(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】柱状型浮体、及び柱状型浮体製造方法
(51)【国際特許分類】
B63B 35/00 20200101AFI20240305BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20240305BHJP
B63B 35/34 20060101ALN20240305BHJP
B63B 35/44 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
B63B35/00 T
F03D13/25
B63B35/34 B
B63B35/44 J
(21)【出願番号】P 2020107012
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 誠
(72)【発明者】
【氏名】西郡 一雅
(72)【発明者】
【氏名】山田 理紗
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-141857(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0021019(US,A1)
【文献】中国特許第107532570(CN,B)
【文献】国際公開第2014/163032(WO,A1)
【文献】特開2011-207446(JP,A)
【文献】特開2014-055458(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0319276(US,A1)
【文献】国際公開第2016/091499(WO,A1)
【文献】特開2011-115829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
F03D 13/25
B63B 75/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体において、
中空の柱状である柱本体を、備え、
前記柱本体は、板面が平面である直面材を所定の屈折角で折り曲げた屈折材を周方向に複数連結することで形成され、断面形状が多角形であ
り、
また前記柱本体は、複数の前記屈折材が周方向に連結された分割体を、柱軸方向に複数連結することで形成され、
柱軸方向に隣接する前記分割体の連結位置どうしが不連続である、
ことを特徴とする柱状型浮体。
【請求項2】
前記柱本体の一端に設けられる縮径体を、さらに備え、
前記縮径体は、
前記直面材又は
前記屈折材を、周方向に複数連結することで形成されるとともに、前記柱本体から外方に向かって断面積が縮小する錐台形状であって、断面形状が該柱本体の断面形状と相似形である、
ことを特徴とする請求項1記載の柱状型浮体。
【請求項3】
浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体を製造する方法において、
母材から、板面が平面である直面材を切り出す切断工程と、
前記直面材を所定の屈折角に折り曲げて屈折材を得る屈折工程と、
複数の前記屈折材を、所定の交差角で突き合せて配置する配置工程と、
前記配置工程によって配置された前記屈折材どうしを溶接によって連結する連結工程と、を備え、
前記連結工程は、複数の前記屈折材が周方向に連結された分割体を形成する分割体形成工程と、複数の該分割体を柱軸方向に連結する分割体連結工程と、を含み、
前記分割体連結工程では、柱軸方向に隣接する前記分割体の連結位置どうしが不連続となるように連結し、
複数の前記
分割体を
柱軸方向に連結していくことで、中空の柱状である柱本体を製造する、
ことを特徴とする柱状型浮体製造方法。
【請求項4】
前記配置工程では、所定の交差角で形成される配置用治具を用い、前記屈折材の内周面側に該配置用治具を当接しながら該屈折材を配置する、
ことを特徴とする請求項3記載の柱状型浮体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体に関するものであり、より具体的には、断面形状が多角形である柱本体を備えた柱状型浮体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国における電力消費量は、2008年の世界的金融危機の影響により一旦は減少に転じたものの、オイルショックがあった1973年以降継続的に増加しており、1973年度から2007年度の間には2.6倍にまで拡大している。その背景には、生活水準の向上に伴うエアコンや電気カーペットといったいわゆる家電製品の普及、あるいはオフィスビルの増加に伴うOA(Office Automation)機器や通信機器の普及などが挙げられる。
【0003】
これまで、このような莫大な量の電力需要を主に支えてきたのは、石油、石炭等いわゆる化石燃料による発電であった。ところが近年、化石燃料の枯渇化問題や、地球温暖化に伴う環境問題が注目されるようになり、これに応じて発電方式も次第に変化してきた。その結果、先に説明した1973年頃には、石油、石炭による発電が全体の約90%を占めていたのに対し、2010年にその割合は66%まで減少している。代わりに増加したのが全体の約10%強(2010年)を占めている原子力発電である。原子力発電は、従来の発電方式に比べ温室効果ガスの削減効果が顕著であるうえ、低コストで電力を提供できることから、我が国の電力需要にも大きく貢献してきた。
【0004】
また、温室効果ガスの排出を抑制することができるという点において、再生可能エネルギーによる発電方式も採用されるようになっている。この再生可能エネルギーは、太陽光や風力、地熱、中小水力、木質バイオマスといった文字どおり再生することができるエネルギーであり、温室効果ガスの排出を抑え、また国内で生産できることから、有望な低炭素エネルギーとして期待されている。
【0005】
再生可能エネルギーのうち特に風力を利用した発電方式は、電気エネルギーの変換効率が高いという特長を備えている。一般に、太陽光発電の変換効率は約20%、木質バイオマス発電は約20%、地熱発電は10~20%とされているのに対して、風力発電は20~40%とされているように、他の発電方法よりも高効率でエネルギーを電気に変換できる。また、太陽光発電とは異なり昼夜問わず発電することができることも風力発電の特長である。このような特徴を備えていることもあって、風力発電は既にヨーロッパで主要な発電方法として多用され、我が国でも「エネルギーミックス」の取り組みにおいて2030年には電源構成のうち1.7%を担うことを目指している。
【0006】
風力発電はその設置場所によって陸上風力発電と洋上風力発電に大別され、このうち陸上風力発電は洋上風力発電に比べ設置が容易であり、したがってそのコストも抑えることができるといった特長を備えている。一方、洋上風力発電は、陸上風力発電が抱える騒音問題が生ずることがなく、また転倒等による被害リスクも回避でき、なにより陸上に比して大きな風力を安定的に得ることができるという特長を備えている。世界第6位の排他的経済水域を持つ我が国は、浮体洋上風力発電にとって適地であり、将来的には再生可能エネルギーの有望な産出地となり得ると考えられる。
【0007】
また洋上風力発電は、その設置場所によって異なる形式が採用され、50m以浅の海域では着床式洋上風力発電が適しており、50m以深の海域では浮体式洋上風力発電が適しているとされている。このうち浮体式洋上風力発電は、海水に浮かべる浮体を利用するものであり、係留索で繋がれた浮体上に発電機構を設置し、この発電機構によって発電する方式である。なお浮体形式には、ポンツーン形式(バージ形式)、セミサブ形式、スパー形式(柱状型)、緊張係留形式(TLP:Tension Leg Platform)などが挙げられ、大きな風力が得られるとされる陸域から離れた沖合では、主に柱状形式が採用される傾向にある。
【0008】
図11は、柱状形式の洋上風力発電施設を模式的に示す側面図である。この図に示すように柱状形式の洋上風力発電施設は、海中に浮かべる柱状型浮体(スパー型浮体)と、その上に設置されるタワーやローター、ナセルなどを含んで構成される。タワーはローターやナセルを支持する構造体であり、さらに柱状型浮体がタワーの基礎として機能している。そしてブレード(羽根)とハブからなるローターによって風を動力に変換し、増速機や発電機、変圧器などを含むナセルによって動力を電気に変換して、海底ケーブルを通じて陸域まで送電するわけである。なお柱状型浮体は、カテナリー(懸垂線)形状とされた係留索の自重によって係留されるのが一般的である。
【0009】
ところで従来の柱状型浮体は、特許文献1に示すようにその断面が円形の管形状(つまり円柱管)とされ、しかも鋼板を加工して製造するのが主流であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鋼製の円柱管(つまり、鋼管)は、その製法によって継目無鋼管(シームレス)や溶接鋼管などに分けられるが、柱状型浮体のように大口径(例えばφ10m以上)のものは鋼板を曲面状に成形したうえで溶接して形成する溶接鋼管を用いることになる。ここで、
図12を参照しながら柱状型浮体の製造工程について説明する。
【0012】
まず
図12(a)に示すように、母材となる大型の鋼板から所定の大きさの板片(以下、便宜上「切出部材」という。)を切り出す。この切出部材は、柱状型浮体を構成するいわばパーツであり、そのため柱状型浮体を構成する必要な数(一般的には1,000を超える)だけ繰り返し切り出される。なお、
図12(a)で切り出された状態の切出部材は、板面が「平面」の板材である。ここでいう「平面」とは、曲面でないという意味であって、3次元空間における平面の一般式で表されるか、あるいはそれに近似した形状を指す。便宜上ここでは、板面が平面である板材のことを特に「直面材」ということとする。
【0013】
切出部材を切り出すと、
図12(b)に示すように「鋼板曲げ加工」や「ローラー曲げ加工」といった手法を利用し、切出部材に対して曲げ加工を施していく。上記したとおり従来の柱状型浮体はその断面が円形であり、直面材である切出部材は円形の一部を構成するように曲げ加工が施されるわけである。もちろん、この曲げ加工は切り出されたすべての切出部材に対して行われる。なお便宜上ここでは、板面が曲面である板材のことを特に「曲面材」ということとする。
【0014】
切出部材に対する曲げ加工が施されると、
図12(c)に示すように型治具の上に曲面材である切出部材を配置し、溶接によって隣接する切出部材どうしを接合していく。そして、ひとまず所定長さの半断面の構造体(以下、「半断面分割体」という。)を形成する。また
図12(d)に示すように、別途用意した小組(リブ)を、半断面分割体の内周面に所定間隔で設置する。
【0015】
半断面分割体が形成されると、
図12(e)に示すように2つの半断面分割体を溶接によって接合し、円形断面の「分割体」を形成する。そして
図12(f)に示すように、複数の分割体を軸方向に連結することによって、柱状型浮体が完成する。
【0016】
このように柱状型浮体を製造するにあたっては、大量の鋼材を利用する必要があり、しかも多種多様な工程を行わなければならない。特に
図12(b)に示す曲げ加工は、板長が5mほどの大型材料(切出部材)に対して行われることから1日に1材料(1枚)程度しか加工できず、そのうえ大量の(例えば1,000を超える)切出部材に対して加工しなければならない。したがって曲げ加工には人件費や加工機の損料、燃料費など多額の費用が掛かり、すなわち曲げ加工が柱状型浮体の製造費用を押し上げる大きな要因となっていた。
【0017】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来に比して低コストかつ短期間で製造することができる柱状型浮体と、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、切出部材に対して曲げ加工を行うことなく、直面材のまま中空管体の柱本体を形成する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0019】
本願発明の柱状型浮体は、浮体式洋上風力発電施設を構成するものであって、中空の柱状である柱本体を備えたものである。この柱本体は、板面が平面である直面材を周方向に複数連結することで形成され、断面形状が多角形となるものである。
【0020】
本願発明の柱状型浮体は、複数の屈折材(直面材を所定の屈折角で折り曲げた部材)が周方向に連結された柱本体を備えたものとすることもできる。さらにこの場合の柱本体は、分割体(複数の屈折材が周方向に連結された部品)を柱軸方向に複数連結されたものとし、しかも柱軸方向に隣接する分割体の連結位置どうしが不連続であるものとすることもできる。
【0021】
本願発明の柱状型浮体は、柱本体の一端に設けられる縮径体をさらに備えたものとすることもできる。この縮径体は、複数の直面材あるいは屈折材を周方向に連結することで形成されるとともに、柱本体から外方に向かって断面積が縮小する錐台形状であって、断面形状が柱本体の断面形状と相似形となるものである。
【0022】
本願発明の柱状型浮体製造方法は、本願発明の柱状型浮体を製造する方法であって、切断工程と配置工程、連結工程を備えた方法である。このうち切断工程では、母材から直面材を切り出し、配置工程では、曲げ加工されていない複数の直面材を所定の交差角で突き合せて配置する。また連結工程では、配置工程によって配置された直面材どうしを溶接によって連結(接合)する。
【0023】
本願発明の柱状型浮体製造方法は、屈折工程をさらに備えた方法とすることもできる。この屈折工程では、直面材を所定の屈折角に折り曲げて屈折材を得る。この場合、配置工程では、複数の屈折材を所定の交差角で突き合せて配置し、連結工程では、配置工程によって配置された屈折材どうしを溶接によって連結する。さらにこの場合、連結工程が分割体形成工程と分割体連結工程を含んだ方法とすることもできる。分割体形成工程では、分割体を形成し、分割体連結工程では、複数の分割体を柱軸方向に連結する。このとき、柱軸方向に隣接する分割体の連結位置どうしが不連続となるように連結するとよい。
【0024】
本願発明の柱状型浮体製造方法は、所定の交差角で形成される配置用治具を用いる方法とすることもできる。この場合、配置工程では直面材あるいは屈折材の内周面側に配置用治具を当接しながら直面材あるいは屈折材を配置する。
【発明の効果】
【0025】
本願発明の柱状型浮体、及び柱状型浮体製造方法には、次のような効果がある。
(1)曲げ加工を省略できることから、従来に比して柱状型浮体の製造コストが大幅に低減される。その結果、柱状型浮体を調達しやすくなり、柱状型浮体の採用が拡大していくことが期待できる。
(2)曲げ加工にかかる作業者の負担を軽減することができることから、近年の慢性的な人材不足の問題の解決に貢献することができる。
(3)また曲げ加工に必要な燃料や電力など各種エネルギーの消費を低減することができことから、従来に比して環境に与える負荷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本願発明の柱状型浮体を模式的に示す斜視図。
【
図2】(a)は直面材を説明する平面図、(b)は直面材を説明する側面図。
【
図4】直面材を千鳥配置とした本願発明の柱状型浮体を模式的に示す斜視図。
【
図5】(a)は屈折材を説明する平面図、(b)は屈折材を説明する側面図。
【
図6】本願発明の柱状型浮体を模式的に示す斜視図。
【
図7】第1の実施形態における本願発明の柱状型浮体製造方法の主な工程を示すフロー図。
【
図8】第1の実施形態における本願発明の柱状型浮体製造方法の主な工程を示すステップ図。
【
図9】(a)は配置用治具を内周面側に当接しながら配置した2つの直面材を上方から見た平面図、(b)は交差角を調整する機能と従来の型治具の機能をあわせ持つ配置用治具に載置した直面材を示す側面図。
【
図10】第2の実施形態における本願発明の柱状型浮体製造方法の主な工程を示すフロー図。
【
図11】スパー形式の洋上風力発電施設を模式的に示す側面図。
【
図12】柱状型浮体の製造工程を模式的に示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の柱状型浮体(スパー型浮体)、及び柱状型浮体製造方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお本願発明の柱状型浮体は、浮体式洋上風力発電施設を構成するものとして利用する場合に特に好適に実施することができ、本願発明の柱状型浮体製造方法は、本願発明の柱状型浮体を製造する場合に特に好適に実施することができる。
【0028】
1.柱状型浮体
はじめに本願発明の柱状型浮体について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の柱状型浮体製造方法は、本願発明の柱状型浮体を製造する方法であり、したがってまずは本願発明の柱状型浮体について説明し、その後に本願発明の柱状型浮体製造方法について詳しく説明することとする。
【0029】
図1は、本願発明の柱状型浮体100を模式的に示す斜視図である。この図に示すように本願発明の柱状型浮体100は、柱本体110を含んで構成され、さらに縮径体120や底板130を含んで構成することもできる。以下、柱状型浮体100を構成する主な要素ごとに説明する。
【0030】
(柱本体)
柱本体110は、
図1に示すように断面寸法に比して軸(以下、「柱軸」という。)方向寸法の方が大きい長尺体であって内部は中空とされ、つまり外形は概ね管状を呈している。そして柱本体110は、複数の直面材FPによって形成されることを一つの特徴としている。
【0031】
図2は、直面材FPを説明する図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。この図に示すように直面材FPは、平面寸法に比して肉厚寸法が小さい板状の部材であって、その板面は概ね平面(平面含む)とされる。既述したとおりここでいう「平面」とは、曲面でないという意味であって、3次元空間における平面の一般式(ax+by+cz+d=0)で表される形状を指す。
【0032】
柱本体110は、例えば溶接接合によって複数の直面材FRを断面の周方向に連結することで形成される。そのため柱本体110の断面形状は、
図3に示すように多角形となる。なお
図3では、同じ幅を有する12の直面材FRによって正12角形が形成されているが、もちろんこれに限らず任意数のn角形(nは自然数)とすることができ、また正多角形(全辺長が等しい多角形)ではない多角形(各辺長が異なる)とすることもできる。また
図1からも分かるように柱本体110の柱軸長によっては、複数の直面材FRを断面周方向に連結した「分割体」(つまり1リング)を、柱軸方向に複数(図では12段)連結して形成するとよい。あるいは
図4に示すように、周方向に隣接する直面材FRの柱軸方向における配置高さが同じにならいないように(いわゆる千鳥配置としたうえで)、柱軸方向に複数連結して形成することもできる。
【0033】
柱本体110は、直面材FRに代えて屈折材RPによって形成することもできる。
図5は、屈折材RPを説明する図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。この図に示すように屈折材RPは、直面材FPを所定の屈折角で折り曲げた板材である。ここで所定の屈折角とは、複数の屈折材RPによって目的とする柱状型浮体100の断面形状(多角形)が完成するための角度(つまり多角形の内角)であって、例えば
図3に示す正12角形であれば、屈折材RPの屈折角は150°となる。なお屈折材RPは、
図5に示すように折り曲げ箇所(以下、「屈折線」という。)が1個所のもの(つまり、2面の直面材FPからなるもの)に限らず、屈折線が2個所以上のもの(つまり、3面以上の直面材FPからなるもの)とすることもできる。
【0034】
屈折材RPによって形成される柱本体110は、屈折加工を要しない直面材FPによって形成されるケースに比べるとやや手間がかかるものの、従来の曲げ加工に比べると大幅にその手間は低減され、また溶接個所が少なくなるという利点もある。
【0035】
図6に示すように、屈折材RPによって形成された柱本体110の柱軸長によっては、複数の屈折材RPを断面周方向に連結した「分割体」(つまり1リング)を、柱軸方向に複数(図では部分的に示す4段)連結して形成するとよい。このとき、柱軸方向に隣接する分割体の連結位置(つまり、溶接ラインWL)どうしが連続する(繋がる)いわゆる「いも継ぎ」は避け、
図6に示すように柱軸方向(図では上下)に隣接する分割体の溶接ラインWLどうしが不連続となる(ずれた)いわゆる「千鳥配置」にするとよい。一般的に溶接個所は他の部分と比べて構造上の弱点となりやすく、
図6に示すように溶接ラインWLを千鳥配置とすることで全体的な構造脆弱性を緩和することができるわけである。なお分割体は、屈折材RPのみによって形成することもできるし、屈折材RPと直面材FRを組み合わせて形成することもできる。
【0036】
(縮径体)
縮径体120は、ローターやナセルを支持するタワー(
図11)と連結されるもので、柱本体110の太径からタワーの細径に変更するためのいわば調整区間である。そのため縮径体120は、
図1に示すように、使用時(海中設置時)における柱本体110の上端に設けられ、また柱本体110から柱軸方向の外側(図では上側)に向かって断面積が縮小する錐台形状(つまりテーパー形状)とされる。
【0037】
縮径体120は、柱本体110と同様、複数の直面材FRを断面周方向に連結することで形成される。より詳しくは、柱本体110から柱軸方向の外側(図では上側)に向かって内側(中心側)に傾斜するように直面材FRを配置したうえで周方向に連結された構成である。そのため縮径体120の断面形状は、多角形となり、しかも柱本体110の断面形状と相似形にするとよい。また
図1からも分かるように縮径体120の柱軸長によっては、複数の直面材FRを周方向に連結した構造体(つまり1リング)を、柱軸方向に複数(図では2段)連結して形成するとよい。また縮径体120は、柱本体110と同様、直面材FRに代えて屈折材RPによって形成することもできるし、屈折材RPと直面材FRを組み合わせて形成することもできる。
【0038】
(底板)
柱状型浮体110は、使用時に海面付近で浮かぶ必要があることから、浮力を受ける構造とされる。したがって、使用時における柱本体110の下端には底板130が設けられる。底板130で封鎖することによって、柱状型浮体110の内部への海水の進入を防ぎ、すなわち柱状型浮体110内部と海中との圧力差を生じさせるわけである。なお底板130は、平面視で多角形とし、さらに柱本体110の断面形状と相似形にするとよい。
【0039】
2.柱状型浮体製造方法
続いて本願発明の柱状型浮体製造方法について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の柱状型浮体製造方法は、ここまで説明した柱状型浮体100を製造する方法であり、したがって柱状型浮体100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の柱状型浮体製造方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.柱状型浮体」で説明したものと同様である。
【0040】
また本願発明の柱状型浮体製造方法は、直面材FRによって柱状型浮体110を形成する形態(以下、「第1の実施形態」という。)と、屈折材RPによって(あるいは屈折材RPと直面材FRを組み合わせて)柱状型浮体110を形成する形態(以下、「第2の実施形態」という。)に大別することができる。以下、それぞれ実施形態ごとに順に説明していく。
【0041】
(第1の実施形態)
図7は、第1の実施形態における本願発明の柱状型浮体製造方法の主な工程を示すフロー図であり、
図8は、第1の実施形態における本願発明の柱状型浮体製造方法の主な工程を示すステップ図である。
【0042】
まず
図8(a)に示すように、母材となる大型の鋼板から所定の大きさの板片(切出部材)を切り出す(
図7のStep101)。この切断工程では、本願発明の柱状型浮体100を構成する必要な切出部材の数(一般的には1,000を超える)だけ繰り返し切り出される。なお、
図8(a)で切り出された状態の切出部材は直面材FPであることから、以下では切出部材のことを直面材FPということとする。
【0043】
直面材FPを切り出すと、
図8(b)に示すように例えば型治具の上に直面材FPを配置していく(
図7のStep102)。このとき、隣接する2つの直面材FPが所定の交差角となるように突き合せて配置する。ここで所定の交差角とは、複数の直面材FPによって目的とする柱状型浮体100の断面形状(多角形)が完成するための角度(つまり多角形の内角)であって、例えば
図3に示す正12角形であれば、隣接する2つの直面材FPの交差角は150°となる。なお本願発明における配置工程では、直面材FPをそのまま配置していくことが肝要であり、すなわち従来技術のように直面材FPを曲げ加工(
図12(b))することなく(つまり曲面材に加工することなく)直面材FPを配置していく。これにより柱状型浮体100の製造コストを、従来に比して大幅に低減することができるわけである。
【0044】
ところで、目視によって所定の交差角となるように直面材FPを配置することは容易ではない。そこで
図9(a)に示すように、配置用治具ATを用いて隣接する2つの直面材FPを配置するとよい。この配置用治具ATは、所定の交差角(例えば
図3の場合は150°)が形成されており、したがってこの配置用治具ATを直面材FPの内周面側に当接しながら配置すると、隣接する2つの直面材FPが所定の交差角で突き合せられるわけである。この場合、直面材FPを床面上に、しかもその板面が略鉛直(鉛直含む)姿勢となるように配置すると、配置用治具ATを当接した状態での位置調整が比較的容易となる。ただし、直面材FPが転倒しないようにクレーン等で吊上げた状態とし、かつ直面材FPの前面と背面からサポート材で支持しておくとよい。
【0045】
あるいは
図9(b)に示す配置用治具ATを用いて隣接する2つの直面材FPを配置することもできる。
図9(b)に示す配置用治具ATにも、所定の交差角(例えば
図3の場合は150°)が形成されており、この図に示すように複数(図では5つ)の直面材FPを配置用治具ATの上に載置するだけで、自動的に隣接する2つの直面材FPが所定の交差角で突き合せられるわけである。つまり
図9(b)に示す配置用治具ATは、交差角を調整する機能と、従来の型治具の機能をあわせ持つ治具である。ただし、
図12(c)に示すように従来の型治具は切出部材(曲面材)の内周面が上方となるように載置するものであるのに対して、
図9(b)に示す配置用治具ATは直面材FPの外周面が上方となるように載置するものである。
図9(a)からも分かるように、隣接する2つの直面材FPを突き合せるとその外周面側にいわば「開先」が設けられることとなり、したがって
図9(b)に示す配置用治具ATに直面材FPを載置すると、その状態のまま次工程の連結(溶接接合)工程を行うことができるわけである。
【0046】
直面材FPが配置されると、溶接等によって隣接する切出部材どうしを接合(連結)し(
図7のStep103)、ひとまず半断面分割体(所定長さの半断面の構造体)を形成する。また
図8(c)に示すように、別途用意した小組(リブ)を半断面分割体の内周面に所定間隔で設置する(
図7のStep104)。半断面分割体が形成されると、
図8(d)に示すように2つの半断面分割体を溶接等によって接合し、多角形断面の「分割体」(つまり1リング)を形成する(
図7のStep105)。そして
図8(e)に示すように、複数(図では4段)の分割体を軸方向に連結することによって柱本体110を形成する(
図7のStep106)。
【0047】
さらに、柱本体110と同様の工程で形成された縮径体120を柱本体110の一端(上端)に取り付け(
図7のStep107)、柱本体110他端(下端)を封鎖するように底板130を固定して(
図7のStep108)、本願発明の柱状型浮体100が完成する。
【0048】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態における本願発明の柱状型浮体製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【0049】
まず、第1の実施形態と同様、母材となる大型の鋼板から直面材FPを切り出す(
図10のStep201)。直面材FPを切り出すと、この直面材FPを所定の屈折角で折り曲げて屈折材RPを得る(
図10のStep202)。この折り曲げ工程は、切り出された直面材FPの数だけ繰り返し行われる。
【0050】
屈折材RPが得られると、第1の実施形態と同様、屈折材RPを配置していき(
図10のStep203)、溶接等によって隣接する屈折材RPどうしを接合(連結)する(
図10のStep204)ことで、ひとまず半断面分割体を形成する。また、別途用意した小組(リブ)を半断面分割体の内周面に所定間隔で設置する(
図10のStep205)。半断面分割体が形成されると、2つの半断面分割体を溶接等によって接合し、多角形断面の分割体を形成する(
図10のStep206)。そして、複数(図では4段)の分割体を軸方向に連結することによって柱本体110を形成する(
図10のStep207)。このとき、
図6に示すように柱軸方向に隣接する分割体の溶接ラインWLどうしが不連続となる(千鳥配置となる)ように連結していくとよい。
【0051】
さらに、柱本体110と同様の工程で形成された縮径体120を柱本体110の一端(上端)に取り付け(
図10のStep208)、柱本体110他端(下端)を封鎖するように底板130を固定して(
図10のStep209)、本願発明の柱状型浮体100が完成する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願発明の柱状型浮体、及び柱状型浮体製造方法は、50m以深の海域における浮体式洋上風力発電に特に好適に利用することができる。本願発明によれば低コストで浮体式洋上風力発電施設を構築することができることから、洋上風力発電に対するより積極的な動機を期待することができ、ひいては温室効果ガスの排出を抑えたうえで安定的にエネルギーを供給することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0053】
100 本願発明の柱状型浮体
110 (柱状型浮体の)柱本体
120 (柱状型浮体の)縮径体
130 (柱状型浮体の)底板
AT 配置用治具
FP 直面材
RP 屈折材
WL 溶接ライン