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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ねじ締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/12 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
F16B39/12 B
F16B39/12 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020080212
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021173393
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】510202167
【氏名又は名称】Next Innovation合同会社
(72)【発明者】
【氏名】道脇 裕
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-170582(JP,A)
【文献】特開2013-185704(JP,A)
【文献】特開2011-058632(JP,A)
【文献】実公昭37-009914(JP,Y1)
【文献】国際公開第2012/102401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじ体と雌ねじ体を有する締結体の締結構造であって、
上記雄ねじ体を囲繞し且つ上記雌ねじ体に内挿される相対回転防止部材と、
上記雄ねじ体に螺合し、上記雌ねじ体と上記雄ねじ体との軸方向に対する相対変位を防止する相対変位防止部材と、
上記相対回転防止部材と上記相対変位防止部材との間に係合機構を有し、
上記雄ねじ体は、雄ねじ部と、該雄ねじ部を一部省略して成る、軸心を挟んで相対する一対の雄ねじ側係合部とを有し、
上記相対回転防止部材は、上記雄ねじ側係合部と面接触して上記雄ねじ部に干渉し得る係合面と、上記雌ねじ体の係合孔に嵌合し得る外周面とを有し、上記雄ねじ体を相対回転不可の状態で挿入させ、
上記外周面が上記係合孔に嵌合することで上記係合面が上記雄ねじ部を径方向内向きに押圧することを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記相対回転防止部材は軸方向視で前記雄ねじ体の外形に略相当する非円形状の挿通孔と、を有することを特徴とする請求項1記載の締結構造。
【請求項3】
前記外周面は、凹凸を周方向に配列していることを特徴とする請求項1又は2記載の締結構造。
【請求項4】
前記外周面は、前記雌ねじ体に対向する一端に向けて縮径するテーパ形状を有し、前記係合孔のテーパ状の内周面に密接することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の締結構造。
【請求項5】
前記外周面は、周方向に一部が途切れた箇所を有し且つ径方向に弾性変形可能に構成され、前記係合孔の内周面によって径方向内向きに押圧され、囲繞している前記雄ねじ体の周面に密接することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の締結構造。
【請求項6】
前記係合機構は、前記相対回転防止部材の端面の周方向に配列された複数の凹凸と、前記相対変位防止部材の端面の周方向に配列された複数の凹凸とによって成ることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の締結構造。
【請求項7】
前記相対回転防止部材の端面は、軸方向外側に向って縮径又は拡径する略環状の第一テーパ面であり、
前記相対変位防止部材の端面は、軸方向外側に向って拡径又は縮径する略環状の第二テーパ面であり、
上記第一テーパ面と上記第二テーパ面とが、当接して周方向に係合することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のねじ締結構造。
【請求項8】
前記雄ねじ体は、適宜のリード角及び/又はリード方向に設定される第一螺旋条と、該第一螺旋条と異なるリード角及び/又はリード方向に設定される第二螺旋条とを有し、
前記雌ねじ体は、前記第一螺旋条に螺合し得る第一螺旋溝を有し、
前記相対変位防止部材は、前記第二螺旋条に螺合し得る第二螺旋溝を有することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄ねじ体と雌ねじ体とによるねじ締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、締結用のねじは、丸棒の外周面に蔓巻線状の螺旋溝を形成して成る雄ねじ体と、筒状材の円筒内周面に蔓巻線状の螺旋溝を形成して成る雌ねじ体との組み合わせから構成され、使用時には、被締結材に貫穿されたねじ穴に雄ねじ体を挿通し、その後、この雄ねじ体に雌ねじ体を螺合して、予め雄ねじ体が被挿された被締結材を雌ねじ体で締め付けることによって締結が成される。このような締結用のねじを簡便に使用出来るように工夫されたものには、雄ねじ体の一端に六角柱状の頭部を形成して成る所謂ボルトと、このボルトに螺合される外周面が六角形柱状に形成される所謂ナットとの組み合わせから成るものがある。
ボルト/ナット等の締結用をはじめとする従来のねじの用途においては、その殆どに右ねじが使われ、左ねじは、両端に同軸上で相異なる回転向きの雌ねじが形成されたターンバックル等の特殊用途に止まる。
また、ボルト/ナットの組み合わせから成るねじには、ボルトに螺合されたナットが弛まないことが要求される用途がある。このような用途に対応するべく工夫されたねじとしては、弛み止めナットと呼ばれるものがある。これは、ナットに適宜の工夫を施すことで、ボルトに螺合されたナットが弛み難くなるように構成されたものである。
従来の弛み止めナットは、大別すると、一つのナットで弛み止め効果がもたらされるように構成された所謂シングル・ナット方式のものと、二つのナットの組み合わせによって弛み止め効果がもたらされる所謂ダブル・ナット方式のものとがある。
一般的な従来のシングル・ナット方式の弛み止めナットは、特許文献1に開示されているように、座金様の役割を果たす機構がナットに組み込まれて構成され、ボルトに螺合する際に、ナットの一端側に固着された座金様の板片がボルトの螺旋溝とナットとの間に付勢力を発揮することによって、ナットの弛みが抑制されるように構成されたものである。
一般的な従来のダブル・ナット方式の弛み止めナットは、特許文献2に開示されているように、縮径可能に構成された縮径端を有する第一のナットと、このナットの縮径端の外周に螺合して縮径端を縮径させる第二のナットと、から構成され、ボルトに対して進行方向後ろ向きに縮径端を向けて先に螺号された第一のナットに、第二のナットが螺合され、第一のナットの縮径端が縮径してその内周面がボルトの螺旋溝に強固に圧接することによって、ナットの弛みが抑制されるように構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3946752号公報
【文献】登録実用新案第3018706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、従来の弛み止めナットにおいては、シングル・ナット方式の場合には、一つのナットにして多少の弛み抑制効果が得られるものの、単に、ボルト外周面の一つの螺旋溝の中で、座金様の板片で付勢力を生じさせてボルトとナットとの噛み合わせをきつくしているだけであり、本質的にナットの弛みを防止するものではなく、ダブル・ナット方式の場合では、第一のナットの縮径端を第二のナットで縮径させ、結果的にはシングルナット方式と同様で、ボルト外周面の一つの螺旋溝の中で、縮径端の凹凸等を設けた内周面を圧接させ、ボルトとナットとの噛み合わせをきつくし、ボルト外周面とナット内周面との摩擦力によって弛みを抑制しているだけであり、いずれの場合にも振動等で徐々に弛んでしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、簡易な構造によって、雄ねじ体と雌ねじ体との緩み止めを行う手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のねじ締結構造は、雄ねじ体と雌ねじ体を有する締結体の締結構造であって、上記雄ねじ体を囲繞し且つ上記雌ねじ体に内挿される相対回転防止部材を有することを特徴とする。
【0007】
上記ねじ締結構造に関連して、前記相対回転防止部材は、外周に前記雌ねじ体の係合孔に係合する係合面と、軸方向視で前記雄ねじ体の外形に略相当する非円形状の挿通孔と、を有し、上記挿通孔に前記雄ねじ体が相対回転不可の状態で嵌り得、上記係合面が上記係合孔の内周に係合することを特徴とする。
【0008】
上記ねじ締結構造に関連して、前記係合面は、凹凸を周方向に配列していることを特徴とする。
【0009】
上記ねじ締結構造に関連して、前記係合面は、前記雌ねじ体に対向する一端に向けて縮径するテーパ形状を有し、前記係合孔のテーパ状の内周面に密接することを特徴とする。
【0010】
上記ねじ締結構造に関連して、前記係合面は、周方向に一部が途切れた箇所を有し且つ径方向に弾性変形可能に構成され、前記係合孔の内周面によって径方向内向きに押圧され、囲繞している前記雄ねじ体の周面に密接することを特徴とする。
【0011】
上記ねじ締結構造に関連して、前記雄ねじ体に螺合し、前記雌ねじ体と前記雄ねじ体との軸方向に対する相対変位を防止する相対変位防止部材を設けることを特徴とする。
【0012】
上記ねじ締結構造に関連して、前記相対回転防止部材と前記相対変位防止部材との間に係合機構を有することを特徴とする。
【0013】
上記ねじ締結構造に関連して、前記係合機構は、前記相対回転防止部材の端面の周方向に配列された複数の凹凸と、前記相対変位防止部材の端面の周方向に配列された複数の凹凸とによって成ることを特徴とする。
【0014】
上記ねじ締結構造に関連して、前記相対回転防止部材の端面は、軸方向外側に向って縮径又は拡径する略環状の第一テーパ面であり、前記相対変位防止部材の端面は、軸方向外側に向って拡径又は縮径する略環状の第二テーパ面であり、上記第一テーパ面と上記第二テーパ面とが、当接して周方向に係合することを特徴とする。
【0015】
上記ねじ締結構造に関連して、前記雄ねじ体は、適宜のリード角及び/又はリード方向に設定される第一螺旋条と、該第一螺旋条と異なるリード角及び/又はリード方向に設定される第二螺旋条とを有し、前記雌ねじ体は、前記第一螺旋条に螺合し得る第一螺旋溝を有し、前記相対変位防止部材は、前記第二螺旋条に螺合し得る第二螺旋溝を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構造によって、雄ねじ体と雌ねじ体との確実な緩み止めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一の実施形態に係るねじ締結構造を示す正面部分断面図である。
図2】第一の実施形態に係るねじ締結構造の雄ねじ体を示す斜視図である。
図3】第一の実施形態に係るねじ締結構造の雌ねじ体を示す図である。
図4】第一の実施形態に係るねじ締結構造の相対回転防止部材を示す図である。
図5】第一の実施形態に係るねじ締結構造の相対変位防止部材を示す図である。
図6】相対変位防止部材の凹凸部を示す平面図である。
図7】第一の実施形態に係るねじ締結構造による締結手順を示す図である。
図8】ねじ締結構造に用いられる(a)雄ねじ部の正面図及び底面図、(b)相対回転防止部材の平面図である。
図9】第二の実施形態に係るねじ締結構造の雄ねじ体を示す図である。
図10】第二の実施形態に係る雄ねじ部を示す平面図である。
図11】第二の実施形態に係る雄ねじ部を示す側面図である。
図12】相対回転防止部材を示す図である。
図13】第二の実施形態の相対変位防止部材を示す断面図である。
図14】第二の実施形態に係るねじ締結構造による締結手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のねじ締結構造の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は第一の実施形態に係るねじ締結構造1を示す側面部分断面図である。ねじ締結構造1は、雄ねじ体10と、雌ねじ体20と、相対回転防止部材30と、相対変位防止部材40とを具え、被締結部材100、110を締結する。
【0019】
雄ねじ体10は、図2に示すように頭部12と軸部14を有して構成される。頭部12は、軸部14と比較して径方向外側に拡張し且つ六角形状の外周面を有する。ここで軸部14は、基部側から先端部に向かって、右ねじの雄ねじ螺旋溝が形成された雄ねじ部15を具えるが、勿論、左ねじとしたものであってもよい。なお、軸部14は、雄ねじ部15よりも頭部12に円柱状の円筒部を有してもよいが、勿論、円筒部は必須の構成ではない。
【0020】
図3は、雌ねじ体20を示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。雌ねじ体20は、所謂ナットであって筒形状を有し、内周面に雄ねじ体15と螺合するための右ねじとしての雌ねじ部22を有する。また雌ねじ体20には、後述する相対回転防止部材30と対向する、軸方向における一端部に係合孔24が形成される。係合孔24を画定する内周面は、開口に向けて拡がるテーパ形状、即ち半径方向に傾斜する凹状のテーパ形状を成している。
【0021】
また、係合孔24の内周面には、軸方向に沿った平目ローレット様の複数の凹凸によって成る雌ねじ側凹凸26が形成される。なお、係合孔24は、雄ねじ体10との間に相対回転防止部材30が介在し得るように、雌ねじ部22の谷径よりも拡径した孔形状に設定される。また、ここでの係合孔24の内周面の構造としては、軸方向に沿った平目ローレット様としているが、必ずしもこのような形態でなければならないというものではなく、異形を成し、後述する相対回転防止部材30の本体部32との嵌合において相対回転が防止されるものであればよく、特に限定されるものではない。
【0022】
図4は相対回転防止部材30を示し、(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は平面図である。相対回転防止部材30は、略リング状を成す本体部32と、フランジ部34とを有する。なお、ここではフランジ部34を設けた構成としているが、これは必ずしも必要なものではない。また、相対回転防部材30は、雄ねじ体10を囲繞し且つ密接する内周面36を有する。
【0023】
本体部32は、係合孔24に係合し得る外形形状を有する。即ち、本体部32の外周面は、係合孔24の内周面に対応させた、フランジ部34側から先端側に向って徐々に縮径するテーパ形状を有する。本体部32の外周面には、軸方向に沿った平目ローレット様の複数の凹凸によって成る部材側凹凸38が形成される。
【0024】
また、本体部32の外周面には、軸方向に延在するスリット37が周方向に所定間隔毎に複数形成される。従って、スリット37が狭まる或いは拡がるように本体部32が径方向に弾性変形し得る。
【0025】
なお、本体部32の外周面及び/又は係合孔24の凹状の内周面は、テーパ形状に限らず、ストレート形状や湾曲形状、曲線状等に設定することが可能であり、好ましくは係合孔24或いは本体部32に対応した形状とする。また、部材側凹凸38は、軸方向に沿った平目ローレット状に限定されるものではなく、係合孔24に設けた回転防止のための手段に対して係合して相対回転を防止することが出来るものであれば適宜設定し得るものである。
【0026】
フランジ部34は、本体部32よりも外径が大きく設定され、軸方向における端面が凹状のテーパ形状を有する。即ち、軸方向外側に向って拡径する内周テーパ面を成す。またフランジ部34は、端面に周方向に沿って複数の凹凸34aを有する。この凹凸34aは、好ましくは鋸歯形状を成し、凹凸34aが延びる方向、即ち稜線が延びる方向が相対回転防止部材30の半径方向に沿うように設定されることが好ましい。結果、フランジ部34の端面の凹凸34aは、軸心から放射状に延びる。勿論、フランジ部34を設けない場合、凹凸34aは、本体部32の端面に設けてもよいことはいうまでもない。
【0027】
内周面36は、軸方向視で非正円形状であってここでは略楕円形状を成し、例えば短径部分が雄ねじ体10を押圧し得るように雄ねじ体10と軸心を揃えたときに一部が雄ねじ体10の外周面に干渉し得るように構成される。
【0028】
図5は、相対変位防止部材40を示し、(a)は斜視図、(b)は側面図である。相対変位防止部材40は、外形が略六角形状を成し、雄ねじ体10を囲繞し得る孔40aが貫通した筒形状で、内周面に雄ねじ部15が螺合するための右ねじの螺旋条部42を有する。ここで、相対変位防止部材40の外形を略六角形状としているが、これに限らず適宜の形状とし得る。特に角形状、楕円形状等の異形状とすれば締結性が向上して好い。
【0029】
また、相対変位防止部材40の軸方向における一端面は、フランジ部34の端面に面接触し得る凸状のテーパ形状(軸方向外側に向って縮径する外周テーパ面)を有するように構成することができるが、好ましくは凹凸34aが設けられる相対回転防止部材30の端面との嵌合性に鑑みて双方の相対回転を防止するように構成する。
【0030】
また、相対変位防止部材40の一端面には、周方向に沿って複数の凹凸部44(図6参照)が形成される。凹凸部44は、上記のフランジ部34の凹凸34aに係合し得る適宜の形状で起伏して構成されるが、ここでは鋸刃形状を成し且つ軸心から放射状に延びるように設定される。
【0031】
従って、相対回転防止部材30と相対変位防止部材40とが当接する箇所では、凹凸34aと凹凸部44とが、両部材30、40の相対回転を防止する相対回転防止機構として機能する。即ち、凹凸34及び凹凸部44は、相対変位防止部材40が締め付け方向の相対回転を許容し、緩み方向の相対回転を規制するように、鋸刃の向きが設定されている。
【0032】
次に、このねじ締結構造1の作用について説明する。図7(a)に示すように、雄ねじ体10に対して被締結部材100、110を挿入し、雌ねじ体20を締め付ける。次に図7(b)に示すように雄ねじ体10に対して相対回転防止部材30を挿入する。このとき相対回転防止部材30は、本体部32側を雌ねじ体20に対向させ、図7(c)に示すように本体部32が係合孔24に内挿される位置まで軸方向に移動させる。
【0033】
相対回転防止部材30は、雄ねじ体10と雌ねじ体20の各々に対して周方向に係合する。即ち、雌ねじ体20の係合孔24の雌ねじ側凹凸26と、相対回転防止部材30の外周面の部材側凹凸38とが周方向に係合する。
【0034】
また、本体部32は、内周面36が雄ねじ体10に密接する。即ち、本体部32は、内周面36が雄ねじ体10を径方向に付勢すると共に、係合孔24に嵌っていることで径方向の変形が規制されている。結果、本体部32は、軸部14を径方向内側に強固に押圧しながら密着し、相対回転防止部材30は、雄ねじ体10に対して軸方向及び周方向の相対変位が規制される。
【0035】
次に、図7(d)に示すように、相対変位防止部材40を雄ねじ体10に対して螺合させて締め付ける。このとき凹凸部44が、相対回転防止部材30の凹凸34aに周方向に係合する。両部材30、40による係合構造は、相対変位防止部材40の締め付け方向(相対回転防止部材30側に螺進する方向)の相対回転を許容し、且つ、緩み方向の相対回転を規制する。
【0036】
結果、雄ねじ体10、雌ねじ体20、相対回転防止部材30、相対変位防止部材40が略一体化される。即ち、相対回転防止部材30は、内周面が雄ねじ体10に密接し、雄ねじ体10に対する相対回転を規制し得るように係合する。また、相対回転防止部材30は、外周面が雌ねじ体20に対して周方向に係合して雌ねじ体20に対する相対回転が規制される。従って、雄ねじ体10、雌ねじ体20は、相対回転防止部材30を介することで相対回転不可となり、雌ねじ体20が機械的に緩まない構造となる。
【0037】
更に、相対変位防止部材40を締め付けることで、相対回転防止部材30は、雌ねじ体20と相対変位防止部材40との間で挟み込まれ、軸方向の変位が規制される。また、相対変位防止部材40は、相対回転防止部材30に対して周方向に係合して緩み方向の相対回転が規制されるので、相対回転防止部材30に対して略離間不可の状態となって、より雌ねじ体20が緩まない構造となる。
【0038】
以上、説明したように、雌ねじ体の係合孔に相対回転防止部材を内挿することで、雄ねじ体に対して雌ねじ体が緩まないねじ締結構造を得ることができる。また、相対変位防止部材を、相対回転防止部材を挟んで雌ねじ体に対向する箇所に配することで、相対回転防止部材の軸方向に沿った変位を規制して係合孔から抜脱するのを防止できる。
また、相対回転防止部材と相対変位防止部材とが周方向に係合しているので、相対変位防止部材が緩み方向に回転してしまうことを防止することができ、相対回転防止部材と相対変位防止部材とを略一体化させることができる。
【0039】
また、相対回転防止部材30は、本体部32にスリット37を形成したことで、外周面が周方向に断続的に分かれることで、各々が弾性変形及び/又は塑性変形し易くなる。これにより、本体部32は内側に撓むように弾性変形及び又は塑性変形し得、より強固に雄ねじ体10に密着させることができる。また本体部32が径方向内向きに弾性変形及び/又は塑性変形した場合、本体部32の内周面が雄ねじ体10の外周面に密接して径方向内向きに押圧する。結果、相対回転防止部材30を雄ねじ体10に対してより強固に固定させることができる。また、本体部32の外周面は、係合孔24の内周面に対応させたテーパ形状としたが、係合孔24のテーパ形状と異なるテーパ形状等とすることで、係合孔24の内周面から径方向内向きに押圧されるように形状を設定してもよい。具体的には、係合孔24のテーパ角よりも僅かに緩やかなテーパ角で且つ本体部32の軸方向先端の外径が、係合孔24の最奥部の内径を超えるような形状とすれば、本体部32が係合孔24内への進入に伴って徐々に係合孔24の内周面から押圧されるため、確実に径方向内向きに弾性変形して雄ねじ体10に強固に密着させることができる。
【0040】
なお、上述した実施形態において、相対回転防止部材の内周面が雄ねじ体10に密接することで、相対回転が規制されるものとして説明したが、雄ねじ部15のねじ山を一部省略して雄ねじ側係合部を形成することで、相対回転防止部材と雄ねじ体とを係合させてもよい。具体的には図8に示すように雄ねじ部15のねじ山の頂点に沿って形成される断面正円形の一部の円弧を、その弦に沿って省略(又はカット)することで雄ねじ側係合部16を形成する(図8(a)参照)。このような雄ねじ側係合部16を形成した場合、雄ねじ部15の軸方向視の形状が非正円形状となる。
【0041】
また、相対回転防止部材30は、図8(b)に示すように、内周形状を雄ねじ部15の軸方向視の形状に対応させた形状とし、内周面36の一部を係合面36aとする。係合面36aは、雄ねじ体10に対し相対回転防止部材30を挿入したときに、雄ねじ側係合部16に対向し、雄ねじ部15のねじ山に干渉するように軸心からの位置が設定される。
【0042】
このような雄ねじ側係合部16と係合面36aとを設ければ、雄ねじ体10と相対回転防止部材30との相対回転を確実に防止することができる。即ち、相対回転防止部材30は、係合面36aを雄ねじ側係合部16に対向させた向きで雄ねじ体10に挿入可能となり、且つ雄ねじ体10に対して相対回転させたとき、係合面36aが雄ねじ部15のねじ山に干渉し、確実に相対回転を防止することができる。
【0043】
以上の実施形態の説明においては、雌ねじ体20の係合孔24に対して相対回転防止部材30を嵌合させて、その軸方向における変位を防止する為に、独立した部材として相対変位防止部材40を用いたが、相対変位防止部材40は、雌ねじ体20の係合孔24の端部に一体的に形成することもできる。この場合、係合孔24の端部側には、相対回転防止部材30の嵌合状態を維持して抜け出さないように、半径方向内向きに突出した抜出防止部を設けて相対回転防止部材30に係合して軸方向に対する変位を防止する構成とするとよい。
【0044】
次に、第二の実施形態におけるねじ締結構造について説明する。第二の実施形態のねじ締結構造は、雄ねじ体50が右ねじの螺旋溝構造と左ねじの螺旋溝構造とを同一領域に重複形成して構成されるものであり、相対変位防止部材60が雌ねじ体と異なる、左ねじの螺旋条を有しているものである。以下の説明において、第一の実施形態のねじ締結構造1の構成と同一の構成には同一の符号を用い、その説明を省略する。
【0045】
図9は、第二の実施形態に係るねじ締結構造の雄ねじ体を示す図である。雄ねじ体50の軸部52には、雄ねじ部54が設けられる。雄ねじ部54は、右ねじである第一雄ねじ螺旋溝54a(図11参照)、及び左ねじである第二雄ねじ螺旋溝54b(図11参照)の二種類の雄ねじ螺旋溝を同一領域上に重複して形成している。従って、雄ねじ部54は、右ねじ及び左ねじの何れの雌ねじ体とも螺合することが可能となる。
【0046】
このような雄ねじ部54は、図10に示すように、軸心(ねじ軸)Cに垂直となる面方向において周方向に延びる略三日月状の条状を成すねじ山Gが、雄ねじ部54の直径方向における一方側(図の右側)及び他方側(図の左側)に交互に設けられる。即ち、このねじ山Gは、その稜線が軸に対して垂直に延びており、ねじ山Gの高さは、周方向中央が高くなり、周方向両端が次第に低くなるように変化する。従って、ねじ山Gの山高さが最も高い地点から、周方向に90°位相差を有する部分は、山高さが低くなる。ねじ山Gをこのように構成することで、右回りに旋回する仮想的な螺旋溝構造及び左回りに旋回する仮想的な螺旋溝構造の二種類の螺旋溝を、ねじ山Gの間に形成することが出来る。
【0047】
なお、二種類の雄ねじ螺旋構造が形成された雄ねじ部54の詳細については、本願の発明者に係る特許第4663813号公報を参照されたい。なお雄ねじ部54は、必ずしも右ねじと左ねじとを形成することに限定するものではなく、互いにリード方向が一致し、第一雄ねじ螺旋溝において設定されたリード角と、異なるリード角で第二雄ねじ螺旋溝を設定してもよい。
また、上記のように、雄ねじ部54は、ねじ山Gを直径方向における一方側と他方側に交互に設けているので、軸方向視で略楕円形状様の非正円形状を成している。
【0048】
また、相対回転防止部材30は、内周面36の軸方向視の形状を雄ねじ部54の形状に略相当する非正円形状とする。即ち、内周面36は、図12に示すように、雄ねじ部54のねじ山Gに干渉し得る係合面36aと、係合面36aに対して約90°位相を異ならせた位置に配され且つ雄ねじ部54のねじ山Gに対向する拡径面36bとによって構成される。即ち、係合面36aは、雄ねじ体50に対して雄ねじ部54の周方向に沿ったねじ山Gの間部分と対向し得る。
[0000]
また、フランジ部34の凹凸34aは、鋸刃形状を有している。鋸刃の向きは、図12(b)に示すように、相対変位防止部材60(図13参照)の雄ねじ体50に対する締め付け方向の回転を許容し、緩み方向の回転を規制し得る向きに設定される。
【0049】
図13は、第二の実施形態の相対変位防止部材60を示す断面図である。相対変位防止部材60は、内周面に雄ねじ部54の第二雄ねじ螺旋溝54bに螺合するための左ねじの螺旋条部62を有する。また相対変位防止部材60の軸方向における一端面は、第一の実施形態の相対変位防止部材40と同様にフランジ部34の端面に面接触し得る凸状のテーパ形状を有する。また、当該一端面には、周方向に沿って複数の凹凸部44が形成される。凹凸部44の鋸刃の向きは、凹凸34aに係合し得る向きに設定される。即ち、相対変位防止部材60が雄ねじ体50に対する締め付け方向の回転を許容し、緩み方向の回転を規制する向きに設定される。
【0050】
第二の実施形態のねじ締結構造による作用について説明する。図14(a)に示すように、雄ねじ体50に対して被締結部材100、110を挿入し、雌ねじ体20を締め付ける。このとき雌ねじ体20は、矢印Aで示す方向、即ち右ねじの螺旋に沿った締め付け方向に回転することで、軸部52の先端側から被締結部材100、110側に螺進する。
【0051】
次に、雄ねじ体50に対して相対回転防止部材30を挿入する。このとき、拡径面36bがねじ山Gに対向するように相対回転防止部材30と雄ねじ体50との位相を合わせる。そして、図14(b)の矢印で示す向き、即ち、軸方向に沿って雄ねじ体50の頭部12側に向けて相対回転防止部材30を変位させる。このとき、相対回転防止部材30は、図14(c)に示すように本体部32が係合孔24に内挿させる位置まで変位させてもよい。
【0052】
これにより、相対回転防止部材30は、雄ねじ体50及び雌ねじ体20に対して周方向に係合する。即ち、内周面36の係合面36b(図12参照)が、雄ねじ部52のねじ山Gに係止されるため、相対回転防止部材30と雄ねじ体50とは互いに相対回転不可となる。この状態において、相対回転防止部材30の部材側凹凸38と、雌ねじ体20の係合孔24の雌ねじ側凹凸26とが嵌合して周方向に係合し、相対回転不可の状態が作出される。
【0053】
次に、相対変位防止部材60を雄ねじ体50に螺合させ締め付ける。このとき、相対変位防止部材60は、図14(c)の矢印Bに示す方向、即ち左ねじの螺旋に沿って締め付け方向に回転することで、軸部52の先端側から被締結部材100、110側に螺進する。
【0054】
相対変位防止部材60は、左回転のトルクを付与して締め付けることで相対回転防止部材30に接近する。そして更にトルクを付与することで端面の凹凸部44が相対回転防止部材30の凹凸34aと周方向に係合する。両部材30、60による係合構造は、相対変位防止部材60の締結方向の相対回転を許容し、且つ、緩み方向の相対回転を規制する。結果、相対変位防止部材60は、相対回転防止部材30に対して緩み方向に相対回転できない状態となる。また、上述したように相対回転防止部材30は、雄ねじ体50に対して周方向に係止されているので、相対回転防止部材30と相対変位防止部材60が、雄ねじ体50に対して供回りできない。結果、相対変位防止部材60が機械的に緩まない構造となる。
【0055】
これにより、雄ねじ体50、雌ねじ体20、相対回転防止部材30、相対変位防止部材60が略一体化される。即ち、相対回転防止部材30は、内周面が雄ねじ体50に対して周方向に係止され、雄ねじ体50に対する相対回転が規制される。また、相対回転防止部材30は、外周面が雌ねじ体20に対して周方向に係止されて雌ねじ体20に対する相対回転が規制される。従って、雄ねじ体50、雌ねじ体20は、相対回転防止部材30を介することで互いに相対回転不可となり、雌ねじ体20が機械的に緩まない構造となる。
【0056】
また、相対変位防止部材60を締め付けることで、相対回転防止部材30は、雌ねじ体20と相対変位防止部材60との間で挟み込まれ、軸方向の変位が規制される。また、相対変位防止部材60は、相対回転防止部材30に係合して緩み方向の相対回転が規制され、相対回転防止部材30に対して略離間不可の状態となるため、より強固な雌ねじ体20の緩み止め構造を構成する。
【0057】
第二の実施形態のねじ締結構造は、第一の実施形態のねじ締結構造と同様に、雌ねじ体の係合孔に相対回転防止部材を内挿することで、雄ねじ体に対して雌ねじ体が緩まないねじ締結構造を得ることができる。
【0058】
また、相対変位防止部材を、相対回転防止部材を挟んで雌ねじ体に対向する箇所に配することで、相対回転防止部材の軸方向に沿った変位を規制して係合孔から抜脱するのを防止できる。また、相対回転防止部材と相対変位防止部材とが周方向に係合しているので、相対変位防止部材が緩み方向に回転してしまうことを防止することができ、相対回転防止部材と相対変位防止部材とを略一体化させることができる。
【0059】
なお、上述した各実施形態において、頭部12の外形は、六角形状に限定されるものではなく、円やルーローの多角形等の定幅図形状、略楕円状、矩形状、星形等を含む多角形状等であってもよく、また頭部12を円形状にして頂面にドライバ等の締結工具を係合するための溝(すりわり等)、穴(十字穴、六角穴等)、凸形状を設けても好い。
【0060】
なお、係合孔24をテーパ形状として説明したが、必ずしもテーパ形状である必要はなく、ストレート状であっても湾曲状や曲線状を成すものであってもよいが、寸法誤差等の吸収を図る場合には、テーパ形状であることが好ましい。
【0061】
なお、相対回転防止部材30フランジ部34の端面を凹状のテーパ形状、相対変位防止部材40の端面を凸状のテーパ形状としたが、少なくとも、相対回転防止部材30と相対変位防止部材40とが互いの端面を周方向に係合するものであればよく、フランジ部34の端面が凸状、即ち軸方向外側に向って縮径するテーパ面であって、相対変位防止部材40の端面が凹状、即ち軸方向外側に向って拡径するテーパ面であってもよい。勿論、フランジ部34も必ずしも必要なものではなく省略してもよいことは言うまでもない。
【0062】
なお、上述した第二の実施形態において、スリット37の大きさや数は適宜設定し得、例えば、周方向に沿って所定間隔毎に形成したり、係合面36a或いは拡径面36bの一部を軸方向に沿って切り欠くように形成したりしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…ねじ締結構造、10,50…雄ねじ体、12…頭部、14…軸部、15…雄ねじ部、20…雌ねじ体、22…雌ねじ部、24…係合孔、26…雌ねじ側凹凸、30…相対回転防止部材、32…本体部、34…フランジ部、36…内周面、37…スリット、38…部材側凹凸、40,60…相対変位防止部材、100,110…被締結部材。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14