(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/76 20060101AFI20240305BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240305BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240305BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240305BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240305BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240305BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240305BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01L29/78 652R
H01L29/78 652T
H01L29/78 652Q
H01L29/78 657D
H01L29/78 652M
H01L29/78 655G
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 655F
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652D
H01L29/78 652P
H01L29/78 658H
H01L29/91 D
H01L29/91 F
H01L29/91 J
H01L29/91 L
(21)【出願番号】P 2022518108
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021016926
(87)【国際公開番号】W WO2021221092
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2020081020
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇一
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145613(JP,A)
【文献】特開2019-161125(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/76
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 29/06
H01L 21/336
H01L 29/861
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に設けられ、前記半導体基板のおもて面側に第1導電型のエミッタ領域を有し、前記半導体基板の裏面側に第2導電型のコレクタ領域を有するトランジスタ部と、
前記半導体基板に設けられ、前記半導体基板の裏面側に第1導電型のカソード領域を有するダイオード部と、
前記半導体基板のおもて面と平行な面において、予め定められた延伸方向に延伸して設けられた複数のトレンチ部と、
前記半導体基板の上方に設けられ、前記半導体基板のおもて面と電気的に接続されるエミッタ電極と
を備え、
前記エミッタ電極と前記半導体基板のおもて面とを電気的に接続するためのコンタクトホールの前記延伸方向における端部E1から前記半導体基板の裏面に向かう直線を第1垂線とし、
前記第1垂線に対して予め定められた角度θ1を成すとともに前記コンタクトホールの前記延伸方向における前記端部E1を通る直線を第1直線とし、
前記第1直線が前記半導体基板の裏面と交わる位置を位置M1とし、
前記位置M1は、前記延伸方向において前記カソード領域の外側に位置し、
前記角度θ1は、20°以上、80°以下であり、
前記半導体基板のおもて面側におもて面側ライフタイム低減領域が設けられ、
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における端部E2は、前記コンタクトホールの前記延伸方向における前記端部E1よりも、前記カソード領域側に位置
し、
前記半導体基板のおもて面において、前記トランジスタ部における前記複数のトレンチ部の延伸方向と、前記ダイオード部における前記複数のトレンチ部の延伸方向が等しい
半導体装置。
【請求項2】
前記角度θ1は30°以上、60°以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における前記端部E2は、前記カソード領域の外側に位置する
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における前記端部E2は、前記第1直線よりも前記カソード領域側に位置する
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における端部E2は、前記位置M1と前記カソード領域との間に設けられる
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における前記端部E2は、前記延伸方向において、前記位置M1と、前記コンタクトホールの前記延伸方向における前記端部E1との間に設けられる
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における前記端部E2から前記半導体基板の裏面に向かう直線を第2垂線とし、
前記第2垂線に対して予め定められた角度θ2を成すとともに前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記延伸方向における前記端部E2を通る直線を第2直線とし、
前記第2直線が前記半導体基板の裏面と交わる位置を位置N2とし、
前記位置N2は、前記延伸方向において前記カソード領域の外側に位置し、
前記角度θ2は、20°以上、80°以下である
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
半導体基板に設けられ、前記半導体基板のおもて面側に第1導電型のエミッタ領域を有し、前記半導体基板の裏面側に第2導電型のコレクタ領域を有するトランジスタ部と、
前記半導体基板に設けられ、前記半導体基板の裏面側に第1導電型のカソード領域を有するダイオード部と、
前記半導体基板のおもて面と平行な面において、予め定められた配列方向に配列して設けられた複数のトレンチ部と
前記半導体基板の上方に設けられ、前記半導体基板のおもて面と電気的に接続されるエミッタ電極と、
を備え、
前記ダイオード部における前記複数のトレンチ部の延伸方向と同一の延伸方向に延伸して設けられた複数のトレンチ部を有する前記トランジスタ部において、前記エミッタ電極と前記エミッタ領域とを電気的に接続するためのコンタクトホールの前記配列方向における端部E3から前記半導体基板の裏面に向かう直線を第3垂線とし、
前記第3垂線に対して予め定められた角度θ3を成すとともに前記コンタクトホールの前記配列方向における前記端部E3を通る直線を第3直線とし、
前記第3直線が前記半導体基板の裏面と交わる位置を位置M3とし、
前記位置M3は、前記配列方向において前記カソード領域の外側に位置し、
前記角度θ3は、20°以上、80°以下である
半導体装置。
【請求項9】
前記角度θ3は30°以上、60°以下である
請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記半導体基板のおもて面側におもて面側ライフタイム低減領域が設けられ、
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記配列方向における端部E4は、前記コンタクトホールの前記配列方向における前記端部E3よりも、前記カソード領域側に位置する
請求項8または9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記配列方向における前記端部E4は、前記カソード領域の外側に位置する
請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記配列方向における前記端部E4は、前記第3直線よりも前記カソード領域側に位置する
請求項10または11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記配列方向における前記端部E4から前記半導体基板の裏面に向かう直線を第4垂線とし、
前記第4垂線に対して予め定められた角度θ4を成すとともに前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記配列方向における前記端部E4を通る直線を第4直線とし、
前記第4直線が前記半導体基板の裏面と交わる位置を位置N4とし、
前記位置N4は、前記配列方向において前記カソード領域の外側に位置し、
前記角度θ4は、20°以上、80°以下である
請求項10から12のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記配列方向における前記端部E4は、前記位置M3と前記カソード領域との間に設けられる
請求項10から13のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記配列方向において、前記位置M3は、前記おもて面側ライフタイム低減領域の前記端部E4よりも前記トランジスタ部側に設けられる
請求項10から14のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記トランジスタ部は、前記半導体基板のおもて面から前記エミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位が印加される1つ以上のゲートトレンチ部を有する
請求項1から15のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記トランジスタ部は、前記半導体基板のおもて面から前記エミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位とは異なる電位が印加される1つ以上のダミートレンチ部を有する
請求項1から16のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記ダイオード部は、前記半導体基板のおもて面から前記エミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位とは異なる電位が印加される1つ以上のダミートレンチ部を有する
請求項1から17のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記半導体基板において前記トランジスタ部および前記ダイオード部の間に設けられ、前記半導体基板のおもて面側に前記エミッタ領域を有さず、前記半導体基板の裏面側に前記コレクタ領域を有する境界部を備える
請求項1から18のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記境界部は、前記半導体基板のおもて面から前記エミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位とは異なる電位が印加される1つ以上のダミートレンチ部を有する
請求項19に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記トランジスタ部のメサ部であって、前記エミッタ領域を備え、かつ前記境界部に最も近いメサ部は、ダミートレンチ部に挟まれている
請求項19または20に記載の半導体装置。
【請求項22】
前記半導体基板のおもて面と前記エミッタ電極との間に設けられた層間絶縁膜を備え、
前記層間絶縁膜には、前記半導体基板のおもて面と前記エミッタ電極とを電気的に接続するために開口されたコンタクトホールが設けられている
請求項1から21のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項23】
前記角度θ1は45°以下である
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等のトランジスタ部と、ダイオード部とを同一基板に形成した半導体装置が知られている(例えば、特許文献1または2参照)。
特許文献1 特開2015-185742号公報
特許文献2 国際公開第2018/110703号
【解決しようとする課題】
【0003】
半導体装置の耐量を向上することが好ましい。
【一般的開示】
【0004】
本発明の第1の態様においては、半導体基板に設けられ、半導体基板のおもて面側に第1導電型のエミッタ領域を有し、半導体基板の裏面側に第2導電型のコレクタ領域を有するトランジスタ部と、半導体基板に設けられ、半導体基板の裏面側に第1導電型のカソード領域を有するダイオード部と、半導体基板のおもて面と平行な面において、予め定められた延伸方向に延伸して設けられた複数のトレンチ部と、半導体基板の上方に設けられ、半導体基板のおもて面と電気的に接続されるエミッタ電極とを備え、エミッタ電極と半導体基板のおもて面とを電気的に接続するためのコンタクトホールの延伸方向における端部E1から半導体基板の裏面に向かう直線を第1垂線とし、第1垂線に対して予め定められた角度θ1を成すとともにコンタクトホールの延伸方向における端部E1を通る直線を第1直線とし、第1直線が半導体基板の裏面と交わる位置を位置M1とし、位置M1は、延伸方向においてカソード領域の外側に位置し、角度θ1は、20°以上、80°以下である半導体装置を提供する。
【0005】
角度θ1は30°以上、60°以下であってよい。
【0006】
半導体装置は、半導体基板のおもて面側におもて面側ライフタイム低減領域が設けられてよい。おもて面側ライフタイム低減領域の延伸方向における端部E2は、コンタクトホールの延伸方向における端部E1よりも、カソード領域側に位置してよい。
【0007】
おもて面側ライフタイム低減領域の延伸方向における端部E2は、カソード領域の外側に位置してよい。
【0008】
おもて面側ライフタイム低減領域の延伸方向における端部E2は、第1直線よりもカソード領域側に位置してよい。
【0009】
おもて面側ライフタイム低減領域の延伸方向における端部E2は、延伸方向において、位置M1と、コンタクトホールの延伸方向における端部E1との間に設けられてよい。
【0010】
おもて面側ライフタイム低減領域の延伸方向における端部E2から半導体基板の裏面に向かう直線を第2垂線とし、第2垂線に対して予め定められた角度θ2を成すとともにおもて面側ライフタイム低減領域の延伸方向における端部E2を通る直線を第2直線とし、第2直線が半導体基板の裏面と交わる位置を位置N2とし、位置N2は、延伸方向においてカソード領域の外側に位置し、角度θ2は、20°以上、80°以下であってよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、半導体基板に設けられ、半導体基板のおもて面側に第1導電型のエミッタ領域を有し、半導体基板の裏面側に第2導電型のコレクタ領域を有するトランジスタ部と、半導体基板に設けられ、半導体基板の裏面側に第1導電型のカソード領域を有するダイオード部と、半導体基板のおもて面と平行な面において、予め定められた配列方向に配列して設けられた複数のトレンチ部と半導体基板の上方に設けられ、半導体基板のおもて面と電気的に接続されるエミッタ電極と、を備え、エミッタ電極とエミッタ領域とを電気的に接続するためのコンタクトホールの配列方向における端部E3から半導体基板の裏面に向かう直線を第3垂線とし、第3垂線に対して予め定められた角度θ3を成すとともにコンタクトホールの配列方向における端部E3を通る直線を第3直線とし、第3直線が半導体基板の裏面と交わる位置を位置M3とし、位置M3は、配列方向においてカソード領域の外側に位置し、角度θ3は、20°以上、80°以下である半導体装置を提供する。
【0012】
角度θ3は30°以上、60°以下であってよい。
【0013】
半導体装置は、半導体基板のおもて面側におもて面側ライフタイム低減領域が設けられてよい。おもて面側ライフタイム低減領域の配列方向における端部E4は、コンタクトホールの配列方向における端部E3よりも、カソード領域側に位置してよい。
【0014】
おもて面側ライフタイム低減領域の配列方向における端部E4は、カソード領域の外側に位置してよい。
【0015】
おもて面側ライフタイム低減領域の配列方向における端部E4は、第3直線よりもカソード領域側に位置してよい。
【0016】
おもて面側ライフタイム低減領域の配列方向における端部E4から半導体基板の裏面に向かう直線を第4垂線とし、第4垂線に対して予め定められた角度θ4を成すとともにおもて面側ライフタイム低減領域の配列方向における端部E4を通る直線を第4直線とし、第4直線が半導体基板の裏面と交わる位置を位置N4とし、位置N4は、配列方向においてカソード領域の外側に位置し、角度θ4は、20°以上、80°以下であってよい。
【0017】
トランジスタ部は、半導体基板のおもて面からエミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位が印加される1つ以上のゲートトレンチ部を有してよい。
【0018】
トランジスタ部は、半導体基板のおもて面からエミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位とは異なる電位が印加される1つ以上のダミートレンチ部を有してよい。
【0019】
ダイオード部は、半導体基板のおもて面からエミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位とは異なる電位が印加される1つ以上のダミートレンチ部を有してよい。
【0020】
半導体基板においてトランジスタ部およびダイオード部の間に設けられ、半導体基板のおもて面側にエミッタ領域を有さず、半導体基板の裏面側にコレクタ領域を有する境界部を備えてよい。
【0021】
境界部は、半導体基板のおもて面からエミッタ領域よりも深い位置まで設けられ、ゲート電位とは異なる電位が印加される1つ以上のダミートレンチ部を有してよい。
【0022】
トランジスタ部のメサ部であって、エミッタ領域を備え、かつ境界部に最も近いメサ部は、ダミートレンチ部に挟まれていてよい。
【0023】
半導体装置は、半導体基板のおもて面とエミッタ電極との間に設けられた層間絶縁膜を備えてよい。層間絶縁膜には、半導体基板のおもて面とエミッタ電極とを電気的に接続するために開口されたコンタクトホールが設けられていてよい。
【0024】
上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一つの実施形態に係る半導体装置100のおもて面の構造を示す図である。
【
図2A】
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。
【
図2B】
図2Aに示した半導体装置100のa-a'断面の一例を示す図である。
【
図2C】
図2Aに示した半導体装置100のb-b'断面の一例を示す図である。
【
図3A】
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。
【
図3B】
図3Aに示した半導体装置100のc-c'断面の一例を示す図である。
【
図4A】
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。
【
図4B】
図4Aに示した半導体装置100のd-d'断面の一例を示す図である。
【
図5A】
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。
【
図5B】
図5Aに示した半導体装置100のe-e'断面の一例を示す図である。
【
図6A】おもて面側ライフタイム低減領域92を有する半導体基板10の濃度分布を説明するための図である。
【
図6B】おもて面側ライフタイム低減領域92を有する半導体基板10の濃度分布を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は重力方向に限定されない。
【0028】
各実施例においては、第1導電型をn型(N型と表記する場合がある)、第2導電型をp型(P型と表記する場合がある)とした例を示しているが、第1導電型をp型、第2導電型をn型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0029】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板の上面と平行な面をXY面とし、半導体基板の上面と垂直な深さ方向をZ軸とする。なお、本明細書においては、半導体基板の上面をおもて面と称して、半導体基板の下面を裏面と称する。
【0030】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化した不純物の濃度を指す。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差をドーピング濃度とする場合がある。また、ドーピングされた領域におけるドーピング濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該ドーピング領域におけるドーピング濃度としてよい。ドーピングされた領域におけるドーピング濃度がほぼ均一な場合等においては、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度の平均値をドーピング濃度としてよい。
【0031】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る半導体装置100のおもて面の構造を示す図である。半導体装置100は、半導体基板10を備える。半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板10はシリコン基板である。本明細書では、上面視における半導体基板10の外周の端部を、外周端140とする。上面視とは、半導体基板10のおもて面側からZ軸と平行に見た場合を指す。
【0032】
半導体装置100は、活性部120、ゲートランナー部51およびエッジ終端構造部150を備える。活性部120は、半導体装置100をオン状態に制御した場合に半導体基板10のおもて面と裏面との間で主電流が流れる領域である。つまり、半導体基板10のおもて面から裏面、または裏面からおもて面に、半導体基板10の内部を深さ方向に電流が流れる領域である。
【0033】
ゲートランナー部51の少なくとも一部は、半導体基板10のおもて面と平行な面において、活性部120と外周端140との間に設けられる。ゲートランナー部51は、ポリシリコンまたは金属等の導電材料で形成されており、活性部120に設けられる素子にゲート電圧を供給する。ゲートランナー部51は、半導体基板10の上方または内部に形成されており、半導体基板10とゲートランナー部51とは絶縁膜で絶縁されている。ゲートランナー部51は、半導体基板10のおもて面と平行な面において、活性部120を囲んで配置されてよい。ゲートランナー部51の一部は、活性部120に形成されてもよい。ゲートランナー部51の一部は、活性部120をX軸方向に横断して設けられてよい。
【0034】
ゲートランナー部51は、活性部120の外に設けられるゲートパッド116と電気的に接続される。ゲートパッド116は、活性部120と外周端140との間に配置されてよい。活性部120と外周端140との間には、エミッタ電極と電気的に接続されるエミッタパッド等のパッドが設けられてよい。
【0035】
活性部120には、トランジスタ部70およびダイオード部80が設けられている。トランジスタ部70およびダイオード部80の間には、境界部90が設けられてもよい。本明細書では、トランジスタ部70、ダイオード部80および境界部90をそれぞれ素子部または素子領域と称する場合がある。素子部が設けられた領域を活性部120としてよい。なお、半導体基板10の上面視において2つの素子部に挟まれた領域も活性部120とする。
【0036】
図1の例では、素子部に挟まれてゲートランナー部51が設けられている領域も活性部120に含めている。活性部120は、半導体基板10の上面視においてエミッタ電極が設けられた領域、および、エミッタ電極が設けられた領域に挟まれた領域とすることもできる。
図1の例では、トランジスタ部70、ダイオード部80および境界部90の上方にエミッタ電極が設けられる。
【0037】
トランジスタ部70は、IGBT等のトランジスタを含む。ダイオード部80は、半導体基板10のおもて面において、予め定められた第1方向においてトランジスタ部70と交互に配置されている。第1方向は、
図1におけるX軸方向である。本明細書では第1方向を配列方向と称する場合がある。
【0038】
それぞれのダイオード部80には、半導体基板10の裏面に接する領域にN+型のカソード領域82が設けられている。ダイオード部80は、半導体基板10の裏面にカソード領域82が設けられた領域である。本例の半導体装置100において、半導体基板10の裏面に接する領域のうちカソード領域82以外の領域は、P+型のコレクタ領域である。
【0039】
ダイオード部80は、カソード領域82をZ軸方向に投影した領域である。ただし、
図1において破線で示すように、カソード領域82をZ軸方向に投影した領域を活性部120の端部(例えばゲートランナー部51に接する位置)までY軸方向に延伸した領域も、ダイオード部80とする。
【0040】
トランジスタ部70は、半導体基板10の裏面にコレクタ領域が形成され、且つ、半導体基板10のおもて面にN+型のエミッタ領域を含む単位構造が周期的に形成された領域である。境界部90は、半導体基板10の裏面にコレクタ領域が形成された領域のうち、トランジスタ部70以外の領域である。
【0041】
活性部120において、X軸方向における両端には、トランジスタ部70が設けられてよい。活性部120は、ゲートランナー部51によりY軸方向に分割されてよい。活性部120のそれぞれの分割領域には、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されている。
【0042】
エッジ終端構造部150は、半導体基板10のおもて面において、活性部120と半導体基板10の外周端140との間に設けられる。本例のエッジ終端構造部150は、ゲートランナー部51と外周端140との間に設けられる。エッジ終端構造部150は、半導体基板10のおもて面において活性部120を囲むように環状に配置されてよい。本例のエッジ終端構造部150は、半導体基板10の外周端140に沿って配置されている。エッジ終端構造部150は、半導体基板10のおもて面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部150は、例えばガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。
【0043】
図2Aは、
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。本例の半導体装置100は、半導体基板10に設けられた、IGBT等のトランジスタを含むトランジスタ部70、および、FWD(Free Wheel Diode)等のダイオードを含むダイオード部80を有する半導体チップである。
【0044】
半導体基板10のおもて面において、トランジスタ部70およびダイオード部80の間には、境界部90が設けられる。半導体基板10のおもて面とは、半導体基板10において対向する2つの主面の一方を指す。
図2Aにおいてはチップ端部周辺のチップ上面を示しており、他の領域を省略している。
【0045】
また、
図2Aにおいては半導体装置100における半導体基板10の活性領域を示すが、
図1に示したように半導体装置100は、活性領域を囲んでエッジ終端構造部150を有してよい。
【0046】
本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面側の内部に形成されたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域17、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面の上方に設けられたエミッタ電極52およびゲート金属層50を備える。エミッタ電極52およびゲート金属層50は互いに分離して設けられる。
【0047】
エミッタ電極52およびゲート金属層50と、半導体基板10のおもて面21との間には層間絶縁膜が形成されるが、
図2Aでは省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54、コンタクトホール55およびコンタクトホール56が、当該層間絶縁膜を貫通して形成される。
【0048】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜に開口されたコンタクトホール54を通って、半導体基板10のおもて面21におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と電気的に接続する。また、エミッタ電極52は、コンタクトホール56を通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52とダミー導電部との間には、不純物がドープされたポリシリコン等の、導電性を有する材料で形成された接続部57が設けられてよい。接続部57は、半導体基板10のおもて面に形成される。
【0049】
ゲート金属層50は、コンタクトホール55を通って、ゲートランナー部51と接触する。ゲートランナー部51は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成される。ゲートランナー部51は、半導体基板10のおもて面において、ゲートトレンチ部40内のゲート導電部と接続される。つまりゲートランナー部51は、半導体基板10のおもて面において、ゲートトレンチ部40の一部分と、コンタクトホール55との間に渡って形成される。
【0050】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で形成される。例えば、各電極の少なくとも一部の領域はアルミまたはアルミシリコン合金で形成される。各電極は、アルミ等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよく、コンタクトホール内においてタングステン等で形成されたプラグを有してもよい。
【0051】
トランジスタ部70には、1つ以上のゲートトレンチ部40が、各トレンチの配列方向に沿って所定の間隔で配列される。ゲートトレンチ部40の内部のゲート導電部は、ゲート金属層50と電気的に接続され、ゲート電位が印加される。トランジスタ部70には、1つ以上のダミートレンチ部30が配列方向に沿って所定の間隔で配列されてよい。ダミートレンチ部30の内部のダミー導電部には、ゲート電位とは異なる電位が印加される。本例のダミー導電部は、エミッタ電極52と電気的に接続され、エミッタ電位が印加される。
【0052】
トランジスタ部70においては、配列方向に沿って1つ以上のゲートトレンチ部40と、1つ以上のダミートレンチ部30とが交互に形成されてよい。また、ダミートレンチ部30は、ダイオード部80および境界部90において配列方向に沿って所定の間隔で配列される。なお、トランジスタ部70は、ダミートレンチ部30が設けられず、ゲートトレンチ部40のみで構成されてもよい。
【0053】
ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面において予め定められた延伸方向に延伸して形成される。本例のトランジスタ部70におけるダミートレンチ部30の一部は、直線形状を有しており、上述した配列方向とは垂直な延伸方向に延伸して形成される。ダミートレンチ部30は、2つの直線部分の先端を接続したU字形状を有していてもよい。
図2Aの例においては、トランジスタ部70のダミートレンチ部30が直線形状を有し、ダイオード部80および境界部90におけるダミートレンチ部30がU字形状を有しているが、ダミートレンチ部30の形状は
図2Aの例に限定されない。トランジスタ部70のダミートレンチ部30の少なくとも一部がU字形状を有してよく、ダイオード部80および境界部90におけるダミートレンチ部30の少なくとも一部が直線形状を有していてもよい。
【0054】
図2AにおいてはX軸方向をトレンチ部の配列方向とする。また、Y軸方向をトレンチ部の延伸方向とする。X軸およびY軸は、半導体基板10のおもて面と平行な面内において互いに直交する軸である。また、X軸およびY軸と直交する軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸方向を深さ方向と称する場合がある。
【0055】
図2Aの例におけるゲートトレンチ部40は、直線部分と、2つの直線部分を接続する接続部分を有する。直線部分は、上述した延伸方向に延伸して形成される。それぞれのトレンチ部の直線部分は平行に形成される。接続部分は、半導体基板10のおもて面において曲線形状を有してよい。
【0056】
ゲートトレンチ部40の先端における接続部分において、ゲートトレンチ部40内のゲート導電部と、ゲートランナー部51とが接続する。ゲートトレンチ部40は、延伸方向(Y軸方向)において、ダミートレンチ部30よりもゲートランナー部51側に突出して設けられてよい。ゲートトレンチ部40の当該突出部分が、ゲートランナー部51と接続する。
【0057】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域17、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に形成される。ウェル領域17は、ゲート金属層50が設けられる側の活性領域の端部から、所定の範囲で形成される。本例においてウェル領域17のY軸方向の端部は、ベース領域14の端部に接続されている。ウェル領域17の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート金属層50側の一部の領域はウェル領域17に形成される。ダミートレンチ部30の延伸方向の端の底は、ウェル領域17に覆われていてよい。
【0058】
半導体基板10は、第1導電型を有し、ウェル領域17は半導体基板10とは異なる第2導電型を有する。本例の半導体基板10はN-型であり、ウェル領域17はP+型である。各トレンチ部に挟まれた領域であるメサ部には、ベース領域14が形成される。ベース領域14は、ウェル領域17よりもドーピング濃度の低い第2導電型である。本例のベース領域14はP-型である。なお、導電型における+および-の記号は、+の場合は相対的にドーピング濃度が高く、-の場合は相対的にドーピング濃度が低いことを示す。
【0059】
それぞれのメサ部においてベース領域14の上面には、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型のコンタクト領域15が選択的に形成されてよい。本例のコンタクト領域15はP+型である。また、トランジスタ部70においては、ベース領域14の上面に、半導体基板10よりもドーピング濃度が高い第1導電型のエミッタ領域12が選択的に形成される。本例のエミッタ領域12はN+型である。本例において、ダイオード部80および境界部90のメサ部には、エミッタ領域12が形成されない。
【0060】
コンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、隣接する一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで形成される。トランジスタ部70の1つ以上のコンタクト領域15および1つ以上のエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向に沿って交互にメサ部の上面に露出するように形成される。
【0061】
ダイオード部80および境界部90のメサ部には、トランジスタ部70における少なくとも一つのコンタクト領域15と対向する領域にコンタクト領域15が形成される。
図2Aの例では、ダイオード部80および境界部90のメサ部には、トランジスタ部70において最もゲート金属層50側のコンタクト領域15と対向する領域に、コンタクト領域15が形成されており、他の領域にはベース領域14が形成されている。
【0062】
トランジスタ部70において、コンタクトホール54は、コンタクト領域15およびエミッタ領域12の各領域の上方に形成される。コンタクトホール54は、ベース領域14およびウェル領域17に対応する領域には形成されない。
【0063】
ダイオード部80および境界部90において、コンタクトホール54は、コンタクト領域15およびベース領域14の上方に形成される。本例においてトランジスタ部70、ダイオード部80および境界部90のコンタクトホール54は、各トレンチ部の延伸方向において同一の長さを有する。
【0064】
なお、ダイオード部80において、トレンチ部が形成されなくてもよい。この場合の延伸方向は、トランジスタ部70のトレンチ部の延伸方向としてよく、ダイオード部80のコンタクトホール端と最も近い半導体装置の辺に垂直な方向を延伸方向としてもよい。
【0065】
境界部90は、半導体基板10のおもて面側のメサ部において、第1導電型のエミッタ領域12が設けられておらず、半導体基板10の裏面側にコレクタ領域が設けられた領域を指す。なお、
図2Aにおいては、半導体基板10の裏面側に設けられたカソード領域82について、おもて面側に投影した場合の位置を示している。境界部90には、ダミートレンチ部30が設けられている。
【0066】
メサ部94-1、メサ部94-2およびメサ部94-3は、それぞれ、トランジスタ部70、ダイオード部80および境界部90に設けられたメサ部である。境界メサ部94-3には、ダイオード部80のメサ部94-2と同一の配置で、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられている。メサ部94-2およびメサ部94-3においては、ベース領域14のおもて面21における面積は、コンタクト領域15の面積よりも大きい。ただし、境界メサ部94-3における半導体基板10の裏面には、コレクタ領域22が設けられている。複数の境界メサ部94-3のうち、最もトランジスタ部70側に配置される1つの境界メサ部94-3のおもて面21は、ベース領域14ではなくコンタクト領域15に覆われていてもよい。他の(実施)例においても同様である。
【0067】
メサ部94-4は、トランジスタ部70において最もダイオード部80側に配置されたメサ部である。メサ部94-4には、トランジスタ部70と同一の配置で、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が設けられている。
【0068】
なお、境界部90またはダイオード部80のベース領域14は、トランジスタ部70のベース領域14よりも、ドーピング濃度が小さくてよい。境界部90またはダイオード部80のベース領域14のドーピング濃度のピーク値は、トランジスタ部70のベース領域14のドーピング濃度のピーク値の0.1倍以下であってよい。また、境界部90またはダイオード部80のベース領域14は、トランジスタ部70のベース領域14よりも、おもて面21からの深さ方向に沿ったドーピング濃度の積分値が小さくてよい。境界部90またはダイオード部80のベース領域14における、深さ方向に沿ったドーピング濃度の積分値は、トランジスタ部70のベース領域14における深さ方向のドーピング濃度の積分値の0.1倍以下であってよい。これにより、逆回復電流を小さくできる。
【0069】
図2Bは、
図2Aに示した半導体装置100のa-a'断面の一例を示す図である。a-a'断面は、X-Z面と平行で、且つ、トランジスタ部70のエミッタ領域12を通る断面である。
【0070】
本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜26、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜26の上面に形成される。
【0071】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に形成される。裏面とは、おもて面とは逆側の面を指す。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、金属等の導電材料で形成される。また本明細書において、基板、層、領域等の各部材のエミッタ電極52側の面または端部を上面または上端、コレクタ電極24側の面または端部を下面または下端と称する。また、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向をZ軸方向(深さ方向)とする。
【0072】
半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。半導体基板10のおもて面21側には、P-型のベース領域14が形成される。
【0073】
当該断面において、トランジスタ部70の各メサ部94の上面側には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10のおもて面21側から順番に形成される。ベース領域14の下には、N+型の蓄積領域16が更に形成されていてもよい。
【0074】
当該断面において、ダイオード部80および境界部90の各メサ部94の上面側には、P-型のベース領域14が形成されている。ダイオード部80および境界部90の各メサ部94には、エミッタ領域12が形成されなくてもよい。また、ダイオード部80および境界部90の各メサ部94には、蓄積領域16が形成されなくてもよい。
【0075】
トランジスタ部70において、蓄積領域16の下面にはN-型のドリフト領域18が形成される。ドリフト領域18とベース領域14との間に、ドリフト領域18よりも高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減することができる。
【0076】
ダイオード部80および境界部90において、ベース領域14の下面には、ドリフト領域18が形成される。トランジスタ部70およびダイオード部80の双方において、ドリフト領域18の下面にはN-型のバッファ領域20が形成される。
【0077】
バッファ領域20は、ドリフト領域18の下面側に形成される。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0078】
バッファ領域20は、深さ方向におけるドーピング濃度分布において複数のピークを有してよい。例えば、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布は4つのピークを有する。バッファ領域20おけるドーピング濃度のピークは、プロトン注入および熱処理で形成した水素ドナーの濃度ピークであってよい。
【0079】
トランジスタ部70および境界部90において、バッファ領域20の下面には、P+型のコレクタ領域22が形成される。ダイオード部80において、バッファ領域20の下面には、N+型のカソード領域82が形成される。
【0080】
半導体基板10のおもて面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が形成される。各トレンチ部は、半導体基板10のおもて面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達する。即ち、本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、おもて面21からエミッタ領域12よりも深い位置まで設けられる。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。
【0081】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21側に形成されたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に形成される。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、不純物が添加されたポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0082】
ゲート導電部44は、Z軸方向において、少なくとも隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21において層間絶縁膜26により覆われる。本例では、
図2Aに示したゲートトレンチ部40の先端において、ゲート導電部44が、ゲートランナー部51を介してゲート金属層50と電気的に接続する。ゲート導電部44に所定の電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層にチャネルが形成される。
【0083】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面21側に形成されたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って形成される。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に形成され、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に形成される。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。ダミートレンチ部30は、深さ方向においてゲートトレンチ部40と同一の長さを有してよい。
【0084】
ダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面21において層間絶縁膜26により覆われる。本例では、
図2Aに示したようにコンタクトホール56および接続部57を介して、ダミー導電部34がエミッタ電極52と電気的に接続する。
【0085】
図2Cは、
図2Aに示した半導体装置100のb-b'断面の一例を示す図である。b-b'断面は、Y-Z面と平行で、且つ、境界部90のコンタクトホール54を通る断面である。なお、
図2Cにおいてはダイオード部80を含む断面を示している。
【0086】
b-b'断面においては、半導体基板10のおもて面21側にベース領域14、コンタクト領域15およびウェル領域17が設けられている。コンタクト領域15は、ベース領域14に選択的に形成されている。ウェル領域17は、トレンチ部の延伸方向においてベース領域14よりも外側に、ベース領域14よりも深くまで形成されている。
【0087】
端部E1は、エミッタ電極52と半導体基板10のおもて面21とを電気的に接続するためのコンタクトホール54の延伸方向における端部である。また、端部E1は、絶縁膜59の延伸方向における端部であってもよい。絶縁膜59は、エミッタ電極52と半導体基板10との間に設けられている。端部E1の深さ方向の位置は、おもて面21に対応する。端部E1は、上面視において、ウェル領域17の延伸方向における端部位置Ydよりもダイオード部80の内側(即ち、Y軸方向の正側)に設けられている。端部位置Ydからおもて面21に向かう垂線Y1とおもて面21とが交差する位置を位置Yduとし、端部位置Ydから裏面23に向かう垂線Y1と裏面23とが交差する位置を位置Ydbとする。位置Yduは、端部E1よりもダイオード部80の外側に設けられている。
【0088】
第1直線S1は、端部E1から半導体基板10の裏面23に向かう第1垂線P1と予め定められた角度θ1を成し、且つ、端部E1を通る直線である。角度θ1は、20°以上であってよく、30°以上であってよい。また、角度θ1は80°以下であってよく、60°以下であってよい。角度θ1は、45°であってもよい。第1垂線P1は、端部E1を通り、Z軸方向に延伸する直線である。第1垂線P1と裏面23との交点をF1とする。
【0089】
位置M1は、延伸方向において、第1直線S1が半導体基板10の裏面23と交わる位置である。位置M1は、延伸方向において、カソード領域82の外側に位置する。本例のカソード領域82は、位置M1よりもダイオード部80の内側(即ち、Y軸方向の正側)に設けられている。位置F1と位置Ydbとの距離は、位置F1と位置M1との距離よりも短くてよい。このように、カソード領域82をコンタクトホール54の延伸方向における端部E1よりもダイオード部80の内側に配置することにより、ダイオード部80の逆回復時におけるピーク電流を抑制して、半導体装置100の耐量を向上することができる。
【0090】
例えば、角度θ1が45°の場合、カソード領域82は、おもて面21と平行な面において、端部E1に対して、半導体基板10のZ軸方向の厚みW0よりも、ダイオード部80の内側に設けられる。一例において、半導体基板10のZ軸方向の厚みW0は、50μm以上、650μm以下である。なお、本例では、Y軸方向の負側の構造について説明したが、半導体基板10の反対側であるY軸方向の正側においても同一の構造を有してもよい。
【0091】
図3Aは、
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。本例の半導体装置100は、おもて面側ライフタイム低減領域92を備える点で
図2Aの例と相違する。
【0092】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、ダイオード部80と、境界部90の一部の領域とに設けられる。おもて面側ライフタイム低減領域92は、半導体基板10のおもて面21側に設けられている。おもて面側ライフタイム低減領域92は、半導体基板10の深さ方向における中央と、半導体基板10のおもて面21との間の予め定められた深さ位置に選択的に形成される。
【0093】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、半導体基板10の内部に不純物を注入すること等により意図的にライフタイムキラーを導入した領域である。意図的にライフタイムキラーを導入した領域の電子または正孔のキャリアのライフタイムの値は、意図的にライフタイムキラーを導入していない領域のキャリアのライフタイムよりも小さい。ライフタイムキラーは、キャリアの再結合中心であって、結晶欠陥であってよく、空孔、複空孔、空孔等により形成されたダングリングボンド、これらと半導体基板10を構成する元素との複合欠陥、転位、ヘリウム、ネオンなどの希ガス元素、白金などの金属元素などでよい。一例としておもて面側ライフタイム低減領域92は、ヘリウム等のイオンを、当該深さ位置に照射することで形成される。
【0094】
境界部90においておもて面側ライフタイム低減領域92が設けられる領域は、ダイオード部80に隣接している。一方で、トランジスタ部70には、おもて面側ライフタイム低減領域92が設けられていない。
【0095】
ダイオード部80におもて面側ライフタイム低減領域92を設けることで、ダイオード部80におけるキャリアライフタイムを調整して、逆回復時における損失を低減することができる。また、境界部90を設け、境界部90にもおもて面側ライフタイム低減領域92を設けているので、トランジスタ部70におもて面側ライフタイム低減領域92を設けなくとも、トランジスタ部70からダイオード部80に流入する正孔のライフタイムを制御することができる。
【0096】
トランジスタ部70におもて面側ライフタイム低減領域92を設けないので、半導体基板10のおもて面21側からヘリウム等のイオンを照射しても、トランジスタ部70におけるゲート絶縁膜等にダメージを与えない。このため、トランジスタ部70における閾値電圧等の変動を抑制できる。また、半導体基板10のおもて面21側からヘリウム等のイオンを照射できるので、イオンの照射位置を浅くすることができ、おもて面側ライフタイム低減領域92の深さ位置を精度よく制御できる。
【0097】
また、半導体基板10の裏面23側からヘリウム等のイオンを照射する場合に比べて、ヘリウム等のイオンを照射する加速エネルギーを小さくできるので、マスク等のコストを低減できる。ヘリウム等のイオンを照射する加速エネルギーは、照射するイオンが半導体基板10を透過しない(突き抜けない)値であってよい。
【0098】
カソード領域82は、延伸方向において、メサ部94-2の一部の領域に形成されている。例えば、カソード領域82は、最も外側(ゲートランナー部51側)のコンタクト領域15よりも内側に形成される。
【0099】
図3Bは、
図3Aに示した半導体装置100のc-c'断面の一例を示す図である。c-c'断面は、Y-Z面と平行で、且つ、境界部90のコンタクトホール54を通る断面である。本例の半導体装置100は、おもて面側ライフタイム低減領域92を備える点で
図2Cの例と相違する。
【0100】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、ベース領域14よりも下側に形成される。おもて面側ライフタイム低減領域92は、ウェル領域17の下端よりも下側に形成されてよく、ウェル領域17の下端よりも上側に形成されてもよい。本例のおもて面側ライフタイム低減領域92は、深さ方向におけるピーク位置がウェル領域17の下端よりも下側となるように形成されている。
【0101】
端部E2は、おもて面側ライフタイム低減領域92の延伸方向における端部である。端部E2の深さ方向の位置は、おもて面側ライフタイム低減領域92の半導体基板10の深さ方向におけるピーク位置であってよい。端部E2は、コンタクトホール54の延伸方向における端部E1よりも、カソード領域82側に位置する。また、端部E2は、ウェル領域17の延伸方向における端部位置Ydよりもダイオード部80の内側に設けられている。端部E2は、カソード領域82の外側に位置しており、おもて面側ライフタイム低減領域92がカソード領域82よりもダイオード部80の外側(即ち、Y軸方向の負側)に延伸して設けられている。
【0102】
端部E2は、延伸方向において、第1直線S1よりもダイオード部80の内側に設けられてよい。本例の端部E2は、延伸方向において、位置M1と端部E1との間に設けられている。即ち、おもて面側ライフタイム低減領域92は、位置M1よりもダイオード部80の外側(即ち、Y軸方向の負側)に延伸している。角度θ1が45°の場合、延伸方向における端部E1と端部E2との距離は、半導体基板10のZ軸方向の厚みよりも小さくなる。
【0103】
ただし、端部E2は、延伸方向において、位置M1とカソード領域82との間に設けられてもよい。この場合、おもて面側ライフタイム低減領域92は、位置M1まで延伸せずに、位置M1よりもダイオード部80の内側(即ち、Y軸方向の正側)で終端する。おもて面側ライフタイム低減領域92は、端部E2から半導体装置100のチップの外側には設けられていない。なお、端部E1、第1垂線P1、第1直線S1および位置M1の関係は、
図2Cの場合と同一である。
【0104】
第2直線S2は、端部E2から半導体基板10の裏面23に向かう第2垂線P2と予め定められた角度θ2を成し、且つ、端部E2を通る直線である。角度θ2は、20°以上であってよく、30°以上であってよい。また、角度θ2は、80°以下であってよく、60°以下であってよい。角度θ2は、45°であってもよい。角度θ2は、角度θ1と同一であっても、異なっていてもよい。第2垂線P2は、端部E2を通り、Z軸方向に延伸する直線である。
【0105】
位置N2は、延伸方向(即ち、Y軸方向)において、第2直線S2が半導体基板10の裏面23と交わる位置である。位置N2は、延伸方向において、カソード領域82の外側に位置する。このように、本例のカソード領域82は、おもて面側ライフタイム低減領域92の端部E2よりもさらにダイオード部80の内側に位置する。これにより、ダイオード部80の逆回復時におけるピーク電流を抑制して、半導体装置100の耐量を向上することができる。また、本例のおもて面側ライフタイム低減領域92は、延伸方向において、カソード領域82よりも広い範囲に設けられる。これにより、カソード領域82の外側から注入される正孔のライフタイムを適切に制御することができる。
【0106】
図4Aは、
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。本例では、境界部90の配置が
図2Aの場合と相違する。本例の半導体装置100は、おもて面側ライフタイム低減領域92を備えていない。
【0107】
メサ部94-4は、トランジスタ部70においてエミッタ領域12を備え、且つ、境界部90に最も近いメサ部94である。メサ部94-4には、トランジスタ部70と同一の配置で、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が設けられている。メサ部94-4は、ダミートレンチ部30に挟まれている。そのため、メサ部94-4では、トランジスタ部70のオン動作時にチャネルが形成されない。
【0108】
ダイオード部80がオン状態のとき、カソード領域82から注入された電子は、静電ポテンシャル分布に従って、ダイオード部80のベース領域14だけでなく境界部90およびトランジスタ部70のベース領域14にも流れる。このとき、ゲートがオン状態であると、電子がチャネルを通ってエミッタ領域12に流出し、ダイオード部80のベース領域14から正孔が注入され難くなる。メサ部94-4をダミートレンチ部30で挟むことで、電子がチャネルを通ってエミッタ領域12に流れることを、防ぐことができる。
【0109】
図4Bは、
図4Aに示した半導体装置100のd-d'断面の一例を示す図である。d-d'断面は、X-Z面と平行で、且つ、トランジスタ部70のエミッタ領域12を通る断面である。
【0110】
端部E3は、エミッタ電極52とエミッタ領域12とを電気的に接続するためのコンタクトホール54の配列方向における端部である。また、端部E3は、トランジスタ部70と境界部90との間に設けられたダミートレンチ部30を覆う層間絶縁膜26の、配列方向における端部であってもよい。端部E3の深さ方向の位置は、おもて面21に対応する。
【0111】
第3直線S3は、配列方向において、端部E3から半導体基板10の裏面23に向かう第3垂線P3と予め定められた角度θ3を成し、且つ、端部E3を通る直線である。角度θ3は、30°以上であってよい。また、角度θ3は60°以下であってよい。角度θ3は、45°であってもよい。第3垂線P3は、端部E3を通り、Z軸方向に延伸する直線である。
【0112】
位置M3は、第3直線S3が半導体基板10の裏面23と交わる位置である。位置M3は、配列方向において、カソード領域82の外側に位置する。例えば、角度θ3が45°の場合、カソード領域82は、おもて面21と平行な面において、端部E3に対して、半導体基板10のZ軸方向の厚みよりも離れて設けられる。トランジスタ部70のおもて面21には、ベース領域14よりも高いドーピング濃度のコンタクト領域15が設けられている。また、境界部90のうち最もトランジスタ部70側に配置される境界メサ部94-3には、おもて面21の全面にコンタクト領域15が設けられている場合がある。ダイオード部80がオン状態のときには、ベース領域14だけでなくコンタクト領域15からも正孔がドリフト領域18に注入され、カソード領域82に向かって流れる。そのため、逆回復電流が増加することがある。位置M3よりもカソード領域82がトランジスタ部70から離れていることで、カソード領域82のおもて面21側に配置されたベース領域14からの正孔注入が支配的となる。これにより、コンタクト領域15の影響を小さくし、逆回復電流を小さくできる。
【0113】
図5Aは、
図1に示した半導体装置100の領域130の一例を示す上面図である。本例では、おもて面側ライフタイム低減領域92を備える点で
図4Aの場合と相違する。
【0114】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、半導体基板10のおもて面21と平行な面において、ダイオード部80のカソード領域82よりも広い領域を覆って設けられる。おもて面側ライフタイム低減領域92は、X軸方向およびY軸方向の両方において、カソード領域82よりも広い範囲に設けられてよい。これにより、カソード領域82の外側から注入されるキャリアのライフタイムを適切に制御することができる。
【0115】
本例のメサ部94-4は、ダミートレンチ部30に挟まれており、トランジスタ部70のオン動作にチャネルが形成されない。そのため、製造バラツキ等でヘリウムイオン等の照射位置がずれた場合であっても、トランジスタ部70における閾値電圧等の変動を抑制できる。トランジスタ部70は、複数のメサ部94-4を有してよい。
【0116】
図5Bは、
図5Aに示した半導体装置100のe-e'断面の一例を示す図である。e-e'断面は、X-Z面と平行で、且つ、トランジスタ部70のエミッタ領域12を通る断面である。
【0117】
端部E4は、おもて面側ライフタイム低減領域92の配列方向における端部である。端部E4の深さ方向の位置は、おもて面側ライフタイム低減領域92の半導体基板10の深さ方向におけるピーク位置であってよい。端部E4は、コンタクトホール54の配列方向における端部E3よりも、カソード領域82側に位置する。端部E4は、境界部90内に設けられている。端部E4は、カソード領域82の外側に位置する。即ち、おもて面側ライフタイム低減領域92は、配列方向において、カソード領域82の外側にまで延伸して設けられている。
【0118】
端部E4は、配列方向において、第3直線S3よりもダイオード部80の内側に設けられてよい。本例の端部E4は、配列方向において、位置M3と端部E3との間に設けられている。即ち、おもて面側ライフタイム低減領域92は、位置M3よりもダイオード部80の外側(即ち、X軸方向の負側)に延伸している。角度θ3が45°の場合、配列方向における端部E3と端部E4との距離は、半導体基板10のZ軸方向の厚みW0よりも小さくなる。
【0119】
ただし、端部E4は、配列方向において、位置M3とカソード領域82との間に設けられてもよい。この場合、おもて面側ライフタイム低減領域92は、位置M3まで延伸せずに、位置M3よりもダイオード部80の内側(即ち、X軸方向の正側)で終端する。おもて面側ライフタイム低減領域92は、端部E4からトランジスタ部70側には設けられていない。なお、端部E3、第3垂線P3、第3直線S3および位置M3の関係は、
図4Bの場合と同一である。
【0120】
第4直線S4は、端部E4から半導体基板10の裏面23に向かう第4垂線P4と予め定められた角度θ4を成し、且つ、端部E4を通る直線である。例えば、角度θ4は、30°以上であってよい。また、角度θ4は、60°以下であってよい。角度θ4は、45°であってもよい。角度θ4は、角度θ3と同一であっても、異なっていてもよい。第4垂線P4は、端部E4を通り、Z軸方向に延伸する直線である。
【0121】
位置N4は、配列方向(X軸方向)において、第4直線S4が半導体基板10の裏面23と交わる位置である。位置N4は、配列方向において、カソード領域82の外側に位置する。端部E4は、コンタクトホール54の配列方向における端部E3よりも、カソード領域82側に位置する。このように、本例のカソード領域82は、おもて面側ライフタイム低減領域92の端部E4よりもさらにトランジスタ部70から離間して配置される。これにより、ダイオード部80の逆回復時におけるピーク電流を抑制して、半導体装置100の耐量を向上することができる。
【0122】
本例の位置M3は、配列方向において、端部E4の位置と同一である。ただし、おもて面側ライフタイム低減領域92は、配列方向において、位置M3が端部E4よりもトランジスタ部70側に設けられるように配置されてもよい。これにより、トランジスタ部70とおもて面側ライフタイム低減領域92との距離をさらに大きくできるので、製造バラツキ等でヘリウムイオン等の照射位置がずれた場合であっても、トランジスタ部70における閾値電圧等の変動を抑制できる。
【0123】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、e-e'断面において、ダイオード部80の全体と、境界部90においてダイオード部80と隣接する一部の領域とに設けられる。境界部90は、ダイオード部80に隣接する少なくとも1つのメサ部94においておもて面側ライフタイム低減領域92を有し、トランジスタ部70に隣接する少なくとも1つのメサ部94においておもて面側ライフタイム低減領域92を有さなくてよい。おもて面側ライフタイム低減領域92は、いずれかのトレンチ部の下方で終端していてよく、いずれかのメサ部94の下方で終端していてもよい。
【0124】
境界部90を設けることで、N+型のカソード領域82と、トランジスタ部70との距離を大きくすることができる。そして、境界部90の一部におもて面側ライフタイム低減領域92を形成することで、トランジスタ部70からダイオード部80に注入される正孔のライフタイムを適切に制御することができ、逆回復時の損失を低減できる。
【0125】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、ダイオード部80の全体および境界部90の一部に形成されるので、配列方向においてカソード領域82よりも広い領域に渡って形成される。おもて面側ライフタイム低減領域92は、配列方向において、境界部90の半分以上の領域に渡って形成されてよい。
【0126】
あるいは、境界部90でおもて面側ライフタイム低減領域92が形成された領域の配列方向の長さは、境界部90でおもて面側ライフタイム低減領域92が形成されていない領域の配列方向の長さより長くてよい。例えば、おもて面側ライフタイム低減領域92は、境界部90のうち、トランジスタ部70に隣接する1つのメサ部94以外の領域に形成されてよい。これにより、トランジスタ部70からダイオード部80に注入される正孔のライフタイムを容易に制御できる。
【0127】
マスク200は、おもて面側ライフタイム低減領域92を形成する工程で用いられる。本例では、マスク200を用いて半導体基板10のおもて面21側からヘリウムイオンを照射することで、おもて面側ライフタイム低減領域92を形成する。マスク200は、レジスト等を塗布して所定形状にパターニングして形成されてよい。マスク200に覆われた領域にはおもて面側ライフタイム低減領域92が形成されない。
【0128】
レジスト等を塗布して形成するマスク200は、半導体基板10のおもて面21上に形成された構造物に接するように形成されてよい。本例では、半導体基板10のおもて面21上に形成された構造物はエミッタ電極52である。金属やシリコンといった素材で形成するハードマスクは、半導体基板10のおもて面21に形成された電極や保護膜、層間絶縁膜といた構造物に傷や欠損等を与えないように、エミッタ電極52からおもて面21よりも外側(+Z軸方向)に所定距離だけ離して形成する必要がある。そのため、半導体基板10のおもて面21側内部またはおもて面21の外側に設けた表面構造との微細な位置合わせが困難となる。本例のように、半導体基板10のおもて面21上に形成された構造物に接するようにマスク200を形成することで、極めて微細な表面構造との位置合わせが容易となる。
【0129】
おもて面側ライフタイム低減領域92は、エミッタ電極52より前に形成してよい。本例のおもて面側ライフタイム低減領域92は、各トレンチ部、ベース領域14、蓄積領域16およびエミッタ領域12を形成した後に形成される。
【0130】
本例では、半導体基板10のおもて面21側からヘリウムイオンを照射するので、裏面側からヘリウムイオンを照射する場合に比べて、おもて面側ライフタイム低減領域92の深さ位置を精度よく制御できる。また、トランジスタ部70はマスク200に覆われているので、ヘリウムイオンの照射によるゲートトレンチ部40へのダメージを防ぐことができる。また、ヘリウムイオンを浅い位置に照射するので、ハードマスクを用いなくともよい。このため、コストを低減できる。なお、おもて面側ライフタイム低減領域92は、半導体基板10の裏面23からヘリウムイオンを照射して形成されてもよい。
【0131】
図6Aは、おもて面側ライフタイム低減領域92を有する半導体基板10の濃度分布を説明するための図である。本例のおもて面側ライフタイム低減領域92は、ヘリウムイオンを半導体基板10のおもて面21側から照射して形成している。ヘリウムイオンに替えて水素イオンを注入してもよい。m-m断面は、おもて面側ライフタイム低減領域92が設けられたダイオード部80の任意の断面である。本例では、m-m断面の、おもて面側ライフタイム低減領域92における再結合中心のZ軸方向における濃度分布、ネットドーピング濃度分布およびキャリアライフタイム分布を示している。
【0132】
おもて面側ライフタイム低減領域92におけるライフタイムキラー(再結合中心)の濃度は、所定の深さ位置においてピーク濃度Npとなる。当該深さ位置は、半導体基板10の深さ方向の中央よりもおもて面21側におけるドリフト領域18に配置される。ピーク濃度Npの半値0.5Npより高濃度のライフタイムキラーを有する領域を、おもて面側ライフタイム低減領域92の領域としてよい。
【0133】
ヘリウムイオン等をおもて面21側から照射する場合は、ピーク位置から半導体基板10のおもて面21まで、ピーク濃度Npより低い濃度のライフタイムキラーが裾を引くように分布している。一方で、ピーク位置よりも半導体基板10の裏面23側におけるライフタイムキラーの濃度は、ピーク位置よりも半導体基板10のおもて面21側におけるライフタイムキラーの濃度よりも急峻に低下する。おもて面側ライフタイム低減領域92の濃度分布は、裏面23には届かなくてもよい。
【0134】
また、おもて面21からピーク濃度Npの位置まで連続して裾を引く分布であれば、ピーク濃度Npの深さ位置が半導体基板10の深さ方向の中間位置よりも裏面23側にあってもよい。
【0135】
なお、
図6Aに示される再結合中心の濃度分布は、上述したようにヘリウム濃度であってもよいし、水素イオンであってもよいし、ヘリウム照射または水素イオン注入によって形成された結晶欠陥密度であってもよい。結晶欠陥は、格子間ヘリウム、格子間水素、空孔、複空孔等、空孔等により形成されたダングリングボンドであってよい。これらの結晶欠陥により、キャリアの再結合中心が形成される。形成された再結合中心のエネルギー準位(トラップ準位)を介して、キャリアの再結合が促進される。再結合中心濃度は、トラップ準位密度に対応する。
【0136】
バッファ領域20のなかで、斜線で示した複数の領域(本例では4つ領域)は、バッファ領域20のドーピング濃度分布のピーク濃度となる位置を含む領域である。斜線で示した複数の領域のそれぞれの深さ方向の幅は、一例として、ピーク位置を中心として、ピークドーピング濃度の半値全幅に相当してよい。
【0137】
おもて面側ライフタイム低減領域92の再結合中心濃度のピーク位置xlは、バッファ領域20の複数のピーク位置のうち、最もおもて面21側に位置するピーク位置xmからおもて面21側に離れていてよい。バッファ領域20が水素ドナーを含む場合、水素ドナー濃度の極大値を示すピーク位置では、水素が空孔やダングリングボンドを終端して、再結合中心濃度が低下する場合がある。このため、おもて面側ライフタイム低減領域92の再結合中心濃度のピーク位置をバッファ領域20のピーク位置から離して、水素による終端の影響を低減してよい。さらに、おもて面側ライフタイム低減領域92の再結合中心濃度のピーク位置は、バッファ領域20の複数のピーク位置の間に形成されてもよい。これによっても、水素による終端の影響を低減する効果を有する。
【0138】
図6Aに示されるキャリアライフタイム分布は、再結合中心濃度のピーク濃度位置に略対応する位置で、最小値τ
minとなる。おもて面21に近いベース領域14では、キャリアライフタイム分布は、τ
minよりも大きな値τ
1を有して良い。ライフタイムキラーを導入していない他の深さ方向の領域では、キャリアライフタイム分布は、再結合中心濃度のピーク濃度位置よりも深い領域で、ほぼ一様な値(τ
0とする)で分布してよい。バッファ領域20では、水素による空孔やダングリングボンドの終端効果により、キャリアライフタイムはτ
0程度の値で分布してよい。キャリアライフタイムがτ
0から減少する位置x
nは、バッファ領域20の複数のピーク濃度のうち、最もおもて面21側に位置するピーク位置x
mよりもおもて面21側に位置してよい。なお、おもて面21および裏面23近傍のキャリアライフタイムは、ドーピング濃度が高いため、τ
0よりも小さくなってよい。
【0139】
図6Bは、おもて面側ライフタイム低減領域92を有する半導体基板10の濃度分布を説明するための図である。本例のおもて面側ライフタイム低減領域92は、ヘリウムイオンを半導体基板10の裏面23側から照射して形成している。ヘリウムイオンに替えて水素イオンを注入してもよい。n-n断面は、おもて面側ライフタイム低減領域92が設けられたダイオード部80の任意の断面である。本例では、n-n断面の、おもて面側ライフタイム低減領域92における再結合中心のZ軸方向における濃度分布、ネットドーピング濃度分布およびキャリアライフタイム分布を示している。
【0140】
おもて面21側からヘリウムイオン等を照射する場合と同様に、半導体基板10の深さ方向の中央よりもおもて面21側におけるドリフト領域18においてピーク濃度Npとなる。
【0141】
ヘリウムイオン等を裏面23側から照射する場合は、ピーク位置から半導体基板10の裏面23まで、ピーク濃度Npより低い濃度のライフタイムキラーが裾を引くように分布している。一方で、ピーク位置よりも半導体基板10のおもて面21側におけるライフタイムキラーの濃度は、ピーク位置よりも半導体基板10の裏面23側におけるライフタイムキラーの濃度よりも急峻に低下する。おもて面側ライフタイム低減領域92の濃度分布は、おもて面21には届かなくてもよい。
【0142】
図6Bに示されるキャリアライフタイム分布は、再結合中心濃度のピーク濃度位置に略対応する位置で、最小値τ
minとなる。裏面23に近い領域では、キャリアライフタイム分布は、τ
minよりも大きな値τ
1を有して良い。ライフタイムキラーを導入していない他の深さ方向の領域では、キャリアライフタイム分布は、再結合中心濃度のピーク濃度位置よりも深い領域で、ほぼ一様な値(τ
0とする)で分布してよい。
【0143】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0144】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0145】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、26・・・層間絶縁膜、・・・30・・・ダミートレンチ部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、40・・・ゲートトレンチ部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、50・・・ゲート金属層、51・・・ゲートランナー部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、55・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、57・・・接続部、59・・・絶縁膜、70・・・トランジスタ部、80・・・ダイオード部、82・・・カソード領域、90・・・境界部、92・・・おもて面側ライフタイム低減領域、94・・・メサ部、100・・・半導体装置、116・・・ゲートパッド、120・・・活性部、130・・・領域、140・・・外周端、150・・・エッジ終端構造部、200・・・マスク