(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240305BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240305BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240305BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240305BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/24
H01F1/153 108
B22F3/00 B
(21)【出願番号】P 2020066499
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】松本 康享
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐永
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131536(WO,A1)
【文献】特開2021-111737(JP,A)
【文献】特開2021-025127(JP,A)
【文献】特開2013-216921(JP,A)
【文献】特開昭61-154111(JP,A)
【文献】特開2009-117471(JP,A)
【文献】特開2012-131147(JP,A)
【文献】特開2019-218516(JP,A)
【文献】特開2017-220590(JP,A)
【文献】特開2006-344805(JP,A)
【文献】特開2011-003582(JP,A)
【文献】特開2005-113258(JP,A)
【文献】特表2003-522298(JP,A)
【文献】特開2019-192868(JP,A)
【文献】特開2019-151868(JP,A)
【文献】特開平11-269503(JP,A)
【文献】特開2015-079890(JP,A)
【文献】特開2006-269134(JP,A)
【文献】特開平11-354359(JP,A)
【文献】特開2018-053319(JP,A)
【文献】特開2008-277775(JP,A)
【文献】国際公開第2012/131872(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/24
H01F 1/153
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム-酸素結合を有する
有機アルミニウム化合物を含む絶縁体で被覆された軟磁性粉末の表面に、
前記絶縁体を構成する分子鎖の一部が分断されて未結合手が生成されるようにエネルギーを付与する工程と、
大気圧下露点-30℃以上15℃以下の
所定の湿気を含む雰囲気に前記軟磁性粉末を暴露
して、前記未結合手と湿気による水分とから水酸基が形成される工程と、
前記軟磁性粉末を20MPa以上400MPa以下の押圧で成形体を形成する工程と、
を含
み、
前記エネルギーを付与する工程と、前記軟磁性粉末を暴露して、前記未結合手と湿気による水分とから水酸基が形成される工程と、によって、アルミノール基の有する水酸基同士が水素結合や共有結合を形成し、前記未結合手同士が共有結合を形成して、隣接する前記軟磁性粉末同士が結び付く、
ことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記エネルギーを付与する工程と、前記軟磁性粉末を暴露
して、前記未結合手と湿気による水分とから水酸基が形成される工程とが同時に行われることを特徴とする、請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記成形体を100℃以上400℃以下の温度で焼成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
前記エネルギーを付与する工程の前に、前記軟磁性粉末に振動を付与する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記エネルギーを付与する工程において、前記軟磁性粉末に前記エネルギーと同時に振動を付与することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記エネルギーの付与として、紫外線を照射することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記エネルギーの付与として、前記軟磁性粉末を電離気体またはオゾンガスに曝すことを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記軟磁性粉末はアモルファス相を含むことを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟磁性粉末が圧粉されて成る圧粉磁心が知られていた。このような圧粉磁心は、インダクターやトロイダルコイルなどの磁心に採用される。例えば、特許文献1には、リン酸化合物によって表面が被覆された鉄粉と樹脂粉末とが含まれる混合粉末を、700MPaから2000MPaの圧縮応力で成形する圧粉磁心の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の圧粉磁心の製造方法では、鉄損を低減することが難しいという課題があった。詳しくは、圧粉時の圧縮応力が高いため、圧粉磁心に加工歪が生じ易くなっていた。加工歪が生じると、ヒステリシス損が大きくなって鉄損も増大する。すなわち、加工歪の発生を抑制すると共に、鉄損を低減する圧粉磁心の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
圧粉磁心の製造方法は、アルミニウム-酸素結合を有する有機アルミニウム化合物を含む絶縁体で被覆された軟磁性粉末の表面に、前記絶縁体を構成する分子鎖の一部が分断されて未結合手が生成されるようにエネルギーを付与する工程と、大気圧下露点-30℃以上15℃以下の所定の湿気を含む雰囲気に前記軟磁性粉末を暴露して、前記未結合手と湿気による水分とから水酸基が形成される工程と、前記軟磁性粉末を20MPa以上400MPa以下の押圧で成形体を形成する工程と、を含み、前記エネルギーを付与する工程と、前記軟磁性粉末を暴露して、前記未結合手と湿気による水分とから水酸基が形成される工程と、によって、アルミノール基の有する水酸基同士が水素結合や共有結合を形成し、前記未結合手同士が共有結合を形成して、隣接する前記軟磁性粉末同士が結び付く、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る圧粉磁心の構成を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.第1実施形態
1.1.圧粉磁心
第1実施形態に係る圧粉磁心1は、後述する圧粉磁心1の製造方法にて製造される。圧粉磁心1は、インダクターなどの磁心に適用される。以下、圧粉磁心1に含まれる、軟磁性粉末および絶縁体などについて
図1を参照して説明する。ここで、
図1は、圧粉磁心1における軟磁性粉末の2つ粒子の状態を模式的に拡大して示したものである。したがって、2つの粒子の形状や位置関係などは、必ずしも実際の状態と一致するものではない。
【0009】
圧粉磁心1は、後述する絶縁体で被覆された軟磁性粉末が圧粉されて成る。
図1に示すように、圧粉磁心1では、軟磁性粉末の一の粒子である粒子11aと、軟磁性粉末の他の粒子である粒子11bとが隣接する。
【0010】
粒子11aと粒子11bとは、絶縁体を介して接する。
図1では、粒子11aと粒子11bとの間に、粒子11を被覆する絶縁体13aと、粒子11bを被覆する絶縁体13bとが介在する形態を図示したがこれに限定されない。詳しくは、粒子11aと粒子11bとの間には、絶縁体13,13bのうちの少なくとも一方が介在すればよい。例えば、絶縁体13a,13bが島状に形成されているような場合に、11aと粒子11bとの間には、絶縁体13aまたは絶縁体13bのいずれかが介在すればよい。なお、絶縁体による絶縁機能や、後述する軟磁性粉末間の結合の効果の観点から、粒子11aと粒子11bとの間には、絶縁体13aおよび絶縁体13bが介在することが好ましい。絶縁体13a,13bの詳細は後述する。
【0011】
圧粉磁心1では、粒子11a,11bを含む複数の軟磁性粉末の粒子が密に寄せ集められ、絶縁体13a,13bなどの絶縁体の被膜を介して接している。なお、以降の説明において、絶縁体13a,13bを総称して単に絶縁体ともいい、粒子11a,11bを含む軟磁性粉末の複数の粒子を総称して単に軟磁性粉末ともいう。
【0012】
圧粉磁心1は、印加周波数50kHzにおける鉄損が、最大磁束密度50mTにおいて5kW/m3以上270kW/m3未満である。鉄損の測定方法については後述する。
【0013】
1.1.1.軟磁性粉末
軟磁性粉末は、軟磁性材料を含む粒子である。軟磁性材料としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼のようなFe-Si系合金、パーマロイのようなFe-Ni系合金、パーメンジュールのようなFe-Co系合金、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Cr-Si系合金、およびFe-Cr-Al系合金などの各種Fe系合金、各種Ni系合金、各種Co系合金などが挙げられる。これらのうち、透磁率、磁束密度などの磁気特性、およびコストなどの生産性の観点から、各種Fe系合金を用いることが好ましい。
【0014】
軟磁性材料の結晶性としては、結晶質および非晶質(アモルファス)が挙げられる。これらの結晶性のうち、軟磁性材料は、保磁力低減の観点から、非晶質のようなアモルファス相を含むことが好ましい。
【0015】
軟磁性材料におけるアモルファス相の割合は、特に限定されないが、例えば10体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましい。これによれば、ヒステリシス損が低減されて、透磁率および磁束密度が向上すると共に、圧粉した際に鉄損が低減される。
【0016】
非晶質または微結晶質を形成可能な軟磁性材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-B-Mn-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Zr-B系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金などが挙げられる。なお、軟磁性粉末には、異なる結晶性を有する軟磁性材料を複数種類用いてもよい。
【0017】
軟磁性材料は、軟磁性粉末の充填体積に対して、50体積%以上含まれることが好ましく、より好ましくは80体積%以上であり、さらにより好ましくは90体積%以上である。これにより、軟磁性粉末の軟磁性が向上する。なお、充填体積とは、軟磁性粉末が圧粉されて成る圧粉体において軟磁性粉末が占める実体積のことを指し、液体置換法や気体置換法などにより測定することが可能である。
【0018】
軟磁性粉末には、軟磁性材料の他に不純物や添加物が含まれていてもよい。該添加物としては、例えば、各種金属材料、各種非金属材料、各種金属酸化物材料などが挙げられる。
【0019】
軟磁性粉末は、表面が酸化され、酸化層が形成されていてもよい。このように、軟磁性粉末表面が酸化され、酸化層で被覆されることで、後述する絶縁体の被膜を形成する際に、絶縁体の被膜と軟磁性粉末表面との間のファンデルワールス結合や化学結合を強め、両者間の密着を高められるとともに、軟磁性粉末により高い絶縁性を付与することができる。
【0020】
軟磁性粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.25μm以上250.00μm以下である。ここで、本明細書における平均粒子径とは、体積基準粒度分布(50%)を指していう。平均粒子径は、JIS Z8825に記載の動的光散乱法やレーザー回折光法で測定される。具体的には、例えば動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計が採用可能である。
【0021】
軟磁性粉末の製造方法としては、特に限定されないが、例えば水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法などの各種アトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法などの公知の製造方法が挙げられる。これらのうち、微小な粒子を粒子径のばらつきを抑えて効率よく製造するという観点から、アトマイズ法を採用することが好ましい。
【0022】
1.1.2.絶縁体
絶縁体は、軟磁性粉末の表面の少なくとも一部を、例えば島状に被覆する。軟磁性粉末に対する絶縁体の被膜が島状であっても、後述する軟磁性粉末間の結合の効果は発現する。但し、絶縁体による絶縁機能や上記効果を増大させる観点から、絶縁体は軟磁性粉末表面の全てを被覆することが好ましい。ここで、以降の説明においては、軟磁性粉末を被覆する絶縁体の被膜を絶縁体被膜ともいう。
【0023】
絶縁体被膜の膜厚は、絶縁機能の観点から、2nm以上50nm以下であり、好ましくは2nm以上10nm以下であり、より好ましくは2nm以上4nm以下である。絶縁体被膜の膜厚は、絶縁体被膜が設けられた軟磁性粉末の断面を透過型電子顕微鏡などで観察して、5箇所以上で測定した膜厚の平均値から知ることが可能である。
【0024】
絶縁体の体積抵抗率は、1×1014Ω・cm以上1×1017Ω・cm以下である。これにより、絶縁体にて被覆された軟磁性粉末における、直流絶縁耐圧と透磁率とが向上する。絶縁体の体積抵抗率は、公知の数値または公知の測定方法が採用可能である。
【0025】
絶縁体は、アルミニウム-酸素結合を有する化合物を含む。絶縁体の形成材料としては、後述するエネルギーの付与および水分との反応によって水酸基を有するアルミノール基が形成されれば特に限定されない。詳しくは、アルミニウム-酸素結合と、アルキル基、エポキシ基、アクリル基、およびポリエステル基などと、を有するアルミノキサンなどの有機アルミニウム化合物が挙げられる。
【0026】
このようなアルミニウム-酸素結合を有する有機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、例えばトリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、およびアルミニウムイソプロポキシドなどのアルミニウムアルコキシド、ポリメチルアルミノキサンなどが挙げられる。絶縁体には、これらの形成材料を1種類単独あるいは複数種類用いる。
【0027】
1.1.3.その他の成分
圧粉磁心1は、その他の成分として、必要に応じて結着材を含んでもよい。結着材としては、樹脂バインダーや無機バインダーなどの公知のバインダーが挙げられる。ここで、本発明の圧粉磁心1は、軟磁性粉末間で水酸基を有するアルミノール基や未結合手が結合を形成するため、バインダーを使用しないか、あるいは従来よりもバインダーの使用量を低減することが可能となる。なお、アルミノール基および未結合手の形成と作用とについては後述する。
【0028】
本実施形態の圧粉磁心1には、樹脂バインダーを使用しない。樹脂バインダーを使用しないことによって、圧粉時に樹脂バインダーの流動化や、圧粉した成形体の焼成時に樹脂バインダーの焼散のための加熱が不要となる、そのため、樹脂バインダーを使用する場合と比べて焼成温度を低くすることができる。また、圧粉磁心1に樹脂バインダー由来の有機物が残存しないため、圧粉磁心1の熱による経年劣化を避けることができる。さらに、圧粉磁心1の軟磁性粉末がアモルファス相を含む場合に、熱による結晶化を抑制することができる。
【0029】
圧粉磁心1は、結着材の他に公知の添加剤や非磁性粉末などを含んでもよい。
【0030】
1.2.圧粉磁心の製造方法
第1実施形態に係る圧粉磁心1の製造方法について
図2を参照して説明する。
図2に示すように、圧粉磁心1の製造方法は、工程S1から工程S6を含む。なお、
図1に示す工程フローは一例であって、これに限定されるものではない。
【0031】
工程S1では、まず、軟磁性粉末の表面に対して前処理を施して、有機物などの付着物の除去や濡れ性の改善を行ってもよい。該前処理としては、オゾン処理およびプラズマ処理などが挙げられる。
【0032】
具体的には、オゾン処理では、軟磁性粉末をオゾン濃度が5000ppmの雰囲気に10分以上暴露する。プラズマ処理では、大気圧プラズマまたは真空プラズマにて、He(ヘリウム)、Ar(アルゴン)、N2(窒素)、H2O(水)、O2(酸素)、Ne(ネオン)などのガスを用いる。
【0033】
軟磁性粉末における表面の濡れ性の指標には、水の接触角を用いる。軟磁性粉末の表面における、上記前処理後の水の接触角は15°以下とする。これにより、軟磁性粉末に対する絶縁体の密着性が向上する。なお、水の接触角は、ルーカス-ウォッシュバーンの式に基づいた浸透速度法などにより測定することができる。
【0034】
次に、軟磁性粉末の表面を絶縁体によって被覆して絶縁体被膜とする。軟磁性粉末に対する絶縁体被膜の形成方法としては、ゾル-ゲル法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、および塗布法などが挙げられる。
【0035】
ゾル-ゲル法にて上記有機アルミニウム化合物を絶縁体被膜として形成するには、例えば、以下の方法が採用可能である。複数個のアルコキシ基を有するトリメトキシアルミニウムなどのアルミニウムアルコキシドなどをアルコール中に分散させる。さらに、上記アルミニウムアルコキシドが有するアルコキシ基を水酸基に置換するために、水およびアンモニアなどの塩基性化合物を加えて撹拌する。そして、そこに軟磁性粉末を添加して撹拌することによって、軟磁性粉末の表面が上記有機アルミニウム化合物で被覆される。なお、形成された絶縁体被膜に加熱処理を施してもよい。この加熱処理は後述する工程S6の焼成温度を超えない温度で実施する。
【0036】
プラズマCVD法にて上記有機アルミニウム化合物を絶縁体被膜として形成するには、例えば、以下の方法が採用可能である。アルキルアルミニウムまたはアルミニウムアルコキシドおよびAr(アルゴン)またはHe(ヘリウム)などの希ガスの混合物と、軟磁性粉末とを、電極および撹拌機を備えたチャンバー内に導入する。次いで、軟磁性粉末を撹拌しながら、電極に0.25W/cm2以上のパワーを印可して、軟磁性粉末の表面に有機アルミニウム化合物を堆積させる。
【0037】
ALD法にて上記有機アルミニウム化合物を絶縁体被膜として形成するには、例えば、以下の方法が採用可能である。軟磁性粉末を入れた真空チャンバーの中に、アルキルアルミニウムまたはアルミニウムアルコキシドを導入し、軟磁性粉末の表面に単分子層分を堆積させる。その後、余剰のアルキルアルミニウムまたはアルミニウムアルコキシドを窒素ガスによる置換などで除外する。次いで、オゾンガスなどの酸化剤を導入して、軟磁性粉末の表面に堆積したアルキルアルミニウムまたはアルミニウムアルコキシドを酸化した後、余剰の酸化剤を窒素ガスによる置換などで除外する。そして、再度アルキルアルミニウムまたはアルミニウムアルコキシドを導入する。以上の処理を繰り返すことで、絶縁体被膜を形成する。
【0038】
塗布法にて上記有機アルミニウム化合物を絶縁体被膜として形成するには、例えば、以下の方法が採用可能である。撹拌機を備えた容器に軟磁性粉末を入れて撹拌しながら、トリメチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウムや、上述したアルミニウムアルコキシドを該容器に投入して軟磁性粉末の表面に塗布する。次いで、加熱処理を行って絶縁体被膜とする。そして工程S2へ進む。
【0039】
工程S2では、絶縁体被膜が設けられた軟磁性粉末に振動を付与する。この振動の付与によって、凝集している軟磁性粉末を解膠すると共に、各々の軟磁性粉末粒子を自転せしめる。この自転は、工程S2と、後述する、軟磁性粉末にエネルギーを付与する工程S3とを同時に行う場合に、各々の軟磁性粉末粒子がエネルギー源に対する向きを変えることを可能とする。これにより、各々の軟磁性粉末粒子の表面に偏りを抑えてエネルギーが付与されて、後述する、絶縁体における未結合手の生成を促進させることができる。
【0040】
振動の付与方法としては、凝集した軟磁性粉末が解膠され、自転を生じせしめれば特に限定されない。具体的には、音波または超音波、回転体、および気流などを利用する方法が挙げられる。
【0041】
例えば、音波を利用する方法ではウーファーなどを用い、超音波を利用する方法では超音波振動子などを用いる。回転体を利用する方法では偏心モーターや撹拌羽根などを用いてもよく、軟磁性粉末を収納した容器を回転運動させてもよい。気流を利用する方法ではドラフトチューブ付き噴流層を備えた装置などを用いる。これら振動の付与には公知の粉体処理装置などを適用してもよい。またこれらの方法のうち1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。併用例としては、例えば、軟磁性粉末に対してモーターにて横方向の振動を付与すると共に、ウーファーからの音波にて縦方向の振動を付与する方法などが挙げられる。なお、工程S2と同様にして、絶縁体被膜を形成する前の軟磁性粉末へ振動を付与してもよい。
【0042】
本実施形態では、工程S2は後段の工程S3のエネルギーを付与する工程の前に行う。また、工程S2は工程S3と同時に行っても良い。これによれば、軟磁性粉末が解膠されると共に、振動によって軟磁性粉末の少なくとも一部に自転が生じる。すなわち、軟磁性粉末が位置を変えながらエネルギーが付与される。そのため、軟磁性粉末の各々の表面に偏りを抑えてエネルギーが付与され、絶縁体における分子鎖の分断を促進させることができる。さらに、工程S2と同様にして、絶縁体被膜を形成する前の軟磁性粉末へ振動を付与してもよい。そして工程S3へ進む。
【0043】
工程S3では、アルミニウム-酸素結合を有する有機アルミニウム化合物を含む絶縁体で被覆された軟磁性粉末の表面にエネルギーを付与する。エネルギーの付与方法としては、絶縁体を構成する分子鎖の一部が分断されて未結合手が生成されれば特に限定されない。具体的には、プラズマ処理、オゾン処理、および紫外線照射処理などが挙げられる。
【0044】
絶縁体が上記の有機化合物である場合には、エネルギーの付与によって、分子構造中に側鎖や置換基として有する有機基が脱離されて該有機基が分解されることが好ましい。これによれば、絶縁体において、有機基の少なくとも一部が排除されて有機物が低減される。そのため、後段の工程S6における成形体の焼成時に有機物の焼散が容易になり、焼成温度を低くすることができる。また、圧粉磁心1中に有機物が残存し難くなるため、圧粉磁心の熱による経年劣化を抑えることができる。
【0045】
本実施形態において絶縁体に用いる上記有機アルミニウム化合物は、エネルギーの付与によって側鎖などの有機基が分断されて未結合手が生じる。分断された有機基は、エネルギーの付与によって分解されてもよく、二酸化炭素、水およびメチルアルコールなどとなって系から排出されてもよい。
【0046】
本実施形態では、エネルギーの付与として、軟磁性粉末を電離気体またはオゾンガスに曝す方法を用いる。電離気体に曝すプラズマ処理、およびオゾンガスに曝すオゾン処理によって、上述した未結合手が生成される。
【0047】
プラズマ処理では、処理ガスとして、例えば、Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)などの希ガス、N2(窒素)、O2(酸素)、空気およびこれらの気体に水を添加したもの、および水単独などが挙げられる。プラズマ処理は大気圧プラズマまたは真空プラズマとし、処理圧は大気圧から1Paまでとすることが好ましい。これより高真空であってもプラズマ処理は可能であるが、処理に供される元素の量が少ないため処理効率が低くなる。なお、大気圧プラズマを用いる場合または処理ガスに水分が含まれる場合には、絶縁体における未結合手の生成に加えて、水分と未結合手とから水酸基が形成されてもよい。
【0048】
プラズマ処理は、直流放電としてもよく、周波数が2.45GHz以下の交流放電としてもよい。高周波を印可する場合には、軟磁性粉末が誘導加熱されるため、処理チャンバーの外部にプラズマ源を備えるリモートプラズマ方式を採用する。また、処理周波数が10kHz以下の場合には、軟磁性粉末における誘導加熱が軽微であるため、処理チャンバー内での直接放電としてもよい。
【0049】
オゾン処理では、軟磁性粉末をオゾン濃度が5000ppm以上の雰囲気に10分以上暴露する。そして工程S4へ進む。
【0050】
工程S4では、エネルギーが付与された軟磁性粉末を、大気圧下露点-30℃以上15℃以下の雰囲気に暴露する。暴露する大気圧下露点は、好ましくは-20℃以上0℃以下である。これにより、軟磁性粉末に生成された未結合手に雰囲気中の水分が作用して、未結合手と水分とから水酸基が形成される。水酸基の形成は、絶縁体の内部よりも表面で顕著に進行する。大気圧下露点が上記の範囲であることによって、水酸基の形成が促進されると共に結露を防止することができる。なお、絶縁体に生成された未結合手の全てが水酸基となる必要はない。そして工程S5へ進む。
【0051】
工程S5では、上記雰囲気下へ暴露された軟磁性粉末から成形体を形成する。工程S5は所謂圧粉と呼ばれる工程である。軟磁性粉末が成形される際に、隣接する軟磁性粉末の間で、水酸基同士が水素結合を形成し、未結合手同士が共有結合を形成する。成形体の形状は、圧粉磁心1の用途に合わせてリング状、棒状および立方体などの所望の形状とする。また、成形体中にコイル状の導線などを包埋してもよい。
【0052】
圧粉磁心1の形状に応じた型を用い、20MPa以上400MPa以下の押圧で軟磁性粉末から成形体を形成する。好ましい押圧は、350MPa以上250MPa以下である。このように、圧粉時の圧縮応力である押圧を従来と比べて低くしても、隣接する軟磁性粉末の間で水素結合や共有結合が形成されて成形体の形状が維持される。これにより、圧粉時の加工歪の発生が抑制される。
【0053】
本実施形態では、絶縁体の形成材料にアルミニウム-酸素結合を有する有機アルミニウム化合物を用いることから、絶縁体のアルミノール基同士から水素結合が形成される。また、Al原子に未結合手が生じた構造とO原子側に未結合手が生じたAl-O構造とから、アルミノキサン結合(Al-O-Al構造)が形成される。そして工程S6へ進む。
【0054】
工程S6では、成形体を100℃以上400℃以下の温度で焼成する。成形体の焼成温度は、好ましくは120℃以上250℃以下である。焼成の時間は、特に限定されないが、例えば0.5時間以上5.0時間以下とする。これによれば、絶縁体のアルミノール基同士の脱水縮合反応によってアルミノキサン結合が形成されて、隣接する軟磁性粉末同士が強固に結び付く。また、焼成によって成形体中の不要な有機物などが排除される。さらに、焼成温度が比較的に低いことから、軟磁性粉末がアモルファス相を含む場合に、アモルファス相の結晶化が抑えられる。
【0055】
本実施形態の圧粉磁心1は、以上の工程を経て製造される。本実施形態の圧粉磁心1は、トロイダルコイル、インダクター、リアクトル、トランス、モーター、ジェネレーターなどの磁心、およびアンテナ、電磁波吸収体などの磁心以外の磁性素子に好適に用いられる。
【0056】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0057】
圧粉磁心1における加工歪の発生を抑制して、鉄損を低減することができる。詳しくは、エネルギーの付与によって、絶縁体を構成する分子鎖の一部が分断されて未結合手が生じる。そして、所定の湿気を含む雰囲気に暴露されることにより、未結合手と水分とから水酸基が形成される。水酸基の形成は、軟磁性粉末を被覆する絶縁体の内部よりも表面で顕著に起こる。本実施形態の絶縁体はアルミニウム-酸素結合を有する有機アルミニウム化合物であるため、水酸基を有するアルミノール基が形成される。
【0058】
水酸基同士では水素結合が形成されるため、隣接する軟磁性粉末同士が水素結合によって結び付く。また、水酸基同士の脱水縮合反応による共有結合や、未結合手同士の共有結合によっても、隣接する軟磁性粉末同士が結び付く。これらの結合が形成されるため、従来よりも低い圧縮応力で押圧しても、軟磁性粉末同士が結び付いて成形体の形状が維持され易くなる。そのため、圧粉時の圧縮応力が低く抑えられて加工歪の発生が抑制され、ヒステリシス損を低減することができる。
【0059】
また、圧粉磁心1において、隣接する軟磁性粉末同士の間には絶縁体13a,13bなどの絶縁体が介在する。これらの絶縁体被膜はアルミノキサン結合を有するためインピーダンスが比較的に高く、圧粉磁心1の渦電流損を低減することができる。さらに、印加周波数50kHzにおける鉄損が比較的に低く抑えられてもいる。これらにより、ヒステリシス損および渦電流損の両方、すなわち鉄損が低減される、圧粉磁心1および圧粉磁心1の製造方法を提供することができる。
【0060】
振動の付与によって凝集している軟磁性粉末が解膠されるため、軟磁性粉末の各々の表面に偏りを抑えてエネルギーが付与される。これにより、絶縁体における分子鎖の分断を促進させることができる。
【0061】
電離気体またはオゾンガスによって絶縁体表面の分子鎖を分断することができる。また、気体によってエネルギーが付与されるため、集められた軟磁性粉末の内部まで該気体を回り込ませることが可能となる。これにより、軟磁性粉末の表面の四方からエネルギーが付与され、軟磁性粉末の表面における位置的な偏りを抑えて分子鎖を分断することができる。
【0062】
軟磁性粉末がアモルファス粉末またはヘテロアモルファス粉末である場合や、ナノ結晶粉末である場合のように、軟磁性粉末がアモルファス相を含むことによって、軟磁性粉末の保磁力が小さくなりヒステリシス損が低減される。また、従来の圧粉磁心の製造方法では、軟磁性粉末にアモルファス相が含まれると、加熱によってアモルファス相に結晶化が起こってヒステリシス損が増大し易かった。特に、圧粉時に用いるバインダーの流動化や焼散のための加熱処理において、上記結晶化が助長される傾向があった。これに対して、本実施形態では、加工歪の発生が抑制されると共に、バインダーを用いない。そのため、上記加熱処理が不要となってアモルファス相の結晶化が抑えられ、ヒステリシス損の増大を抑えることができる。
【0063】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る圧粉磁心の製造方法について説明する。本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、第1実施形態の圧粉磁心1の製造方法に対して、エネルギーの付与と所定雰囲気下への暴露とを同時に行うものである。この点以外は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同一の構成については重複する説明は省略する。なお、以下の説明では便宜上、
図2を参照することとする。
【0064】
本実施形態の圧粉磁心の製造方法では、エネルギーを付与する工程と、軟磁性粉末を所定雰囲気下に暴露する工程とが同時に行われる。すなわち、
図2に示した工程フローにおいて、工程S3と工程S4とを並行して実施する。具体的には、軟磁性粉末に対して、第1実施形態で例示したプラズマ処理、オゾン処理、および紫外線照射処理などを、大気圧下露点-30℃以上15℃以下の雰囲気中で実施する。本実施形態では、エネルギーの付与方法として第1実施形態と同様な方法を採用すると共に、上記雰囲気中にて行う。
【0065】
上述した以外の工程は、第1実施形態の圧粉磁心1の製造方法と同様に実施して、本実施形態の圧粉磁心が製造される。本実施形態によれば、第1実施形態における効果に加えて以下の効果を得ることができる。
【0066】
絶縁体における分子鎖の分断と水酸基の形成とが並行して進むため、水酸基を有するアルミノール基の形成を促進することができる。また、圧粉磁心の製造に要する時間を短縮することができる。
【0067】
3.第3実施形態
第3実施形態に係る圧粉磁心の製造方法について説明する。本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、第1実施形態の圧粉磁心1の製造方法に対して、振動の付与とエネルギーの付与とを同時に行うと共に、エネルギーの付与方法を異ならせたものである。これらの点以外は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同一の構成については重複する説明は省略する。なお、以下の説明では便宜上、
図2を参照することとする。
【0068】
本実施形態の圧粉磁心の製造方法では、エネルギーを付与する工程において、軟磁性粉末にエネルギーと同時に振動を付与する。すなわち、
図2に示した工程フローにおいて、工程S2と工程S3とを並行して実施する。振動の付与方法としては、上述した方法を用いる。
【0069】
具体的には、工程S2として、上述した方法にて振動を付与すると同時に、工程S3のエネルギーの付与として、紫外線を軟磁性粉末に照射する。紫外線源として、紫外線ランプ、紫外線発光ダイオード、およびエキシマランプなどを用いる。軟磁性粉末に紫外線を照射する雰囲気は、例えば、空気、酸素、または窒素とする。照射する紫外線の波長は、絶縁体における未結合手の生成が可能であれば特に限定されないが、例えば100nm以上360nm以下である。紫外線を照射する時間は、絶縁体の形成材料の種類、および照射する紫外線の波長などに応じて適宜調節する。なお、振動と同時に付与されるエネルギーは紫外線に限定されない。
【0070】
上述した以外の工程は、第1実施形態の圧粉磁心1の製造方法と同様に実施して、本実施形態の圧粉磁心が製造される。本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
【0071】
振動とエネルギーとを同時に付与することによって、軟磁性粉末の解膠および自転と未結合手の生成とが並行して進行する。すなわち、軟磁性粉末の各々の表面に偏りを抑えてエネルギーが付与される。これにより、絶縁体における分子鎖の分断を促進させることができる。また、紫外線照射処理は、プラズマ処理やオゾン処理と比べて装置が簡便であるため、振動の付与と同時に行うことが容易となる。
【0072】
4.実施例および比較例
以下、実施例および比較例を示して、本発明の効果をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されない。
【0073】
4.1.評価用圧粉磁心の製造
実施例1から実施例7、および比較例1から比較例4の圧粉磁心を製造した。以下、具体的な製造方法について説明する。なお、実施例1から実施例7を総称して単に実施例ともいい、比較例1から比較例4を総称して単に比較例ともいう。実施例および比較例の軟磁性粉末について、その形成材料、平均粒子径、後述する熱処理の有無、絶縁体被膜の有無、および鉄損の評価結果について表1に記載した。なお、実施例の軟磁性粉末には絶縁体被膜を設け、比較例の軟磁性粉末には絶縁体被膜を設けない。
【0074】
【0075】
表1に示すように、実施例1の軟磁性粉末の形成材料には、アトマイズ法で製造したFe-Ni系合金のFe-50Ni粉末を用いた。該粉末の平均粒子径は、上述の方法で測定した結果、24μmであった。
【0076】
該粉末に対して、ALD法にてトリメトキシアルミニウムを絶縁体として被覆した。詳しくは、以下の様にして絶縁体被膜を形成した。まず、0.1Pa、85℃に設定した真空チャンバーの中に上記粉末を入れ、トリメトキシアルミニウムを流量100sccmで1分間導入した。その後、窒素ガスを流量100sccmで3分間導入し、トリメトキシアルミニウムを置換した。次に、オゾンを流量500sccmで1分間導入した後、窒素ガスを流量100sccmで3分間導入して置換を行った。上記トリメトキシアルミニウムの導入および置換とオゾンの導入および置換を40回繰り返し、絶縁体被膜を堆積させた。該絶縁体被膜の膜厚は、上述の方法で測定した結果、約4nmであった。
【0077】
次に、絶縁体被膜を形成した軟磁性粉末に対して、振動およびエネルギーを同時に付与した。詳しくは、石英窓を備えた真空チャンバー内に、開口を有する回転ドラム装置を設置した。回転ドラム装置に上記軟磁性粉末を投入して真空チャンバー内を10Paの真空とした。回転ドラム装置を約30rpmで回転させて上記軟磁性粉末に振動を付与した。それと共に、真空チャンバーの外側から、真空チャンバーの石英窓および回転ドラムの開口を介して、上記軟磁性粉末にエキシマランプにて紫外線を照射した。紫外線の波長は172nmとした。以上の処理を約6分間実施した。
【0078】
次に、上記真空チャンバー内を大気圧下露点-10℃の窒素ガス雰囲気とした。そして、振動およびエネルギーが付与された上記軟磁性粉末を、該雰囲気に約10分間暴露した。
【0079】
次に、上記処理を施した軟磁性粉末から成形体を形成した。具体的には、該磁性粉末を、300MPaの押圧にて外径φ28mm、内径14mm、厚さ11mmのリング状にプレス成形した。その後、空気中にて200℃で3時間の焼成を施した。これにより、実施例1の圧粉磁心であるトロイダルコアを得た。次いで、該トロイダルコアに対して、絶縁性の樹脂で被覆された線径0.5mmの銅線を、一次側および二次側共に巻き数30で巻き回して実施例1のトロイダルコイルとした。
【0080】
実施例2では、軟磁性粉末の形成材料であるFe-50Ni粉末に熱処理を施した。具体的には、酸素濃度が約80ppmの窒素ガス雰囲気下にて、該粉末に800℃で4時間の加熱を施した。窒素ガス中の微量な酸素によって上記粉末の表面に酸化膜が形成された。上記熱処理を施した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0081】
実施例3の軟磁性粉末の形成材料には、Fe-Si-Al系合金のFe-5.5Al-9.5Si粉末を用いた。該粉末の平均粒子径は、実施例1と同様に測定した結果、36μmであった。軟磁性粉末の形成材料を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0082】
実施例4では、軟磁性粉末の形成材料として実施例3と同様なFe-5.5Al-9.5Si粉末を用いた以外は、実施例2と同様に、実施例4の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0083】
実施例5の軟磁性粉末の形成材料には、Fe-Cr-Al系合金のFe-4Al-1Cr粉末を用いた。該粉末の平均粒子径は、実施例1と同様に測定した結果、13μmであった。軟磁性粉末の形成材料を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0084】
実施例6では、軟磁性粉末の形成材料として実施例5と同様なFe-4Al-1Cr粉末を用いた以外は、実施例2と同様に、実施例6の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0085】
実施例7の軟磁性粉末の形成材料には、Fe-Si-B-Mn-C系合金のFe-12Si-10B-3Mn-1C粉末を用いた。該粉末の平均粒子径は、実施例1と同様に測定した結果、82μmであった。軟磁性粉末の形成材料を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。なお、Fe-12Si-10B-3Mn-1C粉末は、アモルファス粉末でありアモルファス相を含む。
【0086】
比較例1の軟磁性粉末の形成材料には、実施例1と同様なFe-50Ni粉末を用いた。比較例の軟磁性粉末では絶縁体被膜を形成しないため、該粉末そのものから圧粉磁心を製造した。
【0087】
まず、該粉末に対して、樹脂バインダーとしてエポキシ系樹脂のトルエン溶液を、エポキシ系樹脂の固形分量で2.0質量%の添加量となるよう添加した。これを混合して乾燥させて塊状物とした。該塊状物を粉砕してから、目開き600μmのふるいにて粗大粒子を取り除いて造粒粉末とした。その後、該造粒粉末を、2GPaの押圧にて実施例1と同形のリング状にプレス成形した。その後、空気中にて450℃で30分間の焼成を施した。これにより、比較例1の圧粉磁心であるトロイダルコアを得た。次いで、該トロイダルコアに対して、実施例1と同様にして銅線を巻き回して比較例1のトロイダルコイルとした。
【0088】
比較例2の軟磁性粉末の形成材料には、実施例3と同様なFe-5.5Al-9.5Si粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例2の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0089】
比較例3の軟磁性粉末の形成材料には、実施例5と同様なFe-4Al-1Cr粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例3の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0090】
比較例4の軟磁性粉末の形成材料には、実施例7と同様なFe-12Si-10B-3Mn-1C粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例4の圧粉磁心およびトロイダルコイルを製造した。
【0091】
4.2.圧粉磁心の評価
実施例および比較例の圧粉磁心の鉄損を評価した。具体的には、実施例および比較例のトロイダルコイルについて、最大磁束密度50mT、周波数50kHzにて鉄損であるコアロスを測定した。得られたコアロスの値について、以下の評価基準に従って評価し、その結果を表1に記載した。
AAA:コアロス値が5kW/m3以上60kW/m3未満である。
AA :コアロス値が60kW/m3以上200kW/m3未満である。
A :コアロス値が200kW/m3以上230kW/m3未満である。
B :コアロス値が230kW/m3以上270kW/m3未満である。
C :コアロス値が270kW/m3以上である。
【0092】
表1に示したように、実施例の圧粉磁心では全ての水準が、可に相当するB評価以上となった。特に、実施例3および実施例4以外の実施例では、優に相当するA評価以上となった。一方、比較例の圧粉磁心は、比較例4以外で不可に相当するC評価となり、同様な軟磁性粉末の形成材料を用いた実施例に対して、鉄損が増大することが分かった。
【0093】
比較例4の圧粉磁心は、AA評価となったものの、同様な軟磁性粉末の形成材料を用いた実施例7と比較して鉄損が増大している。これは、実施例7に対して、焼成温度が高いため、アモルファス相の結晶化が進行した点、および絶縁体被膜を有しない点が影響していると考察される。
【0094】
これに加えて、比較例4の軟磁性粉末は、平均粒子径が他の水準よりも大きいことから、成形体を形成する際の成形性の低下という問題が生じやすい。また、それに起因して、高周波数側で渦電流損が増大し易くなって鉄損が増大するという弊害が起こり易い。これらの結果から、実施例の圧粉磁心は、比較例の圧粉磁心に対して鉄損が低減されることが示された。
【符号の説明】
【0095】
1…圧粉磁心、11a…軟磁性粉末の一粒子である粒子、11b…軟磁性粉末の他の粒子である粒子、13a,13b…絶縁体。