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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】船舶推進機
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/28 20060101AFI20240305BHJP
   B63H 20/30 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B63H20/28 100
B63H20/30 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020072402
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021169240
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206185(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110329463(CN,A)
【文献】特開昭61-184198(JP,A)
【文献】特開2010-221754(JP,A)
【文献】米国特許第05769674(US,A)
【文献】特開2002-357125(JP,A)
【文献】特開2001-263182(JP,A)
【文献】特開平03-037322(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0012649(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/28
B63H 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に推進力を与える船舶推進機であって、
動力源と、
前記動力源の動力を前記船舶の推進力に変換する推進装置と、
前記動力源の動力を前記推進装置に伝達する動力伝達機構と、
前記動力源および前記動力伝達機構を覆うケーシングと、
微小塵捕捉装置とを備え、
前記微小塵捕捉装置は、
前記ケーシングに設けられ、前記船舶推進機の周囲の水を取り込む取水口と、
前記取水口から取り込まれた水の中に含まれる微小塵を捕捉する捕捉器と、
前記捕捉器により前記微小塵の捕捉を行った後の水を排出する排水口とを備え
前記微小塵捕捉装置は、前記動力源を水により冷却する当該船舶推進機の冷却系から独立していることを特徴とする船舶推進機。
【請求項2】
アンチベンチレーションプレートを備え、
前記取水口は前記アンチベンチレーションプレートの下方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶推進機。
【請求項3】
前記取水口は前記ケーシングの前部に配置され、前方に開口していることを特徴とする請求項に記載の船舶推進機。
【請求項4】
前記排水口は、前記ケーシングにおいて、前記アンチベンチレーションプレートの上方の側部に配置されていることを特徴とする請求項2または3に記載の船舶推進機。
【請求項5】
前記捕捉器は、前記ケーシングにおいて、前記アンチベンチレーションプレートの上方に設けられ、前記ケーシングには、前記取水口から取り込まれた水を前記捕捉器へ供給する供給通路が設けられていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の船舶推進機。
【請求項6】
前記動力伝達機構は、前記船舶推進機の上部に配置された前記動力源と前記船舶推進機の下部に配置された前記推進装置との間を上下方向に伸長し、前記動力源の動力を前記推進装置に伝達するドライブシャフトを有し、
前記捕捉器は、前記ケーシングにおいて、前記ドライブシャフトの前方に設けられていることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の船舶推進機。
【請求項7】
前記捕捉器は、前記ケーシングに着脱可能なフィルタカートリッジを備え、前記フィルタカートリッジは、シート状または板状のフィルタ、および前記フィルタを支持する支持体を有していることを特徴とする請求項5または6に記載の船舶推進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機、船内外機等の船舶推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に推進力を与える船舶推進機には、船外機および船内外機等がある。下記の特許文献1には、船舶推進機の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61ー184198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、海、湖、河川等において、例えばマイクロプラスチック等の微小塵による汚染が問題となっており、このような微小塵を海、湖、河川等から回収することが望まれている。マイクロプラスチックの定義は定まっていないが、一般には、外径または最大長が5mm以下の粒子状のプラスチックを指してマイクロプラスチックと呼ぶことが多い。これに倣って、ここでは、外径または最大長が5mm以下の塵を微小塵ということとする。微小塵は、微小であること、そして、海、湖、河川等の広い領域に拡散していることから、その回収は容易でない。
【0005】
海、湖、河川等における微小塵による汚染の問題を解決すべく、本出願の発明者は、微小塵の回収に船舶推進機を利用することを考え出した。微小塵の回収に船舶推進機を利用することにより、船舶推進機が設けられた船舶の運航中に微小塵を回収することができる。そして、船舶の運航は、海、湖および河川等の至る所で行われているので、微小塵の回収に船舶推進機を利用することにより、海、湖、河川等の広い領域に拡散した微小塵の回収を推進させることができる。
【0006】
しかしながら、現時点において、微小塵を回収する機能を有する船舶推進機は知られていない。
【0007】
また、上記特許文献1に記載されているように、船舶推進機の中には、海、湖、河川等の水を冷却水として船舶推進機内に取り入れ、その水をエンジンのシリンダブロックに形成された冷却水路に流してシリンダブロックを冷却する機構を備えているものがある。このような冷却機構の中には、海、湖、河川等の水を船舶推進機内に取り入れる際に、海藻やペットボトルの蓋等の塵が水といっしょに船舶推進機内に取り込まれることを防止するために、水の取入口等にストレーナが設けられているものがある。このストレーナによれば、海藻やペットボトルの蓋等の塵を回収することができる。しかしながら、海藻やペットボトルの蓋等と比較して大幅に小さい微小塵は、ストレーナによって回収することはできない。このような冷却機構を備えた船舶推進機においては、微小塵が海、湖、河川等の水といっしょに船舶推進機内に取り込まれた場合でも、その微小塵は水と共に冷却水路を流れた後、船舶推進機から海、湖、河川等へ排出される。
【0008】
また、このような冷却機構を備えた船舶推進機において、水の取入口に、目の細かいフィルタを設け、このフィルタにより微小塵を回収する方法が考えられる。しかしながら、水の取入口に目の細かいフィルタを設けると、フィルタが抵抗となり、冷却水として用いるべき水を船舶推進機内に十分に取り入れることができなくなってしまい、冷却機構によるエンジンの冷却性能が低下してしまう。
【0009】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、微小塵を回収することができる船舶推進機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶に推進力を与える船舶推進機であって、動力源と、前記動力源の動力を前記船舶の推進力に変換する推進装置と、前記動力源の動力を前記推進装置に伝達する動力伝達機構と、前記動力源および前記動力伝達機構を覆うケーシングと、微小塵捕捉装置とを備え、前記微小塵捕捉装置は、前記ケーシングに設けられ、前記船舶推進機の周囲の水を取り込む取水口と、前記取水口から取り込まれた水の中に含まれる微小塵を捕捉する捕捉器と、前記捕捉器により前記微小塵の捕捉を行った後の水を排出する排水口とを備え、前記微小塵捕捉装置は、前記動力源を水により冷却する当該船舶推進機の冷却系から独立していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、船舶推進機により、海、湖、河川等の水に含まれる微小塵を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例の船外機を示す全体図である。
図2】本発明の実施例の船外機の上下方向中央から下部にかけての部分を前左上方から見た状態を示す斜視図である。
図3】本発明の実施例の船外機の上下方向中央から下部にかけての部分を、ドライブシャフトの軸心を通る上下前後方向に拡がる平面で切断し、その切断面を左方から見た状態を示す断面図である。
図4図3中の船外機の取水口を拡大して示す断面図である。
図5】本発明の実施例における微小塵捕捉装置を図3中の直線V-Vに沿って切断し、その切断面を上方から見た状態を示す断面図である。
図6】本発明の実施例の船外機に設けられた捕捉器のフィルタ収容部からフィルタカートリッジを分離させた状態を示す斜視図である。
図7】本発明の実施例の船外機の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の船舶推進機は、動力源と、動力源の動力を船舶の推進力に変換する推進装置と、動力源の動力を推進装置に伝達する動力伝達機構と、動力源および動力伝達機構を覆うケーシングと、微小塵捕捉装置とを備えている。また、微小塵捕捉装置は、取水口、捕捉器および排水口を備えている。取水口は、船舶推進機のケーシングに設けられ、船舶推進機の周囲の水を取り込む口である。捕捉器は、取水口から取り込まれた水の中に含まれる微小塵を捕捉する装置または器具である。排水口は、捕捉器により微小塵の捕捉を行った後の水を排出する口である。
【0014】
本発明の実施形態によれば、このような構成を有する微小塵捕捉装置により、海、湖、河川等の水に含まれている微小塵を回収することができる。船舶推進機が微小塵捕捉装置を備えているので、当該船舶推進機を取り付けた船舶の運航中に、微小塵の回収を行うことができる。したがって、例えば、当該船舶推進機を世界中に存する船舶に取り付けることにより、世界の至る所で微小塵の回収を行うことができ、微小塵の回収を推進させることができる。
【0015】
また、本実施形態における微小塵捕捉装置が有する取水口、捕捉器および排水口は、その構造上、船舶推進機の動力源を水により冷却する船舶推進機の冷却系から独立した形で船舶推進機に設けることができる。微小塵捕捉装置を船舶推進機の冷却系から独立させることで、船舶推進機の冷却系による動力源の冷却性能を低下させることなく、微小塵の回収を行うことができる。
【実施例
【0016】
本発明の船舶推進機の実施例である船外機1について図面を用いて説明する。なお、本実施例において、前(Fd)、後(Bd)、上(Ud)、下(Dd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を述べる際には、各図の右下に描いた矢印に従う。
【0017】
図1は船外機1の全体を示している。図1に示すように、船外機1は、動力源としての内燃機関2、および内燃機関2の動力を船舶の推進力に変換する推進装置としてのプロペラ3を備えている。さらに、船外機1は、内燃機関2の動力をプロペラ3に伝達する動力伝達機構として、ドライブシャフト4、ギヤ装置5、およびプロペラシャフト6を備えている。
【0018】
内燃機関2は、船外機1を船舶に取り付けたときに水面よりも上方に配置されるように、船外機1の上部に設けられている。プロペラ3は、船外機1を船舶に取り付けたときに水面下に配置されるように、船外機1の下部に設けられている。
【0019】
ドライブシャフト4は船外機1の上部から下部にかけて上下方向に伸長している。ドライブシャフト4の上端部は内燃機関2に接続されており、ドライブシャフト4は内燃機関2の動力により回転する。ドライブシャフト4の下端部は、プロペラ3の前方に設けられたギヤ装置5に接続されている。
【0020】
ギヤ装置5は、ドライブシャフト4と共に回転するドライブギヤ、ドライブギヤと噛み合い、前進操作時にドライブシャフト4の回転をプロペラシャフト6に伝達する前進ギヤ、ドライブギヤと噛み合い、後退操作時にドライブシャフト4の回転をプロペラシャフト6に伝達する後退ギヤ、および、前進操作および後退操作に応じて、前進ギヤおよび後退ギヤのうち、ドライブシャフト4の回転をプロペラシャフト6に伝達するギヤを選択するクラッチ等を有している。
【0021】
プロペラシャフト6はプロペラ3の回転シャフトであり、前後方向に伸長している。プロペラシャフト6にはプロペラ3が固定され、プロペラシャフト6の前端部はギヤ装置5に接続されている。プロペラシャフト6は前進ギヤまたは後退ギヤを介して伝達されるドライブシャフト4の回転を受けて回転する。プロペラシャフト6の回転に伴ってプロペラ3が回転する。
【0022】
さらに、船外機1は、内燃機関2および動力伝達機構を覆うケーシングとして、カウリング7、シャフトケーシング8、およびギヤケーシング9を備えている。カウリング7は、船外機1の上部に設けられ、内燃機関2を覆っている。シャフトケーシング8は、船外機1の上下方向中間部に設けられ、ドライブシャフト4を覆っている。ギヤケーシング9は、船外機1の下部に設けられ、ギヤ装置5およびプロペラシャフト6の前部を覆っている。
【0023】
また、船外機1は、操船操作を行うティラーバーハンドル11、船外機1を船舶の船体に固定するクランプブラケット12、および水面からプロペラ3への空気の流入を防ぐアンチベンチレーションプレート13を備えている。ティラーバーハンドル11は内燃機関2の前方に配置されている。クランプブラケット12は、船外機1の上部であって、内燃機関2の下方に配置されている。アンチベンチレーションプレート13は、船外機1の下部であって、プロペラ3の上方に配置されている。
【0024】
さらに、船外機1は、微小塵を捕捉する微小塵捕捉装置21を備えている。本実施例において、微小塵とは、外径または最大長が5mm以下である目視可能な塵を意味する。具体的には、微小塵とは、外径または最大長が0.1mm以上かつ5mm以下の塵を意味する。例えば、マイクロプラスチックは微小塵に当たる。微小塵捕捉装置21は、船外機1の上下方向中央よりもやや下側の位置に配置されている。微小塵捕捉装置21の上下方向に位置は、微小塵捕捉装置21の上部が水面上に出て、微小塵捕捉装置21の下部が水面下に沈むように設定されている。また、微小塵捕捉装置21はドライブシャフト4の前方に配置されている。また、微小塵捕捉装置21は、シャフトケーシング8の前部に設けられている。
【0025】
図2は、船外機1の上下方向中央から下部にかけての部分を前左上方から見た状態を示している。図3は、船外機1の上下方向中央から下部にかけての部分を、ドライブシャフト4の軸心を通る上下前後方向に拡がる平面で切断し、その切断面を左方から見た状態を示している。図4は、図3中の微小塵捕捉装置21の取水口22を拡大して示している。図5は、微小塵捕捉装置21を図3中の直線V-Vに沿って切断し、その切断面を上方から見た状態を示している。図6は、船外機1に設けられた捕捉器25のフィルタ収容部31からフィルタカートリッジ26を分離させた状態を示している。
【0026】
微小塵捕捉装置21は、図2および図3に示すように、取水口22、供給通路24、捕捉器25および排水口35を備えている。
【0027】
取水口22は、船外機1の周囲の水を取り込む口である。取水口22はアンチベンチレーションプレート13の下方に配置されている。また、取水口22はギヤケーシング9の上部に形成されている。また、取水口22は、ギヤケーシング9の前部(例えば真正面)に配置され、前方に開口している。船外機1が船体に取り付けられた状態で、取水口22は水面下に沈む。船舶が海、湖または河川を前進しているとき、海、湖または河川の水がシャフトケーシング8の前部に当たる。そして、その水は、シャフトケーシング8の前部において前方に開口している取水口22内に流入する。
【0028】
取水口22の内径は例えば30mm程度である。しかしながら、取水口22への水の流入量が少ない場合には、取水口22の内径をより大きくしてもよい。また、取水口22の内径をこれよりも小さくすることも可能であるが、取水口22の内径をあまりに小さくすると、水が取水口22へ流入し難くなるので好ましくない。
【0029】
また、図4に示すように、取水口22には、ストレーナ23が設けられている。ストレーナ23は、取水口22を介して捕捉器25に供給される水に含まれる物体のうち、微小塵よりも大きい物体を除去する機能を有している。微小塵よりも大きい物体として、例えば、海、湖または河川の水中または水面を漂う海藻やペットボトルの蓋等が考えられる。例えば、ストレーナ23は、取水口22の内径と同等の直径を有する円板状に形成され、取水口22の内部に取り付けられている。また、ストレーナ23には、直径が例えば5mmよりも大きく15mm未満の複数の貫通穴が形成されている。このストレーナ23によれば、海藻やペットボトルの蓋等が取水口22内に入ることを抑制することができる。なお、ストレーナ23を金網により形成してもよい。また、取水口22を直径が5mmよりも大きくおよそ15mm未満の複数の小孔の集まりにより形成してもよく、この場合には、取水口22自体がストレーナとして機能するので、ストレーナ23を別途設けなくてもよい。また、ストレーナを取水口22の外、具体的には取水口22の直前に配置してもよい。
【0030】
供給通路24は、取水口22から取り込まれた水を捕捉器25へ供給する通路である。供給通路24は、図3に示すように、ギヤケーシング9の上部かつ前部に設けられている。供給通路24は、取水口22と、捕捉器25のフィルタ収容部31の第1の室33内との間を接続している。本実施例の供給通路24は、ギヤケーシング9に設けられた穴により形成されているが、供給通路24を、取水口22とフィルタ収容部31の第1の室33とを接続するホースまたはパイプにより形成してもよい。
【0031】
捕捉器25は、取水口22から取り込まれた水の中に含まれる微小塵を捕捉する装置である。捕捉器25はアンチベンチレーションプレート13の上方に配置されている。また、捕捉器25は、シャフトケーシング8内においてドライブシャフト4の前方に配置されている。また、捕捉器25は取水口22の上方に位置している。
【0032】
捕捉器25は、フィルタカートリッジ26、およびフィルタカートリッジ26を収容するフィルタ収容部31を有している。
【0033】
フィルタカートリッジ26は、シート状または板状のフィルタ27、およびフィルタ27を支持する支持体28を有している。支持体28は、例えば、図6に示すように、上下方向に長い直方体状に形成されている。また、支持体28には、フィルタ27を装着するためのフィルタ装着部29が設けられている。すなわち、支持体28には、当該支持体28を前後方向に貫通し、上下方向に長く、かつ前面視長方形の穴が形成されている。この穴がフィルタ装着部29である。また、支持体28の上部には把持部30が設けられている。
【0034】
フィルタ27は、微小塵を捕捉可能なフィルタであり、例えば不織布により形成されている。また、フィルタ27は多層構造を有することが好ましい。本実施例のフィルタ27は、例えば、図5に示すように、目の粗い第1の層27Aおよび目の細かい第2の層27Bを有している。図5中の矢印Kは、取水口22から供給通路24を介して捕捉器25のフィルタ収容部31内に供給され、フィルタ収容部31から排水口35を介して排出される水の流れ方向を示している。第1の層27Aは、この水の流れ方向における上流側に配置され、第2の層27Bは、この水の流れ方向における下流側に配置されている。なお、フィルタ27は、単層でもよいし、3層以上でもよい。また、フィルタ27は、不織布以外の他の素材、例えば織物、スポンジ、ガラスマット等によっても形成することができる。
【0035】
フィルタ収容部31は、図3に示すように、シャフトケーシング8の前部に設けられている。本実施例のフィルタ収容部31は、シャフトケーシング8と一体形成されている。具体的には、シャフトケーシング8の後部には、ドライブシャフト4が挿通されたドライブシャフト挿通部51が形成され、シャフトケーシング8の前部にはフィルタ収容部31が形成されている。
【0036】
また、図6に示すように、フィルタ収容部31の上部にはカートリッジ挿入口32が設けられている。カートリッジ挿入口32は、シャフトケーシング8の前部の上壁に、当該上壁を上下方向に貫通するように形成されており、フィルタ収容部31内と連通している。カートリッジ挿入口32には、その上方から、フィルタカートリッジ26が挿入される。カートリッジ挿入口32を介してフィルタカートリッジ26がフィルタ収容部31内に挿入されることにより、図3および図5に示すように、フィルタ収容部31内が、フィルタ27よりも上流側に位置する第1の室33と、フィルタ27よりも下流側に位置する第2の室34に分かれる。
【0037】
また、フィルタカートリッジ26はフィルタ収容部31(シャフトケーシング8の前部)に対して着脱可能となっている。利用者は、フィルタカートリッジ26の把持部30を持って、フィルタカートリッジ26はフィルタ収容部31から上方へ引き抜くことができる。
【0038】
排水口35は捕捉器25により微小塵の捕捉を行った後の水を排出する口である。排水口35は、船外機1が船舶の船体に取り付けられて船舶が前進または後退している状態において水面から出るように、アンチベンチレーションプレート13の上方に配置されている。また、排水口35は、船舶の前進時に水がかかり難くなるように、シャフトケーシング8の側部(例えば左部)に配置されている。また、排水口35は、船舶の後退時に水がかかり難くなるように、シャフトケーシング8の側部において前寄りの位置に配置されている。また、排水口35は側方(例えば左方、より具体的には、左前方)に開口している。また、排水口35は、シャフトケーシング8の側壁(左壁)を貫通しており、フィルタ収容部31の第2の室34と連通している。また、排水口35の内径は、例えば取水口22の内径と同じである。なお、排水口35を、アンチベンチレーションプレート13の上方であって、シャフトケーシング8の右部の前寄りの位置に配置してもよい。
【0039】
また、図3に示すように、微小塵捕捉装置21は、内燃機関2を水により冷却する船外機1の冷却系から独立している。すなわち、船外機1は、周知の船外機と同様に、海、湖または河川の水を取り込んで、その水を内燃機関2の周囲に供給して内燃機関2を冷却する水冷式冷却機構を有している。微小塵捕捉装置21は、この冷却機構とは別に設けられている。
【0040】
このような構成を有する船外機1の微小塵捕捉装置21の動作および利用方法について説明する。船外機1は、例えば、海に着水し、岸に係留されている船舶の船体にクランプブラケット12を用いて取り付けられている。利用者は、新しいフィルタ27が装着されたフィルタカートリッジ26を用意し、そのフィルタカートリッジ26をカートリッジ挿入口32からフィルタ収容部31内の奥まで挿入する。このようなフィルタカートリッジ26の挿入作業は、着水した船体に船外機1が取り付けられた状態で行うことができる。もちろん、この挿入作業は、陸揚げされた船体に船外機1が取り付けられた状態、または船外機1が船体から取り外された状態でも行うことができる。
【0041】
利用者は、フィルタカートリッジ26をフィルタ収容部31に挿入した後、船舶の運航を開始する。船舶が海を前進している間、海の水が取水口22内に流入する。このとき、海中や海面に存在する海藻やペットボトルの蓋等、微小塵よりも大きい物体の取水口22内への流入はストレーナ23により略阻止される。一方、海の水に含まれる微小塵はストレーナ23を通過して取水口22内へ流入する。
【0042】
取水口22から流入した水は、供給通路24を流通し、フィルタ収容部31の第1の室33内に流入する。さらに、第1の室33内に流入した水はフィルタ27の第1の層27Aおよび第2の層27Bを順次通過して第2の室34内に流入する。水がフィルタ27の第1の層27Aおよび第2の層27Bを順次通過するとき、その水に含まれている微小塵がフィルタ27により捕捉される。具体的には、微小塵は、図5中の矢印Kの方向に流れる水に押されて、目の粗い第1の層27Aに入り込み、その後、目の細かい第2の層27Bに付着する。第2の層27Bに付着した微小塵は、第2の層27B内、または第1の層27Aと第2の層27Bとの間に封じ込まれる。これにより、フィルタ収容部31内において水が矢印Kと逆の方向に流れたとしても、フィルタ27に一旦付着した微小塵がフィルタ27から離れてしまうことを抑制することができる。
【0043】
フィルタ27を通過して第2の室34に流入した水は、第2の室34から排水口35を介してフィルタ収容部31の外(シャフトケーシング8の外)、すなわち海へ排出される。
【0044】
船舶が前進しているとき、海の水は勢いよく取水口22内に流入し、供給通路24を通って第1の室33内に移動する。そして、フィルタ27が目詰まりしていない場合には、第1の室33内に移動した水は、勢いを保ったまま、フィルタ27を通過して第2の室34内に移動し、排水口35からシャフトケーシング8の外へ噴出する。排水口35は、シャフトケーシング8の側部に配置されているので、第2の室34内の水は、排水口35を通ってシャフトケーシング8の側方へ飛び出した後、下方へ落下する。乗船している利用者は、このように排水口35から側方に飛び出した水を目視することができる。
【0045】
船舶の運航を長期間繰り返していると、フィルタ27に多量の微小塵が付着し、フィルタ27が目詰まりする。フィルタ27が目詰まりすると、水がフィルタ27を通過し難くなるので、排水口35から流出する水の勢いが低下する。その結果、第2の室34内の水が排水口35から噴出しなくなる。例えば、第2の室34内の水が排水口35からシャフトケーシング8の側壁の外面を伝って流れ落ちるようになる。利用者は、このことを目視することにより、フィルタ27が目詰まりしていることを知ることができる。フィルタ27が目詰まりした場合には、利用者は、フィルタカートリッジ26の把持部30を掴んで、フィルタカートリッジ26をフィルタ収容部31から引き出す。これにより、捕捉された微小塵はフィルタカートリッジ26と共に船外機1から取り出される。
【0046】
以上説明した通り、本発明の実施例の船外機1は、ギヤケーシング9に設けられ、船外機1の周囲の水を取り込む取水口22と、取水口22から取り込まれた水の中に含まれる微小塵を捕捉する捕捉器25と、捕捉器25により微小塵の捕捉を行った後の水を排出する排水口35とを備えた微小塵捕捉装置21を備えている。したがって、船外機1が取り付けられた船舶の運航中に、微小塵捕捉装置21により、海、湖または河川等の水に含まれている微小塵を回収することができる。本実施例の船外機1が広く普及し、全世界の至る所で利用されるようになれば、全世界の海、湖、河川等に拡散した微小塵の回収を推進させることができる。
【0047】
また、本実施例の船外機1の微小塵捕捉装置21は、船外機1の内燃機関2を水により冷却する船外機1の冷却系(水冷式冷却装置)から独立している。したがって、船外機1の内燃機関2の冷却性能を低下させることなく、微小塵の回収を行うことができる。
【0048】
また、微小塵捕捉装置21の取水口22がアンチベンチレーションプレート13の下方に配置されているので、取水口22を水中に沈めることができ、海、湖、河川等の水を取水口22からフィルタ収容部31内へ確実に取り込むことができる。
【0049】
また、取水口22がギヤケーシング9の前部において前方に開口しているので、船舶の前進時に、ギヤケーシング9の前部に当たる水が取水口22内へ流入し易くなる。したがって、取水口22からフィルタ収容部31内へ取り込む水の量を増加させることができる。また、海、湖、河川等の水を、ポンプを用いることなく、フィルタ収容部31内へ十分に取り込むことが可能になる。
【0050】
また、微小塵捕捉装置21の排水口35がアンチベンチレーションプレート13の上方に配置されているので、排水口35を水面よりも上方へ出すことができ、海、湖、河川等の水が排水口35からフィルタ収容部31内に逆方向に流入することを抑制することができる。
【0051】
また、排水口35がシャフトケーシング8の側部に配置されているので、船舶の前進時に、海、湖、河川等の水がシャフトケーシング8の前部にかかったときに、水が排水口35からフィルタ収容部31内に逆方向に流入することを抑制することができる。
【0052】
また、排水口35がシャフトケーシング8の側部の前寄りの位置に配置されているので、船舶の後退時に、海、湖、河川等の水がシャフトケーシング8の後部にかかったときに、水が排水口35からフィルタ収容部31内に逆方向に流入することを抑制することができる。また、排水口35がシャフトケーシング8の側部の前寄りの位置に配置されているので、利用者は、船舶の運航時に排水口35から水が噴出しているか否かを目視で容易に確認することができる。したがって、利用者は、フィルタ27が目詰まりしているか否かを容易に知ることができ、フィルタカートリッジ26の交換の要否を簡単に決めることができる。
【0053】
また、微小塵捕捉装置21の捕捉器25がアンチベンチレーションプレートの上方に配置されているので、船外機1が、着水している船舶の船体に取り付けられている状態で、船外機1において捕捉器25の配置されている部分が水面よりも上方に出る。したがって、利用者は、着水している船舶の船体に船外機1が取り付けられている状態で、フィルタカートリッジ26の着脱を行うことができる。
【0054】
また、捕捉器25は、シャフトケーシング8においてドライブシャフト4の前方に配置されている。これにより、捕捉器25(フィルタカートリッジ26の把持部30)の位置を利用者の手の届きやすい位置とすることができる。また、船外機1の冷却系と交錯しない位置に捕捉器25を設けることができ、冷却系から独立した微小塵捕捉装置を実現し易くすることができる。
【0055】
また、捕捉器25は、フィルタ収容部31に着脱可能なフィルタカートリッジ26を備えている。これにより、利用者は、フィルタカートリッジ26を交換することにより、微小塵捕捉装置21の微小塵捕捉性能を容易に復帰させ、保持することができる。すなわち、微小塵捕捉装置21のメンテナンスの作業性を向上させることができる。
【0056】
また、フィルタ27を多層構造としたことにより、微小塵を確実に捕捉することができ、一旦捕捉した微小塵をフィルタ27に保持することができる。
【0057】
なお、上記微小塵捕捉装置21では、排水口35からの水の噴出具合によりフィルタ27の目詰まりの有無を利用者に知らせる構成を例にあげたが、フィルタ27の目詰まりの有無を利用者に知らせる構成として、次のものを採用することもできる。すなわち、フィルタ27をバイパスして第1の室33と第2の室34との間を接続するバイパス通路と、バイパス通路の入口に設けられ、バイパス通路に流入しようとする水の圧力が所定値を超えたときに開く弁と、バイパス通路内の水の流通を検出するセンサと、センサからの検出信号に基づいて警報を発する警報ランプ等の警報器とを微小塵捕捉装置21に設けてもよい。
【0058】
この構成において、フィルタ27が目詰まりしていないときには、水はフィルタ27を通過するので、上記バイパス通路に流入しようとする水の圧力は上記所定値以下となる。この場合には、上記弁は閉じたままとなり、バイパス通路内に水が流入しない。一方、フィルタ27が目詰まりすると、水がフィルタ27を通過し難くなるので、上記バイパス通路に流入しようとする水の圧力が大きくなる。そして、この水の圧力が上記所定値を超えると、上記弁が開き、水がバイパス通路内に流入する。バイパス通路内への水の流入が上記センサにより検出されると、上記警報器から警報が発せられる。その警報により、利用者はフィルタ27が目詰まりしたことを知ることができる。
【0059】
また、上記実施例では、微小塵捕捉装置21の捕捉器25を船外機1の内部に配置する場合を例にあげたが、図7に示す他の実施例の船外機40の微小塵捕捉装置41ように、捕捉器43を船外機40の外部に配置してもよい。具体的に説明すると、取水口42は、上記船外機1と同様に、ギヤケーシング9の前部に配置する。また、捕捉器43を、船外機1から独立したタンク44と、タンク44内に設けられたフィルタ45(またはフィルタカートリッジ)とを有する構成とし、この捕捉器43を、例えば船外機40が取り付けられた船舶の船体に設置する。さらに、船外機40とタンク44の入口とをホースまたはパイプ等の管46を用いて接続し、取水口42からシャフトケーシング8内に一旦取り込んだ水を、この管46を介してタンク44の入口へ供給するようにする。そして、タンク44に供給された水をフィルタ45に通すことにより、その水に含まれている微小塵を捕捉するようにする。さらに、別のホースまたはパイプ等をタンク44の排水口47に接続し、微小塵の捕捉を行った後の水をタンク44から排出して海へ戻すようにする。
【0060】
また、本発明の船舶推進機において、動力源は内燃機関に限らず、電動モータでもよい。また、本発明は、船外機に限らず、船内外機にも適用することができる。
【0061】
また、微小塵には、マイクロプラスチックの他、魚の養殖に用いる餌の残り等、外径または最大長が5mm以下の目視可能な種々の塵が含まれる。
【0062】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船舶推進機もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1、40 船外機(船舶推進機)
2 内燃機関(動力源)
3 プロペラ(推進装置)
4 ドライブシャフト(動力伝達機構)
5 ギヤ装置(動力伝達機構)
6 プロペラシャフト(動力伝達機構)
7 カウリング(ケーシング)
8 シャフトケーシング(ケーシング)
9 ギヤケーシング(ケーシング)
13 アンチベンチレーションプレート
21 微小塵捕捉装置
22、42 取水口
24 供給通路
25、43 捕捉器
26 フィルタカートリッジ
27、45 フィルタ
28 支持体
31 フィルタ収容部
35、47 排水口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7