(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】磁場発生装置およびそれを備えた磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/20 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
G01R33/20 101
(21)【出願番号】P 2021026889
(22)【出願日】2021-02-23
【審査請求日】2023-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、量子計測・センシング技術研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】小山 和博
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-053025(JP,A)
【文献】特開2020-193819(JP,A)
【文献】特開2020-038086(JP,A)
【文献】特開平06-036867(JP,A)
【文献】特開平02-192688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場発生装置であって、
第1導電性材料で構成され、コイル部(21)を有したループ回路を構成する上層コイル(20)と、
第2導電性材料で構成され、前記上層コイルのコイル部に対して所定距離離れて対向配置されるコイル部(31)を有したループ回路を構成する下層コイル(30)と、
前記上層コイルと前記下層コイルを支持し、前記上層コイルと前記下層コイルとの間が誘電材料で構成された基板(10)と、
前記基板の一面および他面において上層コイルおよび下層コイルを挟むように配置されたグランド電位とされるグランド層(12、13)と、を有し、
前記上層コイルと前記下層コイルには、それぞれ逆位相の高周波電流が流され、
前記上層コイルにおける前記コイル部と前記下層コイルにおける前記コイル部の1周当たりの長さが前記高周波電流の1波長に合わせられている、磁場発生装置。
【請求項2】
前記上層コイルと前記下層コイルの少なくとも一方の前記コイル部は、複数個が所定距離離れて対向配置された構成とされている、請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項3】
前記上層コイルと前記下層コイルの間において、前記上層コイルにおける前記コイル部および前記下層コイルにおける前記コイル部と平行な一面をXY面とし、該XY面上における一方向を縦方向、該縦方向に対して垂直な方向を横方向として、
前記上層コイルの前記コイル部と前記下層コイルの前記コイル部のうち前記縦方向の寸法と前記横方向の寸法となる縦横比が同じになっている、請求項1または2に記載の磁場発生装置。
【請求項4】
前記上層コイルと前記下層コイルの間において、前記上層コイルにおける前記コイル部と前記下層コイルにおける前記コイル部と平行な一面をXY面とし、該XY面上における一方向を縦方向、該縦方向に対して垂直な方向を横方向として、
前記上層コイルの前記コイル部と前記下層コイルの前記コイル部のうち前記縦方向の寸法と前記横方向の寸法となる縦横比が異なっている、請求項1または2に記載の磁場発生装置。
【請求項5】
前記上層コイルに対して高周波電流を供給する上層電源(40)と、
前記下層コイルに対して前記上層コイルに供給される高周波電流と逆位相の高周波電流を供給する下層電源(50)と、を有している、請求項1~4のいずれか1つに記載の磁場発生装置。
【請求項6】
前記上層コイルの前記コイル部にはスリット(22)が形成されており、該スリットによって該コイル部に構成される両端部の一方に前記上層電源からの前記高周波電流が供給され、
前記下層コイルの前記コイル部にはスリット(32)が形成されており、該スリットによって該コイル部に構成される両端部の一方に前記下層電源からの前記高周波電流が供給され、
前記上層コイルの前記コイル部の両端部のいずれに前記上層電源からの前記高周波電流の供給が行われるようにするかの切替えを行う切替えスイッチ(100)と、
前記下層コイルの前記コイル部の両端部のいずれに前記下層電源からの前記高周波電流の供給が行われるようにするかの切替えを行う切替えスイッチ(100)と、を備えている請求項5に記載の磁場発生装置。
【請求項7】
前記上層コイルの前記コイル部にはスリット(22)が形成されており、該スリットによって該コイル部に構成される両端部の両方に前記上層電源からの前記高周波電流を供給することで前記上層コイルに対して前記高周波電流の定在波を生成させる位相調整装置(80)と、
前記下層コイルの前記コイル部にはスリット(32)が形成されており、該スリットによって該コイル部に構成される両端部の両方に前記下層電源からの前記高周波電流を供給することで前記下層コイルに対して前記高周波電流の定在波を生成させる位相調整装置(90)と、を備えている請求項5に記載の磁場発生装置。
【請求項8】
前記上層コイルは前記下層コイルに対して磁界結合もしくは電界結合させられる共振コイルであり、
前記下層コイルに対して高周波電流を供給する電源(50)を有し、
前記下層コイルに対して前記高周波電流を供給することで、前記上層コイルに対して前記下層コイルに供給される前記高周波電流と逆位相の高周波電流が流れるようになっている、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の磁場発生装置。
【請求項9】
前記下層コイルの前記コイル部にはスリット(32)が形成されており、該スリットによって該コイル部に構成される両端部の一方に前記電源からの前記高周波電流が供給され、
前記下層コイルの前記コイル部の両端部のいずれに前記電源からの前記高周波電流の供給が行われるようにするかの切替えを行う切替えスイッチ(100)を備えている請求項8に記載の磁場発生装置。
【請求項10】
前記下層コイルの前記コイル部にはスリット(32)が形成されており、該スリットによって該コイル部に構成される両端部の両方に前記電源からの前記高周波電流を供給することで前記下層コイルに対して前記高周波電流の定在波を生成させる位相調整装置(90)を備えている請求項8に記載の磁場発生装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1つに記載の磁場発生装置を有する磁気センサであって、
前記基板には、前記上層コイルの前記コイル部と前記下層コイルの前記コイル部の内部を通り、該基板の表裏面を貫通する貫通孔(11)が形成され、
前記貫通孔内に配置され、外部磁場の測定を行う磁場測定素子(2)と、
前記磁場測定素子に対して特定波長の光を照射する光源(3)と、を備える磁気センサ。
【請求項12】
前記磁場測定素子にて、前記光が波長変換された光を受光する測定部(5)を備える請求項11に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置およびそれを備えた磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に、コイルの軸方向に対して高周波磁場を発生させる磁場発生装置に相当するループギャップ共振器が開示されている。このループギャップ共振器では、ループ状、換言すれば円筒状とした電極の周方向の全域において、同じ経路の電界を発生させる。すなわち、電極が構成する円筒内側から軸方向の一端側を通って円筒外側に至り、さらに円筒外周面に沿って他端側に導かれ、再び円筒内部に戻る経路の磁界を発生させる。このため、電極が構成する円筒状のコイル内部を通るコイルの軸方向の高周波磁場が発生させられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここではNVセンタ(NVC:Nitrogen-Vacancy Center)を内包するダイヤモンド素子(ダイヤ素子)を用い、光検出磁気共鳴(ODMR: Optically Detected Magnetic Resonance)を利用して磁場を検出する磁気センサを例にとる。この磁気センサは、ダイヤ素子および、電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)をさせるためのマイクロ波帯の高周波磁場をダイヤ素子に印加するコイルから成る磁場発生装置と、スピン初期化とNVCの不対電子を励起するためにダイヤ素子に緑光を当てる光源と、ダイヤ素子において波長変換された赤色蛍光を読み取る受光部により成り立つ。この磁気センサにおいては、不対電子を持つNVCの基底状態のゼーマン分離のエネルギー差をODMRにて読み取ることで外部磁場の強度を測定する。すなわち、この磁気センサで測定される外部磁場の強度は、ダイヤ素子の位置における強度であり、更には、この磁気センサは磁場発生装置によりダイヤ素子に印加される高周波磁場の方向と直交する方向にのみ外部磁場(測定磁場)の感度を有する特徴をもつ。
【0005】
特許文献1のような筒形状のループギャップ共振器にて磁場発生装置が構成される場合、コイルの軸方向をZ方向、それに対して垂直な平面をXY面として、高周波磁場はZ軸方向に生成され、外部磁場の感度軸はそれに直交するXY面となる。
【0006】
ここで、微小な外部磁場を検出したい場合には、その発生源と磁気センサの距離を近付ける必要がある。円筒状のループギャップ共振器であれば、その筒内に検出対象を近付けることが必要になる。しかしながら、XY面には、ループコイルや共振器、さらにはそれらが備えられる基板が存在するため、距離を近付けるには限界がある。
【0007】
一方、筒形状の磁場発生装置の直上もしくは直下、つまり軸方向のいずれかに外部磁場の発生源を配置すると距離は近くなるが、軸方向には感度がないため、外部磁場を測定できない。軸方向に感度を出すためには、XY面内に高周波磁場を発生させることが必要である。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、コイルの軸方向をZ軸とし、それに対して垂直な平面をXY面として、XY面内に高周波磁場を発生させることができる磁場発生装置およびそれを備えた磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の磁場発生装置は、第1導電性材料で構成され、コイル部(21)を有したループ回路を構成する上層コイル(20)と、第2導電性材料で構成され、上層コイルのコイル部に対して所定距離離れて対向配置されるコイル部(31)を有したループ回路を構成する下層コイル(30)と、上層コイルと下層コイルを支持し、上層コイルと下層コイルとの間が誘電材料で構成された基板(10)と、基板の一面および他面において上層コイルおよび下層コイルを挟むように配置されたグランド電位とされるグランド層(12、13)と、を有している。そして、上層コイルと下層コイルには、それぞれ逆位相の高周波電流が流され、上層コイルにおけるコイル部と下層コイルの1周当たりの長さが高周波電流の1波長に合わせられている。
【0010】
このような構成によれば、基板のうち上層コイルが備えられている上層部分のうちの下層コイル側と、下層コイルが備えられている下層部分のうちの上層コイル側とで、磁界の向きが同方向となる。これにより、上層コイルと下層コイルとの間において、XY面を磁場方向とする高周波磁場を発生させることが可能となる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態にかかる磁場発生装置が備えられた磁気センサの全体構成図である。
【
図3】
図1中から磁場発生装置を抽出して示した図である。
【
図4A】基板の誘電率を同じにした場合のループ回路の配線の物理長と電気長の関係を示した図である。
【
図4B】ループ回路の配線の物理長を同じとした場合の基板の誘電率と電気長の関係を示した図である。
【
図5A】下層コイルに発生する磁界を説明した斜視図である。
【
図5B】下層コイルおよび上層コイルに発生する磁界とそれにより生成される高周波磁場を説明した斜視図である。
【
図6】下層コイルおよび上層コイルに発生する磁界とそれにより生成される高周波磁場を説明した断面図である。
【
図8】比較例として示した複数回巻回された巻線コイルにより発生させられる高周波磁場を説明した断面図である。
【
図9A】シミュレーションによる上層コイルおよび下層コイルに流れる電流の向きを矢印で示した図である。
【
図10】磁場発生装置が発生させる高周波磁場のシミュレーション結果を示した図である。
【
図11】第2実施形態にかかる磁気センサに備えられる磁場発生装置を示した図である。
【
図12】
図11中のXII-XII断面において下層コイルおよび上層コイルに発生する磁界とそれにより生成される高周波磁場を説明した断面図である。
【
図13】第3実施形態にかかる磁気センサに備えられる磁場発生装置を示した図である。
【
図15】第4実施形態にかかる磁気センサに備えられる磁場発生装置を示した図である。
【
図17】第5実施形態にかかる磁気センサに備えられる磁場発生装置を示した図である。
【
図18】上層コイルにおける第1引出部から第2引出部の間の各部を点G~点Kで表した図である。
【
図19A】高周波電流の定在波と
図18中の点G~点Kの関係を示した図である。
【
図19B】高周波電流の定在波と
図18中の点G~点Kの関係を示した図である。
【
図20A】第6実施形態で説明する磁場方向が右回りとなるようにする場合の様子を示した図である。
【
図20B】第6実施形態で説明する磁場方向が左回りとなるようにする場合の様子を示した図である。
【
図21】第7実施形態にかかる磁場発生装置が備えられた磁気センサの全体構成図である。
【
図23】
図21中から磁場発生装置を抽出して示した図である。
【
図24】シミュレーションによる上層コイルおよび下層コイルに流れる電流の向きを矢印で示した図である。
【
図25】磁場発生装置が発生させる高周波磁場のシミュレーション結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態では、磁場発生装置が備えられた磁気センサについて説明する。磁気センサは、磁場発生装置によって発生させられた高周波磁場に基づいて検出対象の外部磁場の測定を行うものである。
図1に示すように、磁気センサは、磁場発生装置1に加えて、ダイヤモンド2、光源3、調温部4および測定部5などを有した構成とされている。
【0015】
磁場発生装置1は、
図1~
図3に示すように、基板10に対してループ状の上層コイル20と下層コイル30の2つを重ねて配置することによって構成されている。この図において、XY面は基板10の平面と平行な面となっており、XY面に対する法線方向がZ軸と平行な方向となる。また、磁場発生装置1には、上層コイル20に対して通電を行う機構となる上層電源40と、下層コイル30に対して通電を行う機構となる下層電源50が備えられている。
【0016】
基板10は、上層コイル20および下層コイル30を支持するものである。例えば、基板10は、エポキシ系の樹脂材料等によって構成されており、内部に上層コイル20および下層コイル30を備えた構造とされている。上層コイル20と下層コイル30の間にも、基板10の一部で構成される誘電体が挟まった構造とされている。
【0017】
ここでは、プリント基板を複数枚重ね合わせて一体化した多層基板によって、上層コイル20および下層コイル30を内蔵した基板10を構成している。例えば、コア材やプリプレグを構成するエポキシ系の樹脂材料の表裏面が銅箔などの金属箔で覆われたプリント基板を複数枚用意し、そのうちの一部をエッチングによってパターニングして上層コイル20や下層コイル30を形成する。そして、パターニング後のプリント基板をプレス加工などによって一体化することで上層コイル20および下層コイル30が内蔵された基板10を構成している。
【0018】
また、
図1~
図3に示すように基板10には、上層コイル20および下層コイル30の内部を通るように形成された貫通孔11が形成されている。貫通孔11は、基板10の表裏面を貫通するように形成されていれば良いが、ここでは円柱形状とされている。この貫通孔11内に、後述するダイヤモンド2や調温部4が配置されている。
【0019】
なお、
図1、
図3では省略してあるが、
図2に示すように基板10の上下となる表裏面には、上層コイル20および下層コイル30を挟み込み、グランド(以下、GNDという)電位とされる上層GND層12と下層GND層13が対称配置されている。このように、基板10の上下対称に上層GND層12および下層GND層13が配置されることで、マイクロストリップ線路が構成される。これら上層GND層12および下層GND層13は、少なくとも上層コイル20のコイル部21および下層コイル30のコイル部31を覆うように形成される。そして、コイル部21およびコイル部31よりも外側の位置において、例えば上層GND層12が部分的に除去されており、その除去された部分を通じて上層電源40と上層コイル20との電気的接続や下層電源50と下層コイル30との電気的接続が可能とされている。また、貫通孔11は、上層GND層12および下層GND層13も貫通するように形成されている。
【0020】
上層コイル20は、コイル部21と、コイル部21を一部切り欠くスリット22と、スリット22の両側に配置されコイル部21の外周方向に引き出された引出部23とを有している。コイル部21および引出部23は、第1導電性材料で構成され、例えば上記したように銅などによって構成される。
【0021】
コイル部21は、ループ状コイルで構成されるループ回路を構成している。具体的には、コイル部21は、所定幅を有した円環状とされ、ループ1周当りの長さ、つまり1周の電気長が上層電源40から流される高周波電流の1波長分とされている。つまり、高周波電流の1波長と電気長が同じ程度になる分布定数回路が構成されるようにしている。高周波電流として2.87GHz近傍のものを用いる場合、1波長は略100mmとなる。このため、コイル部21の半径は、略16mmとなっている。
【0022】
ただし、波長短縮率がコイル周囲の物質、つまり基板10の誘電率に応じて変わるため、波長短縮率に応じてコイル部21の1周当りの電気長を設定することができる。例えばエポキシ系の樹脂材料としてガラスエポキシで構成されるFR4を用いる場合、誘電率が4程度であるが、その場合には波長短縮率により半径が8mm程度になり、コイル部21の1周の長さは略50mmとなる。
【0023】
一般的に、基板の誘電率を同じにした場合のループ回路の配線の物理長と電気長の関係は、
図4Aのように示される。ここで示したLは、基準長さを意味しており、1L、2L、5L、10Lは、基準長さに数値で示した倍率を掛けた長さを意味している。また、ループ回路の配線の物理長を同じとした場合の基板の誘電率と電気長の関係は、
図4Bのように示される。ここで示したεrは、比誘電率を意味しており、εr:1、εr:2、εr:5、εr:10、εr:20は、比誘電率の数値を意味している。これらの図に示されるように、ループ内の電気長は、物理長に比例し、また、誘電率が高いほど電気長も長くなる。このため、本実施形態の場合、配線に相当する上層コイル20の物理長と基板10の比誘電率とに基づいてループコイルで構成されたコイル部21の1周当たりの電気長を設定すれば良い。
【0024】
なお、コイル部21の1周の長さと高周波電流の1波長は完全に一致していなくても良い。つまり、高周波磁場を発生させる上で後述するようにXY面が磁場方向となるようにできれば、コイル部21の1周の長さと高周波電流の1波長とが異なっても良い。例えば、±20%のズレが生じてもXY面に磁場が発生するが、望ましくは±10%以内にするのが良い。また、上記した貫通孔11は、コイル部21の寸法に対応した寸法とされており、例えばコイル部21の半径が略16mmとされていれば、それ以下の半径に設定される。
【0025】
スリット22は、コイル部21の一端と他端との間に設けられたギャップであり、例えばコンマ数mm~数mm程度とされ、ギャップを除いたコイル部21の1周の長さが高周波電流の1波長となるように設定されている。
【0026】
引出部23は、コイル部21の一端から引き出された第1引出部23aと第2引出部23bとを有しており、第1引出部23aが上層電源40に接続され、第2引出部23bがGNDに接続されている。これにより、上層電源40から流される電流が第1引出部23aからコイル部21を通じて第2引出部23bに流れる経路が構成されている。また、第2引出部23bからGNDに流される電流の反射を抑制するために、第2引出部23bとGNDとの間に抵抗器60を備えるようにしている。
【0027】
下層コイル30は、上層コイル20と対応した形状とされている。下層コイル30も、コイル部31と、コイル部31を一部切り欠くスリット32と、スリット32の両側に配置されコイル部31の外周方向に引き出された引出部33とを有している。コイル部31および引出部33は、第2導電性材料で構成され、例えば上記したように銅などによって構成される。
【0028】
コイル部31は、ループ状コイルで構成されるループ回路を構成している。具体的には、コイル部31は、上層コイル20のコイル部21と同じ形状、同じ寸法で形成され、コイル部21に対して所定距離離れて対向配置されている。
【0029】
スリット32についても、上層コイル20のスリット22と同じ寸法とされている。本実施形態では、スリット32をスリット22と同じ位置に形成してある。
【0030】
引出部33は、コイル部31の一端から引き出された第1引出部33aと第2引出部33bとを有しており、第1引出部33aが下層電源50に接続され、第2引出部33bがGNDに接続されている。これにより、下層電源50から流される電流が第1引出部33aからコイル部31を通じて第2引出部33bに流れる経路が構成されている。また、第2引出部33bからGNDに流される電流の反射を抑制するために、第2引出部33bとGNDとの間に抵抗器70を備えるようにしている。
【0031】
なお、上層コイル20のコイル部21と下層コイル30のコイル部31の中心は一致しており、それらの中心軸がZ軸となっている。この中心軸をコイル中心軸とも言う。また、上層コイル20と下層コイル30との間において、コイル部21およびコイル部31と平行な一面がXY面となる。
【0032】
上層電源40は、上層コイル20に対して高周波電流を供給する高周波電源である。上層電源40は、1波長がコイル部21の1周の長さとなる高周波電流を発生させる。また、下層電源50は、下層コイル30に対して高周波電流を供給する高周波電源である。下層電源50は、1波長がコイル部31の1周の長さとなる高周波電流を発生させる。ここでは、上層電源40および下層電源50から、2.87GHz近傍の高周波電流が流されるようになっている。
【0033】
以上のようにして、磁場発生装置1が構成されている。このように構成される磁場発生装置1は、詳細については後述するが、上層コイル20と下層コイル30との間におけるXY平面内に高周波磁場を発生させるようになっている。
【0034】
ダイヤモンド2は、外部磁場の測定を行う磁場測定素子に相当するものであり、貫通孔11内に配置されている。ここでは、ダイヤモンド2は、上層コイル20と下層コイル30の間において高周波磁場を発生させるXY面内に位置するように配置されている。ダイヤモンド2は、高周波磁場が印加される際に特定波長の光を照射すると波長変換して蛍光を発生させる。
【0035】
光源3は、ダイヤモンド2に対して特定波長の光として、例えばレーザ光を照射するものである。光源3は、基板10の外側、つまり上層コイル20や下層コイルの径方向外方に配置され、上層コイル20と下層コイルとの間を通じてダイヤモンド2に対して光を照射する。ここでは、例えばレーザ光がXY面に沿って照射されるように光源3を配置しているが、XY面に対して斜めにレーザ光が照射されるように光源3を配置しても良い。例えば、光源3から緑色のレーザ光が出力され、ダイヤモンド2で波長変換されて赤色の蛍光が発生させられるようになっている。
【0036】
調温部4は、ダイヤモンド2の温度を調整するために用いられる。調温部4は、ダイヤモンド2に接するように配置される。ダイヤモンド2は、照射された光の波長変換を行うことで蛍光を発生させるが、そのときにエネルギーロスが生じて発熱する。調温部4は、ダイヤモンド2を冷却する等によって発熱時におけるダイヤモンド2の温度の調整などを行う。
【0037】
測定部5は、ダイヤモンド2で発した光を測定するためのものであり、受光素子などで構成されている。上記したように、ダイヤモンド2が蛍光すると、それが様々な方向に出力されるため、貫通孔11の外側に測定部5を配置しておくことで、ダイヤモンド2の発光を測定部5で測定することが可能となる。そして、測定部5にて、ダイヤモンド2で発した光を測定することで、ダイヤモンド2の形状やその他物理現象を観測する。ダイヤモンド2は、ESRに基づき測定対象が持つ不対電子によるエネルギーを吸収して、特性変化していることから、ダイヤモンド2の形状やその他物理現象を測定することで、外部磁場として、測定対象が発生させる微小磁場を測定することが可能となる。
【0038】
以上のようにして、本実施形態にかかる磁場発生装置1を備えた磁気センサが構成されている。このように、本実施形態にかかる磁場発生装置1によって高周波磁場を発生させ、ダイヤモンド2を測定素子として外部磁場の測定が行えるようになっている。このとき、磁場発生装置1によって、XY面が磁場方向となる高周波磁場を発生させるようにしており、さらに基板10は薄いため、基板10の上下となる表裏面側において、測定対象が発生させる微小磁場を測定することが可能になる。また、基板10をくり抜いた貫通孔11を形成していることから、さらに微小磁場の発生源となる測定対象をダイヤモンド2や高周波磁場に近接させることが可能となり、より精度良く微小磁場を測定することが可能になる。
【0039】
ここで、上記のように高周波磁場の磁場方向をXY面にできるメカニズムについて、従来構造と比較して説明する。
【0040】
上記したように、本実施形態の磁場発生装置1は、上層コイル20と下層コイル30を重ねて配置し、それぞれに上層電源40と下層電源50とから高周波電流を供給できるようにしている。また、上層コイル20の引出部23と下層コイル30の引出部33とを基板10の法線方向からみて同じ位置となるようにしている。このような構成において、上層コイル20と下層コイル30に対して180°位相差を設けた逆位相の高周波電流を流すようにする。そして、高周波電流の1波長が上層コイル20のコイル部21や下層コイル30のコイル部31の1周の長さと略等しくなるように、高周波電流の周波数を2.87GHz近傍とする。
【0041】
なお、以下の説明では、上層コイル20のコイル部21や下層コイル30のコイル部31における高周波電流が入力される端部の高周波電流の供給開始タイミングでの高周波電流の位相を初期位相と言う。
【0042】
このような高周波電流を流す場合、例えば下層コイル30では、
図5Aおよび
図6に示すように、第1引出部33aから第2引出部33bに高周波電流を流すことになる。この場合、第1引出部33aの位置となるP1点を0°、第2引出部33bの位置となるP2点を360°として、コイル中心軸に対して点対称の位置では、電流の正負の極性が反転した状態になる。例えば、任意の時点において、0°~360°それぞれの位置で流れる高周波電流の波形が
図7のように示されるとすると、P3点とP4点とでは位相が反転し、電流の向きが逆向きになる。このため、例えば、
図5A中の90°の位置となるP3点や270°の位置となるP4点では、右ネジの法則に基づいて、第1引出部33aや第2引出部33bの方から見て反時計回りの磁界E1、E2が発生させられる。
【0043】
一方、上層コイル20に対しては、下層コイル30と180°位相差を設けた高周波電流が流されることになるため、上層コイル20については、下層コイル30と反対向きの磁界が発生させられる。このため、例えば点P3や点P4の位置の磁界を示すと、
図5Bおよび
図6に示すように、上層コイル20ではそれぞれ時計回りの磁界、下層コイル30ではそれぞれ時計回りの磁界E3、E4を発生させることになる。
【0044】
したがって、基板10のうち上層コイル20が備えられている上層部分のうちの下層コイル30側と、下層コイル30が備えられている下層部分のうちの上層コイル20側とで、磁界E1~E4の向きが同方向となる。これにより、上層コイル20と下層コイル30との間においては、図中に白抜き矢印で示したように、P4点からP3点に向かう方向を磁場方向とする高周波磁場Hが発生させられることになる。そして、上層コイル20や下層コイル30に流される電流が高周波電流であるため、電流振幅が極大値をとる位置および極小値をとる位置が変化していき、それに伴ってXY面上で磁場方向が回転する高周波磁場が発生させられる。
【0045】
参考として、
図8に示すような比較例のように、基板J10内に複数回巻回されたコイルJ20を備えるようにした構造において、直流電流を流した場合について考えてみる。このような構成の場合は、コイル中心軸に対する点対称の位置で電流が逆向きになる。このため、図中に示したように、各周のコイルJ20のうちの紙面左側の位置、つまり電流が紙面向こう側から紙面手前側に向く方では反時計回りの磁界EJ1を発生させる。また、コイルJ20のうちの紙面右側の位置、つまり電流が紙面手前側から紙面向こう側に向く方では時計回りの磁界EJ2を発生させる。したがって、コイルJ20内において、コイル中心軸方向の高周波磁場HJが発生させられることになる。このような場合には、測定対象を基板J10の横側、つまりコイルJ20の径方向外方に配置することになるが、コイルJ20等が存在するため、距離を近付けるには限界がある。また、基板J10の直上もしくは直下、つまりコイルJ20の軸方向のいずれかに測定対象を配置すると距離は近くなるが、軸方向には感度が無いため外部磁場を測定できない。
【0046】
したがって、本実施形態のようにXY面を磁場方向にできる磁場発生装置1とすることが有効と言える。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の磁場発生装置1では、上層コイル20と下層コイル30を重ねて配置し、それぞれに上層電源40と下層電源50とから高周波電流を供給できるようにしている。また、上層コイル20の引出部23と下層コイル30の引出部33とを基板10の法線方向からみて同じ位置となるようにしている。このような構成において、上層コイル20と下層コイル30に対して180°位相差を設けた高周波電流を流すようにする。そして、高周波電流の1波長分の長さが上層コイル20のコイル部21や下層コイル30のコイル部31の1周の長さと略等しくなるようにしている。
【0048】
このような構成では、基板10のうち上層コイル20が備えられている上層部分のうちの下層コイル30側と、下層コイル30が備えられている下層部分のうちの上層コイル20側とで、磁界の向きが同方向となる。これにより、上層コイル20と下層コイル30との間において、XY面を磁場方向とする高周波磁場を発生させることが可能となる。
【0049】
そして、このような磁場発生装置1を備えた磁気センサにおいては、上層コイル20および下層コイル30の軸方向に感度を有し、微小磁場を発生させる測定対象を基板10の直上もしくは直下に近付けることが可能となる。このため、より精度良い磁気センサとすることが可能となる。
【0050】
また、本実施形態の磁場発生装置1は、上層コイル20に高周波電流を供給する上層電源40と下層コイル30に高周波電流を供給する下層電源50を別々に備えている。このため、上層電源40と下層電源50から逆位相の高周波電流を上層コイル20や下層コイル30にそれぞれ供給することが可能になる。
【0051】
具体的に、本実施形態の磁場発生装置1について、上層コイル20および下層コイル30内における電流の流れと発生する高周波磁場について、シミュレーションにより調べた。その結果、
図9A~
図9Cおよび
図10に示される結果が得られた。
【0052】
上層コイル20および下層コイル30に対して高周波電流を流し、かつ、各高周波電流を180°位相差が設けられた逆位相のものとした場合の任意のタイミングにおける各部の電流の向きは、
図9A~
図9C中に矢印で示した向きになる。すなわち、上層コイル20内において、コイル中心軸に対して点対称の位置では電流の向きが逆向きとなる。同様に、下層コイル30内において、コイル中心軸に対して点対称の位置では電流の向きが逆になる。また、コイル中心軸に対して同じ角度の場所では、上層コイル20と下層コイル30に流れる電流が逆向きとなる。そして、
図9Cに示されるように、上層コイル20ではコイル中心軸に対して引出部23と反対側の任意の場所から電流が発生し、下層コイル30ではコイル中心軸に対して引出部23と反対側の任意の場所へ電流が流れ込むような状態となる。
【0053】
このため、
図10に示す断面においては、上層コイル20ではそれぞれ時計回りの磁界、下層コイル30ではそれぞれ反時計回りの磁界を発生させることになる。したがって、
図10中に示されるように、ダイヤモンド2の位置では、紙面左方向に高周波磁場を発生させることが可能となり、XY面内において高周波磁場を発生させることができていることが分かる。
【0054】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して上層コイル20と下層コイル30の構成などを変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
図11および
図12に示すように、本実施形態では、磁場発生装置1に備えられる上層コイル20と下層コイル30をそれぞれ2層構造にしている。すなわち、上層コイル20を第1コイル210と第2コイル220によって構成し、下層コイル30を第3コイル310と第4コイル320によって構成している。
【0056】
第1コイル210は、コイル部211、スリット212および引出部213を有した構成とされている。これらコイル部211、スリット212、第1引出部213aと第2引出部213bを有する引出部213は、第1実施形態で説明したコイル部21、スリット22および引出部23と同様の構成とされている。また、第2コイル220は、コイル部221、スリット222および引出部223を有した構成とされている。これらコイル部221、スリット222、第1引出部223aと第2引出部223bを有する引出部223も、第1実施形態で説明したコイル部21、スリット22および引出部23と同様の構成とされている。ただし、ここでは第1コイル210のスリット212や引出部213を設けた位置と第2コイル220のスリット222や引出部223を設けた位置を異ならせ、コイル中心軸に対して180°ずらしている。
【0057】
また、上層電源40についても第1上層電源41と第2上層電源42とを備えている。第1上層電源41を第1引出部213aに接続して第1コイル210への通電を行い、第2上層電源42を第1引出部223aに接続して第2コイル220への通電を行えるようになっている。
【0058】
さらに、第2引出部213bをGNDに接続しつつ、反射抑制のための抵抗器61を備えるようにし、第2引出部223bをGNDに接続しつつ、反射抑制のための抵抗器62を備えるようにしている。
【0059】
第3コイル310は、コイル部311、スリット312および第1引出部313aと第2引出部313bを有する引出部313を有した構成とされている。これらコイル部311、スリット312および引出部313は、第1実施形態で説明したコイル部31、スリット32および引出部33と同様の構成とされている。また、第4コイル320は、コイル部321、スリット322および第1引出部323aと第2引出部323bを有する引出部323を有した構成とされている。これらコイル部321、スリット322および引出部323も、第1実施形態で説明したコイル部31、スリット32および引出部33と同様の構成とされている。ただし、ここでは第3コイル310のスリット312や引出部313を設けた位置と第4コイル320のスリット322や引出部323を設けた位置を異ならせ、コイル中心軸に対して180°ずらしている。
【0060】
また、下層電源50についても第1下層電源51と第2下層電源52とを備えている。第1下層電源51を第1引出部313aに接続して第3コイル310への通電を行い、第2下層電源52を第1引出部323aに接続して第4コイル320への通電を行えるようになっている。
【0061】
さらに、第2引出部313bをGNDに接続しつつ、反射抑制のための抵抗器71を備えるようにし、第2引出部323bをGNDに接続しつつ、反射抑制のための抵抗器72を備えるようにしている。
【0062】
このような構成において、上層コイル20を構成する第1コイル210と第2コイル220に、コイル中心軸に対して同じ角度の場所での電流が同位相となるように高周波電流を流す。つまり、第1コイル210と第2コイル220とについては、引出部213と引出部223の位置を180°ずらしているため、流す高周波電流の位相も180°ずらす。
【0063】
また、下層コイル30を構成する第3コイル310と第4コイル320にも、コイル中心軸に対して同じ角度の場所での電流が同位相となる高周波電流を流す。ただし、第3コイル310と第4コイル320については、第1コイル210や第2コイル220と180°位相差を設けた高周波電流とする。つまり、第3コイル310と第4コイル320とについても、引出部313と引出部323の位置を180°ずらしているため、流す高周波電流の位相も180°ずらす。また、第3コイル310については、引出部313を第1コイル210の引出部213と同じ角度の位置に配置しているため、第1コイル210に対して180°位相をずらした高周波電流とする。同様に、第4コイル320についても、引出部323を第2コイル220の引出部223と同じ角度の位置に配置しているため、第2コイル220に対して180°位相をずらした高周波電流とする。
【0064】
これにより、
図12中に示したように、第1コイル210と第2コイル220におけるコイル中心軸に対して同じ角度の場所で同じ向きの磁界E3、E4を発生させられる。また、第3コイル310と第4コイル320におけるコイル中心軸に対して同じ角度の場所で同じ向きで、かつ、同じ角度の場所での第1コイル210と第2コイル220の磁界E3、E4とは逆向きの磁界E1、E2を発生させられる。
【0065】
このため、上層コイル20と下層コイル30とを二層で構成するようにしても、上層コイル20と下層コイル30との間において、XY面磁場方向とする高周波磁場Hを発生させることができる。このように上層コイル20と下層コイル30を二層で構成すれば、上層コイル20と下層コイル30で発生させる磁界の強度を高めることができ、より強い高周波磁場を発生させることが可能になる。
【0066】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して上層コイル20と下層コイル30のレイアウトを変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
図13および
図14に示すように、本実施形態では、上層コイル20のスリット22および引出部23の形成位置と下層コイル30のスリット32および引出部33の形成位置を異ならせている。ここでは、上層コイル20のスリット22および引出部23の形成位置と下層コイル30のスリット32および引出部33の形成位置をコイル中心軸に対して90°ずらしている。具体的には、上層コイル20における第1引出部23aの位置を0°とし、第2引出部23bの位置を360°とすると、下層コイル30におけるスリット32および引出部33が270°の位置に配置されている。
【0068】
このような構成では、上層コイル20に対して流す高周波電流の初期位相を90°、下層コイル30に対して流す高周波電流の初期位相を0°に設定する。このようにすれば、上層コイル20と下層コイル30に、コイル中心軸に対して同じ角度の場所での高周波電流の位相を180°ずらすことができる。
【0069】
したがって、上層コイル20のスリット22および引出部23の形成位置と下層コイル30のスリット32および引出部33の形成位置をコイル中心軸に対して同じ角度せずに異なる角度としても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0070】
なお、ここでは、上層コイル20のスリット22および引出部23の形成位置と下層コイル30のスリット32および引出部33の形成位置をコイル中心軸に対して90°ずらしているが、勿論、90°以外であっても構わない。
【0071】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1~第3実施形態に対して上層コイル20と下層コイル30の形状などを変更したものであり、その他については第1~第3実施形態と同様であるため、第1~第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
図15および
図16に示すように、本実施形態では、上層コイル20のコイル部21および下層コイル30のコイル部31を円環状ではなく、四角形状としている。具体的には、コイル部21を相対する2つの短辺と相対する2つの長辺とによって構成された長方形状によって構成し、一方の短辺にスリット22および引出部23を配置している。同様に、コイル部31を相対する2つの短辺と相対する2つの長辺とによって構成された長方形状によって構成し、一方の短辺にスリット32および引出部33を配置している。そして、コイル部21とコイル部31とを対向配置させ、互いの短辺同士が重なり合い、互いの長辺同士が重なるように配置している。
【0073】
スリット22および引出部23とスリット32および引出部33については、第1実施形態と同様にコイル中心軸に対して同じ角度に配置されていても良いが、ここでは180°ずらした位置に配置している。このような配置にする場合は、上層コイル20と下層コイル30に対して初期位相を共に0°とした高周波電流を流すようにすれば良い。
【0074】
このように、コイル部21およびコイル部31を四角形状とする場合でも、ループ1周当たりの長さをこれらに流す高周波電流の1波長分となるようにすれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、コイル部21およびコイル部31を長方形状とする場合、XY面上における一方向を縦方向、それに垂直な方向を横方向として縦方向の寸法と横方向の寸法の比である縦横比を調整することで磁場方向を制御することも可能になる。コイル部21およびコイル部31を長方形状とする場合、縦横比は長辺と短辺の比に相当する。このような構成とする場合には、長辺に沿う方向となる矢印Eの方向では弱く、短辺に沿う方向となる矢印Fの方向では強く高周波磁場を発生させられる。このため、磁場方向を実質的に矢印Fの方向に制御することが可能になる。
【0076】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1~第4実施形態に対して上層コイル20と下層コイル30に入力する高周波電流の形態を変更したものであり、その他については第1~第4実施形態と同様である。このため、本実施形態において第1~第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0077】
図17に示すように、本実施形態の磁場発生装置1では、上層コイル20に流される高周波電流の位相を調整する位相調整装置80と、下層コイル30に流される高周波電流の位相を調整する位相調整装置90を備えている。そして、上層電源40から出力される高周波電流が位相調整装置80にて位相調整され、第1引出部23aおよび第2引出部23bを通じてコイル部21の両端に同じ位相の高周波電流が流される。同様に、下層電源50から出力される高周波電流が位相調整装置90にて位相調整され、第1引出部33aおよび第2引出部33bを通じてコイル部31の両端に同じ位相の高周波電流が流される。
【0078】
このように構成された磁場発生装置1では、上層コイル20と下層コイル30に流れる高周波電流にて定在波を発生させることができる。例えば、
図17および
図18に示すように、上層コイル20について、コイル中心軸を中心として第1引出部23a側の端部から第2引出部23b側の端部まで略90°おきに点G~点Kとする。この場合に、例えばコイル部21の両端に対して入力I、入力IIとして共に高周波電流を供給し、その高周波電流の位相差を0°に設定する。このようにすると、
図19Aに示すように、高周波電流にて、点G、点I、点Kの位置を節、点H、点Jの位置を振幅が最大となる腹とする定在波を生成できる。この場合、磁場方向が点Hから点Jに向かう方向と点Jから点Hに向かう方向に交互に繰り返される高周波磁場を発生させることができる。
【0079】
また、例えばコイル部21の両端から流す高周波電流の位相差を180°に設定すると、
図19Bに示すように、高周波電流にて、点G、点I、点Kの位置を腹、点H、点Jの位置を節とする定在波を生成できる。この場合、磁場方向が点Gや点Kから点Iに向かう方向と点Iから点Gや点Kに向かう方向に交互に繰り返される高周波磁場を発生させることができる。
【0080】
さらに、
図18、
図19Aおよび
図19Bでは、上層コイル20を例に説明したが、下層コイル30についても同様のことを行うことができる。そして、上層コイル20と下層コイル30とで、180°位相差がある定在波が形成されるようにする。これにより、基板10のうち上層コイル20が備えられている上層部分のうちの下層コイル30側に発生させる磁界の方向と下層コイル30が備えられる下層部分のうちの上層コイル20側に発生させる磁界の方向を一致させられる。よって、XY面を磁場方向とする高周波磁場を発生させられる。
【0081】
このように、上層コイル20や下層コイル30の両端から高周波電流を流すようにすることで定在波を生成できる。これにより、磁場方向を特定方向に限定しつつ、180°交互に繰り返される高周波磁場をXY面に発生させることが可能となる。
【0082】
なお、位相調整装置80について、上層電源40という1つの信号源に基づいて第1引出部23aと第2引出部23bそれぞれから入力される高周波電流を生成するようにしたが、これに限らない。つまり、位相調整装置80については、1信号に基づいて位相調整を行って2信号に分割するものだけでなく、2信号を用いて各信号の位相調整を行って高周波電流として出力するものであっても良い。勿論、位相調整装置90についても同様のことが言える。
【0083】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。本実施形態は、第1~第4実施形態に対して上層コイル20と下層コイル30に入力する高周波電流の形態を変更したものであり、その他については第1~第4実施形態と同様である。このため、本実施形態において第1~第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0084】
本実施形態の磁場発生装置1では、
図20Aおよび
図20Bに示すように、第1実施形態などと同様の構成において、上層コイル20への高周波電流の入力方向を切替え可能とし、円偏波となる磁場方向の右回りと左回りを制御できるようにする。例えば、
図20Aおよび
図20Bに示すように、上層コイル20と上層電源40や抵抗器60の間に切替えスイッチ100を備え、上層コイル20のうち高周波電流が入力される端部を切替えられるようにする。また、図を省略するが、下層コイル30についても、上層コイル20と同様に下層コイル30と下層電源50や抵抗器70の間に切替えスイッチ100を備え、下層コイル30のうち高周波電流が入力される端部を切替えられるようにする。
【0085】
これにより、XY面上において、磁場方向の回転方向を制御することが可能になる。例えば、上層コイル20に対して、第1引出部23aから高周波電流が入力される形態とし、下層コイル30に対しても、第1引出部33aから上層コイル20に対して180°位相差を付けた高周波電流を流すことができる。その場合、
図20Aに示すように、磁場方向が点Mから点Lに向かう右回り、つまり時計回りとなるようにできる。逆に、上層コイル20に対して、第2引出部23bから高周波電流が入力される形態とし、下層コイル30に対しても、第2引出部33bから上層コイル20に対して180°位相差を付けた高周波電流を流すこともできる。その場合、
図20Bに示すように、点Lから点Mに向かう磁場方向が左回り、つまり反時計回りとなるようにできる。
【0086】
特に、ダイヤモンドNVCを使う磁気センサにおいて、高周波磁場に円偏波を用い、この円偏波の方向を切り替えることにより、縮退ms=±1のどちらかに選択的に不対電子をポンピングできる。これにより、最小分解能に優れた高感度な磁気センサが実現できる。
【0087】
(第7実施形態)
第7実施形態について説明する。本実施形態は、第1~第6実施形態に対して上層コイル20を共振コイルに変更したものであり、その他については第1~第6実施形態と同様である。このため、本実施形態において第1~第6実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、ここでは第1実施形態のように、上層コイル20のコイル部21や下層コイル30のコイル部31を円環状にする場合について例に挙げるが、第2~第6実施形態のような構成であっても良い。
【0088】
図21、
図22および
図23に示すように、上層コイル20に対しては、コイル部21およびスリット22のみによって構成して電源からの高周波電流の供給が行われないようにしている。そして、下層コイル30についてのみ電源50より高周波電流の供給が行われるようにしている。このような構成では、下層コイル30に対して高周波電流を流すと、上層コイル20が下層コイル30に対して磁界結合もしくは電界結合させられ、上層コイル20が共振コイルとして機能してLC共振を生じさせられる。このため、コイル部31の1周当たりの長さが1波長に相当する周波数に、上層コイル20の共振周波数を合わせる。つまり、コイル部31の電気長が1波長になる周波数が共振周波数となるようにする。
【0089】
このような構成の磁場発生装置1とすることもできる。このような構成においては、下層コイル30に対して高周波電流を流すと、LC共振に基づいて、上層コイル20と下層コイル30のうちコイル中心軸に対して同じ角度の場所で流れる電流がそれぞれ逆方向に流れるようにできる。したがって、第1実施形態と同様に、上層コイル20と下層コイル30との間のXY面を磁場方向とする高周波磁場を発生させることが可能となる。これにより、第1実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0090】
なお、上層コイル20に1つのスリット22を形成しているが、スリット22については形成しなくても良いし、複数個形成しても良い。スリット22の数やギャップの寸法については、LC共振に基づく共振周波数が、コイル部21の1周当たりの長さを1波長とする周波数に合うように適宜設定すれば良い。
【0091】
また、第5実施形態のように高周波電流の定在波を生成する構成についても、本実施形態を適用できる。その場合、下層コイル30のコイル部31の両端の両方から高周波電流を供給する位相調整装置90を備えた構成とすれば良い。
【0092】
また、第6実施形態の構成についても、本実施形態を適用できる。その場合、共振コイルとされる上層コイル20については電源からの直接の高周波電流の供給は行われないため、下層コイル30に対して切替えスイッチ100を備える構造を適用すれば良い。
【0093】
参考として、本実施形態の磁場発生装置1について、上層コイル20および下層コイル30内における電流の流れと発生する高周波磁場について、シミュレーションにより調べた。その結果、
図24および
図25に示される結果が得られた。
【0094】
下層コイル30に対して高周波電流を流した場合の任意のタイミングにおける上層コイル20および下層コイル30の各部の電流の向きは、
図24中に矢印で示した向きになる。すなわち、下層コイル30内において、コイル中心軸に対して点対称の位置では電流の向きが逆になる。また、下層コイル30に高周波電流を流すことによって上層コイル20にも高周波電流が流れ、上層コイル20内においても、コイル中心軸に対して点対称の位置では電流の向きが逆向きとなる。また、コイル中心軸に対して同じ角度の場所では、上層コイル20と下層コイル30に流れる電流が逆向きとなる。そして、
図24に示されるように、上層コイル20ではスリット22側の任意の場所から電流が発生し、下層コイル30では引出部33側の任意の場所へ電流が流れ込むような状態となる。なお、上層コイル20のうちコイル中心軸に対してスリット22と反対側において、電流の向きを示す矢印が上層コイル20からはみ出すように示してあるが、実際には電流が上層コイル20の上端面から側面に向かって流れる。
【0095】
このため、
図25に示す断面においては、上層コイル20ではそれぞれ時計回りの磁界、下層コイル30ではそれぞれ反時計回りの磁界を発生させることになる。したがって、
図25中に示されるように、ダイヤモンド2の位置では、紙面左方向に高周波磁場を発生させることが可能となり、XY面内において高周波磁場を発生させることができていることが分かる。
【0096】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0097】
例えば、上記各実施形態では、上層コイル20および下層コイル30が1枚の基板10内に備えられて一体化された構造を例に挙げた。しかしながら、これは一例を挙げたに過ぎず、基板10が複数枚に分けられ、上層コイル20を備えた上層部分と下層コイル30が備えられた下層部分とが別々に備えられ、それら各層の間に誘電膜を挟み込んだ構造で基板10を構成しても良い。その場合、基板10のうち少なくとも上層コイル20と下層コイル30との間が誘電材料で構成されていれば良い。
【0098】
また、第2実施形態では、上層コイル20および下層コイル30をそれぞれ二層ずつ備える場合について説明したが、それぞれ一層または二層以上の複数層とすることができる。上層コイル20の層数と下層コイル30の層数については同じにしても良いし、異なっていても良い。さらに、上層コイル20や下層コイル30を一層または複数層とするような構造においても、第3実施形態で説明したように、それぞれのスリットおよび引出部をコイル中心軸に対して異なる角度に配置されるようにしても良い。
【0099】
また、第4実施形態では、上層コイル20のコイル部21および下層コイル30のコイル部31を多角形状とする場合の一例として長方形状を挙げている。しかしながら、これも一例を挙げたに過ぎず、長方形状以外の四角形、例えば菱形などであっても良いし、三角形、五角形のように四角形以外の多角形であっても良い。勿論、円形状を楕円形状としたり、多角形状の各角部が丸みを帯びた形状としたりしても良い。なお、上記第1~第3、第5~第7実施形態では、上層コイル20のコイル部21と下層コイル30のコイル部31を円環状で構成したため、XY面上における一方向を縦方向、それに垂直な方向を横方向とした縦横比が1:1で等しくなる。しかしながら、コイル部21およびコイル部31を楕円形状にすれば、縦横比を異ならせることができ、縦横比の小さい側に沿う方向に強い高周波磁場を発生させることが可能になる。勿論、コイル部21およびコイル部31を長方形以外の多角形状とする場合についても、縦横比を異ならせることで、縦横比の小さい側に沿う方向に強い高周波磁場を発生させることができる。
【0100】
また、上記各実施形態では、上層コイル20を構成する第1導電性材料や下層コイル30を構成する第2導電性材料を銅、基板10の材料をエポキシ形状の樹脂材料とする場合を例に挙げたが、一例を示したに過ぎず、他の材料であっても良い。上層コイル20と下層コイル30の構成材料が同じであると好ましいが、異なる構成材料であっても良い。
【0101】
また、上記各実施形態では、磁場測定素子としてダイヤモンド2を例に挙げて説明したが、ダイヤモンド以外のものであっても良い。さらに、上記各実施形態では、磁場発生装置1としてレーザ光を当てて蛍光を受光する磁気センサに適用する場合について説明したが、レーザ光を当てて電気信号として取り出す手法や電気信号を入力して電気的出力を得る手法にも適用できる。すなわち、PDMR(光電流検出磁気共鳴)、EDMR(電気検知磁気共鳴)などに適用することも可能である。
【0102】
なお、上記各実施形態では、上層コイル20と下層コイル30として上下という表現を用いているが、2つのループ回路を構成するコイルが所定距離離れて重なって並んでいることを示しているだけであり、天地方向を意味している訳ではない。
【符号の説明】
【0103】
10 基板
20 第1コイル
21 コイル部
22 スリット
23 引出部
30 第2コイル
31 第2コイル部
32 スリット
33 引出部
40 上層電源
50 下層電源