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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】物標認識装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/66 20060101AFI20240305BHJP
   G01S 13/66 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G01S17/66
G01S13/66
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2023505212
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2022004054
(87)【国際公開番号】W WO2022190719
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021037570
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】清水 辰吾
(72)【発明者】
【氏名】小川 高志
(72)【発明者】
【氏名】米田 雅樹
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-032285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0377124(US,A1)
【文献】特開2007-232653(JP,A)
【文献】特開2010-032304(JP,A)
【文献】国際公開第2021/019667(WO,A1)
【文献】特開2014-169865(JP,A)
【文献】金丸 和樹 ほか,自動運転安全化に資するミリ波レーダの追跡性能向上のための複数移動体捕捉におけるLMBフィルタ活用の有効性検証,第38回日本ロボット学会学術講演会予稿集[DVD-ROM],日本,一般社団法人日本ロボット学会,2020年10月09日,Pages: 1-4
【文献】KALYAN, B et al.,A Random Finite Set Based Detection and Tracking using 3D LIDAR in Dynamic Environments,2020 IEEE International Conference on Systems, Man and Cybemetrics,米国,IEEE,2010年11月22日,Pages: 2288-2292,インターネット: <URL: https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=5641985><DOI: 10.1109/ICSMC.2010.5641985>
【文献】光益 義幸 ほか,雑音推定型パーティクルフィルタによるレーダ目標追尾,ロボティクス・メカトロニクス講演会 ’12 講演論文集[DVD-ROM],日本,一般社団法人日本機械学会,2012年05月27日,Pages: 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されることで当該車両の周囲に存在する物標を認識するように構成された、物標認識装置(10)であって、
電磁波である探査波を発信するとともに前記探査波の前記物標による反射波を受信するように前記車両に搭載される物標センサ(2)による物標検知信号に含まれる、前記反射波の受信強度ピークが、閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報を取得する、位置情報取得部(11)と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部(13)と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部(15)と、
ランダム有限集合理論における設定パラメータである誤検知確率を前記閾値に応じて設定する、確率設定部(901)と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部(111)と、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部(112)と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部(131)と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部(132)と、
を備え、
前記第一追跡処理部および/または前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、
物標認識装置。
【請求項2】
前記確率設定部は、前記第一閾値と、前記第二閾値と、前記第一観測情報の個数と、前記第二観測情報の個数とに基づいて、前記誤検知確率を設定する、
請求項1に記載の物標認識装置。
【請求項3】
前記確率設定部は、前記閾値がノイズフロアから離れるほど、前記誤検知確率を小さくする、
請求項2に記載の物標認識装置。
【請求項4】
前記確率設定部は、車載センサ(902)によって取得された前記車両の走行環境に基づいて、前記誤検知確率を設定する、
請求項1~3のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項5】
前記確率設定部は、前記走行環境に基づいて発生する外乱ノイズが大きいほど、前記誤検知確率を大きくする、
請求項4に記載の物標認識装置。
【請求項6】
前記第二追跡処理部は、前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記追跡処理を実行する、
請求項1~5のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項7】
車両に搭載されることで当該車両の周囲に存在する物標を認識するように構成された、物標認識装置(10)であって、
電磁波である探査波を発信するとともに前記探査波の前記物標による反射波を受信するように前記車両に搭載される物標センサ(2)による物標検知信号に含まれる、前記反射波の受信強度ピークが、閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報を取得する、位置情報取得部(11)と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部(13)と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部(15)と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部(111)と、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部(112)と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部(131)と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部(132)と
を備え、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記第二追跡処理部は、前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、
標認識装置。
【請求項8】
前記第一追跡処理部および/または前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づいて、前記追跡処理を実行する、
請求項7に記載の物標認識装置。
【請求項9】
前記第二追跡処理部は、
前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果と前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果との差分を抽出する差分抽出部(132D)を備え、
前記差分抽出部により抽出された前記差分に基づいて、前記追跡処理を実行する、
請求項6~8のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項10】
前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づく状態推定フィルタを用いて構成され、
前記第一追跡処理部から前記第二追跡処理部に出力される前記追跡処理の結果に含まれる状態分布は、前記第二追跡処理部にて予測される未検知の前記物標の状態分布と同種である、
請求項6~9のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項11】
前記第一追跡処理部は、ポアソン強度分布を伝搬する前記状態推定フィルタである第一フィルタを用いて構成され、
前記第二追跡処理部は、ポアソン強度分布を未検知の前記物標の状態分布として扱う前記状態推定フィルタである第二フィルタを用いて構成された、
請求項10に記載の物標認識装置。
【請求項12】
前記第一閾値は、前記第二閾値よりも低く、
前記第一追跡処理部は、前記第二追跡処理部よりも耐クラッタ特性が高い、
請求項1~11のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項13】
前記第一追跡処理部は、前記位置情報が第一範囲に含まれるという条件を満たす前記第一観測情報に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第二追跡処理部は、前記位置情報が第二範囲に含まれるという条件を満たす前記第二観測情報に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第二範囲は、前記第一範囲よりも近距離側を含む、
請求項12に記載の物標認識装置。
【請求項14】
車両に搭載されることで当該車両の周囲に存在する物標を認識するように構成された、物標認識装置(10)であって、
物標センサ(2)から得られた物標検知信号の強弱において、予め決められた所定の閾値を超える場合に、位置情報を取得する位置情報取得部(11)と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部(13)と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部(15)と、
ランダム有限集合理論における設定パラメータである誤検知確率を前記閾値に応じて設定する、確率設定部(901)と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記物標検知信号が、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部(111)と、
前記物標検知信号が、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部(112)と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部(131)と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部(132)と、
を備え、
前記第一追跡処理部および/または前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、
物標認識装置。
【請求項15】
前記確率設定部は、前記第一閾値と、前記第二閾値と、前記第一観測情報の個数と、前記第二観測情報の個数とに基づいて、前記誤検知確率を設定する、
請求項14に記載の物標認識装置。
【請求項16】
前記確率設定部は、前記閾値がノイズフロアから離れるほど、前記誤検知確率を小さくする、
請求項15に記載の物標認識装置。
【請求項17】
前記確率設定部は、車載センサ(902)によって取得された前記車両の走行環境に基づいて、前記誤検知確率を設定する、
請求項14~16のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項18】
前記確率設定部は、前記走行環境に基づいて発生する外乱ノイズが大きいほど、前記誤検知確率を大きくする、
請求項17に記載の物標認識装置。
【請求項19】
前記第二追跡処理部は、前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記追跡処理を実行する、
請求項14~18のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項20】
車両に搭載されることで当該車両の周囲に存在する物標を認識するように構成された、物標認識装置(10)であって、
物標センサ(2)から得られた物標検知信号の強弱において、予め決められた所定の閾値を超える場合に、位置情報を取得する位置情報取得部(11)と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部(13)と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部(15)と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記物標検知信号が、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部(111)と、
前記物標検知信号が、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部(112)と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部(131)と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部(132)と、
を備え、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記第二追跡処理部は、前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、
標認識装置。
【請求項21】
前記第一追跡処理部および/または前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づいて、前記追跡処理を実行する、
請求項20に記載の物標認識装置。
【請求項22】
前記第二追跡処理部は、
前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果と前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果との差分を抽出する差分抽出部(132D)を備え、
前記差分抽出部により抽出された前記差分に基づいて、前記追跡処理を実行する、
請求項19~21のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項23】
前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づく状態推定フィルタを用いて構成され、
前記第一追跡処理部から前記第二追跡処理部に出力される前記追跡処理の結果に含まれる状態分布は、前記第二追跡処理部にて予測される未検知の前記物標の状態分布と同種である、
請求項19~22のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項24】
前記第一追跡処理部は、ポアソン強度分布を伝搬する前記状態推定フィルタである第一フィルタを用いて構成され、
前記第二追跡処理部は、ポアソン強度分布を未検知の前記物標の状態分布として扱う前記状態推定フィルタである第二フィルタを用いて構成された、
請求項23に記載の物標認識装置。
【請求項25】
前記第一閾値は、前記第二閾値よりも低く、
前記第一追跡処理部は、前記第二追跡処理部よりも耐クラッタ特性が高い、
請求項14~24のいずれか1つに記載の物標認識装置。
【請求項26】
前記第一追跡処理部は、前記位置情報が第一範囲に含まれるという条件を満たす前記第一観測情報に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第二追跡処理部は、前記位置情報が第二範囲に含まれるという条件を満たす前記第二観測情報に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第二範囲は、前記第一範囲よりも近距離側を含む、
請求項25に記載の物標認識装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2021年3月9日に出願された日本特許出願番号2021-37570号に基づくもので、ここにその記載内容が参照により組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、車両に搭載されることで当該車両の周囲に存在する物標を認識するように構成された、物標認識装置に関する。
【背景技術】
【0003】
レーダ等の周辺監視センサを用いて物標を認識する装置が知られている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-271431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーダ等の周辺監視センサによる検知信号には、クラッタと呼ばれるノイズが混在し得る。かかるクラッタは、外乱、あるいは、センサ内部の熱雑音に起因するものである。この点、特許文献1に記載された装置は、クラッタの中から目標物標のピークを確実に検出するために、ピーク検出用の閾値を設定する。
耐クラッタ特性を向上するという観点からは、クラッタ除去のための閾値を充分高く設定することが考えられる。しかしながら、センサからの距離が遠い物標による反射波の受信強度は、クラッタとの区別が容易ではなくなる程度まで微弱となり得る。このため、閾値を高く設定すると、遠距離範囲における物標情報が失われる可能性がある。特に、車載型の物標認識装置に対しては、運転支援レベルあるいは運転自動化レベルを向上する等の観点から、認識可能範囲を長距離化するニーズが高い。一方、閾値を低く設定すると、クラッタ除去効果が充分ではなくなる可能性がある。
【0006】
本開示は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本開示は、例えば、認識可能範囲の長距離化と高い耐クラッタ特性との両立を図ることが可能な、車載型の物標認識装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
物標認識装置は、車両に搭載されることで当該車両の周囲に存在する物標を認識するように構成されている。
請求項1に記載の物標認識装置は、
電磁波である探査波を発信するとともに前記探査波の前記物標による反射波を受信するように前記車両に搭載される物標センサによる物標検知信号に含まれる、前記反射波の受信強度ピークが、閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報を取得する、位置情報取得部と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部と、
ランダム有限集合理論における設定パラメータである誤検知確率を前記閾値に応じて設定する、確率設定部と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部と、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部と、
を備え、
前記第一追跡処理部および/または前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する。
請求項7に記載の物標認識装置は、
電磁波である探査波を発信するとともに前記探査波の前記物標による反射波を受信するように前記車両に搭載される物標センサによる物標検知信号に含まれる、前記反射波の受信強度ピークが、閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報を取得する、位置情報取得部と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部と、
前記受信強度ピークが、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部と
を備え、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記第二追跡処理部は、前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、
標認識装置。
請求項14に記載の物標認識装置は、
物標センサから得られた物標検知信号の強弱において、予め決められた所定の閾値を超える場合に、位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部と、
ランダム有限集合理論における設定パラメータである誤検知確率を前記閾値に応じて設定する、確率設定部と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記物標検知信号が、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部と、
前記物標検知信号が、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部と、
を備え、
前記第一追跡処理部および/または前記第二追跡処理部は、ランダム有限集合理論に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する。
請求項20に記載の物標認識装置は、
物標センサから得られた物標検知信号の強弱において、予め決められた所定の閾値を超える場合に、位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報に基づいて、前記物標の追跡処理を実行する、物標追跡部と、
前記物標追跡部による前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する、状態特定部と、
を備え、
前記位置情報取得部は、
前記物標検知信号が、前記閾値としての第一閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第一観測情報を取得する、第一取得部と、
前記物標検知信号が、前記閾値としての、前記第一閾値とは異なる第二閾値を超える場合に、当該物標検知信号に対応する前記位置情報である第二観測情報を取得する、第二取得部と、
を備え、
前記物標追跡部は、
前記第一観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第一追跡処理部と、
前記第二観測情報に基づいて前記追跡処理を実行する、第二追跡処理部と、
を備え、
前記第一追跡処理部と前記第二追跡処理部とのうちの一方は、他方よりも耐クラッタ特性が高く、
前記第二追跡処理部は、前記第一追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記追跡処理を実行し、
前記状態特定部は、前記第一追跡処理部および前記第二追跡処理部における前記追跡処理の結果に基づいて、前記物標の状態を特定する。
【0008】
なお、出願書類において、各要素に括弧付きの参照符号が付される場合がある。しかしながら、この場合であっても、かかる参照符号は、各要素と後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の単なる一例を示すものにすぎない。よって、本開示は、上記の参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車載システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示された制御装置により実現される物標認識装置の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図3図2に示された物標認識装置の第一実施形態の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図4図2に示された物標認識装置の第二~第五実施形態の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図5図2に示された物標認識装置の第三~第五実施形態の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図6図4または図5に示された第五実施形態に係る物標認識装置の一動作例を示すフローチャートである。
図7図2に示された物標認識装置の第六実施形態の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図8図7に示された物標認識装置の動作概要を説明するためのグラフである。
図9図2に示された物標認識装置の第七実施形態の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図10図9に示された物標認識装置の動作概要を説明するためのグラフである。
図11図2に示された物標認識装置の第八実施形態の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中ではなく、その後にまとめて説明する。
【0011】
(構成)
図1を参照すると、車載システム1は、自車両の周囲の物標を検知するとともに、検知結果に応じた各種動作(例えば運転支援動作等)を実行可能に構成されている。「自車両」とは、かかる車載システム1を搭載した車両である。
【0012】
具体的には、車載システム1は、物標センサ2と、制御装置3と、動作部4とを備えている。以下、車載システム1を構成する各部について説明する。
【0013】
物標センサ2は、いわゆる周辺監視センサであって、所定波長の電磁波である探査波を発信するとともに当該探査波の物標による反射波を受信することで所定の検知範囲内の物標を検知するように構成されている。「所定の検知範囲」とは、物標センサ2を基準とした、所定の距離範囲且つ所定の方位角度範囲である。本実施形態においては、物標センサ2は、探査波としてレーザ光を用いる、いわゆるLIDARセンサとしての構成を有している。
【0014】
物標センサ2は、物標の検知結果に対応する物標検知信号を生成するように構成されている。また、物標センサ2は、生成した物標検知信号を出力して制御装置3に入力するように、車載通信回線を介して制御装置3と通信可能に接続されている。
【0015】
制御装置3は、物標認識ECUあるいは物標検知ECUと称される電子回路ユニットであって、物標センサ2から取得した物標検知信号に基づいて、自車両の周囲の物標を認識するように構成されている。ECUはElectronic Control Unitの略である。また、制御装置3は、物標の認識結果に応じて、動作部4に各種の動作指令信号を出力するように構成されている。動作部4は、車載通信回線を介して制御装置3と通信可能に接続されている。動作部4は、制御装置3から受信した動作指令信号に基づいて、自車両における各種動作(例えば運転支援動作等)を実行可能に構成されている。
【0016】
制御装置3は、CPU5、ROM6、RAM7、および不揮発メモリ8を備えた、いわゆる車載マイクロコンピュータとしての構成を有している。不揮発メモリ8は、不揮発性リライタブルメモリであって、例えば、ハードディスク、EEPROM、フラッシュROM、等である。EEPROMはElectronically Erasable and Programmable ROMの略である。ROM6および不揮発メモリ8は、プログラムを格納した、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に相当するものである。
【0017】
制御装置3は、CPU5がROM6または不揮発メモリ8からプログラムを読み出して実行することで、各種の制御動作を実現可能に構成されている。このプログラムには、後述の動作説明あるいはフローチャートに対応する処理指令が含まれている。また、RAM7および/または不揮発メモリ8は、CPU5がプログラムを実行する際の処理データを一時的に格納可能に設けられている。さらに、ROM6および/または不揮発メモリ8には、プログラムの実行の際に用いられる各種のデータが、あらかじめ格納されている。かかる各種のデータは、例えば、初期値、ルックアップテーブル、マップ、等である。
【0018】
図2は、図1に示された制御装置3にてプログラムの実行により実現される、本開示の一実施形態に係る物標認識装置10の概略的な機能ブロック構成を示す。すなわち、物標認識装置10は、自車両に搭載されることで、当該自車両の周囲に存在する物標を認識するように構成されている。具体的には、物標認識装置10は、車載マイクロコンピュータ上にて実現される機能構成として、位置情報取得部11と、閾値設定部12と、物標追跡部13と、範囲設定部14と、状態特定部15とを有している。
【0019】
位置情報取得部11は、物標検知信号に含まれる、反射波の受信強度ピークが、閾値を超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報を取得するように構成されている。閾値設定部12は、位置情報取得部11にて用いる上記の閾値を設定するように構成されている。
【0020】
物標追跡部13は、位置情報取得部11により取得された位置情報に基づいて、物標の追跡処理を実行するように構成されている。具体的には、物標追跡部13における追跡処理のアルゴリズムとして、カルマンフィルタ、パーティクルフィルタ、等の、目標の密度分布を推定する状態推定フィルタが実装されている。なお、かかる状態推定フィルタとしては、高い耐クラッタ特性の観点から、ランダム有限集合理論(すなわちRFS理論)に基づくものが好適に用いられ得る。RFSはRandom Finite Setの略である。
【0021】
ランダム有限集合理論に基づく状態推定フィルタとして、PHDフィルタ、CPHDフィルタ、CBMeMBerフィルタ、GLMBフィルタ、LMBフィルタ、PMBフィルタ、PMBMフィルタ、等が知られている。PHDはProbability Hypothesis Densityの略である。CPHDはCardinalized Probability Hypothesis Densityの略である。CBMeMBerはCardinality Balanced Multi-Bernoulliの略である。GLMBはGeneralized Labeled Multi-Bernoulliの略である。LMBはLabeled Multi-Bernoulliの略である。PMBはPoisson Multi-Bernoulliの略である。PMBMはPoisson Multi-Bernoulli Mixtureの略である。ランダム有限集合理論に基づく状態推定フィルタによる物標追跡処理を、以下「RFSトラッキング」と略称する。
【0022】
範囲設定部14は、物標追跡部13による追跡処理の対象範囲である追跡範囲を設定するように構成されている。追跡範囲は、空間的範囲、時間的範囲、および信号レベル範囲のうちのいずれかである。
【0023】
状態特定部15は、物標追跡部13による追跡処理の結果に基づいて、物標の状態を特定するように構成されている。「物標の状態を特定する」とは、追跡対象となる物標の自車両に対する相対位置、相対速度、等を特定することを含む。本開示における物標認識装置10は、閾値設定部12および/または範囲設定部14により、閾値および/または追跡範囲を切り替え可能に構成されている。そして、かかる物標認識装置10は、閾値および/または追跡範囲が異なる複数の追跡処理の結果に基づいて、物標を認識するように構成されている。
【0024】
(第一実施形態:構成)
以下、図3を参照しつつ、第一実施形態に係る物標認識装置10の構成について説明する。本実施形態においては、位置情報取得部11は、第一取得部111と第二取得部112とを有している。また、物標追跡部13は、第一追跡処理部131と第二追跡処理部132とを有している。
【0025】
第一取得部111は、受信強度ピークが第一閾値THAを超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報である第一観測情報を取得するように構成されている。すなわち、第一取得部111は、閾値設定部12により設定された第一閾値THAを用いて、受信強度の時間変化波形である受信信号を点群情報としての第一観測情報に変換するようになっている。
【0026】
第二取得部112は、受信強度ピークが第一閾値THAとは異なる第二閾値THBを超える場合に、当該受信強度ピークに対応する位置情報である第二観測情報を取得するように構成されている。すなわち、第二取得部112は、閾値設定部12により設定された第二閾値THBを用いて、受信信号を点群情報としての第二観測情報に変換するようになっている。また、本実施形態においては、第二閾値THBは、閾値設定部12により、第一閾値THAよりも高い値に設定されている。すなわち、第一閾値THA<第二閾値THBである。
【0027】
第一追跡処理部131は、第一取得部111にて取得された点群情報である第一観測情報に基づいて、追跡処理を実行するように構成されている。同様に、第二追跡処理部132は、第二取得部112にて取得された点群情報である第二観測情報に基づいて、追跡処理を実行するように構成されている。状態特定部15は、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132における追跡処理の結果に基づいて、物標の状態を特定するように構成されている。
【0028】
本実施形態においては、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、一方が他方よりも耐クラッタ特性が高くなるように構成されている。具体的には、相対的に低い閾値である第一閾値THAにより取得された第一観測情報に基づいて追跡処理を実行する第一追跡処理部131は、第二追跡処理部132よりも、高い耐クラッタ特性を有している。好適な例としては、少なくとも第一追跡処理部131は、追跡処理としてRFSトラッキングを実行可能に構成されている。
【0029】
本実施形態においては、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132には、範囲設定部14により、互いに異なる追跡範囲としての空間的範囲が設定されている。すなわち、第一追跡処理部131は、位置情報が第一範囲に含まれるという条件を満たす第一観測情報に基づいて、追跡処理を実行するようになっている。また、第二追跡処理部132は、位置情報が第二範囲に含まれるという条件を満たす第二観測情報に基づいて、追跡処理を実行するようになっている。
【0030】
ここで、第二範囲は、第一範囲よりも近距離側を含む空間的範囲である。具体的には、例えば、物標センサ2との距離をX[単位:m]とすると、本実施形態においては、第一範囲は遠距離範囲すなわちX=100~120に、第二範囲は第一範囲よりも近距離範囲すなわちX=0~100に、それぞれ設定され得る。
【0031】
(第一実施形態:動作)
以下、本実施形態に係る物標認識装置10の動作の概要、ならびに、かかる装置により実行される物標認識方法および物標認識プログラムの概要を、これらにより奏される効果とともに、図1図3を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、本実施形態に係る物標認識装置10の構成と、これにより実行される物標認識方法および物標認識プログラムの処理とを、「本実施形態」と総称することがある。
【0032】
物標認識装置10は、物標認識処理を、予め設定された処理サイクル毎に繰り返し実行する。1サイクルの物標認識処理において、まず、物標認識装置10は、物標センサ2による物標の検知結果に対応する物標検知信号を、物標センサ2から取得すなわち受信する。次に、物標認識装置10は、取得した物標検知信号に基づいて、自車両の周囲に存在する物標を認識する。
【0033】
具体的には、位置情報取得部11にて、第一取得部111は、物標検知信号と、閾値設定部12により設定された第一閾値THAとに基づいて、位置情報である第一観測情報を取得する。また、物標追跡部13にて、第一追跡処理部131は、第一取得部111により取得された第一観測情報と、範囲設定部14により設定された第一範囲とに基づいて、追跡処理を実行する。
【0034】
一方、位置情報取得部11にて、第二取得部112は、物標検知信号と、閾値設定部12により設定された第二閾値THBとに基づいて、位置情報である第二観測情報を取得する。また、物標追跡部13にて、第二追跡処理部132は、第二取得部112により取得された第二観測情報と、範囲設定部14により設定された第二範囲とに基づいて、追跡処理を実行する。
【0035】
状態特定部15は、第一追跡処理部131による追跡処理の結果と、第二追跡処理部132による追跡処理の結果とを統合することで、自車両の周囲の物標の状態を特定する。これにより、状態特定部15は、自車両の周囲に存在する物標を認識する。そして、物標認識装置10は、物標の認識結果に基づいて、自車両の運転に関する各種動作(例えば運転支援動作等)を動作部4に実行させるための動作指令信号を、動作部4に出力する。
【0036】
ところで、LIDARセンサである物標センサ2による物標検知信号には、外乱あるいは熱雑音に起因する、クラッタが混在し得る。そこで、物標追跡部13における追跡処理に供する位置情報である観測情報の生成に際して、クラッタ除去のための閾値が用いられる。
【0037】
この点、近距離範囲においては、物標による実際の反射波の受信強度が比較的高くなる。このため、近距離範囲においては、クラッタ除去のための閾値を充分に高く設定することで、クラッタ除去が充分に実現され得る。これに対し、遠距離範囲においては、物標による実際の反射波の受信強度が、クラッタとの区別が容易ではなくなる程度まで微弱となる。このため、閾値を高く設定すると、物標情報が失われるおそれがある。一方、閾値を低く設定すると、クラッタ除去が充分ではなくなり、多数のクラッタが物標追跡処理の演算に供されてしまう可能性がある。
【0038】
ここで、物標追跡部13における追跡処理を、RFSトラッキングにより実行することが考えられる。しかしながら、RFSトラッキングは、耐クラッタ特性が高い一方、演算負荷が高い。このため、物標情報が失われないように、閾値を充分下げたり、閾値を用いずに全ての受信信号を処理するようにしたりすると、過大な演算負荷が発生してしまう可能性がある。
【0039】
特に、車載型の物標認識装置10に対しては、運転支援レベルあるいは運転自動化レベルの向上等の観点から、認識可能範囲すなわち物標センサ2における検知範囲を長距離化するニーズが高い。また、この種の物標認識装置10においては、所定位置に固定して使用される据え置き型すなわち定点観測型とは異なり、近距離範囲から遠距離範囲までの広範囲において、多くの物標がセンサに対して相対移動し、認識可能範囲に対する物標の出入りも頻繁である。したがって、この種の車載型の装置にRFSトラッキングをそのまま適用するとことは、演算負荷の観点から現実的ではないと従来は考えられていた。
【0040】
そこで、本実施形態においては、第一取得部111は、相対的に低い第一閾値THAを用いて、位置情報である第一観測情報を取得する。また、第一追跡処理部131は、第一取得部111により取得された低閾値情報である第一観測情報に基づいて、遠距離範囲における物標の追跡処理を、耐クラッタ特性が高い追跡手法(例えばRFSトラッキング)を用いて実行する。
【0041】
一方、第二取得部112は、相対的に高い第二閾値THBを用いて、位置情報である第二観測情報を取得する。また、第二追跡処理部132は、第二取得部112により取得された第二観測情報に基づいて、近距離範囲における物標の追跡処理を、演算負荷が低い従来の追跡手法(例えば拡張カルマンフィルタ等)を用いて実行する。そして、状態特定部15は、第一追跡処理部131による遠距離範囲の追跡結果と、第二追跡処理部132による近距離範囲の追跡結果とを統合することで、物標の状態を特定する。
【0042】
このように、本実施形態は、以下の三つの事実に着眼して案出されたものである:(1)微弱な信号から物標を認識する必要があるのは、信号レベルが低下する遠距離範囲に限定されること。(2)追跡処理における演算量すなわち演算負荷は、処理すべき点群数に依存し、閾値を高く設定するほど点群数が減少すること。(3)RFSトラッキングを含む耐クラッタ特性が高い追跡手法を用いると、誤認識を可能な限り低減可能となる一方で、演算負荷が高くなること。
【0043】
そして、本実施形態は、信号強度が比較的高い近距離範囲については、閾値を充分に高く設定するとともに、演算負荷が低い従来の追跡手法により物標を高速で追跡する。一方、本実施形態は、信号強度が比較的低い遠距離範囲については、閾値を低くすることで高感度化しつつ、耐クラッタ特性が高い追跡手法により物標を追跡する。
【0044】
これにより、近距離範囲から遠距離範囲にわたる広範囲の物標認識が、クラッタに起因する誤認識を良好に回避しつつ、且つ、演算負荷を過大化させることなく、良好に実現され得る。すなわち、本実施形態によれば、認識可能範囲の長距離化と高い耐クラッタ特性との両立を図ることが可能な、車載型の物標認識装置10を提供することが可能となる。
【0045】
上記の好適な例においては、第一追跡処理部131は、耐クラッタ特性が高い一方で演算負荷が高いランダム有限集合理論に基づいて、第一範囲について追跡処理を実行する。一方、第二追跡処理部132は、演算負荷が低く高速演算が可能な追跡手法で、第二範囲について追跡処理を実行する。これにより、高速性と遠方認識性能とを両立させることが可能となる。
【0046】
このように、耐クラッタ特性が高い一方で演算負荷も高いRFSトラッキングを限定的に用いることで、演算量の増加を抑制しつつ、クラッタによる誤認識を良好に抑制することが可能となる。また、RFSトラッキングによれば、新規物標の生成、および、既存物標の消失を、確率的に求めることができる。新規物標の生成、および、既存物標の消失は、主として遠距離範囲にて発生する。したがって、遠距離範囲にて閾値を下げつつRFSトラッキングを適用することで、認識可能範囲に新たに進入する新規物標および認識可能範囲から退出する既存物標の発生確率を考慮した、良好な精度の物標追跡を、遠距離範囲にて実行することが可能となる。一方、近距離範囲に存在する物標は、遠距離範囲に存在する物標に比して、自車両との接触可能性が高い。したがって、近距離範囲にて閾値を上げつつ従来手法を適用することで、クラッタによる誤認識を良好に抑制しつつ、近距離範囲に存在する物標の追跡処理を高速化することが可能となる。
【0047】
以下、本実施形態による演算負荷の低減効果について、仮想事例を用いてさらに説明する。かかる仮想事例において、第一閾値THAを用いた場合の点群数は、第二閾値THBを用いた場合の点群数の100倍であるものと仮定する。また、第一追跡処理部131は追跡手法としてRFSトラッキングを用いるものとし、第二追跡処理部132は追跡手法として拡張カルマンフィルタ等の従来手法(すなわち非RFSトラッキング)を用いるものとする。ここで、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、ともに、入力点群数と演算量とが比例するものと仮定する。さらに、同じ点群数が入力された場合、第一追跡処理部131の演算時間は第二追跡処理部132の2倍と仮定する。
【0048】
実施例は、遠距離範囲すなわちX=100~120mの第一範囲を第一追跡処理部131により追跡するとともに、近距離範囲すなわちX=0~100mの第二範囲を第二追跡処理部132により追跡する。これに対し、比較例は、認識可能範囲の全部すなわちX=0~120mの全空間的範囲を第一追跡処理部131により追跡する。
【0049】
比較例の場合に追跡処理の所要時間が144msecであったと仮定する。このとき、実施例では、第一範囲は全空間的範囲(すなわち認識可能範囲の全部)の44/144倍であるため、第一追跡処理部131による第一範囲の追跡処理の所要時間は、144×44/144=44msecとなる。第二範囲は全空間的範囲の100/144倍であり、第二追跡処理部132による処理点群数は第一追跡処理部131による処理点群数の1/100である。さらに、同じ処理点群数の場合、第二追跡処理部132の演算時間は、第一追跡処理部131の演算時間の1/2である。このため、第二追跡処理部132による第二範囲の追跡処理の所要時間は、144×(100/144)×(1/100)×(1/2)=0.5msecとなる。したがって、合計の演算時間は44.5msecとなり、およそ7割の演算時間の削減効果が得られる。
【0050】
(第一実施形態:変形例)
以下、第一実施形態に施され得る各種の変形例について、例示的に列挙する。かかる変形例は、技術的に矛盾しない限り、後述の第二実施形態以降の他の実施形態に対しても適用可能である。
【0051】
閾値の設定機能は、位置情報取得部11に内在されていてもよい。具体的には、位置情報取得部11(すなわち第一取得部111および第二取得部112)には、閾値があらかじめ設定されていてもよい。よって、図2および図3において、閾値設定部12は、省略され得る。
【0052】
同様に、追跡範囲の設定機能は、物標追跡部13に内在されていてもよい。具体的には、物標追跡部13(すなわち第一追跡処理部131および第二追跡処理部132)には、追跡範囲があらかじめ設定されていてもよい。よって、図2および図3において、範囲設定部14は、省略され得る。
【0053】
図3においては、互いに異なる第一閾値THAおよび第二閾値THBを用いるという観点から、第一取得部111と第二取得部112とを並列した状態で図示している。しかしながら、本開示は、かかる態様に限定されない。すなわち、図2に示されているように、単一の位置情報取得部11における閾値を切り替えることによっても、図3相当の機能構成が実現され得る。
【0054】
追跡範囲は、三つ以上設定され得る。この場合、閾値も三つ以上設定され得る。また、2つ以上の追跡範囲(例えば上記の具体例では第一範囲および第二範囲)は、互いに部分的にオーバーラップしていてもよい。
【0055】
追跡範囲は、時間的範囲であってもよい。具体的には、例えば、全空間的範囲(すなわち認識可能範囲の全部)に対して時間的に連続する2回の物体検知を行う場合に、1回目を第一範囲とし、2回目を第二範囲とすることが可能である。この場合、第一追跡処理部131は、1回目の物体検知にて位置情報取得部11により取得された位置情報に基づいて、追跡処理を実行する。一方、第二追跡処理部132は、2回目の物体検知にて位置情報取得部11により取得された位置情報に基づいて、追跡処理を実行する。
【0056】
追跡範囲は、信号レベル範囲、すなわち、受信強度範囲であってもよい。具体的には、例えば、物標検知信号を複数の信号レベル範囲に区分して、区分毎に物標追跡処理を行うことが可能である。
【0057】
追跡範囲は、空間的範囲、時間的範囲、および信号レベル範囲のうちの少なくとも2つの組み合わせであってもよい。具体的には、例えば、遠距離範囲における低信号レベル、遠距離範囲における高信号レベル、近距離範囲における低信号レベル、および、近距離範囲における高信号レベルの、合計四つの追跡範囲を設定することが可能である。
【0058】
上記の通り、RFSトラッキングを用いることで、耐クラッタ特性が向上する。この点、第二追跡処理部132における処理点群数は、高閾値により所定程度低減されている。このため、第二追跡処理部132に対して、RFSトラッキングを適用しても、過大な演算負荷とはなり難い。そこで、第一追跡処理部131に加えて、第二追跡処理部132に対しても、RFSトラッキングを適用することが可能である。すなわち、この場合、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、ランダム有限集合理論に基づいて、追跡処理を実行する。これにより、クラッタによる誤認識をよりいっそう良好に抑制することが可能となる。
【0059】
(第二実施形態)
以下、図4を参照しつつ、第二実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。以下の第二実施形態の説明においては、上記第一実施形態との相違点を主として説明する。また、上記第一実施形態と第二実施形態とにおいて、相互に同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、上記第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述の第三実施形態以降の他の実施形態についても同様である。
【0060】
本実施形態においても、上記第一実施形態と同様に、第一閾値THA<第二閾値THBであり、第一範囲は遠距離範囲(すなわち例えばX=100~120)であり、第二範囲は近距離範囲(すなわち例えばX=0~100)である。また、第一追跡処理部131は、第二追跡処理部132よりも、耐クラッタ特性が高い。なお、上記第一実施形態と同様に、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、ともに非RFSトラッキングを用いるものであってもよいが、少なくとも第一追跡処理部131に対してRFSトラッキングを適用することが好適である。また、第二追跡処理部132に対しても、RFSトラッキングを適用することが可能である。
【0061】
本実施形態においては、第二追跡処理部132は、第一追跡処理部131における追跡処理の結果に基づいて、追跡処理を実行するように構成されている。すなわち、物標追跡部13は、第一追跡処理部131による追跡処理の結果を第二追跡処理部132に適用することでスムージングを図る構成を有している。
【0062】
第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、周知の状態推定フィルタにより、予測と更新とを逐次繰り返しつつ、各時刻における物標状態を推定するように構成されている。具体的には、第一追跡処理部131は、第一予測部131Aと、第一更新部131Bと、第一推定部131Cとを有している。同様に、第二追跡処理部132は、第二予測部132Aと、第二更新部132Bと、第二推定部132Cとを有している。
【0063】
第一予測部131Aは、状態推定フィルタを用いた追跡処理のアルゴリズムにおける、予測処理あるいは予測ステップに対応する機能ブロックである。第一更新部131Bは、上記のアルゴリズムにおける、更新処理あるいは更新ステップに対応する機能ブロックである。
【0064】
具体的には、第一予測部131Aは、前回処理時刻「k-1」における状態量の更新値すなわち第一更新部131Bの出力値に基づいて、今回処理時刻「k」における状態量の予測値を算出するようになっている。第一更新部131Bは、第一予測部131Aにより算出された予測値を、物標検知信号により得られた今回処理時刻「k」における第一観測情報に基づいて更新すなわち補正することで、今回処理時刻「k」における状態量の更新値を算出するようになっている。第一推定部131Cは、今回処理時刻「k」における状態量の更新値すなわち第一更新部131Bの出力値に基づいて、今回処理時刻「k」における物標状態を推定するようになっている。
【0065】
第二予測部132Aは、状態推定フィルタを用いた追跡処理のアルゴリズムにおける、予測処理あるいは予測ステップに対応する機能ブロックである。第二更新部132Bは、上記のアルゴリズムにおける、更新処理あるいは更新ステップに対応する機能ブロックである。
【0066】
第二予測部132Aは、前回処理時刻「k-1」における状態量の更新値すなわち第二更新部132Bの出力値と、同時刻「k-1」における第一更新部131Bの出力値とに基づいて、今回処理時刻「k」における状態量の予測値を算出するようになっている。すなわち、第二予測部132Aは、前回処理時刻「k-1」における、第一更新部131Bの出力値および第二更新部132Bの出力値を入力とし、今回処理時刻「k」における状態量の予測値を出力とするようになっている。
【0067】
第二更新部132Bは、第二予測部132Aにより算出された予測値を、物標検知信号により得られた今回処理時刻「k」における第二観測情報に基づいて更新すなわち補正することで、今回処理時刻「k」における状態量の更新値を算出するようになっている。第二推定部132Cは、今回処理時刻「k」における状態量の更新値すなわち第二更新部132Bの出力値に基づいて、今回処理時刻「k」における物標状態を推定するようになっている。
【0068】
以下、本実施形態に係る物標認識装置10の動作の概要、ならびに、かかる装置により実行される物標認識方法および物標認識プログラムの概要を、これらにより奏される効果とともに、図面を適宜参照しつつ説明する。
【0069】
前回処理時刻「k-1」における更新ステップの後、今回処理時刻「k」にて、第一追跡処理部131により追跡中であった注目物標が、距離100m未満の第二範囲に存在すると推定されたとする。これは、距離100m以上の第一範囲から、距離100m未満の第二範囲に、注目物標が移動したことに相当する。この場合、かかる物標情報は、第一追跡処理部131における追跡中の物標情報から消去される一方、第二追跡処理部132における追跡中の物標情報に加えられる。
【0070】
これにより、かかる注目物標について、即座に第二追跡処理部132による追跡が継続され、またIDも引き継ぐことが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、第一追跡処理部131による追跡範囲と第二追跡処理部132による追跡範囲との境界における不連続性を回避することが可能となる。
【0071】
なお、図4に示された構成は、第一追跡処理部131における更新後の物標情報(すなわち第一更新部131Bの出力)を、第二追跡処理部132に伝搬するようになっている。これに対し、かかる構成を、第一追跡処理部131における推定後の物標情報(すなわち第一推定部131Cの出力)を第二追跡処理部132に伝搬する構成に変更することも可能である。
【0072】
(第三実施形態)
以下、図5を参照しつつ、第三実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。本実施形態は、上記第二実施形態の一部を変容したものである。すなわち、上記第二実施形態と同様に、第二追跡処理部132は、第一追跡処理部131における追跡処理の結果に基づいて、追跡処理を実行するようになっている。
【0073】
本実施形態においては、第一追跡処理部131による追跡範囲である第一範囲と、第二追跡処理部132による追跡範囲である第二範囲とは、互いに部分的にオーバーラップする。具体的には、例えば、第一範囲は遠距離範囲(すなわち例えばX=100~120)であり、第二範囲は近距離範囲および遠距離範囲を含む全空間的範囲(すなわち例えばX=0~120)である。
【0074】
この場合、第一追跡処理部131と第二追跡処理部132とが同一物標を追跡してしまう懸念が生じる。このため、第一追跡処理部131における更新結果あるいは推定結果と、第二追跡処理部132における更新結果とを比較して、同一物標ではない物標情報を第二追跡処理部132に入力する必要がある。
【0075】
そこで、本実施形態においては、第二追跡処理部132は、差分抽出部132Dを備えている。差分抽出部132Dは、第一追跡処理部131における追跡処理の結果と第二追跡処理部132における追跡処理の結果との差分を抽出するようになっている。そして、第二追跡処理部132は、差分抽出部132Dにより抽出された差分に基づいて、追跡処理を実行するように構成されている。かかる構成によれば、第一追跡処理部131による追跡範囲である第一範囲と、第二追跡処理部132による追跡範囲である第二範囲とが、互いに部分的にオーバーラップする場合であっても、良好な物標追跡処理が実現され得る。
【0076】
(第四実施形態)
以下、図4または図5を参照しつつ、第四実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。本実施形態は、上記第二実施形態あるいは第三実施形態の一部を変容したものである。すなわち、上記第二実施形態および第三実施形態と同様に、第二追跡処理部132は、第一追跡処理部131における追跡処理の結果に基づいて、追跡処理を実行するようになっている。
【0077】
本実施形態は、少なくとも第二追跡処理部132にてRFSトラッキングを用いるものである。また、第一閾値THA<第二閾値THBであり、第一範囲における空間的範囲と、第二範囲における空間的範囲とは、同一である。
【0078】
この場合、第一追跡処理部131による追跡範囲は、全空間的範囲に対して第一閾値THAを適用した場合に得られる点群に相当する。また、第二追跡処理部132による追跡範囲は、全空間的範囲に対して第二閾値THBを適用した場合に得られる点群に相当する。すなわち、本例は、第一範囲と第二範囲とで信号レベル範囲が異なる例に相当する。
【0079】
RFSトラッキングにおいては、新規物標が存在する空間的な分布を予測する必要がある。この点、本開示のように、物標センサ2を車載して自車両の外部環境を監視する構成においては、外部環境が刻々と変化するため、新規物標の空間的な分布を予測することは通常困難である。
【0080】
そこで、本実施形態は、あらかじめ第一追跡処理部131により、相対的に低閾値である第一閾値THAを用いた点群に基づいて追跡を行い、この追跡結果を、第二追跡処理部132における新規物標の空間的な分布として利用する。これにより、早期認識開始が可能となる。また、第二追跡処理部132における演算負荷が過大とはならないため、全体の閾値を下げるよりも演算負荷の面で有効となる。
【0081】
なお、第一追跡処理部131による追跡範囲が第一閾値THA以上且つ第二閾値THB未満の点群であり、第二追跡処理部132による追跡範囲が第二閾値THB以上の点群である場合、両追跡範囲に重複はない。よって、この場合、図4に示されているように、第一追跡処理部131による追跡処理の結果を、ダイレクトに第二追跡処理部132に入力可能となる。すなわち、この場合、図5に示されている差分抽出部132Dは省略可能となる。
【0082】
これに対し、第一追跡処理部131による追跡範囲が第一閾値THA以上の点群であり、第二追跡処理部132による追跡範囲が第二閾値THB以上の点群である場合、両追跡範囲に部分的な重複が生じる。よって、この場合、図5に示されているように、差分抽出部132Dを設けて、第一追跡処理部131による追跡処理の結果と第二追跡処理部132による更新結果との差分を、新規物標の予測分布とする必要がある。
【0083】
本実施形態においては、第一追跡処理部131は、低閾値情報である第一観測情報に基づいて追跡処理を実行する。また、第一追跡処理部131による追跡処理の対象範囲である第一範囲と、第二追跡処理部132による追跡処理の対象範囲である第二範囲とで、空間的範囲は同一である。このため、第一追跡処理部131は、第二追跡処理部132よりも演算負荷が低い物標追跡アルゴリズムを用いることが好適である。第一追跡処理部131が高速演算可能な追跡処理を実行する一方で第二追跡処理部132がよりロバストな追跡処理を実行することで、高速性と遠方認識性能とを両立させることが可能となる。
【0084】
なお、上記の通り、本実施形態においては、第一取得部111における第一閾値THAの設定は、第一追跡処理部131による追跡範囲の設定に相当する。同様に、第二取得部112における第二閾値THBの設定は、第二追跡処理部132による追跡範囲の設定に相当する。このため、範囲設定部14は省略可能である。
【0085】
(第五実施形態)
以下、図4および図5を参照しつつ、第五実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。本実施形態は、上記第四実施形態の一部を変容したものである。すなわち、第二追跡処理部132は、第一追跡処理部131における追跡処理の結果に基づいて、追跡処理を実行するようになっている。また、第一閾値THA<第二閾値THBであり、第一範囲と第二範囲とで空間的範囲は同一である。
【0086】
本実施形態においては、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、ともに、追跡手法としてRFSトラッキングを用いるものである。すなわち、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132は、ランダム有限集合理論に基づく状態推定フィルタを用いて構成されている。
【0087】
ランダム有限集合理論に基づく状態推定フィルタは、ポアソン強度分布を伝搬する第一のタイプと、ベルヌーイコンポーネントで分布を表現する第二のタイプとに大別することができる。PHDフィルタおよびCPHDフィルタは、第一のタイプに分類される。CBMeMBerフィルタ、GLMBフィルタ、LMBフィルタ、PMBフィルタ、およびPMBMフィルタは、第二のタイプに分類される。これらのうち、PMBフィルタおよびPMBMフィルタは、既存物標の状態分布をベルヌーイコンポーネントで表現し、新規物標の状態分布をポアソン強度分布で表現する点で、他のフィルタと異なる。
【0088】
この点、第一追跡処理部131における追跡処理の結果を第二追跡処理部132に伝搬する図4あるいは図5に示された構成においては、第一追跡処理部131と第二追跡処理部132とのそれぞれにどの状態推定フィルタを用いるかが、性能に影響する。すなわち、第一追跡処理部131から第二追跡処理部132に伝搬される状態分布と、第二追跡処理部132における新規物標の状態分布とが同種であれば、ポアソン強度分布とベルヌーイコンポーネントとの間の変換処理が不要となる。
【0089】
そこで、本実施形態においては、第一追跡処理部131から第二追跡処理部132に出力される追跡処理の結果に含まれる状態分布が、第二追跡処理部132にて予測される未検知物標の状態分布と同種となるように、物標追跡部13が構成されている。これにより、演算負荷が軽減されるとともに、変換時の近似による情報ロスが回避され得る。また、上述の通り、第一追跡処理部131は、第二追跡処理部132よりも演算負荷が低い物標追跡アルゴリズムを用いることが好適である。これにより、高速性と遠方認識性能とを両立させることが可能となる。
【0090】
上記の観点から、第一追跡処理部131と第二追跡処理部132との好適な組み合わせを、下記に例示する。但し、かかる組み合わせは、下記の例示には限定されない。
第一追跡処理部131 第二追跡処理部132
PHD CPHD
PHD PMBM
CPHD PMBM
CBM GLMB
CBM LMB
LMB GLMB
【0091】
以下、本実施形態の構成による具体的な動作例について説明する。本具体例においては、第一追跡処理部131は、ポアソン強度分布を伝搬する状態推定フィルタである、PHDフィルタまたはCPHDフィルタを用いて構成されているものとする。第一追跡処理部131にて用いられる状態推定フィルタは、本開示における「第一フィルタ」に相当する。また、第二追跡処理部132は、ポアソン強度分布を未検知物標の状態分布として扱う状態推定フィルタである、PMBMフィルタを用いて構成されているものとする。第二追跡処理部132にて用いられる状態推定フィルタは、本開示における「第二フィルタ」に相当する。
【0092】
さらに、第一範囲は第一閾値THA以上第二閾値THB未満であり、第二範囲は第二閾値THB以上であるものとする。この場合、機能ブロック構成は、図4相当となる。
【0093】
PMBMフィルタである第二追跡処理部132によれば、検知済み物標の状態分布に加えて、未検知物標の状態分布も推定することができる。検知済み物標の状態分布は、ベルヌーイコンポーネントにより表現される。一方、未検知物標の状態分布は、ポアソン強度分布により表現される。かかるポアソン強度分布による未検知物標は、次回の演算処理時刻にて、既存且つ未検知の(すなわち追跡範囲に既に潜んでいるがまだ検知されていない)物標の状態分布として用いられる。
【0094】
一方、PHDフィルタまたはCPHDフィルタである第一追跡処理部131によれば、新規且つ未検知の(すなわち今回処理時刻「k」にて追跡範囲に新たに出現したがまだ検知されていない)物標の状態分布が得られる。よって、第一追跡処理部131により得られる新規且つ未検知の物標の状態分布と、第二追跡処理部132により得られる既存且つ未検知の物標の状態分布とを加算することで、今回処理時刻「k」における未検知物標の状態分布が得られる。
【0095】
図6のフローチャートは、今回処理時刻「k」における物標の追跡および特定処理の概要を示す。かかるフローチャートに示された各ステップにおける処理は、制御装置3のCPU5によって実行される。なお、図6において、「S」は「ステップ」を略記したものである。また、「R」は、受信信号における信号強度を示す。
【0096】
ステップ601にて、CPU5は、物標センサ2からセンサ情報すなわち物標検知信号を取得する。
【0097】
ステップ602にて、CPU5は、ステップ601にて取得した物標検知信号に基づいて、第一閾値THAと第二閾値THBとを用いて第一位置情報を取得する。すなわち、CPU5は、第一閾値THA以上第二閾値THB未満の受信強度ピークを点群に変換する。かかるステップ602の処理は、位置情報取得部11における第一取得部111の動作に相当する。
【0098】
ステップ603にて、CPU5は、前回処理時刻「k-1」にて第一追跡処理部131が推定した物標の状態分布から、今回処理時刻「k」における物標の状態分布を予測する。ステップ603にて予測される物標の状態分布は、ポアソン強度分布である。かかるステップ603の処理は、物標追跡部13における第一追跡処理部131(すなわち具体的には第一予測部131A)の動作に相当する。
【0099】
ステップ604にて、CPU5は、ステップ602にて取得した第一閾値THA以上第二閾値THB未満の受信強度ピークに対応する点群情報を用いて、今回処理時刻「k」における物標の状態分布を更新する。ステップ604により得られる、更新された状態分布は、ポアソン強度分布である。これにより、新規且つ未検知の物標の状態分布が得られる。かかるステップ604の処理は、物標追跡部13における第一追跡処理部131(すなわち具体的には第一更新部131B)の動作に相当する。
【0100】
ステップ605にて、CPU5は、ステップ601にて取得した物標検知信号に基づいて、第二閾値THBを用いて第二位置情報を取得する。すなわち、CPU5は、第二閾値THB以上の受信強度ピークを点群に変換する。かかるステップ605の処理は、位置情報取得部11における第二取得部112の動作に相当する。
【0101】
ステップ606にて、CPU5は、前回処理時刻「k-1」にて第二追跡処理部132が推定した未検知および検知済みの物標の状態分布から、今回処理時刻「k」における検知済みおよび既存且つ未検知の物標の状態分布を予測する。かかるステップ606の処理は、物標追跡部13における第二追跡処理部132(すなわち具体的には第二予測部132A)の動作に相当する。
【0102】
ステップ607にて、CPU5は、ステップ604により得られた新規且つ未検知の物標の状態分布と、ステップ606による既存且つ未検知の物標の状態分布の予測結果とを加算することで、未検知物標の状態分布を生成する。かかるステップ607の処理は、物標追跡部13における第二追跡処理部132(すなわち具体的には第二予測部132A)の動作に相当する。
【0103】
ステップ608にて、CPU5は、ステップ602にて取得した第二閾値THB以上の受信強度ピークに対応する点群情報を用いて、未検知および検知済みの物標の状態分布を更新する。前者の状態分布はポアソン強度分布であり、後者の状態分布はベルヌーイ分布である。かかるステップ608の処理は、物標追跡部13における第二追跡処理部132(すなわち具体的には第二更新部132B)の動作に相当する。
【0104】
CPU5は、ステップ601~ステップ608の処理を繰り返しながら、ステップ609にて、今回処理時刻「k」における物標の状態を、ステップ608にて得られた検知済みの物標の状態分布(すなわちベルヌーイ分布)に基づいて特定する。かかるステップ609の処理は、状態特定部15の動作に相当する。
【0105】
なお、第一範囲が第一閾値THA以上であり、第二範囲が第二閾値THB以上である場合、機能ブロック構成は図5相当となる。この場合、図6のフローチャートに差分抽出の処理が追加される。
【0106】
(誤検知確率に関する実施形態)
以下、物標追跡部13、すなわち、第一追跡処理部131および第二追跡処理部132のうちの少なくとも一方が、追跡手法としてRFSトラッキングを用いるものである場合の、追跡性能を向上させるための追加的な構成について説明する。かかる構成は、上記第一~第五実施形態に対しても適用可能である。
【0107】
ランダム有限集合理論における設定パラメータの一つとして、誤検知確率がある。誤検知確率は「クラッタレート」とも称される。設定した誤検知確率と実際の誤検知確率とが一致するときに、物標の誤追跡あるいは未追跡を最も抑制することが可能となる。そこで、図7等に示されているように、物標認識装置10は、確率設定部901をさらに備えている。確率設定部901は、物標追跡部13における設定パラメータである誤検知確率を設定するようになっている。
【0108】
(第六実施形態)
図7および図8を参照しつつ、誤検知確率を適切に設定するための構成を有する、第六実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。
【0109】
誤検知確率の要因の一つとして、受信信号レベルの閾値を挙げることができる。例えば、クラッタの主たる発生要因がセンサ内部の熱雑音であり、かかる熱雑音が図8に示されているようにガウス分布に従うものと仮定する。図8に示されたガウス分布において、縦軸Rは信号強度を示し、横軸Pは確率を示し、uは平均値すなわちノイズフロアを示し、σは標準偏差を示す。
【0110】
閾値をノイズフロアに対してσ離れた値(すなわちu+σ)に設定すると、約40%の確率で、クラッタによる誤検知が発生する。これに対し、閾値をノイズフロアに対して3σ離れた値(すなわちu+3σ)に設定すると、約0.1%の確率で、クラッタによる誤検知が発生する。このように、誤検知確率は、閾値に応じて設定することができる。
【0111】
そこで、本実施形態においては、図7に示されているように、確率設定部901は、誤検知確率を、閾値に応じて設定するようになっている。すなわち、例えば、確率設定部901は、閾値がノイズフロアから離れるほど、誤検知確率を小さくする。図7は、第二追跡処理部132がRFSトラッキングを用いるものである場合の構成例を示す。この場合、確率設定部901は、第二閾値THBに応じて誤検知確率を設定する。第二閾値THBと誤検知確率との対応関係は、例えば、計算機シミュレーション、適合試験、等に基づいて適合されたものが、ROM6または不揮発メモリ8にあらかじめ格納され得る。
【0112】
(第七実施形態)
図9および図10を参照しつつ、第七実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。本実施形態は、上記第六実施形態の一部を変容したものである。すなわち、図9に示されているように、確率設定部901は、誤検知確率を、閾値に応じて設定するようになっている。
【0113】
ノイズフロアは、環境あるいは経年によって変動する。このため、閾値から誤検知確率を推定すると誤差が生じる場合がある。一方で、市場に出た車両に搭載された物標センサ2においては、既知の環境をセンシングする機会がないため、観測情報から誤検知確率を推定することは困難である。
【0114】
ここで、上記第一実施形態等は、物標センサ2から取得したセンサ情報すなわち物標検知信号を、複数の閾値(上記の具体例においては第一閾値THAおよび第二閾値THB)を用いて点群情報に変換している。それぞれの閾値は既知である。このため、例えばノイズレベルが図10に示されているようにガウス分布に従うと仮定すると、得られる観測情報(すなわち点群数)の差分からノイズフロアを正しく推定することができ、その結果、誤検知確率を求めることができる。
【0115】
具体的には、例えば、第一観測情報は1100個、第二観測情報は100個の点からなる点群であり、ノイズの標準偏差は変わらないことが判明していると仮定する。この場合、第一観測情報と第二観測情報との差(すなわち1000個)と、閾値の差(すなわち図10に示された第一閾値THAと第二閾値THBとの差分)とから、ノイズレベル分布の平均値であるノイズフロアを推定することができる。
【0116】
そこで、図9および図10に示されているように、確率設定部901は、第一閾値THAと、第二閾値THBと、第一観測情報の個数と、第二観測情報の個数とに基づいて、誤検知確率を設定する。具体的には、上記の通り、閾値をノイズフロアに対して標準偏差σ離れた値(すなわちu+σ)に設定すると、約40%の確率で、クラッタによる誤検知が発生する。これに対し、閾値をノイズフロアに対して3σ離れた値(すなわちu+3σ)に設定すると、約0.1%の確率で、クラッタによる誤検知が発生する。このため、確率設定部901は、例えば、閾値がノイズフロアから離れるほど、誤検知確率を小さくする。点群情報すなわち観測情報に基づいて、ノイズレベルの正確な平均値と標準偏差σとを見積もることができれば、各閾値における誤検知確率を正確に推定することが可能となる。すなわち、設定閾値と観測点数との関係性から最適な誤検知確率を推定することができる。
【0117】
なお、本実施形態は、閾値が3つ以上である場合に対しても適用可能である。すなわち、3つ以上の閾値と、これらを用いて変換することで取得した点群情報すなわち観測情報とに基づいて、ノイズレベルの正確な平均値と標準偏差とを推定することができる。
【0118】
(第八実施形態)
図11を参照しつつ、第八実施形態に係る物標認識装置10の構成および動作について説明する。本実施形態は、上記第七実施形態の一部を変容したものである。すなわち、図11に示されているように、確率設定部901は、第一閾値THAと、第二閾値THBと、第一観測情報の個数と、第二観測情報の個数とに基づいて、誤検知確率を設定するようになっている。
【0119】
上述の通り、クラッタは、センサ内部の熱雑音だけでなく、雨、日照、汚れ、等の外的要因による外乱によっても発生し得る。よって、かかる外乱要因を補正するためには、雨、日照、汚れ、等を検知する車載センサ902による検知情報を活用することが有効である。そこで、確率設定部901は、車載センサ902によって取得された自車両の走行環境に基づいて、誤検知確率を設定する。すなわち、例えば、確率設定部901は、車載センサ902としてのレインセンサが検出した雨滴量が多いほど、誤検知確率を大きくする。あるいは、例えば、確率設定部901は、車載センサ902としての照度センサが検出した、自車両の車室外の明るさである照度が低いほど、誤検知確率を大きくする。あるいは、例えば、確率設定部901は、走行環境に基づいて発生する外乱ノイズが大きいほど、誤検知確率を大きくする。これにより、より適切な誤検知確率の設定が可能となる。
【0120】
(他の変形例)
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、相互に同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0121】
本開示は、上記実施形態にて示された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、例えば、適用対象である自車両は、四輪自動車に限定されない。具体的には、自車両は、三輪自動車であってもよいし、貨物トラック等の六輪または八輪自動車でもよい。自車両の種類は、内燃機関のみを備えた自動車であってもよいし、内燃機関を備えない電気自動車または燃料電池車であってもよいし、いわゆるハイブリッド自動車であってもよい。車体の形状および構造も、箱状すなわち平面視における略矩形状に限定されない。
【0122】
物標センサ2は、LIDARセンサに限定されない。すなわち、例えば、物標センサ2は、ミリ波あるいはサブミリ波を送受信する、ミリ波レーダ装置であってもよい。あるいは、物標センサ2は、自車両の周囲に存在する物標を撮像するカメラであってもよい。すなわち、上記の各実施形態すなわち本開示は、カメラによる撮影画像に基づいて取得される点群情報に対しても、良好に適用され得る。この場合の「物標検知信号の強弱」は、画素値あるいはその変化量の大小である。画素値は、輝度値、あるいは、これを何らかの形式(例えば8桁の2進数あるいは2桁の16進数)に変換した特性値である。そして、閾値は、例えば、特徴点すなわちエッジ点を検知するための、画素値変化量の閾値である。
【0123】
上記実施形態において、制御装置3は、CPU5がROM6等からプログラムを読み出して起動する、いわゆる車載マイクロコンピュータとしての構成を有していた。しかしながら、本開示は、かかる構成に限定されない。具体的には、例えば、制御装置3の全部または一部は、上記のような動作を可能に構成されたデジタル回路、例えばASICあるいはFPGAを備えた構成であってもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略である。FPGAはField Programmable Gate Arrayの略である。よって、制御装置3において、車載マイクロコンピュータ部分とデジタル回路部分とは併存し得る。
【0124】
上記実施形態にて説明した、各種の動作、手順、あるいは処理を実行可能とする、本開示に係るプログラムは、V2X通信を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。V2XはVehicle to Xの略である。あるいは、かかるプログラムは、自車両の製造工場、整備工場、販売店、等に設けられた端末機器を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。かかるプログラムの格納先は、メモリーカード、光学ディスク、磁気ディスク、等であってもよい。
【0125】
このように、上記の各機能構成および方法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされた、プロセッサおよびメモリを含む専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および方法は、一つ以上の専用論理回路によって提供された専用ハードウエアにより、実現されてもよい。
【0126】
あるいは、上記の各機能構成および方法は、一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと、一つ以上の論理回路によって構成されたハードウエアとの組み合わせにより構成された、一つ以上の専用処理装置により、実現されてもよい。
【0127】
コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、上記の各機能構成および方法は、これを実現するための処理あるいは手順を含むコンピュータプログラム、あるいは、当該プログラムを記憶した非遷移的実体的記憶媒体としても表現可能である。
【0128】
本開示は、上記実施形態にて示された具体的な動作態様あるいは処理態様に限定されない。すなわち、例えば、「閾値以上」と「閾値を超える」とは、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜置換可能である。同様に、「閾値以下」と「閾値未満」とは、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜置換可能である。
【0129】
「取得」、「推定」、「検出」、「検知」、「算出」、「抽出」、「生成」、等の、相互に類似する表現は、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜置換可能である。
【0130】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本開示が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本開示が限定されることはない。
【0131】
変形例も、上記の例示に限定されない。また、複数の変形例が、互いに組み合わされ得る。さらに、上記実施形態の全部または一部と、変形例の全部または一部とが、互いに組み合わされ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11