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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】固定構造
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/00 20060101AFI20240305BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60K1/00
B60R16/02 610J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023528254
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2022041589
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 康臣
(72)【発明者】
【氏名】蒲地 誠
(72)【発明者】
【氏名】山中 康弘
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-103552(JP,A)
【文献】特開2020-108218(JP,A)
【文献】特開2016-060324(JP,A)
【文献】特開2018-134974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボデー側面に対し前記ボデー側面よりも車幅方向内側に配置された制御装置の筐体をブラケットで固定するための固定構造であって、
前記筐体には、ハーネス接続用のコネクタが配設されるコネクタ面と、前記コネクタ面と直交し前記ボデー側面に対向配置される底面とが含まれ、
前記ブラケットは、
前記底面に対向配置され、前記筐体側を向くとともに前記底面を広範囲でカバーする対向面を持つ対向面部と、
前記対向面部における前記コネクタ面側の端縁から、前記対向面から離隔する方向に延設されて前記コネクタ面に隣接配置され、前記ハーネスを固定するクリップが取り付けられる取付座面部と、を備えることを特徴とする固定構造。
【請求項2】
前記取付座面部は、前記対向面部に対し、前記車幅方向内側へ離隔して配置されており、
前記ブラケットは、前記対向面部の前記端縁から前記車幅方向内側に延設されて前記取付座面部の端部に接続される接続部を備え、
前記対向面部には、前記対向面部と前記接続部との角部において、前記車幅方向内側に向かって凸となるビードが設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の固定構造。
【請求項3】
前記筐体は、前記コネクタ面を含む複数の側面を有するとともに、前記底面と略面一であって前記側面の外側に延設されたフランジを有し、
前記ブラケットは、前記対向面部に対し、前記車幅方向内側へ離隔した位置で前記フランジが当接される面を持つ筐体固定座面部を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の固定構造。
【請求項4】
前記ブラケットは、前記対向面部の前記端縁から、車幅方向外側に延設されるとともに、固定部材を介して前記ボデー側面に固定される脚部を備え、
前記筐体固定座面部は、前記車幅方向において前記固定部材と重ならない位置に設けられる
ことを特徴とする請求項3に記載の固定構造。
【請求項5】
前記ブラケットは、前記対向面部の前記端縁から、車幅方向外側に延設されるとともに、固定部材を介して前記ボデー側面に固定される脚部を備え、
前記脚部は、前記ボデー側面に当接して前記固定部材が締結される車体固定面部と、前記対向面部の前記端縁と前記車体固定面部とを繋ぐとともに前記対向面に対して斜め方向に延びる斜面部と、を有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の固定構造。
【請求項6】
前記対向面部は、前記対向面を前記車幅方向に貫通する孔を持つ環状をなしており、
前記ブラケットは、前記対向面部の前記孔の内縁から前記車幅方向外側に突出する略筒状の突出面部を備える
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のボデー側面に対し制御装置の筐体をブラケットで固定するための固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載の制御装置は、ブラケットを介して車体或いは当該制御装置とは異なる車載装置に固定されることが知られている。例えば、特許文献1には、ブラケットを介してモータケース上に固定された動力変換器(制御装置)が開示されている。特許文献1において、動力変換器の上面且つ後方には、ハーネスが接続される。ハーネスは、動力変換器の上面且つ後方から前方へ配索されて動力変換器の前面へ湾曲する。ブラケットは、動力変換器の前面に連結されるとともに、動力変換器の前面の前方に配索された上記のハーネスを係止するクランプを取り付けるための突起を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-060324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示のブラケットのように、制御装置とハーネスとの接続部分(接点)から比較的離れた位置でハーネスを係止する場合、接点付近でのハーネスの微小な振動を抑制することが困難となる。このため、当該振動により、ハーネスが微摺動摩耗を起こして断線する可能性がある。ハーネスが断線すると、制御装置から送られる信号が当該制御装置により制御される他の装置へ伝達されなくなるため、車両の走行に影響をきたし得る。
【0005】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、ハーネスの微摺動摩耗を抑制できる固定構造を提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の固定構造は、以下に開示する態様又は適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
(1)ここで開示する固定構造は、車両のボデー側面に対し前記ボデー側面よりも車幅方向内側に配置された制御装置の筐体をブラケットで固定するための固定構造であって、前記筐体には、ハーネス接続用のコネクタが配設されるコネクタ面と、前記コネクタ面と直交し前記ボデー側面に対向配置される底面とが含まれる。前記ブラケットは、前記底面に対向配置され、前記筐体側を向くとともに前記底面を広範囲でカバーする対向面を持つ対向面部と、前記対向面部における前記コネクタ面側の端縁から、前記対向面から離隔する方向に延設されて前記コネクタ面に隣接配置され、前記ハーネスを固定するクリップが取り付けられる取付座面部と、を備える。
【0007】
(2)前記取付座面部は、前記対向面部に対し、前記車幅方向内側へ離隔して配置されていることが好ましい。この場合、前記ブラケットは、前記対向面部の前記端縁から前記車幅方向内側に延設されて前記取付座面部の端部に接続される接続部を備えていることが好ましい。また、この場合、前記対向面部には、前記対向面部と前記接続部との角部において、前記車幅方向内側に向かって凸となるビードが設けられていることが好ましい。
【0008】
(3)前記筐体は、前記コネクタ面を含む複数の側面を有するとともに、前記底面と略面一であって前記側面の外側に延設されたフランジを有していることが好ましい。この場合、前記ブラケットは、前記対向面部に対し、前記車幅方向内側へ離隔した位置で前記フランジが当接される面を持つ筐体固定座面部を備えることが好ましい。
【0009】
(4)上記(3)の場合において、前記ブラケットは、前記対向面部の前記端縁から、車幅方向外側に延設されるとともに、固定部材を介して前記ボデー側面に固定される脚部を備えていることが好ましい。この場合、前記筐体固定座面部は、前記車幅方向において前記固定部材と重ならない位置に設けられることが好ましい。
【0010】
(5)前記ブラケットは、前記対向面部の前記端縁から、車幅方向外側に延設されるとともに、固定部材を介して前記ボデー側面に固定される脚部を備えていることが好ましい。この場合、前記脚部は、前記ボデー側面に当接して前記固定部材が締結される車体固定面部と、前記対向面部の前記端縁と前記車体固定面部とを繋ぐとともに前記対向面に対して斜め方向に延びる斜面部と、を有することが好ましい。
【0011】
(6)前記対向面部は、前記対向面を前記車幅方向に貫通する孔を持つ環状をなしていることが好ましい。この場合、前記ブラケットは、前記対向面部の前記孔の内縁から前記車幅方向外側に突出する略筒状の突出面部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
開示の固定構造によれば、ハーネスの微摺動摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る固定構造が適用された車両の要部の斜視図である。
図2図1の車両の要部からハーネス及びクリップを除いた部分を下方から視た平面図である。
図3図1の固定構造のブラケットを車幅方向内側から視た平面部である。
図4図3のV部を車幅方向内側から視た斜視図である。
図5図3のW部を車幅方向内側から視た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としての固定構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
以下の説明では、車両の前進方向を前方とし、この反対方向を後方とする。また、車両の前方を向いた状態を基準にして左右を定め、左右方向を「車幅方向」ともよぶ。また、車幅方向において、車両の中心に向かう側を「車幅方向内側」とよび、これと反対側を「車幅方向外側」をよぶ。車幅方向は前後方向と直交し、車幅方向及び前後方向の双方に直交する方向を上下方向と定義する。
【0016】
[1.構成]
本実施例の固定構造は、車両のボデー側面2に対し、ボデー側面2よりも車幅方向内側に配置された制御装置3の筐体30をブラケット1で固定するための構造である。本実施形態のブラケット1が適用された車両の要部を図1に示す。ブラケット1は、車両のボデー側面2に対して制御装置3の筐体30を固定する。ボデー側面2は、車体の側面を形成するパネル材が持つ車幅方向内側を向く面であって、前後方向且つ上下方向に展開される。ここでは、車両右側のAピラーの下方に配置されるインナーパネルが持つ面を、ボデー側面2として例示する。ボデー側面2は車幅方向内側(左側)を向き、制御装置3は当該ボデー側面2よりも車幅方向内側に配置される。制御装置3は、車両に搭載される電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)の一つであり、例えば、エンジン用ECU,EV(Electric Vehicle)用ECU,PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)用ECU,車載カメラ用ECU,コーナーセンサ用ECUなどが適用される。なお、以下の説明では、特に断らない限り、ブラケット1を介して制御装置3の筐体30がボデー側面2に取り付けられた状態であるものとして説明する。
【0017】
制御装置3の筐体30は、図2に示すように、ボデー側面2に対向配置される底面31と、底面31に対して直交する複数の側面32とを持つ。底面31は、ボデー側面2よりも車幅方向内側に配置されて車幅方向外側を向く。底面31の形状は、例えば、略矩形とされる。筐体30は、図1に示すように、底面31の各端縁から車幅方向内側に立設された四つの側面32を持つ。また、筐体30は、各側面32の車幅方向内側の端縁に接続されて車幅方向内側を向く矩形状の天面33を持つ。つまり、本実施形態の筐体30は、直方体状をなす。
【0018】
筐体30は、ボデー側面2に対して、例えば、各側面32が上下方向及び前後方向に対して斜めに向くように配置される。筐体30の四つの側面32のうち第一面32aは、下方に対して斜めに、下方且つ後方(以下、「X+方向」とよぶ)を向くように配置される。四つの側面32のうち第一面32aとは反対方向を向く第二面32bは、上方に対して斜めに、上方且つ前方(以下、「X-方向」とよぶ)を向くように配置される。四つの側面32のうち第三面32cは、前方に対して斜めに、前方且つ下方(以下、「Y+方向」とよぶ)を向くように配置される。四つの側面32のうち第三面32cとは反対方向を向く第四面32dは、後方に対して斜めに、後方且つ上方(以下、「Y-方向」とよぶ)を向くように配置される。
【0019】
第一面32aには、図1及び図2に示すように、制御装置3と制御装置3により制御される図示しない車載装置とを接続させるハーネス4用のコネクタ5が配設される。ここでは、四本のハーネス4のそれぞれを接続させるため、四つのコネクタ5(図2に格子塗り部分)が設けられた第一面32aを例示している。但し、第一面32aに設けられるコネクタ5の数はこれに限らず、第一面32aに少なくとも一つ設けられていればよい。以下、第一面32aをコネクタ面32aともよぶ。
【0020】
各ハーネス4は、図1に示すように、コネクタ面32aから下方に向かって延びた後、ハーネス4とは別のハーネスを束ねたハーネス束7に集約されて、コネクタ面32aよりも前方且つ上方(X-方向)に配索される。ハーネス4が集約されたハーネス束7は、コネクタ面32aの付近において、ブラケット1に取り付けられたクリップ6により固定される。
【0021】
筐体30は、さらに、ブラケット1に固定されるためのフランジ37を持つ。フランジ37は、底面31と略同一平面状に設けられ、側面32の外側に延設される。ここでは、コネクタ面32aに直交する第三面32c及び第四面32dのそれぞれから筐体30の外側に向かって延設された二つのフランジ37を例示する。
【0022】
第三面32cから延設されるフランジ37(以下、「第三面側フランジ37c」とよぶ)は、第三面32cの車幅方向外側の端縁からY+方向に延設される。また、第四面32dから延設されるフランジ37(以下、「第四面側フランジ37d」とよぶ)は、第四面32dの車幅方向外側の端縁からY-方向に延設される。フランジ37は、図2に示すように、ブラケット1の後述する固定座面部14に当接して、締結部材(例えばピンやボルト,ナット)を介してブラケット1に締結される。各フランジ37には、当該締結部材が貫通する締結孔が車幅方向に貫設される。当該締結孔は、各フランジ37において、各フランジ37が延設される面32c,32dの延在方向、すなわち、X方向に並んで二つ設けられる。
【0023】
ブラケット1は、図2に示すように、車幅方向において、ボデー側面2と筐体30との間に配置されて、車幅方向外側から筐体30をボデー側面2に対して固定する。ブラケット1は、底面31よりも車幅方向外側で底面31に対向配置される対向面11fを持つ対向面部11と、クリップ6を取り付けるための取付座面部12とを備える。本実施形態において、ブラケット1は、対向面部11と取付座面部12とを繋ぐ接続部13、及び、フランジ37が締結される固定座面部14(筐体固定座面部)をさらに備える。また、ブラケット1は、対向面部11のコネクタ面32a側の第一端縁11aから車幅方向外側に延設されて、固定部材8(以下、「スタッドボルト8」ともよぶ)を介してボデー側面2に固定される第一脚部15(脚部)をさらに備える。ブラケット1は、上述の部分11~15及び後述する突出面部16と第二脚部17とが一体で形成された板金製の部材である。スタッドボルト8は、図1及び図2に示すように、コネクタ面32aよりも筐体30の外側(X+方向側)に位置して、ボデー側面2よりも車幅方向内側に突出する。
【0024】
対向面部11は、上述の通り、底面31よりも車幅方向外側で底面31に対向配置される対向面11fを持つ部分であって、車幅方向に対して垂直に展開されて底面31を広範囲でカバーする。詳述すると、対向面部11は、図3に示すように、底面31を広範囲でカバーする主対向面部11Mと主対向面部11Mから延設された延出部11Nとを持つ。なお、図3では、ブラケット1に筐体30が固定されたときの筐体30の位置を二点鎖線で示している。
【0025】
主対向面部11Mは、底面31よりもX-方向に大きい寸法を持つ矩形から、コネクタ面32aと第三面32cとの角を除く各側面32同士の角に対応する部分を除いた略多角形状の外形をなす。詳述すると、対向面部11は、X+方向側の主第一端縁11Ma,X-方向側の第二端縁11b,Y+方向側の第三端縁11c,Y-方向側の第四端縁11d,第二端縁11bと第三端縁11cとを繋ぐ端縁、及び、第二端縁11bと第四端縁11dとを繋ぐ端縁を持つ略六角形状の外形をなす。
【0026】
主第一端縁11Maは、コネクタ面32aよりもX-方向側に位置し、第四端縁11dのX+方向側の端点からコネクタ面32aと第三面32cとの角に対応する部分に向かってX+方向且つY+方向に斜めに延在する。第二端縁11bは、第二面32bよりX-方向側に位置して第二面32bに沿って延在する。第三端縁11cと第四端縁11dとのそれぞれは、第三面32cと第四面32dとのそれぞれに重なるように各面32c,32dに沿って延在する。
【0027】
延出部11Nは、主対向面部11Mを形成する第三端縁11cのX+方向側の部分(言い換えれば、コネクタ面32a寄りの部分)からY+方向に延設された部分である。延出部11NのX+方向側の副第一端縁11Naは、主対向面部11Mの主第一端縁11Maと連続し、対向面部11のコネクタ面32a側の第一端縁11aを形成する。
【0028】
また、対向面部11には、対向面11fを車幅方向に貫通する貫通孔11hが設けられる。言い換えれば、対向面部11は、対向面11fを車幅方向に貫通する貫通孔11hを持つ環状をなす。貫通孔11hは、例えば、主対向面部11Mの外形に沿う略六角形状をなす。対向面部11にこのような貫通孔11hが設けられることで、ブラケット1が軽量化される。つまり、貫通孔11hは、ブラケット1を軽量化するための軽量孔とも換言される。貫通孔11hを形成する対向面部11の内縁11eは、図4に示すように、対向面11fよりも車幅方向外側に位置してもよい。この場合、対向面部11には、対向面11fに対して車幅方向外側に凸となる窪みが形成されていてもよい。このような窪みを形成する絞り加工を対向面部11に施すことで、対向面11fよりも車幅方向外側に内縁11eを形成できるとともに、ブラケット1の強度を高められる。
【0029】
さらに、ブラケット1には、内縁11eから車幅方向外側に突出する突出面部16が設けられる。突出面部16は、内縁11eの全域から車幅方向外側に突出し、略筒状をなす。突出面部16の突出長さは、ブラケット1の成型時の割れを抑制するため、短く設定されることが好ましく、例えば、3mmに設定される。これにより、ブラケット1の成型性の向上及びコスト低減を図れる。
【0030】
取付座面部12は、図1に示すように、ブラケット1にクリップ6を取り付けるための部分であり、コネクタ面32aに隣接配置される。取付座面部12は、図3に示すように、対向面部11における第一端縁11aから、対向面11fから離隔する方向に延設されることで、コネクタ面32aに隣接配置される。本実施形態において、取付座面部12は、第一端縁11aのうち副第一端縁11NaからX+方向に延設される。これにより、取付座面部12は、コネクタ面32aとY+方向側にわずかに隙間をあけてコネクタ面32aに隣接配置される。
【0031】
取付座面部12は、図2に示すように、車幅方向内側を向く取付座面12fと車幅方向外側を向く面とを持つ平板状をなす。取付座面部12には、図3又は図5に示すように、取付座面12fを車幅方向に貫通する取付孔12hが設けられる。クリップ6は、柱状のピン部と当該ピン部の一端に連結された環状のバンド部6p(図1参照)とを有し、当該ピン部が取付孔12hに挿通されることで取付座面部12に固定される。ハーネス束7は、クリップ6のバンド部6pにより結束されて、ブラケット1に対して固定される。
【0032】
本実施形態において、取付座面部12は、図2に示すように、対向面部11に対し車幅方向内側へ離隔して配置される。このため、ブラケット1には、対向面部11と取付座面部12とを繋ぐ平板状の接続部13が設けられる。
【0033】
接続部13は、図5に示すように、対向面部11の第一端縁11aから車幅方向内側に延設されて、取付座面部12に接続される。詳述すると、接続部13は、上述の取付座面部12の配置に対応して、第一端縁11aの副第一端縁11Naから車幅方向内側に向かって屈曲されて、取付座面部12のX-方向側の端縁12b(取付座面部12の端部)に接続される。
【0034】
接続部13と対向面部11とにより形成される角Cの付近において、対向面部11には、接続部13と取付座面部12との強度を高めるためのビード11gが設けられる。ビード11gは、対向面部11と接続部13との角Cが形成される部分(角部)において、対向面11fよりも車幅方向内側に向かって凸となるように設けられる。より詳述すると、ビード11gは、上記の角部において、角CからX-方向に延設されて、接続部13の車幅方向外側の一部をX-方向に凹ますように、且つ、対向面部11(延出部11N)の一部を車幅方向内側に向かって凹ますように設けられる。なお、対向面部11に上述の車幅方向外側に凸となる窪みが形成される場合、ビード11gは、当該窪みと接しない位置に設けられることが好ましい。
【0035】
固定座面部14は、図2に示すように、筐体30のフランジ37に当接する部分である。ここでは、上述の筐体30が二つのフランジ37を持つことに対応して、二つの固定座面部14が設けられたブラケット1を例示する。二つの固定座面部14のうち一方の第三面側座面部14cは、図3に示すように、対向面部11の第三端縁11cからY+方向に延設されて、第三面側フランジ37cに当接する。第三面側座面部14cは、延出部11NのX-方向側の端縁とも連設されていてよい。また、他方の第四面側座面部14dは、対向面部11の第四端縁11dからY-方向に延設されて、第四面側フランジ37dに当接する。
【0036】
各固定座面部14には、車幅方向内側を向き、車幅方向外側からフランジ37に当接する固定座面14fが設けられる。各固定座面14fは、車幅方向視で、各々が当接するフランジ37の一部又は全部と重なる形状をなす。また、各固定座面部14には、各々が当接するフランジ37の締結孔に対応する位置おいて、固定座面14fに車幅方向へ貫設された締結孔14hが設けられる。本実施形態において、各固定座面部14には、X方向に並んだ二つの締結孔14hが設けられる。筐体30と固定座面部14とは、これら合計四つの締結孔14hのそれぞれにピンが挿入されて互いに締結されてよい。また、筐体30と固定座面部14とは、これら合計四つの締結孔14hのうち、三つの締結孔14hのそれぞれにピンが挿入されて互いに締結されてもよい。ピンが挿入されない締結孔14hは、予備の締結孔14hとして活用される。
【0037】
本実施形態において、各固定座面部14の固定座面14fは、図2に示すように、対向面11fよりも車幅方向内側に設けられる。このような固定座面14fの配置を実現するため、第三面側座面部14cには、図4に示すように、第三端縁11cから車幅方向内側に延出して、第三端縁11cと固定座面14fとを繋ぐ部分が設けられる。また、第四面側座面部14dにも、同様に、第四端縁11dから車幅方向内側に延出して、第四端縁11dと固定座面14fとを繋ぐ部分が設けられる(図2参照)。これにより、対向面11fと、フランジ37と略面一となる底面31と、の間には、車幅方向に隙間Hが形成される。
【0038】
各固定座面部14の固定座面14fは、さらに好ましくは、車幅方向においてスタッドボルト8と重ならないように、スタッドボルト8よりも車幅方向内側に配置される。これにより、固定座面14fの車幅方向内側に配置される筐体30を、スタッドボルト8よりも車幅方向内側に配置させられる。よって、筐体30に接続されるハーネス4とスタッドボルト8との接触を抑制できる。
【0039】
第一脚部15は、図2に示すように、対向面部11の第一端縁11aから車幅方向外側に延設されてボデー側面2に固定される部分である。第一脚部15が設けられることで、ボデー側面2と対向面部11との間には車幅方向に空間が形成される。
【0040】
第一脚部15は、車体固定面部15Sと斜面部15Tとを有する。車体固定面部15Sは、ボデー側面2に当接される部分である。車体固定面部15Sは、図3に示すように、コネクタ面32aよりも筐体30の外側(X+方向側)で車幅方向に対して垂直に展開される。車体固定面部15Sには、車幅方向に車体固定面部15Sを貫通する固定孔15hが設けられる。スタッドボルト8は、固定孔15hに挿通されて、ボデー側面2に対して車体固定面部15Sを締結する。
【0041】
斜面部15Tは、対向面11fに対して斜め方向に延出して、第一端縁11aと車体固定面部15Sとを繋ぐ。上記の斜め方向とは、対向面11fの延在方向に傾斜する方向を意味し、ここでは、車幅方向外側且つ対向面11fの第一端縁11aから離れる方向(X+方向)を意味する。斜面部15Tは、第一端縁11aから斜め方向に延出して、コネクタ面32aよりも筐体30の外側に展開された車体固定面部15Sの端部に接続される。第一端縁11aに対して斜面部15Tが接続される位置は、例えば、取付座面部12が延設される位置とは異なる位置とされる。本実施形態において、斜面部15Tは、第一端縁11aのうち主第一端縁11Maの中央部分に接続される。
【0042】
なお、上述の通り、本実施形態の主第一端縁11Maは、コネクタ面32aよりも筐体30の内側(X-方向側)に位置する。このため、第一端縁11aと斜面部15Tとの接続部も、コネクタ面32aよりも筐体30の内側(X-方向側)に位置する。言い換えれば、第一端縁11aと斜面部15Tとの接続部は、車幅方向内側から見て筐体30の外形からはみ出さず、筐体30の外側に位置しない。
【0043】
ブラケット1は、上述の第一脚部15に加えて、対向面部11の第二端縁11bから車幅方向外側に延設された第二脚部17を備えていてもよい。第二脚部17は、例えば、第二端縁11bから車幅方向外側に向かって延出する部分と当該部分から屈曲してX-方向に延出する部分とを有する略L字型をなす。第二脚部17は、当該X-方向に延出する部分がボデー側面2に当接し、固定部材によりボデー側面2に締結されることで、ボデー側面2に対してブラケット1を固定してよい。
【0044】
[2.作用,効果]
(1)上述した固定構造によれば、筐体30には、ハーネス4用のコネクタ5が配設されるコネクタ面32a、及び、コネクタ面32aに対して直交する底面31が含まれる。また、ブラケット1には、筐体30の底面31を車幅方向外側から広範囲でカバーする対向面部11、及び、ハーネス4を固定するクリップ6が取り付けられる取付座面部12が設けられる。取付座面部12は、対向面部11のコネクタ面32a側の第一端縁11aから、対向面11fから離隔する方向であるX+方向に延設される。また、取付座面部12は、Y+方向側にコネクタ面32aとわずかに隙間をあけてコネクタ面32aに隣接配置される。
【0045】
ハーネス4は、このような取付座面部12に取り付けられたクリップ6を介してブラケット1に固定されることで、コネクタ5が配設されるコネクタ面32aの付近でブラケット1に固定される。これにより、ハーネス4の接点となるコネクタ5でのハーネス4の振動を抑制できる。従って、ハーネス4の微摺動摩耗を抑制できる。さらに、取付座面部12は対向面部11に連設されるため、部品点数を増やすことなくハーネス4の微摺動摩耗を抑制できる。
【0046】
(2)ブラケット1では、取付座面部12が、対向面部11に対し、車幅方向内側へ離隔して配置される。これにより、スタッドボルト8にハーネス4が接触することを抑制できる。よって、ハーネス4の断線を抑制できる。また、対向面部11には、接続部13と対向面部11との角部において、車幅方向内側に向かって凸となるビード11gが設けられている。当該ビード11gにより接続部13と取付座面部12との強度を確保できる。よって、例えば、ハーネス4の振動や外的負荷などの影響で、接続部13が角Cで対向面部11から破断することを抑制できる。
【0047】
また、ビード11gは、接続部13が延在する方向である車幅方向内側に凸となるため容易に形成できる。ここで、接続部13が延在する側とは逆側(車幅方向外側)にビードを形成する場合、角C周辺のビードの形成が難しいという実情があるが、ビード11gを車幅方向内側に凸となるように形成することで、容易にビード11gを成型できる。
【0048】
(3)ブラケット1では、固定座面部14の固定座面14fが、対向面部11から車幅方向内側へ離隔した位置で、フランジ37に当接する。これにより、対向面11fと筐体30の底面31との間には隙間Hが形成されるので、底面31の振動によるビビリ音の発生を抑制できる。また、固定座面14f及び対向面11fのそれぞれの車幅方向の位置を相違させることで、固定座面部14と対向面部11との境界をより明確にできる。よって、フランジ37に当接するための平面(固定座面14f)を持つ固定座面部14をより確実且つ容易にブラケット1に成型できる。言い換えれば、成型時における、固定座面14fの平面出しを容易にできる。
【0049】
(4)さらに、固定座面部14は、スタッドボルト8よりも車幅方向内側に位置する。このように、ボデー側面2から固定座面部14までの高さを高く設定することで、ハーネス4の揺れによるハーネス4とスタッドボルト8との接触(干渉)を抑制できる。よって、ハーネス4の断線を抑制できる。
【0050】
(5)ブラケット1では、対向面部11と車体固定面部15Sとを繋ぐ斜面部15Tが対向面11fに対して斜め方向に延在する。このように、対向面部11と車体固定面部15Sとを繋ぐ部分を斜めに延在させることで、ブラケット1のコスト低減を図れるとともに、制御装置3に対するハーネス4の艤装性を向上できる。
【0051】
例えば、上記のブラケット1の斜面部15Tに代えて、第一端縁11aから対向面11fの延在方向に沿って延出する第一接続面部と当該第一接続面部から車幅方向外側に延出する第二接続面部とを有するクランク型脚部を備えたブラケットを形成することも考えられる。しかし、上述のようなクランク型脚部を形成するよりも、斜面部15Tを有する第一脚部15を形成した方が、ブラケット1の成型に必要な材料の量を減らせる。従って、ブラケット1のコスト低減を図れる。
【0052】
また、上述のようなクランク型脚部を形成した場合、制御装置3へのハーネス4の接続時に、ハーネス4が第一接続面部と第二接続面部との角に当たる可能性がある。これに対して、第一脚部15では、第一端縁11aと斜面部15Tとの接続部がコネクタ面32aよりも筐体30の内側(X-方向側)に位置するため、ハーネス4が当該接続部に当たることがない。よって、制御装置3に対するハーネス4の艤装性を向上できる。
【0053】
(6)ブラケット1では、対向面部11が貫通孔11hを持つ環状とされる。また、ブラケット1には、対向面部11の内縁11eから車幅方向外側に突出する略筒状の突出面部16が設けられる。このように、対向面部11を環状とすることでブラケット1を軽量化できるとともに、突出面部16を設けることで、ブラケット1の強度を確保できる。
【0054】
[3.変形例]
上述の固定構造の構成は一例である。上述の固定構造が適用される車両のボデー側面2は、車両右側のAピラーの下方に配置されるインナーパネルの内面に限らない。ボデー側面2は、車体側面を形成するパネル材の車幅方向内側を向く面であればよい。また、ブラケット1は、筐体30を上下方向及び前後方向に対して斜めに配置するものでなくてもよい。つまり、筐体30の各側面32は、上下方向及び前後方向に延設されてもよい。コネクタ5が配設される面は、下方を向く第一面32aに限らず、第二面32b又は第三面32c或いは第四面32dであってもよい。筐体30は、少なくとも底面31、及び、底面31と直交するとともにコネクタ5が配設される面を有していればよく、直方体状でなくてもよい。
【0055】
対向面部11の外形は、上述の形状に限らない。例えば、対向面部11は、車幅方向外側から底面31の一部ではなく、底面31の全てをカバーする形状であってもよい。対向面部11の貫通孔11hは省略されてもよい。この場合、突出面部16は、省略されてよい。また、対向面部11は、延出部11Nを有していなくてもよい。この場合、取付座面部12は、主第一端縁11Maから延設されてよい。対向面部11は、少なくとも底面31を広範囲でカバーする対向面11f、及び、コネクタ面32a側に延在する第一端縁11aを備えていればよく、取付座面部12は、コネクタ面32aに隣接配置されるように対向面部11から延設されていればよい。
【0056】
第一脚部15は、斜面部15Tを有していなくてもよく、例えば上述のクランク型脚部が第一脚部15として適用されてもよい。第一脚部15により、対向面部11がスタッドボルト8よりも十分に車幅方向内側に配置される場合、固定座面部14は、対向面部11と略面一に形成されてもよい。また、接続部13と対向面部11との角部に形成されるビード11gは、省略されてもよい。取付座面部12が、対向面部11の対向面11fから略面一に延出する場合、接続部13は省略されてもよい。
本明細書における「車両」には、走行用にモータを備えるがエンジンは備えない電気自動車のほか、モータとエンジンの双方を備えるハイブリッド車を含む。また、ハイブリッド車には、バッテリに対する外部充電又はバッテリからの外部給電が可能なプラグインハイブリッド自動車も含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1 ブラケット
2 ボデー側面
3 制御装置
4 ハーネス
5 コネクタ
6 クリップ
8 スタッドボルト(固定部材)
11 対向面部
11a 第一端縁(コネクタ面側の端縁)
11e 内縁
11f 対向面
11g ビード
11h 貫通孔(孔)
11M 主対向面部
11Ma 主第一端縁
11N 延出部
11Na 副第一端縁
12 取付座面部
12b 端縁(取付座面部12の端部)
13 接続部
14 固定座面部(筐体固定座面部)
14c 第三面側座面部(筐体固定座面部)
14d 第四面側座面部(筐体固定座面部)
15 第一脚部(脚部)
15S 車体固定面部
15T 斜面部
16 突出面部
30 筐体
31 底面
32 側面
32a コネクタ面(第一面)
37 フランジ
37c 第三面側フランジ(フランジ)
37d 第四面側フランジ(フランジ)
【要約】
車両のボデー側面(2)に対しボデー側面(2)よりも車幅方向内側に配置された制御装置(3)の筐体(30)をブラケット(1)で固定するための固定構造であって、筐体(30)には、ハーネス接続用のコネクタ(5)が配設されるコネクタ面(32a)と、コネクタ面(32a)と直交しボデー側面(2)に対向配置される底面(31)とが含まれる。ブラケット(1)は、底面(31)に対向配置され、筐体(30)側を向くとともに底面(31)を広範囲でカバーする対向面(11f)を持つ対向面部(11)と、対向面部(11)におけるコネクタ面(32a)側の端縁(11a)から、対向面(11f)から離隔する方向に延設されてコネクタ面(32a)に隣接配置され、ハーネスを固定するクリップが取り付けられる取付座面部(12)と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5