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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】蒸気インジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F04F 5/24 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
F04F5/24 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020199955
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022087860
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】浦部 治貴
(72)【発明者】
【氏名】林 謙年
(72)【発明者】
【氏名】山口 以昌
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁則
(72)【発明者】
【氏名】金 志勲
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-080858(JP,A)
【文献】特開平05-065900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液噴流と蒸気が混合される混合部と、該混合部の下流側で縮径されたスロート部と、該スロート部の下流側で拡径されたディフューザ部とを備え、液流に蒸気を混合してその運動量を渡し、入口より高圧の噴出液を得る蒸気インジェクタであって、
前記混合部の上流側に設けられて蒸気を噴出する蒸気ノズルと、
該蒸気ノズルの内側に設けられて液体及び蒸気を噴出可能な液・蒸気ノズルと、
該液・蒸気ノズルの外周かつ前記蒸気ノズルの内側に設けられて液体を噴出する液ノズルと、を有し、
蒸気インジェクタの起動時には前記液・蒸気ノズルからのみ液体を噴出し、蒸気インジェクタの起動後に前記液・蒸気ノズルと共に前記液ノズルから液体を噴出し、該液ノズルから液体を噴出した後には前記液・蒸気ノズルから噴出する流体を液体から蒸気に切替可能に構成されていることを特徴とする蒸気インジェクタ。
【請求項2】
前記液・蒸気ノズルの噴出口断面積が、前記スロート部の流路断面積の2.0倍以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸気インジェクタ。
【請求項3】
前記混合部の圧力を検知する圧力検知装置を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気インジェクタ。
【請求項4】
前記蒸気ノズルに蒸気を供給する第1蒸気供給管に設けられた第1蒸気バルブと、前記液・蒸気ノズルに液体を供給する第1液供給管に設けられた第1液バルブと、前記液・蒸気ノズルに蒸気を供給する第2蒸気供給管に設けられた第2蒸気バルブと、前記液ノズルに液体を供給する第2液供給管に設けられた第2液バルブと、前記混合部の圧力を検知する圧力検知装置と、該圧力検知部の検知した圧力信号を入力して該圧力に基づいて前記第2液バルブを開放制御及び前記第2液バルブを開放後に前記第1液バルブと前記第2蒸気バルブの開閉の切換え制御を行う制御部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液流に蒸気を混合してその運動量を渡し、導入された液圧より高圧の噴出液を得る蒸気インジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
液流に蒸気を混合してその運動量を渡し、導入された液圧より高圧の噴出液を得る蒸気インジェクタは、従来蒸気機関車やボイラの給水用に使用されており、例えば特許文献1にその基本構造が開示されている。
従来の蒸気インジェクタは、特許文献1にも開示されるように、中心から噴出する液体に対して、液体の外周側から蒸気を接触させることで、蒸気の有する熱や運動量を液体に伝えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第4,569,635号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蒸気と接する液噴流の表面部分で運動量の受け渡しが活発に行われるのに対し、蒸気と接しない液噴流の中心部分には蒸気の運動量を受け渡しにくい。また、液噴流の表面部分の温度が上がるにつれて蒸気から液噴流への熱伝達効率が下がるので、蒸気の熱が液噴流に伝達しきれず、蒸気の有する熱エネルギーの損失が生じていた。
【0005】
このような損失を低減し、昇圧性能を向上させるには、液体と蒸気の接触面積を大きくすることが効果的であるが、従来の蒸気インジェクタは、前述したように、中心に液噴流があり、その周囲から蒸気と接触させるという構成のため、液体と蒸気の接触面積を大きくするのには限界があり、高効率化を図ることができないという問題があった。
【0006】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、起動後において液体と蒸気の接触面積を大きくして、高効率化を図ることができる蒸気インジェクタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る蒸気インジェクタは、液噴流と蒸気が混合される混合部と、該混合部の下流側で縮径されたスロート部と、該スロート部の下流側で拡径されたディフューザ部とを備え、液流に蒸気を混合してその運動量を渡し、入口より高圧の噴出液を得るものであって、前記混合部の上流側に設けられて蒸気を噴出する蒸気ノズルと、該蒸気ノズルの内側に設けられて液体及び蒸気を噴出可能な液・蒸気ノズルと、該液・蒸気ノズルの外周かつ前記蒸気ノズルの内側に設けられて液体を噴出する液ノズルと、を有し、蒸気インジェクタの起動時には前記液・蒸気ノズルからのみ液体を噴出し、蒸気インジェクタの起動後に前記液・蒸気ノズルと共に前記液ノズルから液体を噴出し、該液ノズルから液体を噴出した後には前記液・蒸気ノズルから噴出する流体を液体から蒸気に切替可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記液・蒸気ノズルの噴出口断面積が、前記スロート部の流路断面積の2.0倍以下であることを特徴とするものである。
【0009】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記混合部の圧力を検知する圧力検知装置を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記蒸気ノズルに蒸気を供給する第1蒸気供給管に設けられた第1蒸気バルブと、前記液・蒸気ノズルに液体を供給する第1液供給管に設けられた第1液バルブと、前記液・蒸気ノズルに蒸気を供給する第2蒸気供給管に設けられた第2蒸気バルブと、前記液ノズルに液体を供給する第2液供給管に設けられた第2液バルブと、前記混合部の圧力を検知する圧力検知装置と、該圧力検知部の検知した圧力信号を入力して該圧力に基づいて前記第2液バルブを開放制御及び前記第2液バルブを開放後に前記第1液バルブと前記第2蒸気バルブの開閉の切換え制御を行う制御部を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る蒸気インジェクタは、蒸気インジェクタの起動時から液を噴出する液・蒸気ノズルと、該液・蒸気ノズルの外周に設けられて蒸気インジェクタの起動後に前記液・蒸気ノズルと共に液を噴出する液ノズルとを有し、液ノズルから液体を噴出した後に前記液・蒸気ノズルから噴出する流体を液体から蒸気に切替可能に構成されているので、起動後に蒸気と液体の接触面積を大きくすることができ、これにより、液体と蒸気の運動量の受け渡しが効率的に行われ、昇圧性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る蒸気インジェクタの構造を説明する説明図であり、図1(a)は側面から見た状態の図、図1(b)は図1(a)の矢視A-A図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る蒸気インジェクタの動作を説明する説明図である(その1)。
図3】本発明の一実施の形態に係る蒸気インジェクタの動作を説明する説明図である(その2)。
図4】本発明の一実施の形態に係る蒸気インジェクタの動作を説明する説明図である(その3)。
図5】本発明の一実施の形態に係る蒸気インジェクタの動作を説明する説明図である(その4)。
図6】本発明の一実施の形態に係る液ノズルの他の態様を説明する説明図である。
図7】実施例の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態に係る蒸気インジェクタ1は、図1に示すように、蒸気を噴出する蒸気ノズル3と、蒸気ノズル3の内側に設けられて液体及び蒸気を噴出可能な液・蒸気ノズル5と、液・蒸気ノズル5の外周かつ蒸気ノズル3の内側に設けられて液体を噴出する液ノズル7と、液噴流と蒸気が混合される混合部9と、混合部9の下流側で縮径されたスロート部11と、スロート部11の下流側で拡径されたディフューザ部13とを備え、液流に蒸気を混合してその運動量を渡し、入口より高圧の噴出液を得る装置である。
【0014】
また、蒸気インジェクタ1は、混合部9の圧力を検知する圧力検知装置15と、液・蒸気ノズル5、液ノズル7、蒸気ノズル3の動作を自動制御する制御部17を備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0015】
<蒸気ノズル>
蒸気ノズル3は、液ノズル7を覆うように形成され、液・蒸気ノズル5及び液ノズル7から噴出される液噴流の外周側を覆うように蒸気を噴出するものである。
【0016】
蒸気ノズル3には、蒸気を導入する第1蒸気供給管19が接続されており、第1蒸気供給管19に設けられた第1蒸気バルブ21を開放することで、蒸気ノズル3に蒸気が導入される。
【0017】
<液・蒸気ノズル>
液・蒸気ノズル5は、蒸気インジェクタ1の作動タイミングに応じて液噴流又は蒸気のいずれか一方を噴出するノズルであって、蒸気インジェクタ1の起動時には液体を噴出し、液ノズル7から液体を噴出した後には、液体から蒸気に切替可能に構成されている。
【0018】
液・蒸気ノズル5には、液体を供給する第1液供給管23と蒸気を供給する第2蒸気供給管25が接続されており、それぞれ、第1液バルブ27、第2蒸気バルブ29が設けられている。第1液バルブ27を開放かつ第2蒸気バルブ29を閉止することで液・蒸気ノズル5に液体が導入され、逆に、第1液バルブ27を閉止かつ第2蒸気バルブ29を開放することで液・蒸気ノズル5に蒸気が導入される。
【0019】
本実施の形態では、蒸気インジェクタ起動時には液・蒸気ノズル5からのみ液を噴出させている。この理由について以下に説明する。
【0020】
特許文献1にも記載されているが、一般的に蒸気インジェクタで高い噴出圧力を得るためには、液ノズル出口径よりもスロート径を小さくしてスロート流路断面積をスロートにおける液噴流断面積に近づけ、望ましくはスロート流路断面積とスロートにおける液噴流の断面積をほぼ一致させることが望ましい、ということが知られている。この理由としては、気相空間の減少による凝縮の促進、ディフューザ入口での圧力損失低減、といった効果が考えられている。蒸気インジェクタ起動時は液流および蒸気の蒸気インジェクタへの導入が不安定で、蒸気による液流の加速が十分ではないため、蒸気と液噴流を混合する混合部での液噴流の直径はスロート径よりも大きい。
このような場合、供給液がスロートを全量通過できず、一部が混合部に滞留し、蒸気インジェクタの起動が困難な場合がある。この点、例えば前記の特許文献1に開示された従来技術では、排液用のドレン孔から供給液の一部を排液して混合部の圧力を低下させ、混合部への蒸気の導入と液噴流との混合を促進して起動を可能にしていた。
【0021】
しかし、液ノズル出口断面積に対してスロート流路断面積が小さくなるにつれて必要排液量は増加し、ドレン孔が存在しても起動が困難な場合がある。また、汽力発電所のランキンサイクル適用時のように液量が多く、また、そもそもサイクル循環液をサイクル外に排液できない場合もあるので、ドレン孔より液を排水しなくとも蒸気インジェクタを円滑に起動できるようにするのが望ましい。
【0022】
そこで、本実施の形態では、前述したように、起動時には液・蒸気ノズル5からのみ液を噴出させることで液噴流の径を細くして、液体がスロート部11を円滑に通過できるようにし、これによって、混合部9に容易に蒸気を導入することができるので、蒸気インジェクタを円滑に起動できる。
【0023】
発明者は実験により、液・蒸気ノズル5の噴出口断面積が、スロート部11の流路断面積の2.0倍以下であれば、効果的に上記のような作用を発揮することを見出した。
この液・蒸気ノズル5の口径の妥当性については、後述の実施例で実証している。
【0024】
さらに、液・蒸気ノズル5は、蒸気インジェクタ1の起動後、液ノズル7から液体が噴出された後、噴出する流体を液体から蒸気に切り替えて噴出する。
液ノズル7から噴出する液体の外側に加えて内側からも蒸気を噴出することで、気液接触面積を増加させることができる。これによって、混合部9における蒸気の凝縮が促進され、蒸気運動量の噴出圧力への変換効率を高めることができる。この昇圧性能の向上効果については、後述する動作説明において詳しく説明する。
【0025】
<液ノズル>
液ノズル7は、液・蒸気ノズル5の外周に設けられて蒸気インジェクタ1の起動後に液体を噴出するノズルである。
図1に示す例は、液ノズル7が液・蒸気ノズル5の外周の全体を覆うことで二重管を構成する態様である。
【0026】
液ノズル7には、液体を導入する第2液供給管31が接続されており、第2液供給管31に設けられた第2液バルブ33を開放することで、液ノズル7に液体が導入される。
【0027】
液ノズル7は、二重管構造の外側の隙間Sが噴出口となる。液ノズル7の口径(噴出口断面積)は、蒸気インジェクタ1の起動後に液を噴出したときに、要求する定格流量を流せるように設定されている。
【0028】
なお、液・蒸気ノズル5及び液ノズル7に供給される液体の種類は特に問わないが、工業的に広く用いられている液種として、例えば水の他、フロン、ペンタンなどの炭化水素や液化天然ガス、液化空気、液化酸素、液化窒素、液化ヘリウム、液化水素といった各種液化ガスが挙げられる。
【0029】
第1蒸気供給管19、第1液供給管23、第2蒸気供給管25、第2液供給管31には、内部を通過する流体の流量、温度、圧力を検出する流量検出装置(F)、温度検出装置(T)、圧力検出装置(P)がそれぞれ設けられている。
【0030】
<混合部>
混合部9は、液・蒸気ノズル5、液ノズル7から噴出される液噴流と液・蒸気ノズル5、蒸気ノズル3から噴出される蒸気が混合される部位である。
【0031】
<スロート部>
スロート部11は、混合部9の下流側で縮径された部位である。
【0032】
<ディフューザ部>
ディフューザ部13は、スロート部11の下流側で拡径された部位である。液体がスロート部11を通過後にディフューザ部13において流速が低下し、これによって圧力回復され、さらに昇圧されて吐出される。
【0033】
<圧力検知装置>
圧力検知装置15は、混合部9の圧力を検知するものであり、例えば圧力計等が挙げられる。圧力検知装置15の検出値は制御部17に入力される。
【0034】
混合部9の圧力は、液・蒸気ノズル5から液の噴出を開始した後、蒸気ノズル3から蒸気を噴出して蒸気インジェクタ1が起動すると所定の圧力まで圧力が低下するので、この圧力の低下をもって制御部17は蒸気インジェクタ1が起動したと判断し、液ノズル7から液を噴出するための制御を行う。
【0035】
<制御部>
制御部17は、第1蒸気バルブ21、第1液バルブ27、第2蒸気バルブ29、第2液バルブ33の開閉を制御するものであり、各制御は、圧力検知装置15及び各管に設置された流量検出装置(F)、温度検出装置(T)、圧力検出装置(P)の検出値に基づき行われる。制御部が行う制御については、下記の動作の説明において具体的に説明する。
【0036】
<動作説明>
まず、第1液バルブ27を開放して液・蒸気ノズル5から液を噴出させる(図2参照)。噴出した液はスロート部11を通過して下流へ流れる。このとき、スロート径が液噴流径と同等かそれ以下の場合は、一部が通過できず混合部9に滞留することがある。
この点、本実施の形態では、起動時にはスロート部11の流路断面積の2.0倍以下の噴出口断面積の第1液ノズル13から液が噴出されるので、液はスムーズに通過し、若干の滞留があったとしても起動できない状態にはならない。
【0037】
次に第1蒸気バルブ21を開放して蒸気インジェクタ1に蒸気を導入する(図3参照)。第1蒸気供給管19から導入された蒸気は蒸気ノズル3から噴出され、混合部9にて液と接触して凝縮する。凝縮することにより混合部9の内部が減圧され、蒸気は混合部9内に膨張することで音速以上の流速となる。
上述の高速蒸気の持つ運動エネルギーが液噴流に凝縮することで譲渡され、液噴流の速度が増加する。液噴流は流速が増加することで噴流断面積が収縮する。液噴流断面積がスロート部の流路断面積より小さくなれば、液・蒸気ノズル5より噴出した液の全量がスロート部11を通過し、混合部9での液の滞留があったとしてもこれが解消される。
【0038】
圧力検知装置15は、混合部9の圧力を検知して制御部17に入力する。制御部17は、第1蒸気供給管19及び第1液供給管23に設けられた流量検出装置(F)、温度検出装置(T)、圧力検出装置(P)の検出値から、気液混合後の飽和圧力を計算し、圧力検知装置15から入力された検知圧力が飽和圧力になったこと、即ち、蒸気インジェクタ1が起動したことを確認すると、第2液バルブ33を開放して液ノズル7から液を噴出する(図4参照)。
【0039】
液ノズル7から液を噴出させることで液量が多くなるが、このとき蒸気インジェクタ1は既に起動しており、混合部9には安定して蒸気が流入しているため、液噴流径は蒸気により加速されてスロート部11に向かうにつれ収縮し、なめらかにスロート部11に流入し、ディフューザ部13で所定の圧力を得ることができる。
【0040】
液ノズル7から液を噴出させた後、制御部17は、第1液バルブ27を閉止及び第2蒸気バルブ29を開放して液・蒸気ノズル5から噴出する流体を、液から蒸気に切り替える(図5参照)。
【0041】
液・蒸気ノズル5から蒸気を噴出させることにより、混合部9では、液・蒸気ノズル5から噴出する蒸気と蒸気ノズル3から噴出する蒸気に挟まれた環状の液噴流が形成される。これにより同一体積流量の液噴流において気液接触面積が増大し、軸に鉛直な方向の液噴流層の厚みが減少するため、蒸気の伝熱および凝縮が促進されて、昇圧性能が向上する。
また液噴流の内部を流れる蒸気は混合部9において壁面と接触しないため、同一蒸気流量で比較すれば壁面圧損が小さくなり、これも昇圧性能向上に寄与する。
【0042】
なお、液・蒸気ノズル5から蒸気が噴出されて蒸気インジェクタ1が定常運転を開始した後は、第2液バルブ33を操作して液流量を調整し、第1蒸気バルブ21もしくは第2蒸気バルブ29を操作して蒸気流量を調整し、吐出圧力や吐出温度が所定の値となるよう制御することで、蒸気インジェクタ1の作動が継続される。
蒸気の導入量には上限があり、液ノズル7から噴出される液と蒸気が混合したときに混合部9の圧力が液導入圧または蒸気導入圧より高くならないようにする必要がある。この混合部圧力は、混合部9の圧力を検知する圧力検知装置15により直接測定するか、第1蒸気供給管19、第2蒸気供給管25及び第2液供給管31の各管に設けられた流量検出装置(F)、温度検出装置(T)、圧力検出装置(P)で検知される情報に基づいて計算により求める。
【0043】
以上のように、本実施の形態の蒸気インジェクタ1においては、蒸気インジェクタ1の起動時から液を噴出する液・蒸気ノズル5と、液・蒸気ノズル5の外周に設けられて蒸気インジェクタ1の起動後に液を噴出する液ノズル5とを有し、液ノズル5から液体を噴出した後に液・蒸気ノズル3から噴出する流体を液体から蒸気に切替可能に構成されているので、起動後に蒸気と液体の接触面積を大きくすることができ、これにより、液体と蒸気の運動量の受け渡しが効率的に行われ、昇圧性能が向上する。
【0044】
また、液・蒸気ノズル5の噴出口断面積をスロート部11の流路断面積の2.0倍以下に設定したことにより、ドレン配管より液を排水せずとも混合部9の内圧が低下するため、蒸気インジェクタ1の起動をスムーズに行うことができる。
また、ドレン配管による排水を省略することができるので、汽力発電所のランキンサイクルにも容易に適用できるようになる。
【0045】
なお、上記の実施の形態においては液・蒸気ノズル5の外周に設けられる液ノズル7の態様として、二重管のものを例示したが、本発明はこれに限られず、同様の機構を三重、四重…と増やした多重管ノズルとしてもよい。
【0046】
また、例えば図6に示すように、液・蒸気ノズル5の外周に複数の噴出管35を円形に配置するような態様であってもよい。
このような態様であれば、噴出管35から液が数珠状に噴出され、形成される液噴流表面が波立ち、気液接触面積が増加する。この気液接触面積の増加により、上述したように混合部9における蒸気の凝縮が促進され、蒸気運動量の噴出圧力への変換効率をさらに、高めることができる。
【0047】
上記の説明では、起動時の制御を自動で行う蒸気インジェクタ1について説明した。しかし、液・蒸気ノズル5から液を噴出し、蒸気インジェクタ1の起動後に液ノズル7から液を噴出し、その後、液・蒸気ノズル5から噴出する流体を液体から蒸気に切り替えるという一連の動作を手動で行うようにしてもよい。
【0048】
手動制御する際にも、液ノズル7から液を噴出するタイミングとして蒸気インジェクタ1が起動しているか否かを知る必要がある。この場合にも混合部9に圧力検知装置15が設けてあれば、蒸気インジェクタ1の起動を容易に知ることができる。
【0049】
もっとも、圧力検知装置15は必須ではなく、例えば、通常の起動動作を行えば、所定の時間の経過後に蒸気インジェクタが起動することが予め分かっているような場合や、蒸気インジェクタをポリカーボネートやアクリルなどの光透過素材で製造し起動の成否を視認できるような場合には、圧力検知装置15はなくてもよい。
【実施例
【0050】
上記の実施の形態において、液・蒸気ノズル5の噴出口断面積をスロート部11の流路断面積の2.0倍以下に設定することが好ましいことを述べたが、これは以下に説明する実験結果に基づくものである。
実験は、口径の異なる4種類の液ノズルについて、液ノズルの噴出口断面積とスロート断面積(流路断面積)の相対関係を変更して、蒸気インジェクタの起動の有無を評価するというものである。評価に際しては、起動容易、起動可能、起動不安定、起動不可という4段階の評価とした。
【0051】
図7は実験結果を示すグラフであり、縦軸が液ノズル噴出口断面積/スロート断面積を示し、横軸には4種類の液ノズルの噴出口断面積A~Dを示している。
また、グラフ中には、液ノズル噴出口断面積/スロート断面積=2.0の関係を示す破線を記載している。
【0052】
図7では以下の点が示されている。
(1)液ノズル噴出口断面積A
液ノズル噴出口断面積/スロート断面積が、1.0では起動容易、1.6では起動可、2.8では起動不安定、4.0では起動不可
(2)液ノズル噴出口断面積B
液ノズル噴出口断面積/スロート断面積が、1.0では起動容易、1.4では起動可、2.0では起動可、3.1では起動不安定
(3)液ノズル噴出口断面積C
液ノズル噴出口断面積/スロート断面積が、1.0では起動容易、2.0では起動可、4.0では起動不可
(4)液ノズル噴出口断面積D
液ノズル噴出口断面積/スロート断面積が、1.0では起動容易、1.4では起動可、2.0では起動可、3.1では起動不安定、4.0では起動不可
【0053】
図7に示された結果から、いずれの液ノズルであっても、液ノズル噴出口断面積/スロート断面積が、2.0以下であれば起動可能又は起動容易であることがわかる。このことから、本願発明において起動時に液を噴出する液・蒸気ノズル5について液ノズル噴出口断面積/スロート断面積を2.0以下にすることで蒸気インジェクタの起動を円滑にできることが分かる。
【符号の説明】
【0054】
1 蒸気インジェクタ
3 蒸気ノズル
5 液・蒸気ノズル
7 液ノズル
9 混合部
11 スロート部
13 ディフューザ部
15 圧力検知装置
17 制御部
19 第1蒸気供給管
21 第1蒸気バルブ
23 第1液供給管
25 第2蒸気供給管
27 第1液バルブ
29 第2蒸気バルブ
31 第2液供給管
33 第2液バルブ
35 噴出管
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7