(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/10 20060101AFI20240305BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20240305BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20240305BHJP
B29C 51/36 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B29C51/10
B29C51/08
B29C51/12
B29C51/36
(21)【出願番号】P 2020148555
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 健一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 厚司
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-217317(JP,A)
【文献】特開昭55-121018(JP,A)
【文献】特開昭62-130824(JP,A)
【文献】特開平01-264826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00-51/46
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に擬似ステッチ模様が形成された表皮材
と基材とからなる成形体の製造方法であって、
前記表皮材を加熱する加熱工程と、
所定形状にプレス成形された前記基材を下型に保持するとともに、前記加熱工程で加熱された前記表皮材を前記下型と上型の間に配置させる配置工程と、
加熱された前記表皮材の表面側を真空
吸引する前記上型で押圧して前記表皮材を圧縮する
表皮圧縮工程と、前記表皮材の圧縮状態で前記上型により前記表皮材を真空吸引して前記表皮材をステッチ形成部を含み前記上型に追従させる上型真空吸引工程と、前記下型により前記表皮材を前記基材側に真空吸引する下型真空吸引工程とからなる成形工程と、
を含み、
前記
上型は、前記擬似ステッチ模様を形成する複数の
前記ステッチ形成部を備え、
前記ステッチ形成部のそれぞれには、前記表皮材を真空吸引するための吸引穴が開口して形成されており、
前記
上型真空吸引工程は、前記ステッチ形成部毎の前記吸引穴を介して圧縮された前記表皮材を真空吸引して前記擬似ステッチ模様を形成することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記
表皮圧縮工程は、厚み(t1)が3mm以下の前記表皮材を前記
上型で圧縮する請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ステッチ形成部は、平面視で長尺状に形成されており、
前記吸引穴は、前記ステッチ形成部の長尺方向の中央部に開口して形成されている請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法、真空型及び成形体に関し、更に詳しくは、表面側に擬似ステッチ模様が形成された表皮材を備える成形体の製造方法、その製造方法で好適に用いられる真空型、及びその製造方法で好適に得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の成形体として、表面側に擬似ステッチ模様が形成された表皮材を備えるものが一般に知られている(例えば、特許文献1等を参照)。この種の成形体の製造方法としては、例えば、
図11に示されるように、加熱された表皮材103の表面側を真空型112で押圧して表皮材103を圧縮するとともに、真空型112で表皮材103を真空吸引して擬似ステッチ部105を形成するものが知られている。この真空型112には、例えば、
図13に示すように、擬似ステッチ部105を形成するステッチ形成部113以外の箇所に表皮材103を真空吸引するための吸引穴117が開口して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-016647号公報
【文献】特開2012-228823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の成形体の製造方法によると、例えば、
図11(a)に示されるように、車両インストルメントパネル等のように表皮材103の厚みt1が比較的厚い場合(例えば、厚みt1が4.5mmの場合)、真空型112のステッチ形成部113で表皮材103を圧縮できる量cを多く確保できる(例えば、圧縮量cが1.5mm)。そのため、真空型112のステッチ形成部113内に表皮材103を追従させて、擬似ステッチ部105の転写率を70%以上として糸撚り目を明瞭に再現できる(例えば、
図12(a)参照)。なお、
図11中の仮想線は、圧縮前の表皮材103の上面を示す。
【0005】
これに対して、例えば、
図11(b)に示されるように、車両ドアトリム等のように表示材103の厚みt1’が比較的薄い場合(例えば、厚みt1’が2mmの場合)、真空型112のステッチ形成部113で表皮材103を圧縮できる量c’を多く確保できない(例えば、圧縮量cが0.5mm)。そのため、真空型112のステッチ形成部113内に表皮材103を十分に追従させることができず、擬似ステッチ部105の転写率が5%程度となり糸撚り目を明瞭に再現できない(例えば、
図12(b)参照)。
【0006】
なお、特許文献1には、基材に接着された表皮材にステッチ加飾部を擬似的に形成する技術が開示されている。また、特許文献2には、真空成形にて表皮材を所望の形状に賦形する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1及び2には、表皮材の厚みが比較的薄い場合において擬似ステッチ模様の転写率を向上させる技術について全く開示されていない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、表皮材の厚みが比較的薄い場合であっても、擬似ステッチ模様の転写率を向上させることができる成形体の製造方法、その製造方法に好適に用いられる真空型、及びその製造方法で好適に得られる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、表面側に擬似ステッチ模様が形成された表皮材を備える成形体の製造方法であって、前記表皮材を加熱する加熱工程と、加熱された前記表皮材の表面側を真空型で押圧して前記表皮材を圧縮する成形工程と、を含み、前記真空型は、前記擬似ステッチ模様を形成する複数のステッチ形成部を備え、前記ステッチ形成部のそれぞれには、前記表皮材を真空吸引するための吸引穴が開口して形成されており、前記成形工程は、前記ステッチ形成部毎の前記吸引穴を介して圧縮された前記表皮材を真空吸引して前記擬似ステッチ模様を形成することを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記成形工程は、厚み(t1)が3mm以下の前記表皮材を前記真空型で圧縮することを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記ステッチ形成部は、平面視で長尺状に形成されており、前記吸引穴は、前記ステッチ形成部の長尺方向の中央部に開口して形成されていることを要旨とする。
上記問題を解決するために、請求項4に記載の発明は、表皮材の表面側に擬似ステッチ模様を形成するための真空型であって、前記擬似ステッチ模様を形成する複数のステッチ形成部を備え、前記ステッチ形成部のそれぞれには、前記表皮材を真空吸引するための吸引穴が開口して形成されていることを要旨とする。
上記問題を解決するために、請求項5に記載の発明は、表面側に擬似ステッチ模様が形成された表皮材を備える成形体であって、前記表皮材の厚み(t2)は2.5mm以下であり、前記擬似ステッチ模様を構成する擬似ステッチ部の高さは0.3mm以上であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形体の製造方法によると、表皮材を加熱する加熱工程と、加熱された表皮材の表面側を真空型で押圧して表皮材を圧縮する成形工程と、を含む。そして、真空型は、擬似ステッチ模様を形成する複数のステッチ形成部を備え、ステッチ形成部のそれぞれには、表皮材を真空吸引するための吸引穴が開口して形成されており、成形工程は、ステッチ形成部毎の吸引穴を介して圧縮された表皮材を真空吸引して擬似ステッチ模様を形成する。これにより、表皮材の厚みが比較的薄い場合であっても、真空型のステッチ形成部での表皮材の吸引力が高められるため、擬似ステッチ模様の転写率を向上させることができる。
また、前記成形工程が、厚み(t1)が3mm以下の前記表皮材を前記真空型で圧縮する場合であっても、擬似ステッチ模様の転写率を向上できる。
さらに、前記ステッチ形成部が、平面視で長尺状に形成されており、前記吸引穴が、前記ステッチ形成部の長尺方向の中央部に開口して形成されている場合は、真空型のステッチ形成部での表皮材の吸引力が効果的に高められる。
本発明の真空型によると、前記擬似ステッチ模様を形成する複数のステッチ形成部を備え、ステッチ形成部のそれぞれには、表皮材を真空吸引するための吸引穴が開口して形成されている。この真空型を用いれば、ステッチ形成部毎の吸引穴を介して圧縮された表皮材を真空吸引して擬似ステッチ模様が形成される。これにより、表皮材の厚みが比較的薄い場合であっても、真空型のステッチ形成部での表皮材の吸引力が高められるため、擬似ステッチ模様の転写率を向上させることができる。
本発明の成形体によると、表皮材の厚み(t2)は2.5mm以下であり、擬似ステッチ模様を構成する擬似ステッチ部の高さは0.3mm以上である。これにより、高い転写率の擬似ステッチ模様が形成された厚みの薄い表皮材を備える成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施例に係る成形体の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は配置工程を示し、(b)は成形工程を示し、(c)は成形体の取出工程を示す。
【
図2】上記成形工程を説明するための説明図(
図4のA-A線断面図と対応する断面図)であり、(a)は表皮材が圧縮された状態を示し、(b)は表皮材が真空吸引された状態を示す。
【
図3】上記成形工程を説明するための説明図(
図4のB-B線断面図と対応する断面図)であり、(a)は表皮材が圧縮された状態を示し、(b)は表皮材が真空吸引された状態を示す。
【
図4】実施例に係る真空型(上型)を説明するための説明図であり、(a)は真空型の成形面の要部の平面図を示し、(b)はA-A線断面図を示し、(c)はB-B線断面図を示す。
【
図5】上記真空型の成形面の要部を示す画像処理図である。
【
図6】上記成形体の製造方法で得られた成形体の正面図である。
【
図7】上記成形体の表皮材の要部を示す画像処理図である。
【
図8】上記成形体を説明するための説明図であり、(a)は表皮材の要部の平面図を示し、(b)はA-A線断面図を示し、(c)はB-B線断面図を示す。
【
図9】上記成形体の表皮材の要部を示す画像処理図である。
【
図10】上記真空型のステッチ形成部の深さと表皮材の圧縮量との相関を示すグラフである。
【
図11】従来の成形体の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は厚みが厚い表皮材が圧縮された状態を示し、(b)は厚みが薄い表皮材が圧縮された状態を示す。
【
図12】従来の成形体の製造方法で得られた成形体の表皮材の要部を示す画像処理図であり、(a)は厚みが厚い表皮材を示し、(b)は厚みが薄い表皮材を示す。
【
図13】従来の真空型の成形面の要部を示す画像処理図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
<成形体の製造方法>
本実施形態に係る成形体の製造方法は、例えば、
図1~
図3等に示すように、表面側に擬似ステッチ模様(D)が形成された表皮材(3)を備える成形体(1)の製造方法であって、表皮材(3)を加熱する加熱工程と、加熱された表皮材の表面側を真空型(12)で押圧して表皮材を圧縮する成形工程と、を含む。そして、真空型(12)は、擬似ステッチ模様(D)を形成する複数のステッチ形成部(13)を備え、ステッチ形成部(13)のそれぞれには、表皮材(3)を真空吸引するための吸引穴(17)が開口して形成されており、成形工程は、ステッチ形成部(13)毎の吸引穴(17)を介して圧縮された表皮材(3)を真空吸引して擬似ステッチ模様(D)を形成する。
【0013】
加熱工程の加熱手段、タイミング等は特に問わない。この加熱工程は、例えば、加熱炉、熱風供給、熱板等によりシート状の表皮材(3)を軟化する所定温度に加熱することができる。
【0014】
成形工程の成形手段、タイミング等は特に問わない。この成形工程は、例えば、
図1等に示すように、加熱されたシート状の表皮材(3)を真空型(12)で押圧することができる。この成形工程は、例えば、
図2及び
図3等に示すように、厚み(t1)が3mm以下(好ましくは0.5~3mm、特に1~2.5mm)の表皮材(3)を真空型(12)で圧縮することができる。
【0015】
成形工程は、例えば、
図3、
図4及び
図10等に示すように、ステッチ形成部(13)の長尺方向の中央部の深さ(d)とステッチ形成部(13)の長尺方向の中央部による表皮材の圧縮量(c)との比(d/c)が1.0以下(好ましくは0.5~1.0)となるように真空型(12)で表皮材(3)を圧縮することができる。なお、比(d/c)は、通常0を超える。
【0016】
表皮材(3)の構成、材質等は特に問わない。この表皮材(3)は、例えば、
図8等に示すように、表皮層(3a)と、表皮層の裏面側に配置される発泡層(3b)と、を備えることができる。この表皮層(3a)は、例えば、オレフィン系エラストマ(TPO)又はポリ塩化ビニル等の合成樹脂により形成されていることができる。また、発泡層(3b)は、例えば、ポリプロピレンフォーム(PPF)により形成されていることができる。
【0017】
擬似ステッチ模様(D)の形状、大きさ等は特に問わない。この擬似ステッチ模様(D)は、通常、真空型(12)を用いて圧縮成形される模様である。また、擬似ステッチ模様(D)は、例えば、
図8等に示すように、線状に並ぶ複数の擬似ステッチ部(5)を備えることができる。この擬似ステッチ部(5)の表面には、例えば、糸撚り目(6)が形成されていることができる。さらに、擬似ステッチ模様(D)は、例えば、隣り合う擬似ステッチ部(5)の間に配置される凹状の擬似針落とし部(8)を備えることができる。
【0018】
真空型(12)の構造、材質等は特に問わない。この真空型(12)としては、例えば、通気性電鋳型、通気性金属型、通気性セラミック型等が挙げられる。これらのうち、転写性の観点から、通気性電鋳型(
図5等参照)であることが好ましい。
【0019】
ステッチ形成部(13)の個数、形状等は特に問わない。このステッチ形成部(13)は、例えば、
図4等に示すように、その先端側に凹部(13a)が形成された突起状に形成されていることができる。さらに、ステッチ形成部(13)は、例えば、平面視で長尺状に形成されていることができる。さらに、ステッチ形成部(13)の長尺方向の中央部の深さ(d)としては、例えば、0.3mm以上(好ましくは0.3~2mm、特に0.4~1.5mm)等が挙げられる。
【0020】
吸引穴(17)の個数、形状等は特に問わない。この吸引穴(17)は、例えば、
図4等に示すように、ステッチ形成部(13)の長尺方向の中央部に開口して形成されていることができる。また、吸引穴(17)は、例えば、ドリル、レーザ等による穴あけ加工により形成されていることができる。また、吸引穴(17)は、例えば、開口端に向かって縮径するテーパ状に形成されていることができる。さらに、吸引穴(17)の直径は、通常、製品意匠面に凸がでないように0.25mm以下である。この直径としては、例えば、0.1~0.25mm(好ましくは0.1~0.2mm)等が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る成形体の製造方法としては、例えば、
図1等に示すように、成形体(1)は、基材(2)と、該基材の表面側に接着された表皮材(3)と、を備え、基材(2)を下型(11)に保持するとともに、加熱された表皮材(3)を型開き状態の下型(11)と上型(12)との間に配置する配置工程を含み、成形工程は、下型(11)及び上型(12)を型締めして上型(12)で表皮材(3)の表面側を押圧することで、表皮材(3)を圧縮しつつ基材(2)の表面形状に沿うように賦形して基材(2)と表皮材(3)を接着することができる。
【0022】
基材(2)の構成、材質等は特に問わない。この基材(2)は、例えば、ポリプロピレン等の合成樹脂材からなる射出成型品であったり、合成樹脂に補強繊維(例えば、ケナフ等の靭皮植物繊維)を混合した材料からなるプレス成形品であったりできる。
下型(11)は、所定形状の基材(2)を保持する限り、その構造、材質等は特に問わない。
【0023】
なお、成形体(1)としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等の内装材や外装材が挙げられる。このうち自動車の内装材や外装材として、具体的には、ドアトリム、各種インストルメントパネル、シートバックボード、パッケージトレイ、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クォーターパネル、サイドパネル、アームレスト、シート構造材、天井材、コンソールボックス、ダッシュボード、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等が挙げられる。さらに、成形体として、上述したものの他、例えば、建築物、家具等の内装材及び外装材等が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥などの各種家具の表装材等が挙げられる。その他、包装体、トレイなどの収容体、保護用部材、パーティション部材等が挙げられる。
【0024】
<真空型>
本実施形態に係る真空型は、例えば、
図4等に示すように、表皮材(3)の表面側に擬似ステッチ模様(D)を形成するための真空型(12)であって、擬似ステッチ模様(D)を形成する複数のステッチ形成部(13)を備え、ステッチ形成部(13)のそれぞれには、表皮材(3)を真空吸引するための吸引穴(17)が開口して形成されている。
本実施形態に係る真空型としては、例えば、上述の実施形態に係る成形体の製造方法で説明した真空型に関する構成の1種又は2種以上の組み合わせを適用したものを挙げることができる。
なお、本実施形態に係る真空型の型製作工期は、通常、ステッチ形成部に吸引穴が形成されていない従来の真空型よりも時間がかかる。
【0025】
<成形体>
本実施形態に係る成形体は、例えば、
図8等に示すように、表面側に擬似ステッチ模様(D)が形成された表皮材(3)を備える成形体(1)であって、表皮材(3)の厚み(t2)は2.5mm以下(好ましくは0.5~2.5mm、特に1~2mm)であり、擬似ステッチ模様(D)を構成する擬似ステッチ部(5)の高さ(h)は0.3mm以上(好ましくは0.3~2mm、特に0.4~1.5mm)である。
本実施形態に係る成形体としては、例えば、上述の実施形態に係る成形体の製造方法で説明した成形体に関する構成の1種又は2種以上の組み合わせを適用したものを挙げることができる。
【0026】
なお、上記実施形態で記載した各構成の括弧内の符号は、後述する実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【実施例】
【0027】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。本実施例では、本発明に係る「成形体」として、車両用のドアトリムである成形体1を例示する(
図6及び
図7参照)。さらに、本発明に係る「真空型」として、上型(電鋳型)12を例示する(
図1参照)。
【0028】
(1)成形体の構成
本実施例に係る成形体1は、
図8に示すように、基材2と、該基材2の表面側に接着された表皮材3と、を備えている。この基材2は、ポリプロピレン等の合成樹脂からなる射出成形品である。また、基材2の厚みは約2.3mmとされている。また、表皮材3は、表皮層3aと、表皮層3aの裏面側に配置される発泡層3bと、を備えている。この表皮層3aは、オレフィン系エラストマ(TPO)により形成されている。また、発泡層3bは、ポリプロピレンフォーム(PPF)により形成されている。さらに、表皮材3aの厚みt2(具体的に、表皮材3aの擬似ステッチ模様Dから離れた一般部の厚さt2)は、約1.5mmとされている。
【0029】
表皮材3の表面側には、
図8及び
図9に示すように、擬似ステッチ模様Dが形成されている。この擬似ステッチ模様Dは、線状に並ぶ複数の凸状の擬似ステッチ部5を備えている。また、擬似ステッチ模様Dは、隣り合う擬似ステッチ部5の間に配置される凹状の擬似針落とし部8を備えている。さらに、擬似ステッチ模様Dは、擬似ステッチ部5の両側において湾曲状に傾斜する左右対称の傾斜部7(
図8(b)参照)を備えている。さらに、表皮材3の表面側には、革調等のシボ模様9が形成されている。
【0030】
擬似ステッチ部5の表面には、糸撚り目6が形成されている。また、擬似ステッチ部5は、平面視で長尺状(具体的に、四隅が丸みを帯びた矩形状)に形成されており、長尺方向に直交する断面が略半円状に形成されている。また、擬似ステッチ部5の高さh(具体的に、擬似ステッチ部5の長尺方向の中央部の高さh)は約0.5mmとされている。また、擬似針落とし部8は、底側に向かって先細る穴状に形成されている。
【0031】
(2)上型の構成
本実施例に係る上型12は、
図4及び
図5に示すように、通気性電鋳型であり凹状の成形面12aを備えている(
図1参照)。この上型12は、擬似ステッチ部5を形成する複数のステッチ形成部13、擬似針落とし部8を形成する複数の針落とし形成部14、及びシボ模様9を形成するシボ模様形成部15を備えている。
【0032】
ステッチ形成部13は、その先端側に凹部13aが形成された突起状に形成されている。このステッチ形成部13は、平面視で長尺状に形成されている。また、ステッチ形成部13の長尺方向の中央部の深さd(すなわち、凹部13aの深さd)は約0.5mmとされている。さらに、針落とし形成部14は、先端に向かって先細る突起状に形成されている。
【0033】
ステッチ形成部13のそれぞれには、表皮材3を真空吸引するための吸引穴17が開口して形成されている。この吸引穴17は、ステッチ形成部13の長尺方向の中央部に開口している。また、上型12のステッチ形成部13以外の部位(好ましくは、ステッチ形成部13の近傍の部位)には、表皮材3を真空吸引するための吸引穴117が開口して形成されている。また、吸引穴17、177は、ドリル、レーザ等による穴あけ加工により形成されている。また、吸引穴17、177は、その開口端に向かって縮径するテーパ状又は略ストレート状に形成されている。さらに、吸引穴17、177の直径は約0.18mmとされている。さらに、複数の吸引穴17、177は、吸引ポンプ(図示省略)に接続されている。
【0034】
なお、上型12は、下型11(樹脂型;アルミ+樹脂)とともに真空成形装置を構成する(
図1参照)。これら下型11及び上型12は、少なくとも一方の型の移動により型締めするものとする。さらに、下型11には、表皮材3を基材2側に真空吸引するための吸引穴(図示省略)が形成されている。
【0035】
(3)成形体の製造方法
次に、上述の上型12を用いる成形体の製造方法について説明する。本成形体の製造方法は、以下に述べる加熱工程、配置工程及び成形工程を備えている。
【0036】
加熱工程は、表皮材3を加熱する工程である。この加熱工程では、シート状の表皮材3が軟化する所定温度に加熱される。
【0037】
配置工程は、
図1(a)に示すように、所定形状にプレス成形された基材2を下型11に保持するとともに、所定温度に加熱されたシート状の表皮材3を型開き状態の下型11と上型12との間に配置する工程である。この配置工程では、厚みt1が約2mmの表皮材3(原反)が下型11と上型12との間に配置される。なお、下型11に保持される基材2の表面側には接着剤が塗布され乾燥されている。また、基材2の保持と表皮材3の配置は、その順序を問わず、また略同時に行われてもよい。
【0038】
成形工程は、
図1(b)に示すように、加熱された表皮材3の表面側を押圧型12で押圧して表皮材3を圧縮する工程である。この成形工程は、以下に述べる表皮圧縮工程、上型真空吸引工程及び下型真空吸引工程を備えている。
【0039】
表皮圧縮工程は、上型12と下型11で表皮材3と接着剤付きの基材2をプレスする。このとき、上型12で表皮材3の表面側を押圧することで、表皮材3を圧縮しつつ基材2の表面形状に沿うように賦形して基材2と表皮材3が接着される。上型真空吸引工程は、表皮材3の圧縮状態で上型12が製品意匠面を真空吸引しシボ転写を行う。すなわち、ステッチ形成部13毎の吸引穴17及び他の吸引穴117を介して圧縮された表皮材3を真空吸引して擬似ステッチ模様D(すなわち、擬似ステッチ部5及び擬似針落とし部8)とともにシボ模様9が形成される(
図9参照)。下型真空吸引工程は、上型12にて真空完了後、表皮材3と基材2の間のエアー抜きや表皮材3と基材2を密着させるために下型11で真空吸引を行う。
【0040】
具体的に、表皮圧縮工程では、
図2(a)及び
図3(a)に示すように、上型12のステッチ形成部13により、厚みt1が約2mmの表皮材3が約0.5mmの圧縮量cで圧縮される。このとき、表皮材3は、ステッチ形成部13の凹部13a内に完全に入り込むように追従していない。すなわち、表皮材3の表面とステッチ形成部13の凹部13aとの間に空間が形成されている。なお、
図2及び
図3中の仮想線は、圧縮前の表皮材3の上面を示す。
【0041】
上述の状態より、上型真空吸引工程において、
図2(b)及び
図3(b)に示すように、上型12のステッチ形成部13毎の吸引穴17により表皮材3を真空吸引することで、表皮材3は、ステッチ形成部13の凹部13a内に完全に入り込むように追従する。これにより、高さhが約0.5mmで表面に明瞭な糸撚り目6を有する擬似ステッチ部5が形成される(
図8及び
図9参照)。次いで、下型真空吸引工程において、下型11により表皮材3を基材2側に真空吸引することで成形体1が得られる。その後、表皮材3が十分に冷却されたときに、
図1(c)に示すように、下型11及び上型12を型開きして、下型11から成形体1が取り出される。
【0042】
(4)実施例の効果
本実施例の成形体の製造方法によると、表皮材3を加熱する加熱工程と、加熱された表皮材3の表面側を上型12で押圧して表皮材3を圧縮する成形工程と、を含む。そして、上型12には、擬似ステッチ模様Dを形成する複数のステッチ形成部13が備えられおり、ステッチ形成部13のそれぞれには、表皮材3を真空吸引するための吸引穴17が開口して形成されており、成形工程は、ステッチ形成部13毎の吸引穴17を介して圧縮された表皮材3を真空吸引して擬似ステッチ模様Dを形成する。これにより、表皮材3の厚みが比較的薄い場合(具体的に、圧縮前の表皮材3の厚みt1が約2mmの場合)であっても、上型12のステッチ形成部13での表皮材3の吸引力が高められるため、擬似ステッチ模様Dの転写率を70%以上(具体的に、75%)に向上させることができる(
図9参照)。なお、転写率とは、擬似針落とし部8の設定値に対する実測値の割合を意図する。
【0043】
さらに、本実施例では、ステッチ形成部13は、平面視で長尺状に形成されており、吸引穴17は、ステッチ形成部13の長尺方向の中央部に開口して形成されている。これにより、上型12のステッチ形成部13での表皮材3の吸引力が効果的に高められる。
【0044】
本実施例の上型12によると、擬似ステッチ模様Dを形成する複数のステッチ形成部13を備え、ステッチ形成部13のそれぞれには、表皮材3を真空吸引するための吸引穴17が開口して形成されている。この上型12を用いれば、ステッチ形成部13毎の吸引穴17を介して圧縮された表皮材3を真空吸引して擬似ステッチ模様Dが形成される。これにより、表皮材3の厚みが比較的薄い場合(具体的に、圧縮前の表皮材3の厚みt1が約2mmの場合)であっても、上型12のステッチ形成部13での表皮材3の吸引力が高められるため、擬似ステッチ模様Dの転写率を70%以上(具体的に、75%)に向上させることができる(
図9参照)。
【0045】
本実施例の成形体1によると、表皮材の厚みt2は1.5mmであり、擬似ステッチ模様Dを構成する擬似ステッチ部5の高さhは0.5mmである。これにより、高い転写率の擬似ステッチ模様Dが形成された厚みt2の薄い表皮材3を備える成形体1を提供できる。
【0046】
次に、
図10に基づいて、ステッチ形成部13の深さdと表皮材3の圧縮量cとの相関について説明する。この相関は、実施例に係る上型12を用いた複数の試験により糸撚り目6を明瞭に再現できるかどうかを確認して得られた。
【0047】
上型12を用いて表皮圧縮工程を行った後に上型真空吸引工程を行わない場合、比d/cが0.5以下(即ち、領域A)であれば、糸撚り目6を明瞭に再現できた。これに対して、上型12を用いて表皮圧縮工程を行った後に上型真空吸引工程を行った場合、比d/cが1.0以下(即ち、領域A及び領域B)であれば、糸撚り目6を明瞭に再現できた。
これにより、表皮圧縮工程の後に上型真空吸引工程を行わない場合に比べて上型真空吸引工程を行った場合においては、同じ表皮材3の圧縮量cでも転写率を70%以上としてステッチ形成部13の深さdを深くできることがわかる。
【0048】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。すなわち、上記実施例では、1つのステッチ形成部13に対して1つの吸引穴17を形成する形態を例示したが、これに限定されず、例えば、1つのステッチ形成部13に対して2以上の吸引穴17を形成するようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施例では、擬似ステッチ模様Dから離れた一般部の表面よりも擬似ステッチ部5の先端が高くなる表皮材3を備える成形体1(
図8(b)参照)を例示したが、これに限定されず、例えば、擬似ステッチ模様Dから離れた一般部の表面よりも擬似ステッチ部5の先端が低くなる表皮材3を備える成形体1としてもよい。
【0050】
さらに、上記実施例では、基材2及び表皮材3を備える成形体1を例示したが、これに限定されず、例えば、基材2及び表皮材3に加えて基材2の裏面に他の層を備える成形体1としたり、表皮材3のみからなる成形体1としたりしてもよい。
【0051】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0052】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、表面側に擬似ステッチ模様が形成された表皮材を備える成形体に関する技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0054】
1;成形体、2;基材、3;表皮材、5;擬似ステッチ部、11;下型(樹脂型)、12;上型(電鋳型)、13;ステッチ形成部、17;吸引穴、D;擬似ステッチ模様、t1;圧縮成形前の表皮材の厚み、t2;圧縮成形後の表皮材の厚み。