(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】消火材及び消火材パッケージ
(51)【国際特許分類】
A62D 1/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
A62D1/00
(21)【出願番号】P 2022113810
(22)【出願日】2022-07-15
【審査請求日】2023-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-137445(JP,A)
【文献】特開2021-118847(JP,A)
【文献】特開2021-147942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0034482(US,A1)
【文献】特開2004-321272(JP,A)
【文献】特開2018-069602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/00-9/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、
前記消火剤が潮解性を有する有機
カリウム塩を含み、
前記有機カリウム塩の平均粒子径D50が1~100μmであり、
前記消火剤層が、前記消火剤及び前記バインダ樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含み、
前記消火剤層の表面における算術平均粗さRaが1.3μm以下である、消火材。
【請求項2】
前記消火剤層が、前記消火剤及び前記バインダ樹脂の全量を基準として、前記消火剤を
85~92質量%含む、請求項1に記載の消火材。
【請求項3】
前記有機カリウム塩がクエン酸カリウムである、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項4】
前記
有機カリウム塩の平均粒子径D50が
3~40μmである、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項5】
前記バインダ樹脂がポリビニルアセタール系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項6】
前記消火剤層の厚さが80~600μmである、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項7】
前記消火剤層が配置された樹脂基材を更に備える、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の消火材と、前記消火材を封入する包装袋を備える、消火材パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火材及び消火材パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
発火や火災の問題に対し、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、ヘリコプターから投下する自動消火装置が提案されている。特許文献3では、エアロゾル消火装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-276440号公報
【文献】特開2015-6302号公報
【文献】特開2017-080023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業、すなわち初期消火が行われることが望ましい。そこで、例えば先行技術に開示される消火剤成分(有機塩や無機塩)を含む消火材を、発火する虞のある対象物付近に予め存在させておくという方法が考えられる。そうすることで、対象物から発火したことを人間が感知する以前に、当該消火材により消火が完了することが期待される。
【0005】
ところで、消火剤成分をバインダ等と混合して適切な形状に加工することで、上記目的に適う固形の消火材を得ることができる。しかしながらそのような消火材は、消火剤成分の性状安定性の観点においてさらなる改良の余地がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、消火剤の性状安定性に優れる消火材を提供することを目的とする。また、本発明は、当該消火材を封入した消火材パッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、消火剤が潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、消火剤層の表面における算術平均粗さRaが1.3μm以下である、消火材を提供する。
このような消火材は消火剤の性状安定性に優れるため、経時後においても初期消火を適切に実施することができる。このことにつき発明者らは、消火剤層表面の粗さを抑えて消火剤と大気との接触面積を低減することで、消火剤の劣化が抑制されるためであると推察している。
【0008】
一態様において、消火剤層が、消火剤及びバインダ樹脂の全量を基準として、消火剤を70~97質量%含んでよい。
【0009】
一態様において、塩がカリウム塩を含んでよい。
【0010】
一態様において、塩の平均粒子径D50が1~100μmであってよい。
【0011】
一態様において、バインダ樹脂がポリビニルアセタール系樹脂を含んでよい。
【0012】
一態様において、消火剤層の厚さが80~600μmであってよい。
【0013】
一態様において、消火材は、消火剤層が配置された樹脂基材を更に備えてよい。
【0014】
本発明の一側面は、上記消火材と、消火材を封入する包装袋を備える、消火材パッケージを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消火剤の性状安定性に優れる消火材を提供することができる。また、本発明によれば、当該消火材を封入した消火材パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る消火材の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
<消火材>
図1は、一実施形態に係る消火材の模式断面図である。消火材10は、消火剤層1と、消火剤層1が配置される樹脂基材2と、を備える。消火材10は、樹脂基材2と、樹脂基材2上に配置された消火剤層1と、を備えるということができる。
【0019】
消火材を所望の位置に設置する観点から、消火材は更に接着層や粘着層を備えていてもよい。接着層や粘着層は、消火剤層側に設けられていてもよく、樹脂基材側に設けられていてもよい。
【0020】
(消火剤層)
消火剤層は、消火剤及びバインダ樹脂を含む。
消火剤としては、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、消火対象に応じて適宜用いることができる。消火剤は、一般に消火性能を有する、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む。
【0021】
消火剤として機能する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。負触媒効果に対する有用性の観点から、有機塩としてカリウム塩を好適に用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち特に燃焼の負触媒効果の反応効率の観点から、クエン酸カリウムを用いることができる。
【0022】
消火剤として機能する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。負触媒効果に対する有用性の観点から、無機塩としてカリウム塩を好適に用いることができる。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち特に燃焼の負触媒効果の反応効率の観点から、炭酸水素カリウムを用いることができる。
【0023】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
塩は粒状であってよい。塩の平均粒子径D50は1~100μmとすることができ、また3~40μmであってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで塗液中で分散し易い。平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液中での安定性が向上して塗膜の平滑性が向上する傾向があり、また消火剤層表面における所望の算術平均粗さを実現し易い。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0025】
消火剤の量は、消火剤及びバインダ樹脂の全量(消火剤層の全量であってもよい)を基準として、70~97質量%とすることができ、85~92質量%であってもよい。消火剤の量が上記上限以下であることで、塩の潮解を抑制し易くかつ均一な消火材を形成し易く、また消火剤の量が上記下限以上であることで、充分な消火性を維持し易い。
【0026】
消火剤は、上述した塩以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば塩の反応性を向上するための酸化剤が挙げられ、具体的には塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等が挙げられる。なかでも、塩素酸カリウムを用いることが好ましい。
【0027】
他の成分としては、その他、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、柔軟性付与剤、触媒等が挙げられる。
【0028】
これらの他の成分は、塩の種類及びバインダ樹脂の種類により適宜選択することができる。消火剤に含まれる他の成分の量は、消火剤の全量を基準として40質量%以下とすることができ、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0029】
バインダ樹脂は、樹脂として熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の少なくともいずれかを含む。
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルエーテル(PMVE)-無水マレイン樹脂、等が挙げられる。
【0030】
上記樹脂のうち、塗膜形成性の観点から、ポリビニルアセタール系樹脂を好適に用いることができる。ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)等が挙げられる。
【0031】
バインダ樹脂は、上述した樹脂(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては硬化剤が挙げられ、その他、性状安定性の観点から、界面活性剤、シランカップリング剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。
【0032】
これらの他の成分は、樹脂の種類により適宜選択することができる。バインダ樹脂に含まれる他の成分の量は、バインダ樹脂の全量を基準として70質量%以下とすることができ、30質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0033】
消火剤層の厚さは80~600μmとすることができ、150~300μmであってもよい。厚さが上記下限値以上であることで、消火性能を発揮し易く、上記上限値以下であることで、塗膜を形成し易く、耐屈曲性が良い。
【0034】
消火剤層の主面の面積は、その用途に応じ調整されるため特に制限されないが、側面の面積に対し充分に広く設定される。主面の面積は、例えば10~624cm2とすることができる。
【0035】
消火剤層の表面における算術平均粗さRaは1.3μm以下であり、1.1μm以下であってもよく、1.0μm以下であってもよく、0.9μm以下であってもよく、0.7μm以下であってもよい。Raが1.3μm以下であることで、消火剤層表面の粗さを抑えて消火剤と大気との接触面積を低減することができる。これにより、主に消火剤の潮解による消火剤層の劣化を抑制することができ、すなわち経時後においても初期消火を適切に実施することができる。Raの下限は特に制限されないが、フィルム搬送のし易さの観点から0.1μm以上とすることができる。
【0036】
算術平均粗さRaはJIS B 0601 、JIS B 0031に準拠して測定される値である。Raは、消火剤層の表面(すなわち消火剤層の主面あるいは消火剤層の積層方向に垂直な面とも言う)に対し、接触式表面粗さ計(ミツトヨ製、型番:SJ-210)等の装置を用いて測定される。消火剤層の表面の異なる5点についてRaの測定を行い、その平均を消火剤層のRaとする。
【0037】
消火剤層の表面とは、消火剤層の主面(あるいは消火剤層の積層方向に垂直な面ともいう)である。消火剤の潮解は消火剤層の大気への露出面から徐々に進行する。この潮解は、大気との接触面が小さい消火剤層の側面に比して、大気との接触面が大きい消火剤層の主面からより進行し易い。そのため、消火剤層の主面におけるRaを適切に管理することで、消火剤の潮解を抑制し、性状安定性に優れる消火材を得ることができる。
【0038】
消火材が消火剤層を単独で備える場合であって、消火剤層が第一の面(表(おもて)面)及び第二の面(裏面)を有するときは、第一の面及び第二の面におけるRaを1.3μm以下とすればよい。
消火材が樹脂基材と、樹脂基材上に配置された消火剤層と、を備える場合は、少なくとも消火剤層の樹脂基材とは反対側の表面におけるRaを1.3μm以下とすればよい。消火剤層の樹脂基材側の表面は樹脂基材により保護されている(大気への露出面となっていない)が、消火剤層の樹脂基材側の表面におけるRaも1.3μm以下であることが好ましい。
【0039】
(樹脂基材)
樹脂基材を構成する樹脂としては、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。樹脂基材側が炎に対向するよう消火材が設置されていた場合でも、これらの樹脂であれば炎の熱(一般的に700~900℃程度)により融解し、消火剤層を露出させ易い。また、これら透明性のある材質を選択することで、消火剤層の外観検査や、消火剤層の交換時期の確認がし易くなる。樹脂基材には、上記消火剤が含まれていてもよい。
【0040】
水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂基材には水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。蒸着層は、樹脂基材の一面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0041】
樹脂基材の厚さは、想定される出火時の熱量、衝撃、許容される設置スペース等に応じて適宜調整することができる。例えば、厚い基材であれば消火材としての強度や剛性が得られ易く、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば狭いスペースに消火材を設けることができ、また炎により熱せられた際に短時間で融解するため初期消火性が向上する。樹脂基材の厚さは、例えば4.5~100μmとすることができ、12~50μmであってよい。樹脂基材は複数の樹脂の層を備える積層体であってもよい。
【0042】
<消火材の製造方法>
消火材は、消火剤層形成用組成物を用いて形成することができる。消火剤層形成用組成物は、消火剤、バインダ樹脂及び液状媒体を含む。消火材の製造方法を以下に例示する。
【0043】
消火剤及びバインダ樹脂を液状媒体と混合して消火剤層形成用組成物を調製する。液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。有機塩及び無機塩が潮解性を有する観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノールであってもよい。
【0044】
消火剤及びバインダ樹脂の量は、消火剤層におけるそれらの量が上記所望の量となるように調整すればよい。液状媒体の量は、消火剤層形成用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火剤層形成用組成物の全量を基準として30~70質量%とすることができる。液状媒体を含む消火剤層形成用組成物を、消火剤層形成用塗液ということができる。
【0045】
消火材は、樹脂基材上に消火剤層形成用塗液を塗布し、これを乾燥することにより消火剤層を形成することで製造することができる。上述のとおり、消火剤層の大気への露出面においては、Raを適切に管理する必要があるが、塗布法により消火剤層を形成することで、消火剤層の表(おもて)面・裏面共に、適切なRaを実現し易い。これは、層形成時に強い外圧が掛からない塗布法ならではの利点であり、例えばプレス成型等の成型法では得られ難いものと推察している。
【0046】
塗布厚さは、消火剤層を加圧することも考慮し、所望の厚さの消火剤層が得られるよう適宜調整すればよい。
消火剤層のみを樹脂基材から剥がして消火材として用いてもよく、その場合樹脂基材上には離型処理が施されていることが好ましい。
【0047】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法等が挙げられる。
【0048】
消火材の製造方法は、消火剤層を加圧することをさらに備えていてもよい。これによりRaをより低減し易くなる。所望のRaを得易い観点から、加圧条件は0.2MPa以上とすることができ、2.0MPa以上であってもよい。加圧条件の上限は、塗膜の柔軟性の観点から2.5MPa以下とすることができる。
【0049】
<消火材パッケージ>
消火材パッケージは、上記の消火材と、消火材を封入する包装袋を備える。消火材を包装袋に封入することで消火剤層の性状安定性をより向上することができ、消火材の優れた消火性能を維持し易い。消火材は、包装袋内に減圧して封入されてもよい。
【0050】
包装袋は、例えば2枚の樹脂フィルムの4辺をヒートシールすることにより形成することができる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。これらの樹脂であれば炎の熱(一般的に700~900℃程度)により融解し、内部の消火材を露出させ易い。また、これら透明性のある材質を選択することで、消火材の外観検査や、交換時期の確認がし易くなる。樹脂フィルムには、上記消火剤が含まれていてもよい。
【0051】
樹脂フィルムの水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10.0g/(m2・day)以下とすることができ、1.0g/(m2・day)以下であってよい。
【0052】
水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂フィルムには水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。蒸着層は、樹脂フィルムの一面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0053】
消火材及び消火材パッケージは、発火する虞のある対象物或いはその近辺に設置することができる。設置方法としては貼付や載置、同梱等が挙げられる。発火する虞のあるものとしては、例えば、電線、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池回収用箱、ごみ箱、自動車関連部材、コンセント、コンセントカバーなどの各部材が挙げられる。
例えば、消火材又は消火材パッケージが設置された装置では、装置における発火に対し自動的に初期消火が行われるため、そのような装置を自動消火機能を有する装置ということができる。
【0054】
<本実施形態の概要>
[発明1]
消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、
前記消火剤が潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記消火剤層の表面における算術平均粗さRaが1.3μm以下である、消火材。
[発明2]
前記消火剤層が、前記消火剤及び前記バインダ樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、発明1に記載の消火材。
[発明3]
前記塩がカリウム塩を含む、発明1又は2に記載の消火材。
[発明4]
前記塩の平均粒子径D50が1~100μmである、発明1~3のいずれか一に記載の消火材。
[発明5]
前記バインダ樹脂がポリビニルアセタール系樹脂を含む、発明1~4のいずれか一に記載の消火材。
[発明6]
前記消火剤層の厚さが80~600μmである、発明1~5のいずれか一に記載の消火材。
[発明7]
前記消火剤層が配置された樹脂基材を更に備える、発明1~6のいずれか一に記載の消火材。
[発明8]
発明1~7のいずれか一に記載の消火材と、前記消火材を封入する包装袋を備える、消火材パッケージ。
【実施例】
【0055】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
塩素酸カリウム(KClO3)とクエン酸三カリウムとを、メノウ乳鉢にて平均粒子径D50が12μm以下となるように粉砕した。クエン酸三カリウムは潮解性を有する塩である。これを87質量部準備し、ポリビニルブチラール樹脂(大日精化工業株式会社製)9質量部及びシランカップリング剤(X―12―1287A、信越化学工業株式会社製)4質量部と共に、エタノール148質量部及びイソプロピルアルコール7質量部を含む液状媒体に添加して混合することで、消火剤層形成用組成物を調製した。
【0057】
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(商品名:E7002、東洋紡株式会社製、厚さ50μm)の一方の面に、消火剤層形成用組成物をアプリケータを用いて乾燥後の消火剤層厚さが150μmとなるように塗布し、75℃で7分間乾燥することにより、消火材を形成した。
【0058】
(実施例2)
実施例1で得られた消火材の消火剤層に、金属製の平板を0.4MPaの条件で押し当て、消火材を作製した。
【0059】
(比較例1)
実施例1で得られた消火材の消火剤層に、ナイロンメッシュ(目開き85μm)を0.4MPaの条件で押し当て、消火材を作製した。
【0060】
(比較例2)
ポリビニルブチラール樹脂に代えてアクリル樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして消火材を得た。この消火材の消火剤層に、ナイロンメッシュ(目開き250μm)を0.4MPaの条件で押し当て、消火材を作製した。
【0061】
(比較例3)
実施例1で得られた消火材の消火剤層に、ナイロンメッシュ(目開き250μm)を0.4MPaの条件で押し当て、消火材を作製した。
【0062】
(比較例4)
実施例1で得られた消火材の消火剤層に、ナイロンメッシュ(目開き250μm)を2.0MPaの条件で押し当て、消火材を作製した。
【0063】
(比較例5)
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(商品名:S10、東レ株式会社製)の一方の面に、実施例1で調製した消火剤層形成用組成物を、スプレーを用いて乾燥後の消火剤層厚さが150μmとなるように塗布し、75℃で7分間乾燥することにより、消火材を形成した。
【0064】
<各種評価>
各例で得られた消火材について、以下のとおり評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(算術平均粗さRaの測定)
各例で得られた消火材の消火剤層の表面(PET基材とは反対の表面)の算術平均粗さRaを、JIS B 0601 、JIS B 0031に準拠して、接触式表面粗さ計(ミツトヨ製、型番:SJ-210)を用いて測定した。消火剤層の表面の異なる5点についてRaの測定を行い、その平均を消火剤層のRaとした。
【0066】
(消火剤の性状安定性)
シーラント層(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層(シリカ蒸着層を有するPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルム(水蒸気透過率は0.2~0.6g/(m2・day)、JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を準備した。このバリアフィルムを2枚用いて、各例で得られた消火材(50mm×50mm)を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで、消火材を封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。これを評価サンプルとした。
【0067】
85℃/85%RH条件下で評価サンプルを10時間静置保管し、保管前後の消火材の全光線透過率から全光線透過率変化率を算出した。全光線透過率の測定にはヘイズメーターBYK-Gardner Haze-Guard Plus(BYK社製)を用いた。
測定は、光源から積分球に入る光が消火材を通過するように消火材を固定した状態で行った。
全光線透過率変化率(%)=(保管後の全光線透過率-保管前の全光線透過率)/保管前の全光線透過率×100
-評価基準-
A:全光線透過率変化率が30%未満であった。
B:全光線透過率変化率が30~50%であった。
C:全光線透過率変化率が50%超であった。
【0068】
【符号の説明】
【0069】
1…消火剤層、2…樹脂基材、10…消火材。