(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】自動車ボディーのX線CT撮影方法及びX線CT撮影装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20240305BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20240305BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/18
(21)【出願番号】P 2020057517
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】393011038
【氏名又は名称】リョーエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌司
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-061583(JP,A)
【文献】特開2004-354383(JP,A)
【文献】特開2012-035983(JP,A)
【文献】特開2009-047441(JP,A)
【文献】特開2012-108081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0162680(US,A1)
【文献】RoboCT - Application for in-situ Inspection of Join Technologies of large scale Objects,International Symposium on Digital Industrial Radiology and Computed Tomography - DIR2019,2019年07月,https://www.ndt.net/article/dir2019/papers/Tu.1.A.1.pdf,検索日 2024.02.14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-G01N23/2276
G01B15/00-G01B15/08
G01M17/00-G01M17/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディーの撮影部位の内側にディテクターを差し込んで
自動車ボディーに対して動かないように支持し、自動車ボディーの撮影部位の外側に配置されたX線源を回転させながら撮影部位に向けてX線を照射し、得られた撮影部位の画像を再構成して撮影部位の三次元画像を取得することを特徴とする自動車ボディーのX線CT撮影方法。
【請求項2】
前記X線源を、ディテクターの画面と平行な面内で回転させることを特徴とする請求項1に記載の自動車ボディーのX線CT撮影方法。
【請求項3】
前記X線源を回転させる角度を180度以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車ボディーのX線CT撮影方法。
【請求項4】
自動車ボディーの撮影部位の内側にディテクターを差し込んで
自動車ボディーに対して動かないように支持するディテクター支持手段と、このディテクター支持手段に支持されたディテクターと、自動車ボディーの撮影部位の外側においてX線源を支持して回転させるX線源支持手段と、このX線源支持手段に支持され回転しながら撮影部位に向けてX線を照射するX線源とを備えたことを特徴とする自動車ボディーのX線CT撮影装置。
【請求項5】
前記ディテクター支持手段と前記X線源支持手段が何れもロボットアームであることを特徴とする請求項4に記載の自動車ボディーのX線CT撮影装置。
【請求項6】
前記X線源支持手段が6軸ロボットの第6軸の回転を利用して回転されるものであることを特徴とする請求項5に記載の自動車ボディーのX線CT撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディーのX線CT撮影方法及びX線CT撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディーには多くの溶接部や接合部が存在し、その内部における板同士の密着具合、リベットのかしめ状況、接着剤の広がり状況、スポット溶接の溶接状況などを三次元画像として確認できる技術が求められている。溶接部や接合部の内部状況は、外観検査では把握することができない。そこでX線CT技術を利用して内部の三次元画像を取得することが考えられる。
【0003】
通常のX線CT撮影は、特許文献1、2に示すように、X線源とディテクターを対向させて固定し、その間に置いたワークを360度回転させる方法で行われる。しかしワークが自動車ボディーのように大きくなると、360度回転させることが不可能である。そこでワークを固定したまま、各部位をX線CT撮影する技術が求められる。
【0004】
なお特許文献3には、ワークを固定したまま、X線源とディテクターのセットを回転させる装置が記載されている。しかしこの方法で自動車ボディーの溶接部や接合部などの局部的な検査を行うためには、X線源またはディテクターをボディ内部の狭い空間内で回転させる必要が生じる。このため、このような撮影方法も採用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-163254号公報
【文献】特開2008-224692号公報
【文献】特開2006-023187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、自動車ボディーの溶接部や接合部などの局部的部分の内部の状況を、三次元画像として確認することができる自動車ボディーのX線CT撮影方法及びX線CT撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の自動車ボディーのX線CT撮影方法は、自動車ボディーの撮影部位の内側にディテクターを差し込んで自動車ボディーに対して動かないように支持し、自動車ボディーの撮影部位の外側に配置されたX線源を回転させながら撮影部位に向けてX線を照射し、得られた撮影部位の画像を再構成して撮影部位の三次元画像を取得することを特徴とするものである。
【0008】
なお、前記X線源を、ディテクターの画面と平行な面内で回転させることが好ましく、前記X線源を回転させる角度を180度以上とすることが好ましい。
【0009】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の自動車ボディーのX線CT撮影装置は、自動車ボディーの撮影部位の内側にディテクターを差し込んで自動車ボディーに対して動かないように支持するディテクター支持手段と、このディテクター支持手段に支持されたディテクターと、自動車ボディーの撮影部位の外側においてX線源を支持して回転させるX線源支持手段と、このX線源支持手段に支持され回転しながら撮影部位に向けてX線を照射するX線源とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記ディテクター支持手段と前記X線源支持手段が何れもロボットアームであることが好ましい。また、前記X線源支持手段がロボットの第6軸の回転を利用して回転されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動車ボディーの撮影部位の内側にディテクターを差し込み固定し、自動車ボディーの撮影部位の外側でX線源を回転させるため、ディテクターを差し込める空間さえあれば、自動車ボディーの溶接部や接合部などの局部的部分の内部の状況を、三次元画像として確認することができる。
【0012】
また、ロボットアームを用いてディテクターを支持するとともに、ロボットアームを用いてX線源を回転させる構成とすれば、精度と実用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】ディテクターで撮影された画像の説明図である。
【
図3】X線CT撮影方法の実施形態の説明図である。
【
図4】X線源の回転角度が制限される状態の説明図である。
【
図5】ディテクターで撮影された画像と再構成された画像の説明図である。
【
図6】X線CT撮影装置の実施形態を示す説明図である。
【
図7】X線源とディテクターの位置関係の説明図である。
【
図9】マスター画像と撮影画像の画面合わせの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明のX線CT撮影方法の原理説明図である。10は自動車ボディーであり、この図では鋼板11と樹脂部材12とが接着剤で接着された接合部13が、撮影部位として示されている。14は撮影部位の内側に差し込まれたディテクターであり、後述するように例えばロボットアームにより支持され、自動車ボディー10に対して動かないように固定される。
【0015】
15は自動車ボディー10の撮影部位の外側に配置されたX線源である。X線源15は図示のように回転しながら撮影部位である接合部13に向けてX線を照射し、X線CT撮影を行う。X線源15の回転中心軸16はディテクター14の画面17に対して垂直とすることが好ましく、換言すれば、X線源15をディテクター14の画面17と平行な面内で回転させることが好ましい。回転中心軸16は撮影部位である接合部13と一致させることが好ましい。
【0016】
このようにしてX線CT撮影を行うと、
図2に示すように鋼板11と樹脂部材12に挟まれた接合部13の360度からの画像が、ディテクター14の撮影中心Oを中心として形状に撮影される。このように同一対象物を様々な角度から撮影したX線CT画像からその対象物の三次元画像を再構成する技術は公知であり、市販のプログラムを用いて実施可能である。
【0017】
接合部13を撮影した場合、ターゲットとする接合中心を中心に円形状の撮影範囲の画像を入手することができる。この接合部13の接合部内容は、後述するように、接着剤の場合や、スポット溶接、またはリベット接合などの接合方法である。この部分を検査することができる。この接合部13を中心にした撮像画像から、OKかNGかを判断することになる。判断方法は、正常な撮像画像と今回検査しよういとしている製品部位の撮像画像を比較検査する方法が多くとられる。接着剤のケースは、後述する
図9を事例として示す。
【0018】
図3に示すように、ディテクター14は自動車ボディー10の内部の狭い空間に差し込まざるを得ないが、X線源15は自動車ボディー10の外側の空間内で回転させればよいので、360度回転させることができる場合が多い。しかし
図4に示すように撮影部位が自動車ボディー10の屈曲部などに接近しており、自動車ボディー10との干渉によってX線源15を360度回転させることができない場合がある。このような場合の撮影画像は
図5に示されるようになるが、X線源15を回転させる角度を180度以上とすることができれば、対象物の三次元画像を再構成することは可能である。しかし180度未満の場合には再構成された三次元画像が不鮮明になるため、少なくとも180度は回転させることが好ましい。
【0019】
図6は本発明のX線CT撮影装置の実施形態を示す説明図である。X線CT撮影装置は上記したディテクター14とX線源15の他に、自動車ボディー10の撮影部位の内側にディテクター14を差し込んで支持するディテクター支持手段20と、自動車ボディー10の撮影部位の外側においてX線源15を支持して回転させるX線源支持手段21とを備えている。これらはそれぞれ個別に設計製作することもできるが、実用上は図示のようにロボットアームを用いることが好ましい。
【0020】
ディテクター支持手段20として用いられる第1のロボットのロボットアームはディテクター14を撮影部位の内側で支持し、X線源支持手段21として用いられる第2のロボットのロボットアームは撮影部位の外側でX線源15を回転させる。このとき
図6、
図7に示すようにディテクター14の中心と撮影部位の中心とX線源15の回転中心軸を一致させることが好ましい。
【0021】
第1のロボットと第2のロボットはそれぞれティーチング座標を備えており、
図6に示す位置関係を取るようにティーチングしておく。ティーチング座標はロボットのコントローラから取り出すことができ、X線源15の回転半径rはX線源15の取り付けオフセット量から求められる。ティーチング座標からA寸法(ディテクター14の中心から撮影部位の中心までの距離)と、B寸法(撮影部位の中心からX線源15の回転中心までの距離)も分かるので、
図7に示すようにディテクター14の中心から投影画像までのズレ量Rを求めることができる。これらの値はX線CT画像からその対象物の三次元画像を再構成する際に必要なパラメータとして、再構成プログラムに入力される。
【0022】
現在産業界において用いられているロボットの多くは6軸ロボットであり、その第6軸がディテクター支持手段20とX線源支持手段21として用いられる。各ロボットは
図6に示す位置関係を取るようにティーチングされているが、その停止精度は高くない。ディテクター支持手段20として用いられる第1のロボットのロボットアームはディテクター14を支持するだけであるから高度の位置精度は不要であるが、X線源支持手段21として用いられる第2のロボットのロボットアームの位置精度は重要である。
【0023】
しかし第6軸の回転は1軸のみの回転であるから、その回転精度は十分に高い。このため仮に第6軸の位置精度が十分でなくても、第6軸によるX線源15の回転自体は高精度で行わせることができ、本発明を実施するうえで大きな支障となることはない。
【0024】
なお
図8のようにX線源15の中心軸をX線源15の回転中心軸に対して傾斜させることも可能である。この場合には傾斜角度を三次元画像を再構成するプログラムに入力することとなる。
【0025】
次に
図9、
図10により画像の位置合わせと良否判断について説明する。ここではある接合部における接着剤の形状をX線CT撮影により検査する例を示している。
図9の左側に描かれたマスター画像がその接着部における正規の接着剤の形状を示している。これに対して
図9の右側に描かれた撮影画像は、接着剤の形状と角度がマスター画像からずれている。
図9の下段に示すようにこれらの画像を重ね合わせたうえ、座標の回転と拡大縮小を行い、
図10の画像とする。
【0026】
図10に破線で示すようにマスター画像の輪郭線の両側に接着剤のMAX範囲とMIN範囲を設定し、撮影された実際の画像がこれらの範囲の中に納まっておれば良品である。しかし図示のように接着剤の一部が接着剤のMAX範囲よりもはみ出していたり、逆にMIN範囲に達していない場合には不良品として自動判定させることができる。
【0027】
このようにロボットを用いてX線CT撮影を行えば、多くの自動車ボディ10の溶接部や接合部などの自動検査を行うことが可能となる。これらは従来は検査を行うことが困難であった部位であるから、本発明の実用的価値は高いものである。
【0028】
上記した実施形態では撮影部位は接合部であったが、
図11に示すようにリベット接合の部位や溶接部位にも適用できることはいうまでもない。リベット接合部にも
図11の右側に示すように内部クラックが発生することがあり、本発明によればこのような内部欠陥も三次元画像として確認することができる。
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば従来は検査が困難であった自動車ボディーの溶接部や接合部などの局部的部分の内部の状況を、三次元画像として正確に確認することができ、自動車ボディーの品質向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 自動車ボディー
11 鋼板
12 樹脂部材
13 接合部
14 ディテクター
15 X線源
16 回転中心軸
17 ディテクターの画面
20 ディテクター支持手段
21 X線源支持手段