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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】車両用制御装置、プログラム、制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240305BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240305BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L9/18 P
H02P5/46 J
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021005664
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110333
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 晴美
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/121199(WO,A1)
【文献】特開2015-192471(JP,A)
【文献】特開2008-239041(JP,A)
【文献】特開2016-048987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 9/18
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の駆動輪(20R,20L)と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機(30)と、を備える車両(10)に適用される車両用制御装置(32,50)において、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度(Nabnr)と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度(Nnr)との乖離を抑制する異常時制御を行う異常時制御部と、を備え
前記異常時制御部は、
前記異常時制御として、前記正常側駆動輪の回転速度を前記異常側駆動輪の回転速度に近づけるべく、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を下回るように、前記正常側駆動輪に対応する前記回転電機の駆動制御を行い、
前記異常時制御の実行後、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を繰り返し跨ぐように、前記異常側駆動輪及び前記正常側駆動輪のうち、前記正常側駆動輪に対応する前記回転電機の駆動制御を行う、車両用制御装置。
【請求項2】
前記異常時制御部は、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を跨ぐ周期を、前記車両の走行速度が低い場合よりも高い場合に短くする、請求項に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記異常時制御部は、前記車両が高速道を走行中の場合、前記高速道の中央側とは反対側の路肩に前記車両を徐々に近づけるように、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を繰り返し跨ぐようにする、請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記異常時制御部は、歩道に隣接する一般道を前記車両が走行中の場合、前記歩道から前記車両を徐々に遠ざけるように、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を繰り返し跨ぐようにする、請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記異常時制御部は、前記判定部により前記異常が発生していると判定された場合において前記異常側駆動輪の回転速度が前記正常側駆動輪の回転速度よりも高いとき、前記異常時制御の実行に先立ち、前記異常側駆動輪と前記正常側駆動輪との回転速度差を減少させるように前記異常側駆動輪に制動力を付与する制動制御を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
左右の駆動輪(20R,20L)と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機(30)と、
前記回転電機に電気的に接続されたインバータ(31)と、を備える車両(10)に適用される車両用制御装置(32,50)において、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度(Nabnr)と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度(Nnr)との乖離を抑制する異常時制御を行う異常時制御部と、を備え、
前記異常時制御部は、右側の前記駆動輪と路面との摩擦係数と、左側の前記駆動輪と路面との摩擦係数との差が閾値よりも大きいと判定した場合、前記異常時制御の実行に先立ち、前記インバータの入力電圧(Vdc)を低下させることにより、前記異常側駆動輪及び前記正常側駆動輪それぞれの回転速度を低下させる、車両用制御装置。
【請求項7】
左右の駆動輪(20R,20L)と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機(30)と、を備える車両(10)に適用されるプログラムにおいて、
コンピュータに、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する処理と、
前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度(Nabnr)と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度(Nnr)との乖離を抑制する異常時制御処理と、
前記異常時制御処理の実行後、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を繰り返し跨ぐように、前記異常側駆動輪及び前記正常側駆動輪のうち、前記正常側駆動輪に対応する前記回転電機の駆動制御を行う処理と、
を実行させ、
前記異常時制御処理は、前記正常側駆動輪の回転速度を前記異常側駆動輪の回転速度に近づけるべく、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を下回るように、前記正常側駆動輪に対応する前記回転電機の駆動制御を行う処理である、プログラム。
【請求項8】
左右の駆動輪(20R,20L)と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機(30)と、を備える車両(10)に適用される制御方法において、
コンピュータに、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する処理と、
前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度(Nabnr)と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度(Nnr)との乖離を抑制する異常時制御処理と、
前記異常時制御処理の実行後、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を繰り返し跨ぐように、前記異常側駆動輪及び前記正常側駆動輪のうち、前記正常側駆動輪に対応する前記回転電機の駆動制御を行う処理と、
を実行させ、
前記異常時制御処理は、前記正常側駆動輪の回転速度を前記異常側駆動輪の回転速度に近づけるべく、前記正常側駆動輪の回転速度が前記異常側駆動輪の回転速度を下回るように、前記正常側駆動輪に対応する前記回転電機の駆動制御を行う処理である、制御方法。
【請求項9】
左右の駆動輪(20R,20L)と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機(30)と、
前記回転電機に電気的に接続されたインバータ(31)と、を備える車両(10)に適用されるプログラムにおいて、
コンピュータに、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する処理と、
前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度(Nabnr)と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度(Nnr)との乖離を抑制する異常時制御処理と、
右側の前記駆動輪と路面との摩擦係数と、左側の前記駆動輪と路面との摩擦係数との差が閾値よりも大きいと判定した場合、前記異常時制御処理の実行に先立ち、前記インバータの入力電圧(Vdc)を低下させることにより、前記異常側駆動輪及び前記正常側駆動輪それぞれの回転速度を低下させる処理と、
を実行させる、プログラム。
【請求項10】
左右の駆動輪(20R,20L)と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機(30)と、
前記回転電機に電気的に接続されたインバータ(31)と、を備える車両(10)に適用される制御方法において、
コンピュータに、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する処理と、
前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度(Nabnr)と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度(Nnr)との乖離を抑制する異常時制御処理と、
右側の前記駆動輪と路面との摩擦係数と、左側の前記駆動輪と路面との摩擦係数との差が閾値よりも大きいと判定した場合、前記異常時制御処理の実行に先立ち、前記インバータの入力電圧(Vdc)を低下させることにより、前記異常側駆動輪及び前記正常側駆動輪それぞれの回転速度を低下させる処理と、
を実行させる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置、プログラム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、左右の駆動輪と、左右の駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、駆動輪を回転駆動する回転電機とを備える車両に適用される車両用制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-186929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左右の駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生し得る。この異常は、例えば、左右の駆動輪のいずれかに対応する回転電機の駆動制御を適正に実施できなくなる異常である。回転駆動に関する異常が発生する場合であっても、走行中の車両の挙動を極力安定化させることが要求される。
【0005】
本発明は、左右の駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生した場合であっても、走行中の車両の挙動を極力安定化させることができる車両用制御装置、プログラム及び制御方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、左右の駆動輪と、
左右の前記駆動輪それぞれに対応して個別に設けられ、前記駆動輪を回転駆動する回転電機と、を備える車両に適用される車両用制御装置において、
左右の前記駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記異常が発生していると判定された場合、左右の前記駆動輪のうち、前記異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度との乖離を抑制する異常時制御を行う異常時制御部と、を備える。
【0007】
走行中の車両において、左右の駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生すると、左右の駆動輪の回転速度差が大きくなり得る。この場合、車両の挙動が不安定となる懸念がある。
【0008】
この点、本発明では、左右の駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かが判定部により判定される。判定部により異常が発生していると判定された場合、左右の駆動輪のうち、異常が発生していると判定された方の駆動輪である異常側駆動輪の回転速度と、他方の駆動輪である正常側駆動輪の回転速度との乖離を抑制する異常時制御が異常時制御部により行われる。これにより、左右の駆動輪のうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生した場合であっても、走行中の車両の挙動を極力安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る車載システムの全体構成図。
図2】異常時制御の処理手順を示すフローチャート。
図3】異常時制御の実行態様の一例を示すタイムチャート。
図4】第2実施形態に係る異常時制御の処理手順を示すフローチャート。
図5】異常時制御の実行態様の一例を示すタイムチャート。
図6】第3実施形態に係る異常時制御の処理手順を示すフローチャート。
図7】異常時制御の実行態様の一例を示すタイムチャート。
図8】第4実施形態に係る異常時制御の処理手順を示すフローチャート。
図9】異常時制御の実行態様の一例を示すタイムチャート。
図10】第5実施形態に係る車載システムの一部を示す図。
図11】異常時制御の処理手順を示すフローチャート。
図12】異常時制御の実行態様の一例を示すタイムチャート。
図13】第5実施形態の変形例に係る車載システムの一部を示す図。
図14】第6実施形態に係る異常時制御の処理手順を示すフローチャート。
図15】異常時制御の実行態様の一例を示すタイムチャート。
図16】その他の実施形態に係る車載システムの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。制御装置は、車両に搭載されている。
【0011】
図1に示すように、車両10は、前後の右車輪20R、前後の左車輪20L及び回転電機30を備えている。本実施形態では、4つの車輪20R,20Lのうち、前側の右車輪20Rと前側の左車輪20Lとのそれぞれに対応して個別に回転電機30が設けられている。このため、前側の右車輪20Rと前側の左車輪20Lとのそれぞれは、互いに独立して回転駆動可能な駆動輪とされている。また、本実施形態では、前側の右車輪20Rと前側の左車輪20Lとが操舵輪とされている。
【0012】
なお、回転電機30は、例えば、ロータに永久磁石が設けられた永久磁石同期機である。また、回転電機としては、駆動輪の内周側に設けられたインホイールモータであってもよいし、車体に設けられたオンボード用のモータであってもよい。
【0013】
車両10は、ブレーキ装置21を備えている。ブレーキ装置21は、車輪に制動力を付与する。ブレーキ装置21は、ブレーキディスクと、ブレーキディスクを挟み込むブレーキパッドとを備え、例えば、油圧式又は電動式のものである。本実施形態において、ブレーキ装置21は、前側の右車輪20Rと前側の左車輪20Lとのそれぞれに対応して個別に設けられている。
【0014】
車両10は、インバータ31と、モータ制御装置32とを備えている。インバータ31及びモータ制御装置32は、各回転電機30に対応して個別に設けられている。インバータ31には、図示しない蓄電池等の直流電源が接続されている。モータ制御装置32は、力行駆動制御又は回生駆動制御を行う。力行駆動制御は、直流電源から出力される直流電力を交流電力に変換して回転電機30の巻線に供給するためのインバータ31のスイッチング制御である。この制御が行われる場合、回転電機30は、電動機として機能し、力行トルクを発生する。回生駆動制御は、回転電機30で発電される交流電力を直流電力に変換して直流電源に供給するためのインバータ31のスイッチング制御である。この制御が行われる場合、回転電機30は、発電機として機能し、回生トルクを発生する。
【0015】
車両10は、アクセルセンサ40、ブレーキセンサ41、操舵角センサ42及び車速センサ43を含む各種センサを備えている。アクセルセンサ40は、アクセル操作部材としてのアクセルペダルの踏込量であるアクセルストロークを検出する。ブレーキセンサ41は、ドライバのブレーキペダルの踏込量であるブレーキストロークを検出する。操舵角センサ42は、ドライバのハンドル操作に伴うハンドルの操舵角を検出する。車両10の操舵輪の操舵角は、ハンドルの操舵角に応じた角度とされる。車速センサ43は、車両10の走行速度を検出する。各種センサの検出値は、車両10が備える主制御装置50に入力される。
【0016】
主制御装置50は、インバータ31のスイッチング制御及びブレーキ装置21の制動制御を行う。主制御装置50と各モータ制御装置32とは、所定の通信形式(例えばCAN)により情報のやりとりが可能になっている。
【0017】
主制御装置50は、アクセルセンサ40により検出されたアクセルストロークSa及び操舵角センサ42により検出された操舵角θsに基づいて、各回転電機30を構成するロータの指令回転速度N*を算出する。例えば、主制御装置50は、操舵角θsが0近傍の範囲内である場合、右車輪20R及び左車輪20Lそれぞれに対応する回転電機30の指令回転速度N*を同じ値にする。また、例えば、主制御装置50は、操舵角θsが0近傍の範囲外である場合、右車輪20R及び左車輪20Lのうち、外輪に対応する回転電機30の指令回転速度N*を、内輪に対応する回転電機30の指令回転速度N*よりも高くする。
【0018】
主制御装置50は、各回転電機30を構成するロータの回転速度を指令回転速度N*にフィードバック制御するための操作量として、各回転電機30の指令トルクTr*を算出する。なお、回転速度は、例えば、回転電機30を構成するロータの回転角(電気角θe)を検出するレゾルバ等の回転角センサの検出値に基づいて算出されればよい。
【0019】
主制御装置50は、算出した指令トルクTr*を各モータ制御装置32に送信する。モータ制御装置32は、回転電機30のトルクを指令トルクTr*に制御すべく、回転電機30の各相巻線に印加する指令電圧を算出し、算出した指令電圧に基づいて、インバータ31を構成する上,下アームスイッチに対するゲート信号を生成する。これにより、インバータ31のスイッチング制御を行う。詳しくは、算出したトルクTeを指令トルクTr*に直接フィードバック制御するトルクフィードバック制御を行ってもよいし、指令トルクTr*に基づくd,q軸指令電流Id*,Iq*に、算出したd,q軸電流Idr,Iqrをフィードバック制御する電流フィードバック制御を行ってもよい。なお、トルクTe及びd,q軸電流Idr,Iqrは、例えば、回転電機30に流れる相電流を検出する電流センサの検出値及び電気角θeに基づいて算出されればよい。
【0020】
ところで、駆動輪である前側の右車輪20R及び左車輪20Lのうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生し得る。本実施形態において、主制御装置50は、異常が発生した場合であっても、走行中の車両10の挙動を極力安定化させる異常時制御を行う。以下、図2を用いて、この制御について説明する。図2の制御処理は、主制御装置50により実行される。本実施形態において、主制御装置50は、車両10が一般道を直進走行していると判定している場合、図2の処理を行う。主制御装置50は、例えば、車両10に備えられたGPS受信機の受信結果及び車両10に備えられた記憶部(具体的にはメモリ)に記憶された地図データ、又は車載カメラの撮像データ等に基づいて把握される車両10の周囲の状況から、直進走行しているか否かを判定すればよい。なお、メモリは、ROM以外の非遷移的実体的記録媒体(例えば、ROM以外の不揮発性メモリ)である。
【0021】
ステップS10では、駆動輪である前側の右車輪20R及び左車輪20Lのうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する。本実施形態では、以下の(A)~(E)のいずれかが発生していると判定した場合、回転駆動に関する異常が発生していると判定する。
【0022】
(A)回転電機30の制御異常
以下の(A1)~(A3)のいずれかが発生していると判定した場合、回転電機30の制御異常が発生していると判定すればよい。
【0023】
(A1)モータ制御装置32の異常
例えば、モータ制御装置32におけるトルクTeの算出処理、指令トルクTr*の算出処理、指令電圧の算出処理、回転角センサの検出値に基づく電気角θeの算出処理、又は電流センサの検出値に基づくd,q軸電流Idr,Iqrの算出処理のいずれかに異常が発生していると判定した場合、モータ制御装置32の異常が発生していると判定すればよい。
【0024】
(A2)センサ異常
例えば、電流センサ又は回転角センサのいずれかに異常が発生していると判定した場合、センサ異常が発生していると判定すればよい。
【0025】
(A3)各モータ制御装置32間の通信異常
例えば、各モータ制御装置32間の通信データに破損が発生したと判定した場合、通信異常が発生していると判定すればよい。
【0026】
(B)インバータ31の異常
例えば、インバータ31を構成する上,下アームスイッチのいずれか、又は各スイッチを駆動するドライバのいずれかに異常が発生していると判定した場合、インバータ31の異常が発生していると判定すればよい。
【0027】
(C)駆動輪である車輪20R,20Lを構成するタイヤ内圧の低下異常
(D)駆動輪である車輪20R,20Lのベアリングの転がり抵抗の増加異常
この異常は、例えば、ベアリングの油膜切れ等に起因して発生する。例えば、回転電機30のトルクTeが指令トルクTr*よりも所定トルク以上大きくなったと判定した場合に(D)の異常が発生したと判定すればよい。
【0028】
(E)ブレーキ装置21の異常
この異常には、ドライバがブレーキペダルを踏みこんでいないにもかかわらずブレーキ装置21から車輪に制動力が付与される異常と、ブレーキセンサ41により検出されたブレーキストロークSbに見合った制動力よりも、実際の制動力が小さくなる異常とが含まれる。
【0029】
なお、本実施形態において、ステップS10の処理が「判定部」に相当する。
【0030】
ステップS10において異常が発生していると判定した場合には、ステップS11に進み、右車輪20R及び左車輪20Lのうち、異常が発生していると判定された方の駆動輪を異常側駆動輪として特定し、他方の駆動輪を正常側駆動輪として特定する。
【0031】
ステップS12では、異常側駆動輪の回転速度Nabnrと、正常側駆動輪の回転速度Nnrとを比較する。なお、各回転速度Nabnr,Nnrは、例えば、電気角θe又は車両10に備えられた車輪速センサの検出値に基づいて算出されればよい。
【0032】
ステップS13では、ステップS12の比較結果に基づいて、正常側駆動輪の回転速度Nnrが異常側駆動輪の回転速度Nabnrよりも高いか否かを判定する。
【0033】
ステップS13において肯定判定した場合には、ステップS14に進み、各モータ制御装置32のうち、正常側駆動輪に対応するモータ制御装置(以下、正常側制御装置)に送信する指令値を、指令トルクTr*から指令回転速度N*に変更する。この場合、正常側制御装置は、トルクフィードバック制御を、正常側駆動輪の回転速度Nnrを指令回転速度N*にフィードバック制御する回転速度フィードバック制御に切り替える。主制御装置50は、異常側駆動輪の回転速度Nabnrよりも低い指令回転速度N*を正常側制御装置に送信する。その結果、正常側制御装置により、正常側駆動輪の回転速度Nnrが、異常側駆動輪の回転速度Nabnrよりも低い指令回転速度N*まで低下させられる。
【0034】
ステップS14の処理は、車両10の走行安定性を確保するために実施される。つまり、例えば上記(C)又は(D)の異常が発生する場合、上述したトルクフィードバック制御が行われたとしても、右車輪20Rの回転速度と左車輪20Lの回転速度とが大きく乖離してしまい、車両10の走行安定性が低下する懸念がある。この懸念に対処すべく、ステップS14の処理が設けられている。
【0035】
ちなみに、主制御装置50は、ステップS13において肯定判定した場合、各モータ制御装置32のうち、異常側駆動輪に対応するモータ制御装置(以下、異常側制御装置)に対して、異常側制御装置の制御対象となるインバータ31のスイッチング制御の停止指令を送信してもよい。
【0036】
ステップS15では、正常側制御装置に送信する指令回転速度N*を、規定周期Tcntごとに異常側駆動輪の回転速度Nabnrを繰り返し跨ぐようにする。その結果、正常側制御装置により、正常側駆動輪の回転速度Nnrが規定周期Tcntごとに異常側駆動輪の回転速度Nabnrを繰り返し跨ぐようになる。これにより、右車輪20Rの回転速度と左車輪20Lの回転速度とが大きく乖離することを抑制しつつ、直進走行する車両10の走行安定性の低下を抑制する。
【0037】
一方、ステップS13において否定判定した場合には、ステップS16に進み、各ブレーキ装置21のうち、異常側駆動輪に対応するブレーキ装置を操作することにより、ステップS13において肯定判定されるまで、異常側駆動輪に制動力を付与する制動制御を行う。これにより、適正に制御できない状態の異常側駆動輪の回転速度を迅速に低下させることができ、ひいては異常側駆動輪の回転速度Nabnrと正常側駆動輪の回転速度Nnrとの差を迅速に小さくできる。その後、ステップS14,S15の処理を行う。
【0038】
ちなみに、例えば、回生駆動制御が異常側制御装置において実施可能な場合、ブレーキ装置21に代えて、異常側制御装置の回生駆動制御により、異常側駆動輪に制動力を付与してもよい。
【0039】
また、例えばブレーキ装置21に異常が発生している場合、ブレーキ装置21に代えて、前側の左車輪20Lを右旋回方向に操舵するとともに、前側の右車輪20Rを左旋回方向に操舵することにより、異常側駆動輪に制動力を付与するようにしてもよい。
【0040】
なお、本実施形態において、ステップS12~16の処理が「異常時制御部」に相当する。
【0041】
図3に、回転駆動に関する異常が発生した場合に主制御装置50により実行される異常時制御の一例を示す。
【0042】
時刻t1よりも前において、ステップS16の処理が行われ、異常側駆動輪の回転速度Nabnrが低下させられる。その結果、ステップS13で肯定判定され、ステップS14の処理が行われる。これにより、時刻t1において、正常側駆動輪の回転速度Nnrが異常側駆動輪の回転速度Nabnrを下回る。その結果、その後ステップS15の処理が開始される時刻t2までの時間差ΔTを短縮できる。
【0043】
時刻t2以降において、ステップS15の処理が行われることにより、車両10を直進走行させるように、正常側駆動輪の回転速度Nnrが規定周期Tcntごとに異常側駆動輪の回転速度Nabnrを繰り返し跨ぐ。
【0044】
図3に、図2に示す処理が実施されない比較例における正常側駆動輪の回転速度Nnrの推移を破線にて示す。比較例では、異常側駆動輪の回転速度Nabnrと正常側駆動輪の回転速度Nnrとの差が大きくならないように正常側駆動輪の回転速度Nnrが制御されているものの、異常側駆動輪の回転速度Nabnrに対して正常側駆動輪の回転速度Nnrが常に高い。このため、車両10の進行方向を直進方向に維持したいにもかかわらず、維持できなくなる懸念がある。
【0045】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0046】
主制御装置50は、駆動輪である前側の右車輪20R及び左車輪20Lのうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生しているか否かを判定する。主制御装置50は、異常が発生していると判定した場合、前側の右車輪20R及び左車輪20Lのうち、異常が発生していると判定した方の駆動輪を異常側駆動輪として特定し、他方の駆動輪を正常側駆動輪として特定する。主制御装置50は、正常側駆動輪の回転速度Nnrを異常側駆動輪の回転速度Nabnrに近づけるべく、異常側駆動輪の回転速度Nabnrよりも低い指令回転速度N*を正常側制御装置に送信する。これにより、駆動輪である右車輪20R及び左車輪20Lのうち、回転駆動に関する異常がいずれかに発生した場合であっても、正常に動作可能な正常側制御装置と、その制御対象となるインバータ31,回転電機30とにより、正常側駆動輪の回転速度Nnrと異常側駆動輪の回転速度Nabnrとの差を的確に小さくできる。その結果、走行中の車両10の挙動を極力安定化させることができる。
【0047】
主制御装置50は、正常側制御装置に送信する指令回転速度N*を、規定周期Tcntごとに異常側駆動輪の回転速度Nabnrを繰り返し跨ぐようにする。これにより、車両10の進行方向が左側又は右側のいずれかに片寄ることを防止できる。
【0048】
主制御装置50は、異常側駆動輪の回転速度Nabnrが正常側駆動輪の回転速度Nnrよりも高い場合、ステップS14の処理の実行に先立ち、異常側駆動輪と正常側駆動輪との回転速度差を減少させるべく、ブレーキ装置21により異常側駆動輪に制動力を付与する制動制御を行う。これにより、異常側駆動輪の回転速度Nabnrと正常側駆動輪の回転速度Nnrとの差を迅速に小さくできる。
【0049】
主制御装置50は、制動制御の実行後、ステップS14,S15の処理を行う。これにより、指令回転速度N*を定める基準となる異常側駆動輪の回転速度Nabnrを的確に低下させた状態で、正常側駆動輪の回転速度Nnrを制御できる。その結果、車両10の走行安全性を確保することができる。
【0050】
<第1実施形態の変形例>
ステップS13の処理を、正常側駆動輪の回転速度Nnrと異常側駆動輪の回転速度Nabnrとの差の絶対値が所定値以下であるか否かを判定する処理に置き換えてもよい。
【0051】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、車両10が高速道を走行する場合に回転駆動に関する異常が発生したときであっても、車両10の走行安定性を極力確保できるようにする。以下、図4を用いて説明する。本実施形態において、主制御装置50は、車両10が高速道を直進走行していると判定している場合、図4の処理を行う。図4において、先の図2に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。なお、主制御装置50は、例えば、GPS受信機の受信結果及び地図データ、又は車載カメラの撮像データ等に基づいて把握される車両10の周囲の状況から、高速道を走行しているか否かを判定すればよい。
【0052】
ステップS13において肯定判定した場合、ステップS17に進む。ステップS17では、正常側駆動輪の回転速度Nnrが高いほど、ステップS15で用いる規定周期Tcntを短く設定する。車両10が高速道を走行している場合、図5に実線にて示すように、規定周期Tcntが短くされることにより、車両10の左右の振れ幅を小さくでき、高速道を走行する場合における直進走行の安定性を高めることができる。ちなみに、ステップS17において、車速センサ43により検出された走行速度が高いほど、ステップS15で用いる規定周期Tcntを短く設定してもよい。
【0053】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、車両10が高速道を走行する場合に回転駆動に関する異常が発生したときにおいて、車両10の走行安定性を確保するための処理内容が変更されている。以下、図6を用いて説明する。本実施形態において、主制御装置50は、車両10が高速道を直進走行していると判定している場合、図6の処理を行う。図6において、先の図4に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0054】
ステップS14の処理の完了後、ステップS15aに進み、正常側制御装置に送信する指令回転速度N*を、高速道の中央側(具体的には例えば、対向車線側)とは反対側の路肩に車両10を徐々に近づけるように、規定周期Tcntごとに異常側駆動輪の回転速度Nabnrを繰り返し跨ぐようにする。これにより、例えば車両10が左側車線を走行する地域においては、高速道における走行車線の左側の路肩に車両10が徐々に近づく。
【0055】
なお、走行車線に対して路肩が左右どちらに位置するかは、地域により異なる。このため、車両10を路肩に近づけるために車両10の進行方向を斜め左側方向又は斜め右側方向にするかは、例えば、車両10が使用される地域毎に予め設定されていてもよいし、GPS受信機の受信結果及び地図データに基づいて設定されてもよいし、車載カメラの撮像データ等に基づいて把握される車両10の周囲の状況から設定されてもよい。
【0056】
また、例えば、車両10の周囲の状況を監視する超音波センサ等のセンサ検出値に基づいて、車両10と他の走行車両との距離が所定距離以上保たれるように、ステップS15aの処理が実行されればよい。
【0057】
図7に、走行車線の左側の路肩に車両10を徐々に近づける場合における正常側駆動輪の回転速度Nnr及び異常側駆動輪の回転速度Nabnrの推移の一例を示す。図7において、異常側駆動輪は左車輪20Lであり、正常側駆動輪は右車輪20Rである。図7に示す破線は、第2実施形態における図4のステップS15の処理が実行される場合の正常側駆動輪(具体的には右車輪20R)の回転速度Nnrの推移を示す。図7に示す例では、ステップS15aの処理が実行される場合における正常側駆動輪の回転速度Nnrは、ステップS15の処理が実行される場合における正常側駆動輪の回転速度Nnrよりも高くされている。
【0058】
以上説明した本実施形態によれば、異常発生時に車両10を路肩に退避させることができ、車両10の乗員の安全を確保することができる。
【0059】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、車両10が一般道を走行する場合に回転駆動に関する異常が発生したときにおいて、歩道を歩行中の歩行者の安全を確保できるようにする。以下、図8を用いて説明する。本実施形態において、主制御装置50は、車両10が一般道を直進走行していると判定している場合、図8の処理を行う。図8において、先の図4に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。なお、主制御装置50は、例えば、GPS受信機の受信結果及び地図データ、又は車載カメラの撮像データ等に基づいて把握される車両10の周囲の状況から、一般道を走行しているか否かを判定すればよい。
【0060】
ステップS14の処理の完了後、ステップS15bに進み、正常側制御装置に送信する指令回転速度N*を、歩道から車両10を徐々に遠ざけるように、規定周期Tcntごとに異常側駆動輪の回転速度Nabnrを繰り返し跨ぐようにする。これにより、一般道における走行車線のセンターライン側に車両10が徐々に近づくようになり、車両10が歩行者に接触することを防止できる。
【0061】
なお、車両10が左側車線を走行するか右側車線を走行するかは、地域により異なる。このため、車両10を歩道から遠ざけるために車両10の進行方向を斜め右側方向又は斜め左側方向にするかは、例えば、車両10が使用される地域毎に予め設定されていてもよいし、GPS受信機の受信結果及び地図データに基づいて設定されてもよいし、車載カメラの撮像データ等に基づいて把握される車両10の周囲の状況から設定されてもよい。
【0062】
図9に、車両10が左側車線を走行する場合において、車線の左側の歩道とは反対側に車両10を徐々に近づける場合における正常側駆動輪の回転速度Nnr及び異常側駆動輪の回転速度Nabnrの推移の一例を示す。図9において、異常側駆動輪は左車輪20Lであり、正常側駆動輪は右車輪20Rである。図9に示す破線は、第2実施形態における図4のステップS15の処理が実行される場合の正常側駆動輪(具体的には右車輪20R)の回転速度Nnrの推移を示す。図9に示す例では、ステップS15bの処理が実行される場合における正常側駆動輪の回転速度Nnrは、ステップS15の処理が実行される場合における正常側駆動輪の回転速度Nnrよりも低くされている。
【0063】
以上説明した本実施形態によれば、異常発生時に車両10が歩道に接近することを防止でき、歩道の歩行者の安全を確保することができる。
【0064】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、走行中の車両10の挙動が不安定になるおそれがある場合、インバータ31に供給される電圧を低下させる。
【0065】
図10は、車両10のうち、インバータ31周辺の構成を示す図である。車両10は、直流電源60と、DCDCコンバータ33とを備えている。直流電源60は、例えば、リチウムイオン蓄電池などの2次電池、又は燃料電池である。DCDCコンバータ33は、モータ制御装置32により制御され、直流電源60の出力電圧を変圧(具体的には昇圧)してインバータ31に供給する。図10に示すVdcは、DCDCコンバータ33からインバータ31に供給される電源電圧である。DCDCコンバータ33は、各インバータ31に対応して個別に設けられていてもよいし、各インバータ31に共通に設けられていてもよい。
【0066】
図11に、主制御装置50により実行される処理の手順を示す。図11において、先の図4に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0067】
ステップS11の処理の完了後、ステップS18に進み、電源電圧Vdcを低下させる必要があるか否かを判定する。具体的には、駆動輪である右車輪20Rと路面との摩擦係数μRと、駆動輪である左車輪20Lと路面との摩擦係数μLとの差が閾値よりも大きいか否かを判定する。この判定には、例えば、車両10が走行する地域の路面情報、又は車両10の挙動を検出するヨーモーメントセンサ等のセンサ検出値が用いられる。
【0068】
ステップS18において摩擦係数の差が閾値以下であると判定した場合、電源電圧Vdcを低下させる必要がないと判定し、ステップS12に進む。一方、ステップS18において摩擦係数の差が閾値よりも大きいと判定した場合、電源電圧Vdcを低下させる必要があると判定し、ステップS19に進む。ステップS19では、各インバータ31の電源電圧Vdcを、ステップS18において否定判定する場合よりも低下させる指令を各モータ制御装置32に送信する。具体的には例えば、電源電圧Vdcを1/2にする指令を送信する。これにより、図12に示すように、正常側駆動輪の回転速度Nnr及び異常側駆動輪の回転速度Nabnrを低下させることができる。その結果、例えば左右いずれかの駆動輪がスリップした場合であっても、車両10の挙動を極力安定化させることができる。
【0069】
<第5実施形態の変形例>
電源電圧Vdcを低下させるための構成としては、図10に示した構成に限らず、例えば図13に示す構成であってもよい。詳しくは、車両10は、第1直流電源61と、第2直流電源62と、切替部34とを備えている。第2直流電源62の出力電圧(例えば定格電圧)V2は、第1直流電源61の出力電圧(例えば定格電圧)V1よりも高い。具体的には例えば、第2直流電源62の出力電圧V2は、第1直流電源61の出力電圧V1の2倍である。切替部34は、例えば主制御装置50により制御され、各インバータ31の電源電圧Vdcを、第1直流電源61の出力電圧V1又は第2直流電源62の出力電圧V2のいずれかに切り替える。
【0070】
主制御装置50は、ステップS19において、切替部34を制御することにより、各インバータ31の電源電圧Vdcを、第2直流電源62の出力電圧V2から第1直流電源61の出力電圧V1に切り替える処理を行う。一方、主制御装置50は、ステップS18において否定判定した場合、切替部34を制御することにより、各インバータ31の電源電圧Vdcを第2直流電源62の出力電圧V2にする。
【0071】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、回転駆動に関する異常が発生した場合において、車両10がカーブ路を走行するときであっても、車両10の走行安定性を極力確保できるようにする。
【0072】
図14を用いて、主制御装置50が実行する処理について説明する。図14において、先の図4に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0073】
ステップS11の処理の完了後、ステップS20に進み、車両10の走行路がカーブ路であるか否かを判定する。例えば、GPS受信機の受信結果及び地図データ、又は車載カメラの撮像データ等に基づいて把握される車両10の周囲の状況から、カーブ路を走行しているか否かを判定すればよい。
【0074】
ステップS20において否定判定した場合には、ステップS13に進む。一方、ステップS20において肯定判定した場合には、ステップS21に進み、正常側駆動輪及び異常側駆動輪のうち、いずれが内輪及び外輪であるかを特定する。そして、図15に示すように、内輪の回転速度を外輪の回転速度よりも低くしつつ、内輪と外輪との回転速度差ΔNを操舵角θsに応じた値にするように、正常側制御装置に送信する指令回転速度N*を算出する。具体的には例えば、操舵角θsが大きいほど、内輪と外輪との回転速度差を大きくする。ステップS22では、算出した指令回転速度N*を正常側制御装置に送信する。これにより、例えば、車両10が右カーブ路を走行する場合、左車輪20Lの回転速度が右車輪20Rの回転速度よりも高くなる。その結果、ドライバのハンドル操作に応じた操舵輪の操舵角で車両10を走行させることができる。
【0075】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0076】
・4つの車輪20R,20Lのうち、後側の右車輪20Rと後側の左車輪20Lとのそれぞれに対応して個別に回転電機30が設けられていてもよい。この場合、後側の右車輪20Rと後側の左車輪20Lとのそれぞれが駆動輪とされる。
【0077】
また、4つの車輪のうち2つが駆動輪とされる車両に限らず、図16に示すように、4つの車輪全てが駆動輪とされている車両であってもよい。この場合、例えば、前側の2つの駆動輪20R,20Lの組、及び後側の2つの駆動輪20R,20Lの組のうち、異常側駆動輪が含まれていない組の2つの駆動輪それぞれに対応するインバータ31のスイッチング制御を停止させてもよい。
【0078】
・回生駆動制御により駆動輪に制動力を十分付与できる構成であれば、車両10にブレーキ装置21が備えられていなくてもよい。
【0079】
・主制御装置50が備える上記メモリに記憶されたプログラムが主制御装置50のCPUによって実行されることにより、第1~第6実施形態で説明した処理が実行される。プログラムは、例えば、制御装置の製造工程においてメモリに記憶されたものであってもよい。また、プログラムは、例えば、いわゆるOTA(Over The Air)のように、無線通信を介してメモリに記憶されたプログラムであってもよい。
【0080】
・異常発生時における上述した処理を実行する主体は、主制御装置50及びモータ制御装置32の双方に限らない。例えば、主制御装置50及びモータ制御装置32のうち、モータ制御装置32が主体になってもよい。この場合、上述した処理に必要なセンサ検出値等の信号が各モータ制御装置32に入力されるようになっていればよい。また、この場合、各モータ制御装置32のうち、いずれかに例えば(A1)の異常が発生した場合、この異常が発生していないモータ制御装置により、異常発生時における上述した処理が実行されればよい。
【0081】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10…車両、20R,20L…駆動輪、30…回転電機、32…モータ制御装置、50…主制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16