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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】電池の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20240305BHJP
   B60L 58/22 20190101ALI20240305BHJP
   B60L 58/26 20190101ALI20240305BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H02J7/02 H
B60L58/22
B60L58/26
H02J7/00 H
H02J7/00 P
H02J7/00 X
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020154845
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048813
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大路 潔
(72)【発明者】
【氏名】富岡 沙絵子
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-005678(JP,A)
【文献】特開2013-123274(JP,A)
【文献】特開2012-216422(JP,A)
【文献】特開2010-113861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並設された複数の充放電可能なセルを直列に接続してなる電池の制御方法であって、
上記複数のセルの相隣るセル間に、通電によってその一方のセルから他方のセルに熱を移動させるペルチェ素子を備えていて、
上記複数のセル各々のSOC又は電圧を検出するステップと、
上記複数のセル各々の温度を検出するステップと、
上記複数のセルのSOC又は電圧にばらつきがあり、且つ上記複数のセルのなかに温度が所定の閾値を越える高温セルがあるときに、該高温セルからその隣の温度が相対的に低い低温セルに熱を移動させるべく、上記SOC又は電圧が最も高いセルから上記高温セルと上記低温セルの間の上記ペルチェ素子に通電するステップと、
上記ペルチェ素子への通電ステップの後に、上記SOC又は電圧が最も高いセルの電荷を当該電池の各セルに再分配するステップとを備えていることを特徴とする電池の制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記複数のセル各々の温度を検出するステップでは、各セルの温度をセンサによって検出し、その検出温度に、上記電荷の再分配を行なったときの各セルの発熱によって上昇すると見込まれる温度上昇量を加味して各セルの温度を求めることを特徴とする電池の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記SOC又は電圧が最も高いセルの温度が所定値以下であるときは、該セルから上記ペルチェ素子への通電及び上記電荷の再分配を禁止することを特徴とする電池の制御方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記ペルチェ素子への通電及び上記電荷の再分配の禁止は、上記SOC又は電圧が最も高いセルの当該SOC又は電圧が所定値以下であり、且つ上記SOC又は電圧が最も低いセルの当該SOC又は電圧が所定値以上であることを条件とすることを特徴とする電池の制御方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記電池は車両を駆動するモータへの電力の供給に使用され、
上記車両の上記モータを含むパワートレインの作動及びその停止を操作するスイッチがオフであるときとオンであるときのセルの温度に係る上記閾値が相違し、オフであるときの閾値がオンであるときの閾値よりも高いことを特徴とする電池の制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記高温セルの温度に基づいて該セルの冷却要求度が高いか低いかを判定するステップを備え、
上記冷却要求度が高いときは、上記高温セルの両側の低温セル各々と上記高温セルの間の上記ペルチェ素子に通電し、上記冷却要求度が低いときは上記高温セルの両側の低温セルのうちの温度が低い方の低温セルと上記高温セルの間の上記ペルチェ素子に通電することを特徴とする電池の制御方法。
【請求項7】
並設された複数の充放電可能なセルを直列に接続してなる電池の制御装置であって、
上記複数のセルの相隣るセルの間に設けられ、通電によってその一方のセルから他方のセルに熱を移動させるペルチェ素子と、
上記複数のセルのうちのSOC又は電圧が最も高いセルの電荷を当該電池の各セルに再分配するセルバランシング回路と、
上記複数のセルのうちの上記SOC又は電圧が最も高いセルの電荷を上記ペルチェ素子に流して上記熱の移動をさせる熱移動回路と、
上記複数のセル各々のSOC又は電圧、並びに温度を検出し、上記複数のセルのSOC又は電圧にばらつきがあり、且つ上記複数のセルのなかに温度が所定の閾値を越える高温セルがあるときに、該高温セルから隣接する温度が相対的に低い低温セルに当該両セル間の上記ペルチェ素子を介して熱が移動するように、上記SOC又は電圧が最も高いセルと当該ペルチェ素子を上記熱移動回路に接続して、上記高温セルの温度を低下させる処理を実行した後に、上記電荷の再分配が行なわれるように、上記SOC又は電圧が最も高いセルを上記セルバランシング回路に接続するコントローラとを備えていることを特徴とする電池の制御装置。
【請求項8】
請求項7において、
上記複数のセル各々の温度は、センサによって検出した温度に、上記電荷の再分配を行なったときの各セルの発熱によって上昇すると見込まれる温度上昇量を加味して求められることを特徴とする電池の制御装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8において、
上記コントローラは、上記SOC又は電圧が最も高いセルの温度が所定値以下であるときは、該セルから上記ペルチェ素子への通電及び上記電荷の再分配を禁止することを特徴とする電池の制御装置。
【請求項10】
請求項9において、
上記ペルチェ素子への通電及び上記電荷の再分配の禁止は、上記SOC又は電圧が最も高いセルの当該SOC又は電圧が所定値以下であり、且つ上記SOC又は電圧が最も低いセルの当該SOC又は電圧が所定値以上であることを条件とすることを特徴とする電池の制御装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれか一において、
上記電池は車両を駆動するモータに電力を供給する電池であり、
上記車両の上記モータを含むパワートレインの作動及びその停止を操作するスイッチがオフであるときとオンであるときのセルの温度に係る上記閾値が相違し、オフであるときの閾値がオンであるときの閾値よりも高いことを特徴とする電池の制御装置。
【請求項12】
請求項7乃至請求項11のいずれか一において、
上記コントローラは、上記高温セルの温度に基づいて該セルの冷却要求度が高いか低いかを判定し、上記冷却要求度が高いときは、上記高温セルの両側の低温セル各々と上記高温セルの間の上記ペルチェ素子に通電し、上記冷却要求度が低いときは上記高温セルの両側の低温セルのうちの温度が低い方の低温セルと上記高温セルの間の上記ペルチェ素子に通電することを特徴とする電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池(二次電池)はその使用状況に応じて放電又は充電されるが、電池の劣化を抑えるべく、過充電、過放電にならないようにする必要がある。そのため、電池のSOC(満充電容量に対する残容量の割合)を例えば30%から70%の範囲に制限することが行なわれている。
【0003】
複数のセルを直列に接続してなる電池にあっては、各セルの充電状態が時間の経過と共に個々に変化して、セル間でばらつきを生ずる。充電容量が小さいセルは、電池が放電するとき先に放電終止電圧に達するため、他のセルに余力があってもその時点で放電を停止して充電サイクルに移行する必要がある。一方、充電容量が大きいセルは、電池を充電するとき先に充電終止電圧に達するため、他のセルに充電の余地があってもその時点で充電を停止する必要がある。
【0004】
特許文献1には、直列接続された複数のセル間の電圧をバランスさせるために、各セルの電圧を検出して高電圧セルと低電圧セルを特定し、高電圧セルから低電圧セルに電荷を移動させることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、複数のセルを直列に接続してなる電池を冷却するためのファン又はペルチェ素子を備え、SOCが高いセルからファン又はペルチェ素子に通電して、電池の冷却及びセルバランスをすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-70486号公報
【文献】特開2015-119605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池の実効容量を大きくする観点からはセルバランスを適宜実施することが好ましい。しかし、その一方で、電池においては、一部のセルの温度が電池反応に伴う自己発熱によって他のセルよりも上昇していくことがある。その場合、当該セルの劣化が早期に進むことによって電池全体の寿命が短くなってしまう。特許文献2のように、SOCが高いセルを電池の冷却に利用することは電池寿命を延ばす一つの対策であるが、電池全体を冷却することは効率的でなく、また、大きな電力を必要とする。
【0008】
そこで、本発明は、できるだけ少ない電力でセルの温度上昇に伴う電池の劣化に対策しつつ、セルバランスを実行することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、SOCが高いセルの余分な電力を利用して、温度が高くなったセルのみを冷却し、その余分な電力の残りでセルバランスを行なう。
【0010】
ここに開示する電池の制御方法は、並設された複数の充放電可能なセルを直列に接続してなる電池の制御方法であって、
上記複数のセルの相隣るセル間に、通電によってその一方のセルから他方のセルに熱を移動させるペルチェ素子を備えていて、
上記複数のセル各々のSOC又は電圧を検出するステップと、
上記複数のセル各々の温度を検出するステップと、
上記複数のセルのSOC又は電圧にばらつきがあり、且つ上記複数のセルのなかに温度が所定の閾値を越える高温セルがあるときに、該高温セルからその隣の温度が相対的に低い低温セルに熱を移動させるべく、上記SOC又は電圧が最も高いセルから上記高温セルと上記低温セルの間の上記ペルチェ素子に通電するステップと、
上記ペルチェ素子への通電ステップの後に、上記SOC又は電圧が最も高いセルの電荷を当該電池の各セルに再分配するステップとを備えていることを特徴とする。
【0011】
また、ここに開示する電池の制御装置は、並設された複数の充放電可能なセルを直列に接続してなる電池の制御装置であって、
上記複数のセルの相隣るセルの間に設けられ、通電によってその一方のセルから他方のセルに熱を移動させるペルチェ素子と、
上記複数のセルのうちの上記SOC又は電圧が最も高いセルの電荷を当該電池の各セルに再分配するセルバランシング回路と、
上記複数のセルのうちの上記SOC又は電圧が最も高いセルの電荷を上記ペルチェ素子に流して上記熱の移動をさせる熱移動回路と、
上記複数のセル各々のSOC又は電圧、並びに温度を検出し、上記複数のセルのSOC又は電圧にばらつきがあり、且つ上記複数のセルのなかに温度が所定の閾値を越える高温セルがあるときに、該高温セルから隣接する温度が相対的に低い低温セルに当該両セル間の上記ペルチェ素子を介して熱が移動するように、上記SOC又は電圧が最も高いセルと当該ペルチェ素子を上記熱移動回路に接続して、上記高温セルの温度を低下させる処理を実行した後に、上記電荷の再分配が行なわれるように、上記SOC又は電圧が最も高いセルを上記セルバランシング回路に接続するコントローラとを備えていることを特徴とする。
【0012】
このような制御方法又は制御装置によれば、SOC又は電圧が最も高いセルから、閾値を越える高温セルを冷却するペルチェ素子のみに通電するから、当該高温セルを少ない電力で冷却して電池全体の寿命を延ばすことができる。そうして、当該高温セルの冷却処理を実行した後に、当該SOC又は電圧が最も高いセルの電荷を各セルに再分配するから、このセルバランスによって電池の実効容量を高めることができる。ここに、上記ペルチェ素子への通電は、パッシブ(放電式)バランシングとなり、上記電荷の再分配はアクティブバランシングとなる。従って、本発明では、この両者によって、セルバランスが行なわれることになる。
【0013】
上記制御方法及び制御装置の一実施形態では、各セルの温度をセンサによって検出し、その検出温度に、上記電荷の再分配を行なったときの各セルの発熱によって上昇すると見込まれる温度上昇量を加味して各セルの温度を求める。
【0014】
これによれば、セルの温度上昇による劣化を確実に抑えるうえで有利になる。
【0015】
上記制御方法及び制御装置の一実施形態では、上記SOC又は電圧が最も高いセルの温度が所定値以下であるときは、該セルから上記ペルチェ素子への通電及び上記電荷の再分配を禁止する。
【0016】
セルの温度が低いときはその内部抵抗が大きくなるため、ペルチェ素子への通電及び電荷の再分配のための電力消費量が増大する。エネルギー効率の悪化を避けるべく、ペルチェ素子への通電及び電荷の再分配を禁止する趣旨である。
【0017】
上記制御方法及び制御装置の一実施形態では、上記ペルチェ素子への通電及び上記電荷の再分配の禁止は、上記SOC又は電圧が最も高いセルの当該SOC又は電圧が所定値以下であり、且つ上記SOC又は電圧が最も低いセルの当該SOC又は電圧が所定値以上であることを条件とする。
【0018】
すなわち、SOC又は電圧が過度に高いセルがあるとき、又はSOC又は電圧が過度に高いセルがあるときは、上記セルの温度に基づくペルチェ素子への通電及び電荷の再分配の禁止をしない。
【0019】
SOC又は電圧が過度に高いセルがあるときは、外部エネルギーを当該電池に電力として蓄えようとしても、当該セルのためにすぐに容量オーバーとなって、蓄積できないエネルギーが無駄になる。例えば、当該電池が車両を駆動するモータへの電力の供給に使用される場合、その車両の走行状態の変化に伴ってそのモータを発電機として用いる回生運転にしたとき、すぐに容量オーバーとなって回生運転をすることができなくなる。この場合、回生運転をすることができないことによるエネルギー損失と、セル温度が低い状態(内部抵抗が大きい状態)での電力移動によるエネルギー損失を比べると、前者の方が損失が大きいのが通常である。
【0020】
そこで、SOC又は電圧が過度に高いセルがあるときは、そのセルの温度の如何に拘わらず、充電枠の確保を優先するべくペルチェ素子への通電及び電荷の再分配を実行することができるようにする。
【0021】
また、SOC又は電圧が過度に低いセルがあるときは、他のセルに放電の余力があっても、電池からの放電することができなくなる。そこで、上記電荷の再分配を可能にすることで、放電余力がある他のセルを利用して電池の放電状態を可能な限り維持できるようにする。
【0022】
上記制御方法及び制御装置の一実施形態では、上記電池は車両を駆動するモータへの電力の供給に使用され、
上記車両の上記モータを含むパワートレインの作動及びその停止を操作するスイッチがオフであるときとオンであるときの上記セルの温度に係る上記閾値が相違し、オフであるときの閾値がオンであるときの閾値よりも高い。
【0023】
車両走行中は、電池が高負荷で使われてセルが高温になる(劣化が進む)可能性がある。そこで、これを避けるべく、上記スイッチのオン時にはペルチェ素子による冷却のための上記閾値を低くするものである。一方、車両を走行させないときは、セルの温度が高くなる可能性は低く、かえって自然放冷によって温度が低下することが見込まれる。そこで、上記閾値を高くすることで、電力移動(ペルチェ素子への通電)をできるだけ避けて、電力消費を抑えるものである。
【0024】
上記制御方法及び制御装置の一実施形態では、上記高温セルの温度に基づいて該セルの冷却要求度が高いか低いかを判定し、
上記冷却要求度が高いときは、上記高温セルの両側の低温セル各々と上記高温セルの間の上記ペルチェ素子に通電し、上記冷却要求度が低いときは上記高温セルの両側の低温セルのうちの温度が低い方の低温セルと上記高温セルの間の上記ペルチェ素子に通電する。
【0025】
ペルチェ素子による熱移動は、セル間の温度差が大きいほど効率が良くなるが、セルの急冷を要するときは、効率よりも、セルの速やかな冷却を優先する趣旨である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、SOC又は電圧が最も高いセルの電力を用いて、高温になったセルを特定してセル間のペルチェ素子による冷却を行ない、そのSOC又は電圧が最も高いセルの電荷を各セルに再分配するから、最小の電力でセルの冷却を行ないつつ、セルバランスを効率良く進めることができる、すなわち、電池の劣化防止及び電池の実効容量を向上を効率良く行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】電池を搭載する車両の要部の構成図。
図2】電池のファンによる冷却構造を示す概略平面図。
図3】電池モジュールの一部を示す正面図。
図4】セルバランシング・熱移動の回路図。
図5】セルバランシング・熱移動に制御系を示す図。
図6】セルバランシング・熱移動の制御フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
<電池を搭載する車両>
図1に例示の車両1はいわゆるハイブリッド車である。車両1には、エンジン2、電動発電機3、電池4、PCM5などが搭載されている。電動発電機3は、インバータ20、モータ30などで構成されている。エンジン2は、燃料を燃焼することによって車両1の動力を発生させる周知の内燃機関である。エンジン2のクランクシャフト2aは、クラッチ6を介してモータ30の回転軸30aに連結されている。モータ30の回転軸30aは、トランスミッション7及びデファレンシャルギア8を介して、車両1の駆動輪1aに接続されている。エンジン2、電動発電機3、クラッチ6、トランスミッション7及びデファレンシャルギア8が車両1のパワートレインを構成している。
【0030】
クラッチ6を連結した状態で、エンジン2を作動させると、車両1をエンジン2によって駆動する(走行させる)ことができる。クラッチ6を切り離した状態で、モータ30を作動させると、車両1をモータ30によって駆動することができる。クラッチ6を連結した状態で、エンジン2及びモータ30を作動させると、車両1をエンジン2とモータ30の双方で駆動することができる。
【0031】
車両1の制動時に、クラッチ6を切り離した状態にすることで、駆動輪1aの回転力でモータ30を回転させることができる。それにより、モータ30を発電機として機能させ、運動エネルギーを電気エネルギーとして電池4に回収することもできる。この車両1はパラレル式ハイブリッド車である。
【0032】
電池4は充放電が可能な二次電池である。電池4はインバータ20を介してモータ30と電気的に接続(以下、単に接続ともいう)されている。インバータ20は直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ20はモータ30の作動を制御する。
【0033】
PCM5は、パワートレイン制御モジュールであり、エンジン2、インバータ20などと接続されている。PCM5には、パワートレインの制御のために、エンジン2やモータ30の運転状態を検出する各種のセンサが接続されている。
【0034】
<電池全体の冷却装置>
図2に示すように、電池4は、電池モジュール51乃至59と、該各電池モジュール51乃至59を内部に収容するとともに、車両1の図示しないフロアパネルの車両前後方向略中央部に固定された電池ケース60とを有している。
【0035】
電池モジュール51乃至59各々には、各々の温度を検出するためのモジュール温度センサ61及びそれぞれの電圧を検出するためのモジュール電圧センサ62が付設されている。電池モジュール51乃至59は直列に接続されており、一つの電池モジュール57に、各電池モジュール51乃至59に流れる電流値を検出するためのモジュール電流センサ63が付設されている。
【0036】
電池ケース60は、内部に収容空間60aを有する直方体状に形成されていて、その長手方向を車幅方向に一致させ且つ高さ方向を上下方向に一致させた状態で配設されている。
【0037】
電池モジュール51乃至59は、車両前後方向に並ぶ3つの電池モジュール51乃至53からなる第1モジュール列90、同様に並ぶ3つの電池モジュール54乃至56からなる第2モジュール列91、並びに同様に並ぶ3つの電池モジュール57乃至59からなる第3モジュール列92の3列になっている。この3列は車幅方向に並んでいる。
【0038】
電池ケース60の車両前側面60bには、後述の冷却ファン65の駆動により該電池ケース60内に空気を導入する3つの空気取込口70乃至72が形成されている。電池ケース60の車両後側面60cには、空気取込口70乃至72から該ケース60内に取り込まれた空気を排出する3つの空気排出口73乃至75が形成されている。
【0039】
空気取込口70乃至72各々はモジュール列90乃至92各々と前後に相対するように配設されている。同様に、空気排出口73乃至75各々もモジュール列90乃至92各々と前後に相対するように配設されている。
【0040】
空気取込口70乃至72各々には、上下にスライドして該取込口70乃至72を開閉するシャッター80乃至82が設けられている。空気排出口73乃至75各々には、上下にスライドして該排出口73乃至75を開閉するシャッター83乃至85が設けられている。シャッター80乃至85は、モータによって駆動されるものであり、電池ケース60に収容された電池コントローラ64により作動が制御される。
【0041】
電池ケース60の車両前側面60bには、空気取込口70乃至72に空気を導くための空気導入ダクト76が接続されている。電池ケース60の車両後側面60cには上記3つの空気排出口73乃至75から排出された空気を車両後方へ導く空気排出ダクト77が接続されている。空気排出ダクト77には、電池ケース60内に空気を導くための冷却ファン65が設けられている。冷却ファン65は電池コントローラ64によって作動が制御される。
【0042】
<電池モジュールの構造>
図3に示すように、電池モジュール51乃至59各々は、複数の充放電可能な角型セル11とペルチェ素子12をモジュールケース10に収容してなる。複数のセル11は、面積が最も広い前面と後面が相対するように並設されていて、直列に接続されている。ペルチェ素子12は、相対するセラミック板の間に複数のn型半導体、複数の金属及び複数のP型半導体を組み合わせて介装したものである。
【0043】
ペルチェ素子12は、相隣るセル11の間に介装され、片側のセラミック板が一方のセル11の前面に、反対側のセラミック板が他方のセル11の後面にそれぞれ接している。ペルチェ素子12は、一方向への通電によって、片側のセラミック板が吸熱面に、反対側のセラミック板が放熱面となり、他方向への通電によって、片側のセラミック板が放熱面に、反対側のセラミック板が吸熱面となる。
【0044】
<セルアクティブバランシング・冷却回路>
電池コントローラ64は、図4に示すバランシング・熱移動回路40によって電池モジュール51乃至59各々のセル11のバランシング及びペルチェ素子12によるセル11の冷却を行なう。端的に言えば、セルバランシング回路の電力取出回路を利用して、高SOCセルの余剰エネルギーをペルチェ素子12によるセル11の冷却に用いるものである。回路40は、電池モジュール51乃至59各々(以下では、総称して「電池モジュールM」という。)に設けられている。
【0045】
本例の回路40は、トランス方式のセルバランシング回路41に熱移動回路42を追加してなる。セルバランシング回路41は、1つのトランス43と、トランス43の1次コイル43aの一端に設けた1次コイルスイッチSW1と、トランス43の2次コイル43bの一端に設けた2次コイルスイッチSW2と、1次コイル切換回路44を備えている。スイッチSW1,SW2は、例えば、MOSFET等の半導体スイッチであって、電池コントローラ64からの信号によってオンオフ動作が制御される。
【0046】
トランス43の1次コイル43aは、電池モジュールMの選択された一つのセル(高SOCセル)11の正極と負極に接続される。1次コイル43aに対するセル11の択一的接続は1次コイル切換回路44によって行なう。すなわち、1次コイル切換回路44は、1次コイルスイッチSW1を介して1次コイル43aを接続するセル11を択一的に切り換える回路であり、電池コントローラ64からの信号によって動作が制御される。トランス43の2次コイル43bは、2次コイルスイッチSW2及び切換スイッチSW3を介して電池モジュールMの正極と負極に接続されている。
【0047】
切換スイッチSW3は、トランス43の2次コイル43bの接続をセルバランシング回路41と熱移動回路42との間で択一的に切り換えるスイッチである。
【0048】
熱移動回路42は、トランス43の2次コイル43bから通電するペルチェ素子12を択一的に切り換える2次コイル切換回路45と、2次コイル43bからペルチェ素子12への通電方向を切り換える通電方向切換回路46を備えている。2次コイル切換回路45は、2次コイルスイッチSW2を介して2次コイル43bを接続するペルチェ素子12を択一的に切り換える回路であり、電池コントローラ64からの信号によって動作が制御される。通電方向切換回路46は、通電方向を切り換えるための2つの連動スイッチSW4,SW5を備えたものであり、各ペルチェ素子12に設けられている。連動スイッチSW4,SW5はコントローラ64からの信号によって動作が制御される。
【0049】
熱移動回路42は、トランス43の1次コイル43aを電池モジュールMのセル(高SOCセル)11に1次コイル切換回路44によって択一的に接続する回路と、トランス43の2次コイル43bをセル間のペルチェ素子12に2次コイル切換回路45によって択一的に接続する回路によって構成されているということができる。
【0050】
上記バランシング・熱移動回路40において、トランス43の1次コイル43aを特定のセル(高SOCセル)11に接続し、その2次コイル43bを切換スイッチSW3によって鎖線で示すようにセルバランシング回路41に接続すると、セルバランシングを行なうことができる。すなわち、次のとおりである。
【0051】
1次コイルスイッチSW1と2次コイルスイッチSW2を交互にオンにする。1次コイルスイッチSW1がオン(2次コイルスイッチSW2はオフ)のときには、特定のセル11からトランス43の1次コイル43aに電流A1が流れて、トランス43のコアが磁化される。2次コイルスイッチSW2がオン(1次コイルスイッチSW1はオフ)になると、磁化したトランス43のコアによって2次コイル43bに誘導電流を生じ、その誘導電流が矢符A2のように電池モジュールMに流れる。
【0052】
これにより、特定のセル11から電池モジュールMの全てのセル11に対して電荷が再分配される。スイッチSW1とスイッチSW2を交互にオンにする時間をコントロールすることにより、セル11のアクティブバランシングが達成される。
【0053】
次にトランス43の2次コイル43bを切換スイッチSW3によって実線で示すように熱移動回路42に接続すると、隣り合うセル11間でペルチェ素子12を介して熱移動を行なうことができる。すなわち、次のとおりである。通電方向切換回路46の連動スイッチSW4,SW5が図4に実線で示す状態にあるときは、スイッチSW1とスイッチSW2の交互オンにより、トランス43の2次コイル43bで生ずる誘導電流が矢符A3のようにペルチェ素子12に流れる。これにより、当該ペルチェ素子12を挟んで隣り合う一方のセル11から他方のセル11に熱が移動する。この場合、一方のセル11が冷却され、他方のセル11が加熱される。
【0054】
通電方向切換回路46の連動スイッチSW4,SW5を図4に鎖線で示すように切り換えると、トランス43の2次コイル43bで生ずる誘導電流が矢符A4のようにペルチェ素子12に対して逆方向に流れる。これにより、当該ペルチェ素子12を挟んで隣り合う他方のセル11から一方のセル11に熱が移動する。すなわち、一方のセル11が加熱され、他方のセル11が冷却される。
【0055】
<電池コントローラによる電池のセルバランス・セル冷却制御>
図5に示すように、電池コントローラ64によるセルバランシング及びセル冷却の制御のために、セル電圧検出回路47、セル温度検出回路48、運転スイッチ49、電池モジュールMの内部抵抗検出手段が電池コントローラ64に接続されている。
【0056】
セル電圧検出回路47は、直列接続された複数のセル11各々のノードと複数の電圧線で接続され、隣接する2本の電圧線間の電圧を検出することにより、各セル11の電圧を検出する。
【0057】
セル温度検出回路48は、各セル11に設けたNTCサーミスタ等の温度検出素子(温度センサ)の抵抗変化によって各セル11の温度を検出する。
【0058】
運転スイッチ49は、車両1のパワートレインの作動及びその停止を操作するスイッチである。また、電池コントローラ64には、不図示の電流検出回路により検出された電池モジュールMに流れる電流値が入力される。
【0059】
電池コントローラ64は、マイクロコンピュータ及びメモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)を備える。メモリには、SOC-OCV(開路電圧)マップが含まれる。
【0060】
各セル11の電圧、電流、温度に基づいて各セル11のSOCを推定する。SOCは、例えば、OCV法又は電流積算法により推定できる。OCV法は、検出されたセルのOCVと、SOC-OCVカーブの特性データをもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、検出されたセル11の充放電開始時のOCVと、検出された電流の積算値をもとにSOCを推定する方法である。
【0061】
電池コントローラ64は、電池モジュールMの各セル11のSOC、各セル11の温度、並びに電池モジュールMの内部抵抗に基いてセルバランス処理、熱移動処理、並び冷却ファンの作動処理を実行する。
【0062】
セルバランス処理は、セル間でSOCに所定値α(例えば、3%)を越えるばらつきがあるときに実行される。すなわち、SOCが最も高い高SOCセル11とSOCが最も低い低SOCセル11のSOCの差ΔSOCが所定値α越えるときに、セルバランシング回路41によるセルバランス処理が実行される。
【0063】
熱移動処理は、セル間のSOCに上記ばらつきがあり、且つ次に述べる予測温度が所定値Tcを越えるセル11(冷却を必要とするセル)があるときに、後述の電池モジュールMの予測温度が所定値Tb以下であるという条件下で、セルバランス処理に先んじて、熱移動回路42によって実行される。
【0064】
「予測温度」は、セル温度検出回路48によるセル11の検出温度(実測値)に、セルバランスを実行したときのセル11の発熱よって上昇すると見込まれる温度上昇量を加味した温度である。なお、セル11の検出温度を熱移動等の冷却処理を実行するか否かの判定に用いるようにしてもよい。
【0065】
上記所定値Tcは、車両の運転スイッチ49がオンかオフかで相違し、「オン時の所定値Tcd<オフ時の所定値Tcs」である。Tcdは例えば45℃、Tcsは例えば55℃とすることができる。
【0066】
熱移動処理は、セル11の急冷を要するか否かで、その熱移動の態様が変わる。すなわち、セル11の急冷を要するときは、当該セル11の両側のセル11に熱が移動するように、当該セル11の両側に配置されたペルチェ素子12に通電される。一方、セル11の急冷を要しないときは、当該セル11の両側のセル11のうち温度が低い方のセル11に熱が移動するように、温度が低いセル11が存する片側のペルチェ素子12に通電される。ペルチェ素子12への通電は、当該セル11の予測温度が所定値Tc以下に低下するに必要な時間実施される。その時間は、当該セル11の予測温度と所定値Tcの温度差と、予め実験的に求められたペルチェ素子12への通電時間とセル温度降下量の関係を表すデータに基づいて算出される。
【0067】
セル11の急冷を要するか否かはセル11の予測温度に基いて決定される。すなわち、運転スイッチ49がオンであるときは、セル11の予測温度が、所定値Tcd(例えば45℃)よりも高い温度(例えば、50℃)を越えるときに、急冷要とされる。運転スイッチ49がオフであるときは、セル11の予測温度が、所定値Tcs(例えば55℃)よりも高い温度(例えば、60℃)を越えるときに、急冷要とされる。
【0068】
熱移動処理が必要時間実行された後、熱移動処理からセルバランス処理に移行する。
【0069】
冷却ファン65は、電池モジュールMの内部抵抗が所定値以上であるときに作動される。すなわち、電池モジュール51乃至59のうちに内部抵抗が大きいモジュールが検出されると、当該モジュールの劣化を遅らせるべく、そのモジュールが存するモジュール列の空気取込口及び空気排出口のシャッターが開動されるとともに、冷却ファン65が作動される。
【0070】
また、冷却ファン65は、電池モジュールMの予測温度が所定値Tbを越えるときに作動される。この所定値Tbは、車両の運転スイッチ49がオンかオフかで相違し、「オン時の所定値Tbd<オフ時の所定値Tbs」である。Tbdは例えば45℃、Tbsは例えば55℃とすることができる。
【0071】
電池モジュールMの予測温度は、特定のセル11の予測温度に基づいて推定される。例えば電池モジュールMの端に位置するセル11は中央側に位置するセル11よりも温度が低くなることが見込まれる。そこで、端に位置するセル11の予測温度が所定値Tbを越えるとき、電池モジュールMの予測温度が所定値Tbを越えると推定する。或いは、複数のセル11の予測温度が所定値Tbを越えるとき、電池モジュールMの予測温度が所定値Tbを越えると推定する。
【0072】
この場合、電池モジュールMの予測温度が所定値Tbを越えるときは、そのモジュールが存するモジュール列の空気取込口及び空気排出口のシャッターが開動されるとともに、冷却ファン65が作動される。電池モジュールMの内部抵抗に基いて既に当該モジュール列の空気取込口及び空気排出口のシャッターが開動し冷却ファン65が作動しているときは、冷却ファン65は風量が増大するように制御される。他のモジュール列の空気取込口及び空気排出口のシャッターが開動しているときは、当該モジュール列の空気取込口及び空気排出口のシャッターが開動して、冷却ファン65は風量が増大するように制御される。
【0073】
セルバランス処理及び熱移動処理は、高SOCセル11の検出温度が所定値TL(例えば10℃)以下であるときは、禁止される。但し、高SOCセル11のSOC(高SOC)が所定値SH(例えば70%)を越えて高いとき、又は低SOCセル11のSOC(低SOC)が所定値SL未満であるときは、高SOCセル11の温度如何に拘わらず、当該禁止は行われない。
【0074】
<電池コントローラによる制御フロー>
当該制御フローを図6に示す。スタート後のステップS1において、各セル11の電圧、電流、温度に基づいて各セル11のSOCが把握され、ステップS2において、各セル11の温度が把握される。続くステップS3において、高SOCセル11と低SOCセル11のSOC差ΔSOCが所定値α越えるか否かが判別される。
【0075】
ΔSOCが所定値α越えるときはステップS4に進んで、高SOCセル11のSOCである高SOCが所定値SHを越えるか否か、又は低SOCセル11のSOCである低SOCが所定値SL未満であるか否かが判別される。高SOCが所定値SH以下であり且つ低SOCが所定値SL以上であるときは、ステップS5に進んで高SOCセルの検出温度が所定値TLを越えるか否かが判別される。高SOCセルの検出温度が所定値TLを越えるときは、ステップS6(セル温度予測ステップ)に進む。
【0076】
また、ステップS4において、高SOCが所定値SHを越えるとき、又は低SOCが所定値SL未満であるときは、ステップS5のセル温度の確認をすることなく、ステップS6(セル温度予測ステップ)に進む。
【0077】
ステップS6のセル温度予測は、先に述べたようにセルバランスを実行したときの各セル11の温度の予測である。この予測温度に基づいて、冷却ファン65を作動させるか否か、並びにセルバランス前にペルチェ素子12によるセル11の冷却を行なうか否かが決められる。
【0078】
ステップS5において、高SOCセルの検出温度が所定値TL以下であるとき、ステップS6(セル温度予測ステップ)に進まずにリターンする。これは、セル温度が低いときはその内部抵抗が大きいため、ペルチェ素子12への通電及び電荷の再分配(セルバランス)のための電力消費量が大きくなるためである。エネルギー効率の悪化を避けるべく、ペルチェ素子12への通電及び電荷の再分配を禁止する趣旨である。
【0079】
一方、高SOCが所定値SHを越えるとき、又は低SOCが所定値SL未満であるときに、セル温度を確認することなく、セル温度予測ステップに進むのは(ステップS4-S6)、セルバランス実行の要求が高いためである。
【0080】
具体的には、SOCが過度に高いセル11があるときは、車両1の走行状態の変化に伴ってモータ30を発電機として用いる回生運転にしたとき、すぐに容量オーバーとなって回生運転をすることができなくなる。そこで、セル11のSOCが過度に高いときは、そのセル温度の如何に拘わらず、充電枠の確保を優先するべくペルチェ素子への通電及び電荷の再分配を実行することができるようにする。
【0081】
また、SOCが過度に低いセル11があるときは、他のセル11に放電の余力があっても、放電をすることができなくなる。そこで、上記電荷の再分配を可能にすることで、放電余力がある他のセル11を利用して電池の放電状態を可能な限り維持できるようにする。
【0082】
セル温度予測ステップに続くステップS7では、車両1の運転スイッチ49がオンか否かが判別される。運転スイッチ49がオンであるときは、ステップS8に進んで、電池モジュールMの予測温度が所定値Tbd(45℃)を越えるか否かが判別される。電池モジュールMの予測温度が所定値Tbd以下であるときは、ステップS9に進んで、予測温度が所定値Tcd(45℃)を越える高温セル11の有無が判別される。
【0083】
高温セル11があるときは、ステップS10に進んで、高温セル11の急冷の要否が判別される。急冷を要するときは、ステップS11に進んで、高温セル11からその両側の相対的に温度が低い低温セル11に熱が移動するように、高SOCセル11から当該セル11の両側に配置されたペルチェ素子12に通電する処理が実行される。
【0084】
すなわち、図4に示すバランシング・熱移動回路40において、トランス43の1次コイル43aが1次コイル切換回路44によって高SOCセル11に接続され、トランス43の2次コイル43bが切換スイッチSW3によって熱移動回路42に接続され、1次コイルスイッチSW1,SW2のオン・オフ制御が実行される。これにより、図5に示すように、高SOCセル11から余剰電力によりバランシング・熱移動回路40のトランス43を介して高温セル11の両側のペルチェ素子12に通電される。この通電は、当該セル11の予測温度が所定値Tcd以下に低下するに必要な時間実施される。
【0085】
ペルチェ素子12への通電が必要時間行なわれた後、ステップS11からステップS12に進んで、セルバランス処理が実行される。すなわち、図4に示すバランシング・熱移動回路40において、トランス43の1次コイル43aが1次コイル切換回路44によって高SOCセル11に接続された状態で、トランス43の2次コイル43bが切換スイッチSW3によってセルバランシング回路41に接続され、1次コイルスイッチSW1,SW2のオン・オフ制御が実行される。これにより、図5に示すように、先の高SOCセル11から他の低SOCセル11に対して残りの余剰電力がバランシング・熱移動回路40のトランス43を介して当該電池モジュールMの各セル11に再分配される。
【0086】
一方、当該セル11が急冷を要しないときは、ステップS10からステップS13に進む。ステップS13では、当該セル11の両側のセル11のうち温度が低い方のセル11に熱が移動するように、高SOCセル11から余剰電力によりトランス43を介してその温度が低いセル11が存する片側のペルチェ素子12に通電する処理が実行される。この通電は、当該セル11の予測温度が所定値Tcd以下に低下するに必要な時間実施される。しかる後、ステップS12に進んで、上記高SOCセル11から残りの余剰電力をバランシング・熱移動回路40のトランス43を介して当該電池モジュールMの各セル11に再分配するセルバランス処理が実行される。
【0087】
ステップS7において、車両1の運転スイッチ49のオフが判別されたときは、ステップS14に進んで、電池モジュールMの予測温度が所定値Tbs(55℃)を越えるか否かが判別される。電池モジュールMの予測温度が所定値Tbs以下であるときは、ステップS15に進んで、予測温度が所定値Tcs(55℃)を越える高温セル11の有無が判別される。
【0088】
高温セル11があるときは、先に説明した車両1の運転スイッチ49がオンの場合と同様に、高温セル11の急冷の要否が判別され、急冷を要するときは、高温セル11からその両側の低温セル11に熱が移動するように、急冷を要しないときは高SOCセル11からその片側の低温セル11に熱が移動するように、ペルチェ素子12への通電処理が実行され、しかる後、セルバランス処理が実行される(ステップS10~S13)。
【0089】
ステップS9及びS15の各々において、予測温度が所定値Tcd(又はTcs)を越える高温セル11がないと判別されたときは、ペルチェ素子12による熱移動処理が実行されることなく、ステップS12に進んで、セルバランス処理が実行される。
【0090】
ステップS8及びS14の各々において、電池モジュールMの予測温度が所定値bd(又はTbs)を越えると判別されたときは、ステップS16に進んで、当該電池モジュールMが冷却されるように、冷却ファン65がオン(ファン作動及びシャッターの開動)とされ、又は冷却ファン65が既に作動しているときは、その風量の増大が実行される。
【0091】
以上のように、上記制御によれば、高SOCセル11から、閾値を越える高温セル11を冷却するペルチェ素子12のみに通電するから、当該高温セル11を少ない電力で冷却して電池寿命を延ばすことができる。そうして、高温セルの冷却処理を実行した後に、当該高SOCセルの電荷を各セルに再分配するから、このセルバランスによって電池の実効容量を高めることができる。ここに、上記ペルチェ素子への通電は、パッシブバランシングとなり、上記電荷の再分配はアクティブバランシングとなる。すなわち、この両者によって、セルバランスが行なわれることになる。
【0092】
また、上記制御によれば、車両1の運転スイッチ49がオンかオフかでペルチェ素子12によるセル11の冷却を行なう温度閾値が相違し、オンであるときはオフであるときよりも閾値が低い。つまり、車両走行中は、セル11の温度上昇がみられるとき、早めにその冷却処理が実行される。従って、車両の加速運転等によって電池の負荷が高くなったときに、セル11が過度の温度上昇によって劣化することを未然に防ぐことができる。一方、車両1を走行させないときは、上記温度閾値が高いから、セル11の冷却のための電力消費が抑えられる。
【0093】
また、上記制御によれば、セル11の冷却要求度が高いときは、当該高温セル11からその両側のセル11への熱移動を実行するから、セル11の急冷が可能になる。上記冷却要求度が低いときは、当該高温セル11の両側の低温セル11のうちの温度が低い方の低温セル11に熱を移動させるから、すなわち、温度差が大きいセル間でペルチェ素子12による熱移動を実行するから、冷却効率が高くなる。
【0094】
<その他>
上記実施形態では、熱移動及びセルバランスにおける電力(電荷)供給源となるセル11をSOCに基づいて特定するようにしたが、セル電圧に基づいて特定(電圧が最も高いセルが電力供給源となるように)してもよい。
【0095】
上記実施形態では、電力供給源となるセル11からトランス43を用いて電力移動を行なうようにしたが、キャパシタを用いて電力移動を行なうようにしてもよい。
【0096】
上記実施形態では、高SOCセル11の温度が所定値以下であるときに、ペルチェ素子12によるセル11の冷却及びセルバランスを禁止するようにしが、低SOCセル11の温度が低いときにもセルバランスを禁止(ペルチェ素子12によるセル11の冷却は実行)するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 車両
2 エンジン
4 電池
11 セル
12 ペルチェ素子
30 モータ
40 バランシング・熱移動回路
41 セルバランシング回路
42 熱移動回路
64 コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6