(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】レーザー印字可能なフィルムおよびそれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240305BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240305BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240305BHJP
B65D 65/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/36
B23K26/00 B
B65D65/00 A
(21)【出願番号】P 2023031783
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2021553449の分割
【原出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019194323
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-268554(JP,A)
【文献】特表2016-503065(JP,A)
【文献】特開2010-209148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B23K 26/00
B65D 65/40
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー照射による印字が可能な層を少なくとも1層有しており、該レーザー照射による印字が可能な層は5μm以上100μm以下の延伸フィルム層であり、
フィルム全体層の中にレーザー印字可能な粒径0.1μm以上10μm未満の顔料が100ppm以上3000ppm以下で含まれており、フィルム最表層に滑剤微粒子を1重量%以下含み、カラーL*値が90以上95以下で、長手方向または幅方向いずれか一方向における厚み斑が0.1%以上20%以下であることを特徴とするポリエステル系フィルム。
【請求項2】
レーザー照射による印字が可能となる顔料として、ビスマス、ガドリニウム、ネオジム、チタン、アンチモン、スズ、アルミニウムいずれかの単体または酸化物のいずれかが少なくとも1種類は含まれていることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項3】
カラーb*値が0.1以上2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項4】
レーザー照射による印字が可能な層に隣接する少なくとも一方の層に、レーザー照射で印字されない層を設けていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル系フィルム。
【請求項5】
長手方向または幅方向いずれかの屈折率(NxまたはNy)において、値の高い方が1.63以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリエステル系フィルム。
【請求項6】
長手方向または幅方向いずれか一方において、140℃熱風に30分暴露した後の熱収縮率が0.5%以上8%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル系フィルム。
【請求項7】
請求項1~6いずれかのポリエステル系フィルムを用いた蓋材又はラベルを含む包装体。
【請求項8】
少なくとも一部分に印字されていることを特徴とする請求項7に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字等の表示を含む包装体に好適に使用することのできるフィルムに関するものである。特に、本発明はレーザーによる印字が可能なポリエステル系フィルムに関するもので、これに該当する蓋材やラベルを含む包装体にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品に包装体が用いられている。これらの包装体の多くは、内容物を保護するだけでなく、製品名や製造月日、原材料等に関する情報を表示する役割も担っている。このような表示の手段としては、例えば特許文献1に記載されているように、インキや熱転写等によって印字することが可能な基材の裏面に、粘着剤が塗布されたラベル(タックラベル)が広く用いられてきた。タックラベルは予め、表示面となるおもて面に情報が印字された状態で剥離紙(台紙)に貼り付けられ、使用時には台紙から剥がして包装体に貼り付けられる。タックラベルを貼り付けた後の台紙は用済みとなるため、ラベルを使用した分だけゴミが増えてしまう。また、ラベルの使用者は、内容物の種類に応じて表示内容の異なるラベルを持たなければならず、内容物の種類が増えるにつれてラベルの管理が煩雑となり、ラベルの貼り間違いが起こるリスクを抱えていた。さらに、通常はラベルの不足に備えて余分に在庫を持つ必要があり、内容物の製造・販売が終了した時点でそのラベルは使い道がないため廃棄されていた。このように、タックラベルは様々な面で欠点を抱えていた。
【0003】
上記の問題点を解消するため、特許文献2には、感熱記録層を有した感熱フィルムが開示されている。特許文献2のフィルムは熱によって変色するため、それ自身が表示性能を有する包装体となる。そのため、上記のタックラベルを使用する必要がない。また、特許文献2のようなフィルムを用いた包装体を製袋する工程に、サーマルプリンタ等の印字機を組み込んでおくことによって製袋と表示が一工程で完結するため、省力化・コストダウンにも貢献している。これらのメリットがあるため、最近は包装体自身に直接印字する方式が普及してきている。しかし、基材となるフィルム上に感熱層を設けると、外部との擦れ等によって感熱層が剥がれ落ちる懸念があるため、通常は感熱層の上(表層側)に保護層を設けている。これらの機能層を設ける手段として、コーティングが広く普及している。コーティングは少なくとも、塗布・乾燥・巻き取りの工程を経るため、各機能層の分だけ工程数が増え、生産性が低下してしまう。さらに、これらの機能層は粒子を有しているため、層厚みに応じて透明性が低下してしまう問題もあった。
【0004】
一方、近年の表示(印字)手段としては、上記に挙げたインキや熱だけでなく、レーザーがトリガーとなる技術も普及してきている。例えば特許文献3には、印刷層がレーザー光により印字可能なインキ組成物からなる層を含むレーザー印字用多層積層フィルムが開示されている。このフィルムを用いることにより、レーザーを照射した部分が変色して印字できるようになる。ただし、特許文献3のフィルムのような多層積層フィルムは、特許文献2のフィルムと同じく、フィルム基材上に印刷層を設ける必要があるため、層剥がれや生産性低下の問題は解決できていない。
また、特許文献4には、酸化ビスマスからなるレーザーマーキング用添加剤が開示されている。この添加剤をプラスチックへ練りこむことにより、レーザーを照射した部分が変色して印字できるようになる。通常、プラスチック単体はレーザーには反応しないが、この添加剤がレーザーのエネルギーによって励起され、プラスチックを変色させることができる。添加剤はフィルム内部に存在するため、コーティングで起きていた機能層の剥離は起きづらい点で有用である。ただし、添加剤は金属粒子であるため、上記のコーティングと同様、フィルムの透明性を低下させる問題は残っていた。また本発明者らは、粒子をフィルムに練りこむと、フィルムを延伸する際に厚み斑が大きくなってしまう問題を見出した。
特許文献5には、レーザー光によって着色するポリエステルフィルムが開示されている。このフィルムは表面粗度が0.10~1.00μmであり、少なくとも一方の最表面がマット調になっている。そのため、透明性や印刷適性が要求される用途においては、適用できない問題があった。さらに、特許文献5には、フィルムの厚み斑に関しては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-362027号公報
【文献】特開2017-209847号公報
【文献】特開2017-196896号公報
【文献】国際公開第2014/188828号
【文献】特許第5344750号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Atsushi Taniguchi; Miko Cakmak. The suppression of strain induced crystallization in PET through sub micron TiO2 particle incorporation. Polymer. 2004, vol. 45. p. 6647-6654.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを課題とするものである。すなわち、本発明の課題は、高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供しようとするものである。また同時に本発明の課題は、このフィルムを用いて直接印字された包装体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.レーザー照射による印字が可能な層を少なくとも1層有しており、フィルム全体層の中にレーザー印字可能な金属が100ppm以上3000ppm以下で含まれており、ヘイズが1%以上40%以下であることを特徴とするポリエステル系フィルム。
2.レーザー照射による印字が可能となる金属として、ビスマス、ガドリニウム、ネオジム、チタン、アンチモン、スズ、アルミニウムいずれかの単体または酸化物のいずれかが少なくとも1種類は含まれていることを特徴とする1.に記載のポリエステル系フィルム。
3.レーザー照射による印字が可能な層の厚みが5μm以上100μm以下であることを特徴とする1.または2.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
4.カラーL*値が90以上95以下かつカラーb*値が0.1以上2以下であることを特徴とする1.~3.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
5.長手方向または幅方向いずれか一方向における厚み斑が0.1%以上20%以下であ
ることを特徴とする1.~4.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
6.レーザー照射による印字が可能な層に隣接する少なくとも一方の層に、レーザー照射で印字されない層を設けていることを特徴とする1.~5.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
7.長手方向または幅方向いずれかの屈折率(NxまたはNy)において、値の高い方が1.63以上であることを特徴とする1.~6.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
8.長手方向または幅方向いずれか一方において、140℃熱風に30分暴露した後の熱収縮率が0.5%以上8%以下であることを特徴とする1.~7.いずれかに記載のポリエステル系フィルム。
9.前記請求項1.~8.いずれかのポリエステル系フィルムを用いた蓋材又はラベルを含む包装体。
10.少なくとも一部分に印字されていることを特徴とする9.に記載の包装体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルムは、高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供することができる。また同時に本発明の課題は、このフィルムを用いて直接印字された包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のフィルムにレーザーを照射して印字した画像
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリエステル系フィルムについて説明する。
本発明のポリエステル系フィルムは、少なくともレーザー照射による印字が可能な層を1層有すると共に、以下の好ましい特性及び好ましい構成を有する。
【0012】
1.フィルムを構成する原料
1.1.レーザー印字用の顔料
本発明のフィルムをレーザー印字可能なものとするためには、レーザー照射によってフィルムを変色させる機能を有する顔料(以下、単に顔料と称する場合がある)を添加することが必要である。通常、フィルムを構成するポリエステル樹脂自身は、レーザー光にはほとんど反応しないため、レーザー照射によって印字することはできない。顔料はレーザー光のエネルギーによって励起され、周囲にあるポリエステル樹脂を炭化させる(レーザー照射の好ましい条件については後述する)。また、ポリエステル樹脂の炭化に加え、顔料の種類によってはそれ自身が黒色に変化するものもある。これら単独または複合の色変化により、フィルムへ印字することが可能となる。フィルムへの印字精度を考慮すると、顔料自身も変色するものを使用するのが好ましい。
【0013】
顔料の種類としては、ビスマス、ガドリニウム、ネオジム、チタン、アンチモン、スズ、アルミニウムのいずれかの単体または酸化物が挙げられる。また、顔料の粒径は、0.1μm以上10μm以下であると好ましい。顔料の粒径が0.1μm未満であると、レーザー照射時の色変化が十分でなくなるおそれがある。また、粒径が10μmを超えると、フィルムのヘイズが40%を、カラーb値が2を超えやすくなってしまう。粒径は0.5μm以上9μm以下であるとより好ましい。これらの条件を満たす顔料としては、「TOMATEC COLOR」(東罐マテリアル・テクノロジー製)、「Iriotec(登録商標)」(メルクパフォーマンスマテリアル社製)等が販売されており、これらを好適に使用することができる。
【0014】
レーザー印字層の中に添加する顔料量としては、100ppm以上3000ppm以下の必要がある。顔料の添加量が100ppm未満であると、レーザーによる印字濃度が十分でなくなるため好ましくない。一方、顔料の添加量が3000ppmを超えると、フィルムのヘイズやカラー値、厚み斑が所定の範囲を超えやすくなるため好ましくない。顔料添加によるヘイズやカラー値への影響については、顔料自身が着色されている点に加え、顔料粒子が光を散乱するために起こる。
また、フィルムを延伸した場合、顔料粒子を含有するとフィルムの厚み斑が悪化する現象が発生する。フィルムの厚み斑への影響については、顔料粒子を含むフィルムを延伸する場合に、延伸応力が低下するためと考えられる。非特許文献1の
図3(b)には、微粒子としての二酸化チタンを添加したポリエチレンテレフタレートフィルムの延伸-ひずみ曲線が掲載されており、二酸化チタンの添加濃度を増加させるにつれて延伸終了時の応力が低下することが示されている。これは、非特許文献1の
図10、11に示されているように、微粒子が存在することによって、延伸中に起こる高分子鎖の配向結晶化が抑制されるためと考えられている。フィルムの厚み斑は、延伸応力が高いほど良好になるため、微粒子の添加濃度が増加すると厚み斑が悪化してしまうといえる。顔料の添加量は150ppm以上2950ppm以下であるとより好ましく、200ppm以上2900ppm以下であるとさらに好ましい。
また、本発明では、フィルム全層あたりに換算したときに必要とされる顔料の添加量も100ppm以上3000ppm以下であってよい。レーザー印字層以外の他の層を設けた場合、フィルム全層あたりに換算した顔料量は、レーザー印字層の量よりも少なくなる計算となる。ただし、本発明においては全層厚みの大半(50%以上)がレーザー印字層によって構成される点と、他の層の厚みを増すと相対的にレーザー印字層が薄くなりすぎてしまい印字精度が犠牲になる点を考慮すれば、フィルム全層あたりに換算した顔料量がレーザー印字層に含まれる顔料量と近似してよい。
【0015】
本発明のフィルムを構成するポリエステル樹脂の中にレーザー顔料を配合する方法として、例えば、ポリエステルレジンを製造する任意の段階において添加することができる。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステルとを混練押出機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。これらの中でも、乾燥させた粒子とポリエステルとを混練押出機を用いてブレンドする方法(マスターバッチ化)が好ましい。
【0016】
1.2.ポリエステル原料の種類
本発明のフィルムを構成するポリエステル原料は、エステル結合を有する高分子種であれば特に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で自由に使用することができる。ポリエステル原料の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等が挙げられる。さらに、上記の例で挙げたポリエステルに加え、これらの酸またはジオール部位のモノマーを変更した変性ポリエステルを用いてもよい。酸部分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸が挙げられる。また、 ジオール部位のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。
上記に挙げたポリエステル原料は、カルボン酸モノマーとジオールモノマーが1種対1種で重合されているホモポリエステルを、複数種混合(ドライブレンド)して使用してもよいし、2種以上のカルボン酸モノマーまたは2種以上のジオールモノマーを共重合して使用してもよい。また、ホモポリエステルと共重合ポリエステルを混合して使用してもよい。
【0017】
1.3.レーザー顔料以外の添加剤
本発明のフィルムを構成するポリエステル樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムの滑り性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともフィルムの最表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05~3.0μmの範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。フィルム中の微粒子含有率の下限は好ましくは0.01重量%であり、より好ましくは0.015重量%であり、さらに好ましくは0.02重量%である。0.01重量%未満であると滑り性が低下することがある。上限は好ましくは1重量%であり、より好ましくは0.2重量%であり、さらに好ましくは0.1重量%である。1重量%を超えると透明性が低下することがあるため好ましくない。
本発明のフィルムを構成するポリエステル樹脂の中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステルレジンを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステルとを混練押出機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
【0018】
2.フィルムの層構成
2.1.層構成
本発明のフィルムは、1.1.「レーザー印字用の顔料」で記載した顔料を含む、レーザー照射による印字が可能な層(以下、レーザー印字層と記載)を少なくとも1層有している必要がある。フィルムの層構成としては、レーザー印字層のみの単層であってもよく、レーザー印字層以外の層を積層させてもよい。レーザーによる印字は上記のとおり、レーザー印字層を構成するポリエステル樹脂を炭化させることで成り立つ。そのため、レーザー印字層のみの単層構成であると、印字部分を指などで触った場合、触り心地がザラザラとした感触となりやすい。そこで、レーザー印字層の少なくとも一方の片面に、レーザー照射に反応しない層を積層させることで、レーザー印字による手触り感の違いが生じにくくなるため好ましい。最も好ましい層構成は、レーザー照射に反応しない層で、レーザー印字層を挟みこんだ(中心層とした)2種3層構成である。
【0019】
本発明のフィルムには、フィルム表面の印刷性や滑り性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。フィルムの層構成が2種3層の場合、中心層をレーザー印字層とし、例えば最表層には滑剤を含有させたり、コロナ処理を施したりして、層ごとに異なる機能をもたせることができる。
【0020】
本発明のフィルムは、前記の層構成に加えて、ガスバリア層を設けこともできる。ガスバリア層があることで、フィルムとしてのガスバリア性が向上し、包装体として用いたときに内容物のシェルフライフを向上させることができる。ガスバリア層は金属または金属酸化物を主たる構成成分とする無機薄膜から構成されることが好ましく、最表層、中間層いずれに位置しても構わない。また、ガスバリア層は透明であると好ましい。さらに本発明は、前記の無機薄膜からなるガスバリアに加え、無機薄膜層の下(樹脂からなるフィルムと無機薄膜の間)に設けるアンカーコート層、無機薄膜層の上に設けるオーバーコート層を有していてもよい。これらの層を設けることにより、ガスバリア層とフィルム層との密着性の向上、ガスバリア性の向上等が期待できる。各層に関する構成要件は後述する。
【0021】
また、本発明のフィルムは、包装体としての意匠性を向上させるため、レーザー照射による印字以外に、文字や図柄を設けてもよい。これらの文字や図柄を構成する材料としては、グラビア印刷用のインキやフレキソ印刷用のインキ等、公知のものを用いることができる。印刷層数は1層であってもよく、複数層であってもよい。印刷を複数色にして意匠性を向上させるためには、複数層からなる印刷層があると好ましい。印刷層は、最表層、中間層いずれに位置しても構わない。
【0022】
2.2.レーザー印字層の厚み
レーザー印字層の厚みは、5μm以上100μm以下であると好ましい。レーザー印字層の厚みが5μm未満であると、レーザー光を照射したときの印字濃度が低下し、文字を視認しにくくなるため好ましくない。一方、レーザー印字層の厚みが100μmを超えると、ヘイズやカラー値が所定の範囲を超えやすくなるため好ましくない。レーザー印字層の厚みは10μm以上95μm以下であるとより好ましく、15μm以上90μm以下であるとさらに好ましい。
【0023】
3.フィルムの特性
3.1.ヘイズ
本発明のフィルムは、ヘイズが1%以上40%以下であると好ましい。ヘイズが40%を超えると、フィルムの透明性が失われ、包装体としたときに内容物の視認性が劣るだけでなく、レーザー照射によって得られる文字が視認しにくくなるため好ましくない。従来開示されている単なるレーザーマーキングによる変色の技術に対し、本発明のフィルムはレーザー照射によってできた文字を読み取れる必要があるため、高度な鮮明性を必要とする。ヘイズは35%以下であるとより好ましく、30%以下であるとさらに好ましい。一方、ヘイズの値は低ければ低いほど透明性が向上するため好ましいが、本発明の技術水準では1%が下限であり、下限が2%となっても実用上は十分である。
【0024】
3.2.カラーL*値
本発明のフィルムは、カラーL*値が90以上95以下であると好ましい。カラーL*値はフィルムの明度を表しており、値が高いほど明度は高くなる。カラーL*値が90未満であると、フィルムがくすんだ色合いを呈するようになり、包装体としたときの見栄えが劣るように見えるだけでなく、レーザー照射によって得られる文字が視認しにくくなるため好ましくない。上記のヘイズで記載した内容と同じく、本発明のフィルムはレーザー照射によってできた文字を読み取れる必要があるため、高度な鮮明性を必要とする。カラーL*値は90.5以上であるとより好ましく、91以上であるとさらに好ましい。一方、カラーL*値は、本発明の技術水準では95が上限であり、上限が94.5となっても実用上は十分である。
【0025】
3.3.カラーb*値
本発明のフィルムは、カラーb*値が0.1以上2以下であると好ましい。カラーb*値はフィルムの黄色味を表しており、値が高いほど黄色味は大きくなる。カラーb*値が2以上であると、フィルムの色合いが黄色味を強く呈するようになる。このようなフィルムを用いると、例えば印刷加工した後、当初想定した印刷の色合いよりも黄色味が強くなり、意匠性が低下するといった不具合が起こりやすくなるため好ましくない。カラーb*値は1.8以下であるとより好ましく、1.6以下であるとさらに好ましい。一方、カラーb*値は、本発明の技術水準では0.1が下限であり、下限が0.2となっても実用上は十分である。
【0026】
3.4.厚み斑
本発明のフィルムは、長手方向または幅方向いずれか一方向における厚み斑が0.1%以上20%以下であると好ましい。ここでの厚み斑とは、連続接触式厚み計を用いてフィルムの厚みを任意の長さにわたって測定したとき、最大値と最小値との差を平均値で割り返した値を指す。厚み斑の値が小さければ小さいほど厚み精度が良好となる。厚み斑が20%を超えると、ロールとして巻き取ったときにシワやたるみ、凹凸といった巻き不良が発生しやすくなるため好ましくない。厚み斑は18%以下であるとより好ましく、16%以下であるとさらに好ましい。一方、厚み斑の下限に関して、本発明の技術水準においては0.1%が限界である。厚み斑の下限は1%であっても十分である。長手方向及び幅方向の両方向において、上記の厚み斑の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
3.5.厚み
本発明のフィルム全層の厚みは、8μm以上200μm以下であると好ましい。フィルムの厚みが8μmより薄いとハンドリング性が悪くなり、印刷等の二次加工の際に扱いにくくなるため好ましくない。一方、フィルム厚みが200μmを超えても構わないが、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは13μm以上195μm以下であるとより好ましく、18μm以上190μm以下であるとさらに好ましい。
【0028】
3.6.屈折率
本発明のフィルムは、長手方向または幅方向いずれかの屈折率(NxまたはNy)において、値の高い方が1.63以上であることが好ましい。屈折率はフィルムの分子配向を指し、屈折率が高いほど分子配向は高くなる。特に延伸フィルムにおいては、延伸応力が大きいほど屈折率が大きくなる傾向がある。上記1.1.「レーザー印字用の顔料」で記載した延伸応力と厚み斑との関係を考慮すると、屈折率を1.63以上とすることで厚み斑を20%以下としやすくなるため好ましい。また、屈折率を1.63以上とすることで、フィルムの引張破断強度を80MPa以上としやすくなるため好ましい。屈折率は1.635以上であるとより好ましく、1.64以上であるとさらに好ましい。
【0029】
3.7.熱収縮率
本発明のフィルムは長手方向または幅方向いずれか一方において、140℃熱風に30分暴露した後の熱収縮率が0.5%以上8%以下であると好ましい。熱収縮率が8%を超えると、ヒートシール等の加熱を含む加工の際にフィルムが変形しやすくなるため好ましくない。熱収縮率の上限は7.8%以下であるとより好ましく、7.6%以下であるとより好ましい。一方、熱収縮率は低ければ低いほど好ましいが、本発明の技術水準だと0.5%が下限である。熱収縮率の下限が0.7%であっても実用上は十分である。長手方向及び幅方向の両方向において、上記の熱収縮率の範囲内であることがさらに好ましい。
【0030】
3.8.引張破断強度
本発明のフィルムは、長手方向または幅方向いずれか一方の引張破断強度が80MPa以上300MPaであると好ましい。引張破断強度が80MPa未満であると、印刷や蒸着、ラミネートといった二次加工時に製造ラインで巻き出す際、パスラインから受ける張力によって容易に破断してしまうため好ましくない。一方、引張破断強度が高ければ高いほどフィルムの機械強度が向上するため好ましいが、本発明の技術水準では300MPaが上限である。実用上は上限が290MPaであっても十分である。長手方向及び幅方向の両方向において、上記の引張破断強度の範囲内であることがさらに好ましい。
【0031】
3.9.固有粘度(IV)
本発明のフィルムは、固有粘度(IV)が0.5dL/g以上0.9dL/gであると好ましい。IVが0.5dL/g未満であると、フィルムの引張破壊強度を80MPa以上とするのが困難となるだけでなく、製膜中の延伸工程で破断が起きる可能性が高くなるため好ましくない。一方、IVが0.9dL/gを超えると、原料となる樹脂を混合して溶融押し出しするときに、メルトライン中の樹脂圧力が高くなりすぎてしまい、溶融樹脂中の異物を取り除くフィルターの変形が起こりやすくなるため好ましくない。ヒートシール層のIVは0.52dL/g以上0.88dL/g以下であるとより好ましく、0.54dL/g以上0.86dL/g以下であるとさらに好ましい。
【0032】
4.フィルムの製造条件
4.1.原料混合、供給
本発明のポリエステル系フィルムを製造するにあたり、上記「1.フィルムを構成する原料」で記載したとおり、フィルムにはレーザー照射によって印字可能となる顔料を含有させる必要がある。顔料はマスターバッチ化して用いるのが好ましいため、通常は2種類以上の原料を混合する。従来、押し出し機に2種以上の原料を混合して投入すると、原料の供給にバラツキ(偏析)が生じ、それにより厚み斑が悪化する問題が起きていた。それを防止して本発明における所定範囲内の厚み斑とするために、押出し機の直上の配管やホッパーに攪拌機を設置して原料を均一に混合した後に溶融押出しをすることが好ましい。
4.2.溶融押し出し
本発明のフィルムは、上記1.「フィルムを構成する原料」で記載した原料を、上記4.1.「原料混合、供給」で記載した方法で押出機に原料を供給し、押出機より原料を溶融押し出しして未延伸のフィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により延伸することによって得ることができる。なお、フィルムがレーザー印字層とそれ以外の層を含む場合、各層を積層させるタイミングは延伸の前後いずれであっても構わない。延伸前に積層させる場合、各層の原料となる樹脂をそれぞれ別々の押し出し機によって溶融押し出しし、樹脂流路の途中でフィードブロック等を用いて接合させる方法を採用するのが好ましい。延伸後に積層させる場合、それぞれ別々に製膜したフィルムを接着剤によって貼りあわせるラミネート、単独または積層させたフィルムの表層に溶融させたポリエステル樹脂を流して積層させる押出ラミネートを採用するのが好ましい。生産性の観点からは、延伸前に各層を積層させる方法が好ましい。
【0033】
原料樹脂の溶融押出の方法としては公知の方法を用いることができ、バレルとスクリューが具備された押出機を用いる方法が好ましい。ポリエステル原料はあらかじめ、ホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて水分率が100ppm以下、より好ましくは90ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下となるまで乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後、押出機によってフィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。押出温度は200℃以上300℃以下であると好ましい。押出温度が200℃未満だと、ポリエステル樹脂の溶融粘度が高くなりすぎて押出圧力が増加し、メルトライン中のフィルターが変形してしまうため好ましくない。加熱温度が300℃を超えると、樹脂の熱分解が進行してしまいIVを0.5dL/g以上とするのが困難となる。
また、ダイス口部から樹脂を吐出するときのせん断速度は高い方がフィルムの幅方向の厚み斑(特に最大凹部)が低減できるため好ましい。せん断速度が高い方が、Tダイ出口での樹脂吐出時の圧力が安定するためである。好ましいせん断速度は100sec-1以上であり、更に好ましくは150sec-1以上、特に好ましくは170sec-1以上である。ドラフト比は高い方が長手方向の厚み斑が良好となり好ましいが、ドラフト比が高いとダイスの樹脂吐出部に樹脂カス等が付着し、生産性が悪くなるので高すぎるのは好ましくない。ダイス出口でのせん断速度は、以下の式1から求めることができる。
γ=6Q/(W×H2) ・・式1
γ:せん断速度(sec-1)
Q:原料の押出し機からの吐出量(cm3/sec)
W:ダイス出口の開口部の幅(cm)
H:ダイス出口の開口部の長さ(リップギャップ)(cm)
【0034】
その後、押し出しで溶融されたフィルムを急冷することにより、未延伸のフィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0035】
フィルムは、無延伸、一軸延伸(縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか少なくとも一方向への延伸)、二軸延伸いずれの方式で製膜されてもよい。機械強度や生産性の観点からは、一軸延伸であることが好ましく、二軸延伸であるとより好ましい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法に主眼を置いて説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また、縦方向と横方向を同時に延伸する、同時二軸延伸法でも構わない。
【0036】
4.3.第一(縦)延伸
第一方向(縦または長手方向)の延伸は、未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~100℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また100℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
【0037】
フィルム温度が65℃~100℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。縦延伸倍率を1.1倍以上とすることにより、フィルムの長手方向に分子配向を与えて機械強度を増すことができるため、引張破断強度が80MPa以上としやすくなる。
さらに、縦延伸倍率が高いほど厚み斑は良化するため、延伸倍率は2.5倍以上であると好ましい。「1.1.レーザー印字用の顔料」で記載したように、延伸応力が増加すると厚み斑は良化する。延伸倍率を2.0倍以上とすることにより、フィルムの配向結晶化を促進させて延伸応力を増加させることができる。また、縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。縦延伸倍率は2.2倍以上4.8倍以下であるとより好ましく、2.4倍以上4.6倍以下であるとさらに好ましい。
【0038】
4.4.第二(横)延伸
第一(縦)延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向(長手方向と直交する方向)の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~130℃で3~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うのが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が70℃~135℃になるまで行うとよい。
横延伸倍率が高いほど厚み斑は良化するため、延伸倍率は2.5倍以上であると好ましい。「4.2.縦延伸」で記載したように、延伸倍率が高いほど延伸応力が増加するため、厚み斑は良化する。一方で、延伸倍率が5.5倍を超えると破断が生じやすくなるため好ましくない。横延伸倍率は2.7倍以上5.3倍以下であるとより好ましく、2.9倍以上5.1倍以下であるとより好ましい。なお、縦延伸と横延伸では、延伸速度が異なる(縦延伸の方が延伸速度が速い)ため、好ましい延伸倍率の範囲は異なる。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み斑が20%を超えやすくなるだけでなく、熱収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0039】
4.5.熱処理
中間ゾーンの通過後は熱処理ゾーンにて、170℃以上250℃以下で熱処理すると好ましい。熱処理ではフィルムの結晶化を促進されるため、延伸工程で生じた熱収縮率を低減できるだけでなく、引張破断強度が増加しやすくなる。熱処理温度が150℃未満であると、熱収縮率を3%以下、引張破断強度を80MPaとしにくくなるため好ましくない。一方、熱処理温度が250℃を超えると、ヘイズが40%を超えやすくなるため好ましくない。熱処理温度は175℃以上245℃以下であるとより好ましく、180℃以上240℃以下であるとさらに好ましい。
【0040】
熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下であると好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、5秒以上であるとより好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
【0041】
熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の熱収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うと好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のフィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。また、熱処理の際に、長手方向におけるクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(長手方向へのリラックス)も可能である。
【0042】
4.6.冷却
熱処理ゾーン通過後は、冷却ゾーンにて10℃以上30℃以下の冷却風を用いて、通過時間2秒以上20秒以下でフィルムを冷却するのが好ましい。
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、フィルムロールが得られる。
【0043】
5.ガスバリア層
本発明のフィルムは、主に無機薄膜からなるガスバリア層を設けてもよい。以下の説明では、本発明のフィルムにガスバリア層を設けたものを「ガスバリア層積層体」と称する。
【0044】
5.1.ガスバリア層積層体の特性
5.1.1.水蒸気透過度
本発明のフィルムを用いたガスバリア積層体は、温度40℃、相対湿度90%RH環境下での水蒸気透過度が0.05[g/(m2・d)]以上4[g/(m2・d)]以下であると好ましい。水蒸気透過度が4[g/(m2・d)]を超えると、内容物を含む包装体として使用した場合に、内容物のシェルフライフが短くなってしまうため好ましくない。一方、水蒸気透過度が0.05[g/(m2・d)]より小さい場合はガスバリア性が高まり、内容物のシェルフライフは長くなるため好ましいが、現状の技術水準では0.05[g/(m2・d)]が下限である。水蒸気透過度の下限が0.05[g/(m2・d)]であっても実用上は十分といえる。水蒸気透過度の上限は3.8[g/(m2・d)]であると好ましく、3.6[g/(m2・d)]であるとより好ましい。
【0045】
5.1.2.酸素透過度
本発明のフィルムを用いたガスバリア積層体は、温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透過度が0.05[cc/(m2・d・atm)]以上4[cc/(m2・d・atm)]以下であると好ましい。酸素透過度が4[cc/(m2・d・atm)]を超えると、内容物のシェルフライフが短くなってしまうため好ましくない。一方、酸素透過度が0.05[cc/(m2・d・atm)]より小さい場合はガスバリア性が高まり、内容物のシェルフライフは長くなるため好ましいが、現状の技術水準では酸素透過度が0.05[cc/(m2・d・atm)]が下限である。酸素透過度の下限が0.05[cc/(m2・d・atm)]であっても実用上は十分といえる。酸素透過度の上限は3.8[cc/(m2・d・atm)]であると好ましく、3.6[cc/(m2・d・atm)]であるとより好ましい。
【0046】
5.2.ガスバリア層の原料種、組成
ガスバリア層の原料種は特に限定されず、従来から公知の材料を使用することができ、所望のガスバリア性等を満たすために目的に合わせて適宜選択することができる。ガスバリア層の原料種としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛、鉄、マンガン等の金属、これら金属の1種以上を含む無機化合物があり、該当する無機化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等が挙げられる。これらの無機物または無機化合物は単体で用いてもよいし、複数で用いてもよい。特に、酸化ケイ素(SiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)を単体(一元体)または併用(二元体)で使用することにより、ガスバリア層を設けたフィルムの透明性を向上させることができるため好ましい。無機化合物の成分が酸化ケイ素と酸化アルミニウムの二元体からなる場合、酸化アルミニウムの含有量は20質量%以上80質量%以下であると好ましく、25質量%以上70質量%以下であるとより好ましい。酸化アルミニウムの含有量が20質量%以下の場合、ガスバリア層の密度が下がり、ガスバリア性が低下する恐れがあるため好ましくない。また、酸化アルミニウムの含有量が80質量%以上であると、ガスバリア層の柔軟性が低下してクラックが発生しやすくなり、結果としてガスバリア性が低下する恐れが生じるため好ましくない。
【0047】
ガスバリア層に使用する金属酸化物の酸素/金属の元素比は、1.3以上1.8未満であればガスバリア性のバラツキが少なく、常に優れたガスバリア性が得られるため好ましい。酸素/金属の元素比は、酸素および金属の各元素の量をX線光電子分光分析法(XPS)で測定し、酸素/金属の元素比を算出することで求めることができる。
【0048】
5.3.ガスバリア層の成膜方法
ガスバリア層の成膜方法は特に限定されず、本発明の目的を損なわない限り公知の製造方法を採用することができる。公知の製造方法の中でも、蒸着法を採用することが好ましい。蒸着法としての例は、真空蒸着法、スパッター法、イオンブレーティングなどのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などが挙げられる。これらの中でも、真空蒸着法と物理蒸着法が好ましく、生産の速度や安定性の観点からは特に真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法における加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱等を用いることができる。また、反応性ガスとして、酸素、窒素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を用いたりしてもよい。また、基板にバイアス等を加える、基板温度を上昇あるいは冷却する等、本発明の目的を損なわない限りは成膜条件を変更してもよい。
【0049】
以下では、真空蒸着法によるガスバリア層の成膜方法を説明する。ガスバリア層を成膜する際、本発明のフィルムをガスバリア層の製造装置へ金属ロールを介して搬送する。ガスバリア層の製造装置の構成例としては、巻き出しロール、コーティングドラム、巻き取りロール、電子ビーム銃、坩堝、真空ポンプからなる。フィルムは巻き出しロールにセットされ、コーティングドラムを経て巻き取りロールで巻き取られる。フィルムのパスライン(ガスバリア層の製造装置内)は真空ポンプによって減圧されており、坩堝にセットされた無機材料が電子銃から発射されたビームによって蒸発し、コーティングドラムを通るフィルムへと蒸着される。無機材料の蒸着の際、フィルムには熱がかかり、さらに巻き出しロールと巻き取りロールの間で張力も加えられる。フィルムにかかる温度が高すぎると、フィルムの熱収縮が大きくなるだけでなく、軟化が進むため、張力による伸長変形も起こりやすくなる。さらに、蒸着工程を出た後にフィルムの温度降下(冷却)が大きくなり、膨張後の収縮量(熱収縮とは異なる)が大きくなり、ガスバリア層にクラックが生じて所望のガスバリア性を発現しにくくなるため好ましくない。一方、フィルムにかかる温度は低いほど、フィルムの変形は抑制されるため好ましいものの、無機材料の蒸発量が少なくなることでガスバリア層の厚みが低下するため、所望のガスバリア性を満たせなくなる懸念が生じる。フィルムにかかる温度は100℃以上180℃以下であると好ましく、110℃以上170℃以下であるとより好ましく、120℃以上160℃以下であるとさらに好ましい。
【0050】
6.オーバーコート層
6.1.オーバーコート層の種類
本発明のフィルム、または本発明のフィルムを用いたガスバリア性積層体(この項6.では、これらをまとめて基材フィルムと呼ぶ)は、上記の「5.ガスバリア層」で挙げたガスバリア層を成膜した上に、耐擦過性やさらなるガスバリア性の向上等を目的としてオーバーコート層を設けることもできる。オーバーコート層の種類は特に限定されないが、ウレタン系樹脂とシランカップリング剤からなる組成物、有機ケイ素およびその加水分解物からなる化合物、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を有する水溶性高分子等、従来から公知の材料を使用することができ、所望のガスバリア性等を満たすために目的に合わせて適宜選択することができる。
また、オーバーコート層は、本発明の目的を損なわない範囲で、帯電防止性、紫外線吸収性、着色、熱安定性、滑り性等を付与する目的で、各種添加剤が1種類以上添加されていてもよく、各種添加剤の種類や添加量は、所望の目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
6.2.オーバーコート層の成膜方法
オーバーコート層を成膜する際、基材フィルムをコーティング設備へ金属ロールを介して搬送する。設備の構成例としては、巻き出しロール、コーティング工程、乾燥工程、巻き取り工程が挙げられる。オーバーコートの際、巻き出しロールにセットされた積層体が金属ロールを介してコーティング工程と乾燥工程を経て、最終的に巻き取りロールまで導かれる。コーティング方法は特に限定されず、グラビアコート法、リバースコート法、ディッピング法、ローコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法、ダイコート法、バーコート法等、従来公知の方法を採用でき、所望の目的に応じて適宜選択することができる。これらの中でも、グラビアコート法、リバースコート法、バーコート法が生産性の観点で好ましい。乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など、加熱する方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0052】
乾燥工程では基材フィルムが加熱され、さらに金属ロール間で張力も加えられる。乾燥工程で基材フィルムが加熱される温度が高すぎると、基材フィルムの熱収縮が大きくなるだけでなく、軟化が進むため、張力による伸長変形も起こりやすくなり、基材フィルムのガスバリア層にクラックが生じやすくなる。さらに、乾燥工程を出た後に積層体の温度降下(冷却)が大きくなり、その分だけ膨張後の収縮量(熱収縮とは異なる)が大きくなり、ガスバリア層やオーバーコート層にクラックが生じて所望のガスバリア性を満たしにくくなるため好ましくない。一方、基材フィルムが加熱される温度は低いほど、基材フィルムの変形は抑制されるため好ましいものの、コーティング液の溶媒が乾燥されにくくなるため、所望のガスバリア性を満たせなくなる懸念が生じる。基材フィルムが加熱される温度は60℃以上200℃以下であると好ましく、80℃以上180℃以下であるとより好ましく、100℃以上160℃以下であるとさらに好ましい。
【0053】
7.包装体の構成、製造方法
上記特性を有するフィルム、または「5.ガスバリア層」で挙げたガスバリア層を設けた積層体、「6.オーバーコート層」で挙げたオーバーコート層を設けた積層体(この項7.では、これらをまとめて「本発明のフィルム」と記載する)は、包装体として好適に使用することができる。包装体としては例えば、縦ピロー、横ピロー、ガゼット袋といったヒートシールによって製袋される袋、溶断シールによって製袋される溶断袋等が挙げられる。さらに、プラスチック容器の蓋材や、センターシールによって筒状に形成されたボトル用ラベルも包装体に含まれる。本発明のフィルムは単独で袋にすることもできるが、他
の材料を積層してもよい。通常、包装体を形成するためには接着性が必要となるため、シール性を有する他の層を積層させることが好ましい。他の層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを構成成分に含む無延伸フィルム、他の非晶性ポリエステルを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ナイロンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ポリプロピレンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ポリエチレンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0054】
包装体は、少なくとも一部が本発明のフィルムで構成されていればよい。また、本発明のフィルムは包装体のどの層に設けてもよいが、印字の視認性を考慮すると、本発明のフィルムより外側に不透明なフィルムを配置するのは好ましくない。
本発明のフィルムを有する包装体を製造する方法は特に限定されず、ヒートバー(ヒートジョー)を用いたヒートシール、ホットメルトを用いた接着、溶剤によるセンターシール等の従来公知の製造方法を採用することができる。
【0055】
8.レーザーの種類
本発明のフィルムに照射するレーザーの種類(波長)としては、例えばCO2レーザー(10600nm)、YAGレーザー(1064nm)、YVO4レーザー(1064nm)、ファイバーレーザー(1090nm)、グリーンレーザー(532nm)、UVレーザー(355nm)が挙げられる。これらのレーザー種は特に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に使用することができる。上記の中でも、YAGレーザー、YVO4レーザー、ファイバーレーザー、グリーンレーザー、UVレーザーの使用が好ましく、Nd:YAGレーザー、ファイバーレーザー、グリーンレーザー、UVレーザーの使用が特に好ましい。
【0056】
本発明のフィルムを有する包装体は、食品、医薬品、工業製品等の様々な物品の包装材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0058】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステルAを得た。なお、このポリエステルAはエチレンテレフタレートである。ポリエステルAの組成を表1に示す。
【0059】
[混合例1]
上記の合成例で得たポリエステルAと、レーザー顔料「TOMATEC COLOR42-920A(主成分Bi2O3)」(東罐マテリアル・テクノロジー社製)を重量比95:5で混合(ドライブレンド)してスクリュー押出機に投入し、275℃で加熱して溶融・混合させた。この溶融樹脂をストランドダイから円柱状に連続的に吐出し、ストランドカッターで裁断することによってチップ状のポリエステルB(マスターバッチ)を得た。
なお、ポリエステルBの固有粘度IVは0.72dL/gであった。ポリエステルBの組成を表1に示す。
【0060】
[混合例2]
ポリエステルAとレーザー顔料「IRIOTEC(登録商標)8825(主成分Sn、Sb)」(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製)を重量比95:5で混合(ドライブレンド)し、混合例1と同様の方法でポリエステルC(マスターバッチ)を得た。なお、ポリエステルCの固有粘度IVは0.72dL/gであった。ポリエステルCの組成を表1に示す。
【0061】
[混合例3]
ポリエステルAに対して、滑剤「サイリシア(登録商標)266(SiO2)」(富士シリシア社製)を7000ppmとなるように混合(ドライブレンド)し、混合例1と同様の方法でポリエステルD(マスターバッチ)を得た。なお、ポリエステルDの固有粘度IVは0.72dL/gであった。ポリエステルDの組成を表1に示す。
【0062】
【0063】
[実施例1]
レーザー印字層(A)の原料としてポリエステルAとポリエステルBを質量比97:3で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリエステルAとポリエステルDを質量比90:10で混合した。
【0064】
A層及びB層の混合原料はそれぞれ別々のスクリュー押出機に投入し、A層、B層ともに285℃で溶融させてTダイからせん断速度280sec-1で押し出した。なお、押出機の直上には攪拌機を取り付けており、この撹拌機によって混合原料を攪拌しながら押出機へ投入した。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは中心層がA層、両方の最表層がB層(B/A/Bの2種3層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、A層とB層の厚み比率が90/10(B/A/B=5/90/5)となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が90℃になるまで予備加熱した後に3.5倍に延伸した。
【0065】
縦延伸後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が110℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.1倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを熱処理ゾーンに導き、220℃で7秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30℃の冷却風で5秒間冷却した。両縁部を裁断除去して幅400mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件と評価結果を表2示す。
【0066】
[実施例2~8]
実施例2~8も実施例1と同様にして、原料の混合条件、吐出条件、縦延伸温度、縦延伸倍率、横延伸温度、横延伸倍率、熱処理温度を種々変更したポリエステルフィルムを連続的に製膜した。なお、実施例5のフィルムは、A層とB層の2種2層構成であり、厚み比率がA/B=80/20である。また、実施例6のフィルムは、A層のみの単層フィルムである。また、実施例7のフィルムは、縦延伸しておらず(延伸倍率が1)、横延伸だけで製膜した一軸延伸フィルムである。各フィルムの製造条件と評価結果を表2に示す。
【0067】
[実施例9]
実施例9は、実施例2のフィルムロールの片面にガスバリア層を積層させてガスバリア性積層体を連続的に作製してロールを得た。具体的には、蒸着源としてアルミニウムを用いて、真空蒸着機にて酸素ガスを導入しながら真空蒸着法で酸化アルミニウム(AlOx)をフィルムの片面に積層させた。なお、ガスバリア層の厚みは10nmであった。得られた積層体の製造条件と評価結果を表2に示す。
【0068】
[実施例10]
実施例10は、実施例2のフィルムロールの片面にガスバリア層を積層させてガスバリア性積層体を連続的に作製した後、ガスバリア層の上にオーバーコート層を連続的に作製してロールを得た。具体的には、蒸着源として酸化アルミニウム(AlOx)と酸化ケイ素(SiOx)を用いて、真空蒸着法でフィルムの片面にガスバリア層を積層させた。なお、ガスバリア層の厚みは30nmであった。この積層体のガスバリア層側に、テトラエトキシシラン加水分解溶液とポリビニルアルコールとを50:50の割合で混合した溶液を連続的に塗布した後、温度120℃、風速15m/秒に設定した乾燥炉へ導いて連続的にオーバーコート層を成膜した。なお、オーバーコート層の厚みは300nmであった。得られた積層体の製造条件と評価結果を表2に示す。
【0069】
[比較例1~4]
比較例1~3も実施例1と同様にして、原料の混合条件、吐出条件、縦延伸温度、縦延伸倍率、横延伸温度、横延伸倍率、熱処理温度を種々変更したポリエステルフィルムを連続的に製膜した。各フィルムの製造条件と評価結果を表2に示す。
【0070】
<フィルムの評価方法>
フィルムの評価方法は以下の通りである。測定サンプルとしては、フィルム幅方向の中央部のものを用いた。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
【0071】
[フィルムの厚み]
フィルムをA4サイズ(21.0cm×29.7cm)に1枚切り出して試料とした。この試料の厚みを、マイクロメーターを用いて場所を変えて10点測定し、厚み(μm)の平均値を求めた。
【0072】
[フィルム全層に含まれるレーザー印字顔料の種類、量]
・Nd、Bi、Sb、Sn、Pの定量
試料0.1gをマイクロウェーブ試料分解装置(アントンパール社製、Multiwavepro)のテフロン(登録商標)容器に精秤し、濃硝酸6mLを加え、専用のフタ、外容器に入れて装置に設置した。装置中で最終200℃にて60分間加熱処理を行った。その後、室温まで冷却し処理液を50mLデジチューブに入れ、処理後のテフロン(登録商標)容器を超純水で洗浄しながら同チューブに入れ、50mL定容とし、測定サンプルを準備した。その後、処理液を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、SPECTROBLUE)で測定し、目的元素の標準液で作成した検量線により試料中の金属元素量を定量した。試料中の元素含有量をA(ppm)、前処理液中の元素濃度をB(mg/L)、空試験液中の元素濃度(測定ブランク)をC(mg/L)とし、試料0.1g中の金属元素量を下記式(2)により求めた。
A=(B-C)×50/0.1 式(2)
・その他の金属元素の定量
試料0.1gを白金製るつぼに秤量し、ホットプレート上で400℃まで予備炭化を行った。その後、ヤマト科学社製電気炉FO610型を用いて、550℃で8時間灰化処理を実施した。灰化後、6.0Nの塩酸を3mL添加し、ホットプレート上にて100℃で酸分解を行い、塩酸が完全に揮発するまで加熱処理を行った。酸分解終了後に、1.2Nの塩酸20mLを用いて定容した。その後、処理液を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、SPECTROBLUE)で測定し、目的元素の標準液で作成した検量線により試料中の金属元素量を定量した。試料中の元素含有量をA(ppm)、前処理液中の元素濃度をB(mg/L)、空試験液中の元素濃度(測定ブランク)をC(mg/L)とし、試料0.1g中の金属元素量を下記式(3)により求めた。
A=(B-C)×20/0.1 式(3)
【0073】
[ヘイズ]
JIS-K-7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0074】
[カラーL*値、カラーb*値]
分光式色差計(日本電色株式会社製、ZE-6000)を用い、反射法によりフィルムサンプル1枚で色調(L*値、b*値)を測定した。
【0075】
[長手方向の厚み斑]
フィルムを長手方向11m×幅方向40mmのロール状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて測定速度5m/min.でフィルムの長手方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは10m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、下式4からフィルムの長手方向の厚み斑を算出した。
厚み斑={(Tmax.-Tmin.)/Tave.}×100 (%) ・・式(4)
[幅方向の厚み斑]
フィルムを長手方向40mm×幅方向500mmの幅広な帯状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、測定速度5m/min.でフィルム試料の幅方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは400mm)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、上式4からフィルムの幅方向の厚み斑を算出した。
【0076】
[屈折率]
アッベ屈折率計(NAR-4T、アタゴ社製、測定波長589nm)で測定した。マウント液はジヨードメタンを用い、長手方向の屈折率(Nx)、幅方向の屈折率(Ny)及び厚み方向の屈折率(Nz)を測定した。測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0077】
[熱収縮率]
長手方向および幅方向に対して幅10mm、長さ250mmに切り取り、200mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定する。次いで、フィルムを無荷重下の状態で、140℃で30分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定し、式(5)より熱収縮率を求めた。このようにして求めた熱収縮率に対して、長手方向および幅方向の熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)={(A-B)/A}×100 式(5)
【0078】
[引張破断強度]
JIS K7113に準拠し、測定方向が140mm、測定方向と直交する方向(フィルム幅方向)が20mmの短冊状のフィルムサンプルを作製した。万能引張試験機「オートグラフAG-Xplus」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで片側20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強度(MPa)とした。なお、測定方向は長手方向と幅方向とした。
【0079】
[固有粘度(IV)]
ヒートシール層の固有粘度(IV)は、JIS K 7367-5に準拠して求めた。ウベローデ粘度管を用いて30±0.1℃で測定して得られた粘度数に対して、溶液の質量濃度(c)に対する粘度数の関係から質量濃度(c)=0としたときの値をIVとした。なお、測定溶媒にはフェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンを60/40(wt%)で混合したものを用いた。
【0080】
[水蒸気透過度]
水蒸気透過度はJIS K7126 B法に準じて測定した。水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN-W3/33MG MOCON社製)を用いて、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下において、ヒートシール層側から調湿ガスが透過する方向で水蒸気透過度を測定した。なお、測定前には湿度65%RH環境下で、サンプルを4時間放置して調湿した。
【0081】
[酸素透過度]
酸素透過度はJIS K7126-2法に準じて測定した。酸素透過量測定装置(OX-TRAN 2/20 MOCON社製)を用いて、温度23度、湿度65%RHの雰囲気下において、ヒートシール層側から酸素が透過する方向で酸素透過度を測定した。なお、測定前には湿度65%RH環境下で、サンプルを4時間放置して調湿した。
【0082】
[レーザー照射による印字評価(目視)]
フィルムにレーザーを照射して文字を「ABC123」と印字し、印字濃度を目視で評価した。印字機には、波長355nmの紫外線(UV)レーザーマーカー(MD-U1000、キーエンス社製)を用い、レーザーパワー40%、スキャンスピード1000mm/秒、パルス周波数40kHz、スポット可変-20の条件でレーザーを照射した。印字濃度は、以下の基準で判定した。
判定○ 目視で文字を認識することができる
判定× 目視で文字を認識することができない
【0083】
【0084】
[フィルムの製造条件と評価結果]
実施例1から10までのフィルムはいずれも表2に掲載した物性に優れており、良好な評価結果が得られた。
一方、比較例1~3は以下の理由により、いずれも好ましくない結果となった。
比較例1は、レーザー顔料を含有していないため、レーザーを照射しても印字されなかった。
比較例2は、レーザー印字層の厚みが113μmと厚いため、ヘイズとカラーL*、b*値が所定の範囲を超えてしまい、包装体として使用したときの外観適性にはなくなってしまった。
比較例3は、レーザー顔料の濃度が0.35%と高いため、フィルムを延伸した後の厚み斑が長手方向、幅方向ともに20%を超えてしまった。そのため、ロールとして巻き取ったときも厚み斑の悪さに起因したシワが発生してしまった。
比較例4は、原料を溶融押出するときに撹拌機を使用せず、せん断速度が低い条件としたため、長手方向の厚み斑が悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のポリエステルフィルムは、高い透明性を有し、厚み斑に優れた、レーザーによる鮮明な印字が可能なフィルムを提供することができるので、ラベル等の用途に好適に使用することができる。また同時にこのフィルムを用いて直接印字された包装体を提供することができる。