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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 39/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G04B39/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020161000
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054038
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】林 甲貴
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】星野 一憲
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宏
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-125682(JP,A)
【文献】実開平2-59485(JP,U)
【文献】特開2020-134246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0039905(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 39/00 - 39/02
G01D 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
文字板と、
前記文字板を保護し、曲率の異なる複数の曲面を有する風防ガラスと、
前記文字板と前記風防ガラスとの間に配置され、時及び分以外の情報を指示する針と、
を含み、
前記風防ガラスは、
第1曲率を有し、前記風防ガラスの中心を含む第1曲面と、
前記第1曲面に隣接し、前記第1曲率よりも大きい第2曲率を有する第2曲面と、
前記第2曲面に隣接し、前記第2曲率よりも大きい第3曲率を有する第3曲面と、
を備え、
前記第1曲面に対する法線方向の厚さと、前記第2曲面に対する法線方向の厚さとが、同じであり、
前記文字板から前記風防ガラスに向かう第1方向からの平面視において、前記針の先端は、前記第2曲面と前記第3曲面との境界よりも前記風防ガラスの中心側に配置されることを特徴とする時計。
【請求項2】
前記文字板は、前記針によって指し示される目盛をさらに有し、
前記平面視において、前記目盛の外端は、前記第2曲面と前記第3曲面との境界と、前記針の先端との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の時計。
【請求項3】
前記平面視において、前記目盛は、前記第3曲面と重ならないことを特徴とする請求項2に記載の時計。
【請求項4】
前記第2曲面は、前記第1曲面と前記第2曲面との境界から、前記第2曲面と前記第3曲面との境界に向かって曲率が徐々に大きくなることを特徴とする請求項1または3に記載の時計。
【請求項5】
前記平面視において、前記風防ガラスにおける前記第1曲面の面積が最も大きいことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の時計。
【請求項6】
前記風防ガラスは、サファイアガラスであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端部がカーブ形状(曲面)になった腕時計用のカバーガラス(風防ガラス)が知られている(例えば、特許文献1)。例えば、風防ガラスが複数の直線的な斜面で構成され、風防ガラスが当該斜面の交差する部分に稜線を有する場合、風防ガラスを介して視認される文字板や針が稜線によって分断されて見える不具合が生じる場合があった。特許文献1に記載の風防ガラスは、端部が曲面であり、稜線を有さないので、文字板や針が分断されて見えるという不具合が解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平1-78989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の風防ガラスでは、風防ガラスを介して視認される文字板や針が歪んで見える場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の時計は、文字板と、前記文字板を保護し、曲率の異なる複数の曲面を有する風防ガラスと、前記文字板と前記風防ガラスとの間に配置され、時及び分以外の情報を指示する針と、を含み、前記風防ガラスは、第1曲率を有し、前記風防ガラスの中心を含む第1曲面と、前記第1曲面に隣接し、前記第1曲率よりも大きい第2曲率を有する第2曲面と、前記第2曲面に隣接し、前記第2曲率よりも大きい第3曲率を有する第3曲面と、を備え、前記第1曲面に対する法線方向の厚さと、前記第2曲面に対する法線方向の厚さとが、同じであり、前記文字板から前記風防ガラスに向かう第1方向からの平面視において、前記針の先端は、前記第2曲面と前記第3曲面との境界よりも前記風防ガラスの中心側に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る時計の平面図。
図2】実施形態に係る時計の断面図。
図3】風防ガラスの断面図。
図4】風防ガラスの主要部分の曲率半径、曲率、及び厚さを示す一覧表。
図5】風防ガラスを介して視認される格子状のテストパターンの状態を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.実施形態
本実施形態に係る時計1は、駆動部分を含む機械体であるムーブメント2を有する。文字板3や針11が取り付けられたムーブメント2は、ケース5の中に収容され、風防ガラス30によって保護される。このため、本実施形態に係る時計1では、ムーブメント2と文字板3と風防ガラス30とが一方向に順に配置される(図2参照)。
以降の説明では、ムーブメント2と文字板3と風防ガラス30とが順に配置される方向を+Z方向と称し、+Z方向と反対方向を-Z方向と称す。さらに、+Z方向と直交し、風防ガラス30の中心Cから風防ガラス30の外縁Eに向かう方向をX方向と称す。
なお、+Z方向は、本願における文字板から風防ガラスに向かう第1方向の一例である。また、+Z方向側から見ることは、本願における文字板から風防ガラスに向かう第1方向からの平面視であり、以降、Z方向から見た平面視と称す。
また、X方向から見ることを、X方向から見た平面視と称す。
【0008】
1.1時計の概要
図1は、本実施形態に係る時計1の平面図であり、Z方向から見た時計1の状態が図示されている。図2は、図1におけるA-A線矢視断面図であり、本実施形態に係る時計1の断面図である。図1では風防ガラス30の中心Cが黒丸で図示され、図2及び後述する図3では風防ガラス30の中心が一点鎖線で図示されている。
最初に、図1及び図2を参照し、本実施形態に係る時計1の概要を説明する。
【0009】
図1に示すように、本実施形態に係る時計1は、3針式のアナログ式の腕時計であり、ケース5と、文字板3と、針11と、リュウズ6と、風防ガラス30とを備えている。
ケース5は、例えば、ステンレスやチタンなどの硬質金属から構成され、ムーブメント2や文字板3を収容する。針11は、時を示す時針12と、分を示す分針13と、秒を示す秒針14とを有する。また、時針12、分針13、秒針14の順に長くなっている。リュウズ6は、龍頭であり、一段引くと時間の修正が可能になる。
なお、秒針14は、本願における時及び分以外の情報を指示する針の一例である。
【0010】
文字板3には、目盛16が設けられている。目盛16は、時目盛17と分目盛18とで構成され、針11によって指し示される。時目盛17は、1周360度を12分割した位置に設けられている。分目盛18は、時目盛17と隣り合う時目盛17との間の領域を5等分する位置に設けられている。また、時目盛17は分目盛18よりも長い。
なお、目盛16(時目盛17、分目盛18)は、本願における針によって指し示される目盛の一例である。
風防ガラス30は、Z方向から見た平面視で円形の部材であり、文字板3を保護する。風防ガラス30の詳細は後述する。
【0011】
時針12のX方向の端は時針12の先端12aであり、分針13のX方向の端は分針13の先端13aであり、秒針14のX方向の端は秒針14の先端14aであり、以降、これらをまとめて針11の先端11aと称す。さらに、時目盛17のX方向の端は時目盛17の外端17aであり、分目盛18のX方向の端は分目盛18の外端18aであり、以降、これらをまとめて目盛16の外端16aと称す。
なお、針11の先端11a(時針12の先端12a、分針13の先端13a、秒針14の先端14a)は、本願における針の先端の一例である。目盛16の外端16a(時目盛17の外端17a、分目盛18の外端18a)は、本願における目盛の外端の一例である。
【0012】
図2に示すように、本実施形態に係る時計1では、ケース5の+Z方向側に風防ガラス30が取り付けられ、ケース5の-Z方向側に裏蓋9が取り付けられている。裏蓋9と風防ガラス30との間には、ムーブメント2と文字板3と針11とが+Z方向に沿って順に配置されている。
すなわち、本実施形態に係る時計1は、文字板3と、文字板3を保護する風防ガラス30と、文字板3と風防ガラス30との間に配置される針11とを有する。
【0013】
ムーブメント2は、針11が取り付けられる軸4、及び軸4を回転させる駆動機構(図示省略)を有する。
文字板3には、軸4が貫通する孔8が設けられている。軸4は、孔8を貫通し、文字板3に対して+Z方向に張り出す。軸4の+Z方向に張り出した部分に、針11(時針12、分針13、秒針14)が取り付けられている。
【0014】
1.2風防ガラスの概要
図3は、風防ガラス30の図1におけるA-A線矢視断面図であり、風防ガラス30の断面図である。図4は、風防ガラス30の主要部分の曲率半径、曲率、及び厚さを示す一覧表である。図5は、風防ガラス30,30Aを介して視認される格子状のテストパターンの状態を示す写真である。
以降の説明では、風防ガラス30の+Z方向側の面を表面30aと称し、風防ガラス30の-Z方向側の面を裏面30bと称す。
次に、図1図5を参照して、風防ガラス30の概要を説明する。
【0015】
風防ガラス30は、サファイアガラスである。風防ガラス30は、人工的に合成されたサファイアの結晶を研磨することによって作製される。サファイアガラスで構成される風防ガラス30は、光透過性や視認性に優れ、硬度が高く傷がつきにくいという優れた特長を有する。
【0016】
図3及び図4に示すように、風防ガラス30の表面30aは、風防ガラス30の中心Cを含む表面側第1曲面FS1と、表面側第1曲面FS1に隣接する表面側第2曲面FS2と、表面側第2曲面FS2に隣接する表面側第3曲面FS3とを有する。風防ガラス30の裏面30bは、風防ガラス30の中心Cを含む裏面側第1曲面BS1と、裏面側第1曲面BS1に隣接する裏面側第2曲面BS2と、裏面側第2曲面BS2に隣接する裏面側第3曲面BS3とを有する。
なお、表面側第1曲面FS1は本願における第1曲面の一例であり、表面側第2曲面FS2は本願における第2曲面の一例であり、表面側第3曲面FS3は本願における第3曲面の一例である。
【0017】
風防ガラス30の表面30aにおいて、表面側第1曲面FS1の曲率半径はFR1であり、表面側第2曲面FS2の曲率半径はFR2であり、表面側第3曲面FS3の曲率半径はFR3である。例えば、曲率半径FR1は100mmであり、曲率半径FR2は30mmであり、曲率半径FR3は5mmである。本実施形態では、FR1>FR2>FR3という関係にある。
【0018】
風防ガラス30の表面30aにおいて、表面側第1曲面FS1の曲率はFC1であり、表面側第2曲面FS2の曲率はFC2であり、表面側第3曲面FS3の曲率はFC3である。なお、曲率は曲率半径の逆数であり、曲率半径が大きくなると曲率が小さくなり、曲率半径が小さくなると曲率が大きくなる。本実施形態では、FC1<FC2<FC3という関係にある。
なお、曲率FC1は本願における第1曲率の一例であり、曲率FC2は本願における第2曲率の一例であり、曲率FC3は本願における第3曲率の一例である。
また、以降の説明では、表面側第1曲面FS1を第1曲面FS1と称し、表面側第2曲面FS2を第2曲面FS2と称し、表面側第3曲面FS3を第3曲面FS3と称す。
【0019】
風防ガラス30の裏面30bにおいて、裏面側第1曲面BS1の曲率半径はBR1であり、裏面側第2曲面BS2の曲率半径はBR2であり、裏面側第3曲面BS3の曲率半径はBR3であり、BR1>BR2>BR3という関係にある。裏面側第1曲面BS1の曲率はBC1であり、裏面側第2曲面BS2の曲率はBC2であり、裏面側第3曲面BS3の曲率はBC3であり、BC1<BC2<BC3という関係にある。
【0020】
このように、風防ガラス30は、曲率が異なる複数の曲面(第1曲面FS1、第2曲面FS2、第3曲面FS3)を備える。そして、風防ガラス30は、曲率FC1(第1曲率)を有し風防ガラス30の中心Cを含む第1曲面FS1(第1曲面)と、第1曲面FS1に隣接し曲率FC1よりも大きい曲率FC2(第2曲率)を有する第2曲面FS2(第2曲面)と、第2曲面FS2に隣接し曲率FC2よりも大きい曲率FC3(第3曲率)を有する第3曲面FS3(第3曲面)と、を備える。
すなわち、風防ガラス30では、中心C側に配置される曲率FCnが小さい第1曲面FS1と、外縁E側に配置される曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2が設けられている。かかる構成によって、風防ガラス30の中心Cから外縁Eに向かう方向(X方向)における曲率FCnの変化が小さくなり、X方向における曲率FCnの変化が穏やかになる。
【0021】
さらに、風防ガラス30において、第1曲面FS1に対する法線方向の厚さはFT1であり、第2曲面FS2に対する法線方向の厚さはFT2であり、第3曲面FS3に対する法線方向の厚さはFT3である。例えば、第1曲面FS1に対する法線方向の厚さFT1は1mmである。
本実施形態では、第1曲面FS1に対する法線方向の厚さはFT1と、第2曲面FS2に対する法線方向の厚さはFT2と、第3曲面FS3に対する法線方向の厚さはFT3とは同じである。すなわち、FT1=FT2=FT3という関係にある。
【0022】
このように、本実施形態は、風防ガラス30の第1曲面FS1に対する法線方向の厚さFT1(第1曲面に対する法線方向の厚さ)と、風防ガラス30の第2曲面FS2に対する法線方向の厚さFT2(第2曲面に対する法線方向の厚さ)とが同じである構成を有する。
なお、本願における法線方向の厚さが同じであるとは、法線方向の厚さのバラツキが±10%以下である状態をいう。例えば、第1曲面FS1に対する法線方向の厚さはFT1が0.9mm~1.1mmの範囲にあり、第2曲面FS2に対する法線方向の厚さFT2が0.9mm~1.1mmの範囲にある場合、第1曲面FS1に対する法線方向の厚さはFT1と第2曲面FS2に対する法線方向の厚さFT2とは同じであり、本願の技術的範囲に含まれる。
【0023】
一般に、風防ガラス30における法線方向の厚さが同じであり、曲率FCnが小さい場合、風防ガラス30を通過する光の屈折が小さくなり、風防ガラス30を通して視認される像の歪みが小さくなる。いわゆるレンズ効果の影響が弱くなり、風防ガラス30を通して視認される像に歪みが生じにくくなる。
詳細は後述するが、第1曲面FS1の曲率FC1及び第2曲面FS2の曲率FC2は曲率FCnが小さく、風防ガラス30の第1曲面FS1及び第2曲面FS2を介して視認される像の歪みが小さくなる(図5参照)。
その結果、風防ガラス30では、第1曲面FS1及び第2曲面FS2が、像の歪みが生じにくい視認面VSになる。ユーザーは、風防ガラス30の第1曲面FS1及び第2曲面FS2を介して、像の歪みが小さい自然な状態で針11や目盛16を視認することができる。
【0024】
一方、風防ガラス30における法線方向の厚さが同じであり、曲率FCnが大きい場合、風防ガラス30を通過する光の屈折が大きくなり、風防ガラス30を通して視認される像が拡大または縮小され、風防ガラス30を通して視認される像の歪みが大きくなる。いわゆるレンズ効果の影響が強くなり、風防ガラス30を通して視認される像に歪みが生じる。
詳細は後述するが、第3曲面FS3の曲率FC3は曲率FCnが大きく、風防ガラス30の第3曲面FS3を介して視認される像の歪みが大きくなる(図5参照)。
すなわち、第3曲面FS3ではレンズ効果の影響が極めて大きくなり、第3曲面FS3を介して視認される像の歪みが大きくなるので、風防ガラス30の第3曲面FS3を、像の歪みが生じにくい視認面VSとして使用することが望ましくない。
【0025】
風防ガラス30では、第1曲面FS1と第2曲面FS2との境界は境界K12であり、第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界は境界K23である。図3では、境界K12及び境界K23が黒丸で図示されている。また、図1及び図2では、境界K12が破線で図示され、境界K23が二点鎖線で図示されている。
なお、境界K12は本願における第1曲面と第2曲面との境界の一例であり、境界K23は本願における第2曲面と第3曲面との境界の一例である。
【0026】
図1及び図2に示すように、Z方向から見た平面視において、目盛16の外端16a(時目盛17の外端17a、分目盛18の外端18a)は、第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23と、針11の先端11aとの間に配置される。詳しくは、Z方向から見た平面視において、目盛16の外端16a(時目盛17の外端17a、分目盛18の外端18a)は、第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23と、秒針14の先端14aとの間に配置される。
また、Z方向から見た平面視において、分目盛18は第2曲面FS2に重なるように配置され、時目盛17は第1曲面FS1及び第2曲面FS2に重なるように配置される。
すると、ユーザーは、風防ガラス30の第1曲面FS1及び第2曲面FS2を介して目盛16を視認することになり、象の歪みが小さい状態で目盛16を視認することができる。その結果、目盛16の視認性が高められる。
【0027】
Z方向から見た平面視において、針11の先端11a(時針12の先端12a、分針13の先端13a、秒針14の先端14a)は、第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23よりも風防ガラス30の中心C側に配置される。
詳しくは、Z方向から見た平面視において、時針12の先端12aは境界K12よりも風防ガラス30の中心C側に配置され、分針13の先端13a及び秒針14の先端14aは境界K12と境界K23との間に配置される。
すると、ユーザーは、風防ガラス30の第1曲面FS1及び第2曲面FS2を介して針11を視認することになり、象の歪みが小さい状態で針11を視認することができる。その結果、針11の視認性が高められる。
【0028】
さらに、本実施形態では、Z方向から見た平面視において、風防ガラス30における第1曲面FS1の面積が最も大きくなっている。
一般に、法線方向の厚さが同じである場合、レンズ効果の影響は曲率FCnに依存し、曲率FCnが小さくなるとレンズ効果の影響が弱くなり、曲率FCnが大きくなるとレンズ効果の影響が強くなる。本実施形態の風防ガラス30では、第1曲面FS1の曲率FC1が最も小さいので、レンズ効果の影響が最も弱くなり、第1曲面FS1を介して視認される像の歪みが最も小さくなる。従って、第1曲面FS1の面積が最も大きくなると、風防ガラス30の視認面VSのうち歪みが最も小さい部分が最も大きくなり、時刻表示などが最も見やすくなるので、第1曲面FS1の面積が最も大きくなる構成が望ましい。
【0029】
さらに、本実施形態では、Z方向から見た平面視において、目盛16は第3曲面FS3と重ならない。
第3曲面FS3ではレンズ効果の影響が極めて大きくなり、風防ガラス30の第3曲面FS3を介して視認される像の歪みが大きくなるので、風防ガラス30の第3曲面FS3を、像の歪みが生じにくい視認面VSとして使用することが望ましくない。
Z方向から見た平面視において目盛16が第3曲面FS3と重ならないと、ユーザーが風防ガラス30の第3曲面FS3を介して歪んだ状態で目盛16を視認することがなくなり、目盛16の視認性が高められる。
【0030】
本実施形態では、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2が配置される。第2曲面FS2は、第1曲面FS1と第3曲面FS3との間に配置され、風防ガラス30の中心Cから外縁Eに向かう方向(X方向)における曲率FCnの変化を小さくし、曲率FCnの変化を穏やかにする。
例えば、曲率FCnの変化点は、光の屈折などの光学的な特性の変化点となり、その変化が緩やかであるほど、視認される像の歪みが目立ちにくくなる。本実施形態では、第2曲面FS2によって、曲率FCnの変化が小さなくなり、曲率FCnの変化に起因する光学的な特性の変化が小さくなる。その結果、ユーザーは、風防ガラス30の第1曲面FS1及び第2曲面FS2を介して、像の歪みが小さい自然な状態で針11や目盛16を視認することができる。
【0031】
さらに、本実施形態では、曲率FCnが小さい第1曲面FS1に加えて、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2を、像の歪みが少ない視認面VSとして活用することができるので、第2曲面FS2を設けない場合と比べて、風防ガラス30における視認面VSとして使用できる有益な領域の面積が大きくなる。
【0032】
図5は、格子状のテストパターンが印刷されたテスト用紙の上に本実施形態の風防ガラス30と比較例の風防ガラス30Aとを設置し、当該風防ガラス30,30Aを介して格子状のテストパターンがどの様に視認されるのかという状態を示す写真である。
図5では、本実施形態の風防ガラス30が符号Fで示され、比較例の風防ガラス30Aが符号Gで示される。
【0033】
図5において符号Fは本実施形態の風防ガラス30であり、本実施形態の風防ガラス30は、中心C側に配置される曲率FCnが小さい第1曲面FS1と、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2と、外縁E側に配置される曲率FCnが大きい第3曲面FS3とを有する。曲率FCnが中程度の第2曲面FS2は、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に配置される。
一方、図5において符号Gは比較例の風防ガラス30Aであり、比較例の風防ガラス30Aは、中心C側に配置される曲率FCnが小さい第1曲面FS1Aと、外縁E側に配置される曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aとを有し、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2を有さない。
この点が、本実施形態の風防ガラス30と比較例の風防ガラス30Aとの主な相違点である。つまり、比較例の風防ガラス30Aは、風防ガラス30の中心Cから外縁Eに向かう方向における曲率FCnの変化が急激であり、さらに曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aの面積が本実施形態の風防ガラス30に比べて大きい点が特徴である。
なお、第1曲面FS1の曲率FCn(曲率FC1)と第1曲面FS1Aの曲率FCnとは略同じであり、第3曲面FS3の曲率FCn(曲率FC3)と第3曲面FS3Aの曲率FCnとは略同じである。
【0034】
上述したように、法線方向の厚さが同じである場合、レンズ効果の影響は曲率FCnに依存し、曲率FCnが小さくなるとレンズ効果の影響が弱くなり、曲率FCnが大きくなるとレンズ効果の影響が強くなるという関係にある。
図5に破線で囲まれた領域Jに示されるように、本実施形態の風防ガラス30では、曲率FCnが小さい第1曲面FS1、及び曲率FCnが中程度の第2曲面FS2を介して格子状のテストパターンを視認すると像の歪みが生じず、曲率FCnが大きい第3曲面FS3を介して格子状のテストパターンを視認すると像の歪みが生じる。
図5に破線で囲まれた領域Kに示されるように、比較例の風防ガラス30Aでは、曲率FCnが小さい第1曲面FS1Aを介して格子状のテストパターンを視認すると像の歪みが生じず、曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aを介して格子状のテストパターンを視認すると像の歪みが生じる。
【0035】
本実施形態の風防ガラス30では、第1曲面FS1の曲率FC1が最も小さいので、レンズ効果の影響が最も弱くなり、第1曲面FS1を介して視認される像の歪みが最も小さくなる。
第2曲面FS2の曲率FC2は、第1曲面FS1の曲率FC1よりも大きいので、第2曲面FS2を介して視認される像の歪みは、第1曲面FS1を介して視認される像の歪みよりも大きくなる。しかし、第2曲面FS2の曲率FC2は、第1曲面FS1の曲率FC1以上、第3曲面FS3の曲率FC3より小さいため、比較的穏やかな曲率Fnの変化に抑えることができ、加えて、法線方向の厚さも第1曲面FS1と第2曲面FS2とで同じであるので、光学的な特性の変化が小さくなり、風防ガラス30の第2曲面FS2を介して視認される像の歪みは極めて軽微になり、風防ガラス30の第2曲面FS2を、風防ガラス30の第1曲面FS1に加えて、像の歪みが生じにくい視認面VSとして使用できる。
【0036】
その結果、ユーザーは、風防ガラス30の第1曲面FS1及び第2曲面FS2を介して針11や目盛16を視認すると、像の歪みが小さい自然な状態で針11や目盛16を視認することができる。
一方、第3曲面FS3はレンズ効果の影響が極めて大きくなり、第3曲面FS3を介して視認される像の歪みが大きくなるので、風防ガラス30の第3曲面FS3を、像の歪みが生じにくい視認面VSとして使用することが望ましくない。
【0037】
一方、比較例の風防ガラス30Aでは、風防ガラス30Aの曲率FCnが小さい第1曲面FS1Aを介して格子状のテストパターンを視認すると、像の歪みが生じにくいので、風防ガラス30Aの第1曲面FS1Aを、像の歪みが生じにくい視認面VSとして使用できる。
しかし、風防ガラス30Aの曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aでは、レンズ効果の影響が大きくなり、第3曲面FS3Aを介して視認される像の歪みが大きくなる。また、比較例の第3曲面FS3Aの面積は、本実施形態に比べて大きく、目盛16や針11と重なる位置にまで及ぶため、目盛16や針11の像が歪んでしまい、望ましい外観を得ることが難しい。
【0038】
さらに、比較例の風防ガラス30Aでは、曲率FCnが小さい第1曲面FS1Aと曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aとの間に、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2が配置されないので、本実施形態の風防ガラス30と比べて、風防ガラス30Aにおいて視認面VSとして使用できる領域の面積が小さくなる。
さらに、曲率FCnが小さい第1曲面FS1Aと曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aとの境界に急激な曲率FCnの変化が生じる。すると、急激な曲率FCnの変化が生じる部分において、大きな像の歪みが生じるおそれがある。すなわち、曲率FCnの変化点が、光の屈折などの光学的な特性の変化点となり、その変化が急激になり、視認される像の歪みが目立つようになる。
【0039】
本実施形態の風防ガラス30では、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2が配置される。第2曲面FS2は、第1曲面FS1と第3曲面FS3との間に配置され、第1曲面FS1と第2曲面FS2との境界K12、及び第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23に生じる曲率FCnの変化が小さくする。
その結果、第2曲面FS2によって急激な曲率FCnの変化が緩和されるので、曲率FCnの変化に起因する光学的な特性の変化が小さくなり、視認される像の歪みが目立ちにくくなる。すなわち、本実施形態の風防ガラス30では、比較例の風防ガラス30Aで生じるおそれがある大きな像の歪みが生じにくい。
【0040】
以上述べたように、本実施形態は、風防ガラス30の第1曲面FS1に対する法線方向の厚さFT1と、風防ガラス30の第2曲面FS2に対する法線方向の厚さFT2とが同じである構成に加えて、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2が配置される構成を有する。
かかる構成を有すると、曲率FCnが小さい第1曲面FS1に加えて、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2を、像の歪みが少ない視認面VSとして活用することが可能になり、風防ガラス30における視認面VSとして使用できる有益な領域の面積が広くなる。加えて、曲率が異なる曲面の境界における急激な曲率FCnの変化が緩和され、当該急激な曲率FCnの変化に起因する不具合(例えば、大きな像の歪み)が抑制される。
【0041】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0042】
本願における針は、秒針14に限定されず、例えば、GMT時計におけるGMT針であってもよく、例えば、クロノグラフにおけるクロノグラフ針であってもよく、例えば、時間以外の機能情報を指し示す針であってもよい。
【0043】
上記実施形態の風防ガラス30は、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率FCnが中程度である単数の第2曲面FS2を有していた。第1曲面FS1と第3曲面FS3との間に配置される曲率FCnが中程度である曲面の数は、単数に限定されず、複数であってもよい。換言すれば、本願における第2曲面は複数の曲面であってもよい。
また、本願における第2曲面が複数の曲面である場合、複数の曲面の曲率は、曲率FCnが小さい第1曲面FS1から曲率FCnが大きい第3曲面FS3に向けて、徐々に大きくなることが好ましい。すなわち、本願における第2曲面は、第1曲面と第2曲面との境界から、第2曲面と第3曲面との境界に向かって曲率が徐々に大きくなる構成を有することが好ましい。この場合、第2曲面FC2を構成する複数の曲面において、厚さが等しいことが好ましい。
【0044】
例えば、比較例の風防ガラス30Aでは、曲率FCnが小さい第1曲面FS1Aと曲率FCnが大きい第3曲面FS3Aとの境界において、急激な曲率FCnの変化が生じ、大きな像の歪みが生じるおそれがある。
例えば、本実施形態の風防ガラス30では、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率FCnが中程度の第2曲面FS2が配置されるので、曲率が異なる曲面の境界における急激な曲率FCnの変化が緩和され、大きな像の歪みが生じるおそれが抑制され、自然な状態で針11や目盛16を視認することができる。
例えば、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間に、曲率が異なる曲面を複数設け、曲率を徐々に変化させると、曲率が異なる曲面の境界における急激な曲率FCnの変化が緩和されるので、大きな像の歪みが生じるおそれがさらに抑制され、より自然な状態で針11や目盛16を視認することができる。すなわち、曲率FCnが小さい第1曲面FS1と曲率FCnが大きい第3曲面FS3との間で、曲率が徐々に変化し、曲率の変化がさらに小さくなるので、視認される像の歪みがさらに小さくなり、時刻表示などの視認性をさらに高めることができる。
【0045】
本実施形態では、目盛16は第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23よりも風防ガラス30の中心C側に配置される構成としたが、目盛の外端16aがわずかに境界K23よりも風防ガラス30の外縁E側に配置される構成を除外するものではない。
例えば、目盛16の10%程度が境界K23より風防ガラス30の外縁E側に張り出し、目盛の外端16aが境界K23と外縁Eとの間に配置されても、目盛16における像の歪みの影響が小さく、Z方向から見た平面視における像の歪みが視認されにくい。同様に、針11(秒針14)の10%程度が境界K23より風防ガラス30の外縁E側に張り出し、針11の先端11a(秒針14の先端14a)が境界K23と外縁Eとの間に配置されても、針11における像の歪みの影響が小さく、Z方向から見た平面視における像の歪みが視認されにくい。
このように、Z方向から見た平面視における像の歪みが実質的に小さければ、目盛16及び針11の全体が第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23よりも風防ガラス30の中心C側に配置される構成に限定されず、目盛16の及び針11の一部が第2曲面FS2と第3曲面FS3との境界K23よりも風防ガラス30の外縁E側に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…時計、2…ムーブメント、3…文字板、4…軸、5…ケース、6…リュウズ、8…孔、9…裏蓋、11…針、11a…針の先端、12…時針、12a…時針の先端、13…分針、13a…分針の先端、14…秒針、14a…秒針の先端、16…目盛、16a…目盛の外端、17…時目盛、17a…時目盛の外端、18…分目盛、18a…分目盛の外端、30…風防ガラス。
図1
図2
図3
図4
図5