(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/10 20060101AFI20240305BHJP
F02B 23/00 20060101ALI20240305BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240305BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F02F3/10 B
F02B23/00 H
F01N3/28 Q
F01N3/28 P
F01N3/08 A
(21)【出願番号】P 2020043703
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩知道 均一
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 晃毅
(72)【発明者】
【氏名】田中 大
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131913(JP,A)
【文献】特開2008-144612(JP,A)
【文献】特開昭61-055313(JP,A)
【文献】特開2015-040482(JP,A)
【文献】特開昭49-033016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00ー 3/12
F02B 23/00
F01N 3/08ー 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排気ガスを浄化する触媒を配置したピストンであって、
前記内燃機関の燃焼室に向けて配置された頂面と、
前記頂面の表面に設けられる触媒下層と、
前記触媒下層の上面に設けられる触媒上層と、
を備え
、
前記触媒下層と前記触媒上層のいずれか一方に、排気ガスに含まれる成分を浄化する第1
触媒を前記ピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が高くなるように担持し、
いずれか他方に、排気ガスに含まれる成分を浄化する前記第1触媒とは異なる第2触媒を
前記ピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が低くなるように担持
し、
前記第1触媒は、前記排気ガスに含まれる炭化水素の浄化能力が高く、
前記第2触媒は、前記排気ガスに含まれる窒素酸化物の浄化能力が高い、
ピストン。
【請求項2】
内燃機関から排出される排気ガスを浄化する触媒を配置したピストンであって、
前記内燃機関の燃焼室に向けて配置された頂面と、
前記頂面の表面に設けられる触媒下層と、
前記触媒下層の上面に設けられる触媒上層と、
を備え、
前記触媒下層と前記触媒上層のいずれか一方に、排気ガスに含まれる成分を浄化する第1
触媒を前記ピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が高くなるように担持し、
いずれか他方に、排気ガスに含まれる成分を浄化する前記第1触媒とは異なる第2触媒を
前記ピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が低くなるように担持し、
前記第1触媒はパラジウムであり、前記第2触媒はロジウムである、
ピストン。
【請求項3】
前記頂面と前記触媒下層との間にゼオライトを含むベース層を有し、
前記ベース層は、前記ゼオライトを前記ピストンの中心側から外周側に向かって担持密
度が高くなるように担持する、
請求項1
または2に記載のピストン。
【請求項4】
前記ピストンは、前記頂面に複数の溝が形成される、
請求項1
から3のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項5】
前記第1触媒は、前記内燃機関の点火装置と対向する位置から外周側に向かって担持密
度が高くなり、
前記第2触媒の担持密度の高い領域は、前記点火装置と対向する位置となる、
請求項1
から4のいずれか一項に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する触媒を配置したピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する触媒を配置したピストンが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のピストンは、第1触媒部と、第2触媒部を備える。第1触媒部は、相対的に低温の触媒活性温度を有する第1の触媒(特許文献1のピストンではロジウム)が表層に配置される。第2触媒部は、相対的に高温の触媒活性温度を有する第2の触媒(特許文献1のピストンではパラジウム)が表層に配置される。
【0003】
また、特許文献1では、キャビティを有するピストンと、キャビティを有さないピストンと、が開示されている。特許文献1のキャビティを有するピストンでは、燃焼室の温度が低いキャビティ内部の頂面に第1触媒部を塗布することで配置し、燃焼室の温度が高いキャビティ外周の頂面に第2触媒部を塗布することで配置する。また、特許文献1のキャビティを有さないピストンでは、フラットなピストンの頂面の中央部に第1触媒部を塗布することで配置する。第2触媒部は、第1触媒部の周囲に環状に塗布することで配置する。このように、特許文献1のピストンでは、燃焼室の燃焼温度に応じて、活性温度の異なる触媒を表層に配置することで、ガスの浄化を効率的に行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のキャビティを有するピストンでは、キャビティ内部の頂面には第1触媒部のみが配置される。このため、特許文献1のピストンでは、例えば、キャビティ内部において排気ガス成分の偏りが生じた場合、第1の触媒と、第2の触媒の浄化性能が十分に発揮されないおそれがある。
【0006】
また、特許文献1のキャビティを有さないピストンにおいて、フラットな頂面に第1触媒部の外縁と第2触媒部の内縁とを一致させて配置する場合がある。このような場合、第1触媒部および第2触媒部は、表層の異なる第1触媒部と第2触媒部とが重ならないように位置決めしたのち塗布する必要がある。このため、触媒の塗布工程が複雑になり、複数の触媒を容易に塗布できないおそれがある。
【0007】
本発明は、燃焼室内の排気ガス成分の分布の偏りに対応して、排気ガス成分を浄化できるとともに複数の触媒を容易に塗布可能なピストンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るピストンは、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する触媒を配置したピストンである。ピストンは、頂面と、触媒下層と、触媒上層と、を備える。頂面は、内燃機関の燃焼室に向けて配置される。触媒下層は、頂面の表面に設けられる。触媒上層は、触媒下層の上面に設けられる。ピストンは、触媒下層と触媒上層のいずれか一方に、排気ガスに含まれる成分を浄化する第1触媒をピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が高くなるように担持する。ピストンは、いずれか他方に、排気ガスに含まれる成分を浄化する第1触媒とは異なる第2触媒をピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が低くなるように担持する。
【0009】
このピストンによれば、燃焼室内の排気ガス成分の分布の偏りに対応した位置に、触媒が担持される。
【0010】
また、触媒下層は第1触媒または第2触媒のいずれか一方を担持し、触媒上層は他方の触媒を担持する。すなわち、表層に担持される触媒は第1触媒または第2触媒の一種類である。このため、触媒を容易に塗布できる。この結果、燃焼室内の排気ガス成分の分布の偏りに対応して、排気ガス成分を浄化できるとともに複数の触媒を容易に塗布可能なピストンを提供できる。
【0011】
第1触媒は、排気ガスに含まれる炭化水素の浄化能力が高く、第2触媒は、排気ガスに含まれる窒素酸化物の浄化能率が高くてもよい。
【0012】
この構成によれば、第1触媒が排気ガスに含まれる炭化水素を浄化するとともに、第2触媒が排気ガスに含まれる窒素酸化物を浄化する。このため、第1触媒は、燃焼室内においてピストンの外周近傍に偏って分布する炭化水素を浄化できる。さらに、第2触媒は、ピストンの中心側近傍に偏って分布する窒素酸化物を浄化できる。
【0013】
第1触媒はパラジウムであり、第2触媒はロジウムであってもよい。
【0014】
この構成によれば、パラジウムが排気ガスに含まれる炭化水素を浄化し、ロジウムが排気ガス成分に含まれる窒素酸化物を浄化できる。
【0015】
ピストンは、頂面と触媒下層との間にゼオライトを含むベース層を有してもよい。ベース層は、ゼオライトをピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が高くなるように担持してもよい。
【0016】
この構成によれば、断熱係数の高いゼオライトがベース層に担持される。これによって、ゼオライトが燃焼室内の熱がピストンの本体に伝わることを抑制し、触媒下層および触媒上層を保温しやすい。この結果、第1触媒および第2触媒の浄化効率が高くなる。また、ゼオライトは、ピストンの中心側から外周側に向かって担持密度が高くなるようにベース層に担持される。ゼオライトは、炭化水素を吸着することで浄化する触媒である。これによって、ピストンは、燃焼室内においてピストンの外周近傍に偏って分布する炭化水素を吸着し浄化しやすい。
【0017】
また、ピストンは、頂面に複数の溝が形成されてもよい。
【0018】
この構成によれば、ピストンの頂面の表面積を大きくできる。これによって、触媒下層がピストンの頂面に接触する面積は、大きくなる。この結果、触媒下層がピストンの頂面から剥離することを抑制できる。
【0019】
また、第1触媒は、内燃機関の点火装置と対向する位置から外周側に向かって担持密度が高くなってもよい。第2触媒の担持密度の高い領域は、点火装置と対向する位置となってもよい。
【0020】
この構成によれば、触媒上層に担持される第2触媒は、より高温になりやすい点火装置と対向する位置の担持密度が高い。これによって、点火装置近傍に偏って分布する窒素酸化物を効率よく浄化できる。
【0021】
また、触媒下層に担持される第1触媒は、内燃機関の点火装置と対向する位置からピストンの外周に向かって担持密度が高くなる。すなわち、第1触媒は、点火装置と対向する位置に比べ低温となるピストン外周近傍が高担持密度となる。これによって、第1触媒の高担持密度となる部分の劣化を抑制できる。この結果、排気ガス成分に含まれる炭化水素を効率よく浄化できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、燃焼室内の排気ガス成分の分布の偏りに対応して、排気ガス成分を浄化できるとともに複数の触媒を容易に塗布可能な内燃機関のピストンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態によるピストンを内蔵したエンジンの燃焼室を示した概略図。
【
図2】本発明の一実施形態によるピストンの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態におけるピストン6を含む内燃機関Eの概略図である。
図1における矢印Tおよび矢印Bは、内燃機関Eに形成されたシリンダ4の軸方向を示し、矢印Tは内燃機関Eの上方を、矢印Bは内燃機関Eの下方を示す。このため、矢印Tおよび矢印Bは、内燃機関Eの姿勢に応じて変化し、必ずしも重力方向とは一致しない。
【0026】
図1に示すように、内燃機関Eは、燃焼室2と、シリンダ4と、ピストン6と、吸気通路8と、吸気バルブ10と、排気通路12と、排気バルブ14と、点火装置16と、燃料噴射装置18と、を有する。本実施形態では、内燃機関Eは燃料噴射装置18によって噴射された燃料と、吸気通路8から吸入された空気が混合した混合気に、点火装置16によって点火することで燃焼を開始するガソリンエンジンである。また、本実施形態では、内燃機関Eは、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程からなる4サイクルを繰り返すガソリンエンジンである。
【0027】
燃焼室2は、後述するピストン6の頂面22と、シリンダ4の内周面42と、シリンダ4の上面44と、で囲まれた空間であり、内燃機関Eの燃焼が行われる。シリンダ4はシリンダブロック4aに設けられる。シリンダ4の上面44は、シリンダヘッド44aに設けられる。本実施形態では上面44は、ペントルーフ形状である。
【0028】
ピストン6は、シリンダ4の内部に収容されて、シリンダ4内を矢印Tおよび矢印Bの方向に摺動する。ピストン6は、燃焼室2に臨んで配置され、ピストン6が摺動することで、内燃機関Eの4サイクルが行われる。
図1および
図3に示すように、ピストン6は、頂面22と、外周26と、溝28と、触媒下層30と、触媒上層32と、ベース層34と、を備える。
図1に示すように、頂面22は、燃焼室2に向けて配置され、膨張行程において燃焼室2で発生した燃焼反応によって膨張した気体を受けとめる。また、頂面22は、排気行程において燃焼後の排気ガスを押し出す。外周26は、頂面22の周囲を形成する。すなわち、外周26は、ピストン6の側面6aと頂面22の境界線である。溝28、触媒下層30、触媒上層32、およびベース層34の詳細については、後述する。本実施形態では、中心部24は、後述する点火装置16の中心軸Cxと、頂面22の交点である。
【0029】
図1に示すように、吸気通路8は、燃焼室2に接続するとともに、吸気通路8の出口8aには、吸気バルブ10が配置される。本実施形態では、吸気通路8には、燃料噴射装置18が配置される。
【0030】
吸気バルブ10は、図示しない吸気カムによって上下に移動する。吸気バルブ10は、吸気通路8と燃焼室2とが連通する状態である開状態と、吸気通路8と燃焼室2とが区画される状態である閉状態と、を切り替える。吸気バルブ10が下方Bに移動すると、吸気通路8と燃焼室2とが連通して開状態となり、吸気通路8の内部の気体が燃焼室2内へ流入する。一方で、吸気バルブ10が上方Tに移動すると、吸気通路8と燃焼室2とが区画される閉状態となり、吸気通路8の内部の気体は吸気通路8に留まる。
【0031】
排気通路12は、燃焼室2に接続するとともに、排気通路12の入口12aには、排気バルブ14が配置される。
【0032】
排気バルブ14は、吸気バルブ10と同様に、図示しない排気カムによって上下に移動する。排気バルブ14は、燃焼室2と排気通路12とが連通する状態である開状態と、燃焼室2と排気通路12とが区画される状態である閉状態と、に切り替わる。排気バルブ14が下方Bに移動すると、燃焼室2と排気通路12とが連通して開状態となり、燃焼室2の内部の気体が排気通路12内へ流入する。一方で、排気バルブ14が上方Tに移動すると、燃焼室2と排気通路12とが区画される閉状態となり、燃焼室2の内部の気体は燃焼室2内に留まる。
【0033】
点火装置16は、燃焼室2の上方Tに配置される。本実施形態では、点火装置16は、上面44のペントルーフ形状の頂上から下方Bに向かって、ピストン6の頂面22を臨んで配置される。より具体的には、点火装置16の先端に配置される点火部16aは、ペントルーフの頂上からピストン6の頂面22を臨んで配置される。すなわち、シリンダ4の軸方向において、ピストン6の頂面22の中心部24と点火装置16の点火部16aとは、対向して配置される。本実施形態では、点火装置16の中心軸Cxは、シリンダ4の軸方向と一致して配置される。
【0034】
燃料噴射装置18は、燃焼を噴射することで、燃焼室2に燃料を供給する。本実施形態では燃料噴射装置18は、吸気通路8に配置され、図示しないアクチュエータによって駆動されることで吸気通路8内に燃料を噴射する。しかし、燃料噴射装置18は、燃焼室2に直接燃料を噴射する、直噴型の燃料噴射装置18であってもよい。
【0035】
次に、本実施形態におけるピストン6の溝28、触媒下層30、触媒上層32、およびベース層34の詳細について説明する。
【0036】
図2に破線で示すように、溝28は、ピストン6の頂面22に複数の細い線状に凹んで形成される。本実施形態では、溝28は、ピストン6の頂面22に直径が異なる複数の線状かつ円形状の凹みで形成される。また、溝28は、中心部24から外周26にかけて同心円状に配置される。溝28は、ピストン6の頂面22の表面積を拡大させるために設けられる。頂面22の表面積が拡大すると、頂面22と触媒下層30が接触する面積が大きくなる。これによって、触媒下層30が頂面22から剥離し難くなる。この結果、触媒下層30の耐久性が向上する。
【0037】
図3に示すように、触媒下層30は、頂面22の燃焼室2側に配置される。触媒下層30は、パラジウム(第1触媒の一例)33を担持する。パラジウム33は、触媒反応によって炭化水素(第1排気ガス成分)を水と二酸化炭素に酸化させて浄化する、炭化水素の浄化能力が高い貴金属の触媒である。触媒下層30は、ピストン6の中心部24側から外周26側に向かって、パラジウム33の担持密度が高くなる。担持密度は、単位面積あたりに担持される触媒の成分量である。このため、触媒下層30は、ピストン6の外周26に向かうにつれて、炭化水素の浄化性能が向上する。本実施形態では、パラジウム33は、外周26から順に高担持密度パラジウム層30a、中担持密度パラジウム層30b、低担持密度パラジウム層30cの3つの層に分けて配置される。触媒下層30は、高担持密度パラジウム層30aから低担持密度パラジウム層30cまでの各パラジウム層に応じた担持密度のパラジウム33を含んだ触媒物質を、後述するベース層34に塗布したのち一定厚さに揃えることで形成される。このとき、例えば、高担持密度パラジウム層30aの内縁と、中担持密度パラジウム層30bの外縁が重なって塗布される場合がある。しかし、高担持密度パラジウム層30aと中担持密度パラジウム層30bは、パラジウム33の担持密度が異なるが、触媒物質の成分は同じでる。したがって、触媒下層30としての浄化性能に影響がない。すなあち、触媒下層30を形成する際に、ベース層34に高担持密度パラジウム層30aから低担持密度パラジウム層30cまでを厳密に位置決めする必要がない。
【0038】
触媒上層32は、触媒下層30の燃焼室2側に配置される。本実施形態では、触媒上層32は、触媒下層30の上方Tに配置される。また、本実施形態では、触媒上層32は、窒素酸化物(第2排気ガス成分)を浄化するロジウム(第2触媒の一例)37を担持する。ロジウム37は、窒素酸化物を窒素と酸素に還元して浄化する、窒素酸化物の浄化能力が高い貴金属の触媒である。触媒上層32は、ピストン6の外周26に向かって、ロジウム37の担持密度が低くなる。
【0039】
また、触媒上層32は、厚さ一定で、ピストン6の中心部24側から外周26側に向かって、ロジウム37の担持密度が低くなる。このため、触媒上層32は、ピストン6の中心部24、窒素酸化物の浄化性能が向上する。本実施形態では、触媒上層32のロジウム37は、中心部24側から外周26側に向かって順に、高担持密度ロジウム層32c、中担持密度ロジウム層32b、および低担持密度ロジウム層32aの3つに分けて配置される。触媒上層32も触媒下層30と同様に、低担持密度ロジウム層32aから高担持密度ロジウム層32cまでの各ロジウム層に応じた担持密度のロジウム37を含んだ触媒物質を、触媒下層30に塗布したのち一定厚さに揃えることで形成される。触媒上層32でも、触媒下層30と同様に、触媒上層32を形成する際に、触媒下層30に低担持密度ロジウム層32aから高担持密度ロジウム層32cまでを厳密に位置決めする必要がない。
【0040】
ベース層34は、触媒下層30と頂面22との間に配置される。ベース層34は、ゼオライト35を担持する。ゼオライト35はロジウム37およびパラジウム33に比べ断熱係数が高い。これによって、混合気の燃焼反応による熱が、燃焼室2からピストン6の頂面22に伝達されることを防ぐことができる。この結果、触媒上層32および触媒下層30が保温されやすい。この結果、触媒上層32に含まれるロジウム37および触媒下層30のパラジウム33およびロジウム37が触媒反応しやすい。この結果、効率よく排気ガスを浄化できる。
【0041】
また、ゼオライト35は、炭化水素を吸着することで浄化する触媒である。ベース層34は、ピストン6の中心部24側から外周26側に向かって、ゼオライト35の担持密度が高くなる。このため、ベース層34は、ピストン6の中心部24側から外周26側に向かうにつれて、炭化水素の浄化性能が向上する。また、本実施形態では、ゼオライト35は、中心部24側から外周26側に向かって順に、低担持密度ゼオライト層34c、中担持密度ゼオライト層34b、および高担持密度ゼオライト層34aの3つの層に分けて配置される。ベース層34は、高担持密度ゼオライト層34aから低担持密度ゼオライト層34cまでの各ゼオライト層に応じた担持密度のゼオライト35を含んだ触媒物質を、頂面22に塗布したのち、塗布した触媒物質を一定厚さに揃えることで形成される。このため、ベース層34も触媒下層30と同様に、ベース層34を形成する際に、頂面22に高担持密度ゼオライト層34aから低担持密度ゼオライト層34cまでを厳密に位置決めする必要がない。この結果、ベース層34は、触媒物質を容易に塗布可能である。
【0042】
次に、
図1を用いて、内燃機関Eにおける燃焼状態と触媒下層30、触媒上層32、およびベース層34の排気ガス浄化機能について説明する。
【0043】
吸気行程では、吸気バルブ10が下方Bに移動して、吸気通路8および燃焼室2は開状態となる。このとき、吸気通路8の内部の気体が燃焼室2に流入する。吸気通路8の内部には、あらかじめ、内燃機関Eの外部から取り込んだ空気と燃料噴射装置18によって噴射された燃料とが所定の割合で混合した混合気が生成されている。吸気行程では、吸気通路8の内部に生成された混合気が、燃焼室2へと流入する。
【0044】
次に、圧縮行程では、ピストン6が上方Tに移動し、燃焼室2の容積が小さくなる。このとき、吸気バルブ10は、上方Tに移動して、吸気通路8および燃焼室2は閉状態となる。また、燃焼室2内において、前回の燃焼反応で生成されてシリンダ4の内周面42付近に残留した排気ガスに含まれる成分、または、内周面42に付着した燃料およびオイルに含まれる成分が、ピストン6の上方Tへの移動によって、上方Tに向かって掻き上げられる。このため、燃焼室2の内部の、特にピストン6の外周26付近では、これら成分の濃度が、燃焼室2内の他の箇所における濃度よりも高くなる。本実施形態では、内周面42に付着した燃料の成分である炭化水素が、燃焼室2内の特にピストン6の外周26付近に、燃焼室2内の他の箇所よりも多く分布する。
【0045】
次に、膨張行程では、点火装置16の点火部16aにおいて火花を発生させ、吸気行程において燃焼室2に流入した混合気に点火し燃焼反応を起こす。ピストン6は、この燃焼反応によって膨張した気体に押されて、下方Bに移動する。このとき、頂面22は膨張した気体を受けとめる。混合気の燃焼反応によって発生した火炎は、点火部16aが配置されるシリンダ4の上面44付近、すなわち、ピストン6の頂面22の中心部24付近から開始され、ピストン6の外周26に向かって放射状に伝播する。このため、燃焼室2における温度分布は、点火装置16の点火部16aが配置される箇所で最も温度が高くなるとともに、ピストン6の外周26付近に向かって温度が下がる。また、混合気の燃焼反応が進むにつれ、燃焼室2内に、排気ガスが生成される。排気ガスは、混合ガスの燃焼温度に基づいて、異なる成分が生成される。このため、排気ガスに含まれる成分の分布は、燃焼室2内の温度分布と概ね一致する。すなわち、排気ガスに含まれる成分の一つである窒素酸化物(第2排気ガス成分)は、燃焼室2において、特に燃焼温度が高い箇所に多く分布する。一方で、排気ガスに含まれる成分の一つである炭化水素(第1排気ガス成分)は、燃焼室2において、窒素酸化物が分布する箇所とは異なる箇所に多く分布する。
【0046】
本実施形態では、ピストン6の頂面22は、点火装置16の中心軸Cxとピストン6の頂面22との交点である中心部24から外周26に向かって温度が下がる同心円状の温度分布となる。このため、ピストン6の頂面22は、中心部24の近傍で最も温度が高くなる。これによって、窒素酸化物は、ピストン6の頂面22において、中心部24において最も濃度が高くなるとともに、ピストン6の外周26に向かって濃度が低くなる。一方、炭化水素は、上記の内周面42に付着した燃料の影響によって、燃焼室2内の特にピストン6の外周26付近において、燃焼室2内の他の箇所よりも多く分布する。このため、炭化水素は、膨張行程においても、外周26付近に燃え残りとなって他の箇所よりも多く分布する。すなわち、炭化水素は、ピストン6の頂面22において、中心部24から外周26に向かって濃度が高くなるように分布する。
【0047】
次に、排気行程では、排気バルブ14が下方Bに移動し、燃焼室2および排気通路12は開状態となる。このとき、混合気の燃焼反応によって生成された排気ガスが、燃焼室2から排気通路12に流入する。また、排気行程では、ピストン6が上方Tに移動する。このため、燃焼室2の内部において、排気ガスに含まれる成分が、ピストン6の移動によって、上方Tに向かって掻き上げられる。このため、燃焼室2の内部の、特にピストン6の外周26付近では、この排気ガスに含まれる成分の濃度が、燃焼室2内の他の箇所における濃度よりも高くなる。本実施形態では、燃焼室2内の特にピストン6の外周26付近において、排気ガスに含まれる炭化水素が、燃焼室2内の他の箇所よりも多く分布する。また、内燃機関Eが始動した直後の場合、始動時は燃料噴射量が多く、内燃機関Eも温まっていないことから燃料の燃え残りも多く、燃料の成分である炭化水素が外周26により多く分布する。
【0048】
触媒下層30は、排気行程において、外周26に多く分布する第1排気ガス成分を浄化する。触媒上層32は、第1排気ガス成分と異なる位置に分布する第2排気ガス成分を浄化する。本実施形態では、排気行程における燃焼室2は、外周26に向かうにつれて、炭化水素が多く分布する。一方、触媒下層30は、ピストン6の外周26に向かうにつれて、炭化水素の浄化性能が向上する。すなわち、燃焼室2内の炭化水素の分布の偏りに対応した位置に、炭化水素が浄化可能なパラジウム33が担持される。これによって、ピストン6は、炭化水素を効率よく浄化できる。
【0049】
また、排気行程の燃焼室2では、窒素酸化物は、中心部24から外周26に向かって濃度が高くなるように分布する。一方、触媒上層32は、ピストン6の外周26から離れるにつれて、窒素酸化物の浄化性能が向上する。すなわち、燃焼室2内の窒素酸化物の分布の偏りに対応した位置に、窒素酸化物が浄化可能なロジウム37が担持される。これによって、ピストン6は、窒素酸化物を効率よく浄化できる
【0050】
また、本実施形態では、ピストン6の頂面22には、上方Tから下方Bに向かって、ロジウム37、パラジウム33、ゼオライト35の順で触媒が担持された層が形成される。このため、ゼオライト35が、ロジウム37およびパラジウム33よりも下方Bに配置される。これによって、ゼオライト35は、燃焼室2内の燃焼反応によって発生する熱がピストン6の下方Bに伝達されることを抑制できる。このため、触媒下層30および触媒上層32に担持される触媒の温度が、活性温度を下回ることを抑制できる。この結果、ピストン6は、燃焼室2内の排気ガスを効率よく浄化できる。
【0051】
さらに、本実施形態では、ロジウム37が、パラジウム33およびゼオライト35よりも、上方Tに配置される。このため、炭化水素を浄化するパラジウム33およびゼオライト35が、燃焼室2内の排気ガスに直接曝されることを防止できる。これによって、パラジウム33およびゼオライト35が、特に内燃機関Eの始動直後に発生する排気ガスに含まれる多量の炭化水素や一酸化炭素によって覆われ劣化することを抑制できる。この結果、ピストン6は、内燃機関Eの運転状態に関わらず、燃焼室2内の排気ガスを効率よく浄化できる。
【0052】
以上説明した通り、本実施形態によれば、燃焼室2内の排気ガス成分の分布の偏りに対応して、排気ガス成分を浄化できるとともに複数の触媒を容易に塗布可能な内燃機関Eのピストン6を提供できる。
【0053】
<他の実施形態>
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は、必要に応じて任意に組み合わせ可能である。
【0054】
(a)上記実施形態では、内燃機関Eは、ガソリンエンジンを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、内燃機関Eは、ディーゼルエンジンであってもよい。この場合は、ピストン6の頂面22に、下方Bに凹むキャビティを設けてもよい。
【0055】
(b)上記実施形態では、溝28は、頂面22に複数の直径の異なる線状かつ円形状の凹みが、中心部24から外周26にかけて同心円状に配置されることで形成される例を用いて説明したが、本発明はこれに限定されない。溝28は、複数の線状の凹みを用いた曲線、直線、および模様のいずれか、または、これらの組み合わせであってもよい。また、溝28は、ピストン6の頂面22の一部、または全面に形成してもよい。
【0056】
(c)上記実施形態では、パラジウム33、ゼオライト35、およびロジウム37を例に説明したが本発明はこれに限定されない。すなわち、例えば、ロジウム37に変えて白金やプラチナを用いてもよい。また、ゼオライト35に変えて、例えば、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、および酸化ジルコニウムまたは酸化セリウムを主成分とする複合酸化物等を用いてもよい。
【0057】
(d)上記実施形態では、触媒下層30にパラジウム33を担持し、触媒上層32にロジウム37を担持する例を用いて説明したが本発明はこれに限定されない。触媒下層30にロジウム37を担持し、触媒上層32にパラジウム33を担持してもよい。
【符号の説明】
【0058】
E:内燃機関 6:ピストン 22:頂面 26:外周 16:点火装置
30:触媒下層 32:触媒上層 38:ベース層
33:パラジウム(第1触媒の一例)37:ロジウム(第2触媒の一例)
35:ゼオライト