(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】口腔内フローラ改善・維持剤、プラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240305BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240305BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240305BHJP
A61P 1/02 20060101ALN20240305BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20240305BHJP
A61K 36/48 20060101ALN20240305BHJP
A61K 129/00 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
A23L33/105
A61Q11/00
A61K8/9789
A61P1/02
A61P31/04
A61K36/48
A61K129:00
(21)【出願番号】P 2020151948
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】507103020
【氏名又は名称】株式会社アカシアの樹
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 武司
(72)【発明者】
【氏名】小川 壮介
(72)【発明者】
【氏名】小林 知樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026088(WO,A1)
【文献】特開平07-242555(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0185987(US,A1)
【文献】特開2019-195309(JP,A)
【文献】特開2005-232153(JP,A)
【文献】特開2010-105923(JP,A)
【文献】特開2011-051992(JP,A)
【文献】特開2009-203209(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0258913(US,A1)
【文献】特表2008-517069(JP,A)
【文献】LAKSHMI, T., et al.,Antibacterial effectiveness of ethanolic extract of Acacia catechu bark and Azadirachta indica leaf against Streptococcus mutans - A comparative in vitro study,Pharma Research,2012年, Vol. 6, No. 2, p.19-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61Q、A61K、A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とする初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤。
【請求項2】
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルム(プラーク、歯垢)からの離脱を促進する請求項1に記載の初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤。
【請求項3】
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルム(プラーク、歯垢)の形成を抑制する請求項1に記載の初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤。
【請求項4】
前記グラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌は、Streptococcus gordonii、Streptococcus mitis、Fusobacterium nucleatum、Porphyromonas gingivalis、Treponema spp、Tannerella forsythiaのうちの少なくとも二以上を含む請求項2又は請求項3に記載の初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一に記載の
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とする初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用飲食料。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一に記載の
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とする初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用口腔洗浄剤。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一に記載の
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とする初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用歯磨剤。
【請求項8】
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とする初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用歯石形成予防剤。
【請求項9】
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルムからの離脱を促進する請求項8に記載の初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用歯石形成予防剤。
【請求項10】
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルムの形成を抑制する請求項8に記載の初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用歯石形成予防剤。
【請求項11】
前記グラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌は、Streptococcus gordonii、Streptococcus mitis、Fusobacterium nucleatum、Porphyromonas gingivalis、Treponema spp、Tannerella forsythiaのうちの少なくとも二以上を含む請求項9又は請求項10に記載の
プロアントシアニジンを有効な主成分とするアカシアの樹皮
抽出物を
有効成分とする初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去剤を含有した初期付着菌によるバイオフィルム形成の阻害・除去用歯石形成予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内フローラ(細菌叢)の乱れを改善し、あるいは乱れを防止して維持するための口腔内フローラ改善・維持剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内疾患の一つである歯周病は、軟組織の歯肉、歯根膜と硬組織のセメント質、歯槽骨の4つの組織からなる歯周組織に生じる疾患であり、厚生労働省の発表(2017年度)によれば、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数は、398万3000人といわれている。口腔内には300~400種類の細菌が存在するが、そのなかに含まれる歯周病菌が歯肉溝(歯と歯ぐきの境目)のなかで異常増殖すると歯周ポケットが形成され、付着部が歯面から剥がれ、続いて歯肉がはれ、歯槽骨の破壊を引き起こす。
【0003】
従来、歯周病などの口腔内疾患は特定の病原菌に起因すると考えられていたため、口腔内疾患の予防や改善を図る研究においても、特定の病原菌を対象とした抗菌剤などが主に研究されていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、含ポリフェノール天然物エキス及びリシンを有効成分として、歯周病の病原菌(特にPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス))に対して抗菌作用を示す口腔用組成物について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯周病は数種の歯周病菌種による混合感染と考えられてきた。しかし、近年、歯周病は単一の病原菌に起因するのではなく、常在菌を含めた多様な細菌種の相互作用の結果によりバイオフィルムの病原性が高まり発症に至る疾患、つまり口腔内フローラ(細菌叢)の乱れ(Dysbiosis)に由来する疾患であると捉えられるようになってきた。
【0007】
口腔内フローラは、口腔内に存在する300~400種の細菌の群集をいい、その状態(細菌の質やバランスなど)が口腔内のみならず全身の健康に影響を及ぼす。口腔内フローラを構成する細菌は、大まかに善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類からなっており、互いに勢力争いを行っている。善玉菌の割合が高いほど健康で、悪玉菌が多いほど健康上のトラブルが生じやすくなる。日和見菌は最も高い比率を占める細菌だが、フローラのバランスが保たれた状態では無害だが、悪玉菌が増加すると悪玉菌に加勢する。
【0008】
健康な口腔内では、バイオフィルムの約75%が常在菌(グラム陽性好気性球桿菌)であり、歯周病の病原性はない。しかし、口腔内にバイオフィルムが長期に存在するとFusobacterium、Porphyromonas、Treponema、Prevotella、Aggregatibacterなどのグラム陰性菌がバイオフィルム内で増殖し、グラム陰性嫌気性球桿菌が口腔内の約75%を占めるようになり、口腔内フローラのバランスが崩れ、歯周病や口臭などの疾病やトラブルが発生する。
【0009】
また、口腔内フローラの状態は、単に口腔内の健康状態を左右するものではなく、腸内フローラにも影響を及ぼす。腸は、栄養素を吸収する場所であり、免疫の7割を司る重要な臓器であり、腸内細菌はこれらの働きに大きく関わっている。またそれだけでなく、腸内細菌が作り出す産生物が体の様々な臓器や脳にまでも影響を与えることがわかってきている。腸内フローラの悪化は様々な疾患、例えば、大腸ガン、乳ガンや糖尿病、肥満、認知症、そして花粉症やアトピー性皮膚炎などのようなアレルギー性疾患、自己免疫疾患のほか、うつ病などの心の病気に関与している。
【0010】
そして、口腔と腸とは離れているとはいえ、管でつながっており互いに影響を与え合う。すなわち、口腔内フローラの状態が悪玉菌優勢で、P. gingivalisが増えて大量に口から消化管の方に流れ込むと、ほとんどは胃で殺菌されるが、一部のP. gingivalisは生き残って腸内フローラのバランスを崩すことが報告されている。また逆に、腸内フローラの環境が悪化し、腸内の悪玉菌が増えた状態になると、有害物質の侵入を防ぐ腸の粘膜バリア機能が低下し、腸内細菌が腸管細胞に侵入し炎症を起こすとともに、体全体の免疫力を低下させ、全身的な炎症を起こしたり、感染症にかかりやすくなる。そのため、歯周病菌が増えやすい環境となり、口腔内フローラの状態も悪くなることが考えられる。
【0011】
本発明は、上記の事情を鑑み、とくにバイオフィルムの形成率を低下させたり、バイオフィルムを構成する菌類をバイオフィルムから遊離させたりすることで、結果としてグラム陰性菌の増殖を抑制したり、他の菌と相まってグラム陰性菌を除去することで、口腔内フローラが良好なバランスでいられることを図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、上記課題を解決するために、第一の発明として、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とする口腔内フローラ改善・維持剤を提供する。
【0013】
第二の発明としては、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルム(プラーク、歯垢)からの離脱を促進する第一の発明に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を提供する。
【0014】
第三の発明としては、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルム(プラーク、歯垢)の形成を抑制する第一の発明に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を提供する。
【0015】
第四の発明としては、前記グラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌は、Streptococcus gordonii、Streptococcus mitis、Fusobacterium nucleatum、P. gingivalis、Treponema spp、Tannerella forsythiaのうちの少なくとも二以上を含む第二の発明又は第三の発明に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を提供する。
【0016】
第五の発明としては、第一の発明から第4の発明のいずれか一に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を含有した飲食料を提供する。
【0017】
第六の発明としては、第一の発明から第二の発明のいずれか一に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を含有した口腔洗浄剤を提供する。
【0018】
第七の発明としては、第一の発明から第二の発明のいずれか一に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を含有した歯磨剤を提供する。
【0019】
第八の発明としては、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とするプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を提供する。
【0020】
第九の発明としては、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルムからの離脱を促進する第八の発明に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を提供する。
【0021】
第十の発明としては、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とするグラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルムの形成を抑制する第八の発明に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を提供する。
【0022】
第十一の発明としては、前記グラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌は、S. gordonii、S. mitis、F. nucleatum、P. gingivalis、Treponema spp、T. forsythiaのうちの少なくとも二以上を含む第九の発明又は第十の発明に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を提供する。
【0023】
第十二の発明としては、第八の発明から第九の発明のいずれか一に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を含有した飲食料を提供する。
【0024】
第十三の発明としては、第八の発明から第九の発明のいずれか一に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を含有した口腔洗浄剤を提供する。
【0025】
第十四の発明としては、第八の発明から第十一の発明のいずれか一に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を含有した歯磨剤を提供する。
【0026】
第十五の発明としては、第八の発明から第十一の発明のいずれか一に記載のプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を用いてプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防するプラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防方法を提供する。
【0027】
第十六の発明としては、第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載の口腔内フローラ改善・維持剤を用いて口腔内フローラを改善・維持する口腔内フローラ改善・維持方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、口腔内フローラの乱れを改善し、あるいは乱れを予防して維持するための口腔内フローラ改善・維持剤を提供し、また、プラーク/歯垢の除去及び歯石形成予防剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】バイオフィルム形成阻害試験の方法を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<実施形態1>
<概要>
【0031】
本実施形態は、アカシアの樹皮抽出物を有効成分とする口腔内フローラ改善・維持剤である。また、この口腔内フローラ改善・維持剤を含有した飲食料、口腔洗浄剤及び歯磨剤である。また、口腔内フローラ改善・維持剤は、口腔内バイオフィルムの形成抑制又は分解を図るものである。
<構成>
【0032】
「アカシア」は、マメ科アカシア(Acacia)属に属する樹木を意味する。アカシアとしては、例えば、Acacia mearnsii De Wild.、Acacia mangium Willd.、Acacia dealbata Link、Acacia decurrens Willd.、Acacia pycnantha Benth. 等が挙げられる。特に限定するものではないが、アカシアは、好ましくはAcacia mearnsii De Wild.又はAcacia mangium Willd.であり、より好ましくはAcacia mearnsii De Wild.である。
【0033】
本実施形態はアカシアの樹皮抽出物を用いる。樹木の樹幹構造は、外側から「外樹皮―コルク形成層―内樹皮―維管束形成層―木部」となっており、一般的には「外樹皮―コルク形成層―内樹皮」を樹皮と呼んでいる。本実施形態における樹皮も同様に「外樹皮―コルク形成層―内樹皮」とする。
【0034】
樹皮抽出物は、水や有機溶媒により樹皮から溶出させた物質をいう。水は熱水であることが好ましい。有機溶媒は、好ましくはアルコールであり、より好ましくは炭素数1~4のアルコールであり、特に好ましくはエタノールである。抽出溶媒は、1種の溶媒を単独で使用してもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。また、樹皮を破砕してから抽出したり、破砕と乾燥を行ってから抽出してもよい。
【0035】
アカシア樹皮抽出物はそのおよそ4分の3がプロアントシアニジン、およそ4分の1がスクロースなどの糖からなることが知られている。(文献1.Rie Kusano, et al., α-Amylase and Lipase Inhibitory Activity and Structural Characterization of Acacia Bark Proanthocyanidins, J Nat Prod. 2011 Feb 25;74(2):119-28.参照)(文献2.Yosuke Matsuo, et al, Characterization of the α-Amylase Inhibitory Activity of Oligomeric Proanthocyanidins from Acacia mearnsii Bark Extract, Natural product Communications, Vol.11 No.12 1851-1854, 2016参照)。
【0036】
また、Acacia mearnsiiの樹皮抽出物におけるプロアントシアニジンは、ロビネチニドールやフィセチニドールといった5-デオキシフラバン-3-オールおよびカテキン、ガロカテキンといったフラバン-3-オールが重合してなる(文献1.参照)。
【0037】
本実施形態の口腔内フローラ改善・維持剤は、グラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルムからの離脱を促進する作用を有する。また本実施形態の口腔内フローラ改善・維持剤は、グラム陰性菌又は/及びグラム陽性菌の口腔内バイオフィルムの形成を抑制する作用を有する。
【0038】
以下に詳述するStreptococcus mutans、 Streptococcus sobrinusのほかに歯周病関連菌群, Pseudomonas aeruginosa などは、バイオフィルムを積極的に形成するために糖から大量のグルカンを合成することが知られている。(文献3.花田、口腔における細菌性バイオフィルムの制御について、老年歯学 第16巻 第3号 2002参照)さらに、スクロースは、高エネルギー結合を有しているために、細菌は加水分解によって粘着性・不溶性のグルカンを作り、バイオフィルムを形成することが知られている。(文献4.花田、バイオフィルムの臨床生物学、J Health Care Dent. 2003; 5: 4-30.参照)スクロースなどの糖は、上述のとおり、バイオフィルムの形成を進めるものであり、形成阻害や離脱を促進するものではない。したがって、アカシア樹皮抽出物の中のプロアントシアニジンが関与成分であると考えられる。
<グラム陰性菌>
【0039】
グラム陰性菌は、グラム染色法によって紫色に染まらない菌をいう。グラム陰性菌としては、例えば、P. gingivalis、Treponema spp、T. forsythiaがあり、これらのグラム陰性菌は歯周病の病原性が最も高いカテゴリーに分類される。なお、T. forsythiaは、F. nucleatumとT. forsythiaが凝集するという報告がなされており、F. nucleatumの歯面への付着を防ぐことで、T. forsythiaも付着しにくくなると示唆される。また、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Prevotella intermedia、Prevotella denticola、Prevotella loescheiiも歯周病の原因菌である。また、F. nucleatumは、歯周病の原因菌であるとともに口腔内バイオフィルム形成の中心的な役割を担う。Prevotella nigrescensは、歯周病の原因菌であり、特に思春期性歯肉炎や妊娠性歯肉炎への関与が指摘されている。また歯周疾患における慢性持続性炎症の原因としても知られている。またF. nucleatumと共凝集することも報告されている。また、口腔内バイオフィルムの早期コロニー形成菌として、Capnocytophaga gingivalis、Capnocytophaga ochracea、Capnocytophaga sputigena、Eikenella corrodens、Veillonella atypica、Haemophilus parainfluenzae、Campylobacter rectus、Peptostreptococcus micros、Campylobacter gracilis、Campylobacter showae、Fusobacterium polymorphum、Campylobacter concisus 、Veillonella parvulaなどがある。
【0040】
グラム陰性菌は、LPS(リポ多糖体)を有し、細胞壁から容易には遊離せず、細菌が死滅したときなどに細胞が融解・破壊されることで遊離し、それが動物細胞などに作用することで毒性を発揮する。
<グラム陽性菌>
【0041】
グラム陽性菌は、グラム染色法によって紫色に染まる菌をいう。例えば、Eubacterium sppは、歯周病の原因菌であり、特にEubacterium nodatumが原因菌といわれている。また、S. gordoniiとS. mitisは、バイオフィルムの初期付着菌に分類され、初期コロニー形成の6-9割がstreptococcus属だといわれている。また、口腔内バイオフィルムの早期コロニー形成菌として、Actinomyces israelii、Actinomyces naeslundii、Propionibacterium acnes、Selenomonas flueggei、Streptococcus oralis、Streptococcus sanguis、Streptococcus constellatus、Streptococcus intermedius、Actinomyces odontolytiusなどがある。
<口腔内バイオフィルム>
【0042】
口腔内バイオフィルムとは、食べものの残りカスが歯の表面につき細菌が繁殖したもので、白くねばねばしているものであり、プラークや歯垢と呼ばれることもある。口腔内バイオフィルムは幾種もの菌が集合し、時間の経過とともに関係性を持ち始め、互いの弱点を補いながら、膜(フィルム)を形成したもののことを指す。この口腔内バイオフィルムが形成されると、歯に付いて繁殖した幾種もの菌が口腔内バイオフィルムのカバーにより守られ、唾液による殺菌力が効きにくくなり、虫歯や歯周病を進行させていくことになる。
【0043】
本件発明は、口腔内バイオフィルムの分解を促進するので、口腔内で長時間バイオフィルムが成長し続けたり、存在し続けることを阻害し、結果として、バイオフィルム中の菌どうしの関係性の発展を阻害する。この関係性の発展の阻害は結果としてバイオフィルム中の悪玉菌の増殖を抑え、口腔内フローラの健全性を保つことに貢献する。
【0044】
歯石は、歯に付着したプラークが唾液に含まれるカルシウムやリン酸などと反応して石灰化し、石のように硬くなって歯の表面にくっついたものである。歯石は死んだ菌の集まりであり、口腔内バイオフィルムのようにそのものが歯周病を引き起こす原因にはならない、歯石の表面はデコボコしているので口腔内バイオフィルムが付着しやすい状態となる。そのため歯茎の炎症をさらに招く結果となる。
【0045】
口腔内で繁殖する菌によって形成されたバイオフィルムは、口臭(文献5. 渋谷耕司, 生理的口臭の成分と由来に関する研究 口腔衛生会誌 J.Dent.Hlth,51 :778 ?792 ,2001、文献6. J.Washio, et al. (2005) Hydrogen sulfide -producinng bacteria in tongue biofilm and their relationship with oral malodour. J. Med. Microbiol. , 54, 889 -895 .参照)、口腔内フローラのバランス異常、口腔内の不衛生化、歯周病(文献7. 門脇知子ら、歯周病とジンジパイン、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)122、37-44 2003.参照)、さらに歯周病に関連した全身疾患(文献8. 廣畑直子ら、歯周病と全身疾患、日大医誌、73 (5): 211-218 (2014).参照)などの原因になっていることが知られている。口腔内バイオフィルムは1種類の菌から構成されるわけではなく、様々な菌が複合的に繁殖することで形成されている。より具体的には病原性バイオフィルムの成立機序は、三段階に分けられている。(文献9. Masae Kuboniwa, et al., Subgingival biofilm formation. Periodontology, 2000 52, 38-52.2010. 、文献10. Paul E.Kolenbrander, et al., Oral multispecies biofilm development and the key role of cell-cell distance. Nat. Rev. Microbiol. 8, 471-480. 2010. 、文献11. Paul E. Kolenbrander, et al., Communication among Oral Bacteria, MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY REVIEWS, Sept. 2002, p. 486-505.参照)。
【0046】
図1(文献11.参照)は、口腔内バイオフィルムの形成モデルを示す図である。口腔内バイオフィルムの形成過程は次の通りである。はじめに歯の表面に唾液中のタンパク質が付着し、ペリクルとよばれる被膜を形成する。続いて、ペリクルにS. gordonii、S. mitisなどの初期付着菌が固層表面へ付着しコロニーを形成する。次に仲介菌F. nucleatumが菌叢へ付着、さらにその後、後期付着菌として歯周病の主な原因となる病原菌であるP. gingivalis、T. denticola、P. intermedia、A. actinomycetemcomitansなどが菌叢へ付着という三段階でバイオフィルムは形成されている。
【0047】
このことから、初期付着菌であるS. gordonii、S. mitisや仲介菌F. nucleatumが形成したバイオフィルムの形成を阻害または除去することができれば、後期付着菌も定着することができないと考えられる。その結果として口腔内バイオフィルムによって引き起こされる口腔内フローラのバランス異常、口臭の予防(文献5、文献6.参照)、口腔内の不衛生化、歯周病の予防(文献7.参照)、歯周病に起因する全身疾患(文献8.参照)を予防できると考えられる。
<初期付着菌や仲介菌の特性>
【0048】
初期付着菌であるグラム陽性菌S. gordonii、グラム陽性菌S. mitisなどや仲介菌であるグラム陰性菌F. nucleatumはバイオフィルムを形成し、さまざまな口腔内のトラブルを発生させることが知られている。例えば、S. gordoniiでは、口腔におけるバイオフィルム形成や、それに続く齲蝕、歯肉炎の発症に関与しているのみならず、感染性心内膜炎の原因菌として歯学・医学領域において注目されている(文献12. 高橋幸裕ら、口腔連鎖球菌のアドヘジン、日本細菌学雑誌、62(2), 283-293, 2013.参照)。
【0049】
S. gordoniiはP. gingivalisが歯垢の構成細菌となる際、接着因子として重要な働きを担っていると言われている。さらには、直接的な歯周組織の破壊および歯周組織中のマクロファージなど免疫細胞を刺激して、炎症性サイトカインなどのメディエーターを産生し、組織に傷害を与えていることや歯周炎関連細胞の病巣への定着、増殖に影響を及ぼすなどの間接的な機構により歯周炎に関与している可能性が示されている(文献13. 田近志保子ら、健康成人および歯周炎患者の口腔レンサ球菌の分布について、岩医大歯誌、21, 66-77, 1996. 参照)。S. mitisでは、菌体外に炎症性サイトカインの産生を誘導する物質を産生し、種々の炎症性疾患の起炎菌としての可能性が示唆されている。
【0050】
F. nucleatumでは口臭の原因である臭気物質であるメチルメルカプタン(CH3SH)の高生産菌として知られており口臭の主な原因を作りだしていること(文献5. 、文献14. 松井美樹ら,歯周炎を有さない若年者の口臭に対する歯肉の状態と歯垢および舌苔中細菌の関与. :岩医大歯誌, 38:93-106, 2014.参照)などが知られている。
<口臭>
【0051】
口臭の原因である臭気物質は、口腔に存在するタンパク質をもととするアミノ酸を基質として口腔内の細菌が産生する硫化水素(H2S)やメチルメルカプタン(CH3SH)である。不快臭がある呼気および口気には、揮発性硫黄化合物(VSC:Volatile Sulfur Compounds)の内、メチルメルカプタンが常に認知閾値に対して高濃度で存在し、かつ官能評価値(不快度)の高低とよく対応したことから、これが不快臭の主要な成分であることが確認されている。メチルメルカプタンは、歯周病関連菌であるPorphyromonasやFusobacteriumに高い生産能力が認められている(文献5. 、文献6. 参照)。
【0052】
F. nucleatumは、線状の長いグラム陰性嫌気性菌で、口腔内バイオフィルムなどでは大きな体積比率で存在している。ヒトの口腔内に常在し、菌の両端が尖って中心部がやや太いことから紡錘菌とも言われる。F. nucleatumは、歯周病原性菌の1つで、口腔内バイオフィルム形成に中心的役割を担っていて、他の細菌と共凝集することにより口腔内バイオフィルムを形成する。(文献9.、文献10.、文献11.参照)。また、糖分解能がなく悪臭(口臭)の原因となる酪酸を産生する。(文献5. 参照)。
<口腔内フローラのバランス異常>
【0053】
健康な口腔内では、バイオフィルムの約75%が常在菌(グラム陽性好気性球桿菌)であり、歯周病の病原性はない。一方、成人型歯周炎の歯周ポケットでは、Fusobacterium、Porphyromonas、Treponema、Prevotella、Aggregatibacterなどのグラム陰性菌がバイオフィルム内で増殖し、グラム陰性嫌気性球桿菌が口腔内の約75%を占めるようになり、口腔内フローラのバランスが崩れる。
<カンジダ症>
【0054】
口の中にカビの仲間の細菌が増え、痛みや違和感、味覚障害などを起こす病気である。特に、免疫の低下している高齢者に起こりやすい。さらに、咽頭・食道のカンジダ症も併発するおそれもある。
<誤嚥性肺炎>
【0055】
口腔内細菌が誤って気管から肺に入り炎症が広がると、肺炎を起こすことがある。食事の際に頻繁にむせたり、以前より時間がかかったり、呼吸が苦しかったりなどの症状から始まる。特に、飲み込む力が衰えている高齢者や、脳血管疾患や筋肉の疾患などで飲み込む力が上手く機能しない患者などは注意が必要である。重度の場合は命に関わることもある。
<感染性心内膜症>
【0056】
口腔内細菌が血液に乗って全身に周り、心臓に感染を起こして心疾患を引き起こす場合がある。また、重篤化により、命に関わることもある。
<その他の口腔内フローラが関与する疾病>
【0057】
例えば、敗血症、心筋炎、動脈硬化、糖尿病、皮膚炎、腎炎、リウマチ性関節炎、骨粗鬆症など口腔内フローラが関与している。
<口腔内の不衛生化>
【0058】
F. nucleatumは線状の長いグラム陰性嫌気性菌である。口腔内バイオフィルムの中では、体積的には大きな比率を占める。ヒトの口腔内に常在し、紡錘形を呈している。この菌は、口腔内バイオフィルムの形成の中心菌で、その他の菌とともに凝集することで、口腔内バイオフィルムを形成する。
<歯周病>
【0059】
歯周病菌であるグラム陰性偏性嫌気性細菌P. gingivalisは歯周炎の発症・進行において重要視されている病原性細菌であり、菌体表面および菌体外に強力なプロテアーゼを産生することで、歯周病に関連する種々の状態を生み出すと考えられている(文献7. 参照)。また、P. gingivalisは口腔内バイオフィルムへ付着することが知られており、歯周病を予防するためには、P. gingivalisが付着する口腔内バイオフィルムのコントロールも重要であると考えられる。
【0060】
P. gingivalisは内毒素(LPS)、プロテアーゼ、線毛、酪酸などの病原因子を生産し歯肉や歯槽骨の吸収や組織間隙に入りこみ歯周組織破壊に関与し、心血管系疾患などの歯周病に誘発される全身疾患との関連が深いと考えられている。その他にも、歯周病の発症・進行において重要視されている病原性細菌が存在しており、侵襲性歯周炎への密接な関連があるといわれているA. actinomycetemcomitansは、菌体外に小胞をもち、内毒素やロイコトキシンなどの毒素が存在し、細胞のアポトーシスを誘導し、P. intermediは侵襲性歯周炎に関与している思春期性歯肉炎や妊娠性歯肉炎に関与していると指摘されている。
<P. gingivalisなどが炎症を起こすメカニズム>
【0061】
バイオフィルムを形成している菌が生産するLPSやジンジパインやロイコトキシンなどの毒素が歯周組織局所の炎症反応を引き起こしている。さらにIL-1β、TNF-αなどの各種サイトカインや酵素が歯周組織を破壊する。慢性的に歯周組織を刺激し続けられると、宿主細胞は歯周組織において持続的な、または過剰な免疫反応を起こし歯周組織の破壊が繰り返される。
<歯周病の先に>
【0062】
近年では、誤嚥性肺炎や糖尿病、動脈硬化、妊娠合併症などの全身疾患との関連にも注目されている。これは、歯周病が、口腔内局所の炎症にとどまらず、菌そのものや免疫反応により産生される炎症性サイトカイン(IL-1β, 6, 8, TNF-α など)をはじめとする炎症因子が血流を介し全身に影響を及ぼすことで、しばしば全身状態の悪化を引き起こす。そのため、歯周病原菌やその免疫反応を介した全身への炎症の波及は、歯周病と全身疾患との関わりを関連づけるものとして注目されてきている(文献8. 参照)。
<口腔内バイオフィルム形成について補足>
【0063】
歯面には、タンパク質や有機物が結合したぺリクルと言われるものが形成される。次に、ペリクルのタンパク質のレセプターに付着してコロニーをつくり始めるのが初期定着菌群(Early Colonizers)と呼ばれる特定の口腔の常在菌である。具体的には、S. mitis、S. gordoniiなどが口腔常在菌の中の初期定着菌群として定着する。初期定着菌群によるコロニーが歯面に形成されるとペリクルは隠れて見えなくなってくる。次に、初期定着菌群の細菌表面の表層タンパク質をレセプターとして、それに対するアドヘジンを持つ細菌群が増殖する。すると次から次にレセプターとアドヘジンの関係で理路整然と細菌が定着・増殖していく。このようにして、後期定着菌群によるコロニーが出来上がる。この時、口腔では紡錘菌F. nucleatumがこの中心的な役割果たしている。
【0064】
これらの後期定着菌群は初期定着菌群の代謝産物を利用してさらに代謝を続けると同時に、自分自身の代謝産物を産生し、この代謝産物を他の細菌が順に利用する関係となる。A. actinomycetemcomitans、P. intermedia、P. gingivalis、T. denticolaは代表的な歯周病菌であり、歯周病菌は歯を磨かないと増殖して出現する細菌であることがわかる。
<実施形態1 試験>
<試験方法>
<微生物の前培養>
【0065】
ブレインハートインフュージョンブイヨン培地(日水製薬株式会社)にてS. gordonii(初期付着菌)、S. mitis(初期付着菌)、F. nucleatum subsp. nucleatum (JCM No. 8532)をそれぞれ6から7日間、37℃、嫌気条件下(アネロパック・ケンキ、三菱ガス化学株式会社)で前培養した。
<バイオフィルム形成阻害試験>
【0066】
図2は、バイオフィルム形成阻害試験の方法を示す概念図である。まず、クリーンベンチ内で96ウェルプレートをアカシア樹皮抽出物サンプルで5分間浸漬した後、アカシア樹皮抽出物サンプルを除去し60分風乾した。前培養したS. gordonii(初期付着菌)、S. mitis(初期付着菌)、F. nucleatum subsp. nucleatum (JCM No. 8532)を培地に対して1%ずつ植菌した菌液をアカシア樹皮抽出物サンプルでコーティングした96ウェルプレートへ100 μLずつ添加した。その後、2日間、37℃、嫌気条件下で静置培養し、バイオフィルムを形成させた。2日後、上清を除去し、バイオフィルムをピペッティングにより剥離し、遊離した菌の濁度を570nmの波長にて測定した。ポジティブコントロールとして、ベルベリン、塩化セチルピリジニウム(CPC)および洗口液GUMナイトケア(ノンアルコールタイプ)(サンスター株式会社)を使用した。
<バイオフィルム除去試験>
【0067】
図3は、バイオフィルム除去試験の方法を示す概念図である。まず、前培養したS. gordoni(初期付着菌)、S. mitis(初期付着菌)、F. nucleatum subsp. nucleatum (JCM No. 8532)を培地に対して1%ずつ植菌した菌液を96ウェルプレートへ100 μLずつ添加した。その後、6日間、37℃、嫌気条件下で静置培養し、バイオフィルムを形成させた。上清を除去後、96ウェルプレートに形成したバイオフィルムをアカシア樹皮抽出物サンプルに3分間浸漬した。遊離した菌の濁度を570nmの波長にて測定した。ポジティブコントロールとして、ベルベリン、塩化セチルピリジニウム(CPC)および洗口液GUMナイトケア(ノンアルコールタイプ)(サンスター株式会社)を使用した。
<試験結果 バイオフィルム形成阻害>
【0068】
図4は、バイオフィルム形成阻害試験の結果を示す図であり、アカシア樹皮抽出物サンプルを前処理した96ウェルプレートに形成されたバイオフィルムの割合を示したものである。図示するように、コントロールと比較して、アカシア樹皮抽出物サンプルで前処理した試験区では、バイオフィルムの形成率低下が確認できた。特に、アカシア樹皮抽出物サンプル3mg/mLの濃度処理区では、コントロール(水)と比較して有意にバイオフィルムの形成を阻害することが認められた。
<試験結果 バイオフィルム除去>
【0069】
図5は、バイオフィルム除去試験の結果を示す図であり、96ウェルプレートに形成されたバイオフィルムがアカシア樹皮抽出物サンプルの処理により遊離した菌の濁度を示したものである。その結果、本検討で試験した全てのアカシア樹皮抽出物サンプル処理区で、コントロール(水)と比較して有意にバイオフィルムから菌が遊離していることが確認できた。また、ポジティブコントロールと比較した場合でも、アカシア樹皮抽出物サンプルのバイオフィルム除去能は高いことが示唆された。
<飲食料>
【0070】
本実施形態の口腔内フローラ改善・維持剤の形態は、様々であり、固形、粒形、液体、ゲル状、粉体、ペーストなどの形態で提供することができる。さらに既知の方法を用いることにより、当該口腔内フローラ改善・維持剤を含有する飲食料、口腔洗浄剤、歯磨剤などとして提供することが可能である。
【0071】
例えば、飲食料とする場合には、茶、清涼飲料水、乳酸菌飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、コーヒー、ココア、酒などの各種飲料や、缶詰、冷凍食品、レトルト食品、即席スープ(味噌汁)、たれ・ドレッシング・ソースなどの調味液、麺、乳製品、ジャム、飴、キャラメル、ガム、チョコレート、ビスケット、ケーキ、和菓子、アイスクリーム、シリアル、魚肉加工品などの種々の飲食料に口腔内フローラ改善・維持剤を適宜含有させることで、口腔内フローラ改善・維持用の飲食料として提供することができる。
<口腔洗浄剤>
【0072】
また、口腔洗浄剤(洗口剤、口内洗浄剤、デンタルリンス、マウスウォッシュなどとも呼ばれる)とする場合には、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジウム、塩化ベンゼトニウム、ポピドンヨード、エッセンシャルオイル、トリクロサン、エタノール及び適量の水とともに口腔内フローラ改善・維持剤を適宜含有させることで、口腔内フローラ改善・維持用の口腔洗浄剤として提供することができる。
<歯磨剤>
【0073】
また、歯磨剤とする場合には、炭酸カルシウム、水酸アパタイト、リン酸水素カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ラウロイルサルコシンソーダ、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、石ケン素地、アルキルグリコシド、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、フッ化ナトリウム、デキストラナーゼ、クロルヘキシジン、塩化ナトリウムなどとともに口腔内フローラ改善・維持剤を適宜含有させることで、口腔内フローラ改善・維持用の歯磨剤として提供することができる。