(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】エアバッグ用織物およびエアバッグ用織物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 1/02 20060101AFI20240305BHJP
B60R 21/235 20060101ALI20240305BHJP
D03D 5/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
D03D1/02
B60R21/235
D03D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020509123
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000488
(87)【国際公開番号】W WO2020174889
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019032637
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 陸
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108004638(CN,A)
【文献】特開平10-236253(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103233311(CN,A)
【文献】特開2002-212856(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051049(WO,A1)
【文献】特開2003-221749(JP,A)
【文献】特開平09-302549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなり、地部と両端部の耳部とを備え、
前記地部の経糸クリンプ率は、前記耳部の経糸クリンプ率よりも3%以上大き
く、
前記耳部は、織物の耳端から25mm以内の部分である、エアバッグ用織物。
【請求項2】
前記地部の経糸は、
(i)前記耳部の経糸よりも繊度が大きいか、
(ii)前記耳部の経糸よりも撚り係数が小さいか、または、
(iii)前記耳部の経糸よりも繊度が大きく、かつ、前記耳部の経糸よりも撚り係数が小さい、請求項1記載のエアバッグ用織物。
【請求項3】
織物断面における前記耳部の経糸のアスペクト比は、2.0以下であり、
前記耳部のカバーファクターは、前記地部のカバーファクターよりも大きい、請求項1または2記載のエアバッグ用織物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエアバッグ用織物を製造する方法であり、
前記耳部の経糸張力を前記地部の経糸張力よりも1.2倍以上高くして製織
し、
前記耳部は、織物の耳端から25mm以内の部分である、エアバッグ用織物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用織物およびエアバッグ用織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、乗員の安全確保のためのエアバッグが装備されている。自動車の衝突事故等の際、衝撃がセンサーによって検知されると、高温、高圧のガスが発生し、このガスによってエアバッグは瞬間的に膨張し、衝突から乗員の顔面、頭部等を保護する。
【0003】
エアバッグは、一般に、150~600dtexの合成繊維フィラメント糸を用いた平織物に、耐熱性、難燃性、空気遮断性等の特性を向上させるためのシリコーン樹脂等を塗布して基布(コート基布)を作製し、この基布を裁断し、袋体に縫製して作られる。
【0004】
また、基布は、シリコーン樹脂等を付与せずに、合成繊維フィラメント糸を高密度に製織することにより布帛の通気量を小さくして使用される、いわゆるノンコート基布もある。
【0005】
ここで、エアバッグ用の織物は、自動車の衝突事故の際にエアバッグを瞬間的に膨張させ、衝突時等に乗員の顔面、頭部、膝等を保護するため、高強力かつ低通気性が要求される。このため、エアバッグ用の織物は、通常の衣料用の織物に比較して、より高強力の糸を用い、かつ、より高密度の高密度織物である必要がある。
【0006】
一般に、この高密度織物を製織する際、たとえば、経糸および緯糸が470dtex、経糸および緯糸の織物密度が、経、緯共に1インチ(2.54cm)あたり55本の平織り組織の場合など、緯糸密度が高くなるほど、織り前の織口が筬の最前進位置よりも経糸の送出し側に移動する量が大きくなる。これによって、以下の(a)~(d)に記載するように製織時の不都合な点が発生しやすい。
(a)筬打ち時に、織前近傍の織物がバンピング現象を起こし、所望の緯糸密度の織物が得られにくくなる。
(b)緯糸が打ち込まれた後、織り前の左右それぞれの端部でカッターにより緯糸が切断されるが、その際、切断された緯糸は把持されずフリーとなり、基布の両方の耳端部の緯糸クリンプが大きくなり、それにより逆に耳端部の経糸クリンプが小さくなる。そのため、両方の耳部の経糸張力が低下する。これにより、経糸による緯糸の把持力が低下し、織り前の両耳部の織口が後退する。その結果、耳部の経糸緩みに起因する毛羽が誘発され、安定して製織することができなくなる。
(c)織機回転数を高速化すると、耳端部の織口が後退する現象が、さらに顕著に表れる。基布耳部の経糸緩みにより、耳部と中央部との布長差が生じ、耳端部が波打ち状態になるフレア(「耳たぶり」とも言う)が発生する。エアバッグ用基布は、裁断、縫製されて袋体に作られるが、エアバッグ用基布を最大限有効利用するための裁断パターンが設計され、通常、耳端部またはその近傍まで使用される。しかし、裁断品の端はほつれやすいため、耳端部近傍にフレアが発生していると裁断不良を生じやすい。その結果、位置ズレを起こし、エアバッグとしての所望の正確な形状が得られず、必要とされる機能も有しなくなる。
(d)生機でのフレアは、ロール巻の時、およびその後の精練、セット工程での加工通過性に支障を及ぼすだけでなく、皺発生の原因にもなる。樹脂がコートされる場合、フレアによりコーティング工程の加工通過性に支障が出るだけでなく、コーティング樹脂の塗布量ムラや皺が発生する。
【0007】
上記(a)~(d)の不都合点を防止するための種々の試みとして、合成繊維からなるエアバッグ用織物において、耳組部に繊度33dtex以下の絡み糸、地部糸の総繊度に対し80%以上の総繊度の耳締め糸を配する方法(特許文献1)、絡み糸に異形断面糸や紡績糸を挿入する方法や、耳部の経糸デニールを地本体部分の経糸デニールより細くする方法(特許文献2~4)、地糸と絡み糸からなる耳部にさらに増糸を打ち込む方法(特許文献5)、耳部の織密度を織物本体部分の織密度より高くする方法(特許文献6)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】再表2014/051049号公報
【文献】特開2001-355143号公報
【文献】特開2000-064148号公報
【文献】特開平10-236253号公報
【文献】特開平9-302550号公報
【文献】特開平9-302549号公報
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、より一層の高強度かつ低通気度を追究した高密度織物を製織する場合、織物設計によっては、たとえば、経糸及び緯糸が470dtex、経糸および緯糸の織密度が、経、緯共に1インチ(2.54cm)あたり55本の平織り組織の場合には、これら特許文献1~6に提案されているような方法では、耳部において緯糸を充分に締め付けることができず、耳部の経糸張力低下を招き、経糸の毛羽発生や織機の停止回数の増加、フレアの悪化につながるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、製織時に発生する織り前の両耳部の織口後退とフレアを効果的に抑制することができ、結果として、長尺の反物としたときの端部の皺発生を抑え、コーティング工程での均一塗布性を確保でき、また裁断時の位置ズレを抑えた高品位なエアバッグ用織物を提供することを目的とする。
【0011】
上記課題を解決する本発明のエアバッグ用織物は、合成繊維からなるエアバッグ用織物において、前記織物は地部と両端部の耳部とを備え、前記地部の経糸クリンプ率が前記耳部の経糸クリンプ率よりも3%以上大きいことを特徴とするエアバッグ用織物である。
【0012】
また、上記課題を解決する本発明のエアバッグ用織物の製造方法は、上記エアバッグ用織物を製造する方法であって、前記耳部の経糸張力を前記地部の経糸張力よりも1.2倍以上高くして製織することを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
[エアバッグ用織物]
本発明の一実施形態のエアバッグ用織物(以下、織物ともいう)は、合成繊維からなる。織物は、地部と両端部の耳部とを備える。地部の経糸クリンプ率は、耳部の経糸クリンプ率よりも3%以上大きい。以下、それぞれについて説明する。
【0015】
織物を構成する合成繊維織物は、合成繊維の糸からなる。合成繊維の素材は、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、あるいは超高分子量ポリエチレン系繊維等が例示される。これらの中でも、合成繊維の素材は、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維が好ましい。
【0016】
ポリアミド系繊維は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維が例示される。これらの中でも、ポリアミド系繊維は、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は、強度が特に優れており好ましい。
【0017】
ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維が例示される。ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0018】
これらの合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤が含まれてもよい。
【0019】
本実施形態のエアバッグ用織物は、同じ合成繊維糸が経糸および緯糸として用いられることが好ましい。「同じ合成繊維糸が経糸および緯糸として用いられる」とは、経糸・緯糸とも同種のポリマーからなり、経糸・緯糸とも同じ単繊維繊度を有し、かつ、経糸・緯糸とも同じ総繊度を有するということである。同種のポリマーとは、ナイロン66同士、ポリエチレンテレフタレート同士等、ポリマーの主たる繰り返し単位が共通するポリマー同士であることをいう。なお、ホモポリマーと共重合ポリマーとの組み合わせであっても主たる繰り返し単位が共通していれば、本実施形態でいう同種のポリマーとして好ましく使用される。さらには、共重合成分の有無、また共重合する場合は共重合成分の種類、量も同じ組み合わせであるならば、経糸と緯糸とを区別する必要がなく、生産管理上好ましい。
【0020】
本実施形態のエアバッグ用織物の地部糸として使用される合成繊維糸は、単繊維繊度1~7dtexの合成繊維フィラメントであることが好ましい。単繊維繊度が7dtex以下であることにより、得られる織物は、織物中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、繊維の充填化効果がより一層向上する。その結果、得られる基布の通気量が、低下させやすい。また、単繊維繊度が7dtex以下であることにより、合成繊維フィラメントの剛性を低下させる効果が得られやすい。そのため、得られる基布を用いたエアバッグは、収納性が向上しやすい。
【0021】
織物の地部糸として使用される合成繊維糸の総繊度は、150~700dtexであることが好ましい。地部糸として使用される合成繊維糸の総繊度を150dtex以上とすることにより、得られる織物の強度が維持されやすい。また、地部糸として使用される合成繊維糸の総繊度を700dtex以下とすることにより、得られる基布を用いたエアバッグは、収納時のコンパクト性や、低通気性が維持されやすい。総繊度は、200dtex以上であることが好ましく、250dtex以上であることがより好ましい。また、総繊度は、700dtex以下であることが好ましく、500dtex以下であることがより好ましい。総繊度をこれらの範囲内に調整することにより、得られる織物は、強力、滑脱抵抗力、低通気性、柔軟性、コンパクト収納性がバランスよく向上され得る。
【0022】
本実施形態のエアバッグ用織物地部糸を構成する合成繊維糸の引張強度は、エアバッグ用織物として要求される機械的特性を満足する点と、製糸操業面から、経糸および緯糸ともに8.0cN/dtex以上であることが好ましく、8.3cN/dex以上であることがより好ましい。また、引張強度は、9.0cN/dtex以下であることが好ましく、8.7cN/dtex以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態のエアバッグ用織物の織組織は特に限定されない。一例を挙げると、織組織は、平組織、綾組織、朱子組織及びこれらの変形組織等である。
【0024】
本実施形態のエアバッグ用織物の織密度は特に限定されない。織密度は、樹脂加工される織物であるか、樹脂加工されない織物であるか、また織糸の繊度等によって変わり得る。一例を挙げると、カバーファクターは、1800~2500であることが、低通気性と高滑脱抵抗力を両立する上で好ましい。一般的に、カバーファクターが1800~2500になると、製織時に問題となる耳部の織口の後退が大きくなる。また、フレアも顕著となる。しかしながら、本実施形態の織物の製造はカバーファクターが1800未満、もしくは、2500を超える際、有効に採用できるが、特に、カバーファクターが1800~2500である織物の場合、得られる織物は上記効果が奏されやすい。
【0025】
ここでカバーファクターとは、経糸総繊度をD1(dtex)、経密度をN1(本/2.54cm)とし、緯糸総繊度をD2(dtex)、緯密度をN2(本/2.54cm)としたとき、次の式であらわされる。
カバーファクター=(D1×0.9)1/2×N1+(D2×0.9)1/2×N2
【0026】
一般的に、エアバッグ用織物を製織する際、耳部には、耳端に絡み糸や増糸が用いられる。さらに、フレアを小さくするため、増糸と経糸の間に、耳締め糸が用いられる場合もある。
【0027】
「絡み糸」はレノとも呼ばれ、耳ほつれを防止するため、織物の耳部の最も外側で、複数本の糸が絡み合いながら緯糸を締め付け、耳を形成する。耳を形成する場合、一般的に遊星歯車機構が使用される。さらに好ましくは遊星歯車ねじり方式が用いられる。耳を形成する方法は、その他の方法であってもよい。絡み糸の素材、種類、繊度は、地糸の種類、織密度により適宜選択される。使用本数は、両端部にそれぞれ2本ずつ以上、好ましくは2本ずつであることが好ましい。絡み糸は、一般的には、耳締めの性能の優れるモノフィラメントが用いられる。絡み糸は、マルチフィラメントが使用されてもよい。絡み糸の材質は、地糸と同じであることが好ましい。絡み糸の繊度は、33dtex以下であることが好ましい。繊度が33dtexを超える場合、織物の耳部においてほつれが発生する場合がある。絡み糸の繊度は5~22dtexであることが好ましい。
【0028】
「増糸」は、絡み糸と同様に、織物の耳のほつれ防止を目的として使用され、織物の耳部において絡み糸と経糸の間に配置され、絡み糸を補助する。ただし、増糸に対しては、遊星装置は使用されない。耳締め性に優れる平組織で用いることが好ましい。また、増糸の素材、種類、繊度はそれぞれ、地糸の種類、織密度により適宜選択される。上記した絡み糸と同様に、増糸は、耳締めの性能が優れるモノフィラメントが好適に用いられる。使用される場合の増糸の本数は、たとえば両端部に各2本から12本である。増糸の繊度は、33dtex以下であることが好ましい。繊度が33dtexを超える場合、織物の耳部においてほつれが発生する場合がある。絡み糸の繊度は5~22dtexであることが好ましい。
【0029】
「耳締め糸」は、絡み糸、増糸とは別に、織物のフレアの防止を目的として使用される場合があり、織物の耳部において増糸と経糸の間に配置される。増糸と同様、遊星装置は使用されない。耳締め性に優れる平組織で用いることが好ましい。耳締め糸の素材、種類、繊度はそれぞれ、地糸の種類、織密度により適宜選択される。耳締め糸は、高い張力をかけて製織するために、地糸の総繊度に対し80%以上の総繊度を有するマルチフィラメントが好適に用いられる。総繊度が地糸の80%未満である場合、高い張力をかけて製織することができず、フレアの防止効果が得られなくなる。使用される場合の耳締め糸の本数は、たとえば両端部に各4本から8本である。
【0030】
本実施形態においては、織物の地部の経糸クリンプ率が上記耳部の経糸クリンプ率よりも3%以上大きいことを特徴とする。また、耳部の経糸クリンプ率が地部の経糸クリンプ率よりも4%以上小さいほうがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。本実施形態における、耳部を構成する織糸は、経糸、絡み糸、増糸、耳締糸のいずれであってもよく、経糸、増糸、耳締め糸のいずれかであることが好ましい。一般的に、織物の「耳部」とは、織物の耳端から100mm以内の部分をいう。本実施形態でいう「耳部」は、織物の耳端から25mm以内の部分をいう。耳部の幅が大きいほど、緯糸の把持力が高くなり、織口の後退およびフレアの改善効果は高くなる。本実施形態の耳部は、織物の地部と織物としての特性が異なるため、エアバッグとして裁断するのに使用可能な部分が小さくなり、ロスが大きくなる場合がある。フレアの発生をより効果的に抑制するためには織物の耳部の幅を15mm以内にすることが好ましい。
【0031】
本実施形態においては、織物地部の経糸が耳部の経糸よりも繊度が大きい及び/又は撚り係数が小さいことが好ましい。織物耳部の経糸繊度を地部の経糸より低くすることによって、緯糸の把持力が高まるため好ましい。一方、織物耳部の経糸繊度を低くし過ぎると、強度低下によって製織時に糸切れが発生し、製織性が悪化するため、織物耳部の経糸繊度は地部の経糸より20%から80%であることが好ましく、30%から70%がより好ましく、40%から60%がさらに好ましい。また、織物耳部の経糸の撚り数は地部の経糸より高くすることによって、緯糸の把持力が高まるため好ましい。一方、織物耳部の経糸の撚り係数を高くし過ぎると、糸絡みが発生し、製織性が悪化するため、織物耳部の撚り係数は3.0から12.0が好ましく、4.0から11.0がより好ましく、5.0から10.0がさらに好ましい。本実施形態では織物耳部の経糸は地部の経糸よりも繊度が低い、又は撚り係数が高いどちらか一方のみでもフレアの発生を抑制する効果はあるが、併用することでより効果を得ることができる。
【0032】
ここで撚り係数kとは、経糸総繊度をD1(dtex)、撚り数をT(t/2.54cm)としたとき、次の式であらわされる。
撚り係数k=T×D1
1/2
【0033】
本実施形態では、織物断面における耳部の経糸のアスペクト比が2.0以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。一般的な織物の耳部を構成する経糸はアスペクト比が大きいため、緯糸クリンプ率は低くなり、緯糸を挟み込む把持力が小さく、カッターで緯糸を切断した際に織物地部に引き込まれることでフレアが発生する。一方で、本実施形態の織物は、織物耳部を構成する経糸のアスペクト比を2.0以下にすることによって、織物耳部を構成する緯糸のクリンプ構造が極端に変化し、織物耳部を構成する緯糸クリンプ率が通常の織物と比較して高くなる。これにより、織物耳部の経糸による緯糸の把持力が向上し、フレアの充分な抑制効果を得られる。
【0034】
本実施形態では織物耳部のカバーファクターが織物地部のカバーファクターよりも高いことが好ましい。織物耳部のカバーファクターを地部のカバーファクターより高くすることで、製織時の緯糸の把持力が向上し、フレアの充分な抑制効果を得られる。一方、カバーファクターを高くしすぎると、製織性が悪化しやすい。そのため、本実施形態では織物耳部のカバーファクターが織物地部のカバーファクターよりも1.02~1.10倍であることが好ましく、1.04~1.08倍であることがより好ましい。
【0035】
[エアバッグ用織物の製造方法]
本発明の一実施形態のエアバッグ用織物の製造方法(以下、単に織物の製造方法ともいう)は、上記実施形態の織物(エアバッグ用織物)の製造方法である。本実施形態のエアバッグ用織物の製造方法は、上記耳部の経糸張力を上記地部の経糸張力よりも1.2倍以上高くして製織することを特徴とする。そのため、以下に示される他の工程は、いずれも例示であり、公知の他の工程に置き換えられてもよい。
【0036】
本実施形態のエアバッグ用織物の製造方法によれば、まず、織物に関連して上記した総繊度の経糸が整経され、織機に設置される。同様に緯糸が織機に設置される。織機は、特に限定されない。高密度織物を製織する場合は全幅テンプル装置を備える織機を使用することが好ましい。織機は、ウォータージェットルーム、エアジェットルーム、レピアルーム等が例示される。これらの中でも、高速製織が比較的容易であり、生産性を高めやすい点から、織機は、ウォータージェットルームが好ましい。
【0037】
製織の際、織物の地部を構成する経糸1本あたりにかける張力は、0.2~0.5cN/dtexの範囲に調整されることが好ましい。経糸の張力が上記範囲内である場合、得られる織物は、織物を構成するマルチフィラメント糸の糸束中の単繊維間空隙が減少することにより、寸法安定性が向上し得る。経糸張力が0.2cN/dtex未満の場合、製織中における緯糸の拘束力が低く、経糸と緯糸とが同密度の織物が得られにくい。一方、経糸張力が0.5cN/dtexを超える場合、織物において、経糸と緯糸の接触面積(密着度)が大きくなりやすい。そのため、経糸が毛羽立ちやすく、製織性が劣りやすい。経糸張力を調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、経糸張力は、織機の経糸送り出し速度を調整する方法、緯糸の打ち込み密度を調整する方法等により調整し得る。なお、経糸張力が上記範囲であるかどうかは、たとえば織機稼働中に経糸ビームとバックローラーの中央部分とにおいて、経糸1本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、確認し得る。
【0038】
本実施形態のエアバッグ用織物の製造方法において、織機で製織される織物耳部の経糸張力を地部の経糸張力よりも1.2倍以上大きくして製織することを特徴とする。また、織物耳部の経糸張力を地部の経糸張力よりも1.5倍以上大きくすることがより好ましく、2.0倍以上大きくすることがさらに好ましい。製織時に経糸にかかる張力を大きくすると、緯糸の把持力がより大きくなり、織り前の耳部の織口の後退が抑制される。その結果、フレアの発生が、効果的に抑制され得る。
【0039】
織物耳部の経糸張力を調整する方法は特に限定されない。一例を上げると、織物耳部の経糸張力は、紙管やボビンなどから経糸を1本ずつ供給してスプリングワッシャーなどのテンサーで張力を管理する方法や、経糸ビームとは別に耳部の織糸用にビームを用意する方法、経糸ビームを整経する際に耳部の糸のみ巻取りの張力を変更する方法等により調整され得る。
【0040】
製織された織物は、次に、精練、熱セット等の加工が適宜施される。精練加工における精練温度は、20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。また、精練温度は、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。精練温度が20℃以上である場合、織物は、残留した歪みが除去され、マルチフィラメント糸内の単繊維フィラメント同士が動きやすくなり、マルチフィラメント糸が織物に対して扁平に広がり得る。そのため、織物は、寸法安定性が向上し得る。また、精練温度が80℃以下である場合、マルチフィラメントの大きな収縮が抑制される。その結果、織物は、寸法安定性が向上し得る。
【0041】
熱セットにおける熱セット温度は、精練と同じく、製織後の織物に残留した歪みを除去することができ、マルチフィラメント糸の大きな収縮を抑制し得る温度であることが好ましい。具体的には、熱セット温度は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また、熱セット温度は、190℃以下であることが好ましい。熱セット温度が上記範囲内である場合、得られる織物は、寸法安定性が向上し得る。
【0042】
以上の工程を経た織物は、樹脂やエラストマーのコーティングが適宜施されてもよい。本実施形態のエアバッグ用織物は、コーティングが施されることにより、非通気性が付与され得る。コーティングを施す場合、コーティング量は、5~35g/m2程度であることが好ましい。樹脂またはエラストマーとしては、耐熱性、耐寒性、難燃性を有するものが好ましい。樹脂またはエラストマーは、たとえば、シリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等が好適に用いられる。
【0043】
以上の工程を経た織物は、耳カットが適宜施されてもよい。織物は、耳カットが施されることにより、裁断時の位置調整が容易となる。耳カットで廃棄される織物の部位としては、織物の耳端から絡み糸、増糸、耳締め糸、熱セットでピン穴がつく耳端から25mm程度までの経糸までをカットする。耳部の織物として使用しない部位をカットすることで、裁断工程で積層可能な枚数が増え、裁断効率が向上し得る。
【0044】
以上、本実施形態のエアバッグ用織物の製造方法によれば、エアバッグ用織物製織時の耳端部の織口後退を抑制することでき、フレアを小さくすることができる。特に、製織後に行われる精練、セットさらにコーティング工程での加工通過性、均一塗布性に優れ、さらに、裁断性および縫製性に優れたエアバッグ用織物を提供することができる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に格別限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0046】
(1)合成繊維からなるエアバッグ用織物において、前記織物は地部と両端部の耳部とを備え、前記地部の経糸クリンプ率が前記耳部の経糸クリンプ率よりも3%以上大きい、エアバッグ用織物。
【0047】
(2)前記地部の経糸は、(i)前記耳部の経糸よりも繊度が大きいか、(ii)前記耳部の経糸よりも撚り係数が小さいか、または、(iii)前記耳部の経糸よりも繊度が大きく、かつ、前記耳部の経糸よりも撚り係数が小さい、(1)記載のエアバッグ用織物。
【0048】
(3)前記織物断面における前記耳部の経糸のアスペクト比が2.0以下であり、前記耳部のカバーファクターが前記地部のカバーファクターよりも大きい、(1)または(2)記載のエアバッグ用織物。
【0049】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載のエアバッグ用織物を製造する方法であり、前記耳部の経糸張力を前記地部の経糸張力よりも1.2倍以上高くして製織する、エアバッグ用織物の製造方法。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例において、それぞれの特性値は、以下の方法により算出した。
【0051】
<特性値の算出方法>
(総繊度)
総繊度は、JIS L 1013:2010 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定することにより算出した。
(撚り係数)
JIS L 1013:2010 8.13.1に従い、浅野機器(株)製の検撚機を用いて、つかみ間隔を50cmとして2.94mN×表示デシテックスの初荷重の下で試料を取り付け、撚り数を測定し、2倍して1mあたりの撚り数を求めた。下記式を用いて、撚り係数を算出した。
撚り係数k=T×D
1
1/2
なお、経糸総繊度をD
1(dtex)、撚り数をT(t/2.54cm)とする。
(織密度)
経糸および緯糸のそれぞれの織密度は、JIS L 1096:2010 8.6.1に基づいて算出した。具体的には、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5箇所について2.54cmの区間の経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
(カバーファクター)
カバーファクターはCF=(D
1×0.9)
1/2×N
1+(D
2×0.9)
1/2×N
2で算出した。
なお、経糸総繊度をD
1(dtex)、経密度をN
1(本/2.54cm)、緯糸総繊度をD
2(dtex)、緯密度をN
2(本/2.54cm)とする。
(クリンプ率)
クリンプ率は、JIS L 1096:2010 8.7(B法)に基づき測定した。
試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、織物の地部、耳部を構成する経糸それぞれ3ヵ所について200mmの距離に目印をつけ、この目印間の糸を解いて分解糸とし、JIS L 1013の5.1に規定された初荷重の下で真っすぐに張った長さをそれぞれ測定して平均値を算出し、変化長を計算した。
(アスペクト比)
織物地部及び耳部それぞれの経糸の中心部で厚み方向に切断し、それぞれ緯糸断面、経糸断面を得た。断面をSEM写真により観察し、織物厚み方向の単糸の広がり(a)に対して、経糸または緯糸方向(厚み方向と垂直の方向)の単糸の広がり(b)の比率(b/a)を織糸のアスペクト比として求めた(
図1参照)。織物の上下面につき(切断した断面の緯糸の上下に配置した経糸について)それぞれ5箇所(合計10箇所)測定し、平均値を求めた。
(織口接触タイミング・織口後退の評価)
織機にて、筬が最前位置から後退し、開口した経糸中に緯糸が挿入され、筬が前進して緯糸を打ち込むという一連の織機の周期的運動を織機の回転角0°~360°で表し、筬が最前位置となる状態を回転角0°として、筬が緯糸を打ち込む際に織口が接触する瞬間の回転角を測定し、織口接触タイミングとした。織口接触タイミングは、織機が運転して織物を製織している際に、織機用のタイミングライトを当てて測定し、織物の中央の地部と、緯糸の給糸側・反給糸側のそれぞれの耳部で測定し、耳部については給糸側・反給糸側の平均値を算出した。織口後退の評価は、地部と耳部の差を織口後退の大きさとして判断し、3°未満を「◎」、3°以上6°未満を「○」、6°以上8°未満を「△」、8°以上を「×」とした。
(織物のフレアの発生有無)
織りあがった織物を長さ1mにカットして平らな机上に広げて、耳部の最も浮き上がった部分の高さを1mm刻み(1mm未満の量は四捨五入)で測定し、両方の耳部の平均値を算出した。評価は、フレアの高さを大きさとして判断し、8mm未満を「◎」、8mm以上10mm未満を「○」、10mm以上12mm未満を「△」、12mm以上を「×」とした。また、耳崩れの発生した織物は「-」とした。
【0052】
<実施例1>
(経糸、緯糸)
経糸および緯糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が3.5dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度が470dtexであり、引張強度が8.5cN/dtex、伸度が23.5%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
【0053】
(製織)
上記の糸を地部糸として経糸、緯糸に用い、全幅テンプルを備えるウォータージェット織機を使用して、経糸の織密度55本/2.54cm、緯糸の織密度55本/2.54cm、織物幅210cmの平織物を製織した。その際、経糸張力を0.4cN/dtexに調整した。
【0054】
その際、織物の両方の耳部には絡み糸、増糸を使用した。絡み糸としては、22detexのナイロン66モノフィラメントを使用し、両方の耳部に2本ずつ、遊星装置から供給した。増糸は、絡み糸と同様の22dtexのナイロン66モノフィラメントを使用し、両方の耳部に8本ずつ、ボビンから供給した。織物耳部を構成する経糸としては、235dtexの撚り係数7.6で撚りを入れた合成繊維フィラメントを使用し、両方の耳部に24本ずつ使用した。織物耳部を構成する経糸は、供給時の張力を管理するため、織物耳部を構成する経糸を24本巻いたビームを両方の耳部に1つずつ用意し、経糸の供給速度をそれぞれ調整することで張力を調整した。耳部の経糸を供給するビームは、0.5cN/dtexに調整したものを用意し、耳端部側から順に24本、経糸の織密度が110本/2.54cmとなるように挿入し、製織した。
【0055】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は3%であり、アスペクト比は1.6%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は9%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。
【0056】
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、オープンソーパー型精練機にて65℃で精練し、40℃で湯洗いし、120℃で織物を乾燥させた。さらに、ピンテンター乾燥機を用いて、乾燥後の織物幅と同じ幅になるよう幅出し率を設定し、オーバーフィード率2%の寸法規制の下で、180℃にて60秒間、織物を熱セットした。得られた織物の特性を表1に示す。
【0057】
<実施例2>
経糸および緯糸の織密度をいずれも57本/2.54cm、耳部の経糸の織密度を114本/2.54cmと変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0058】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は3%であり、アスペクト比は1.7%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は10%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0059】
<実施例3>
経糸および緯糸の織密度をいずれも50本/2.54cm、耳部の経糸の織密度を100本/2.54cmと変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0060】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は3%であり、アスペクト比は1.5%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は7%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0061】
<実施例4>
経糸および緯糸の織密度をいずれも46本/2.54cm、耳部の経糸の織密度を100本/2.54cm、織物幅230cmと変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0062】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は3%であり、アスペクト比は1.3%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は6%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0063】
<実施例5>
経糸、緯糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が2.6dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度が350dtexであり、引張強度が8.5cN/dtex、伸度が24.5%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを使用し、織物地部の経糸の織密度62本/2.54cm、緯糸の織密度62本/2.54cm、耳部の経糸の織密度93本/2.54cmとする以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0064】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は3%であり、アスペクト比は1.5%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は8%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0065】
<実施例6>
織物耳部を構成する経糸総繊度を470dtex、撚り係数を5.4と変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0066】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は2%であり、アスペクト比は1.7%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は7%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0067】
<実施例7>
織物耳部を構成する経糸を無撚りと変更した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0068】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は3%であり、アスペクト比は1.7%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は6%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0069】
<実施例8>
製織工程で、耳部を構成する経糸を235dtexの撚り係数7.6の合成フィラメントを両方の耳部に24本ずつ使用し、24本の紙管からそれぞれ供給してスプリングワッシャー式のテンサーで張力を調整する方法を採用した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0070】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は4%であり、アスペクト比は1.7%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は9%であった。得られた織物は、耳たぶりが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0071】
<実施例9>
製織工程で、耳部を構成する経糸を235dtexの撚り係数7.6の合成フィラメントを両方の耳部に12本ずつ使用し、12本の紙管からそれぞれ供給してスプリングワッシャー式のテンサーで張力を調整する方法を採用した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0072】
製織では、耳部の織口後退を小さく抑えることができた。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は5%であり、アスペクト比は1.7%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は9%であった。得られた織物は、フレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好となった。得られた織物の特性を表1に示す。
【0073】
<比較例1>
製織工程で、耳部を構成する経糸を地糸と同じビームから0.4cN/dtexで供給すること以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0074】
製織では、耳部の織口後退が大きくなった。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は4%であり、アスペクト比は1.5%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は9%であった。得られた織物は、フレアが大きくなった。得られた織物の特性を表2に示す。
【0075】
<比較例2>
製織工程で、耳部を構成する経糸を地糸と同じビームから0.4cN/dtexで供給すること以外は、実施例2と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0076】
製織では、耳部の織口後退が大きく、耳部に毛羽が発生しクリンプ率等は測定できず、エアバッグ用織物としては使用できないものとなった。得られた織物の特性を表2に示す。
【0077】
<比較例3>
製織工程で、耳部を構成する経糸を地糸と同じビームから0.4cN/dtexで供給すること以外は、実施例3と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0078】
製織では、耳部の織口後退が大きくなった。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は6%であり、アスペクト比は3.1%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は7%であった。得られた織物は、フレアが大きくなった。得られた織物の特性を表2に示す。
【0079】
<比較例4>
製織工程で、耳部を構成する経糸を地糸と同じビームから0.4cN/dtexで供給すること以外は、実施例4と同様にエアバッグ用織物を作製した。
【0080】
製織では、耳部の織口後退が大きくなった。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は5%であり、アスペクト比は2.7%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は6%であった。得られた織物は、フレアが大きくなった。得られた織物の特性を表2に示す。
【0081】
<比較例5>
製織工程で、耳部を構成する経糸を235dtexの無撚りの合成フィラメントを両方の耳部に24本ずつ使用し、24本の紙管からそれぞれ供給してスプリングワッシャー式のテンサーで張力を調整する方法を採用した以外は、実施例1と同様にエアバッグ用織物を作製した。なお、織物耳部の供給張力を0.4cN/dtexに調整し、耳端部側から順に挿入し、製織した。
【0082】
製織では、耳部の織口後退が大きくなった。得られた織物耳部の経糸クリンプ率は7%であり、アスペクト比は2.3%であった。また、織物地部の経糸クリンプ率は9%であった。得られた織物は、フレアが大きくなった。得られた織物の特性を表2に示す。
【0083】
【0084】
表1に示されるように、実施例1~9で得られたエアバッグ用織物は、耳部の織口後退を小さく抑えることができたことで、得られた織物のフレアが小さく、耳締まり状態も均一で良好であった。
【0085】
【0086】
一方、表2に示されるように、比較例1、3~5で得られたエアバッグ用織物は、耳部の織口後退およびフレアが大きかった。また、比較例2で得られたエアバッグ用織物は、耳部の織口後退が大きく、耳崩れが発生し、耳締まり状態としてもほつれが観察された。さらに、比較例2で得られたエアバッグ用織物は、製織中に耳部に毛羽が発生したため織物に欠点が多く発生し、エアバッグ用織物としては使用できないものとなった。
【符号の説明】
【0087】
1 経糸
2 緯糸
3 緯糸の中央線
a 厚み方向の単糸の広がり
b 経糸または緯糸方向の単糸の広がり