(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】トルクセンサの出力調整方法、及び、トルクセンサの組立方法
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G01L3/10 305
(21)【出願番号】P 2020117679
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大林 周平
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-098534(JP,A)
【文献】特開2010-185815(JP,A)
【文献】特開2010-002382(JP,A)
【文献】特開2016-194488(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0090051(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10
B62D 5/04
G01B 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの軸間にて伝達されるトルクに応じて捩れ変形するトーションバーと、
前記トーションバーの一端側の軸に固定される磁気発生部と、前記トーションバーの他端側の軸に固定される磁気回路部と、
前記磁気発生部と前記磁気回路部との相対的な回転方向の位置関係に応じて前記磁気回路部から導かれる磁束密度を検知し、前記磁束密度の変化に応じて出力をする磁気検出素子と、を備えたトルクセンサの出力調整方法であって、
前記磁気発生部または前記磁気回路部の一方を前記軸に固定し、他方を前記軸の軸方向における第1位置で、軸周りに回転させながら、前記一方に対する回転方向の位置と前記磁気検出素子の出力との関係を示す第1出力応答特性を求め、
前記他方を、軸方向における前記第1位置とは異なる第2位置で、軸周りに回転させながら、前記一方に対する回転方向の位置と前記磁気検出素子の出力との関係を示す第2出力応答特性を求め、
前記第1出力応答特性と前記第2出力応答特性との交点における、前記他方の前記一方に対する回転方向の位置を、前記磁気回路部から前記磁気検出素子に導かれる磁束密度が零となる磁気中立の位置として定める、
ことを特徴とするトルクセンサの出力調整方法。
【請求項2】
前記第1出力応答特性と前記第2出力応答特性との交点における前記磁気検出素子の出力値と、前記磁気中立として設定する出力値との差をオフセット補正値として、前記磁気検出素子の出力値に加算することを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサの出力調整方法。
【請求項3】
前記一方が前記磁気回路部であり、前記他方が前記磁気発生部であることを特徴とする請求項1または2に記載のトルクセンサの出力調整方法。
【請求項4】
二つの軸間にて伝達されるトルクに応じて捩れ変形するトーションバーと、
前記トーションバーの一端側の軸に固定される磁気発生部と、前記トーションバーの他端側の軸に固定される磁気回路部と、
前記磁気発生部と前記磁気回路部との相対的な回転方向の位置関係に応じて前記磁気回路部から導かれる磁束密度を検知し、前記磁束密度の変化に応じて出力をする磁気検出素子と、を備えたトルクセンサの組立方法であって、
前記トーションバーにトルクを伝達させない状態で、前記磁気回路部を前記トーションバーの他端側の軸に固定し、
前記トーションバーにトルクを伝達させない状態で、請求項3に記載のトルクセンサの出力調整方法で、前記磁気中立の位置を定め、
前記トーションバーの一端側の軸において、前記磁気中立と定めた前記磁気回路部に対する回転方向の位置に、前記磁気発生部を固定することを特徴とするトルクセンサの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクセンサの出力調整方法、及び、トルクセンサの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルクセンサとして、特許文献1に開示されたものは、ハウジング内に回転可能に収容されるトーションバーと、このトーションバーの両端に連結される第一、第二シャフトと、第一シャフトに固定される磁気発生部(磁石)と、第二シャフトに固定される回転磁気回路部と、ハウジングに固定される固定磁気回路部と、この固定磁気回路部に導かれる磁束密度を検出する磁気検出器(磁気センサ)とを備える。
トーションバーに働くトルクによって、トーションバーが捩れ変形すると、磁気発生部と回転磁気回路部との回転方向の相対位置が変化し、これに伴って磁気発生部から回転磁気回路部を介して固定磁気回路部に導かれる磁束密度が変化し、磁気センサが、この磁束密度に応じた信号を出力し、この信号に基づいてトーションバーに働くトルクが検出される。
トルクセンサの製造時においては、トーションバーにトルクが働かない中立状態(メカ中立)で、磁気発生部の回転位置を、磁気発生部から回転磁気回路部に導かれる磁束密度が零になる中立位置(磁気中立)に設定する調整が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁気中立の位置は、磁気発生部である磁石を見ても直接分からないため、メカ中立に対する磁気中立の位置にズレが生じてしまう場合があった。そのようなメカ中立に対する磁気中立の位置にズレが生じた場合、温度変化による磁石の減磁に起因する磁束密度の減少によって出力電圧の勾配(ゲイン)が減少すると、メカ中立における磁気センサの出力が変動してしまう(オフセット変動)。このため、磁束密度に応じた信号を出力する磁気センサの検出精度が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、磁気中立の位置を定めて磁気中立とメカ中立を合わせると共に、トルクセンサにおける温度変化によるオフセット変動を最小化するトルクセンサの出力調整方法、トルクセンサの組立方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、二つの軸間にて伝達されるトルクに応じて捩れ変形するトーションバーと、トーションバーの一端側の軸に固定される磁気発生部と、トーションバーの他端側の軸に固定される磁気回路部と、磁気発生部と磁気回路部との相対的な回転方向の位置関係に応じて磁気回路部から導かれる磁束密度を検知し、磁束密度の変化に応じて出力をする磁気検出素子と、を備えたトルクセンサの出力調整方法であって、磁気発生部または磁気回路部の一方を軸に固定し、他方を軸の軸方向における第1位置で、軸周りに回転させながら、一方に対する回転方向の位置と磁気検出素子の出力との関係を示す第1出力応答特性を求め、他方を、軸方向における第1位置とは異なる第2位置で、軸周りに回転させながら、一方に対する回転方向の位置と磁気検出素子の出力との関係を示す第2出力応答特性を求め、記第1出力応答特性と第2出力応答特性との交点における、他方の一方に対する回転方向の位置を、磁気回路部から磁気検出素子に導かれる磁束密度が零となる磁気中立の位置として定めるトルクセンサの出力調整方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁気中立の位置を定めて磁気中立とメカ中立を合わせると共に、トルクセンサにおける温度変化によるオフセット変動を最小化するトルクセンサの出力調整方法、トルクセンサの組立方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である 。
【
図2】実施形態のトルクセンサの一例の斜視図である。
【
図5】(a)~(c)は実施形態のトルクセンサの動作を説明するための磁気回路の概略図である。
【
図6】磁気センサICとコントローラの機能構成例のブロック図である。
【
図7】モータ制御部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図8】温度変化による、トルクセンサの出力応答特性を示す線図である。
【
図9】(a)、(b)は、磁気中立を定める場合の、磁気回路部と磁気発生部の位置関係を示す概略構成図である。
【
図10】
図9(a)、(b)の場合における、出力応答特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0010】
本実施形態の電動パワーステアリング装置の構成例を
図1に示す。操向ハンドル1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
【0011】
操舵軸2には、本実施形態のトルクセンサ10が設けられている。トルクセンサ10は操舵軸2に加えられる操舵トルクThを検出する。トルクセンサ10の詳細は後述する。さらに操舵軸2には、操向ハンドル1の操舵力を補助する操舵補助モータ20が、減速ギア3を介して連結されている。
電動パワーステアリング(EPS:Erectoric Power Steering)装置を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)であるコントローラ30には、バッテリ31から電力が供給されるとともに、イグニション(IGN)キー32を経てイグニションキー信号が入力される。なお、操舵補助力を付与する手段は、モータに限られず、様々な種類のアクチュエータを利用可能である。
【0012】
コントローラ30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ9で検出された車速Vhとに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによって操舵補助モータ20に供給する電流を制御する。
コントローラ30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
【0013】
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモりを含んでよい。
なお、本実施形態のトルクセンサ10を、ステアリングホイールと転舵輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ(S B W :Steer-By-Wire)式の車両操向装置に使用してもよい。例えば、車両操向装置は、車両の操舵系に付与する操舵反力を発生させる反力アクチュエータと、操舵トルクThに応じて反力アクチュエータを駆動制御する制御部を備えてもよい。
【0014】
また、本実施例のEPSは、操舵軸2に減速ギア3と操舵補助モータ20、トルクセンサ10を組付けたコラムアシスト式のEPSであるが、減速ギア3と操舵補助モータ20、トルクセンサ10を操舵軸2下部のピニオン5aに組付けたピニオン式、または、減速ギア3と操舵補助モータ20、トルクセンサ10をラック5bに組付けたラック式であっても構わない。
【0015】
次に、本実施形態のトルクセンサ10について説明する。
図2、
図3、
図4を参照する。トルクセンサ10は、操舵軸2の入力軸2inと出力軸2outとの間に連結されたトーションバー16を備える。トーションバー16の第1端部170が出力軸2outに連結され、トーションバー16の第2端部171が入力軸2inに連結されている。
さらに、トルクセンサ10は、本発明の磁気発生部であって永久磁石である多極リング磁石11と、リング状のステータ12及び13と、集磁ヨーク14a及び14bと、磁気センサ15を備える。
【0016】
多極リング磁石11は、トーションバー16の第2端部171又は入力軸2inに取り付けられる。すなわち、多極リング磁石11は、トーションバー16の第2端部171側に固定される。
多極リング磁石11は、トーションバー16と同軸に配置され、軸線を中心とする周方向に異なる磁極であるS極とN極(図において、グレー色がN極を表す。)が交互に配置されている。これら磁極対は等角度ごとに配置されおり、隣接する磁極対が各々配置される角度位置の角度差はΔθである。
【0017】
ステータ12及び13は組立体であってステータユニット19を構成し、ハブ18を介してトーションバー16の第1端部170又は出力軸2outに取り付けられる。すなわち、トーションバー16の第1端部170側に固定される。また、ステータ12及び13の外周面に対向して、集磁ヨーク14a及び14b、及び磁気センサ15が、図示しない静止部材(ハウジング)に固定されている。尚、ステータユニット19は本発明の磁気回路部を構成する。
【0018】
多極リング磁石11から発生した磁束はステータ12及び13により集約されて、集磁ヨーク14a及び14bによって磁気センサ15へ導かれ、磁気センサ15で検出される。ステータ12及び13、集磁ヨーク14a及び14b、及び磁気センサ15により形成される組立体は、磁気検出部である。
ステータ12は、例えば軟磁性材料からなり、多極リング磁石11と同軸に配置される円環部12aと、円環部12aの内周端から軸方向に伸びる複数の歯部12bを有している。円環部12aの内径は、多極リング磁石11の外径よりも大きく設定されている。
【0019】
歯部12bは、軸線を中心とする周方向に等角度で配置されており、隣接する歯部12bが各々配置される角度位置の角度差はΔθである。このため、歯部12bの総数は多極リング磁石11の磁極対数と等しい。
同様に、ステータ13は、例えば軟磁性材料からなり、多極リング磁石11と同軸に配置される円環部13aと、円環部13aの内周端から軸方向に伸びる複数の歯部13bを有している。ステータ13の円環部13aの内径及び外径は、ステータ12の円環部12aの内径及び外径と等しい。
【0020】
歯部13bは、軸線を中心とする周方向に等角度で配置されており、隣接する歯部13bが各々配置される角度位置の角度差はΔθである。このため、歯部13bの総数は多極リング磁石11の磁極対数や、ステータ12の歯部12bの総数と等しい。
周方向に沿った歯部12b、13bの幅はW1であり、隣接する歯部12b間の間隔W2や隣接する歯部13b間の間隔W2よりも狭く設定されている。そして、ステータ12の歯部12bを、ステータ13の歯部13b間の間隔の間に配置し、ステータ12の歯部13bを、ステータ12の歯部12b間の間隔の間に配置する。すなわち、対向する円環部12aと円環部13aとの間に、ステータ12の歯部12bとステータ13の歯部13bを周方向に沿って交互に配置する。
【0021】
具体的には、ステータ13の隣接する歯部13b間の間隔の周方向中央にステータ12の歯部12bを配置し、ステータ12の隣接する歯部12b間的間隔の周方向中央にステータ13の歯部13bを配置する。そして、多極リング磁石11の外周面と歯部12b及び歯部13bの内周面とが互いに対向するように、対向する円環部12aと円環部13aとの間に多極リング磁石11を配置する。
集磁ヨーク14aは、例えばL字状に形成された軟磁性材料からなり、一端が空隙を空けて円環部12aの端面に対向し、他端は空隙を空けて集磁ヨーク14bの他端と対向している。集磁ヨーク14bも同様に、L字状に形成された軟磁性材料からなり、一端が空隙を空けて円環部13aの端面に対向し、他端は空隙を空けて集磁ヨーク14aの他端と対向している。そして、磁気回路部を構成するステータユニット19は、集磁ヨーク14aの一端と集磁ヨーク14bの一端との間の空隙に配置され、また、磁気センサ15は、集磁ヨーク14aの他端と集磁ヨーク14bの他端との間に配置される。
【0022】
これにより、多極リング磁石11から発生した磁束をステータ12及び13で集約し、さらに集磁ヨーク14a及び14bによって磁気センサ15へ導くことができる。尚、
図3は理解を容易にするため、多極リング磁石11が、軸方向において、ステータ12の歯部12bの先端、及び、ステータ13の歯部13bの先端から露出するように描かれているが、実際は、歯部12bの先端、及び、歯部13bの先端は、多極リング磁石11を覆うように軸方向に伸びている。従って、ステータ12及び13は、多極リング磁石11から発せられる磁束を効率的に取り込むことができる構造となっている。
図5、
図9においても同様である。
【0023】
磁気センサ15は、冗長系を形成するため、二つの磁気センサIC150、160が設けられている。磁気センサIC150は、磁束密度を検知して、磁束密度の変化に応じた信号を出力する複数の磁気検出素子を含む。磁気検出素子は、例えばHall素子であってよい。また、同様に、磁気センサIC160は、磁束密度を検知して、磁束密度の変化に応じた信号を出力する複数の磁気検出素子を含む。磁気検出素子は、例えばHall素子であってよい。
【0024】
以上のように、ステータ12及び13(ステータユニット19)、並びに集磁ヨーク14a及び14bは、多極リング磁石11により生じた磁界内に配置されて、多極リング磁石11により生じた磁束が通る磁気回路を形成する。
トーションバー16のねじれ変形によって多極リング磁石11との相対的な位置関係が変化することに伴って、磁気回路に発生する磁束量が変化する。磁束密度の変化を第1磁気検出素子151a、第2磁気検出素子151bにより検出することで、トーションバー16に加わるトルクを測定することができる。
【0025】
次に、
図5(a)~
図5(c)を参照してトルクセンサ10の動作を説明する。トーションバー16の第1端部170と第2端部171との間の相対角度が0の場合(
図5の(a))には、ステータ12及び13の歯部12b及び歯部13bの周方向の中心位置が多極リング磁石11のN極とS極との境界位置と一致するように配置されている。
このため、多極リング磁石11のN極から出た磁束は、歯部12b及び歯部13bを通って多極リング磁石11のS極に戻り、磁気センサIC150を通らない構成、すなわち、磁気中立の状態となっている。
【0026】
一方で、
図5の(b)に示すように、トーションバー16の第1端部170と第2端部171との間の相対角度が0°でなく、ステータ12の歯部12bが多極リング磁石11のN極に近付き、ステータ13の歯部13bが多極リング磁石11のS極に近付くと、多極リング磁石11のN極から出た磁束が、ステータ12の歯部12bから円環部12aに入り、集磁ヨーク14aで導かれて磁気センサIC150を通る。その後、集磁ヨーク14b、ステータ13の円環部13aから歯部13bを通って、多極リング磁石11のS極に戻る。
【0027】
反対に、
図4の(c)に示すように、ステータ12の歯部12bが多極リング磁石11のS極に近付き、ステータ13の歯部13bが多極リング磁石11のN極に近付くと、磁束は反対向きに磁気センサIC150を通る。
このように、トーションバー16の第1端部170と第2端部171との間にねじりトルクが作用すると、ステータ12、13と多極リング磁石11との相対角度が変位するので、回転角度に応じた磁束を磁気センサIC150の第1磁気検出素子151a、第2磁気検出素子151bで検出することによって、ねじりトルクを測定することができる。
【0028】
図6を参照して、磁気センサIC150及び磁気センサIC160とコントローラ30の機能構成の一例を説明する。尚、磁気センサIC160の各構成要素は、磁気センサIC150の各構成要素と共通しているため、特別な場合を除き、磁気センサIC160についての説明は省略する。磁気センサIC150は、同じ構成を有する2つのダイ150a及び150b、動作確認部157を有する。一方のダイ150aは、第1磁気検出素子151aと、AD変換器(アナログディジタル変換器:Analog-to-Digital Converter)152aと、較正部153aと、記憶部154aを備える。較正部153aは、オフセット補正部155aとゲイン補正部156aを有して、AD変換器152aからの出力を補正して、0~4095の値を有する12bitの信号を出力する。
【0029】
第1磁気検出素子151aは、磁気回路を通る磁束を検知して、検知した磁束に応じた電圧値を出力する。AD変換器152aは、第1磁気検出素子151aから出力された電圧値をディジタル信号に変換する。ゲイン補正部156aは、AD変換器152aを介した第1磁気検出素子151aからの出力に、記憶部154aに設定されたゲインを乗じて増幅する。オフセット補正部155aは、ゲイン補正部156aの乗算結果に、記憶部154aに設定されたオフセット補正値を加算する。オフセット補正値の値は、磁束密度が0の場合(磁気中立)において、較正部153aからの出力の値が磁気中立を示す2047となるように設定する。較正部153aで補正された第1磁気検出素子151aに基づく出力は、操舵トルクThとして動作確認部157へ出力される。
ダイ150aと同様に、他方のダイ150bは、第2磁気検出素子151bと、AD変換器152bと、較正部153bと、記憶部154bを備え、較正部153bは、オフセット補正部155bとゲイン補正部156bを有して、AD変換器152bからの信号を補正する。
【0030】
第2磁気検出素子151bは、磁気回路を通る磁束を検知して、検知した磁束に応じた電圧値を出力する。AD変換器152bは、第2磁気検出素子151bから出力された電圧値をディジタル信号に変換する。ゲイン補正部156bは、AD変換器152bを介した第2磁気検出素子151bからの出力に、記憶部154bに設定されたゲインを乗じて増幅する。オフセット補正部155bは、ゲイン補正部156bの乗算結果に、記憶部154bに設定されたオフセット補正値を加算する。オフセット補正値の値は、磁束密度が0の場合(磁気中立)において、較正部153bからの出力の値が磁気中立を示す2047となるように設定する。較正部153bで補正された第2磁気検出素子151bに基づく出力は、操舵トルクThとして動作確認部157へ出力される。
【0031】
動作確認部157は、較正部153aにおいて補正された第1磁気検出素子151aに基づく出力と、較正部153bにおいて補正された第2磁気検出素子151bに基づく出力が同一か、同一でないかを判定し、同一の場合は、第1磁気検出素子151aに基づく出力をコントローラ30へ出力する。同一でない場合は、同一でない旨の信号をコントローラ30へ出力する。
磁気センサIC160の動作確認部167も、動作確認部157と同様に、較正部163aにおいて補正された第1磁気検出素子161aに基づく出力と、較正部163bにおいて補正された第2磁気検出素子161bに基づく出力とが同一か、同一でないかを判定し、同一の場合は、第1磁気検出素子161aに基づく出力をコントローラ30へ出力する。同一でない場合は、同一でない旨の信号をコントローラ30へ出力する。
【0032】
コントローラ30は、選択部35と、モータ制御部36を備える。動作確認部157及び動作確認部167からの信号は選択部35に入力される。選択部35は、動作確認部157から第1磁気検出素子151aに基づく出力が入力された場合は、第1磁気検出素子151aに基づく出力をモータ制御部36に出力する。選択部35は、動作確認部157から同一でない旨の信号が入力され、動作確認部167から第1磁気検出素子161aに基づく出力が入力された場合は、第1磁気検出素子161aに基づく出力をモータ制御部36に出力する。
【0033】
モータ制御部36は、選択部35から入力された第1磁気検出素子151aに基づく出力である操舵トルクTh、または、第1磁気検出素子161aに基づく出力である操舵トルクThと、車速センサ9で検出された車速Vhとに基づいて操舵補助モータ20の駆動電流を制御する。
図7に、モータ制御部36の機能構成の例を示す。操舵トルクTh及び車速Vhは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部41に入力される。電流指令値演算部41は、入力された操舵トルクTH及び車速Vhに基づいてアシストマップ等を用いて、操舵補助モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。
【0034】
電流指令値Iref1は加算部42Aを経て電流制限部43に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部42Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差ΔI(=Irefm-Im)が演算され、その偏差ΔIが操舵動作の特性改善のためPI(比例積分)制御部45に入力される。PI制御部45で特性改善された電圧制御指令値VrefがPMW制御部46に入力され、更に駆動部としてのインバータ47を介して操舵補助モータ20がPWM駆動される。操舵補助モータ20の電流値Imはモータ電流検出器48で検出され、減算部42Bにフィードバックされる。
【0035】
加算部42Aには補償信号生成部44からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によって操舵システム系の特性補償を行い、収れん性や貫性特性等を改善するようになっている。補償信号生成部44は、セルフアライニングトルク(SAT)44-3と慣性44-2を加算部44-4で加算し、その加算結果に更に収れん性44-1を加算部44-5で加算し、加算部44-5の加算結果を補償信号CMとしている。
このようなトルクセンサでは、上述した問題、すなわち、磁気中立の位置は目視で分からないため、多極リング磁石11とステータ12及び13とをトーションバー16に取り付けた際に、メカ中立と磁気中立の位置とがズレることがあるという問題があった。
図8を参照してこの問題を説明する。
【0036】
図8は、ステータユニット19と磁気センサIC150との軸回転方向における相対角と、磁気センサIC150の出力との関係(出力応答特性)に関し、温度変化による影響を示したものである。
図8に示したグラフの縦軸は、磁気センサIC150の出力を示し、横軸は、ステータユニット19と磁気センサIC150の軸回転方向における相対角を示す。T1は常温における出力応答特性、T2は常温よりも高温、もしくは、低温の場合の出力応答特性、T3は、T2を超える高温、もしくは、低温の場合を示す。
【0037】
ここでは、真の磁気中立の状態において、磁気センサIC150が常温で磁気中立を示す値2047を出力していない場合を想定する。
このため、常温でメカ中立において磁気センサIC150の出力値が2047となるように多極リング磁石11とステータ12及び13とをトーションバー16に取り付けると、メカ中立と磁気中立との間にズレが発生する。
図8の例は、メカ中立においてステータユニット19と磁気センサIC150との相対角が0[deg]であり、メカ中立と磁気中立とがズレている状態を示す。
【0038】
このようにメカ中立と磁気中立とがズレていると、温度変化によってメカ中立における出力にオフセットが生じてしまうという問題が発生する。すなわち、永久磁石である多極リング磁石11は、常温よりも高温、もしくは、低温になると減磁する。従って、T2はT1よりもゲインが小さくなり、T3はT2よりもゲインが小さくなる。
そのため、常温においては、メカ中立の状態で磁気センサIC150の出力値は磁気中立を示す値2047となるが、常温よりも高温もしくは低温となると、磁気中立を示す値2047とはならず、メカ中立における出力にオフセットが生じる。
【0039】
そこで本願発明の発明者は、真の磁気中立の状態では磁気センサIC150に磁束が流れないため、温度変化の影響を受けることなく磁気センサIC150の出力値が一定となることに着目した。そのため、以下で説明するトルクセンサ10の出力調整方法で磁気中立を定めることによって、メカ中立の位置で出力のオフセットが発生してしまうことを抑制することができる。
磁気発生部である多極リング磁石11から磁気回路部であるステータユニット19に導かれる磁束密度が零になる中立位置(磁気中立)と、磁気中立における磁気センサIC150の出力調整(トルクセンサ10の出力調整方法)、および、トルクセンサ10の組立方法について説明する。
【0040】
このトルクセンサ10の出力調整方法は、ステータユニット19に対する磁気センサIC150の相対的な回転方向の位置と磁気センサIC150の出力との関係が、ステータユニット19に対する磁気センサIC150の相対的な軸方向の位置が変化すると磁気センサIC150の出力は変化するが、磁気中立の位置では、磁気センサIC150に磁束が流れないため、ステータユニット19に対する磁気センサIC150の相対的な軸方向の位置が変化しても、
図8で説明した温度変化が生じた場合と同様に、磁気センサIC150の出力は変化しない、といことに基づくものである。
【0041】
トルクセンサ10の出力調整方法は、
図9、
図10に基づき、以下の手順で行われる。
図9は、ステータユニット19に対する磁気センサIC150の相対的な軸方向の位置関係を示し、
図10は、ステータユニット19と磁気センサIC150の軸回転方向における相対角(横軸)と、磁気センサIC150の出力(縦軸)との関係を示す図である。
【0042】
(1)
図9(a)に示すように、ステータユニット19をトーションバー16の第1端部170の軸方向における所定位置に固定する。
(2)多極リング磁石11をトーションバー16の第2端部171の軸方向において、ステータユニット19における第1端部170側の端面からD1の位置に仮固定する。
(3)多極リング磁石11のステータユニット19に対する回転方向における相対角度(deg)が分かるように互いにマークを付し、マークした最初の位置を回転方向における相対角度の仮の原点として、多極リング磁石11をD1の位置に保ったまま多極リング磁石11を回転させ、ステータユニット19に対する相対角度と磁気センサIC150の出力との関係を示す第1出力応答特性を求める。
図10においてAで示した線がD1の位置における第1出力応答特性を示す。
【0043】
(4)多極リング磁石11をトーションバー16の第2端部171の軸方向において、ステータユニット19における第1端部170側の端面からD1より大きいD2の位置に仮固定する。
(5)多極リング磁石11をD2の位置に保ったまま多極リング磁石11を回転させ、ステータユニット19に対する相対角度と磁気センサIC150の出力との関係を示す第2出力応答特性を求める。
図10においてBで示した線がD2の位置における第2出力応答特性を示す。
【0044】
(6)
図9において示していないが、多極リング磁石11をトーションバー16の第2端部171の軸方向において、ステータユニット19における第1端部170側の端面からD2より大きいD3の位置に仮固定する。
(7)多極リング磁石11をD3の位置に保ったまま多極リング磁石11を回転させ、ステータユニット19に対する相対角度と磁気センサIC150の出力との関係を示す第3出力応答特性を求める。
図10においてCで示した線がD3の位置における第3出力応答特性を示す。
【0045】
(8)磁気センサIC150の第1出力応答特性を表すAで示した線と、第2出力応答特性を表すBで示した線と、第3出力応答特性を表すCで示した線との交点(X1、Y1)を求め、この交点におけるX1を磁気中立の位置として定める。すなわち、第1~3出力応答特性の相対角度が同一となるX1と、第1~3出力応答特性の出力が同一となるY1を求め、そのX1を磁気中立の位置として定める。
【0046】
(9)多極リング磁石11のステータユニット19に対する回転方向における相対角度(deg)をX1にし(磁気中立にする。)、磁気中立を示す出力値として設定した2047とY1との差であるY2をオフセット補正値としてY1に加算し、磁気センサIC150のオフセット補正を行う。例えば、上記のオフセット補正値として、差Y2を記憶部154a、154b、164a及び164bに記憶してよい。オフセット補正部155a、155b、165a及び165bは、ゲイン補正部156a、156b、166a、166bの乗算結果に差Y2を加算してよい。
【0047】
多極リング磁石11は、軸線を中心とする周方向にS極とN極が交互に配置されているが、外見上、S極とN極がどこにあるか認識することができない。そのため、
図5(a)で示すような磁気中立の位置を目視で認識することができない。また、磁気検出素子151a、151b、161a、161bからの信号は、アナログ信号ではなくディジタル信号として出力されるため、磁気検出素子151a、151b、161a、161bからの信号で磁気中立の位置を定めることができない。それに対して、本実施例のトルクセンサ10の出力調整方法では、正確に、磁気中立の位置を定めることができる。
【0048】
本実施例のトルクセンサ10の出力調整方法では、ステータユニット19をトーションバー16の所定位置に固定し、多極リング磁石11をトーションバー16における軸方向の位置を変化させて回転させ、磁気中立の位置を定めたが、多極リング磁石11をトーションバー16の所定位置に固定し、ステータユニット19をトーションバー16における軸方向の位置を変化させて回転させ、磁気中立の位置を定めても構わない。
【0049】
また、本実施例のトルクセンサ10の出力調整方法では、ステータユニット19における第1端部170側の端面からD1、D2、D3の3か所の位置で多極リング磁石11を回転させて、第1出力応答特性と第2出力応答特性、第3出力応答特性を求め、磁気中立の位置を定めたが、3か所ではなく、2か所で出力応答特性を求め、磁気中立の位置を定めても構わない。そうすることによって、簡易に磁気中立の位置を定めることができる。
【0050】
次に、トルクセンサ10の組立方法について説明する。トルクセンサ10の組立方法は、以下の手順で行われる。
工程1:トーションバー16にトルクを伝達させない状態(メカ中立の状態)で、ステータユニット19をトーションバー16の第1端部170の軸方向における取付位置に固定する。
工程2:前記したトルクセンサ10の出力調整方法によって、多極リング磁石11のステータユニット19に対する回転方向における磁気中立の位置を定める。
工程3:トーションバー16にトルクを伝達させない状態(メカ中立の状態)で、多極リング磁石11を、磁気中立を保ちながらトーションバー16の第2端部171の軸方向における取付位置に固定する。
工程4:多極リング磁石11のステータユニット19に対する回転方向における磁気中立の位置で、前記したトルクセンサ10の出力調整方法で行った磁気センサIC150のオフセット補正を行う。
【0051】
本実施例のトルクセンサ10の組立方法では、工程3の後に、磁気センサIC150のオフセット補正を行ったが、工程2において磁気中立の位置を定めた後にオフセット補正を行っても構わない。
本実施例のトルクセンサ10は、多極リング磁石11とステータユニット19とは、多極リング磁石11の外周面と歯部12b及び歯部13bの内周面とが互いに対向するように、すなわち、多極リング磁石11がステータユニット19の径方向内側に配置されている構成であるが、多極リング磁石11とステータユニット19とは、多極リング磁石11の端面とステータユニットの端面とが互いに対向するように、すなわち、多極リング磁石11とステータユニット19とが軸方向に空隙をおいて配置されていても構わない。
【0052】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0053】
1…操向ハンドル、2…操舵軸、2in…入力軸、2out…出力軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、5…ピニオン機構、5…ピニオン機構、5a…ピニオン、5b…ラック、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、9…車速センサ、10…トルクセンサ、12、13…ステータ、12a、13a…円環部、12b、13b…歯部、18…ハブ、19…ステータユニット、14a、14b…集磁ヨーク、15…磁気センサ、150、160…磁気センサIC、151a、161a…第1磁気検出素子、151b、161b…第2磁気検出素子、16…トーションバー、170…第1端部、171…第2端部、20…操舵補助モータ、30…コントローラ、31…バッテリ、32…イグニッションキー、35…選択部、152a、152b、162a、162b、…AD変換器、153a、153b、163a、163b、…較正部、154a、154b、164a、164b、…記憶部、157、167…動作確認部