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  • 特許-熱取得測定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】熱取得測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G01N25/18 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020118203
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015393
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相賀 洋
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-078447(JP,A)
【文献】特開2007-024727(JP,A)
【文献】特開2018-124232(JP,A)
【文献】特開昭60-135851(JP,A)
【文献】米国特許第04890244(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有するとともに、屋外に面した窓によって前記開口が閉塞されるようにして屋内において前記窓に設置された断熱箱と、
前記断熱箱内の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによって検出される温度を所定周期で取得することにより、温度の時系列データを取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された時系列データの各要素から基準温度を減じることで得られる時系列データと、前記断熱箱内の温度が単位三角波形に励起された場合に前記断熱箱の内表面に誘起される熱流の応答を表した応答係数の時系列データと、の畳み込み和を算出する畳み込み処理手段と、を備える熱取得測定装置。
【請求項2】
屋外に面した窓によって断熱箱の開口が閉塞されるようにして屋内において前記窓に設置された前記断熱箱内の温度を温度センサで検出し、前記温度センサによって検出される温度を所定周期で取得することにより温度の時系列データを取得する取得工程と、
前記取得工程において取得された時系列データの各要素から基準温度を減じることで得られる時系列データと、前記断熱箱内の温度が単位三角波形に励起された場合に前記断熱箱の内表面に誘起される熱流の応答を表した応答係数の時系列データと、の畳み込み和を算出する畳み込み処理工程と、を含む熱取得測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓を通じた断熱箱内への熱取得を測定する熱取得測定装置及び熱取得測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物内の空調設備の省エネルギー化を実現するためには、空調設備のエネルギー消費量及び建物外皮の断熱性能・遮熱性能・採光性能等を評価・検証することが有効である。外皮の断熱性能、遮熱性能及び採光性能はそれぞれ熱貫流率、日射熱取得率及び可視光透過率によって評価される。
【0003】
非特許文献1は、窓周辺の空調設備が運転された状況下での窓の熱貫流率及び日射熱取得率を断続的に測定し、空調環境及び気象の変化が熱貫流率及び日射熱取得率に及ぼす影響を開示する。非特許文献1に開示された測定装置では、一面が開口した立方体型の測定箱が窓に密着されて、その開口が窓によって閉塞され、計測箱の周囲の温度が空調機によって一定に制御された状態で測定箱の開口面以外の五面の熱流が熱流計によって測定され、外気温及び箱内気温が測定される。そして、測定された熱流、外気温及び箱内気温から熱貫流率及び日射熱取得率が算出される。
【0004】
一方、図5には、空調環境下における窓301の熱取得を測定する測定装置300が示されている。一面が開口した直方体(直方体は立方体を含む意である。以下同じ。)の形状の断熱箱302が窓301に密着されて、その開口が窓301によって閉塞され、空調機303によって空調された空気が断熱箱302に供給されている。空調機303が断熱箱302内の温度センサ304の計測値に基づいてフィードバック制御され、これにより断熱箱302内の温度が一定に制御される。また、空調機303から断熱箱302に供給される空気の風量及び温度がそれぞれ風量センサ305及び温度センサ306によって測定され、断熱箱302からの排気の温度が温度センサ307によって測定される。この場合、屋外から窓301を通じた熱取得は以下の式から算出される。
【0005】
熱取得[W]=空気の容積比熱[J/m3K]×空気の風量[m3/s]×(排気温度[K]-給気温度[K])
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】一ノ瀬雅之ほか,高性能窓システムの熱・光性能の現場測定法,日本建築学会環境系論文集,第74巻,第641号,845-851頁,2009年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、外気温、日射強度及び日射高度は刻一刻と変化するため、断熱箱30を空調機303によって恒温制御することが難しく、断熱箱30の温度が安定しない。また、風量センサ305によって測定される風量も安定せず、実際の風量からの誤差が大きい。さらに、温度センサ304、306の計測値の差が小さく、温度センサ304、306の分解能が低いと、その差を精度良く測定することが難しい。結局のところ、図5に示した測定装置300では、測定精度が極めて高くて高価且つ高性能なセンサを使用して、高度な空調制御を行わないと、窓301を通じた断熱箱302内への熱取得を正確に測定することができない。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、正確に熱取得を測定できる熱取得測定装置及び熱取得測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、熱取得測定装置は、開口を有するとともに、屋外に面した窓によって前記開口が閉塞されるようにして屋内において前記窓に設置された断熱箱と、前記断熱箱内の温度を検出する温度センサと、前記温度センサによって検出される温度を所定周期で取得することにより、温度の時系列データを取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された時系列データの各要素から基準温度を減じることで得られる時系列データと、前記断熱箱内の温度が単位三角波形に励起された場合に前記断熱箱の内表面に誘起される熱流の応答を表した応答係数の時系列データと、の畳み込み和を算出する畳み込み処理手段と、を備える。
【0010】
また、熱取得測定方法は、屋外に面した窓によって断熱箱の開口が閉塞されるようにして屋内において前記窓に設置された前記断熱箱内の温度を温度センサで検出し、前記温度センサによって検出される温度を所定周期で取得することにより温度の時系列データを取得する取得工程と、前記取得手段によって取得された時系列データの各要素から基準温度を減じることで得られる時系列データと、前記断熱箱内の温度が単位三角波形に励起された場合に前記断熱箱の内表面に誘起される熱流の応答を表した応答係数の時系列データと、の畳み込み和を算出する畳み込み処理工程と、を含む。
【0011】
以上によれば、断熱箱の温度を温度センサによって周期的に測定すれば、温度の時系列データから断熱箱内への熱取得を計算することができる。
断熱箱内を空調せずに成り行きの温度を測定したため、温度センサによって計測される温度が熱取得に応じて大きく変動する。そのような温度の時系列データを用いた畳み込み処理により熱取得を計算したため、温度センサの分解能が低性能であっても、計算された熱取得が正確である。
応答係数の時系列データを用いた畳み込み処理により熱取得を計算したため、その熱取得には、温度変化に伴う熱的挙動の時間遅れの影響が反映される。よって、その熱取得が正確である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正確な熱取得を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱取得測定装置の断熱箱の斜視図である。
図2】熱取得測定装置のブロック図である。
図3】応答係数の時系列データを示したチャートである。
図4】断熱箱内の温度を励起する単位三角波形のチャートである。
図5】従来の測定装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するための技術的に好ましい種々の限定が付されているところ、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
図1は熱取得測定装置10の断熱箱20,30の斜視図であり、図2は熱取得測定装置10のブロック図である。
この熱取得測定装置10は、屋外から窓1を通じた熱取得[W]を測定するものである。熱取得測定装置10によって測定された熱取得から窓1の熱通過性能又は光通過性能を評価することができる。ここで、窓1の熱通過性能又は光通過性能とは、窓1自体の熱通過性能又は光通過性能のみならず、窓1に光学デバイス(例えばシャッター、ブラインド、反射膜、遮光膜、光吸収膜)が設置された場合には窓1とその光学デバイスを組み合わせた場合の熱通過性能又は光通過性能をいう。
【0016】
熱取得測定装置10は、断熱箱20,30、温度センサ21,31、信号処理回路22,32、ADコンバータ23,33、コンピュータ40、表示デバイス41、入力デバイス42及びストレージ43を備える。
【0017】
窓1は屋外に面しており、断熱箱20,30が屋内において窓1に密着している。断熱箱20,30は直方体型に設けられており、これら断熱箱20,30のサイズは互いに等しい。断熱箱20,30は並列に配置されており、断熱箱20,30の内部空間がこれらの間の断熱壁によって仕切られている。断熱箱20,30の同じ方向を向いた面が開口しているとともに窓1に密着しており、それら開口が窓1によって閉塞されている。窓1の断熱箱20に面した部分と断熱箱30に面した部分は、熱通過性能又は光通過性能が互いに異なる。例えば、断熱箱20に面した部分にはブラインドが設置され、断熱箱30に面した部分にはブラインドが設置されていない。或いは、断熱箱20に面した部分と断熱箱30に面した部分には、遮光性能の異なるブラインドがそれぞれ設置されている。或いは、断熱箱20に面した部分と断熱箱30に面した部分は光学的特性(例えば吸収率、反射率或いは透過率)が互いに異なる。
【0018】
温度センサ21,31は断熱箱20,30内にそれぞれ設置されている。温度センサ21,31は、断熱箱20,30内の温度をそれぞれ検出する。温度センサ21,31は、検出温度を電気信号に変換し、検出温度を表した信号を信号処理回路22,32にそれぞれ出力する。
【0019】
信号処理回路22,32は、それぞれ温度センサ21,31の出力信号を増幅するとともに、温度センサ21,31の出力信号をそれぞれ濾波することによってその信号からノイズをそれぞれ除去する。信号処理回路22,32は、増幅及び濾波した信号をADコンバータ23,33に出力する。ADコンバータ23,33は、それぞれ、信号処理回路22,32から入力した信号をデジタル信号に変換する。ADコンバータ23,33は、断熱箱20,30の温度を表すデジタル信号をコンピュータ40に出力する。
【0020】
コンピュータ40は、CPU、RAM、システムバス及び各種インターフェース等を備える。
【0021】
表示デバイス41は、液晶ディスプレイデバイス等のドットマトリクス式表示器である。表示デバイス41は、コンピュータ40から入力した映像信号に従った映像を表示する。
【0022】
入力デバイス42は、ポインティングデバイス(例えば、マウス、タッチパネル)、キーボード若しくは押しボタンスイッチ又はこれらの組み合わせからなる。入力デバイス42は、作業者によって操作されることによって操作内容に応じた信号をコンピュータ40に出力する。
【0023】
ストレージ43は半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。ストレージ43には、コンピュータ40にとって読取可能・実行可能なプログラム51が格納されている。また、ストレージ43には、図3に示すような応答係数[W/K]の時系列データ52が格納されている。
【0024】
時系列データ52について詳細に説明する。
図4に示すように、断熱箱20内の温度が単位三角波形に励起されたとする。つまり、所定の単位時間(例えば、Δt=1時間)かけて断熱箱20内の温度を1℃上昇させた後、単位時間かけて断熱箱20内の温度を1℃低下させたとする。
このような三角波形の温度変化によって断熱箱20の内表面に誘起される熱流[W/K]の応答を表したものが、応答係数の時系列データ52である。応答係数の時系列データ52は離散的なデータである。以下、jを整数とし、断熱箱20内の温度が1℃上昇した時の時刻をゼロとした場合、その時からj×単位時間経過後の応答係数をφ[W/K]と表す。応答係数φは、断熱箱20内の温度に単位三角波の変化を起こさせるために、断熱箱20に加え又は断熱箱20から取り除かなければならない熱量を表す。
【0025】
応答係数φは、断熱箱20の構成材料の比熱及び熱伝導率等から事前に求められたものであって、次式の通りである。
【0026】
【数1】
【0027】
なお、断熱箱20と断熱箱30は大きさ及び構成材料が同じであり、断熱箱20における応答係数φは断熱箱30にも利用することができる。
【0028】
続いて、熱取得測定装置10の使用方法及び動作について説明するとともに、熱取得測定方法について説明する。以下に説明する熱取得測定方法では、熱取得測定装置10を用いて窓1を通じた断熱箱20,30内への熱取得を測定する。
【0029】
室内において断熱箱20,30の開口を窓1に向けて、断熱箱20の開口を窓1によって閉塞するように断熱窓を密着させる。この際、断熱箱20,30内には温度センサ21,31をそれぞれ設置する。
【0030】
そして、朝に、例えば日の出直後に、入力デバイス42を操作してプログラム51をコンピュータ40に実行させる。そうすると、コンピュータ40が取得処理を実行する。つまり、コンピュータ40は、A/Dコンバータ23の出力デジタル信号、つまり温度センサ21によって検出された温度を単位時間置きに取得することにより、温度の時系列データ53をストレージ43に蓄積する。温度の時系列データ53とは、温度センサ21によって検出された温度の単位時間おきの値を時系列で配列したデータ列のことをいう。なお、コンピュータ40による温度センサ21の検出温度のサンプリング周期、つまり時系列データ53の要素(温度データ)間の時間的間隔は、時系列データ52の要素間の時間的間隔に等しい。
【0031】
同様に、コンピュータ40は、温度センサ21の検出温度の蓄積と並行して、温度センサ31によって検出された温度の時系列データ54をストレージに蓄積する。取得処理は、例えば日の入り後所定時間経過するまでコンピュータ40によって実行される。
【0032】
取得処理後、コンピュータ40が畳み込み処理を実行する。畳み込み処理では、コンピュータ40が、次式のように、時系列データ53の各要素(温度データ)から基準温度を減算して得られる時系列データと応答係数の時系列データ52との畳み込み和を算出する。
【0033】
【数2】
【0034】
以上のように算出した畳み込み和HGnは、温度計測開始時からn×単位時間経過した時点において窓1を通じた断熱箱20内への熱取得 [W]を表す。基準温度は定数であり、例えば、窓1の断熱箱20に面した部分を実際の空調環境に設置した場合のその空調機の設定温度である。
【0035】
同様に、コンピュータ40は、時系列データ54の各要素から基準温度を減算して得られる時系列データと応答係数の時系列データ52との畳み込み和を算出して、その畳み込み和を、温度計測開始時からn×単位時間経過した時点において窓1を通じた断熱箱30内への熱取得 [W]として得る。
【0036】
コンピュータ40は、畳み込み処理により計算した畳み込み和(熱取得)をストレージ43に記録する。また、コンピュータ40は、その畳み込み和を表示デバイス41に表示させる。
【0037】
断熱箱20,30における畳み込み和つまり熱取得に基づいて、断熱箱20、30の開口部分における窓1の熱通過性能及び光通過性能、例えば日射熱取得及び貫流熱を評価することができる。また、断熱箱20,30における畳み込み和を比較することによって、断熱箱20、30の開口部分における窓1の熱通過性能及び光通過性能を比較することができる。
【0038】
以上のように、風量を測定せずとも、更に断熱箱20,30の恒温制御をせずとも、断熱箱20,30の温度を周期的に取得すれば、温度の時系列データ53,54から断熱箱20,30内への熱取得を計算することができる。風量測定及び恒温制御が不要であるため、計算された熱取得が正確である。
断熱箱20,30内を空調せずに温度を測定したため、日射及び外気温が断熱箱20,30内の温度に大きく影響を及ぼすので、日射及び外気温による断熱箱20,30内の温度変化も大きくなる。そのように変化の大きい時系列データ53,54を用いた畳み込み処理により熱取得を計算しため、温度センサ21,31、信号処理回路22,32及びADコンバータ23,33の分解能が低性能であっても、計算された熱取得が正確である。
また、応答係数の時系列データ52を用いた畳み込み処理により熱取得を計算したため、その熱取得は温度変化に伴う熱的挙動の時間遅れの影響を考慮したものとなる。そのため、計算された熱取得が正確である。
【符号の説明】
【0039】
1…窓
20,30…断熱箱
21,31…温度センサ
40…コンピュータ(取得手段、畳み込み処理手段)
52…応答係数の時系列データ
53,54…温度の時系列データ
図1
図2
図3
図4
図5