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特許7448002インピーダンス整合素子及び通信端末装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】インピーダンス整合素子及び通信端末装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/38 20060101AFI20240305BHJP
   H01Q 1/50 20060101ALI20240305BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240305BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H03H7/38 A
H01Q1/50
H01F17/00 D
H01F27/00 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022527490
(86)(22)【出願日】2021-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2021000057
(87)【国際公開番号】W WO2021240860
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2020094866
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 真也
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/153691(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/064138(WO,A1)
【文献】特開2016-123132(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208253(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0256842(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0119596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/00-7/54
H01Q 1/50
H01F 17/00
H01F 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電回路が接続される第1入出力端子と、
アンテナが接続される第2入出力端子と、
複数の基材層が積層される積層体と、
前記積層体に形成され、第1端が前記第1入出力端子に接続され、第2端が前記第2入出力端子に接続された第1コイルと、第3端が前記第2入出力端子に接続され、第4端がグランド端子に接続され、前記第1コイルに電磁界結合する第2コイルと、
を有し、
前記第1コイルの自己インダクタンス、前記第2コイルの自己インダクタンス、前記第1コイルと前記第2コイルとの相互インダクタンス、及び、前記第1入出力端子とグランド端子との間または前記第2入出力端子とグランド端子との間に構成される容量により、自己共振周波数が定められ、
前記自己共振周波数が前記給電回路による通信周波数帯内にある、
インピーダンス整合素子。
【請求項2】
前記第2入出力端子と前記グランド端子との間に構成される容量は前記第2コイルの層間容量である、
請求項1に記載のインピーダンス整合素子。
【請求項3】
前記積層の方向に視て、前記第2コイルは単一の周回経路を形成する、
請求項1又は2に記載のインピーダンス整合素子。
【請求項4】
前記第2コイルを構成する、前記積層体の複数の基材に形成された導体パターンのいずれかに、前記積層の方向に視て、前記第2コイルが形成する周回経路を補間する形状のダミーの導体パターンが延長形成された、
請求項1から3のいずれかに記載のインピーダンス整合素子。
【請求項5】
高周波信号を送受信するアンテナと、前記アンテナに対する給電回路と、前記アンテナと前記給電回路との間に接続されたインピーダンス整合回路と、を備えた通信端末装置であって、
前記インピーダンス整合回路は、請求項1から4のいずれかに記載のインピーダンス整合素子である、
通信端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス変換回路等に用いられるインピーダンス整合素子及びそれを備えた通信端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インピーダンス変換素子として用いられるトランス素子が示されている。この特許文献1では、2つのトランスを並列接続させたオートトランス構造であって、第1のトランスを形成する2つのコイルと第2のトランスを形成する2つのコイルの積層順に特徴をもたせることによって、インピーダンス変換比を定める手法がとられている。具体的には、コイルの積層構造において、各層のパターンはそれぞれ約1ターンずつ巻回され、並列部を設けることで、インダクタンスの大きさを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/068614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図17は特許文献1に示されているインピーダンス変換回路を含むアンテナ装置の回路図である。インピーダンス変換回路100は給電回路30とアンテナ40との間に接続されている。図17において、インピーダンス変換回路100は、第1コイルL1と第2コイルL2を含むオートトランス回路で構成されている。このインピーダンス変換回路100は、第1コイルL1のインダクタンス、第2コイルL2のインダクタンス、及びその結合による相互インダクタンスMからなる。
【0005】
図18は、図17に示した構成のインピーダンス変換回路の、給電回路から見たインピーダンスの反射係数を示すスミスチャートである。また、図19は、給電回路30からインピーダンス変換回路100を見た電圧定在波比VSWRの周波数特性を示す図である。図18図19において、特性Aはアンテナ40単体での特性であり、特性Bはインピーダンス変換回路100を挿入した状態での特性である。
【0006】
アンテナ40はインダクタ及びキャパシタを含む共振回路を構成するので、アンテナ40のインピーダンスは周波数依存性を有する。そのため、図18図19に示す例では、アンテナ40のインピーダンスは共振周波数(3.59GHz)より高い周波数帯で誘導性となるが、インピーダンス変換回路100を用いることで、アンテナ40の共振周波数より高い周波数帯で特性インピーダンスとの差がより大きくなってしまう。これは、インピーダンス変換回路100の誘導性の成分によるものである。つまり、インピーダンス変換回路100はトランス素子であって、容量成分の小さいトランス素子においては自己共振周波数は通信周波数帯に対して著しく高い。
【0007】
また、インピーダンス変換回路自体のインピーダンス変換比は第1コイルL1と第2コイルL2のインダクタンスおよび結合係数で定まるが、第1コイルL1と第2コイルL2との結合係数kは1未満であるので、このインピーダンス変換回路は、等価的には理想トランスと誘導性の寄生成分とで構成される。インピーダンス変換比が適正な周波数より高い周波数帯域では、上記誘導性の寄生成分によって、インピーダンス変換比は適正比から、より離れる。
【0008】
図19に示す例では、周波数が3.76GHzより高い周波数帯ではインピーダンス変換回路100の存在により、却ってインピーダンス不整合となってしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、アンテナと給電回路とを、より広帯域でインピーダンス整合させるインピーダンス整合素子、及びそれを備えた通信端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本開示の一例としてのインピーダンス整合素子は、
給電回路が接続される第1入出力端子と、
アンテナが接続される第2入出力端子と、
複数の基材層が積層される積層体と、
前記積層体に形成され、第1端が前記第1入出力端子に接続され、第2端が前記第2入出力端子に接続された第1コイルと、第3端が前記第2入出力端子に接続され、第4端がグランド端子に接続され、前記第1コイルに電磁界結合する第2コイルと、
を有し、
前記第1コイルの自己インダクタンス、前記第2コイルの自己インダクタンス、前記第1コイルと前記第2コイルとの相互インダクタンス、及び、前記第1入出力端子とグランド端子との間または前記第2入出力端子とグランド端子との間に構成される容量により、自己共振周波数が定められ、
前記自己共振周波数が前記給電回路による通信周波数帯内にあることを特徴とする。
【0011】
(2)本開示の一例としての通信端末装置は、高周波信号を送受信するアンテナと、前記アンテナに対する給電回路と、前記アンテナと前記給電回路との間に接続されたインピーダンス整合回路と、を備えた通信端末装置であって、前記インピーダンス整合回路を上記インピーダンス整合素子で構成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アンテナと給電回路とを、より広帯域でインピーダンス整合させるインピーダンス整合素子、及びそれを備えた通信端末装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は第1の実施形態に係るインピーダンス整合素子101の斜視図である。
図2図2はインピーダンス整合素子101の分解平面図である。
図3図3(A)はインピーダンス整合素子101の回路図である。図3(B)はインピーダンス整合素子101と共にアンテナ40及び給電回路30を含む回路の回路図である。
図4図4は、図3(B)に示した第2コイルL2と容量C2とで構成される並列LC回路のリアクタンスの周波数特性を示す図である。
図5図5は、給電回路30からインピーダンス整合素子101を見たインピーダンスの反射係数を示すスミスチャートである。
図6図6は、給電回路30からインピーダンス整合素子101を見た電圧定在波比VSWRの周波数特性を示す図である。
図7図7は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子102Aの断面図である。
図8図8は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子102Bの断面図である。
図9図9は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子内の第2コイルの一つの導体パターンを示す平面図である。
図10図10は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子内の第2コイルの二つの導体パターンを示す平面図である。
図11図11は第3の実施形態に係るインピーダンス整合素子103Aと共にアンテナ40及び給電回路30を含む回路の回路図である。
図12図12は第3の実施形態に係る別のインピーダンス整合素子103Bと共にアンテナ40及び給電回路30を含む回路の回路図である。
図13図13は、図12に示した容量C1を形成するための導体パターンの例を示す分解平面図である。
図14図14は第4の実施形態に係る、インピーダンス整合素子101に付加回路を接続した回路の回路図である。
図15図15は第4の実施形態に係る、インピーダンス整合素子101に付加回路を接続した別の回路の回路図である。
図16図16は第5の実施形態に係る携帯電話端末等の通信端末装置の構成を示す図である。
図17図17は特許文献1に示されているインピーダンス変換回路を含むアンテナ装置の回路図である。
図18図18は、図17に示した構成のインピーダンス変換回路の、給電回路から見たインピーダンスの反射係数を示すスミスチャートである。
図19図19は、図17に示した給電回路30からインピーダンス変換回路100を見た電圧定在波比VSWRの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0015】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係るインピーダンス整合素子101の斜視図である。インピーダンス整合素子101は、基材層S1~S14の積層体である、直方体形状の積層体10に形成された素子であって、第1入出力端子T1と、第2入出力端子T2と、グランド端子GNDと、を備える。図1中の端子NCは空き端子である。
【0016】
図2はインピーダンス整合素子101の分解平面図である。インピーダンス整合素子101は、第1の第1コイルL11、第2の第1コイルL21、第1の第2コイルL12、第2の第2コイルL22を備える。
【0017】
第1の第1コイルL11は、基材層S2,S3に形成されて直列接続された導体パターンP11,P12を含む。第1の第2コイルL12は、基材層S4,S5,S6,S7に形成されて直列接続された導体パターンP13,P14,P15,P16を含む。同様に、第2の第1コイルL21は、基材層S13,S12に形成されて直列接続された導体パターンP21,P22を含む。第2の第2コイルL22は、基材層S11,S10,S9,S8に形成されて直列接続された導体パターンP23,P24,P25,P26を含む。
【0018】
導体パターンP21,P22による第1コイルL21の構成は、導体パターンP11,P12による第1コイルL11の構成と同じである。また、導体パターンP23,P24,P25,P26による第2コイルL22の構成は、導体パターンP13,P14,P15,P16による第2コイルL12の構成と同じである。
【0019】
第1コイルL11の第1端E11は第1入出力端子T1に接続されていて、第2端E12は第2入出力端子T2に接続されている。第2コイルL12の第3端E13はグランド端子GNDに接続されていて、第2コイルL12の第4端E14は第2入出力端子T2に接続されている。同様に、第1コイルL21の第1端E21は第1入出力端子T1に接続されていて、第2端E22は第2入出力端子T2に接続されている。第2コイルL22の第3端E23はグランド端子GNDに接続されていて、第2コイルL22の第4端E24は第2入出力端子T2に接続されている。図2中の破線は層間接続導体による接続関係を示している。
【0020】
図3(A)はインピーダンス整合素子101の回路図である。図3(B)はインピーダンス整合素子101と共にアンテナ40及び給電回路30を含む回路の回路図である。図3(A)において、容量C12は第1の第2コイルL12の層間容量による寄生容量である。また、容量C22は第2の第2コイルL22の寄生容量である。容量C12は、第1の第2コイルL12の層間容量による寄生容量であり、容量C22は、第2の第2コイルL22の層間容量による寄生容量であるが、この図に示すように、それぞれ、端子T2とグランド端子GNDとの間に接続された単一の容量(端子間容量)として表すことができる。
【0021】
なお、第1の第1コイルL11及び第2の第1コイルL21にも寄生容量が生じるが、本実施形態では小さいので、図3(A)、図3(B)では表していない。
【0022】
図3(A)に示すように、第1の第1コイルL11と第2の第1コイルL21とは並列接続されていて、第1の第2コイルL12と第2の第2コイルL22とは並列接続されている。したがって、インピーダンス整合素子101は図3(B)中のインピーダンス整合素子101のように表すことができる。このように、インピーダンス整合素子101は、第1コイルL1と第2コイルL2によるオートトランス回路と容量C2とで構成される。第1コイルL1の自己インダクタンスは第1コイルL11,L21による自己インダクタンスであり、第2コイルL2の自己インダクタンスは第2コイルL12,L22による自己インダクタンスインダクタであり、容量C2のキャパシタンスは容量C12,C22によるキャパシタンスである。このように、第2コイルL2と容量C2とで並列LC回路が構成される。したがって、インピーダンス整合素子101の自己共振周波数は、主に、上記並列LC回路の共振周波数で定まる。
【0023】
図4は、図3(B)に示した第2コイルL2と容量C2とで構成される並列LC回路のリアクタンスの周波数特性を示す図である。この例では、第2コイルL2のインダクタンスは0.8nHであり、容量C2のキャパシタンスは2.6pFである。並列LC回路の共振周波数は3.49GHzであり、それより低い周波数帯で誘導性となり、高い周波数帯で容量性となる。つまり、並列LC回路は、その共振周波数より高い周波数帯で、グランドへシャント接続された容量素子として作用する。
【0024】
図5は、給電回路30からインピーダンス整合素子101を見たインピーダンスの反射係数を示すスミスチャートである。また、図6は、給電回路30からインピーダンス整合素子101を見た電圧定在波比VSWRの周波数特性を示す図である。図5図6において、特性Aはアンテナ40単体での特性であり、特性Bは容量C2が無いインピーダンス変換素子を挿入した状態での特性であり、特性Cは本実施形態のインピーダンス整合素子101を挿入した状態での特性である。ここで、第1コイルL1の自己インダクタンスは1.2nH、第2コイルL2の自己インダクタンスは0.8nH、第1コイルL1と第2コイルL2との結合係数は0.6である。また、アンテナ40の等価回路は、シリーズ接続のインダクタ3.9nH、抵抗5Ω、及びシャント接続のキャパシタ0.5pFで構成されている。
【0025】
ここで、通信周波数帯は3.1GHz~4.1GHzであり、通信周波数帯域内にインピーダンス整合素子101の自己共振周波数3.49GHzが入る関係である。このことにより、スミスチャートの誘導性の領域に入る周波数帯でのインピーダンス整合性が改善され、より広帯域に亘って、給電回路30とアンテナ40とのインピーダンス整合が確保される。
【0026】
特に、誘導性にある周波数のうち3.76GHzより高い周波数帯において、従来例では却ってインピーダンス不整合となってしまうが、本実施形態では改善しており、広帯域に亘って整合していることがわかる。
【0027】
なお、図2では、第1コイルL11と第2コイルL12とで構成される第1のオートトランスと、第1コイルL21と第2コイルL22とで構成される第2のオートトランスと、を備える例を示したが、単一のオートトランスでインピーダンス整合素子を構成してもよい。例えば、図2において、基材層S2~S7に形成されている第1コイルL11及び第2コイルL12だけを設けてインピーダンス整合素子を構成してもよい。
【0028】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、第1の実施形態で示したインピーダンス整合素子の第2コイルに意図的に容量を形成するための幾つかの構成例について示す。
【0029】
図7は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子102Aの断面図である。積層体10内に設けられる各導体パターンの平面形状は、第1の実施形態で示したインピーダンス整合素子101の場合と同じである。
【0030】
第1の第2コイルL12を構成する導体パターンP13,P14,P15,P16の各層間隔は、第1の第1コイルL11を構成する導体パターンP11-P12間の層間隔より狭い。また、第1コイルL11と第2コイルL12との間の導体パターンP12-P13間の層間隔より狭い。同様に、第2の第2コイルL22を構成する導体パターンP23,P24,P25,P26の各層間隔は、第2の第1コイルL21を構成する導体パターンP21-P22間の層間隔より狭い。また、第1コイルL21と第2コイルL22との間の導体パターンP22-P23間の層間隔より狭い。
【0031】
第2入出力端子T2とグランド端子GNDとの間に構成される容量は第2コイルL12,L22の層間容量であるので、図7に示したように、第2コイルL12,L22を構成する導体パターンの層間隔を意図的に狭めることで、第2コイルL12,L22に並列接続される容量を効果的に大きく定めることができる。
【0032】
図8は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子102Bの断面図である。積層体10内に設けられる各導体パターンの平面形状は、第1の実施形態で示したインピーダンス整合素子101の場合と基本的には同じである。インピーダンス整合素子102Bでは、基材層の積層の方向に視て、第2コイルL12,L22は単一の周回経路を形成する。つまり、インピーダンス整合素子102Bにおいては、層間接続導体の接続部分を除いて、各層の導体パターンの内縁および外縁は、基材層の積層の方向に視て一致する。図7図8と比較すれば明らかなように、第2コイルL12を構成する導体パターンP13,P14,P15,P16の周回経路は等しく、そのことにより、導体パターンP13,P14,P15,P16の層間対向面積を大きくしている。同様に、第2コイルL22を構成する導体パターンP23,P24,P25,P26の周回経路は等しく、導体パターンP23,P24,P25,P26の層間対向面積を大きくしている。このようにして、第2コイルL12,L22に並列接続される容量を効果的に大きく定めることができる。
【0033】
図9は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子内の第2コイルの、代表する一つの導体パターンを示す平面図である。図9は、第2コイルを構成する、各基材層に形成される導体パターンの線幅をそれぞれ太くすることを示している。このことにより、第2コイルに並列接続される容量を効果的に大きく定めることができる。
【0034】
図10は第2の実施形態に係るインピーダンス整合素子内の第2コイルの二つの導体パターンを示す平面図である。この二つの導体パターンは層間で対向する。基材層S6に形成された導体パターンP15と、基材層S7に形成された導体パターンP16は、図2中に示した導体パターンP15,P16と同じである。図10において、導体パターンP16Eは、第2コイルに容量を付与するためのダミーの導体パターンであり、導体パターンP16から延長形成されている。導体パターンP16Eは、第2コイルを積層方向に視て、第2コイルが形成する周回経路を補間する形状である。そのため、この導体パターンP16Eは導体パターンP15と層間方向に対向する。したがって、導体パターンP16Eには、第2コイルを周回する電流は流れず、容量電極として作用する。
【0035】
このように、第2コイルを構成する導体パターンに容量形成用のダミーの導体パターンを設けることによって、第2コイルに並列接続される容量を効果的に大きく定めることができる。
【0036】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、これまでに示した例とは、容量の付与位置が異なるインピーダンス整合素子について示す。
【0037】
図11は第3の実施形態に係るインピーダンス整合素子103Aと共にアンテナ40及び給電回路30を含む回路の回路図である。図11において、容量C1は第1入出力端子T1とグランドとの間に形成された容量である。インピーダンス整合素子103Aは、第1コイルL1、第2コイルL2及び容量C1で構成されている。第1コイルL1と第2コイルL2とでオートトランス形のインピーダンス変換回路が構成される点は第1、第2の実施形態で示した例と同じである。
【0038】
インピーダンス整合素子103Aは第1コイルL1、第2コイルL2及び容量C1によるLC回路であるので、自己共振周波数を有する。第1の実施形態で示したとおり、その共振周波数より高い周波数帯で、容量C1はグランドへシャント接続された容量素子として作用する。また、第2コイルL2のリアクタンスが、図3(B)に示した容量C2のリアクタンスで打ち消されるようなことはないため、第1コイルL1と第2コイルL2とによる変成比の低下をなくすことができる。そのため、第1入出力端子T1からインピーダンス整合素子103Aを見たインピーダンスをスミスチャート上に表したとき、スミスチャートの誘導性の領域に入る周波数帯でのインピーダンス整合性が改善され、より広帯域に亘って、給電回路30とアンテナ40とのインピーダンス整合が確保される。
【0039】
図12は第3の実施形態に係る別のインピーダンス整合素子103Bと共にアンテナ40及び給電回路30を含む回路の回路図である。図12において、容量C1は第1入出力端子T1とグランドとの間に形成された容量であり、容量C2は第2入出力端子T2とグランドとの間に形成された容量である。インピーダンス整合素子103Bは、第1コイルL1、第2コイルL2、容量C1及び容量C2で構成されている。第1コイルL1と第2コイルL2とでオートトランス形のインピーダンス変換回路が構成される点は第1、第2の実施形態で示した例と同じである。
【0040】
インピーダンス整合素子103Bは第1コイルL1、第2コイルL2、容量C1及び容量C2によるLC回路であるので、自己共振周波数を有する。第1の実施形態で示したとおり、その共振周波数より高い周波数帯で、容量C1はグランドへシャント接続された容量素子として作用する。そのため、第1入出力端子T1からインピーダンス整合素子を見たインピーダンスをスミスチャート上に表したとき、スミスチャートの誘導性の領域に入る周波数帯でのインピーダンス整合性が改善され、より広帯域に亘って、給電回路30とアンテナ40とのインピーダンス整合が確保される。
【0041】
図12に示した容量C2を形成するための構成は、第1、第2の実施形態で示したとおりである。
【0042】
図13は、図12に示した容量C1を形成するための導体パターンの例を示す分解平面図である。インピーダンス整合素子103Bは、第1の第1コイルL11、第2の第1コイルL21、第1の第2コイルL12、第2の第2コイルL22を備える。これらコイルを構成する各導体パターンは、第1の実施形態において図2に示した例と同じである。図2に示した例と異なるのは、導体パターンPC11,PC12,PC21,PC22を備える点である。
【0043】
導体パターンPC11は第1コイルL11の第1端E11を介して第1入出力端子T1に導通していて、導体パターンPC12はGND端子に導通している。同様に、導体パターンPC21は第1コイルL21の第1端E21を介して第1入出力端子T1に導通していて、導体パターンPC12はGND端子に導通している。導体パターンPC11,PC12は積層方向に対向していて、導体パターンPC21,PC22は積層方向に対向している。このようにして、容量C1を形成することができる。
【0044】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、インピーダンス整合素子に付加回路を設けた例を示す。
【0045】
図14は第4の実施形態に係る、インピーダンス整合素子101に付加回路を接続した回路の回路図である。この例では、インピーダンス整合素子101の第1入出力端子T1と第2入出力端子T2との間にキャパシタC3とスイッチSW1との直列回路が接続されている。また、インピーダンス整合素子101のグランド端子GNDとグランドとの間に、スイッチSW2及びキャパシタC4による回路が接続されている。
【0046】
図14において、スイッチSW1をオンさせれば、第1コイルL1にキャパシタC3が並列接続される。スイッチSW2がキャパシタC4(一方側)を選択すれば、第2コイルL2と容量C2との並列回路とグランドとの間にキャパシタC4が挿入される。また、スイッチSW2が他方側を選択すれば、インピーダンス整合素子101のグランド端子GNDがそのままグランドに接続されることになる。このように、スイッチSW1,SW2の選択によって、インピーダンス整合素子101の整合特性に周波数依存性を付与できる。
【0047】
図15は第4の実施形態に係る、インピーダンス整合素子101に付加回路を接続した別の回路の回路図である。この例では、インピーダンス整合素子101の第1入出力端子T1と第2入出力端子T2との間に、キャパシタC3、インダクタL3及びスイッチSW1による回路が接続されている。また、インピーダンス整合素子101のグランド端子GNDとグランドとの間に、スイッチSW2、キャパシタC4及びインダクタL4による回路が接続されている。したがって、スイッチSW1,SW2の選択によって、インピーダンス整合素子101の整合特性に様々な周波数依存性を付与できる。
【0048】
なお、図14図15に示した例では、給電回路30とインピーダンス整合素子101との間、インピーダンス整合素子101とアンテナ40との間にそれぞれ整合回路を設けている。
【0049】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では、インピーダンス変換素子を備える通信端末装置について例示する。
【0050】
図16は第5の実施形態に係る携帯電話端末等の通信端末装置の構成を示す図である。この図16では、通信端末装置の筐体内の主要部について表している。筐体内にアンテナ40及び回路基板が設けられていて、回路基板にはグランド導体50、インピーダンス整合素子101及び給電回路30が設けられている。アンテナ40はT分岐型アンテナである。グランド導体50はアンテナ40のイメージ形成用導体として作用、またはアンテナ40とともに放射素子として作用する。
【0051】
アンテナ40のインピーダンスは例えば20Ω、給電回路30のインピーダンスは50Ωであり、インピーダンス整合素子101は2.5:1の比でインピーダンス変換する。
【0052】
本実施形態によれば、低挿入損失で、電気的特性のばらつきの小さなインピーダンス変換回路をアンテナ回路に備えた通信端末装置が得られる。
【0053】
最後に、本発明は上述した実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【符号の説明】
【0054】
C1,C2,C12,C22…容量
C3,C4…キャパシタ
E11,E21…第1端
E12,E22…第2端
E13,E23…第3端
E14,E24…第4端
GND…グランド端子
L1…第1コイル
L2…第2コイル
L11…第1の第1コイル
L12…第1の第2コイル
L21…第2の第1コイル
L22…第2の第2コイル
L3,L4…インダクタ
NC…空き端子
P11,P12,P13,P14,P15,P16…導体パターン
P16E…導体パターン
P21,P22,P23,P24,P25,P26…導体パターン
PC11,PC12,PC21,PC22…導体パターン
S1~S14…基材層
SW1,SW2…スイッチ
T1…第1入出力端子
T2…第2入出力端子
10…積層体
30…給電回路
40…アンテナ
50…グランド導体
100…インピーダンス変換回路
101,102A,102B,103A,103B…インピーダンス整合素子
図1
図2
図3
図4
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図10
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図19