(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】電子装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240305BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 E
(21)【出願番号】P 2020216400
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】三宅 敏広
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123011(JP,A)
【文献】特開2013-089948(JP,A)
【文献】特開2013-157599(JP,A)
【文献】特開2020-025002(JP,A)
【文献】特開2008-227104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱する電子部品(41)を少なくとも含み、第1面(40a、40b)を有する発熱体(40)と、
前記発熱体の熱を放熱する放熱部材(21、22)と、
前記発熱体の前記第1面と対向する第2面(50a、150a)を有し、前記発熱体の熱を前記放熱部材に伝達する熱伝導部材(50、150)と、
金または金合金を材料とする金接合層(60a、60b、160a、160b)を少なくとも含み、前記発熱体の前記第1面と前記熱伝導部材の前記第2面との間に介在して前記発熱体と前記熱伝導部材とを接合する金属接合層(60、160)と、
を備え、
接合領域において、前記金属接合層の厚み
は前記第1面
の平面度および前記第2面
の平面度よりも小さくされ、
前記熱伝導部材は、柔軟性を有しており、前記金属接合層を介して前記発熱体と接合され、前記放熱部材に接触している、電子装置。
【請求項2】
前記発熱体は、前記電子部品に接続された金属ブロック(42)をさらに含む、請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記金属ブロックにおける前記電子部品との接続面とは反対の面と前記熱伝導部材との間に前記金属接合層が介在し、前記金属接合層が、前記金属ブロックと前記熱伝導部材とを接合している、請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記熱伝導部材は、前記金属ブロックと接合された第1熱伝導部材(50)と、前記電子部品における前記金属ブロックとの接続面とは反対の面に対向配置された第2熱伝導部材(150)と、含み、
前記金属接合層は、前記金属ブロックと前記第1熱伝導部材とを接合する第1金属接合層(60)と、前記電子部品と前記第2熱伝導部材とを接合する第2金属接合層(160)と、を含む、請求項3に記載の電子装置。
【請求項5】
前記熱伝導部材は、前記金属接合層を介して前記電子部品と接合されている、請求項1または請求項2に記載の電子装置。
【請求項6】
前記熱伝導部材は、グラファイトシート、カーボンナノチューブシート、グラファイト混合樹脂、フィラー混合樹脂のいずれかを用いて構成されている、請求項1~5いずれか1項に記載の電子装置。
【請求項7】
前記金属接合層において、少なくとも前記金接合層の内部に、フッ素元素が分散している、請求項1~6いずれか1項に記載の電子装置。
【請求項8】
前記金属接合層は、前記発熱体と前記金接合層である第1接合層との間、および、前記熱伝導部材と前記第1接合層との間の少なくとも一方に介在し、前記第1接合層を構成する材料よりも熱膨張係数が小さい第2接合層(60c、60d)を含む、請求項1~7いずれか1項に記載の電子装置。
【請求項9】
前記第2接合層は、材料として、タンタル、タングステン、チタン、およびクロムの少なくともひとつを含む、請求項8に記載の電子装置。
【請求項10】
前記放熱部材は、前記発熱体、前記熱伝導部材、および前記金属接合層を収容する筐体である、請求項1~9いずれか1項に記載の電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電子装置を開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電子部品および放熱部材を含む発熱体の熱が、放熱ゲルなどの熱伝導部材を介して筐体に伝わり、筐体から放熱される。熱伝導部材は、発熱体と筐体との間に介在し、発熱体および筐体のそれぞれに接触している。このため、放熱経路の熱抵抗が大きい。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、電子装置にはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示されるひとつの目的は、放熱性が向上された電子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された電子装置は、
通電により発熱する電子部品(41)を少なくとも含み、第1面(40a、40b)を有する発熱体(40)と、
発熱体の熱を放熱する放熱部材(21、22)と、
発熱体の第1面と対向する第2面(50a、150a)を有し、発熱体の熱を放熱部材に伝達する熱伝導部材(50、150)と、
金または金合金を材料とする金接合層(60a、60b、160a、160b)を少なくとも含み、発熱体の第1面と熱伝導部材の第2面との間に介在して発熱体と熱伝導部材とを接合する金属接合層(60、160)と、
を備え、
接合領域において、金属接合層の厚みは第1面の平面度および第2面の平面度よりも小さくされ、
熱伝導部材は、柔軟性を有しており、金属接合層を介して発熱体と接合され、放熱部材に接触している。
【0007】
開示された電子装置によると、金属接合層の厚みが発熱体の第1面および熱伝導部材の第2面の平面度よりも小さい。つまり、発熱体と熱伝導部材が接合されており、金属接合層が薄い。これにより、発熱体から放熱部材への放熱経路において、発熱体と熱伝導部材との界面の熱抵抗を低減することができる。この結果、放熱性が向上された電子装置を提供することができる。
【0008】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電子装置を示す断面図である。
【
図2】電子装置において、接合構造体の周辺を示す断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る電子装置において、接合構造体の周辺を示す断面図である。
【
図8】第3実施形態に係る電子装置を示す断面図である。
【
図9】電子装置において、接合構造体の周辺を示す断面図である。
【
図10】第4実施形態に係る電子装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または、十の位と一の位が同じ参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0011】
(第1実施形態)
先ず、
図1に基づき、電子装置の概略構成について説明する。以下では、発熱体、熱伝導部材、および筐体の積層方向をZ方向と示す。また、Z方向に直交する一方向をX方向と示す。また、平面形状とは、特に断りのない限り、Z方向からの平面視した形状である。
【0012】
<電子装置>
図1に示す電子装置10は、筐体20と、基板30と、発熱体40と、熱伝導部材50と、金属接合層60を備えている。
【0013】
筐体20は、電子装置10を構成する他の要素の少なくとも一部を収容し、収容した要素を保護する。本実施形態において、筐体20は、基板30、発熱体40、熱伝導部材50、および金属接合層60を収容している。筐体20は、Z方向において、2つの部材に分割されている。筐体20は、ケース21と、カバー22を有している。筐体20は、ケース21およびカバー22を相互に組み付けて構成される。ケース21およびカバー22は、たとえば互いの対向面が開口する箱状をなしている。
【0014】
ケース21は、発熱体40の熱を放熱する放熱部材として機能すべく、アルミニウムなどの金属材料を用いて形成されている。カバー22は、ケース21同様、金属材料を用いて形成されてもよいし、樹脂材料を用いて形成されてもよい。本実施形態では、カバー22も、金属材料を用いて形成されている。
【0015】
基板30は、樹脂などの電気絶縁材料を用いて形成された基材に、配線が配置されてなる。基板30は、プリント基板、配線基板と称されることがある。上記した配線は、基板30に実装された複数の電子部品とともに、回路を形成する。基板30は、筐体20を構成するケース21またはカバー22に固定されている。この固定状態で、基板30の板厚方向は、Z方向と略一致している。基板30は、一面30aと、一面30aとは板厚方向において反対の面である裏面30bを有している。一面30aはカバー22に対向し、裏面30bはケース21に対向している。電子部品は、一面30aおよび裏面30bの少なくとも一方に実装されている。
【0016】
基板30は、貫通孔31を有している。貫通孔31は、基板30の板厚方向に延び、一面30aおよび裏面30bに開口している。貫通孔31は、スルーホールと称されることがある。貫通孔31は、たとえば平面略真円形状をなし、全長にわたってほぼ一定の開口径を有している。一例として、基板30は、配線として機能するランド32と、配線として機能しないランド33を有する場合がある。ランド33は、ダミーランドと称されることがある。また、ランド33は、グランド配線としての機能を有する場合がある。ランド32は、基板30の一面30aにおいて、貫通孔31の開口周辺に配置されている。ランド33は、基板30の裏面30bにおいて、貫通孔31の開口周辺に配置されている。基板30は、貫通孔31に代えて、一面30aおよび裏面30bの一方のみに開口する、未貫通の孔を有してもよい。この場合、発熱体40は、孔を通じて裏面30b側に突出しない。
【0017】
発熱体40は、通電により発熱する電子部品である発熱部品41を少なくとも含む。
図1では、回路を構成する複数の電子部品のうち、発熱部品41のみを示している。発熱部品41は、基板30に実装された複数の電子部品の中でも発熱量の大きい部品である。本実施形態において、発熱部品41は、半導体パッケージとして提供される。発熱部品41は、表面実装型の部品である。発熱部品41は、基板30の一面30aに実装されている。発熱部品41は、本体部410と、端子411を有している。
【0018】
本体部410は、図示しない半導体チップがヒートシンク412上に搭載された状態で、封止樹脂体413により封止されてなる。封止樹脂体413は、たとえば、モールド樹脂と称されることがある。半導体チップは、発熱量の大きい素子、たとえばMOSETなどのパワー系スイッング素子が単体で形成されたものでもよい。半導体チップは、素子が集積化された、つまりICチップでもよい。たとえば、1チップにプロセッサが実装されたものでもよい。
【0019】
ヒートシンク412は、本体部410の底面において封止樹脂体413から露出している。ヒートシンク412は、Z方向からの平面視において、基板30の貫通孔31と重なる位置に配置されている。端子411は、本体部410(封止樹脂体)の内外にわたって延設されている。端子411は、封止樹脂体413の内部で、半導体チップに電気的に接続されている。端子411は、はんだや銀ペーストなどの接合材70を介して、対応するランド32に接続されている。
【0020】
本実施形態の発熱体40は、金属ブロック42をさらに含んでいる。金属ブロック42は、熱伝導性が良好な金属材料を用いて形成されている。金属ブロック42は、はんだや銀ペーストなどの接合材43を介して、発熱部品41、具体的にはヒートシンク412に接続されている。金属ブロック42は、その一部が貫通孔31内に配置されている。金属ブロック42は、貫通孔31を通じて基板30の裏面30b側に突出している。具体的には、Z方向において、金属ブロック42の一端がヒートシンク412に接続され、他端が熱伝導部材50に接続されている。
【0021】
金属ブロック42の形状は、特に限定されない。たとえば、径が一定の略円柱状を採用してもよい。平面形状は、真円形状に限定されない。たとえば、多角形状としてもよい。本実施形態では、金属ブロック42が、縮径部420と、拡径部421を有している。縮径部420および拡径部421は、ともに略円柱状をなしている。直径は、それぞれにおいてほぼ一定である。縮径部420は、少なくとも一部が貫通孔31内に配置されている。拡径部421は、縮径部420に連なり、筐体20における裏面30b側の空間に配置されている。拡径部421の直径は、縮径部420よりも大きい。これにより、拡径部421は、裏面30bの開口周辺に対向している。拡径部421における裏面30bとの対向面は、はんだや銀ペーストなどの接合材71を介して、ランド33に接続されている。
【0022】
熱伝導部材50は、発熱体40とケース21との間に介在している。具体的には、Z方向において、金属ブロック42における端部とケース21の底部の内面21aとの間に介在している。熱伝導部材50は、金属ブロック42に接合され、ケース21に接触している。
【0023】
金属接合層60は、発熱体40と熱伝導部材50との間に介在し、発熱体40(金属ブロック42)と熱伝導部材50とを接合している。金属接合層60は、発熱体40および熱伝導部材50とともに、接合構造体80をなしている。金属接合層60を含む接合構造体80の詳細については、後述する。
【0024】
<接合構造体>
次に、
図2に基づき、電子装置10が備える接合構造体80について説明する。
図2は、
図1に示した電子装置10のうち、接合構造体80の周辺を拡大した図である。
図2では、接合構造体80とともに、放熱部材であるケース21についても図示している。
【0025】
発熱体40を構成する金属ブロック42は、熱伝導性が良好な金属、たとえば、銅、銅合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金のいずれかを材料として形成された金属部材である。金属ブロック42を含む発熱体40は、熱伝導部材50との対向面40aを有している。本実施形態では、金属ブロック42の端面が、対向面40aをなしている。対向面40aが、第1面に相当する。
【0026】
熱伝導部材50は、固定状態で、ケース21と発熱体40との間に挟まれるため、凹凸に追従したり、高さばらつきを吸収すべく柔軟性を有している。放熱ゲル、放熱グリス、接着材のような流動性を有するものではない。また、熱伝導部材50は、発熱体40の熱を、放熱部材であるケース21に伝達すべく、良好な熱伝導性を有している。さらに、熱伝導部材50は、発熱体40と常温接合が可能に構成されている。
【0027】
具体的には、熱伝導部材50は、グラファイトシート、カーボンナノチューブシート、グラファイト混合樹脂、フィラー混合樹脂のいずれかを用いて構成されている。グラファイト樹脂はグラファイトと樹脂の混合物であり、たとえばシート状に加工されて、熱伝導部材50として提供される。フィラー混合樹脂は、エポキシ樹脂やポリイミドなどの樹脂に、熱伝導性を高めるために無機フィラーおよび/または金属フィラーが添加されたものであり、たとえばシート状に加工されて、熱伝導部材50として提供される。なお、無機フィラーとしては、たとえば、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、窒化ホウ素などがある。また、金属フィラーとしては、たとえば、銅、アルミニウム、ニッケル、銀などがある。さらに、無機フィラーた金属フィラーとして、フィラー単体ではなく、フィラー粒子の焼結体を用いてもよい。
【0028】
熱伝導部材50は、発熱体40との対向面50aを有している。熱伝導部材50において、ケース21の内面21aとの接触面とは反対の面が、対向面50aをなしている。対向面50aが、第2面に相当する。第1面、第2面に相当する対向面40a、50aは、接合面である。
【0029】
金属ブロック42と熱伝導部材50との対向方向、すなわちZ方向からの平面視において、金属ブロック42と熱伝導部材50との配置、すなわち大きさの関係は特に限定されない。金属ブロック42(発熱体40)と熱伝導部材50は、平面視において少なくとも互いに重なる領域を有せばよい。本実施形態では、熱伝導部材50の対向面50aが、平面視において対向面40aの全域を内包している。発熱体40の対向面40aは、その全域が熱伝導部材50の対向面50aに対向している。熱伝導部材50の対向面50aは、その一部が発熱体40の対向面40aに対向し、残りの部分が発熱体40に対して非対向の領域となっている。なお、図示しないが、発熱体40の対向面40aが、平面視において熱伝導部材50の対向面50aの全域を内包する配置としてもよいし、平面視において対向面40a、50aがほぼ一致する配置としてもよい。
【0030】
金属接合層60は、発熱体40の対向面40aと熱伝導部材50の対向面50aとの間に介在し、発熱体40(金属ブロック42)と熱伝導部材50とを接合している。金属接合層60は、発熱体40と熱伝導部材50との対向領域の少なくとも一部に介在している。本実施形態では、金属接合層60が、発熱体40と熱伝導部材50との対向領域のほぼ全域に介在している。
【0031】
金属接合層60は、第1接合層を少なくとも含む。第1接合層は、金または金合金を材料として形成されている。第1接合層は、金接合層、金含有接合層と称されることがある。第1接合層は、金属接合層60において、発熱体40と熱伝導部材50とを接合している。本実施形態の金属接合層60は、第1接合層60a、60bを含んでいる。
【0032】
後述するように、第1接合層60aは、主として、発熱体40の対向面40a上に形成された第1金属膜61a由来の接合層である。第1接合層60bは、主として、熱伝導部材50の対向面50a上に形成された第1金属膜61b由来の接合層である。第1金属膜61a、61bのそれぞれは、金または金合金を材料として形成された金含有膜である。第1金属膜61a中の金と第1金属膜61b中の金とが相互拡散(原子拡散接合)することで、第1接合層60a、60bが形成されている。よって、第1接合層60a、60bは、ひとつの金含有接合層をなしている。
図2に示すように、接合構造体80は、熱伝導部材50の対向面50aの非対向領域上に、第1金属膜61bを有している。第1金属膜61bは、平面視において、第1接合層60b、ひいては金属接合層60を取り囲んでいる。非対向領域の第1金属膜61bは、第1金属膜61a、61bのうち、拡散接合に寄与せず、膜として残った部分である。
【0033】
後述するように、第1金属膜61a、61bのそれぞれは、スパッタリング法により形成される。これにより、第1接合層60a、60bのそれぞれの厚みは、nmオーダ、たとえば十数nmである。金属接合層60の厚みt1は、接合領域における発熱体40の対向面40aの平面度F1、および、熱伝導部材50の対向面50aの平面度F2よりも小さい。厚みt1は、nmオーダ、たとえば数十nmである。平面度F1、F2のそれぞれは、μmオーダ、たとえば1~3μmである。接合領域とは、対向領域において金属接合層60が形成された領域である。
【0034】
上記した金属接合層60は、少なくとも第1接合層60a、60bに、フッ素元素を含んでいる。フッ素元素は、第1接合層60a、60bの内部、つまり金含有接合層の内部において分散している。本実施形態では、フッ素元素が、金属接合層60の全体に分散している。
【0035】
本実施形態の接合構造体80は、さらにフッ素含有膜61fを備えている。フッ素含有膜61fは、フッ素元素(フッ素原子)を含む膜であればよい。後述するように、第1接合層60a、60bの内部に分散しているフッ素は、第1金属膜61a、61b上に形成されたフッ素含有膜61f由来である。接合構造体80が備える非対向領域のフッ素含有膜61fは、金属接合層60に拡散せずに、膜として残った部分である。フッ素含有膜61fは、平面視において、金属接合層60を取り囲んでいる。
【0036】
<接合構造体の製造方法>
次に、
図2~
図6に基づき、接合構造体80の製造方法の一例について説明する。
図3~
図6は、
図2に対応する断面図である。
図5では、大気圧プラズマ処理を簡素化して図示している。また、便宜上、熱伝導部材50の処理のみを図示している。
図3、
図4、および
図6では、
図2との関係性を分かりやすくするために、発熱体40の金属ブロック42と熱伝導部材50とを対向させて図示している。金属ブロック42と熱伝導部材50とを対向させない状態で、それぞれの処理を行ってもよい。接合前において、金属ブロック42と熱伝導部材50とを個別に処理してもよいし、共通工程で処理してもよい。
【0037】
先ず、鏡面化処理を行う。
図3に示すように、金属ブロック42(発熱体40)の対向面40a、および、熱伝導部材50の対向面50aを、接合領域において所定の平面度となるように鏡面化する。所定の平面度とは、μmオーダ、たとえば1~3μmである。具体的には、CMP(ChemicalMechanical Polishing)等の研磨、研削、ラッピングなどの処理により、対向面40aおよび対向面50aを鏡面化する。
【0038】
次いで、金属接合層60を形成するための金属膜を形成する処理を行う。本実施形態では、大気圧で常温接合により金属ブロック42と熱伝導部材50を接合するため、対向面40aおよび対向面50aの両面に金属膜を形成する。具体的には、
図4に示すように、金属ブロック42の対向面40a上に、たとえばスパッタリング法により、第1金属膜61aを形成する。本実施形態では、対向面40aの全面に、第1金属膜61aを成膜する。同様に、熱伝導部材50の対向面50a上に、たとえばスパッタリング法により、第1金属膜61bを形成する。本実施形態では、対向面50aの全面に、第1金属膜14bを成膜する。
【0039】
接合領域において、金属接合層60の厚みt1が平面度F1、F2よりも小さくなるように、第1金属膜61a、61bを形成する。本実施形態では、接合領域におけるそれぞれの厚みが、nmオーダ、たとえば十数nmとなるように、第1金属膜61a、61bを形成する。
【0040】
次いで、金属膜を形成してから接合処理を行うまでの間に、第1金属膜の表面の吸着物を除去する処理と、吸着物の除去された第1金属膜の表面にフッ素含有膜を形成する処理を行う。
【0041】
本実施形態では、吸着物の除去処理とフッ素含有膜の成膜処理とを共通の工程で行う。
図5に示すように、第1金属膜61bが形成された熱伝導部材50と、フッ素含有部材90とに対して、大気圧プラズマ処理を施す。キャリアガスは、Arなどの不活性ガスを用いる。これにより、フッ素含有部材90は、フッ素元素を含む部材であればよい。たとえば、ポリテトラフルオロエチレンのシート部材など用いることができる。
【0042】
プラズマ処理により、第1金属膜61bの表面の吸着物、たとえば空気中の含まれる水分、酸素などが除去される。また、フッ素含有部材90からフッ素元素がはじき飛ばされる。はじき飛ばされたフッ素元素は、吸着物が除去された第1金属膜61bの表面に堆積し、フッ素含有膜61fを形成する。フッ素含有膜61fは、フッ素元素を少なくとも含む膜である。フッ素含有膜61fの厚みは、nmオーダであり、第1金属膜61a、61bのそれぞれの厚み以下である。このように、プラズマ処理によって、第1金属膜61bの表面の吸着物を除去するとともに、第1金属膜61b上にフッ素含有膜61fを成膜する。吸着物の除去後、再吸着が生じる前にフッ素含有膜61fを成膜する。
【0043】
図示を省略するが、同様に、第1金属膜61aが形成された金属ブロック42と、フッ素含有部材90とに対して、大気圧プラズマ処理を施す。プラズマ処理により、第1金属膜61aの表面の吸着物が除去される。また、フッ素含有部材90からはじき飛ばされたフッ素元素は、吸着物が除去された第1金属膜61aの表面に堆積し、フッ素含有膜61fを形成する。このように、プラズマ処理によって、第1金属膜61aの表面の吸着物を除去するとともに、第1金属膜61a上にフッ素含有膜61fを成膜する。吸着物の除去後、再吸着が生じる前にフッ素含有膜61fを成膜する。
【0044】
以上により、
図6に示すように、第1金属膜61a、61bの表面にフッ素含有膜61fをそれぞれ形成する。つまり第1金属膜61a、61bの表面を、フッ素コーティングする。
【0045】
本実施形態では、大気圧中でプラズマ処理を行う例を示すが、これに限定されない。真空(減圧)下でプラズマ処理を行ってもよい。また、プラズマ処理に代えて、イオンビーム処理を行ってもよい。
【0046】
次いで、金属接合層60を形成する処理を行う。つまり、金属ブロック42と熱伝導部材50とを常温で接合する処理を行う。本実施形態では、金属接合層60の形成を、大気中で行う。
図6に示したように、金属ブロック42(発熱体40)の対向面40aと熱伝導部材50の対向面50aとの接合領域が互いに対向するように、金属ブロック42と熱伝導部材50とを位置決めする。そして、図示を省略するが、対向面40a、50aが互いに近づく方向に金属ブロック42と熱伝導部材50とを相対的に変位させ、フッ素含有膜61f同士を接触させる。
【0047】
この状態で、金属ブロック42と熱伝導部材50の並び方向に加圧すると、フッ素含有膜61f中のフッ素元素が、少なくとも第1金属膜61a、61bの内部に拡散する。また、第1金属膜61a、61b同士が接触して金が相互に拡散し、第1接合層(第1接合層60a、60b)が形成される。このように、第1接合層60a、60bを含む金属接合層60が形成される。本実施形態では、対向領域のほぼ全面が原子レベルで接合される。
【0048】
上記したように、常温接合によって金属接合層60を形成する際に、少なくとも第1接合層60a、60bの内部に、フッ素元素が拡散して分散する。このため、形成された金属接合層60において、少なくとも第1接合層60a、60bの内部には、フッ素元素が分散している。第1金属膜61a、61bのうち、金属接合層60の形成に寄与しない部分は金属膜として残る。本実施形態では、熱伝導部材50の対向面50a上に形成された第1金属膜61bのうち、対向面40aと対向しない非対向領域のほとんどの部分が、第1金属膜61bとして残る。フッ素含有膜61fは、接合領域において消失し、非対向領域のほとんどにおいて残る。
【0049】
発熱体40を構成する発熱部品41と金属ブロック42との接合は、たとえば、金属ブロック42と熱伝導部材50とを接合した後に行う。熱伝導部材50が接合された金属ブロック42を基板30のランド33に接続する。次いで、発熱部品41を基板30に実装しつつ金属ブロック42に接続すればよい。発熱部品41と金属ブロック42との接合により、発熱体40、ひいては接合構造体80が形成される。
【0050】
<第1実施形態のまとめ>
本実施形態の電子装置10では、放熱ゲルなどの流動性を有する熱伝導部材に代えて、柔軟性を有し、常温接合可能に構成された熱伝導部材50を用いている。熱伝導部材50は、発熱体40を構成する金属ブロック42に、金属接合層60を介して接合されている。金属接合層60は、金接合層である第1接合層60a、60bを含んでいる。そして、金属接合層60の厚みは、発熱体40の第1面である対向面40a、および、熱伝導部材50の第2面である対向面50aそれぞれの平面度よりも小さい。つまり、発熱体40と熱伝導部材50が常温接合されており、金属接合層60が薄い。
【0051】
これにより、発熱体40から放熱部材であるケース21への放熱経路において、発熱体40と熱伝導部材50との界面の熱抵抗を低減することができる。この結果、放熱性が向上された電子装置10を提供することができる。熱伝導部材50は、放熱部材であるケース21には接合されずに接触している。よって、熱伝導部材50は、発熱体40とケース21との間で、凹凸に追従したり、高さばらつきを吸収することができる。
【0052】
本実施形態では、熱伝導部材50を、上記したようにグラファイトシート、カーボンナノチューブシート、グラファイト混合樹脂、フィラー混合樹脂のいずれかを用いて構成している。このように構成された熱伝導部材50は、柔軟性と良好な熱伝導性を有しつつ、発熱体40との常温接合が可能である。
【0053】
発熱体と熱伝導部材との接合構造体には、熱応力や外部振動などの応力が作用する。たとえば、接合構造体をなす2つの部材の熱膨張係数が異なると、接合構造体内部の膨張、収縮要因で、熱応力(第1の熱応力)が発生する。また、接合構造体を備える電子装置の場合、複数の異なる材料を用いて組み上げられたことから生ずる電子装置全体の膨張、収縮要因で、熱応力(第2の熱応力)が発生する。第2の熱応力は、同種材料同士の接合構造体にも作用する。また、熱応力に限らず、接合構造体と機械的に接続された外部機構、外部装置から伝達される振動などの応力も、接合構造体に作用する。はんだなどの接合部材を用いて2つの部材を接続する場合、接合部材が厚いため、接合部材に応力が集中する。
【0054】
本実施形態では、上記したように、接合構造体80を構成する金属接合層60の厚みt1が、発熱体40の対向面40aの接合領域における平面度F1、および、熱伝導部材50の対向面50aの接合領域における平面度F2よりも小さい。金属接合層60が薄いため、応力を、金属接合層60近傍の金属ブロック42および熱伝導部材50にて受け持つことができる。よって、応力が金属接合層60に集中するのを抑制することができる。これにより、高い接合強度と、高い耐久疲労強度を有することができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、第1接合層60a、60b(金接合層)の内部、つまり金属接合層60の全体に、フッ素元素が分散している。よって、フッ素元素の撥水効果により、水分の侵入を防ぐことができる。応力集中により金属接合層60の端部に微小なクラックが生じても、空気中の水分の侵入によるクラック進展を抑制することができる。これにより、高い耐久疲労強度を有することができる。よって、接合構造体80は、高い接続信頼性を有することができる。
【0056】
本実施形態では、第1金属膜61a、61bを形成後、金属接合層60を形成するまでの間に、第1金属膜61a、61bの表面の吸着物を除去し、吸着物の除去された第1金属膜61a、61bの表面にフッ素含有膜61fを形成する。吸着物の除去により、接合不良が生じるのを抑制することができる。また、フッ素含有膜61fが第1金属膜61a、61b表面への吸着物の再吸着を防ぐため、大気中での接合を安定化することができる。
【0057】
また、常温接合によって金属接合層60を形成する過程で、フッ素含有膜61f由来のフッ素元素が金属接合層60の少なくとも第1接合層60a、60b(金接合層)の内部に拡散する。したがって、応力集中により金属接合層60の端部に微小クラックが生じても、フッ素元素により、水分の侵入を抑制することができる。以上により、接続信頼性を向上できる接合構造体80を提供することができる。また、常温で接合するため、接合時の残留応力を最小化することもできる。
【0058】
本実施形態では、大気圧プラズマ処理により、第1金属膜61a、61bの表面の吸着物を除去する。真空(減圧)に較べて、製造工程を簡素化することができる。
【0059】
本実施形態では、第1金属膜61bが形成された熱伝導部材50と、フッ素含有部材90とに対して、大気圧プラズマ処理を施す。このような処理により、第1金属膜61a、61bの表面の吸着物の除去と、第1金属膜61a、61b上へのフッ素含有膜61fの生成とを、共通の工程行うことができる。よって、製造工程を簡素化することができる。また、吸着物の除去後、直ちにフッ素含有膜61fを成膜することができる。これにより、吸着物の除去後の再吸着をより確実に防ぐことができる。
【0060】
第1金属膜61a、61bの表面の吸着物の除去(洗浄)と、フッ素含有膜61fの成膜とを共通の工程で行う例を示したが、これに限定されない。吸着物の除去とフッ素含有膜61fの成膜とを個別に行ってもよい。たとえば、先ず、第1金属膜61a、61bの成膜後、大気圧または真空でのプラズマ処理やイオンビーム処理により、第1金属膜61a、61bの表面の吸着物を除去する。そして、吸着物の除去処理が終了した後、できる限り速やかに(直ちに)フッ素含有膜61fを成膜する。たとえば、フッ素プラズマ処理により、フッ素含有膜61fを形成してもよい。また、チャンバー内で、CHF3、CF6などのフッ化物ガスに晒すことで、フッ素含有膜61fを形成してもよい。さらには、フッ素含有部材90にプラズマ処理を施すことで、フッ素含有膜61fを形成してもよい。
【0061】
(第2実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、金属接合層60が、金接合層である第1接合層60a、60bのみを含んでいた。これに代えて、金属接合層60は、発熱体および/または熱伝導部材と第1接合層との間に介在する第2接合層を含んでもよい。
【0062】
図7は、本実施形態に係る電子装置10において、接合構造体80の周辺を示している。
図7は、
図2に対応している。
図7に示すように、発熱体40を構成する金属ブロック42と第1接合層60aとの間に、第2接合層60cが介在している。また、熱伝導部材50と第1接合層60bとの間に、第2接合層60dが介在している。
【0063】
第2接合層60c、60dは、第1接合層60a、60bを構成する材料よりも熱膨張係数の小さい材料を用いて形成されている。第2接合層60c、60dは、たとえば、タンタル、タングステン、チタン、およびクロムの少なくともひとつを材料として形成されている。これら金属は、金または金合金よりも熱膨張係数が小さい。第2接合層60c、60dは、金属接合層60において、たとえば応力を緩和するために設けられている。
【0064】
第2接合層60c、60dのそれぞれは、タンタル、タングステン、チタン、およびクロムのいずれかを含む単層構造でもよいし、多層構造でもよい。第2接合層60cは、発熱体40の対向面40a上に形成された、図示しない第2金属膜61c由来の接合層である。第2接合層60dは、熱伝導部材50の対向面50a上に形成された第2金属膜61d由来の接合層である。第2金属膜61c、61dのそれぞれは、タンタル、タングステン、チタン、およびクロムの少なくともひとつを材料として形成された金属膜である。
【0065】
図7に示すように、接合構造体80は、熱伝導部材50の対向面50aの非対向領域上に、第2金属膜61dを有している。第2金属膜61dは、平面視において、第2接合層60d、ひいては金属接合層60を取り囲んでいる。非対向領域の第2金属膜61dは、第2金属膜61c、61dのうち、接合に寄与せず、膜として残った部分である。第2金属膜61c、61dは、上記した鏡面化処理の後、第1金属膜61a、61bを成膜する前に形成される。第2金属膜61c、61dは、第1金属膜61a、61b同様、スパッタリング法により形成される。これにより、第2接合層60c、60dのそれぞれの厚みは、nmオーダ、たとえば十数nmである。
【0066】
第1接合層60a、60bおよび第2接合層60c、60dを含む金属接合層60の厚みt2は、接合領域における発熱体40の対向面40aの平面度F1、および、熱伝導部材50の対向面50aの平面度F2よりも小さい。厚みt2は、nmオーダ、たとえば数十nmである。金属接合層60以外の構成は、先行実施形態に記載の構成と同様である。金属ブロック42と熱伝導部材50とが、常温接合されている。熱伝導部材50は、ケース21に対して接合されず、接触している。
【0067】
<第2実施形態のまとめ>
本実施形態では、金属接合層60が、第1接合層60aと発熱体40との間に配置された第2接合層60cと、第1接合層60bと熱伝導部材50との間に配置された第2接合層60dを含んでいる。このような多層構造の金属接合層60において、厚みt2が、対向面40aの平面度F1および対向面50aの平面度F2よりも小さい。つまり、発熱体40と熱伝導部材50が常温接合されており、金属接合層60が薄い。したがって、先行実施形態同様、発熱体40と熱伝導部材50との界面の熱抵抗を低減し、ひいては放熱性を向上することができる。
【0068】
また、金属接合層60が薄いため、先行実施形態同様、応力を金属接合層60近傍の発熱体40および熱伝導部材50にて受け持つことができる。加えて、第2接合層60c、60dの熱膨張係数が小さいため、金属接合層60の端部への熱応力の集中を低減することができる。以上より、接合強度と耐久疲労強度をさらに高めることができる。
【0069】
特に本実施形態では、第2接合層60c、60dは、材料としてタンタル、タングステン、チタン、およびクロムの少なくともひとつを含んでいる。これらの材料は、発熱体40と熱伝導部材50との密着力が高めるとともに、第1接合層60a、60bへの熱応力集中を低減し、初期強度、耐久疲労強度の向上に寄与する。たとえば第2接合層60c、60dの材料としてタンタルを用いた場合、フッ素元素は第2接合層60c、60dにも拡散する。よって、第2接合層60c、60dの内部に分散するフッ素元素の撥水効果により、水分の侵入をより効果的に防ぐことができる。
【0070】
(第3実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、発熱体40が、熱伝導部材50を介してケース21に放熱する構造の例を示した。つまり、片面放熱構造の例を示した。これに代えて、両面放熱構造に、上記した接合構造を適用してもよい。
【0071】
図8は、本実施形態の電子装置10を示している。
図8は、
図1に対応している。
図8に示すように、電子装置10は、先行実施形態(
図2参照)の構成に対して、熱伝導部材150と、金属接合層160をさらに備えている。Z方向において、熱伝導部材150は、発熱体40を構成する発熱部品41と、金属製のカバー22との間に介在している。熱伝導部材150は、カバー22に接合されておらず、カバー22に接触している。熱伝導部材150は、金属接合層160を介して発熱部品41に接合されている。接合構造体80は、発熱体40、熱伝導部材50、150、および金属接合層60、160を有している。熱伝導部材50が第1熱伝導部材に相当し、熱伝導部材150が第2熱伝導部材に相当する。金属接合層60が第1金属接合層に相当し、金属接合層160が第2金属接合層に相当する。
【0072】
図9は、接合構造体80の一部を示している。発熱部品41、熱伝導部材150、および金属接合層160の接合構造は、先行実施形態に示した金属ブロック42、熱伝導部材50、および金属接合層60の接合構造と基本的に同じである。発熱部品41の本体部410は、上記したように封止樹脂体413を有している。封止樹脂体413は、たとえば、エポキシ系樹脂を用いて成形されている。封止樹脂体413の上面が、発熱体40において熱伝導部材150との対向面40bをなしている。対向面40a、40bが、第1面に相当する。
【0073】
熱伝導部材150は、熱伝導部材50と同様の構成を有している。熱伝導部材150は、固定状態で、カバー22と発熱体40との間に挟まれるため、凹凸に追従したり、高さばらつきを吸収すべく柔軟性を有している。放熱ゲル、放熱グリス、接着材のような流動性を有するものではない。また、熱伝導部材150は、発熱体40の熱を、放熱部材であるカバー22に伝達すべく、良好な熱伝導性を有している。さらに、熱伝導部材150は、発熱体40と常温接合が可能に構成されている。具体的には、熱伝導部材150は、グラファイトシート、カーボンナノチューブシート、グラファイト混合樹脂、フィラー混合樹脂のいずれかを用いて構成されている。
【0074】
発熱部品41の封止樹脂体413と熱伝導部材150との対向方向、すなわちZ方向からの平面視において、封止樹脂体413と熱伝導部材150との配置、すなわち大きさの関係は特に限定されない。封止樹脂体413(発熱体40)と熱伝導部材150は、平面視において少なくとも互いに重なる領域を有せばよい。本実施形態では、熱伝導部材150の対向面150aが、平面視において対向面40bの全域を内包している。発熱体40の対向面40bは、その全域が熱伝導部材150の対向面150aに対向している。熱伝導部材150の対向面150aは、その一部が発熱体40の対向面40bに対向し、残りの部分が発熱体40に対して非対向の領域となっている。なお、図示しないが、発熱体40の対向面40bが、平面視において熱伝導部材150の対向面150aの全域を内包する配置としてもよいし、平面視において対向面40b、150aがほぼ一致する配置としてもよい。
【0075】
金属接合層160は、金属接合層60と同様の構成を有している。金属接合層160は、発熱体40の対向面40bと熱伝導部材150の対向面150aとの間に介在し、発熱体40(発熱部品41)と熱伝導部材150とを接合している。金属接合層160は、発熱体40と熱伝導部材150との対向領域の少なくとも一部に介在している。本実施形態では、金属接合層160が、発熱体40と熱伝導部材150との対向領域のほぼ全域に介在している。金属接合層160は、第1接合層を少なくとも含む。第1接合層は、金または金合金を材料として形成されている。第1接合層は、金属接合層160において、発熱体40と熱伝導部材150とを接合している。本実施形態の金属接合層160は、第1接合層160a、160bを含んでいる。
【0076】
第1接合層160aは、主として、発熱体40(封止樹脂体413)の対向面40b上に形成された図示しない第1金属膜161a由来の接合層である。第1接合層160bは、主として、熱伝導部材150の対向面150a上に形成された第1金属膜161b由来の接合層である。第1金属膜161a、161bのそれぞれは、金含有膜である。第1金属膜161a中の金と第1金属膜161b中の金とが相互拡散(原子拡散接合)することで、第1接合層160a、160bが形成されている。第1接合層160a、160bは、ひとつの金含有接合層をなしている。
図8に示すように、接合構造体80は、熱伝導部材150の対向面150aの非対向領域上に、第1金属膜161bを有している。第1金属膜161bは、平面視において、第1接合層160b、ひいては金属接合層160を取り囲んでいる。非対向領域の第1金属膜161bは、第1金属膜161a、161bのうち、拡散接合に寄与せず、膜として残った部分である。
【0077】
第1金属膜161a、161bのそれぞれは、スパッタリング法により形成される。これにより、第1接合層160a、160bのそれぞれの厚みは、nmオーダ、たとえば十数nmである。金属接合層160の厚みt3は、接合領域における発熱体40の対向面40bの平面度F3、および、熱伝導部材150の対向面150aの平面度F4よりも小さい。厚みt3は、nmオーダ、たとえば数十nmである。平面度F3、F4のそれぞれは、μmオーダ、たとえば1~3μmである。接合領域とは、対向領域において金属接合層160が形成された領域である。
【0078】
上記した金属接合層160は、金属接合層60同様、少なくとも第1接合層160a、160bにフッ素元素を含んでいる。フッ素元素は、第1接合層160a、160bの内部、つまり金含有接合層の内部において分散している。本実施形態では、フッ素元素が、金属接合層60の全体に分散している。接合構造体80は、さらにフッ素含有膜161fを備えている。フッ素含有膜161fは、フッ素元素(フッ素原子)を含む膜であればよい。後述するように、第1接合層160a、160bの内部に分散しているフッ素は、第1金属膜161a、161b上に形成されたフッ素含有膜161f由来である。接合構造体80が備える非対向領域のフッ素含有膜161fは、金属接合層160に拡散せずに、膜として残った部分である。フッ素含有膜161fは、平面視において、金属接合層160を取り囲んでいる。
【0079】
それ以外の構成は、第1実施形態に記載の構成と同様である。本実施形態では、対向面40a、40bのそれぞれが、第1面に相当する。本実施形態では、対向面50a、150aのそれぞれが、第2面に相当する。ケース21およびカバー22のそれぞれが、放熱部材に相当する。
【0080】
発熱体40(発熱部品41)と熱伝導部材150との接合方法は、先行実施形態に記載の発熱体40(金属ブロック42)と熱伝導部材50との接合方法と同じである。このため、その記載を省略する。
【0081】
<第3実施形態のまとめ>
本実施形態の電子装置10では、放熱ゲルなどの流動性を有する熱伝導部材に代えて、柔軟性を有し、常温接合可能に構成された熱伝導部材150を用いている。熱伝導部材150は、発熱体40を構成する発熱部品41に、金属接合層160を介して接合されている。金属接合層160は、金接合層である第1接合層160a、160bを含んでいる。そして、金属接合層160の厚みは、発熱体40の第1面である対向面40b、および、熱伝導部材150の第2面である対向面150aそれぞれの平面度よりも小さい。つまり、発熱体40と熱伝導部材150が常温接合されており、金属接合層160が薄い。これにより、発熱体40から放熱部材であるカバー22への放熱経路において、発熱体40と熱伝導部材150との界面の熱抵抗を低減することができる。本実施形態では、先行実施形態同様、発熱体40と熱伝導部材50が常温接合されており、金属接合層60が薄いため、発熱体40と熱伝導部材50との界面の熱抵抗を低減することができる。このように、発熱体40からケース21の放熱経路、および、発熱体40からカバー22への放熱経路のそれぞれにおいて、熱抵抗が低減される。よって、両面放熱構造の電子装置10において、放熱性をさらに向上することができる。
【0082】
また、熱伝導部材150も、熱伝導部材50同様、放熱部材であるカバー22には接合されずに接触している。よって、熱伝導部材150は、発熱体40とカバー22との間で、凹凸に追従したり、高さばらつきを吸収することができる。さらに、金属接合層160が薄いため、応力を、金属接合層160近傍の発熱体40および熱伝導部材150にて受け持つことができる。よって、応力が金属接合層160に集中するのを抑制することができる。これにより、高い接合強度と、高い耐久疲労強度を有することができる。
【0083】
また、第1接合層60a、60b同様、第1接合層160a、160bの内部、つまり金属接合層160の全体に、フッ素元素が分散している。よって、フッ素元素の撥水効果により、水分の侵入を防ぐことができる。応力集中により金属接合層160の端部に微小なクラックが生じても、空気中の水分の侵入によるクラック進展を抑制することができる。これにより、高い耐久疲労強度を有することができる。
【0084】
本実施形態に記載の両面放熱構造と、第2実施形態に記載の構成と組み合わせてもよい。たとえば、金属接合層60、160の一方が、第2接合層を含む構成としてもよい。金属接合層60、160がともに第2接合層を含む構成としてもよい。
【0085】
(第4実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。上記した一実施形態では、発熱体40が、熱伝導部材50を介してケース21に放熱する片面放熱構造の例を示した。また、別の一実施形態では、両面放熱構造の例を示した。これに代えて、発熱体からカバーへ放熱する片面放熱構造に、上記した接合構造を適用してもよい。
【0086】
図10は、本実施形態の電子装置10を示している。
図10は、
図1に対応している。第3実施形態(
図8参照)同様、熱伝導部材150が、カバー22と発熱体40(発熱部品41)との間に介在している。熱伝導部材150は、カバー22に接触している。熱伝導部材150は、金属接合層160を介して、発熱部品41の封止樹脂体413に接合されている。つまり、発熱体40と熱伝導部材150とが、常温接合されている。電子装置10は、発熱体40からカバー22への放熱経路を有している。一方、本実施形態の発熱体40は、先行実施形態に示した金属ブロック42を含んでいない。発熱体40は、発熱部品41のみを含んでいる。基板30は、貫通孔31およびランド33を有していない。電子装置10は、発熱体40からケース21への放熱経路を有していない。電子装置10は、片面放熱構造をなしている。それ以外の構成は、第3実施形態に記載の構成と同様である。
【0087】
<第4実施形態のまとめ>
本実施形態の電子装置10によれば、第3実施形態に示した電子装置10同様、発熱体40と熱伝導部材150が常温接合されており、金属接合層160が薄い。これにより、発熱体40から放熱部材であるカバー22への放熱経路において、発熱体40と熱伝導部材150との界面の熱抵抗を低減することができる。よって、カバー22へ熱を逃がす片面放熱構造の電子装置10において、放熱性を向上することができる。
【0088】
また、熱伝導部材150が、放熱部材であるカバー22に接触しているため、発熱体40とカバー22との間で、凹凸に追従したり、高さばらつきを吸収することができる。さらに、金属接合層160が薄いため、応力が金属接合層160に集中するのを抑制することができる。
【0089】
第3実施形態同様、第1接合層160a、160bの内部、つまり金属接合層160の全体に、フッ素元素が分散していると、フッ素元素の撥水効果により、水分の侵入を防ぐことができる。応力集中により金属接合層160の端部に微小なクラックが生じても、空気中の水分の侵入によるクラック進展を抑制することができる。これにより、高い耐久疲労強度を有することができる。
【0090】
発熱体40が金属ブロック42を含まない構成を示したが、これに限定されない。発熱体40が金属ブロック42を含む構成において、放熱経路を、発熱部品41とカバー22との間にのみ形成するようにしてもよい。つまり、発熱部品41とカバー22との間に熱伝導部材150が介在し、金属ブロック42とケース21との間には熱伝導部材50が介在しない構成としてもよい。本実施形態では、ケース21へ放熱しないため、ケース21を樹脂製としてもよい。
【0091】
本実施形態に記載の片面構造と、第2実施形態に記載の構成と組み合わせてもよい。まつまり、金属接合層160が第2接合層を含む構成としてもよい。
【0092】
(他の実施形態)
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0093】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0094】
空間的に相対的な用語「下」、「上」は、図示されているような、ひとつの要素または特徴の他の要素または特徴に対する関係を説明する記載を容易にするためにここでは利用されている。空間的に相対的な用語は、図面に描かれている向きに加えて、使用または操作中の装置の異なる向きを包含することを意図することができる。例えば、図中の装置をひっくり返すと、他の要素または特徴の「下」として説明されている要素は、他の要素または特徴の「上」に向けられる。したがって、用語「下」は、上と下の両方の向きを包含することができる。この装置は、他の方向に向いていてもよく(90度または他の向きに回転されてもよい)、この明細書で使用される空間的に相対的な記述子はそれに応じて解釈される。
【0095】
発熱体40と熱伝導部材50とを、大気中で常温接合する例を示したが、これに限定されない。真空下(減圧下)において常温接合してもよい。真空下での接合の場合、第1金属膜61a、61bの両方を設けてもよいし、第1金属膜61a、61bの一方のみを設けてもよい。たとえば、対向面40aに第1金属膜61aを設けず、対向面50aに第1金属膜61bを設け、真空下で常温接合してもよい。この場合、金属接合層60は、第1接合層60bを含む。つまり、金属接合層60は、第1接合層60a、60b(金接合層)の一方のみを有してもよい。発熱体40と熱伝導部材150とを接合する金属接合層160についても同様である。
【0096】
第2実施形態において、発熱体40と第1金属膜61aとの間に第2金属膜61cを設け、熱伝導部材50と第1金属膜61bとの間に第2金属膜61dを設ける例を示したが、これに限定されない。第2金属膜61c、61dの一方のみを設けてもよい。たとえば第1金属膜61bのみを形成する構成において、熱伝導部材50の対向面50aと第1金属膜61bとの間に第2金属膜61dを設け、第1金属膜61aのない対向面40a上には第2金属膜61cを設けない構成としてもよい。金属接合層160についても同様である。
【0097】
金属接合層60、160が、フッ素元素を含有する例を示したが、これに限定されない。フッ素元素を含有しない金属接合層60、160を採用することもできる。
【0098】
筐体20を構成するケース21および/またはカバー22を放熱部材とする例を示したが、これに限定されない。たとえば、ケース21に固定されたヒートシンクを放熱部材としてもよい。この場合、ヒートシンクの一部は、たとえばケース21の底部に形成された開口を通じて、ケース21の外に突出してもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…電子装置、20…筐体、21…ケース、21a…内面、22…カバー、22a…内面、30…基板、30a…一面、30b…裏面、31、32…ランド、33…貫通孔、40…発熱体、40a、40b…対向面、41…発熱部品、410…本体部、411…端子、412…ヒートシンク、413…封止樹脂体、42…金属ブロック、420…縮径部、421…拡径部、43…接合材、50、150…熱伝導部材、50a、150a…対向面、60、160…金属接合層、60a、60b、160a、160b…第1接合層、60c、60d…第2接合層、61a、61b、161b…第1金属膜、61c、61d…第2金属膜、61f、161f…フッ素含有膜、70、71…はんだ、80…接合構造体