(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/54 20060101AFI20240305BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20240305BHJP
H01T 13/32 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01T13/54
H01T13/20 B
H01T13/32
(21)【出願番号】P 2020073226
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 文明
(72)【発明者】
【氏名】水谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】西尾 典晃
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-118185(JP,A)
【文献】特開2011-018593(JP,A)
【文献】特開2016-095986(JP,A)
【文献】特開2015-130302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/54
H01T 13/20
H01T 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
副燃焼室(2)と、前記副燃焼室を外部に連通する複数の噴孔(33)と、前記副燃焼室内に電極先端部(41)が配された中心電極(4)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(5)とを備え、前記噴孔の少なくとも1つである火花形成噴孔(30)の内壁と前記電極先端部との間に放電を形成することができるよう構成されたスパークプラグ(1)であって、
前記火花形成噴孔以外の前記噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線(33L)が前記接地電極を通過しない、スパークプラグ。
【請求項2】
前記延長線は、前記接地電極、前記放電ギャップ、及び前記電極先端部を通過しない、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
副燃焼室(2)と、前記副燃焼室を外部に連通する複数の噴孔(33)と、前記副燃焼室内に電極先端部(41)が配された中心電極(4)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(5)とを備え、前記噴孔の少なくとも1つである火花形成噴孔(30)の内壁と前記電極先端部との間に放電を形成することができるよう構成されたスパークプラグ(1)であって、
前記火花形成噴孔以外の前記噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線(33L)が前記放電ギャップを通過しない、スパークプラグ。
【請求項4】
副燃焼室(2)と、前記副燃焼室を外部に連通する複数の噴孔(33)と、前記副燃焼室内に電極先端部(41)が配された中心電極(4)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(5)とを備え、前記噴孔の少なくとも1つである火花形成噴孔(30)の内壁と前記電極先端部との間に放電を形成することができるよう構成されたスパークプラグ(1)であって、
前記火花形成噴孔以外の前記噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線(33L)が前記電極先端部を通過しない、スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグは、車両用エンジン等の内燃機関における着火手段として用いられる。特許文献1には、絶縁碍子から突出した中心電極をプラグカバーで覆ったスパークプラグが開示されている。前記プラグカバーには、プラグカバーを貫通する貫通孔が複数形成されており、当該貫通孔の1つである挿入孔に中心電極の先端部が挿入されている。そして、特許文献1に記載のスパークプラグは、中心電極と前記挿入孔の内壁との間を、火花放電を発生させるための放電ギャップとしている。また、特許文献1に記載のスパークプラグは、放電ギャップに生じた放電火花を主燃焼室側に向かって引き伸ばすことができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のスパークプラグにおいては、着火性向上の観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、着火性を向上させることができるスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、副燃焼室(2)と、前記副燃焼室を外部に連通する複数の噴孔(33)と、前記副燃焼室内に電極先端部(41)が配された中心電極(4)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(5)とを備え、前記噴孔の少なくとも1つである火花形成噴孔(30)の内壁と前記電極先端部との間に放電を形成することができるよう構成されたスパークプラグ(1)であって、
前記火花形成噴孔以外の前記噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線(33L)が前記接地電極を通過しない、スパークプラグ
にある。
【0007】
本発明の第二の態様は、副燃焼室(2)と、前記副燃焼室を外部に連通する複数の噴孔(33)と、前記副燃焼室内に電極先端部(41)が配された中心電極(4)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(5)とを備え、前記噴孔の少なくとも1つである火花形成噴孔(30)の内壁と前記電極先端部との間に放電を形成することができるよう構成されたスパークプラグ(1)であって、
前記火花形成噴孔以外の前記噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線(33L)が前記放電ギャップを通過しない、スパークプラグにある。
【0008】
本発明の第三の態様は、副燃焼室(2)と、前記副燃焼室を外部に連通する複数の噴孔(33)と、前記副燃焼室内に電極先端部(41)が配された中心電極(4)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(5)とを備え、前記噴孔の少なくとも1つである火花形成噴孔(30)の内壁と前記電極先端部との間に放電を形成することができるよう構成されたスパークプラグ(1)であって、
前記火花形成噴孔以外の前記噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線(33L)が前記電極先端部を通過しない、スパークプラグにある。
【発明の効果】
【0009】
前記各態様のスパークプラグは、電極先端部と火花形成噴孔の内壁との間に放電を形成することができるよう構成されている。それゆえ、例えば点火タイミングを適宜調整することで、副燃焼室内にも、副燃焼室外にも放電火花を引き伸ばすことができる。
【0010】
また、前記第一の態様のスパークプラグにおいて、火花形成噴孔以外の噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線が接地電極を通過しない。それゆえ、放電火花を副燃焼室内に引き伸ばす場合に、各噴孔を通過する気流は、接地電極に干渉せず、滑らかに副燃焼室内を流れる。それゆえ、副燃焼室内に放電火花を引き伸ばす場合において、放電火花を引き伸ばしやすく、スパークプラグの着火性を向上させやすい。
【0011】
また、前記第二の態様のスパークプラグにおいて、火花形成噴孔以外の噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線が放電ギャップを通過しない。それゆえ、放電火花を副燃焼室内に引き伸ばす場合に、各噴孔を通過する気流が直接的に放電ギャップに導かれることによって放電火花が吹き消されることを防止することができる。それゆえ、副燃焼室内に放電火花を引き伸ばす場合において、放電火花を引き伸ばしやすく、スパークプラグの着火性を向上させやすい。
【0012】
また、前記第三の態様のスパークプラグにおいて、火花形成噴孔以外の噴孔のそれぞれは、その中心軸の延長線が電極先端部を通過しない。それゆえ、放電火花を副燃焼室内に引き伸ばす場合に、各噴孔を通過する気流は、電極先端部に干渉せず、滑らかに副燃焼室内を流れる。それゆえ、副燃焼室内に放電火花を引き伸ばす場合において、放電火花を引き伸ばしやすく、スパークプラグの着火性を向上させやすい。
【0013】
以上のごとく、前記態様によれば、着火性を向上させることができるスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1における、内燃機関に取り付けられたスパークプラグの、一部断面正面図。
【
図2】実施形態1における、スパークプラグの先端部の断面図。
【
図3】実施形態1における、スパークプラグをプラグ先端側から見た図。
【
図5】実施形態1における、圧縮行程での放電火花の引き伸ばされ方を示すスパークプラグの先端部の断面図。
【
図6】実施形態1における、膨張行程での放電火花の引き伸ばされ方を示すスパークプラグの先端部の断面図。
【
図7】実施形態2における、スパークプラグをプラグ先端側から見た図。
【
図8】実施形態3における、スパークプラグの先端部の断面図。
【
図9】実施形態3における、スパークプラグをプラグ先端側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
スパークプラグの実施形態につき、
図1~
図6を用いて説明する。
本形態のスパークプラグ1は、
図2に示すごとく、副燃焼室2と、副燃焼室2を外部に連通する複数の噴孔33と、副燃焼室2内に電極先端部41が配された中心電極4と、中心電極4との間に放電ギャップGを形成する接地電極5とを備える。スパークプラグ1は、噴孔33の少なくとも1つである火花形成噴孔30の内壁と電極先端部41との間に放電を形成することができるよう構成されている。本形態においては、詳細は後述するが、内燃機関の膨張行程において、火花形成噴孔30と電極先端部41との間に放電が形成される。
【0016】
図3に示すごとく、火花形成噴孔30以外の噴孔33のそれぞれは、その中心軸の延長線である噴孔延長線33Lが接地電極5及び放電ギャップGを通過しない。つまり、噴孔延長線33L上には、接地電極5及び放電ギャップGが形成されていない。
以後、本形態につき詳説する。
【0017】
本形態において、スパークプラグ1の中心軸をプラグ中心軸PCという。プラグ中心軸PCが延在する方向をZ方向という。Z方向は、筒状に形成されたハウジング6の軸方向、及び筒状に形成された絶縁碍子7の軸方向に一致している。また、詳細は後述するが、プラグ中心軸PCと火花形成噴孔30の軸方向とは同じ方向である。Z方向の一方側であって、スパークプラグ1における副燃焼室2が形成された側(例えば、
図1及び
図2の下側)をプラグ先端側といい、その反対側をプラグ基端側という。また、Z方向に直交する方向であって、中心電極4と接地電極5とが対向する方向をX方向という。そして、X方向及びZ方向の双方に直交する方向をY方向という。スパークプラグ1の径方向を、プラグ径方向という。スパークプラグ1の周方向を、プラグ周方向という。
【0018】
スパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。スパークプラグ1のプラグ基端側の端部は、図示しない点火コイルと接続され、スパークプラグ1のプラグ先端側の端部は、内燃機関の燃焼室内に配される。
図1に示すごとく、燃焼室は、内燃機関のシリンダブロック、ピストン、シリンダヘッド11に囲まれた領域であり、燃焼室のうち、スパークプラグ1の外部側を主燃焼室12、スパークプラグ1の後述のプラグカバー3の内側を副燃焼室2という。スパークプラグ1は、ハウジング6において内燃機関のシリンダヘッド11に取り付けられる。
【0019】
ハウジング6は、導電性、熱伝導性、及び耐熱性を有する材料を筒状に形成してなる。
図1、
図2に示すごとく、ハウジング6の外周部には、取付ネジ部61が形成されている。
図1に示すごとく、取付ネジ部61は、シリンダヘッド11に設けられた雌ネジ穴111に螺合される部位である。スパークプラグ1がシリンダヘッド11に取り付けられた状態においては、スパークプラグ1における取付ネジ部61のプラグ先端側の部位が主燃焼室12内に曝される。ハウジング6は、その内周部において絶縁碍子7を保持している。
【0020】
絶縁碍子7は、例えば電気的絶縁性を有する材料を円筒状に形成してなる。図示は省略するが、絶縁碍子7は、ハウジング6に対してZ方向に係止されている。図示は省略するが、絶縁碍子7とハウジング6との係止部には、これらの間のシール性を確保するパッキンが設けられている。絶縁碍子7は、その内周部において中心電極4を保持している。
【0021】
中心電極4は、例えば金属をZ方向に長尺に形成してなる。
図2に示すごとく、中心電極4は、絶縁碍子7からプラグ先端側に突出した電極先端部41を備える。電極先端部41は、Z方向に延在する円柱状を呈している。電極先端部41は、ハウジング6のプラグ先端側の端面よりもプラグ先端側に突出している。
【0022】
電極先端部41は、絶縁碍子7の内側に配された中心電極4の部位と同材料で一体的に形成された電極先端本体411と、電極先端本体411の側面に配された中心チップ412とを備える。
図2、
図4に示すごとく、電極先端本体411のプラグ先端側の端部には、X方向の両側に平面部411aが形成されている。平面部411aは、X方向に直交する平面上に形成されている。そして、一方の平面部411aに、中心チップ412が配されている。
【0023】
中心チップ412は、電極先端本体411よりも耐消耗性の高い材料からなり、例えば貴金属からなる。中心チップ412は、当該中心チップ412が配される平面部411aの法線方向(すなわちX方向)に厚みを有する矩形板状に形成されている。
図2に示すごとく、中心チップ412は、プラグ先端側の端部の位置を、電極先端本体411のプラグ先端側の端部の位置と一致させている。中心チップ412は、接地電極5との間に放電ギャップGを形成している。放電ギャップGは、初期の火花放電を形成する空間である。後述するように、放電火花は、副燃焼室2内の気流に押されて移動するが、初期の火花放電は、移動する前の放電火花を意味するものとする。
【0024】
図1、
図2に示すごとく、ハウジング6のプラグ先端側の端部に、副燃焼室2を区画するプラグカバー3が配されている。プラグカバー3は、導電性、熱伝導性、及び耐熱性を有する材料からなる。プラグカバー3は、プラグ基端側に開口するカップ状に形成されている。すなわち、
図2に示すごとく、プラグカバー3は、副燃焼室2をプラグ周方向に覆うカバー側壁31と、副燃焼室2をプラグ先端側から覆う円板状のカバー底壁32とを備える。プラグカバー3のプラグ基端側の端部は、ハウジング6に全周において接合されており、ハウジング6に対して電気的、熱的に接続されている。なお、本形態において、ハウジング6とプラグカバー3とは別体で構成したが、これらを一つの部材によって構成してもよい。
【0025】
図2、
図3に示すごとく、プラグカバー3は、電極先端部41の先端面413とZ方向に対向する領域に火花形成噴孔30を有する。火花形成噴孔30は、カバー底壁32をZ方向に貫通するよう形成されている。そして、火花形成噴孔30の軸方向は、Z方向と同じ方向となるよう形成されている。
【0026】
図2に示すごとく、火花形成噴孔30の内壁は、Z方向の副燃焼室2側に向かってZ方向に直交する断面の面積が拡大する拡大面部301を、Z方向の少なくとも一部の領域に有する。拡大面部301を含む火花形成噴孔30の孔軸方向Xに直交する断面の面積は、前記断面に表れる火花形成噴孔30の内側領域の面積である。本形態において、火花形成噴孔30の内壁は、プラグ先端側から順に、円筒面部302と拡大面部301とを備える。
【0027】
円筒面部302は、Z方向にまっすぐ形成された円筒状を呈している。すなわち、円筒面部302は、Z方向の各位置における形状が互いに同様の円形となる。円筒面部302のプラグ先端側の端部は、プラグ先端側に向かって開口した外側開口部303となっている。円筒面部302のプラグ基端側の端部からプラグ基端側に、拡大面部301が形成されている。
【0028】
拡大面部301は、プラグ基端側に向かうほど拡径するテーパ状に形成されている。すなわち、拡大面部301は、Z方向の各位置における形状が、互いに相似形の円形となり、かつ、プラグ基端側に向かうほど、拡大面部301の内側領域におけるZ方向に直交する断面積が大きくなる。そして、拡大面部301のプラグ基端側の端部は、プラグ基端側に開口した内側開口部304となっている。火花形成噴孔30は、副燃焼室2側の内側開口部304の面積が、スパークプラグ1の外部側の外側開口部303の面積よりも大きくなるよう構成されている。
【0029】
図2、
図4に示すごとく、火花形成噴孔30の内側領域と電極先端部41の先端面413とは、互いにZ方向に重なる位置に形成されている。なお、電極先端部41の先端面413は、電極先端部41のプラグ先端側の面のうち最もプラグ先端側にあるものを意味する。本形態において、電極先端部41を構成する電極先端本体411と中心チップ412とは、プラグ先端側の端部の位置が同じであるため、電極先端部41の先端面413は、電極先端本体411と中心チップ412との双方の先端面である。
図4に示すごとく、火花形成噴孔30における副燃焼室2側の内側開口部304の面積は、電極先端部41の先端面413よりも大きい。Z方向から見たとき、内側開口部304の少なくとも一部は、電極先端部41の先端面413の外周側に形成されている。本形態において、Z方向から見たとき、内側開口部304の全体は、電極先端部41の先端面413の外周側に形成されている。また、Z方向から見たとき、外側開口部303の全体は、電極先端部41の先端面413の内側に収まるよう形成されている。
【0030】
図2に示すごとく、プラグカバー3の内壁面(すなわち副燃焼室2側の面)に、接地電極5が設けられている。接地電極5は、接地本体部51と接地チップ52とを有する。
【0031】
接地本体部51は、Z方向に延在する矩形板状に形成されている。
図2、
図4に示すごとく、接地本体部51の厚み方向は、中心チップ412の厚み方向と一致している。
図2に示すごとく、接地本体部51のプラグ先端側の端部は、プラグカバー3の内壁面における、内側開口部304近傍に接合されている。本形態においては、接地本体部51のプラグ先端側の端部は、プラグカバー3の内壁面における、内側開口部304から若干離れた領域に接合されている。接地本体部51におけるプラグ基端側の部位は、中心電極4の中心チップ412とX方向に対向している。そして、接地本体部51のプラグ基端側の部位における中心電極4側の面に、中心チップ412とX方向に対向するよう接地チップ52が設けられている。
【0032】
接地チップ52は、接地本体部51よりも耐消耗性の高い材料からなり、例えば貴金属からなる。
図2、
図4に示すごとく、接地チップ52は、矩形板状に形成されており、その厚み方向が中心チップ412の厚み方向と一致するよう配されている。
図2に示すごとく、接地チップ52は、そのプラグ基端側の端部の位置を、接地本体部51のプラグ基端側の端部の位置と一致させている。また、
図4に示すごとく、接地チップ52のZ方向に直交する幅方向(すなわちY方向)の両端の位置は、Y方向における接地本体部51の両端の位置と一致している。
【0033】
図4に示すごとく、Y方向における接地チップ52の寸法と中心チップ412の寸法とは、互いに同等である。また、
図2に示すごとく、接地チップ52のプラグ基端側の端部は、中心チップ412よりもプラグ基端側に突出しており、接地チップ52のプラグ先端側の端部は、中心チップ412のプラグ先端側の端部よりもプラグ基端側の位置にある。そして、接地チップ52と中心チップ412との間に、放電ギャップGが形成されている。放電ギャップGは、接地チップ52と中心チップ412との対向方向(すなわちX方向)における、接地チップ52と中心チップ412との間の空間である。
図4に示すごとく、放電ギャップGは、少なくとも一部が内側開口部304の内側領域にZ方向に重なる位置に配されている。
【0034】
図3に示すごとく、プラグカバー3は、火花形成噴孔30以外にも、プラグカバー3を貫通する4つの噴孔33を有する。以後、単に噴孔33といったときは、特に断らない限り火花形成噴孔30以外の噴孔33を意味するものとする。4つの噴孔33は、火花形成噴孔30よりもプラグ径方向の外周側に形成されている。複数の噴孔33は、プラグ周方向に等間隔に形成されている。プラグ先端側から見たとき、噴孔33は、プラグ周方向において、接地電極5の位置から45+(90×n)[°]ずれた位置に配されている。ここで、nは、0~3である。
【0035】
図2に示すごとく、各噴孔33は、プラグ先端側へ向かうにつれてプラグ径方向の外周側に向かうよう傾斜して形成されている。
図3に示すごとく、それぞれの噴孔33は、その中心軸の延長線である噴孔延長線33Lが接地電極5及び放電ギャップGを通過しない。Z方向からみたときにおいても、それぞれの噴孔33の噴孔延長線33Lは、接地電極5及び放電ギャップGを通過しない。なお、噴孔33の数、形状等は、要請に応じて適宜決定される。
【0036】
次に、
図5、
図6を用いて、本形態のスパークプラグ1において放電ギャップGに形成される放電火花が引き伸ばされる様子につき説明する。本形態のスパークプラグ1は、内燃機関の圧縮行程(すなわち上死点前;BTDC)又は膨張行程(すなわち上死点後;TDC)において放電を生じさせるよう制御されている。内燃機関の圧縮行程において放電を生じさせた場合と、膨張行程において放電を生じさせた場合とで、スパークプラグ1の放電の引き伸ばされ方が異なる。
【0037】
まず、
図5を用いて、圧縮行程において火花放電を放電ギャップGに生じさせる場合につき説明する。圧縮行程においては、火花形成噴孔30周辺では主燃焼室12側から副燃焼室2側に向かって流れる気流F1が生じている。当該気流F1は、主燃焼室12から火花形成噴孔30の円筒面部302に流入するとき、流路断面積が急減することにより、局所的に流速が速くなる。そして、当該気流F1は、円筒面部302から拡大面部301に流入されるとき、流路断面積が徐々に拡大していくため、気流が拡散されて流速が低下する。そして、副燃焼室2内に到達した気流F1は、中心電極4を避けるようプラグ基端側に向かい、一部が放電ギャップGを通過する。そして、火花形成噴孔30以外の噴孔33は、いずれも噴孔延長線(
図3の符号33L)が接地電極5及び放電ギャップGを通過しないため、火花形成噴孔30以外の噴孔33を通過した気流は、接地電極5にかき乱され難く、また、放電ギャップGを直接的に通過することがないため、火花形成噴孔30を通過する気流F1をかき乱すことを防止しやすい。
【0038】
そして、放電ギャップGに生じる初期の放電火花Sは、例えば、中心電極4と接地電極5の間の空間距離が最も近くなる、中心チップ412と接地チップ52との間において生じる。そして、当該初期の放電火花Sは、前述のように放電ギャップGを通る、拡散された気流F1に押され、その両起点間の部位がプラグ基端側に向かって大きく引き伸ばされる。そして、放電火花Sは、副燃焼室2内に大きく引き伸ばされ、副燃焼室2内の混合気に直接着火し、副燃焼室2内に火炎を形成する。副燃焼室2で成長した火炎は、火花形成噴孔30及びその他の噴孔33から主燃焼室12に火炎ジェットとして噴出される。ここで、火花形成噴孔30は、プラグ先端側に向かうほど流路断面積が減少するため、火花形成噴孔30を通過して噴出される火炎ジェットの勢いが増す。これにより、内燃機関の燃焼期間を短くすることができる。なお、便宜上、
図5においては初期の放電火花Sと当該初期の放電火花Sが引き伸ばされた状態との2つを表している。
【0039】
例えば、プラグカバー3、ハウジング6、絶縁碍子7、中心電極4等の副燃焼室2に面する部材がある程度高温となる、冷間始動時以外のときに、圧縮行程において火花放電を生じさせることができる。
【0040】
次に、
図6を用いて、膨張行程において火花放電を放電ギャップGに生じさせる場合につき説明する。膨張行程においては、火花形成噴孔30周辺では副燃焼室2側から主燃焼室12側に向かって流れる気流F2が生じている。放電ギャップGに生じる初期の放電火花Sは、例えば、中心電極4と接地電極5との間の空間距離が最も近くなる、中心チップ412と接地チップ52との間において生じる。
【0041】
初期の放電火花Sは、前述の気流F2に押され、その両起点間の部位がプラグ先端側に向かって大きく引き伸ばされると同時に、接地チップ52側の起点が、接地チップ52から火花形成噴孔30の内壁上をプラグ先端側に移動し、やがて火花形成噴孔30の内壁のプラグ先端側の端部付近まで移動する。このようにして、火花形成噴孔30の内壁と中心電極4の電極先端部41との間に放電が形成される。そして、引き伸ばされた放電火花Sは、火花形成噴孔30からプラグ先端側、すなわち主燃焼室12内に形成され、主燃焼室12内の混合気に直接着火する。
【0042】
自動車エンジン等の内燃機関が冷えている状態で稼働させる冷間始動時等においては、膨張行程で火花放電を発生させることで、以下のメリットがある。冷間始動時などは、プラグカバー3、ハウジング6、絶縁碍子7等の副燃焼室2に面する部材が低温となっていることがある。したがって、特に冷間始動時等においては、主燃焼室12に向かって放電火花Sを伸長させ、初期火炎とプラグカバー3等との接触面積を抑制する。これにより、初期火炎の熱がプラグカバー3等に奪われる冷損を抑えやすい。その結果、冷間始動時等における着火性を向上させることができる。
【0043】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
本形態にのスパークプラグ1は、電極先端部41と火花形成噴孔30の内壁との間に放電を形成することができるよう構成されている。それゆえ、例えば点火タイミングを適宜調整することで、副燃焼室2内にも、副燃焼室2外にも放電火花を引き伸ばすことができる。
【0044】
また、本形態のスパークプラグ1において、火花形成噴孔30以外の噴孔33のそれぞれは、その噴孔延長線33Lが接地電極5を通過しない。それゆえ、放電火花を副燃焼室2内に引き伸ばす場合に、各噴孔33を通過する気流は、接地電極5に干渉せず、滑らかに副燃焼室2内を流れる。それゆえ、副燃焼室2内に放電火花を引き伸ばす場合において、放電火花を引き伸ばしやすく、スパークプラグ1の着火性を向上させやすい。
【0045】
また、本形態のスパークプラグ1において、火花形成噴孔30以外の噴孔33のそれぞれは、その噴孔延長線33Lが放電ギャップGを通過しない。それゆえ、放電火花を副燃焼室2内に引き伸ばす場合に、各噴孔33を通過する気流が直接的に放電ギャップGに導かれることによって放電火花が吹き消されて、再放電が頻発することを防止することができる。また、各噴孔33を通過する気流が、火花形成噴孔30から導入される気流をかき乱すことを防止することができる。それゆえ、副燃焼室2内に放電火花を引き伸ばす場合において、放電火花を引き伸ばしやすく、スパークプラグ1の着火性を向上させやすい。
【0046】
以上のごとく、前記態様によれば、着火性を向上させることができるスパークプラグを提供することができる。
【0047】
(実施形態2)
本形態は、
図7に示すごとく、実施形態1に対して、噴孔33の形状を変更した形態である。
【0048】
本形態において、噴孔33は、噴孔33を介して副燃焼室2の外側から副燃焼室2内に流入する気流が、副燃焼室2内においてスワール流(すなわち、プラグ中心軸PCを中心とした螺旋状に流れる気流)となるよう構成されている。
【0049】
それぞれの噴孔33の噴孔延長線33Lは、内周側に向かうほどプラグ周方向の一方側C1に向かうよう形成されている。Z方向から見たとき、噴孔33におけるプラグ周方向の他方側C2の端部とプラグ中心軸PCとを通過するプラグ径方向に延びる仮想直線VLと、噴孔延長線33Lとの間の角度αは、0°超過90°未満である。本形態において、各噴孔33に関する前記角度αは、互いに同等である。Z方向からみたとき、それぞれの噴孔33の噴孔延長線33Lは、接地電極5、放電ギャップG、及び中心電極4の電極先端部41を通過しない。
【0050】
その他は、実施形態1と同様である。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0051】
本形態においては、それぞれの噴孔33の噴孔延長線33Lは、接地電極5、放電ギャップG、及び中心電極4の電極先端部41を通過しない。それゆえ、放電火花を副燃焼室2内に引き伸ばす場合に、各噴孔33を通過する気流は、接地電極5及び電極先端部41に干渉せず、滑らかに副燃焼室2内を流れる。さらに、各噴孔33を通過する気流が直接的に放電ギャップGに導かれることによって放電火花が吹き消されたり、火花形成噴孔30を通る気流をかき乱したりすることを防止することができる。それゆえ、副燃焼室2内に放電火花を引き伸ばす場合において、放電火花を一層引き伸ばしやすく、スパークプラグ1の着火性を一層向上させやすい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0052】
(実施形態3)
本形態は、
図8、
図9に示すごとく、実施形態1に対し、噴孔33の配置及び形状を変更した形態である。
【0053】
Z方向から見たとき、
図9に示すごとく、プラグ先端側から見たとき、噴孔33は、プラグ周方向において、接地電極5の位置から90×n[°]ずれた位置に配されている。ここで、nは、0~3である。2つの噴孔33は、接地電極5とX方向に重なる位置に形成されている。
【0054】
図8に示すごとく、噴孔延長線33LとZ方向に直交する方向に延びる直線Lとの間になす角度βは、45°超過、90°未満である。そして、噴孔延長線33Lを通る断面において、接地電極5、放電ギャップG、及び電極先端部41は、噴孔延長線33Lのプラグ先端側に配されている。
その他は、実施形態1と同様である。
【0055】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0056】
本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 スパークプラグ
2 副燃焼室
30 火花形成噴孔
33 噴孔
33L 噴孔延長線
4 中心電極
41 電極先端部
5 接地電極
G 放電ギャップ