(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20240305BHJP
B66C 23/36 20060101ALI20240305BHJP
B66C 13/12 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B66C13/22 Z
B66C23/36 Z
B66C13/12 C
(21)【出願番号】P 2022102117
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2023-10-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】寺田 王彦
(72)【発明者】
【氏名】中松 将太
(72)【発明者】
【氏名】石原 尚樹
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046997(JP,A)
【文献】実開平06-063660(JP,U)
【文献】特開2022-039774(JP,A)
【文献】特開2010-065423(JP,A)
【文献】中国実用新案第209024088(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-25/00
E02F 1/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータを有する走行体と、
前記走行体の上方に設けられ、上部デバイスを有する旋回体と、
前記走行体と前記旋回体との間に設けられた伝達部材と、
前記走行体に設けられ、前記走行用モータ及び前記上部デバイスの双方に電力を供給する電源と、を備え、
前記伝達部材は、
前記走行体から前記旋回体に供給される流体の流路を構成するスイベルジョイント部と、
前記走行体から前記旋回体に伝送される信号の伝送路を構成する弱電系スリップリング部と、
前記電源から前記上部デバイスに供給される電力の電路を構成する強電系スリップリング部と、を有
し、
前記弱電系スリップリング部は、前記スイベルジョイント部、前記弱電系スリップリング部、及び前記強電系スリップリング部のうち、最も上側に配置されている、
クレーン。
【請求項2】
前記強電系スリップリング部は、円盤状給電体である、請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記強電系スリップリング部は、走行体よりも上方に配置されている、請求項1に記載のクレーン。
【請求項4】
前記強電系スリップリング部は、前記スイベルジョイント部よりも上方に配置されている、請求項1に記載のクレーン。
【請求項5】
前記スイベルジョイント部は、弱電系の伝送路及び強電系の電路を挿通する空間を備える、請求項4に記載のクレーン。
【請求項6】
前記強電系の電路は、複数系統に分割され配策されている、請求項
5に記載のクレーン。
【請求項7】
前記強電系の電路は、前記スイベルジョイント部の上流側で複数系統に分割され、前記強電系スリップリング部により一系統に統合される、請求項
6に記載のクレーン。
【請求項8】
前記強電系の電路は、バスバーにより構成されている、請求項
5に記載のクレーン。
【請求項9】
前記スイベルジョイント部、前記弱電系スリップリング部、及び前記強電系スリップリング部は、解除可能に連結されている、請求項1に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、走行機能を有する下部走行体、及び、下部走行体の上部に旋回可能な状態で設けられた上部旋回体を備えた移動式のクレーンが開示されている。下部走行体は、エンジンを有しており、エンジンの動力に基づいて走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境保護等の観点から、上述のようなクレーンの電動化が求められている。
【0005】
本発明の目的は、電力により走行可能なクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクレーンの一態様は、
走行用モータを有する走行体と、
走行体の上方に設けられ、上部デバイスを有する旋回体と、
走行体と旋回体との間に設けられた伝達部材と、
走行体に設けられ、走行用モータ及び上部デバイスの双方に電力を供給する電源と、を備え、
伝達部材は、
走行体から旋回体に供給される流体の流路を構成するスイベルジョイント部と、
走行体から旋回体に伝送される信号の伝送路を構成する弱電系スリップリング部と、
電源から上部デバイスに供給される電力の電路を構成する強電系スリップリング部と、を有する。
上述のクレーンを実施する場合に、好ましくは、弱電系スリップリング部は、スイベルジョイント部、弱電系スリップリング部、及び強電系スリップリング部のうち、最も上側に配置されてよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力により走行可能なクレーンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る移動式クレーンの模式図である。
【
図2】
図2は、移動式クレーンのシステム構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、一部の構成を省略したクレーンの斜視図である。
【
図4】
図4は、左側からモータの周辺を見た状態を示す断面模式図である。
【
図7】
図7は、上方からバッテリー周辺を見た状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るクレーンの実施形態の一例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、後述の実施形態に係るクレーンは、本発明に係るクレーンの一例であり、本発明は後述の実施形態により限定されない。
【0010】
[実施形態]
図1は、本実施形態に係る移動式クレーン1(図示の場合、ラフテレーンクレーン)の模式図である。移動式クレーンは、例えば、オールテレーンクレーン、トラッククレーン、又は積載形トラッククレーン(カーゴクレーンとも称する。)である。但し、本発明に係るクレーンは、種々のクレーンであってよい。
【0011】
移動式クレーン1は、下部走行体2及び上部旋回体3を有する。移動式クレーン1は、強電系バッテリー70(
図2参照)を備えた電動式クレーンである。移動式クレーン1は、強電系バッテリー70から供給される電力に基づいて走行する。つまり、移動式クレーン1は、エンジンを備えていない。
【0012】
又、移動式クレーン1は、強電系バッテリー70から供給される電力に基づいて、走行以外の動作(例えば、クレーン作業、冷房、及び/又は暖房)を実行する。クレーン作業は、例えば、荷物の搬送作業における旋回動作及び/又はウインチの動作である。以下、移動式クレーン1の具体的な構成について説明する。
【0013】
先ず、
図1を参照して、上部旋回体3の構成について説明する。
図1は、移動式クレーン1の模式図である。
【0014】
上部旋回体3は、下部走行体2の上部に設けられており、下部走行体2に対して旋回中心軸αを中心に旋回可能である。上部旋回体3は、旋回台31、伸縮式ブーム32、及びキャブ33を有する。
【0015】
旋回台31は、軸受(不図示)を介して下部走行体2の上部に支持されている。旋回台31は、上部旋回体3に設けられた旋回用アクチュエータ(不図示)が発生する動力に基づいて旋回する。本実施形態の場合、旋回用アクチュエータは、油圧式のモータである。このモータは、作動油の給排に基づいて作動する。作動油は、下部走行体2から供給される。尚、旋回用アクチュエータは、電動モータであってもよい。この場合、旋回用の電動モータは、後述の強電系バッテリー70から供給された電力に基づいて駆動する。
【0016】
伸縮式ブーム32は、旋回台31に支持されており、伸縮可能に組み合わされた複数のブームを有する。伸縮式ブーム32は、起伏用シリンダ34が発生する動力に基づいて、起伏角度を変えることができる(起伏する)。
【0017】
起伏用シリンダ34は、伸縮式の油圧シリンダであって、上部旋回体3に設けられている。起伏用シリンダ34は、作動油の給排に基づいて作動する。尚、作動油は、下部走行体2から供給される。
【0018】
又、伸縮式ブーム32は、伸縮用シリンダ35が発生する動力に基づいて伸縮する。伸縮用シリンダ35は、油圧シリンダであって、伸縮式ブーム32の内部に設けられている。伸縮用シリンダ35は、作動油の給排に基づいて作動する。尚、作動油は、下部走行体2から供給される。
【0019】
又、伸縮式ブーム32は、ワイヤロープ36を支持している。ワイヤロープ36は、伸縮式ブーム32の先端部から垂れ下がっており、先端部にフック37が設けられている。ワイヤロープ36の一部は、ウインチ38に巻かれている。
【0020】
ウインチ38は、ウインチ用アクチュエータ(不図示)が発生する動力に基づいて駆動する(回転する)。本実施形態の場合、ウインチ用アクチュエータは、旋回台31に設けられており、油圧式のモータである。このモータは、作動油の給排に基づいて作動する。作動油は、下部走行体2から供給される。
【0021】
ウインチ38が回転すると、ウインチ38の回転方向に応じて、ワイヤロープ36が巻き上げられる、又は、繰り出される。尚、ウインチ用のモータは、電動モータであってもよい。この場合、ウインチ用の電動モータは、後述の強電系バッテリー70から供給された電力に基づいて駆動する。
【0022】
次に、
図1~
図7を参照して、下部走行体2について説明する。尚、下部走行体2の構造を説明するにあたり、各図に示す直交座標系(X、Y、Z)を使用する。X方向は、下部走行体2の前後方向に一致する。X方向+側は、下部走行体2の前側に一致する。X方向-側は、下部走行体2の後側に一致する。Y方向は、下部走行体2の左右方向に一致する。Y方向+側は、下部走行体2から前方を見た場合の左側に一致する。Y方向-側は、下部走行体2から前方を見た場合の右側に一致する。Z方向は、下部走行体2の上下方向に一致する。Z方向+側は、下部走行体2の上側に一致する。Z方向-側は、下部走行体2の下側に一致する。
【0023】
下部走行体2は、電力により走行可能である。具体的には、下部走行体2は、
図1及び
図3に示すように、フレーム20、ボディ21、前側車軸22、後側車軸23、前側タイヤ24、後側タイヤ25、及びアウトリガ26を有する。
【0024】
フレーム20は、前後方向に延在し、例えば断面形状が矩形の箱状部材であって、下部走行体2の骨格を構成している。フレーム20は、上側板部20a、下側板部20b、左側板部20c、右側板部20d、前側板部20e、及び後側板部20fを有する。
【0025】
又、フレーム20は、フレーム20を上下方向に貫通した貫通孔により構成されたスリップリング配置空間200を有する。スリップリング配置空間200は、フレーム20において、前側車軸22と後側車軸23との間の中央位置に設けられている。
【0026】
又、フレーム20は、フレーム20を上下方向に貫通した貫通孔により構成されたバッテリー収容空間201を有する。バッテリー収容空間201は、フレーム20において、後側車軸23の上方から後端部にわたる位置に設けられている。つまり、バッテリー収容空間201は、フレーム20における後部に設けられていると捉えてよい。フレーム20において、バッテリー収容空間201が形成された部分の横断面形状は、複数の連続した板部により構成された閉断面である。尚、フレーム20の横断面とは、フレーム20をYZ平面で切断した場合の断面を意味する。
【0027】
バッテリー収容空間の位置は、図示の場合に限定されない。バッテリー収容空間は、フレーム20において、前側車軸22の上方から前端部にわたる位置に設けられてもよい。この場合も、バッテリー収容空間は、フレーム20を上下方向に貫通した貫通孔により構成されてよい。
【0028】
フレーム20は、前端部に、一対の前側アウトリガ支持部202を有する。フレーム20は、後端部に、一対の後側アウトリガ支持部203を有する。
【0029】
ボディ21(
図1参照)は、下部走行体2の外形を構成する部材であって、フレーム20に支持されている。
【0030】
前側車軸22は、左右方向に延在する軸部材であって、フレーム20における下側板部20bの前端寄り部分に支持されている。前側車軸22の左右方向における両端部にはそれぞれ、前側タイヤ24が回転可能に支持されている。
【0031】
後側車軸23は、左右方向に延在する軸部材であって、フレーム20における下側板部20bの後端寄り部分に支持されている。後側車軸23の左右方向における両端部にはそれぞれ、後側タイヤ25が回転可能に支持されている。尚、本実施形態の場合、移動式クレーン1は、前側車軸22及び後側車軸23を備えた所謂二軸タイプの移動式クレーンである。但し、移動式クレーンは、3本以上の車軸を備えた所謂多軸タイプの移動式クレーンであってもよい。
【0032】
アウトリガ26は、一対の前側アウトリガ26a及び一対の後側アウトリガ26bを有する。一対の前側アウトリガ26aはそれぞれ、フレーム20における一対の前側アウトリガ支持部202に支持されている。又、一対の後側アウトリガ26bはそれぞれ、フレーム20における一対の後側アウトリガ支持部203に支持されている。
【0033】
又、移動式クレーン1は、下部走行体2と上部旋回体3との間に設けられた伝達部材4を有する。具体的には、伝達部材4は、フレーム20のスリップリング配置空間200に配置されている。このような伝達部材4は、相対的に回転する下部走行体2と上部旋回体3との間で、電力、流体(作動油及び/又は空気)、並びに信号等を伝達するための部材である。
【0034】
伝達部材4は、スイベルジョイント部40、弱電系スリップリング部41、及び強電系スリップリング部42を有する。
【0035】
更に、移動式クレーン1は、
図2に示すように、油圧系システム5、弱電系システム6、及び強電系システム7を有する。以下、油圧系システム5、弱電系システム6、及び強電系システム7と共に伝達部材4の構成について説明する。
【0036】
油圧系システム5は、タンク51、ポンプ52、スイベルジョイント部40、及び油圧デバイス53を含む。油圧系システム5を構成するエレメントは、
図2において太線で示される回路により接続されている。
【0037】
タンク51及びポンプ52は、下部走行体2に設けられている。ポンプ52は、後述の強電系バッテリー70から供給される電力に基づいて作動する電動ポンプである。ポンプ52は、タンク51に貯められた作動油を、油路を介してスイベルジョイント部40に供給する。尚、
図2において、ポンプ52と強電系バッテリー70とを接続する回路は省略されている。
【0038】
スイベルジョイント部40は、
図5に示すように、伝達部材4において、強電系スリップリング部42よりも下方に設けられている。スイベルジョイント部40は、ボルト等の締結部品(不図示)により、強電系スリップリング部42に連結されている。換言すれば、スイベルジョイント部40と強電系スリップリング部42とは、締結部品により、解除可能に連結されている。
【0039】
スイベルジョイント部40の下半部は、スリップリング配置空間200に配置されている。スイベルジョイント部40の上半部は、スリップリング配置空間200よりも上方に配置されている。つまり、スイベルジョイント部40の上端部は、フレーム20の上面(上側板部20a)よりも上方に配置されている。
【0040】
スイベルジョイント部40は、相対的に回転する下部走行体2と上部旋回体3との間で、下部走行体2から上部旋回体3に供給される流体(例えば、作動油及び/又は圧縮空気)の流路を構成している。具体的には、スイベルジョイント部40は、ポンプ52から供給された作動油を、上部旋回体3に設けられた油圧デバイス53に伝達する。
【0041】
本実施形態の場合、油圧デバイス53は、旋回用アクチュエータ(不図示)、起伏用シリンダ34、伸縮用シリンダ35、及びウインチ用アクチュエータ(不図示)を含む。尚、油圧デバイス53で使用された作動油は、スイベルジョイント部40を通り、タンク51に戻る。
【0042】
スイベルジョイント部40は、上下方向に延在する筒状であって、スイベルジョイント部40を上下方向に貫通する貫通孔40aを有する。スイベルジョイント部40は、貫通孔40aの内周面により囲まれた空間により構成された収容部40bを有する。
【0043】
収容部40bには、弱電系システム6を構成する下部弱電系伝送路62及び強電系システム7を構成する下部強電系電路75が配置されている。下部弱電系伝送路62及び下部強電系電路75については、後述する。
【0044】
尚、スイベルジョイント部40は、作動油以外に、例えば、下部走行体2から上部旋回体3に圧縮空気を伝達してもよい。圧縮空気は、例えば、スイベルジョイント部40を介して、上部旋回体3に設けられたブレーキ等のデバイスに伝達される。
【0045】
次に、弱電系システム6について説明する。弱電系システム6は、下部コントローラ60、弱電系スリップリング部41、及び上部コントローラ61を含む。弱電系システム6を構成するエレメントは、
図2において点線で示される回路により接続されている。
【0046】
下部コントローラ60は、例えば、映像信号、センサの検出信号、及び制御信号を、下部弱電系伝送路62を介して弱電系スリップリング部41に送る。制御信号は、制御対象である上部旋回体3に設けられたデバイス(例えば、油圧デバイス53及び上部電動デバイス74)の動作を制御するための信号である。以下、これら各信号を含み、下部コントローラ60から弱電系スリップリング部41に送られる信号をまとめて、下部生成信号と称する。
【0047】
尚、下部コントローラ60は、下部走行体2に設けられたデバイスを動作させるためのコントローラであってもよい。
図2において、下部コントローラ60と、弱電系スリップリング41以外のデバイスとを接続する回路は省略されている。
【0048】
下部弱電系伝送路62は、弱電系の伝送路の一例に該当し、複数の細いケーブルの束により構成された所謂ハーネスにより構成されている。尚、
図6において、下部弱電系伝送路62は、便宜的に一本の太いケーブルにより示されている。
図6に示された太いケーブルは、複数の細いケーブルの束により構成されている。
【0049】
下部弱電系伝送路62は、
図5及び
図6に示すように、スイベルジョイント部40の収容部40bに配置されている。下部弱電系伝送路62は、収容部40b及び強電系スリップリング部42の内部を通り、弱電系スリップリング部41に接続されている。
【0050】
弱電系スリップリング部41は、相対的に回転する下部走行体2と上部旋回体3との間で、下部走行体2から上部旋回体に伝送される信号の伝送路を構成している。弱電系スリップリング部41は、
図5に示すように、伝達部材4において、強電系スリップリング部42よりも上方に設けられている。弱電系スリップリング部41は、ボルト等の締結部品(不図示)により、強電系スリップリング部42に連結されている。換言すれば、弱電系スリップリング部41と強電系スリップリング部42とは、締結部品により、解除可能に連結されている。
【0051】
弱電系スリップリング部41は、所謂スリップリングであって、下部弱電系伝送路62を介して下部コントローラ60から伝達された下部生成信号を、上部コントローラ61に送る。
【0052】
上部コントローラ61は、弱電系スリップリング部41から受け取った下部生成信号を、上部旋回体3に設けられたデバイスの動作を制御する制御デバイスに送る。制御デバイスは、例えば、油圧デバイス53の動作を制御する電磁弁や上部電動デバイス74の動作を制御するコントローラである。
【0053】
尚、弱電系システム6は、下部生成信号以外に、例えば、上部旋回体3に設けられたデバイスの動作に関する情報、及び/又は、当該デバイスに供給する所定の電圧以下の電流を、下部走行体2から上部旋回体3に送ってもよい。
【0054】
次に、強電系システム7について説明する。強電系システム7は、強電系バッテリー70から供給される電力に基づいて、下部走行体2の走行、及び、走行以外の動作(例えば、クレーン作業及び/又は暖房)を実行するためのシステムである。以下、強電系システム7の構成について説明する。
【0055】
強電系システム7は、
図2に示すように主要エレメントとして、強電系バッテリー70、下部ジャンクションボックス71、走行用インバータ72、走行用モータ73、強電系スリップリング部42、及び上部電動デバイス74を有する。強電系システム7を構成するエレメントは、
図2において細い実線で示される回路により接続されている。
【0056】
強電系バッテリー70は、電源部の一例に該当し、
図7に示すように、複数のバッテリー701a、701b、702a、702bを有する。バッテリー701a、701bは、フレーム20のバッテリー収容空間201に配置されている。このように、本実施形態の場合、フレーム20のデッドスペースを有効活用することができるため、強電系バッテリー70をコンパクトに配置できるとともに、強電系バッテリー70の衝撃等による損傷を抑制できる。又、バッテリー702a、702bは、フレーム20の外部、且つ、バッテリー701a、701bの上方に配置されている。
【0057】
下部ジャンクションボックス71は、下部走行体2に設けられており、強電系バッテリー70から供給された電力を、振り分けるためのものである。下部ジャンクションボックス71は、強電系バッテリー70及び走行用インバータ72に接続されている。
【0058】
走行用インバータ72は、下部走行体2に設けられており、走行用モータ73に接続されている。走行用インバータ72は、下部ジャンクションボックス71から受け取った電流を調整して走行用モータ73に送る。
【0059】
走行用モータ73は、
図4に示すように、前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731を有する。前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731は、フレーム20の下方に設けられている。又、前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731は、前側車軸22と後側車軸23との間に設けられている。
【0060】
前側走行用モータ730の出力軸は、前側ドライビングシャフト27aに接続されている。前側ドライビングシャフト27aの前端部は、ギヤ(例えば、減速機)を介して、前側車軸22に接続されている。
【0061】
後側走行用モータ731の出力軸は、後側ドライビングシャフト27bに接続されている。後側ドライビングシャフト27bの後端部は、ギヤ(例えば、減速機)を介して、後側車軸23に接続されている。
【0062】
本実施形態の場合、前側ドライビングシャフト27a及び後側ドライビングシャフト27bの長さに応じて、前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731の前後方向における位置を調整できる。このため、移動式クレーン1全体の重量バランスを、移動式クレーン1の仕様に応じて柔軟に調整できる。
【0063】
前側走行用モータ730と後側走行用モータ731との前後方向における間には、空間28が設けられている。空間28は、伝達部材4の下方に設けられた領域でもある。つまり、前側走行用モータ730と後側走行用モータ731とは、伝達部材4の下方領域を隔てて前後方向に対向配置されている。
【0064】
又、空間28には、伝達部材4に接続された下部弱電系伝送路62及び下部強電系電路75を構成するケーブルが配置されている。このように、空間28に、ケーブルを集約することにより、省スペース化を図っている。尚、本実施形態の場合、前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731に電力を供給するための電源ケーブルは、空間28を通らないように配策されている。
【0065】
又、前側走行用モータ730、後側走行用モータ731、及び伝達部材4のメンテナンスを行う際、メンテナンス作業者は、空間28の下方から前側走行用モータ730、後側走行用モータ731、及び伝達部材4(特に、スイベルジョイント部40)にアクセスすることができる。そして、メンテナンス作業者は、空間28において、メンテナンス作業を行う。この際、前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731の電源ケーブルが空間28に配策されていないため、メンテナンス作業の効率を向上できる。
【0066】
又、前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731はそれぞれ、
図4に示すように、少なくとも一部が、スリップリング配置空間200(
図4において斜格子で示す部分)を下方に延長した領域(
図4において一点鎖線α
1と一点鎖線α
2との間に存在する領域)と重なるように配置されている。
【0067】
以上のような前側走行用モータ730及び後側走行用モータ731は、制御部(不図示)の制御下で、強電系バッテリー70から供給される電力に基づいて駆動する。
【0068】
更に、下部ジャンクションボックス71は、
図2に示すように、下部強電系電路75を介して、伝達部材4の強電系スリップリング部42に接続されている。下部ジャンクションボックス71は、強電系バッテリー70から供給された電力を、下部強電系電路75を介して強電系スリップリング部42に送る。尚、強電系バッテリー70から供給された電力における電圧は、上部電動デバイス74を動作させることが可能な値以上である。
【0069】
下部強電系電路75は、
図5及び
図6に示すように、スイベルジョイント部40の収容部40bに配置されている。下部強電系電路75は、収容部40bを通り、強電系スリップリング部42に接続されている。下部強電系電路75は、複数のケーブルにより構成されている。
【0070】
本実施形態の場合、収容部40bにおいて、下部強電系電路75と下部弱電系伝送路62とが、隣り合って平行に配置されている。このような構成の場合、下部弱電系伝送路62を通る信号が、下部強電系電路75を通る電流に基づくノイズを受ける可能性がある。そこで、下部強電系電路75と下部弱電系伝送路62との間に、シールド部材(不図示)を設けると好ましい。
【0071】
尚、下部強電系電路75は、複数の電路セット(複数の系統)により構成されている。電路セットはそれぞれ、強電系バッテリー70の陽極に接続された1本のケーブル75a及び強電系バッテリー70の負極に接続された1本のケーブル75bにより構成されている。尚、
図6には、2セットの電路セットが示されている。
【0072】
このような構成を採用すれば、下部強電系電路75を、スイベルジョイント部40の収容部40bに効率良く配策できるため、スペースを有効活用できる。この結果、スイベルジョイント部40の内径(つまり、収容部40bの直径)を小さくして、伝達部材4の小型化を図れる。
【0073】
又、下部強電系電路75が複数の電路セット(複数の系統)を有する構成は、フェールセーフの観点からも好ましい。つまり、一つの電路セット(系統)が故障した場合でも、他の電路セット(系統)により上部旋回体3に電力を供給できる。このような構成の場合、一つの電路セット(系統)により上部旋回体3に供給される電力は、少なくとも、上部旋回体3の上部電動デバイス74による退避作業を可能とする電力であると好ましい。退避作業とは、例えば、吊り上げている荷物を地上に降ろす作業である。
【0074】
又、下部強電系電路75は、スイベルジョイント部40の上流側(例えば、下部ジャンクションボックス71)で複数の電路セット(系統)に分割され、強電系スリップリング部42又は上部旋回体3の所定位置において一つの電路(一つの系統)に統合されてもよい。このような構成を採用すれば、スイベルジョイント部40の収容部40bに配置するケーブルの数は増えるが、一本のケーブルを細くすることができるため、収容部40bのスペースを有効活用できる。又、下部強電系電路75は、ケーブルに限らず、所謂バスバーにより構成されてもよい。バスバーの形状は、例えば、スイベルジョイント部40の収容部40bの内面に沿うような円弧状だと好ましい。
【0075】
強電系スリップリング部42は、相対的に回転する下部走行体2と上部旋回体3との間で、強電系バッテリー70から上部電動デバイス74に供給される電力の電路を構成している。換言すれば、強電系スリップリング部42は、下部走行体2の下部強電系電路75から供給された電力を、上部旋回体3の上部強電系電路76に供給する。
【0076】
強電系スリップリング部42は、円盤状給電体の一例に該当し、伝達部材4において、スイベルジョイント部40と弱電系スリップリング部41との間に設けられている。換言すれば、強電系スリップリング部42は、スイベルジョイント部40よりも上方、且つ、下部走行体2よりも上方に配置されている。
図5に示すように、強電系スリップリング部42の外径は、弱電系スリップリング部41の外径及びスイベルジョイント部40の外径よりも大きい。強電系スリップリング部42を下部走行体2よりも上方に配置することにより、強電系スリップリング42の外周にケーブルを配策するためのスペースを確保し易くなる。又、本実施形態の場合、強電系スリップリング部42が円盤状であるため、伝達部材4の上下方向における寸法を短くできる。この結果、伝達部材4の上方に配置された上部旋回体3の上面の位置を低く設定できるため、移動式クレーン1の車両高さを低くできる。よって、道路及び作業現場における、移動式クレーン1の機動性を向上できる。尚、強電系スリップリング42の位置は、本実施形態における強電系スリップリング42の位置に限定されない。強電系スリップリング42は、例えば、下部走行体2の上面よりも下方に配置されてもよい。
【0077】
強電系スリップリング部42は、ボルト等の締結部品(不図示)により、スイベルジョイント部40及び弱電系スリップリング部41に連結されている。換言すれば、強電系スリップリング部42と、スイベルジョイント部40及び弱電系スリップリング部41とは、締結部品により、解除可能に連結されている。
【0078】
上述のように本実施形態の場合、独立した装置であるスイベルジョイント部40、弱電系スリップリング部41、及び強電系スリップリング部42が互いに解除可能に連結されている。このような構成は、ノイズの低減、及び、メンテナンス容易性の向上に寄与する。
【0079】
特に、スイベルジョイント部40、弱電系スリップリング部41、及び強電系スリップリング部42が独立した装置として構成されているため、移動式クレーンの仕様に応じて、スイベルジョイント部40、弱電系スリップリング部41、及び強電系スリップリング部42の並び順を柔軟に変更できる。
【0080】
又、本実施形態のように、弱電系スリップリング部41が、伝達部材4において最も上方に設けられた構成の場合、弱電系スリップリング部41のメンテナンス作業を行う作業者は、高電圧の電流が流れる強電系スリップリング部42に触ることなく、弱電系スリップリング部41のメンテナンス作業を行うことができる。この結果、メンテナンス作業の安全性が向上する。
【0081】
又、弱電系スリップリング部41を伝達部材4における最も上側に配置し、強電系スリップリング部42を伝達部材4における最も下側に配置する構成の場合、下部弱電系伝送路62と下部強電系電路75とが収容部40b内で隣り合って配置される距離が短くなる。この結果、下部強電系電路75と下部弱電系伝送路62との間に作用するノイズの影響を小さくできる。
【0082】
強電系スリップリング部42は、所謂スリップリングであって、下部強電系電路75を介して強電系バッテリー70から伝達された電力を、上部電動デバイス74に送る。
【0083】
上部電動デバイス74は、上部デバイスの一例に該当し、上部旋回体3に設けられ、強電系バッテリー70の電力に基づいて作動するデバイスである。上部電動デバイス74は、例えば、上部旋回体3に設けられた暖房用のコンプレッサである。尚、旋回用アクチュエータが電動モータの場合、旋回用の電動モータは、上部デバイスの一例に該当する。又、ウインチ用アクチュエータが電動モータの場合、ウインチ用の電動モータは、上部デバイスの一例に該当する。この場合、強電系スリップリング部42と、旋回用の電動モータ及びウインチ用の電動モータとが、上部ジャンクションボックス(不図示)を介して接続される。このような上部ジャンクションボックスは、強電系スリップリング部42を介して供給された強電系バッテリー70の電力を、旋回用の電動モータ及びウインチ用の電動モータに割り振る機能を有する。
【0084】
旋回用の電動モータは、強電系バッテリー70の電力が供給されると、当該電力に基づいて駆動する。そして、旋回用の電動モータは、上部旋回体3を旋回させる。
【0085】
又、ウインチ用の電動モータは、強電系バッテリー70の電力が供給されると、当該電力に基づいて駆動する。そして、ウインチ用の電動モータは、ウインチ(不図示)を回転させる。この結果、ワイヤロープ36が巻き上げられる又は繰り出されて、フック37が上昇又は降下する。
【0086】
<付記>
エンジンを有する従来構造の移動式クレーンの場合、上部旋回体3の暖房で使用される温水を、下部走行体2においてエンジンの排熱を利用して生成していた。そして、下部走行体2で生成された温水は、スイベルジョイント部の収容部に配策されたホースを介して上部旋回体3に送られる。一方、本実施形態の移動式クレーン1の場合、エンジンを備えていない。このため、上部旋回体3の暖房で使用する温水を、下部走行体2で生成していない。よって、上述の伝達部材4におけるスイベルジョイント部40は、下部走行体2から上部旋回体3に温水を伝達する機能を具備していない。よって、スイベルジョイント部40の収容部40bには、温水が通るホースを配策する必要がない。本実施形態の場合、スイベルジョイント部40の収容部40bには、当該ホースの代わりに、既述の下部強電系電路75が配置されている。
【0087】
<本実施形態の作用・効果>
以上のような構成を有する本実施形態によれば、強電系バッテリー70の電力に基づいて走行可能な移動式クレーン1を実現できる。特に、本実施形態の場合、相対的に回転する下部走行体2と上部旋回体3との間に上述のような構成を有する伝達部材4を設けているため、強電系バッテリー70の電力を上部旋回体3に設けられた上部電動デバイス74に効率よく供給することができる。その他、本実施形態に係る移動式クレーン1が奏する作用・効果は、上述の通りである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るクレーンは、ラフテレーンクレーンに限らず、例えば、オールテレーンクレーン、トラッククレーン、或いは積載形トラッククレーン(カーゴクレーンともいう。)等の各種の移動式クレーンであってよい。
【符号の説明】
【0089】
1 移動式クレーン
2 下部走行体
20 フレーム
20a 上側板部
20b 下側板部
20c 左側板部
20d 右側板部
20e 前側板部
20f 後側板部
200 スリップリング配置空間
201 バッテリー収容空間
202 前側アウトリガ支持部
203 後側アウトリガ支持部
21 ボディ
22 前側車軸
23 後側車軸
24 前側タイヤ
25 後側タイヤ
26 アウトリガ
26a 前側アウトリガ
26b 後側アウトリガ
27a 前側ドライビングシャフト
27b 後側ドライビングシャフト
28 空間
3 上部旋回体
31 旋回台
32 伸縮式ブーム
33 キャブ
34 起伏用シリンダ
35 伸縮用シリンダ
36 ワイヤロープ
37 フック
38 ウインチ
4 伝達部材
40 スイベルジョイント部
40a 貫通孔
40b 収容部
41 弱電系スリップリング部
42 強電系スリップリング部
5 油圧系システム
51 タンク
52 ポンプ
53 油圧デバイス
6 弱電系システム
60 下部コントローラ
61 上部コントローラ
62 下部弱電系伝送路
7 強電系システム
70 強電系バッテリー
701a、701b 第一バッテリー
702a、702b 第二バッテリー
71 下部ジャンクションボックス
72 走行用インバータ
73 走行用モータ
730 前側走行用モータ
731 後側走行用モータ
74 上部電動デバイス
75 下部強電系電路
75a、75b ケーブル
76 上部強電系電路