(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240305BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240305BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/66 A
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021004000
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2022-03-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木田 梨歩
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広規
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028150(JP,A)
【文献】特表2017-526108(JP,A)
【文献】国際公開第2020/204830(WO,A1)
【文献】特開2013-232328(JP,A)
【文献】特開2013-232326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/0587
H01M 4/00 - 4/62
H01G 11/00 -11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低くかつ3.0V未満であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含み、前記レドックスシャトル剤は
ビオロゲン類であり前記非水系溶媒はカーボネート化合物を含むものであるか、前記レドックスシャトル剤はキノン類であり前記非水系溶媒はアミド化合物を含むものである、
非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項2】
前記レドックスシャトル剤を1mmol/L以上含む、請求項
1に記載の非水系二次電池の不活性化剤。
【請求項3】
前記非水系二次電池の内部に、請求項1
又は2に記載の非水系二次電池の不活性化剤を添加する添加工程、を含む、
非水系二次電池の不活性化方法。
【請求項4】
前記添加工程は、銅を含む負極集電体を有する前記非水系二次電池に対して行う、請求項
3に記載の非水系二次電池の不活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際に、回収電池を不活性化させる不活性化処理が行われている。こうした処理として、例えば、回収電池を充放電装置につないで0Vまで放電させる処理が可能であるが、その場合、放電に時間がかかることがあった。また、回収電池が電流遮断機構(CID)作動後の電池である場合には、放電させること自体ができなかった。そこで、回収電池の内部にリチウムの酸化還元電位に対して3.0~4.5Vの範囲に酸化還元電位を示すレドックスシャトル剤(例えばフェロセン)を添加することが提案されている(特許文献1参照)。これにより、充放電装置を用いることなく、安全かつ迅速に非水系二次電池の電池電圧を0Vまで下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のレドックスシャトル剤を用いて非水系二次電池を不活性化した場合、不活性化後の負極電位が高いことがあった。負極電位が高いと、負極集電体の銅などが溶出して正極で析出し、不活性化後に非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際、析出物の正極からの除去又は回収が困難であるといった問題がある。このため、負極電位を低く保つことのできる不活性化剤及び不活性化方法が望まれていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、負極電位を低く保つことのできる非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、酸化還元電位がLi基準電位で負極活物質よりも高く正極活物質よりも低くかつ3.0V未満であるレドックスシャトル剤と非水系溶媒とを含む不活性化剤を非水系二次電池の内部に添加すると、非水系二次電池を不活性化させる際に負極電位が低く保たれることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の非水系二次電池の不活性化剤は、
非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低くかつ3.0V未満であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む、
ものである。
【0008】
また、本開示の非水系二次電池の不活性化方法は、
前記非水系二次電池の内部に、上述の非水系二次電池の不活性化剤を添加する添加工程、を含む、
ものである。
【発明の効果】
【0009】
この非水系二次電池の不活性化剤及び非水系二次電池の不活性化方法では、非水系二次電池を不活性化する際に、負極電位を低く保つことができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。充電状態の非水系二次電池に、酸化還元電位がLi基準電位で正極電位より低く負極電位より高いレドックスシャトル剤を添加すると、正極及び負極とレドックスシャトル剤との電位差を駆動力として、電池の放電が進行する。放電は、正極電位及び負極電位がレドックスシャトル剤の酸化還元電位に等しくなるまで進行する。このため、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V未満のレドックスシャトル剤を用いることで、不活性化の際の負極電位を低く(例えばLi基準電位で3.0V未満)に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】非水系二次電池20の構成の概略を表す断面図。
【
図2】非水系二次電池が不活性化するメカニズムを示す説明図。
【
図3】実施例1(メチルビオロゲン)のサイクリックボルタンメトリー測定結果。
【
図4】実施例2(p-ベンゾキノン)のサイクリックボルタンメトリー測定結果。
【
図5】比較例1(フェロセン)のサイクリックボルタンメトリー測定結果。
【
図6】実施例1の不活性化剤を添加した後の電池の放電挙動。
【
図7】実施例2の不活性化剤を添加した後の電池の放電挙動。
【
図8】比較例1の不活性化剤を添加した後の電池の放電挙動。
【
図9】参考例3(1,4-ナフトキノン)のサイクリックボルタンメトリー測定結果。
【
図10】参考例4(アントラキノン)のサイクリックボルタンメトリー測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の非水系二次電池の不活性化剤は、非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、酸化還元電位がLi基準電位で負極活物質よりも高く正極活物質よりも低くかつ3.0V未満であるレドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含むものである。本明細書において、レドックスシャトル剤とは、正極と負極との間で電荷を繰り返し輸送することができる、酸化及び還元可能な化合物を指す。
【0012】
[非水系二次電池]
まず、不活性化の対象となる非水系二次電池について説明する。非水系二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体と、を備えている。キャリアイオンとしては、例えば、第1族元素イオンや第2族元素イオンが挙げられる。第1族元素イオンとしては、例えば、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。第2族元素イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが挙げられる。以下では、説明の便宜のため、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、Li基準の酸化還元電位が不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤よりも高いものであればよいが、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V超過のものとしてもよく、3.5V以上のものが好ましく、3.8V以上のものがより好ましく、4.0V以上のものがさらに好ましい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn2O4などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、Li(1-x)NiaMnbO2(a+b=1)やLi(1-x)NiaMnbO4(a+b=2)などのリチウムニッケルマンガン複合酸化物、Li(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、LiV2O3などのリチウムバナジウム複合酸化物、V2O5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnPO4などのオリビン型リチウムリン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などのオリビン型リチウムリン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などのオリビン型リチウムリン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnVO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。正極活物質は、ニッケル、マンガン、コバルトのうちの1以上を含む酸化物であることが好ましく、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。
【0014】
正極の導電材としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などを用いることができる。結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0015】
負極は、例えば、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよいし、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよい。負極活物質は、Li基準の酸化還元電位が不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤よりも低いものであればよいが、酸化還元電位がLi基準電位で1.5V未満のものが好ましく、1.0V以下のものがより好ましく、0.5V以下のものがさらに好ましい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、Li4Ti5O12などのリチウムチタン複合酸化物やLiV2O3などのリチウムバナジウム複合酸化物が挙げられる。負極活物質としては、このうち、グラファイト類などの炭素質材料が好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。負極の集電体は、これらのうち、銅を含むものであることが好ましい。銅は、酸化還元電位がLi基準電位で約3.0~3.5Vであるため(J. Electrochem. Soc. 144 (1997) 3476-3483、J. Mater. Chem. 21 (2011) 9891-9911等参照)、不活性化の際、負極電位を3.0V未満に保てば銅の溶出が抑制されると考えられ、本開示の不活性化剤及び不活性化方法を適用する意義が特に高いからである。負極からの銅の溶出が抑制されると、正極での銅の析出も抑制されるため、不活性化後に非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際に、析出物を正極から除去又は回収する必要がなく、効率よくリサイクル又は廃棄できるため好ましい。
【0016】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、例えば、カーボネート化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、フラン化合物、スルホラン化合物及びジオキソラン化合物などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート化合物としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート化合物などが挙げられる。また、エステル化合物としてγ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル化合物、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル化合物などが挙げられる。また、エーテル化合物としてジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどが挙げられ、ニトリル化合物としてアセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられ、アミド化合物としてジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、フラン化合物としてテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどが挙げられ、スルホラン化合物としてスルホラン、テトラメチルスルホランなどが挙げられ、オキソラン化合物として1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどが挙げられる。これらは単独又は混合して用いることができる。このうち、非水系電解液の溶媒としては、例えば、DMC-ECや、DEC-EC、DMC-EMC-ECなど、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との混合液が好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4 などの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、などの有機塩が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。また、イオン伝導媒体としては、液状のイオン伝導媒体の代わりに、イオン伝導性ポリマー、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0017】
この非水系二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータは、非水系二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
この非水系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものとしてもよい。非水系二次電池の一例を
図1に示す。
図1は、コイン型の非水系二次電池20の構成の概略を表す断面図である。
図1に示すように、非水系二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水系二次電池20は、正極22と負極23との間の空間にリチウム塩を溶解したイオン伝導媒体27を備えている。
【0019】
[不活性化剤]
次に、不活性化剤について説明する。不活性化剤は、レドックスシャトル剤と、非水系溶媒と、を含む。
【0020】
不活性化剤に含まれる非水系溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば非水系二次電池のイオン伝導媒体に用いられる非水系電解液の溶媒としてもよい。こうした非水系溶媒としては、例えば、カーボネート化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、フラン化合物、スルホラン化合物及びジオキソラン化合物などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート化合物としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート化合物などが挙げられる。また、エステル化合物としてγ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル化合物、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル化合物などが挙げられる。また、エーテル化合物としてジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどが挙げられ、ニトリル化合物としてアセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられ、アミド化合物としてジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、フラン化合物としてテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどが挙げられ、スルホラン化合物としてスルホラン、テトラメチルスルホランなどが挙げられ、オキソラン化合物として1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどが挙げられる。この非水系溶媒は、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体に含まれる溶媒と同じでもよいし、異なってもよい。不活性化剤に含まれる非水系溶媒は、例えば、レドックスシャトル剤が後述のビオロゲン類の場合には、ECやDMC、EMCなどのカーボネート化合物を含むものが好ましく、レドックスシャトル剤が後述のキノン類の場合にはDMAなどのアミド化合物を含むものが好ましい。こうしたレドックスシャトル剤と非水系溶媒との組合せでは、レドックスシャトル剤の酸化体及び還元体が非水系溶媒との相互作用によって安定化され、レドックスシャトル剤がより安定した酸化還元を示すと考えられる。
【0021】
不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で、不活性化の対象となる非水系二次電池の負極活物質よりも高く、不活性化の対象となる非水系二次電池の正極活物質よりも低く、かつ3.0V未満のものである。
【0022】
レドックスシャトル剤の酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリーで求めることができる。具体的には、レドックスシャトル剤の酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリーで求めた酸化側のピーク電位をEpa[V]、還元側のピーク電位をEpc[V]としたときに、E0=(Epa+Epc)/2で求められる値E0[V]とする。電位窓内に2つ以上の酸化還元電位がある場合には、全ての酸化還元電位が3.0V未満(好ましくは後述する好適範囲内)であることが好ましい。サイクリックボルタンメトリーは、非水系溶媒と支持電解質とレドックスシャトル剤と含む測定溶液に対して行うことが好ましい。測定溶液の非水系溶媒としては、不活性化剤の非水系溶媒として例示したものとしてもよく、目的とする不活性化剤の非水系溶媒と同種のものとしてもよい。測定溶液の支持電解質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4 などの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、などの有機塩が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。測定溶液の支持電解質は、不活性化の対象となる非水系二次電池の支持塩と同種のものとしてもよい。測定溶液中の支持電解質の濃度は、0.1mol/L以上5mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以上2mol/L以下としてもよく、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体中の支持塩の濃度と同じとしてもよい。測定溶液中のレドックスシャトル剤の濃度は、1mmol/L以上溶解度以下としてもよく、30mmol/L以上溶解度以下としてもよく、50mmol/L以上100mmol/L以下としてもよい。測定溶液中のレドックスシャトル剤の濃度は、目的とする不活性化剤のレドックスシャトル剤の濃度と同じとしてもよい。
【0023】
レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V未満のものであればよいが、0.5V以上3.0V未満のものが好ましく、1.0V以上3.0V未満のものがより好ましく、1.5V以上2.9V以下のものがさらに好ましい。酸化還元電位がLi基準電位で3.0V未満のレドックスシャトル剤としては、例えば、ビオロゲン類やキノン類が挙げられる。なお、本明細書において、ビオロゲン類とは、ビオロゲン及びビオロゲン誘導体を指し、キノン類とは、キノン及びキノン誘導体を指す。
【0024】
ビオロゲン類は、4,4’-ビピリジン骨格の二つのピリジン環窒素原子に各々炭化水素基が結合した構造を有する化合物であり、例えば式(v1)の構造を有する。式(v1)において、R及びR’は、同じであっても異なってもよい炭化水素基である。炭化水素基としては、鎖状(直鎖でもよいし分岐鎖を有していてもよい)の炭化水素基や環状の炭化水素基が好ましい。鎖状の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などのアルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基などのアルケニル基などが挙げられる。また、環状の炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基などが挙げられる。また、これらの炭化水素基は、カルボキシル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン(F、Cl、Br等)などの置換基を有していてもよい。炭化水素基は、これらのうち、直鎖のアルキル基が好ましく、置換基を有さないものが好ましい。炭化水素基は、各々、炭素数20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。ビオロゲン類は、4,4’-ビピリジン骨格の炭素のうちの1以上に、炭化水素基や、カルボキシル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲンなどの置換基が導入された構造を有するものとしてもよい。炭化水素基としては、上述したRやR’の炭化水素基として例示したものなどが挙げられる。ビオロゲン類は、置換基を複数有する場合、置換基同士が結合して環を形成していてもよい。ビオロゲン類は、炭素数30以下が好ましく、20以下がより好ましく、14以下がさらに好ましい。
【0025】
【0026】
ビオロゲン類としては、具体的には、式(v1)の構造として、メチルビオロゲン(式(v2))、エチルビオロゲン(式(v3))、プロピルビオロゲン(式(v4))、ブチルビオロゲン(式(v5))、ペンチルビオロゲン(式(v6))、ヘキシルビオロゲン(式(v7))、ヘプチルビオロゲン(式(v8))、オクチルビオロゲン(式(v9))などを有するものが挙げられる。また、ビオロゲン類としては、式(v1)の構造として、1,1’-ジメチル-3,3’-[メチレンビス(オキシ)]-4,4’-ビピリジニウム(式(v10))、フェニルビオロゲン(式(v11))、1-(4-アミノフェニル)-1’-メチル-4,4’-ビピリジニウム(式(v12))などを有するものが挙げられる。
【0027】
【0028】
【0029】
ビオロゲン類は、式(v1)のカチオンの対アニオンとして、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6
-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4
-)、ペンタフルオロアルシンアニオン(AsF6
-)、パークロレートアニオン(ClO4
-)、Br-、Cl-、F-などの無機アニオンや、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CF3SO3
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(N(CF3SO2)2
-、TFSI)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドアニオン(C(CF3SO2)3
-)、などの有機アニオンを有していてもよい。対アニオンは、不活性化の対象となる非水系二次電池の支持塩のアニオンと同種のものとしてもよい。
【0030】
キノン類は、芳香族炭化水素骨格の2つの炭素上のC-H基を各々C=O基に置き換えた構造を有する化合物である。キノン類は、4~7員環の芳香族炭化水素骨格を有するものとしてもよく、6員環の芳香族炭化水素骨格を有するもの(ベンゾキノン構造を有するもの)が好ましい。キノン類は、例えば、式(q1)のp-ベンゾキノン構造や、式(q2)のo-ベンゾキノン構造を有するものとしてもよく、式(q1)のp-ベンゾキノン構造を有するものが好ましい。キノン類は、芳香族炭化水素骨格の炭素のうちC=O基を構成しない炭素の1以上に、炭化水素基や、カルボキシル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン(F、Cl、Br等)などの置換基が導入された構造を有していてもよい。炭化水素基としては、ビオロゲン類のRやR’の炭化水素基として例示したものなどが挙げられる。キノン類は、置換基を複数有する場合、置換基同士が結合して環を形成していてもよい。置換基同士が結合して環を形成したキノン類としては、例えば、ナフトキノン(1,4-ナフトキノンや1,2-ナフトキノン等)、アントラキノン(9,10-アントラキノン等)、それらの誘導体などが挙げられる。キノン類は、炭素数20以下が好ましく、14以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい
【0031】
【0032】
キノン類としては、具体的には、p-ベンゾキノン(式(q3))や、メチル-p-ベンゾキノン(式(q4))、2,5-ジメチル-1,4-ベンゾキノン(式(q5))、メトキシベンゾキノン(式(q6))、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン(式(q7))、1,4-ナフトキノン(式(q8))、2-メチル-1,4-ナフトキノン(式(q9))、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン(式(q10))、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン(式(q11))、アントラキノン(式(q12))、2-メチルアントラキノン(式(q13))、2-tert-ブチルアントラキノン(式(q14))、1-クロロアントラキノン(式(q15))、1,4-ジヒドロキシアントラキノン(式(q16))、1-ニトロアントラキノン(式(q17))などが挙げられる。
【0033】
【0034】
レドックスシャトル剤は、不活性化剤に含まれる非水溶媒に対する20℃での溶解度が1mmol/L以上であることが好ましく、30mmol/L以上であることがより好ましく、50mmol/L以上であることがさらに好ましい。レドックスシャトル剤の溶解度が高いほど不活性化剤のレドックスシャトル剤濃度を高めることが可能であり、不活性化剤のレドックスシャトル剤濃度が高いほど電気自動車(EV)用など高エネルギー密度の電池を短時間で放電させることができるからである。上述したビオロゲン類やキノン類は、非水系溶媒への溶解度が比較的高いため、これらをレドックスシャトル剤とすれば、不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤の濃度を高めることができ、好ましい。レドックスシャトル剤は、不活性化剤に含まれる非水溶媒に対する20℃での溶解度が1000mmol/L以下としてもよく、100mmol/L以下としてもよい。
【0035】
不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤の濃度は、1mmol/L以上が好ましく、30mmol/L以上がより好ましく、50mmol/L以上がさらに好ましい。レドックスシャトル剤の濃度が高いほど、電気自動車(EV)用など高エネルギー密度の電池を短時間で放電させることができるからである。不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤の濃度は、溶解度以下としてもよく、100mmol/L以下としてもよい。
【0036】
不活性化剤は、レドックスシャトル剤以外には溶質(例えば支持塩)を含まないことが好ましく、レドックスシャトル剤以外の溶質を含むとしても、0.1mmol/L未満や0.01mmol/L未満であることが好ましい。不活性化剤において、レドックスシャトル剤以外の溶質が少ないほど、粘度が低い傾向にあるため、不活性化がより迅速に進行するからである。こうした観点から、不活性化剤は、支持塩を含まないことが好ましいが、支持塩を含んでいてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩などが挙げられる。支持塩は、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体に含まれる支持塩と同じでもよいし、異なってもよい。
【0037】
[不活性化方法]
続いて、上述した不活性化剤を用いて上述した非水系二次電池を不活性化する方法について説明する。この不活性化方法は、非水系二次電池の内部に不活性化剤を添加する添加工程を含む。
【0038】
添加工程では、非水系二次電池の内部に不活性化剤を添加する。具体的には、非水系二次電池の正極及び負極と不活性化剤とが接触するように、不活性化剤を添加する。不活性化剤の添加方法は、特に限定されないが、電池容器を一旦開封して不活性化剤を注入した後再び封止してもよいし、電池容器の外部から注射器によって注入しその後封止してもよい。添加工程は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0039】
不活性化剤の添加量は、例えば、0.1mL以上10mL未満としてもよく、0.5mL以上5.0mL以下としてもよい。不活性化剤の添加量は、例えば、不活性化の対象となる非水系二次電池に含まれるイオン伝導媒体の体積[mL]に対して、0.1%以上500%以下としてもよく、10%以上300%以下としてもよい。不活性化剤の添加によって非水系二次電池に添加されるレドックスシャトル剤の量(以下レドックスシャトル剤の添加量とも称する)は、例えば、不活性化の対象となる非水系二次電池の満充電時の電池容量[Ah]あたり、0.0001mol/Ah以上0.1mol/Ah以下としてもよく、0.001mol/Ah以上0.01mol/Ah以下としてもよい。
【0040】
この添加工程は、銅を含む負極集電体を有する非水系二次電池に対して行うことが好ましい。銅は、上述した通り酸化還元電位がLi基準電位で約3.0~3.5Vであるため、不活性化の際、負極電位を3.0V未満に保てば銅の溶出が抑制されると考えられ、本開示の不活性化剤を添加する意義が特に高いからである。
【0041】
添加工程後の非水系二次電池は、例えば、静置して保持してもよいし、加振しながら保持してもよい。保持時間は、不活性化が完了するまでの時間として経験的に定められる時間とすればよいが、例えば、6時間以上500時間以下としてもよく、30時間以上300時間以下としてもよく、50時間以上200時間以下としてもよい。
【0042】
この不活性化方法で非水系二次電池が不活性化するメカニズムは、以下のように推察される。
図2は、非水系二次電池が不活性化するメカニズムを示す説明図である。正極電位より低く負極電位より高い酸化還元電位を示すレドックスシャトル剤(図中のRS)を電池に添加すると、正極あるいは負極とレドックスシャトル剤の電位差を駆動力として、負極からレドックスシャトル剤およびレドックスシャトル剤から正極への電子移動が進行し、電池が放電する。具体的には、レドックスシャトル剤の還元体(図中のRS
(red))が正極に電子を与えて酸化体(図中のRS
(ox))となり、レドックスシャトル剤の酸化体が負極から電子を受け取って還元体となる、という動作が繰り返し進行し、電池が放電する。正極電位あるいは負極電位がレドックスシャトル剤の酸化還元電位に等しくなると、その電極の放電はそれ以上進行しなくなる。従って、正極電位と負極電位は、最終的にはレドックスシャトル剤の電位に等しくなり、不活性化が完了する。なお、「不活性化が完了」とは、少なくとも非水系二次電池のSOC(State of charge)が0%になるまで放電されていることをいうものとしてもよい。SOCが0%になるまで放電されていれば、負極電位が低すぎない(例えばLi基準電位で1.5V超過3.0V未満)ため、イオン伝導媒体(電解液等)の分解によるガス発生が生じにくく、電極自体の安全性も高い。したがって、不活性化後のリサイクルや廃棄を安全に行うことができる。不活性化後の電池電圧は低いほどスパークが起こりにくいため好ましく、例えば、3.0V以下としてもよく、1.2V以下や、1.0V以下、0.5V以下などとすることがより好ましい。
【0043】
以上説明した不活性化剤及び不活性化方法では、非水系二次電池を不活性化する際に、負極電位を低く保つことができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。充電状態の非水系二次電池に、酸化還元電位がLi基準電位で正極電位より低く負極電位より高いレドックスシャトル剤を添加すると、正極及び負極とレドックスシャトル剤との電位差を駆動力として、電池の放電が進行する。放電は、正極電位及び負極電位がレドックスシャトル剤の酸化還元電位に等しくなるまで進行する。このため、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V未満のレドックスシャトル剤を用いることで、不活性化の際の負極電位を低く(例えばLi基準電位で3.0V未満)に保つことができる。また、銅を負極集電体として備えた非水系二次電池にこの不活性化剤及び不活性化方法を適用すると、負極集電体からの銅の溶出を抑制できる。負極集電体からの銅の溶出が抑制されると、正極での銅の析出も抑制されるため、不活性化後に非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際に、析出物を正極から除去又は回収する必要がなく、効率よくリサイクル又は廃棄できる。
【0044】
なお、本開示は、上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
実施例1では、レドックスシャトル剤として、メチルビオロゲンヘキサフルオロホスフェート(式(v2)の構造を有し対アニオンはPF6
-、以下ではメチルビオロゲンとも称する)を用いた場合について検討した。
【0046】
(1)レドックスシャトル剤の酸化還元電位
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を3:4:3の体積比で混合した混合溶媒に、支持電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)と、レドックスシャトル剤であるメチルビオロゲンヘキサフルオロホスフェートとを溶解させ、支持電解質を1mol/L、レドックスシャトル剤を50mmol/Lの濃度で含む測定溶液を調製した。この測定溶液を用い、H型セルを用いたサイクリックボルタンメトリーにより、レドックスシャトル剤の酸化還元電位を評価した。作用極としてグラッシーカーボン、対極として金属リチウム、参照電極としてニッケル線に金属リチウムを圧着したものを用いた。測定温度は20℃、電位範囲はリチウム基準電位で1.5~3.5V、電位掃引速度は50mV/sec.とした。
【0047】
(2)非水系二次電池の不活性化
(非水系二次電池の準備)
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを93:4:3の重量比で含む正極合材をアルミニウム集電箔に塗工し、正極を作製した。また、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとを98:1:1の重量比で含む正極合材を銅集電箔に塗工し、負極を作製した。ECとDMCとEMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒にLiPF6を溶解させ、LiPF6を1mol/Lの濃度で含む電解液を調製した。セパレータとしては、ポリエチレン単層微多孔膜から構成されるものを用いた。正極と負極を、電解液を浸み込ませたセパレータを介して対向させ、ラミネートフィルム内に封入して、リチウムイオン二次電池を作製した。そして、3.0~4.1Vの電圧範囲で充放電を2サイクル実施した後、4.1Vまで充電し、満充電状態とした。
【0048】
(不活性化)
非水系溶媒として、ECとDMCとEMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒を用いた。また、レドックスシャトル剤として、メチルビオロゲンヘキサフルオロホスフェートを用いた。非水系溶媒にレドックスシャトル剤を溶解させて、レドックスシャトル剤を50mmol/Lの濃度で含む不活性化剤を調製した。満充電状態の電池を、アルゴン雰囲気下で開封し、不活性化剤を1.268mL(非水系二次電池の電解液の体積[mL]に対して不活性化剤が280%、非水系二次電池の満充電時の電池容量[Ah]あたりレドックスシャトル剤が0.004mol/Ah)注入し、電池を再度封じて、温度20 ℃で電圧変化を測定し、リチウムイオン二次電池の不活性化挙動を評価した。
【0049】
(不活性化後の負極及び正極の電位測定)
不活性化後のリチウムイオン二次電池をアルゴン雰囲気下で解体し、負極及び正極を取り出した。リチウムイオン二次電池の電解液と同様に調製した電解液を入れたビーカー内に負極と金属リチウムとを静置し、負極と金属リチウムとの間の電圧をテスターで測定し、それをLi基準の負極電位とした。また、リチウムイオン二次電池の電解液と同様に調製した電解液を入れたビーカー内に正極と金属リチウムとを静置し、正極と金属リチウムとの間の電圧をテスターで測定し、それをLi基準の正極電位とした。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、レドックスシャトル剤としてp-ベンゾキノン(式(q3))を用いた場合について検討した。
【0051】
(1)レドックスシャトル剤の酸化還元電位
N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)に、支持電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と、レドックスシャトル剤であるp-ベンゾキノンとを溶解させ、支持電解質を0.1mol/L、レドックスシャトル剤を50mmol/Lの濃度で含む測定溶液を調製した。この測定溶液を用い、電位範囲をリチウム基準電位で2.1~4.0Vとした以外は、実施例1と同様にサイクリックボルタンメトリーを行い、レドックスシャトル剤の酸化還元電位を評価した。
【0052】
(2)非水系二次電池の不活性化
非水系溶媒として、DMAを用いた。また、レドックスシャトル剤としてp-ベンゾキノンを用いた。非水系溶媒にレドックスシャトル剤を溶解させて、レドックスシャトル剤を50mmol/Lの濃度で含む不活性化剤を調製した。この不活性化剤を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池の不活性化挙動を評価した。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、レドックスシャトル剤としてフェロセンを用いた場合について検討した。
【0054】
(1)レドックスシャトル剤の酸化還元電位
ECとDMCとEMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持電解質としてLiPF6と、レドックスシャトル剤としてフェロセンとを溶解させ、支持電解質を1mol/L、レドックスシャトル剤を50mmol/Lの濃度で含む測定溶液を調製した。この測定溶液を用い、電位範囲をリチウム基準電位で2.5~4.3Vとした以外は、実施例1と同様にサイクリックボルタンメトリーを行い、レドックスシャトル剤の酸化還元電位を評価した。
【0055】
(2)非水系二次電池の不活性化
レドックスシャトル剤としてメチルビオロゲンではなくフェロセンを含む不活性化剤を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池の不活性化挙動を評価し、不活性化後の負極電位及び正極電位を測定した。
【0056】
[参考例1]
ビオロゲン類の種々の化合物(カチオン)に関し、密度汎関数法により酸化還元電位を計算した。酸化体のギブズ自由エネルギー(ΔGOX)と還元体のギブズ自由エネルギー(ΔGRED)をそれぞれ計算し、一電子還元を想定して下記数式(1)から対象の酸化還元電位Eabsを絶対電位として算出した。
Eabs=(ΔGOX-ΔGRED)/F ・・・数式(1)
数式(1)中、Fはファラデー定数96485C/molである。
【0057】
得られた絶対電位から下記数式(2)を用いてリチウム電極基準の酸化還元電位ERedOxを計算した。
ERedOx[V vs.Li+/Li]=Eabs-1.4 ・・・数式(2)
【0058】
自由エネルギーは密度汎関数法を用いて計算した。Gaussian09 Revision Eパッケージで汎関数及び基底関数にB3LYP及び6-311++GG(d,p)を用い、連続分極モデルにより溶媒の誘電率を29.11として溶媒和効果を取り入れた。
【0059】
[参考例2]
キノン類の種々の化合物に関し、参考例1と同様の方法で酸化還元電位を計算した。
【0060】
[参考例3]
DMAに支持電解質としてLiTFSIと、レドックスシャトル剤として1,4-ナフトキノン(式(q8))とを溶解させ、支持電解質を0.1mol/L、レドックスシャトル剤を50mmol/Lの濃度で含む測定溶液を調製した。この測定溶液を用いた以外は、実施例1と同様にサイクリックボルタンメトリーを行い、レドックスシャトル剤の酸化還元電位を評価した。なお、電位範囲はリチウム基準電位で1.5~3.5Vとした。
【0061】
[参考例4]
DMAに支持電解質としてLiTFSIと、レドックスシャトル剤としてアントラキノン(式(q12))とを溶解させ、支持電解質を0.1mol/Lの濃度で含み、レドックスシャトル剤を溶解度(50mmol/L未満)だけ含む測定溶液を調製した。この測定溶液を用い、電位範囲をリチウム基準電位で1.5~3.0Vとした以外は、実施例1と同様にサイクリックボルタンメトリーを行い、レドックスシャトル剤の酸化還元電位を評価した。
【0062】
[実験結果]
図3~5に、実施例1(メチルビオロゲン)、実施例2(p-ベンゾキノン)、比較例1(フェロセン)のサイクリックボルタンメトリー測定結果を示した。メチルビオロゲンの場合は二対の酸化還元ピークが、p-ベンゾキノンとフェロセンの場合は一対の酸化還元ピークが見られた。酸化方向のピーク電位E
pa、還元方向のピーク電位E
pcの値から、以下の数式で標準酸化還元電位E
0を算出した。
E
0=(E
pa+E
pc)/2 ・・・数式(3)
【0063】
表1に、サイクリックボルタンメトリー測定結果から得られた各レドックスシャトル剤の酸化方向のピーク電位Epa、還元方向のピーク電位Epcおよび標準酸化還元電位E0を示した。メチルビオロゲン、p-ベンゾキノンの標準酸化還元電位は、銅の酸化還元電位 (リチウム基準電位で3.0~3.5V) より低いのに対し、フェロセンの標準酸化還元電位はリチウム基準電位で3.0Vより高かった。上述したように、レドックスシャトル剤による放電時、正負極電位は最終的にはレドックスシャトル剤の酸化還元電位に等しくなると考えられることから、レドックスシャトル剤としてメチルビオロゲン又はp-ベンゾキノンを用いて不活性化した場合、負極電位を低く(例えば3.0V未満)保つことができ、負極電位が銅の酸化還元電位より高くなることはなく、銅の溶出等を抑制できると推察された。一方、レドックスシャトル剤としてフェロセンを用いると、負極電位はフェロセンの酸化還元電位(リチウム基準電位で3.25V)まで高くなると考えられることから、負極集電箔の銅の溶出が懸念された。
【0064】
【0065】
図6,7に、実施例1(メチルビオロゲン)、実施例2(p-ベンゾキノン)の不活性化剤を添加した後の電池の放電挙動を示した。いずれも、不活性化剤の添加直後から、電池の放電が進行した。メチルビオロゲンを用いた実施例1では、不活性化剤の添加から30時間後にはSOC(State of charge)が0%(電池電圧3.0V)になり、さらに50時間後には電池電圧が1V以下になった。p-ベンゾキノンを用いた実施例2では、不活性化剤の添加から6時間後にはSOCが0%(電池電圧3.0V)になり、30時間後には電池電圧が1V以下になった。以上より、メチルビオロゲンを用いた不活性化剤及びp-ベンゾキノンを用いた不活性化剤は、いずれも、電池の不活性化剤として機能することがわかった。
【0066】
実施例1の不活性化後の電池について、負極電位を確認したところ、Li基準電位で約2.5Vであり、理論通り負極電位が3.0V未満となることが確認された。なお、不活性化後の正極電位は約3.5Vであった。
【0067】
実施例1,2において、レドックスシャトル剤の添加量は、SOC100%からSOC0%まで放電するときの電荷量の約1/5に相当する量であった。そして、実施例1,2では、SOC0%まで放電可能であったことから、少なくとも5サイクルはレドックスシャトル反応が進行したものと推察された。
【0068】
図8に、比較例1(フェロセン)の不活性化剤を添加した後の電池の放電挙動を示した。比較例1でも、不活性化剤の添加直後から電池の放電が進行し、不活性化剤の添加から5時間後にはSOCが0%になり、15時間後には電池電圧は0Vになった。以上より、フェロセンを用いた不活性化剤は、電池の不活性化剤として機能することがわかった。一方で、比較例1の不活性化後の電池について負極電位を確認したところ、Li基準電位で3.24Vであり、理論通り負極電位がLi基準電位で3.0V以上となることが確認された。つまり、フェロセンを用いた不活性化剤を用いた場合には、負極集電箔の銅の溶出が懸念されることがわかった。
【0069】
表2に、参考例1(ビオロゲン類)のLi基準電位での酸化還元電位の計算結果を示した。なお、表2では、2段階目(低電位側)の酸化還元電位のみを示した。メチルビオロゲンの酸化還元電位の計算結果は、実施例1の実験結果(
図3及び表1参照)に概ね一致した。参考例1の計算結果から、酸化還元電位がアルキル基の構造によらず同程度の値を示すと推察された。表3に、J. Mater. Chem. A, 7 (2019) 23337-23360に開示されたビオロゲン類の酸化還元電位を示した。表3の酸化還元電位は、いずれもLi基準電位に換算すると3.0V未満であった。以上より、ビオロゲン類であれば、置換基の構造によらず、酸化還元電位が3.0V未満であると推察された。
【0070】
【0071】
【0072】
表4に、参考例2(キノン類)のLi基準電位での酸化還元電位の計算結果を示した。p-ベンゾキノンの酸化還元電位の計算結果は、実施例2の実験結果(
図4及び表1参照)に比べて0.1V程度低い値となった。そこで、参考例3(1,4-ナフトキノン)および参考例4(アントラキノン)のサイクリックボルタンメトリー測定を実施した。
図9に参考例3、
図10に参考例4のサイクリックボルタンメトリー測定結果を示した。また、表5に、参考例3及び参考例4のサイクリックボルタンメトリー測定結果から得られた各レドックスシャトル剤の酸化方向のピーク電位E
pa、還元方向のピーク電位E
pcおよび標準酸化還元電位E
0を示した。参考例3及び参考例4はいずれも計算結果の方が0.1~0.2V程度低かったものの、Li基準電位で3.0V未満で酸化還元を示した。従って、表4に示すキノン類はいずれもLi基準電位で3.0V未満の酸化還元電位を示すものと推察された。以上より、いずれのビオロゲン類及びキノン類を不活性化剤のレドックスシャトル剤として使用した場合も、負極の電位を低く(例えば3.0V未満)保つことができ、例えば銅の溶出等を抑制できると推察された。
【0073】
【0074】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
20 非水系二次電池、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。