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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
H02P27/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020065294
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021164320
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 聖仁
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-327173(JP,A)
【文献】特開2020-048360(JP,A)
【文献】特開2015-047022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するスイッチングモジュールと、
前記直流電源と前記スイッチングモジュールとの間に接続された抵抗を用いて前記スイッチングモジュールの母線電流を検出する電流検出部と、
前記モータに流れる3相の電流を前記母線電流に基づいて算出する電流算出部と、
所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、前記スイッチングモジュールを制御するPWM信号を生成するPWM部と、を具備し、
前記PWM部は、前記PWM信号を前記キャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせ、
前記電流算出部は、前記3相の電流のうち2相の電流を前記キャリア信号の前半で算出することができない場合に、前記3相の電流のうち、前記PWM信号のシフトによって前記キャリア信号の前半において算出が可能になる第一相の電流を算出し、前記PWM信号のシフトによって前記キャリア信号の後半において算出が可能になる第二相の電流を算出し、前記第一相の電流と前記第二相の電流とから第三相の電流を算出する、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記PWM部は、前記PWM信号の3相の端子電圧パルスのうち少なくとも一つをシフトすれば、前記キャリア信号の1キャリア周期の前半と後半とで1回ずつ、互いに異なる相のサンプリング必要時間を確保することが可能になるか否かを判定し、可能になると判定したときに、前記1キャリア周期内で、前記キャリア信号の前半で1回かつ前記キャリア信号の後半で1回、前記3相の端子電圧パルスのうちの少なくとも一つをシフトさせる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータに印加される3相の交流電圧(以下では「3相電圧」と呼ぶことがある)を生成するスイッチングモジュールを有する。スイッチングモジュールは、複数のスイッチング素子から構成される。スイッチングモジュールは、インバータと呼ばれることもある。
【0003】
また、モータ制御装置に対してベクトル制御を用いる場合、モ-タ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値(目標速度)に一致するようにd軸電流指令値及びq軸電流指令値を生成し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。さらに、モータ制御装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を3相の電圧指令値へ変換する。
【0004】
3相の電圧指令値に基づいてスイッチングモジュールを制御する技術としてPWM(Pulse Width Modulation)が知られている。PWMは、スイッチングモジュールを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフ時間の長さを調節することによりスイッチングモジュールの出力電圧(つまり、3相電圧)を変化させる技術である。スイッチング素子のオン/オフを制御する信号(以下では「PWM信号」と呼ぶことがある)は、PWMの搬送波であるキャリア信号と比較値との比較結果に基づいて生成される。PWM信号に応じてスイッチング素子のオン/オフが制御されることにより、モータに3相電圧が印加されてモータの駆動が制御される。
【0005】
また、モータのロータの回転位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出するためのセンサ(以下では「位置センサ」と呼ぶことがある)を使用せずにモータの駆動を制御する技術(以下では「位置センサレス方式」と呼ぶことがある)が知られている。位置センサレス方式では、モータに流れる3相の電流(以下では「モータ電流」と呼ぶことがある)を検出することにより、位置センサを使用せずに、ロータ位置を推定する。
【0006】
また、モータ電流の検出方式として「1シャント検出方式」が知られている。1シャント検出方式では、3相電圧を生成するスイッチングモジュールと直流電源との間に流れる母線電流に基づいてモータ電流のうちの2相分の電流を検出し、残りの1相分の電流を、2相分の電流からキルヒホッフの法則を用いて算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-327173号公報
【文献】特開2013-055772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
1シャント検出方式を用いてモータ電流を検出するモータ制御装置では、モータを制御するために各相に印加する電圧指令値が近い値になる場合(3相の電圧指令値の差が小さい場合)に、PWM信号のパルス幅の差が小さくなるため、モータ電流のうちの2相分の電流を検出するための時間(以下では「電流検出時間」呼ぶことがある)を確保することができないことがある。電流検出時間の確保ができないと、1シャント検出方式によるモータ電流の検出ができないため、位置センサレス方式によるモータの駆動制御が不安定になってしまう。
【0009】
そこで、本開示では、モータに流れる3相の電流を検出できる領域を広げる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のモータ制御装置は、スイッチングモジュールと、電流検出部と、電流算出部と、PWM部とを有する。前記スイッチングモジュールは、直流電源から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加する。前記電流検出部は、前記直流電源と前記スイッチングモジュールとの間に接続された抵抗を用いて前記スイッチングモジュールの母線電流を検出する。前記電流算出部は、前記モータに流れる3相の電流を前記母線電流に基づいて算出する。前記PWM部は、所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、前記スイッチングモジュールを制御するPWM信号を生成する。また、前記PWM部は、前記PWM信号を前記キャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせる。そして、前記電流算出部は、前記3相の電流のうち、前記PWM信号のシフトによって前記キャリア信号の前半において算出が可能になる第一相の電流を算出し、前記PWM信号のシフトによって前記キャリア信号の後半において算出が可能になる第二相の電流を算出し、前記第一相の電流と前記第二相の電流とから第三相の電流を算出する。
【発明の効果】
【0011】
開示の技術によれば、モータに流れる3相の電流を検出できる領域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図2図2は、本開示の実施例のPWM部の構成例を示す図である。
図3図3は、本開示の実施例のキャリア信号の一例を示す図である。
図4図4は、本開示の実施例の比較処理の一例を示す図である。
図5図5は、本開示の実施例の各相の端子電圧と母線電流との関係の一例を示す図である。
図6図6は、本開示の実施例のPWM信号のシフト処理の一例を示す図である。
図7図7は、本開示の実施例のシフト例1の説明に供する図である。
図8図8は、本開示の実施例のシフト例1の説明に供する図である。
図9図9は、本開示の実施例のシフト例1の説明に供する図である。
図10図10は、本開示の実施例のシフト例2の説明に供する図である。
図11図11は、本開示の実施例のシフト例2の説明に供する図である。
図12図12は、本開示の実施例のシフト例2の説明に供する図である。
図13図13は、本開示の実施例のシフト例3の説明に供する図である。
図14図14は、本開示の実施例のシフト例3の説明に供する図である。
図15図15は、本開示の実施例のシフト例3の説明に供する図である。
図16図16は、本開示の実施例の検出領域拡大部における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0014】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。図1に示すモータ制御装置100は、位置センサレス方式、1シャント検出方式、及び、PWMを用いてモータMの駆動を制御する。図1において、モータ制御装置100は、減算部46,47,52と、d軸電流設定部48と、速度制御部49と、d軸q軸電圧設定部45と、dq/3φ変換部43と、PWM部41と、スイッチングモジュール10と、直流電源EDCと、シャント抵抗Rsとを有する。また、モータ制御装置100は、DC電圧検出部31と、電流検出部21と、AD変換部71,72と、3φ電流算出部61と、DC電圧算出部32と、3φ/dq変換部42と、位置・速度推定部44と、1/Pn処理部51とを有する。
【0015】
また、スイッチングモジュール10は、上アームのスイッチング素子SWup,SWvp,SWwpと、下アームのスイッチング素子SWun,SWvn,SWwnとを有する。以下では、スイッチング素子SWup,SWvp,SWwp,SWun,SWvn,SWwnを「スイッチング素子SW」と総称することがある。
【0016】
モータ制御装置100において、d軸電流設定部48は、所定値のd軸電流指令値idを減算部46へ出力する。
【0017】
減算部46には、d軸電流設定部48からd軸電流指令値idが入力され、3φ/dq変換部42からd軸電流idが入力される。減算部46は、d軸電流指令値idからd軸電流idを減算することによりd軸電流偏差Δidを算出し、算出したd軸電流偏差Δidをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0018】
速度制御部49は、減算部52から入力される速度偏差Δωがゼロに近づくようにq軸電流指令値iqを算出し、算出したq軸電流指令値iqを減算部47へ出力する。
【0019】
減算部47には、速度制御部49からq軸電流指令値iqが入力され、3φ/dq変換部42からq軸電流iqが入力される。減算部47は、q軸電流指令値iqからq軸電流iqを減算することによりq軸電流偏差Δiqを算出し、算出したq軸電流偏差Δiqをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0020】
d軸q軸電圧設定部45には、減算部46からd軸電流偏差Δidが入力され、減算部47からq軸電流偏差Δiqが入力され、3φ/dq変換部42からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。d軸q軸電圧設定部45は、d軸電流偏差Δid及びq軸電流偏差Δiqがゼロに近づくようにd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを算出し、算出したd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを位置・速度推定部44及びdq/3φ変換部43へ出力する。d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、3φ電流算出部61により算出されるモータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに応じても変化する。
【0021】
位置・速度推定部44には、3φ/dq変換部42からd軸電流id及びq軸電流iqが入力され、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力される。位置・速度推定部44は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令値Vd、及び、q軸電圧指令値Vqに基づいて、モータMの電気的な角速度ωeと、回転座標系(dq座標系)でのモータMの回転位相角θdqとを推定する。位置・速度推定部44は、推定した角速度ωeを1/Pn処理部51へ出力し、推定した位相角θdqを3φ/dq変換部42及びdq/3φ変換部43へ出力する。
【0022】
1/Pn処理部51は、角速度ωeをモータMの極対数で除することにより、電気的な角速度ωeをモータMが有するロータの機械的な角速度ωmに変換し、変換後の角速度ωmを減算部52へ出力する。
【0023】
減算部52には、1/Pn処理部51から角速度ωmが入力され、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)速度指令値ωmが入力される。減算部52は、速度指令値ωmから角速度ωmを減算することにより速度偏差Δωを算出し、算出した速度偏差Δωを速度制御部49へ出力する。
【0024】
dq/3φ変換部43は、位相角θdqを用いて、回転座標系のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、固定座標系(UVW座標系)の3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する。dq/3φ変換部43は、変換後の電圧指令値Vu,Vv,VwをPWM部41へ出力する。
【0025】
PWM部41には、dq/3φ変換部43から電圧指令値Vu,Vv,Vwが入力され、DC電圧算出部32からDC電圧Vdcが入力される。また、PWM部41には、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)、PWMの搬送波であるキャリア信号と、キャリア信号の所定の周期(以下では「キャリア周期」と呼ぶことがある)と、AD変換部72でのサンプリングに必要な時間(以下では「サンプリング必要時間」と呼ぶことがある)とが入力される。
【0026】
PWM部41は、PWM部41への入力に基づいて、3相のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成し、生成したPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnをスイッチングモジュール10及び3φ電流算出部61へ出力する。また、PWM部41は、PWM部41への入力に基づいて、AD変換部72に対するサンプリングの開始指示(以下では「AD変換トリガ」と呼ぶことがある)を生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。また、PWM部41は、PWM部41への入力に基づいて、モータ電流の検出可否を表す検出不可フラグを“TRUE”(検出不可)または“FALSE”(検出可)に設定し、設定後の検出不可フラグを3φ/dq変換部42へ出力する。PWM部41の詳細については後述する。
【0027】
スイッチングモジュール10には、直流電源EDCから直流電圧が供給され、PWM部41からPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnが入力される。スイッチングモジュール10は、直流電源EDCから供給される直流電圧をPWM信号Up~Wnに従って3相の交流電圧に変換し、変換後の3相の交流電圧をモータMに印加する。3相の交流電圧がモータMに印加されることによりモータMが駆動される。スイッチングモジュール10では、PWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnに従って各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnがオン/オフされることにより、直流電圧が3相電圧に変換される。各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnの両端には、還流ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが接続されている。
【0028】
電流検出部21は、直流電源EDCとスイッチングモジュール10との間に接続されているシャント抵抗Rsを用いて、スイッチングモジュール10の母線電流Isを検出する。シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるN側端子とスイッチングモジュール10との間のDCラインであるNラインL上に配置されている。なお、シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるP側端子とスイッチングモジュール10との間のDCラインであるPラインL上に配置されても良い。シャント抵抗Rsには、モータ電流であるU相電流、V相電流、W相電流と、PWM信号とに応じた母線電流Isが流れ、シャント抵抗Rsに母線電流Isが流れるときに、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。電流検出部21は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流Isを検出する。さらに、電流検出部21は、シャント抵抗Rsと母線電流Isとに基づいて、式(1)によって表されるアナログ電圧VA1を算出し、算出したアナログ電圧VA1をAD変換部72へ出力する。式(1)における“k”は所定の増幅率を示す。
VA1=k×(Rs・Is) …(1)
【0029】
AD変換部72は、PWM部41から入力されるAD変換トリガに従って、アナログ電圧VA1に対してサンプリングを行うことにより、アナログ電圧VA1をデジタル電圧値VA2へ変換し、変換後のデジタル電圧値VA2を3φ電流算出部61へ出力する。
【0030】
3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出する。3φ電流算出部61は、シャント抵抗Rsの抵抗値と、増幅率kと、デジタル電圧値VA2と、PWM信号Up~Wnとに基づいて、モータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwを算出し、算出したモータ電流iu,iv,iwを3φ/dq変換部42へ出力する。
【0031】
3φ/dq変換部42は、位置・速度推定部44から入力される位相角θdqを用いて、固定座標系の電流ベクトルを示すモータ電流iu,iv,iwを、回転座標系の電流ベクトルを示すd軸電流id及びq軸電流iqに変換して時系列で記憶する。3φ/dq変換部42は、変換後のd軸電流idを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45及び減算部46へ出力し、変換後のq軸電流iqを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45及び減算部47へ出力する。
【0032】
DC電圧検出部31は、PラインLとNラインLとの間の母線電圧を検出し、検出したアナログの母線電圧VB1をAD変換部71へ出力する。
【0033】
AD変換部71は、アナログの母線電圧VB1に対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電圧VB1をデジタルの母線電圧値VB2へ変換し、変換後のデジタルの母線電圧値VB2をDC電圧算出部32へ出力する。
【0034】
DC電圧算出部32は、デジタルの母線電圧値VB2からDC電圧Vdcを算出し、算出したDC電圧VdcをPWM部41へ出力する。
【0035】
<PWM部の構成>
図2は、本開示の実施例のPWM部の構成例を示す図である。図2において、PWM部41は、デューティ算出部411と、オン時間算出部412と、検出領域拡大部413とを有する。
【0036】
デューティ算出部411には、DC電圧算出部32からDC電圧Vdcが入力され、dq/3φ変換部43から電圧指令値Vu,Vv,Vwが入力される。デューティ算出部411は、式(2),(3),(4)に従って、DC電圧Vdcに対する各相の電圧指令値のデューティであるU相デューティDuty_u,V相デューティDuty_v,W相デューティDuty_wを算出し、算出した各相のデューティDuty_u,Duty_v,Duty_wをオン時間算出部412及び検出領域拡大部413へ出力する。
Duty_u=Vu/Vdc …(2)
Duty_v=Vv/Vdc …(3)
Duty_w=Vw/Vdc …(4)
【0037】
オン時間算出部412は、デューティ算出部411から入力されたデューティDuty_u,Duty_v,Duty_wと、モータ制御装置100の外部から入力されるキャリア周期Tcとに基づいて、式(5),(6),(7)に従って、スイッチング素子SWup,SWvp,SWwpのオン時間であるU相オン時間On_u,V相オン時間On_v,W相オン時間On_wを算出し、算出したオン時間On_u,On_v,On_wを検出領域拡大部413へ出力する。
On_u=Tc・Duty_u …(5)
On_v=Tc・Duty_v …(6)
On_w=Tc・Duty_w …(7)
【0038】
検出領域拡大部413は、オン時間算出部412から入力されたオン時間On_u,On_v,On_wと、デューティ算出部411から入力されたU相デューティDuty_u,V相デューティDuty_v,W相デューティDuty_wと、モータ制御装置100の外部から入力されるキャリア信号、キャリア周期及びサンプリング必要時間とに基づいて、AD変換トリガとPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnとを生成するとともに、検出不可フラグを設定する。検出領域拡大部413は、オンレベルまたはオフレベルのPWM信号Up~Wnを生成する。
【0039】
PWM信号UpがオンレベルになるときはPWM信号Unがオフレベルになり、PWM信号UpがオフレベルになるときはPWM信号Unがオンレベルになる。また、PWM信号Upがオンレベルであるときはスイッチング素子SWupがオンになり、PWM信号Upがオフレベルであるときはスイッチング素子SWupがオフになる。また、PWM信号Unがオンレベルであるときはスイッチング素子SWunがオンになり、PWM信号Unがオフレベルであるときはスイッチング素子SWunがオフになる。
【0040】
また、PWM信号VpがオンレベルになるときはPWM信号Vnがオフレベルになり、PWM信号VpがオフレベルになるときはPWM信号Vnがオンレベルになる。また、PWM信号Vpがオンレベルであるときはスイッチング素子SWvpがオンになり、PWM信号Vpがオフレベルであるときはスイッチング素子SWvpがオフになる。また、PWM信号Vnがオンレベルであるときはスイッチング素子SWvnがオンになり、PWM信号Vnがオフレベルであるときはスイッチング素子SWvnがオフになる。
【0041】
また、PWM信号WpがオンレベルになるときはPWM信号Wnがオフレベルになり、PWM信号WpがオフレベルになるときはPWM信号Wnがオンレベルになる。また、PWM信号Wpがオンレベルであるときはスイッチング素子SWwpがオンになり、PWM信号Wpがオフレベルであるときはスイッチング素子SWwpがオフになる。また、PWM信号Wnがオンレベルであるときはスイッチング素子SWwnがオンになり、PWM信号Wnがオフレベルであるときはスイッチング素子SWwnがオフになる。
【0042】
そこで、検出領域拡大部413は、オンレベルである時間がU相オン時間On_uであるPWM信号Up、オンレベルである時間がV相オン時間On_vであるPWM信号Vp、及び、オンレベルである時間がW相オン時間On_wであるPWM信号Wpを生成する。
【0043】
<モータ制御装置の動作>
PWM部41において、検出領域拡大部413には、図3に示すような三角波信号がキャリア信号として入力される。図3は、本開示の実施例のキャリア信号の一例を示す図である。以下では、三角波信号であるキャリア信号において、山側の頂点を「山」と呼び、谷側の頂点を「谷」と呼ぶことがある。また以下では、キャリア信号の1周期(つまり、1キャリア周期)において、谷から山までの範囲を「キャリア前半」と呼び、山から谷までの範囲を「キャリア後半」と呼ぶことがある。よって、キャリア前半及びキャリア後半のそれぞれの長さは、キャリア周期の2分の1に相当する。また、図3におけるキャリア信号の振幅にデューティが対応付けられ、キャリア信号の振幅を0~1としたとき、比較値が1のときのデューティが0%、0のときのデューティが100%となる。
【0044】
図4は、本開示の実施例の比較処理の一例を示す図である。検出領域拡大部413は、図4に示すように、比較値とキャリア信号とを比較することによりPWM信号Up~Wnを生成する。ここで、検出領域拡大部413は、U相デューティDuty_u,V相デューティDuty_v,W相デューティDuty_wに応じて、各相の比較値を設定する。比較値とキャリア信号との比較処理は、U相、V相、W相の各相毎に行われる。
【0045】
例えば、山を基準にして比較値とキャリア信号との比較処理が行われる場合(つまり、キャリア信号が山基準である場合)、検出領域拡大部413は、山がキャリア周期の中央になるようにキャリア周期を設定する。そして、検出領域拡大部413は、キャリア信号のレベルが比較値を超えた時点でPWM信号Up,Vp,Wpをオンレベルにする一方でPWM信号Un,Vn,Wnをオフレベルにし、キャリア信号のレベルが比較値以下になった時点でPWM信号Up,Vp,Wpをオフレベルにする一方でPWM信号Un,Vn,Wnをオンレベルにする。よって、図4に示すように、キャリア周期において、PWM信号Up,Vp,Wpは、山に対して(つまり、キャリア前半とキャリア後半とで)対称なパターンになる。
【0046】
また、検出領域拡大部413は、式(5),(6),(7)で表される各相のオン時間に応じて比較値を増加または減少させることにより、PWM信号Up,Vp,Wpがオンレベルにある時間を制御する。すなわち、検出領域拡大部413は、オン時間算出部412から入力されるオン時間が長くなるほど比較値を小さくし、オン時間算出部412から入力されるオン時間が短くなるほど比較値を大きくすることにより、オンレベルである時間がオン時間算出部412から入力されるオン時間であるPWM信号Up,Vp,Wpを生成する。そして、このようにして生成されたPWM信号Up,Vp,Wpに従って、スイッチングモジュール10では、3相の交流電圧、すなわち、モータMのU相の端子に印加される電圧(以下では「U相端子電圧」と呼ぶことがある)と、モータMのV相の端子に印加される電圧(以下では「V相端子電圧」と呼ぶことがある)と、モータMのW相の端子に印加される電圧(以下では「W相端子電圧」と呼ぶことがある)とが生成される。つまり、スイッチングモジュール10では、オン時間On_uに相当するパルス幅を有するU相端子電圧と、オン時間On_vに相当するパルス幅を有するV相端子電圧と、オン時間On_wに相当するパルス幅を有するW相端子電圧とが生成される。以下では、U相端子電圧、V相端子電圧、及び、W相端子電圧を「端子電圧」と総称することがある。
【0047】
図5は、本開示の実施例の各相の端子電圧と母線電流との関係の一例を示す図である。上記のように、各相の端子電圧のパルス幅は各相のオン時間に一致する。
【0048】
図5に示すキャリア周期Tc1,Tc2,Tc3の3周期分のキャリア信号において、区間S1,S7,S13,S19では、PWM信号Up,Vp,Wpのすべてがオフレベルであるため母線電流はゼロとなり、区間S4,S10,S16では、PWM信号Up,Vp,Wpのすべてがオンレベルであるため母線電流はゼロとなる。
【0049】
また、区間S2,S6では、PWM信号Up,Vp,WpのうちPWM信号Wpだけがオンレベルであるため、母線電流はW相電流となる。また、区間S8,S12では、PWM信号Up,Vp,WpのうちPWM信号Upだけがオンレベルであるため、母線電流はU相電流となる。また、区間S14,S18では、PWM信号Up,Vp,WpのうちPWM信号Vpだけがオンレベルであるため、母線電流はV相電流となる。
【0050】
また、区間S3,S5,S15,S17では、PWM信号Up,Vp,WpのうちPWM信号Vp,Wpの2つがオンレベルであるため、母線電流は符号が反転したU相電流となる。また、区間S9,S11では、PWM信号Up,Vp,WpのうちPWM信号Up,Vpの2つがオンレベルであるため、母線電流は符号が反転したW相電流となる。
【0051】
以上から、PWM信号Up,Vp,Wpのすべてがオンレベルまたはオフレベルにあるときは母線電流がゼロになることが分かる。また、PWM信号Up,Vp,Wpのうち1相だけがオンレベルにあるときは、オンレベルにある相の電流が母線電流として出現することが分かる。また、PWM信号Up,Vp,Wpのうち2相がオンレベルにあるときは、オフレベルにある相の符号が反転した電流が母線電流として出現することが分かる。
【0052】
以下、図6を参照し、本発明の端子電圧のパルスのシフト処理について説明する。図6は、本開示の実施例のPWM信号のシフト処理の一例を示す図である。
【0053】
図6に示すように、増減前の比較値である元比較値を用いてシフト前のPWM信号が生成される場合、元比較値のキャリア前半部分をαだけ減少させるとともに、元比較値のキャリア後半部分をαだけ増加させることにより、PWM信号は、パルス幅が変化することなく、αの大きさに応じたβだけ図中左方へ(つまり、キャリア周期において時間的に後方へ)シフトする。例えば、PWM信号を1キャリアの周期内でキャリア前半の部分の時間幅に対し30%だけ図中左方へシフトさせる場合、元比較値のキャリア前半部分をデューティが30%に相当する値だけ減少させるとともに、元比較値のキャリア後半部分をデューティが30%に相当する値だけ増加させればよい。逆に、元比較値のキャリア前半部分をαだけ増加させるとともに、元比較値のキャリア後半部分をαだけ減少させることにより、PWM信号は、パルス幅が変化することなく、αの大きさに応じたβだけ図中右方へ(つまり、キャリア周期において時間的に前方へ)シフトする。上記のように、端子電圧はPWM信号に従って生成されるため、PWM信号がシフトすると、PWM信号のシフトと同様にして端子電圧のパルスもシフトする。また、1キャリア周期内における元比較値を、キャリア前半でαだけ減少させるとともに、キャリア後半で同一の大きさαだけ増加させる、または、キャリア前半でαだけ増加させるとともに、キャリア後半で同一の大きさαだけ減少させることにより、1キャリア内でのデューティ(式(2),(3),(4))は、PWM信号のシフト前後で同一値に保たれる。
【0054】
そこで、検出領域拡大部413は、サンプリング必要時間を確保することができない場合に、以下のようにして、PWM信号のシフトによって端子電圧のパルスをシフトさせる。以下では、端子電圧のパルスのシフト例について、シフト例1,2,3の三例を挙げて説明する。
【0055】
以下では、U相端子電圧のパルスを「U相パルス」と呼び、V相端子電圧のパルスを「V相パルス」と呼び、W相端子電圧のパルスを「W相パルス」と呼ぶことがある。また、U相パルス、V相パルス及びW相パルスを「端子電圧パルス」と総称することがある。
【0056】
<シフト例1(図7,8,9)>
図7,8,9は、本開示の実施例のシフト例1の説明に供する図である。図7,8,9には、PWM部41が2相変調を行う場合を一例として示す。
【0057】
図7には、V相パルスのパルス幅がW相パルスのパルス幅より小さく、V相パルス及びW相パルスの各々が1キャリア周期において山に対して対称となる状態でV相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さい場合を一例として示す。
【0058】
図7に示す場合、母線電流として、W相電流と、符号が反転したU相電流とが出現する。しかし、キャリア前半において、W相電流の出現時間、及び、符号が反転したU相電流の出現時間は共にサンプリング必要時間未満である。このため、図7に示す状態では、AD変換部72は、キャリア前半において、3φ電流算出部61によるW相電流iwの算出のためのサンプリングも、3φ電流算出部61によるU相電流iuの算出のためのサンプリングも行うことができない。よって、図7に示す状態では、3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出することができない。
【0059】
そこで、検出領域拡大部413は、まず図8に示すように、キャリア前半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまでW相パルスを図中左方へシフトさせる。これにより、AD変換部72では、3φ電流算出部61で算出されるW相電流iwのためのサンプリング必要時間をキャリア前半において確保することが可能になるため、AD変換部72は、キャリア前半においてW相電流iwの算出のためのサンプリングを行うことが可能になる。しかし、W相パルスのシフト後も、未だ、キャリア前半において、符号が反転したU相電流の出現時間はサンプリング必要時間未満である。また、W相パルスのシフトにより、キャリア後半に、母線電流として、V相電流が出現する。しかし、キャリア後半におけるV相電流の出現時間はサンプリング必要時間未満である。
【0060】
そこで、検出領域拡大部413は、図9に示すように、キャリア後半においてV相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまでV相パルスを図中右方へシフトさせる。これにより、AD変換部72では、3φ電流算出部61で算出されるV相電流ivのためのサンプリング必要時間をキャリア後半において確保することが可能になるため、AD変換部72は、キャリア後半においてV相電流ivの算出のためのサンプリングを行うことが可能になる。
【0061】
そこで、検出領域拡大部413は、図9に示すキャリア前半においては、V相パルスの立ち上がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングTF1でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。また、検出領域拡大部413は、図9に示すキャリア後半においては、V相パルスの立ち下がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングTS1でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。そして、AD変換部72は、AD変換トリガに従って、タイミングTF1,TS1のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0062】
よって、3φ電流算出部61は、キャリア前半においてW相電流iwを算出し、キャリア後半においてV相電流ivを算出することが可能になる。また、3φ電流算出部61は、キャリア後半において、W相電流iw及びV相電流ivからキルヒホッフの法則を用いてU相電流iuを算出することが可能になる。
【0063】
つまり、シフト例1では、以上のようにして検出領域拡大部413が端子電圧パルスをシフトさせることにより、モータ電流の検出可能領域が拡大するため、1シャント検出方式によるモータ電流の検出が可能になる。
【0064】
<シフト例2(図10,11,12)>
図10,11,12は、本開示の実施例のシフト例2の説明に供する図である。図10,11,12には、PWM部41が3相変調を行う場合を一例として示す。
【0065】
図10には、V相パルスのパルス幅がW相パルスのパルス幅より小さく、U相パルスのパルス幅がV相パルスのパルス幅より小さく、U相パルス、V相パルス及びW相パルスの各々が1キャリア周期において山に対して対称となる状態で、V相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さく、かつ、U相パルスのパルス幅とV相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さい場合を一例として示す。
【0066】
図10に示す場合、母線電流として、W相電流と符号が反転したU相電流とが出現する。しかし、キャリア前半において、W相電流の出現時間、及び、符号が反転したU相電流の出現時間は共にサンプリング必要時間未満である。このため、図10に示す状態では、AD変換部72は、キャリア前半において、3φ電流算出部61によるW相電流iwの算出のためのサンプリングも、3φ電流算出部61によるU相電流iuの算出のためのサンプリングも行うことができない。よって、図10に示す状態では、3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出することができない。
【0067】
そこで、検出領域拡大部413は、図11に示すように、キャリア前半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、W相パルスを図中左方へシフトさせる一方でV相パルスを図中右方へシフトさせる。これにより、AD変換部72では、3φ電流算出部61で算出されるW相電流iwのためのサンプリング必要時間をキャリア前半において確保することが可能になるため、AD変換部72は、キャリア前半においてW相電流iwの算出のためのサンプリングを行うことが可能になる。しかし、図11における端子電圧パルスのシフト後も、未だ、キャリア前半において、符号が反転したU相電流の出現時間はサンプリング必要時間未満である。
【0068】
一方で、図11に示すようなシフト処理により、図12に示すように、キャリア後半において符号が反転したU相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間以上になる。よって、AD変換部72では、3φ電流算出部61で算出されるU相電流iuのためのサンプリング必要時間をキャリア後半において確保することが可能になるため、AD変換部72は、キャリア後半においてU相電流iuの算出のためのサンプリングを行うことが可能になる。
【0069】
そこで、検出領域拡大部413は、図12に示すキャリア前半においては、V相パルスの立ち上がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングTF2でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。また、検出領域拡大部413は、図12に示すキャリア後半においては、U相パルスの立ち下がりタイミングであるタイミングTS2でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。そして、AD変換部72は、AD変換トリガに従って、タイミングTF2,TS2のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0070】
よって、3φ電流算出部61は、キャリア前半においてW相電流iwを算出し、キャリア後半においてU相電流iuを算出することが可能になる。また、3φ電流算出部61は、キャリア後半において、W相電流iw及びU相電流iuからキルヒホッフの法則を用いてV相電流ivを算出することが可能になる。
【0071】
つまり、シフト例2では、以上のようにして検出領域拡大部413が端子電圧パルスをシフトさせることにより、モータ電流の検出可能領域が拡大するため、1シャント検出方式によるモータ電流の検出が可能になる。
【0072】
<シフト例3(図13,14,15)>
図13,14,15は、本開示の実施例のシフト例3の説明に供する図である。図13,14,15には、PWM部41が3相変調を行う場合を一例として示す。
【0073】
図13には、V相パルスのパルス幅がW相パルスのパルス幅より小さく、U相パルスのパルス幅がV相パルスのパルス幅より小さく、U相パルス、V相パルス及びW相パルスの各々が1キャリア周期において山に対して対称となる状態で、V相パルスのパルス幅とW相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さく、かつ、U相パルスのパルス幅とV相パルスのパルス幅との差がサンプリング必要時間より小さい場合を一例として示す。
【0074】
図13に示す場合、母線電流として、W相電流と、符号が反転したU相電流とが出現する。しかし、キャリア前半において、W相電流の出現時間、及び、符号が反転したU相電流の出現時間は共にサンプリング必要時間未満である。このため、図13に示す状態では、AD変換部72は、キャリア前半において、3φ電流算出部61によるW相電流iwの算出のためのサンプリングも、3φ電流算出部61によるU相電流iuの算出のためのサンプリングも行うことができない。よって、図13に示す状態では、3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出することができない。
【0075】
そこで、検出領域拡大部413は、図14に示すように、キャリア前半においてW相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまで、W相パルスを図中左方へシフトさせる一方でV相パルスを図中右方へシフトさせる。これにより、AD変換部72では、3φ電流算出部61で算出されるW相電流iwのためのサンプリング必要時間をキャリア前半において確保することが可能になるため、AD変換部72は、キャリア前半においてW相電流iwの算出のためのサンプリングを行うことが可能になる。しかし、図14における端子電圧パルスのシフト後も、未だ、キャリア前半において、符号が反転したU相電流の出現時間はサンプリング必要時間未満である。また、図14における端子電圧パルスのシフトにより、キャリア後半における符号が反転したU相電流の出現時間は増加するが、未だ、キャリア後半において、符号が反転したU相電流の出現時間はサンプリング必要時間未満である。
【0076】
そこで、検出領域拡大部413は、図15に示すように、キャリア後半において符号が反転したU相電流である母線電流の出現時間がサンプリング必要時間に達するまでU相パルスを図中左方へシフトさせる。これにより、AD変換部72では、3φ電流算出部61で算出されるU相電流iuのためのサンプリング必要時間をキャリア後半において確保することが可能になるため、AD変換部72は、キャリア後半においてU相電流iuの算出のためのサンプリングを行うことが可能になる。
【0077】
そこで、検出領域拡大部413は、図15に示すキャリア前半においては、V相パルスの立ち上がりタイミングからサンプリング必要時間だけ時間的に後方に位置するタイミングTF3でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。また、検出領域拡大部413は、図15に示すキャリア後半においては、U相パルスの立ち下がりタイミングであるタイミングTS3でAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。そして、AD変換部72は、AD変換トリガに従って、タイミングTF3,TS3のそれぞれでサンプリングを開始する。
【0078】
よって、3φ電流算出部61は、キャリア前半においてW相電流iwを算出し、キャリア後半においてU相電流iuを算出することが可能になる。また、3φ電流算出部61は、キャリア後半において、W相電流iw及びU相電流iuからキルヒホッフの法則を用いてV相電流ivを算出することが可能になる。
【0079】
つまり、シフト例3では、以上のようにして検出領域拡大部413が端子電圧パルスをシフトさせることにより、モータ電流の検出可能領域が拡大するため、1シャント検出方式によるモータ電流の検出が可能になる。
【0080】
以上、端子電圧パルスのシフト例について、シフト例1,2,3の三例を挙げて説明した。このようにして端子電圧パルスが決定されることで、PWM部41は、次のキャリア周期において、1シャント検出方式によるモータ電流の検出が可能となるように、PWM信号を出力できる。
【0081】
<検出領域拡大部の処理>
図16は、本開示の実施例の検出領域拡大部における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0082】
図16において、ステップST100では、検出領域拡大部413は、3相の端子電圧パルスのうち少なくとも一つをシフトすれば、1キャリア周期内で、キャリア前半で1回かつキャリア後半で1回(つまり、キャリア周期の前半と後半とで1回ずつ)、それぞれ異なる相のサンプリング必要時間を確保することが可能になるか否かを判定する。ここで、端子電圧パルスのシフトのさせ方は様々なパターンが考えられる。すなわち、上に例示したパターン以外にも、3相のうちのいずれの相を、どちらにどれだけシフトするかによって異なる端子電圧パルスが得られる。そこで、ステップST100では、検出領域拡大部413は、端子電圧パルスをシフトさせるパターンを所定の順番で確認し、各パターンでサンプリング必要時間を確保できるかを判定する。検出領域拡大部413は、いずれかのパターンでサンプリング必要時間を確保できると判定した時点で、端子電圧パルスをシフトすることによりサンプリング必要時間の確保が可能になると判定し(ステップST100:Yes)、処理はステップST110へ進む。一方で、検出領域拡大部413は、すべてのパターンでサンプリング必要時間を確保できないと判定した場合は、端子電圧パルスをシフトしたとしてもサンプリング必要時間の確保ができないと判定し(ステップST100:No)、処理はステップST105へ進む。
【0083】
ステップST105では、検出領域拡大部413は、検出不可フラグを“TRUE”に設定し、“TRUE”に設定した検出不可フラグを3φ/dq変換部42へ出力する。ステップST105の処理後、処理は終了する。
【0084】
一方で、ステップST110では、検出領域拡大部413は、1キャリア周期内で、キャリア前半で1回かつキャリア後半で1回、サンプリング必要時間を確保するように、3相の端子電圧パルスのうち少なくとも一つをシフトする。ここで、検出領域拡大部413は、ステップST100において確認した、サンプリング必要時間を確保できるパターンで、端子電圧パルスをシフトする。
【0085】
次いで、ステップST115では、検出領域拡大部413は、シフト後の端子電圧パルスに基づいてAD変換トリガを生成し、生成したAD変換トリガをAD変換部72へ出力する。AD変換部72は、検出領域拡大部413からAD変換トリガが入力された時点でサンプリングを開始する。
【0086】
次いで、ステップST120では、検出領域拡大部413は、検出不可フラグを“FALSE”に設定し、“FALSE”に設定した検出不可フラグを3φ/dq変換部42へ出力する。ステップST120の処理後、処理は終了する。
【0087】
なお、3φ/dq変換部42は、検出領域拡大部413から入力される検出不可フラグが“FALSE”に設定されている場合は、3φ電流算出部61により算出されたモータ電流からd軸電流id及びq軸電流iqを生成して出力する。一方で、検出領域拡大部413から入力される検出不可フラグが“TRUE”に設定されている場合は、3φ/dq変換部42は、モータ電流の算出が可能だった直近のキャリア周期におけるd軸電流id及びq軸電流iqを出力する。
【0088】
以上、実施例について説明した。
【0089】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、スイッチングモジュール(実施例のスイッチングモジュール10)と、電流検出部(実施例の電流検出部21)と、電流算出部(実施例の3φ電流算出部61)と、PWM部(実施例のPWM部41)とを有する。スイッチングモジュールは、直流電源(実施例の直流電源EDC)から供給される直流電圧を3相の交流電圧に変換し、交流電圧をモータ(実施例のモータM)に印加する。電流検出部は、直流電源とスイッチングモジュールとの間に接続された抵抗(実施例のシャント抵抗Rs)を用いてスイッチングモジュールの母線電流を検出する。電流算出部は、モータに流れる3相の電流をスイッチングモジュールの母線電流に基づいて算出する。PWM部は、所定の周期を有するキャリア信号を用いたPWMにより、スイッチングモジュールを制御するPWM信号を生成する。また、PWM部は、PWM信号をキャリア信号の周期内で時間的に前方または後方へシフトさせる。そして、電流算出部は、モータに流れる3相の電流のうち、PWM信号のシフトによってキャリア信号の前半において算出が可能になる第一相の電流を算出し、PWM信号のシフトによってキャリア信号の後半において算出が可能になる第二相の電流を算出し、第一相の電流と第二相の電流とから第三相の電流を算出する。
【0090】
こうすることで、モータに流れる3相の電流を検出できる領域を広げることができる。
【0091】
また、PWM部は、PWMにおいてキャリア信号と比較される比較値をキャリア信号の前半で減少させる値と同一の大きさだけキャリア信号の後半で増加させる、または、キャリア信号の前半で増加させる値と同一の大きさだけキャリア信号の後半で減少させることによりPWM信号をシフトさせる。
【0092】
こうすることで、DC電圧に対する電圧指令値のデューティをPWM信号のシフト前後で同一値に保ったままPWM信号をシフトさせることができる。
【符号の説明】
【0093】
100 モータ制御装置
10 スイッチングモジュール
21 電流検出部
72 AD変換部
61 3φ電流算出部
41 PWM部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16