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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】回転電機制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20240305BHJP
   H02M 7/493 20070101ALI20240305BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240305BHJP
【FI】
H02P25/22
H02M7/493
H02M7/48 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021017729
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120677
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サハ スブラタ
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181948(JP,A)
【文献】特開2017-077048(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199405(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
H02M 7/493
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を駆動制御する回転電機制御システムであって、
前記オープン巻線の一端側に接続された第1インバータと、
前記オープン巻線の他端側に接続された第2インバータと、
前記第1インバータが接続された第1直流電源と、
前記第2インバータが接続された第2直流電源と、
前記第1直流電源に並列接続された第1平滑コンデンサと、
前記第2直流電源に並列接続された第2平滑コンデンサと、
前記第1インバータ及び前記第2インバータのそれぞれを、互いに独立して制御可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1直流電源を流れる電流の波高値である第1波高値と、前記第2直流電源を流れる電流の波高値である第2波高値との差分が、予め規定された判定しきい値以上であって、前記第1波高値が前記第2波高値よりも大きい場合には前記第1平滑コンデンサが開放故障であると判定し、前記第1波高値と前記第2波高値との差分が前記判定しきい値以上であって、前記第2波高値が前記第1波高値よりも大きい場合には前記第2平滑コンデンサが開放故障であると判定する、回転電機制御システム。
【請求項2】
前記回転電機は、車両に搭載されて当該車両の車輪を駆動する駆動力源であり、
前記制御部は、前記第1平滑コンデンサ又は前記第2平滑コンデンサが開放故障であると判定した場合、前記回転電機の出力可能なトルク及び回転速度を規定範囲内に制限すると共に、前記車両の運転者に対して警告を報知する、請求項1に記載の回転電機制御システム。
【請求項3】
前記第1直流電源と前記第1平滑コンデンサ及び前記第1インバータとの電気的接続を断接する第1コンタクタと、前記第2直流電源と前記第2平滑コンデンサ及び前記第2インバータとの電気的接続を断接する第2コンタクタと、を備え、
前記第1コンタクタは、前記第1直流電源を流れる電流が予め規定された過電流しきい値以上である場合に開放され、
前記第2コンタクタは、前記第2直流電源を流れる電流が前記過電流しきい値以上である場合に開放され、
前記制御部は、前記第1平滑コンデンサの両端電圧が予め規定された短絡時電圧以下であり、且つ、前記第1直流電源を流れる電流が予め規定された短絡時電流以下である場合に、前記第1平滑コンデンサが短絡故障であると判定し、前記第2平滑コンデンサの両端電圧が前記短絡時電圧以下であり、且つ、前記第2直流電源を流れる電流が前記短絡時電流以下である場合に、前記第2平滑コンデンサが短絡故障であると判定する、請求項1又は2に記載の回転電機制御システム。
【請求項4】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記制御部は、前記第1インバータ及び前記第2インバータをそれぞれ、全ての前記上段側スイッチング素子をオフ状態とし全ての前記下段側スイッチング素子をオン状態とする、又は、全ての前記上段側スイッチング素子をオン状態とし全ての前記下段側スイッチング素子をオフ状態とするアクティブショートサーキット制御、及び、全ての前記上段側スイッチング素子及び全ての前記下段側スイッチング素子をオフ状態とするシャットダウン制御、により制御可能であり、
前記制御部は、前記第1平滑コンデンサ又は前記第2平滑コンデンサが短絡故障であると判定した場合に、前記回転電機の回転速度が予め規定された速度しきい値以上の状態では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方を前記シャットダウン制御により制御し、
前記回転電機の回転速度が前記速度しきい値未満の状態では、前記第1インバータ及び前記第2インバータのうち、正常な平滑コンデンサが接続された方のインバータをパルス幅変調制御により制御し、前記短絡故障である平滑コンデンサが接続された方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御する、請求項に記載の回転電機制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
3相交流型の回転電機が備える3相オープン巻線の両端にそれぞれ1つずつ備えられたインバータをスイッチング制御して回転電機を駆動制御する回転電機制御システムが知られている。特開2014-192950号公報には、そのような回転電機制御システムの一例が開示されている。それぞれのインバータの直流側には、直流電圧を平滑化するための平滑コンデンサが接続されている。当該文献には、3相オープン巻線を駆動するインバータのスイッチング素子に故障が生じた場合であっても回転電機の駆動を継続することが可能な技術が開示されている。これによれば、2つのインバータの内の何れか一方のスイッチング素子に故障が生じた場合には、当該故障したスイッチング素子を含むインバータの上段側スイッチング素子の全て、或いは下段側スイッチング素子の全てを全てオン状態とし、他方の側のスイッチング素子の全てをオフ状態として、当該インバータを中性点化して、故障していない他方のインバータにより、回転電機を駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-192950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような回転電機制御システムにおける故障が発生するのは、インバータにおけるスイッチング素子には限らない。上述したように、直流と交流との間で電力を変換するインバータの直流側には、直流電圧を平滑化するための平滑コンデンサが接続されている。この平滑コンデンサになんらかの故障が生じると、平滑コンデンサの容量が減少したり、平滑コンデンサの抵抗が極めて小さくなったりする場合がある。平滑コンデンサは、それぞれのインバータに対して設けられるため、上述したようなスイッチング素子の故障と同様に、故障を生じていない平滑コンデンサが接続されているインバータを用いることによって、回転電機制御システムは回転電機の駆動を継続することができる。しかし、上記の文献には、平滑コンデンサの故障に対応することについては言及されていない。
【0005】
上記に鑑みて、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータにそれぞれ備えられた平滑コンデンサの一方に故障が生じた場合に、故障した平滑コンデンサを特定する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を駆動制御する回転電機制御システムは、前記オープン巻線の一端側に接続された第1インバータと、前記オープン巻線の他端側に接続された第2インバータと、前記第1インバータが接続された第1直流電源と、前記第2インバータが接続された第2直流電源と、前記第1直流電源に並列接続された第1平滑コンデンサと、前記第2直流電源に並列接続された第2平滑コンデンサと、前記第1インバータ及び前記第2インバータのそれぞれを、互いに独立して制御可能な制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1直流電源を流れる電流の波高値である第1波高値と、前記第2直流電源を流れる電流の波高値である第2波高値との差分が、予め規定された判定しきい値以上であって、前記第1波高値が前記第2波高値よりも大きい場合には前記第1平滑コンデンサが開放故障であると判定し、前記第1波高値と前記第2波高値との差分が前記判定しきい値以上であって、前記第2波高値が前記第1波高値よりも大きい場合には前記第2平滑コンデンサが開放故障であると判定する。
【0007】
平滑コンデンサの容量が小さくなると、例えば直流電源を流れる電流にリップルが生じている場合に、当該リップルを平滑化する能力が低下し、当該リップルの波高値が大きくなる。第1平滑コンデンサ及び第2平滑コンデンサの一方にオープン故障が生じて容量が低下した場合、第1平滑コンデンサと第2平滑コンデンサとのリップルの平滑化能力の差が拡大し、リップルの波高値の差分が大きくなる。静電容量の差が大きいほど、当該差分も大きくなる傾向があるため、制御部は、当該差分が判定しきい値以上である場合に、何れかの平滑コンデンサにオープン故障が生じていると判定することができる。尚、発明者の実験やシミュレーションによれば、波高値の大きさは、オープン故障を生じた平滑コンデンサと、正常な平滑コンデンサとで、同様の傾向で増減するため、区別が付きにくく、故障の判定には適切ではないことが判った。但し、静電容量が減少している平滑コンデンサの方が、波高値が大きく増加するため、一方の平滑コンデンサがオープン故障した場合には、波高値の差分は大きくなる。従って、制御部は、差分によって平滑コンデンサがオープン故障しているか否かを適切に判定することができる。また、静電容量が小さくなるほど、リップルの平滑化能力が低下するため、リップルの波高値は大きくなる。従って、制御部は、より波高値の大きい方において平滑コンデンサのオープン故障が生じていると判定することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータにそれぞれ備えられた平滑コンデンサの一方に故障が生じた場合に、故障した平滑コンデンサを特定することができる。
【0008】
回転電機制御システムのさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】回転電機駆動システムの模式的ブロック図
図2】回転電機制御装置の簡易的な部分ブロック図
図3】直行ベクトル空間における回転電機の模式的電圧ベクトル図
図4】回転電機の制御領域の一例を示す図
図5】混合連続パルス幅変調(半周期連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
図6】混合不連続パルス幅変調(半周期不連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
図7】混合連続パルス幅変調(半周期連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
図8】混合不連続パルス幅変調(半周期不連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
図9】連続パルス幅変調の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
図10】不連続パルス幅変調の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
図11】平滑コンデンサのオープン故障の検出及びフェールセーフ制御の一例を示すフローチャート
図12】平滑コンデンサの短絡故障の検出及びフェールセーフ制御の一例を示すフローチャート
図13】低トルク指令での混合連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合のバッテリ電流のリップル波形の一例を示す波形図
図14】低トルク指令での混合連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合の直流リンク電圧のリップル波形の一例を示す波形図
図15】低トルク指令での不連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合のバッテリ電流のリップル波形の一例を示す波形図
図16】低トルク指令での不連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合の直流リンク電圧のリップル波形の一例を示す波形図
図17】高トルク指令での不連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合のバッテリ電流のリップル波形の一例を示す波形図
図18】高トルク指令での不連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合の直流リンク電圧のリップル波形の一例を示す波形図
図19】短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御としてシャットダウンを行う場合とアクティブショートサーキット制御を行う場合とにおける3相電流波形の一例を示す波形図
図20】短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御としてシャットダウンを行う場合とアクティブショートサーキット制御を行う場合とにおけるバッテリ電流の一例を示す波形図
図21】短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御としてシャットダウンを行う場合とアクティブショートサーキット制御を行う場合とにおける直流リンク電圧の一例を示す波形図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、回転電機制御装置1(MG-CTRL)を含む回転電機制御システム100の模式的ブロック図である。回転電機80は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両において車輪の駆動力源となるものである。回転電機80は、互いに独立した複数相(本実施形態では3相)のステータコイル8(オープン巻線)を有するオープン巻線型の回転電機である。ステータコイル8の両端には、それぞれ独立して制御されて直流と複数相(ここでは3相)の交流との間で電力を変換するインバータ10が1つずつ接続されている。つまり、ステータコイル8の一端側には第1インバータ11(INV1)が接続され、ステータコイル8の他端側には第2インバータ12(INV2)が接続されている。以下、第1インバータ11と第2インバータ12とを区別する必要がない場合には単にインバータ10と称して説明する。
【0011】
インバータ10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられる。図1には、スイッチング素子3としてIGBTが用いられる形態を例示している。本実施形態では、第1インバータ11と第2インバータ12とは、同じ種類のスイッチング素子3を用いた同じ回路構成のインバータ10である。
【0012】
2つのインバータ10は、それぞれ交流1相分のアーム3Aが上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。各スイッチング素子3には、負極FGから正極Pへ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード35が備えられている。尚、複数相のアーム3Aにおいて、上段側スイッチング素子3Hを含む側を上段側アームと称し、下段側スイッチング素子3Lを含む側を下段側アームと称する。
【0013】
また、本実施形態では、2つのインバータ10はそれぞれ独立した直流電源6に接続されている。つまり第1インバータ11の負極FGである第1フローティンググラウンドFG1と第2インバータ12の負極FGである第2フローティンググラウンドFG2とは、互いに独立している。また、インバータ10と直流電源6との間には、それぞれ直流電圧を平滑化する直流リンクコンデンサ(平滑コンデンサ4)が備えられている。
【0014】
具体的には、交流1相分のアーム3Aが第1上段側スイッチング素子31Hと第1下段側スイッチング素子31Lとの直列回路により構成された第1インバータ11は、直流側に第1平滑コンデンサ41が接続されると共に、直流側が第1直流電源61に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の一端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。交流1相分のアーム3Aが第2上段側スイッチング素子32Hと第2下段側スイッチング素子32Lとの直列回路により構成された第2インバータ12は、直流側に第2平滑コンデンサ42が接続されると共に、直流側が第2直流電源62に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の他端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。
【0015】
本実施形態では、第1直流電源61及び第2直流電源62は、電圧などの定格が同等の直流電源であり、第1平滑コンデンサ41及び第2平滑コンデンサも、容量などの定格が同等のコンデンサである。図1に示すように、それぞれの平滑コンデンサ4は、複数のコンデンサセル4Cが並列接続されて構成されている。直流電源6の定格電圧は、48ボルトから400ボルト程度である。直流電源6は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどの蓄電素子により構成されている。回転電機80は、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機80は、インバータ10を介して直流電源6からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、車輪等から伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ10を介して直流電源6を充電する(回生)。
【0016】
図1に示すように、インバータ10は、回転電機制御装置1(制御部)により制御される。回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である(制御方式の詳細については後述する)。回転電機制御装置1は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、回転電機制御装置1は、不図示の車両制御装置等の他の制御装置等から提供される回転電機80の目標トルク(トルク指令)に基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。
【0017】
直流電源6と、インバータ10及び平滑コンデンサ4との間には、これらの間の電気的接続を断接するコンタクタ9が備えられている。具体的には、第1インバータ11と第1平滑コンデンサ41と、第1直流電源61との間には、第1コンタクタ91が備えられ、第2インバータ12と第2平滑コンデンサ42と、第2直流電源62との間には、第2コンタクタ92が備えられている。コンタクタ9は、上述した不図示の車両制御装置や、回転電機制御装置1により制御されて閉状態(CLOSE)でこれらの間を電気的に接続し、開状態(OPEN)でこれらの間の電気的接続を遮断する。コンタクタ9は例えばリレーによって構成されている。
【0018】
回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ15により検出され、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、レゾルバなどの回転センサ13により検出される。回転電機制御装置1は、電流センサ15及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。回転電機制御装置1は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。また、それぞれのインバータ10の直流側の電圧である直流リンク電圧Vdcは、不図示の電圧センサによって検出され、回転電機制御装置1が取得可能である。回転電機制御装置1は、第1インバータ11の直流側の電圧である第1直流リンク電圧Vdc1、及び、第2インバータ12の直流側の電圧である第2直流リンク電圧Vdc2を取得する。
【0019】
図2のブロック図は、回転電機制御装置1の一部の機能部を簡易的に示している。ベクトル制御法では、回転電機80に流れる実電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)を、回転電機80のロータに配置された永久磁石が発生する磁界(磁束)の方向であるd軸と、d軸に直交する方向(磁界の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向)のq軸とのベクトル成分(d軸電流Id,q軸電流Iq)に座標変換してフィードバック制御を行う。回転電機制御装置1は、回転センサ13の検出結果(θ:磁極位置、電気角)に基づいて、3相2相座標変換部55で座標変換を行う。
【0020】
電流フィードバック制御部5(FB)は、dq軸直交ベクトル座標系において、回転電機80のトルク指令に基づく電流指令(d軸電流指令Id,q軸電流指令Iq)と、実電流(d軸電流Id,q軸電流Iq)との偏差に基づいて回転電機80をフィードバック制御して、電圧指令(d軸電圧指令Vd,q軸電圧指令Vq)を演算する。回転電機80は、第1インバータ11と第2インバータ12との2つのインバータ10を介して駆動される。このため、d軸電圧指令Vd及びq軸電圧指令Vqは、それぞれ分配部53(DIV)において、第1インバータ11用の第1d軸電圧指令Vd1及び第1q軸電圧指令Vq1、第2インバータ12用の第2d軸電圧指令Vd2及び第2q軸電圧指令Vq2に分配される。
【0021】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能であり、3相電圧指令演算部73及び変調部74(MOD)を備えた電圧制御部7を2つ備えている。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su1,Sv1,Sw1)を生成する第1電圧制御部71と、第2インバータ12のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su2,Sv2,Sw2)を生成する第2電圧制御部72とを備えている。詳細は後述するが、第1インバータ11の電圧指令(Vu1**,Vv1**、Vw1**)と、第2インバータ12の電圧指令(Vu2**,Vv2**、Vw2**)との位相は“π”異なっている。このため、第2電圧制御部72には、回転センサ13の検出結果(θ)から“π”を減算した値が入力されている。
【0022】
尚、後述するように、変調方式には、回転電機80の回転に同期した同期変調と、回転電機80の回転とは独立した非同期変調とがある。一般的に、同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロック(ソフトウェアの場合は生成フロー)と、非同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロックとは異なっている。上述した電圧制御部7は、電圧指令と、回転電機80の回転に同期しないキャリアとに基づいてスイッチング制御信号を生成するものであるが、本実施形態では、説明を簡略化するために、同期変調によるスイッチング制御信号(例えば後述する矩形波制御の場合のスイッチング制御信号)も電圧制御部7にて生成されるものとして説明する。
【0023】
尚、インバータ10のそれぞれのアーム3Aは、上述したように、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。図2では、区別していないが、各相のスイッチング制御信号は、上段用スイッチング制御信号と、下段用スイッチング制御信号との2種類として出力される。例えば、第1インバータ11のU相をスイッチング制御する第1U相スイッチング制御信号Su1は、末尾に“+”を付した第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、末尾に“-”を付した第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-との2つの信号として出力される。尚、それぞれのアーム3Aを構成する上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとが同時にオン状態となると当該アーム3Aが短絡状態となる。これを防ぐために、それぞれのアーム3Aに対する上段側スイッチング制御信号と、下段側スイッチング制御信号とが共に非有効状態となるデッドタイムが設けられている。このデッドタイムも、電圧制御部7において付加される。
【0024】
図1に示すように、インバータ10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(IGBTやFETの場合はゲート端子)は、ドライブ回路2(DRV)を介して回転電機制御装置1に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。インバータ10などの回転電機80を駆動するための高圧系回路(直流電源6に接続された系統)と、マイクロコンピュータなどを中核とする回転電機制御装置1などの低圧系回路(3.3ボルトから5ボルト程度の動作電圧の系統)とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。ドライブ回路2は、各スイッチング素子3に対する駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する。第1ドライブ回路21は第1インバータ11にスイッチング制御信号を中継し、第2ドライブ回路22は第2インバータ12にスイッチング制御信号を中継する。
【0025】
回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12を構成するスイッチング素子3のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、例えば電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御(1パルス制御(1-Pulse))との2つを実行することができる。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の制御方式として、パルス幅変調制御と、矩形波制御とを実行することができる。尚、上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である。
【0026】
また、パルス幅変調には、正弦波パルス幅変調(SPWM : Sinusoidal PWM)や空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM : Space Vector PWM)などの連続パルス幅変調(CPWM:Continuous PWM)や、不連続パルス幅変調(DPWM:Discontinuous PWM)などの方式がある。従って、回転電機制御装置1が実行可能なパルス幅変調制御には、制御方式として、連続パルス幅変調制御と、不連続パルス幅変調とが含まれる。
【0027】
連続パルス幅変調は、複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う変調方式であり、不連続パルス幅変調は、複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う変調方式である。具体的には、不連続パルス幅変調では、例えば3相の交流電力の内の1相に対応するインバータのスイッチング制御信号の信号レベルを順次固定して、他の2相に対応するスイッチング制御信号の信号レベルを変動させる。連続パルス幅変調では、このように何れかの相に対応するスイッチング制御信号が固定されることなく、全ての相が変調される。これらの変調方式は、回転電機80に求められる回転速度やトルクなどの動作条件、そして、その動作条件を満足するために必要な変調率(直流電圧に対する3相交流の線間電圧の実効値の割合)に応じて決定される。
【0028】
パルス幅変調では、電圧指令としての交流波形の振幅と三角波(鋸波を含む)状のキャリア(CA)の波形の振幅との大小関係に基づいてパルスが生成される(図5図10参照。)。キャリアとの比較によらずにデジタル演算により直接PWM波形を生成する場合もあるが、その場合でも、指令値としての交流波形の振幅と仮想的なキャリア波形の振幅とは相関関係を有する。
【0029】
デジタル演算によるパルス幅変調において、キャリアは例えばマイクロコンピュータの演算周期や電子回路の動作周期など、回転電機制御装置1の制御周期に応じて定まる。つまり、複数相の交流電力が交流の回転電機80の駆動に利用される場合であっても、キャリアは回転電機80の回転速度や回転角度(電気角)には拘束されない周期(同期しない周期)を有している。従って、キャリアも、キャリアに基づいて生成される各パルスも、回転電機80の回転には同期していない。従って、正弦波パルス幅変調、空間ベクトルパルス幅変調などの変調方式は、非同期変調(asynchronous modulation)と称される場合がある。これに対して、回転電機80の回転に同期してパルスが生成される変調方式は、同期変調(synchronous modulation)と称される。例えば矩形波制御(矩形波変調)では、回転電機80の電気角1周期に付き1つのパルスが出力されるため、矩形波変調は同期変調である。
【0030】
上述したように、直流電圧から交流電圧への変換率を示す指標として、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合を示す変調率がある。一般的に、正弦波パルス幅変調の最大変調率は約0.61(≒0.612)、空間ベクトルパルス幅変調制御の最大変調率は約0.71(≒0.707)である。約0.71を越える変調率を有する変調方式は、通常よりも変調率を高くした変調方式として、“過変調パルス幅変調”と称される。“過変調パルス幅変調”の最大変調率は、約0.78である。この0.78は、直流から交流への電力変換における物理的(数学的)な限界値である。過変調パルス幅変調において、変調率が0.78に達すると、電気角の1周期において1つのパルスが出力される矩形波変調(1パルス変調)となる。矩形波変調では、変調率は物理的な限界値である約0.78に固定されることになる。尚、ここで例示した変調率の値は、デッドタイムを考慮していない物理的(数学的)な値である。
【0031】
変調率が0.78未満の過変調パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。過変調パルス幅変調の代表的な変調方式は、不連続パルス幅変調である。不連続パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。例えば、同期変調方式を用いる場合、矩形波変調では、電気角の1周期において1つのパルスが出力されるが、不連続パルス幅変調では、電気角の1周期において複数のパルスが出力される。電気角の1周期に複数のパルスが存在すると、パルスの有効期間がその分減少するため、変調率は低下する。従って、約0.78に固定された変調率に限らず、0.78未満の任意の変調率を同期変調方式によって実現することができる。例えば、電気角の1周期において、9パルスを出力する9パルス変調(9-Pulses)、5パルスを出力する5パルス変調(5-Pulses)などの複数パルス変調(Multi-Pulses)とすることも可能である。
【0032】
また、回転電機制御装置1は、インバータ10や回転電機80に異常が検出されたような場合のフェールセーフ制御として、シャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行することができる。シャットダウン制御は、インバータ10を構成する全てのスイッチング素子3へのスイッチング制御信号を非アクティブ状態にしてインバータ10をオフ状態にする制御である。アクティブショートサーキット制御は、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3H或いは複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lの何れか一方側をオン状態とし、他方側をオフ状態とする制御である。尚、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオフ状態とする場合を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)と称する。また、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオフ状態とする場合を下段側アクティブショートサーキット制御(ASC-L)と称する。
【0033】
本実施形態のように、ステータコイル8の両端にそれぞれインバータ10が接続されている場合、一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御によって短絡させると、複数相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡される。つまり、当該一方のインバータ10が中性点となって、ステータコイル8がY型結線されることになる。このため、回転電機制御装置1は、2つのインバータ10を介してオープン巻線型の回転電機80を制御する形態と、1つのインバータ10(アクティブショートサーキット制御されていない側のインバータ10)を介してY型結線の回転電機80を制御する形態とを実現することができる。
【0034】
また、回転電機80の回転による逆起電力が大きい場合には、シャットダウン制御によって全てのスイッチング素子3がオフ状態に制御されていても、スイッチング素子3に対して並列接続されたフリーホイールダイオード35がターンオンする。これにより、シャットダウン制御されているインバータ10が短絡されて、Y型結線の回転電機80が実現される場合がある。
【0035】
図3は、回転電機80のdq軸ベクトル座標系での1つの動作点におけるベクトル図を例示している。図中、“V1”は第1インバータ11による電圧を示す第1電圧ベクトル、“V2”は第2インバータ12による電圧を示す第2電圧ベクトルを示す。2つのインバータ10を介してオープン巻線であるステータコイル8に現れる電圧は、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2との差“V1-V2”に相当する。図中の“Va”は、ステータコイル8に現れる合成電圧ベクトルを示している。また、“Ia”は、回転電機80のステータコイル8を流れる電流を示している。図3に示すように、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2とのベクトルの向きが180度異なるように、第1インバータ11及び第2インバータ12が制御されると、合成電圧ベクトルVaは、第1電圧ベクトルV1の向きに第2電圧ベクトルV2の大きさを加算したベクトルとなる。
【0036】
本実施形態では、回転電機80の動作条件に応じた複数の制御領域R(図4参照)が設定され、回転電機制御装置1は、それぞれの制御領域Rに応じた制御方式でインバータ10を制御している。図4は、回転電機80の回転速度とトルクとの関係の一例を示している。例えば、図4に示すように、回転電機80の制御領域Rとして、第1速度域VR1と、同じトルクにおける回転電機80の回転速度が第1速度域VR1よりも高い第2速度域VR2と、同じトルクにおける回転電機80の回転速度が第2速度域VR2よりも高い第3速度域VR3とが設定される。
【0037】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能である。制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御(PWM)と、電気角(全周期)の1/2周期(半周期)である第1期間T1(図5等参照)においてパターンの異なる複数のパルスを出力し、残りの1/2周期(半周期)である第2期間T2(図5等参照)において非有効状態が継続するように制御する混合パルス幅変調制御(MX-PWM)とが含まれる(図5図8を参照して後述する)。回転電機制御装置1は、第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータを、混合パルス幅変調制御により制御する。
【0038】
混合パルス幅変調制御(MX-PWM)には、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)と、混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)とが含まれている。詳細は後述するが、混合連続パルス幅変調制御では、第2期間T2において非有効状態が継続するように制御すると共に第1期間T1において複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う(図5図7を参照して後述する。)。同様に詳細は後述するが、混合不連続パルス幅変調制御では、第2期間T2において非有効状態が継続するように制御すると共に第1期間T1において複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子3をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う(図6図8を参照して後述する。)。
【0039】
混合パルス幅変調制御では、第2期間T2においてもスイッチング制御信号が非有効状態となるので、インバータ10の損失が低減され、また、スイッチングによる高調波電流も減少して回転電機80の損失(鉄損)も低減される。つまり、混合パルス幅変調制御を実行することによって、システム損失を低減することができる。
【0040】
例えば、下記の表1に示すように、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を後述する混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を後述する混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第3速度域VR3において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を矩形波制御により制御する。表中のMi_sys、Mi_inv1、Mi_inv2については後述する。
【0041】
【表1】
【0042】
それぞれの制御領域Rの境界(第1速度域VR1と第2速度域VR2と第3速度域VR3との境界)は、回転電機80のトルクに応じた回転電機80の回転速度と、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値(指令値であっても出力電圧からの換算値でもよい)の割合との少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0043】
回転電機80の動作条件は、図4に例示するように、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。制御領域Rが、1つのパラメータである回転速度に基づいて、設定されていると良い。ここで、制御領域Rの境界を規定する回転速度を、トルクに関わらず一定に設定することも可能であるが、制御領域Rの境界を規定する回転速度が、トルクに応じて異なる値となるように設定されているとさらに好適である。このようにすることにより、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。
【0044】
また、例えば、回転電機80に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流電圧を高くすることや、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流電圧が一定の場合には、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流電圧に対する3相交流電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。上述したように、インバータ10を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。
【0045】
表1に示すように、制御領域Rが、回転電機80に対する要求に応じて定まる直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(変調率)に基づいて設定されていると、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。尚、表中において、“Vi_inv1”は第1インバータ11の変調率、“Mi_inv2”は第2インバータ12の変調率、“Mi_sys”はシステム全体の変調率を示している。
【0046】
上記、表1には、それぞれの制御領域Rに対応する変調率を例示している。本実施形態では、第1直流電源61の端子間電圧“E1”と第2直流電源62の端子間電圧“E2”は同じである(共に電圧“E”)。第1インバータ11の交流側の実効値を“Va_inv1”、第2インバータ12の交流側の実効値を“Va_inv2”とすると、第1インバータ11の変調率“Mi_inv1”、及び第2インバータ12の変調率“Mi_inv2”は下記式(1)、(2)のようになる。また、システム全体の変調率“Mi_sys”は、下記式(3)のようになる。
【0047】
Mi_inv1=Va_inv1/E1=Va_inv1/E ・・・(1)
Mi_inv2=Va_inv2/E2=Va_inv2/E ・・・(2)
Mi_sys =(Va_inv1+Va_inv2)/(E1+E2)
=(Va_inv1+Va_inv2)/2E ・・・(3)
【0048】
電圧の瞬時値については、瞬時におけるベクトルを考慮する必要があるが、単純に変調率だけを考えると、式(1)~(3)より、システム全体の変調率“Mi_sys”は、“(Mi_inv1+Mi_inv2)/2”となる。尚、表1では、定格値としてそれぞれの制御領域Rに対応する変調率を示している。このため、実際の制御に際しては、制御領域Rで制御方式が変わる場合のハンチング等を考慮して、それぞれの制御領域Rに対応する変調率に重複する範囲が含まれていてもよい。
【0049】
尚、表1に示す変調率“a”や後述する表2に示す変調率“b”は、それぞれの変調方式における変調率の理論上の上限値に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して設定される。例えば、“a”は0.5~0.6程度、“b”は0.25~0.3程度である。
【0050】
ここで、図5図8を参照して、混合パルス幅変調制御(MX-PWM)について、U相の電圧指令(Vu1**,Vu2**)及びU相上段側スイッチング制御信号(Su1+,Su2+)の波形例を示して説明する。尚、第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については、図示を省略する。図5及び図7は混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)の波形例を示し、図6及び図8は混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)の波形例を示している。
【0051】
図5及び図6には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11及び第2インバータ12に共通するU相電圧指令である共通U相電圧指令Vu**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-、第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については図示を省略する(他の制御方式も同様)。
【0052】
例えば、第1キャリアCA1は“0.5<CA1<1”の間で変化し、第2キャリアCA2は“0<CA2<0.5”の間で変化し、電圧指令(V**)は、“0≦V**≦1”の間で変化可能である。キャリアCA(第1キャリアCA1及び第2キャリアA2)と、電圧指令(V**)との比較により、電圧指令がキャリアCA以上の場合にスイッチング制御信号が“1”となり、電圧指令がキャリアCA未満の場合にスイッチング制御信号が“0”となる。キャリアCAと電圧指令(V**)との比較論理については、以下の説明においても同様である。
【0053】
図5及び図6に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V**)に許容される振幅の半分である。一般的なパルス幅変調では、キャリアCAの振幅は、電圧指令に許容される振幅と同等であり、混合パルス幅変調におけるキャリアCAはハーフキャリアと称することができる。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角(全周期)の1/2周期である第1期間T1(半周期)においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。残りの1/2周期である第2期間T2(半周期)においては、ハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0054】
尚、混合不連続パルス幅変調制御では、図6に示すように、第2期間T2においても、部分的に有効状態となるパルスがスイッチング制御信号として出力されている。これは、ベースとなる不連続パルス幅変調の変調率が、連続パルス幅変調に比べて大きいことに起因している。第2期間T2において有効状態となるパルスが出力されているのは、電圧指令(V**)の振幅中心近傍であり、電圧指令(V**)の変曲点付近である。図6に示すように、混合不連続パルス幅変調制御においても、第2期間T2において非有効状態は継続して出力されていると言える。また、第2期間T2をスイッチング制御信号が非有効状態の期間(1/2周期未満の期間)のみとし、1周期の中で第2期間T2以外の期間(1/2周期以上の期間)に設定すると、混合パルス幅変調を以下のように定義することもできる。混合パルス幅変調制御は、電気角の1/2周期以上である第1期間T1においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、電気角の1周期の残りである第2期間T2において非有効状態が継続するように制御されるということもできる。
【0055】
図7及び図8は、混合連続パルス幅変調制御及び混合不連続パルス幅変調制御の図5及び図6とは異なる形態を例示している。生成されるスイッチング制御信号は、同じである。図7及び図8には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11のU相電圧指令である第1U相電圧指令Vu1**と、第2インバータ12のU相電圧指令である第2U相電圧指令Vu2**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。例えば、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2は“0.5<CA1<1”の間で変化し、電圧指令(V**)は、“0≦V**≦1”の間で変化可能である。第1キャリアCA1と第2キャリアCA2とは位相が180度(π)異なっている。また、第1U相電圧指令Vu1**と第2U相電圧指令Vu2**とも位相が180度(π)異なっている。
【0056】
図7及び図8に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V**)に許容される振幅の半分である。従って、図7及び図8に示す形態におけるキャリアCAもハーフキャリアである。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角の1/2周期(或いは1/2周期以上)である第1期間T1においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。周期の残りの期間である第2期間T2においては、ハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0057】
図5及び図6に例示した形態は、2つのハーフキャリアと1つの共通のリファレンスとしての電圧指令(V**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式ということができる。一方、図7及び図8に例示した形態は、2つのハーフキャリアと2つの電圧指令(V**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式ということができる。
【0058】
図5図8を参照して上述したように、混合パルス幅変調制御は、指令値(電圧指令、上記の例ではU相電圧指令(Vu**(Vu**=Vu1**=Vu2**),Vu1**,Vu2**))の変域の1/2の波高のキャリアCAであるハーフキャリア(第1キャリアCA1、第2キャリアCA2)と指令値とに基づいて複数のパルスを生成する。そして、本実施形態では、混合パルス幅変調制御の方式として、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式と、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式との2つを例示している。
【0059】
ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式では、図5及び図6を参照して説明したように、ハーフキャリアとして指令値(共通U相電圧指令Vu**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(ここでは高電圧側)に設定された第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と第1インバータ11及び第2インバータ12に共通する指令値(共通U相電圧指令Vu**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスを生成する。また、同方式では、第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と同じ位相で指令値(共通U相電圧指令Vu**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の他方(ここでは低電圧側)に設定された第2ハーフキャリア(第2キャリアCA2)と指令値(共通U相電圧指令Vu**)とに基づいて第2インバータ12用のパルスを生成する。
【0060】
ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式では、図7及び図8を参照して説明したように、ハーフキャリアとして指令値(第1U相電圧指令Vu1**,第2U相電圧指令Vu2**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(ここでは高電圧側)に設定された第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と第1インバータ11用の第1指令値(第1U相電圧指令Vu1**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスを生成する。また、同方式では、第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と180度異なる位相で第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と同じ側(高電圧側)に設定された第2ハーフキャリア(第2キャリアCA2)と第1指令値(第1U相電圧指令Vu1**)とは位相が180度異なる第2インバータ12用の第2指令値(第2U相電圧指令Vu2**)とに基づいて第2インバータ12用のパルスを生成する。
【0061】
尚、表2を参照して後述するように、第1速度域VR1及び第2速度域VR2においては、混合パルス幅変調ではなく、パルス幅変調によってインバータ10が制御される場合がある。図9は、第1速度域VR1において第1インバータ11及び第2インバータ12が、共に連続パルス幅変調制御により制御される場合の、第1U相電圧指令Vu1**と、第2U相電圧指令Vu2**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。また、図10は、第2速度域VR2において第1インバータ11及び第2インバータ12が、共に不連続パルス幅変調制御により制御される場合の、第1U相電圧指令Vu1**と、第2U相電圧指令Vu2**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。
【0062】
第1インバータ11及び第2インバータ12が共にスイッチング制御される場合、第1U相電圧指令Vu1**と第2U相電圧指令Vu2**とは、概ね180度異なる位相である。例えば、U相電圧の最大振幅は “(4/3)E”となり、線間電圧の最大振幅は、“2E”となる(図3のベクトル図も参照)。尚、第1直流電源61と第2直流電源62とは独立しており、第1直流電源61の第1電圧E1と、第2直流電源62の第2電圧E2とは、異なる値であってもよい。例えば、正確には、U相電圧の最大振幅は、“((2/3)E1)+(2/3)E2”であるが、理解を容易にするために本明細書中では“E1=E2=E”とする。回転電機80には、2つのインバータ10から同等の電力が供給される。この時、双方のインバータ10に対して、位相が180度(π)異なる同じ電圧指令(V**)が与えられる。
【0063】
ところで、インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。2つのインバータ10がそれぞれ異なる形態のパルスで制御される場合には、それぞれのパルスに応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加するおそれがある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。回転電機80の制御方式、つまりインバータ10の制御方式は、高いシステム効率での動作と、可聴ノイズの低減とが両立できるように、動作条件に応じて適切に設定されることが望ましい。
【0064】
本実施形態の回転電機制御装置1は、回転電機80の制御モードとして、損失低減優先モード(効率優先モード)と、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備えている。損失低減優先モードでは、回転電機制御装置1は、表1を参照して上述したように、混合パルス幅変調制御を用いてインバータ10をスイッチング制御する。ノイズ低減優先モードでは、回転電機制御装置1は、下記の表2に例示するように、パルス幅変調制御を用いてインバータ10をスイッチング制御する。
【0065】
【表2】
【0066】
インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。混合パルス幅変調では、図5図8に示すように、電気角の半周期において、2つのインバータ10がそれぞれ異なるパルスの形態で制御されるため、それぞれのパルスに応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加する可能性がある。回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、車両の走行に伴う音(タイヤと路面との接地音などの走行音)も小さいため、駆動される1つのインバータ10から出力されるノイズが可聴周波数帯域のノイズの場合には、ノイズが利用者に聞こえ易くなる可能性がある。
【0067】
例えば、車両の発進時や停止に向けた減速時には、可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえ易いことを考慮してノイズ低減優先モードが選択され、車両が定常走行する定常運転時には、損失低減優先モードが選択されると好適である。尚、これらのモードは、利用者による操作(設定スイッチ(タッチパネル等からの入力も含む))により、選択されてもよい。
【0068】
ノイズ低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11と第2インバータ12とが混合パルス幅変調制御ではなく、パルス幅変調制御により制御される。ステータコイル8に電流を流す2つのインバータ10は、電流の位相がほぼ180度異なるため、脈動成分を含めて電流の位相がほぼ180度異なることになる。従って、脈動成分の少なくとも一部を互いに打ち消し合うことができ、可聴周波数帯域のノイズを低減することができる。
【0069】
ところで、上述したように、直流と交流との間で電力を変換するインバータ10の直流側には、直流電圧を平滑化するための平滑コンデンサ4が接続されている。この平滑コンデンサ4になんらかの故障が生じると、平滑コンデンサ4の容量が減少したり、平滑コンデンサ4の抵抗が極めて小さくなったりする場合がある。上述したように、本実施形態では、図1に示すように、それぞれの平滑コンデンサ4は、複数のコンデンサセル4Cが並列接続されて構成されている。例えば、複数のコンデンサセル4Cの内の1つ以上が開放状態となるオープン故障が生じた場合には、これらのコンデンサセル4Cにより構成されている平滑コンデンサ4の容量が低下する。平滑コンデンサ4の容量が減少すると直流電流のリップルが大きくなり、また、蓄えられる電荷が減少するために直流リンク電圧Vdcが上昇し易くなる。また、複数のコンデンサセル4Cの内の少なくとも1つが短絡状態となる短絡故障が生じた場合には、インバータ10の直流側の正極Pと負極FGとが短絡してしまう。
【0070】
本実施形態では、第1平滑コンデンサ41及び第2平滑コンデンサ42の何れか一方の平滑コンデンサ4に故障が生じた場合に、故障した平滑コンデンサ4を特定し、適切なフェールセーフ制御を実行する。そして、少なくとも第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方を介して回転電機80を駆動する。
【0071】
上述したように、互いに独立した複数相のオープン巻線(ステータコイル8)を有する回転電機80を駆動制御する回転電機制御システム100は、オープン巻線の一端側に接続された第1インバータ11と、オープン巻線の他端側に接続された第2インバータ12と、第1インバータ11が接続された第1直流電源61と、第2インバータ12が接続された第2直流電源62と、第1直流電源61に並列接続された第1平滑コンデンサ41と、第2直流電源62に並列接続された第2平滑コンデンサ42と、第1インバータ11及び第2インバータ12のそれぞれを、互いに独立して制御可能な制御部としての回転電機制御装置1とを備えている。回転電機制御装置1は、第1直流電源61を流れる電流(第1バッテリ電流Ib1)の波高値である第1波高値Ibpp1と、第2直流電源62を流れる電流(第1バッテリ電流Ib1)の波高値である第2波高値Ibpp2との差分が、予め規定された判定しきい値(差分しきい値Idiff_ref)以上であって、第1波高値Ibpp1が第2波高値Ibpp2よりも大きい場合には第1平滑コンデンサ41が開放故障であると判定し、第1波高値Ibpp1と第2波高値Ibpp2との差分が判定しきい値(差分しきい値Idiff_ref)以上であって、第2波高値Ibpp2が第1波高値Ibpp1よりも大きい場合には第2平滑コンデンサ42が開放故障であると判定する。
【0072】
尚、詳細は後述するが、判定しきい値(差分しきい値Idiff_ref)は、回転電機80が出力可能な最大トルクの半分以上である規定トルクを出力中に、第1平滑コンデンサ41及び第2平滑コンデンサ42の内、開放故障が生じた平滑コンデンサ4に接続された直流電源6を流れる電流(バッテリ電流Ib)の波高値(Ibpp)と、正常な平滑コンデンサ4に接続された直流電源6を流れる電流(バッテリ電流Ib)の波高値との差分に応じた値に設定されている。
【0073】
また、回転電機制御システム100は、上述したように、第1直流電源61と第1平滑コンデンサ41及び第1インバータ11との電気的接続を断接する第1コンタクタ91と、第2直流電源62と第2平滑コンデンサ42及び第2インバータ12との電気的接続を断接する第2コンタクタ92とを備えている。第1コンタクタ91は、第1直流電源61を流れる電流(第1バッテリ電流Ib1)が予め規定された過電流しきい値以上である場合に開放され、第2コンタクタ92は、第2直流電源62を流れる電流(第2バッテリ電流Ib2)が過電流しきい値以上である場合に開放される。例えば、第1コンタクタ91は第1バッテリ電流Ib1に基づいて、第2コンタクタ92は第2バッテリ電流Ib2に基づいて、回転電機制御装置1により開閉制御される。また、回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41の両端電圧(第1直流リンク電圧Vdc1)が予め規定された短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、第1直流電源61を流れる電流(第1バッテリ電流Ib1)が予め規定された短絡時電流Ishrt_ref以下である場合に、第1平滑コンデンサ41が短絡故障であると判定する。また、回転電機制御装置1は、第2平滑コンデンサ42の両端電圧(第2直流リンク電圧Vdc2)が短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、第2直流電源62を流れる電流(第2バッテリ電流Ib2)が過電流しきい値(OC_ref)以上である場合に開放される。例えば、第1コンタクタ91は第1バッテリ電流Ib1に基づいて、第2コンタクタ92は(第2バッテリ電流Ib2)が短絡時電流Ishrt_ref以下である場合に、第2平滑コンデンサ42が短絡故障であると判定する。
【0074】
以下、これら平滑コンデンサ4に開放故障、短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御について具体的に説明する。図11のフローチャートは、平滑コンデンサ4のオープン故障の検出及びフェールセーフ制御の一例を示しており、図12は、平滑コンデンサ4の短絡故障の検出及びフェールセーフ制御の一例を示している。
【0075】
まず、図11を参照してオープン故障時について説明する。図11に示すように、回転電機制御装置1は、初めに第1バッテリ電流Ib1、第2バッテリ電流Ib2を検出する(#1)。第1バッテリ電流Ib1及び第2バッテリ電流Ib2(総称してバッテリ電流Ib)は、それぞれ図1等には不図示の電流センサによって計測され、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内ネットワークを介して回転電機制御装置1が取得することによって検出される。回転電機制御装置1は、ベクトル制御の制御周期に応じて第1バッテリ電流Ib1及び第2バッテリ電流Ib2を検出する。検出周期が長いと分解能が低くなり、検出周期が短かすぎるとメモリ等の一時記憶装置の容量が圧迫され、またの演算負荷も増大する。従って、例えばベクトル制御の制御周期ごとに、1回ずつ第1バッテリ電流Ib1及び第2バッテリ電流Ib2が検出されると好適である。
【0076】
回転電機制御装置1は、検出されたバッテリ電流Ibの波高値(ピーク・トゥ・ピーク)を演算し、さらに、第1バッテリ電流Ib1の波高値(第1波高値Ibpp1)と第2バッテリ電流Ib2の波高値(第2波高値Ibpp2)との差分(絶対値)を演算する。そして、回転電機制御装置1は、当該差分が差分しきい値Idiff_ref(判定しきい値)以上であるか否かを判定する(#2)。当該差分が、差分しきい値Idiff_ref以上である場合には、第1バッテリ電流Ib1のリップルと第2バッテリ電流Ib2のリップルとの間に差があり、第1平滑コンデンサ41及び第2平滑コンデンサ42の何れかの容量が減少していること、即ち、平滑コンデンサ4にオープン故障が生じている可能性がある。従って、回転電機制御装置1は、当該差分が差分しきい値Idiff_ref(判定しきい値)以上である場合には、第1波高値Ibpp1と第2波高値Ibpp2との何れが大きいかを判定する(#3)。
【0077】
第1波高値Ibpp1の方が第2波高値Ibpp2よりも大きい場合、回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41にオープン故障が生じていると判定し、第1平滑コンデンサ41が故障していることを車両の乗員に報知する(#5)。例えば、車室内の警告灯を点灯させたり、ディスプレイパネルにメッセージを表示させたりされる。また、車外のネットワークに接続可能な場合には修理工場・ロードサービス会社・乗員のスマートフォン等に故障情報が送信されてもよい。同様に、第2波高値Ibpp2の方が第1波高値Ibpp1よりも大きい場合、回転電機制御装置1は、第2平滑コンデンサ42にオープン故障が生じていると判定し、第2平滑コンデンサ42が故障していることを車両の乗員に報知する(#5)。
【0078】
平滑コンデンサ4にオープン故障が生じて、平滑コンデンサ4の容量が定格の容量よりも減少している場合、上述したように、直流電流のリップルが大きくなり、また、蓄えられる電荷が減少するために直流リンク電圧Vdcが上昇し易くなる。しかし、直流電流のリップルが回転電機80やインバータ10に与える影響が比較的軽微な場合や、回転電機80の逆起電力が比較的小さく、直流リンク電圧Vdcの上昇が起こりにくい場合などでは、回転電機80の駆動を継続しても大きな問題はない。従って、回転電機制御装置1は、直流電流のリップルが比較的小さくなり、また、回転電機80の逆起電力が比較的小さくなるような動作領域に制限して、回転電機80の駆動を継続する(#6)。
【0079】
次に、図12を参照して短絡故障時について説明する。図12に示すように、回転電機制御装置1は、初めに第1平滑コンデンサ41の両端電圧(第1直流リンク電圧Vdc1)、第2平滑コンデンサ42の両端電圧(第2直流リンク電圧Vdc2)、第1バッテリ電流Ib1、第2バッテリ電流Ib2を検出する(#21)。第1直流リンク電圧Vdc1及び第2直流リンク電圧Vdc2(総称して直流リンク電圧Vdc)は、それぞれ図1等には不図示の電圧センサによって計測され、例えばCAN等の車内ネットワークを介して回転電機制御装置1が取得することによって検出される。第1バッテリ電流Ib1及び第2バッテリ電流Ib2も、上述したように、それぞれ図1等には不図示の電流センサによって計測され、例えばCAN等の車内ネットワークを介して回転電機制御装置1が取得することによって検出される。回転電機制御装置1は、ベクトル制御の制御周期に応じて、第1直流リンク電圧Vdc1、第2直流リンク電圧Vdc2、第1バッテリ電流Ib1及び第2バッテリ電流Ib2を検出する。
【0080】
尚、平滑コンデンサ4に短絡故障が生じた場合、当該平滑コンデンサ4が接続されている側の直流リンク電圧Vdcは、ほぼゼロ[V]まで降下する。直流電源6から見ると、負荷がほぼゼロとなるために、理論的にはほぼ無限大となる大電流のバッテリ電流Ibが流れることになる。このため、例えば不図示の過電流検出回路等の作動によって当該直流電源6に接続されているコンタクタ9が開状態に制御される。この過電流検出回路は、例えばヒューズ等でもよく、例えばコンタクタ9が電磁リレーによって構成されている場合には、電磁リレーのコイルへの通電を遮断することによって電磁リレーを開放状態にすることができる。コンタクタ9が開状態となると、平滑コンデンサ4を含むインバータ10の側の回路と、直流電源6とは切り離されるため、バッテリ電流Ibはほぼゼロとなる。上述したステップ#21において検出されるバッテリ電流Ib、直流リンク電圧Vdcは、コンタクタ9が開状態となった後に検出されたものである。
【0081】
ステップ#21に続き、回転電機制御装置1は、直流リンク電圧Vdcが短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、バッテリ電流Ibが短絡時電流Ishrt_ref以下であるか否かを判定する(#22)。そして、判定条件を満たしている場合には、回転電機制御装置1は、平滑コンデンサ4に短絡故障があると判定し、当該平滑コンデンサ4が接続されている一方の側のインバータ10を故障側インバータと設定し、他方の側のインバータ10を正常側インバータと設定する(#23)。即ち、平滑コンデンサ4の短絡によって、直流の正負両極間が短絡状態となり直流リンク電圧Vdcがゼロ[V]近くまで降下しており、且つ、バッテリ電流Ibの過電流によってコンタクタ9が開状態となり、バッテリ電流Ibがゼロ[A]となっているか否かが判定される。従って、短絡時電圧Vshrt_refは、ほぼゼロ[V]に設定されており、短絡時電流Ishrt_refは、ほぼゼロ[A]に設定されている。
【0082】
具体的には、回転電機制御装置1は、第1直流リンク電圧Vdc1が短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、第1バッテリ電流Ib1が短絡時電流Ishrt_ref以下であるか否かを判定する(#22a)。そして、判定条件を満たしている場合には、回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41が短絡故障であると判定し、第1平滑コンデンサ41が接続されている第1インバータ11を故障側インバータと設定し、他方の第2インバータ12を正常側インバータと設定する(#23a)。ステップ#22aの判定条件を満たしていない場合、回転電機制御装置1は、第2直流リンク電圧Vdc2が短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、第2バッテリ電流Ib2が短絡時電流Ishrt_ref以下であるか否かを判定する(#22b)。そして、判定条件を満たしている場合には、回転電機制御装置1は、第2平滑コンデンサ42が短絡故障であると判定し、第2平滑コンデンサ42が接続されている第2インバータ12を故障側インバータと設定し、他方の第1インバータ11を正常側インバータと設定する(#23b)。尚、当然ながら、ステップ#22aとステップ#22bとの順序は逆であってもよい。
【0083】
尚、図12には示していないが、図11のステップ#4及びステップ#5と同様に、ステップ#23において平滑コンデンサ4に短絡故障があると判定された場合に、車両の運転者等に、当該短絡故障が報知される形態であってもよい。
【0084】
回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41及び第2平滑コンデンサ42の一方に短絡故障が生じていると判定すると、第1インバータ11及び第2インバータ12をシャットダウン制御する(#24)。即ち、故障側インバータだけではなく、正常側インバータも含めて、双方のインバータ10がシャットダウン制御される。ここで、回転電機80の回転速度(ここでは“ω”で示す)が第1速度しきい値ωth1以上の場合には、双方のインバータ10がシャットダウン制御された状態が維持され、いわゆるブレーキングトルクによって回転電機80の回転速度を低下させる(#25,#26)。そして、回転電機80の回転速度が第2速度しきい値ωth2未満となると、回転電機制御装置1は、故障側インバータをアクティブショートサーキット制御し、正常側インバータをパルス幅変調制御によって駆動し、いわゆる1インバータ駆動によって回転電機80を駆動する(#27,#28)。尚、第1速度しきい値ωth1及び第2速度しきい値ωth2は、同じ値であってもよく、この場合は、両者を総称して速度しきい値ωthと称する。
【0085】
回転電機80の回転速度が比較的高い場合、回転電機80の回転に伴う逆起電圧が、正常側インバータの直流リンク電圧Vdcよりも高くなり、その結果、故障側インバータのスイッチング素子3に並列接続されたフリーホイールダイオード35がターンオンして第1インバータ11及び第2インバータ12を介してステータコイル8に電流が流れる。回転速度が低くなり、逆起電圧も低下すると故障側インバータがアクティブショート制御されることによって、第1インバータ11及び第2インバータ12を介してステータコイル8に電流を流すことができる。故障側インバータは、短絡され、上述したように、ステータコイル8は故障側インバータを中性点としてY字接続されたステータコイル8となり、正常側インバータをスイッチング制御することによって回転電機80が駆動制御される。
【0086】
このように、回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41の両端電圧(第1直流リンク電圧Vdc1)が予め規定された短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、第1直流電源61を流れる電流(第1バッテリ電流Ib1)が予め規定された短絡時電流Ishrt_ref以下である場合に、第1平滑コンデンサ41が短絡故障であると判定する。また、回転電機制御装置1は、第2平滑コンデンサ42の両端電圧(第2直流リンク電圧Vdc2)が短絡時電圧Vshrt_ref以下であり、且つ、第2直流電源62を流れる電流(第2バッテリ電流Ib2)が過電流しきい値(OC_ref)以上である場合に開放される。例えば、第1コンタクタ91は第1バッテリ電流Ib1に基づいて、第2コンタクタ92は(第2バッテリ電流Ib2)が短絡時電流Ishrt_ref以下である場合に、第2平滑コンデンサ42が短絡故障であると判定する。
【0087】
平滑コンデンサ4が短絡故障を生じることにより、平滑コンデンサ4の両端電圧はほぼゼロとなり、短絡時電圧以下となる。また、短絡によって大きな電流が流れることになり、コンタクタ9が開状態となるので、直流電源6に流れる電流もほぼゼロとなる。従って、直流電源6に流れる電流と平滑コンデンサ4の両端電圧とによって適切に平滑コンデンサ4が短絡故障を生じているか否かを判定することができる。
【0088】
また、図12を参照して上述したように、回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41又は第2平滑コンデンサ42が短絡故障であると判定した場合に、回転電機80の回転速度が予め規定された速度しきい値(第1速度しきい値ωth1)以上の状態では、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方をシャットダウン制御により制御する。また、回転電機制御装置1は、回転電機80の回転速度が速度しきい値(第1速度しきい値ωth1、第2速度しきい値ωth2)未満の状態では、第1インバータ11及び第2インバータ12のうち、正常な平滑コンデンサ4が接続された方のインバータ10をパルス幅変調制御により制御し、短絡故障である平滑コンデンサ4が接続された方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御により制御する。
【0089】
回転電機80の回転速度が相対的に高い場合には、両インバータ10をシャットダウン制御することによって、いわゆるブレーキングトルクにより回転電機80の回転速度を低下させることができる。回転電機80の回転速度が相対的に低い場合には、短絡故障した平滑コンデンサ4が接続されたインバータ10をアクティブショートサーキット制御することによって、当該インバータ10を短絡させ、オープン巻線を有する回転電機80を、当該インバータ10の側でオープン巻線が短絡されたY字結線の巻線を有する回転電機80とすることができる。そして、制御部(回転電機制御装置1)は、このY字結線型の巻線を備えた回転電機80を正常な平滑コンデンサ4が接続された側のインバータ10を介して適切に制御することができる。
【0090】
尚、回転電機制御装置1は、回転電機80の回転速度が高い場合においても、双方のインバータ10をシャットダウン制御することなく、短絡故障した平滑コンデンサ4が接続されたインバータ10をアクティブショートサーキット制御によって制御し、正常な平滑コンデンサ4が接続されたインバータ10をシャットダウン制御によって制御してもよい。
【0091】
また、本実施形態では、回転電機制御装置1が、平滑コンデンサ4がオープン故障した場合、及び短絡故障した場合の双方を検出する形態を例示して説明した。しかし、回転電機制御装置1が平滑コンデンサ4のオープン故障のみを検出する形態であってもよい。同様に、回転電機制御装置1が平滑コンデンサ4の短絡故障のみを検出する形態であってもよい。
【0092】
以下、図13図18を参照して、平滑コンデンサ4にオープン故障が生じた場合、図19図21を参照して、平滑コンデンサ4に短絡故障が生じた場合、のそれぞれのシミュレーション結果について説明する。まず、平滑コンデンサ4にオープン故障が生じた場合について説明する。図13図14は、低トルク指令(例えば30[Nm]程度)での混合連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合、図15図16は、低トルク指令(例えば30[Nm]程度)での不連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合、図17図18は、高トルク指令(例えば140[Nm]程度)での不連続パルス幅変調による制御時にオープン故障が生じた場合を例示している。また、図13図15図17の波形図は、それぞれバッテリ電流Ibのリップル波形の一例を示しており、図14図16図18の波形図は、それぞれ直流リンク電圧Vdcのリップル波形の一例を示している。図13図18の全ておいて、第2平滑コンデンサ42にオープン故障が生じた場合を例示している。下記に示す表3は、バッテリ電流Ibの波高値の一例を示している。また、下記に示す表4は、直流リンク電圧Vdcの波高値の一例を示している。
【0093】
【表3】
【表4】
【0094】
表4から明らかなように、回転電機80のトルク指令に拘わらず、直流リンク電圧Vdcの波高値には大きな差は観測されない。従って、平滑コンデンサ4がオープン故障した場合であっても、直流リンク電圧Vdcでは判別は困難である。一方、表3に示すように、バッテリ電流Ibは、回転電機80のトルク指令が低トルクの場合に比べて、高トルクの方が、波高値が大きくなっている。また、相対的に、低トルクであっても、直流リンク電圧Vdcに比べて、第1インバータ11側と第2インバータ12側とで波高値の差が大きい。従って、上述したように、回転電機制御装置1は、バッテリ電流Ibに基づいて、平滑コンデンサ4の短絡故障を適切に判定してフェールセーフ制御を実行することができる。
【0095】
ところで、バッテリ電流Ibを測定する電流センサの精度にはコストとの兼ね合い等により、一般的に限度がある。電流センサの個体差、動作環境に伴う誤差等により、電流センサの測定値には、10[A]程度の誤差が生じる場合がある。従って、表3に示すような低トルクの場合には、波高値の差が平滑コンデンサ4のオープン故障によるものか、電流センサの誤差によるものかの区別が付きにくい場合がある。従って、相対的に回転電機80のトルクが高い場合に、平滑コンデンサ4のオープン故障の有無が判定されると好適である。
【0096】
回転電機80のトルクが低い場合、トルクが大きい場合に比べて、ステータコイル8に流れる電流も小さいため、平滑コンデンサ4の平滑作用が充分に機能する。このため、表3及び表4に示すように、一方の平滑コンデンサ4にオープン故障が生じても、一方の直流電源6に非常に大きなバッテリ電流Ibが流れるようなことはなく、直流電源6を消耗させる可能性は低い。また、バッテリ電流Ib及び直流リンク電圧Vdcに大きな変化も生じないため、インバータ10のスイッチング素子3への影響もほぼ増加はしない。同様に、回転電機80のステータコイル8への影響もほぼ増加しない。従って、回転電機80を車輪の駆動力源とする車両の走行にもほぼ影響しない。従って、回転電機制御装置1は、特に回転電機80の駆動を制限しなくてもよい。よって、差分しきい値Idiff_refは、回転電機80のトルクが比較的高い場合の波高値の差分に応じて設定されていると好適である。
【0097】
例えば、差分しきい値Idiff_refは、回転電機80が出力可能な最大トルクの半分以上である規定トルクを出力中に、第1平滑コンデンサ41及び第2平滑コンデンサ42の内、開放故障が生じた平滑コンデンサ4に接続された直流電源6を流れるバッテリ電流Ibの波高値(Ibpp)と、正常な平滑コンデンサ4に接続された直流電源6を流れるバッテリ電流Ibの波高値(Ibpp)との差分に応じた値に設定されている。尚、この規定トルクにおける差分は、バッテリ電流Ibを検出する電流センサの誤差の2倍以上であると好適である。
【0098】
当該差分が小さい場合、一方の平滑コンデンサ4にオープン故障が生じていても、直流電源6、インバータ10、回転電機80、車両にはほとんど影響を与えない。従って、平滑コンデンサ4にオープン故障が生じていることが検出されなくても問題はない。一方、差分が大きい場合には、直流電源6、インバータ10、回転電機80の何れかに影響を与える可能性がある。従って、平滑コンデンサ4に異常が生じていることが速やかに検出されることが好ましい。発明者による実験やシミュレーションによれば、回転電機80のトルクが大きくなると、当該差分も大きくなることが判った。上記のように回転電機80が規定トルクを出力中における当該差分に応じて判定しきい値(差分しきい値diff_ref)が設定されると適切に平滑コンデンサ4のオープン故障を検出することができる。
【0099】
本実施形態では、回転電機80は、車両に搭載されて当該車両の車輪を駆動する駆動力源である。図11を参照して上述したように、回転電機制御装置1は、第1平滑コンデンサ41又は第2平滑コンデンサ42が開放故障であると判定した場合には、回転電機80の出力可能なトルク及び回転速度を規定範囲内に制限すると共に、車両の運転者に対して警告を報知する。
【0100】
上述したように、発明者による実験やシミュレーションによれば、回転電機80のトルクが大きくなると、放故障が生じた平滑コンデンサ4に接続された直流電源6を流れる電流(バッテリ電流Ib)の波高値(Ibpp)と、正常な平滑コンデンサ4に接続された直流電源6を流れる電流(バッテリ電流Ib)の波高値(Ibpp)との差分も大きくなることが判った。つまり、回転電機80のトルクが小さくなると、平滑コンデンサ4のオープン故障が検出できない程度まで、当該差分が小さくなる。当該差分が小さい場合には、一方の平滑コンデンサ4にオープン故障が生じていても、直流電源6、インバータ10、回転電機80にはほとんど影響を与えない。回転電機制御装置1(制御部)が、回転電機80の出力可能なトルク及び回転速度を規定範囲内に制限することで、当該差分を小さく抑えることができる。尚、この規定範囲は、一方の平滑コンデンサ4にオープン故障が生じていても、当該差分が判定しきい値(差分しきい値diff_ref)を超えないような範囲に設定されていると好適である。但し、回転電機80のトルク及び回転速度が制限されることによって、車両の走行も制限されることになる。車両の運転者に警告を報知することによって、車両を整備工場等へ入庫させて平滑コンデンサ4のオープン故障の修理を行うように促すことができる。
【0101】
尚、回転電機制御装置1は、回転電機80のトルク及び回転速度を制限するのみで、警告を報知しなくても良いし、反対に、警告を報知するのみで回転電機80のトルク及び回転速度を制限しなくてもよい。また、回転電機制御装置1は、回転電機80のトルク及び回転速度の制限も、警告の報知もしない構成であってもよい。例えば、回転電機80のトルクが高い場合には、平滑コンデンサ4にオープン故障が生じると、上述したように、バッテリ電流Ibの差分が大きくなる。しかし、それによって直ちに直流電源6、インバータ10、回転電機80が連鎖的に故障するものではない。従って、平滑コンデンサ4にオープン故障が生じたことが検出された後のアクションは、例えば、平滑コンデンサ4の故障が車両の診断記録メモリ等に記憶されるなどであってもよい。
【0102】
また、上記においては、低トルクの場合にはオープン故障の誤検出を抑制するために、差分しきい値Idiff_refが、規定トルクを出力中におけるバッテリ電流Ibの差分に応じて設定されている形態を例示して説明した。これは、上述した通り、バッテリ電流Ibを計測する電流センサの精度を考慮したものである。しかし、当該電流センサの精度が充分に確保できるような場合には、規定トルクに関係なく、さらに低トルクにおける当該差分に応じて差分しきい値Idiff_refが設定されてもよい。また、回転電機80のトルクには関係なく、差分しきい値Idiff_refが設定されることを妨げるものでもない。
【0103】
次に、図19図21を参照して、平滑コンデンサ4に短絡故障が生じた場合のシミュレーション結果について説明する。図19の波形図は、第2平滑コンデンサ42に短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御としてシャットダウンを行う場合とアクティブショートサーキット制御を行う場合とにおける3相電流波形の一例を示している。図20の波形図は、第2平滑コンデンサ42に短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御としてシャットダウンを行う場合とアクティブショートサーキット制御を行う場合とにおけるバッテリ電流Ibの一例を示している。図21の波形図は、第2平滑コンデンサ42に短絡故障が生じた場合のフェールセーフ制御としてシャットダウンを行う場合とアクティブショートサーキット制御を行う場合とにおける直流リンク電圧Vdcの一例を示している。図19図21は、回転電機80の回転速度がいわゆる高回転領域の場合の波形を示している。尚、ここでいう高回転領域とは、回転電機80による逆起電力によりフリーホイールダイオード35がターンオンする回転速度以上で回転電機80が回転する動作領域である。
【0104】
図19に示すように、高回転領域では、故障側インバータである第2インバータ12をシャットダウン制御した場合も、アクティブショートサーキット制御した場合も、3相電流波形は同様である。図20に示すように、第2インバータ12は、フリーホイールダイオード35がターンオンすることにより短絡され、ステータコイル8の中性点となる。従って、第2インバータ12の側の第2バッテリ電流Ib2はゼロとなっている。第1インバータ11の側の第1バッテリ電流Ib1には、回生電流が流入している。また、図21に示すように、第2インバータ12の側の第2直流リンク電圧Vdc2は、第2平滑コンデンサ42の短絡によって、ほぼゼロとなっている。第1インバータ11の側の第1直流リンク電圧Vdc1は、第2平滑コンデンサ42の短絡によって若干電圧が上昇している。
【0105】
第2平滑コンデンサ42が短絡故障を生じ、フェールセーフ制御としてシャットダウン制御が実行された場合、回転電機80の回転速度が低い場合には、回転電機80のトルクに拘わらず、第1直流電源61には電流が流れず、第1直流電源61の定格を超えることはない。同様に、インバータ10にも電流は流れず、スイッチング素子3の破壊につながることもない。ステータコイル8にも電流が流れないため、回転電機80の故障につながることもない。車両は、イナーシャトルクによって次第に減速する。従って、例えば車両が走行中に平滑コンデンサ4に短絡故障が生じた場合であっても、路肩など安全な場所まで車両を走行させて停車させることができる。いわゆる、リンプホーム(limp home)が可能である。
【0106】
回転電機80の回転速度が高い場合には、正常側インバータである第1インバータ11に接続された第1直流電源61のみが回転電機80に接続されることになる。このため、図20に示すように、大きなバッテリ電流Ibが流れることになるが、直流電源6の使用範囲内であり問題はない。同様に、インバータ10及びステータコイル8にも同程度の電流が流れるが、これも使用範囲内であり問題はない。また、図12を参照して上述したように、回転電機80の回転速度が高い場合には、双方のインバータ10がシャットダウン制御されることによるブレーキングトルクによって車両が減速する。そして、車両の速度が充分に低下した後、正常側インバータによる1インバータ駆動によって回転電機80が駆動制御される。従って、低回転速度の場合と同様に、例えば車両が走行中に平滑コンデンサ4に短絡故障が生じた場合であっても、路肩など安全な場所まで車両を走行させて停車させることができる。いわゆる、リンプホーム(limp home)が可能である。
【0107】
以上説明したように、本実施形態によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータにそれぞれ備えられた平滑コンデンサの一方に故障が生じた場合に、故障した平滑コンデンサを特定することができる。
【符号の説明】
【0108】
1:回転電機制御装置(制御部)、3:スイッチング素子、3A:アーム、3H:上段側スイッチング素子、3L:下段側スイッチング素子、4:平滑コンデンサ、6:直流電源、8:ステータコイル(オープン巻線)、9:コンタクタ、10:インバータ、11:第1インバータ、12:第2インバータ、41:第1平滑コンデンサ、42:第2平滑コンデンサ、61:第1直流電源、62:第2直流電源、80:回転電機、91:第1コンタクタ、92:第2コンタクタ、100:回転電機制御システム、Ib:バッテリ電流、Ib1:第1バッテリ電流(第1直流電源を流れる電流)、Ib2:第2バッテリ電流(第2直流電源を流れる電流)、Ibpp1:第1波高値、Ibpp2:第2波高値、Ishrt_ref:短絡時電流、Vdc1:第1直流リンク電圧(第1平滑コンデンサの両端電圧)、Vdc2:第2直流リンク電圧(第2平滑コンデンサの両端電圧)、Vshrt_ref:短絡時電圧、diff_ref:差分しきい値(判定しきい値)、ωth:速度しきい値
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