(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/00 20160101AFI20240305BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240305BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20240305BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240305BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240305BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20240305BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240305BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240305BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20240305BHJP
F16H 63/46 20060101ALI20240305BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240305BHJP
F16H 61/682 20060101ALI20240305BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/10 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60K6/387
B60L15/20 K
B60L50/16
F16H61/04
F16H63/46
F16H63/50
F16H61/682
F16H59/18
(21)【出願番号】P 2023502313
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2022006119
(87)【国際公開番号】W WO2022181409
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021028155
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西村 充広
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇弘
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-169925(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034319(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/00
B60K 6/48
B60W 10/10
B60W 10/06
B60W 10/08
B60K 6/387
B60L 15/20
B60L 50/16
F16H 61/04
F16H 63/46
F16H 63/50
F16H 61/682
F16H 59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が備える内燃機関に駆動連結される入力部材と、
前記車両の車輪に駆動連結される出力部材と、
前記車輪の駆動力源として機能する回転電機と、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、前記回転電機の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する自動変速機と、
前記回転電機と前記自動変速機との間の動力伝達を断接する係合装置と、
前記内燃機関、前記回転電機、前記自動変速機、及び前記係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記係合装置を介して前記回転電機の側から前記自動変速機に伝達することが要求されるトルクを要求トルクとして、
前記制御装置は、
前記係合装置の伝達トルクが前記要求トルクに応じた大きさとなるように前記係合装置をスリップ係合状態とするトルク応答スリップ制御と、前記自動変速機の前記変速段を切り替える変速制御と、前記係合装置の前記伝達トルクを前記要求トルクよりも小さい制限値以下に制限する伝達トルク制限制御と、を実行可能に構成されており、
前記変速制御を実行する際に、前記トルク応答スリップ制御を実行中である場合には、前記トルク応答スリップ制御に代えて前記伝達トルク制限制御を実行
し、前記トルク応答スリップ制御を実行中ではなく、前記係合装置が直結係合状態である場合には、前記内燃機関及び前記回転電機の出力トルクを前記制限値以下に制限する、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制限値は、前記変速制御の実行中における前記自動変速機の伝達可能トルクに応じた値である、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記伝達トルク制限制御において、前記変速制御による前記自動変速機の前記変速段の切り替えが完了するタイミングに応じて、前記制限値を次第に上昇させる、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記トルク応答スリップ制御の実行中、前記内燃機関と前記回転電機との出力トルクを合せたトルクを、前記要求トルクに近付けるように制御する、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
複数の前記変速段は、第1変速段と、当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段と、を含み、
前記制御装置は、前記内燃機関が動作中且つ前記入力部材の回転速度が前記内燃機関のアイドル回転速度未満の状態で前記車両が走行していること、又は、前記車両の走行中に前記内燃機関を始動させること、に起因する前記トルク応答スリップ制御の実行中に、前記変速制御にて前記第2変速段から前記第1変速段への切り替えを実行する場合、前記車両のアクセル開度の上昇に応じて前記伝達トルク制限制御を開始する、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記自動変速機は、いずれの前記変速段も形成しないニュートラル状態に切り替え可能に構成され、
前記制御装置は、前記トルク応答スリップ制御の実行中に、前記自動変速機を前記ニュートラル状態から複数の前記変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる前記変速制御が開始された場合、当該変速制御の開始に応じて前記伝達トルク制限制御を開始する、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が備える内燃機関に駆動連結される入力部材と、車両の車輪に駆動連結される出力部材と、車輪の駆動力源として機能する回転電機と、回転電機の側から伝達される回転を変速して出力部材の側へ伝達する自動変速機と、回転電機と自動変速機との間の動力伝達を断接する係合装置と、それらを制御する制御装置と、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、内燃機関(14)に駆動連結される入力部材(34)と、車輪(28)に駆動連結される出力部材(22)と、第1回転電機(MG1)と、第2回転電機(MG2)と、これらの回転電機の側から伝達される回転を変速して出力部材(22)の側へ伝達する自動変速機(20)と、入力部材(34)に伝達される内燃機関(14)の駆動力を第1回転電機(MG1)と自動変速機(20)とに分配する分配用差動歯車機構(32)と、を備えた車両用駆動装置(12)が開示されている。なお、背景技術の説明において括弧内に示す符号は、特許文献1のものである。
【0003】
上記の車両用駆動装置(12)では、自動変速機(20)における変速段の切り替えの実行中、運転手によるアクセルペダルの操作によって、回転電機(MG1,MG2)の側から自動変速機(20)に伝達することが要求されるトルクである要求トルクが増大した場合に、自動変速機(20)に伝達されるトルクを低減するトルクダウン制御が実行される。トルクダウン制御では、内燃機関(14)及び回転電機(MG1,MG2)の出力トルクを制限することにより、自動変速機(20)に伝達されるトルクを低減する。このようなトルクダウン制御によれば、自動変速機(20)の変速動作によって出力部材(22)の側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機(20)の入力回転速度が過剰に上昇することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転電機と自動変速機との間の動力伝達を断接する係合装置を備えた車両用駆動装置では、上記のようなトルクダウン制御により、自動変速機に伝達されるトルクを低減することが難しい場合がある。説明を加えると、係合装置が直結係合状態であれば、回転電機及び内燃機関の出力トルクを制限することにより、自動変速機に伝達されるトルクを低減することができる。しかし、係合装置がスリップ係合状態では、自動変速機に伝達されるトルクは係合装置の伝達トルクにより定まるため、内燃機関及び回転電機の出力トルクを制限することによっては、自動変速機に伝達されるトルクを適切に低減することはできない。
【0006】
そこで、回転電機と自動変速機との間の動力伝達を断接する係合装置がスリップ係合状態で、自動変速機における変速段の切り替えの実行中に、要求トルクが増大した場合であっても、自動変速機に伝達されるトルクを適切に制限できる車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の特徴構成は、
車両が備える内燃機関に駆動連結される入力部材と、
前記車両の車輪に駆動連結される出力部材と、
前記車輪の駆動力源として機能する回転電機と、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、前記回転電機の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する自動変速機と、
前記回転電機と前記自動変速機との間の動力伝達を断接する係合装置と、
前記回転電機、前記自動変速機、及び前記係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記係合装置を介して前記回転電機の側から前記自動変速機に伝達することが要求されるトルクを要求トルクとして、
前記制御装置は、
前記係合装置の伝達トルクが前記要求トルクに応じた大きさとなるように前記係合装置をスリップ係合状態とするトルク応答スリップ制御と、前記自動変速機の前記変速段を切り替える変速制御と、前記係合装置の前記伝達トルクを前記要求トルクよりも小さい制限値以下に制限する伝達トルク制限制御と、を実行可能に構成されており、
前記変速制御を実行する際に、前記トルク応答スリップ制御を実行中である場合には、前記トルク応答スリップ制御に代えて前記伝達トルク制限制御を実行する点にある。
【0008】
この特徴構成によれば、伝達トルク制限制御において、係合装置の伝達トルクを要求トルクよりも小さい制限値以下に制限する。ここで、係合装置がスリップ係合状態では、自動変速機に伝達されるトルクは係合装置の伝達トルクにより定まる。そのため、上記のように係合装置の伝達トルクを制限値以下に制限することで、係合装置がスリップ係合状態で、自動変速機における変速段の切り替えの実行中に、要求トルクが増大した場合であっても、自動変速機に伝達されるトルクを適切に制限することができる。その結果、自動変速機の変速動作によって出力部材の側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機の入力回転速度が過剰に上昇することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
【
図2】実施形態に係る車両用駆動装置の制御ブロック図
【
図3】ダウンシフトを実行する場合における制御装置の制御処理の一例を示すフローチャート
【
図4】ダウンシフトを実行する場合における制御装置の制御処理の一例を示すタイムチャート
【
図5】ガレージシフトを実行する場合における制御装置の制御処理の一例を示すフローチャート
【
図6】ガレージシフトを実行する場合における制御装置の制御処理の一例を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、実施形態に係る車両用駆動装置100について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両用駆動装置100は、車輪Wの駆動力源として内燃機関EG及び回転電機MGの一方又は双方を用いる車両(ハイブリッド車両)を駆動するための装置である。つまり、車両用駆動装置100は、所謂、1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。
【0011】
車両用駆動装置100は、入力部材Iと、出力部材Oと、回転電機MGと、自動変速機TMと、第1係合装置CL1と、を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置100は、第2係合装置CL2と、カウンタギヤ機構CGと、差動歯車機構DFと、を更に備えている。そして、本実施形態では、これらがケース1に収容されている。なお、入力部材Iの一部は、ケース1の外部に露出している。
【0012】
回転電機MGは、非回転部材(ここでは、ケース1)に固定されたステータSTと、当該ステータSTに対して相対回転可能に支持されたロータRTと、を備えている。回転電機MGは、車輪Wの駆動力源として機能する。回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。そのため、回転電機MGは、蓄電装置(バッテリ、キャパシタ等)と電気的に接続されている。回転電機MGは、蓄電装置から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関EGのトルクや車両の慣性力により発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させる。
【0013】
内燃機関EGは、回転電機MGと同様に、車輪Wの駆動力源として機能する。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。
【0014】
入力部材Iは、車両が備える内燃機関EGに駆動連結されている。なお、入力部材Iは、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置(図示を省略)を介して、内燃機関EGの出力軸(クランクシャフト等)に駆動連結されていると好適である。
【0015】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。
【0016】
第1係合装置CL1は、回転電機MGと自動変速機TMとの間の動力伝達を断接する「係合装置」である。本実施形態では、第1係合装置CL1は、回転電機MGのロータRTと、自動変速機TMの入力要素である変速入力軸Taとの間の動力伝達を断接するように構成されている。
【0017】
また、第1係合装置CL1は、入力部材I及び回転電機MGの側の回転要素である入力要素と、自動変速機TMの側の回転要素である出力要素とを備え、これらの係合圧に応じて、係合の状態(直結係合状態/スリップ係合状態/解放状態)が制御される摩擦係合装置である。なお、「直結係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がない係合状態である。また、「スリップ係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がある係合状態である。
【0018】
第2係合装置CL2は、入力部材Iと回転電機MGとの間の動力伝達を断接するように構成されている。本実施形態では、第2係合装置CL2も、第1係合装置CL1と同様に摩擦係合装置である。
【0019】
自動変速機TMは、複数の変速段を選択的に形成可能に構成されている。自動変速機TMは、複数の変速段を形成するための複数の変速用係合装置CLt(
図2参照)を備えた自動有段変速機である。本実施形態では、自動変速機TMは、いずれの変速段も形成しないニュートラル状態にも切り替え可能に構成されている。
【0020】
自動変速機TMは、回転電機MGの側から伝達される回転を、複数の変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oの側へ伝達する。本実施形態では、自動変速機TMは、変速入力軸Taに入力される回転を変速して、自動変速機TMの出力要素である変速出力ギヤG1に伝達する。
【0021】
カウンタギヤ機構CGは、カウンタ入力ギヤG2と、カウンタ出力ギヤG3と、を備えている。カウンタ入力ギヤG2は、カウンタギヤ機構CGの入力要素である。カウンタ入力ギヤG2は、変速出力ギヤG1に噛み合っている。カウンタ出力ギヤG3は、カウンタギヤ機構CGの出力要素である。カウンタ出力ギヤG3は、カウンタ入力ギヤG2と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、カウンタ出力ギヤG3は、軸部材であるカウンタ軸Sを介して、カウンタ入力ギヤG2と連結されている。
【0022】
差動歯車機構DFは、カウンタギヤ機構CGのカウンタ出力ギヤG3と噛み合う差動入力ギヤG4を備えている。差動歯車機構DFは、一対のドライブシャフトDSを介して、差動入力ギヤG4の回転を一対の車輪Wに分配する。本実施形態では、差動入力ギヤG4が、車両の車輪Wに駆動連結される出力部材Oに相当する。
【0023】
図2に示すように、車両用駆動装置100は、回転電機MG、自動変速機TM、及び第1係合装置CL1を制御する制御装置10を備えている。本実施形態では、制御装置10は、主制御部11と、内燃機関EGを制御する内燃機関制御部12と、回転電機MGを制御する回転電機制御部13と、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtの係合の状態を制御する係合制御部14と、を備えている。
【0024】
主制御部11は、内燃機関制御部12、回転電機制御部13、及び係合制御部14のそれぞれに対して、各制御部が担当する装置を制御する指令を出力する。内燃機関制御部12は、内燃機関EGが、主制御部11から指令された目標トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された目標回転速度となるように内燃機関EGを制御する。回転電機制御部13は、回転電機MGが、主制御部11から指令された目標トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された目標回転速度となるように回転電機MGを制御する。係合制御部14は、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtのそれぞれが、主制御部11から指令された係合の状態となるように、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtを動作させるためのアクチュエータ(図示を省略)を制御する。
【0025】
また、主制御部11は、車両用駆動装置100が搭載される車両の各部の情報を取得するために、当該車両の各部に設けられたセンサからの情報を取得可能に構成されている。本実施形態では、主制御部11は、入力回転速度センサSe1、変速入力回転速度センサSe2、車速センサSe3、アクセル操作量センサSe4、ブレーキ操作量センサSe5、及びシフト位置センサSe6からの情報を取得可能に構成されている。
【0026】
入力回転速度センサSe1は、入力部材Iの回転速度である入力回転速度を検出するためのセンサである。主制御部11は、入力回転速度センサSe1の検出信号に基づいて、入力回転速度を算出する。
【0027】
変速入力回転速度センサSe2は、自動変速機TMの変速入力軸Taの回転速度である変速入力回転速度Ntを検出するためのセンサである。主制御部11は、変速入力回転速度センサSe2の検出信号に基づいて、変速入力回転速度Ntを算出する。
【0028】
車速センサSe3は、車両用駆動装置100が搭載される車両の走行速度(車速)を検出するためのセンサである。本実施形態では、車速センサSe3は、出力部材Oの回転速度を検出するためのセンサである。主制御部11は、車速センサSe3の検出信号に基づいて、出力部材Oの回転速度を算出する。出力部材Oの回転速度は車速に比例するため、主制御部11は、車速センサSe3の検出信号に基づいて車速を算出することができる。
【0029】
アクセル操作量センサSe4は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたアクセルペダルの運転者による操作量(アクセル開度)を検出するためのセンサである。主制御部11は、アクセル操作量センサSe4の検出信号に基づいて、アクセル開度を算出する。
【0030】
ブレーキ操作量センサSe5は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたブレーキペダルの運転者による操作量を検出するためのセンサである。主制御部11は、ブレーキ操作量センサSe5の検出信号に基づいて、運転者によるブレーキペダルの操作量を算出する。
【0031】
シフト位置センサSe6は、車両用駆動装置100が搭載される車両の運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。主制御部11は、シフト位置センサSe6の検出信号に基づいてシフト位置を算出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)等を選択可能に構成されている。
【0032】
制御装置10は、トルク応答スリップ制御と、変速制御と、伝達トルク制限制御と、を実行可能に構成されている。
【0033】
トルク応答スリップ制御は、第1係合装置CL1の伝達トルクTが、要求トルクTrに応じた大きさとなるように、第1係合装置CL1をスリップ係合状態とする制御である。ここで、伝達トルクTは、第1係合装置CL1が伝達するトルクである。また、要求トルクTrは、第1係合装置CL1を介して入力部材I及び回転電機MGの側から自動変速機TMに伝達することが要求されるトルクである。本実施形態のトルク応答スリップ制御では、係合制御部14は、第1係合装置CL1の伝達トルクTが、主制御部11から指令された要求トルクTrに応じた大きさとなるように、第1係合装置CL1をスリップ係合状態とする。ここで、スリップ係合状態の第1係合装置CL1の伝達トルクTは、当該第1係合装置CL1としての摩擦係合装置の入力要素と出力要素との係合圧に応じて定まる。したがって、係合制御部14は、第1係合装置CL1の係合圧を要求トルクTrに応じて制御する。
【0034】
変速制御は、自動変速機TMの変速段を切り替える制御である。本実施形態の変速制御では、係合制御部14は、自動変速機TMが主制御部11から指令された状態となるように、複数の変速用係合装置CLtの係合の状態を制御する。つまり、係合制御部14は、主制御部11から指令された変速段が自動変速機TMに形成されるように、複数の変速用係合装置CLtの係合の状態を制御する。また、係合制御部14は、自動変速機TMがニュートラル状態となるように、複数の変速用係合装置CLtの係合の状態を制御する場合もある。
【0035】
伝達トルク制限制御は、第1係合装置CL1の伝達トルクTを要求トルクTrよりも小さい制限値LM以下に制限する制御である。制御装置10は、変速制御を実行する際に、トルク応答スリップ制御を実行中である場合には、トルク応答スリップ制御に代えて伝達トルク制限制御を実行する。
【0036】
以上のように、車両用駆動装置100は、
車両が備える内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、
車両の車輪Wに駆動連結される出力部材Oと、
車輪Wの駆動力源として機能する回転電機MGと、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、回転電機MGの側から伝達される回転を、複数の変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oの側へ伝達する自動変速機TMと、
回転電機MGと自動変速機TMとの間の動力伝達を断接する第1係合装置CL1と、
回転電機MG、自動変速機TM、及び第1係合装置CL1を制御する制御装置10と、を備え、
第1係合装置CL1を介して回転電機MGの側から自動変速機TMに伝達することが要求されるトルクを要求トルクTrとして、
制御装置10は、
第1係合装置CL1の伝達トルクTが要求トルクTrに応じた大きさとなるように第1係合装置CL1をスリップ係合状態とするトルク応答スリップ制御と、自動変速機TMの変速段を切り替える変速制御と、第1係合装置CL1の伝達トルクTを要求トルクTrよりも小さい制限値LM以下に制限する伝達トルク制限制御と、を実行可能に構成されており、
変速制御を実行する際に、トルク応答スリップ制御を実行中である場合には、トルク応答スリップ制御に代えて伝達トルク制限制御を実行する。
【0037】
この構成によれば、伝達トルク制限制御において、第1係合装置CL1の伝達トルクTを要求トルクTrよりも小さい制限値LM以下に制限する。ここで、第1係合装置CL1がスリップ係合状態では、自動変速機TMに伝達されるトルクは第1係合装置CL1の伝達トルクTにより定まる。そのため、上記のように第1係合装置CL1の伝達トルクTを制限値LM以下に制限することで、第1係合装置CL1がスリップ係合状態で、自動変速機TMにおける変速段の切り替えの実行中に、要求トルクTrが増大した場合であっても、自動変速機TMに伝達されるトルクを適切に制限することができる。その結果、自動変速機TMの変速動作によって出力部材Oの側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機TMの入力回転速度である変速入力回転速度Ntが過剰に上昇することを抑制できる。
【0038】
本実施形態では、制限値LMは、変速制御の実行中における自動変速機TMの伝達可能トルクに応じた値である。ここで、変速制御の実行中における自動変速機TMの伝達可能トルクとは、自動変速機TMの変速動作中に、スリップ係合状態の変速用係合装置CLtが伝達可能な最大トルク、つまり、伝達トルク容量である。例えば、制限値LMは、変速制御の実行中にスリップ係合状態となっている変速用係合装置CLtの伝達トルク容量に、当該変速用係合装置CLtと変速入力軸Taとの間の動力伝達経路における変速比を乗じたトルクに基づいて設定することができる。
【0039】
この構成によれば、伝達トルク制限制御において、第1係合装置CL1の伝達トルクTを変速制御の実行中における自動変速機TMの伝達可能トルクに応じた制限値LM以下に制限する。これにより、自動変速機TMの変速動作によって出力部材Oの側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機TMの入力回転速度である変速入力回転速度Ntが過剰に上昇することを適切に抑制できる。
【0040】
本実施形態では、制御装置10は、伝達トルク制限制御において、変速制御による自動変速機TMの変速段の切り替えが完了するタイミングに応じて、制限値LMを次第に上昇させる。本例では、制御装置10は、伝達トルク制限制御において、変速制御による自動変速機TMの変速段の切り替えが完了したと同時に、制限値LMを次第に上昇させる。
【0041】
この構成によれば、伝達トルク制限制御の終了後に、出力部材Oの側へ伝達されるトルクが急激に上昇することを抑制できる。これにより、伝達トルク制限制御の終了後における車輪駆動力の変動を少なく抑えることができる。
【0042】
また、本実施形態では、制御装置10は、トルク応答スリップ制御の実行中、内燃機関EGと回転電機MGとの出力トルクを合せたトルクを、要求トルクTrに近付けるように制御する。本例では、トルク応答スリップ制御の実行中、内燃機関EGと回転電機MGとの出力トルクを合せたトルクを要求トルクTrに近付けるように、内燃機関制御部12が内燃機関EGを制御すると共に、回転電機制御部13が回転電機MGを制御する。
【0043】
この構成によれば、トルク応答スリップ制御の実行中、スリップ係合状態の第1係合装置CL1における差回転を一定の範囲に維持し易い。これにより、第1係合装置CL1における差回転が過剰に大きくなったり、第1係合装置CL1における差回転が減少して第1係合装置CL1が直結係合状態となったりすることを回避できる。つまり、第1係合装置CL1のスリップ係合状態を適切に維持することができる。
【0044】
本実施形態では、変速制御は、比較的変速比が小さい第2変速段から比較的変速比が大きい第1変速段に切り替えるダウンシフトと、自動変速機TMをニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる状態に移行させるガレージシフトと、を含む。そして、制御装置10は、ダウンシフト又はガレージシフトを実行する場合において、規定の条件を満たした場合に、伝達トルク制限制御を実行する。なお、ガレージシフトは、通常、車両の運転者による自動変速機TMのレンジ選択が「パーキングレンジ(Pレンジ)」又は「ニュートラルレンジ(Nレンジ)」から「前進走行レンジ(Dレンジ)」又は「後進走行レンジ(Rレンジ)」に切り替えられることにより実行される。また、本実施形態では、これに加えて、例えば、運転者の操作によらず、車両の走行状態等に応じた制御装置10の制御によって、自動変速機TMをニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる場合もガレージシフトに含まれるものとする。
【0045】
以下では、ダウンシフトを実行する場合における制御装置10の制御処理について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0046】
図3は、ダウンシフトを実行する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0047】
図3に示すように、まず、制御装置10は、ダウンシフトの制御が開始された場合に(ステップ#1:Yes)、本制御処理を開始する。本実施形態では、第2変速段から第1変速段に切り替わるように、係合制御部14が複数の変速用係合装置CLtの制御を開始する。
【0048】
次に、制御装置10は、内燃機関EGが動作中且つ入力部材Iの回転速度である入力回転速度が内燃機関EGのアイドル回転速度未満の状態で車両が走行中、又は、車両の走行中であって内燃機関EGを始動中であるか否かを判断する(ステップ#2)。本実施形態では、主制御部11が、入力回転速度センサSe1の検出信号に基づいて算出した入力回転速度、及び車速センサSe3の検出信号に基づいて算出した車速等に基づき、上記の判断を行う。
【0049】
制御装置10は、内燃機関EGが動作中且つ入力回転速度が内燃機関EGのアイドル回転速度未満の状態で車両が走行中、及び、車両の走行中であって内燃機関EGを始動中のいずれでもないと判断した場合(ステップ#2:No)、伝達トルク制限制御を実行することなく、自動変速機TMに第1変速段が形成されるようにダウンシフトを実行し、ダウンシフトが完了したら(ステップ#7:Yes)、制御を終了する。
【0050】
一方、制御装置10は、内燃機関EGが動作中且つ入力回転速度が内燃機関EGのアイドル回転速度未満の状態で車両が走行中、又は、車両の走行中であって内燃機関EGを始動中であると判断した場合(ステップ#2:Yes)、アクセル開度の上昇を検知したか否かを判断する(ステップ#3)。本実施形態では、主制御部11が、アクセル操作量センサSe4の検出信号に基づいて算出されたアクセル開度に基づき、上記の判断を行う。
【0051】
制御装置10は、アクセル開度の上昇を検知しなかった場合(ステップ#3:No)、伝達トルク制限制御を実行することなく、ダウンシフトを実行し、ダウンシフトが完了したら(ステップ#7:Yes)、制御を終了する。
【0052】
一方、制御装置10は、アクセル開度の上昇を検知した場合(ステップ#3:Yes)、トルク応答スリップ制御が実行中であるか否かを判断する(ステップ#4)。本実施形態では、主制御部11が、係合制御部14を介して第1係合装置CL1がスリップ係合状態であるか否かを判断することにより、上記の判断を行う。
【0053】
制御装置10は、トルク応答スリップ制御が実行中であると判断した場合(ステップ#4:Yes)、伝達トルク制限制御を実行する(ステップ#5)。本実施形態では、係合制御部14が、第1係合装置CL1の伝達トルクTが制限値LM以下に制限されるように、第1係合装置CL1の係合圧を制御する。なお、本例のようにダウンシフトを実行する場合においては、制限値LMは、伝達トルク制限制御中にアクセル開度が急激に上昇した場合であっても、変速入力回転速度Ntが変速後の第1変速段における同期回転速度を超えないように設定されている。
【0054】
制御装置10は、トルク応答スリップ制御が実行中ではないと判断した場合(ステップ#4:No)、つまり、第1係合装置CL1が直結係合状態であると判断した場合、車輪Wの駆動力源としての内燃機関EG及び回転電機MGの出力トルクを制限させる。本実施形態では、内燃機関EGと回転電機MGとの出力トルクを合せたトルクが制限値LM以下に制限されるように、内燃機関制御部12が内燃機関EGを制御すると共に、回転電機制御部13が回転電機MGを制御する。このように、第1係合装置CL1が直結係合状態で変速制御を実行する場合には、要求トルクTrに応じて制御される内燃機関EG及び回転電機MGの出力トルクを制限値LM以下に制限する。これにより、自動変速機TMにおける変速段の切り替えの実行中に、要求トルクTrが増大した場合であっても、自動変速機TMに伝達されるトルクを適切に制限することができる。その結果、自動変速機TMの変速動作によって出力部材Oの側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機TMの入力回転速度である変速入力回転速度Ntが過剰に上昇することを抑制できる。
【0055】
制御装置10は、ダウンシフトが完了するまでの間(ステップ#7:No)、上記ステップ#2から#6の制御を実行する。そして、ダウンシフトが完了したら(ステップ#7:Yes)、制御を終了する。
【0056】
図4は、内燃機関EGが動作中且つ入力回転速度が内燃機関EGのアイドル回転速度未満の状態で車両を走行させる場合、又は、車両の走行中に内燃機関EGを始動させる場合であって、トルク応答スリップ制御を実行中にダウンシフトを実行する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すタイムチャートである。
【0057】
図4に示すように、時間t1において、主制御部11は、係合制御部14にダウンシフトの指令を行う。これに伴い、複数の変速用係合装置CLtのうち、第2変速段から第1変速段への切り替えに伴って解放状態から係合状態となる変速用係合装置CLtの目標係合圧(係合圧指令)である第1係合圧指令P1が上昇する。一方、複数の変速用係合装置CLtのうち、第2変速段から第1変速段への切り替えに伴って係合状態から解放状態となる変速用係合装置CLtの目標係合圧(係合圧指令)である第2係合圧指令P2が下降する。
【0058】
時間t2において、アクセル開度が上昇し始めると、制御装置10は伝達トルク制限制御を実行し、制限値LMを低下させる。
【0059】
時間t3において、主制御部11は、アクセル開度の上昇に応じて、要求トルクTrを増加させる。これに伴い、係合制御部14は、主制御部11から指令された要求トルクTrの増加に応じて、第1係合装置CL1の伝達トルクTを増加させる。
【0060】
時間t4において、要求トルクTr及び伝達トルクTは、制限値LMに到達する。時間t4以降、本例では、主制御部11は、アクセル開度に応じて要求トルクTrをTmaxまで増加させている。一方、係合制御部14は、第1係合装置CL1の伝達トルクTを、制限値LMを超えないように制限している。その結果、第1係合装置CL1の伝達トルクTは、制限値LMに維持されている。これにより、アクセル開度が上昇した場合であっても、変速入力回転速度Ntが過剰に上昇して第1変速段における同期回転速度を超えること(
図4における破線で示した変速入力回転速度Nt参照)を抑制でき、変速入力回転速度Ntを次第に上昇させることができる(
図4における実線で示した変速入力回転速度Nt参照)。
【0061】
時間t5において、第1係合圧指令P1が第1変速段の形成に要する値に達し、第1変速段を形成する変速用係合装置CLtが直結係合状態となることにより、ダウンシフトが完了する。制御装置10は、ダウンシフトが完了したと判断すると、制限値LMを次第に増加させる。本例では、制御装置10は、制限値LMを時間の経過に対して一定の割合で増加させる。そして、時間t6において、制限値LM及び第1係合装置CL1の伝達トルクTが要求トルクTrに到達した場合に、制御装置10は伝達トルク制限制御を終了し、制限値LMを元の値に戻す。
【0062】
このように、本実施形態では、複数の変速段は、第1変速段と、当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段と、を含み、
制御装置10は、内燃機関EGが動作中且つ入力部材Iの回転速度である入力回転速度が内燃機関EGのアイドル回転速度未満の状態で車両が走行していること、又は、車両の走行中に内燃機関EGを始動させること、に起因するトルク応答スリップ制御の実行中に、変速制御にて第2変速段から第1変速段への切り替えを実行する場合、車両のアクセル開度の上昇に応じて伝達トルク制限制御を開始する。
【0063】
内燃機関EGが動作中且つ入力回転速度が内燃機関EGのアイドル回転速度未満の状態で車両を走行させる場合や、車両の走行中に内燃機関EGを始動させる場合には、トルク応答スリップ制御が実行されると好適である。そして、これらに起因するトルク応答スリップ制御の実行中に、変速制御にて第2変速段から第1変速段への切り替えを実行する場合、当該変速制御の実行中にアクセル開度が上昇すると、自動変速機TMの入力回転速度である変速入力回転速度Ntが過剰に上昇し易い状況となる。そこで、車両のアクセル開度の上昇に応じて伝達トルク制限制御を開始することで、要求トルクTrが増大した場合であっても、変速入力回転速度Ntが過剰に上昇することを適切に抑制できる。
【0064】
次に、ガレージシフトを実行する場合における制御装置10の制御処理について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0065】
図5は、ガレージシフトを実行する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0066】
図5に示すように、まず、制御装置10は、ガレージシフトの制御が開始された場合(ステップ#11:Yes)、本制御処理を開始する。本実施形態では、主制御部11が、シフト位置センサSe6の検出信号に基づいて、シフトレバーがパーキングレンジ(Pレンジ)又はニュートラルレンジ(Nレンジ)から前進走行レンジ(Dレンジ)又は後進走行レンジ(Rレンジ)に操作されたことを検出した場合に、自動変速機TMがニュートラル状態から変速段を形成した状態となるように、係合制御部14が複数の変速用係合装置CLtの制御を開始する。
【0067】
次に、制御装置10は、トルク応答スリップ制御の実行中であるか否かを判断する(ステップ#12)。
【0068】
そして、制御装置10は、トルク応答スリップ制御が実行中であると判断した場合(ステップ#12:Yes)、伝達トルク制限制御を実行する(ステップ#13)。本実施形態では、係合制御部14が、第1係合装置CL1の伝達トルクTが制限値LM以下に制限されるように、第1係合装置CL1の係合圧を制御する。なお、本例のようにガレージシフトを実行する場合においては、制限値LMは、変速入力回転速度Ntの上昇に起因する第1係合装置CL1の発熱量が規定の閾値未満となるように、且つ、車両の走行性能が規定以上確保されるように設定されている。
【0069】
制御装置10は、トルク応答スリップ制御が実行中ではないと判断した場合(ステップ#12:No)、つまり、第1係合装置CL1が直結係合状態であると判断した場合、車輪Wの駆動力源としての内燃機関EG及び回転電機MGの出力トルクを制限させる。本実施形態では、内燃機関EGと回転電機MGとの出力トルクを合せたトルクが制限値LM以下に制限されるように、内燃機関制御部12が内燃機関EGを制御すると共に、回転電機制御部13が回転電機MGを制御する。
【0070】
制御装置10は、ガレージシフトが完了するまでの間(ステップ#15:No)、上記ステップ#12から#14の制御を実行する。そして、ガレージシフトが完了したら(ステップ#15:Yes)、制御を終了する。
【0071】
図6は、トルク応答スリップ制御の実行中に、ガレージシフトを実行する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すタイムチャートである。
【0072】
図6に示すように、時間t11において、シフトレバーがパーキングレンジ(Pレンジ)又はニュートラルレンジ(Nレンジ)から前進走行レンジ(Dレンジ)又は後進走行レンジ(Rレンジ)に操作されることに伴い、主制御部11は、係合制御部14に変速段の形成の指令を行う。これに伴い、複数の変速用係合装置CLtのうち、変速段の形成に伴って解放状態から係合状態となる変速用係合装置CLtの目標係合圧(係合圧指令)である第1係合圧指令P1が上昇する。
【0073】
更に、時間t11において、上記のようなガレージシフトの開始に応じて、制御装置10は伝達トルク制限制御を実行し、制限値LMを低下させる。
【0074】
時間t12において、アクセル開度が上昇し始めると、時間t13において、主制御部11は、当該アクセル開度の上昇に応じて、要求トルクTrを増加させる。これに伴い、係合制御部14は、主制御部11から指令された要求トルクTrの増加に応じて、第1係合装置CL1の伝達トルクTを増加させる。
【0075】
時間t14において、要求トルクTr及び伝達トルクTは、制限値LMに到達する。時間t14以降、本例では、主制御部11は、アクセル開度に応じて要求トルクTrをTmaxまで増加させている。一方、係合制御部14は、第1係合装置CL1の伝達トルクTを、制限値LMを超えないように制限している。その結果、第1係合装置CL1の伝達トルクTは、制限値LMに維持されている。これにより、アクセル開度が上昇した場合であっても、変速入力回転速度Ntが過剰に上昇すること(
図6における破線で示した変速入力回転速度Nt参照)を抑制でき、変速入力回転速度Ntを次第に下降させることができる(
図6における実線で示した変速入力回転速度Nt参照)。
【0076】
時間t15において、第1係合圧指令P1が変速段の形成に要する値に達し、変速段を形成する変速用係合装置CLtが直結係合状態となることにより、ガレージシフトが完了する。制御装置10は、ガレージシフトが完了したと判断すると、制限値LMを次第に増加させる。本例では、制御装置10は、制限値LMを時間の経過に対して一定の割合で増加させる。そして、時間t16において、制限値LM及び第1係合装置CL1の伝達トルクTが要求トルクTrに到達した場合に、制御装置10は伝達トルク制限制御を終了し、制限値LMを元の値に戻す。
【0077】
このように、自動変速機TMは、いずれの変速段も形成しないニュートラル状態に切り替え可能に構成され、
制御装置10は、トルク応答スリップ制御の実行中に、自動変速機TMをニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる変速制御が開始された場合、当該変速制御の開始に応じて伝達トルク制限制御を開始する。
【0078】
自動変速機TMをニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる変速制御が行われる場合、次にアクセル開度が上昇され、車両が加速を開始する可能性が高い。トルク応答スリップ制御の実行中に、このような変速制御とアクセル開度の上昇とがあると、自動変速機TMの入力回転速度である変速入力回転速度Ntが過剰に上昇し易い状況となる。本構成によれば、このような場合に、アクセル開度の上昇を待つことなく、自動変速機TMをニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる変速制御の開始に応じて伝達トルク制限制御を開始することで、その後にアクセル開度が上昇して要求トルクTrが増大した場合であっても、変速入力回転速度Ntが過剰に上昇することを適切に抑制できる。
【0079】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、制御装置10が、伝達トルク制限制御において、変速制御による自動変速機TMの変速段の切り替えが完了したと同時に、制限値LMを次第に上昇させる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、制御装置10が、伝達トルク制限制御において、変速制御による自動変速機TMの変速段の切り替えが完了した後、規定時間の経過後に制限値LMを次第に上昇させる構成としても良い。或いは、制御装置10が、伝達トルク制限制御において、変速制御による自動変速機TMの変速段の切り替えが完了した後、ステップ的に制限値LMを要求トルクTrまで上昇させる構成としても良い。
【0080】
(2)上記の実施形態では、制限値LMが要求トルクTrに到達した場合に伝達トルク制限制御を終了する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、制限値LMが要求トルクTr未満の規定値に到達した場合に伝達トルク制限制御を終了しても良い。この場合において、規定値は、例えば、要求トルクTrに対して予め設定した値だけ低い値に設定することができる。
【0081】
(3)上記の実施形態では、入力部材Iと回転電機MGとの間の動力伝達を断接する第2係合装置CL2を備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第2係合装置CL2を備えていない構成としても良い。
【0082】
(4)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0083】
〔上記実施形態の概要〕
以下では、上記において説明した車両用駆動装置(100)の概要について説明する。
【0084】
車両用駆動装置(100)は、
車両が備える内燃機関(EG)に駆動連結される入力部材(I)と、
前記車両の車輪(W)に駆動連結される出力部材(O)と、
前記車輪(W)の駆動力源として機能する回転電機(MG)と、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、前記回転電機(MG)の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材(O)の側へ伝達する自動変速機(TM)と、
前記回転電機(MG)と前記自動変速機(TM)との間の動力伝達を断接する係合装置(CL1)と、
前記回転電機(MG)、前記自動変速機(TM)、及び前記係合装置(CL1)を制御する制御装置(10)と、を備え、
前記係合装置(CL1)を介して前記回転電機(MG)の側から前記自動変速機(TM)に伝達することが要求されるトルクを要求トルク(Tr)として、
前記制御装置(10)は、
前記係合装置(CL1)の伝達トルク(T)が前記要求トルク(Tr)に応じた大きさとなるように前記係合装置(CL1)をスリップ係合状態とするトルク応答スリップ制御と、前記自動変速機(TM)の前記変速段を切り替える変速制御と、前記係合装置(CL1)の前記伝達トルク(T)を前記要求トルク(Tr)よりも小さい制限値(LM)以下に制限する伝達トルク制限制御と、を実行可能に構成されており、
前記変速制御を実行する際に、前記トルク応答スリップ制御を実行中である場合には、前記トルク応答スリップ制御に代えて前記伝達トルク制限制御を実行する。
【0085】
この構成によれば、伝達トルク制限制御において、係合装置(CL1)の伝達トルク(T)を要求トルク(Tr)よりも小さい制限値(LM)以下に制限する。ここで、係合装置(CL1)がスリップ係合状態では、自動変速機(TM)に伝達されるトルクは係合装置(CL1)の伝達トルク(T)により定まる。そのため、上記のように係合装置(CL1)の伝達トルク(T)を制限値(LM)以下に制限することで、係合装置(CL1)がスリップ係合状態で、自動変速機(TM)における変速段の切り替えの実行中に、要求トルク(Tr)が増大した場合であっても、自動変速機(TM)に伝達されるトルクを適切に制限することができる。その結果、自動変速機(TM)の変速動作によって出力部材(O)の側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機(TM)の入力回転速度である変速入力回転速度(Nt)が過剰に上昇することを抑制できる。
【0086】
ここで、前記制限値(LM)は、前記変速制御の実行中における前記自動変速機(TM)の伝達可能トルクに応じた値である。
【0087】
この構成によれば、伝達トルク制限制御において、係合装置(CL1)の伝達トルク(T)を変速制御の実行中における自動変速機(TM)の伝達可能トルクに応じた制限値(LM)以下に制限する。これにより、自動変速機(TM)の変速動作によって出力部材(O)の側へ伝達できるトルクが一時的に小さくなることに起因して、自動変速機(TM)の入力回転速度である変速入力回転速度(Nt)が過剰に上昇することを適切に抑制できる。
【0088】
また、前記制御装置(10)は、前記伝達トルク制限制御において、前記変速制御による前記自動変速機(TM)の前記変速段の切り替えが完了するタイミングに応じて、前記制限値(LM)を次第に上昇させる。
【0089】
この構成によれば、伝達トルク制限制御の終了後に、出力部材(O)の側へ伝達されるトルクが急激に上昇することを抑制できる。これにより、伝達トルク制限制御の終了後における車輪駆動力の変動を少なく抑えることができる。
【0090】
また、前記制御装置(10)は、前記トルク応答スリップ制御の実行中、前記内燃機関(EG)と前記回転電機(MG)との出力トルクを合せたトルクを、前記要求トルク(Tr)に近付けるように制御する。
【0091】
この構成によれば、トルク応答スリップ制御の実行中、スリップ係合状態の係合装置(CL1)における差回転を一定の範囲に維持し易い。これにより、係合装置(CL1)における差回転が過剰に大きくなったり、係合装置(CL1)における差回転が減少して係合装置(CL1)が直結係合状態となったりすることを回避できる。つまり、係合装置(CL1)のスリップ係合状態を適切に維持することができる。
【0092】
また、複数の前記変速段は、第1変速段と、当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段と、を含み、
前記制御装置(10)は、前記内燃機関(EG)が動作中且つ前記入力部材(I)の回転速度が前記内燃機関(EG)のアイドル回転速度未満の状態で前記車両が走行していること、又は、前記車両の走行中に前記内燃機関(EG)を始動させること、に起因する前記トルク応答スリップ制御の実行中に、前記変速制御にて前記第2変速段から前記第1変速段への切り替えを実行する場合、前記車両のアクセル開度の上昇に応じて前記伝達トルク制限制御を開始する。
【0093】
内燃機関(EG)が動作中且つ入力部材(I)の回転速度が内燃機関(EG)のアイドル回転速度未満の状態で車両を走行させる場合や、車両の走行中に内燃機関(EG)を始動させる場合には、トルク応答スリップ制御が実行されると好適である。そして、これらに起因するトルク応答スリップ制御の実行中に、変速制御にて第2変速段から第1変速段への切り替えを実行する場合、当該変速制御の実行中にアクセル開度が上昇すると、自動変速機(TM)の入力回転速度である変速入力回転速度(Nt)が過剰に上昇し易い状況となる。そこで、車両のアクセル開度の上昇に応じて伝達トルク制限制御を開始することで、要求トルク(Tr)が増大した場合であっても、変速入力回転速度(Nt)が過剰に上昇することを適切に抑制できる。
【0094】
また、前記自動変速機(TM)は、いずれの前記変速段も形成しないニュートラル状態に切り替え可能に構成され、
前記制御装置(10)は、前記トルク応答スリップ制御の実行中に、前記自動変速機(TM)を前記ニュートラル状態から複数の前記変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる前記変速制御が開始された場合、当該変速制御の開始に応じて前記伝達トルク制限制御を開始する。
【0095】
自動変速機(TM)をニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる変速制御が行われる場合、次にアクセル開度が上昇され、車両が加速を開始する可能性が高い。トルク応答スリップ制御の実行中に、このような変速制御とアクセル開度の上昇とがあると、自動変速機(TM)の入力回転速度である変速入力回転速度(Nt)が過剰に上昇し易い状況となる。本構成によれば、このような場合に、アクセル開度の上昇を待つことなく、自動変速機(TM)をニュートラル状態から複数の変速段のいずれかを形成させる状態に移行させる変速制御の開始に応じて伝達トルク制限制御を開始することで、その後にアクセル開度が上昇して要求トルク(Tr)が増大した場合であっても、変速入力回転速度(Nt)が過剰に上昇することを適切に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示に係る技術は、車両が備える内燃機関に駆動連結される入力部材と、車両の車輪に駆動連結される出力部材と、車輪の駆動力源として機能する回転電機と、回転電機の側から伝達される回転を変速して出力部材の側へ伝達する自動変速機と、回転電機と自動変速機との間の動力伝達を断接する係合装置と、それらを制御する制御装置と、を備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
100:車両用駆動装置、10:制御装置、I:入力部材、O:出力部材、MG:回転電機、TM:自動変速機、CL1:第1係合装置(係合装置)、EG:内燃機関、W:車輪