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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240305BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20240305BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240305BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20240305BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M4/86 T
H01M8/02
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/12 102B
H01M8/1213
H01M8/1226
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020119672
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016758
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真一
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/198372(WO,A1)
【文献】特開2016-081821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層(21)と、上記固体電解質層の一方面側に配置されたアノード(22)と、上記固体電解質層の他方面側に配置されたカソード(23)と、を備える単セル(2)を有しており、
上記アノードは、アノード反応の場となるアノード反応領域を含み、
少なくとも上記アノード反応領域に圧縮応力(CS)が掛かった状態とされており、
上記アノード反応領域に上記圧縮応力が掛かるように上記単セルを保持する保持構造(3)を有しており、
上記保持構造は、上記アノード反応領域に上記圧縮応力が掛かるように少なくとも上記アノードの側面(223)を加圧し、上記単セルを保持する構成を含む
固体酸化物形燃料電池(1)。
【請求項2】
上記アノードは、
上記固体電解質層に接合され、上記アノード反応領域を含む反応層(221)と、
上記反応層に接合された支持層(222)とを備え、
上記支持層の線熱膨張係数は、上記反応層の線熱膨張係数よりも大きい、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
上記固体電解質層の線熱膨張係数は、上記アノードの線熱膨張係数よりも大きい、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノード、固体電解質層、および、カソードがこの順に積層された平板形の単セルを有する固体酸化物形燃料電池が公知である。例えば、特許文献1には、単セルが平らな状態で保持、固定されている固体酸化物形燃料電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-55042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の固体酸化物形燃料電池は、耐久開始から耐久時間1500時間までの初期において電圧が大きく低下するという課題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、耐久開始から耐久時間1500時間までの初期において電圧の低下を抑制することが可能な固体酸化物形燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
固体電解質層(21)と、上記固体電解質層の一方面側に配置されたアノード(22)と、上記固体電解質層の他方面側に配置されたカソード(23)と、を備える単セル(2)を有しており、
上記アノードは、アノード反応の場となるアノード反応領域を含み、
少なくとも上記アノード反応領域に圧縮応力(CS)が掛かった状態とされており、
上記アノード反応領域に上記圧縮応力が掛かるように上記単セルを保持する保持構造(3)を有しており、
上記保持構造は、上記アノード反応領域に上記圧縮応力が掛かるように少なくとも上記アノードの側面(223)を加圧し、上記単セルを保持する構成を含む
固体酸化物形燃料電池(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
上記固体酸化物形燃料電池は、上記構成を有している。そのため、上記固体酸化物形燃料電池によれば、耐久開始から耐久時間1500時間までの初期において電圧の低下を抑制することができる。
【0008】
なお、特許請求の範囲および課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、参考形態1の固体酸化物形燃料電池の断面を模式的に示した説明図である。
図2図2は、参考形態3の固体酸化物形燃料電池の断面の一部を模式的に示した説明図である。
図3図3は、参考形態4の固体酸化物形燃料電池の断面の一部を模式的に示した説明図である。
図4図4は、実施形態5の固体酸化物形燃料電池の断面(動作時)の一部を模式的に示した説明図である。
図5図5は、実施形態5の固体酸化物形燃料電池の断面(停止時)の一部を模式的に示した説明図である。
図6図6は、実施形態6の固体酸化物形燃料電池の断面の一部を模式的に示した説明図である。
図7図7は、実験例1にて得られた、平らに固定された単セルを含むスタックについての耐久試験結果である。
図8図8は、実験例1にて得られた、単セルの抵抗分析結果を示した図である。
図9図9は、実験例1にて得られた、アノードにおけるNi粒子の粒径分布を示した図である。
図10図10は、実験例2にて得られた、試料1および試料1Cの発電試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、電池性能の初期劣化の原因について調査を進めていた際に、単セルが平らに保持、固定された従来の固体酸化物形燃料電池において耐久開始から耐久1500時間までの初期に電圧が大きく低下するのは、アノードにおける反応抵抗の増大が原因であることを突き止めた。また、本発明者は、このアノードにおける反応抵抗の増大は、アノードの微構造変化が促進されることによることを突き止めた。これらの現象から、本発明者は、アノードに残る引張応力(ひずみ)が駆動力となり、アノード反応の場となるアノード反応領域における微構造変化が促進され、アノードにおける反応抵抗が増大し、初期に電圧が大きく低下するとの知見を得た。また、単セルが平らに保持、固定された従来の固体酸化物形燃料電池では、単セルのアノードに引張応力が生じるような材料構成のために上記の問題が生じているとの知見を得た。本実施形態の固体酸化物形燃料電池は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0011】
本実施形態の固体酸化物形燃料電池は、固体電解質層と、上記固体電解質層の一方面側に配置されたアノードと、上記固体電解質層の他方面側に配置されたカソードと、を備える単セルを有しており、
上記アノードは、アノード反応の場となるアノード反応領域を含み、
少なくとも上記アノード反応領域に圧縮応力が掛かった状態とされており、
上記アノード反応領域に上記圧縮応力が掛かるように上記単セルを保持する保持構造を有しており、
上記保持構造は、上記アノード反応領域に上記圧縮応力が掛かるように少なくとも上記アノードの側面を加圧し、上記単セルを保持する構成を含む
固体酸化物形燃料電池にある。
【0012】
本実施形態の固体酸化物形燃料電池において、アノードは、少なくともアノード反応領域に圧縮応力が掛かった状態とされている。そのため、本実施形態の固体酸化物形燃料電池によれば、アノード反応領域に掛かる引張応力が駆動力となって生じる微構造変化が抑制され、初期における電圧の低下を抑制することが可能になる。
【0013】
以下、本実施形態の固体酸化物形燃料電池について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態の固体酸化物形燃料電池は、以下の例示によって限定されるものではない。
【0014】
参考形態1)
参考形態1の固体酸化物形燃料電池について、図1を用いて説明する。図1に例示されるように、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、固体電解質層21と、固体電解質層21の一方面側に配置されたアノード22と、固体電解質層21の他方面側に配置されたカソード23と、を備える単セル2を有している。
【0015】
図1では、固体電解質層21の一方面にアノード22が接合され、固体電解質層21の他方面にカソード23が接合されてなる単セル2を有する固体酸化物形燃料電池1が例示されている。なお、単セル2は、固体電解質層21とカソード23との間に中間層(図1では不図示)を有する構成とすることもできる。中間層は、主に、固体電解質層材料とカソード材料との反応を抑制するための層である。また、単セル2は、アノード22が支持体を兼ねるアノード支持方式、カソード23が支持体を兼ねるカソード支持方式、固体電解質層21が支持体を兼ねる自立膜方式、単セル2以外の部材等が支持体となる他部材支持方式など、種々の支持方式にて構成することができる。また、単セル2は、平板形であってもよいし、円筒形であってもよい。図1では、アノード22の厚みが、固体電解質層21やカソード23などの他の層の厚みよりも大きなアノード支持方式の平板形の単セル2が例示されている。
【0016】
固体酸化物形燃料電池1のアノード22では、H+O2-→HO+2eのアノード反応が生じる。アノード22は、このようなアノード反応の場となるアノード反応領域を含んでいる。アノード支持方式の単セル2の場合、アノード22の厚みは他の層に比べて十分に厚く形成される。そのため、アノード反応領域は、アノード22と固体電解質層21との界面からアノード22の内方側に向かって、例えば、50μmまでの領域中に含まれるように構成することができる。また、アノード支持方式以外の他の支持方式の単セル2の場合、ガス拡散抵抗やオーミック抵抗などを低減するため、アノード22の厚みができる限り薄くされる。この場合、アノード反応領域は、アノード22の全体にわたって存在するように構成することができる。図1では、固体電解質層21に接合され、アノード反応領域を含む反応層221と、反応層221に接合された支持層222とを備えるアノード22が例示されている。また、反応層221は、支持層222よりも厚みが薄く形成されている。アノード22が反応層221と支持層222とを有する場合、支持層222によりアノード強度、セル強度が担保され、反応層221にてアノード反応が生じる。反応層221、支持層222は、いずれも多孔質に形成されることができる。また、支持層222は、反応層221よりも多孔質に形成されることができる。反応層221の厚みは、例えば、5~50μmとすることができる。
【0017】
固体酸化物形燃料電池1において、アノード22は、少なくともアノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態(作用した状態)とされている。図1では、反応層221に圧縮応力CSが掛かった状態とされることにより、反応層221に含まれるアノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とされている。
【0018】
ここで、本参考形態では、具体的には、支持層222の線熱膨張係数が、反応層221の線熱膨張係数よりも大きい構成とされている。なお、線熱膨張係数の大小関係は、700℃で比較される。つまり、本参考形態は、アノード反応領域を含む層を構成する材料(ここでは、反応層221を構成する反応層材料)の線熱膨張係数と、これに隣接する層の材料(ここでは、支持層222を構成する支持層材料)の線熱膨張係数とを調整することにより、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とされている。したがって、このような場合には、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とするための構造的な考慮が必ずしも必要ではなく、材料的な考慮で済む。そのため、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、単セル2を平らな状態で保持、固定しつつ、耐久開始から耐久時間1500時間までの初期において電圧の低下を抑制することができる。なお、本参考形態のようにアノード支持方式の単セル2の場合、支持層222の厚みが他の層よりも圧倒的に大きい。そのため、支持層222は、他の層よりも剛性が強く、焼成温度からの降温時におけるセル全体の収縮に支配的な影響を持つ。したがって、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とするためには、上記のように線膨張係数を調整することが有効である。
【0019】
固体電解質層21を構成する固体電解質材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア等の酸化ジルコニウム系酸化物などが挙げられる。アノード22を構成するアノード材料としては、例えば、Ni、Ni合金等の金属と上記酸化ジルコニウム系酸化物とを含む混合物などが挙げられる。本参考形態のようにアノード22を反応層221と支持層222とによって構成する場合、反応層材料としては、例えば、上記金属と上記酸化ジルコニウム系酸化物とを含む混合物などが挙げられる。また、支持層材料としては、例えば、上記金属と上記酸化ジルコニウム系酸化物とを含む混合物、上記金属などが挙げられる。なお、反応層材料および支持層材料として、上記金属と上記酸化ジルコニウム系酸化物とを含む混合物を用いる場合には、両層の線熱膨張係数が上述した大小関係となるように、例えば、両層に含まれる上記金属と上記酸化ジルコニウム系酸化物との割合を調整することができる。具体的には、反応層材料中の金属含有量(Ni含有量等)よりも支持層材料中の金属含有量(Ni含有量)が大きくなるように調整することができる。
【0020】
カソード23を構成するカソード材料としては、例えば、ランタン-ストロンチウム-コバルト系酸化物、ランタン-ストロンチウム-コバルト-鉄系酸化物等の遷移金属ペロブスカイト型酸化物、あるいは、上記遷移金属ペロブスカイト型酸化物と、セリアやセリアにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素等がドープされたセリア系固溶体とを含む混合物などが挙げられる。中間層を形成する場合、中間層を構成する中間層材料としては、例えば、セリアや上記セリア系固溶体などが挙げられる。なお、カソード23、中間層は、1層または2層以上から構成することができる。
【0021】
なお、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1の単セル2は、支持層222の線熱膨張係数が反応層221の線熱膨張係数よりも大きくなるように上述した各材料を選択し、公知の方法によって作製することができる。
【0022】
また、本参考形態の固体酸化物形燃料電池は、単セルとして構成されていてもよいし、インタコネクタ(不図示)を介して複数の単セルが積層されることによってスタックとして構成されていてもよい。本参考形態の固体酸化物形燃料電池をスタックとして構成する場合、単セルは、平らな状態で保持されていてもよいし、後述する参考形態3などのように反った状態で保持されていてもよい。
【0023】
参考形態2)
参考形態2の固体酸化物形燃料電池について説明する。なお、参考形態2以降において用いられる符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0024】
参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、参考形態1と同様に、単セル2を構成する層の線熱膨張係数が調整されている。但し、本参考形態では、固体電解質層21の線熱膨張係数が、アノード22の線熱膨張係数よりも大きい構成とされている。なお、本参考形態において、アノード22は1層から構成されている。
【0025】
つまり、本参考形態は、アノード反応領域を含む層を構成する材料(ここでは、アノード22を構成するアノード材料)の線熱膨張係数と、これに隣接する層の材料(ここでは、固体電解質層21を構成する固体電解質層材料)の線熱膨張係数とを調整することにより、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とされている。したがって、このような場合には、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とするための構造的な考慮が必ずしも必要ではなく、材料的な考慮で済む。そのため、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、単セル2を平らな状態で保持、固定しつつ、耐久開始から耐久時間1500時間までの初期において電圧の低下を抑制することができる。
【0026】
固体電解質層21を構成する固体電解質材料としては、例えば、ガドリニアドープセリアなどが挙げられる。アノード22を構成するアノード材料としては、例えば、NiまたはNi合金とイットリア安定化ジルコニアとの混合物などが挙げられる。
【0027】
その他の構成および作用効果については、参考形態1を適宜参照することができる。
【0028】
参考形態3)
参考形態3の固体酸化物形燃料電池について、図2を用いて説明する。
【0029】
図2に例示されるように、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かるように単セル2を保持する保持構造3を有している。つまり、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、参考形態1および参考形態2の固体酸化物形燃料電池1のように、必ずしも線熱膨張係数が調整されることによってアノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とされるのではなく、電池構造中における単セル2の保持状態が調整されることにより、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とされる。したがって、このような場合には、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かった状態とするための材料的な考慮が必ずしも必要ではなく、材料選択の余地を広く確保しつつ、耐久開始から耐久時間1500時間までの初期において電圧の低下を抑制することができる。
【0030】
参考形態では、図2に例示されるように、保持構造3は、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かるように単セル2を反らせた状態にて保持する構成を含んでいる。この構成によれば、単セル2の反りによってアノード22に生じる圧縮応力CSをアノード反応領域に常に作用させることができる。なお、本参考形態では、単セル2の反りによってアノード22の反応層221に圧縮応力CSが生じている。そのため、この構成によれば、アノード反応領域に掛かる引張応力が駆動力となって生じる微構造変化が抑制され、初期における電圧の低下を抑制することができる。
【0031】
参考形態では、保持構造3は、図2に例示されるように、単セル2を保持する保持部材30を含んで構成されている。保持部材30は、単セル2のアノード22側に配置されている。保持部材30は、集電体としても機能させるため、金属等の電気伝導性の材料より構成することができる。なお、図2では、カソード23側に、カソード側集電体42が配置されている例が示されている。また、上述した中間層24を有する単セル2が例示されている。また、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、保持部材30に保持された単セル2がインタコネクタ(不図示、セパレータとも称される)を介して複数積層されることによってスタックとして構成されている。この際、保持部材30とインタコネクタとの間に水素等の燃料ガスが流れる燃料ガス流路(不図示)が形成され、単セル2のカソード23とインターコネクタとの間に空気や酸素等の酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路(不図示)が形成される。また、燃料ガスと酸化剤ガスとが混ざらないように適宜ガラスシール等のシール材(不図示)が設けられる。
【0032】
図2に例示されるように、保持部材30は、アノード22の固体電解質層21側が凹反りとなるように単セル2を変形させた状態で保持している。この構成によれば、単セル2の反り量を調節することにより、アノード22におけるアノード反応領域に常に圧縮応力CSを作用させることができる。つまり、保持部材30は、アノード22の固体電解質層21側の面が凹反りとなるように、平坦な単セル2を強制的に変形させて保持することにより、アノード反応領域に積極的に圧縮応力CSを作用させるものである。なお、図2では、カソード23側が凹反りとなるように単セル2を変形させることにより、アノード22の固体電解質層21側が凹反りとされている例が示されている。
【0033】
参考形態において、保持部材30は、具体的には、図2に例示されるように、保持部材30の本体をなす本体部31と、本体部31の表面に結合されるとともに、単セル2におけるアノード22の主面220に結合されて単セル2を保持する主面保持部32と、を有する構成とすることができる。この構成によれば、本体部31によって構造強度を確保し、主面保持部32によって単セル2の反り具合等の保持形状を調節する等、各部位の機能を分離することができる。また、この構成によれば、本体部31、主面保持部32の材質や微構造の選択自由度を向上させることができる利点もある。保持部材30は、具体的には、例えば、本体部31を中実の金属材料より構成し、主面保持部32を焼結金属より構成することができる。この構成によれば、本体部31による構造強度と、主面保持部32による単セル2の反り具合等の保持形状の調節性とに優れる。なお、アノード22の主面220とは、アノード22における固体電解質層21側とは反対側の面のことである。
【0034】
本体部31は、例えば、図2に例示されるように、単セル2を保持する保持領域310を含むことができる。保持領域310は、例えば、板状の形状を呈することができる。また、保持領域310は、複数の貫通孔311を有する構成とすることができる。この構成によれば、複数の貫通孔311を通じて、アノード22に燃料ガス(不図示)を供給することができ、また、発電で生じた水蒸気ガス(不図示)を複数の貫通孔311を通じて排出することもできる。
【0035】
主面保持部32は、例えば、図2に例示されるように、凹面状に形成された凹表面320を有する構成とすることができる。この構成によれば、平坦な単セル2のアノード22の主面220を凹表面320に結合させることにより、アノード22の固体電解質層21側が凹反りとなるように単セル2を変形させた状態で保持しやすくなる。なお、図2では、主面保持部32の凹表面320が、主面保持部32の外縁部から中央部に向かって滑らかにへこんでいる例が示されている。主面保持部32の凹表面320は、図示はしないが、主面保持部32の外縁部から中央部に向かって段階的に主面保持部32の厚みが薄くされることによって外縁部に対して中央部がへこんでいてもよい。
【0036】
主面保持部32は、図2に例示されるように、上述した保持領域310に形成された貫通孔311を塞がないように設けられることができる。具体的には、主面保持部32は、保持領域310の貫通孔311に対応して形成された貫通孔321を有する構成とすることができる。この構成によれば、貫通孔311および貫通孔321を通じた、アノード22へのガス供給、アノード22とのガス交換を確実なものとすることができる。なお、主面保持部32を多孔質に形成した場合には、貫通孔321は省略することができる。また、主面保持部32は、例えば、穴が形成されていないシート材の上に、穴の大きさが段々大きくなるように各シート材を順に積層し、圧着後、熱処理を加える方法等によって形成することができる。この方法を用い、滑らかな凹表面320を有する主面保持部32を形成する場合には、各シート材を順に積層した後、段差がなくなるように段差をならすなどすればよい。また、主面保持部32の貫通孔321は、上述した圧着後のシートにレーザー加工を施すことなどによって形成することができる。
【0037】
保持部材30の本体部31は、具体的には、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、および、Ti(チタン)からなる群より選択される少なくとも1種の成分を含む金属より構成することができる。本体部は、好ましくは、フェライト系ステンレス鋼(SUS430等)、オーステナイト系ステンレス鋼(SU304等)、Fe-Cr合金、Ni-Cr合金、Ni-Cr-Si合金などのCrを含有する合金などより構成することができる。この構成によれば、電気伝導性、耐腐食性、構造強度、コスト等のバランスがよい。
【0038】
保持部材30の主面保持部32は、具体的には、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Sc(スカンジウム)、Ag(銀)、Au(金)、および、Pt(白金)族からなる群より選択される少なくとも1種の成分を含む金属より構成することができる。なお、Pt族は、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)であり、好ましいPt族は、電気伝導性、耐酸化性などの観点から、Ptであるとよい。主面保持部32は、好ましくは、Ni、Cr、および、Feからなる群より選択される少なくとも1種の成分を含む金属より構成することができ、より好ましくは、Ni-Cr合金、Ni-Cr-Fe合金、Ni-Fe合金などより構成することができる。この構成によれば、主面保持部32と本体部31との密着性が向上するなどの利点がある。
【0039】
その他の構成および作用効果については、参考形態1または参考形態2を適宜参照することができる。
【0040】
参考形態4)
参考形態4の固体酸化物形燃料電池について、図3を用いて説明する。
【0041】
図3に例示されるように、本参考形態の固体酸化物形燃料電池1は、参考形態3の固体酸化物形燃料電池1と同様に、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かるように単セル2を保持する保持構造3を有している。但し、本参考形態と参考形態3とでは、保持構造3の構成が異なっている。
【0042】
参考形態では、保持構造3は、図3に例示されるように、アノード22側に配置されたアノード側集電体41と、カソード23側に配置されたカソード側集電体42とを含んで構成されている。この保持構造3では、アノード側集電体41とカソード側集電体42とによって単セル2が挟持されるとともに、カソード側集電体42による押圧力Fcがアノード側集電体41による押圧力Faよりも大きくされることにより、アノード22の固体電解質層21側が凹反りとなるように単セル2が変形された状態で保持されている。この構成によれば、カソード側集電体42とアノード側集電体41とによる単セル2の押圧力Fc、Faを調整することにより、単セル2の反り量を調節し、アノード22におけるアノード反応領域に常に圧縮応力CSを作用させることができる。
【0043】
アノード側集電体41、カソード側集電体42の材料としては、例えば、フェライト系ステンレス鋼(SUS430等)、オーステナイト系ステンレス鋼(SU304等)、銀などを例示することができる。
【0044】
その他の構成および作用効果については、参考形態1から参考形態3を適宜参照することができる。
【0045】
(実施形態5)
実施形態5の固体酸化物形燃料電池について、図4および図5を用いて説明する。
【0046】
図4に例示されるように、本実施形態の固体酸化物形燃料電池1は、参考形態3および参考形態4の固体酸化物形燃料電池1と同様に、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かるように単セル2を保持する保持構造3を有している。但し、本実施形態と、参考形態3および参考形態4とでは、保持構造3の構成が異なっている。
【0047】
本実施形態では、図4に例示されるように、保持構造3は、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かるように少なくともアノード22の側面223を加圧し、単セル2を保持する構成を含んでいる。この構成によれば、アノード22の側面223の加圧によってアノード22に生じる圧縮応力CSをアノード反応領域に常に作用させることができる。なお、本実施形態では、アノード22の側面223の加圧によって、アノード22の反応層221に圧縮応力CSが生じている。そのため、この構成によれば、アノード反応領域に掛かる引張応力が駆動力となって生じる微構造変化が抑制され、初期における電圧の低下を抑制することができる。
【0048】
本実施形態では、保持構造3は、図4に例示されるように、単セル2を保持する保持部材30を含んで構成されている。保持部材30は、具体的には、図4に例示されるように、保持部材30の本体をなす本体部31と、本体部31の表面に結合されるとともに、単セル2の周囲に配置されてアノード22の側面223を加圧する側面加圧部33と、を有する構成とすることができる。この構成によれば、本体部31によって構造強度を確保し、側面加圧部33によってアノード22の側面223への加圧力Fを調節する等、各部位の機能を分離することができる。保持部材30は、具体的には、例えば、中実の金属材料より構成することができる。
【0049】
本実施形態では、図5に例示されるように、アノード22の側面223と側面加圧部33との間の隙間34が温度上昇によってなくなるように、保持部材30の線熱膨張係数が単セル2の線熱膨張係数よりも小さく設定されている。そのため、本実施形態の固体酸化物形燃料電池1の動作時には、図4に例示されるように、単セル2の熱膨張により隙間34がなくなり、単セル2は保持部材30によって締まり嵌めされる。そのため、単セル2が平坦な状態とされていても、保持部材30の側面加圧部33によってアノード22の側面223が加圧される。それ故、この構成によれば、アノード反応領域に掛かる引張応力が駆動力となって生じる微構造変化が抑制され、初期における電圧の低下を抑制することができる。なお、アノード支持方式の単セル2では、保持部材30の線熱膨張係数がアノード22の線熱膨張係数よりも小さく設定されておれば、保持部材30によって単セル2が締まり嵌めされ、側面加圧部33によってアノード22の側面223を加圧することができる。
【0050】
保持部材30を構成する本体部31、側面加圧部33は、具体的には、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、および、Ti(チタン)からなる群より選択される少なくとも1種の成分を含む金属より構成することができる。本体部は、好ましくは、フェライト系ステンレス鋼(SUS430等)、オーステナイト系ステンレス鋼(SU304等)、Fe-Cr合金、Ni-Cr合金、Ni-Cr-Si合金などのCrを含有する合金などより構成することができる。この構成によれば、電気伝導性、耐腐食性、構造強度、コスト等のバランスがよい。
【0051】
その他の構成および作用効果については、参考形態1から参考形態4を適宜参照することができる。
【0052】
(実施形態6)
実施形態6の固体酸化物形燃料電池について、図6を用いて説明する。本実施形態の固体酸化物形燃料電池1は、実施形態5の固体酸化物形燃料電池1と同様に、保持構造3が、アノード反応領域に圧縮応力CSが掛かるように少なくともアノード22の側面223を加圧して単セル2を保持する構成を含んでいる。但し、本実施形態と実施形態5とでは、保持部材30の構成が異なっている。なお、図6では、アノード22が1層から構成されている例が示されている。
【0053】
本実施形態では、図6に例示されるように、保持部材30を構成する側面加圧部33が、側面加圧本体部331と、側面加圧本体部331に一端が接するとともに他端が少なくともアノード22の側面223に接するばね部材332とを備えている。そのため、この構成によれば、ばね部材332による弾性力によってアノード22の側面223が加圧される。それ故、この構成によれば、アノード反応領域に掛かる引張応力が駆動力となって生じる微構造変化が抑制され、初期における電圧の低下を抑制することができる。また、実施形態5に比べ、保持部材30および単セル2の線熱膨張係数を必ずしも特定の関係に設定する必要もなくなる。もっとも、実施形態5で述べたように保持部材30および単セル2の線熱膨張係数が調整されている場合には、固体酸化物形燃料電池1の動作時に、熱膨張した単セル2がばね部材332を縮めようとするため、アノード22の側面223に作用する加圧力を増大させることができる。
【0054】
ばね部材332の材質としては、例えば、インコネル、ハステロイなどの金属材料を例示することができる。また、ばね部材332の形状は、側面加圧本体部331とアノード22の側面223との間の隙間34においてばね弾性によってアノード22の側面223を加圧することが可能な形状であれば、特に限定されない。
【0055】
その他の構成および作用効果については、参考形態1から実施形態5を適宜参照することができる。
【0056】
(実験例1)
Niと8mol%のYを含むイットリア安定化ジルコニア(8YSZ)との混合物からなるアノードと、8YSZからなる固体電解質層と、La0.6Sr0.4CoO(LSC)からなるカソードとがこの順に積層されてなる単セルを準備した。なお、準備した単セルは、カソード側が凸となるように反っていた。次いで、この単セルを用い、平らに固定された単セルを含むスタックを構成した。準備した単セルおよびスタックされた単セルにおけるアノードのアノード反応領域には、引張応力が掛かっている。
【0057】
次いで、上記スタックを、温度:700℃、燃料ガス:乾燥水素、酸化剤ガス:空気、燃料利用率Uf:75%、空気利用率Ua:30%、電流密度1.0A/cmの条件にて長時間発電させることにより、耐久時間(時間h)と電圧(V)との関係を求めた。その結果を、図7に示す。図7に示されるように、電圧は、耐久時間1500時間以降に比べ、耐久開始~1500時間までの初期において大きく低下することがわかる。以下、これを初期劣化という。
【0058】
次に、電圧の低下の原因を調べるため、耐久開始~耐久時間1000時間までについて、単セルにおける抵抗を分析した。その結果を、図8に示す。図8に示されるように、耐久開始~耐久時間1000時間までにおける抵抗増加率の内訳は、アノードにおける反応抵抗が大部分を占めていることが確認された。この結果から、単セルが平らに保持、固定された従来の固体酸化物形燃料電池における初期劣化は、アノードにおける反応抵抗の急増が原因であることがわかる。
【0059】
次に、耐久開始前と耐久時間1300時間後の単セルについて、同じ個所におけるアノードの微構造を調査した。その結果を図9に示す。図9に示されるように、耐久時間1300時間後におけるアノードは、耐久開始前のアノードに比べ、Ni粒子の粒径が大きくなる方向に粒径分布が移動しており、耐久によってNi粒子の凝集が進んでいることがわかる。この結果から、アノードにおける反応抵抗の増大は、アノードの微構造変化が促進されたことが原因であることがわかる。
【0060】
(実験例2)
Ni-8YSZからなるアノードと、8YSZからなる固体電解質層と、10mol%のGdがドープされたCeO(10GDC)からなる中間層と、La0.6Sr0.4CoO(LSC)からなるカソードとがこの順に積層されてなる単セルを準備した。アノードは、Ni-8YSZからなる支持層とNi-8YSZからなる反応層との二層構造とした。支持層におけるNiと8YSZとの質量比は、反応層におけるNiと8YSZとの質量比と同じにした。また、支持層の気孔率は、反応層の気孔率よりも高く設定した。なお、支持層の厚みは380μm、反応層の厚みは20μm、固体電解質層の厚みは5μm、中間層の厚みは5μm、カソードの厚みは50μmとした。
【0061】
次いで、図3に示すように、反応層の固体電解質層側の面が凹反りとなるように、保持部材にて単セルを強制的に変形させた状態で保持させた。この際、保持部材の本体部はFe-Cr合金(本例ではSUS430)より形成した。また、保持部材の主面保持部は、Ni焼結体より形成した。
【0062】
具体的には、穴が形成されていないNi粉末含有シート材の上に、穴の大きさが段々大きくなるようにNi粉末含有シート材を順に積層した後、WIP成形法にて圧着することにより、圧着シートを形成した。圧着シートは、複数の穴径の異なる穴によって形成された凹表面を有している。次いで、保持部材の本体部の表面に、上記圧着シート、単セルをこの順に積層し、集電体を単セルのカソード表面から押し付けることにより、圧着シートの凹表面に単セルを押さえ付け、反応層の固体電解質層側の面が凹反りとなるように単セルを変形させた。次いで、上記変形状態を維持したまま、上下に配置したセパレータ同士をねじ固定し、セルスタックユニットとした。次いで、これを800℃まで昇温後、還元性ガスとしての水素ガスをアノードに導入し、アノードの還元を完了させた。その後、アノードに還元性ガスを流したまま室温まで降温した。これにより、試料1のスタックを作製した。
【0063】
また、比較として、主面保持部を形成せずに、保持部材の本体部に単セルを平らに保持、固定することにより、試料1Cのスタックを作製した。
【0064】
各スタックを用い、発電試験を行った。なお、発電条件は、電流密度:0.5A/cm、燃料利用率Uf:75%とした。その結果を、図10に示す。図10に示されるように、アノード反応領域を含む反応層に圧縮応力が掛かった状態とされた試料1のスタックは、アノード反応領域を含む反応層に引張応力が掛かった状態とされた試料1Cのスタックに比べ、初期における電圧の低下が抑制され、高い発電性能を有することが確認された。これは、アノード反応領域に掛かる引張応力が駆動力となって生じる反応層での微構造変化が抑制され、反応層の抵抗増加が抑制されたためであると考えられる。
【0065】
また、この結果から、単セルを平坦に保持した場合でも、反応層およびこれに隣接する層の線熱膨張係数を調整し、アノード反応領域を含む反応層に引張応力が掛かるように構成することにより、上記と同様の効果を得ることが可能になるといえる。なお、アノードの原料としてNiOを用いて単セルを作製した後、アノードに対して還元処理を施し、NiOをNiに還元する際の体積収縮を利用して、反応層に圧縮応力を作用させることができる。これによって反応層に圧縮応力を作用させる場合には、支持層のNi含有量を反応層のNi含有量よりも多くすればよい。
【0066】
本発明は、上記各形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、参考形態3、参考形態4、実施形態5、実施形態6に対して、参考形態1、2の形態をそれぞれ組み合わせることができる。それ以外にも、各形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 固体酸化物形燃料電池
2 単セル
21 固体電解質層
22 アノード
23 カソード
CS 圧縮応力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10