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特許7447752測距装置、及び、測距装置の窓の汚れを検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】測距装置、及び、測距装置の窓の汚れを検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20240305BHJP
   G01S 17/931 20200101ALI20240305BHJP
【FI】
G01S7/497
G01S17/931
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020159470
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2021060397
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019183438
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】秦 武廣
(72)【発明者】
【氏名】植野 晶文
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-192526(JP,A)
【文献】特開2011-13135(JP,A)
【文献】特開2017-49097(JP,A)
【文献】特開平07-280940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0284268(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距装置(20)であって、
パルス光を発光する発光部(40)と、
外部物体で反射された前記パルス光の反射光を受光する受光部(60)と、
前記受光部で受光された前記反射光の飛行時間を用いて、前記外部物体までの距離を演算する演算部(200)と、
前記発光部と前記受光部とを収容するケースであって、前記パルス光及び前記反射光を通過させる窓(92)を有するケース(90)と、
予め定められた汚れ判定条件が成立する場合に、前記窓に汚れが存在するものと判定する判定部(300)と、
を備え、
前記汚れ判定条件は、『前記測距装置の視野範囲内の少なくとも1つの画素において、前記発光部から前記窓までの光路の距離に相当する特定の飛行時間における受光強度が強度閾値以上であること』という第1の条件を含み、
前記演算部は、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すヒストグラムを作成して前記判定部に提供するように構成されており、
前記判定部は、前記ヒストグラムのベースラインレベルに、固定値である閾値設定値を加算することによって、前記強度閾値を算出するように構成されており、
前記測距装置は、更に、
前記視野範囲内における前記閾値設定値の分布を記憶する記憶部(310)を備え、
前記判定部は、前記記憶部に記憶されている前記閾値設定値を用いて、前記視野範囲内の各画素毎に前記強度閾値を算出する、測距装置。
【請求項2】
測距装置(20)であって、
パルス光を発光する発光部(40)と、
外部物体で反射された前記パルス光の反射光を受光する受光部(60)と、
前記受光部で受光された前記反射光の飛行時間を用いて、前記外部物体までの距離を演算する演算部(200)と、
前記発光部と前記受光部とを収容するケースであって、前記パルス光及び前記反射光を通過させる窓(92)を有するケース(90)と、
予め定められた汚れ判定条件が成立する場合に、前記窓に汚れが存在するものと判定する判定部(300)と、
を備え、
前記汚れ判定条件は、『前記測距装置の視野範囲内の少なくとも1つの画素において、前記発光部から前記窓までの光路の距離に相当する特定の飛行時間における受光強度が強度閾値以上であること』という第1の条件を含み、
前記演算部は、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すヒストグラムを作成して前記判定部に提供するように構成されており、
前記ヒストグラムにおいて、受光強度が取り得る最大値から前記ヒストグラムのベースラインレベルを減算した値を実効信号レンジ幅と呼ぶとき、
前記判定部は、前記実効信号レンジ幅に1未満の係数である閾値設定値を乗算し、その乗算結果に前記ベースラインレベルを加算することによって、前記強度閾値を算出するように構成されており、
前記測距装置は、更に、
前記視野範囲内における前記閾値設定値の分布を記憶する記憶部(310)を備え、
前記判定部は、前記記憶部に記憶されている前記閾値設定値を用いて、前記視野範囲内の各画素毎に前記強度閾値を算出する、測距装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の測距装置であって、
前記汚れ判定条件は、更に、
『前記視野範囲内において、前記特定の飛行時間における受光強度が前記強度閾値以上となる画素の画素数が、予め定められた第1の個数閾値以上であること』
又は、
『前記視野範囲内において、前記特定の飛行時間における受光強度が前記強度閾値以上となる複数の画素が互いに連続する画素集合体が存在しており、かつ、前記画素集合体の画素数が予め定められた第1の個数閾値以上であること』
という第2の条件を含む、測距装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の測距装置であって、
前記受光部は、距離測定用の画素とは別に、窓の汚れ検出用の画素を含む、測距装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の測距装置であって、
前記視野範囲内における受光強度の分布を示すデータの集合をフレームと呼び、Nを2以上の整数とするとき、
前記判定部は、連続するN個のフレームにおける前記受光強度と前記強度閾値とを用いて、前記窓に汚れが存在するか否かの判定を実行する、測距装置。
【請求項6】
請求項に記載の測距装置であって、
前記判定部は、前記連続するN個のフレームにわたって前記汚れ判定条件が連続して成立した場合に、前記窓に汚れがあるものと判定する、測距装置。
【請求項7】
請求項に記載の測距装置であって、
前記判定部は、前記Nを3以上の整数とし、Mを2以上N以下の整数とするとき、前記連続するN個のフレームのうちのM個のフレームにおいて前記汚れ判定条件が成立した場合に、前記窓に汚れがあるものと判定する、測距装置。
【請求項8】
請求項に記載の測距装置であって、
前記判定部は、前記連続するN個のフレームにわたる前記受光強度及び前記強度閾値のそれぞれの合計値又は平均値を用いて、前記汚れ判定条件が成立するか否かを判定する、測距装置。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の測距装置であって、更に、
前記窓に汚れが存在するものと判定された場合に、前記窓の汚れを除去するための除去動作を実行するクリーンアップ部を備える測距装置。
【請求項10】
請求項に記載の測距装置であって、
前記クリーンアップ部は、前記窓の汚れが存在する位置に応じて複数のクリーンアップ方法のうちの1つを選択して実行する、測距装置。
【請求項11】
請求項10に記載の測距装置であって、
前記クリーンアップ部は、前記窓の複数の異なる領域の汚れ除去をそれぞれ担当する複数のウォッシャ部を有し、前記複数の異なる領域のうちの前記汚れが存在する領域に応じて、汚れ除去を担当するウォッシャ部を選択してクリーンアップを実行する、測距装置。
【請求項12】
請求項に記載の測距装置であって、
前記クリーンアップ部は、前記窓の汚れの程度に応じて、汚れ除去能力が異なる複数のクリーンアップ方法のうちの1つを選択して実行する、測距装置。
【請求項13】
請求項12に記載の測距装置であって、
前記判定部は、前記窓の汚れの程度を示す汚れ指標値として、
前記受光強度と前記強度閾値との差分を示す第1の汚れ指標値と、
前記汚れが存在する画素数を示す第2の汚れ指標値と、
前記受光強度と前記強度閾値との差分を、前記視野範囲内の複数の画素にわたって加算した加算値を示す第3の汚れ指標値と、
のうちのいずれか一つを算出し、
前記汚れ指標値を前記クリーンアップ部に通知する、測距装置。
【請求項14】
請求項に従属する請求項に記載の測距装置であって、
前記特定の飛行時間における受光強度が前記強度閾値以上となる画素の画素数が前記第1の個数閾値以上である場合に、前記判定部は、
(a)前記画素数が前記第1の個数閾値よりも大きな第2の個数閾値以上の場合には、前記クリーンアップ部による除去動作を実行させることなく前記窓に汚れが存在する旨の通知を実行し、
(b)前記画素数が前記第2の個数閾値未満の場合には、前記クリーンアップ部に前記除去動作を実行させる、測距装置。
【請求項15】
請求項に記載の測距装置であって、
前記判定部は、前記窓に汚れが存在する旨の判定がなされていない状態で、前記受光強度に応じて新たな閾値設定値を算出して前記記憶部に保存することによって、前記閾値設定値を更新する、測距装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の測距装置であって、
前記判定部は、前記窓の中で前記汚れが存在する位置を外部に通知する、測距装置。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の測距装置であって、
前記演算部は、前記窓の中で前記汚れが存在する領域において得られた前記距離を外部に通知せず、前記汚れが存在しない領域において得られた前記距離を外部に出力する、測距装置。
【請求項18】
測距装置(20)の窓の汚れを検出する方法であって、
前記測距装置は、
パルス光を発光する発光部(40)と、
外部物体で反射された前記パルス光の反射光を受光する受光部(60)と、
前記受光部で受光された前記反射光の飛行時間を用いて、前記外部物体までの距離を演算する演算部(200)と、
前記発光部と前記受光部とを収容するケースであって、前記パルス光及び前記反射光を通過させる窓(92)を有するケース(90)と、
を備え、
前記方法は、
(a)前記受光部の出力を用いて、前記発光部から前記窓までの光路の距離に相当する特定の飛行時間における受光強度を取得する工程と、
(b)『前記測距装置の視野範囲内の少なくとも1つの画素において、前記特定の飛行時間における受光強度が強度閾値以上であること』という第1の条件を含む汚れ判定条件が成立する場合に、前記窓に汚れが存在するものと判定する工程と、
を備え、
前記演算部は、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すヒストグラムを作成するように構成されており、
前記工程(b)は、前記ヒストグラムのベースラインレベルに、固定値である閾値設定値を加算することによって、前記強度閾値を算出する工程を含み、
前記測距装置は、更に、
前記視野範囲内における前記閾値設定値の分布を記憶する記憶部(310)を備え、
前記工程(b)では、前記記憶部に記憶されている前記閾値設定値を用いて、前記視野範囲内の各画素毎に前記強度閾値を算出する、方法。
【請求項19】
測距装置(20)の窓の汚れを検出する方法であって、
前記測距装置は、
パルス光を発光する発光部(40)と、
外部物体で反射された前記パルス光の反射光を受光する受光部(60)と、
前記受光部で受光された前記反射光の飛行時間を用いて、前記外部物体までの距離を演算する演算部(200)と、
前記発光部と前記受光部とを収容するケースであって、前記パルス光及び前記反射光を通過させる窓(92)を有するケース(90)と、
を備え、
前記方法は、
(a)前記受光部の出力を用いて、前記発光部から前記窓までの光路の距離に相当する特定の飛行時間における受光強度を取得する工程と、
(b)『前記測距装置の視野範囲内の少なくとも1つの画素において、前記特定の飛行時間における受光強度が強度閾値以上であること』という第1の条件を含む汚れ判定条件が成立する場合に、前記窓に汚れが存在するものと判定する工程と、
を備え、
前記演算部は、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すヒストグラムを作成するように構成されており、
前記ヒストグラムにおいて、受光強度が取り得る最大値から前記ヒストグラムのベースラインレベルを減算した値を実効信号レンジ幅と呼ぶとき、
前記工程(b)は、前記実効信号レンジ幅に1未満の係数である閾値設定値を乗算し、その乗算結果に前記ベースラインレベルを加算することによって、前記強度閾値を算出する工程を含み、
前記測距装置は、更に、
前記視野範囲内における前記閾値設定値の分布を記憶する記憶部(310)を備え、
前記工程(b)では、前記記憶部に記憶されている前記閾値設定値を用いて、前記視野範囲内の各画素毎に前記強度閾値を算出する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測距装置の窓の汚れを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パルス光を照射して外部物体で反射された反射光を受光し、光の飛行時間から外部物体までの距離を測定する測距装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-176750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の測距装置では、測距装置の窓に汚れが付着すると、S/N比が低下して外部物体までの距離を正確に測定できない。しかし、従来は、測距装置の窓に汚れが付着しているか否かを検出する技術について、十分に検討されていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、測距装置(20)が提供される。この測距装置は、パルス光を発光する発光部(40)と、外部物体で反射された前記パルス光の反射光を受光する受光部(50)と、前記受光部で受光された前記反射光の飛行時間を用いて、前記外部物体までの距離を演算する演算部(100)と、前記発光部と前記受光部とを収容するケースであって、前記パルス光及び前記反射光を通過させる窓(82)を有するケース(80)と、予め定められた汚れ判定条件が成立する場合に、前記窓に汚れが存在するものと判定する判定部(300)と、を備え、前記汚れ判定条件は、『前記測距装置の視野範囲内の少なくとも1つの画素において、前記発光部から前記窓までの光路の距離に相当する特定の飛行時間における受光強度が強度閾値以上であること』という第1の条件を含む。
第1の形態では、前記演算部は、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すヒストグラムを作成して前記判定部に提供するように構成されており、前記判定部は、前記ヒストグラムのベースラインレベルに、固定値である閾値設定値を加算することによって、前記強度閾値を算出するように構成されており、前記測距装置は、更に、前記視野範囲内における前記閾値設定値の分布を記憶する記憶部(310)を備え、前記判定部は、前記記憶部に記憶されている前記閾値設定値を用いて、前記視野範囲内の各画素毎に前記強度閾値を算出する。
第2の形態では、前記演算部は、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すヒストグラムを作成して前記判定部に提供するように構成されており、前記ヒストグラムにおいて、受光強度が取り得る最大値から前記ヒストグラムのベースラインレベルを減算した値を実効信号レンジ幅と呼ぶとき、前記判定部は、前記実効信号レンジ幅に1未満の係数である閾値設定値を乗算し、その乗算結果に前記ベースラインレベルを加算することによって、前記強度閾値を算出するように構成されており、前記測距装置は、更に、前記視野範囲内における前記閾値設定値の分布を記憶する記憶部(310)を備え、前記判定部は、前記記憶部に記憶されている前記閾値設定値を用いて、前記視野範囲内の各画素毎に前記強度閾値を算出する。
【0006】
この測距装置によれば、特定の飛行時間における受光強度について汚れ検出条件が成立する場合に窓に汚れが存在するものと判定するので、受光強度から窓に汚れがあるか否かを検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】測距装置の概略構成図。
図2】光学系を表す概略構成図。
図3】受光アレイの構成を模式的に示す説明図。
図4】画素に含まれる受光素子の構成を模式的に示す説明図。
図5】演算判定部の概略構成図。
図6】窓に汚れの無い初期状態のヒストグラム。
図7】窓汚れ検出処理時のヒストグラム。
図8】汚れ検出用の画素を含む受光アレイの構成を模式的に示す説明図。
図9】画素ブロック毎に距離測定と汚れ検出とを行う様子を示す説明図。
図10】窓汚れ検出処理の手順を示すフローチャート。
図11】視野範囲内の複数の画素位置において窓に汚れがある場合を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示すように、測距装置20は、前面に窓92を有するケース90に収容されている。窓92の近傍には、窓92の窓の汚れを除去するための除去動作を実行するクリーンアップ部400が設けられている。本実施形態のクリーンアップ部400は、ウォッシャ部410,411とヒータ部420とを含んでいる。ウォッシャ部410,411は、窓92の表面に水を噴射することによって、窓92の表面の汚れを除去するために使用される。この例では、窓92の左側の汚れを除去する第1ウォッシャ部410と、窓92の右側の汚れを除去する第2ウォッシャ部411とを設けているが、3つ以上のウォッシャ部を設けてもよい。換言すれば、窓92の複数の異なる領域の汚れ除去をそれぞれ担当する複数のウォッシャ部を設けてもよい。或いは、1つのウォッシャ部で窓92の全体の汚れを除去するようにしてもよい。更に、水の代わりに空気を噴射してもよく、水と空気の両方を噴射できるようにウォッシャ部を構成してもよい。ヒータ部420は、窓92に沿って設けられたヒータ線で窓92を加熱して、窓92の表面に付着した雪や氷を融解させるために使用される。クリーンアップ部400としては、これら以外の構成を採用してもよく、例えば、窓92をワイプするワイパー部をクリーンアップ部400として用いてもよい。
【0009】
測距装置20は、測距のためのパルス光を射出して外部物体からの反射光を受ける光学系30と、光学系30から得られた信号を処理する演算判定部100とを備える。外部物体を、「対象物」又は「ターゲット」とも呼ぶ。光学系30は、パルス光としてのレーザ光を射出する発光部40と、レーザ光を予め定められた視野範囲80内で走査させる走査部50と、外部物体からの反射光や外乱光を含む入射光を受光するための受光部60とを備える。
【0010】
測距装置20は、例えば、自動車などの車両に搭載される車載用のLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)である。車両が水平な路面を走行している場合に、視野範囲80の横方向は水平方向Xと一致し、縦方向は鉛直方向Yと一致する。測距装置20で測定された距離などの情報は、外部装置である距離受信部500によって受信されて利用される。距離受信部500は、各種の情報をユーザーに通知する通知部510を有している。通知部510は、例えば、客室内に設けられた表示部やスピーカ等である。距離受信部500は、例えば、車両のECU(Electronic Control Unit)を含む制御装置である。
【0011】
図2に示すように、発光部40は、測距用のレーザ光を射出する半導体レーザ素子(以下、単にレーザ素子とも呼ぶ)41と、レーザ素子41の駆動回路を組み込んだ回路基板43と、レーザ素子41から射出されたレーザ光を平行光にするコリメートレンズ45とを備える。レーザ素子41は、いわゆる短パルスレーザを発振可能なレーザダイオードである。本実施形態において、レーザ素子41は、複数のレーザダイオードを鉛直方向に沿って配列させることにより矩形状のレーザ発光領域を構成する。レーザ素子41を「光源」とも呼ぶ。
【0012】
走査部50は、いわゆる一次元スキャナによって構成される。走査部50は、ミラー54と、ロータリソレノイド58と、回転部56とによって構成される。ミラー54は、コリメートレンズ45により平行光とされたレーザ光を反射する。ロータリソレノイド58は、演算判定部100からの制御信号を受けて、予め定められた角度範囲内で正転および逆転を繰り返す。回転部56は、ロータリソレノイド58によって駆動し、鉛直方向を軸方向とする回転軸で正転および逆転を繰り返し、ミラー54を水平方向に沿った一方向に走査させる。コリメートレンズ45を介してレーザ素子41から入射したレーザ光は、ミラー54によって反射され、ミラー54の回転により水平方向に沿って走査される。図1に示す視野範囲80は、この照射光の走査範囲に相当する。視野範囲80内の各画素位置で受光強度が得られるので、視野範囲80内の受光強度の分布は一種の画像を構成する。従って、視野範囲80を「画像領域」と呼ぶことも可能である。なお、走査部50を省略して、発光部40から視野範囲80内の全体にわたってパルス光を射出するとともに、受光部60で視野範囲80内の全体にわたる反射光を受光するようにしてもよい。視野範囲80内の受光強度の分布を示すデータの集合を、「フレーム」とも呼ぶ。距離測定は、1フレーム毎に実行される。
【0013】
測距装置20から出力されるレーザ光は、人や車などの外部物体があると、その表面で乱反射し、その一部は反射光として走査部50のミラー54に戻ってくる。この反射光は、ミラー54で反射されて、外乱光とともに入射光として受光部60の受光レンズ61に入射し、受光レンズ61で集光されて受光アレイ65に入射する。
【0014】
図3に示すように、受光アレイ65は、二次元配列された複数の画素66で構成される。図4に示すように、1つの画素66は、水平方向にH個、鉛直方向にV個となるように配列された複数の受光素子68で構成されている。H及びVはそれぞれ1以上の整数である。本実施形態ではH=V=5であり、水平方向および鉛直方向においてそれぞれ5個の受光素子68で構成される。但し、任意の数の受光素子68で画素66を構成することが可能であり、一つの受光素子68で画素66を構成してもよい。本実施形態では、1画素66を構成する受光素子68の数(H×V)を、「画素サイズ」とも呼ぶ。本実施形態では、受光素子68としてSPAD(Single Photon Avalanche Diode)を用いているが、PINフォトダイオード等の他の種類の受光素子を用いてもよい。1つの画素66の受光結果は、視野範囲80内の1つの画素位置における受光強度となる。この説明から理解できるように、受光アレイ65を構成する「画素66」はハードウエアを意味しており、視野範囲80を構成する「画素」とは異なる意味で使用されている。但し、画素66の受光結果が視野範囲80内の1画素の受光強度として使用されるので、両者の間には対応関係が存在する。
【0015】
各受光素子68は、電源Vccと接地ラインとの間に直列にクエンチ抵抗器RqとアバランシェダイオードDaを接続し、その接続点の電圧を反転素子INVに入力し、電圧レベルの反転したデジタル信号に変換している。反転素子INVの出力は、アンド回路SWの一方の入力端子に入力される。アンド回路SWの他方の入力端子には、選択信号Scが入力される。選択信号Scは、受光アレイ65のどの受光素子68からの信号を読み出すかを指定するのに用いられる。すなわち、ある受光素子68を選択する選択信号Scをローレベルからハイレベルに切り替えると、アバランシェダイオードDaの状態を反映した出力信号Soutがその受光素子68から出力される。選択信号Scをハイレベルに切り替えるタイミングは、反射光の飛行時間に相当する。従って、1回のパルス光の発光の後に、複数の飛行時間に相当する複数のタイミングで選択信号Scがローレベルからハイレベルにそれぞれ切り替えられる。
【0016】
出力信号Soutは、照射光が走査範囲に存在する外部物体に反射して戻ってくる反射光や外乱光を含む入射光の受光により生じるパルス信号である。複数の飛行時間における受光素子68の出力信号Soutは、演算判定部100に順次入力される。
【0017】
図5に示すように、演算判定部100は、演算部200と、判定部300と、記憶部310とを含んでいる。演算部200は、受光部60で受光された反射光の飛行時間Tfを用いて、外部物体OBJまでの距離Dを演算する。演算部200は、演算判定部100全体の制御を行なう制御部210と、加算部220と、ヒストグラム生成部230と、ピーク検出部240と、距離演算部250とを備える。
【0018】
加算部220は、受光アレイ65を構成する画素66に含まれる受光素子68の出力を加算する回路である。入射光パルスが一つの画素66に入射すると、画素66に含まれる各受光素子68が動作する。前述したように、本実施形態では、受光素子68としてSPADを使用しており、画素66を複数個のSPADから構成している。SPADは、一つのフォトンが入射しただけでこれを検出することが可能であるが、外部物体OBJからの限られた光によるSPADの検出は確率的なものにならざるを得ない。加算部220は、確率的にしか入射光を検出し得ないSPADからの出力信号Soutを加算する。
【0019】
ヒストグラム生成部230は、加算部220の加算結果を複数回足し合せることによって、受光強度のヒストグラムを生成し、ピーク検出部240に出力する。このヒストグラムは、複数の飛行時間のそれぞれにおける受光強度を表すグラフである。受光強度は、1画素66内の受光したSPAD数の合計である。複数の飛行時間は、一定の間隔で設定されている。ピーク検出部240は、ヒストグラム生成部230から入力されたヒストグラムの受光強度を解析して、受光強度のピークを検出し、検出されたピークの飛行時間を決定する。検出されたピークの飛行時間は、外部物体OBJで反射された光の飛行時間Tfに相当する。距離演算部250は、光の飛行時間Tfを用いて、外部物体OBJまでの距離Dを演算する。
【0020】
判定部300は、受光部60における受光強度を用いて、窓92の汚れ検出処理を実行する。本実施形態では、判定部300は、受光部60における受光強度を表す情報として、ヒストグラム生成部230で生成されたヒストグラムを用いる。窓92の汚れ検出処理の詳細については後述する。窓92に汚れがあるものと判定された場合には、判定部300からの指示に応じて、クリーンアップ部400が窓92の汚れを除去するための除去動作を実行する。判定部300には、外気温度を測定するための温度センサ320が接続されている。但し、温度センサ320は省略可能である。
【0021】
記憶部310は、測距装置20の視野範囲80内における閾値設定値の分布を記憶する。「閾値設定値」とは、窓汚れ検出処理で使用される強度閾値を決定するために用いられる値であり、予め設定されて記憶部310に格納される。強度閾値や閾値設定値については更に後述する。
【0022】
図6及び図7に示すように、ヒストグラム生成部230で生成されたヒストグラムは、複数の飛行時間Tfのそれぞれにおける受光強度Iを示すグラフである。図6は、窓92に汚れの無い初期状態のヒストグラムの例を示しており、図7は、窓汚れ検出処理時のヒストグラムの例を示している。図6及び図7で使用した符号の意味は以下の通りである。なお、末尾が「0」である符号は初期状態を示し、末尾が「1」の符号は窓汚れ検出処理時を示す。以下では主として図7に示した窓汚れ検出処理時の符号の意味を説明する。
【0023】
(1)CL0,CL1:クラッタピーク
クラッタピークCL1は、発光部40から窓92までの光路の距離に相当する特定の飛行時間Tcに現れる受光強度のピークである。窓92による反射光を「クラッタ光」と呼ぶ。
(2)Tc:クラッタピークの飛行時間
クラッタピークの飛行時間Tcは、発光部40から窓92までの光路の距離に相当する特定の飛行時間である。
(3)TP0,TP1:ターゲットピーク
ターゲットピークTP1は、外部物体からの反射光に対応する受光強度のピークである。
(4)Tt:ターゲットピークの飛行時間
ターゲットピークの飛行時間Ttは、発光部40から外部物体までの距離に対応する飛行時間である。
(5)Imax:受光強度Iが取り得る最大値
受光強度Iが取り得る最大値Imaxは、ヒストグラムを作成する際に使用される1画素当りの受光素子68の延べ数である。図4で説明したように、1つの画素66はH×V個の受光素子68で構成されている。Nを2以上の整数とするとき、N回の発光による受光結果を合計してヒストグラムを作成する場合には、受光強度Iが取り得る最大値Imaxは、N×H×Vに等しい。
(6)H0,H1:クラッタピークレベル
クラッタピークレベルH1は、クラッタピークCL1の高さの絶対値である。以下では、クラッタピークレベルH1を、単に「ピークレベルH1」又は「受光強度H1」とも呼ぶ。
(7)It0,It1:クラッタピークの強度閾値
クラッタピークCL1の強度閾値It1は、汚れ検出条件のうち、『測距装置20の視野範囲80内の少なくとも1つの画素において、特定の飛行時間Tcにおける受光強度が強度閾値It1以上であること』という第1の条件が成立するか否かを判断する際に使用される。強度閾値It1は、通常は受光強度Iが取り得る最大値Imaxよりも小さな値に設定されるが、最大値Imaxと等しい値に設定してもよい。窓汚れ検出処理時の強度閾値It1の決定方法については後述する。
(8)BL0,BL1:ヒストグラムのベースラインレベル
ヒストグラムのベースラインレベルBL1は、ヒストグラムにおけるピーク以外の信号値の平均値である。
(9)α:閾値設定値
この閾値設定値αは、強度閾値It1からベースラインレベルBL1を減算した値である。換言すれば、強度閾値It1は、べースラインレベルBL1にこの閾値設定値αを加算することによって決定できる。但し、後述するように、他の方法で強度閾値It1を決定することも可能である。
(10)(Imax0-BL0),(Imax-BL1):実効信号レンジ幅
実効信号レンジ幅(Imax-BL1)は、受光強度Iが取り得る最大値ImaxからベースラインレベルBL1を減算した値である。
【0024】
図6に示すように、窓92に汚れが無い初期状態における典型的なヒストグラムには、外部物体からの反射光に対応するターゲットピークTP0が現れる。外部物体までの距離は、このターゲットピークTP0の飛行時間Ttから決定される。図6のヒストグラムは、更に、窓92での反射光に対するピークとしてのクラッタピークCL0も含んでいる。クラッタピークCL0は、発光部40から窓92までの光路の距離に相当する特定の飛行時間Tcにおける受光強度である。このクラッタピークCL0は、窓92に汚れが無い状態、例えば、工場出荷時におけるピークレベルH0(以下、「初期クラッタピークレベルH0」と呼ぶ)を有する。なお、クラッタピークCL0が現れる特定の飛行時間Tcは、視野範囲80内の画素位置毎に異なっている。この理由は、図1において、発光部40から窓92までの光路の光路長が、視野範囲80内の画素位置毎に異なるからである。また、各画素位置における初期クラッタピークレベルH0も画素位置毎に異なっているのが普通である。
【0025】
なお、通常の測距装置では、窓92が存在する位置は測距対象とならないので、クラッタピークCL1が現れる特定の飛行時間Tcにおいて受光強度Iの測定値を取得する必要はない。本実施形態では、クラッタピークCL1を利用して窓92の汚れ検出を行うために、特定の飛行時間Tcにおいて受光強度Iの測定値を取得する点に1つの特徴がある。
【0026】
図7の例に示すように、窓汚れ検出処理時のヒストグラムにおけるターゲットピークTP1及びクラッタピークCL1のレベルは、初期状態におけるターゲットピークTP0及びクラッタピークCL0のレベルとは異なるのが普通である。例えば、窓92に汚れが存在する場合には、そのクラッタピークレベルH1は、初期クラッタピークレベルH0よりも高くなる。また、窓92に汚れが存在する場合には、同じ外部物体に対するターゲットピークTP1のレベルも低くなる場合が多い。
【0027】
窓汚れ検出処理時のベースラインレベルBL1は、太陽などの外部光源の有無等の外部環境に影響される。例えば、強い太陽光が存在する場合には、ベースラインレベルBL1は極めて高い値を示す。このとき、クラッタピークレベルH1も同様に高くなる。従って、このような外部環境の影響を考慮して、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1を適応的に決定することが好ましい。この点は更に後述する。
【0028】
窓汚れ検出処理時の強度閾値It1の決定方法としては、例えば以下のような方法A~Cが考えられる。
<強度閾値の決定方法A>
窓汚れ検出処理時の強度閾値It1を、一定値に設定する。
この場合には、強度閾値It1を、視野範囲80内の全画素に共通する1つの値に設定してもよく、或いは、視野範囲80内の各画素毎に強度閾値It1をそれぞれ設定して、記憶部310内に閾値設定値として格納してもよい。前者の場合には、記憶部310は省略可能である。但し、強度閾値It1を視野範囲80内の各画素毎に設定するようにすれば、各画素毎の初期クラッタピークレベルH0よりも高い強度閾値It1を設定できるので、窓汚れ検出処理をより正確に実行できるという利点がある。
【0029】
<強度閾値の決定方法B>
ヒストグラムのベースラインレベルBL1に、固定値である閾値設定値αを加算した値を、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1とする。
It1=BL1+α …(1)
ここで、閾値設定値αは、初期状態に上記(1)式を適用したときの演算結果(BL0+α)が初期クラッタピークレベルH0よりも十分に大きくなるように予め設定された値である。閾値設定値αは、視野範囲80内の全画素に共通する1つの値に設定してもよく、或いは、視野範囲80内の各画素毎に強度固定値αをそれぞれ設定して記憶部310内に格納してもよい。この方法Bによれば、外部光源の有無等の外部環境の影響を考慮して、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1を適応的に決定できるという利点がある。なお、閾値設定値αは、画素サイズ(H×V)や、ヒストグラムを生成する際の発光回数Nに応じて決定しても良い。例えば、以下のいずれかの式を用いて閾値設定値αを決定するようにしてもよい。
α=α0×(H×V)
α=α0×N
α=α0×(H×V)×N
ここで、α0は予め定めた一定値である。画素サイズ(H×V)は、図4で説明したように、1つの画素66に含まれるSPADの数である。
【0030】
<強度閾値の決定方法C>
実効信号レンジ幅(Imax-BL1)に、1未満の係数である閾値設定値βを乗算し、その乗算結果にベースラインレベルBL1を加算した値を、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1とする。
この場合に、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1は、次式で算出できる。
It1=(Imax-BL1)×β+BL1 …(2)
ここで、閾値設定値βは、初期状態に上記(2)式を適用したときの演算結果{(Imax-BL0)×β+BL0}が初期クラッタピークレベルH0よりも十分に大きくなるように予め設定された値である。閾値設定値βは視野範囲80内の全画素に共通する1つの値に設定してもよく、或いは、視野範囲80内の各画素毎に設定して記憶部310内に格納してもよい。この方法Cによれば、上述した方法Bと同様に、外部環境の影響を考慮して、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1を適応的に決定できるという利点がある。また、この方法Cは、更に、外部からの光が極めて強くてベースラインレベルBL1が高くなった場合にも、窓汚れ検出処理時の強度閾値It1を受光強度の最大値Imaxよりも小さな値に維持できるので、窓汚れ検出処理をより正確に実行できるという利点がある。
【0031】
なお、強度閾値It1を決定するために用いられる閾値設定値が視野範囲80の各画素毎に異なる場合には、視野範囲80内における閾値設定値の分布を記憶部310に記憶することが好ましい。閾値設定値は、視野範囲80内のすべての画素位置で記憶しておくことが好ましいが、間引きした画素位置のみで閾値設定値を記憶することによって、視野範囲80内における閾値設定値の分布を記憶するようにしてもよい。後者の場合には、各画素位置における強度閾値It1を算出する際に、各画素位置での閾値設定値を補間により決定できる。
【0032】
図8の例に示すように、距離測定用の画素66に加えて、汚れ検出用の画素67を含む受光アレイ65aを用いてもよい。すなわち、受光部60は、距離測定用の画素66とは別に、窓92の汚れ検出用の画素67を含んでいても良い。汚れ検出用の画素67は、距離測定用の画素66の近傍に配置される。具体的には、窓92に汚れが無い場合には汚れ検出用の画素67にクラッタ光が印加されず、窓92に汚れがある場合には汚れ検出用の画素67にクラッタ光が印加されるように汚れ検出用の画素67が配置されていることが好ましい。窓92に汚れがある場合には、距離測定用の画素66においてクラッタピークが増大するとともに、その周辺へのクラッタ光が増加する。この位置に汚れ検出用の画素67を配置すれば、この画素67への光入力の有無で汚れの有無を判定でき、よりシンプルな演算で汚れ検出を実現できるという利点がある。
【0033】
また、図9に示すように、受光アレイ65に含まれる複数の画素66を、複数の画素ブロックに分割して時分割処理し、距離測定と汚れ検出とを同一タイミングで実施してもよい。図9の例では、複数の画素66が画素ブロックAと画素ブロックBの2つの画素ブロックに分割されており、一方の画素ブロックにより距離測定を行うときに、これと並行して他方の画素ブロックにより汚れ検出を行う。受光アレイ65に含まれる複数の画素66は、3個以上の画素ブロックに分割してもよい。この場合には、少なくとも1つの画素ブロックで汚れ検出を行い、他の画素ブロックで距離測定を行うことができる。
【0034】
図10に示す窓汚れ検出処理は、制御部210の制御の下で実行される。ステップS100では、窓汚れ検出処理の処理タイミングに至ったか否かが判断される。窓汚れ検出処理の処理タイミングは、例えば、測距装置20の通常の測距動作中の所定の期間毎としてもよい。或いは、予め定められた測距装置20の自己診断期間内において窓汚れ検出処理の処理タイミングを設定するようにしてもよい。
【0035】
窓汚れ検出処理の予め定められた処理タイミングに至った場合には、ステップS200に進み、判定部300が、受光強度のヒストグラムから、クラッタピークCL1のピークレベルH1を取得する。
【0036】
ステップS300では、判定部300が、予め定められた汚れ判定条件が成立するか否かを判断する。汚れ判定条件が成立しない場合には、ステップS100に戻り、次の処理タイミングまで待機する。一方、汚れ判定条件が成立した場合には、後述するステップS400に進む。
【0037】
汚れ判定条件としては、例えば、以下に説明する種々の汚れ判定条件のうちのいずれか1つを使用することが可能である。
<汚れ判定条件1>
以下の第1の条件C1のみが成立した場合に、窓92に汚れが存在するものと判定する。
・第1の条件C1:『測距装置20の視野範囲80内の少なくとも1つの画素において、発光部40から窓92までの光路の距離に相当する特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1が、強度閾値It1以上であること』
この汚れ判定条件1は、後述する他の汚れ判定条件よりも緩い条件なので、窓92の汚れを見逃す可能性が低いという利点がある。なお、第1の条件C1の成否は、ヒストグラムがターゲットピークTP1を含むか否かに拘わらずに判定されることが好ましい。こうすれば、ヒストグラムがターゲットピークTP1を含む場合にも窓92の汚れを検出できるという利点がある。
【0038】
<汚れ判定条件2>
上記第1の条件C1と下記の第2の条件C2aが両方とも成立した場合に、窓92に汚れが存在するものと判定する。
・第2の条件C2a:『視野範囲80内において、特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1が強度閾値It1以上となる画素の画素数が、2以上の整数である個数閾値以上であること』
この汚れ判定条件2では、図7において、クラッタピークCL1のピークレベルH1が強度閾値It1以上となる画素が視野範囲80内に複数個存在する場合に窓92に汚れが存在すると判定するので、窓92の汚れをより確実に判定できるという利点がある。
【0039】
<汚れ判定条件3>
上記第1の条件C1と下記の第2の条件C2bが両方とも成立した場合に、窓92に汚れが存在するものと判定する。
・第2の条件C2b:『視野範囲80内において、特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1が強度閾値It1以上となる複数の画素が互いに連続する画素集合体が存在しており、かつ、画素集合体の画素数が予め定められた個数閾値以上であること』
この汚れ判定条件3は、図11に示すように、窓92の汚れに起因して、特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1が強度閾値It1以上となる複数の画素が、視野範囲80内において互いに連続して画素集合体PAを構成している場合を想定している。なお、「2つの画素が互いに連続する」という語句は、そのうちの一方の画素が他方の画素の上下左右の4隣接位置のいずれかに存在することを意味する。窓92に汚れが存在する場合には、窓92内のまとまった領域に汚れが付着している場合が多いので、図11に示すように、特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1が強度閾値It1以上となる複数の画素が、視野範囲80内において画素集合体PAを構成するのが普通である。従って、汚れ判定条件3では、上述した汚れ判定条件2よりも更に確実に窓92の汚れを判定できるという利点がある。
【0040】
汚れ判定条件が成立したか否かの判定は、複数のフレームにわたって実施してもよい。例えば、Nを予め定められた2以上の整数とするとき、連続するN個のフレームにわたって汚れ判定条件が連続して成立した場合に、窓92に汚れがあるものと判定するようにしてもよい。また、Nを3以上の整数とし、Mを2以上N以下の整数とするとき、連続するN個のフレームのうちのM個のフレームにおいて汚れ判定条件が成立した場合に、窓92に汚れがあるものと判定するようにしてもよい。或いは、Nを予め定められた2以上の整数とするとき、連続するN個のフレームにわたる受光強度H1及び強度閾値It1のそれぞれの合計値又は平均値を用いて、汚れ判定条件が成立するか否かを判定してもよい。これらの方法を採用すれば、安定的に汚れの有無を判定でき、誤検知を防止できるという利点がある。
【0041】
汚れ判定条件が成立した場合には、ステップS400に進み、窓汚れの除去動作が実行される。窓汚れの除去動作は、判定部300からの指示に応じて、クリーンアップ部400によって実行される。具体的には、例えば、ウォッシャ部410,411が、窓92の表面に水と空気の少なくとも一方を噴射することによって、窓92の表面の汚れを除去する。また、温度センサ320で測定された外気温度が、窓92に雪又は氷が付着する可能性がある温度を示している場合には、ヒータ部420が、窓92に沿って設けられたヒータ線で窓92を加熱して、窓92の表面に付着した雪や氷を融解させるようにしてもよい。
【0042】
なお、窓92の汚れの位置に応じて複数のクリーンアップ方法の1つを選択して実行するようにしてもよい。例えば、窓92の複数の異なる領域の汚れ除去をそれぞれ担当する複数のウォッシャ部410,411を用いて、汚れが存在する領域に応じて、その領域の汚れ除去を担当するウォッシャ部のみを選択して起動するようにしてもよい。或いは、窓92の2つの側辺のうちの一方の側辺に2つのウォッシャ部410,411の両方を配置し、第1ウォッシャ部410を流体吐出速度が遅く汚れ除去能力が低いものとし、第2ウォッシャ部411を流体吐出速度が速く汚れ除去能力が高いものとしてもよい。この場合に、2つのウォッシャ部が配置されている窓92の側辺により近い領域に汚れが存在する場合は汚れ除去能力が低い第1ウォッシャ部410を用いて汚れ除去を実行し、他方の側辺により近い領域に汚れが存在する場合は汚れ除去能力が高いで第2ウォッシャ部411を用いて汚れ除去を実行してもよい。
【0043】
また、クリーンアップ方法を、汚れの程度に応じて選択して実行するようにしてもよい。汚れの程度を示す汚れ指標値としては、例えば以下のいずれかを使用することができる。
(1)汚れ指標値D1
汚れ指標値D1は、受光強度H1と強度閾値It1との差分である。
(2)汚れ指標値D2
汚れ指標値D2は、汚れが存在する画素数である。
(3)汚れ指標値D3
汚れ指標値D3は、受光強度H1と強度閾値It1との差分を、視野範囲80内の複数の画素にわたって加算した加算値である。
これらの汚れ指標値D1~D3は、いずれもその値が大きいほど、汚れの程度が高いことを示す。判定部300は、これらの汚れ指標値D1~D3のうちのいずれかを算出して、クリーンアップ部400に通知するようにしてもよい。
【0044】
クリーンアップ部400は、汚れ指標値によって示される汚れの程度に応じて、汚れ除去能力が異なる複数のクリーンアップ方法のうちの1つを選択して実行することが可能である。例えば、汚れの程度を予め複数の汚れ段階に区分し、各汚れ段階において、以下の3種類のクリーンアップ方法のうちの1つを採用してもよい。
(1)クリーンアップ方法C1
空気のみを用いるウォッシャ部によるクリーンアップを実行する。
(2)クリーンアップ方法C2
空気と水の両方を用いるウォッシャ部によるクリーンアップを実行する。
(3)クリーンアップ方法C3
ウォッシャ部とワーパー部の両方を用いるクリーンアップを実行する。
これらの3種類のクリーンアップ方法C1~C3は、この順に汚れ除去能力が次第に高くなるものであり、汚れの程度が低い順に選択されて適用される。
【0045】
なお、ステップS400は省略してもよい。また、窓92に汚れがある場合には、測距装置20を搭載する車両の乗員に対して、判定部300が、測距装置20の窓92に汚れがあることを通知することが好ましい。このような通知は、例えば、客室内に設けられた表示部やスピーカ等の通知部510を用いて行うことができる。汚れを通知する際には、窓92のうちの汚れが存在する位置を外部に通知することが好ましい。また、演算部200は、窓92のうちで汚れが存在する領域の距離データを外部に出力せず、汚れが存在しない領域の距離データのみを外部に出力するようにしてもよい。
【0046】
なお、上述した<汚れ判定条件2>又は<汚れ判定条件3>を使用する場合に、特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1が強度閾値It1以上となる画素の画素数が第1の個数閾値以上の場合に、(a)その画素数が第1の個数閾値よりも大きな第2の個数閾値以上の場合にはクリーンアップ部400に除去動作を実行させること無く通知のみを行い、(b)その画素数が第2の個数閾値未満の場合にはクリーンアップ部400に除去動作を実行させる、ようにしてもよい。これにより、クリーンアップ部400により除去不可能な大きさの汚れか否かを判定できる。
【0047】
また、判定部300は、窓92が汚れていない場合において、受光強度H1に応じた新たな閾値設定値を算出して記憶部310に保存することによって、閾値設定値を更新しても良い。この場合に、クリーンアップ部400を駆動して除去動作を実行し、除去動作後に得られる受光強度H1を使用して新たな閾値設定値を算出してもよい。新たな閾値設定値は、例えば、元の受光強度H0と、受光強度H1とを用いて算出される。この方法によれば、発光の経年劣化や窓92のひずみなどに対応でき、汚れを見落とすことが防止できる。
【0048】
また、通常の車両走行において、一度も汚れと判定されることなく走行を終了した場合、その間に得られた受光強度H1に応じた新たな閾値設定値を算出して記憶部310に保存することによって、閾値設定値を更新しても良い。この方法によれば、発光の経年劣化や窓92のひずみなどに対応でき、汚れを見落とすことが防止できる。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、特定の飛行時間Tcにおける受光強度H1について予め定められた汚れ検出条件が成立する場合に、窓92に汚れが存在するものと判定するので、受光強度から窓に汚れがあるか否かを検出することが可能である。
【0050】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0051】
本開示は上述した実施形態やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。また、上述した種々の特徴的な構成は、互いに矛盾しない限り、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
20…測距装置、30…光学系、40…発光部、60…受光部、80…視野範囲、90…ケース、92…窓、100…演算判定部、200…演算部、300…判定部、310…記憶部、400…クリーンアップ部、410,411…ウォッシャ部
図1
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図8
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