚みに限定されるものではない。
【0047】
[表面被覆処理工程]
素板として、表面に有機被覆を持たない金属板を用いた場合には、
図4に示すとおり、本実施形態のシームレス缶体の製造方法においては、上記した第1成形工程と第2成形工程との間に、カップ体2の少なくとも内面に対して表面被覆処理を行う内面処理工程(STEP2)をさらに有することが好ましい。かような表面被覆処理としては、シームレス缶体1の内面側に用いられる公知の塗膜などの塗装が挙げられる。
【0048】
また、さらに外面側においては、第1成形工程以降の搬送性や耐食性を確保する目的で、カップ体2の最下端曲率部を中心として、カップ外周底部Aから傾斜部Sにかけての範囲の部分に有機被膜40a及び40b(
図8参照)を施すことができる。
すなわち本実施形態では、少なくとも第1成形工程および第2成形工程といった形で2工程以上の成形加工を行うため、これら成形工程間とそれ以降の搬送時にシームレス缶体の底部が擦れることが想定される。これに対し、例えば上記した有機被膜40を第1成形工程と第2成形工程の間で付与することで、暫定周状接地部20a´と周状接地部20bとにそれぞれ有機被膜40aおよび40bが形成される(
図8参照)ことになる。
【0049】
図9に、カップ外周底部Aから傾斜部Sにかけての範囲の部分に有機被膜40を塗布可能な塗布装置の一例を示す。同図に示すように、カップ体2は搬送機構TMによって水平移動されるときに、収容容器SC内に貯留された塗膜液LQ(有機被膜40となる液体)を塗布用ローラーR1及びR2によってカップ体2の底部へ塗布することができる。ローラーR2の表面には適度な弾性を有するゴム材を用いているためカップ外周底部Aから傾斜部Sにかけての範囲の部分に確実に塗布することができる。
なお上記した塗布装置は一例であって、例えば公知のロボットハンドラなどでカップ体2の底部へ塗膜液LQをスプレー塗布するなど公知の手法を適用してもよい。
【0050】
なお上記STEP2としての表面被覆処理工程の他に、第1成形工程と第2成形工程との間に、カップ体2に対して、適宜公知の洗浄工程、印刷工程、筒状胴部への形状付与加工、あるいは第2成形工程を行うのに支障がない範囲でのネックイン(口絞り)加工等が実施されてもよい。
【0051】
以上説明した本実施形態のシームレス缶体1およびその製造方法によれば、優れた耐圧性能を有するシームレス缶体を実現でき、軽量化及び缶底の耐圧強度の要求を高い次元で両立することが可能となる。
【実験例】
【0052】
上記した手法に基づいて実施した実験例を
図10も参照しながら以下に示す。しかしながら、本発明は以下の実験例に何ら限定されるものではない。
まず金属素材(前駆体3)として板厚が0.200mm、0.205mm、0.215mm、0.225mm、0.240mm、0.245mm、0.250mmのアルミニウム合金板(JIS H 4000 A3104-H19材)を準備し、上記第1成形工程、表面処理工程および第2成形工程を行って、内容積350mLで缶径が211D(外径φ66.0mm)の後に述べる実験例1~19のように缶底の仕様の異なる絞りしごき缶(DI缶)すなわちシームレス缶体1を製造した。
【0053】
得られた各種のシームレス缶体1および市販品2種に対し、上記した形状測定機(株式会社東京精密製、商品名;コンターレコード、型番1600DH)を用いて缶体の中心線を通る外面側の輪郭を測定し、得られた形状データをCADに移して、上記した外面表面積AD、周状接地部20bを輪郭とする仮想平面の面積AB、仮想平面VPと上げ底部30とで囲まれる空間の容積VD、及び上げ底部30を形成する金属部材(本例ではアルミニウム合金)の体積VMを含む各種パラメータを算出した。
【0054】
また、このようにして得られたシームレス缶体1に対し、耐圧性能試験を実施した。耐圧強度は、缶の開口部を孔付き板で密封し、この孔よりパイプを通して加圧水を缶内に送入することにより行なった。耐圧(バックリング圧)評価は、炭酸飲料用に適用可能な耐圧として0.686MPaを超えるものを「○」とし、これ以下のものを「×」と評価した。
缶製造に要する材料を節減する意図から、缶底部の材料使用量として上げ底部のメタル体積VMに着目し、615mm3を下回るものを「○」と評価し、これ以上のものを「×」と評価した。
【0055】
上げ底部30の容積VDが過大になることによる容器内容量が減少してしまう不利益を評価するために、上げ底部30の容積VDに着目し、17000mm3(=17ml)を下回るものを「○」と評価し、これ以上のものを「×」と評価した。なお本実験例のシームレス缶体1の内容量は一例として350mlを想定しており、17mlはその約5%にあたる。
これらの評価結果“耐圧性能”、“材料使用量”、“容量減少”が全て「○」となるものに総合評価を「○」とし、ひとつでも「×」の評価があるものを総合評価「×」とした。
表1に実験例1~19のシームレス缶体1及び市販品2種の仕様(測定値、算出値)ならびに評価結果をまとめて示した。
【0056】
実験例1は、本発明の成形方法による基本的仕様として挙げるもので、現時点で市販されている缶径211D(約66mm)の市販品と比較して、接地径はほぼ同じで、素材板厚0.225mmは著しく薄肉であるにもかかわらず総合評価は「○」となった。このように実験例1では、缶底の性能およびコスト面が共に極めて優れていることが示されている。
実験例2~5は、上記した実験例1より上げ底部30の高さH
pを増やす変更を行ったものである。
図10に示す最外端20eの内径φd
Rや内側端部20cの最内径φd
eは変わらないように、予めそれぞれ第1の高さHo(
図5(c)参照)も適宜増やして成形した。
【0057】
実験例6~8は、実験例1より素材板厚を減少させる変更を行ったものである。
実験例9~11は、実験例1より素材板厚を増加させる変更を行ったものである。
実験例12~15は、実験例1より最外端20eの内径φdRを減少させる変更を行ったものである。上げ底部30の高さHpや内側端部20cの最内径φdeは変わらないように、予めそれぞれ第1の高さHoも適宜減少させて成形した。
【0058】
実験例16は、実験例1より最外端20eの内径φd
Rを増加させる変更を行ったものである。上げ底部30の高さH
pや内側端部20cの最内径φd
eは変わらないように、予めそれぞれ第1の高さHoも適宜増やして成形した。
実験例17、18は、実験例16より最外端20eの内径φd
Rをさらに増加させる変更を行うためにドーム球面半径r
D(
図10参照)を40mmにやや大きくしたものである。上げ底部30の高さH
pや内側端部20cの最内径φd
eは変わらないように、予めそれぞれ第1の高さHoも適宜変更して成形した。
【0059】
実験例19は、実験例4より素材板厚を0.215mmに減少させる変更を行ったものである。
2種類の市販品は、現時点において市場に流通しているものの中で、内容物は炭酸ガスを含み、底部にロールによる所謂リフォーム成形が施されており、且つ比較的薄肉で軽量と思しきものを選定し、これを測定、評価したものである。
以上の実験例の評価結果で、総合評価が「○」となるものはいずれも、(AD/AB)の値と(VD/VM)の値は共に本発明の請求項に規定される数値の範囲内であった。一方で総合評価が「×」となるものは、いずれも(AD/AB)の値と(VD/VM)の値は共に本発明の請求項に規定される数値の範囲外であった。
【0060】
以上で示した実験例などでは缶径が全て66mmにおいて行われていたが、(AD/AB)の値と(VD/VM)の値は共に無次元数であり、耐圧性能、コスト面の評価は缶の大きさに関わらず相似則が成り立つ。すなわち、本発明は、上記した缶径が66mmであるものに限られず、種々の缶径において本発明の規定する数値範囲を実施でき、かような場合にも上記で示した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0061】
【0062】
以上説明した実施形態は本発明の趣旨を具現化した一例であり、本発明の上記趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えてもよい。さらには本発明の上記趣旨を逸脱しない範囲で実施形態で示したシームレス缶体に対して公知の構造を追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、優れた耐圧性能が要求される容器に対して適用可能であり、特に飲料や薬品などの液体を貯蔵可能な缶体に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 シームレス缶体
2 カップ体
3 前駆体
4 膨出部
10 筒状胴部
20 缶底部
60 下型成形部材(カップ外周側ホルダー)
70 上型成形部材(ドーム押し下げ工具)
D カップドーム部
S 傾斜部
Hp 上げ底部30の高さ(第2の高さ)
Ho 膨出部4の高さ(第1の高さ)