(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 1/00 20060101AFI20240305BHJP
B60K 11/04 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60K1/00
B60K11/04 Z
(21)【出願番号】P 2019147473
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 浩一
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-5499(JP,A)
【文献】特開2013-198378(JP,A)
【文献】特開2013-207957(JP,A)
【文献】特開2017-118773(JP,A)
【文献】特開2015-27819(JP,A)
【文献】特開2012-189095(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148410(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0222162(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
B60K 11/00- 15/10
B60K 16/00
H02K 9/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対し駆動力を付与するモータを備える車両の制御装置であって、
前記モータを冷却するための作動流体を貯留する貯留部と、
前記貯留部に設けられ、前記作動流体を排出するドレインと、
前記モータを収容可能に構成されたモータハウジングと、
前記貯留部に貯留された前記作動流体を前記モータハウジング内に供給する供給回路と、
前記供給回路に設けられ、前記供給回路により前記モータハウジングに供給される前記作動流体の流量を制御する供給ポンプと、
前記モータハウジング内に供給された前記作動流体を前記モータハウジング外に排出し、排出された前記作動流体を前記貯留部に貯留する排出回路と、
前記排出回路に設けられ、前記排出回路により前記モータハウジング内から排出される前記作動流体の流量を制御する排出ポンプと、
前記排出ポンプ及び前記供給ポンプを制御するポンプ制御部と、
前記モータハウジング、前記供給回路および前記排出回路のメンテナンスに関するメンテナンス情報が入力されるメンテナンス情報入力部と、を含み、
前記ドレインが開放された後、前記メンテナンス情報入力部に入力される情報により、前記作動流体を交換する必要があると判断される場合、前記ポンプ制御部は、前記供給ポンプ
を駆動させた後、前記排出ポンプを駆動させることを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記ドレインは、前記貯留部に一箇所のみ設けられることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記ポンプ制御部は、前記メンテナンス情報入力部に入力されるメンテナンス情報に応じて前記ドレインを開放する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記メンテナンス情報の入力は、ハンドブレーキのON、OFF操作情報によって行われることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等のモータを駆動源とする車両において、モータと複数のギアからなる減速機構とを備え、駆動輪が連結するディファレンシャルギアにモータの駆動力を伝達することができる車両用の駆動ユニットが知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
このような駆動ユニットに搭載されるモータをより効率的に冷却する手段として、オイル等の冷媒を循環させる冷却回路により当該モータを冷却する液冷式のモータ冷却装置等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トラックなどの商用車に搭載されるモータ油冷回路においては、車両レイアウトの違いに起因して乗用車よりもオイル配管の全長が長く、かつ、オイル配管内で高低差が生じる。
【0006】
このため、このようなモータ油冷回路においては、オイル交換時のためのドレインを複数設ける必要があり、コスト上昇を招く虞がある。また、モータ油冷回路のオイル交換時には、複数個所に設けられたドレインからそれぞれオイル排出作業が行う必要があり、作業が煩雑化しメンテナンス性も悪化する虞もある。
【0007】
以上から、本願の解決すべき課題は、モータ油冷回路のコスト上昇およびメンテナンス性悪化を抑制することができる車両の制御装置を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
【0009】
(1)本適用例に係る車両の制御装置は、車両に対し駆動力を付与するモータを備える車両の制御装置であって、前記モータを冷却するための作動流体を貯留する貯留部と、前記モータを収容可能に構成されたモータハウジングと、前記貯留部に貯留された前記作動流体を前記モータハウジング内に供給する供給回路と、前記供給回路に設けられ、前記供給回路により前記モータハウジングに供給される前記作動流体の流量を制御する供給ポンプと、前記モータハウジング内に供給された前記作動流体を前記モータハウジング外に排出し、排出された作動流体を前記貯留部に貯留する排出回路と、前記排出回路に設けられ、前記排出回路により前記モータハウジング内から排出される前記作動流体の流量を制御する排出ポンプと、前記排出ポンプ及び前記供給ポンプを制御するポンプ制御部と、前記モータハウジング、前記供給回路および前記排出回路のメンテナンスに関するメンテナンス情報が入力されるメンテナンス情報入力部と、を含み、前記メンテナンス情報入力部に入力される情報により、前記作動流体を交換する必要があると判断される場合、前記ポンプ制御部は、前記供給ポンプおよび前記排出ポンプを駆動させる。
【0010】
このように、本適用例に係る車両の制御装置によれば、オイル交換等でモータ油冷回路からオイルを抜く際に、メンテナンス情報に基づき当該モータ油冷回路に設けられた供給ポンプ及び排出ポンプを駆動する。これにより、貯留部だけでなく、供給回路、モータハウジング、及び排出回路に滞留したオイルが貯留部に送られ、ドレインから排出される。つまり、例えば貯留部がモータハウジングよりも高い位置にある場合や、オイル配管内で高低差が生じている場合でも、1つのドレインからモータ油冷回路全体のオイルを容易に排出することができる。また、一つのドレインによるオイル排出作業を行うので、作業が簡易となる。これにより、モータ油冷回路のコスト上昇およびメンテナンス性悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置によるオイル交換ルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置について、図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、または省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る車両の制御装置1の概略構成を示すブロック図である。
図1に示す車両の制御装置1は例えば電動トラック等の電動自動車に搭載されており、駆動源であるモータを冷却する油冷回路の制御を行うものである。
【0014】
車両の制御装置1は、モータハウジング2、貯留部3、オイル循環回路4、ポンプ制御部5、及びメンテナンス情報入力部6を備えている。
【0015】
モータハウジング2は、車両に対し駆動力を付与するモータ(例えば永久磁石埋め込み型の三相同期モータで、回生時の発電機を兼ねる。)を含むモータケースと、減速機を含む減速機ケースが一体的に結合したものである。
【0016】
貯留部3は、オイル(作動流体)を貯えるものである。本実施形態ではオイルがモータを冷却するための冷媒となる。また、貯留部3の底部には、オイルを抜くためのドレイン10が設けられている。ドレイン10は、乗員や作業者等の作業により開閉することができる。また、貯留部3には、図示しないオイルのレベルゲージが設けられており、貯留部3に貯留されているオイルの量を検知することが可能である。
【0017】
オイル循環回路4は、オイルがモータハウジング2と貯留部3を経由して循環するオイル配管により構成されている。詳細にはオイル循環回路4は、貯留部3に貯留されたオイルをモータハウジング2内に供給する供給回路11と、モータハウジング2内に供給されたオイルをモータハウジング2から排出し、排出されたオイルを貯留部3に貯留する排出回路12と、を有している。なお、本実施形態におけるオイル循環回路4では、ドレイン10が貯留部3の一か所に設けられているだけであるが、オイル配管内で高低差が生じていてもよく、ドレイン10の位置がオイル循環回路4内で最も低い位置にある必要はない。例えば、本実施形態では貯留部3はモータハウジング2よりも高い位置にある。
【0018】
供給回路11には、当該供給回路11により貯留部3からモータハウジング2に供給されるオイルの流量を制御する供給ポンプP1が設けられている。
【0019】
排出回路12には、当該排出回路12によりモータハウジング2内から貯留部3に排出されるオイルの流量を制御する排出ポンプP2が設けられている。
【0020】
供給ポンプP1及び排出ポンプP2は、電動ポンプでありポンプ制御部5と電気的に接続されている。
【0021】
ポンプ制御部5は、供給ポンプP1及び排出ポンプP2の駆動のON、OFFやオイルの流量の調整が可能である。ポンプ制御部5は、車両やモータに関する種々の情報に基づいて供給ポンプP1及び排出ポンプP2を制御する。例えば本実施形態のポンプ制御部5は、メンテナンス情報に基づく制御を実行すべく、メンテナンス情報入力部6が電気的に接続されている。
【0022】
メンテナンス情報入力部6は、モータハウジング2及びオイル循環回路4のメンテナンスに関するメンテナンス情報が入力される。当該メンテナンス情報としては、例えばオイル循環回路4のオイル交換に関する情報が含まれ、オイル交換に関する情報は車両の乗員や整備作業者(以下、乗員等という)による操作や、車両に搭載された各種センサ等の情報に応じて、メンテナンス情報入力部6に入力される。
【0023】
例えば、本実施形態では、メンテナンス情報入力部6はハンドブレーキ7(パーキングブレーキ操作部)と電気的に接続されており、乗員等によりハンドブレーキのON、OFF操作が連続して2回行われると、オイル交換に関するメンテナンス情報がメンテナンス情報入力部6に入力される。
【0024】
ポンプ制御部5は、少なくともメンテナンス情報入力部6に入力されるメンテナンス情報によりオイルを交換する必要があるかどうかを判断する。例えば、オイル交換に関するメンテナンス情報がメンテナンス情報入力部6に入力されると、ポンプ制御部5は、オイルを交換する必要があると判断する。そして、ポンプ制御部5は、貯留部3のオイルをドレイン10から排出するだけでなく、供給ポンプP1および排出ポンプP2を駆動させ、モータハウジング2、供給回路11、及び排出回路12のオイルを貯留部3に送ることで、オイル循環回路4全体のオイルを排出する。
【0025】
ここで
図2を参照すると、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置1によるオイル交換ルーチンを示したフローチャートが示されており、同フローチャートに基づきオイル交換手順の一例について説明する。
【0026】
オイル交換の際には、まずステップS1として、車両が停止した状態で、乗員等が貯留部3のドレイン10を開放して、貯留部3においてドレイン10を介してオイルを排出可能とする。
【0027】
次にステップS2として、ポンプ制御部5は、オイル交換が必要か否かを判断する。具体的には、ポンプ制御部5は、乗員等がハンドブレーキ7のON、OFF操作を連続して2回行い、メンテナンス情報入力部6にオイル交換に関するメンテナンス情報が入力されることで、オイル交換が必要と判断する。ポンプ制御部5は、当該判断結果が偽(No)である場合は、当該ステップS2の判断を繰り返す。一方、当該判断結果が真(Yes)である場合は、次のステップS3に処理を進める。
【0028】
ステップS3においてポンプ制御部5は、供給ポンプP1を駆動する。これにより供給回路11内に滞留しているオイルをモータハウジング2に送る。なお、ポンプ制御部5は、例えば貯留部3のレベルゲージの情報又はドレイン10の開放からの経過時間等に基づいて、貯留部3内のオイルが抜けた後に当該ステップS3の供給ポンプP1の駆動を開始する。
【0029】
次にステップS4においてポンプ制御部5は、排出ポンプP2を駆動する。これにより、モータハウジング2及び排出回路12内に滞留しているオイルを貯留部3に送る。なお、本実施形態におけるポンプ制御部5は、上記ステップS3の供給ポンプP1の駆動からの経過時間等に基づいて、当該ステップS4の排出ポンプP2の駆動を開始する。
【0030】
そして、ポンプ制御部5は、例えば供給ポンプP1及び排出ポンプP2を所定時間駆動した後、供給ポンプP1及び排出ポンプP2を停止させ、当該ルーチンを終了する。当該所定時間は、例えば供給回路11、モータハウジング2、及び排出回路12からオイルが抜け切る時間に設定される。
【0031】
このように、本実施形態における車両の制御装置1は、オイル交換等でオイル循環回路4からオイルを抜く際に、メンテナンス情報に基づき当該オイル循環回路4に設けられた供給ポンプP1及び排出ポンプP2を駆動する。これにより、貯留部3だけでなく、供給回路11、モータハウジング2、及び排出回路12に滞留したオイルが貯留部3に送られ、ドレイン10から排出される。つまり、本実施形態のように貯留部3がモータハウジング2よりも高い位置にある場合や、オイル配管内で高低差が生じている場合でも、1つのドレイン10からオイル循環回路4全体のオイルを容易に排出することができる。
【0032】
特に、
図2で示したオイル交換ルーチンのように、供給ポンプP1及び排出ポンプP2の駆動は、供給ポンプP1を駆動した後、排出ポンプP2を駆動することで、効率的に供給回路11、モータハウジング2、及び排出回路12のオイルを排出することができる。
【0033】
以上のことから本実施形態における車両の制御装置1は、モータ油冷回路のコスト上昇およびメンテナンス性悪化を抑制することができる。
【0034】
以上で本発明に係る車両の制御装置の実施形態についての説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0035】
上記実施形態では、乗員等の操作によりドレイン10の開閉を行っているが、例えば自動でドレイン10の開閉ができる場合は、これに限られない。例えば、ポンプ制御部が、メンテナンス情報入力部に入力されるメンテナンス情報に応じて、ドレインを開放してもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、乗員等によるハンドブレーキ7の操作により、メンテナンス情報入力部6にメンテナンス情報が入力されるが、これに限らず他の手段によりメンテナンス情報が入力されてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 車両の制御装置
2 モータハウジング
3 貯留部
4 オイル循環回路
5 ポンプ制御部
6 メンテナンス情報入力部
7 ハンドブレーキ
10 ドレイン
11 供給回路
12 排出回路