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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】海洋移動体の永久磁気調整システム
(51)【国際特許分類】
   B63G 9/06 20060101AFI20240305BHJP
   B63B 81/00 20200101ALI20240305BHJP
   G01V 3/10 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
B63G9/06
B63B81/00
G01V3/10 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021139374
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032974
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 圭一
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-158746(JP,A)
【文献】特開2019-73063(JP,A)
【文献】特開2019-161159(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104360293(CN,A)
【文献】特開昭54-109479(JP,A)
【文献】特許第7259996(JP,B2)
【文献】米国特許第5483410(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63G 9/06
B63B 81/00
G01V 1/00- 99/00
G01R 33/00- 33/26
H04N 9/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋移動体が有する船体の永久磁気を調整する永久磁気調整システムであって、
前記海洋移動体の有する海洋移動体の所定軸方向の永久磁気を測定する磁気センサと、 電流の供給を受けて磁界を発生させる磁界発生源と、
前記海洋移動体の航行前に、前記磁界発生源が発生する磁界を用いて前記海洋移動体の前記所定軸方向の永久磁気を調整する永久磁気調整処理を行う制御部と、
地球上の位置に関連付けられたベクトル量としての地球磁界データと、前記海洋移動体が、今回の永久磁気調整処理後から、次回の永久磁気調整処理前までに予定される、時間に関連付けられた、前記海洋移動体の位置と船体方向のデータを含む予定航行データとが格納されたデータベースと、を備え、
前記制御部は、前記永久磁気調整処理において、
前記磁気センサから今回の永久磁気処理直前の所定軸方向の永久磁気の値である処理前永久磁気実測値を測定し、
前記地球磁界データと前記予定航行データを関連付け、前記予定航行データの各時間における、前記海洋移動体の前記所定軸方向の単位時間あたりの磁化量である予測単位磁化量を前記地球磁界データに基づいて計算し、前記海洋移動体の前記所定軸方向の前記予測単位磁化量を時間的に積算することにより、今回の永久磁気調整処理後から次回の永久磁気調整処理前までの前記海洋移動体の予定航路に渡る前記所定軸方向の磁化量である予測変化量をさらに計算し、前記予測変化量に基づき前記所定軸方向の目標着磁量を決定し、
前記処理前永久磁気実測値と、前記目標着磁量とに基づき、前記海洋移動体に付与する磁化量を調整する様に、前記磁界発生源に供給する電流と時間を制御する
ことを特徴とする海洋移動体の永久磁気調整システム。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁気調整システムであって、
前記データベースには、更に、前回の永久磁気調整処理の実施後から今回の永久磁気調整処理の実施前の過去の航行中に前記海洋移動体が通過した時間に関連付けられた、前記海洋移動体の位置と船体方向のデータを含む実績航行データと、前記海洋移動体の前記所定軸方向ごとの磁化係数のデータと、前記前回の永久磁気調整処理の磁気量調整後に前記磁気センサで測定した所定軸方向の永久磁気の値である前回の処理後永久磁気実測値のデータとが格納され、
前記制御部は、前記永久磁気調整処理において、
前記処理前永久磁気実測値と、前記前回の処理後永久磁気実測値との差から先記所定軸方向の実測変化量を求め、
前記制御部は、更に、
前記実績航行データを前記地球磁界データと関連付け、前記実績航行データの各時間における、前記海洋移動体の前記所定軸方向の単位時間あたりの磁化量である実績単位磁化量を前記地球磁界データに基づいて計算し、前記海洋移動体の前記所定軸方向の前記実績単位磁化量を時間的に積算することにより、前回の永久磁気調整処理後から今回の永久磁気調整処理前までの前記海洋移動体の実績航路に渡る前記所定軸方向の磁化量である実績変化量をさらに計算し、前記実績航行データの最終時刻に相当する前記実績変化量である累積実績変化量と、前記実測変化量との比較を行い、前記データベースに格納された前記磁化係数のデータを補正し、
前記制御部は、前記永久磁気調整処理において、前記予測単位磁化量を前記地球磁界データと、補正された前記磁化係数とに基づいて計算する
ことを特徴とする海洋移動体の永久磁気調整システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の永久磁気調整システムであって、
前記データベースには、更に、前記海洋移動体の前記所定軸方向ごとの磁化係数のデータを示す第1磁化係数のデータと、前記海洋移動体と形状およびサイズにおいて類似する類似移動体の前記所定軸方向ごとの磁化係数のデータを示す第2磁化係数のデータとが格納されており、
前記制御部は、前記永久磁気調整処理において、前記地球磁界データと、前記第1磁化係数とに基づいて前記予測変化量を計算し、
前記制御部は、前記予測変化量の計算において、前記第1磁化係数が前記データベースに存在しない場合、前記第2磁化係数を代用する
ことを特徴とする海洋移動体の永久磁気調整システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の永久磁気調整システムであって、
前記目標着磁量が、前記予定航行データの最終時刻に相当する前記予測変化量である累積予測変化量を打ち消す磁化量となる様に決定される
ことを特徴とする海洋移動体の永久磁気調整システム。
【請求項5】
請求項1から3の何れか1項に記載の永久磁気調整システムであって、
前記目標着磁量が、前記予定航路において、少なくとも一つの所定の位置範囲内における前記海洋移動体の各軸方向の前記予測変化量の最大と最小の平均値を打ち消す磁化量となる様に決定される
ことを特徴とする海洋移動体の永久磁気調整システム。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の永久磁気調整システムであって、
前記海洋移動体の船体方向のデータは、船首方向及び船体の船首方向を軸とした回転角のデータを含む
ことを特徴とする海洋移動体の永久磁気調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋移動体が有する永久磁気を調整するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼鉄製の海洋移動体が有する磁気(船体磁気)は、誘導磁気と永久磁気に区別される。前者は、海洋移動体が地球磁界に存在することで誘導される磁気である。後者は、地球磁界からの影響を中長期的に受けることで海洋移動体が磁化し、この結果として海洋移動体そのものが持ち続けることになる磁気である。
【0003】
海洋移動体には、船体磁気の大きさを利用した第三者からの捕捉を避ける必要があるものが含まれる。このような海洋移動体に対しては、船体磁気を低減するための消磁処理が行われる。例えば、特許文献1および2は、海洋移動体の航行中に消磁処理を行う技術を開示する。特許文献1および2において、消磁処理は、海洋移動体の互いに直交する3軸方向(船首方向X軸、船幅方向Y軸および垂直方向Z軸)のそれぞれの船体磁気を打ち消すために行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-78234号公報
【文献】特許第6407795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
消磁処理は、海洋移動体の航行前にも行われる。航行前の消磁処理は、専用の設備に海洋移動体を収容した状態で行われる。この専用の設備は、例えば、磁気センサと、磁界発生源と、制御部と、を備えている。航行前の消磁処理では、典型的には、当該消磁処理の実施前に海洋移動体が有している永久磁気を抜くための処理が制御部によって行われる。この消磁処理では、海洋移動体の永久磁気(外部磁場)を磁界センサで測定しながら、磁界発生源に供給する電流が制御される。
【0006】
航行前の消磁処理では、当該消磁処理の実施後の再磁化により生じる永久磁気を低レベルに維持するための処理が追加して行われることがある。この追加処理では、前回の消磁処理の実施後に海洋移動体に僅かに残った永久磁気と、今回の消磁処理の実施前における永久磁気と、の差が計算される。そして、この永久磁気差に応じた一定の磁気を海洋移動体に付与するための制御が行われる。つまり、追加処理では、前回の航行中に生じた永久磁気の実績に応じた磁気が海洋移動体に付与される。
【0007】
しかしながら、地球磁界の強度は地球上の位置によって異なる。そのため、今回の消磁処理の実施後から次回の消磁処理の実施前までの海洋移動体の再磁化により生じる永久磁気は、その間の航行状況による磁化量に左右される。例えば、海洋移動体の航行海域や航行時間は、航行後の海洋移動体の磁化量を変化させる。また、航行中の海洋移動体の地球磁界に対する姿勢も磁化量を変化させる。したがって、上記の追加処理により永久磁気の調整手法は、今回の航行実績と次回の航行スケジュールとが一致する場合にしか適用することができず汎用性が低い。
【0008】
本発明の1つの目的は、海洋移動体の航行前の永久磁気の調整によって、今回の調整の実施後から次回の調整の実施前までに当該海洋移動体が帯びる永久磁気を低レベルに維持することのできる海洋移動体の永久磁気調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、海洋移動体が有する永久磁気を調整する永久磁気調整システムである。
前記永久磁気調整システムは、前記海洋移動体の有する海洋移動体の所定軸方向の永久磁気を測定する磁気センサと、電流の供給を受けて磁界を発生させる磁界発生源と、前記海洋移動体の航行前に、前記磁界発生源が発生する磁界を用いて前記海洋移動体の前記所定軸方向の永久磁気を調整する永久磁気調整処理を行う制御部と、地球上の位置に関連付けられたベクトル量としての地球磁界データと、前記海洋移動体が、今回の永久磁気調整処理後から、次回の永久磁気調整処理前までに予定される、時間に関連付けられた、前記海洋移動体の位置と船体方向のデータを含む予定航行データとが格納されたデータベースと、を備えている。
前記制御部は、前記永久磁気調整処理において、
前記磁気センサから今回の永久磁気処理直前の所定軸方向の永久磁気の値である処理前永久磁気実測値を測定し、
前記地球磁界データと前記予定航行データを関連付け、前記予定航行データの各時間における、前記海洋移動体の前記所定軸方向の単位時間あたりの磁化量である予測単位磁化量を前記地球磁界データに基づいて計算し、前記海洋移動体の前記所定軸方向の前記予測単位磁化量を時間的に積算することにより、今回の永久磁気調整処理後から次回の永久磁気調整処理前までの前記海洋移動体の予定航路に渡る前記所定軸方向の磁化量である予測変化量をさらに計算し、前記予測変化量に基づき前記所定軸方向の目標着磁量を決定し、
前記処理前永久磁気実測値と、前記目標着磁量とに基づき、前記海洋移動体に付与する磁化量を調整する様に、前記磁界発生源に供給する電流と時間を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、今回の永久磁気調整処理後から、次回の永久磁気調整処理前までの間に海洋移動体が帯びる永久磁気を低レベルに維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態の前提を示す図である。
図2】従来の永久磁気調整処理が適用された場合における海洋移動体の永久磁気の推移を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る海洋移動体の永久磁気調整処理が適用された場合における海洋移動体の永久磁気の推移を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る海洋移動体の磁化量の予測変化量の推移を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る永久磁気調整処理システムの全体構成例を示す図である。
図6図5に示した制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
図7】船体方向データを説明する図である。
図8】実績航行データおよび予定航行データの登録例を示す図である。
図9】三次元空間で表現された海域を示す図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る登録処理における磁化量の計算例を説明する図である。
図11】船体情報データの登録例を示す図である。
図12】海域データ及び地球磁界データの登録例を示す図である。
図13】磁化量の実績変化量データの登録例を示す図である。
図14】磁化量の予測変化量データの登録例を示す図である。
図15】制御装置(プロセッサ)が行う永久磁気調整処理の流れを説明するフローチャートである。
図16】制御装置(プロセッサ)が行う磁化量の計算処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
1.概要
図1~3を参照して第1の実施形態の概要を説明する。図1は、第1の実施形態の前提を示す図である。図1に示される海域ARi(図1ではi=1~9)は、海洋移動体20(例えば、船舶、潜水艦)が航行する海洋の分割により設定される。海域ARiの設定は、例えば、緯度、経度および深さの情報に基づいて行われる。つまり、海域ARiは、緯度方向、経度方向および深さ方向に広がりを持つ三次元空間で表現される(図9参照)。ただし、説明の便宜上、図1では、海域ARiが二次元で表現される。
【0014】
図1に示す例では、第1の実施形態に係る永久磁気調整システム(以下、単に「システム」とも称す。)10が、海域AR7の係留施設BF1に設けられている。システム10は、海洋移動体20が係留施設BF1に停泊している間、海洋移動体20に対する「永久磁気調整処理」を実施する。永久磁気調整処理は、海洋移動体20が有している永久磁気を消磁するための消磁処理と、海洋移動体20に磁気を付与するための着磁処理と、を含んでいる。
【0015】
海洋移動体20は、システム10による永久磁気調整処理の実施後、係留施設BF1から出発して海域AR8に向かう。海域AR8での作業後、海洋移動体20は、海域AR9に進入する。海域AR9には係留施設BF2が存在し、海洋移動体20はここで一定時間停泊する。係留施設BF2での停泊後、海洋移動体20は、海域AR6に向かう。海域AR6での作業後、海洋移動体20は、海域AR3に進入する。海域AR3には係留施設BF3が存在し、海洋移動体20はここで一定時間停泊する。係留施設BF3での停泊後、海洋移動体20は、海域AR2、AR5、AR4を経由して海域AR7に戻る。海域AR7において、海洋移動体20は係留施設BF1に入港する。
【0016】
システム10は、海洋移動体20が係留施設BF1に停泊している間、海洋移動体20に対する永久磁気調整処理を再び実施する。つまり、図1に示す例では、海洋移動体20に対し、システム10による永久磁気調整処理が係留施設BF1の出港前と入港後の2回行われる。ここで、出港前の永久磁気調整処理を「処理MAD(k)」と表すと、入港後のそれは「処理MAD(k+1)」と表される。本願においては、「処理MAD(k)」が「今回の永久磁気調整処理」に該当し、「処理MAD(k+1)」が「次回の永久磁気調整処理」に該当する。
【0017】
図2および3は、図1で説明した処理MAD(k)から処理MAD(k+1)までの海洋移動体が持つ永久磁気H(その時点における永久磁気量)が時間とともにどのように推移するかを示す図である。図2と3の違いは、次のとおりである。すなわち、図2には、永久磁気調整処理に「背景技術」で説明した従来の手法が適用される場合の永久磁気Hの推移が描かれている。一方、図3には、第1の実施形態に係る永久磁気調整処理が行われる場合の永久磁気Hの推移が描かれている。尚、従来の手法に従って行われる3回の処理MADを処理MADo(k-1)、MADo(k)及びMADo(k+1)と表し、第1の実施形態により行われる3回の処理MADを処理MADn(k-1)、MADn(k)及びMADn(k+1)と表す。
【0018】
永久磁気Hは、海洋移動体20の互いに直交する3軸、例えば縦方向(船首方向)X、横方向(左舷方向)Yおよび垂直方向Z(図1参照)にそれぞれ生じているベクトル量である。説明の単純化のために図2および3に示す例では、例えばX方向の永久磁気Hを表す「永久磁気HX」)を代表して記し、説明する。他の方向でも同様である。なお、本願における「所定軸方向」とは、縦方向X、横方向Yおよび垂直方向Zの少なくとも1つを意味する。つまり、「所定軸方向における永久磁気」とは、永久磁気HX、HY(横方向Yの永久磁気H)およびHZ(垂直方向Zの永久磁気H)の少なくとも1つを意味する。
【0019】
図2に示す例では、処理MADo(k)が、時刻t1から時刻t3までに行われる。処理MADo(k)は、永久磁気HX2を抜くための消磁処理を含んでいる。ここで磁気には極性があるので、時刻t1における永久磁気HXの値HX2の極性方向を正極性としている。値HX2は、処理MADo(k-1)(即ち、処理MADo(k)の実施の1回前に実施された永久磁気調整処理)の実施後から処理MADo(k)の実施前までの海洋移動体20の再磁化により生じたX軸方向の永久磁気である。消磁処理による磁気の消磁量ΔHX(k)は、値HX2と値H0の差の磁化量に等しい(ΔHX(k)=HX2-HX0)。値HX0は、ゼロに相当する永久磁気HXである。
【0020】
永久磁気HX2を抜くための消磁処理は、時刻t1から時刻t2までの間に行われる。時刻t2から時刻t3までの間は、海洋移動体20に磁気を付与するための着磁処理が行われる。つまり、処理MADo(k)は、消磁処理と、着磁処理とを含んでいる。着磁処理における着磁量は、値HX2と値HX1の差(HX2-HX1)を打ち消す磁化量に相当する。値HX1は、処理MADo(k-1)の実施後において海洋移動体20に僅かに残った永久磁気HXである。つまり、着磁処理では、磁化量(HX2-HX1)を相殺するように逆極性の磁気(着磁量は-(HX2-HX1))が、海洋移動体20に付与される。
【0021】
海洋移動体20の再磁化は、処理MADo(k)の実施直後から始まる。図2に示されるように、永久磁気HXの変化は、時刻t3の直後から発生する。また、処理MADo(k)の実施後においては、海洋移動体20が航行する海域ARiにおける地球磁界からの影響を受けて永久磁気HXが変化する。図2に示される例では、海洋移動体20は時刻t4で海域AR8に入り、時刻t5で海域AR9に入り、時刻t9で船体方向を変え、時刻t7で海域AR6に入り、時刻t8で海域AR3に入る。時刻t3から時刻t9までの間に、永久磁気HXが磁気HX4まで増加する。
【0022】
海洋移動体20は、時刻t9にて船体方向を変え、時刻t10で海域AR2に入り、時刻t11で海域AR5に入り、時刻t11で海域AR4に入り、時刻t13で海域AR7へ移動し、時刻t14にてBF1に戻り、再度永久磁気調整処理をうける。時刻t9から時刻t14までの間、X軸下向きに永久磁気HXが減少する。そして、時刻t14での永久磁気HXは磁気HX3となっており、その後行われる処理MADo(k+1)では、永久磁気HX3を抜くための消磁処理と着磁処理が行われる。処理MADo(k+1)の内容は、基本的に処理MADo(k)のそれと同じである。
【0023】
図2に示される例では、永久磁気HXの正方向の最大値HXmax1が値HX4と値HX0の差で表される。そのため、値HX4の絶対値が大きくなれば、この最大値HXmax1が大きくなる。そして、最大値HXmax1が大きくなれば、海洋移動体20が第三者から捕捉され易くなる。また、時刻t3から時刻t14までの間、つまり、処理MADo(k)の完了から処理MADo(k+1)の実施までの時間が長くなれば、値HX3と値HX0の乖離が大きくなり、処理MADo(k+1)での消磁処理の実施に時間を要することになる。あるいは短時間で処理するために電流定格の大きな永久磁気処理システムが必要になる。
【0024】
既に説明したように、図2に示される例では、処理MADo(k)の着磁処理において、差(HX2-HX1)を打ち消す磁気が海洋移動体20に付与される。したがって、処理MADo(k-1)の実施後から処理MADo(k)の実施前までの航行実績と、処理MADo(k)の実施後から処理MADo(k+1)の実施前までの航行スケジュールが完全に一致している場合は、この着磁処理が有効である。何故なら、次回(時刻t3から時刻t14まで)の航行スケジュールにおいて海洋移動体20に生じる永久磁気Hが、今回(時刻t1まで)の航行実績と同じ(差(HX2-HX1))になるからである。ただし、今回の航行実績と次回の航行スケジュールが一致することは稀である。
【0025】
今回の航行実績と次回の航行スケジュールが一致しない場合、処理MAD(k)の実施後から処理MAD(k+1)の実施前までの航行の最中に海洋移動体20の磁化により生じる永久磁気Hは、その間の海洋移動体20の航行状況に依存する。そこで、第1の実施形態に係る永久磁気調整処理では、処理MADn(k)の実施に際し、時刻と関連した(時刻とともに変化する)磁化量の予測変化量ΔHf(k+1、t)が計算される。予測変化量ΔHf(k+1、t)はX、Y及びZ方向の成分に分解することができる。以下の説明において、予測変化量ΔHf(k+1、t)をX、Y及びZ方向の成分に分解して説明する場合は、各成分を「予測変化量ΔHXf(k+1、t)」等と称す。
【0026】
予測変化量ΔHf(k+1、t)は、処理MADn(k)の実施後から処理MADn(k+1)の実施前までの航行(以下、「次回の航行」とも称す。)の最中の時刻tにおける海洋移動体20の磁化により処理MADn(k)の終了を起点(初期値0)として変化することが予測される永久磁気Hの変化量の予測量であり、ベクトル量で表される。予測変化量ΔHf(k+1、t)は、後述される海洋移動体20の所定軸方向の単位時間当たりの磁化量である予測単位磁化量を時間的に積算することにより計算できる。次回の予定航路の開始から終了までに渡り所定軸方向の予測変化量ΔHf(k+1、t)を計算して得られる最終値、すなわち次回の航行が終了した時点での予測変化磁化量ΔHf(k+1、t)を累積予測変化量ΣΔHf(k+1)と呼ぶ。予定航路は、次回の航行スケジュールを示したデータ(予定航行データ)に基づいて特定することができる。
【0027】
図3に示されるように、第1の実施形態に係る永久磁気調整処理では、時刻t1´から時刻t2´までの間に消磁処理が行われる。この消磁処理の内容は、図2で説明した消磁処理のそれと同じである。第1の実施形態に係る永久磁気調整処理では、時刻t2´から時刻t3´までの間に特徴的な着磁処理が行われる。この着磁処理では、予測変化量ΔHf(k+1、t)に基づいて目標着磁量が決定される。例えば、目標着磁量は、累積予測変化量ΣΔHf(k+1)を事前に打ち消す磁気(-ΣΔHf(k+1))である。図3はX方向の成分の図であるので、X方向の目標着磁量は、累積予測変化量ΣΔHXf(k+1)を事前に打ち消す磁気である。
【0028】
予測変化量ΔHf(k+1、t)と永久磁気調整処理における目標着磁量について補足する。図4は予測変化量ΔHf(k+1、t)のX方向成分であるΔHXf(k+1、t)の変化を示したものである。次回の航行の開始予定は時刻t3´であり、この時刻t3´における予測変化量ΔHXf(k+1、t)は0である。図3及び図4に示される時刻t3´以降の永久磁気Hの推移は、図2に示した時刻t3以降のそれと同じである(予定時刻であるので「´」を付与し区別している)。
【0029】
例えば、海洋移動体20が海域AR7から海域AR8に入る時刻t4´での予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft4´であり、海域AR8から海域AR9に入る時刻t5´での予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft5´であり次回の航海予定の最小値となっている。さらに、時刻t6´での予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft6´であり、海洋移動体20が海域AR9から海域AR6に入る時刻t7´での予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft7´であり、海洋移動体20が海域AR6から海域AR3に入る時刻t8´での予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft8´であり、時刻t9´では予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft9´であり次回の航海予定の最大値となっている。さらに、海洋移動体20が海域AR3から海域AR2に入る時刻t10´では予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft10´であり、海洋移動体20が海域AR2から海域AR5に入る時刻t11´では予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft11´であり、海洋移動体20が海域AR5から海域AR4に入る時刻t12´では予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft12´であり、海洋移動体20が海域AR4から海域AR7に入る時刻t13´では予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft13´であり、海洋移動体20が海域AR7の係留施設BF1にて処理MADn(k+1)をうける直前となる時刻t14´では予測変化量ΔHXf(k+1、t)はΔHXft14´であると予測される。
【0030】
そこで、図3に示すように処理MADn(k)にて累積予測変化量ΣΔHXf(k+1)をうち消す様な量を目標着磁量とし、目標着磁量になる様に着磁処理を行って、-ΣΔHXf(k+1)を海洋移動体20に付与することにより、図3に示される例では、永久磁気HXが時刻t3´において負方向の最大値HXmax2(-ΣΔHXf(k+1))を示し、時刻t9´において正方向の最大値HXmax3(HX6)を示すものの、永久磁気HXが図2における時刻t9における最大値HXmax1を上回ることはない。このように、第1の実施形態に係る永久磁気調整処理によれば、今回の航行実績と次回の航行スケジュールが一致しない場合でも、海洋移動体20の航海中の永久磁気が低減され、第三者による海洋移動体20の捕捉のリスクを低減することが可能となる。
【0031】
また、予測変化量ΔHf(k+1、t)の予測の精度が高い場合には、累積予測変化量ΣΔHf(k+1)が実際の永久磁気Hに近づくことが予想される。この場合は、図3の時刻t14´における永久磁気Hの値HX5がH0(すなわち永久磁気量が0)に近づくことになる。このように、第1の実施形態に係る永久磁気調整処理によれば、処理MADn(k+1)での消磁処理を短時間で完了することも可能となる。
【0032】
以下、第1の実施形態に係るシステム10の詳細について説明する。
【0033】
2.永久磁気調整システムの構成例
2-1.システム全体の構成例
図5は、第1の実施形態に係るシステム10の全体構成例を示す図である。なお、説明の便宜上、図5には、係留施設BF1に停泊する海洋移動体20が描かれている。図5に示される例は、海洋移動体20の縦方向Xにおける永久磁気調整処理が行われる場合の例に相当する。
【0034】
図5に示されるように、システム10は、電源装置11と、ソレノイドケーブル12と、磁気センサ13と、制御装置14と、を備えている。電源装置11はソレノイドケーブル12に電流を供給する。ソレノイドケーブル12は、電源装置11からの電流の供給を受けて磁界を発生させる。電源装置11およびソレノイドケーブル12は、本願における「磁界発生源」を構成する。磁気センサ13は、海洋移動体20の各軸方向の永久磁気H(永久磁気HX、HY及びHZ)を計測する。制御装置14は本願における「制御部」の一例である。
【0035】
制御装置14は、プロセッサおよびメモリを少なくとも備えるコンピュータである。プロセッサは、メモリに記憶された所定のプログラムに従い、永久磁気調整処理および「登録処理」を行う。永久磁気調整処理では、電源装置11がソレノイドケーブル12に供給する電流の指令値が計算される。登録処理では、処理MADn(k-1)の実施後から処理MADn(k)の実施前までの航行中の時刻tにおける海洋移動体20の磁化により実際に変化したと推定される永久磁気Hの量(実績変化量)等が計算される。永久磁気調整処理および登録処理の詳細については後述される。
【0036】
2-2.制御装置の構成例
図6は、制御装置14の機能構成例を示すブロック図である。なお、説明の便宜上、図6には、海洋移動体20が有する制御装置21およびデータベース22が描かれている。図6に示されるように、制御装置14は、通信部14aと、登録処理部14bと、永久磁気調整処理部14cと、を備えている。制御装置14は、船体情報データベース15、地球磁界データベース16、航行データベース17および磁化量計算結果データベース18に接続されている。これらのデータベース15~18及び22は、例えば、所定の記憶装置(例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ)内に形成されている。また、これらのデータベース15~18は分散することなく1つのデータベースにまとめてもよい。
【0037】
通信部14aは、通信部21bと通信する。通信部21bは、制御装置21が有する機能である。通信部14aと21bの通信形式は、有線でもよいし無線でもよい。通信部14aによる通信は、永久磁気調整処理の実施直前に行われてもよいし、当該実施の図15のS1の実施前の待機中に行われてもよい。この通信では、後述の実績航行データDnjが通信部21bから通信部14aに送信される。無線形式による場合、実績5Dnjの一部の通信が、海洋移動体20が他の係留施設(例えば、係留施設BF2、BF3)の停泊している間に行われてもよい。海洋移動体20がある海域ARiから別の海域ARiに進入したタイミングごとに、あるいは航行中の任意のタイミングで通信が行われてもよい。通信部14aで受信された実績航行データDnjは、登録処理部14bにより、航行データベース17に登録される。
【0038】
通信部14aによる通信では、海洋移動体20のデータベース22に格納された実績航行データDnjが取得される。実績航行データDnjには、航行中の時刻データDT1、位置データDP1、方向データDR1等が含まれる。時刻データDT1はデータ記録時刻のデータである。時刻データは例えば年、月、日、時、分、秒等から構成される。位置データDP1は海洋移動体20がデータを記録した時刻における、海洋移動体20の所在位置データである。船体方向データDR1は記録時刻における海洋移動体20の船体方向のデータである。実績航行データDnjは着磁処理の終了後から記録される。実績航行データDnjは、航行中(停泊中も含む)は所定の時刻毎に、あるいは船体方向及び位置または海域が変わるごとに記録される。
【0039】
実績航行データDnjの記録を海域が変わる毎に実施する場合は、後述の海域データもデータベース22に登録され、所在位置との比較から実績航行データDnjの登録タイミングを決定する。
【0040】
図7は、位置データDP1と方向データDR1を説明する図である。図7に示す船体方向データDR1は、図1で説明した海洋移動体20の航行経路に対応している。船体の位置データは例えば経度w、緯度nおよび高度(深度)hで構成される。船体の方向データDR1は、海洋移動体20の船首方向及び船体の船首方向を軸とした回転角(船体の横方向の傾き)のデータを含む。例えば、船首方向データは北極方向をゼロとし西方向を正とした船首の経度方向の角度α、水平をゼロとし上方向を正とした船首の垂直方向の角度β、回転角は船体の船首方向を軸とし水平をゼロとし左舷が上になる船体の回転角γから構成される3成分から構成される。図7では単純化のために経度と緯度および経度方向のデータ(α1~α11)のみを示している。尚、必要により垂直方向の角度や回転角を省略してもよい。方向データDR1は、コンパスあるいはジャイロコンパスに等に対する船体の方向等あるいは傾度測定器や複数のアンテナを使用したGPSコンパス等から、また、位置データもGPSやその他の測位ビーコンおよび加速度計と時間からの演算、天測、測地等の手法より求めることができる。方向データDR1や位置データDP1の計算は、データ取得部21a内で行われてもよいし、他の装置からデータ取得部21a経由でデータを取り込むようにしてもよい。図7では海洋移動体の進行方向と船体方向が同一のとして示されているが、後進、横進、潮流等により、移動方向と船体方向が異なることもある。
【0041】
実績航行データDnjは、制御装置21が有するデータ取得部21aにより取得され、データベース22に登録される。図8(a)は、データベース22における実績航行データDnjの登録例を示す図である。図8(a)に示される例では、船体番号,実績航行番号と、時刻順に時刻データDT1に関連付けづけられた位置データDP1、及び方向データDR1の組み合わせが1からN1まで登録されている。実績航行番号は処理から処理の間を1つの航行として、海洋移動体20の1つの実際の航行毎に付与する識別番号である。時刻と関連つけられて、当該時刻における海洋移動体20の位置、及び方向のデータが登録される。また、海域を示すデータを合わせて登録してもよい。実績航行データDnjは前回の処理MADn(k-1)の実施後から処理MADn(k)における後述の処理前の永久磁気実測値の測定前までのNj1組のデータが登録される。図8(a)の例では、海洋移動体20は、時刻Tj_1に前回の処理MADn(k-1)が終了し、その位置が西経wj1、北緯nj1、深度(或いは海抜)pj1であり、海域はAR7、船首方向が北に対し西方にαj1、水平に対しβj1変位しており左舷がγj1上方に傾いていることを示している。そして、その海域がAR7であることを示している。同様にして所定の時刻毎に、時刻データTD1、3次元の位置データDP1,3次元の方向データDR1および海域を登録する。その後、海洋移動体20は時刻Tj_3に海域AR8に移動し、最終的に、時刻Tj_N1に海洋移動体20は、西経wN1、北緯nN1、深度(或いは海抜)pN1の海域AR7にて、後述の処理前永久磁気実測値Hj1(k)の測定前まで記録登録されることが示される。このように、実績航行データは着磁処理終了後から処理前永久磁気実測値Hj1(k)の測定前まで記録登録されることが望ましい。
【0042】
図6に戻り、制御装置14の構成例の説明を続ける。通信部14aによる通信では、海洋移動体20とは別の海洋移動体の実績航行データも取得される。「別の海洋移動体」の構成は、制御装置21と同様の機能と、データベースとを有していれば特に限定されない。別の海洋移動体には、海洋移動体20と形状およびサイズが類似する「類似移動体」と、海洋移動体20とそれらが類似しない「非類似移動体」と、が含まれる。そして、その別の海洋移動体の実績航行データも航行データベース17に登録される。以下、海洋移動体20および別の海洋移動体を総称する場合は「海洋移動体等」と称す。
【0043】
<登録処理>
登録処理部14bは、通信部14aが取得した海洋移動体等の実績航行データを航行データベースに登録する。さらに、登録処理部14bは別途作成された予定航行データDnfを航行データベース17に登録する。図8(b)は航行データベース17に登録された予定航行データDnfを示す図である。予定航行データDnfは実績航行データDnjと同様に船体番号、予定航行番号と時刻データDT2(年、月、日、時、分、秒等)に関連付けられた3次元の海洋移動体20の予定位置データDP2および3次元の海洋移動体20の予定方向データDR2で構成される。予定位置データDP2および予定方向データDR2の構成は、それぞれ実績位置データDP1および実績方向データと同様である。尚、必要に応じて位置データに対応する海域データを登録してもよい。図8(b)には船体番号A1に対し予定航海番号KfNo11、KfNo12、KfNo13等、船体番号A2に対し予定航海番号KfNo21、KfNo22等、複数の海洋移動体等について複数の予定航行データが登録されてもよい。さらに、登録処理部14bでは後述の実績変化量ΔHr(k、t)のデータおよび、予測変化量ΔHf(k+1、t)のデータを磁化量計算結果データベース18に登録し、後述の補正された磁化係数を船体情報データベース15に登録する。
【0044】
図9に示す様に海域データの海域区分は平面的区分の他に、立体的な空間としてもよく、本例では海域を9個に分割されている。尚、磁場強度の関係で、水面を海域の分割の境界にしてもよい。海域データは望ましくは海洋移動体20の航行する可能性のあるすべての海域が位置情報(例えは、経度と緯度と深度(高度))として登録されている。海域データDARは各海域単位に地球磁界データDMGと関連付けられて登録されている。尚、磁化量の計算を隣接し合う海域の地球磁界も考慮して補間を行う場合は、海域データはその中心位置を表す位置を登録する。図12は海域データと関連付けられた地球磁界データDMGの地球磁界データベース16への登録例を示している。本例ではm個の海域データDARが登録されており、海域データは6面体形状とし、経度の上限と下限、緯度の上限と下限、深度(高度)の上限と下限で区切られた領域で一つの海域を表している。また当該海域の中心座標も緯度、経度、深度(または高度)で表示している。そして海域と関連付けられたm個の当該海域の地球磁界データDMGが3次元ベクトルの第1地球磁界MG_ARiが緯度方向(北方向)、経度方向(西方向)、垂直方向の各成分の磁界として登録されている。第1地球磁界MG_ARiは当該海域の平均地球磁界でもよいし、当該海域の中心座標における地球磁界でもよい。例えば、海域AR1は経度範囲上限wmax1、経度範囲下限wmin1、緯度範囲上限nmax1、緯度範囲下限nmin1、深度範囲上限pmax1、深度範囲下限pmin1、海域中心座標は経度wcen1緯度ncen1、深度pcen1であり、その海域の地球磁場の緯度(北)方向成分MG_ARiN1、経度(西)方向成分MG_ARiW1、垂直方向成分MG_ARiP1である。尚、図12の最左欄は地球磁界データのバージョン情報である。地球磁界MG_ARiのデータは更新されることも想定されるので、バージョン情報とともに管理されることが望ましい。地球磁界MG_ARiのベクトルの向きおよび大きさのデータのそのものについては、既知の測定データ等を用いて作成することができる。
【0045】
<磁化量計算処理>
図10に示される例では、位置DP1における変換前地球磁界MG_AR2の緯度方向、経度方向、垂直方向の各ベクトル成分が、船体方向データDR1に基づき船体の船首方向を基準としたX軸、Y軸およびZ軸の3軸方向に変換される。なお、例えばX軸の方向は、船首方向、Y軸の方向は左舷方向、Z軸は上方向に相当する。3軸方向の地球磁界成分MX_ARi、MY_ARiおよびMZ_ARiは、海洋移動体20の各軸成分に変換された変換後地球磁界MG_DRの大きさのデータを表している。地球磁界のベクトルの船体方向のベクトルへの変換は、例えば以下の(1)~(3)式で表すことができる。
MX_ARi=NWP ・・・(1)
MY_ARi=WWP×cos(γ)+PWP×sin(π/2-γ)・・・(2)
MZ_ARi=PWP×cos(γ)―WWP×sin(π/2+γ)・・・(3)
ここで、
NWP=NP×cos(β)+PP×sin(π/2-β) ・・・(4)
WWP=WP ・・・(5)
PWP=PP×cos(β)-NP×sin(π/2-γ) ・・・(6)
NP=MG_ARiN×cos(α)+MG_ARiW×sin(π/2-α)
・・・(7)
WP=MG_ARiW×cos(α)-MG_ARiN×sin(π/2-α)
・・・(8)
PP=MG_ARiP ・・・(9)
である。このように船体方向を3次元の角度で表すことにより、容易に地球磁界のベクトルを船体の各軸方向のベクトルに変換できる。
【0046】
磁化量計算処理では、地球磁界成分MX_ARiからの影響によって海洋移動体等のX軸方向において単位時間あたりの磁化量MAG_Xが、下記式(10)に基づいて計算される。また、海洋移動体等のY軸およびZ軸方向において単位時間あたりの磁化量MAG_YおよびMAG_Zが、それぞれ、下記式(11)および(12)に基づいて計算される。
MAG_X=MX_ARi×Wx ・・・(10)
MAG_Y=MY_ARi×Wy ・・・(11)
MAG_X=MZ_ARi×Wz ・・・(12)
式(10)~(12)において、Wx、WyおよびWzは、海洋移動体20の3軸方向に対するそれぞれの磁化係数Wである。係数Wx、WyおよびWzは、船体情報データベース15に船体番号と関連つけられて登録されており、後述の様に補正することができる。そして、後述の様に実績航行データDnjに基づいて、式(10)~(11)を計算するとその位置における単位時間当たりの磁化量である実績単位磁化量を求めることができ、実績単位磁化量を時間で積算(あるいは数値積分演算)することにより航行中の時間と関連した実績変化量ΔHr(k、t)を計算することができ、その結果が登録される。そして、後述の様に予定航行データDnjに基づいて、式(10)~(11)を計算するとその位置における単位時間当たりの磁化量である予測単位磁化量を求めることができ、予測単位磁化量を時間で積算(あるいは数値積分演算)することにより航行中の時間と関連した予測変化量ΔHf(k+1、t)を計算することができ、その結果が登録される。実績変化量ΔHr(k、t)および予測変化量ΔHf(k+1、t)はX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の成分をもつ時刻tとともに変化するベクトル量である。
【0047】
図11は、船体情報データベース15における船体情報の登録例を示している。図11に示される例では、個々の海洋移動体毎に、船体番号、型式、船種、大きさ(長さ、幅、高さ、排水量等)、処理回数、処理開始および終了日時刻、永久磁気測定日時、前回処理後船体永久磁気実測値,処理前船体永久磁気実測値及び磁化係数、処理時の地球磁界データバージョン、処理時の予定航行番号、処理後船体永久磁気実測値等の磁化量計算に参考となる船体情報が登録されている。図13は磁化量計算結果データベース18への実績変化量データの登録例である。船体番号と実績航行番号に紐付けられ、実績変化量ΔHr(k、t)、及び実績変化量ΔHr(k、t)を求めるために使用した地球磁界データのバージョンデータおよび計算に使用した磁化係数、変換前地球磁界MG_AR2及び変換後地球磁界MG_DRおよび実績変化量ΔHr(k、t)は時刻DT1と関連付けられて登録される。尚、処理MADn(k)において求めた前回の実績航行データに基づき実績単位磁化量をもとめ、実績単位磁化量を実績航路の全体に渡って時間的に積算することで得られる時間とともに変化するベクトル量(ベクトル関数)を実績変化量ΔHr(k、t)と記す。そして実績航行データの最終時刻における実績変化量ΔHr(k、t)を累積実績変化量ΣΔHr(k)と記す。例えば図13で船体番号A1の実績航海番号KJNo11の実績変化量ΔHr(k、t)の計算結果と船体番号A2の実績航海番号KJNo21の実績変化量ΔHr(k、t)の計算結果の登録例の一部を示している。計算結果は航行実績データの時刻と対応つけられて保存され、例えば実績航海番号KJNo11のTj_N1番目の実績変化量ΔHr(k、t)は、処理前永久磁気実測値Hj1(k)の測定前までに記録登録にされた最終登録の実績航行データにより計算された時刻Tj_N1における累積実績変化量ΔHr(k、t)の各成分(ΔHrXN1、ΔHrYN1、ΔHrZN1)に相当する。同様に図14は磁化量計算結果データベース18への予測変化量データの登録例である。船体番号と予定航行番号に紐付けられ予測変化量ΔHf(k+1、t)、及び予測変化量ΔHf(k+1、t)を求めるために使用した地球磁界データのバージョンデータおよび計算に使用した磁化係数、変換前地球磁界MG_Af2及び変換後地球磁界MG_Dfは、時刻DT2と関連付けられて登録される。尚、処理MADn(k)において求めた次回の予定航行データに基づき予測単位磁化量をもとめ、予測単位磁化量を予定航路の全体に渡って時間的に積算することで得られる時間とともに変化するベクトル量(ベクトル関数)を予測変化量ΔHf(k+1、t)と記す。そして予定航行データの最終時刻における予測変化量ΔHf(k+1、t)を累積予測変化量ΣΔHf(k+1)と記す。
【0048】
地球磁界データのうち変換前地球磁界MG_AR2は、図12に示される地球磁界データMG_R1と実績航行データの位置データDP1からもとめられるベクトル量としての地球磁界である。その方向の基準は地球磁界データDMGと同じである。変換前地球磁界MG_AR2は、第1地球磁界が当該海域の平均地球磁界を表す場合は、第1地球磁界をそのまま、用いでもよく、第1地球磁界が当該海域の中心座標の地球磁界を表す場合は、対応する位置データDP1に対し、当該海域の中心座標方向と反対(正反対ではなくとも90度以上の角度を示せばよい)方向に中心座標のある隣接海域の中心座標の第1地球磁界と、当該海域の中心座標における第1地球磁界から、対応する位置の磁界を補完して求めてもよい。望ましくは対応する位置データDP1を含む海域と、DP1取り囲むように構成される近接する他の3つの海域の第一地球磁界の値(合計4つ第一地球磁界)のを使用し、位置DP1の変換前地球磁界MG_AR2を補完して求めてもよい。例えば、時刻Tj_1における海洋移動体20の位置は図8(a)に示す様に実績航行データから西経wj1、北緯nj1、深度pj1であり、図12に示す海域データDARと第1地球磁界データMG_ARiより、その場所における変換前地球磁界MG_AR2の緯度方向成分がMG_ARN7、経度方向成分がMG_ARW7、緯度方向成分がMG_ARN7,である。そして、これを対応する時刻の海洋移動体の3軸方向に変換したベクトルデータを変換後地球磁界データMG_DRである。変換後地球磁界MG_DRは実績航行データの方向データDR1により、変換前地球磁界MG_AR2を海洋移動体20のX軸、Y軸、Z軸の方向に変換したベクトルとしての地球磁界である。ここで、実績変化量ΔHr(k、t)は、式(10)~(11)を使用して当該時間までの磁化量を時間で積算した海洋移動体20の3軸方向のベクトルとしての磁化量である。したがって、前回の処理MADn(k-1)終了直後の時刻Tj_1における値は、初期値であるのでX軸、Y軸、Z軸ともに0となっている。そして、今回の処理MADn(k)開始直前の時刻Tj_N1における3軸方向の値(ΔHrXN1,ΔHrYN1、ΔHrZN1)が累積実績変化量ΔHr(k、t)に相当する。
【0049】
<永久磁気調整処理>
再び図6に戻り、制御装置14の構成例の説明を続ける。永久磁気調整処理部14cは、永久磁気調整処理を行う。図15は、制御装置14(プロセッサ)が行う永久磁気調整処理の流れを説明するフローチャートである。なお、図15では、処理MADn(k)が行われる場合を代表例として説明する。
【0050】
図15に示される例では、まず、ステップS1にて、磁気センサ13の検出値に基づき処理前永久磁気実測値Hj1(k)が測定され、処理前永久磁気実測値Hj1(k)と、前回の永久磁気調整処理後の永久磁気実測値Hj1´(k-1)との差から磁化量実測値(実測変化量)ΔHj(k)を求め、船体情報の登録された船体情報データベース15に対象となる海洋移動体20の船体番号と処理回数や測定日付時刻とともに登録処理部14bにより船体情報データベース15に船体番号と関連付けられ図11に示す様に登録される。ここで、処理前永久磁気実測値Hj1(k)、前回の永久磁気調整処理後の永久磁気実測値Hj1´(k-1)および磁化量実測値ΔHj(k)は各々X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の成分を持つベクトルである。船体番号は個々の海洋移動体20に付与された固有の番号である。
【0051】
次に、ステップS2にて、船体情報データベース15から、処理対象となる海洋移動体20の磁化係数を読み込み、さらに航行データベース17から海洋移動体20の実績航行データDnjを読み込み、実績変化量ΔHr(k、t)を求めるための磁化量の計算処理がされる。実績変化量ΔHr(k、t)は、処理MADn(k-1)の実施後から処理MADn(k)の実施前までの海洋移動体20の再磁化により生じた永久磁気Hの変化量である。磁化量の計算の詳細は後述する。
【0052】
さらにステップS3にて、磁化係数の補正の要否が判断される。補正の必要のない場合(No)はステップS4に進み、補正要の場合はステップS31に進む。ここで、補正の要否は、磁化量実測値ΔHj(k)と累積実績変化量ΣΔHr(k)との差異が所定の範囲を超えた場合や、過去の磁化量実測値ΔHj(k)との差異データが統計的に有意な数が蓄積された場合でもよい。ステップS31では累積実績変化量ΣΔHr(k)と磁化量実測値ΔHj(k)を比較し、その差が小さくなるように、海洋移動体20の磁化係数の補正を行い、ステップ2に戻る。ここで、磁化係数の補正は個々の海洋移動体毎に実施してもよいし、類似海洋移動体毎に実施してもよい。また補正は過去の磁化量実測値ΔHj(k)と累積実績変化量ΣΔHr(k)との差異を統計的に処理して磁化係数の補正を行ってもよい。補正された磁化係数は船体情報データベース15に船体番号と関連付けて登録される。
【0053】
ステップS4にて、ステップS2で計算した結果である実績変化量ΔHr(k、t)等が磁化量計算結果データベース18に図13に示す様に登録される。なお、必要に応じ、再計算可能な登録データを省略し、船体番号、実績航行番号,地球磁界データバージョン、実績航行データの最終時刻の実績変化量ΔHr(k、t)(すなわち累積実績変化量ΣΔHr(k))に限定した情報を登録してもよい。
【0054】
次に、ステップS5にて、航行データベース17に保管された船体番号と予定航行番号に関連付けられた予定航行データDnf(k+1)および最新の磁化係数(ステップS31で補正された磁化係数)に基づいて、予測変化量ΔHf(k+1、t)を求めるための磁化量の計算処理が行われる。予測変化量ΔHf(k+1、t)はX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の成分をもつ時間とともに変化するベクトル量(ベクトル関数)である。予定航行データDnf(k+1)は実績航行データDnj(k)と同様に図8(b)に示されるように、海洋移動体20の航行予定中の時刻データDT2、予定位置データDP2、及び予定方向データDR2等が含まれる。時刻データDT2は航行予定における時刻のデータである。位置データDP2は時刻データDT2の時刻に対応した、海洋移動体20の予定所在位置データであり、船体方向データDR1は同様に海洋移動体20の予定船体方向のデータである。磁化量の計算処理の手段はステップS2と同様であるが、実績変化量ΔHr(k、t)と予測変化量ΔHf(k+1、t)の計算との差異は、実績変化量ΔHr(k、t)が海洋移動体20の実績航行データDnj(k)に基づいて計算されるのに対し、予測変化量ΔHf(k+1、t)は、予定航行データDnf(k+1)に基づいて計算される点である。更に、ステップS4では磁化量の計算において、計算時刻単位の磁化量の計算値が時刻データの時刻に対応した予測変化量ΔHf(k+1、t)として、データベース15に登録する。次に、ステップS6にて、図14に示されるように計算結果である予測変化量ΔHf(k+1、t)が船体番号、航行予定番号、地球磁界データバージョン,磁化係数,とともに時刻DT2に関連つけられて変換前地球磁界MG_Af2,変換後地球磁界MG_Dfとともに登録される。なお、必要に応じ、再計算可能な登録データを省略し、船体番号,予定航行番号,地球磁界データバージョン、予定航行データの最終時刻の予測変化量ΔHf(k+1、t)(すなわち累積予測変化量ΣΔHf(k+1))に限定した情報を登録してもよい。なお、変換前地球磁界MG_Af2,変換後地球磁界MG_Df、実績変化量ΔHr(k、t)、予測変化量ΔHf(k+1、t)は三次元のベクトルである。
【0055】
次にステップS7にて、消磁処理が行われる。処理前永久磁気実測値Hj1(k)を海洋移動体20から抜くための電流指令値が、処理前永久磁気実測値Hj1(k)に基づき計算される。そして、この消磁用の電流指令値に基づいて電源装置11が制御される。
【0056】
次にステップS8にて、着磁磁処理の為の電流制御が行われる。着磁処理において海洋移動体20の電流指令値は、予測変化量ΔHf(k+1、t)に基づいた目標着磁量に基づき計算される。例えば特定の予定時間範囲や、特定の予定時刻における予測変化量ΔHf(k+1、t)を打ち消す様に決定される。すなわち特定した時刻あるいは時刻範囲の予測変化量ΔHf(k+1、t)と逆のベクトルを海洋移動体20に付与するための電流指令値が計算される。そして、この着磁用の電流指令値に基づいて電源装置11が制御される。さらに着磁処理後必要に応じ、着磁処理後に磁気センサ13の検出値に基づき処理後永久磁気実測値Hj1´(k)が測定され船体情報データとして船体情報ベースに登録されてもよい。また、処理後永久磁気実測値Hj1´(k)の値が目標着磁量との乖離が所定の範囲より大きい場合は再度着磁処理を行うようにしてもよい。
【0057】
<磁化量の計算処理>
図16は、磁化量の計算の流れを示すフローチャートである。なお、図16では、図15と同様に、処理MADn(k)が行われる場合を代表例として説明する。ここで、計算で求められる時間に関する関数して求められる磁化量を計算磁化量ΔHc(t)と呼ぶ。ここで、時刻tは航行データの時刻データに相当する。即ち、実績変化量ΔHr(k、t)を計算する場合は、時刻tは実績航行データDnjの時刻データDT1の時刻に相当し、計算磁化量ΔHc(t)は実績変化量ΔHr(k、t)に相当する。予測変化量ΔHf(k+1、t)を計算する場合は、時刻tは予定航行データDnf(k+1)の時刻データDT2の時刻に相当し、計算磁化量ΔHc(t)は予測変化量ΔHf(k+1、t)に相当する。
【0058】
図16に示すルーチンではまず、ステップS101で磁化量演算テーブルの初期化が実施される。具体的には例えば、計算磁化量ΔHc(t)の値をゼロとする。
【0059】
次にステップS103にて地球磁界データDMGと航行データとX,Y及びZ軸方向の磁化係数が取得される。地球磁界データDMGは地球磁界データベース16から取得される。航行データは、航行データベース17から取得される。航行データには、時刻に関連付けられた、位置データと方向データが含まれる。航行データは実績変化量ΔHr(k、t)を計算する場合は、実績航行データDnjに相当し、予測変化量ΔHf(k+1、t)を計算する場合は、予定航行データDnf(k+1)に相当する。磁化係数は、船体情報データベース15から取得される。取得される磁化係数は海洋移動体20のものでもよいし、類似移動体のものでもよい。例えば、海洋移動体20の磁化係数(第1磁化係数)が船体情報データベース15に存在しない場合、類似移動体のそれ(第2磁化係数)が代用される。
【0060】
次にステップS105にて、初期の計算時刻として航行データの時刻データの第1番目のデータを計算時刻としてセットする。
【0061】
次にステップS107にて航行データ中の位置データと地球磁界データDMGから計算時刻における海洋移動体20の変換前地球磁界MG_AR2あるいはMG_Af2を計算する。
【0062】
さらにステップS109にて計算時刻における海洋移動体20の方向データから、変換前地球磁界を海洋移動体20の方向を基準としたX軸、Y軸、Z軸の方向に変換した変換後地球磁界MG_DrあるいはMG_Dfに変換する。例えば、前記式(1)~(3)により変換する。
【0063】
次にステップS111にて計算時刻における海洋移動体20のX軸、Y軸、Z軸の方向の単位時間当たりの磁化量を計算する。単位時間当たりの磁化量は例えば前記式(10)~(12)により計算する。実績磁化量ΔHr(k、t)の計算に使用される単位時間当たりの磁化量が実績単位磁化量であり、予測磁化量ΔHf(k+1、t)の計算に使用される単位時間当たりの磁化量が予測単位磁化量である。
【0064】
次にステップS113にて今回の計算時刻と前回の計算時刻の差をΔTとし、X軸、Y軸およびZ軸の方向の単位時間当たりの磁化量との積(これを刻み時間磁化量δHcとする)を計算し、さらに計算磁化量ΔHc(t)と刻み時間磁化量との和を新たな計算磁化量ΔHc(t)とし、計算時刻と計算磁化量ΔHc(t)を関連付けて計算磁化量データとして磁化量計算結果データベース18に登録する。ただし、計算時刻が時刻データの第1番目の場合、ΔTはゼロとする。
【0065】
次にステップS115にて、計算時刻が航行データの時刻データの最終値であるか判定する。最終値でない場合(No)は、ステップS121へ進み、最終値である場合は磁化量の計算を終了とする。
【0066】
ステップS121では現在の計算時刻を前回の計算時刻に設定し、航行データの次の時刻を計算時刻として設定する。そして、ステップS107にもどる。ステップS107からステップS115、ステップS121のループは所謂数値積分であるので台形積分法等より正確な手法を用いてもよい。
【0067】
この様に図16に示すフローチャートのステップS2に従い、航行データとして実績航行データDnjを使用した場合は航行中の実績磁化量ΔHr(k、t)を求めることができる。したがって、実績磁化量ΔHr(k、t)の最終値である累積実績変化量ΣΔHr(k)をもとめることができる。図15のさらにステップS2、S3、S31のフローチャートに従い、磁化係数Wを補正することができる。さらに図16に示す、航行データとして予定航行データDnf(k+1)を使用した場合は予定航行中の予測変化量ΔHf(k+1、t)を求めることができる。したがって予測変化量ΔHf(k+1、t)の最終値である累積予測変化量ΣΔHf(k+1)を求めることができる。よって、図15のステップS5およびS6により、海洋移動体20に対し、処理前永久磁気実測値Hj1(k)と累積予測変化量ΣΔHf(k+1)に対応した適切な消磁処理と着磁処理を行うことが出来る。
【0068】
例えば、ステップS8の着磁処理に於いて、次回の着磁処理直前の予定時刻における累積予測変化量ΣΔHf(k+1)を打ち消す様に目標着磁量を決定することができる。
【0069】
3.効果
以上説明した第1の実施形態に係るシステムによれば、永久磁気調整処理において累積予測変化量ΣΔHf(k+1)の計算処理が行われる。この計算処理によれば、次回の航行が終了した時点において海洋移動体20生じている永久磁気Hの量が推定される。そのため、永久磁気調整処理において、現在の永久磁気(処理前永久磁気実測値Hj1(k))を抜くための消磁処理に加えて、累積予測変化量ΣΔHf(k+1)を事前に打ち消すための着磁処理を行うことが可能となる。よって、次回の航行の最中における海洋移動体20の永久磁気Hを低レベルに維持することが可能となる。
【0070】
特に、累積予測変化量ΣΔHf(k+1)の計算処理の実行は、処理MADn(k-1)の実施後から処理MADn(k)の実施前までの航行実績と、処理MADn(k)の実施後から処理MADn(k+1)の実施前までの航行スケジュールとの一致を問わない。故に、累積予測変化量ΣΔHf(k+1)の計算処理によれば、次回の航行の最中における海洋移動体20の永久磁気Hを低レベルに維持することが可能な汎用性の高い技術を提供することが可能となる。
【0071】
4.第1変形例
次に第1の実施形態の第1変形例について説明する。第1の実施例と第1変形例の相違点は、第1の実施形態は処理MADn(k)の着磁処理における目標着磁量は累積予測変化量ΣΔHf(k+1)を打ち消す量であったことに対し、第1変形例は予定航路における予測変化量ΔHf(k+1、t)の最大値と最小値の和の1/2に相当する磁化量を打ち消す量を目標着磁量とすることである。海洋移動体20の処理MADn(k)における着磁量は累積予測変化量ΣΔHf(k+1)を打ち消す量であるため、予測変化量ΔHf(k+1、t)のピーク値の磁化極性と累積予測変化量ΣΔHf(k+1)が同極性の場合は、航行中の永久磁気のピーク値を低レベルに維持することが可能であるが、予測変化量ΔHf(k+1、t)のピーク値の磁化極性と累積予測変化量ΣΔHf(k+1)が逆極性の場合は航行中の永久磁気のピーク値の絶対値が増加してしまう可能性がある。これに対し、第1変形例は予測変化量ΔHf(k+1、t)の最大値と最小値の和の1/2(最大値と最小値の平均値)に相当する着磁量を打ち消す量を目標着磁量とすることにより、必ず、予測磁化量ΔHf(k+1、t)の絶対値のピーク値の極性と処理MADn(k)における着磁量の極性が逆になるので、次回の航行の最中における海洋移動体20の永久磁気Hを低レベルに維持することが可能な汎用性の高い技術を提供することが可能となる。ここで、予測変化量ΔHf(k+1、t)は3次元のベクトル量であるためX軸、Y軸、Z軸の各成分について、最大値と最小値の和の1/2(最大値と最小値の平均値)に相当する磁化量を打ち消す量を目標着磁量としてもよい。例えば図4において予測変化量ΔHf(k+1、t)のX方向成分の最大値は時刻t9´においてΔHXft9´であり、最小値は時刻t5´においてΔHXft5´である。したがって、処理MADn(k)における着磁量のX方向の目標値(目標着磁量)は-(ΔHXft9´+ΔHXft5´)/2である。Y軸、Z軸の各成分についても同様に、最大値と最小値の和の1/2(最大値と最小値の平均値)に相当する磁化量を打ち消す量を目標着磁量としてもよい。よって、第1の実施形態の変形例その1によれば、海洋移動体20の航行中の永久磁気を低減できる永久磁気調整シスステムを提供することができる。
【0072】
5.第2変形例
次に第1の実施形態の第2変形例について説明する。第1変形例と第2変形例の相違点は、第1変形例は処理MADn(k)の着磁処理における目標着磁量は予測変化量ΔHf(k+1、t)の最大値と最小値の和の1/2に相当する着磁量を打ち消す量とすることに対し、第2変形例は予定航行データの特定の航行海域(位置範囲)内における予測変化量ΔHf(k+1、t)の最大値と最小値の和の1/2(最大値と最小値の平均値)に相当する着磁量を打ち消す量とすることである。たとえば、予測変化量ΔHf(k+1、t)は3次元のベクトル量であるためX軸、Y軸、Z軸の各成分について、特定の航行海域の最大値と最小値の和の1/2(最大値と最小値の平均値)に相当する磁化量(最大と最小の平均値)を打ち消す量を目標着磁量としてもよい。ここで、特定の航行海域は1つでも複数でもよい。特定の領域が複数の場合は、複数の領域の内の最大と、複数の領域の内の最小の平均値を打ち消す量を目標着磁量としてもよい。特定の航行海域とは例えば海洋移動体20の船体磁気(永久磁気)を利用した第三者からの捕捉を避ける必要のある位置領域である。ここで位置領域を海域と言い換えてもよい。例えば図7において、係留施設BF1、2、3がある海域AR3、7、9は第三者からの補足の可能性のない地域であり、それ以外の海域AR1、2、4、5、6、8が特定位置領域とし、図4の様に予測変化量のX軸成分ΔHXf(k+1、t)が変化すると計算されたとすると、特定航行位置データ領域における予測変化量ΔHf(k+1、t)のX軸成分ΔHXf(k+1、t)最大値はAR2に進入した時刻t10´における値ΔHxft10´となり、最小値はAR8を離脱する時刻t5´における値ΔHxft5´となる。よって、特定位置データ領域における予測変化量ΔHf(k+1、t)のX軸成分ΔHXf(k+1、t)の最大と最小の平均値はΔHxft10´+ΔHxft5´)/2となる。したがって処理MADn(k)におけるX軸方向の目標着磁量は上記を打ち消す磁化量であるので、-(ΔHxft10´+ΔHxft5´)/2となる。他の軸方向も同様に目標着磁量を設定できる。よって、本変形例によれば、次回の航行の最中における海洋移動体20の永久磁気Hを、特に特定の海域において低レベルに維持することが可能な汎用性の高い技術を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
10 永久磁気調整システム
11 電源装置
12 ソレノイドケーブル
13 磁気センサ
14 制御装置
14a,21b 通信部
14b 登録処理部
14c 永久磁気調整処理部
15 船体情報データベース
16 地球磁界データベース
17 航行データベース
18 磁化量計算結果データベース
22 データベース
20 海洋移動体
ARi,AR1~9 海域
BF1~3 係留施設
H 永久磁気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16