(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】モーターロータ及びモーターロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/278 20220101AFI20240305BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H02K1/278
H02K15/03
(21)【出願番号】P 2022553770
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033515
(87)【国際公開番号】W WO2022070858
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020165150
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 海
(72)【発明者】
【氏名】大岩 直貴
(72)【発明者】
【氏名】米山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】勝 義仁
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/008813(WO,A1)
【文献】特開2012-105482(JP,A)
【文献】特開2011-091906(JP,A)
【文献】特開平11-032455(JP,A)
【文献】特開2013-116002(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/278
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の外周面に配置されたインナースリーブと、
前記インナースリーブの外周面に配置された磁石構造体と、を備え、
前記磁石構造体は、前記インナースリーブの外周面を覆うように配置された複数の磁石片と、前記インナースリーブと前記複数の磁石片との間及び前記複数の磁石片の間に充填された樹脂部材と、を含み、
前記複数の磁石片のうち、少なくとも一個の前記磁石片の形状は、そのほかの前記磁石片の形状と異な
り、
前記樹脂部材は、前記インナースリーブと前記複数の磁石片との間に充填された第1の樹脂部と、前記複数の磁石片の間に充填された第2の樹脂部と、を含み、
前記第1の樹脂部は、前記第2の樹脂部と一体となっている、
モーターロータ。
【請求項2】
前記複数の磁石片の間において、前記樹脂部材が接している前記磁石片の面の表面粗さは、前記インナースリーブと前記複数の磁石片との間において、前記樹脂部材が接している前記磁石片の面の表面粗さよりも大きい請求項1記載のモーターロータ。
【請求項3】
前記インナースリーブの前記外周面には、周方向成分を含む方向に延在する溝が形成されている請求項1又は2記載のモーターロータ。
【請求項4】
前記インナースリーブの軸方向における第1端部には、前記軸方向における前記磁石構造体の内周面に対向する部位よりも小径になるように形成された小径部が形成されている請求項1~3のいずれか一項記載のモーターロータ。
【請求項5】
インナースリーブと、円筒形の磁石と、を金型に配置するステップと、
前記インナースリーブと前記磁石との間に未硬化の樹脂を充填するステップと、を有し、
前記樹脂を充填するステップでは、前記磁石が破断する圧力よりも大きな圧力を前記樹脂に与えるモーターロータの製造方法。
【請求項6】
前記金型に配置するステップでは、前記金型の内径よりも小さい外径を有する前記磁石を配置することにより、前記金型の内周面と前記磁石の外周面との間に隙間を形成し、
前記樹脂を充填するステップでは、前記樹脂が充填される圧力によって前記磁石を破断させた後、継続して前記樹脂に前記圧力を与え続ける請求項5記載のモーターロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モーターロータ及びモーターロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモーターロータとして、特許文献1又は2に記載されるように、過給機などの回転機械に適用されるモーターロータが知られている。例えば、特許文献1に記載の永久磁石式回転子は、平滑層と磁石挿入用開口部の内壁との間に収容された焼結磁石からなる永久磁石片を有する。この構造によれば、永久磁石片の遠心力による荷重をロータ鉄心に均一に作用させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-60860号公報
【文献】特開2002-359955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過給機のような回転機械に適用されるモーターロータは、回転バランスの観点から回転軸の回転軸線をモーターロータの回転軸線に一致させることが求められる。しかしながら、例えばロータを構成する磁石の外形寸法は、精度よく仕上げることが難しい。その結果、回転軸の回転軸線に対してモーターロータの回転軸線を十分に一致させにくくなるので、モーターロータの回転バランスを向上させることが難しい。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、回転バランスを向上させることができるモーターロータ及びモーターロータの製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るモーターロータは、回転軸と、回転軸の外周面に配置されたインナースリーブと、インナースリーブの外周面に配置された磁石構造体と、を備える。磁石構造体は、インナースリーブの外周面を覆うように配置された複数の磁石片と、インナースリーブと複数の磁石片との間及び複数の磁石片の間に充填された樹脂部材と、を含む。複数の磁石片は、互いに形状が異なっている。
【発明の効果】
【0007】
本開示のモーターロータ及びモーターロータの製造方法は、回転バランスを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、モーターロータを含んで構成される過給機の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したモーターロータを抽出して示す断面図である。
【
図3】
図3は、インナースリーブ及び磁石片の構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、モーターロータの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、磁石等配置ステップの一例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第1の樹脂部形成ステップの一例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、亀裂形成ステップの一例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第2の樹脂部形成ステップの一例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、保護層配置ステップの一例を示す断面図である。
【
図12】
図12は、第3の樹脂部形成ステップの一例を示す断面図である。
【
図13】
図13は、第4の樹脂部形成ステップの一例を示す断面図である。
【
図14】
図14は、モーターロータの比較例を示す断面図である。
【
図15】
図15は、本開示のモーターロータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一側面に係るモーターロータは、回転軸と、回転軸の外周面に配置されたインナースリーブと、インナースリーブの外周面に配置された磁石構造体と、を備える。磁石構造体は、インナースリーブの外周面を覆うように配置された複数の磁石片と、インナースリーブと複数の磁石片との間及び複数の磁石片の間に充填された樹脂部材と、を含む。複数の磁石片のうち、少なくとも一個の磁石片の形状は、そのほかの磁石片の形状と異なる。
【0010】
このモーターロータは、磁石構造体が複数の磁石片を含んでいる。複数の磁石片は樹脂部材によって互いに接合されている。そして、樹脂部材は、インナースリーブと磁石構造体との間にも充填されている。これらのような構成を得るためには、まず、インナースリーブと、略円筒形の磁石とを金型に配置する。続いて、磁石が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂に与える。磁石が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂に与えることにより、磁石に亀裂が生じるので、複数の磁石片を形成することができる。複数の磁石片は、それぞれが金型の内周面に倣うように移動させることが可能である。金型の内周面に対して磁石片を押し付けることができる。金型の内周面は、回転軸線に対して高精度に位置合わせがなされている。金型の内周面に対して磁石片を押し付けることによって、磁石片により構成される磁石構造体の軸線は、金型が有する位置合わせの精度と同様の精度をもって、回転軸線に合わせることができる。したがって、モーターロータの回転バランスを向上させることができる。
【0011】
一側面のモーターロータは、複数の磁石片の間において、樹脂部材が接している磁石片の面の表面粗さは、インナースリーブと複数の磁石片との間において、樹脂部材が接している磁石片の面の表面粗さよりも大きくてもよい。このような構成によっても、モーターロータの回転バランスを向上させることができる。
【0012】
一側面のモーターロータにおいて、インナースリーブの外周面には、周方向成分を含む方向に延在する溝が形成されていてもよい。この場合、インナースリーブと磁石片との間に形成された隙間に樹脂が充填される。この際、周方向成分を含む方向に樹脂の流動を溝によって案内することができる。この結果、樹脂が隙間に対して周方向に均等に行き渡り易くなる。樹脂が隙間に対して周方向に均等に行き渡り易くなることにより、複数の磁石片の周方向に対してより均一に圧力を加えることができる。この結果、複数の磁石片をより均一に金型の内周面に押し付けることができる。したがって、モーターロータの回転バランスを向上させることができる。
【0013】
一側面のモーターロータにおいて、インナースリーブの軸方向における第1端部には、軸方向における磁石構造体の内周面に対向する部位よりも直径が小さくなるように形成された小径部が形成されていてもよい。この場合、インナースリーブの軸方向における第1端部に充填される樹脂のための入口を広くすることができる。充填される樹脂のための入口が広くなると、樹脂はインナースリーブと磁石片との間に形成された隙間に対して周方向に均等に行き渡り易くなる。この結果、複数の磁石片の周方向に対してより均一に圧力を加えることができる。複数の磁石片により均一に圧力を加えることができるので、複数の磁石片をより均一に金型の内周面に押し付けることができる。したがって、回転バランスを向上させることができる。
【0014】
本開示の別の側面に係るモーターロータの製造方法は、インナースリーブと、円筒形の磁石と、を金型に配置するステップと、インナースリーブと磁石との間に未硬化の樹脂を充填するステップと、を有する。樹脂を充填するステップでは、磁石が破断する圧力よりも大きな圧力を樹脂に与える。
【0015】
このモーターロータの製造方法では、まず、インナースリーブと、略円筒形の磁石とを金型に配置する。続いて、磁石が破断する圧力よりも大きな圧力を樹脂に与える。磁石が破断する圧力よりも大きな圧力を樹脂に与えることにより、磁石に亀裂が生じる。磁石の亀裂は、略円筒形の磁石から複数の磁石片を形成すると共に、それら複数の磁石片を金型に押し付けることを可能にする。金型の内周面は、回転軸線に対して高精度に位置合わせがなされている。金型の内周面が回転軸線に対して高精度に位置合わせがなされているので、金型の内周面に対して押し付けられた複数の磁石片は、金型が有する位置合わせの精度と同様の精度をもった磁石構造体を構成することができる。したがって、モーターロータの回転バランスを向上させることができる。
【0016】
別の側面であるモーターロータの製造方法において、金型に配置するステップでは、金型の内径よりも小さい外径を有する磁石を配置することにより、金型の内周面と磁石の外周面との間に隙間を形成してもよい。樹脂を充填するステップでは、樹脂が充填される圧力によって磁石を破断させた後、継続して樹脂に圧力を与え続けてもよい。この場合、金型の内周面と磁石の外周面との間に隙間が形成される。この隙間は、磁石の動きしろとなる。この結果、回転軸線に対して高精度に位置合わせされた金型の内周面の形状に倣わせるように、磁石を配置することができる。また、樹脂の充填によって磁石を破断させた後、継続して樹脂に圧力を与え続けることができる。この結果、磁石を金型の内周面により確実に押し付けることができる。したがって、回転バランスを向上させることができる。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本開示のモーターロータ及びモーターロータの製造方法の実施形態について詳細に説明する。各図では、同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本開示のモーターロータ25を含む過給機1の断面図である。過給機1は、モーターロータ25を備えた車両用過給機である。以下の説明で、「軸方向」と言うときは、後述する回転軸14の軸方向を意味する。「径方向」と言うときは、回転軸14の径方向を意味する。「周方向」と言うときは、回転軸14の周方向を意味する。
【0019】
過給機1は、車両等の内燃機関に適用される。過給機1は、外気の吸入及び圧縮に用いられる。
図1に示すように、過給機1は、過給機1の第1端部に設けられたタービン2と、過給機1の第2端部に設けられたコンプレッサ3と、を含む。過給機1は、回転軸線Hを有する回転軸14を備えている。回転軸14は、タービン2及びコンプレッサ3に挿通されている。回転軸14は、軸受ハウジング13に収容されている。軸受ハウジング13は、タービン2及びコンプレッサ3の間に設けられている。軸受ハウジング13の内周面には、軸受15が配置されている。回転軸14は、軸受15を介して軸受ハウジング13に回転可能に支持されている。
【0020】
タービン2は、内燃機関から排出された排気ガスを利用することにより、回転軸14を回転させる。タービン2は、タービンハウジング4と、タービン翼車6と、を含む。タービン翼車6は、タービンハウジング4に収容されている。タービンハウジング4には、排気ガス流入口と、排気ガス流出口10とが設けられている。排気ガス流出口10は、タービン2の第1端部に向かって開口する。タービン翼車6は、回転軸14の第1端部に設けられている。タービン翼車6の周囲には、周方向に延びているスクロール流路16が設けられている。タービン2は、内燃機関の排気ガスを排気ガス流入口からタービンハウジング4内に流入させる。この結果、タービン2は、排気ガスによってタービン翼車6及び回転軸14を回転させる。タービン2は、排気ガス流出口10からタービンハウジング4の外部に排気ガスを流出させる。
【0021】
コンプレッサ3は、外気を圧縮する。コンプレッサ3は、圧縮した空気を内燃機関に供給する。コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング5と、コンプレッサ翼車7と、を含む。コンプレッサ翼車7は、コンプレッサハウジング5に収容されている。コンプレッサハウジング5には、吐出口と、吸入口9とが設けられている。吸入口9は、コンプレッサ3の第2端部に向かって開口する。コンプレッサ翼車7は、回転軸14の第2端部に設けられている。コンプレッサ翼車7の周囲には、周方向に延びているスクロール流路17が設けられている。コンプレッサ3は、タービン2の駆動によってコンプレッサ翼車7を回転させる。コンプレッサ3は、吸入口9から外部の空気をコンプレッサハウジング5内に吸入させる。コンプレッサ3は、当該空気をスクロール流路17内に流入させる。コンプレッサ3によって圧縮された空気は、吐出口から吐出される。吐出された空気は、前述の内燃機関に供給される。
【0022】
過給機1は、電動機21を有している。電動機21は、例えば過給機1が搭載された車両の加速時等、内燃機関の排気ガスに起因して生じるトルクが要求されるトルクに対して不足する場合に、回転軸14に対してトルクを付与する。電動機21は、例えばブラシレス直流電動機を用いることができる。電動機21は、モーターロータ25と、複数のコイル及び複数の鉄心を含むモーターステータ27と、を有している。
【0023】
モーターロータ25は、コンプレッサハウジング5の内部に収容されている。モーターロータ25は、軸方向に沿って、軸受15とコンプレッサ翼車7との間に配置されている。モーターロータ25は、回転軸14に固定されている。モーターロータ25は、回転軸14と共に回転可能である。モーターステータ27は、コンプレッサハウジング5の内部に収容されている。モーターステータ27は、軸方向に沿って、モーターロータ25と略同一の位置に配置されている。モーターステータ27は、モーターロータ25を包囲する。モーターステータ27は、コンプレッサハウジング5に配置されている。モーターステータ27の内周面は、モーターロータ25の外周面と離間している。モーターロータ25の構成については、後述する。
【0024】
図2は、
図1に示したモーターロータ25を抽出して示す断面図である。
図2に示すように、モーターロータ25は、インナースリーブ31と、磁石構造体32と、を備える組立体である。モーターロータ25は、略円柱形を呈する。モーターロータ25の回転軸線は、回転軸14の回転軸線Hと重複している。
【0025】
インナースリーブ31は、回転軸14の外周面14aに配置された略円筒形の部材である。インナースリーブ31の内周面31bは、回転軸14の外周面14aに接している。インナースリーブ31は、大径部33と、基体部34と、小径部35(
図3参照)と、によって構成されている。大径部33は、軸方向における中央部に設けられている。基体部34は、軸方向における両端側を構成する。小径部35は、大径部33と基体部34との間に形成されている。
【0026】
磁石構造体32は、インナースリーブ31の外周面31aに接している。軸方向に沿う磁石構造体32の長さは、インナースリーブ31の大径部33の長さよりも長くなっている。磁石構造体32は、インナースリーブ31の大径部33を包囲するように配置されている。
図2に示すように、磁石構造体32は、磁石部36と、保護層38と、エンドリング39aと、エンドリング39bと、を含んでいる。
【0027】
磁石部36は、略円筒形を呈する。磁石部36は、複数の磁石片60と、第2の樹脂部52とによって構成されている。磁石部36は、インナースリーブ31の大径部33を包囲するように配置されている。磁石部36の内周面36bと大径部33の外周面33aとの間には、第1の樹脂部51が形成されている。磁石部36には、亀裂群Cが形成されている。亀裂群Cには、第2の樹脂部52が形成されている。亀裂群Cについては、後述する。第1の樹脂部51及び第2の樹脂部52は、樹脂部材を構成する。
【0028】
保護層38は、略円筒形を呈する金属製の部材である。保護層38は、磁石部36を包囲するように配置されている。保護層38は、「アーマーリング」と呼ばれる場合もある。保護層38は、過給機1の駆動に際し、磁石部36の飛散を防止することを目的として配置される。保護層38の内周面38bと磁石部36の外周面36aとの間には、第3の樹脂部53が形成されている。軸方向に沿う保護層38の長さは、磁石部36の長さと略等しくなっている。
【0029】
エンドリング39a及びエンドリング39bは、略円環状の部材である。エンドリング39a及びエンドリング39bは、磁石部36及び保護層38の軸方向に沿った位置ずれを抑制する。エンドリング39aは、軸方向に沿った磁石構造体32の一方の端部を構成する。エンドリング39bは、軸方向に沿った磁石構造体32の他方の端部を構成する。エンドリング39aと磁石部36との間には、第4の樹脂部54aが形成されている。エンドリング39aと保護層38との間にも、第4の樹脂部54aが形成されている。エンドリング39bと磁石部36との間には、第4の樹脂部54bが形成されている。エンドリング39bと保護層38との間にも、第4の樹脂部54bが形成されている。エンドリング39a及びエンドリング39bは、インナースリーブ31の基体部34の外周面34aに接するように配置されている。エンドリング39a及びエンドリング39bは、軸方向に沿ってインナースリーブ31の大径部33を挟むように配置されている。エンドリング39aの外径及びエンドリング39bの外径は、保護層38の外径と略等しくなっている。
【0030】
インナースリーブ31の材料としては、例えばSCM435H等の鋼材を採用してよい。磁石部36の材料としては、例えば、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)、サマリウムコバルト磁石などを採用してよい。保護層38の材料としては、金属材料(例えばTi-6Al-4V等の非磁性体金属)又は樹脂材料を採用してよい。エンドリング39a及びエンドリング39bの材料としては、例えばSUS等の非磁性体金属、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂などを採用してよい。
【0031】
第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、第3の樹脂部53及び第4の樹脂部54a,54bの材料としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂等を採用してよい。更に具体的には、第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、第3の樹脂部53及び第4の樹脂部54a,54bの材料としては、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂又はエポキシ樹脂を採用してよい。第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、第3の樹脂部53及び第4の樹脂部54a,54bの材料としては、熱可塑性樹脂であるLCP(液晶ポリマー)を採用してよい。なお、本発明者らの試験によれば、LCPは、フェノール樹脂に比べて射出成形時の流動性が高い。LCPは、フェノール樹脂に比べて比較的入手が容易である。したがって、LCPは、第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、第3の樹脂部53及び第4の樹脂部54a,54bの材料として好ましい。フェノール樹脂は、LCPに比べて耐熱性、剛性、及び耐環境性に優れる。したがって、フェノール樹脂は、第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、第3の樹脂部53及び第4の樹脂部54a,54bの材料として好ましい。エポキシ樹脂は、素材自体に密着性があるので第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、第3の樹脂部53及び第4の樹脂部54a,54bの材料として好ましい。
【0032】
図3は、インナースリーブ31及び磁石片60の構成の一例を示す図である。
図3では、モーターロータ25のうち、インナースリーブ31及び磁石片60だけが図示されており、他の構成は省略されている。
【0033】
図3に示すように、大径部33の外周面33aには、周方向成分を含む方向に延在する溝41が形成されている。溝41は、周方向溝41aと、複数のローレット溝41bと、によって構成されている。周方向溝41aは、周方向に延びている。周方向溝41aは、軸方向に沿って等間隔に形成されている。複数のローレット溝41bは、軸方向に沿って螺旋状に延びている。複数のローレット溝41bは、互いに交差するように2方向に延びている。複数のローレット溝41bが互いに交差するように2方向に延びていることにより、複数のローレット溝41bは、綾目の模様を呈している。
【0034】
インナースリーブ31の第1端部では、大径部33と基体部34との間には、小径部35が形成されている。小径部35の外径は、インナースリーブ31の第1端部に向かうにつれて小さくなっている。小径部35は、テーパ状を呈している。
【0035】
図4は、
図2におけるIV-IV線断面図である。上述したように、磁石部36には、亀裂群Cが形成されている。
図4に示すように、軸方向から見て、亀裂群Cは、第1の亀裂C1と、第2の亀裂C2と、第3の亀裂C3と、第4の亀裂C4と、を含む。第2の亀裂C2は、第1の亀裂C1と対向する位置に形成されている。第3の亀裂C3は、周方向に沿って第1の亀裂C1及び第2の亀裂C2の間に形成されている。第4の亀裂C4は、第3の亀裂C3と対向する位置に形成されている。例えば、第1の亀裂C1は、磁石部36の内周面36bから磁石部36の外周面36aに達するように形成されている。第2の亀裂C2、第3の亀裂C3及び第4の亀裂C4も、磁石部36の内周面36bから磁石部36の外周面36aに達するように形成されている。
【0036】
亀裂群Cは、後述するモーターロータ25の製造方法により、永久磁石70(
図7参照)の脆性破壊(Brittle fracture)によって形成される。永久磁石70が脆性破壊されることにより、磁石片60の破断面60sの表面粗さは、磁石片60の内周面60bの表面粗さよりも大きくなっている。破断面60sは、磁石片60の一部分である。破断面60sには、複数の磁石片60の間に充填された第2の樹脂部52が接している。内周面60bは、磁石片60の別の部分である。内周面60bには、インナースリーブ31(
図2参照)と磁石片60との間に充填された第1の樹脂部51が接している。ここで言う「表面粗さ」には、例えば、JIS B 0601等に記載された算術平均粗さ、最大高さ及び十点平均粗さ等の定義を用いてよい。
【0037】
図5は、磁石片60の一例を示す斜視図である。
図5に示すように、亀裂群Cは、第5の亀裂C5と、第6の亀裂C6と、をさらに含む。第5の亀裂C5は、第1の亀裂C1及び第3の亀裂C3の間に位置している。第5の亀裂C5は、周方向に延びている。第5の亀裂C5は、第6の亀裂C6よりも第1端部に近い位置に形成されている。このような亀裂群Cが形成されることにより、複数の磁石片60が形成されている。複数の磁石片60は、第2の樹脂部52(
図2参照)によって互いに接合されている。この結果、複数の磁石片60は、略円筒形である磁石部36を構成している。
【0038】
続いて、以上のようなモーターロータ25を製造する方法を説明する。
図6は、本開示のモーターロータ25の製造方法を示すフローチャートである。
図6に示すように、モーターロータ25の製造方法は、磁石等配置ステップS01と、第1の樹脂部形成ステップS02と、亀裂形成ステップS03と、第2の樹脂部形成ステップS04と、保護層配置ステップS05と、第3の樹脂部形成ステップS06と、第4の樹脂部形成ステップS07と、を有している。
【0039】
図7は、磁石等配置ステップS01の一例を示す断面図である。
図7に示すように、磁石等配置ステップS01(金型に配置するステップ)では、インナースリーブ31と、略円筒形の永久磁石70と、を金型55に配置する。金型55内には、インナースリーブ31の大径部33を包囲するように永久磁石70を配置する。永久磁石70の内周面70bは、大径部33の外周面33aと離間させる。永久磁石70の外周面70aは、金型55の内周面55bから離間させる。永久磁石70の第1端部の端面は、金型55の第1端部の端面と面一になっている。金型55の内径よりも小さい外径を有する永久磁石70を配置する。金型55の内径よりも小さい外径を有する永久磁石70を配置することにより、金型55の内周面55bと永久磁石70の外周面70aとの間に隙間Gが形成される。隙間Gは、例えば永久磁石70の加工に際して実現できる寸法公差(Dimensional tolerance)よりも大きく形成される。換言すると、隙間Gは、永久磁石70が含む基準寸法に対するずれを吸収する。隙間Gは、永久磁石70の外形を理想的な外形にできる程度の余裕であるともいえる。
【0040】
図8は、第1の樹脂部形成ステップS02の一例を示す断面図である。
図8に示すように第1の樹脂部形成ステップS02(樹脂を充填するステップ)では、金型55の第1端部に蓋56を配置する。インナースリーブ31と永久磁石70との間に未硬化の樹脂50aを充填する。金型55の蓋56には、注入口56aが設けられている。注入口56aは、蓋56の第1端部と蓋56の第2端部とを連通する。第1の樹脂部形成ステップS02では、注入口56aから未硬化の樹脂50aを充填する。注入口56aから未硬化の樹脂50aを充填することにより、インナースリーブ31の外周面31aと永久磁石70の内周面70bとの間に未硬化の樹脂50aを充填できる。未硬化の樹脂50aを充填することにより、第1の樹脂部51が射出成形される。第1の樹脂部形成ステップS02では、永久磁石70が破断する圧力よりも小さな圧力を未硬化の樹脂50aに与えてもよい。
【0041】
図9は、亀裂形成ステップS03の一例を示す断面図である。亀裂形成ステップS03では、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与えることにより、亀裂群Cが形成される。亀裂群Cを形成することにより、複数の磁石片60が形成される。なお、未硬化の樹脂50aに圧力を与えることによって永久磁石70を破断させている。したがって、亀裂群Cを構成する複数の亀裂は、直線的に形成されなくてもよい。亀裂群Cには、複数の亀裂が合流する分岐点が含まれてもよい。換言すると、亀裂群Cには、奇数又は偶数の亀裂が合流する分岐点が含まれてもよい。
【0042】
図10は、第2の樹脂部形成ステップS04の一例を示す断面図である。
図10に示すように、第2の樹脂部形成ステップS04では、未硬化の樹脂50aが充填される圧力によって複数の磁石片60を形成した後に、継続して未硬化の樹脂50aに圧力を与え続ける。このときの圧力は、第1の樹脂部形成ステップS02と同じであってもよい。つまり、複数の磁石片60を形成した後に与え続ける圧力は、亀裂形成ステップS03の圧力から小さくしてもよい。また、複数の磁石片60を形成した後に与え続ける圧力は、亀裂形成ステップS03と同じであってもよい。つまり、複数の磁石片60を形成した後に与え続ける圧力は、亀裂形成ステップS03の圧力から変更しなくてもよい。未硬化の樹脂50aが充填される圧力によって複数の磁石片60を形成した後に、継続して未硬化の樹脂50aに圧力を与え続けることにより、磁石片60の間に形成された亀裂群Cに未硬化の樹脂50aが充填される。この結果、第2の樹脂部52を形成することができる。また、未硬化の樹脂50aに継続して圧力を付与する。この結果、隙間Gが形成されている部分に位置する磁石片60は、径方向に移動する。磁石片60を径方向に移動させることにより、磁石片60を金型55の内周面55bに押し付ける。したがって、複数の磁石片60は、金型55の内周面55bの形状に倣うように配置される。
【0043】
以上のステップを経る間に、未硬化の樹脂50aは、金型55が有する熱によって次第に硬化していく。未硬化の樹脂50aが硬化したものが、第1の樹脂部51である。第1の樹脂部51が形成された後、蓋56を取り外す。そして、金型55からインナースリーブ31と磁石部36とを含む中間製造物を取り外す。
【0044】
図11は、保護層配置ステップS05の一例を示す断面図である。
図11に示すように、保護層配置ステップS05では、インナースリーブ31と、磁石部36と、保護層38とを金型58の内部に配置する。磁石部36は、第1の樹脂部51によってインナースリーブ31と接合されている。金型58の内径は、保護層38の外径と略等しい。すなわち、金型58の内径は、金型55の内径よりも大きい。保護層38は、磁石部36を包囲するように配置する。保護層38の内周面38bは、磁石部36の外周面36aと離間させる。
【0045】
図12は、第3の樹脂部形成ステップS06の一例を示す断面図である。
図12に示すように、第3の樹脂部形成ステップS06では、金型58の第1端部に蓋59を配置する。その後、磁石部36と保護層38との間に未硬化の樹脂50bを充填する。蓋59には、注入口59aが設けられている。注入口59aは、蓋59の第1端部と蓋59の第2端部とを連通する。注入口59aから未硬化の樹脂50bを充填する。注入口59aから未硬化の樹脂50bを充填することにより、磁石部36の外周面36aと保護層38の内周面38bとの間に第3の樹脂部53を形成することができる。
【0046】
図13は、第4の樹脂部形成ステップS07の一例を示す断面図である。
図13に示すように、第4の樹脂部形成ステップS07では、まず、インナースリーブ31、磁石部36、保護層38、第1の樹脂部51、第2の樹脂部52、及び第3の樹脂部53を金型58から取り外す。その後、インナースリーブ31に回転軸14を挿通する。続いて、第1の樹脂部51の第1端部及び第3の樹脂部53の第1端部を研磨する。第1の樹脂部51の第1端部及び第3の樹脂部53の第1端部を研磨することにより、磁石部36の第1端部の端面及び保護層38の第1端部の端面とを一致させる。その後、一端面71aを形成する。磁石部36の第2端部の端面と面一になるように、第1の樹脂部51の第2端部を研磨する。保護層38の第2端部の端面と面一になるように、第3の樹脂部53の第2端部を研磨する。その後、他端面71bを形成する。続いて、一端面71aに未硬化の樹脂を塗布する。他端面71bにも未硬化の樹脂を塗布する。次に、インナースリーブ31にエンドリング39a及びエンドリング39bをそれぞれ圧入する。その後、未硬化の樹脂に対してエンドリング39a及びエンドリング39bを押し付ける。その結果、第4の樹脂部54a,54bを形成することができる。このような工程を経て、
図2に示すモーターロータ25が得られる。
【0047】
モーターロータ25の磁石構造体32は、複数の磁石片60を含んでいる。複数の磁石片60は、第2の樹脂部52によって互いに接合されている。そして、第1の樹脂部51は、インナースリーブ31と磁石構造体32との間にも充填されている。このような構成を得るためには、まず、インナースリーブ31と、略円筒形の永久磁石70とを金型55に配置する。続いて、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与えることにより、永久磁石70に亀裂群Cが生じるので、複数の磁石片60を形成することができる。複数の磁石片60は、金型55に押し付けることが可能である。その結果、モーターロータ25が得られる。金型55の内周面55bは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせがなされている。したがって、この金型55の内周面55bに対して磁石片60を押し付けることにより磁石構造体32も、金型55が有する位置合わせの精度と同様の精度をもって構成することができる。したがって、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0048】
複数の磁石片60の間に充填された第2の樹脂部52が接している磁石片60の破断面60sの表面粗さは、インナースリーブ31と複数の磁石片60との間に充填された第1の樹脂部51が接している磁石片60の内周面60bの表面粗さよりも大きい。このような構成によっても、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0049】
インナースリーブ31の外周面31aには、周方向成分を含む方向に延在する溝41が形成されているインナースリーブ31と永久磁石70との間に形成された隙間には、未硬化の樹脂50aが充填される。この際、周方向成分を含む方向に未硬化の樹脂50aの流動を溝41によって案内することができる。この結果、未硬化の樹脂50aが隙間に対して周方向に均等に行き渡り易くなる。未硬化の樹脂50aが隙間に対して周方向に均等に行き渡り易くなることにより、複数の磁石片60の周方向に対してより均一に圧力を加えることができる。この結果、複数の磁石片60をより均一に金型55の内周面55bに押し付けることができる。したがって、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0050】
インナースリーブ31の軸方向における第1端部には、大径部33よりも直径が小さくなるように形成された小径部35が形成されている。この場合、インナースリーブ31の軸方向における第1端部に充填される未硬化の樹脂50aのための入口を広くすることができる。充填される未硬化の樹脂50aのための入口が広がることにより、未硬化の樹脂50aはインナースリーブ31と永久磁石70との間に形成された隙間に対して周方向に均等に行き渡り易くなる。この結果、複数の磁石片60の周方向に対してより均一に圧力を加えることができる。複数の磁石片60の周方向に対してより均一に圧力を加えることができるので、複数の磁石片60をより均一に金型55の内周面55bに押し付けることができる。したがって、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0051】
モーターロータ25の製造方法では、まず、インナースリーブ31と、略円筒形の永久磁石70とを金型55に配置する。続いて、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与えることにより、永久磁石70に亀裂群Cを生じさせる。この後、複数の磁石片60を形成すると共に、それら複数の磁石片60を金型55に押し付ける。金型55の内周面55bは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせがなされている。したがって、金型55の内周面55bに対して磁石片60を押し付けることにより、金型55が有する位置合わせの精度と同様の精度をもった磁石構造体32を構成することができる。したがって、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0052】
磁石等配置ステップS01では、金型55の内径よりも小さい外径を有する永久磁石70を配置することにより、金型55の内周面55bと永久磁石70の外周面70aとの間に隙間を形成する。第1の樹脂部形成ステップS02では、未硬化の樹脂50aが充填される圧力によって永久磁石70を破断させた後、継続して未硬化の樹脂50aに圧力を与え続ける。金型55の内周面55bと永久磁石70の外周面70aとの間に隙間Gが形成される。隙間Gは、永久磁石70の動きしろとなる。この結果、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせされた金型55の内周面55bの形状に倣わせるように、永久磁石70を配置することができる。未硬化の樹脂50aの充填によって永久磁石70を破断させた後、継続して未硬化の樹脂50aに圧力を与え続けることができる。この結果、永久磁石70を金型55の内周面55bにより確実に押し付けることができる。したがって、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0053】
上述したような略円筒形の永久磁石を加工する際、過給機1のような回転機械に要求される水準まで、内径及び外径の加工精度を高めることが求められる。この場合、金型55の内周面55bは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせされている。これに対し、永久磁石70の外周面70a及び永久磁石70の内周面70bは、回転軸線Hに対してさらに精度よく位置合わせを行うことが必要であった。このような永久磁石70を用いた場合には、磁石部36の軸線を回転軸線Hと一致させることが難しい。したがって、モーターロータ25の回転バランスが悪くなってしまう原因となっていた。
【0054】
図14は、比較例であるモーターロータ250を示す。
図14は、モーターロータ250を軸方向から見た断面図である。
図14の例では、モーターロータ250のインナースリーブ31、保護層38、第1の樹脂部51、及び第3の樹脂部53のそれぞれの内径及び外径は、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせされている。永久磁石700の内周面700bは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせがなされている。しかし、永久磁石700の外周面700aは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせがなされていない。換言すると、永久磁石700の外周面700aは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせされた場合の理想的な円に対してずれている。モーターロータ250の永久磁石700には、モーターロータ25と異なり、亀裂群Cが形成されていない。
【0055】
図14に示すように、金型55の内周面55bの中心Yは、回転軸線Hと一致している。これに対し、永久磁石700の外周面700aにおける軸線X1は、回転軸線Hと一致していない。したがって、軸線X1は、径方向に沿って、回転軸線Hから離れる方向にずれている。このようなモーターロータ250では、回転軸線Hに対して、インナースリーブ31、保護層38、第1の樹脂部51、及び第3の樹脂部53のそれぞれの内径及び外径を高精度に加工したとしても、モーターロータ250の回転バランスを向上させることが困難である。
【0056】
図15は、モーターロータ25を示す断面図である。このモーターロータ25は、複数の磁石片60を含む。しかし、これらの磁石片60はもともと永久磁石700と同様に外周面が設計寸法に対するずれを有している円筒状の磁石であった。
【0057】
図15の例では、上述したように、インナースリーブ31と永久磁石70との間に未硬化の樹脂50aを充填する際に、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与えることにより、モーターロータ25を形成している。このようにモーターロータ25を形成することにより、永久磁石70を脆性破壊する。この結果、永久磁石70に亀裂群Cを形成すると共に、磁石部36を構成する複数の磁石片60を金型55の内周面55bに押し付けることができる。金型55の内周面55bは、回転軸線Hに対して高精度に位置合わせがなされている。したがって、複数の磁石片60の軸線X2は、回転軸線Hと一致させるか、少なくとも軸線X1と比較して回転軸線Hに近づけることができる。つまり、分割されたそれぞれの磁石片60は、径方向に沿って隙間Gだけ移動することができる。この移動によって、理想的な外形形状に対するずれが解消される。したがって、このようなモーターロータ25によれば、回転バランスを向上させることができる。
【0058】
従来のモーターロータの製造方法では、インナースリーブと磁石部との間に未硬化の樹脂を充填する。したがって、第1の樹脂部を射出成形する際には、脆性材料である永久磁石に亀裂が生じることを抑制するため、未硬化の樹脂に与える圧力を制限しつつ射出成形を行う手法が一般的であった。これに対し、モーターロータ25の製造方法では、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与えることにより、金型55の内周面55bに対して磁石片60を押し付けることができる。金型55の内周面55bに対して磁石片60を押し付けることができるので、このような磁石片60を形成しない
図14に示すモーターロータ250の例と比べ、磁石部36の軸線X2を回転軸線Hに近づけることができる。したがって、モーターロータ25の回転バランスを向上させることができる。
【0059】
以上、本開示のモーターロータ及びモーターロータの製造方法について説明してきたが、本開示のモーターロータ及びモーターロータの製造方法は、必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、亀裂群Cは、軸方向に延びている4つの亀裂(第1の亀裂C1、第2の亀裂C2、第3の亀裂C3、及び第4の亀裂C4)と、周方向に延びている2つの亀裂(第5の亀裂C5及び第6の亀裂C6)とによって構成されているが、亀裂群Cは、発明の効果を奏する限り、様々な態様のものであってもよい。
【0060】
上記実施形態では、小径部35の直径は、インナースリーブ31の第1端部に向かうにつれて小さくなっている。また、小径部35は、テーパ状を呈している。しかし、例えば小径部35は、インナースリーブ31の大径部33との間に段差が形成されるような円柱形状を呈していてもよい。
【0061】
上記実施形態では、エンドリング39a及びエンドリング39bは、インナースリーブ31の基体部34の外周面34aに配置されている。しかし、エンドリング39a及びエンドリング39bは、基体部34の外周面34aと離間するように配置されていてもよい。また、上記実施形態では、エンドリング39a及びエンドリング39bの外径は、保護層38の外径と略等しい。しかし、エンドリング39aの外径は、例えばエンドリング39bの外形と略等しくなくてもよい。一端面71aに形成された第4の樹脂部54aがエンドリング39aと同様の機能を有する場合には、エンドリング39aは設けなくてもよい。また、他端面71bに形成された第4の樹脂部54bがエンドリング39bと同様の機能を有する場合には、エンドリング39bは設けなくてもよい。
【0062】
上記実施形態では、大径部33の外周面33aに設けられた溝41は、周方向に延びている周方向溝41aと、軸方向に沿って螺旋状に延びている複数のローレット溝41bと、によって構成されている。しかし、例えば溝41は、周方向溝41aのみによって構成されていてもよい。例えば溝41は、ローレット溝41bのみによって構成されていてもよい。溝41は、周方向溝41a及びローレット溝41bによって構成されていなくてもよい。上記実施形態では、複数のローレット溝41bは、互いに交差するように2方向に延びている。複数のローレット溝41bが互いに交差するように2方向に延びていることにより、複数のローレット溝41bは、綾目の模様を呈している。しかしながら、例えば複数のローレット溝41bは、1方向のみに延びていてもよい。
【0063】
上記実施形態では、第1の樹脂部形成ステップS02では、永久磁石70が破断する圧力よりも小さな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。その後、亀裂形成ステップS03では、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与える。しかし、例えば第1の樹脂部形成ステップS02の時点で、永久磁石70が破断する圧力よりも大きな圧力を未硬化の樹脂50aに与えてもよい。
【0064】
脆性破壊によれば、永久磁石70は、不規則に割れる。例えば、第1の亀裂C1は、巨視的にみれば直線状に形成されることもあり得るし、不規則に蛇行することもあり得る。また、第1の亀裂C1とそのほかの亀裂との関係も、多様である。その結果、亀裂群Cによって個片化された複数の磁石片60は、少なくとも一個の磁石片60の形状が、そのほかの磁石片60の形状と異なる。この表現には、いくつかの態様があり得る。
【0065】
まず、第1の態様として、すべての磁石片60について互いに形状が同じとみなせるものがない場合がある。換言すると、複数の磁石片60のうち、ひとつとして同じ形状のものが存在しない場合である。このような態様は、例えば「複数の磁石片60は、互いに形状が異なる」ともいえる。
【0066】
一方、亀裂は不規則に形成されるから、亀裂の状態又は磁石片60の形状の評価の仕方によっては、形状が同じであるとみなせるいくつかの磁石片60が存在する場合もある。つまり、第2の態様として、複数の磁石片60のうち、形状が異なっているものもあるが、形状が同じであるとみなせるいくつかの磁石片60も存在するという場合がある。
【0067】
つまり、磁石部36を構成する複数の磁石片60は、すべての磁石片60の形状が互いに異なっていてもよいし、いくつかの磁石片60は形状が同じであってもよい。換言すると、本開示の磁石部36を構成する複数の磁石片60の態様は、すべての磁石片60がすべて同じ形状である場合を除くすべての態様を含む。
【符号の説明】
【0068】
14 回転軸
14a,31a,70a 外周面
25 モーターロータ
31 インナースリーブ
32 磁石構造体
33 大径部
35 小径部
41 溝
50a,50b 未硬化の樹脂
51 第1の樹脂部
52 第2の樹脂部
55 金型
55b 内周面
60 磁石片
60b 内周面
60s 破断面
70 永久磁石
G 隙間