(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】引抜き抵抗力の評価方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/48 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
E02D5/48
(21)【出願番号】P 2020071521
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直子
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特許第4856903(JP,B2)
【文献】特開2011-174251(JP,A)
【文献】特開2006-348578(JP,A)
【文献】特開2006-322256(JP,A)
【文献】特開2006-322257(JP,A)
【文献】特開2002-021070(JP,A)
【文献】特開2016-125271(JP,A)
【文献】鈴木直子 外3名,拡底杭・節付き杭の鉛直荷重~変位の関係と抵抗力の評価,日本建築学会構造系論文集,第75巻、第656号,日本,日本建築学会,2010年10月,pp.1847-1856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、該軸部に設けた節部とを備える節付き杭の、引抜き時における前記節部の引抜き抵抗力を評価するための、引抜き抵抗力の評価方法であって、
前記節付き杭に引抜き力が作用した際の、前記節部の周辺地盤における地中応力の影響範囲を推定する推定工程と、
前記地中応力の影響範囲と前記節部の根入れ長とを比較し、前記地中応力の影響範囲が地表面に達するか否かを検証する検証工程と、
前記地中応力の影響範囲が地表面に達する場合に、前記節部の引抜き抵抗力を、
前記節部から地表面にかけて発生する破壊面と前記節付き杭の軸部との間の土塊の重量と、該土塊
の重量と前記破壊面のせん断抵抗に基づいて
算定する評価工程と、
を備えることを特徴とする引抜き抵抗力の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の引抜き抵抗力の評価方法において、
前記評価工程では、前記破壊面が円筒形状を想定して算出した引抜き抵抗力と、コーン状を推定した算出した引抜き抵抗力とを比較し、
数値の小さい方を前記節部の引抜き抵抗力として採用することを特徴とする引抜き抵抗力の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、節付き杭の引抜き時に負担する節部の引抜き抵抗力を評価するための、引抜き抵抗力の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の大型化及び高層化に対応する基礎杭として、杭長の長大化を抑えつつ高い鉛直支持力を確保することの可能な節付き杭を採用する場合が多い。例えば特許文献1で示すように、節付き杭には、鉛直支持力を増大させるため、軸部の下端部に拡底部を有するとともに、軸部の中間部に1つもしくは複数の節部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
節付き杭に設けられた節部は、鉛直支持力だけでなく引抜き抵抗力を負担可能であるが、その根入れ長によって負担できる引抜き抵抗力が異なる。具体的には、節付き杭に所定の引抜き力が作用されると、節部の根入れ長が十分確保されている場合、もしくは節部全体が硬質な中間層や支持層等に埋設されている場合には、節部が地盤中で引抜き力に抵抗し続け、長期にわたって引抜き抵抗力を負担する。
【0005】
一方、節部の根入れ長が浅い場合には、節部が地盤中で引抜き力に抵抗するものの、地盤中に節部から地表面に達する破壊面が発生し、引抜き抵抗力を失う。このように、根入れ長の浅い節部は、地盤に破壊面が発生するまで引抜き抵抗力を有しているにもかかわらず、設計に反映させない場合が多い。
【0006】
このため、節付き杭に引抜き抵抗力を要求される場合には、その大小によらず節部を根入れ長が十分確保できる深度位置に設けるよう設計するなど、施工性および経済性の面で不利な設計計画となっていた。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、場所打ちコンクリート造の節付き杭において、節部の引抜き抵抗力を適切に評価することの可能な、引抜き抵抗力の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の引抜き抵抗力の評価方法は、軸部と、該軸部に設けた節部とを備える節付き杭の、引抜き時における前記節部の引抜き抵抗力を評価するための、引抜き抵抗力の評価方法であって、前記節付き杭に引抜き力が作用した際の、前記節部の周辺地盤における地中応力の影響範囲を推定する推定工程と、前記地中応力の影響範囲と前記節部の根入れ長とを比較し、前記地中応力の影響範囲が地表面に達するか否かを検証する検証工程と、前記地中応力の影響範囲が地表面に達する場合に、前記節部の引抜き抵抗力を、前記節部から地表面にかけて発生する破壊面と前記節付き杭の軸部との間の土塊の重量と、該土塊の重量と前記破壊面のせん断抵抗に基づいて算定する評価工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の引抜き抵抗力の評価方法は、前記評価工程では、前記破壊面が円筒形状を想定して算出した引抜き抵抗力と、コーン状を推定した算出した引抜き抵抗力とを比較し、数値の小さい方を前記節部の引抜き抵抗力として採用することを特徴とする。
【0010】
本発明の引抜き抵抗力の評価方法によれば、節部の根入れ長と地中応力の影響範囲に基づいて地中応力の影響範囲が地表面に達するか否かを検証し、検証した結果に基づいて節部の引抜き抵抗力を適切に評価することができる。これにより、従来では引抜き抵抗力を設計に考慮していなかった根入れ長の浅い節部について、鉛直支持力だけでなく引抜き抵抗力を併せて設計に反映することが可能となる。
【0011】
また、節部を、節つき杭に作用する引抜き力に抵抗することを目的として設ける場合に、節部の根入れ長を、要求される引抜き抵抗力の大きさに応じて設定でき、安全性と経済性を兼ね備えた合理的な節付き杭の設計を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、場所打ちコンクリート造の節付き杭に設ける節部の引抜き抵抗力を適切に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態における節付き杭の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における節付き杭に設けた節部の詳細を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における節部の上向き円錐台部を表層に根入れした節付き杭を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における節部の根入れ長と地中応力の影響範囲を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における節部における引抜き抵抗力の評価方法の流れを示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における模型杭の引抜き実験の様子を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態における模型杭の引抜き実験より得た杭頭変位と杭頭荷重の関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態における節付き杭の引抜き抵抗機構及び破壊形態をす図である。
【
図9】本発明の実施の形態における(地中応力の影響長さLs/突出幅Dn)と拡径比Dcとの関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施の形態における地盤に破壊面が発生した際に節部の直上に形成される土塊を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、場所打ちコンクリート造の節付き杭について、節付き杭の引抜き時に節部が負担する引抜き抵抗力を評価するものである。以下に、
図1~10を参照しつつ、節付き杭における引抜き抵抗力の評価方法の詳細を説明する。
【0015】
図1(a)(b)で示すように、建物を支持する節付き杭1は、支持層G3に到達する杭長を有し、軸部2と、軸部2の下端に設けられる拡底部3と、軸部2の中間部に設けられる節部4とを備える。
【0016】
節部4は、
図2で示すように、軸部2より径の大きい円筒部41と、円筒部41の上側に位置する上向き円錐台部42と、円筒部41の下側に位置する下向き円錐台部43とを組み合わせた形状を有している。
【0017】
このような形状の節部4は、
図1(a)(b)で示すように、少なくとも下向き円錐台部43が支持層G3中もしくは砂礫層等の中間層G2に根入れされており、節付き杭1に押込み力が作用された場合には、拡底部3と節部4とでこれに抵抗する。一方、節付き杭1に引抜き力が作用された場合には、節部4の上向き円錐台部42が地盤中でどのように埋設されているかにより、その引抜き抵抗機構が異なる。
【0018】
例えば、
図3で示すような、節部4の上向き円錐台部42が表層G1に設けられている状態において、節部4の根入れ長Hが十分確保されている場合、節部4近傍の地盤に破壊が生じることなく常時、節部4は地盤中で引抜き力に抵抗する。
【0019】
節部4の根入れ長Hが十分確保された場合とは、
図4(a)で示すように、節付き杭1に引抜き力が作用されて上向き円錐台部42が地盤を押圧した際に、地中応力の影響範囲Aが地盤内に収まる場合をいう。なお、地中応力の影響範囲Aとは、上向き円錐台部42が地盤を押圧した際の支圧効果が及ぶ範囲を指す。
【0020】
一方、節部4の根入れ長Hが十分でない、つまり
図4(b)で示すような、地中応力の影響範囲Aが地盤内に収まらない場合には、節部4は地盤中で引抜き力に抵抗するものの、やがて
図10(a)(b)で示すように、地盤に地表面に達する破壊面Fsが発生して、抵抗する力は失われていく。つまり、根入れ長Hが十分でない節部4であっても、地盤に破壊面Fsが発生するまでの期間は、引抜き抵抗力を負担する。
【0021】
<模型杭を用いた引抜き実験>
上記の節付き杭1に引抜き力が作用した際の節部4の引抜き抵抗機構(地中応力の影響範囲が地表面に到達するか否か)と、根入れ長Hが浅い場合に、節部4の周辺地盤に発生する破壊形態(破壊面Fsの形状)を確認するべく、以下のような実験を行った。
【0022】
実験は、
図6(a)~(c)で示すように、半割の模型杭1’を使って遠心力模型実験を実施し、引抜き時の節部4’の抵抗機構を確認した。地盤材料には乾燥した豊浦砂を採用し、容器内で所定の相対密度の模型地盤G’を作成した。
【0023】
一方、模型杭1’の寸法は、
図2を参照し、軸部径D0=48mm、節部径D=68mm、節部突出幅Dn=10mm、上部傾斜角θn=20°とした。この模型杭1’を、
図6(a)~(c)で示すような3通り(Case1~Case3)の根入れ長Hで模型地盤G’に貫入した。
【0024】
Case1は、根入れ長H=20Dnに設定され、節部4の根入れ長Hが十分な場合に相当する(比較例)。一方、Case2及びCase3は、節部4の根入れ長Hが浅い場合に相当し、Case2は、根入れ長H=12Dnに設定され、Case3は、根入れ長H=6Dnに設定されている。なお、模型杭1’には、杭頭部に変位計DGを設置している。
【0025】
このような模型杭1’を模型地盤G’に埋設したのち、模型杭1’に引抜き力を作用させたところ、変位計DGの計測結果から、
図7で示すような、杭頭変位と杭頭荷重の関係を得た。また、
図8(a)~(c)は、これらCase1~Case3について、模型杭1’の周辺地盤における変位を画像解析によりコンターで表したものである。
【0026】
図8(a)の節部4を十分に根入れしたCase1では、節部4近傍の模型地盤G’中に地表面に達するような破壊面は認められない。
図7をみると、杭頭変位が増加するに伴って杭頭荷重も増加しており、常時節部4が引抜き力に抵抗している様子がわかる。
【0027】
図8(b)(c)の根入れ長Hが十分ではないCase2およびCase3ではいずれも、節部4近傍の模型地盤G’中に地表面まで到達する破壊面Fsが形成されている。
図7をみると、Case1より根入れ長Hの浅いCase2では、杭頭変位が増加するに伴って杭頭荷重が徐々に低下し、節部4が引抜き力に抵抗する力を徐々に失われていく様子がわかる。
【0028】
また、最も根入れ長Hの浅いCase3では、杭頭変位が小さい時点で杭頭荷重が低下し、その後横ばいとなっている。つまり、模型杭1’に引抜き力を作用させた後の早い時点で、節部4が引抜き力に抵抗する力を失っている様子がわかる。
【0029】
さらに、根入れ長Hが浅い場合の破壊形態を見ると、Case2では、節部4近傍の模型地盤G’中に、円筒状の破壊面Fsを生じている。そして、Case3では、節部4’近傍の模型地盤G’中に、コーン状の破壊面Fsが生じている様子が見てとれる。
【0030】
上記の実験結果から、節付き杭1の引抜き時における節部Aの引抜き抵抗機構(を検証し、この検証結果に基づいて選択した最適な評価式を用いて、節部4の引抜き抵抗力を評価することとした。
【0031】
≪≪引抜き抵抗力の評価方法≫≫
以下に、節付き杭1に設けた節部4による引抜き抵抗力を評価する手順を、
図5のフローを参照しつつ説明する。
【0032】
≪節付き杭の寸法確認:STEP1≫
まず、節付き杭1の寸法を確認する。具体的には、
図2で示すように、軸部径D0、節部径D、軸部2に対する節部4の突出幅Dn、節上部角度θn、及び節部4の根入れ長Hを確認する。
【0033】
ここで、突出幅Dnは、節部径Dと軸部径D0との差の1/2であり、節上部角度θnは、節付き杭1を縦方向に半割した際の上向き円錐台部42の傾斜面と軸部2の外周面とにより形成される内角である。また、節部径Dを軸部径D0で除することにより算定される拡径比Dcを算定しておくと良い。
【0034】
≪地中応力の影響範囲の推定及び検証:STEP2≫
次に、節付き杭1に引抜き力が作用した際の節部4の引抜き抵抗機構を推定するべく、節部4の周辺地盤における地中応力の影響範囲Aと節部4の根入れ長Hとを比較し、地中応力の影響範囲Aが地盤中に収まるか否かを検証する。
【0035】
<地中応力の影響長さLsの推定方法>
比較するにあたって本実施の形態では、地中応力の影響長さLsを採用する。地中応力の影響長さLsは、
図4(a)(b)で示すように、地中応力の影響範囲Aにおける鉛直方向の最長部に相当する。この地中応力の影響長さLsについて、発明者は以下の解析に基づいて、(地中応力の影響長さLs/突出幅Dn)と拡径比Dcとの間に、
図9(a)で示すような関係があることを見出した。
【0036】
解析は、
図9(b)で示すような、拡径比D0の異なる4種類の節付き杭1が固結シルト中に埋設されている場合を想定し、節付き杭1における引抜き時の挙動についてFEMによるシミュレーション解析を行った。なお、上向き円錐台部42における傾斜面の極限摩擦力度は、無限大と仮定している。
【0037】
まず、節付き杭1に引抜き力を作用させ、節付き杭1の変位が節部径Dの10%に達するときの節部4周辺地盤に生じる地盤の鉛直応力分布を求めた。次に、この分布に基づいて、鉛直応力が節部4の支圧力度の10%に低下する位置までの距離を求め、この距離を地中応力の影響長さLsとした。
【0038】
その結果、拡径比Dcが大きいほど地盤に対する節部4の載荷面積が大きくなり、地中応力の影響範囲Aが広くなる傾向が認められた。そこで、地中応力の影響長さLsを突出幅Dnで除した値と、拡径比Dcとの関係をプロットしたところ、
図9(a)で示すように、地中応力の影響長さLsを突出幅Dnで除した値は、拡径比Dcの増加に伴って減少し、ある一定値に収束することを見出した。
【0039】
この解析結果に基づき回帰分析を行って近似曲線を作成し、この近所曲線に、STEP1で確認した節付き杭1の突出幅Dn及び拡径比Dcを代入することにより、節付き杭1各々に対応した地中応力の影響長さLsを推定することとした。
【0040】
こうして推定した地中応力の影響長さLsと節部4の根入れ長Hとを比較して、地中応力の影響範囲Aが地盤内に収まるか否かを検証する。
【0041】
≪引抜き抵抗力の評価工程:STEP3-1≫
図4(a)で示すように、根入れ長Hが地中応力の影響長さLsより長い場合、地中応力の影響範囲Aは地盤内に収まる。つまり、節付き杭1の引抜き時において、節部4がこれに抵抗する際、節部4近傍の地盤に節部4から地表面に到達するような破壊は発生しないものと推定できる。
【0042】
したがって、従来より節部4の根入れ長Hが十分確保されている場合に採用されている評価式を適宜採用し、節部4の引抜き抵抗力F(Fa)を算定すればよい。なお、引抜き抵抗力F(Fa)は、例えば以下の(1)式により算定できる。
【0043】
事例として挙げる(1)式は、節部4における円筒部41の最外縁より鉛直上方向に、円筒面状のせん断面が形成されることを想定している。そして、このせん断面付近の地盤の極限せん断抵抗力度に基づいて、節部4が負担する引抜抵抗力F(Fa)を評価する方法である。なお、(1)式の詳細は、特許4856903号公報に譲る。
【0044】
Fa=fsi×ANP・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ANP:せん断力を受ける円筒面の面積(m2)
fsi:せん断面付近の地盤の極限せん断抵抗力度(kN/m2)
【0045】
≪引抜き抵抗力の評価工程:STEP3-2≫
一方、地中応力の影響長さLsが根入れ長Hより長い場合、地中応力の影響範囲Aが地盤内に収まらず、地表面に到達する。つまり、節付き杭1の引抜き時において、節部4がこれに抵抗する際、節部4近傍の地盤に節部4から地表面に到達するような破壊面Fsが発生するものと推定できる。
【0046】
したがって、節部4の引抜き抵抗力Fは、破壊面Fsが形成されたことにより節部4上に形成された抵抗土塊の重量と、抵抗土塊と破壊面Frのせん断抵抗力との和となる。ところで、前述した模型杭を用いた引抜き実験により、節部4から地表面に達する破壊面Fsが発生した際の破壊形態は、
図6(b)(c)で示すように、円筒形状もしくはコーン状の2通りがある。
【0047】
したがって、地中応力の影響範囲Aが地表面に到達する場合の引抜き抵抗力Fは、
図10(a)で示すような、節部4上に節部径Dに基づく円筒形状の破壊土塊C1が形成される場合と、
図10(a)で示すような、コーン状の破壊土塊C2が形成される場合の各々で算定を行う。なお、コーン状の破壊土塊C2は、破壊面Frと軸部2と節部4の上向き円錐台部42とにより囲まれた土塊である。
【0048】
節部径Dに基づく円筒形状の破壊土塊C1を想定した場合の引抜き抵抗力F(Fr)は、以下の(2)式で算定できる。また、コーン状の破壊土塊C2を想定した場合の引抜き抵抗力F(Fc)は、以下の(3)式で算定できる。
【0049】
Fr=Wg+Rf・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
Wg:節部直上の円筒形の土塊重量 (kN)
Rf:円筒状破壊時の円筒面のせん断抵抗力 (kN)
【0050】
Fc=Wg+Fv・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
Wg:コーン状の土塊重量(kN)
Fv:コーン状破壊面のせん断抵抗力の鉛直成分 (kN)
【0051】
こうして上記の(2)式で算定した引抜き抵抗力F(Fr)と(3)式で算定した引抜き抵抗力F(Fc)とを比較し、数値の小さいものを節付き杭1の引抜き抵抗力Fとして採用する。
【0052】
上記のとおり、節部4の根入れ長Hと地中応力の影響範囲Aに基づいて地中応力の影響範囲Aが地表面に達するか否かを検証し、検証した結果に基づいて節部4の引抜き抵抗力Fを適切に評価することができる。これにより、従来では引抜き抵抗力Fを設計に考慮していなかった根入れ長Hの浅い節部4について、鉛直支持力だけでなく引抜き抵抗力を併せて設計に反映することが可能となる。
【0053】
また、節部4を、節つき杭1に作用する引抜き力に抵抗することを目的として設ける場合に、節部4の根入れ長Hを、要求される引抜き抵抗力Fの大きさに応じて設定でき、安全性と経済性を兼ね備えた合理的な節付き杭1の設計を行うことが可能となる。
【0054】
なお、本発明の引抜き抵抗力の評価方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0055】
例えば、本実施の形態では節部4について、円筒部41と上向き円錐台部42と下向き円錐台部43とを組みあわせた形状のものを採用した。しかし、その形状は、これに限定されるものではなく、いずれの形状の節部4であっても採用することが可能である。
【0056】
また、本実施の形態では、地中応力の影響長さLsを推定するにあたり、地盤が固結シルトである場合を事例に挙げて実験を行い、拡径比Dcとの関係に係る近似曲線を示した。これら近似曲線は、節部4を設ける地盤の種類に対応させて適宜同様の実験を行って作成すればよい。こうすると、地盤が固結シルトではない場合にも、地中応力の影響長さLsを推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 節付き杭
2 軸部
3 拡底部
4 節部
41 円筒部
42 上向き円錐台部
43 下向き円錐台部
G1 表層
G2 中間層
G3 支持層
C1 破壊土塊(円筒形状)
C2 破壊土塊(コーン状)
1’ 模型杭
2’ 軸部
4’ 節部
G’ 模型地盤