(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/32 20160101AFI20240305BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20240305BHJP
【FI】
H02P21/32
H02P6/18
(21)【出願番号】P 2021012320
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】蓑島 紀元
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-097275(JP,A)
【文献】特開2007-060899(JP,A)
【文献】特開2020-010475(JP,A)
【文献】特開2011-193726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02P 6/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、
前記モータに指令信号を送信する指令部と、
高調波を前記指令信号に重畳する高調波重畳部と、
前記回転子の初期位置を推定する位置推定部と、を備え、
前記位置推定部は、前記高調波を重畳した状態で第1の位置推定処理を行い、
前記高調波重畳部によって前記第1の位置推定処理時よりも高い周波数の高調波を重畳した状態で、前記指令部が、前記第1の位置推定処理の結果に基づいて、所定の値のd軸電流を前記モータに通電する通電処理を行い、
前記位置推定部は、前記モータに通電されている電流が所定条件を満たしたときに、第2の位置推定処理を行う、モータ制御装置。
【請求項2】
前記第1の位置推定処理において、前記位置推定部は、
前記高調波が重畳された状態で前記回転子の前記初期位置を仮定する初期位置仮定処理を行い、
仮定された前記初期位置に基づいて、前記回転子の磁極を判別する判別処理を行い、
前記判別処理での判別結果に基づいて、前記第1の位置推定処理における前記初期位置を確定させる確定処理を行う、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記通電処理において、前記位置推定部は位置推定を停止する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ制御装置としては、例えば特許文献1に記載されているような技術が知られている。特許文献1に記載のモータ制御装置は、固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、モータに指令信号を送信する指令部と、回転子の初期位置を推定する位置推定部と、を備える。このモータ制御装置の位置推定部は、電圧指令信号に対して微小電圧変化を与えて、その際の電流変化量に基づいて、固定子の初期位置の位置推定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術においては、微小な電流変化から微小電圧の変化を調整しなくてはならないため、位置推定の結果がノイズの影響を受けやすくなるという問題がある。従って、モータの回転子の位置推定の推定精度を向上させることが求められていた。
【0005】
本発明の目的は、モータの回転子の初期位置の推定精度を向上することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るモータ制御装置は、固定子、及び永久磁石を有する回転子を備えるモータと、モータに指令信号を送信する指令部と、高調波を指令信号に重畳する高調波重畳部と、回転子の初期位置を推定する位置推定部と、を備え、位置推定部は、高調波を重畳した状態で第1の位置推定処理を行い、高調波重畳部によって第1の位置推定処理時よりも高い周波数の高調波を重畳した状態で、指令部が、第1の位置推定処理の結果に基づいて、所定の値のd軸電流をモータに通電する通電処理を行う。位置推定部は、モータに通電されている電流が所定条件を満たしたときに、第2の位置推定処理を行う。
【0007】
このようなモータ制御装置において、位置推定部は、モータの回転子の初期位置を推定する第1の位置推定処理と、第2の位置推定処理とを行っている。ここで、第1の位置推定処理と第2の位置推定処理との間において、通電処理が行われる。この通電処理では、高調波重畳部によって第1の位置推定処理時よりも高い周波数の高調波を重畳した状態で、指令部が、第1の位置推定処理の結果に基づいて、所定の値のd軸電流をモータに通電する。この場合、第1の位置推定処理においては、高調波の周波数を抑制することで、電流変化によるインダクタンスの変化の影響を抑制した状態にて、回転子の位置推定を行うことができる。このように、回転子の位置を把握することで、通電処理において、d軸に対して高い周波数の高調波を重畳すると共に、d軸電流をモータに通電することで、位置推定のための検出信号を大きくすることができる。従って、第2の位置推定では、位置推定部は、大きな検出信号を用いることで、精度良く回転子の初期位置を推定することができる。以上より、モータの回転子の初期位置の推定精度を向上することができる。
【0008】
第1の位置推定処理において、位置推定部は、高調波が重畳された状態で回転子の初期位置を仮定する初期位置仮定処理を行い、仮定された初期位置に基づいて、回転子の磁極を判別する判別処理を行い、判別処理での判別結果に基づいて、第1の位置推定処理における初期位置を確定させる確定処理を行ってよい。この場合、回転子の初期位置が不明な状態において、高調波の周波数を抑制した状態で、初期位置を推定することができる。
【0009】
通電処理において、位置推定部は位置推定を停止してよい。この場合、通電処理によって電流変化が生じた場合であっても、位置推定部が一時的に位置推定を停止しておくことで、電流変化によって位置推定に誤差が生じることを抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モータの回転子の初期位置の推定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を示す概略構成図である。
【
図2】モータの具体的な構成の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置によるモータの起動時における制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】時間経過に伴うd軸電流の推移、及び推定結果の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置1を示す概略構成図である。本実施形態に係るモータ制御装置1は、モータ2を起動させるときに、電気角位置を検出するセンサなどを用いることなく、高性能なモータ制御を行うことができる装置である。モータ制御装置1は、モータ2と、電流指令部3(指令部)と、電圧指令部4(指令部)と、変換部5と、検出部6と、高調波重畳部7と、位置推定部8と、を備える。
【0014】
モータ2は、三相の交流電力によって駆動する電動機である。モータ2は、固定子、及び永久磁石を有する回転子を有しており、回転子を回転させる。モータ2の具体的な構成の一例を
図2に示す。
図2に示すように、U相、V相及びW相の固定子22と、回転子20と、を備える。各固定子22は、所定のインダクタンスを有するインダクタンス部23と、所定の抵抗値を有する抵抗部24と、を有する。回転子20は、永久磁石21を有する。各固定子22は、交流電流が流されることで回転子20の周囲に回転磁界を作ることで、回転子20を回転させる。モータ2は、モータ定数として、R(抵抗値)、L(インダクタンス)、K
E(誘起電圧定数)を有する。
【0015】
ここで、モータ2に対しては、回転子20と同期する回転座標系と、固定された固定座標系が設定される。回転座標系では、主磁束方向(永久磁石21のN極方向)をd軸にとり、d軸と直交するq軸をとっている。固定座標系は、互いに直交するα軸及びβ軸を有する。なお、固定座標系のα軸に対して回転座標系のd軸がなす角度をθreとする。
【0016】
図1に示すように、電流指令部3及び電圧指令部4は、変換部5を介してモータ2へ指令信号を送信する指令部として機能する。電流指令部3は、回転数指令を受信し、当該回転数指令に対応する電流指令信号を演算すると共に、当該電流指令信号を電圧指令部4へ送信する。電流指令部3は、例えば速度PI制御を用いて電流指令信号を演算する。電流指令部3は、回転座標系のd軸上の電流の指令値(i
d指令)を演算し、回転座標系のq軸上の電流の指令値(i
q指令)を演算する。
【0017】
電圧指令部4は、電流指令部3からの電流指令信号を受信し、当該電流指令に対応する電圧指令信号を演算すると共に、当該電圧指令信号を変換部5へ送信する。電圧指令部4は、例えば電流PI制御を用いて電圧指令信号を演算する。電圧指令部4は、回転座標系のd軸上の電流の指令値(id指令)及びq軸上の電流の指令値(iq指令)に基づいて、d軸上の電圧の指令値及びq軸上の電圧を演算し、それらを三相のU相、V相及びW相の固定子22のそれぞれに対する電圧の指令値(Vu指令、Vv指令、Vw指令)に変換する。
【0018】
変換部5は、モータ2の固定子22に任意の交流を印加する機器である。変換部5は、電圧指令部4からの電圧の指令値をPWM信号へと変換する。また、変換部5は、PWM信号に基づいてスイッチング動作を行い直流電力を交流電力に変換し、電圧指令部4で演算された電圧指令に相当する電圧を、モータ2に印加する。
【0019】
検出部6は、モータ2に通電する電流を検出する。また、検出部6は、検出した電流を電圧指令部4および位置推定部8へ送信する。
【0020】
高調波重畳部7は、高調波を指令信号に重畳する。高調波重畳部7は、電流指令部3の電流指令信号に対して高調波を重畳する。高調波重畳部7は、所定の周波数、所定の電流値(振幅)に設定された高調波を重畳する。例えば、
図4に示すように、モータ2に対して-50Aのd軸電流を通電するような指令信号がなされているものに対して高調波重畳部7が高調波を重畳した場合、d軸電流は-50Aを基準として振幅するような波形を描く。高調波重畳部7を重畳することで、どのように回転子20の初期位置を推定するかについては、後述する。
【0021】
位置推定部8は、モータ2の回転子20の位置を推定する。モータ2の起動時においては、回転子20が回転方向におけるどのような電気角の位置(初期位置)に配置されているかが不明な状態であるため、位置推定部8は、モータ2の回転子20の初期位置を推定する。位置推定部8は、電圧指令部4からモータ2に対する指令信号を取得すると共に、検出部6から検出結果を取得し、それらの情報に基づいて回転子20の初期位置を推定する。
【0022】
ここで、回転座標系(dq座標系)における基本式は式(1)のように示される。この基本式をL
qで統一した式へ変形すると式(2)のように示される。一方、回転座標系において、式(3)のような高調波重畳電流を定義する。高調波は電流によるインピーダンス変化が大きいことから、L
qは電流の関数である点を考慮して、高調波分のみのe
d及びe
qを計算すると、式(4)のように示される。
【数1】
v
d:d軸電圧
v
q:q軸電圧
p:微分演算子
L
d:d軸インダクタンス
L
q:q軸インダクタンス
ω
re: 回転子の回転角速度
R:抵抗
i
d:d軸電流
i
q:q軸電流
K
e:誘起電圧定数
【数2】
e
d:d軸拡張誘起電圧
e
q:q軸拡張誘起電圧
【数3】
i
d0:d軸電流の直流分
i
q0:q軸電流の直流分
i
h:高調波電流
ω
h:高調波の角速度
φ:d軸に対する角度
【数4】
e
dh:高調波分のd軸拡張誘起電圧
e
qh:高調波分のq軸拡張誘起電圧
A
Lq:L
qの電流微分値
L
q0:Lqの直流分
L
d0:Ldの直流分
【0023】
式(4)より、「φ=0」に高調波を重畳すれば、q軸上に高調波分の電圧が励起するため、当該信号を固定座標系(αβ座標系)で検出することにより、回転子20の位置推定が可能となる。しかしながら、初期位置推定時にはφの値が不明であるため、モータ制御装置1は、
図3に示すような制御処理を実行することによって初期位置を推定する。
【0024】
図3を参照して、本実施形態に係るモータ制御装置1によるモータ2の起動時における制御処理について説明する。この制御処理は、モータ2を起動させて、回転子20を実際に回転させる前段階において、センサレスで回転子20の初期位置を推定するためになされる制御処理である。また、以降の説明では、
図4を適宜参照しながら説明を行う。
図4は、時間経過に伴うd軸電流の推移、及び推定結果の推移を示すグラフである。
図4の上段側のグラフがd軸電流を示し、下段側のグラフが推定結果を示す。なお、
図4に示す例では、実際の回転子20のN極の電気角が300°であるものとしている。なお、推定位置のグラフは、直線の組み合わせで示されているが、実際は推定結果の揺らぎや検出値のぶれなどによって変動が生じる箇所もあるが、理解を容易とするためにそれらの変動は省略している。
【0025】
図3に示すように、モータ制御装置1は、第1の位置推定処理S10と、通電処理S20と、第2の位置推定処理S30とを実行する。
【0026】
まず、モータ制御装置1は、第1の位置推定処理S10を実行する。第1の位置推定処理S10は、位置推定部8が、高調波を重畳した状態で回転子20の位置を推定する処理である。第1の位置推定処理S10では、位置推定部8は、初期位置仮定処理S40と、判別処理S50と、確定処理S60とを実行する。
【0027】
ここで、第1の位置推定処理S10を開始する時点では、φの値が不明であるため、「φ=0」を基準として高調波重畳することができず、d軸上にも高調波分の電圧が励起する。従って、電流変化によりインダクタンスが変化するモータ2においては、式(4)に示すように、周波数(すなわち回転数ωh)を高くすると、d軸拡張誘起電圧edhにおいてd軸インダクタンスの微分値ALqの影響が大きくなってしまい、位置推定が良好に行えない場合があるため、高調波の周波数(すなわち回転数ωh)を低く抑えておく。
【0028】
モータ制御装置1は、初期位置仮定処理S40を実行する。初期位置仮定処理S40は、位置推定部8が、高調波が重畳された状態で回転子20の初期位置を仮定する処理である。初期位置仮定処理S40では、電流指令部3が指令する電流値は0Aである。高調波重畳部7は、当該電流指令信号に対して高調波を重畳する。このときの高調波の周波数(すなわち回転数ω
h)は、上述の通り、低い値に抑えておく。従って、
図4の上段のグラフにおいて「S40」で示されるように、d軸電流は、0Aを基準として振幅を行う。この状態で、位置推定部8は、指令信号及び検出部6の検出結果に基づいて、回転子20の初期位置がどこにあるかを仮定する。なお、初期位置仮定処理S40の段階では、回転子20の永久磁石の極性までは不明であるため、N極が0~360°のどの位置に存在するかまでは推定することができず、N極またはS極の何れかが、0~180°のいずれかに存在するかまでしか推定できない。従って、位置推定部8は、0~180°の何れかの位置を把握したら、当該位置がN極の初期位置であると仮定する。
図4の下段に示すグラフでは、N極の位置が120°であると仮定されている。
【0029】
具体的には、初期位置仮定処理S40では、高調波重畳部7は、θre=0°として高調波の重畳を開始する。これに対し、位置推定部8は、αβ座標系における拡張誘起電圧eα、eβを算出し、検波処理やバンドパスフィルタの処理を行いtan-1(eα/eβ)を随時計算することで、N極の初期位置を仮定することができる。
【0030】
モータ制御装置1は、判別処理S50を実行する。判別処理S50は、位置推定部8が、仮定された初期位置に基づいて、回転子20の磁極を判別する処理である。判別処理S50では、高調波重畳部7は、仮定した初期位置に基づいて、d軸に正・負の電圧パルスを印加する。そして、位置推定部8は、当該電圧パルスによって生じたd軸電流の変化を観察することで、仮定した初期位置における永久磁石21の極性を判別する。具体的に、-90°の位置がd軸であるものとしてd軸に対して正・負の電圧パルスを印加する。d軸電流が小さい方がN極であるところ、
図4の下段のグラフでは、負側の方に小さくd軸電流が変動している。従って、位置推定部8は、120°の位置に存在する磁極は、S極であると判別する。
【0031】
モータ制御装置1は、確定処理S60を実行する。確定処理S60は、位置推定部8が、判別処理S50での判別結果に基づいて、第1の位置推定処理S10における初期位置を確定させる処理である。確定処理S60では、位置推定部8は、N極の初期位置を120°と仮定していたものを、180°足して、300°がN極の初期位置であると推定する(
図4の下段のグラフのS50~S60)。そして、高調波重畳部7は、推定されたN極、すなわちd軸(φ=0)を基準として高調波を重畳する。これによって、d軸推定位置を収束させて、初期位置を確定させることができる。以上により、第1の位置推定処理S10が完了する。第1の位置推定処理S10では、高調波の周波数を低く抑えた状態にて回転子20の位置推定を行っている。以降の処理では、高調波の周波数を高くして、より高い精度で位置推定を行う。
【0032】
次に、モータ制御装置1は、通電処理S20を実行する。通電処理S20は、高調波重畳部7によって第1の位置推定処理S10時よりも高い周波数の高調波を重畳した状態で、電流指令部3が、第1の位置推定処理S10の結果に基づいて、所定の値のd軸電流をモータ2に通電する処理である。d軸電流の所定の値は、モータ2の通常停止、すなわち回転数指令を受けたら、速やかに回転子20を回転させることができる状態における電流値である。
図4の上段のグラフでは、d軸電流の所定の値は-50Aに設定されているが、特に限定されない。なお、当該電流指令に対して、高い周波数の高調波が重畳されているため、
図4の上段のグラフの「S20」「S30」では、d軸電流が、「S40」「S60」よりも高い周期にて、-50Aを基準として振幅している。なお、通電処理S20での高調波の周波数は、第1の推定処理S10における周波数の1.5~3.0倍に設定してよい。
【0033】
ここで、モータ2に所定の値のd軸電流を通電させると、例えば
図4の上段のグラフにおいて「B」で示す箇所のように、電流変化が生じる。当該状態で、位置推定部8が位置推定処理を継続すると、位置推定の推定結果に誤差が発生してしまう。従って、通電処理S20において、位置推定部8は位置推定を停止する。従って、
図4の下段のグラフにおいて「T」で示される区間では、位置推定の処理によるデータ更新が一時的に停止される。そのため、「T」の区間では、「S60」での位置推定の推定結果が維持される。
【0034】
次に、モータ制御装置1は、第2の位置推定処理S30を実行する。第2の位置推定処理S30は、位置推定部8が、モータ2に通電されている電流が所定条件を満たしたときに、位置推定を行う処理である。位置推定部8は、モータ2に通電されている電流が、電流指令信号の通りに、所定の値に到達して、当該状態が安定したタイミングで、停止していた位置推定を再開する。位置推定部8は、電流指令信号と検出部6での検出結果を比較することで、位置推定の再開のタイミングを調整する。具体的には、
図4の上段のグラフにおいて、d軸電流の波形が安定し、-50Aを基準として安定的に振幅する状態が維持されていることが確認されたタイミングにて、位置推定部8が第2の位置推定処理S30を開始している。第2の位置推定処理S30が終了したら、
図3に示す制御処理が終了する。
【0035】
次に、本実施形態に係るモータ制御装置1の作用・効果について説明する。
【0036】
モータ制御装置1において、位置推定部8は、モータ2の回転子20の初期位置を推定する第1の位置推定処理S10と、第2の位置推定処理S30とを行っている。ここで、第1の位置推定処理S10と第2の位置推定処理S30との間において、通電処理S20が行われる。この通電処理S20では、高調波重畳部7によって第1の位置推定処理S10時よりも高い周波数の高調波を重畳した状態で、電流指令部3が、第1の位置推定処理S10の結果に基づいて、所定の値のd軸電流をモータに通電する。この場合、第1の位置推定処理S10においては、高調波の周波数を抑制することで、電流変化によるインダクタンスの変化の影響を抑制した状態にて、回転子20の位置推定を行うことができる。このように、回転子20の位置を把握することで、通電処理S20において、d軸に対して高い周波数の高調波を重畳すると共に、d軸電流をモータ2に通電することで、位置推定のための検出信号を大きくすることができる。すなわち、d軸電流を通電することで回転子20の位置を固定しつつ、高い周波数の高調波によって検出信号を大きくすることができる。従って、第2の位置推定処理S30では、位置推定部8は、大きな検出信号を用いることで、精度良く回転子20の初期位置を推定することができる。以上より、モータ2の回転子20の初期位置の推定精度を向上することができる。また、位置推定のための検出信号が大きいため、モータ2の回転の始動時における電流変化に対しても、位置推定部8は、安定した位置推定を行うことができ、脱調等を抑制した状態で確実な始動を行うことができる。
【0037】
より詳細には、第2の位置推定では、高調波の周波数(すなわち回転数ωh)が高く設定されているため、上述の式(4)に示すように、高調波分のq軸拡張誘起電圧(eqh)が大きくなる。従って、位置推定部8は、検波処理やバンドパスフィルタの処理遅れ等による外乱に対して、より確実性の高い位置推定を行うことが可能になる。また、モータ2の回転の始動時には、回転数に応じた電流が通電されるところ、当該電流変化に対しても高調波分のq軸拡張誘起電圧(eqh)が大きいことにより、q軸インダクタンス(Lq)の電流微分値(ALq:)及びq軸電流の直流分(iq0)の影響が小さくなるため、モータ2の回転の始動を安定的に行う事が可能となる。
【0038】
第1の位置推定処理S10において、位置推定部8は、高調波が重畳された状態で回転子20の初期位置を仮定する初期位置仮定処理S40を行い、仮定された初期位置に基づいて、回転子20の磁極を判別する判別処理S50を行い、判別処理S50での判別結果に基づいて、第1の位置推定処理S10における初期位置を確定させる確定処理S60を行ってよい。この場合、回転子20の初期位置が不明な状態において、高調波の周波数を抑制した状態で、初期位置を推定することができる。
【0039】
通電処理S20において、位置推定部8は位置推定を停止してよい。この場合、通電処理S20によって電流変化が生じた場合であっても、位置推定部8が一時的に位置推定を停止しておくことで、電流変化によって位置推定に誤差が生じることを抑制できる。
【0040】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0041】
例えば、第1の位置推定処理S10において、処理S40~S60が採用されたがこれらの方法に限定されるものではない。すなわち、他の公知の初期位置推定の方法を第1の位置推定処理S10に対して適用してもよい。
【0042】
また、通電処理S20において、位置推定部8は必ずしも位置推定を停止しなくともよい。
【0043】
また、
図1に示すモータ制御装置1の全体構成、及び
図2に示すモータ2の構成は、一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…モータ制御装置、2…モータ、3…電流指令部(指令部)、4…電圧指令部(指令部)、7…高調波重畳部、8…位置推定部、20…回転子、21…永久磁石、22…固定子。