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特許7448119炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法
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  • 特許-炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/56 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
C25D5/56 B
C25D5/56 A
C25D5/56 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019174171
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021050387
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 知哉
(72)【発明者】
【氏名】出口 貴久
(72)【発明者】
【氏名】須川 真希代
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-052091(JP,A)
【文献】特開2001-145971(JP,A)
【文献】特開2015-014037(JP,A)
【文献】米国特許第04422907(US,A)
【文献】特開平06-264250(JP,A)
【文献】特開平07-119732(JP,A)
【文献】特開昭63-297570(JP,A)
【文献】特開平01-132794(JP,A)
【文献】特開昭63-259214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 7/12
B29C 70/00-70/88
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化樹脂基材の表面から該基材の内部に包埋されている炭素繊維に達する開口部を、オゾン処理、紫外線照射、溶剤浸漬および機械的処理からなる群から選択されるクラックを形成可能な処理によって形成すること、
前記開口部へ電解めっきによって導電性材料を導入すること、および
前記開口部への導電性材料の導入後、前記基材の前記表面に、無電解めっきによってめっき皮膜を形成すること、
を含む、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法。
【請求項2】
前記クラックを形成可能な処理としてオゾン処理を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記開口部へ導電性材料を導入した後であって前記無電解めっきによるめっき皮膜の形成前に、前記基材の前記表面に電解エッチング処理を施すことを更に含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記導電性材料は、金属材料である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記開口部への金属材料の導入後であって前記無電解めっきによるめっき皮膜の形成前に、前記基材の前記表面にオゾン処理を施すことを更に含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属材料は、ニッケル系材料である、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項7】
前記炭素繊維強化樹脂基材は、エポキシ樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記無電解めっきによって形成されためっき皮膜の表面に、電解めっきによってめっき皮膜を形成することを更に含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき皮膜を有する物品の製造に関して、特許文献1、2には、繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-297570号公報
【文献】特開平4-74868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素繊維強化樹脂(CFRP; carbon fiber reinforced plastic)は、自動車、航空機、産業機械、エネルギー産業等の各種業界において、軽量化に有用な材料として、その用途が拡大している。
【0005】
一方、基材の表面にめっき皮膜を有する物品において、めっき皮膜は、物品への所望の性能の付与または性能向上(例えば、耐摩耗性向上、硬度向上、導電性付与、光沢付与等)の役割を果たすことができる。めっき皮膜と基材との密着性が良好であることは、めっき皮膜によって物品に付与または向上させた性能を維持するうえで望ましい。
【0006】
以上に鑑み本発明の一態様は、炭素繊維強化樹脂基材の表面に基材との密着性が良好なめっき皮膜を有する物品を製造することが可能な新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
炭素繊維強化樹脂基材(以下、単に「基材」とも記載する。)の表面から、この基材の内部に包埋されている炭素繊維に達する開口部を形成すること、
上記開口部へ導電性材料を導入すること、および
上記基材の上記表面に、無電解めっきによってめっき皮膜を形成すること、
を含む、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法、
に関する。
【0008】
一形態では、上記製造方法は、上記開口部を、オゾン処理によって形成することを含むことができる。
【0009】
一形態では、上記製造方法は、上記開口部への導電性材料の導入を、電解めっきによって行うことを含むことができる。
【0010】
一形態では、上記製造方法は、上記開口部へ導電性材料を導入した後、上記基材の上記表面に電解エッチング処理を施すことを更に含むことができる。
【0011】
一形態では、上記導電性材料は、金属材料であることができる。
【0012】
一形態では、上記製造方法は、上記開口部への金属材料の導入後、上記基材の上記表面にオゾン処理を施すことを更に含むことができる。
【0013】
一形態では、上記金属材料は、ニッケル系材料であることができる。
【0014】
一形態では、上記炭素繊維強化樹脂基材は、エポキシ樹脂を含むことができる。
【0015】
一形態では、上記製造方法は、上記無電解めっきによって形成されためっき皮膜の表面に、電解めっきによってめっき皮膜を形成することを更に含むことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品を製造するための新たな製造方法を提供することができる。かかる製造方法によれば、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品であって、基材とめっき皮膜との密着性に優れる物品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一態様にかかる製造方法の一例の工程説明図である。
図2】本発明の一態様にかかる製造方法の他の一例の工程説明図である。
図3】本発明の一態様にかかる製造方法の他の一例の工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一態様は、炭素繊維強化樹脂基材の表面から、この基材の内部に包埋されている炭素繊維に達する開口部を形成すること、上記開口部に導電性材料を導入すること、および上記基材の上記表面に、無電解めっきによってめっき皮膜を形成することを含む、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を有する物品の製造方法に関する。
以下、上記製造方法について、更に詳細に説明する。
【0019】
<炭素繊維強化樹脂基材>
上記製造方法においてめっき皮膜が形成される基材は、炭素繊維強化樹脂基材である。炭素繊維強化樹脂基材とは、少なくともめっき皮膜が形成される表面を含む表層部が炭素繊維強化樹脂製である基材であり、一形態では、上記表層部のみまたは上記表層部を含む一部のみが炭素繊維強化樹脂製であることができ、他の一形態では、基材全体が炭素繊維強化樹脂製であることができる。
【0020】
炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維と樹脂(一般に「マトリックス樹脂」と呼ばれる。)とを含む。炭素繊維は、炭素繊維強化樹脂基材の内部に包埋されている。「炭素繊維」とは、構成成分の90質量%以上を炭素が占める繊維であり、その繊維形状は特に限定されるものではなく、例えば、連続繊維、短繊維またはこれらの組み合わせであることができ、織物状、マット状等であってもよい。
【0021】
炭素繊維強化樹脂に含まれる樹脂としては、炭素繊維強化樹脂のマトリックス樹脂として通常使用されている各種樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、 ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、 ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの中でも、性能面等の観点から、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂が更に好ましい。
【0022】
上記炭素繊維強化樹脂基材は、炭素繊維および樹脂を含み、更にマトリックス部分に樹脂に加えて炭素繊維強化樹脂の添加剤として公知の添加剤の一種以上を任意に含むことができる。また、上記炭素繊維強化樹脂基材の寸法および形状は限定されるものではない。めっき皮膜が形成される表面の形状も限定されず、例えば、曲面であってもよく平面であってもよい。
【0023】
次に、炭素繊維強化樹脂基材の表面にめっき皮膜を形成するために行われる各種工程について、図面を参照して説明する。ただし、本発明は図面に示す実施形態に限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の一態様にかかる製造方法の一例の工程説明図である。図1中、(a)には、めっき皮膜が形成される炭素繊維強化樹脂基材10が示されている。炭素繊維強化樹脂基材10は、マトリックス部分110および炭素繊維111を含む。通常、マトリックス部分110の主成分は樹脂である。かかる樹脂および基材10に包埋されている炭素繊維111の詳細は、上記の通りである。
【0025】
基材10には、開口部112が形成される(図1中、(b))。形成された開口部112には、導電性材料113が導入され(図1中、(c))、その後、無電解めっきによってめっき皮膜(無電解めっき皮膜)114が形成される(図1中、(d))。以下に、これら工程について、更に詳細に説明する。
【0026】
<開口部の形成、導電性材料の導入>
炭素繊維強化樹脂基材10には、その表面から基材内部に包埋されている炭素繊維に達する開口部112が形成され、この開口部へ導電性材料113が導入される。これにより、炭素繊維の導電性を、導電性材料を介して基材表面側に導くことができる。このことが、基材表面上に形成されるめっき皮膜と基材との密着性向上に寄与すると推察される。
【0027】
開口部112は、炭素繊維強化樹脂基材10の表面から基材内部に包埋されている炭素繊維111に達する開口部であればよい。かかる開口部を形成することにより、この開口部に導入される導電性材料を介して、炭素繊維の導電性を基材表面側に導くことができる。したがって、開口部112について、その形状および寸法は限定されるものではない。また、開口部112に導入される導電性材料113の量は、開口部を完全に満たす量であってもよく、開口部を完全には満たさない量であってもよい。基材表面に形成される開口部の数は、任意に決定することができる。
【0028】
開口部112は、例えば炭素繊維強化樹脂にクラックを形成可能な公知の処理によって形成することができる。かかる処理としては、オゾン処理、紫外線照射、溶剤浸漬、酸処理、アルカリ処理、機械的処理等を挙げることができる。オゾン処理は、例えば、炭素繊維強化樹脂基材の開口部を形成すべき表面をオゾンガスに暴露することによって実施することができる。
【0029】
形成された開口部112へ導入される導電性材料113としては、導電性を有する各種材料を挙げることができる。導電性材料113は、マトリックス部分110より電気を通し易い性質を有する材料であり、好ましくは電解めっきによって開口部112へ導入することができる。電解めっきとは、公知の通り、めっき液中で電気分解反応によって行われるめっきであり、開口部112への導電性材料113導入のための電解めっきについては、電解めっきに関する公知技術を適用することができる。導電性材料113は、開口部への導入容易性の観点から、金属材料であることが好ましい。ここで、「金属材料」には、金属元素の単体(純金属)、複数の金属元素の合金および一種以上の金属元素を含む化合物が包含される。一種以上の金属元素を含む化合物は、例えば一種以上の金属元素を含む酸化物であることができる。例えば、1つの開口部に導入された導電性材料は、一部分が純金属および/または合金であり、他の一部分が一種以上の金属元素を含む化合物であることもできる。例えば、開口部に導入された純金属および/または合金の表層部分が酸化されて酸化物となる場合がある。金属元素としては、ニッケル元素、銅元素、亜鉛元素、鉄元素等を挙げることができる。開口部への導入容易性の観点から好ましい金属材料としては、ニッケル系材料、銅系材料および亜鉛系材料を挙げることができる。ここで「ニッケル系材料」とは、ニッケル元素を含む材料を意味する。この点は、銅系材料等についても同様である。金属材料は、より好ましくはニッケル系材料であり、例えば電解ニッケルめっきによって、開口部112へ導電性材料113としてニッケル系材料を導入することができる。
【0030】
<めっき皮膜の形成>
開口部112へ導電性材料113を導入した後、基材10の表面に無電解めっきによってめっき皮膜114を形成する。無電解めっきは、公知の通り、電気を使用せずに化学反応によって皮膜を析出させるめっきである。無電解めっきは、還元めっきであってもよく、置換めっきであってもよい。置換めっきとしては、例えばストライクめっき(好ましくはシアン不使用(シアンフリー)のストライクめっき)を挙げることができる。還元めっきは、自己触媒型還元めっきであってもよく、非触媒型還元めっきであってもよい。自己触媒型還元めっきの一例としては、無電解ニッケルめっき、無電解銅めっき等を挙げることができる。また、無電解めっきでは、公知の方法によって触媒付与および触媒賦活化を行った後にめっき液中でのめっきを行うこともできる。こうして、無電解めっきにより形成されためっき皮膜(無電解めっき皮膜)114を有する物品20を得ることができる。無電解めっきにより、金属材料のめっき皮膜を形成することができる。金属材料の詳細については、先の記載を参照できる。一形態では、無電解めっきにより形成されるめっき皮膜は、ニッケル系材料のめっき皮膜(いわゆる無電解ニッケルめっき皮膜)であることが好ましい。無電解めっきにより形成されるめっき皮膜の厚さは、めっき皮膜を形成する目的に応じて決定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば0.5μm~20μmの範囲であることができる。また、無電解めっき皮膜は、連続層として形成されてもよく、島状等の不連続層として形成されてもよい。
【0031】
また、無電解めっき皮膜の上に電解めっきによりめっき皮膜を更に形成することもできる。そのような製造方法の一例の工程説明図が、図2である。図2中、(a)~(d)は図1と同様である。図2に示す例では、無電解めっきにより形成されためっき皮膜114上に電解めっきによってめっき皮膜(電解めっき皮膜)115が形成される(図2中、(e))。図1中、(a)には、めっき皮膜が形成される炭素繊維強化樹脂基材10が示されている。炭素繊維強化樹脂基材10は、マトリックス部分110および炭素繊維111を含む。通常、マトリックス部分110の主成分は樹脂である。樹脂および基材10に包埋されている炭素繊維111の詳細は上記の通りである。電解めっきについては、先に記載した通りであり、めっき皮膜(電解めっき皮膜)115(電解めっき皮膜)を形成するための電解めっきについては、電解めっきに関する公知技術を適用できる。電解めっきにより、金属材料のめっき皮膜を形成することができる。金属材料の詳細については、先の記載を参照できる。一形態では、電解めっきにより形成されるめっき皮膜は、ニッケル系材料のめっき皮膜(いわゆる電解ニッケルめっき皮膜)であることが好ましい。電解めっきにより形成されるめっき皮膜の厚さは、めっき皮膜を形成する目的に応じて決定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば1μm~100μmの範囲であることができる。電解めっき皮膜は、連続層として形成されてもよく、島状等の不連続層として形成されてもよい。
【0032】
<任意工程>
本発明の一態様にかかる製造方法は、以上説明した工程を含む。一形態では、開口部への導電性材料の導入後であって無電解めっきを行う前に、無電解めっきによってめっき皮膜が形成される表面にエッチング処理を施すことができる。エッチング処理により、無電解めっきによってめっき皮膜が形成される表面を粗面化することができる。これにより、いわゆるアンカー効果によって、めっき皮膜と基材表面との密着性を更に高めることができる。エッチング処理は、電解エッチング処理であることが、粗面化の容易性および表面活性化の観点から好ましい。表面活性化によって、無電解めっきによってめっき皮膜が形成される表面における化学反応(めっき形成反応)の反応効率を高めることができる。電解エッチングは、電解液中で電流を供給して電気化学的に行われるエッチングであり、例えばエッチング対象を陰極または陽極として行うことができる。電解エッチングについては、電解エッチングに関する公知技術を適用することができ、電解液としては公知の組成の電解液または市販の電解液を使用することができる。電解エッチングにおける電流密度およびエッチング時間は、特に限定されるものではなく、例えば、コスト面、安全面等も考慮して、決定することができる。電解エッチングにおける電流密度は、例えば40~190mA/cmの範囲とすることができ、エッチング時間(電流印加時間)は、例えば10分間~60分間の範囲とすることができる。
【0033】
また、一形態では、開口部への金属材料の導入後、基材表面にオゾン処理を施すこともできる。このオゾン処理は、例えば、開口部への金属材料の導入した後の基材表面をオゾンガスに暴露することによって実施することができる。ここでのオゾン処理では、開口部へ導入されている金属材料がオゾンを分解する分解触媒として機能することができ、オゾンの分解の過程で生じるラジカルの強い酸化力によって、基材表面の酸化反応を促進することができる。かかるオゾン処理を行うことは、無電解めっきによってめっき皮膜が形成される表面の粗面化の容易性および表面活性化の観点から好ましい。一形態では、開口部への金属材料の導入後、基材表面にオゾン処理を施した後に電解エッチング処理を施すことができる。図3は、金属材料を触媒とするオゾン処理と電解エッチングとを更に含む製造方法の一例の工程説明図である。図3中、(a)、(b)、(c)、(f)、(g)は、図2中の(a)~(e)と同様である。図3に示す例では、開口部112へ導電性材料113として金属材料が導入された後に行われるオゾン処理(図3中、(d))と、電解エッチング(図3中、(e))が行われる。これらの処理を行うことは、上記の通り、粗面化および表面活性化の観点から好ましい。
【0034】
更に、上記の各種処理の前または後に、必要に応じて、公知の方法によって、洗浄、乾燥等の処理の1つ以上を任意に実施することができる。
【0035】
以上説明した製造方法によれば、炭素繊維強化樹脂基材の表面に基材との密着性に優れるめっき皮膜を有する物品を製造することができる。上記めっき皮膜は、一形態では、無電解めっき皮膜と電解めっき皮膜との積層膜であることができる。ところで、先に示した特許文献1(特開昭63-297570号公報)では、クロム酸溶液によるエッチングが行われるが(同文献の特許請求の範囲等参照)、クロム酸はその有害性により、RoHS規制や水質汚濁防止法等の規制対象物質となっている。これに対し、上記製造方法は、クロム酸等の有害な規制対象物質を使用せずに実施可能である。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。ただし本発明は、実施例に示す形態に限定されるものではない。特記しない限り、下記の処理および評価は室温(20~25℃)にて実施した。以下に記載の「%」は、質量%である。
【0037】
[実施例1]
(1)開口部の形成
一村産業社製エポキシCFRP(炭素繊維織物1層、平織、0.2mm厚)を幅30mm×長さ75mmの寸法に裁断し試験片とした。
試験片の一端の長さ約5mmまでの部分を炭素繊維が露出するまで研削し、電源と接続する接点とした。他端の長さ25mmまでの部分において粘着テープ(ニトフロンテープ)により面積を調整し、片面で7.5cm分を処理対象部とした。
試験片をデシケータ内に配置し、デシケータ内を撹拌しながら、試料片をオゾンガス(酸素原料、濃度45000vol-ppm、流量0.5L/min)に6時間暴露した(オゾン処理)。このオゾン処理よって、試験片の処理対象部に、炭素繊維に達する開口部(クラック)が複数形成された。
【0038】
(2)開口部への導電性材料の導入
以下の条件によりワット浴電解ニッケルめっきを行い、上記で試験片の処理対象部に形成した開口部に導電性材料(ニッケル系材料)を導入した。
(電解めっき条件)
陽極:ニッケル板(0.5mm×90mm×70mm(液位)容器壁面に配置)
陰極:試験片
電解槽:角型ガラス容器100mm×100mm×70mm(液位)、
電極間距離:70mm
めっき液組成:硫酸ニッケル6水和物240g/L、塩化ニッケル6水和物45g/L、ホウ酸30g/L
電流密度:13mA/cm
液温:50℃
処理時間:5min
【0039】
(3)めっき皮膜の形成
(3-1)無電解めっき皮膜の形成
上記で開口部に導電性材料を導入した後の処理対象部の表面に、以下の条件により無電解ニッケルめっきを行うことによって無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
(無電解めっき条件)
触媒付与
液組成:奥野製薬工業社製A-30 80mL/L、塩酸 5.5%
処理時間:2min
液温:室温
触媒賦活
液組成:奥野製薬工業社製OPC-500 MX-1 100mL/L
処理時間:5min
液温:35℃
めっき
めっき液組成:硫酸ニッケル6水和物25g/L、クエン酸三ナトリウム50g/L、 次亜リン酸ナトリウム25g/L
処理時間:10min
液温:45℃
【0040】
(3-2)電解めっき皮膜の形成
次いで、以下の条件によりワット浴電解ニッケルめっきを行うことによって電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
(電解めっき条件)
陽極:ニッケル板(0.5mm×90mm×70mm(液位)容器壁面に配置)
陰極:試験片
電解槽:角型ガラス容器100m×100mm×70mm(液位)
電極間距離:70mm
めっき液組成:硫酸ニッケル6水和物240g/L、塩化ニッケル6水和物45g/L、ホウ酸30g/L
電流密度:33mA/cm
液温:50℃
処理時間:60min
【0041】
[実施例2]
上記(2)により開口部に導電性材料を導入した後の処理対象部の表面に以下の条件により電解エッチング処理を施した後、上記(3)のめっき皮膜の形成を行った点以外、実施例1と同様の処理を実施した。
(電解エッチング条件)
陽極:チタン板(0.2mm厚、円筒状に容器壁面に沿わせ配置)
陰極:試験片(容器中心部に配置)
電解槽:500mLガラス製ビーカー
電解液:塩化ナトリウム30g+エチレングリコール450mL混合液
電流密度:40mA/cm
液温:温度制御手段による温度制御なし(電解エッチング処理に伴う発熱により徐々に液温上昇)
処理時間:10min
【0042】
[実施例3]
電解エッチング処理の処理時間を60minに変更した点以外、実施例2と同様の処理を実施した。
【0043】
[実施例4]
電解エッチング処理の電流密度を190mA/cmに変更した点以外、実施例3と同様の処理を実施した。
【0044】
[実施例5]
上記(2)の処理の後の試験片をデシケータ内に配置した。その後、上記(1)と同様の条件でオゾン処理を行った。ここでのオゾン処理では、開口部に導入されたニッケル系材料が、オゾンを分解する分解触媒として機能することができる。このオゾン処理の後、上記(3)のめっき皮膜の形成を行った。上記の点以外、実施例1と同様の処理を実施した。
【0045】
[比較例1]
上記(1)および(2)の処理を行わなかった点以外、実施例1と同様の処理を実施した。
【0046】
[比較例2]
上記(1)の処理を行わなかった点以外、実施例2と同様の処理を実施した。
【0047】
[比較例3]
上記(1)および(2)の処理を行わなかった点以外、実施例3と同様の処理を実施した。
【0048】
以上の実施例および比較例での各種処理の実施の有無を、表1に示す。
【0049】
[密着性の評価]
上記の実施例および比較例で処理を施した各試験片について、形成しためっき皮膜の試験片端寄り半分にセロハンテープを貼り付け、90度方向に引き剥がした。
上記のテープ引き剥がし試験後、めっき皮膜が剥離せず試験片上に保持された場合を〇、めっき皮膜が剥離した場合を×として、めっき皮膜の密着性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
[接触角の測定]
上記の実施例および比較例では、めっき皮膜形成前の試験片の試験対象部の表面に純水2μLを滴下し、接触角測定装置(協和界面科学製CA-VP)によって接触角を測定した。接触角の測定値を表1に示す。接触角の値が小さいほど、表面の濡れ性が高いことを意味する。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示されている通り、実施例1~5において形成されためっき皮膜は、密着性に優れていた。
また、表1に示されている接触角の値から、各実施例において実施された処理によって、めっき皮膜が形成される表面の濡れ性が向上されたことが確認できる。この濡れ性の向上が、めっき皮膜の密着性を高めることに寄与したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、めっき皮膜を有する各種物品の製造分野において有用である。
図1
図2
図3