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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】プリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/42 20060101AFI20240305BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240305BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H05K3/42 610A
C08L101/00
H05K3/46 B
H05K3/46 N
H05K3/46 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020062755
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163825
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入澤 誠也
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019231(JP,A)
【文献】特開2017-161636(JP,A)
【文献】特開平02-241082(JP,A)
【文献】特開2003-113205(JP,A)
【文献】特開2012-182284(JP,A)
【文献】特開2014-067976(JP,A)
【文献】特開平09-092965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/42
C08L 101/00
H05K 3/46
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)内層基板と、内層基板上に形成された絶縁層とを備える積層体を用意する工程、
(B)絶縁層に穴あけ加工する工程、
(C)絶縁層を膨潤液で処理する工程、
(D)絶縁層を酸化剤溶液で処理する工程、及び、
(E)絶縁層を中和液で処理する工程
を、この順で含む、プリント配線板の製造方法であって、
さらに、
(F)35℃以上の温度の水性液体を循環させた浴中に積層体を浸漬する工程
を含み、
(F)工程を、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、かつ/又は、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、実施し、
(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に実施する場合は、水性液体の温度を60℃以上70℃以下として絶縁層を処理する、プリント配線板の製造方法。
【請求項2】
(A)工程が、
内層基板の上に、樹脂組成物を含む樹脂組成物層を形成する工程、及び、
内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる工程
を含む、請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
(A)工程が、
支持体と、該支持体上に設けられた、樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む樹脂シートを準備する工程、
樹脂組成物層が内層基板と接合するように樹脂シートを内層基板上に積層する工程、及び、
内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる工程
を含む、請求項1又は2に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
樹脂組成物が、フェノール系硬化剤を含む、請求項又はに記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
樹脂組成物が、活性エステル系硬化剤を含む、請求項のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
樹脂組成物層の最大厚みが、100μmである、請求項のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項7】
水性液体が水である、請求項1~のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
さらに、(G)絶縁層の表面を35℃未満の水で洗浄する工程
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、各種電子機器に広く使用されている。プリント配線板には、電子機器の小型化、高機能化のために、回路配線の微細化、高密度化が求められている。ここで、プリント配線板の製造方法としては、内層基板に絶縁層と導体層を交互に積み重ねるビルドアップ方式による製造方法が知られている。絶縁層は、例えば、内層基板の上に、樹脂組成物を含む樹脂組成物層を形成し、内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させることにより形成される。
【0003】
また、プリント配線板の製造方法は、形成された絶縁層に穴あけ加工する工程を含む場合がある。穴あけ加工の結果、絶縁層には、ビアホールが形成され、内層基板の表面にある導体層が露出することとなる。そして、ビアホールを形成する場合、通常は、デスミア処理が施され、これにより、ビアホール壁面及びビアホール底面(すなわち導体層露出面)にある樹脂残渣(スミア)が除去される(例えば、特許文献1)。なお、スミアの除去と同時に絶縁層表面の粗化が行われてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-037957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、デスミア処理を施す工程(以下、「デスミア工程」ともいう)は、絶縁層を膨潤液で処理する工程(以下、「膨潤工程」ともいう)、絶縁層を酸化剤溶液で処理する工程(以下、「酸化工程」ともいう)、及び、絶縁層を中和液で処理する工程(以下、「中和工程」ともいう)をこの順序で含む場合がある。デスミア工程は、さらに、必要に応じて、膨潤工程の実施後であって酸化工程の実施前に絶縁層表面を洗浄する工程を含んでいてもよいし、酸化工程の実施後であって中和工程の実施前に絶縁層表面を洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0006】
ここで、デスミア工程の実施後に、ハローイングと呼ばれる現象が観察される場合がある。ハローイングは、ビアホールの周囲において、内層基板と絶縁層との間に剥離が生じる現象をいう。よって、ハローイングが生じると、ビアホール底面の近傍にある絶縁層と導体層との界面に隙間が生じた領域(すなわち、絶縁層が導体層から剥離した領域;以下、「ハローイング領域」ともいう)が生じる。絶縁層が透明である場合、このハローイング領域は、絶縁層の上面観察により視ることができる。
【0007】
そして、ハローイングが生じた場合、当該ハローイングに起因した絶縁層及び導体層でのクラックの発生、又は、当該ハローイング領域への薬液(例:メッキ液)若しくは異物の滲入といった事態が懸念され、ひいては、プリント配線板における回路配線の微細化、高密度化を実現できない可能性がある。そのため、ハローイング領域が生じるとしてもその狭小化が求められている。
【0008】
本発明の課題は、ビアホール近傍におけるハローイング領域の狭小化を実現できるプリント配線板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、予め用意された内層基板と、内層基板上に形成された絶縁層とを備える積層体に対して実施されるデスミア工程が、膨潤工程((B)工程)、酸化工程((C)工程)、及び、中和工程((D)工程)をこの順序で含む場合、膨潤工程の実施後であって酸化工程の実施前に、かつ/又は、酸化工程の実施後であって中和工程の実施前に、(F)35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を実施することにより、ハローイング領域の狭小化を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] (A)内層基板と、内層基板上に形成された絶縁層とを備える積層体を用意する工程、(B)絶縁層に穴あけ加工する工程、(C)絶縁層を膨潤液で処理する工程、(D)絶縁層を酸化剤溶液で処理する工程、及び、(E)絶縁層を中和液で処理する工程を、この順で含む、プリント配線板の製造方法であって、さらに、(F)35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を含み、(F)工程を、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、かつ/又は、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、実施する、プリント配線板の製造方法。
[2] (F)工程が、絶縁層を水性液体中に浸漬させる工程を含む、[1]に記載のプリント配線板の製造方法。
[3] (F)工程で用いる水性液体の温度が40℃以上100℃以下である、[1]又は[2]に記載のプリント配線板の製造方法。
[4] (F)工程で用いる水性液体の温度が50℃以上である、[3]に記載のプリント配線板の製造方法。
[5] (A)工程が、内層基板の上に、樹脂組成物を含む樹脂組成物層を形成する工程、及び、内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる工程を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
[6] (A)工程が、支持体と、該支持体上に設けられた、樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む樹脂シートを準備する工程、樹脂組成物層が内層基板と接合するように樹脂シートを内層基板上に積層する工程、及び、内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
[7] 樹脂組成物が、フェノール系硬化剤を含む、[5]又は[6]に記載のプリント配線板の製造方法。
[8] 樹脂組成物が、活性エステル系硬化剤を含む、[5]~[7]のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
[9] 樹脂組成物層の最大厚みが、100μmである、[5]~[8]のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
[10] 水性液体が水である、[1]~[9]のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
[11] さらに、(G)絶縁層の表面を35℃未満の水で洗浄する工程を含む、[1]~[10]のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハローイング領域の狭小化を実現できるプリント配線板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、積層体の一例の部分拡大断面図である。
図2図2は、絶縁層に穴あけ加工が施された状態の積層体を絶縁層側から見たときの部分拡大上面図である。
図3図3は、図2の線III-IIIに沿う積層体の断面を模式的に示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプリント配線板の製造方法について詳細に説明する前に、本発明のプリント配線板の製造方法によって製造されるプリント配線板が含む絶縁層の形成材料となり得る樹脂組成物について説明する。
【0014】
[樹脂組成物]
樹脂組成物は、ある実施形態において、(a)熱硬化性樹脂及び(b)硬化剤を含む。(b)成分は(a)成分を硬化させる機能を有する。但し、(b)成分に該当するものは(a)成分から除かれる。別の実施形態において、樹脂組成物は、(a)熱硬化性樹脂、(b)硬化剤及び(c)無機充填材を含む。各実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、(d)熱可塑性樹脂を含んでいてもよく、(e)硬化促進剤を含んでいてもよく、また、(f)その他の添加剤を含んでいてもよい。以下、樹脂組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0015】
-(a)熱硬化性樹脂-
一実施形態において、樹脂組成物は、(a)成分として(a)熱硬化性樹脂を含有する。熱硬化性樹脂としては、絶縁層等の絶縁部材として使用可能な熱硬化性樹脂を用いることができる。このような熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、ナフトール系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、シアネートエステル系樹脂、カルボジイミド系樹脂、アミン系樹脂、酸無水物系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。(a)成分は、1種類単独で用いてもよく、又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
(a)成分としてのエポキシ樹脂としては、例えば、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
樹脂組成物は、(a)成分として、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、(a)成分としてのエポキシ樹脂の不揮発成分100質量%に対して、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
【0018】
エポキシ樹脂には、温度20℃で液状のエポキシ樹脂(以下「液状エポキシ樹脂」ということがある。)と、温度20℃で固体状のエポキシ樹脂(以下「固体状エポキシ樹脂」ということがある。)とがある。樹脂組成物は、(a)成分として、液状エポキシ樹脂のみを含んでいてもよく、固体状エポキシ樹脂のみを含んでいてもよく、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを組み合わせて含んでいてもよい。(a)成分としては樹脂シートの形態で使用する場合に十分な可撓性が得られたり、樹脂組成物層の硬化物の破断強度を向上させたりできる観点から、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0019】
固体状エポキシ樹脂としては、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する固体状エポキシ樹脂が好ましく、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する芳香族系の固体状エポキシ樹脂がより好ましい。
【0020】
固体状エポキシ樹脂としては、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0021】
固体状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032H」(ナフタレン型エポキシ樹脂);DIC社製の「HP-4700」、「HP-4710」(ナフタレン型4官能エポキシ樹脂);DIC社製の「N-690」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂);DIC社製の「N-695」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂);DIC社製の「HP-7200」、「HP-7200HH」、「HP-7200H」(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂);DIC社製の「EXA-7311」、「EXA-7311-G3」、「EXA-7311-G4」、「EXA-7311-G4S」、「HP6000」(ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂);日本化薬社製の「EPPN-502H」(トリスフェノール型エポキシ樹脂);日本化薬社製の「NC7000L」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂);日本化薬社製の「NC3000H」、「NC3000」、「NC3000L」、「NC3100」(ビフェニル型エポキシ樹脂);日鉄ケミカル&マテリアル社製の「ESN475V」(ナフトール型エポキシ樹脂);日鉄ケミカル&マテリアル社製の「ESN485」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YX4000H」、「YX4000」、「YL6121」(ビフェニル型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YX4000HK」(ビキシレノール型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YX8800」(アントラセン型エポキシ樹脂);大阪ガスケミカル社製の「PG-100」、「CG-500」;三菱ケミカル社製の「YL7760」(ビスフェノールAF型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YL7800」(フルオレン型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「jER1010」(固体状ビスフェノールA型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「jER1031S」(テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂)等が挙げられる。これらは、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
液状エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する液状エポキシ樹脂が好ましい。
【0023】
液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、及びブタジエン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0024】
液状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032」、「HP4032D」、「HP4032SS」(ナフタレン型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「828US」、「jER828EL」、「825」、「エピコート828EL」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「jER807」、「1750」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「630」、「630LSD」(グリシジルアミン型エポキシ樹脂);日鉄ケミカル&マテリアル社製の「ZX1059」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品);ナガセケムテックス社製の「EX-721」(グリシジルエステル型エポキシ樹脂);ダイセル社製の「セロキサイド2021P」(エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂);ダイセル社製の「PB-3600」(ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂);日鉄ケミカル&マテリアル社製の「ZX1658」、「ZX1658GS」(液状1,4-グリシジルシクロヘキサン型エポキシ樹脂)等が挙げられる。これらは、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(a)成分として液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを組み合わせて用いる場合、それらの量比(液状エポキシ樹脂:固体状エポキシ樹脂)は、質量比で、好ましくは10:1~1:20、より好ましくは5:1~1:15、特に好ましくは1:1~1:10である。液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂との量比が斯かる範囲にあることにより、本発明の所期の効果を顕著に得ることができる。
【0026】
(a)成分としてのエポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは50g/eq.~5000g/eq.、より好ましくは50g/eq.~3000g/eq.、さらに好ましくは80g/eq.~2000g/eq.、さらにより好ましくは110g/eq.~1000g/eq.である。この範囲となることで、樹脂組成物の硬化物の架橋密度が十分となり、表面粗さの小さい絶縁層をもたらすことができる。エポキシ当量は、1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量である。このエポキシ当量は、JIS K7236に従って測定することができる。
【0027】
(a)成分としてのエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは100~5000、より好ましくは250~3000、さらに好ましくは400~1500である。
樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、ポリスチレン換算の値として測定できる。
【0028】
(a)成分としてのエポキシ樹脂の含有量は、良好な機械強度、絶縁信頼性を示す絶縁層を得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。エポキシ樹脂の含有量の上限は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。
【0029】
樹脂組成物が(a)成分としてエポキシ樹脂を含有しかつ(b)硬化剤を含有する場合、エポキシ樹脂とすべての(b)硬化剤との量比は、[エポキシ樹脂のエポキシ基の合計数]:[(b)硬化剤の反応基の合計数]の比率で、1:0.01~1:5の範囲が好ましく、1:0.5~1:3がより好ましく、1:1~1:2がさらに好ましい。ここで、「エポキシ樹脂のエポキシ基数」とは、樹脂組成物中に存在するエポキシ樹脂の不揮発成分の質量をエポキシ当量で除した値を全て合計した値である。また、「(b)硬化剤の活性基数」とは、樹脂組成物中に存在する(b)硬化剤の不揮発成分の質量を活性基当量で除した値を全て合計した値である。エポキシ樹脂と(b)硬化剤との量比をかかる範囲内とすることにより、本発明の効果を顕著に得ることが可能となる。
【0030】
(a)成分の含有量は、本発明の効果を顕著に得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分100質量%に対して、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。
【0031】
-(b)硬化剤-
硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化する機能を有する限り特に限定されないが、例えば、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、及びシアネートエステル系硬化剤が挙げられる。硬化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このうち、ハローイングの発生を抑制する観点からは、(b)成分がフェノール系硬化剤を含むことが好ましい。組成物のポットライフを得ながら、低粗度かつ導体層との密着強度が高い絶縁層を実現する観点からは、(b)成分がフェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤から選択される1種以上の硬化剤を含むことが好ましい。
【0032】
フェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤としては、耐熱性及び耐水性の観点から、ノボラック構造を有するフェノール系硬化剤、又はノボラック構造を有するナフトール系硬化剤が好ましい。また、導体層との密着強度の観点から、含窒素フェノール系硬化剤が好ましく、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤がより好ましい。中でも、耐熱性、耐水性、及び導体層との密着強度を高度に満足させる観点から、硬化剤としてトリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
フェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤の具体例としては、例えば、明和化成社製の「MEH-7700」、「MEH-7810」、「MEH-7851」、日本化薬社製の「NHN」、「CBN」、「GPH」、東都化成社製の「SN170」、「SN180」、「SN190」、「SN475」、「SN485」、「SN495」、「SN375」、「SN395」、DIC社製の「LA-7052」、「LA-7054」、「LA-3018」、「LA-1356」等が挙げられる。
【0034】
ベンゾオキサジン系硬化剤の具体例としては、昭和高分子社製の「HFB2006M」、四国化成工業社製の「P-d」、「F-a」が挙げられる。
【0035】
シアネートエステル系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート)、4,4‘-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、及びビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。シアネートエステル系硬化剤の具体例としては、ロンザジャパン社製の「PT30」及び「PT60」(いずれもフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂)、「BA230」(ビスフェノールAジシアネートの一部又は全部がトリアジン化され三量体となったプレポリマー)等が挙げられる。
【0036】
活性エステル系硬化剤としては、一般にフェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の、反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく用いられる。当該活性エステル系硬化剤は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に耐熱性向上の観点から、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物とから得られる活性エステル系硬化剤が好ましく、カルボン酸化合物とフェノール化合物及び/又はナフトール化合物とから得られる活性エステル系硬化剤がより好ましい。カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール化合物又はナフトール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物、フェノールノボラック等が挙げられる。ここで、「ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物」とは、ジシクロペンタジエン1分子にフェノール2分子が縮合して得られるジフェノール化合物をいう。
【0037】
具体的には、ジシクロペンタジエン型活性エステル系硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル系硬化剤が好ましく、中でもナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、ジシクロペンタジエン型活性エステル系硬化剤がより好ましく、ジシクロペンタジエン型活性エステル系硬化剤がさらに好ましい。ジシクロペンタジエン型活性エステル系硬化剤としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤が好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造単位を表す。
【0038】
(b)活性エステル系硬化剤の市販品としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤として、「EXB9451」(DIC社製、活性エステル基当量223)、「EXB9460」(DIC社製、活性エステル基当量223)、「EXB9460S」(DIC社製、活性エステル基当量223)、「HPC-8000-65T」(DIC社製、活性エステル基当量223)、「HPC-8000H-65TM」(DIC社製、活性エステル基当量224)、「HPC8000L-65TM」(DIC社製、活性エステル基当量220)、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤として「EXB-8100L-65T」(DIC社製、活性エステル基当量234)、「EXB8150-60T」(DIC社製、活性エステル基当量226)、「EXB9416-70BK」(DIC社製、活性エステル基当量274)、「HPC-8150-60T」(DIC社製)、「HPC-8150-62T」(DIC社製)、「EXB-8150-65T」(DIC社製)、「PC1300-02」(エア・ウォーター社製、活性エステル基当量200)、リン含有活性エステル系硬化剤として「EXB9401」(DIC社製、活性エステル基当量307)、フェノールノボラックのアセチル化物である活性エステル系硬化剤として「DC808」(三菱ケミカル社製、活性エステル基当量149)、フェノールノボラックのベンゾイル化物である活性エステル系硬化剤として「YLH1026」(三菱ケミカル社製)、「YLH1030」(三菱ケミカル社製)、「YLH1048」(三菱ケミカル社製)等が挙げられる。
【0039】
活性エステル系硬化剤の活性エステル基当量は、好ましくは50g/eq.~500g/eq.、より好ましくは50g/eq.~400g/eq.、さらに好ましくは100g/eq.~300g/eq.である。活性エステル基当量は、1当量の活性エステル基を含む活性エステル系硬化剤の質量である。
【0040】
誘電正接の低い絶縁層を得る観点から、(b)硬化剤は、活性エステル系硬化剤を含んでいてもよい。活性エステル系硬化剤を用いた場合、それ以外の硬化剤、例えばフェノール系硬化剤を用いた場合に比べて、通常は、ハローイングが発生しやすい傾向にあるが、本発明の製造方法によればハローイング領域の狭小化を実現できるので、樹脂組成物に活性エステル系硬化剤を含ませることができる。この場合、樹脂組成物は、(b)成分として、活性エステル系硬化剤と、活性エステル系硬化剤以外の硬化剤とを含むことが好ましく、より好ましくは、(b)成分として、フェノール系硬化物と、活性エステル系硬化物とを含む。
【0041】
(b)硬化剤の含有量は、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また、上限は好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。なお、本発明において、樹脂組成物中の各成分の含有量は、別途明示のない限り、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%としたときの値である。
【0042】
-(c)無機充填材-
一実施形態において、樹脂組成物は(c)成分として、無機充填材を含有する。(c)無機充填材を含有させることで、吸水率が低い硬化物を得ることができる。
【0043】
(c)無機充填材の材料としては、無機化合物を用いる。無機充填材の材料の例としては、シリカ、アルミナ、ガラス、コーディエライト、シリコン酸化物、硫酸バリウム、炭酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マンガン、ホウ酸アルミニウム、炭酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、及びリン酸タングステン酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でもシリカが特に好適である。シリカとしては、例えば、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられる。また、シリカとしては、球状シリカが好ましい。(E)無機充填材は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(c)無機充填材の市販品としては、例えば、デンカ社製の「UFP-30」;日鉄ケミカル&マテリアル社製の「SP60-05」、「SP507-05」;アドマテックス社製の「YC100C」、「YA050C」、「YA050C-MJE」、「YA010C」;トクヤマ社製の「シルフィルNSS-3N」、「シルフィルNSS-4N」、「シルフィルNSS-5N」;アドマテックス社製の「SC2500SQ」、「SO-C4」、「SO-C2」、「SO-C1」;などが挙げられる。
【0045】
(c)無機充填材の平均粒径は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、特に好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。
【0046】
(c)無機充填材の平均粒径は、ミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒径分布測定装置により、無機充填材の粒径分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材100mg、メチルエチルケトン10gをバイアル瓶に秤取り、超音波にて10分間分散させたものを使用することができる。測定サンプルを、レーザー回折式粒径分布測定装置を使用して、使用光源波長を青色及び赤色とし、フローセル方式で(c)無機充填材の体積基準の粒径分布を測定し、得られた粒径分布からメディアン径として平均粒径を算出できる。レーザー回折式粒径分布測定装置としては、例えば堀場製作所社製「LA-960」等が挙げられる。
【0047】
(c)無機充填材の比表面積は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは1m/g以上、より好ましくは2m/g以上、特に好ましくは3m/g以上である。上限に特段の制限は無いが、好ましくは60m/g以下、50m/g以下又は40m/g以下である。比表面積は、BET法に従って、比表面積測定装置(マウンテック社製「Macsorb HM-1210」)を使用して試料表面に窒素ガスを吸着させ、BET多点法を用いて比表面積を算出することで得られる。
【0048】
(c)無機充填材は、耐湿性及び分散性を高める観点から、表面処理剤で処理されていることが好ましい。表面処理剤としては、例えば、フッ素含有シランカップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルコキシシラン、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。また、表面処理剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0049】
表面処理剤の市販品としては、例えば、信越化学工業社製「KBM403」(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM803」(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBE903」(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM573」(N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「SZ-31」(ヘキサメチルジシラザン)、信越化学工業社製「KBM103」(フェニルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM-4803」(長鎖エポキシ型シランカップリング剤)、信越化学工業社製「KBM-7103」(3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)等が挙げられる。
【0050】
表面処理剤による表面処理の程度は、無機充填材の分散性向上の観点から、所定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、無機充填材100質量部は、0.2質量部~5質量部の表面処理剤で表面処理されていることが好ましく、0.2質量部~3質量部で表面処理されていることが好ましく、0.3質量部~2質量部で表面処理されていることが好ましい。
【0051】
表面処理剤による表面処理の程度は、無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量によって評価することができる。無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量は、無機充填材の分散性向上の観点から、0.02mg/m以上が好ましく、0.1mg/m以上がより好ましく、0.2mg/m以上が更に好ましい。一方、樹脂ワニスの溶融粘度及びシート形態での溶融粘度の上昇を抑制する観点から、1mg/m以下が好ましく、0.8mg/m以下がより好ましく、0.5mg/m以下が更に好ましい。
【0052】
無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量は、表面処理後の無機充填材を溶剤(例えば、メチルエチルケトン(MEK))により洗浄処理した後に測定することができる。具体的には、溶剤として十分な量のMEKを表面処理剤で表面処理された無機充填材に加えて、25℃で5分間超音波洗浄する。上澄液を除去し、固形分を乾燥させた後、カーボン分析計を用いて無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。カーボン分析計としては、堀場製作所社製「EMIA-320V」等を使用することができる。
【0053】
(c)無機充填材の含有量は、吸水率が低い硬化物を得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上又は50質量%超であり、特に好ましくは60質量%以上であり、上限は他の成分の含有量に応じて定まるが、例えば、95質量%以下、90質量%以下又は85質量%以下とし得る。
【0054】
-(d)熱可塑性樹脂-
各実施形態において、樹脂組成物は(d)成分として、熱可塑性樹脂を含有し得る。(d)熱可塑性樹脂を含有させることで、硬化物の応力を緩和させることが可能となる。
【0055】
(d)熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。中でも、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフェノキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、(D)熱可塑性樹脂は、1種類単独で用いてもよく、又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ポリイミド樹脂としては、イミド構造を有する樹脂を用いることができる。このような樹脂としては、例えば、2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状ポリイミド(特開2006-37083号公報記載のポリイミド)、ポリシロキサン骨格含有ポリイミド(特開2002-12667号公報及び特開2000-319386号公報等に記載のポリイミド)等の変性ポリイミドが挙げられる。
【0057】
ポリイミド樹脂は市販品を用いることができる。市販品としては、新日本理化社製の「リカコートSN20」及び「リカコートPN20」が挙げられる。
【0058】
ポリカーボネート樹脂としては、カーボネート構造を有する樹脂を用いることができる。このような樹脂としては、ヒドロキシ基含有カーボネート樹脂、フェノール性水酸基含有カーボネート樹脂、カルボキシ基含有カーボネート樹脂、酸無水物基含有カーボネート樹脂、イソシアネート基含有カーボネート樹脂、ウレタン基含有カーボネート樹脂等が挙げられる。
【0059】
カーボネート樹脂は市販品を用いることができる。市販品としては、三菱瓦斯化学社製の「FPC0220」、旭化成ケミカルズ社製の「T6002」、「T6001」(ポリカーボネートジオール)、クラレ社製の「C-1090」、「C-2090」、「C-3090」(ポリカーボネートジオール)等が挙げられる。
【0060】
フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ノボラック骨格、ビフェニル骨格、フルオレン骨格、ジシクロペンタジエン骨格、ノルボルネン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、アダマンタン骨格、テルペン骨格、及びトリメチルシクロヘキサン骨格からなる群から選択される1種類以上の骨格を有するフェノキシ樹脂が挙げられる。フェノキシ樹脂の末端は、フェノール性水酸基、エポキシ基等のいずれの官能基でもよい。
【0061】
フェノキシ樹脂の具体例としては、三菱ケミカル社製の「1256」及び「4250」(いずれもビスフェノールA骨格含有フェノキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YX8100」(ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YX6954」(ビスフェノールアセトフェノン骨格含有フェノキシ樹脂);日鉄ケミカル&マテリアル社製の「FX280」及び「FX293」;三菱ケミカル社製の「YL7500BH30」、「YX6954BH30」、「YX7553」、「YX7553BH30」、「YL7769BH30」、「YL6794」、「YL7213」、「YL7290」、「YL7553BH30」、及び「YL7482」;等が挙げられる。
【0062】
ポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられ、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の具体例としては積水化学工業社製のエスレックBHシリーズ、BXシリーズ(例えばBX-5Z)、KSシリーズ(例えばKS-1)、BLシリーズ、BMシリーズ;等が挙げられる。
【0063】
ポリアミドイミド樹脂の具体例としては、東洋紡社製の「バイロマックスHR11NN」及び「バイロマックスHR16NN」が挙げられる。ポリアミドイミド樹脂の具体例としてはまた、日立化成社製の「KS9100」、「KS9300」(ポリシロキサン骨格含有ポリアミドイミド)等の変性ポリアミドイミドが挙げられる。
【0064】
ポリエーテルスルホン樹脂の具体例としては、住友化学社製の「PES5003P」等が挙げられる。
【0065】
ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、三菱ガス化学社製のオリゴフェニレンエーテル・スチレン樹脂「OPE-2St 1200」等が挙げられる。
【0066】
ポリスルホン樹脂の具体例としては、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のポリスルホン「P1700」、「P3500」等が挙げられる。
【0067】
(d)熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは8,000以上、より好ましくは10,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは70,000以下、より好ましくは65,000以下、特に好ましくは60,000以下である。
【0068】
(d)熱可塑性樹脂の含有量は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0069】
-(e)硬化促進剤-
各実施形態において、樹脂組成物は(e)成分として、硬化促進剤を含有し得る。(e)硬化促進剤を含有させることで、樹脂組成物の熱硬化を促進させることができる。
【0070】
(e)硬化促進剤としては、例えば、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、金属系硬化促進剤等が挙げられる。中でも、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、金属系硬化促進剤が好ましい。(e)硬化促進剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
リン系硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ホスホニウムボレート化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート等が挙げられ、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩が好ましい。
【0072】
アミン系硬化促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン等が挙げられ、4-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセンが好ましい。
【0073】
イミダゾール系硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン等のイミダゾール化合物及びイミダゾール化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体が挙げられ、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが好ましい。
【0074】
イミダゾール系硬化促進剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、三菱ケミカル社製の「P200-H50」等が挙げられる。
【0075】
グアニジン系硬化促進剤としては、例えば、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、1-(o-トリル)グアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-n-ブチルビグアニド、1-n-オクタデシルビグアニド、1,1-ジメチルビグアニド、1,1-ジエチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド、1-(o-トリル)ビグアニド等が挙げられ、ジシアンジアミド、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンが好ましい。
【0076】
金属系硬化促進剤としては、例えば、コバルト、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、スズ等の金属の、有機金属錯体又は有機金属塩が挙げられる。有機金属錯体の具体例としては、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート等の有機コバルト錯体、銅(II)アセチルアセトナート等の有機銅錯体、亜鉛(II)アセチルアセトナート等の有機亜鉛錯体、鉄(III)アセチルアセトナート等の有機鉄錯体、ニッケル(II)アセチルアセトナート等の有機ニッケル錯体、マンガン(II)アセチルアセトナート等の有機マンガン錯体等が挙げられる。有機金属塩としては、例えば、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸スズ、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0077】
(e)硬化促進剤の含有量は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下である。
【0078】
-(f)その他の添加剤-
樹脂組成物は、上述した成分以外に、任意の成分として、更にその他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、変色防止剤、難燃剤;有機充填材;増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤等の樹脂添加剤;などが挙げられる。これらの添加剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
-樹脂組成物の製造方法-
上述した各実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、配合成分を、必要により溶媒等と混合し、回転ミキサーなどを用いて分散する方法などが挙げられる。樹脂組成物は、例えば溶媒を含むことにより、樹脂ワニスとして得ることができる。
【0080】
[樹脂シート]
上述した実施形態のいずれかに係る樹脂組成物は、樹脂シートの形態で用いられてもよい。樹脂シートは、支持体と、該支持体上に設けられた樹脂組成物層とを含む。樹脂組成物層は、上述した実施形態のいずれかに係る樹脂組成物を含む。以下、樹脂シートが有する樹脂組成物層及び支持体について説明する。
【0081】
樹脂組成物層の厚さは、プリント配線板の薄型化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下、30μm以下又は25μm以下である。樹脂組成物層の厚さの下限は、特に限定されないが、通常、1μm以上、5μm以上、10μm以上等とし得る。
【0082】
(支持体)
樹脂シートに用いる支持体としては、例えば、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔、離型紙が挙げられ、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔が好ましい。
【0083】
支持体としてプラスチック材料からなるフィルムを使用する場合、プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と略称することがある。)等のポリエステル、ポリカーボネート(以下「PC」と略称することがある。)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミド等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0084】
支持体として金属箔を使用する場合、金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられ、銅箔が好ましい。銅箔としては、銅の単金属からなる箔を用いてもよく、銅と他の金属(例えば、スズ、クロム、銀、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、チタン等)との合金からなる箔を用いてもよい。
【0085】
支持体は、樹脂組成物層と接合する面にマット処理、コロナ処理、帯電防止処理を施してあってもよい。
【0086】
また、支持体としては、樹脂組成物層と接合する面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。離型層付き支持体の離型層に使用する離型剤としては、例えば、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群から選択される1種以上の離型剤が挙げられる。支持体は市販品を用いてもよい。離型層は市販品を用いてもよい。離型層付き支持体は、市販品を用いてもよい。これらの市販品としては、東レ社製の「ルミラーT60」、リンテック社製の「SK-1」、「AL-5」、「AL-7」、帝人社製の「ピューレックス」、ユニチカ社製の「ユニピール」等が挙げられる。
【0087】
支持体の厚みとしては、特に限定されないが、5μm~75μmの範囲が好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。なお、離型層付き支持体を使用する場合、離型層付き支持体全体の厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0088】
(樹脂シートの製造方法)
樹脂シートは、例えば、上記[樹脂シート]において説明した樹脂組成物を有機溶剤に溶解した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを、ダイコーター等の塗布装置を用いて支持体上に塗布し、更に乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
【0089】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びカルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ及びブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN-メチルピロリドン等のアミド系溶剤等を挙げることができる。有機溶剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0090】
乾燥は、加熱、熱風吹きつけ等の公知の方法により実施してよい。乾燥条件は特に限定されないが、樹脂組成物層中の有機溶剤の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂ワニス中の有機溶剤の沸点によっても異なるが、例えば30質量%~60質量%の有機溶剤を含む樹脂ワニスを用いる場合、50℃~150℃で3分間~10分間乾燥させることにより、樹脂組成物層を形成することができる。
【0091】
樹脂シートにおいて、樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)には、支持体に準じた保護フィルムをさらに積層することができる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~40μmである。保護フィルムを積層することにより、樹脂組成物層の表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。樹脂シートは、ロール状に巻きとって保存することが可能である。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
【0092】
[プリント配線板の製造方法]
本発明のプリント配線板の製造方法は、以下の工程をこの順序で含む。
(A)内層基板と、内層基板上に形成された絶縁層とを備える積層体を用意する工程、
(B)絶縁層に穴あけ加工する工程、
(C)絶縁層を膨潤液で処理する工程、
(D)絶縁層を酸化剤溶液で処理する工程、及び、
(E)絶縁層を中和液で処理する工程
さらに、本発明のプリント配線板の製造方法は、(F)35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を含む。そして、この(F)工程は、本発明のプリント配線板の製造方法において、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、かつ/又は、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、実施される。そして、本発明によれば、ハローイングを抑制できるので、ハローイング領域の狭小化を実現できる。
【0093】
以下、本発明のプリント配線板の製造方法における各工程について、工程順に沿って説明する。
【0094】
<(A)工程>
この(A)工程では、内層基板と、内層基板上に形成された絶縁層とを備える積層体が用意される。用意される積層体は、内層基板と、絶縁層を構成する材料(例えば樹脂組成物)とを用いて製造可能な積層体であってもよいし、内層基板と、絶縁層を構成する材料とを用いて予め製造されたものであってもよいし、絶縁層の表面に保護フィルム又は支持体が接合した積層体であってもよい。
【0095】
(A)工程は、(A-1)内層基板の上に、樹脂組成物を含む樹脂組成物層を形成する工程、及び、(A-2)内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる工程を含むことが好ましい。(A-2)工程を実施することにより、樹脂組成物層を含む絶縁層が内層基板上に形成され、その結果、上記積層体が用意される。
【0096】
(A-1)工程は、(A-1a)支持体と、該支持体上に設けられた、樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む樹脂シートを準備する工程、及び(A-1b)樹脂組成物層が内層基板と接合するように樹脂シートを内層基板上に積層する工程を含むことが好ましい。すなわち、(A)工程は、(A-1a)支持体と、該支持体上に設けられた、樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む樹脂シートを準備する工程、(A-1b)樹脂組成物層が内層基板と接合するように樹脂シートを内層基板上に積層する工程、及び、(A-2)内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる工程を含むことも好ましい。
【0097】
(A-1a)工程では、支持体と、該支持体上に設けられた樹脂組成物で形成された樹脂組成物層とを含む樹脂シートを準備する。樹脂シートは、上記[樹脂シート]において説明したとおりである。
【0098】
(A-1b)工程では、樹脂組成物層が内層基板と接合するように樹脂シートが内層基板上に積層される。これにより、内層基板と、当該内層基板上に設けられた樹脂組成物層とを含む積層体が得られる。
【0099】
内層基板とは、プリント配線板の基板となる部材であって、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等が挙げられる。また、該基板は、通常、その片面又は両面に導体層(例えば銅層)を有しており、この導体層はパターン加工されていてもよい。基板の片面または両面に導体層(回路)が形成された内層基板は「内層プリント配線板」ということがある。またプリント配線板を製造する際に、さらに絶縁層及び/又は導体層が形成されるべき中間製造物も本発明でいう「内層基板」に含まれる。プリント配線板が部品内蔵回路板である場合、部品を内蔵した内層基板を使用し得る。
【0100】
樹脂組成物層が、内層基板と接合するように、内層基板に樹脂シートを積層し、積層体を得る。一実施形態において、内層基板と樹脂シートの積層は、例えば、支持体側から樹脂シートを内層基板に加熱圧着することにより行うことができる。樹脂シートを内層基板に加熱圧着する部材(以下、「加熱圧着部材」ともいう。)としては、例えば、加熱された金属板(SUS鏡板等)又は金属ロール(SUSロール)等が挙げられる。なお、加熱圧着部材を樹脂シートに直接プレスするのではなく、内層基板の表面凹凸に樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスするのが好ましい。
【0101】
内層基板と樹脂シートの積層は、真空ラミネート法により実施してよい。真空ラミネート法において、加熱圧着温度は、好ましくは60℃~160℃、より好ましくは80℃~140℃の範囲であり、加熱圧着圧力は、好ましくは0.098MPa~1.77MPa、より好ましくは0.29MPa~1.47MPaの範囲であり、加熱圧着時間は、好ましくは15秒間~400秒間、より好ましくは20秒間~300秒間の範囲である。積層は、好ましくは圧力26.7hPa以下の減圧条件下で実施する。
【0102】
積層は、市販の真空ラミネーターによって行うことができる。市販の真空ラミネーターとしては、例えば、名機製作所社製の真空加圧式ラミネーター、バッチ式真空加圧ラミネーター、ニッコー・マテリアルズ社製のバキュームアップリケーター、バッチ式真空加圧ラミネーター等が挙げられる。
【0103】
積層の後に、常圧下(大気圧下)、例えば、加熱圧着部材を支持体側からプレスすることにより、積層された樹脂シートの平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理のプレス条件は、上記積層の加熱圧着条件と同様の条件とすることができる。平滑化処理は、市販のラミネーターによって行うことができる。なお、積層と平滑化処理は、上記の市販の真空ラミネーターを用いて連続的に行ってもよい。
【0104】
(A-2)工程では、内層基板上の樹脂組成物層を熱硬化させる。これにより、樹脂組成物層の硬化物を含む絶縁層が形成される。
【0105】
樹脂組成物層の熱硬化条件は、樹脂組成物の種類等によっても異なるが、硬化温度は、通常130℃以上であり、好ましくは150℃、より好ましくは160℃である。上限は、例えば220℃以下であり、好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下である。
【0106】
硬化時間は、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは15分間以上であり、好ましくは120分間以下、より好ましくは100分間以下、さらに好ましくは90分間以下である。
【0107】
樹脂組成物層を熱硬化させる前に、樹脂組成物層を硬化温度よりも低い温度にて予備加熱してもよい。予備加熱温度としては、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、好ましくは125℃未満、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。また、予備加熱時間としては、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは15分間以上であり、好ましくは150分間以下、より好ましくは130分以下、さらに好ましくは120分間以下である。
【0108】
絶縁層の最大厚みは、例えば200μmであり、プリント配線板の薄型化の観点からは、望ましくは100μm、より望ましくは80μm、さらに望ましくは60μm、さらにより望ましくは50μm又は45μmである。絶縁層の最大厚みの下限は、特に限定されないが、通常0.1μmであり、5μm又は10μm等とし得る。本発明者の研究の結果、絶縁層の最大厚みが小さいほどハローイング領域が広大化する傾向にあることが判明したが、本発明によれば、ハローイング領域を狭小化することができるので、プリント配線板の薄型化の観点から、絶縁層の最大厚みを、所望の厚さよりも小さくすることが可能であり、例えば100μm、好ましくは80μm、より好ましくは60μm、さらに好ましくは50μm又は45μmとすることができる点で好ましい。
【0109】
ここで、絶縁層の最大厚みとは、内層基板の導体層(例えば銅層)と絶縁層の界面から、絶縁層の表面まで(又は、絶縁層の表面に他の層がある場合には、当該他の層との界面まで)の距離を意味する。絶縁層の最大厚みの一例を、図1を用いて説明する。
【0110】
図1は、積層体の一例の部分拡大断面図である。図1に示す積層体1は、内層基板10と、当該内層基板10上に形成された絶縁層20とを備える。内層基板10は、その最表面に、導体層11と任意の部品12とを含む。図1に示すように、内層基板10が部品12を含む場合、絶縁層20は、通常、部品12を取り囲むように形成されるが、このような場合であっても、絶縁層の最大厚みは、図1に示すtで表される。すなわち、図1に示す最大厚みtは、導体層11と絶縁層20の界面から、絶縁層20の露出面までの距離である。
【0111】
一実施形態において、本発明のプリント配線板の製造方法は、(a1)絶縁層を室温まで冷却する工程を含み得る。(a1)工程は、(A-2)工程の実施後であって(B)工程の実施前に行うことが好ましい。ここで室温とは、通常10~30℃を表し、25℃が好ましい。
【0112】
冷却する方法は、特に限定されず、絶縁層を放冷してもよく、強制的に絶縁層を冷却してもよい。強制的に絶縁層を冷却する場合、公知の種々の方法で冷却すればよく、例えば、絶縁層を放置して冷却する方法、絶縁層に冷風を吹きあてる方法、絶縁層を冷却したロールに押し当てる方法などが挙げられる。
【0113】
一実施形態において、本発明のプリント配線板の製造方法は、(A-2)工程の実施後又は(a1)工程の実施後であって(B)工程の実施前に、(a2)絶縁層にアニール処理を施す工程を含む。アニール処理は、例えば、大気中で絶縁層を加熱することによって行うことができる。
【0114】
アニール処理の温度は、60℃以上であり、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上である。上限は、150℃以下であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、100℃以下である。
【0115】
アニール処理は、60℃以上150℃以下の温度を所定時間保持することが好ましい。保持時間としては、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは10分以上であり、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下、さらに好ましくは40分以下である。
【0116】
<工程(B)>
工程(B)において、絶縁層に穴あけ加工する。これにより、通常は、絶縁層にビアホールが形成され、ビアホールの底面において、内層基板の導体層が露出する。
【0117】
ビアホールは、通常は、層間の電気接続のために設けられ、絶縁層の特性を考慮して、ドリル、レーザー、プラズマ等を用いる公知の方法により形成することができる。例えば、支持体上からレーザー光を照射して、絶縁層にビアホールを形成することができる。ビアホールの開口の大きさは、搭載する部品の微細度で選択されるが、トップ径30μm~500μmの範囲が好ましい。トップ径とは、ホールの開口部の直径(図2を用いて後述するトップ径Lt)をいう。
【0118】
レーザー光源としては、例えば、炭酸ガスレーザー(以下、「COレーザー」ともいう)、YAGレーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。中でも、加工速度、コストの観点から、炭酸ガスレーザーが好ましい。
【0119】
レーザー光源として炭酸ガスレーザー装置を使用する場合、一般に9.3μm~10.6μmの波長のレーザー光が使用される。また、ショット数は、形成すべきビアホールの深さ、孔径によっても異なるが、通常1~10ショットの範囲で選択される。加工速度を高めてプリント配線板の生産性を向上させる観点から、ショット数は少ない方が好ましく、1~5ショットの範囲であることが好ましく、1~3ショットの範囲であることがより
好ましい。なお、ショット数が2ショット以上である場合、バーストモード、サイクルモードの何れのモードでレーザー光を照射してもよい。
【0120】
レーザー光源として炭酸ガスレーザー装置を使用する場合、レーザー光のエネルギーは、ショット数、ビアホールの深さ、支持体の厚さにもよるが、好ましくは0.25mJ以上、より好ましくは0.5mJ以上、さらに好ましくは1mJ以上に設定される。レーザー光のエネルギーの上限は、好ましくは20mJ以下、より好ましくは15mJ以下、さらに好ましくは10mJ以下である。
【0121】
穴あけ加工は、市販されているレーザー装置を用いて実施することができる。市販されている炭酸ガスレーザー装置としては、例えば、日立ビアメカニクス社製のLC-2E21B/1C、HITACHI社製「LC-K212」、三菱電機社製のML605GTWII、松下溶接システム社製の基板穴あけレーザー加工機が挙げられる。
【0122】
一実施形態において、本発明のプリント配線板の製造方法は、(B)工程の実施後であって(C)工程の実施前に、(b1)絶縁層にアニール処理を施す工程を含む。(b1)工程のアニール処理の条件は、(a2)のアニール処理と同様の条件である。(a2)工程を実施した場合には、(b1)工程を省略してもよい。
【0123】
<デスミア処理>
工程(B)の実施後又は(b1)工程の実施後に、積層体に対してデスミア処理を施す(デスミア工程)。デスミア工程は、(C)絶縁層を膨潤液で処理する工程(膨潤工程)、(D)絶縁層を酸化剤溶液で処理する工程(酸化工程)、及び(E)絶縁層を中和液で処理する工程(中和工程)、をこの順で含む。また、本発明のプリント配線板の製造方法は、デスミア工程中の特定のタイミングで実施される工程として、(F)35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程(後述する(Fc1)工程及び(Fd1)工程の一方又は双方)を含む。さらに、デスミア工程は、膨潤工程、酸化工程、中和工程及び(F)工程以外の工程を含んでいてもよい。
【0124】
<(C)工程:膨潤工程>
(C)工程では、絶縁層が膨潤液で処理される。通常、(C)工程は、絶縁層を膨潤液に接触させる工程を含む。膨潤液は、ビアホールの壁面において絶縁層と接触し、更に通常は、ビアホール底部に現れた内層基板の導体層とも接触する。絶縁層に形成されたビアホール壁面が膨潤液と接触する限りにおいて処理の種類及び条件は特に限定されないが、例えば、(C)工程は、積層体を膨潤液中に浸漬する工程を含む。膨潤液の温度は、30~90℃であることが好ましく、絶縁層を構成する樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、40~80℃であることがより好ましい。膨潤液への浸漬時間は、1分間~20分間であることが好ましく、絶縁層を構成する樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、5分間~15分間であることがより好ましい。また、積層体を膨潤液へ浸漬中に、膨潤液を振動させることが好ましい。
【0125】
膨潤液としては、例えば、アルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられる。中でも、膨潤液としては、アルカリ溶液が好ましく、該アルカリ溶液としては、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム)の水溶液がより好ましい。
市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン社製の「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP(Swelling Dip Securiganth P)」、「スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU(Swelling Dip Securiganth SBU)」等が挙げられる。
【0126】
<(Fc1)工程:水性液体による処理>
本発明のプリント配線板の製造方法は、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、(Fc1)35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を(F)工程として含んでいてもよい。
【0127】
(Fc1)工程では、絶縁層が35℃以上の温度の水性液体で処理される。通常、(Fc1)工程は、絶縁層を35℃以上の温度の水性液体に接触させる工程を含む。水性液体は、ビアホールの壁面において絶縁層と接触し、更に通常は、ビアホール底部に現れた内層基板の導体層とも接触する。本処理の種類及び条件は特に限定されないが、例えば、(Fc1)工程は、積層体を水性液体中に浸漬する工程を含む。(Fc1)工程は、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、複数回実施されてもよい。(Fc1)工程を実施することにより、ハローイング領域の狭小化を実現することができる。また、(Fc1)工程を実施した結果、実施前に積層体に付着していた膨潤液が除却されることは許容される。水性液体は、本発明の効果が発揮される限りにおいて任意の溶質を含んでいてもよいが、水であることが好ましい。水としては、目的に応じて様々なものを使用できる。水として、例えば、水道水又は工業用水を使用してもよく、RO水、脱イオン水、蒸留水等の純水(電気抵抗率:0.1MΩ・cm以上1.5MΩ・cm未満)又は超純水(電気抵抗率:1.5MΩ・cm以上)を使用してもよい。
【0128】
水性液体の温度は、ハローイング領域を狭小化させる観点から、35℃以上沸点以下の範囲内にあることが好ましく、40℃以上100℃以下の範囲内にあることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。水性液体の温度を、例えば、60℃以上、70℃以上又は90℃以下としてもよい。水性液体への浸漬時間は、本発明の所期の効果を奏する限りにおいては短時間でよく、例えば、30秒以上又は45秒以上とし得るが、本発明の所期の効果を高い確率で奏する観点からは、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上である。浸漬時間の上限は、製造プロセス上許容可能な時間であれば制限はないが、例えば、90分以下、60分以下、又は30分以下とし得る。また、積層体を水性液体へ浸漬中において、水性液体を浴中で循環させること及び水性液体を振動させることの少なくとも一方を実施することが好ましく、水性液体を浴中で循環させることを実施することがより好ましい。
【0129】
<(Gc2)工程:洗浄工程>
本発明のプリント配線板の製造方法は、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、(Gc2)絶縁層の表面を35℃未満の水で洗浄する工程を(G)工程として含んでいてもよい。(Gc2)工程は、積層体を35℃未満の水に浸漬する工程を含んでいてもよいし、絶縁層に向けて35℃未満の水を噴霧する工程を含んでいてもよいし、これら双方の工程を含んでいてもよい。(Gc2)工程は、(Fc1)工程が実施されない場合には、(C)工程の実施後に実施され、(Fc1)工程が実施される場合には、(Fc1)工程の実施前に実施されてもよいし、(Fc1)工程の実施後に実施されてもよい。(Gc2)工程は、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、複数回実施されてもよい。
【0130】
(Gc2)工程を上述した(Fc1)工程の実施後に実行することで、積層体を洗浄して、(Fc1)工程で用いた水性液体に含まれ得る膨潤液を極めて低い濃度とはいえ除却することができる。(Gc2)工程を上述した(Fc1)工程の実施前に実行することで、膨潤液の除却がなされた積層体を(Fc1)工程に供することができ、(Fc1)工程が実施されない場合には、同積層体を(D)工程に供することができる。
【0131】
(Fc1)工程を実施する場合には、(Gc1)工程を実施せずに、後続の(D)工程が実施してもよい。又は、(Fc1)工程を実施せずに、(Gc1)工程を実施し、後続の(D)工程が実施してもよく、この場合、膨潤液の除却がなされた積層体が(D)工程に供され、その後、後述する(Fd1)工程が実施される。
【0132】
<(D)工程:酸化工程>
(D)工程では、絶縁層が酸化剤溶液で処理される。これにより、絶縁層の表面にある樹脂が酸化され、スミアとして除却することができる。通常、(D)工程は、絶縁層を酸化剤溶液に接触させる工程を含む。酸化剤溶液は、ビアホールの壁面において絶縁層と接触し、更に通常は、ビアホール底部に現れた内層基板の導体層とも接触する。絶縁層に形成されたビアホール壁面が酸化剤溶液と接触する限りにおいて処理の種類及び条件は特に限定されないが、例えば、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して酸化工程として通常使用される公知の種類及び条件を採用することができる。例えば、(D)工程は、積層体を酸化剤溶液中に浸漬する工程を含む。
【0133】
酸化剤溶液としては、通常のデスミア処理にて用いる酸化剤溶液を用いることができる。このような酸化剤溶液としては、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。また、酸化剤溶液の酸化剤濃度としては、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0134】
酸化剤溶液は、市販品を用いてもよい。酸化剤溶液の市販品としては、例えば、アトテックジャパン社製「コンセントレート・コンパクトCP」、「ドージングソリューション・セキュリガンスP」等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。
【0135】
酸化剤溶液は、効率的にデスミアを行う観点から、加熱すること又は加熱して恒温で保持することが好ましい。酸化剤溶液の温度としては、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0136】
また、酸化剤溶液への浸漬時間は、好ましくは5分、より好ましくは10分、さらに好ましくは15分であり、好ましくは40分、より好ましくは35分、さらに好ましくは30分である。また、積層体を酸化剤溶液へ浸漬中に、酸化剤溶液を振動させることが好ましい。
【0137】
<(Fd1)工程:水性液体による処理>
本発明のプリント配線板の製造方法は、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、(Fd1)35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を(F)工程として含んでいてもよい。
【0138】
(Fd1)工程では、絶縁層が35℃以上の温度の水性液体で処理される。通常、(Fd1)工程は、絶縁層を35℃以上の温度の水性液体に接触させる工程を含む。水性液体は、ビアホールの壁面において絶縁層と接触し、更に通常は、ビアホール底部に現れた内層基板の導体層とも接触する。本処理の種類及び条件は特に限定されないが、例えば、(Fd1)工程は、積層体を水性液体中に浸漬する工程を含む。(Fd1)工程は、(E)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、複数回実施されてもよい。(Fd1)工程を実施することにより、ハローイング領域の狭小化を実現することができる。また、(Fd1)工程を実施した結果、実施前に積層体に付着していた膨潤液が除却されることは許容される。水性液体は、本発明の効果が発揮される限りにおいて任意の溶質を含んでいてもよいが、水であることが好ましい。水としては、目的に応じて様々なものを使用できる。水として、例えば、水道水又は工業用水を使用してもよく、RO水、脱イオン水、蒸留水等の純水(電気抵抗率:0.1MΩ・cm以上1.5MΩ・cm未満)又は超純水(電気抵抗率:1.5MΩ・cm以上)を使用してもよい。
【0139】
水性液体の温度は、ハローイング領域を狭小化させる観点から、35℃以上沸点以下の範囲内にあることが好ましく、40℃以上100℃以下の範囲内にあることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。水性液体の温度を、例えば、60℃以上、70℃以上又は90℃以下としてもよい。水性液体への浸漬時間は、本発明の所期の効果を奏する限りにおいては短時間でよく、例えば、30秒以上又は45秒以上とし得るが、本発明の所期の効果を確実に奏する観点からは、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上である。浸漬時間の上限は、プロセス上許容可能な時間であれば制限はないが、例えば、90分以下、60分以下、又は30分以下とし得る。また、積層体を水性液体へ浸漬中において、水性液体を浴中で循環させること及び水性液体を振動させることの少なくとも一方を実施することが好ましく、水性液体を浴中で循環させることを実施することがより好ましい。
【0140】
<(Gd2)工程:洗浄工程>
本発明のプリント配線板の製造方法は、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、(Gd2)絶縁層の表面を35℃未満の水で洗浄する工程を(G)工程として含んでいてもよい。(Gd2)工程は、積層体を35℃未満の水に浸漬する工程を含んでいてもよいし、絶縁層に向けて35℃未満の水を噴霧する工程を含んでいてもよいし、これら双方の工程を含んでいてもよい。(Gd2)工程は、(Fd1)工程が実施されない場合には、(D)工程の実施後に実施され、(Fd1)工程が実施される場合には、(Fd1)工程の実施前に実施されてもよいし、(Fd1)工程の実施後に実施されてもよい。(Gd2)工程は、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、複数回実施されてもよい。
【0141】
(Gd2)工程を上述した(Fd1)工程の実施後に実行することで、積層体を洗浄して、(Fd1)工程で用いた水性液体に含まれ得る膨潤液を極めて低い濃度とはいえ除却することができる。(Gd2)工程を上述した(Fd1)工程の実施前に実行することで、酸化剤溶液の除却がなされた積層体を(Fd1)工程に供することができ、(Fd1)工程が実施されない場合には、同積層体を(Fd1)工程に供することができる。
【0142】
(Fd1)工程を実施する場合には、(Gd1)工程を実施せずに、後続の(E)工程が実施してもよい。また、先述の(Fc1)工程が実施された場合に、(Fd1)工程も実施されてもよい。すなわち、(F)工程を、(C)工程の実施後であって(D)工程の実施前に、かつ、(D)工程の実施後であって(E)工程の実施前に、実施される。
【0143】
<(E)工程:中和工程>
(E)工程では、絶縁層が中和液で処理される。通常、(E)工程は、絶縁層を中和液に接触させる工程を含む。中和液は、ビアホールの壁面において絶縁層と接触し、更に通常は、ビアホール底部に現れた内層基板の導体層とも接触する。(E)工程を実施することにより、(D)工程で用いた酸化剤溶液に含まれる酸化剤の塩等の残渣物を除却できる。絶縁層に形成されたビアホール壁面が中和液と接触する限りにおいて処理の種類及び条件は特に限定されないが、例えば、(E)工程は、積層体を中和液中に浸漬する工程を含む。
【0144】
中和液としては、酸性の水溶液を用いることが好ましい。中和液は市販品を用いてもよく、中和液の市販品としては、例えば、アトテックジャパン社製の「リダクションソリューション・セキュリガンスP」等が挙げられる。
【0145】
中和液の温度としては、酸化剤の塩の残渣物等を除却する観点から、好ましくは、20℃以上、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは30℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0146】
中和液への浸漬時間としては、酸化剤の塩の残渣物等を除却する観点から、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上、さらに好ましくは3分間以上であり、好ましくは30分間以下、より好ましくは25分以下、さらに好ましくは20分以下である。また、積層体を中和液へ浸漬中に、中和液を振動させることが好ましい。
【0147】
<(Ge1)工程:洗浄工程>
本発明のプリント配線板の製造方法は、(E)工程の後で、さらに、(Ge1)絶縁層の表面を35℃未満の水で洗浄する工程を含んでいてもよい。(Ge1)工程における処理は、先述した(Gc2)工程における処理又は(Gd2)工程における処理と同様である。(Ge1)工程を、(E)工程の後に実行することで、積層体を洗浄して、用いた中和液に含まれ得る酸化剤溶液を極めて低い濃度とはいえ除却することができる。(Ge1)工程は、複数回実施されてもよい。
【0148】
<その他の工程>
本発明のプリント配線板の製造方法は、さらに、(H)絶縁層の表面に導体層を形成する工程を含んでいてもよく、この(H)工程は(E)工程の後に実施される。
【0149】
(H)工程における導体層に使用される導体材料は特に限定されない。好適な実施形態では、導体層は、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ及びインジウムからなる群から選択される1種以上の金属を含む。導体層は、単金属層であっても合金層であってもよく、合金層としては、例えば、上記の群から選択される2種以上の金属の合金(例えば、ニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金及び銅・チタン合金)から形成された層が挙げられる。中でも、導体層の形成の容易性、コスト、パターン加工の容易性等の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金、銅・チタン合金の合金層が好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層がより好ましく、銅の単金属層が更に好ましい。
【0150】
導体層は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。導体層が複層構造である場合、絶縁層と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層であることが好ましい。
【0151】
導体層の厚さは、所期のプリント配線板のデザインによるが、一般に3μm~35μm、好ましくは5μm~30μmである。
【0152】
一実施形態において、導体層は、めっきにより形成してよい。例えば、セミアディティブ法、フルアディティブ法等の従来公知の技術により絶縁層の表面にめっきして、所期の配線パターンを有する導体層を形成することができ、製造の簡便性の観点から、セミアディティブ法により形成することが好ましい。以下、導体層をセミアディティブ法により形成する例を示す。
【0153】
まず、絶縁層の表面に、無電解めっきによりめっきシード層を形成する。次いで、形成されためっきシード層上に、所期の配線パターンに対応してめっきシード層の一部を露出させるマスクパターンを形成する。露出しためっきシード層上に、電解めっきにより金属層を形成した後、マスクパターンを除去する。その後、不要なめっきシード層をエッチング等により除去して、所期の配線パターンを有する導体層を形成することができる。
【0154】
支持体は、(A-1b)工程と(A-2)工程との間、(A-2)工程と(B)工程との間、(B)工程と(C)工程との間、又は(C)工程の後に除去してもよい。また、各工程終了後、必要に応じて水で洗浄処理を行ってもよい。
【0155】
[プリント配線板]
本発明の製造方法により得られたプリント配線板は、ハローイング領域が狭小化されている。よって、ビアホールを狭ピッチ化させることができ、もって、回路配線の微細化、高密度化を実現することができる。
【0156】
以下、ハローイング領域を、図2を用いて説明する。
【0157】
図2は、積層体が備える絶縁層に穴あけ加工が施された状態の積層体を絶縁層側から見たときの部分拡大上面図である。
【0158】
図2に示す積層体100は、表面に導体層111を有する図示しない内層基板と、内層基板の導体層111の表面に形成された絶縁層120とを備える。絶縁層120に対して絶縁層表面120U側から穴あけ加工を施した結果、絶縁層120には、外形が上面視円形及び断面視矩形のビアホール130が形成されている。ビアホール130の底面130Bには、導体層111の表面111Uが露出している。ビアホール130の断面視矩形は、一般に、絶縁層表面120Uから導体層の表面111Uに向かうにつれて径が小さくなる順テーパ形状をなすことが多く、図2にも、順テーパ形状の頂部外形線に沿う絶縁層120の上部外形線120Tと、順テーパ形状の底部外形線に沿う絶縁層の底部外形線120Bが視認される例が示されている。
【0159】
ハローイングは、その発生要因がすべて明らかされたわけではないが、穴あけ加工をする工程を経た後及びデスミア工程を経た後に観察される傾向にあることが知られている。図2において、ハローイング領域は、一般に、符号140に示される中空円盤形状の領域として観察される。ハローイング領域140は、積層体100を絶縁層表面120U側から光を照射して観察できる。ハローイング領域における導体層111からの反射光が、その周囲の導体層111からの反射光(この反射光は、導体層111が銅層である場合、銅に基づく茶色として視認されることが多い)と異なる色で視認されるので、ハローイング領域は、色が異なる部分として視認される。
【0160】
ハローイングは、ハローイング領域140の直径Rhによって、又は、ビアホール130のトップ径Ltに対する相対的な長さによって、その広さを評価することができる。図2には、ハローイング領域140の直径Rh及びビアホール130のトップ径Ltが示されている。ハローイング領域140の直径Rhは、ハローイング領域140の外郭線190を円とみなした場合の直径であり、ビアホール130の中心点130Cを通る直径として測定することが可能である。ビアホール130のトップ径Ltは、絶縁層120の上部外形線120Tを円とみなした場合の直径であり、ビアホール130の中心点130Cを通る直径として測定することが可能である。
【0161】
本発明の製造方法によって製造されるプリント配線板に含まれる積層体は、通常、図2に示すハローイング領域の直径Rh(μm)が、小さいという特性を有する。例えば、絶縁層120の最大厚みtが40μmであり、かつ、ビアホール130のトップ径Lt又は穴あけ加工時の狙い径が50μmである場合、ハローイング領域の直径Rh(μm)は、例えば、102μm以下、好ましくは101μm以下、より好ましくは100μm以下である。このようにハローイング領域の直径Rh(μm)が小さい積層体を備えるプリント配線板は、実施例の欄において例証されたように、ハローイング領域の狭小化が実現されていると評価される。
【0162】
[半導体装置]
本発明の製造方法により得られたプリント配線板を用いて、かかるプリント配線板を含む半導体装置を製造することができる。本発明の製造方法により得られたプリント配線板は、回路配線の微細化、高密度化を実現することができるので、半導体装置を備えた電子機器の小型化、高機能化を実現することができる。
【0163】
半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ及びテレビ等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられる。
【0164】
半導体装置は、プリント配線板の導通箇所に、部品(半導体チップ)を実装することにより製造することができる。「導通箇所」とは、「プリント配線板における電気信号を伝える箇所」であって、その場所は表面であっても、埋め込まれた箇所であってもいずれでも構わない。また、半導体チップは半導体を材料とする電気回路素子であれば特に限定されない。
【0165】
本発明の半導体装置を製造する際の半導体チップの実装方法は、半導体チップが有効に機能しさえすれば、特に限定されないが、具体的には、ワイヤボンディング実装方法、フリップチップ実装方法、バンプなしビルドアップ層(BBUL)による実装方法、異方性導電フィルム(ACF)による実装方法、非導電性フィルム(NCF)による実装方法、等が挙げられる。ここで、「バンプなしビルドアップ層(BBUL)による実装方法」とは、「半導体チップをプリント配線板の凹部に直接埋め込み、半導体チップとプリント配線板上の配線とを接続させる実装方法」のことである。
【実施例
【0166】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」及び「%」は、別途明示のない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0167】
[実施例1]
以下の工程(1)~(12)を実施することにより、デスミア処理後の評価基板を得た。得られたデスミア処理後の評価基板を用いて、デスミア領域の広さを後述するようにして評価した。
【0168】
工程(1):樹脂ワニスの調製
ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000H」、エポキシ当量:約290)30部、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(DIC社製「HP-4700」、エポキシ当量:162)5部、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製「jER828EL」、エポキシ当量:180)15部、及びフェノキシ樹脂(三菱化学社製「YX7553BH30」、重量平均分子量:35000、不揮発成分30質量%のメチルエチルケトン(MEK)溶液)2部を、MEK8部及びシクロヘキサノン8部の混合溶剤に撹拌しながら加熱溶解させた。そこへ、トリアジン骨格含有フェノールノボラック系硬化剤(DIC社製「LA-7054」、フェノール性水酸基当量:約124、不揮発成分60質量%のMEK溶液)32部、リン系硬化促進剤としてのテトラブチルホスホニウムデカン酸塩(北興化学工業社製「TBP-DA」)0.2部、アミノシラン系カップリング剤(信越化学社製「KBM573」)で表面処理した球状シリカ(アドマテックス社製「SO-C2」、平均粒径:0.5μm、比表面積:5.8m/g)160部、ポリビニルブチラール樹脂溶液(積水化学工業社製「KS-1」、重量平均分子量:27000、ガラス転移温度:105℃、不揮発成分15質量%のエタノールとトルエンとの質量比が1:1の混合溶液)2部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを調製した。以下、このように調製した樹脂ワニスを、「樹脂ワニスA」ともいう。樹脂ワニスA中の不揮発成分の質量を100質量%としたとき、無機充填材としての球状シリカの含有量は、69.5質量%であった。
【0169】
工程(2):樹脂シートの作製
アルキド樹脂系離型層付きの長尺上のPETフィルム(リンテック社製「AL-5」、幅672mm、厚さ38μm、以下、「離型PETフィルム」という。)を支持体として用意した。この支持体の離型層上に、上記工程(1)で調製した樹脂ワニスAを、ダイコーターを用いて、塗工長さが506mmの2つの塗工部(樹脂組成物層)が互いに離間して形成されるように、均一な厚さで間欠塗工した。ただし、塗工方向と垂直な幅方向については、支持体の両端に、端部から幅0.5mmの未塗工部(以下、「幅方向未塗工部」ともいう)を設け、かつ、塗工方向については、2つの塗工部の間に塗工方向長さ1mmの未塗工部(以下、「塗工方向未塗工部」ともいう)を設けた。
これにより、支持体と、当該支持体の離型層上に設けられた2つの樹脂組成物層とを含む樹脂シートを得た。この樹脂シートにおいて、幅方向一端から他端までには、幅0.5mmの第1の幅方向未塗工部、幅506mmの樹脂組成物層及び幅0.5mmの第2の幅方向未塗工部がこの順で並んでおり、塗工方向には、塗工方向長さ1mmの塗工方向未塗工部を挟んで離間した2つの樹脂組成物層が並んでいた。
その後、樹脂シートの樹脂組成物層を80℃~120℃(平均100℃)で6分間乾燥させた。樹脂シートに含まれる乾燥後の各樹脂組成物層の厚さは40μmであり、残留溶剤量は約2質量%であった。
次いで、樹脂組成物層に、保護フィルムとしてポリプロピレンフィルム(厚さ15μm)を貼り合わせながらロール状に巻き取った。
得られたロール状の樹脂シートに対し、幅方向は一端から336mmの位置(すなわち幅方向の中央位置)でスリットした。さらに、ロール状の樹脂シートを広げて、塗工方向未塗工部の中央位置(すなわち2つの樹脂組成物層の間の未塗工部)でスリットした。さらに、塗工方向両端にある未塗工部の塗工方向長さが0.5mmとなるように裁断した。これにより、塗工部寸法506mm×335.5mmでかつ塗工部の3辺に対して0.5mmの未塗工部がある枚葉型の樹脂シート(外形寸法:507mm×336mm)を得た。以下、このように作製される枚葉型の樹脂シートを、「樹脂シートB」ともいう。
【0170】
工程(3):内層基板の準備
両面の表面に銅層を有するガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅層の厚さ18μm、基板の厚さ0.8mm、パナソニック電工社製「R1515A」)を内層基板として用意した。内層基板の両面を、メック社製「CZ8100」に浸漬することにより銅層の表面の粗化処理を行った。
【0171】
工程(4):樹脂シートBの積層
上記工程(2)で作製した樹脂シートBを、バッチ式真空加圧ラミネーター(名機製作所社製「MVLP-500」)を用いて、樹脂組成物層が内層基板と接合するように、内層基板の両面にラミネート処理した。ラミネート処理は、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とした後、100℃、圧力0.74MPaで30秒間圧着することにより行った。なお、樹脂シートBは、ラミネート処理前に保護フィルムを剥離してから用いた。これにより、内層基板と、当該内層基板の両面に積層された樹脂組成物層及び支持体とを含む積層体を得た。以下、このようにして得られる積層体を、「積層体C」ともいう。
【0172】
工程(5):樹脂組成物層の熱硬化
積層体Cを、支持体を付けたまま、100℃(温度T1)で30分間加熱し、次いで180℃(温度T2)で30分間加熱する条件で、積層体Cに含まれる樹脂組成物層を熱硬化させた。これにより、絶縁層が形成された。得られた絶縁層の最大厚みは40μmであった。ここで、絶縁層の最大厚みとは、内層基板の銅層と絶縁層の界面から、絶縁層と支持体の界面までの距離を意味する。このようにして、内層基板と、内層基板上に形成された絶縁層とを備える積層体を用意した。以下、このようにして得られる積層体を、「積層体D」ともいう。
【0173】
工程(6):COレーザーによる穴あけ加工
支持体がついた状態の積層体Dの一方の主面側にある絶縁層に対して、COレーザー加工機(HITACHI社製「LC-K212」)を使用して、パワー:1.35W、ショット数:2及び狙いトップ径:50μmの条件で、3か所個所以上にわたって、穴あけ加工した。これにより、内層基板の回路導体上に開口する上面視略円形及び断面外形矩形のビアホールが複数形成され、各ビアホール底面において内層基板の導体層が露出した。以下、このようにして絶縁層に穴あけ加工が施された積層体を、「積層体E」ともいう。
【0174】
工程(7):膨潤工程
上記工程(6)で得られた積層体Eから2枚の支持体を剥離して両面に絶縁層を露出させた。これにより、絶縁層が露出した積層体を得た。以下、このようにして絶縁層が露出した積層体を、「積層体F」ともいう。続いて、積層体Fを、60℃の膨潤液(アトテックジャパン社製「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP」、ジエチレングリコールモノブチルエーテル含有の水酸化ナトリウム水溶液)中で振動させながら10分間浸漬した。
【0175】
工程(8):水性液体を用いた処理
積層体Fを膨潤液から取り出し、続いて、水性液体としての40℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(8)で用いた処理液の温度及び処理液への浸漬時間を表1に示す。
【0176】
工程(9):酸化工程
積層体Fを工程(8)で用いた処理液から取り出し、続いて、80℃の酸化剤溶液(アトテックジャパン社製「コンセントレート・コンパクトCP」、過マンガン酸カリウム濃度約6質量%及び水酸化ナトリウム濃度約4質量%の水溶液)中で振動させながら20分間浸漬した。
【0177】
工程(10):35℃未満の洗浄水を用いた処理
積層体Fを酸化剤溶液から取り出し、続いて、洗浄水としての15℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(10)で用いた処理液の温度及び浸漬時間を表1に示す。
【0178】
工程(11):中和工程
積層体Fを工程(10)で用いた処理液から取り出し、続いて、40℃の中和液(アトテックジャパン社製「リダクションソリューション・セキュリガンスP」、硫酸ヒドロキシルアミン水溶液)中に5分間浸漬した。
【0179】
工程(12):水洗浄及び乾燥
積層体Fを中和液から取り出し、続いて、洗浄水としての15℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。これにより、中和液が除却され積層体Fが洗浄された。その後、積層体Fを浴から取り出し、80℃で30分間乾燥した。上述したようにして少なくとも工程(7)、(9)及び(11)を含むデスミア処理が施された積層体Fを、以下、「評価基板G」ともいう。
【0180】
工程(13):評価工程
評価基板Gについて、ハローイング領域の評価を行った。概略的には、後述する<ハローイング領域の評価>にしたがって、ハローイング領域を観察し、観察結果に基づき、ハローイング領域の広さを評価した。
【0181】
[実施例2~6]
実施例2~6では、実施例1において、工程(8)で用いた処理液としての水性液体の温度を40℃から、それぞれ、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0182】
[実施例7]
実施例7では、実施例1で実施した工程(8)及び工程(10)に代えて、それぞれ、下記の工程(8’)及び工程(10’)を実施した。
【0183】
工程(8’):35℃未満の洗浄水を用いた処理
積層体Fを膨潤液から取り出し、続いて、洗浄水としての15℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(8’)で用いた処理液の温度及び処理液への浸漬時間を表1に示す。
【0184】
工程(10’):水性液体を用いた処理
積層体Fを酸化剤溶液から取り出し、続いて、水性液体としての70℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(10’)で用いた処理液の温度及び処理液への浸漬時間を表1に示す。
【0185】
以上の事項以外は、実施例1と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0186】
[実施例8及び9]
実施例8及び9では、実施例7において、工程(10’)で用いた処理液としての水性液体の温度を70℃から、それぞれ、80℃、90℃に変更した。以上の事項以外は、実施例7と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0187】
[実施例10]
実施例10では、実施例5において、工程(8)で用いた処理液としての水性液体に対する浸漬時間を10分間から、30分間に変更した。以上の事項以外は、実施例5と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0188】
[実施例11]
実施例11では、実施例5で実施した工程(10)に代えて、下記の工程(10”)を実施した。
工程(10”):水性液体を用いた処理
積層体Fを酸化剤溶液から取り出し、続いて、水性液体としての80℃の水を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(10”)で用いた処理液の温度及び処理液への浸漬時間を表2に示す。
以上の事項以外は、実施例5と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0189】
[比較例1]
比較例1では、実施例1で実施した工程(8)に代えて、下記の工程(8’)を実施した。
工程(8’):35℃未満の洗浄水を用いた処理
積層体Fを膨潤液から取り出し、続いて、洗浄水としての15℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(8’)で用いた処理液の温度及び処理液への浸漬時間を表2に示す。
すなわち、比較例1では、工程(7)の実施後であって工程(9)の実施前にも、工程(9)の実施後であって工程(11)の実施前にも、35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を実施しなかった。以上の事項以外は、実施例1と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0190】
[比較例2及び3]
比較例2及び3では、比較例1において工程(8’)で用いた処理液としての水性液体の温度を15℃から、それぞれ、20℃及び30℃に変更した。以上の事項以外は、比較例1と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0191】
[比較例4]
比較例4では、実施例1で実施した工程(8)に代えて、下記の工程(8’)を実施した。また、実施例1で実施した工程(10)で用いた処理液としての洗浄水の温度を15℃から30℃に変更した。
【0192】
工程(8’):35℃未満の洗浄水を用いた処理
積層体Fを膨潤液から取り出し、続いて、洗浄水としての15℃の水(脱イオン水)を循環させた浴中に10分間浸漬した。工程(8’)で用いた処理液の温度及び処理液への浸漬時間を表2に示す。
【0193】
すなわち、比較例4では、工程(7)の実施後であって工程(9)の実施前にも、工程(9)の実施後であって工程(11)の実施前にも、35℃以上の温度の水性液体で絶縁層を処理する工程を実施しなかった。以上の事項以外は、実施例1と同じ工程を経て、評価基板Gを得て、工程(13)の評価に供した。
【0194】
<ハローイング領域の評価>
実施例1~11及び比較例1~4で得られた各評価基板Gを、CMOSイメージセンサ(キーエンス社製「デジタルマイクロスコープ VHX-7000」)にて、絶縁層上方から光を照射しながら観察することにより、ビアホール近傍にあるハローイング領域を特定した。ここで、ハローイング領域は、絶縁層に無機充填材が高充填で含まれていても、その厚みが40μmと小さいために、光を照射することで、絶縁層を透過し下地の銅層で反射した光が、ハローイング領域とは異なる領域において絶縁層を透過し下地の銅層で反射した光とは異なることから、異なる色として視認でき、その結果、ハローイング領域を明確に特定することができた。
【0195】
続いて、特定されたハローイング領域のうち、3つのハローイング領域についてその外周の直径(μm)を測定し、その平均値を算出した(n=3)。
そして、得られたハローイング領域の直径を以下の基準にしたがって評価した。測定値及び評価結果を表1及び表2に示す。比較例1を基準としたため、比較例1については、ハローイング領域の広さを評価しなかった。
「○」:ハローイング領域の直径の測定値(平均値)が、比較例1のハローイング領域の直径102μmとの差(直径差)の絶対値が10μm以上であり、十分なハローイング領域の狭小化が認められる
「×」:ハローイング領域の直径の測定値(平均値)が、比較例1のハローイング領域の直径102μmとの差(直径差)の絶対値が10μm未満であり、ハローイング領域の狭小化が認められなかった
【0196】
また、実施例1において、ハローイング領域が、絶縁層と銅層の界面に生じた剥離領域に対応していることを断面観察により確認した。ここで、断面観察は、FIB(集束イオンビーム)を用いて、評価基板Gをビアホールの直径を含む断面で削り出し、削り出した断面を電子顕微鏡によって観察することにより行った。
【0197】
図3は、図2の線III-III(ビアホールの中心点130Cを通る線)に沿う積層体の断面を模式的に示す部分拡大断面図である。図3に示す符号は、図2に示す符号と同じである。図3に示す符号110は、導体層111としての銅層を含む内層基板であり、符号150は、界面に生じた剥離領域を示す。剥離領域150の端部150Eは、絶縁層120の底部外形線120Bとは反対側にある端部である。図3に示す直径Rpは、剥離領域150の1つの端部150Eからビアホール130の中心点130Cを通り他方の端部150Eまでの距離に該当している。そして、上記の断面観察の結果、実施例1においてハローイング領域の直径を測定した3つのビアホール130に関し、図3に示す直径Rpの平均値が、91μmであったことから、図2に示すハローイング領域140の直径Rhの平均値91μmと高い精度で一致することが確認された。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
<検討>
表1及び表2から分かるように、実施例と比較例の対比から、以下の特定の工程を実施することにより、ハローイング領域を狭小化することができるプリント配線板の製造方法を提供できることが分かった。
・膨潤工程(工程(7))の実施後であって酸化工程(工程(9))の実施前に、水性液体としての35℃以上の温度の水を用いた処理を実施する工程
・酸化工程(工程(9))の実施後であって中和工程(工程(11))の実施前に、水性液体としての35℃以上の温度の水を用いた処理を実施する工程、又は、
・膨潤工程(工程(7))の実施後であって酸化工程(工程(9))の実施前に、水性液体としての35℃以上の温度の水を用いた処理を実施しかつ酸化工程(工程(9))の実施後であって中和工程(工程(11))の実施前に、水性液体としての35℃以上の温度の水を用いた処理を実施する工程
【符号の説明】
【0201】
1 積層体
10 内層基板
11 導体層
12 部品
100 積層体
110 内層基板
111 導体層
120 絶縁層
130 ビアホール
140 ハローイング領域
150 剥離領域
図1
図2
図3