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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 A
A41D13/11 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020124316
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022020992
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新里 徹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真幹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507205(JP,A)
【文献】特表2019-506955(JP,A)
【文献】特開2017-025430(JP,A)
【文献】米国特許第04192301(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 18/02
A41D 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の少なくとも鼻および口を覆い、前記装着者の顔との間に内側空間を形成するように前記装着者の顔と密着可能なマスク本体と、
前記マスク本体に接続され、前記マスク本体を、前記装着者の顔に密着するように保持する支持体と、
前記マスク本体に接続され、前記マスク本体の外側空間に位置して、該外側空間と気圧が等しくなるように内部空間の容積が可変可能であり、かつ、前記外側空間と前記内部空間とを、酸素と二酸化炭素が拡散可能に区画する素材で形成されている袋体とを備え、
前記マスク本体は、前記内側空間と前記外側空間との間で気体が通流可能となるように、前記内側空間と前記外側空間とを分離する分離部を含み、
前記袋体は、前記袋体の前記内部空間と前記マスク本体の前記内側空間とが、前記外側空間および前記分離部を介さずに連通するように、前記マスク本体に接続されている、マスク。
【請求項2】
前記分離部は、不織布を含んでいる、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記袋体が複数の孔を有するシートで形成されている、請求項1または請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記袋体が不織布で形成されている、請求項1または請求項2に記載のマスク。
【請求項5】
前記マスク本体と前記袋体とを接続する流路をさらに備え、
前記流路は、前記内側空間および前記袋体の前記内部空間とを連通させる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項6】
前記袋体は、冷却機能を有している、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項7】
前記袋体を収容して前記袋体を保護する容器をさらに備え、
前記容器は、前記袋体を収容する収容部が前記外側空間と連通している、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項8】
前記袋体は、前記マスク本体に着脱可能に接続されている、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
マスクの構成を開示した先行文献として、特表2016-508193号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載されたマスクは、少なくとも1つの濾過層を含み、かつ周縁部を有する後方開放端部を含むように造形されたマスク本体を含む。周縁部は、着用者の顔面(たとえば鼻梁を跨ぎ、頬を横断してその周囲から顎の下まで)と接触するように造形されている。マスク本体は、着用者の鼻および口の周囲に密閉内部空気空間を形成して、この空間を外部空気空間から分離すように造形され、そのため、たとえば、外部空気空間から内部空気空間に入るあらゆる空気は、マスク本体の濾過層を通過しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-508193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より、マスクは、装着者がウイルスに感染することを防ぐため、また、装着者が他者にウイルスを感染させることを防ぐために用いられている。マスクの本体は、たとえば、細孔を有する布または不織布により構成される。当該細孔においては、マスクの装着者の吸気および呼気によって発生した気流が通過する。一方、ウイルスは、エアロゾル化した飛沫に含まれ得る。このため、エアロゾル化した飛沫がマスク本体を通過することを阻止することが重要である。エアロゾル化した飛沫は、上記気流とともに上記細孔を通過しようとする。したがって、上記細孔のサイズを小さくすれば、エアロゾル化した飛沫が、マスク本体の上記細孔を通過することを阻止しやすくなる。
【0005】
しかしながら、上記細孔のサイズが小さいほど、マスク本体を通過する気流に抵抗が生じて、細孔において発生する圧力損失が大きくなる。圧力損失が大きくなると、呼吸流量確保のため、装着者の呼吸は安静呼吸ではなく努力呼吸となる。安静呼吸では吸気時のみ呼吸筋が収縮するが、努力呼吸では呼気時にも呼吸筋が収縮する。このため、装着者が呼吸のために使うエネルギーが大きくなり、長時間マスクを装着することが困難となる。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、エアロゾル化した飛沫がマスク本体の分離部を通過することを抑制し、かつ、装着者が長時間装着可能なマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づくマスクは、マスク本体と、支持体と、袋体とを備えている。マスク本体は、装着者の少なくとも鼻および口を覆い、装着者の顔との間に内側空間を形成するように装着者の顔と密着可能である。マスク本体は、分離部を含んでいる。分離部は、内側空間と外側空間との間で気体が通流可能となるように、内側空間と外側空間とを分離する。支持体は、マスク本体に接続され、マスク本体を、装着者の顔に密着するように保持する。袋体は、マスク本体に接続され、マスク本体の外側空間に位置して、外側空間と気圧が等しくなるように内部空間の容積が可変可能である。袋体は、外側空間と内部空間とを、酸素と二酸化炭素が拡散可能に区画する素材で形成されている。袋体は、袋体の内部空間とマスク本体の内側空間とが、外側空間および分離部を介さずに連通するように、マスク本体に接続されている。
【0008】
袋体は、外側空間と気圧が等しくなるように内部空間の容積が可変可能であるため、装着者の呼吸に伴って袋体が膨張および収縮することで、マスク本体の内側空間と外側空間との間、および、袋体の内部空間と外側空間との間で、気流の発生が抑制される。これにより、エアロゾル化した飛沫が、気流とともに、外側空間とマスク本体の内側空間との間を行き来することを抑制できる。すなわち、エアロゾル化した飛沫がマスク本体の分離部を通過することを抑制できる。また、装着者が呼吸したときに、袋体は、外側空間と気圧が等しくなるように内部空間の容積が変化するため、マスク本体の内側空間と外側空間との間で気圧差が発生することが抑制される。これにより、装着者は、呼吸のために使うエネルギーを小さくすることができ、マスクを長時間装着可能となる。なお、分離部は、内側空間と外側空間との間で気体が通流可能であるため、上記のように気流が発生しなくても、分離部を介することで内側空間と外側空間との間では酸素および二酸化炭素が拡散可能である。そして、袋体についても、袋体が、外側空間と内部空間との間を、酸素と二酸化炭素が拡散可能に区画する素材で形成されているため、上記のように気流が発生しなくても、袋体を介することで内部空間と外側空間との間では酸素および二酸化炭素が拡散可能である。このため、装着者の吸気の酸素濃度が低下することも抑制される。
【0009】
本発明の一形態においては、分離部が、不織布を含んでいる。
本発明の一形態においては、袋体が多数の孔を有するウレタン・シートあるいはゴム・シートなどの可撓性シートで形成されている。
【0010】
本発明の一形態においては、袋体が、不織布などにより、折りたたみ様式などによる体積変化ができる構造を有していてもよい。
【0011】
本発明の一形態においては、マスクが、流路をさらに備えている。流路は、マスク本体と袋体とを接続する。流路は、内側空間および袋体の内部空間とを連通させる。
【0012】
本発明の一形態においては、袋体が、冷却機能を有している。
本発明の一形態においては、マスクが、容器をさらに備えている。容器は、袋体を収容して袋体を保護する。容器は、袋体を収容する収容部が外側空間と連通している。
【0013】
本発明の一形態においては、袋体が、マスク本体に着脱可能に接続されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エアロゾル化した飛沫がマスク本体の分離部を通過することを抑制し、かつ、装着者が長時間装着可能なマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態1に係るマスクを、装着者が装着した状態を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係るマスクを装着する装着者が息を吸ったときのマスクの状態を示す、マスクの模式的な断面図である。
図3】本発明の実施形態1に係るマスクを装着する装着者が息を吐いたときのマスクの状態を示す、マスクの模式的な断面図である。
図4】本発明の実施形態2に係るマスクを、装着者が装着した状態を示す図である。
図5】本発明の実施形態3に係るマスクを、装着者が装着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態に係るマスクについて図を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るマスクを、装着者が装着した状態を示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態1に係るマスク100は、マスク本体110と、支持体120と、袋体130と、流路140と、容器150とを備えている。
【0018】
マスク本体110は、装着者1の少なくとも鼻および口を覆い、装着者1の顔との間に内側空間S1を形成するように装着者1の顔と密着可能である。マスク本体110の形状は特に限定されないが、カップ型またはくちばし型であってもよい。マスク本体110は、折り畳み可能に構成されていてもよい。
【0019】
マスク本体110は、分離部111と周縁部112とを含んでいる。分離部111は、内側空間S1と外側空間S2との間で気体が通流可能となるように、内側空間S1と外側空間S2とを分離する。周縁部112は、分離部111の周縁に設けられている。本実施形態においては、マスク100を装着した装着者1と分離部111とは互いに離間しており、周縁部112は、全周にわたって装着者1と密着している。
【0020】
分離部111は、不織布を含んでいる。当該不織布は、たとえばポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂材料により構成されている。
【0021】
分離部111は、本実施形態においては不織布を含んでいることにより、複数の細孔が形成されている。複数の細孔の各々の孔径は、たとえば、透過挙動から換算して0.3μm以上5μm以下である。これにより、粒径がおよそ5μmのエアロゾル化した飛沫が、分離部111を通過する速度を小さくする、あるいは、分離部111を通過することを阻止できる。具体的には、分離部111は、米国のNIOSH(National Institute of Occupational Safety and Health)の認定によるN95規格を満たすマスク(レスピレータ)のマスク本体に用いられる不織布と同等の性能を有していることが好ましい。すなわち、分離部111においては、空気力学的質量径が0.3μmの塩化ナトリウム粒子を、95%以上捕集できることが好ましい。
【0022】
支持体120は、マスク本体110に接続され、マスク本体110を、装着者1の顔に密着するように保持する。支持体120の具体的な構成は特に限定されない。支持体120は、図1に示すように、たとえば弾性材料により構成された1以上の紐状の部材で構成されてもよい。
【0023】
袋体130は、マスク本体110の外側空間S2に位置している。袋体130は、可撓性を有する膜状のフィルムからなる。当該フィルムは、たとえば可撓性シートであり、より具体的にはポリウレタン・シートあるいは天然ゴム・シートである。当該フィルムは、たとえば厚さが0.1mmないし2mmである。当該フィルムは、直径が0.3μmないし2mmの孔を多数、有している。複数の当該孔の総面積は、例えば15cm2ないし40cm2である。それが故に、袋体130は、外側空間S2と内部空間131との間を、酸素と二酸化炭素が拡散可能に区画する。複数の当該複数の孔の総面積は、袋体130の表面積の3%ないし10%である。換言すると、袋体130のうち複数の当該孔の総面積を除く残りの面積は、袋体130の表面積の90%ないし97%である。袋体130は、このように、複数の当該孔の総面積に対して、それ以外の袋体130の表面積の比率が高く、かつ可撓性を有するため、装着者1の吸気と呼気に伴って内部空間131の容積が変化する。すなわち、装着者1が呼吸をしても、外側空間S2と内部空間131との間に気流が生じるからではなく、内部空間131の容積が変化するが故に、外側空間S2と内部空間131の気圧が等しい状態が維持され、以て、孔を通しての気流は実質的に抑制される。また、本実施形態においては、袋体130を形成する膜状のフィルムが多数の孔を有するため、呼気に含まれる水分は、孔を通して外側空間S2に排出される。
【0024】
袋体130の呼気末期における内部空間131の容量は、たとえば100mL以上1500mL以下であり、450mL以上であることがより好ましい。一般的な人の1回当たりの呼吸量が450mLである場合、たとえば、袋体130の呼気末期における内部空間131の容量が500mLであれば、袋体130の呼気末期における内部空間131の容量は50mLとなる。従って、袋体130の呼気末期における内部空間131の容量は、450mL以上になると呼吸による負荷がなくなり更に好ましい。袋体130の呼気末期における内部空間131の容量が大きい程、袋体130の表面積は大きくなり、ますます気流が生じにくくなる。同時に、酸素と二酸化炭素との交換性が増し、装着者1が酸素不足の影響を受けにくい。従って、袋体130の呼気末期における内部空間131の容量が大きい程よい。しかし、これが1500mLを超すと、装着者1の行動が制限されるので、袋体130の呼気末期における内部空間131の容量は1500mL以下の方が好ましい。袋体130の機能、および、呼気と吸気により生じる気流の詳細については後述する。
【0025】
本実施形態においては、袋体130が冷却機能を有している。袋体130は、気化熱を応用した冷却機能を有する素材により形成されていてもよい。
【0026】
流路140は、マスク本体110と袋体130とを互いに連結するように接続する。これにより、袋体130は、マスク本体110に接続されている。流路140は、マスク本体110の内側空間S1および袋体130の内部空間131とを連通させる。流路140は、たとえばチューブ状の外形を有しており、可撓性を有していることが好ましい。流路140を構成する材料は特に限定されないが、たとえば、シリコーン系樹脂により構成されている。
【0027】
流路140は、内部の通流方向においてマスク本体110側に位置する第1端部141と、袋体130側に位置する第2端部142とを有している。
【0028】
本実施形態において、流路140は、分離部111に形成された開口113に挿通され、かつ、開口113を閉止するように分離部111に接合されている。流路140の第1端部141は、内側空間S1に位置している。流路140の第1端部141が、開口113に沿うようにして、分離部111に接合されていてもよい。分離部111に含まれる不織布がポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂材料により構成される場合には、分離部111(マスク本体110)は、たとえば熱融着により流路140と接合されてもよい。
【0029】
本実施形態において、流路140の第2端部142は、袋体130の孔部132に沿うようにして、袋体130と接合されている。流路140は、孔部132に挿通され、かつ、孔部132を閉止するように袋体130に接合されていてもよい。袋体130が熱可塑性樹脂材料により構成されている場合、袋体130は、たとえば熱融着により流路140と接合されてもよい。
【0030】
このようにして、袋体130は、袋体130の内部空間131とマスク本体110の内側空間S1とが、外側空間S2および分離部111を介さずに連通するように、マスク本体110に接続されている。なお、図1においては、内部空間131の容積が大きくなるように変形した状態の袋体130を破線で示している。
【0031】
なお、袋体130は、流路140を介さずに、直接、マスク本体110に接続されてもよい。
【0032】
容器150は、袋体130を収容して袋体130を保護する。容器150の形状は特に限定されないが、たとえば箱型である。容器150は、少なくとも袋体130より硬くなるように構成していることが好ましい。容器150は、袋体130を収容する収容部151の容量が、袋体130の内部空間131の最大容量より大きいことが好ましい。
【0033】
容器150は、袋体130を収容する収容部151が外側空間S2と連通している。これにより、容器150は、袋体130の内部空間131の容積が、外側空間S2と気圧が等しくなるように可変することを阻害しない。容器150の壁部には、外側空間S2と袋体130を収容する収容部151との間で、空気が通流できるように、たとえば1以上の開放部152が形成されている。
【0034】
以下、本実施形態に係るマスク100の機能について説明する。図2は、本発明の実施形態1に係るマスクを装着する装着者が息を吸ったときのマスクの状態を示す、マスクの模式的な断面図である。図2においては、支持体120の図示を省略している。図1および図2に示すように、マスク100の装着者1が息を吸うと、袋体130の内部空間131にある空気が、流路140を通ってマスク本体110の内側空間S1に引き込まれる(図2中の白抜き矢印)。これにより、装着者は吸気が可能となる。また、内部空間131内の空気が流出する袋体130においては、外側空間S2と気圧が等しくなるように内部空間131の容積が小さくなる。このため、内部空間131と連通するマスク本体110の内側空間S1の気圧は、外側空間S2の気圧と実質的に等しい状態が維持される。
【0035】
このように、袋体130の内部空間131の気圧と外側空間S2の気圧、および内側空間S1の気圧と外側空間S2の気圧が、それぞれ等しい状態に近づくように袋体130が変形すれば、装着者1が息を吸っているにも関わらず、袋体130を形成するフィルムの孔を通過する気流も、マスク本体110の分離部111を通過する気流もほとんど生じない。
【0036】
直径がおよそ5μmのエアロゾル化した飛沫は、気体のように拡散しない。言い換えると、エアロゾル化した飛沫は、気体分子運動をしない。このため、エアロゾル化した飛沫は、袋体130を形成するフィルムの孔を通過する気流がほとんど生じなければ、ブラウン運動によって大気中に漂っているのみであって、実質的に、袋体130を形成するフィルムの孔を通過して、袋体130の内部空間131に流入することはない。同様に、マスク本体110の分離部111を通過する気流がほとんど生じなければ、エアロゾル化した飛沫は、実質的にマスク本体110の分離部111を通過してマスク本体110の内側空間S1へ流入することはない。
【0037】
ここで、酸素および二酸化炭素は、大気中において、分子運動により活発に拡散している。このため、装着者1が息を吸っている間にも、袋体130の内部空間131および内側空間S1に残留する二酸化炭素は、袋体130を形成する膜状のフィルムの孔を通って収容部151に拡散し、続いて外側空間S2に拡散し、かつ、分離部111を介して外側空間S2に拡散する。これとともに、外側空間S2に存在する酸素は、袋体130を形成する膜状のフィルムを介して内部空間131に拡散し、かつ、分離部111を介して内側空間S1に拡散する(図2中の波線の矢印)。すなわち、分離部111と袋体130とを通じて二酸化炭素と酸素とが交換されるように、これらの気体分子が拡散する。
【0038】
図3は、本発明の実施形態1に係るマスクを装着する装着者が息を吐いたときのマスクの状態を示す、マスクの模式的な断面図である。図3においては、支持体120の図示を省略している。図1および図3に示すように、マスク100の装着者1が息を吐くと、装着者1の呼気は、マスク本体110の内側空間S1から、流路140を通って袋体130の内部空間131に流入する(図3中の白抜き矢印)。呼気が内部空間131に流入した袋体130においては、外側空間S2と気圧が等しくなるように内部空間131の容積が大きくなる。このため、内部空間131と連通するマスク本体110の内側空間S1の気圧は、外側空間S2の気圧と実質的に等しい状態が維持される。
【0039】
このように、袋体130の内部空間131の気圧と外側空間S2の気圧、および内側空間S1の気圧と外側空間S2の気圧が、それぞれ、等しい状態に近づくように袋体130が変形すれば、装着者1が息を吐いているにも関わらず、袋体130を形成する膜状のフィルムを通過する気流も、マスク本体110の分離部111を通過する気流もほとんど生じない。これにより、吸気時と同様の理由により、装着者1の飛沫が、袋体130を形成する膜状のフィルムの孔を通って、袋体130の内部空間131から外側空間S2へ流出することを抑制でき、かつ、分離部111を介して外側空間S2へ流出することを抑制できる。
【0040】
また、マスク100を装着した装着者1が呼気を吐出すると、装着者1の呼気は内側空間S1および袋体130の内部空間131に流入する。ここで、酸素および二酸化炭素は、大気中において、分子運動により活発に拡散している。このため、装着者1が息を吐いている間、袋体130の内部空間131および内側空間S1に存在する二酸化炭素は、袋体130を形成する膜状のフィルムの孔を通って収容部151に拡散し、続いて外側空間S2に拡散し、かつ、分離部111を介して外側空間S2に拡散する。これとともに、外側空間S2に存在する酸素は、袋体130を形成する膜状のフィルムを介して内部空間131に拡散し、かつ、分離部111を介して内側空間S1に拡散する(図3中の波線の矢印)。すなわち、分離部111と袋体130とを通じて二酸化炭素と酸素とが交換されるように、これらの気体分子が拡散する。これにより、装着者1が、図3に示すように呼気を吐出するのに続いて、図2に示すように吸気を再び吸入したときに、装着者1は外側空間S2と酸素濃度が実質的に等しい空気を吸入できる。
【0041】
以上に説明したように、本実施形態に係るマスク100を装着者1が装着した場合、分離部111においては気体が通流可能であり、かつ、袋体130は、外側空間S2と内部空間131との間を、酸素と二酸化炭素が拡散可能に区画する素材で形成されているため、図2および図3に示した上記の2つの状態が繰り返されることで、装着者1は継続して呼吸をすることができる。また、本実施形態において、袋体130は、可塑性を有する素材によって形成されているため、マスク本体110の内側空間S1から、流路140を通って袋体130の内部空間131に呼気が流入し、吸気のための空気が袋体130の内部空間131から流路140を通ってマスク本体110の内側空間S1に流出するに伴って、袋体130は容易に膨張と萎縮を繰り返し、以て、袋体130の内部空間131内の気圧は、外側空間S2の気圧と実質的に等しい状態を維持することができる。このように、内側空間S1の気圧と外側空間S2の気圧とが互いに実質的に等しい状態が維持されているため、袋体130を形成する膜状のフィルムの孔および分離部111を介しての、空気の流れに伴うエアロゾル化した飛沫の流入も、流出もほとんど生じない。また、袋体130は膨張・収縮を繰り返しできる構造であればよく、折り畳み構造を持つ不織布でもよい。さらに、装着者1の呼吸時において、内側空間S1の気圧と外側空間S2の気圧とが互いに実質的に等しい状態が維持されているため、マスク本体110の分離部111における圧力損失はほとんど生じない。マスク100を装着者1が装着したときの分離部111における圧力損失の値は、たとえば5mmH2O以下、または2mmH2O以下であることが好ましい。これにより、呼吸流量が十分確保されるとともに、マスク100の装着者1の呼吸は安静呼吸となり、装着者1が呼吸のために使うエネルギーを小さくできる。ひいては、装着者1が、マスク100を長時間装着することができる。
【0042】
上記のように、本発明の実施形態1に係るマスク100は、袋体130を備えている。袋体130は、マスク本体110に接続され、マスク本体110の外側空間S2に位置して、外側空間S2と気圧が等しくなるように内部空間131の容積が可変可能である。袋体130は、外側空間S2と内部空間131とを、酸素と二酸化炭素が拡散可能に区画するフィルムで形成されている。当該フィルムは多数の孔を有するために、酸素と二酸化炭素が拡散可能である。また、当該フィルムがシリコーン素材により構成されていると、酸素と二酸化炭素の溶解拡散性が向上するので、更に好ましい。袋体130は、袋体130の内部空間131とマスク本体110の内側空間S1とが、外側空間S2および分離部111を介さずに連通するように、マスク本体110に接続されている。これにより、本実施形態に係るマスク100は、エアロゾル化した飛沫がマスク本体110の分離部111を通過することを抑制し、かつ、エアロゾル化した飛沫が袋体130を介して外側空間S2と内部空間131との間を行き来することを抑制しつつ、装着者1が長時間装着可能となる。
【0043】
また、本実施形態においては、分離部111が、不織布を含んでいる。これにより、エアロゾル化した飛沫を分離部111で捕集しやすくなり、エアロゾル化した飛沫が分離部111を通過することをさらに抑制できる。
【0044】
また、本実施形態においては、袋体130は可撓性を有し、かつ多数の孔を有するフィルム素材で形成され、さらに袋体130の表面積のうち、複数の孔の総面積以外の面積の比率が著しく大きい。袋体130が可撓性を有し、かつ複数の当該孔の総面積以外の面積の比率が著しく大きいため、呼吸をおこなうと、袋体130の内部空間131の容積が変化し、外側空間S2と袋体130の内部空間131の気圧は実質的に等しく保たれ、以って、フィルムの孔を通して気流が生じず、その結果、エアロゾル化した飛沫が外側空間S2と袋体130の内部空間131に流入しない。また、袋体130を形成するフィルムが多数の孔を有するため、分子運動をして活発に拡散する酸素および二酸化炭素は、外側空間S2と内部空間131との間で移行が可能である。
【0045】
また、本実施形態に係るマスク100は、流路140をさらに備えている。流路140は、マスク本体110と袋体130とを接続する。流路140は、内側空間S1および袋体130の内部空間131とを連通させる。これにより、袋体130がマスク本体110に直接接続されている場合と比較して、袋体130ひいてはマスク100の取り扱いが容易となる。
【0046】
また、本実施形態においては、袋体130は、冷却機能を有している。これにより、内部空間131が冷却され、装着者1が、内部空間131内の暖かい吸気を空気を吸うことで感じる不快さを、低減できる。
【0047】
また、本実施形態に係るマスク100は、容器150をさらに備えている。容器150は、袋体130を収容して袋体130を保護する。容器150は、袋体130を収容する収容部151が外側空間S2と連通している。これにより、袋体130の内部空間131の容量変化が、外側空間S2に位置する障害物との接触などにより阻害されることを抑制できる。
【0048】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2に係るマスクについて説明する。本発明の実施形態2に係るマスクは、袋体の構成などが、本発明の実施形態1と異なる。このため、本発明の実施形態1に係るマスク100と同様の構成については説明を繰り返さない。
【0049】
図4は、本発明の実施形態2に係るマスクを、装着者が装着した状態を示す図である。図4に示すように、本発明の実施形態2に係るマスク200は、着脱部材260をさらに備えている。着脱部材260は、マスク本体210に設けられている。具体的には、着脱部材260は、分離部111に設けられている。本実施形態においては、着脱部材260は、分離部111に形成された開口113を覆うように、マスク本体110(具体的には、開口113の開口端)に接合されている。
【0050】
本実施形態においては、着脱部材260とマスク本体110とを互いに密着して接合できるように、開口113の開口端上には、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂材料により構成されたシート状の保護部材が溶着などにより設けられていてもよい。この場合、当該保護部材を介して着脱部材260とマスク本体110(分離部111)とが互いに接合される。
【0051】
着脱部材260は、たとえば、気密性を有する弾性体で構成され、更に好ましくは皮膚との接着性の良い素材で構成されている。着脱部材260は、たとえば、シリコーン系樹脂で構成されている。着脱部材260は粘着性を有していることが好ましく、このため、着脱部材260を構成するシリコーン系樹脂の硬度の値は比較的小さいことが好ましい。着脱部材260を構成するシリコーン系樹脂の硬度は、たとえば、ショアA硬度で5度である。
【0052】
着脱部材260は、着脱口261を有している。着脱口261には、流路140が気密に接続される。すなわち、本実施形態においては、マスク本体210の内側空間S1と、流路140の内部とが、着脱部材260と開口113とを介して連通している。本実施形態においては、着脱部材260は、着脱口261の接合部分付近のみに設けられているが、マスク本体210の周縁部112の全周にわたって設けられてもよく、この場合には、着脱部材260はより密着性の高い部材を用いることが好ましい。また、着脱部材260がたとえば粘着性を有していることで、流路140は、着脱可能に、着脱部材260の着脱口261と接続される。
【0053】
このようにして、本発明の実施形態2に係るマスク200においては、袋体230が、マスク本体210に着脱可能に接続されている。これにより、袋体230およびマスク本体210を別々に運ぶことができ、マスク200の取り扱いが容易となる。
【0054】
また、本発明の実施形態2に係るマスク200において、袋体230は、呼気時において、湾曲した円柱状の外形を有している。このため、装着者1は、袋体230が装着者1の一方の肩から他方の肩にかけて首周りに位置するようにして、袋体230を背負うことができる。これにより、袋体230が装着者1の作業の障害になることを抑制できる。また、本実施形態においては、袋体230が冷却機能を有するために、袋体230のうち装着者1の頸動脈に接する部分に冷却ゲルを収容できるポケットを設けてもよい。
【0055】
なお、本実施形態に係るマスク200は、本発明の実施形態1に係るマスク100が備える容器150を備えていないが、これと同様の機能を有する容器をさらに備えていてもよい。
【0056】
(実施形態3)
以下、本発明の実施形態3に係るマスクについて説明する。本発明の実施形態3に係るマスクは、マスク本体と流路との接合方法が主に、本発明の実施形態2と異なる。このため、本発明の実施形態2に係るマスク200と同様の構成については説明を繰り返さない。
【0057】
図5は、本発明の実施形態3に係るマスクを、装着者が装着した状態を示す図である。本発明の実施形態3に係るマスク300においては、周縁部112に凹部314が形成されている。凹部314は、装着者1がマスク300を装着したときに、装着者1の顔から離れて位置するように形成されている。流路140は、凹部314に沿うようにしてマスク本体310に固着されている。具体的には、流路140の第1端部141は、凹部314に沿うようにしてマスク本体310に固着されている。流路140は、たとえば溶着により凹部314に固着させることができる。
【0058】
なお、本実施形態においては、流路140のうちマスク本体310(凹部314)と固着されている側とは反対側の側面が、マスク300を装着したときの装着者1の顔と密着するように構成されている。
【0059】
このように、本発明の実施形態3に係るマスク300においては、袋体230が、マスク本体310とは着脱可能には接続されていない。しかしながら、本実施形態においても、袋体230は、マスク本体310に接続され、外側空間S2と気圧が等しくなるように内部空間131の容積が可変可能である。従って、呼吸に伴って、内部空間131の気圧は実質的に変動せず、その結果、実質的に袋体230を形成するフィルムの孔に気流が生じない。そのため、エアロゾル化した飛沫がマスク本体310の分離部111を通過することを抑制できる。そして、装着者1は、マスク300を長時間装着することができる。
【0060】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 装着者、100,200,300 マスク、110,210,310 マスク本体、111 分離部、112 周縁部、113 開口、120 支持体、130,230 袋体、131 内部空間、132 孔部、140 流路、141 第1端部、142 第2端部、150 容器、151 収容部、152 開放部、260 着脱部材、261 着脱口、314 凹部、S1 内側空間、S2 外側空間。
図1
図2
図3
図4
図5