(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】腸内細菌科を用いたトリペプチドγ-GLU-VAL-GLYの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240305BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20240305BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20240305BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20240305BHJP
C07K 5/093 20060101ALN20240305BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20240305BHJP
C12N 9/06 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C12N1/21
C12N15/53
C12N15/52 Z
C07K5/093
C12N9/00
C12N9/06 Z
(21)【出願番号】P 2020565907
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2019020305
(87)【国際公開番号】W WO2019225658
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-20
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストイノヴァ ナタリヤ ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】スイチョーヴァ エレナ ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】ゲラスキナ ナタリヤ ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】マトロソヴァ エレーナ ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】スミルノフ セルゲイ ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾子
(72)【発明者】
【氏名】東浦 英莉
(72)【発明者】
【氏名】岡本 京
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇敬
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恵利花
(72)【発明者】
【氏名】小田 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】田上 宇乃
(72)【発明者】
【氏名】柏木 立己
(72)【発明者】
【氏名】杉木 正之
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-146519(JP,A)
【文献】国際公開第2017/039001(WO,A1)
【文献】特開2017-046673(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133547(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115612(WO,A1)
【文献】特開2012-085637(JP,A)
【文献】特表2013-523085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-Glu-Val-Glyを製造する方法であって、
(i)腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属するγ-Glu-Val-Gly生産細菌を培養培地で
培養して培養培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にγ-Glu-Val-Glyを生産および蓄積させること、および
(ii)前記培養培地もしくは前記細菌の菌体、またはその両者からγ-Glu-Val-Glyを回収すること
を含み、
前記細菌が、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変され、
前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択され:
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿
入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;および
(C)配列番号2に示すアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含み、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
且つ、
前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択される、方法:
(D)配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(E)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿
入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、2-アミノ-3-オキソブタン酸コエン
ザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質;および
(F)配列番号4に示すアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含み、2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がtdh遺伝子であり、且つ、前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有
するタンパク質をコードする遺伝子がkbl遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択されるDNAにコードされ:
(a)配列番号1に示す塩基配列を含むDNA;
(b)配列番号1に示す配列に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列を含むDNA
であって、
前記ストリンジェントな条件が、同一性が90%以上のハイブリッドが形成され、同一性
が90%より低いハイブリッドが形成されない条件である;
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿
入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAであって
、該タンパク質がL-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するものであるDNA;および
(d)遺伝暗号の縮重による配列番号1の変異体塩基配列であるDNA;
且つ、
前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択されるDNAにコードされる、方法:
(e)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;
(f)配列番号3に示す配列に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列を含むDNA
であって、
前記ストリンジェントな条件が、同一性が90%以上のハイブリッドが形成され、同一性
が90%より低いハイブリッドが形成されない条件である;
(g)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿
入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAであって
、該タンパク質が2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するものであるDNA;および
(h)遺伝暗号の縮重による配列番号3の変異体塩基配列であるDNA。
【請求項4】
前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、それぞれ、下記からなる群より選択される方法により過剰発現しており、それら遺伝子の発現が非改変細菌と比較して増大している、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法:
(i)前記細菌におけるその遺伝子またはそれらの遺伝子のコピー数を増加させること;
(ii)前記細菌におけるその遺伝子またはそれらの遺伝子の発現制御領域を改変すること;および
(iii)それらの組み合わせ。
【請求項5】
前記細菌が、下記からなる群より選択される方法によりさらに改変されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法:
(iv)gcvP遺伝子の発現を弱化させること;
(v)sucABオペロン遺伝子の発現を弱化させること;
(vi)tolC遺伝子を過剰発現すること;または
(vii)ilvGMEDAオペロン遺伝子を過剰発現すること;および
(viii)それらの組み合わせ。
【請求項6】
前記ilvGMEDAオペロン遺伝子がアセト乳酸シンターゼIIをコードするilvG遺伝子を含み、該アセト乳酸シンターゼIIの活性が回復している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌が、エシェリヒア(Escherichia)属またはパントエア(Pantoea)属に属する
、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌が、γ-Glutamate-cysteine ligase(GshA)をコードする遺伝子およびGlutathione synthetase(GshB)をコードする遺伝子を過剰発現するように改変されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって
前記γ-Glutamate-cysteine ligaseが、下記からなる群より選択され:
(A)gshA50のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)gshA50のアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、γ-Glutamate-cysteine ligase活性を有するタンパク質;および
(C)gshA50のアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、γ-Glutamate-cysteine ligase活性を有するタンパク質;
且つ、
前記Glutathione synthetaseが、下記からなる群より選択される、方法:
(D)gshB
M165Fのアミノ酸配列を含むタンパク質;
(E)gshB
M165Fのアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、
および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、Glutathione synthetase活性を有するタンパク質;および
(F)gshB
M165Fのアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含
み、Glutathione synthetase活性を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物工業に関し、特にトリペプチドを、さらに特にはトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを製造する方法に関する。本発明の方法は、少なくともtdhおよびkbl遺伝子を過剰発現するように改変された腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌を使用する。
【背景技術】
【0002】
変異型微生物または各種薬剤に耐性の微生物を利用してアミノ酸およびペプチドを発酵生産する方法がこれまでに報告されている。このような変異株を生産する従来の方法としては、微生物に紫外線照射やニトロソグアニジン(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)による処理等の突然変異処理を施した後、適当な選択培地を用いて所望の株を選択する方法がある。あるいは、変異株は、所望のアミノ酸およびペプチドの生合成経路に関与する遺伝子を過剰発現させることを含む遺伝子工学的手法を用いて育種することもできる。
【0003】
γ-Glu-Val-Gly等のトリペプチドの生産は、従来、微生物の発酵を利用してではなく、化学的方法および酵素的方法により達成されてきた。例えば、WO 2015133547 A1には、様々な合成酵素を用いてγ-Glu-Valを生成し、次いでγ-Glu-Val-Glyを生成する多段階の方法が記載されている。WO 2014025023 A1には、基本的な酵素的方法および化学的方法を用いてγ-Glu-Val-Gly結晶を製造する方法が記載されている。しかし、γ-Glu-Val-Glyを生産するように設計された微生物の発酵の利用は、これまでに記載されていない。
【0004】
γ-Glu-Val-Glyは、食品業界および香料業界の両方で有用であることが知られている。例えば、このトリペプチドは、優れたコク味の質を有することが報告されており、それゆえに、フレーバーティー(WO 2015136841 A1)、アルコール飲料(Miyamura et al., J. Biosci. and Bioeng. (2015) 120(3):311-314)、調味料(Miyamura et al., Food Sci. and Technol. Res. (2014) 20(3):699-703)、および香辛料(WO 2014123175 A1)に用いられている。よって、微生物の発酵によるトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの効率的かつ上首尾な過剰生産が非常に望まれている。
【0005】
腸内細菌科の細菌の発酵によるトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの生産における、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ(L-threonine 3-dehydrogenase)および/または2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ(2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase)を
コードする遺伝子の過剰発現の影響については、これまでに報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のある側面は、γ-Glu-Val-Glyを製造する方法であって、
(i)腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属するγ-Glu-Val-Gly生産細菌を培養培地で
培養して培養培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にγ-Glu-Val-Glyを生産および蓄積させること、および
(ii)前記培養培地もしくは前記細菌の菌体、またはその両者からγ-Glu-Val-Glyを回収すること
を含み、
前記細菌が、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変されている、方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる側面は、前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質がtdh遺伝子にコードされ、且つ、前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガ
ーゼ活性を有するタンパク質がkbl遺伝子にコードされる、前記方法を提供することであ
る。
本発明のさらなる側面は、前記方法であって、
前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択され:
配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
配列番号2に示すアミノ酸配列において、約1~50個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;および
配列番号2に示すアミノ酸配列全体に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
且つ、
前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択される、方法:
配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
配列番号4に示すアミノ酸配列において、約1~50個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザ
イムAリガーゼ活性を有するタンパク質;および
配列番号4に示すアミノ酸配列全体に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質
を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる側面は、前記方法であって、
前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択されるDNAにコードされ:
配列番号1に示す塩基配列を含むDNA;
配列番号1に示す配列に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリ
ダイズ可能な塩基配列を含むDNA;
配列番号2に示すアミノ酸配列において、約1~50個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAであって、
該タンパク質がL-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するものであるDNA;および
遺伝暗号の縮重による配列番号1の変異体塩基配列であるDNA;
且つ、
前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択されるDNAにコードされる、方法:
配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;
配列番号3に示す配列に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリ
ダイズ可能な塩基配列を含むDNA;
配列番号4に示すアミノ酸配列において、約1~50個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAであって、
該タンパク質が2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するものであるDNA;および
遺伝暗号の縮重による配列番号3の変異体塩基配列であるDNA
を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる側面は、前記L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および前記2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、それぞれ、下記からなる群より選択される方
法により過剰発現しており、それら遺伝子の発現が非改変細菌と比較して増大している、前記方法を提供することである:
前記細菌におけるその遺伝子またはそれらの遺伝子のコピー数を増加させること;
前記細菌におけるその遺伝子またはそれらの遺伝子の発現制御領域を改変すること;および
それらの組み合わせ。
【0010】
本発明のさらなる側面は、前記細菌が、下記からなる群より選択される方法によりさらに改変されている、前記方法を提供することである:
gcvP遺伝子の発現を弱化させること;
sucABオペロン遺伝子の発現を弱化させること;
tolC遺伝子を過剰発現すること;
ilvGMEDAオペロン遺伝子を過剰発現すること;および
それらの組み合わせ。
【0011】
本発明のさらなる側面は、前記ilvGMEDAオペロン遺伝子がアセト乳酸シンターゼIIをコードするilvG遺伝子を含み、該アセト乳酸シンターゼIIの活性が回復している、前記方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる側面は、前記細菌が、エシェリヒア(Escherichia)属またはパント
エア(Pantoea)属に属する、前記方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる側面は、前記細菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)である、前記方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的、特徴、および付随する利点は、実施形態についての以下の詳細な説明を読めば当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.細菌
本明細書に記載の方法においては、L-スレオニン3-デヒドロゲナーゼ(L-threonine 3-dehydrogenase)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-アミノ-3-オキソブタン酸コエンザイムAリガーゼ(2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase)活性を有
するタンパク質をコードする遺伝子の両方を過剰発現するように改変された、いずれのγ-Glu-Val-Gly生産細菌も使用することができる。
【0015】
改変される細菌(すなわち、両遺伝子を過剰発現する改変の導入前の細菌)は、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の両方を過剰
発現するように改変でき、且つ、そのように改変された細菌(すなわち、両遺伝子を過剰発現する改変の導入後の細菌)がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できる限り、特に制限されない。細菌の例は後述する。
【0016】
改変の導入後の細菌について言及される「細菌がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できる」の用語は、改変の導入前の細菌はトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの生産能を有していなかったが、改変の導入によりトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの生産能を得たことを意味し得る。また、改変の導入後の細菌について言及される「細菌がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できる」の用語は、改変の導入により細菌がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できるようになったことを意味し得る。
【0017】
「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、「トリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できる細菌」の用語または「トリペプチドγ-Glu-Val-Glyの生産能を有する細菌」の用語と同等であり得る。「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、培養培地における当該細菌の発酵によりトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できる細菌を意味し得る。また、「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、当該細菌を培養培地で培養したときに、培地及び/又は菌体中にトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積できる細菌を意味し得る。「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、具体的には、当該細菌を培養培地で培養したときに、培地及び/又は菌体からトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを回収できる程度に、培地及び/又は菌体中にトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積できる細菌を意味し得る。「細菌が培地で培養(cultivate)される」
の用語は、「細菌が培地で培養(culture)される」の用語と同等であり得、これらの用
語は、当業者に公知である。また、「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、具体的には、非改変株、例えば、Escherichia coli (E. coli) K-12(E. coli K-12 MG1655を含む)等の野生株または親株と比較して、より多い量でトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを培地中に生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積できる細菌を意味し得る。また、「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、具体的には、0.01 g/L以上の量のトリペプチドγ-Glu-Val-Gly、例えば、0.1 g/l以上、0.5 g/l以上、または1.0 g/l以上の量のトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを培地及び/又は菌体中に生成し蓄積できる細菌を意味し得る。「γ-Glu-Val-Gly生産細菌」の用語は、特に、0.01 g/L以上の量のトリペプチドγ-Glu-Val-Gly、例えば
、0.1 g/l以上、0.5 g/l以上、または1.0 g/l以上の量のトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを
培地中に生成し蓄積できる細菌を意味し得る。
【0018】
「トリペプチドγ-Glu-Val-Gly」の用語(「γ-Glu-Val-Gly」(「γ-EVG」とも略記される)の用語と代替可能にまたは同等に用いられ得る)は、トリペプチド(鎖状に互いに共有結合している3つのアミノ酸残基を含むペプチド)を意味し得るものであって、本明細書に記載のトリペプチドはグリシン(Gly)残基を含み、Gly残基のアミノ基はバリン(Val)残基のカルボキシル基に結合しており、Val残基のアミノ基はグルタミン酸(Glu)
残基のカルボキシル基にγ-炭素原子で結合している(PubChem CID: 25099093)。
【0019】
細菌は、トリペプチドγ-Glu-Val-Glyを、遊離形態、またはその塩もしくは水和物、またはその付加物(すなわち、γ-Glu-Val-Glyと別の有機もしくは無機の化合物とによって形成された付加物)、またはそれらの混合物として生産し得る。よって、「γ-Glu-Val-Gly」の用語は、遊離形態のγ-Glu-Val-Glyに限られず、γ-Glu-Val-Glyの塩もしくは水和物、またはその付加物(すなわち、γ-Glu-Val-Glyと別の有機もしくは無機の化合物とによって形成された付加物)も包含してよい。すなわち、「γ-Glu-Val-Gly」の用語は、遊離形態のγ-Glu-Val-Gly、その塩もしくは水和物、その付加物、またはそれらの混合物を意味し得る。「γ-Glu-Val-Gly」の用語は、特に、遊離形態のγ-Glu-Val-Gly、その塩、またはそれらの混合物を意味し得る。また、細菌が、γ-Glu-Val-Glyを単独で、あるいはγ-Glu-Val-Glyとそれ以外の1種またはそれ以上のアミノ酸またはペプチドの混合物とし
て、生産し得ることも許容される。「L-アミノ酸」の用語は、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等のL-体のアミノ酸(アミノ酸のL-エナンチオマーともいう)を意味し得る。「ペプチド」の用語は、例えば、γ-Glu-ValやVal-Gly等のジペプチドを包含し得る。
【0020】
細菌は、本来的にトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できてもよく、トリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できるようになるように改変されてもよい。そのような改変は、例えば、変異法またはDNA組み換え技術により達成できる。すなわち、細菌は、本来的にトリペ
プチドγ-Glu-Val-Glyを生産できる細菌において、またはトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できるようになるように改変された細菌において、L-threonine 3-dehydrogenase活
性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現することにより取得できる。あるいは、細菌は、細菌がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できるようになるように、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰
発現することにより取得できる。すなわち、細菌は、改変された細菌がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できるように、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質
をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変され得る。
【0021】
本明細書に記載の細菌は、例えば、グラム陰性細菌であり得、グラム陰性細菌として、具体的には、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌が挙げられる。細菌に関する以下の説明は、本明細書に記載の方法で用いられるいずれの細菌にも準用できる。
【0022】
本明細書に記載の方法において、腸内細菌科に属する細菌は、エンテロバクター、エルビニア、エシェリヒア、クレブシエラ、モルガネラ、パントエア、フォトルハブドゥス、プロビデンシア、サルモネラ、イェルシニア等の属に属する細菌であり得、且つトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産でき得る。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=543)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌を使用することができる。改変され得る腸内細菌科の細菌の例としては、エシェリヒア(Escherichia)
、エンテロバクター(Enterobacter)、またはパントエア(Pantoea)属の細菌が挙げら
れる。
【0023】
改変することにより本明細書に記載のEscherichia属細菌を得ることができるEscherichia属細菌の株としては、特に限定されないが、具体的には、Neidhardtらの著書(Bachmann, B.J., Derivations and genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. In F.C. Neidhardt et al. (ed.), Escherichia coli and Salmonella: cellular and molecular biology, 2nd ed. ASM Press, Washington, D.C., 1996)に挙げられるものが使用できる。特に、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli (E. coli))が挙げられる。E. coliとして、具体的には、プロトタイプ野生株であるE. coli K-12株由来のE. coli W3110(ATCC 27325)やE. coli MG1655(ATCC 47076)等が挙げられる。これらの株は、上述の通り、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手することができる。Enterobacter属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等が挙げられ、Pantoea属細菌としてはパントエア・アナナティ
ス(Pantoea ananatis)等が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスのいくつかの株は、近年、16S rRNAの塩基配列解析などによりパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、またはパントエア
・スチューアルティ(Pantoea stewartii)に再分類されている。腸内細菌科に分類され
る細菌であれば、Enterobacter属またはPantoea属のいずれに属するものであっても使用
することができる。P. ananatis株を遺伝子工学的手法を用いて育種する場合には、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)、及びそれらの派生株を用いることができる。これらの株は、分離された当時はEnterobacter agglomeransと同定され、Enterobacter agglomeransとして寄託されたが、上記のとおり最近16S rRNAの塩基配列解析等によりP. ananatisに再分類されている。
【0024】
これらの株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC; Addr
ess: P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)から入手することができる。すなわち各菌株には対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して発注することができる(atcc.orgを参照)。各菌株の登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
【0025】
本明細書に記載の細菌は、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコ
ードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変されている。
【0026】
「L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質」の用語は、以下の反応:L-threonine + NAD+⇔L-2-amino-3-oxobutanoate + NADH + 2 H+を触媒するタンパク質を意
味し得る(Enzyme Commission (EC) number 1.1.1.103; Boylan S.A. and Dekker E.E., L-Threonine dehydrogenase. Purification and properties of the homogeneous enzyme
from E. coli K-12, J. Biol. Chem., 1981, 256(4):1809-1815)。例えば、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質およびそのホモログであってL-threonineのL-2-amino-3-oxobutanoateへのNAD+
依存的酸化反応を触媒するものを意味し得る。L-threonine 3-dehydrogenase活性を有す
るタンパク質の活性は、L-threonineからのaminoacetoneの形成を比色的に評価すること
により、または分光光度計を用いてNADHの形成を測定することにより、決定できる(Boylan S.A. and Dekker E.E., 1981およびその参考文献を参照のこと)。
「2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質」の用語は、以下の反応:glycine + acetyl-coenzyme A ⇔ L-2-amino-3-oxobutanoate + coenzyme A +
H+を触媒するタンパク質を意味し得る(EC 2.3.1.29; acetyl-coenzyme A is also referred to as Ac-CoA; Mukherjee J.J. and Dekker E.E., Purification, properties, and
N-terminal amino acid sequence of homogeneous E. coli 2-amino-3-ketobutyrate CoA ligase, a pyridoxal phosphate-dependent enzyme, J. Biol. Chem., 1987, 262:14441-14447)。例えば、2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク
質は、配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質およびそのホモログであって2-amino-3-oxobutanoateのglycineとacetyl-coenzyme Aへの開裂反応を触媒するものを意味
し得る。2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質の活性は、glycineとAc-CoAからのaminoacetoneの形成を比色的に評価することにより、またはcoenzyme A(CoAともいう)と5,5'-dithiobis-(2-nitrobenzoic acid)の縮合反応を412 nmで観察することにより、決定できる(例えば、Mukherjee J.J. and Dekker E.E., 1987およびその参考文献を参照のこと)。
【0027】
タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミン(BSA)を標準としてCoomassie色素を用いたBradfordタンパク質アッセイまたはLowry法により決定することができる(Bradford M.M., Anal. Biochem., 1976, 72:248-254; Lowry O.H. et al., J. Biol. Chem., 1951, 193:265-275)。
【0028】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。配列番号2に示すアミノ酸配列は、tdh遺伝子に相当する配列番号1に示す塩基配列にコードされ得る。すなわち、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質としては、tdh遺伝子が挙げられる。E. coliのtdh遺伝
子は、L-threonine 3-dehydrogenase TDH, NAD(P)-binding(KEGG, Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, entry No. b3616; Protein Knowledgebase, UniProtKB/Swiss-Prot, accession No. P07913)をコードする。tdh遺伝子(GenBank, accession No. NC_000913.3; nucleotide positions: 3790320 to 3791345, complement; Gene ID: 948139)は、E. coli K-12株の染色体において、kbl遺伝子とwaaH遺伝子の間にそれらと同一鎖上に
位置している。tdh遺伝子の塩基配列(配列番号1)およびE. coliのtdh遺伝子にコードさ
れるTDHタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)は既知である。さらに、種々の細菌種からのTDHのホモログ、例えば、配列番号2のTDHを有するE. coli (同一性: 100%), Shigella flexneri (同一性: 99%), Salmonella enteric (同一性: 98%), Klebsiella pneumonia
(同一性: 97%), Enterobacter cloacae (同一性: 96%), P. ananatis (同一性: 86%)種
を包含する腸内細菌科(Enterobacteriaceae);Burkholderia mallei (同一性: 77%)やParaburkholderia xenovorans (同一性: 76%)種を包含するバークホルデルリア科(Burkholderiaceae);Rhizobium etli (同一性: 71%)種を包含するリゾビウム科(Rhizobiaceae);Xanthomonas axonopodis (同一性: 64%)種を包含するキサントモナス科(Xanthomonadaceae);等に属する細菌由来のホモログも知られている(例えば、the NCBI database,
National Center for Biotechnology Information, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/を参照のこと)。よって、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質と
しては、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質のホモログであるタンパク質
も挙げられる。
【0029】
2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質としては、配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。配列番号4に示すアミノ酸配列は、kbl遺伝子に相当する配列番号3に示す塩基配列にコードされ得る。すなわち、2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質としては、kbl遺伝子が挙
げられる。E. coliのkbl遺伝子は、2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase KBL(別名:2-amino-3-ketobutyrate coenzyme A ligase, 2-amino-3-oxobutanoate glycine-lyase (CoA-acetylating), glycine C-acetyltransferase, aminoacetone synthetase, aminoacetone synthase)(KEGG, entry No. b3617; Protein Knowledgebase, UniProtKB/Swiss-Prot, accession No. P0AB77)をコードする。kbl遺伝子(GenBank, accession No. NC_000913.3; nucleotide positions: 3791355 to 3792551, complement; Gene ID: 948138)は、E. coli K-12株の染色体において、yibB遺伝子とtdh遺伝子の間にそれらと同一鎖上に位置している。kbl遺伝子の塩基配列(配列番号3)およびE. coliのkbl遺伝子にコードされるKBLタンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)は既知である。さらに、種々の細菌種からのKBLのホモログ、例えば、配列番号4のKBLを有するE. coli (同一性: 100%), Shigella dysenteriae (同一性: 99%), Citrobacter farmer (同一性: 97%), Salmonella enterica (同一性: 97%), P. ananatis (同一性: 82%)種を包含する腸内細菌科(Enterobacteriaceae);Serratia marcescens (同一性: 88%)種を包含するイエルシニア科(Yersiniaceae);Xenorhabdus khoisanae (同一性: 83%)種を包含するモルガネラ科(Morganellaceae);Erwinia sp. 9145 (同一性: 82%)種を包含するエルヴィニア科(Erwiniaceae);Lysobacter spongiicola (同一性: 67%)やStenotrophomonas maltophilia (同一性: 66%)種を包含するキサントモナス科(Xanthomonadaceae);等に属する細菌由来のホモログも知られている(例えば、the NCBI databaseを参照のこと)。よって、2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質としては、配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質のホモログであるタンパク質も挙げられる。
【0030】
「細菌がL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子お
よび2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変された」の用語は、改変された細菌において、非改変株と比較して、L-threonineのL-2-amino-3-oxobutanoateへのNAD+依存的酸化反応を触媒する
対応する遺伝子産物の総活性および2-amino-3-oxobutanoateのglycineとacetyl-coenzyme
Aへの開裂反応を触媒する対応する遺伝子産物の総活性の両方が増加するように、あるいはL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベ
ル(すなわち発現量)および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)の両方が増加するように、細菌が改変されていることを意味し得る。「非改変株」の用語は、上記比較のための対照となり得る細菌株を意味し得る。「非改変株」の用語を、「非改変細菌」または「非改変
細菌株」ともいう。非改変株としては、Escherichia属またはPantoea属に属する細菌(E.
coliやP. ananatisを包含する)等の腸内細菌科に属する細菌の野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、E. coli株MG1655 (ATCC 47076) やW3110 (ATCC 27325)、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)が挙げられる。
【0031】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過
剰発現するように改変された細菌は、例えば、非改変株(例えば、野生株または親株)と比較して、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子お
よび2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを増加させる(すなわち増強する)ことにより、またはそれらの遺伝子にコードされるタンパク質の分子あたりの活性(比活性ともいう)を増加させることにより、L-threonineのL-2-amino-3-oxobutanoateへのNAD+依存的酸化反応を触媒する対応す
る遺伝子産物の総活性および2-amino-3-oxobutanoateのglycineとacetyl-coenzyme Aへの開裂反応を触媒する対応する遺伝子産物の総活性の両方が増加した細菌であり得る。タンパク質の総活性の増加は、例えば、細胞当たりのタンパク質の活性(それは細胞当たりのタンパク質の平均活性であってよい)の増加として測定され得る。細菌は、細胞あたりのL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質の活性および/または細胞あたり
の2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質の活性が、例えば、非改変株における同タンパク質の活性の150%以上、200%以上、または300%以上に増加するように改変されてよい。
【0032】
「細菌がL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子お
よび2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変された」の用語は、細菌が、非改変株(例えば、野生株または親株)と比較して、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコード
する遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)の両方が増加するように、細菌が改変されていることを意味し得る。よって、「遺伝子が過剰発現される」の用語は、「遺伝子の発現が増強されるまたは増加する」の用語または「遺伝子の発現レベルが増強されるまたは増加する」の用語と同等であり得る。遺伝子の発現レベルの増加は、例えば、細胞当たりの遺伝子の発現レベル(それは細胞当たりの遺伝子の平均発現レベルであってよい)の増加として測定され得る。細菌は、細胞あたりのL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルおよ
び/または2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルが、例えば、非改変株における同遺伝子の発現レベルの150%以上、200%以上、または300%以上に増加するように改変されてよい。
【0033】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の過
剰発現に関する上述の記載は、これらの遺伝子それぞれに独立に適用され得る。
【0034】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の両
方を過剰発現するように細菌を改変する方法、および本明細書に記載の細菌においてL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現を増
強するために用いられ得る方法は、改変のために選択した細菌に依存してよい。遺伝子の過剰発現を達成できる限り、遺伝子を過剰発現するいずれの方法でも利用してよい。よって、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-a
mino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は
、遺伝子を過剰発現する1つの方法により過剰発現されてもよく、遺伝子を過剰発現する種々の方法により過剰発現されてもよい。
【0035】
遺伝子の発現を増強するために使用することができる方法としては、限定するものではないが、遺伝子のコピー数、例えば、細菌の染色体における遺伝子のコピー数および/または細菌に保持された自律複製するプラスミドにおける遺伝子のコピー数、を増加させることが挙げられる。遺伝子のコピー数は、例えば、遺伝子を細菌の染色体に導入すること、および/または、遺伝子を含む自律複製するプラスミドを細菌に導入することにより、増加させることができる。そのような遺伝子のコピー数の増加は、当業者に既知の遺伝子工学的手法により実施できる。
【0036】
ベクターとしては、限定するものではないが、pMW118/119、pBR322、pUC19等の広宿主
域プラスミドが挙げられる。L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコ
ードする遺伝子および/または2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の複数コピーを、例えば、相同組み換えまたはMuドリブンインテグレーション等によって細菌の染色体DNAに導入することもできる。各遺伝子は、
1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体DNA中に複数のコピーが存在する配列をターゲットとして相同組み換えを実施するこ
とにより、染色体DNAに複数コピーの遺伝子を導入することができる。染色体DNA中に複数のコピーで存在する配列としては、限定するものではないが、レペティティブDNAや転移
因子の末端に存在するインバーテッドリピートが挙げられる。さらに、遺伝子をトランスポゾンに組み込んで転移させることにより、染色体DNAに複数コピーの遺伝子を導入する
ことができる。Mu-driven integrationにより、1度の操作で3コピー以上の遺伝子を染
色体DNAに導入することができる(Akhverdyan V.Z. et al., Biotechnol. (Russian), 2007, 3:3-20)。
【0037】
本明細書に記載の細菌は、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコ
ードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の導入後にそれらの遺伝子が細菌中に存在するように、それらの遺伝子を過剰発現するように改変することができる。また、細菌は、改変された細菌においてL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質の活性および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質の活性が決定できるように改変するこ
とができる。すなわち、本来的または天然にはL-threonine 3-dehydrogenase活性を有す
るタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を有しないいずれの細菌でも、本明細書に記載されたように、改変された細菌においてL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパ
ク質の活性および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質の活性が決定でき、且つ改変された細菌がトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを生産できるように、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過
剰発現するように改変できる限り、使用され得る。
【0038】
本明細書に記載の細菌は、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコ
ードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を有するように改変されている。L-threonine 3-dehydrogenase活
性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、それらの遺伝子が異なる核酸分子上に存在するようにして細菌において過剰発現され得る。あるいは、それらの遺伝子は、それらの遺伝子が1つの核酸分子上に存在するようにして細菌に導入され得る。例えば、L-
threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、1つ
の発現ベクターまたは染色体上に存在してよい。あるいは、それらの遺伝子は、2つの異なる発現ベクター上に存在してよい。あるいは、一方の遺伝子が1つの発現ベクター上に存在し、他方の遺伝子が染色体上に存在してよい。
【0039】
腸内細菌科に属する細菌は本明細書に記載の細菌の一例であるため、腸内細菌科に属する細菌においてL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝
子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する方法について以下に記載する。
【0040】
腸内細菌科に属する細菌においてL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク
質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する方法は、同遺伝子を有する核酸(DNA)を腸
内細菌科の細菌に導入することであり得る。核酸(例えば、遺伝子やベクター等)を腸内細菌科の細菌に導入する方法としては、限定するものではないが、当業者に既知の遺伝子工学的手法が挙げられ、特に限定されない。本明細書に記載の細菌にいて、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、プラスミド等の
染色体外で自律複製するベクター上に存在し得るし、染色体に組み込まれてもよい。さらに、上述の通り、本明細書に記載の細菌を構築するためには、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme
A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の導入ならびにトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの生産能の付与または増強はいずれの順番でも実施できる。
【0041】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発
現を増強するために使用することができる他の方法としては、それらの遺伝子の発現制御領域を改変することにより、それらの遺伝子の発現レベルを増加させることが挙げられる。それらの遺伝子の発現制御領域は、例えば、それらの遺伝子の本来(native)の発現制御領域を天然(native)の及び/又は改変された外来の発現制御領域を導入することにより、改変することができる。「発現制御領域」の用語を、「発現制御配列」ともいう。L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質および/または2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がオペロン構造を形
成している場合、それらの遺伝子の発現を増強するために使用することができる方法としては、それらの遺伝子を有するオペロンの発現制御領域を改変することにより、同オペロンの発現レベルを増加させることが挙げられ、改変は、例えば、同オペロンの本来(native)の発現制御領域を天然(native)の及び/又は改変された外来の発現制御領域で置換することにより実施することができる。この方法では、L-threonine 3-dehydrogenase活
性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含む、オペロン内の1つまたはそれ以上の遺伝子の発現を同時に増強することができる。
【0042】
発現制御領域としては、プロモーター、エンハンサー、アテニュエーターと終結シグナル、抗終結シグナル、リボソーム結合部位(RBS)、及びその他の発現制御エレメント(
例えば、リプレッサーまたはインデューサーが結合する領域、及び/又は、例えば転写されたmRNA中の転写及び翻訳の制御タンパク質の結合部位)が挙げられる。このような制御領域は、例えばSambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されている。遺伝子の発現制御領域の改変は、遺伝子のコピー数の増加と組み合わせても
よい(例えば、Akhverdyan V.Z. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, 91:857-871; Tyo K.E.J. et al., Nature Biotechnol., 2009, 27:760-765を参照)。
【0043】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発
現を増強するのに適したプロモーターの例としては、それらの遺伝子の本来のプロモーターより強い強力なプロモーターが挙げられる。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoH
プロモーター、msrAプロモーター、Pm1プロモーター(Bifidobacterium属由来)、ならびにラムダファージのPRおよびPLプロモーターはいずれも強力なプロモーターとして知られている。腸内細菌科に属する細菌中で高いレベルの遺伝子発現を与える強力なプロモーターを使用することができる。あるいは、プロモーターの効果は、例えば、遺伝子のプロモーター領域に変異を導入することでより強いプロモーター機能を得て、以て、該プロモーターの下流に位置する遺伝子の転写レベルを増加させることにより、増強することができる。さらに、シャイン・ダルガルノ(SD)配列、及び/又はSD配列と開始コドンの間のスペーサー、及び/又はリボソーム結合部位中の開始コドンの直ぐ上流または下流の配列における数個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に大きく影響することが知られている。例えば、開始コドンに先行する3つのヌクレオチドの性質に依存して、20倍の範囲の発
現レベルが見出されている(Gold L. et al., Annu. Rev. Microbiol., 1981, 35:365-403; Hui A. et al., EMBO J., 1984, 3:623-629)。
【0044】
遺伝子のコピー数、または遺伝子の存在あるいは不在は、例えば、染色体DNAを制限処
理した後、遺伝子配列に基づいたプローブを使用するサザンブロッテイング、または蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)等を行うことにより、測定することができる。
遺伝子発現のレベルは、ノーザンブロッティングや定量的RT-PCR等の様々な周知の方法を使用して遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより決定することができる。遺伝子によってコードされるタンパク質の量は、SDS-PAGEと、その後のイムノブロッティングアッセイ(ウェスタンブロッティング分析)やタンパク質試料の質量分析等の公知の方法により測定することができる。
【0045】
プラスミドDNAの調製、DNAの切断、DNAの結合、DNAの形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択、変異の導入等の、DNAの組み換え分子の操作及び分子クローニ
ングのための方法は、当業者に周知の通常の方法であってよい。そのような方法は、例えば、Sambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A Laboratory
Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、あるいはGreen M.R. and Sambrook J.R., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)、Bernard R. Glick, Jack J. Pasternak and Cheryl L. Patten, “Molecular Biotechnology: principles and applications of recombinant DNA”, 4th ed., Washington, DC, ASM Press (2009)に記載されている。
【0046】
組み換えDNAを用いた操作法としては、例えば、形質転換、トランスフェクション、感
染、接合、可動等の従来の方法を含め、任意の方法を用いることができる。タンパク質をコードするDNAを用いた細菌の形質転換、トランスフェクション、感染、接合、または可
動により、当該細菌に当該DNAによりコードされるタンパク質を合成する能力を付与する
ことができる。形質転換、トランスフェクション、感染、接合、および可動の方法としては、任意の方法が挙げられる。例えば、効率的なDNAの形質転換およびトランスフェクシ
ョンのために、E. coliK-12の細胞のDNAに対する透過性が高まるように受容細胞を塩化カルシウムで処理する方法が報告されている(Mandel M. and Higa A., Calcium-dependent
bacteriophage DNA infection, J. Mol. Biol., 1970, 53:159-162)。特殊化および/
または一般化された形質転換の方法が記載されている(Morse M.L. et al., Transductio
n in Escherichia coli K-12, Genetics, 1956, 41(1):142-156; Miller J.H., Experiments in Molecular Genetics. Cold Spring Harbor, N.Y.: Cold Spring Harbor La. Press, 1972)。宿主微生物へのDNAのランダムおよび/または標的化された組み込みのための他の方法、例えば、「Mu-driven integration/amplification」(Akhverdyan et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, 91:857-871)、「Red/ET-driven integration」ま
たは「λRed/ET-mediated integration」(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97(12):6640-45; Zhang Y., et al., Nature Genet., 1998, 20:123-128)、を適用できる。さらに、所望の遺伝子の多重挿入のためには、Mu駆動の複製的転移(Akhverdyan et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, 91:857-871)や所
望の遺伝子の増幅をもたらすrecA依存性相同組み換えに基づく化学的に誘導可能な染色体進化(Tyo K.E.J. et al., Nature Biotechnol., 2009, 27:760-765)に加えて、転移、
部位特異的および/または相同的なRed/ET媒介組み換え、および/またはP1媒介一般化形質導入の種々の組み合わせを利用する方法(例えば、Minaeva N. et al., BMC Biotechnology, 2008, 8:63; Koma D. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, 93(2):815-829を参照のこと)を利用できる。
【0047】
腸内細菌科に属する細菌以外の細菌種においてL-threonine 3-dehydrogenase活性を有
するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する方法については、腸内細菌科に属する細菌のために本明細書に記載された方法を参照して準用でき、または当業者に既知の方法を使用できる。さらに、腸内細菌科に属する細菌における遺伝子の過剰発現に適した一般的な方法の使用は、通常の技術の範囲である。さらに、腸内細菌科に属する細菌における遺伝子の過剰発現に適した方法は、適宜改変し他の細菌種において遺伝子を過剰発現するために使用できるし、逆も同様である。よって、本明細書に記載の遺伝子を過剰発現する方法は、事実上、本明細書に記載のいずれの細菌にも適用してよい。
【0048】
以下、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の変
異体およびL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質の変異体、具体的には
、E. coli固有のそれら変異体、について記載する。そのような遺伝子およびタンパク質
の変異体に関する以下の記載は、E. coli以外の細菌種に固有の遺伝子であってL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子およびコードされるタンパク質や、2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子およびコードされるタンパク質を包含する、いずれの遺伝子およびタンパク質にも準用できる。
【0049】
細菌の科、属、種、または株間でDNA配列に相違があり得る。従って、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列
を有する遺伝子に限定されず、配列番号1の変異体塩基配列を有し、且つL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を包含してもよい。同様に、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質に限定されず、配列番号2の変異体アミノ酸配列を有し、且つL-threonine 3-dehydrogenase活性を有する遺伝子を包含してもよい。そのような変異体塩基配列または変異体アミノ酸配列としては、上記例示したL-threonine 3-dehydrogenase活性を有
するタンパク質をコードする遺伝子または上記例示したL-threonine 3-dehydrogenase活
性を有するタンパク質のホモログや人為的改変体が挙げられる。
【0050】
「変異体タンパク質」の用語は、配列番号2の変異体アミノ酸配列を有するタンパク質
を意味し得る。
【0051】
「変異体タンパク質」の用語は、具体的には、配列番号2に示すアミノ酸配列と比較し
て、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加のいずれであるに
せよ、1つまたはそれ以上の変異を配列中に有するタンパク質であって、本明細書に記載
のL-threonine 3-dehydrogenase活性が維持されているか、その三次元構造が非改変型タ
ンパク質(例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、等)に対して有
意には変更されていないタンパク質を意味し得る。変異体タンパク質中の変異の数は、タンパク質の三次元構造中のアミノ酸残基の位置またはアミノ酸残基の種類による。変異体タンパク質中の変更の数は、厳密に限定されるものではないが、配列番号2において1~50、別の例では1~30、別の例では1~15、別の例では1~10、あるいは別の例では1~5であ
ってよい。これは、アミノ酸は互いに高い相同性を有し得るものであり、それらアミノ酸間の変異によっては、タンパク質の活性が影響されないか、タンパク質の三次元構造が非改変型タンパク質に対して有意には変化しないから可能である。従って、変異体タンパク質は、L-threonine 3-dehydrogenase活性が維持されているか、タンパク質の三次元構造
が非改変型タンパク質(例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、等
)に対して有意には変更されていない限り、配列番号2のアミノ酸配列全体に対して60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、あるいは99%以上の、コンピュータプログラムBLASTを使用する際のパラメーター「同一性」として定義される相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。
【0052】
1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例としては、保存的変異が挙げられる。保存的変異の代表的なものは保存的置換であり得る。保存的置換は、限定するものではないが、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Ala、Leu、Ile、Val間で、置換部位
が親水性アミノ酸である場合にはGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、His、Thr間で、置換部位が
極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、置換部位が塩基性アミノ酸である場合にはLys、Arg、His間で、置換部位が酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、置換部位
がヒドロキシル基を有するアミノ酸である場合には、Ser、Thr間で、互いに置換する置換である。保存的置換の例としては、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからAsn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、Met
からIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへ
の置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、及びValからMet、IleまたはLeuへの置換が挙げられる。
1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例としては、非保存的変異も挙げられるが、ただし、その変異は、アミノ酸配列の異なる位置の1つまた
はそれ以上の第2の変異により、L-threonine 3-dehydrogenase活性が維持されるか、あるいは非改変型タンパク質(例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、
等)に対してタンパク質の三次元構造が有意には変更されないように、補償されるものである。
【0053】
タンパク質またはDNAの相同性の程度を評価するためには、いくつかの計算方法、例え
ばBLAST検索、FASTA検索、及びClustalW法を使用することができる。BLAST(Basic Local
Alignment Search Tool, www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)検索は、プログラムblastp、blastn、blastx、megablast、tblastn、及びtblastxにより使用される発見的探索アルゴリズムであり、これらのプログラムは、Karlin S.及びAltschul S.F.の統計学的方法 (“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features
by using general scoring schemes” Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:2264-22
68; “Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90:5873-5877)を使用して、有意
性を発見物に帰着させるものである。コンピュータプログラムBLASTは3つのパラメーター、すなわち、スコア、同一性、及び類似性、を計算する。FASTA検索法は、Pearson W.R.
により記載されている(“Rapid and sensitive sequence comparison with FASTP and FASTA”, Methods Enzymol., 1990, 183:63-98)。ClustalW法は、Thompson J.D. et al.
によって記載されている(“CLUSTAL W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice”, Nucleic Acids Res., 1994, 22:4673-4680)。本明細書において、「相同性(homology)」の用語は、アミノ酸配列または塩基配列間の同一性である「同一性(identity)」を意味してよい。2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大のアラインメントが得られるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。なお、アミノ酸配列間の「同一性」とは、具体的には、特記しない限り、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出される同一性を意味してよい。また、塩基配列間の「同一性」とは、具体的には、特記しない限り、blastnによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出される同一性を意味してよい。
【0054】
「変異体塩基配列」の用語は、標準遺伝子暗号表(例えば、Lewin B., “Genes VIII”, 2004, Pearson Education, Inc., Upper Saddle River, NJ 07458を参照)による任意
の同義のアミノ酸コドンを使用して配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質等
のL-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を意味し
得る。従って、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝
子は、遺伝暗号の縮重による変異体塩基配列を有する遺伝子であり得る。
【0055】
また、「変異体塩基配列」の用語は、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタン
パク質をコードする限り、配列番号1に示す配列に相補的な塩基配列と、または該塩基配
列から調製し得るプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列も意味し得る。「ストリンジェントな条件」の用語は、特異的なハイブリッド、例えばコンピュータプログラムBLASTを使用する場合のパラメーター「同一性」として定義され
る相同性が60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上のハイブリッド、が形成され、非特異的なハイブリッド、例えば上記より相同性が低いハイブリッド、が形成されない条件を包含し得る。ストリンジェントな条件としては、例えば、1×SSC(標準クエン酸ナトリウムまたは標準塩化ナトリウム)、0.1% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の塩濃度で60℃において、0.1×SSC、0.1% SDSの塩濃度で60℃において、または0.1×SSC、0.1% SDSの塩濃度で65℃において1回以上、別の例では2または3回洗浄する条件が挙げられる。洗浄時間は、ブロッティングに使用されたメンブレンの種類に依存し得るが、一般的には製造者により推奨されるものとすべきである。例えば、Amersham HybondTM-N+正荷電ナイロンメンブレン(GE Healthcare)のストリンジェントな条件下での推奨洗浄時間は15分である。洗浄
工程は2または3回行うことができる。プローブとしては、配列番号1に示す配列に相補
的な配列の一部を使用してもよい。そのようなプローブは、配列番号1に示す配列に基づ
いて調製されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、プローブとして使用され得る塩基配列を含むDNA断片を鋳型として使用するPCR(polymerase chain reaction;White T.J. et al., The polymerase chain reaction, Trends Genet., 1989, 5:185-189を
参照のこと)によって調製することができる。プローブの長さは、50 bpを超えることが
推奨されるが、ハイブリゼーション条件により適切に選択することができ、通常100 bp
~1 kbpである。例えば、約300 bpの長さを有するDNA断片をプローブとして使用する場合
、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件は、例えば、50℃、60℃、または65℃における2
×SSC、0.1%SDSの条件であり得る。
【0056】
「変異体塩基配列」の用語は、変異体タンパク質をコードする塩基配列も意味し得る。
【0057】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードするE. coli固有の遺伝子の塩基配列は既に解明されている(上記参照)ので、L-threonine 3-dehydrogenase活
性を有するタンパク質をコードするE. coli固有の遺伝子またはその変異体塩基配列は、E. coliのDNAとE. coli固有のtdh遺伝子の塩基配列に基づいて調製したオリゴヌクレオチ
ドプライマーを用いたPCRによるE. coliからのクローニングにより、tdh遺伝子を含むDNAを例えばヒドロキシルアミンでin vitro処理する突然変異法またはtdh遺伝子有するE. coliを紫外線(UV)照射もしくはそのような処理に通常用いられるN-メチル-N'-ニトロ-ニ
トロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の変異剤で処理する突然変異法により、または全長
遺伝子構造物として化学合成することにより、取得できる。L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする他の生物(E. coli以外の腸内細菌科の細菌、等)に固有の遺伝子またはその変異体塩基配列も同様に取得できる。
【0058】
遺伝子(例えば、「非改変遺伝子」)およびタンパク質(例えば、「非改変タンパク質」)を参照する際の「非改変(non-modified)」の用語(これは、「生来の(native)」、「天然の(natural)」、または「野生型(wild-type)」の用語と同等であり得る)は、それぞれ、生物において、具体的には、細菌の非改変株、例えば、腸内細菌科の細菌の野生株(例えば、E. coli MG1655株 (ATCC 47076)、E. coli W3110株 (ATCC 27325)、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)、等)において、天然に存在し、天然に発現し、且つ/又は天然に生成する生来の遺伝子および生来のタンパク質を意味し得る。非改変遺伝子は、非改変タンパク質をコードし得る。
【0059】
特定の生物種、例えば、細菌種等、に固有のタンパク質または核酸に言及する際の「固有の(native to)」の用語は、当該種に固有のタンパク質または核酸を意味し得る。す
なわち、特定の種に固有のタンパク質または核酸は、それぞれ、当該種に天然に存在するタンパク質または核酸を意味し得る。特定の種に固有のタンパク質または核酸は、当該種から単離でき、当業者に知られた方法により配列解析できる。さらに、タンパク質または核酸が存在する種からそれぞれ単離されたタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列は容易に決定することができるので、タンパク質または核酸に言及する際の「固有の」の用語は、得られるタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列が当該種に天然に存在するタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列と同一である限り、任意の手段、例えば、組み換えDNA技術を含む遺伝子工学的手法または化学合成法等、に
より得られるタンパク質または核酸も意味し得る。「タンパク質」の用語は、限定されるものではないが、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、酵素等を包含し得る。「核酸」の用語は、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)を包含し得
、限定されるものではないが、特に、プロモーター、アテニュエーター、ターミネーター等を含む調節配列、遺伝子、遺伝子間配列、シグナルペプチド、タンパク質のプロ部位、人工アミノ酸配列等をコードする配列を包含し得る。アミノ酸配列および塩基配列ならびに様々な種に固有のそれらのホモログの具体例は、本明細書に記載する。E. coli固有の
タンパク質として、具体的には、配列番号2と4に示すアミノ酸配列をそれぞれ有するTDH
とKBLが挙げられる。E. coli固有の遺伝子として、具体的には、配列番号1と3に示す塩基配列をそれぞれ有するtdhとkbl遺伝子が挙げられる。
【0060】
発現の下方制御(すなわち、発現の弱化)または遺伝子の過剰発現のいずれかにより発現が変更される他の遺伝子もあり、そのような変更は、本明細書に記載の細菌の培養時のトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの生産に正の効果があり得る。細菌は、そのような変更を有
するように改変されていてよい。細菌は、具体的には、そのような変更のいずれか1つまたはいずれかの組み合わせを有するように改変されていてよい。
【0061】
「細菌が遺伝子の発現が弱化するように改変されている」の用語は、改変された細菌において、非改変株と比較して、対応する遺伝子産物の総活性が低下するように、あるいは遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)が低下するように、細菌が改変されていることを意味し得る。細菌は、標的遺伝子にコードされるタンパク質の細胞あたりの活性が、例えば、非改変株における同タンパク質の活性の50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、また
は0%に低下するように改変されてよい。細菌は、標的遺伝子の細胞あたりの発現レベルが、例えば、非改変株における同遺伝子の発現レベルの50%以下、20%以下、10%以下、5%以
下、または0%に低下するように改変されてよい。
【0062】
L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の過
剰発現に関する上述の記載は、他の遺伝子にも準用できる。
【0063】
遺伝子の発現を弱化する、または遺伝子を過剰発現する具体的な方法は、当業者に周知である。遺伝子の発現弱化は、例えば、遺伝子を破壊または欠失することにより達成できる。遺伝子の過剰発現は、例えば、L-threonine 3-dehydrogenase活性を有するタンパク
質をコードする遺伝子および2-amino-3-oxobutanoate coenzyme A ligase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現と同様に達成できる。
【0064】
そのような変更としては、グリシン分解を防止する酵素やグルタミン酸生合成を増大させる酵素をコードする遺伝子の発現を弱化することが挙げられる。これらの変更は、gcvP遺伝子の発現を弱化することやsucABオペロン遺伝子の発現を弱化することを包含し得る
。gcvP遺伝子は、グリシンの開裂系の構成要素をコードしており、それはグリシンの脱炭酸反応によるグリシン分解を防止する(Yishai et al., ACS Synth Biol. 2017;6(9):1722-1731)。sucAB遺伝子は、2-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(2-ketoglutarate dehydrogenase;KGDH)の2つのサブユニットをコードする。sucAB遺伝子の発現弱化(例えば
、同遺伝子にコードされるタンパク質の活性の低下)により、KGDH活性が低下し得る。例えば、sucAB遺伝子の発現弱化によりKGDH活性が60%低下し、以てグルタミン酸蓄積が3倍に増大したことが報告されている(US 7,604,979 B2)。KGDH活性の低下は、グルタミン
酸合成における正の影響によりγ-Glu-Val-Gly生産に有効である。
【0065】
そのような変更としては、L-バリンの生産に関与するタンパク質やトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの排出に関与するタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現も挙げられる。これらの変更は、ilvGMEDAオペロン遺伝子(U.S. Patent No. 5,998,178 A)やtolC遺伝子の
過剰発現を包含し得る。tolC遺伝子は、種々の三方向排出複合体(tripartite efflux complexes)の外膜タンパク質をコードする(Benz R. et al., TolC of Escherichia coli functions as an outer membrane channel, Zentralbl. Bakteriol., 1993, 278(2-3):187-196)。ilvGMEDAオペロンは、ilvG遺伝子にコードされるアセトヒドロキシ酸シンター
ゼII(acetohydroxylic acid synthase II;AHAS II)の活性の再生をもたらす変異を有
するilvG遺伝子を含み得る(Russian Patent No. 2212447 C2; U.S. Patent No. 9,896,704 B2)。
【0066】
細菌は、本発明の範囲から逸脱することなく、上記のような性質に加えて、様々な栄養要求性、薬物耐性、薬物感受性、薬物依存性等の特定の性質を有することができる。
【0067】
2.方法
細菌を用いてトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを製造する本明細書に記載の方法は、前記細
菌を培養培地で培養(cultivating(culturingともいう))してγ-Glu-Val-Glyを培養培地もしくは菌体、またはその両者中に生成させ、排出もしくは分泌させ、且つ/又は蓄積させる工程と、培養培地及び/又は菌体からγ-Glu-Val-Glyを回収する工程を含む。同方法は、任意で(optionally)、培養培地及び/又は菌体から対象のトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを精製する工程を含み得る。γ-Glu-Val-Glyは、上記のような形態で製造され得る。γ-Glu-Val-Glyは、特に、遊離形態、もしくはその塩、またはそれらの混合物として製造され得る。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩が、前記方法により製造され得る。これは、アミノ酸が発酵条件下で、互いに、あるいは無機または有機の酸またはアルカリ性物質等の中和剤と、典型的な酸塩基中和反応により反応して塩を生成し得ることから可能であり、これは当業者に明らかなアミノ酸の化学的特徴である。
【0068】
細菌の培養、ならびに培地等からのトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの回収および任意で精製は、微生物を使用してL-アミノ酸を製造する従来の発酵法と同様に実施することができる。培養培地は、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、無機イオン、並びにその他の有機及び無機成分を必要に応じて含む典型的な培地等の、合成培地あるいは天然培地でよい。炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、澱粉加水分解物等の糖類、エタノール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール等のアルコール、グルコン酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸、および脂肪酸等を使用することができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物等の有機窒素、アンモニアガス、およびアンモニア水等を使用することができる。さらに、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、およびコーンスティープリカー等も使用することができる。培地は、これらの窒素源の1種またはそれ以上を含むことができる。硫黄源としては、硫酸アンモニウム、
硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン等が挙げられる。培地は、炭素源、窒素源、及び硫黄源に加えて、リン源を含んでもよい。リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ピロ燐酸等のリン酸ポリマー等を使用することができる。ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチンアミド、ビタミンB12等のビタミン
や、その他の必要物質、例えばアデニン、RNA等の核酸、アミノ酸、ペプトン、カザミノ
酸、酵母エキス等の有機栄養素等を、適当量(痕跡量であってもよい)存在させることができる。これら以外に、必要であれば、少量のリン酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を加えてもよい。
【0069】
培養は、トリペプチドγ-Glu-Val-Glyの製造法で選択した細菌の培養に適した条件で実施することができる。例えば、培養は、好気的条件下で16~72時間、または32~48時間実施することができる。培養中の培養温度は、30~45℃、または30~37℃の範囲内に制御することができる。pHは、5~8の間、または6~7.5の間に調節することができる。pHは、無機もしくは有機の酸性またはアルカリ性物質、例えば、尿素、炭酸カルシウム、またはアンモニアガス、を使用することにより調節することができる。
【0070】
培養後、培養培地からトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを回収することができる。具体的には、菌体外に存在するトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを培養培地から回収することができる。また、培養後、菌体からトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを回収することができ、具体的には、菌体を破砕し、菌体や菌体破砕懸濁物(細胞デブリともいう)等の固形分を除去して上清を取得し、上清からトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを回収することができる。菌体の破砕は、例えば、高周波音波を用いた超音波破砕等の周知の方法により実施することができる。固形分の除去は、例えば、遠心分離または膜ろ過により実施することができる。培養培地や上清等からのトリペプチドγ-Glu-Val-Glyの回収は、例えば、濃縮、晶析、イオン交換クロマトグラフィー、中圧または高圧の液体クロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせ等の慣用の技術により実施することができる。
【実施例】
【0071】
以下、下記の非限定的な実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0072】
実施例1:E. coliのγ-EVG生産株の構築
E. coli MG1655 PL-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165F株(L1029-1)を、モデルγ-EVG生産株として構築した。そのために、MG1655 ilvG*MEDA ilvH**株を出発物質として用いた。MG1655 ilvG*MEDA ilvH**株は、E. coli K-12 株substr. MG1655 (ATCC 47076)から、従来の組み換え法および/または遺伝子化学合成法を用いて構築することができる。MG1655 ilvG*MEDA ilvH**株は、ilvG遺伝子
に野生型ilvG遺伝子のフレームシフトを復元する変異(具体的には、遺伝子の開始から981位、配列TGActggcaの上流に2つの塩基対(AA)挿入されているilvG5変異であり、野生型タンパク質の配列……PLNQ&が……PLNQNDW……で置換される)を有し、それによりacetohydroxyacid synthase II(AHAS II)活性が回復しており(Russian Patent No. 2212447 C2; U.S. Patent No. 9,896,704 B2)、acetolactate synthase III(AHAS III)の小サ
ブユニットにおける17SerのPheへの置換および14GlyのAspへの置換をもたらす2つの変異
もilvH遺伝子に付与している(U.S. Patent No. 6,737,255 B2)。MG1655 ilvG*MEDA ilvH**株においてバリンを過剰生産するために、DatsenkoおよびWanner(Datsenko K.A. and
Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:12:6640-45)により開発された
「λRed-dependent integration」と呼ばれる方法を用いて、改変されたShine-Dalgarno
配列SD1(pET22プラスミドからのSD配列)に連結されたファージλのPLプロモーターを含む人工制御領域で生来のilvG*MEDAオペロンを置換した。この手順に従って、PCRプライマーP1(配列番号5)およびP2(配列番号6)を構築した。オリゴヌクレオチドP1(配列番号5)は、ilvG遺伝子の上流の領域およびクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)の隣接領域(これはBW25113 cat-PL-yddGの染色体DNAから得られた)に相同性がある。BW25113 cat-PL-yddGの取得については、詳細に記載されている(EP1449918A1, Russian patent RU2222596 C1)。BW25113 cat-PL-yddG株は、PCRの鋳型として使用した。オリゴヌクレオチ
ドP2(配列番号6)は、ilvG領域およびPLプロモーターの下流の領域(これは鋳型染色
体から得られたものでありSD1配列を含む)の両方に相同性がある。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分間の変性;最初の2サイクルのプロファイル:95℃で1分、34℃で30秒、72℃で80秒;最後の30サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒;最終ステップ:72℃で5分。結果として生じたDNA断片(1957 bp;配列番号7)をア
ガロースゲルで精製し、温度感受性レプリコンを有するヘルパープラスミドpKD46を含むE. coli MG1655株へのエレクトロポレーションに使用した。プラスミドpKD46(Datsenko, K.A. and Wanner, B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97 (12):6640-45)は、ファージλ(GenBank, accession No. J02459)からの2,154 nt(31088-33241)のDNA断片
を含み、アラビノース誘導性ParaBプロモーターの制御下にあるλRed相同組み換えシステムの遺伝子(gamma, beta, exo遺伝子)を含む。プラスミドpKD46は、DNA断片を細菌の染色体に組み込むために必要である。
【0073】
エレクトロコンピテントセルは以下のようにして調製した。E. coli MG1655株を、アンピシリン(100 mg/L)を含むLB培地(Sambrook, J. and Russell, D.W., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))において、30℃で一晩生育させ、培養物をアンピシリン(100 mg/L)及びL-アラビ
ノース(1 mM)を含む5 mL のSOB培地(Sambrook, J. Fritsch, E.F. and Maniatis, T.,
“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))で100倍に希釈した。菌体を、通気(250 rpm)しながら30℃でOD600
が約0.6になるまで生育させた後、100倍に濃縮し、氷冷した脱イオン水で3回洗浄するこ
とによりエレクトロコンピテント化した。エレクトロポレーションは、200 μlの菌体及
び約100 ngのDNA断片(配列番号7)を使用して実施した。その後、菌体を1 mL のSOC培地
(Sambrook, J. Fritsch, E.F. and Maniatis, T., “Molecular Cloning: A Laboratory
Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))において37℃で2.5時間培養し、LB培地、寒天(1.5%)、及びクロラムフェニコール(20 μg/mL)を含むプレート上に植菌し、37℃で増殖させてクロラムフェニコール耐性(CmR)組み換え体を選
択した。その後、pKD46プラスミドを脱落させるため、Cm(20 μg/mL)を含むL-アガーで42℃で1回継代し、結果として生じた各コロニーのアンピシリン感受性を試験した。このようにしてMG1655 cat-PL-SD1-ilvG*MEDA株を得た。
【0074】
ilvG*MEDAオペロンの生来の調節領域がクロラムフェニコール耐性遺伝子で標識されたPL-SD1プロモーターで置換されたことは、ローカス特異的プライマーP3(配列番号8)およびP4(配列番号9)を用いたPCRにより確認した。PCR検証の条件は、以下の通りであった
:95℃で3分間の変性;25サイクルのプロファイル:95℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。MG1655株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ566 bpであった(配列番号10)。MG1655 cat-PL-SD1-ilvG*MEDA株の菌体を鋳型とした
反応で得られたDNA断片は、長さ2055 bpであった(配列番号11)。MG1655 cat-PL-SD1-ilvG*MEDA株からCmRマーカーを除去するために、菌体をプラスミドpMW118-int-xis (ApR)(WO2005/010175)で形質転換した。ApRクローンを、150 mg/Lアンピシリンを含むLB-agar
プレート上で30℃で生育させた。数十個のApRクローンをピックアップし、クロラムフェ
ニコール感受性を試験した。プラスミドpMW118-int-xisは、LB寒天プレート上で42℃で培養することにより、CmS菌体から除去した。こうしてMG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA株を得た。
【0075】
γ-Glutamate-cysteine ligase(GshA)は、γ-EVG生合成の第一段階を触媒する。GshAをコードするgshA遺伝子の発現を増加させるために、発現カセットΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50(gshA50は、GshAL135F/Q144Aを意味する(US2016326510 A1))をP1トラン
スダクション(Sambrook et al, “Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))によりMG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA
株に導入した。発現カセットΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50の構築は、参考例3に記
載されている。カナマイシン耐性トランスダクション体を選択し、ローカスプライマーP5(配列番号12)およびP6(配列番号13)を用いたPCRにより検証した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:95℃で3分間の変性ステップ;25サイクルのプロファイル:95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。親株MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDAの菌体を鋳型とした反応では、DNA断片はなかった。MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片(配列番号14)の長さ
は1850 ntであった。MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50から上記のようにしてカナマイシン耐性(KmR)マーカーを除去した。その結果、MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50株を得た。
【0076】
Glutathione synthetase(GshB)は、γ-EVG生合成の第二段階を触媒する。Glutathione synthetaseを過剰発現させるために、γ-EV基質に対する選択性が向上した変異型glutathione (γ-EVG) synthetaseをコードするカセットattB φ80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165F(参考例4)をP1トランスダクションによりMG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50株に導入した。ドナー株MG1655 attB φ80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165Fは、参考例1に詳細に記載されているように構築することができる。KmRトランスダクシ
ョン体を選択し、ローカスプライマーP7(配列番号33)およびP8(配列番号34)を用いたPCRにより検証した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:95℃で3分間の変性ステッ
プ;25サイクルのプロファイル:95℃で30秒、61℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。親株MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50の菌体を鋳型と
した反応では、DNA断片はなかった。MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB phi80::KmR-Ptac4071φ10-gshB*M165F株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片(配列番号36)の長さは1917 ntであった。その結果、MG1655 PL-ilvG*MEDA ΔicdC
::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165F株(L1029-1)を得た。
【0077】
実施例2:γ-EVG生産におけるkbl-tdhオペロン過剰発現の正の効果
γ-EVG前駆体を提供するために、kbl-tdhオペロンの制御領域を改変した、すなわち、
上述したRed-dependent integration(Datsenko, K.A. and Wanner, B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97 (12):6640-45)により、kbl-tdhオペロンの生来のプロモーター領域をファージλのPLプロモーターに置換した。この手順に従って、PCRプライマーP9
(配列番号15)およびP10(配列番号16)を構築した。オリゴヌクレオチドP9(配列番号15)は、PCRの鋳型として用いたMG1655 cat-PL-SD1-ilvG*MEDA株(実施例1)の染色体DNA中のkbl遺伝子の上流の領域およびクロラムフェニコール耐性遺伝子の隣接領域に相同性
がある。オリゴヌクレオチドP10(配列番号16)は、MG1655 cat-PL-SD1-ilvG*MEDA株の染色体中のkbl領域およびPLプロモーターの下流の領域の両方に相同性がある。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分間の変性;最初の2サイクルのプロファイル:95℃で1分
、34℃で30秒、72℃で80秒;最後の30サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒;最終ステップ:72℃で5分。得られたDNA断片(1969 bp;配列番号17)を
「Silica Bead DNA Gel Extraction Kit」(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むE. coli MG1655株のエレクトロポレーションに使用した。エレクトロポレーション後、クロラムフェニコール耐性組み換え体を選択した。kbl-tdhオペロンの生来の調
節領域がCm耐性遺伝子で標識されたPL-SD1プロモーターで置換されたことは、ローカス特異的プライマーP11(配列番号18)およびP12(配列番号19)を用いたPCRにより確認した
。PCR検証の条件は、以下の通りであった:95℃で3分間の変性;30サイクルのプロファイル:95℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。MG1655株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ482 ntであった(配列番号20)。MG1655 cat-PL-kbl-tdh株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ2273 ntであった(配列番号21)。このようにして、MG1655 cat-PL-SD1-kbl-tdh株を得た。
【0078】
次に、発現カセットcat-PL-SD1-kbl-tdhをP1トランスダクションによりγ-EVG生産株MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165F(L1029-1)に導入した。その結果、MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attBφ80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165Fcat-PL-SD1-kbl-tdh株(L1031-1)
を得た。L1031-1株を親株L1029-1と比較して評価したところ、γ-EVG生産におけるkbl-tdhオペロン過剰発現の正の効果が実証され(表1)、すなわち、γ-EVGの生産が3.5倍以上に増加し、且つ、予想通り副生物であるγ-EVの生産が低下した。
【0079】
【0080】
実施例3:γ-EVG生産におけるgcvP遺伝子破壊の正の影響
グリシン脱炭酸酵素(glycine decarboxylase)反応によるグリシン分解を防ぐために
、上述したRed-dependent integrationにより、グリシンの開裂系の構成要素をコードす
るgcvP遺伝子を欠失させた。この手順に従って、鋳型プラスミド中のgcvP遺伝子とカナマイシン耐性を付与する遺伝子に隣接する領域の両方に相同なPCRプライマーP13(配列番号22)およびP14(配列番号23)を構築した。プラスミドpMW118-(λattL-Km-λattR)(EP2100957 A1)をPCR反応の鋳型として用いた。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分
間の変性ステップ;最初の2サイクルのプロファイル:95℃で1分、34℃で30秒、72℃で80秒;最後の28サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒;最終ステップ:72℃で5分。得られたDNA断片(1614 bp;配列番号24)を「Silica Bead DNA Gel Extraction Kit」(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むE. coli MG1655株のエレクトロポレーションに使用した。カナマイシン耐性組み換え体を選択し、選択
された変異体におけるKmR遺伝子で標識されたgcvP遺伝子の欠失を、ローカス特異的プラ
イマーP15(配列番号25)およびP16(配列番号26)を用いたPCRにより検証した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:95℃で3分間の変性ステップ;25サイクルのプロファイ
ル:95℃で30秒、59℃で30秒、72℃で2分;最終ステップ:72℃で7分。親のgcvP+株MG1655の染色体DNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ3136 ntであった(配列番号27)。変異株MG1655 ΔgcvP::KmRの染色体DNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ1803 ntであった(配列番号28)。その結果、MG1655 ΔgcvP::KmR株を得た。MG1655ΔgcvP::KmR株を、MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attBφ80::Ptac4071φ10-gshBM165F cat-PL-SD1-kbl-tdh株(これはL1031-1株からKmRマーカーの切り出し
により得られた)へのgcvP遺伝子の欠失のP1媒介導入のドナーとして用いた。その結果、MG1655 PL-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::Ptac4071φ10-gshBM165
F cat-PL-SD1-kbl-tdhΔgcvP::KmR株(L1033-1)が選抜された。L1033-1株の評価により
、γ-EVG生産におけるgcvP遺伝子破壊の正の効果が明らかとなり、且つ、予想通り副産物であるγ-EVが減少した(表2)。
【0081】
【0082】
実施例4:γ-EVG生産におけるilvGMEDAオペロン発現の正の効果
γ-EVG生産におけるilvGMEDAオペロン発現の効果を実証するために、MG1655 PL-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::Ptac4071φ10-gshBM165Fcat-PL-SD1-kbl-tdhΔgcvP::Km株(L1033-1)の発現カセットPL-SD1-ilvG*MEDAを野生型ilvGMEDAオペロ
ンに置換した。このために、まず、MG1655 PL-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::Ptac4071φ10-gshBM165F PL-SD1-kbl-tdhΔgcvP::KmR株(L1034-1)を、CmR
マーカー消去によりL1033-1株より得た。次いで、L1034-1株の発現カセットPL-SD1-ilvG*MEDAをP1トランスダクションにより発現カセットPL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DAに置換した。ドナー株として用いたMG1655 PL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DA株は、参考例2に詳細
に記載したように構築することができる。こうして、最小培地での生育にイソロイシンとバリンを要求するL1034-1 PL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DA株を得た。
【0083】
次いで、L1034-1 PL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DA株の染色体の発現カセットPL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DAを、E. coli MG1655株からのP1トランスダクションにより野生型ilvG
MEDAオペロンに置換し、原栄養性のトランスダクション体をM9最小培地で選抜した。MG1655 ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::Ptac4071φ10-gshBM165FPL-SD1-kbl-tdh
ΔgcvP::KmR株(L1040-1)における野生型ilvGMEDAオペロンの回復は、を、ローカス特異的プライマーP3(配列番号8)およびP4(配列番号9)を用いたPCRにより検証した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:94℃で5分間の変性ステップ;25サイクルのプロファ
イル:94℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。親株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ458 ntであった(配列番号29)。L1040-1株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ566 ntであった(配列番号10)。表3か
ら分かるように、L1040-1株の染色体において効率的なPL-SD1-ilvGMEDA発現カセットを野生型ilvGMEDAオペロンに置換することで、L1034-1株と比較して、γ-EVG生産が顕著に低
下した。
【0084】
【0085】
実施例5:γ-EVG生産におけるsucAB発現の正の効果
2-ketoglutarate dehydrogenase(KGDH)活性の低下は、Glu合成における正の影響によりγ-EVG生産に有用であると考えられていた。KGDHの2つのサブユニットをコードするsucAB遺伝子のダウンレギュレーションは、生来(native)のプロモーターをPtac由来の人工プロモーターであるPtac21に置換することによって以前に達成さた(US 7,604,979 B2)
。E. coliにおいて、発現カセットcassette cat-Ptac21-sucABはKGDH活性を60 %低下させ、以てGlu蓄積を3倍に上昇させると実証されている(US 7,604,979 B2)。このカセットを、P1トランスダクションによりγ-EVG生産株MG1655 PL-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::Ptac4071φ10-gshBM165FPL-SD1-kbl-tdhΔgcvP::KmR(L1034-1)にも導入した。しかし、流加EVG培養では、γ-EVGまたはγ-EVの蓄積における正の効果は観察されなかった。しかし、フラスコを培養に用いた場合には、sucAB遺伝子のダウンレ
ギュレーションによる正の効果(表4)、すなわち、γ-EVG産生量が約2.5倍に増加する効
果が観察された。明らかに、フラスコとジャーの通気条件の違いが、評価結果の違いの主な要因であった。
【0086】
【0087】
実験手順:ストックチューブの菌体(25 % glycerol, 0.9 % NaClで-70oCで保存)L-アガー(酵母エキス (Dia-M) 5 g/L, ペプトン (Dia-M) 10 g/L, NaCl 5 g/L, 寒天 15 g/L)に播種した。プレート表面の約半分の菌体を40 mLのMS(+pyr)培地(表5)に植菌し、30℃で24時間、回転式振とう機で培養した。その後、終濃度が20 g/Lとなるように追加の
グルコースを添加した。この添加後、各株を30℃で24時間、回転式振とう機で培養した。総培養時間は48時間であった。
【0088】
【0089】
実施例6:γ-EVG生産におけるtolC過剰発現の正の影響
γ-EVGの排出を向上させるために、種々の三方向排出複合体(tripartite efflux complexes)に関与する外膜タンパク質をコードするtolC遺伝子(Benz R. et al., 1993)の
発現を増加させた。このために、発現カセットcat-PLtac-tolC(参考例5)を、P1トランスダクションによりγ-EVG生産株MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::Ptac4071φ10-gshA50 attB φ80::Ptac4071φ10-gshBM165FPL-SD1-kbl-tdhΔgcvP::KmR(L1034-1)に導入し
た。得られた株L1034-1 cat-PLtac-tolC(L1036-1)を親株と比較して評価したところ、
γ-EVG生産におけるtolC過剰発現の正の効果、すなわち、tolC過剰発現時におけるγ-EVG生産の25%超の増大が実証された(表6)。
【0090】
【0091】
参考例1:カセットattB phi80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165Fの構築
gshBM165F遺伝子を含むDNA断片を、プラスミドpUC19-EcGshB*M165F(参考例4)から、組み込みベクターpAH162-λattL-TcR-λattR(Minaeva N.I., et al. Dual-In/Out strategy for genes integration into bacterial chromosome: a novel approach to step-by-step construction of plasmid-less marker-less recombinant E. coli strains with predesigned genome structure. BMC Biotechnology, 2008, 8:63)にPstI/SacI制限部位を用いて再クローニングし、送達プラスミドpAH162-GshB*M165Fを得た。gshBM165F遺伝子は、φ80インテグラーゼ媒介組み換え(Minaeva N.I., et al., 2008)により、生来のφ80ローカスに挿入された。次いで、高い発現量を得るために、上述したRed-dependent integration法により、調節領域Ptac4071φ10をgshBM165F遺伝子の上流に導入した。この手順に従って、PCRプライマーP17(配列番号30)およびP18(配列番号31)を構築した。オ
リゴヌクレオチドP17(配列番号30)は、PCRの鋳型として用いたMG1655 PL-SD1-kbl-tdh ΔgcvP PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50株の染色体DNA中のgshBM165F遺伝子の上流の領域およびKmR遺伝子の隣接領域に相同性がある。オリゴヌクレオチドP18(配列番号31)は、MG1655 PL-SD1-kbl-tdh ΔgcvP PL-SD1-ilvG*MEDA ΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50株の染色体中のgshBM165F領域およびPtac4071φ10制御領域の下流の領
域の両方に相同性がある。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分間の変性;最初の
2サイクルのプロファイル:95℃で1分、34℃で30秒、72℃で80秒;最後の30サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒;最終ステップ:72℃で5分。結果と
して生じた1721 bp のDNA断片(配列番号32)を「Silica Bead DNA Gel Extraction Kit
」(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655 attB phi80::gshBM165F株のエレクトロポレーションに使用した。カナマイシン耐性組み換え体を選択し、KmR
耐性遺伝子で標識されたPtac4071φ10プロモーターの導入を、ローカス特異的プライマーP7(配列番号33)およびP8(配列番号34)を用いたPCRにより確認した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:94℃で5分間の変性;25サイクルのプロファイル:94℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。MG1655株を鋳型とした反応で得られ
たDNA断片は、長さ274 ntであった(配列番号35)。MG1655 attB phi80::KmR-Ptac4071φ10-gshB*M165F株を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ1917 ntであった(配列番
号36)。その結果、MG1655 attB phi80::KmR-Ptac4071φ10-gshBM165F株を得た。
【0092】
参考例2:カセットPL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DAの構築
カセットPL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DAは、上述したRed-dependent integration法に
より構築した。この手順に従って、PCRプライマーP19(配列番号37)およびP20(配列番
号38)を構築した。これらのプライマーは、鋳型プラスミドpMW-attL-Cm-attR(PCT application WO 05/010175)に含まれるilvE遺伝子の隣接領域とクロラムフェニコール耐性を付与する遺伝子の両方に相同性がある。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分間の変性ステップ;最初の2サイクルのプロファイル:95℃で1分、34℃で30秒、72℃で80秒;最後の28サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒;最終ステップ:72℃で7分。得られたDNA断片(1713 bp;配列番号39)を「Silica Bead DNA Gel Extraction Kit」(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655 PL-SD1-ilvG*MEDA株のエレクトロポレーションに使用した。クロラムフェニコール耐性組み換え体を選択し、選択された変異体におけるCmR遺伝子で標識されたilvE遺伝子の欠失を、ローカ
ス特異的プライマーP21(配列番号40)およびP22(配列番号41)を用いたPCRにより検証
した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:94℃で5分間の変性ステップ;25サイクルのプロファイル:94℃で30秒、57℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。親株MG1655 PL-SD1-ilvG*MEDAを鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ1354 ntであった
(配列番号42)。MG1655 PL-SD1-ilvG*M-ΔilvE::cat-DA株を鋳型とした反応で得られたDNA断片は、長さ2015 ntであった(配列番号43)。
【0093】
参考例3:発現カセットΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50の構築
pSF12-gshA*50(US2016326510 A1に記載)を鋳型として、プライマーペアP23(配列番
号44)およびP24(配列番号45)を用いてPCRを実施し、化学合成したPtac4071f10断片(
配列番号46)との融合PCRのためにgshA*50断片の端部に足場ヌクレオチドを付加した。次いで、足場付きgshA*50断片とPtac4071f10断片を混合し、プライマーペアP24(配列番号45)およびP25(配列番号47)を用いた融合PCRの鋳型として使用し、Ptac4071f10-gshA*50断片を構築した。Ptac4071f10-gshA*50断片を、in-fusion技術(In-Fusion HD cloning Kit, Clontech)により、pMW118-attL-kan-attRプラスミド(特開2005-058227, WO2005/010175)のXbaI制限部位にクローニングした。構築したプラスミドを、pMW118-attL-kan-attR-Ptac4071f10-gshA*50と命名した。pMW118-attL-kan-attR-Ptac4071f10-gshA*50を鋳型とし、プライマーペアP26(配列番号48)およびP27(配列番号49)を用いたPCRにより、KmR-Ptac4071f10-gshA50カセットを増幅した。得られたDNA断片をλ-red技術(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97(12):6640-45; Zhang Y., et al., Nature Genet., 1998, 20:123-128)によりE. coli K-12 MG1655株(ATCC 47076)に導入した。構築した株を、MG1655ΔicdC::attL-kan-attR-Ptac4071f10-gshA*50(カ
セットΔicdC::KmR-Ptac4071φ10-gshA50を保持する)と命名した。
【0094】
参考例4:カセットattB φ80::CatR-Ptac4071φ10-gshBM165Fの構築
まず、gshB発現プラスミドpUC19-Plac-gshBを調製した。MG1655株の染色体DNAを鋳型とし、プライマーペアP28(配列番号50)およびP29(配列番号51)を用いてgshB断片を増幅した。gshB断片を、in-fusion技術(In-Fusion HD cloning Kit, Clontech)により、pUC19(New England Biolabs)のXbaI部位にクローニングした。次いで、pUC19-Plac-gshBを鋳型とし、プライマーペアP30(配列番号52)およびP31(配列番号53)を用いてPCRを実
施し、pUC19-Plac-gshB*M165Fを調製した。得られたPCR断片をDpnIで消化してPCR鋳型のpUC19-Plac-gshBを分解した後、PCR溶液でコンピテントセルJM109(Takara Bioより入手可能)を形質転換し、gshB*M165F発現プラスミドpUC19-Plac-gshB*M165Fを得た。
【0095】
pUC19-Plac-gshB*M165Fを鋳型とし、プライマーペアP32(配列番号54)およびP33(配
列番号55)を用いてPCRを実施し、化学合成したPtac4071f10断片(配列番号46)との融合PCRのためにgshB*M165F断片の端部に足場ヌクレオチドを付加した。次いで、足場付きgshB*M165F断片とPtac4071f10断片を混合し、プライマーペアP25(配列番号47)およびP33(配列番号55)を用いた融合PCRの鋳型として使用し、Ptac4071f10-gshB*M165F断片を構築
した。Ptac4071f10-gshB*M165F断片を、in-fusion技術(In-Fusion HD cloning Kit, Clontech)により、pMW118-attL-cat-attRプラスミドのXbaI部位にクローニングした。構築
したプラスミドを、pMW118-attL-cat-attR-Ptac4071f10-gshB*M165Fと命名した。pMW118-attL-cat-attR-Ptac4071f10-gshB*M165Fを鋳型とし、プライマーペアP34(配列番号56)
およびP35(配列番号57)を用いたPCRにより、CatR-Ptac4071f10-gshB*M165Fカセットを
増幅した。得られたDNA断片をλ-red技術によりMG1655ΔicdC::attL-kan-attR-Ptac4071f10-gshA*50株(参考例3)に導入した。構築した株を、MG1655ΔicdC::attL-kan-attR-Ptac4071f10-gshA*50 ΔgshB::attL-cat-attR-Ptac4071f10-gshB*M165F(カセットattB φ80::CatR-Ptac4071φ10-gshBM165Fを保持する)と命名した。
【0096】
参考例5:発現カセットcat-PLtac-tolCの構築
tolC遺伝子は、Red-dependent integration法(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-45)により過剰発現させた。この手順に従って、鋳型染色体中のtolC遺伝子の隣接領域およびクロラムフェニコール耐性遺伝子(CmR)とPLtacプロモーターの隣接領域の両方に相同性を有するPCRプライマーP36(配列番号61)およびP37(配列番号62)を構築した。MG1655 cat-PL-tac-xylE株(ハイブリッドPLtacプロモーターを含む)の染色体をPCR反応の鋳型として使用した。MG1655 cat-PLtac-xylE株は、WO2006/043730に詳細に記載されているように構築することができる。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分間の変性;最初の2サイクルのプロファイル:95℃で1
分、34℃で30秒、72℃で80秒;最後の30サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒;最終ステップ:72℃で5分。得られたDNA断片(1791 bp;配列番号58)
を「Silica Bead DNA Gel Extraction Kit」(Thermo Scientific)で精製し、プラスミ
ドpKD46を含むE. coliMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。エレクトロポレーション後、クロラムフェニコール耐性組み換え体を選択した。tolC遺伝子の生来の制御領域が、Cm耐性遺伝子で標識されたPLtacプロモーター領域で置換されていることを、ロー
カス特異的プライマープライマーP38(配列番号63)およびP39(配列番号64)を用いたPCRにより確認した。PCR検証の条件は、以下の通りであった:95℃で3分間の変性;30サイ
クルのプロファイル:95℃で30秒、57℃で30秒、72℃で1分;最終ステップ:72℃で7分。MG1655株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片(配列番号59)は、長さ500 ntであ
った。MG1655 cat-PLtac-tolC株の菌体を鋳型とした反応で得られたDNA断片(配列番号60)は、長さ2279 ntであった。次いで、42℃で培養することにより、プラスミドpKD46を除去した。こうして、発現カセットcat-PLtac-tolCを保有するE. coli MG1655株を構築した。
【0097】
参考例6:EVG培養
上記各実施例において、EVG培養には以下の培養条件を用いた。
【0098】
全E. coli株は、LB寒天プレート上で4℃で維持した。LB寒天(2%)を、37℃で一晩(17時間)の全試験株の前培養に使用した。
【0099】
種培養は、GALLENCAMPシェーカー内の750 mL三角フラスコに入れたLB液体培地(培地容量50 mL)で5時間実施した。培養温度は37℃、回転スピードは240 rpmとした。あらか
じめ培養したプレートのバイオマス1ループを種培養の植菌に用いた。
【0100】
本培養は、1LのSジャー(ABLE Biott)で実施した。培養条件は、以下の通りとした:
撹拌は1200 rpmで固定、通気は1/1 vvm、温度は37℃、pH 6.6をNH3ガスで維持。溶存酸素レベルは、以下の通りに制御した:DOレベルが0%になった場合(DO制限条件が発生し
た場合)、DO制限を停止した後に、攪拌を低下させてDOレベルを2%に維持した。DOレベ
ルが0%に到達しない場合は、DO制御は実施しなかった。培地容量は 300 mL、種培養物の
接種量は10%とした。
【0101】
本培養に用いた培地の組成を表7に示す。
【0102】
【0103】
6時間の培養後、培養液中のグルコースレベルが10~25 g/Lの範囲内に維持されるよう
に、グルコース供給液(濃度700 g/L)を連続的に添加した。主工程の培養時間は合計24
時間とした。
【0104】
参考例7:HPLC分析
同様に、上記各実施例において、以下のようにしてHPLC分析を実施した。γ-EVGの分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施した。サンプルの分析には、改変型AccQ*Tag法をプレカラム誘導体化と共に用いた。
装置: Agilent 1100 蛍光検出器付き
カラム: Waters AccQ*Tag 3.9x150 mm (Part No. WAT052885)
誘導体化試薬: AccQ-Fluor Reagent Kit (WAT052880)
誘導体化条件: 25 μL のAccQ-Fluor Reagent Kitの緩衝液, 5 μLのサンプル, 20 μLの
AccQ-Fluor Reagent Kitの試薬;混合して55℃で10分インキュベート
溶離液:
A: 10% AccQ*Tag Eluent A (WAT052890) 水溶液
В: 80%アセトニトリル (HPLC grade) 水溶液
注入時間: 38分
注入容量: 5 μL
検出: λex - 250 nm, λem - 395 nm
カラム温度: 30°C
流量: 0.8 mL/min
グラジエント: 表8
【0105】
【0106】
本発明をその例示的な態様を参照して詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更や等価物の採用が可能であることは当業者に明らかであろう。上述した各文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の方法は、細菌の発酵によりトリペプチドγ-Glu-Val-Glyを製造するのに有用である。