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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】車両用無線通信装置、通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 36/24 20090101AFI20240305BHJP
   H04W 4/44 20180101ALI20240305BHJP
   H04W 36/36 20090101ALI20240305BHJP
   H04W 52/06 20090101ALI20240305BHJP
【FI】
H04W36/24
H04W4/44
H04W36/36
H04W52/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020170640
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062549
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】星野 正幸
【審査官】中村 信也
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-531032(JP,A)
【文献】特表2020-504510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加入者識別モジュール(55A、55B)を備え、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の前記加入者識別モジュールのそれぞれに対応する無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
前記無線通信サービス毎の送信電力の設定値に基づいて、所定の最大送信電力に対する送信電力の余力を表すパワーヘッドルームを前記無線通信サービス毎に算出する余力算出部(F33)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F34)と、
前記余力算出部で算出された前記無線通信サービス毎の前記パワーヘッドルームと、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、
前記通信経路選択部は、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記パワーヘッドルームが大きい前記無線通信サービスを優先的に割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、複数の前記車載装置と接続されて使用される車両用無線通信装置であって、
前記遅延許容量取得部は、複数の前記車載装置のそれぞれから前記遅延許容量を取得し、
前記通信経路選択部は、前記無線通信サービス毎の前記パワーヘッドルームと、前記車載装置毎の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置毎の前記無線通信サービスを選択するものであって、
前記通信経路選択部は、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延許容量が大きい前記車載装置よりも優先的に、前記パワーヘッドルームが大きい前記無線通信サービスを割り当てる車両用無線通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用無線通信装置であって、
無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、前記無線通信サービス毎の経路特性情報として、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する経路特性取得部(F32)を備え、
前記通信経路選択部は、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延許容量が大きい前記車載装置よりも優先的に、前記パワーヘッドルームが大きい前記無線通信サービスを割り当てるように構成されており、
前記パワーヘッドルームが同レベルである前記無線通信サービスが複数存在する場合には、より前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に前記遅延許容量が小さい前記車載装置に割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の車両用無線通信装置であって、
無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、前記無線通信サービス毎の経路特性情報として、割当周波数を含む情報を取得する経路特性取得部(F32)を備え、
前記通信経路選択部は、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延許容量が大きい前記車載装置よりも優先的に、前記パワーヘッドルームが大きい前記無線通信サービスを割り当てるように構成されており、
前記パワーヘッドルームが同レベルである前記無線通信サービスが複数存在する場合には、より前記割当周波数が低い前記無線通信サービスを優先的に前記遅延許容量が小さい前記車載装置に割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の車両用無線通信装置であって、
自車両の移動速度を取得する移動速度取得部(F4)と、
無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、前記無線通信サービス毎の経路特性情報として、割当周波数を含む情報を取得する経路特性取得部(F32)と、を備え、
前記通信経路選択部は、
前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延許容量が大きい前記車載装置よりも優先的に、前記パワーヘッドルームが大きい前記無線通信サービスを割り当てるように構成されており、
前記パワーヘッドルームが同レベルである前記無線通信サービスが複数存在する状況において、前記移動速度取得部が取得している前記移動速度が所定の切替閾値未満である場合には、前記パワーヘッドルームが同レベルである前記無線通信サービスの中でより前記割当周波数が高い前記無線通信サービスを優先的に前記遅延許容量が小さい前記車載装置に割り当てる一方、前記移動速度取得部が取得している前記移動速度が前記切替閾値以上である場合には、前記パワーヘッドルームが同レベルである前記無線通信サービスの中でより前記割当周波数が低い前記無線通信サービスを優先的に前記遅延許容量が小さい前記車載装置に割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記無線通信サービス毎に、前記無線通信サービスを提供する在圏セルを切り替えるための処理を行う移動管理部(F31)を備え、
前記通信経路選択部は、前記移動管理部が複数の前記無線通信サービスの何れかの在圏セルを変更する処理を実行したことを条件として、前記車載装置毎の前記無線通信サービスの割当状態を更新するための処理を実行するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記通信経路選択部は、自車両が停止したことに基づいて、前記車載装置毎の前記無線通信サービスの割当状態を更新するための処理を実行するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、
前記通信経路選択部は、前記車両制御装置と前記外部装置とのデータ通信が行われていないこと、又は、自車両が停車していることに基づいて、前記車両制御装置に割り当てている前記無線通信サービスを変更するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、
複数の前記無線通信サービスの何れを選択しても、通信の遅延時間を前記車両制御装置が要求する前記遅延許容量以下に抑制できない場合には、所定のエラー信号を前記車両制御装置に出力する車両用無線通信装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の、運行設計領域として、自動運転に係る前記外部装置との通信遅延時間が所定の閾値未満であることが規定されている車両で使用される車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転に係るデータを前記外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、
前記車両制御装置と前記外部装置との通信の遅延度合いを示す情報を前記車両制御装置に出力するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項11】
少なくとも1つのプロセッサ(51)によって実行される、複数の加入者識別モジュールのそれぞれに対応する無線通信サービスを並列的に用いて少なくとも1つの車載装置と車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置との通信を制御するための通信制御方法であって、
前記無線通信サービス毎の送信電力の設定値に基づいて、所定の最大送信電力に対する送信電力の余力を表すパワーヘッドルームを前記無線通信サービス毎に算出する余力算出ステップ(S2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得ステップ(S3)と、
前記余力算出ステップで算出された前記無線通信サービス毎の前記パワーヘッドルームと、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択ステップ(S4)と、を備え、
前記通信経路選択ステップは、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記パワーヘッドルームが大きい前記無線通信サービスを優先的に割り当てるように構成されている通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載装置と外部装置との通信経路を制御する車両用無線通信装置、及び通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数種類の通信メディアによる無線通信を実施可能な構成において、電波環境を示す複数種類の指標に基づき、データ通信に使用する通信メディアを1つ選択する構成が開示されている。具体的には、マルチパス数、干渉度、ドップラーシフト量、実効スループットの推定値、及び移動環境情報に基づいて通信メディア毎の通信性能をスコア化し、スコアが最も高い通信メディアを選択する。
【0003】
なお、特許文献1における移動環境情報とは、カーナビゲーションシステムから提供される、各通信方式に対応する無線基地局の位置情報、及び、障害物環境情報を指す。障害物環境とは、現在位置がビル街や山間部のように障害物の多い場所か、障害物の少ない場所かを示す情報である。
【0004】
なお、特許文献1で想定されている通信メディアとは、例えば、FSK方式のFM放送、CDMA方式の電話回線、OFDM方式の無線LAN、QPSK方式の路車間通信などである。FSKはFrequency shift keyingの略である。CDMAは、Code Division Multiple Accessの略である。OFDMは、Orthogonal Frequency Division Multiplexingの略である。QPSKはQuadrature Phase Shift Keyingの略である。
【0005】
その他、3GPP(Third Generation Partnership Project)においては、移動通信端末の利用特性に応じてネットワーク処理を最適化する方法が提案されている(非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4655955号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】3GPP TS 36.213 V15.1.0 (2018-07) 3rd Generation Partnership Project, “Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Physical layer procedures (Release 8)”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、マルチパス数、干渉度、ドップラーシフト量、実効スループットの推定値、無線基地局の位置、及び障害物の多寡を用いて、複数の無線通信サービスの中からデータ通信に使用するサービスを1つ選択する方法については言及されている。しかしながら特許文献1では上記以外の指標に基づいて通信サービスを選択する構成は開示されていない。通信サービスを選択する際の指標として他のパラメータを採用することで、車両用無線通信装置の作動を最適化できる余地が残っている。
【0009】
また、今後、車両には無線通信によって外部装置と連携して作動するような装置が複数搭載されうる。そして、外部装置と無線通信を実施する必要がある装置が複数搭載される場合、装置毎に、要求するデータ通信のリアルタイム性、換言すれば許容される遅延時間の上限値等が異なりうる。そのような事情に対し、特許文献1に記載された装置では、データ通信毎の特性/要求される通信品質に関して何ら考慮されておらず、場合によっては適切な通信サービスを選択できない可能性が残る。
【0010】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、外部装置との通信の遅延時間が車載装置の要求する許容範囲を逸脱する恐れを低減できる車両用通信装置、通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
その目的を達成するための車両用無線通信装置は、一例として、複数の加入者識別モジュール(55A、55B)を備え、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の加入者識別モジュールのそれぞれに対応する無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、無線通信サービス毎の送信電力の設定値に基づいて、所定の最大送信電力に対する送信電力の余力を表すパワーヘッドルームを無線通信サービス毎に算出する余力算出部(F33)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F34)と、余力算出部で算出された無線通信サービス毎のパワーヘッドルームと、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、パワーヘッドルームが大きい無線通信サービスを優先的に割り当てるように構成されている。
【0012】
上記のパワーヘッドルームは送信電力の余力を示す。そのため、パワーヘッドルームが大きい無線通信サービスほど、仮に通信トラフィックが急増した場合であっても相対的に遅延時間を抑制可能であることを示唆する。故に、遅延許容量が小さい車載装置に対して優先的にパワーヘッドルームが大きい無線通信サービスを割り当てることにより、当該車載装置と外部装置との通信トラフィックが急増した場合にも、遅延時間が当該車載装置の許容範囲を逸脱する恐れを低減できる。
【0013】
上記目的を達成するための通信制御方法は、少なくとも1つのプロセッサ(51)によって実行される、複数の加入者識別モジュールのそれぞれに対応する無線通信サービスを並列的に用いて少なくとも1つの車載装置と車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置との通信を制御するための通信制御方法であって、無線通信サービス毎の送信電力の設定値に基づいて、所定の最大送信電力に対する送信電力の余力を表すパワーヘッドルームを無線通信サービス毎に算出する余力算出ステップ(S2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得ステップ(S3)と、余力算出ステップで算出された無線通信サービス毎のパワーヘッドルームと、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択ステップ(S4)と、を備え、通信経路選択ステップは、遅延許容量が小さい車載装置には、パワーヘッドルームが大きい無線通信サービスを優先的に割り当てるように構成されている。
【0014】
上記の方法によれば車両用無線通信装置と同様の作動原理により、同様の効果を奏する。なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】移動体通信システム100の全体像を説明するための図である。
図2】車載通信システム1の構成の一例を示す図である。
図3】無線通信装置5の構成を示すブロック図である。
図4】APNの割当に係る処理フローを示すフローチャートである。
図5】通信制御部F3の作動を説明するための図である。
図6】APNごとの遅延特性設定値を考慮して車載装置6毎のAPN割当を決定する場合の作動例を説明するための図である。
図7】APN毎の割当周波数を考慮して車載装置6毎のAPN割当を決定する場合の作動例を説明するための図である。
図8】移動速度に応じて制御態様を変更する無線通信装置5のブロック図である。
図9】アプリごとにAPNを割り当てる態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。図1は、本開示に係る移動体通信システム100の概略的な構成の一例を示す図である。移動体通信システム100は、例えばLTE(Long Term Evolution)に準拠した無線通信を提供する。実施形態で説明を省略している部分は、非特許文献1に開示の方法など、LTEの規格で定められている方法で行われるものとする。なお、移動体通信システム100は、4G規格や5G規格などに準拠した無線通信を提供するものであってもよい。以降ではLTE、4G、5GなどをまとめてLTE等とも記載する。以下の実施形態は、4Gや5Gなどに準拠するように適宜変更して実施可能である。
【0017】
<全体構成>
図1に示すように移動体通信システム100は、車載通信システム1、無線基地局2、コアネットワーク3、自動運転管理センタ4A、及び地図サーバ4Bを含む。自動運転管理センタ4A、及び、地図サーバ4Bは、車載通信システム1にとっての外部装置4の一例に相当する。外部装置4とは車両外部に設けられた他の通信装置を指す。
【0018】
車載通信システム1は、車両Hvに構築されている通信システムである。車載通信システム1は、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等、道路上を走行可能な多様な車両に搭載可能である。原動機付き自転車も二輪自動車に含めることができる。当該システムが適用される車両Hvは、個人によって所有されるオーナーカーであってもよいし、カーシェアリングサービスや車両貸し出しサービスに供される車両であってもよい。また、車両Hvは、サービスカーであってもよい。サービスカーには、タクシーや路線バス、乗り合いバスなどが含まれる。また、サービスカーは、運転手が搭乗していない、ロボットタクシーまたは無人運行バスなどであってもよい。サービスカーには、荷物を所定の目的地まで自動運搬する自動配送ロボット/無人配送ロボットとしての車両を含めることができる。さらに、車両Hvは、車両外部に存在するオペレータによって遠隔操作される遠隔操作車両であってもよい。ここでのオペレータとは、車両Hvの外部から遠隔操作によって車両Hvを制御する権限を有する人物を指す。
【0019】
車載通信システム1は、無線基地局2及びコアネットワーク3を介して、例えば自動運転管理センタ4Aなどの外部装置4とデータ通信を実施する。車載通信システム1は、無線通信機能を提供する構成として無線通信装置5を備える。無線通信装置5は、コアネットワーク3にとってのユーザ装置(いわゆるUE:User Equipment)に相当する。無線通信装置5は、ユーザが取り外し可能に構成されていてもよい。また、無線通信装置5は、ユーザによって車室内に持ち込まれた、スマートフォン等の携帯端末であってもよい。無線通信装置5が車両用無線通信装置に相当する。
【0020】
無線通信装置5は、それぞれAPN(Access Point Name)が異なる複数の無線通信サービスを利用可能に構成されており、それらの複数の無線通信サービスを使い分けて、多様な外部装置4とデータ通信を実施する。APNは、1つの側面において通信サービスの識別子である。APNには、通信サービスを提供する通信事業者(いわゆるキャリア)が紐付いている。APNが異なれば、仮に通信相手となる外部装置4が同一であっても、当該外部装置4までデータが流れる経路は、実体的、又は、仮想的に相違する。複数の無線通信サービスは、それぞれ異なる通信経路を実現する。つまり、無線通信装置5は、各APNに対応する複数の通信経路を用いて外部装置4とデータ通信可能に構成されている。無線通信装置5を含む車載通信システム1については別途後述する。
【0021】
無線基地局2は、車載通信システム1と無線信号を送受信する設備である。無線基地局2は、eNB(evolved NodeB)とも称される。無線基地局2は、5Gで使用されるgNB(next generation NodeB)であってもよい。無線基地局2は、所定のセル毎に配置されている。セルは、1つの無線基地局2がカバーする通信可能な範囲を指す。なお、無線基地局2そのものがセルと呼ばれる場合もある。各無線基地局2は所望のセルサイズが得られるように無線信号の送信電力が調整されている。
【0022】
無線基地局2は、IP(Internet Protocol)ネットワーク等のアクセス回線を介してコアネットワーク3と接続されている。無線基地局2は、無線通信装置5とコアネットワーク3との間でトラフィックを中継する。無線基地局2は、例えば車載通信システム1からの要求に基づいて送信機会の割り当てなどを実施する。送信機会は、データ送信に使用可能な周波数帯や時間、変調方式などによって構成される。
【0023】
また、無線基地局2は、伝送路の状態を示す情報(CSI:Channel State Information)を取得するための参照信号(以降、CSI-RS:CSI-Reference Signal)を送信する。CSI-RSは、無線チャネルの状態を測定するための既知の制御信号である。また、無線基地局2は、下りリンクの受信品質測定などに使用されるセル固有の参照信号であるCRS(Cell-specific RS)も送信する。CRS及びCSI-RSは、1つの側面において、無線通信装置5またはMME31が無線通信装置5の在圏セルを選択するための制御信号に相当する。CRSやCSI-RSのことを単に参照信号またはRSとも称する。RSの送信は定期的に実施されてもよいし、所定のイベントが生じたことを受けて実施されても良い。RSの送信は、例えばUEからの問い合わせを受けたことや、通信エラーの発生頻度が所定の閾値を超過したことなどをトリガとして実行されても良い。
【0024】
加えて無線基地局2は、定期的に又は所定のイベントが検出された場合に、無線通信装置5を含むUEが上りリンクの送信電力を決定するためのパラメータとして、RSの送信電力の設定値(以降、RSPw:RS Power)を配信する。例えば無線基地局2は、RSPwを含むシステム情報(SIB:System Information Block)や無線リソース制御(RRC:Radio Resource Control)メッセージを各UEに配信する。RSPwとしては、例えばPDSCH-ConfigCommonに含まれるreferenceSignalPowerを用いることができる。RSPwを含むシステム情報としては例えばSystemInformationBlockType2を用いることができる。RSPwを含むRRCメッセージとしては、RRCConnectionReconfigurationなどを採用することができる。
【0025】
コアネットワーク3は、いわゆるEPC(Evolved Packet Core)である。コアネットワーク3では、ユーザの認証、契約分析、データパケットの転送経路の設定、QoS(Quality of Service)の制御などの機能を提供する。コアネットワーク3は、例えばIPネットワークや携帯電話網等の、通信事業者によって提供される公衆通信ネットワークを含みうる。コアネットワーク3が無線通信ネットワークに相当する。
【0026】
コアネットワーク3は、例えば、MME31や、S-GW32、P-GW33、PCRF34などを含む。MME31は、Mobility Management Entityの略であって、セル内のUEの管理や、無線基地局2の制御を担当する。MME31は、例えば無線基地局2とS-GW32との間における制御信号のゲートウェイとしての役割を担う。S-GW32は、Serving Gatewayの略であって、UEからのデータのゲートウェイに相当する構成である。P-GW33は、Packet Data Network Gatewayの略であって、インターネットなどのPDN(Packet Data Network)35に接続するためのゲートウェイに相当する。P-GW33は、IPアドレスの割当などや、S-GWへのパケット転送を実施する。PCRF34は、Policy and Charging Rules Functionの略であって、ユーザデータの転送のQoS及び課金のための制御を行う論理ノードである。PCRF34は、ネットワークポリシーや課金のルールをもつデータベースを含む。
【0027】
図1では無線基地局2や、MME31、S-GW32、P-GW33、PCRF34を1つずつしか示していないがこれらはネットワーク全体として複数存在しうる。例えばPCRF34は、APN毎または電気通信事業者ごとに配置されうる。コアネットワーク3内においてデータの転送経路はAPN毎に異なるものとなる。なお、図1のコアネットワーク3内における要素間をつなぐ実線はユーザデータの転送経路を示しており、破線は制御信号のやり取りを示している。
【0028】
その他、コアネットワーク3は、HLR(Home Location Register)/HSS(Home Subscriber Server)などを含んでいてもよい。コアネットワーク3を構成する装置の名称や組み合わせなどは、例えば5Gなど、移動体通信システム100が採用する通信規格に対応するように適宜変更可能である。また、コアネットワーク3における機能配置は適宜変更可能である。例えばPCRF34が提供する機能は別の装置が備えていても良い。
【0029】
以降では例えばMME31やS-GW32などのコアネットワーク3を構成する各装置を区別しない場合には、単にコアネットワーク3とも記載する。MME31やS-GW32などのコアネットワーク3を構成する各装置が、ネットワーク側装置に相当する。無線基地局2もまた、ネットワーク側装置に含めることができる。無線基地局2は、コアネットワーク3が、無線通信装置5と通信するためのインターフェースとしての役割を担うためである。本開示における「ネットワーク側装置」との記載は、「無線基地局2及びコアネットワーク3の少なくとも何れか一方」と読み替えて実施することができる。ネットワーク側装置には、無線通信装置5が外部装置4と通信するための多様な設備を含めることができる。
【0030】
自動運転管理センタ4Aは、自動運転で走行している車両の運行状態を管理するセンタであって、無線基地局2等を介して車載通信システム1とデータ通信可能に構成されている。自動運転管理センタ4Aは、例えば車載通信システム1からアップロードされてくる走行状態報告を受信し、異常の有無を判定する。走行状態報告は、自動運転時の車両内、及び、車室外の状況を示すデータセットである。自動運転管理センタ4Aは、各車両から送信されてくる走行状態報告を図示しない運行記録装置に保存するように構成されていても良い。その他、自動運転管理センタ4Aは、車両Hvの走行経路の算出など、車両Hvの中長期的な制御計画を作成して配信する機能などを備えていても良い。
【0031】
地図サーバ4Bは、所定のデータベースに格納されている地図データを、車両Hvからの要求に基づき配信するサーバであって、無線基地局2等を介して車載通信システム1とデータ通信可能に構成されている。地図サーバ4Bが配信する地図データは、高精度地図データでもよいし、ナビ地図データでもよい。高精度地図データは、道路構造、及び、道路沿いに配置されている地物についての位置座標等を、自動運転に利用可能な精度で示す地図データに相当する。ナビ地図データは、ナビゲーション用の地図データであって、高精度地図データよりも相対的に精度の劣る地図データに相当する。
【0032】
なお、外部装置4としては、その他、多様なサーバ/センタを採用可能である。移動体通信システム100は、外部装置4として、車両Hvに搭載された車両側遠隔制御装置と通信することで、車両Hvを遠隔制御する遠隔制御センタを含んでいても良い。遠隔制御センタは、オペレータが車両Hvを遠隔操作するための装置であるセンタ側遠隔制御装置を含む。センタ側遠隔制御装置は、例えば、車両周辺の景色を映すディスプレイ、及び、ハンドルやペダルなどの操作部材を含む、コックピットとして構成されている。なお、遠隔制御センタは、上述した自動運転管理センタ4Aと統合されていても良い。遠隔制御センタとしての自動運転管理センタ4Aは、例えば自動運転装置6Aからの要求に基づき、車両Hvを遠隔制御するように構成されていても良い。
【0033】
<車載通信システム1の構成について>
車載通信システム1は、例えば無線通信装置5、自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、及びプローブ装置6Cなどを含む。自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、及びプローブ装置6Cなどといった、種々の車載装置6は、車両Hv内に構築された通信ネットワークである車両内ネットワークNwを介して無線通信装置5と接続されている。車両内ネットワークNwに接続された装置同士は相互に通信可能である。つまり、無線通信装置5は、自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、及びプローブ装置6Cのそれぞれと相互通信可能に構成されている。車両内ネットワークNwは、時分割方式(TDMA:Time Division Multiple Access)などを用いて多重通信可能に構成されている。なお、多重通信の方式としては、周波数分割方式(FDMA:Frequency Division Multiple Access)や、符号分割方式(CDMA:Code Division Multiple Access)、直交周波数分割多重方式(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)などを採用可能である。
【0034】
なお、車載通信システム1が備える特定の装置同士は、車両内ネットワークNwを介することなく直接的に通信可能に構成されていてもよい。図2において車両内ネットワークNwはバス型に構成されているが、これに限らない。ネットワークトポロジは、メッシュ型や、スター型、リング型などであってもよい。車両内ネットワークNwの規格としては、例えばController Area Network(CANは登録商標)や、イーサネット(登録商標)、FlexRay(登録商標)など、多様な規格を採用可能である。また、無線通信装置5と各車載装置6との接続形態は有線接続に限らず、無線接続であっても良い。車載装置6は、ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。
【0035】
無線通信装置5は、複数の加入者識別モジュール(以降、SIM:Subscriber Identity Module)55を備え、各SIM55に対応する複数のAPNを利用可能に構成されている。換言すれば、無線通信装置5は、複数のAPNのそれぞれに対応する複数の無線通信サービスを用いて複数の外部装置4と無線通信可能に構成されている。或るSIM55に対応するAPNとは、当該SIM55の情報に基づき利用可能なAPNを指す。無線通信装置5は、各APNに対応する無線通信サービスを、通信の用途や通信状況に基づいて使い分ける。無線通信装置5は、各車載装置6が所定の通信相手としての外部装置4と無線通信するためのインターフェースに相当する。なお、無線通信インターフェースとしての無線通信装置5とは、車載装置6から入力されるデータを外部装置4へ送信する処理、及び、外部装置4から受信したデータを車載装置6へ送出する処理の少なくとも何れか一方を実施する装置に相当する。車両Hvは無線通信装置5の搭載により、インターネットに接続可能なコネクテッドカーとなる。
【0036】
当該無線通信装置5は、処理部51、RAM52、ストレージ53、通信インターフェース54、SIM55、及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として構成されている。処理部51は、RAM52と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部51は、CPU(Central Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部51は、RAM52へのアクセスにより、種々の処理を実行する。
【0037】
ストレージ53は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ53には、処理部51によって実行されるプログラムとして、通信制御プログラムが格納されている。処理部51が上記プログラムを実行することは、通信制御プログラムに対応する方法である通信制御方法を実行することに相当する。ストレージ53には、無線通信装置5が接続可能な複数のAPNについての情報(例えばプロファイル等)が登録されている。APNについての情報は、無線通信装置5が電話回線を使ってデータ通信を行うために必要な情報を含む。例えばAPNについての情報には、電話回線からインターネットなどのネットワークへの接続窓口となるゲートウェイ(つまり接続先)を指定する情報を含む。
【0038】
通信インターフェース54は、車両内ネットワークNwを介して車載装置6と通信するための回路である。通信インターフェース54は、アナログ回路素子やIC、車両内ネットワークNwの通信規格に準拠したPHYチップなどを用いて実現されている。通信インターフェース54には、例えば車載装置6から出力された送信用データのほか、車速センサが検出した車速データなど、多様なデータが入力される。ここでの送信用データとは、外部装置4向けの通信トラフィック(換言すればデータ)に相当する。
【0039】
SIM55は、回線の契約者を識別するための情報が記録されたICモジュールであって、例えばICカードとして構成されている。例えばSIM55には、IMSI(International Mobile Subscriber Identity)と呼ばれる固有番号が、契約者の電話番号と結びついて記録されている。また、SIM55には、利用可能な周波数や、在圏セルを決定するために観測する周波数の優先順位などといった、無線通信接続に係る設定データも登録されている。本実施形態の無線通信装置5はSIM55として、第1SIM55A、及び第2SIM55Bを備える。なお、各SIM55は、図示しないカードスロットに挿入されたものでもよいし、eSIM(Embedded SIM)であってもよい。ここでのSIM55の概念には、着脱可能なカードタイプのものと、組み込み型のもの(つまりeSIM)の両方が含まれる。
【0040】
第1SIM55Aと第2SIM55Bは、例えば、発行元となる通信事業者が相違する。故に、第1SIM55Aと第2SIM55Bは、例えば利用可能なAPNが異なる。このような構成は、それぞれ利用可能なAPNが異なる複数のSIM55を備えた構成に相当する。各SIM55が対応するAPNの数は1つであってもよいし、複数であってもよい。例えば第1SIM55Aは、複数のAPNを提供するキャリアと紐付けられているSIMカードとすることができる。第2SIM55Bも同様である。無線通信装置5は、少なくとも複数のSIM55を備えることで複数のAPNに接続可能に構成されている。ここでは説明を簡素化するために、各SIM55が対応するAPNは1つずつであるものとする。以降では、第1SIM55Aを備えることによって利用可能なAPNをAPN_1と記載するとともに、第2SIM55Bを備えることによって利用可能なAPNをAPN_2とも記載する。無線通信装置5が備えるSIM55の数は3つ以上であっても良い。
【0041】
なお、各SIM55は、例えば在圏セルを特定する際に観測する周波数の優先順位や利用な可能な周波数の組み合わせなど、通信接続に係る設定が異なっていればよい。例えば、在圏セルの特定に際して、第1SIM55Aは相対的に高い周波数から順に観測するように設定されている一方、第2SIM55Bは相対的に低い周波数から優先的に観測するように設定されている。そのように通信接続に係る設定内容が異なる限りにおいて、第1SIM55Aと第2SIM55Bは同一の通信事業者によって発行されたものであっても良い。また、第1SIM55Aに対応する通信事業者は、第2SIM55Bに対応する通信事業者が提供する通信設備を利用するMVNO(Mobile Virtual Network Operator)であってもよい。ここでの在圏セルとは、無線アクセスしている無線基地局2そのもの、又は、当該無線基地局2が形成するセルを指す。
【0042】
自動運転装置6Aは、車載カメラやミリ波レーダなどの周辺監視センサの検出結果などをもとに走行アクチュエータを制御することにより、運転操作の一部または全部をユーザの代わりに実行する装置である。走行アクチュエータには例えば制動装置としてのブレーキアクチュエータや、電子スロットル、操舵アクチュエータなどが含まれる。周辺監視センサは、自車の周辺に存在する物体等を検出するセンサである。周辺監視センサとしては、例えば、カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)、ソナー等を採用することができる。
【0043】
自動運転装置6Aは、自動運転時の車両内、及び、車室外の状況を示すデータセットを走行状態報告として、無線通信装置5を介して自動運転管理センタ4Aに逐次送信する。自動運転時の車両内の状況には、自動運転装置6Aの作動状態や、乗員の状態を含めることができる。自動運転装置6Aの作動状態を示すデータには、自動運転装置6Aにおける周辺環境の認識結果や、走行計画、各走行アクチュエータの目標制御量などの算出結果も含まれる。自動運転装置6Aは、上述した自動運転に係る種々のデータを、定期的に又は所定の報告イベントが発生したことをトリガとして、無線通信装置5に向けて出力する。
【0044】
また、自動運転装置6Aは、自動運転管理センタ4Aから、無線通信により、制御計画の作成の参考となるリアルタイムな情報(以降、制御支援情報)を受信するように構成されていても良い。制御支援情報とは、例えば、車両Hv周辺に存在する他の移動体の現在位置や移動速度、進行方向などを示す情報などである。制御支援情報は、例えば通行規制がなされている区間や、渋滞の末尾位置、路上落下物の位置などといった、準動的な地図要素についての情報を含んでもよい。その場合、無線通信装置5は、自動運転管理センタ4Aから、制御支援情報としてのデータを受信して自動運転装置6Aに出力する役割を担う。制御支援情報としてのデータセットは、車両制御用のデータの一例に相当する。また、自動運転装置6Aが車両制御装置に相当する。
【0045】
ナビゲーション装置6Bは、ディスプレイを含むHMI(Human Machine Interface)システムと連携し、乗員によって設定された目的地までの経路案内を実施する車載装置6である。ナビゲーション装置6Bは、例えば地図サーバ4Bからダウンロードした地図を用いて経路案内処理を実施する。無線通信装置5は、ナビゲーション装置6Bからの要求に基づき、地図サーバ4Bから車両Hvの現在位置や走行予定経路に応じた地図データをダウンロードしてナビゲーション装置6Bに提供する。
【0046】
プローブ装置6Cは、地図サーバ4Bが地図データを生成及び更新するためのデータであるプローブデータを、周辺監視センサの検出結果を元に生成し、無線通信装置5を介して、地図サーバ4Bにアップロードする装置である。プローブ装置6Cは、例えば周辺監視センサが特定した地物の観測位置を示すデータセットをプローブデータとして地図サーバ4Bに逐次送信する。プローブデータは、区画線や道路標識、信号機などのランドマーク等に対する一定時間(例えば400ミリ秒)以内の認識結果をパッケージ化したデータに相当する。プローブデータは、例えば、送信元情報や、走行軌道情報、走路情報、および地物情報を含んでもよい。走行軌道情報は、車両Hvが走行した軌道を示す情報である。地物情報は、ランドマーク等の地物の観測座標を示す。また、プローブデータには、車速や、舵角、ヨーレート、ウインカー作動情報、ワイパー作動情報などといった、車両挙動情報が含まれていてもよい。
【0047】
なお、車載装置6に該当する装置は以上で例示したものに限定されない。多様な車載装置6が直接的又は間接的に無線通信装置5に接続されうる。例えば車載装置6には、運転支援装置やドライブレコーダ、緊急通報装置、自己診断装置(いわゆるOBD:On Board Diagnostics)などを含めることができる。
【0048】
また、車両Hvは、遠隔制御センタに存在するオペレータによって遠隔操作されるように構成されていても良い。例えば車載通信システム1は、車載装置6として、車両側遠隔制御装置を含んでいても良い。車両Hvが遠隔操作される場合、無線通信装置5は、遠隔制御センタから送信された遠隔制御用のデータを速やかに受信して、車両側遠隔制御装置に提供する。車両側遠隔制御装置は、遠隔制御センタからの信号に基づき、各種走行アクチュエータに制御信号を出力することにより、車両Hvの挙動を制御する。また、車両側遠隔制御装置は、車載カメラ画像などの画像や、車速センサなどの走行状態を示すセンサデータを遠隔制御センタに向けて送信すべく、無線通信装置5に出力する。なお、車両側遠隔制御装置は、自動運転装置6Aと統合されていても良い。車両制御用のデータには、遠隔制御センタからの送信される遠隔制御用のデータや、遠隔制御センタに送信する車載カメラ画像などが含まれる。各種車載装置6と無線通信装置5とは、種々のデータを所定の方式で多重化して送受信する。
【0049】
<無線通信装置5の機能について>
ここでは無線通信装置5の機能及び作動について説明する。無線通信装置5は図3に示すように、多重分離部F1、無線通信部F2、及び通信制御部F3を備える。
【0050】
多重分離部F1は、各車載装置6が生成したデータを受け取り、無線通信部F2へ出力するとともに、無線通信部F2が受信したデータを、転送すべき車載装置6に向けて出力する構成である。例えば多重分離部F1は、各車載装置6から多重化されて入力されたデータを、所定の方式で分離することで、本来のデータを取得する。なお、多重分離部F1は、各車載装置6から入力されたデータを無線基地局2に送信するまで一時的に保持する記憶領域であるバッファを含む。バッファは、RAM等の書き換え可能な記憶媒体を用いて実現されればよい。多重分離部F1は、バッファに滞留しているデータの量やそれらのデータのヘッダに格納された情報を監視する機能も備える。
【0051】
バッファに入っているデータは、順次、無線通信部F2にて取り出され、データの入力元(つまり車載装置6)に応じた通信経路で宛先となる外部装置4に向けて送信される。ここでの通信経路は、個々のAPNに対応するものである。通信経路は無線通信サービスと読み替えることができる。車載装置6毎の通信経路としてのAPNの割当状態は、通信制御部F3によって制御される。なお、ここでは、データの通信経路を車載装置6単位で制御するものとするがこれに限らない。無線通信装置5は、アプリケーションソフトウェア単位で通信経路が切り替えるように構成されていても良い。車載装置6毎の通信経路の割当方法については別途後述する。
【0052】
無線通信部F2は、例えばLTEの無線通信プロトコルにおける物理レイヤを担当する通信モジュールである。無線通信部F2は、LTEで用いられる周波数帯の電波を送受信可能なアンテナと、LTEの通信規格に準拠してベースバンド信号から高周波信号への変換およびその逆変換に相当する信号処理を行うトランシーバとを用いて構成されている。なお、アンテナは受信ダイバーシティ等のために複数設けられていても良い。無線通信部F2は、多重分離部F1から入力されたデータに対して、符号化や、変調、デジタルアナログ変換等の処理を施すことで、入力されたデータに対応する搬送波信号を生成する。そして、生成した搬送波信号をアンテナに出力することで電波として放射させる。また、無線通信部F2は、アンテナにて受信した受信信号に対して、アナログデジタル変換処理や復調処理といった所定の処理を施すことでデジタル値によって表現された情報系列(つまりデジタルデータ)に変換する。そして、その受信信号に対応するデータを、多重分離部F1に出力する。
【0053】
通信制御部F3は、各APNに対応する無線通信サービスの通信状態を監視及び制御する。通信制御部F3は、例えば車両電源がオンとなったことを受けて、SIM55毎にアタッチ要求をMME31に送信する。また、MME31からの要求に基づいて各SIM55に登録されているAPNを通知することで、APN毎のPDNコネクションが構築される。なお、MME31は、無線通信装置5から通知されたAPNに応じて、S-GW、P-GWと連携して無線ベアラを含むPDNコネクションを設定する。以降では便宜上、SIM55の情報に基づいて無線通信装置5が接続している無線基地局2のことを接続局とも記載する。接続局は、換言すれば、在圏セルを形成する無線基地局2に相当する。ここでの車両電源は、アクセサリ電源であってもよいし、走行用電源であってもよい。走行用電源は、車両Hvが走行するための電源であって、車両Hvがガソリン車である場合にはイグニッション電源を指す。車両Hvが電気自動車やハイブリッド車である場合、走行用電源とはシステムメインリレーを指す。
【0054】
さらに、通信制御部F3は、機能部として、移動管理部F31、経路特性取得部F32、送信電力制御部F33、通信要求取得部F34、及び経路選択部F35を備える。また、通信制御部F3は、例えばRAM52などの書き換え可能な記憶媒体を用いて実現される経路特性保持部M1を備える。
【0055】
移動管理部F31は、各SIM55で指定される各APNに対応する在圏セルを特定するとともに、セルの移動管理を実施する構成である。移動管理部F31は、在圏セルを選択するための指標として、セルごとのRSRPや、RSSI、RSRQを算出する。RSRPは、Reference Signal Received Powerの略である。RSRPは、単位リソースエレメント当たりのRSの平均受信電力である。平均受信電力は所定の期間内で観測された受信電力の平均値に相当する。具体的には、RSRPは、RSを運ぶリソースエレメントの受信電力(W)の線形平均として求められる。RSRPの算出は、無線通信部F2との協働により実施される。RSRPはCRSの平均受信電力であっても良いし、CSI-RSの平均受信電力(いわゆるCSI-RSRP)であっても良い。
【0056】
RSSIはReceived Signal Strength Indicatorの略である。RSSIは、RSを収容するOFDMシンボルにおいてLTEシステム帯域全体の電力を測定した値である。一般に、トラフィック量が増えるとリソース割り当てが増え、RSSIは大きくなる傾向を有する。RSRQはReference Signal Received Qualityである。RSRQは、RSの受信品質を表す指標であって、大きいほど受信品質が良いことを示す。RSRQは、セル固有の参照信号の受信電力と、受信帯域幅内の総電力との比を表す。具体的には、RSRPにリソースブロック数をかけた値をRSSIで除算することで求まる。RSRPや、RSSI、RSRQの具体的な算出方法については非特許文献1に開示の方法を援用することができる。
【0057】
そして、移動管理部F31は、各SIM55に対応するセル毎のRSRPなどの指標に基づき、必要に応じて在圏セルを切り替えるための処理を実施する。或るSIM55に対応するセルとは、当該SIM55の情報に基づき接続可能な無線基地局、及び、そのセルを指す。在圏セルの切り替えは無線通信装置5及びネットワーク側装置が協働して実行される。例えば無線通信装置5がアイドルモードである場合には、無線通信装置5が主導して在圏セルの切り替えを実施する。また、無線通信装置5がコネクティッドモードである場合には、ネットワーク側装置が主体となって在圏セルの切り替えを実施する。在圏セルの遷移制御の詳細な部分については、適宜変更可能であるとともに、非特許文献1等に記載の方法を採用可能である。
【0058】
移動管理部F31が算出した各SIM55に対応するセル毎のRSRPやRSRQなどの情報は経路特性保持部M1に一時的に保持される。経路特性保持部M1が保持する情報は随時更新される。
【0059】
経路特性取得部F32は、SIM55を用いて利用可能なAPN毎の通信設定に係るパラメータをネットワーク側装置から取得する構成である。APN毎の通信設定パラメータとしては、割当周波数や、帯域保証の有無、パケット転送の優先順位、遅延特性設定値(delayThreshold:以降、dTとも記載)などが挙げられる。割当周波数や遅延特性設定値などは、APNによって定まる通信経路のQoSを示す要素に相当する。経路特性取得部F32が取得した通信設定パラメータは、例えば経路特性保持部M1の保存される。経路特性取得部F32が取得するパラメータ群は、各APNに対応する無線通信サービス毎の特性を示す経路特性情報に相当する。
【0060】
なお、遅延特性設定値は、通信制御に使用される1つのパラメータであって、例えばUEとしての無線通信装置5とコアネットワーク3との通信接続時に、PCRF35によって決定される。PCRF35が決定した遅延特性設定値は、例えばMME31及び無線基地局2の少なくとも何れか一方を介して、無線通信装置5に通知される。APNごとの遅延特性設定値は、例えば各APNに対応するPCRF35によって付与される。なお、遅延特性設定値は、コアネットワーク3から受領した情報に沿って無線基地局2が決定して配信してもよい。
【0061】
遅延特性設定値は、通信パケットの送信遅延が想定外の程度で生じているか否かを、UEが検証するためのパラメータである。遅延特性設定値は、1つの側面において、通信パケットの遅延時間の想定範囲の上限値に相当する。遅延特性設定値が大きいほど、想定される通信遅延時間が大きいことを意味する。遅延特性設定値が小さいAPNほど、許容する遅延量が小さい、すなわちリアルタイム性が高いAPNとなる。ここでのAPNは通信経路あるいは無線通信サービスと読み替えることができる。
【0062】
また、経路特性取得部F32は、例えば割当周波数など、ネットワーク側装置から取得した通信設定パラメータに基づいて、各APNに対応する通信回線毎のQoSを評価する。その他、経路特性取得部F32は各APNに対応する通信回線毎の通信速度を測定するように構成されていてもよい。また、経路特性取得部F32は、通信速度の測定値に基づいて、各APNに対応する通信回線毎のQoSを評価するように構成されていてもよい。つまり、経路特性取得部F32は、ネットワーク側装置から取得した通信設定パラメータ及び通信速度の観測値の少なくとも何れか一方に基づいてAPN毎のQoSを評価するように構成されていてもよい。ここでの通信回線は無線通信サービスに相当する。経路特性取得部F32は、1つの側面において無線通信サービス毎のQoSを評価するサービス品質評価部と解することができる。経路特性取得部F32は、移動管理部F31と統合されていても良い。
【0063】
送信電力制御部F33は、各APNに対応する無線通信サービス(実態的は通信回線)毎に、無線通信部F2における送信電力を制御する。例えば、下りリンクから推定されるパスロス(以降、PLとも記載)に基づいて、送信電力を決定する。例えば送信電力制御部F33は、次式(1)に基づいて送信電力の設定値PPUCSHを決定する。
【0064】
【数1】
式1中の「PCMAX」は、無線通信装置5の最大送信電力であり、予め設定されている値である。「MPUSCH」は、上りリンク共有チャネル(以降、PUSCH:Physical Uplink Shared Channel)の送信帯域幅を表す。「PO_PUSCH」は、無線基地局2から予め設定される値である。「PL」は無線通信装置5が測定したパスロスのレベルを表す。パスロスは、ネットワーク側装置から通知されるCRSの送信電力と、無線通信装置5で観測されるCRSの受信電力との差に基づいて算出されうる。「α」はパスロスの補償割合を示す重み係数であって、無線基地局2から予め設定されている。「ΔTF」は、送信データの変調方式と符号化率(いわゆるMCS:Modulation and channel Coding Scheme)に応じたオフセット値であり、無線基地局2から通知されるパラメータである。fは、過去に無線基地局2から指示された送信電力の調整値の総和を表す。
【0065】
なお、送信電力(PPUSCH)は、サブフレーム毎に算出され、サブフレーム毎に異なる値を取りうる。また、式1に含まれる「MPUSCH」、「ΔTF」、及び「f」といったスケジューリング情報や、「PO_PUSCH」や「α」は、CA(Carrier Aggregation)におけるCC(Component Carrier)毎に独立して設定されうる。送信電力制御部F33が設定したAPN毎の送信電力の値は無線通信部F2に出力される。無線通信部F2は送信電力制御部F33から指示された送信電力で無線信号を送信する。
【0066】
また、送信電力制御部F33は、送信電力の余力であるパワーヘッドルーム(以降、PHR:Power Headroom)を、各APNに対応する無線通信サービス毎に算出する。PHRは、PUSCHにおける現在の送信電力の設定値と最大送信電力との差分を表すパラメータである。例えば、PHRは、次式(2)に基づいて決定されうる。
【0067】
【数2】
なお、式2において式1と同じパラメータは同一のものを指す。送信電力の決定方法やPHRの算出方法は、非特許文献1及びその最新バージョン等に開示の方法を援用可能である。
【0068】
送信電力制御部F33は、予め無線基地局2が決めた所定の周期毎、あるいは、所定のイベント発生時に、PHRを算出し、当該算出したPHRを無線基地局2へ報告する。PHRの算出イベントとしては、例えばPLが閾値以上に変動する場合などが挙げられる。なお、通信制御部F3は、送信電力制御部F33で算出されたPHRを、-23dB~40dBの範囲において最も近い整数に丸めた上でネットワーク側装置に報告する。例えばPHRの算出値が-23dB以上-22dB未満である場合には「POWER_HEADROOM_0」として報告される。また、PHRの算出値が-22dB以上-21dB未満である場合には「POWER_HEADROOM_1」として報告される。PHRの算出値が40dB以上である場合には「POWER_HEADROOM_63」として報告される。つまり、PHRは64段階で表現されうる。送信電力制御部F33が算出及び報告したPHRは、無線基地局2において、無線通信装置5に対する上り送信機会の割当等に利用されうる。
【0069】
なお、PHRの大きさは、無線基地局2からの距離や、例えばビルなどの電波の伝搬を阻害する障害物の存在といった、地理的要因によって定まる。故に、無線通信装置5が無線基地局2の近くにいる場合にはPHRが相対的に大きくなりやすい。また、セルのエッジ付近では、パスロスが大きくなるため、PHRは小さくなりやすい。当然、無線基地局2に近いほど、無線通信装置5にとっては通信環境が良好であることが期待できる。つまり、PHRは通信環境の良さを間接的に示す指標としても機能しうる。送信電力制御部F33が余力算出部に相当する。
【0070】
通信要求取得部F34は、各車載装置6から、データの送信遅延に係る要求品質である遅延要求を取得する。遅延要求は、例えば車載装置6として許容可能な遅延時間を示す数値(以降、遅延許容値)で表現される。遅延許容値は、例えば、100ミリ秒などの時間の長さを示す数値とすることができる。遅延許容値が小さいほど、即時性が要求されていることを示す。通信要求取得部F34が、遅延許容量取得部に相当する。遅延許容値が遅延許容量に相当する。
【0071】
なお、許容可能な遅延時間の長さは、レベルで表現されてもよい。例えば許容可能な遅延の長さを表す遅延許容レベルは、レベル1~4の4段階で表現されてもよい。許容可能な遅延時間の長さをレベルで表現する場合もまた、レベル数が小さいほど、許容可能な遅延時間が短いことを表す。レベル1は例えば遅延時間を100ミリ秒未満とする遅延要求に相当し、レベル2は遅延時間が300ミリ秒以下とする遅延要求に相当する。また、レベル3は遅延時間を1000ミリ秒未満とする遅延要求に相当し、レベル4は1000ミリ秒以上の遅延を許容する遅延要求に相当する。
【0072】
各車載装置6の遅延要求は、例えば車載装置6から所定の制御信号として入力される。例えば、遅延要求は、車両電源のオンに伴って車載装置6と無線通信装置5とが通信接続したタイミングで、車載装置6から無線通信装置5に向けて通知されてもよい。また、車載装置6において外部装置4向けの通信トラフィック(換言すれば送信用データ)が発生したことに基づいて、車載装置6から無線通信装置5に通知されても良い。遅延要求は通信トラフィック毎に指定されても良い。なお、遅延要求は、所定のタイミング又は定期的に無線通信装置5が各車載装置6に対して遅延要求を問い合わせることで取得しても良い。その他、遅延要求は、各車載装置6から無線通信装置5に向けて送信されたデータのヘッダなどに記述されていても良い。なお、遅延要求は、車載装置6が実行しているアプリケーションソフトウェアごとに設定されても良い。
【0073】
その他、通信要求取得部F34は、各車載装置6から、外部装置4との通信態様に係る、遅延許容値以外のパラメータを取得する。例えば通信要求取得部F34は、許容するパケット誤り率の上限値や、帯域保証に関するリソースタイプなどを取得する。帯域保証に関するリソースタイプには、例えば帯域保証されるか否かが含まれる。なお、パケット誤り率の上限値やリソースタイプといったパラメータは、コアネットワーク3から取得しても良い。加えて、パケット誤り率の上限値やリソースタイプは、通信要求取得部F34が、車載装置6から入力されるデータの種別等に基づいて判断してもよい。
【0074】
経路選択部F35は、送信電力制御部F33が算出したPHR及び各車載装置6が要求するデータ通信のリアルタイム性に基づいて、各車載装置6のデータ通信に用いる無線通信経路を選択する構成である。経路選択部F35が通信経路選択部に相当する。通信制御部F3の作動の詳細は別途後述する。
【0075】
<無線通信経路の割当処理について>
ここでは図4に示すフローチャートを用いて無線通信装置5が実施する経路選択処理について説明する。なお、図4のフローチャートは例えば4秒や10秒毎など、所定間隔で逐次実行される。その他、図4のフローチャートは、例えば車両Hvが停車した場合や、移動管理部F31でハンドオーバーが実施された場合など、所定のイベントが発生したことを受けて実行されてもよい。また、複数の車載装置6の少なくとも何れか1つから外部装置4との通信要求あるいは外部装置4向けの送信用データが入力されたことをトリガとして実行されても良い。経路選択処理が車載装置6毎の無線通信サービス(換言すればAPN)の割当状態を更新するための処理に相当する。
【0076】
ここでは説明の簡易化のため、上述の通り、無線通信装置5が、APN_1と、APN_2の、2つのAPNを利用可能に構成されている場合を例に挙げて説明を行う。APN_1は第1SIM55Aに対応するAPNであり、APN_2は第2SIM55Bに対応するAPNである。
【0077】
まずステップS1では移動管理部F31が、在圏セルの再選択に係る処理である移動管理処理を実行する。例えば移動管理部F31は、SIM55に対応するセルごとのRSRPや、RSRQ、割当周波数の優先度などに基づいて、セルの再選択の要否を判断する。RSRPなどに基づいて現在の在圏セルよりも通信品質が良好であることが期待できるセルが有る場合には、ネットワーク側装置と協働してセルの再選択を行う。在圏セルよりも優先度が高い周波数が割り当てられているセルが存在する場合も同様に再選択を実施しうる。つまり、移動管理部F31は、在圏セル及び周辺セルの通信品質等を比較し、特定の条件を充足するセルが存在する場合にセルの再選択を実施する。なお、移動管理処理には、セルを再選択するためのRRCメッセージをネットワーク側装置へ向けて送信する処理なども含めることができる。S1が移動管理ステップに相当する。
【0078】
ステップS2では送信電力制御部F33が、上述した方法によって各APNに対応する無線通信サービスにおける送信電力を調整する。また、各APNに対応する無線通信サービスのPHRを算出する。なお、PHRは、SIM55毎、ひいてはAPN毎に異なりうる。つまり、ステップS2では、APN_1に対応する在圏セルのPHRと、APN_2に対応する在圏セルのPHRをそれぞれ算出する。便宜上、APN_1に対応する在圏セルのPHRをPHR_1と記載するとともに、APN_2に対応する在圏セルのPHRのことをPHR_2と記載する。例えばPHR_1は+25dBとなっており、PHR_2は+5dBとなっているものとする。これらの数値は無線通信装置5の作動を説明するための一例であって、動的に変更されうる。ステップS2の処理が完了するとステップS3に移る。ステップS2が余力算出ステップに相当する。なお、ステップS2は送信電力制御ステップと呼ぶこともできる。
【0079】
ステップS3では、通信要求取得部F34が、各車載装置6から、遅延許容値を取得する。便宜上、自動運転装置6Aの遅延許容値をDA_A、ナビゲーション装置6Bの遅延許容値をDA_B、プローブ装置6Cの遅延許容値をDA_Cと記載する。一例として、各車載装置6の遅延要求としての遅延許容値は、DA_A<DA_B<DA_Cの関係を有する値に設定されている。例えば自動運転装置6Aの遅延許容値DA_Aは100ミリ秒などに設定されうる。ナビゲーション装置6Bの遅延許容値DA_Bは、例えば500ミリ秒など、自動運転装置6Aの遅延許容値DA_Aよりも相対的に大きい値に設定されうる。プローブ装置6Cの遅延許容値DA_Cは、例えば2000ミリ秒とすることができる。なお、以上で挙げた数値は一例であって適宜変更可能である。ステップS3が遅延許容量取得ステップに相当する。
【0080】
ステップS4では、経路選択部F35が、車載装置6毎の通信経路を選択する。遅延許容値が小さい車載装置6に対して優先的に、PHRが大きいAPNを割り当てる。例えば図5に例示するように、遅延許容値が最も小さい自動運転装置6Aには、PHRが最も大きいAPN_1を割り当てる。これにより、自動運転装置6Aと自動運転管理センタ4Aとの通信は、APN_1に対応する無線通信経路に実行されることとなる。また、相対的に遅延許容値が大きいナビゲーション装置6Bやプローブ装置6Cには、相対的にPHRが小さいAPN_2を割り当てる。これにより、ナビゲーション装置6B及びプローブ装置6Cは、APN_2に対応する無線通信経路で外部装置4と通信することとなる。或る装置に或るAPNを割り当てるということは、当該装置の通信経路として、当該APNに対応する無線通信サービスを割り当てることに相当する。
【0081】
なお、自動運転装置6AにAPN_1を割り当てた状態においても、通信速度の観点においてAPN_1に余裕がある場合には、ナビゲーション装置6BにもAPN_1を割り当ててもよい。通信速度が許容される範囲において、1つのAPNに対して複数の車載装置6が割り当てられていても良い。例えばAPN_1に複数の車載装置6が割り当てられてもよい。ステップS4が通信経路選択ステップに相当する。
【0082】
ステップS5では通信制御部F3が、ステップS4で決定した車載装置6毎の無線通信経路(換言すればAPN)を無線通信部F2に通知し、車載装置6毎の通信経路として適用させる。これにより、各車載装置6から入力されたデータが、その入力元に割り当てられているAPN、ひいては通信経路で送信されるようになる。なお、ここでは一例としてステップS4で決定した車載装置6毎の通信経路は即時に適用されるものとするが、これに限らない。例えば、ステップS5における通信経路の実態的な変更は、車両Hvが停止したり、自動運転装置6Aと自動運転管理センタ4Aとの通信が完了するまで保留されてもよい。また、前述の通り、経路選択処理の実行トリガとして車両Hvが停車したことを採用してもよい。車両Hvが停車したことをトリガに経路選択処理を実施する構成によれば、通信環境が安定している状態で車載装置6毎の無線通信サービスの割当状態を変更可能となる。また、停車する場合とは例えば交差点での信号待ちであることが期待できる。信号待ちの停車である場合には、例えば10秒など相対的に長い間、経路割当を決定した際の通信品質が維持されるため、通信効率を高めることができる。例えば走行中に無線通信部F2のバッファに滞留していた送信用データを効率的に送信可能となる効果が期待できる。
【0083】
<上記構成の効果について>
上記構成では、車両全体として複数のAPNに対応する無線通信サービスを並列的に使う構成において、無線通信サービス毎のPHRに応じて、車載装置6毎の通信経路の割当を決定する。すなわち、経路選択部F35は、相対的に低遅延な通信を要求する車載装置6に対して、PHRが大きいAPNを割り当てる。
【0084】
ここで、PHRが小さいということは、例えばサイズが大きい送信用データが車載装置6から入力された場合など、通信トラフィックが急増した場合、すぐにはすべてのデータを送信できない可能性が高いことを示唆する。換言すれば、PHRが小さいということは、通信遅延が生じやすい状態であることを示唆する。また、逆説的に、PHRが大きいということは、トラフィックが急増した場合であっても、通信遅延が生じにくいことを示唆する。
【0085】
本開示は上記因果関係に着眼して創出されたものであって、遅延許容量が小さい車載装置6に対して、PHRが大きいAPNを優先的に割り当てることにより、実際の遅延時間が当該車載装置6の要求する最大遅延時間を逸脱する恐れを低減できる。換言すれば、緊急性の高いデータ通信を低遅延で実施可能となる。上記の構成は、PHRを通信速度の指標として用いて車載装置6毎、換言すればデータ通信毎の通信経路を割り当てる構成に相当する。
【0086】
なお、緊急性/即時性が高いデータ通信とは、例えば、最大遅延時間が100ミリ秒以下となることが要求されるデータ通信である。具体的には、自動運転や運転支援、遠隔制御などといった車両制御用のデータ通信や、自動運転車両の運行管理に係るデータ通信などが、緊急性の高いデータ通信に該当する。つまり、自動運転装置6Aや運転支援装置、車両側遠隔制御装置から入力されたデータは、通信の遅延を抑制する必要性が大きいデータに該当する。自動運転装置6Aや運転支援装置、車両側遠隔制御装置などが、車両制御装置に相当する。
【0087】
また、緊急性が低いデータ通信とは、地図データの送受信に係る通信や、プローブデータを地図サーバ4Bにアップロードするための通信、ソフトウェアの更新プログラムの送受信などである。車両Hvに搭載されているオーディオ機器が、クラウドサーバから音楽データを取得して再生する構成においては、音楽データをダウンロードするための通信もまた、緊急性が低いデータ通信といえる。ただし、音楽データや動画データなどのマルチメディアに係るデータ通信であっても、音楽や動画の再生が途中で止まってしまうと、ユーザの利便性を損なわれうる。故に、マルチメディアに係るデータ通信は、プローブデータや地図データの送受信のための通信よりは即時性が要求されるデータ通信に相当する。
【0088】
ところで、特許文献1に開示の比較構成では、マルチパス数などの4つ以上のパラメータを組み合わせて通信メディア毎の通信速度の期待値をスコア化し、車両が外部装置と通信するためのメディアを選択する。つまり、比較構成では、スコア算出にかかる演算負荷がプロセッサにかかる。これに対し、本開示の構成によれば、各APNに対応する在圏セルのPHRに応じて車載装置6毎の通信経路が設定される。そのため本開示の構成によれば、特許文献1に開示の構成に比べて演算負荷を抑制できるといった効果も期待できる。
【0089】
加えて、比較構成では複数の無線通信サービスを並列的に使用する構成については何ら言及されていない。当然、特許文献1の構成では、通信の遅延時間等にかかる要求が異なる複数種類のデータ通信を並列的に実行する必要が有る場合において、各データ通信のタイプに応じた複数の通信サービスを並列的に運用する事ができない。これに対し、本開示の構成によれば個々の車載装置6の遅延要求に応じた通信経路を割り当て可能となる。そして、車載装置6毎の遅延要求に応じた通信経路を割り当てることにより、複数の車載装置6を含むシステム全体として、各車載装置6の許容範囲を超える遅延時間の合計値を抑制することができる。換言すれば、車載通信システム1全体としての通信効率を高めることができる。
【0090】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0091】
例えば、経路選択部F35は、PHRが大きいAPNの上位1つ又は2つを、車両制御用のデータ通信専用のAPNとして運用するように構成されていてもよい。車両制御用のデータを取り扱う車載装置とは、例えば、自動運転装置6Aや遠隔制御装置である。当該構成は、車両Hvが利用可能な複数のAPNのうちの1つまたは複数を、車両制御用のデータ通信専用のAPNとして運用する構成に相当する。上記構成によれば、車両制御用のデータ通信の遅延時間をより一層低減可能となる。また、車両制御用の通信回線がマルチメディア系の通信回線とは独立しているため、車両制御用のデータ通信に遅延が生じる恐れを抑制可能となる。特に、車両の遠隔制御に係るデータ通信は、遅延に対する要求が非常に厳しく、かつ、通信経路に冗長性をもたせることが好ましい。そのような事情を踏まえると、車載通信システム1が車両側遠隔制御装置を含み、かつ、当該遠隔操作機能が有効化されている場合には、経路選択部F35は、PHRが大きいAPNの上位2つを車両側遠隔制御装置専用のAPNに設定してもよい。当該構成によれば、遠隔制御に係る通信経路に冗長性を持たせつつ、遅延を抑制することが可能となる。
【0092】
また、以上では説明を簡略化するために、1つのSIM55が提供するAPNは1つとする態様を例示したが、これに限らない。例えば1つのSIM55が提供するAPNは複数存在しても良い。具体的には、第1SIM55Aは、APN_1aとAPN_1bの2つのAPNを利用可能なSIM55であってもよい。また、第2SIM55Bは、APN_2aとAPN_2bの2つのAPNを利用可能なSIM55であってもよい。
【0093】
1つのSIM55に紐づくAPN毎の在圏セルとしてのプライマリセルは共通となるため、同一のSIM55に由来するAPN毎のPHRは基本的に同レベルとなりうる。複数のAPNを提供するSIM55が存在する場合には、当該SIM55に紐づくAPNについては、APN毎の通信速度を示すPHR以外の指標によって、通信速度の優劣を評価した上で車載装置6毎の通信経路を割り当てることが好ましい。通信速度を示すAPN毎の指標とは、例えば、割当周波数や遅延特性設定値、パケット転送の優先度などである。
【0094】
PHRに加えてAPN毎の遅延特性設定値等を併用してAPN毎の通信速度の期待値を見積もる構成によれば、PHRが同レベルのAPNが複数存在する場合であっても車載装置6毎のAPN割当を適切に実施可能となる。なお、ここでのプライマリセルとは、物理層の制御信号をやりとりする中心となる基地局を指す。また、ここでの同レベルとは完全同一に限定されない。例えばPHRが同レベルのAPNとは、PHRの差が例えば5dB以内となっているAPNを含めることができる。
【0095】
例えば経路選択部F35は、PHRと遅延特性設定値を併用して、APN毎の通信速度を順位付けし、車載装置6毎のAPNを決定しても良い。APN毎の遅延特性設定値は経路特性取得部F32によって取得されうる。具体的には、経路選択部F35は、まずPHRでAPN毎の通信速度の順位付けを行い、PHRが同レベルのものが複数存在する場合には、遅延特性設定値でさらなる詳細な順位付けを行う。そして、遅延許容値が小さい車載装置6から優先的に通信速度の想定値が大きいAPNを割り当てる。
【0096】
図6は、PHRと遅延特性設定値を併用して車載装置6毎のAPNを決定する場合の経路選択部F35の作動例を示した図である。経路選択部F35は図6に示すように、APN_1aとAPN_1bのPHRが同レベルであって、APN_1aの遅延特性設定値がAPN_1bの遅延特性設定値よりも小さい場合には、APN_1aのほうが通信速度が高いとみなす。なお、図6に示す通信速度の順位の欄は、値が小さいほど通信速度の期待値が大きいことを示す。
【0097】
なお、このような構成は、PHRを遅延特性設定値よりも優先的に用いてAPN毎の通信速度の期待値の順位付けを行った上で車載装置6毎のAPNを決定する構成と解することができる。また、上記構成は、PHRが同レベルであるAPNが複数存在する場合にそれらの中でより遅延特性設定値が小さいAPNを優先的に遅延許容量が小さい車載装置6に割り当てる構成に相当する。
【0098】
もちろん、他の態様として、経路選択部F35は、遅延特性設定値をPHRよりも優先的に用いて、APN毎の通信速度の期待値の順位付けを行ってもよい。その場合、図6におけるAPN_1bとAPN_2aに対する順位は入れ替わる。つまり、APN毎の通信速度の順位付けとして、まずは遅延特性設定値の観点から順位付けを行い、遅延特性設定値が同レベルのAPNが複数存在する場合にはPHRで順位付けを行ってもよい。
【0099】
また、経路選択部F35は、各APNに割り当てられている周波数の高さとPHRとに基づいて、車載装置6毎のAPNの割当を決定するように構成されていても良い。APN毎の割当周波数は経路特性取得部F32によって取得されうる。例えば経路選択部F35は、PHRと周波数の両方を鑑みて、APN毎に期待される通信速度の順位付けを行い、遅延許容量が小さい車載装置6に対して優先的に通信速度の期待値が大きいAPNを割り当てる。ここで、PHRが同レベルであるAPNが複数存在する場合には、それらの中で割当周波数が低いものほど、期待される通信速度が高いものと判断する。
【0100】
つまり、経路選択部F35は、例えばPHRが同レベルのAPNが複数存在する場合には、相対的に遅延許容量が小さい車載装置6に対して、割当周波数が相対的に小さいAPNを割り当てる。具体的には、図7に示すように、APN_1aとAPN_1bのPHRが同レベルであって、APN_1aに割り当てられている周波数がAPN_1bの割当周波数よりも低い場合には、APN_1aのほうが通信速度が高いとみなす。なお、図7に示す通信速度の順位の欄は、図6と同様に、値が小さいほど通信速度の期待値が大きいことを示す。
【0101】
なお、上記構成において、割当周波数が低いAPNを相対的に割当周波数が高いものよりも通信速度が高いとみなす理由は次の通りである。一般的に、通信環境が安定している場合には、周波数が高いほど通信速度は高くなりうる。しかしながら、車両は、歩行者等に比べて比較的高速で移動するため、無線基地局2との相対位置の変化度合いが大きい。そして、周波数が高いほど通信環境の変動の影響を受けやすい。そのため、車両と外部装置の無線通信という技術分野においては、周波数が高いほど、総合的な通信速度が低下しうる。
【0102】
上記の経路選択部F35は、上記の課題に着眼して創出されたものであって、PHRが同レベルのAPNが複数存在する場合には、それらの中で割当周波数が相対的に低いAPNを、相対的に通信速度が高いAPNとみなして経路選択を行う。当該構成によれば、無線基地局2との位置関係が変化しやすい車両において、車載装置6毎の通信経路をより適正に割り当て可能となる。上記構成はPHRに加えて割当周波数も用いて、APN毎の通信速度を推定し、遅延許容量が小さい車載装置6に対して優先的に通信速度が速いと期待できるAPNを割り当てる構成に相当する。
【0103】
さらに、無線通信装置5は、図8に示すように自車両としての車両Hvの移動速度を取得する移動速度取得部F4を備え、当該移動速度取得部F4が取得した移動速度に応じて作動態様を変更するように構成されていてもよい。移動速度取得部F4は、車速センサや自動運転装置6Aなどから移動速度を取得してもよいし、無線基地局2からの信号のドップラーシフト量に基づいて移動速度を推定しても良い。
【0104】
例えば経路特性取得部F32は、移動速度取得部F4が取得した移動速度に応じて、APN毎の通信速度を評価する際の割当周波数に対する評価方針を逆転させても良い。具体的には、停車中または低速走行中においては周波数が高いほど通信速度が高いと判断する一方、通常走行中においては割当周波数が低いほど通信速度は高いと判断しても良い。
【0105】
ここでの低速走行中とは、例えば移動速度が例えば10km/hや20km/hなど、所定の低速閾値未満である状態を指す。低速走行中には、駐車のための自律走行中も含めることができる。低速閾値が切替閾値に相当する。また、ここでの通常走行中とは、移動速度が低速閾値以上となっている状態であって、高速走行中も含まれる。なお、高速移動中とは、例えば、60km/hや、80km/hなどといった所定の高速閾値を超過している状態を指す。
【0106】
前述の通り、周波数が高いほど通信環境の変動の影響を受けやすく、通信速度が低下しうる。ただし、常に周波数が高いほど通信速度が低下するわけではなく、停車中などにおいては、相対位置の変化度合いが小さいため、割当周波数が高いほど通信速度が高くなりうる。APN毎の通信速度を評価する際の割当周波数に対する評価方針を移動速度に応じて変更する構成によれば、無線基地局2との位置関係が変化しやすい車両用の無線通信装置5において、APN毎の通信速度を適正に評価できる。また、その結果として、車載装置6毎の通信経路をより適正に割り当て可能となる。
【0107】
なお、移動速度の代わりに、所定の観測時間以内におけるセルの再選択回数によって定まるモビリティステート(mobilityState)を用いてもよい。モビリティステートは、例えばネットワーク側装置から通知された第1観測時間TCR内におけるセル再選択回数が第1上限回数NHを超過している場合に高レベルであると判定される。また、第1観測時間TCR内におけるセル再選択回数が第2上限回数NMを超過しており且つ第1上限回数NH未満である場合には、モビリティステートは中レベルと判定される。さらに、第2観測時間TCRH以内にモビリティステートが中又は高レベルとなったことがなければモビリティステートは通常レベルと判定される。第1上限回数NH、第2上限回数NM、第1観測時間TCR、及び第2観測時間TCRHとしては、ネットワーク側装置から配信されるシステム情報に含まれるパラメータであるNCR_H、NCR_M、TCRmax、及びTCRmaxHystを採用することができる。なお、セルの再選択の実行頻度が多いということは、間接的に、車両Hvの移動速度が大きいことを示す。つまり、モビリティステートの判定値は、車両Hvの移動速度を間接的に示す指標と解することができる。移動速度が切替閾値未満である場合には、モビリティステートが通常レベルである状態も含まれうる。
【0108】
ところで、或る車載装置6に割り当てるAPNを変更する際には、瞬間的に通信が中断され得る。或る車載装置6と或る外部装置4との通信に使用するAPNを変更すると、車載装置6から外部装置4まで、その新たなAPNを用いた通信経路の探索及び設定が行われるためである。具体的には、経路選択に伴い、データ通信に適用されるIPアドレスやポート番号が変わるため、ネットワーク側装置と無線通信装置5とでIPアドレス等の通信設定の整合を取るための制御信号をやりとりする必要がある。
【0109】
そのような課題に着眼すると、車両制御のためのデータ通信が実施されている間、又は、車両Hvが走行している間は、自動運転装置6Aなど車両制御装置に対するAPNの割当を変更する処理である経路変更処理の実施は保留とすることが好ましい。例えば、自動運転装置6Aに対する経路変更処理は、自動運転装置6Aが自動運転管理センタ4Aとのデータ通信が行われていないことや、車両Hvが停止していることなどを条件に実施することが好ましい。当該構成によれば、緊急性が高いデータ通信を実施中に、当該通信が一時停止する恐れを低減できる。なお、自動運転装置6Aに対する経路変更処理は、例えば現行のAPNよりもPHRが大きいAPNが出現した場合や、在圏セルの変動が生じた場合など、所定の経路変更条件が充足していることに基づいて実施されれば良い。経路変更条件としては、経路割当処理により、車両制御装置に現行のAPNとは別のAPNが割り当てられた場合を含めることができる。
【0110】
また、無線通信装置5は、自動運転装置用のAPNとして、無線通信装置5が利用可能な何れのAPNを選択しても、自動運転装置6Aが要求する通信速度が得られない場合には、所定のエラー信号を自動運転装置6Aに出力してもよい。エラー信号は、要求された通信速度、換言すれば通信のリアルタイム性が担保できないことを示す信号とすることができる。当該構成によれば、自動運転装置6Aは、無線通信装置5からのエラー信号を受信したことに基づいて、例えば車両Hvの走行速度を所定量抑制したり、運転席乗員に権限移譲したりするなど、安全のための車両制御を実行しても良い。
【0111】
また、無線通信装置5は、自動運転装置6Aと自動運転管理センタ4Aとの通信状況を示す通信速度報告信号を、自動運転装置6Aに逐次出力してもよい。通信速度報告信号は、例えば遅延時間の平均値や、パケット誤り率、遅延特性設定値など、通信の遅延度合いを直接的または間接的に示す信号とすることができる。ここでの通信速度は、上り通信の速度だけであっても良いし、下り通信の速度だけであってもよい。当該構成によれば、自動運転装置6Aは、無線通信装置5からの通信速度報告信号に基づいて、車両Hvの挙動(換言すればシステム応答)を変更可能となる。例えば自動運転装置6Aは、自動運転管理センタ4Aとの通信速度が遅いことに基づいて、走行速度の抑制や、ハンドオーバーリクエストなどを計画及び実行しても良い。
【0112】
さらに、無線通信装置5は、車載装置6毎のAPNの割当状況を含む通信状況を示すデータを通信ログとして、図示しない記録装置に保存するように構成されていても良い。当該構成によれば自動運転時の通信状況を記録することができる。また通信エラーが生じたことを示すデータを残すことが可能となる。それらのデータは例えば自動運転中の事故が生じた場合の原因解析に利用可能である。自動運転時の外部装置との通信状況をログとして残すことで、事故が生じた際の原因を解析しやすくなる。
【0113】
以上で述べた無線通信装置5は、運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)として、自動運転管理センタ4Aとの通信遅延時間が所定の閾値未満であることが規定されている車両Hvで使用される構成として好適である。上記の無線通信装置5によれば、自動運転に係るデータ通信が、所定の許容時間を逸脱する恐れを低減できる。また、上記の無線通信装置5は1つの態様として、通信の遅延度合いを示す情報を逐次、自動運転装置6Aに通知するため、自動運転装置6Aは通信の状況に応じてシステム応答を変更可能となる。その結果、通信遅延の観点からODDが充足されていないにも関わらず、自動運転が継続されるおそれを低減可能となる。なお、ODDは、自動運転を実行可能な条件/環境を規定するものである。
【0114】
<その他の変形例>
以上では、データの通信経路を、車載装置6単位で制御するものとするがこれに限らない。無線通信装置5は、アプリ単位で通信経路が切り替えるように構成されていても良い。また、例えば図9に示すよう1つの車載装置6が複数のアプリを実行する場合には、1つの車載装置6に対して、各アプリに対応する複数のAPNを割り当てても良い。車載装置6毎、アプリごとにAPNは設定されても良い。図9に示す装置A~Cは、例えば、順番に、自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、プローブ装置6Cとすることができる。アプリA-1は、例えば、走行支援情報を取得して制御計画を作成するアプリとすることができる。また、アプリA-2は、例えば、車両Hvにローカル保存されている自動運転装置6Aの作動状態を示すデータを、自動運転管理センタ4Aにアップロードするアプリとすることができる。アプリB-1は例えばナビゲーションアプリであり、アプリC-1は、プローブデータを生成して地図サーバ4Bにアップロードするアプリとすることができる。
【0115】
なお、ここでのアプリとはアプリケーションソフトウェアを指す。1つのAPNに対して複数のアプリが割り当てられていても良い。本開示における車載装置6毎に無線通信サービスを割り当てる、という技術思想には、アプリ毎に無線通信サービスを割り当てる構成も含まれる。また、或る車載装置6/アプリに或る無線通信サービスを割り当てるという技術思想には、当該車載装置6/アプリが実施するデータ通信に当該無線通信サービスを割り当てるという技術思想も含まれる。
【0116】
また、以上では一例として、各車載装置の遅延要求を、遅延許容値のように数値が低いほど、即時性を要求しないことを表すパラメータを用いて表現するが、これに限らない。遅延要求は、数値が大きいほど高い即時性を要求することを表すパラメータを用いて表現されても良い。遅延要求は、即時性の要求度合いを示す即時性レベルで表現されてもよい。即時性レベルが高いほど、短い遅延時間を要求していることを示す。
【0117】
<付言>
本開示に記載の装置、並びにそれの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。つまり、無線通信装置5等が提供する手段および/または機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供できる。例えば無線通信装置5が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。無線通信装置5は、CPUの代わりに、MPUやGPU、DFP(Data Flow Processor)を用いて実現されていてもよい。無線通信装置5は、CPUや、MPU、GPUなど、複数種類の演算処理装置を組み合せて実現されていてもよい。無線通信装置5は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)として実現されていても良い。さらに、各種処理部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を用いて実現されていても良い。各種プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。プログラムの保存媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、SDカード等、多様な記憶媒体を採用可能である。
【符号の説明】
【0118】
100 移動体通信システム、1 車載通信システム、2 無線基地局(ネットワーク側装置)、3 コアネットワーク(無線通信ネットワーク)、31 MME(ネットワーク側装置)、32 S-GW(ネットワーク側装置)、33 P-GW(ネットワーク側装置)、34 PCRF(ネットワーク側装置)、4 外部装置、4A 自動運転管理センタ、4B 地図サーバ、5 無線通信装置、51 処理部(プロセッサ)、55A 第1SIM(加入者識別モジュール)、55B 第2SIM(加入者識別モジュール)、6 車載装置、6A 自動運転装置(車両制御装置)、6B ナビゲーション装置、6C プローブ装置、F1 多重分離部、F2 無線通信部、F3 通信制御部、F4 移動速度取得部、F31 移動管理部、F32 経路特性取得部、F33 送信電力制御部、F34 通信要求取得部(遅延許容量取得部)、F35 経路選択部、M1 経路特性保持部、S2 余力算出ステップ、S3 遅延許容量取得ステップ、S4 通信経路選択ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9