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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】化粧料用粉末材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20240305BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240305BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240305BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240305BHJP
   A61Q 1/08 20060101ALI20240305BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/29
A61K8/37
A61Q1/00
A61Q1/02
A61Q1/08
A61Q1/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022541547
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028668
(87)【国際公開番号】W WO2022030462
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020134477
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391015373
【氏名又は名称】大東化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】土屋 玲一郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 春香
(72)【発明者】
【氏名】小田 弥生
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-209035(JP,A)
【文献】特開2017-114786(JP,A)
【文献】特開2011-105605(JP,A)
【文献】特開2014-141483(JP,A)
【文献】特開2014-009175(JP,A)
【文献】特開2019-116432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/19
A61K 8/29
A61K 8/37
A61Q 1/00
A61Q 1/02
A61Q 1/08
A61Q 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を有機溶剤に分散、懸濁、又は溶解させた混合液、及び化粧料用粉体を混合する混合工程と、
前記混合工程において得た混合物を熱処理する熱処理工程と
を包含する化粧料用粉末材料の製造方法であって、
前記エステル化合物は、テトライソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記化粧料用粉体は、分散性を有し、
前記化粧料用粉末材料は、前記エステル化合物を0.1~10質量%含有し、全体として粉体としての性状を有する、化粧料用粉末材料の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程における処理温度は、70~150℃に設定される請求項1に記載の化粧料用粉末材料の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程は、攪拌下の前記化粧料用粉体に前記混合液を添加することにより行われる請求項1又は2に記載の化粧料用粉末材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油剤への分散性に優れた化粧料用粉末材料、当該化粧料用粉末材料の製造方法、及び当該化粧料用粉末材料を配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体の油剤への分散性は、製剤の外観、機能性、安定性、使用感等の性質を左右する重要なファクターである。従来、油剤への分散性を向上させる目的で、化粧料用粉末材料の表面をイソプロピルトリイソステアロイルチタネートで被覆することによって親油化したものが、ファンデーション等に利用されている。イソプロピルトリイソステアロイルチタネートは、分岐構造をもったイソステアリル基を一分子中に複数有している。このような分子構造を有するイソプロピルトリイソステアロイルチタネートで表面処理された化粧料用粉末材料は、親油性が高くなり、化粧料製剤に利用されるシリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れに対しても分散性に優れたものとなる。
【0003】
しかしながら、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートは、それ自体が赤色を呈するため、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートにより表面処理された化粧料用粉末材料も赤色を呈し、製剤の外観色に影響することが問題となっている。そこで、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートに代替する表面処理剤として、ポリヒドロキシ脂肪酸またはその誘導体(例えば、特許文献1を参照)や、飽和脂肪酸トリグリセライド(例えば、特許文献2を参照)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-291199号公報
【文献】特開昭61-176667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の表面処理顔料素材は、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤に対する良好な分散性を示すが、シリコーン系油剤に対する分散性が劣るものであった。また、特許文献2の体質顔料は、表面処理剤として用いられている飽和脂肪酸トリグリセライドが分子中のアルキル鎖に分岐構造を有しておらず、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートにより表面処理された化粧料用粉末材料と比較すると、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れの油剤への分散性も大幅に劣るものであった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れに対しても優れた分散性を有しながら、製剤の外観色に影響を与えない化粧料用粉末材料、当該化粧料用粉末材料の製造方法、及び当該化粧料用粉末材料を配合した化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る化粧料用粉末材料の特徴構成は、
炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物で表面処理された化粧料用粉体を含むことにある。
【0008】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、化粧料用粉体が炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物で表面処理されることにより、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れに対しても分散性が優れたものとなる。また、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物は無色であるため、当該エステル化合物で表面処理された化粧料用粉体が着色されず、製剤の外観色に影響を与える虞がない。
【0009】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
前記エステル化合物は、テトライソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0010】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、エステル化合物が、分岐構造をもったイソステアリル基、又は直鎖構造をもったラウリル基、カプリル基、若しくはカプリン基を一分子中に一つ以上有し、かつモノグリセリル基、ジグリセリル基、又はデカグリセリルを有するテトライソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルからなる群から選択される少なくとも一つであることにより、化粧料用粉体の親油性が高くなり、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤への分散性がより優れたものとなる。
【0011】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
前記エステル化合物を0.1~10質量%含有することが好ましい。
【0012】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、エステル化合物を0.1~10質量%含有することにより、エステル化合物が化粧料用粉体の粒子間に存在する分散体の状態ではなく、エステル化合物が化粧料用粉体の表面を被覆して化粧料用粉末材料が全体として粉体としての性状を有するものとなる。その結果、化粧料用粉体の親油性がより高くなり、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤への分散性がさらに優れたものとなる。
【0013】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
前記化粧料用粉体は、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、酸化亜鉛、酸化ケイ素、パールマイカ、マイカ、及びセリサイトからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0014】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、化粧料用粉体として上記の適切なものを選択することにより、これらの化粧料用粉体を顔料として配合したファンデーション、アイシャドー、アイブロー、ほほ紅等のメイクアップ化粧料において、エステル化合物の色により製剤の外観色が影響を受けることがなく、機能性、安定性、使用感等を向上させることができる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明に係る化粧料用粉末材料の製造方法の特徴構成は、
炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を有機溶剤に分散、懸濁、又は溶解させた混合液、及び化粧料用粉体を混合する混合工程と、
前記混合工程において得た混合物を熱処理する熱処理工程と
を包含することにある。
【0016】
本構成の化粧料用粉末材料の製造方法によれば、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を有機溶剤に分散、懸濁、又は溶解させた混合液、及び化粧料用粉体を混合する混合工程と、混合工程において得た混合物を熱処理する熱処理工程とを包含することにより、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物で表面処理された化粧料用粉体を含む化粧料用粉末材料を得ることができる。この化粧料用粉末材料は、化粧料用粉体が炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物で表面処理されることにより、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れに対しても分散性が優れたものとなる。また、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物は無色であるため、当該エステル化合物で表面処理された化粧料用粉体が着色されず、製剤の外観色に影響を与える虞がない。
【0017】
本発明に係る化粧料用粉末材料の製造方法において、
前記熱処理工程における処理温度は、70~150℃に設定されることが好ましい。
【0018】
本構成の化粧料用粉末材料の製造方法によれば、熱処理工程における処理温度が70~150℃に設定されることにより、化粧料用粉体の表面において、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物の親水基が化粧料用粉体側へ配向し、化粧料用粉体の親油性が高まる。その結果、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤に対する分散性がより優れた化粧料用粉末材料を得ることができる。
【0019】
本発明に係る化粧料用粉末材料の製造方法において、
前記混合工程は、攪拌下の前記化粧料用粉体に前記混合液を添加することにより行われることが好ましい。
【0020】
本構成の化粧料用粉末材料の製造方法によれば、混合工程が、攪拌下の化粧料用粉体に混合液を添加することにより行われることにより、表面処理剤となる少量のエステル化合物によって化粧料用粉体の表面を短時間で均一に被覆することができる。
【0021】
上記課題を解決するための本発明に係る化粧料の特徴構成は、
上述の化粧料用粉末材料を配合したことにある。
【0022】
本構成の化粧料は、上述の化粧料用粉末材料を配合したことにより、機能性、安定性、及び使用感に優れた製品となる。また、表面処理に用いたエステル化合物が無色であるため、当該エステル化合物で表面処理された化粧料用粉体が着色されず、製剤の外観色が影響を受ける虞がない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、油剤分散性評価試験1の結果を示すグラフである。
図2図2は、エステル系油剤を用いた吸油量測定でのトルク曲線である。
図3図3は、炭化水素系油剤を用いた吸油量測定でのトルク曲線である。
図4図4は、シリコーン系油剤を用いた吸油量測定でのトルク曲線である。
図5図5は、油剤分散性評価試験2の結果を示すグラフである。
図6図6は、撥水性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の化粧料用粉末材料、化粧料用粉末材料の製造方法、及び化粧料について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されることを意図するものではない。
【0025】
〔化粧料用粉末材料〕
本発明の化粧料用粉末材料は、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れに対しても優れた分散性を有するものであり、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物で表面処理された化粧料用粉体を含有する。
【0026】
<エステル化合物>
本発明の化粧料用粉末材料において、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物は、化粧料用粉体を親油化させるための表面処理剤として用いられる。炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物は無色であるため、当該エステル化合物で化粧料用粉体を表面処理しても化粧料用粉体の色に影響を与える虞がない。前記脂肪酸のうち、炭素数8~18の脂肪酸が好ましい。前記脂肪酸は、分岐状であっても、直鎖状であってもよい。グリセリンは、重合していない(すなわち、単量体である)モノグリセリン、及び重合している(すなわち、重合体である)ポリグリセリンを含む。ポリグリセリンを用いる場合、その重合度は特に限定されないが、2以上10以下が好ましい。グリセリンとしては、単量体であるモノグリセリン、重合度が2であるジグリセリン、又は重合度が10であるデカグリセリンが好ましい。炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物としては、例えば、テトライソステアリン酸ジグリセリル(DG4ISA)、トリイソステアリン酸ジグリセリル(DG3ISA)、ジイソステアリン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリエチルヘキサン酸グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルが挙げられ、これらの中でも、DG4ISA、DG3ISA、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルが好ましい。DG4ISA、DG3ISA、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルは、分岐構造をもったイソステアリル基、又は直鎖構造を有するラウリル基、カプリル基、若しくはカプリン基を一分子中に一つ以上有し、かつモノグリセリル基、ジグリセリル基、又はデカグリセリル基を有するため、化粧料用粉体を表面処理したときに特に優れた親油性を付与することができる。また、DG4ISA、DG3ISA、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、及びジイソステアリン酸デカグリセリルは、天然由来の素材であるため、化学合成品を好まない健康志向の化粧料ユーザも安心して使用することができる。なお、上掲の各エステル化合物は、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0027】
本発明の化粧料用粉末材料におけるエステル化合物の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。エステル化合物の含有量が上記の範囲にあれば、エステル化合物が化粧料用粉体の粒子間に存在する分散体の状態ではなく、エステル化合物が化粧料用粉体の表面を被覆して化粧料用粉末材料が全体として粉体としての性状を有するものとなる。その結果、化粧料用粉体の親油性がより高くなり、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤への分散性がさらに優れたものとなる。また、化粧料用粉末材料をシリコーン系油剤、炭化水素系油剤、又はエステル系油剤に分散させた際の粘度が適切なものとなるため、使用感に優れた化粧料を得ることができる。さらに、必要量以上にエステル化合物を含有することがないため、化粧料の製造コストを抑えることができる。エステル化合物の含有量が0.1質量%以上であることによって、化粧料用粉体を十分に被覆することができ、親油性の付与が十分なものとなる。また、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤に分散させた際に粘度を小さくすることができる。エステル化合物の含有量が10質量%以下であることによって、必要量以上にエステル化合物を含有することを抑制できるため、経済的なメリットを享受することができる。加えて、過剰な量のエステル化合物が化粧料用粉体の粒子間に存在することを抑制できるため、化粧料用粉末材料が全体として分散体としての性状を示すことを抑制し、化粧料用粉体に適切な親油性を付与できる。ここで、エステル化合物による化粧料用粉体の表面処理工程後、化粧料用粉末材料が粉末の状態で凝集すると、特に粉末化粧料(パウダーファンデーション、アイシャドー、ほほ紅等)への利用が、感触面や製造工程面(混色できない)等の観点から困難になるおそれがある。この点につき、エステル化合物の含有量が10質量%以下であることによって、化粧料用粉末材料が粉末の状態で凝集することを抑制できるため、上記粉末化粧料への利用が制限されないという利点がある。
【0028】
<化粧料用粉体>
化粧料用粉体は、本発明の化粧料用粉末材料の基材となる粉体である。化粧料用粉体として、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、酸化亜鉛、酸化ケイ素、パールマイカ、マイカ、カーボンブラック、ベンガラ、酸化セリウム、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト、群青、紺青、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、カオリン、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、バーミキュライト、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ホウ素、パール顔料、及びオキシ塩化ビスマス等の無機顔料、赤色3号、赤色10号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色227号、赤色228号、赤色230号、赤色401号、赤色405号、赤色505号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、黄色205号、黄色401号、橙色201号、橙色203号、橙色204号、橙色205号、橙色206号、橙色207号、青色1号、青色2号、青色201号、青色404号、緑色3号、緑色201号、緑色204号、及び緑色205号等の有機色素、クロロフィル、及びβ-カロチン等の天然色素、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、及びステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、タール顔料、ナイロンパウダー、セルロースパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリメタクリル酸メチルパウダー、ポリスチレンパウダー、アクリルパウダー、及びシリコーンパウダー等の有機粉体が挙げられる。これらの化粧料用粉体は、単独又は混合して使用することができる。特に、本発明の化粧料用粉末材料は、表面処理剤として無色の炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を用いることで、当該エステル化合物で表面処理された化粧料用粉体の色、及び製剤の外観色に影響を与えないように構成するものであるため、ファンデーション、アイシャドー、アイブロー、及びほほ紅等のメイクアップ化粧料に配合される顔料粉体、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、酸化亜鉛、酸化ケイ素、パールマイカ、マイカ、及びセリサイト等を好適に使用することができる。
【0029】
<その他成分>
本発明の化粧料用粉末材料は、エステル化合物、及び化粧料用粉体以外の成分を含むことも可能である。そのような成分として、例えば、シリコーン類、アルキルシラン類、アルキルチタネート類、フッ素化合物類、アミノ酸化合物類、脂肪酸化合物類が挙げられる。これらの成分は、エステル化合物と組み合わせて化粧料用粉体の表面処理に用いることができる。
【0030】
〔化粧料用粉末材料の製造方法〕
本発明の化粧料用粉末材料は、下記(I)及び(II)の工程を実施することで製造することができる。
【0031】
(I)混合工程
混合工程では、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を、有機溶剤に分散、懸濁、又は溶解させた混合液を調製し、この混合液と化粧料用粉体とを混合する。有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、及び高極性有機溶媒(アセトン、酢酸エチル)等が挙げられる。これらの有機溶剤は、使用するエステル化合物を適切に分散、懸濁、又は溶解できるものを使用する。例えば、エステル化合物としてDG4ISAを使用する場合、有機溶剤には、ヘキサン等の極性の低い炭化水素系溶媒を使用することが好ましい。エステル化合物としてDG3ISA、ジイソステアリン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、ジラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、又はジイソステアリン酸デカグリセリルを使用する場合、有機溶剤には、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、及び高極性有機溶媒の何れも好適に使用することができる。予めエステル化合物を有機溶剤に分散、懸濁、又は溶解させておくことで、表面処理剤である少量のエステル化合物によって、短時間で化粧料用粉体の表面を均一に被覆することが容易となる。有機溶剤の量は、混合液を混合する化粧料用粉体の10~30質量%であることが好ましい。有機溶剤の量が上記の範囲にあれば、化粧料用粉末材料におけるエステル化合物の含有量を0.1~10質量%に設定する場合に、エステル化合物による化粧料用粉体の表面の均一な被覆がより容易なものとなる。有機溶剤の量が化粧料用粉体の10質量%以上であることによって、有機溶剤に対する化粧料用粉体の濡れ性が低くても、化粧料用粉体の表面をエステル化合物によって均一に被覆できる。これにより、化粧料用粉体との混合に要する時間が短縮し、化粧料用粉末材料の製造効率を向上させることができる。有機溶剤の量が化粧料用粉体の30質量%以下であることによって、混合液と化粧料用粉体との混合後、有機溶剤の除去に要する時間が短縮し、化粧料用粉末材料の製造効率を向上させることができる。混合液と化粧料用粉体との混合方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、ニーダー、V型混合機、ロールミル等の混合機を用いる方法が挙げられる。混合機を用いる方法では、攪拌下の化粧料用粉体に、混合液を徐々に添加しながら混合することが好ましい。また、本発明の製造方法では、有機溶剤として、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物の沸点より低い沸点を有するn-ヘキサン、イソプロピルアルコール等を用い、混合時又は混合後に加熱し、有機溶剤を揮発させることで除去することが好ましい。
【0032】
(II)熱処理工程
熱処理工程では、混合工程において得た混合物を熱処理する。熱処理により、化粧料用粉体の表面が、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物によって被覆された本発明の化粧料用粉末材料が得られる。熱処理工程における処理温度は、70~150℃に設定されることが好ましい。処理温度が上記の範囲にあれば、化粧料用粉体の表面において、炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物の親水基が化粧料用粉体側へ配向し、本発明の化粧料用粉末材料における化粧料用粉体の親油性がより高くなる。その結果、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、又はエステル系油剤に対する分散性がさらに優れたものとなる。処理温度が70℃以上であることによって、エステル化合物が適切に配向し、化粧料用粉体に十分な親油性を付与できる。処理温度が150℃以下であることによって、エステル化合物が一部揮発又は分解することを抑制でき、これにより、化粧料用粉体の表面を適切に被覆でき、化粧料用粉体に十分な親油性を付与できる。熱処理工程における処理時間は、3~9時間に設定されることが好ましい。処理時間が上記の範囲にあれば、化粧料用粉体の表面における炭素数8~20の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物の配向の程度が適切なものとなる。処理時間が3時間以上であることによって、エステル化合物が適切に配向し、化粧料用粉体に十分な親油性を付与できる。処理時間が9時間以下であることによって、エステル化合物が一部揮発又は分解することを抑制でき、これにより、化粧料用粉体の表面を適切に被覆でき、化粧料用粉体に十分な親油性を付与できる。また、熱処理後には、粉砕処理を施すことが好ましい。熱処理後に粉砕を行う場合においては、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミル等の通常の粉砕機を用いることができる。何れの粉砕機によっても同等の品質のものが得られるため、特に限定されるものではない。
【0033】
本発明の化粧料用粉末材料は、十分な親油性を有することが好ましい。親油性の程度は、水に対する濡れ難さの程度で表わされる。水に対する濡れ難さは、例えば撥水性で表され、撥水性は水に対する接触角で表される。すなわち、親油性が高い程、撥水性が高くなり、接触角が大きくなる。よって、本発明の化粧料用粉末材料の接触角が大きい程、親油性が高くなるため、この観点から、本発明の化粧料用粉末の接触角は、60°以上が好ましく、100°以上がより好ましい。一方、前記接触角の上限値については特に定める必要はないが、150°程度が水玉を形成し得る限界となる。
【0034】
〔化粧料〕
本発明の化粧料は、上述した化粧料用粉末材料を配合したものである。化粧料用粉末材料の配合量は特に限定されないが、好ましくは0.1~95重量%である。上述した化粧料用粉末材料を配合することによって、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れの油剤を用いた化粧品であっても、化粧料用粉末材料の分散性が優れたものとなり、機能性、安定性、及び使用感に優れた化粧料とすることができる。また、化粧料用粉末材料において表面処理に用いられるエステル化合物が無色であるため、この化粧料用粉末材料を配合した化粧料の外観色が、エステル化合物の色に影響を受ける虞がない。
【0035】
さらに、本発明の化粧料には通常化粧料に用いられる成分、例えば、粉体、界面活性剤、油剤、ゲル化剤、高分子、美容成分、保湿剤、色素、防腐剤、香料等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【実施例
【0036】
<化粧料用粉末材料>
本発明の化粧料用粉末材料(実施例1及び2)を作製し、油剤分散性評価試験を実施した。実施例1の化粧料用粉末材料については、さらに、油剤への分散特性を評価した。また、比較のため、本発明の範囲外となる化粧料用粉末材料(比較例1及び2)を作製し、同様の試験及び評価を実施した。この他、実施例3~21、及び比較例3~7の化粧料用粉末材料を作製し、後述する各試験又は評価に供した。
【0037】
〔実施例1〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを2g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン98gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例1の化粧料用粉末材料を得た。実施例1の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が2.0質量%であった。
【0038】
〔実施例2〕
表面処理剤として、DG3ISAを用いた。それ以外は実施例1と同様とし、実施例2の化粧料用粉末材料を得た。実施例2の化粧料用粉末材料は、DG3ISAの含有量が2.0質量%であった。
【0039】
〔実施例3〕
化粧料用粉体として、酸化鉄(黄色、赤色、黒色の混合物)を用いた。それ以外は実施例1と同様とし、実施例3の化粧料用粉末材料を得た。実施例3の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0040】
〔実施例4〕
化粧料用粉体として、タルク粉末を用いた。それ以外は実施例1と同様とし、実施例4の化粧料用粉末材料を得た。実施例4の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0041】
〔実施例5〕
化粧料用粉体として、酸化鉄(黄色、赤色、黒色の混合物)を用いた。それ以外は実施例2と同様とし、実施例5の化粧料用粉末材料を得た。実施例5の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0042】
〔実施例6〕
化粧料用粉体として、タルク粉末を用いた。それ以外は実施例2と同様とし、実施例6の化粧料用粉末材料を得た。実施例6の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0043】
〔実施例7〕
イソプロピルアルコール10gに表面処理剤となるトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを2g添加して溶解させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン98gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例7の化粧料用粉末材料を得た。実施例7の化粧料用粉末材料は、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルの含有量が2.0質量%であった。
【0044】
〔実施例8〕
表面処理剤としてトリエチルヘキサン酸グリセリルを用いた。それ以外は実施例7と同様とし、実施例8の化粧料用粉末材料を得た。実施例8の化粧料用粉末材料は、トリエチルヘキサン酸グリセリルの含有量が2.0質量%であった。
【0045】
〔実施例9〕
表面処理剤として、ジラウリン酸グリセリルを用いた。それ以外は実施例7と同様とし、実施例9の化粧料用粉末材料を得た。実施例9の化粧料用粉末材料は、ジラウリン酸グリセリルの含有量が2.0質量%であった。
【0046】
〔実施例10〕
表面処理剤として、トリイソステアリン酸グリセリルを用いた。それ以外は実施例7と同様とし、実施例10の化粧料用粉末材料を得た。実施例10の化粧料用粉末材料は、トリイソステアリン酸グリセリルの含有量が2.0質量%であった。
【0047】
〔実施例11〕
表面処理剤として、モノイソステアリン酸デカグリセリルを用いた。それ以外は実施例7と同様とし、実施例11の化粧料用粉末材料を得た。実施例11の化粧料用粉末材料は、モノイソステアリン酸デカグリセリルの含有量が2.0質量%であった。
【0048】
〔実施例12〕
表面処理剤として、ジイソステアリン酸デカグリセリルを用いた。それ以外は実施例7と同様とし、実施例12の化粧料用粉末材料を得た。実施例12の化粧料用粉末材料は、ジイソステアリン酸デカグリセリルの含有量が2.0質量%であった。
【0049】
〔実施例13〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを0.1g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン99.9gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例13の化粧料用粉末材料を得た。実施例13の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が0.1質量%であった。
【0050】
〔実施例14〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを0.5g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン99.5gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例14の化粧料用粉末材料を得た。実施例14の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が0.5質量%であった。
【0051】
〔実施例15〕
熱処理の温度を50℃に変更したこと以外は実施例14と同様とし、実施例15の化粧料用粉末材料を得た。実施例15の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が0.5質量%であった。
【0052】
〔実施例16〕
熱処理の温度を70℃に変更したこと以外は実施例14と同様とし、実施例16の化粧料用粉末材料を得た。実施例16の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が0.5質量%であった。
【0053】
〔実施例17〕
熱処理の温度を150℃に変更したこと以外は実施例14と同様とし、実施例17の化粧料用粉末材料を得た。実施例17の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が0.5質量%であった。
【0054】
〔実施例18〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを1.0g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン99.0gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例18の化粧料用粉末材料を得た。実施例18の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が1.0質量%であった。
【0055】
〔実施例19〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを5.0g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン95.0gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例19の化粧料用粉末材料を得た。実施例19の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が5.0質量%であった。
【0056】
〔実施例20〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを10.0g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン90.0gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例20の化粧料用粉末材料を得た。実施例20の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が10.0質量%であった。
【0057】
〔実施例21〕
n-ヘキサン10gに表面処理剤となるDG4ISAを11.0g添加して分散させ、混合液を調製した。次に、化粧料用粉体として酸化チタン89.0gをミキサーで攪拌し、ここに混合液を滴下して10分間混合することにより混合物を調製した。この混合物を110℃で6時間熱処理し、熱処理により得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例21の化粧料用粉末材料を得た。実施例21の化粧料用粉末材料は、DG4ISAの含有量が11.0質量%であった。
【0058】
〔比較例1〕
表面処理剤として、従来用いられている赤色を呈するイソプロピルトリイソステアロイルチタネートを使用した。それ以外は実施例1と同様とし、比較例1の化粧料用粉末材料を得た。比較例1の化粧料用粉末材料は、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートの含有量が2.0質量%であった。
【0059】
〔比較例2〕
表面処理剤として、ポリヒドロキシステアリン酸(PHSA)を用いた。それ以外は実施例1と同様とし、比較例2の化粧料用粉末材料を得た。比較例2の化粧料用粉末材料は、PHSAの含有量が2.0質量%であった。
【0060】
〔比較例3〕
化粧料用粉体として、酸化鉄(黄色、赤色、黒色の混合物)を用いた。それ以外は比較例1と同様とし、比較例3の化粧料用粉末材料を得た。比較例3の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0061】
〔比較例4〕
化粧料用粉体として、タルク粉末を用いた。それ以外は比較例1と同様とし、比較例4の化粧料用粉末材料を得た。比較例4の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0062】
〔比較例5〕
化粧料用粉体として、酸化鉄(黄色、赤色、黒色の混合物)を用いた。それ以外は比較例2と同様とし、比較例5の化粧料用粉末材料を得た。比較例5の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0063】
〔比較例6〕
化粧料用粉体として、タルク粉末を用いた。それ以外は比較例2と同様とし、比較例6の化粧料用粉末材料を得た。比較例6の化粧料用粉末材料は、後述するW/O型リキッドファンデーションに配合し、化粧料の安定性の評価にのみ用いた。
【0064】
〔比較例7〕
化粧料用粉体として、酸化チタン粉末を用いた。この酸化チタン粉末を、表面処理することなく、そのまま比較例7の化粧料用粉末材料として用いた。
【0065】
<油剤分散性評価試験1>
化粧料用粉末材料の油剤への分散性が大きい程、油剤に化粧料用粉末材料を分散させた分散体の粘度は小さくなることが知られている。そこで、油剤分散性評価試験1として、実施例1、2、7、8、9、10、11、及び12、並びに比較例1及び2の化粧料用粉末材料を油剤に分散させた分散体の粘度を、B型粘度計を用いて測定した。分散体は、化粧料用粉末材料60gと油剤40gとを、1000rpmで10分間撹拌混合することにより調製したものを用いた。油剤は、エステル系油剤であるトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、炭化水素系油剤であるスクワラン、及びシリコーン系油剤であるジメチコンオイルを用いた。
【0066】
図1は、油剤分散性評価試験1の結果を示すグラフである。実施例1、2、7、8、9、10、11、及び12の化粧料用粉末材料は、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、スクワラン、及びジメチコンオイルの何れの油剤を用いた分散体でも、比較例1の化粧料用粉末材料の各油剤を用いた分散体と近い粘度を示した。本発明の化粧料用粉末材料は、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れの油剤に対しても、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートで表面処理された化粧料用粉末材料と同程度の優れた分散性を有することが確認された。本発明の化粧料用粉末材料は、従来、多くの製品で使用されていたイソプロピルトリイソステアロイルチタネートで表面処理された化粧料用粉末材料の代替品として使用可能であると考えられる。特に、油剤としてスクワランを用いた場合、実施例1、2、9、10、11、及び12の化粧料用粉末材料は、比較例1の化粧料用粉末材料よりも分散体の粘度が小さかった。また、油剤としてジメチコンを用いた場合、実施例7の化粧料用粉末材料は、比較例1の化粧料用粉末材料よりも分散体の粘度が小さかった。この観点では、炭化水素系油剤を用いた化粧料では、本発明の化粧料用粉末材料は、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートで表面処理された化粧料用粉末材料よりも好適に使用できると考えられる。
【0067】
一方、表面処理剤としてPHSAを用いた比較例2の化粧料用粉末材料は、ジメチコンオイルを用いた分散体での粘度が大きく、十分な分散性を有していないことが確認された。
【0068】
<分散特性評価>
JIS K 6217-4「カーボンブラックのオイル吸収量の求め方」に準拠した粉体の吸油量測定において、回転翼で撹拌されている試料に油剤を添加するにつれて、自由に流動する粉体から粘性をもつ凝集体へと変化したときの粘性特性の変化によって回転翼に発生するトルクを記録したトルク曲線は、粉体が吸収可能な油剤の量、油剤に対する粉体の濡れ性、及び凝集体の硬さ等によって、その波形が影響を受ける。そのため、トルク曲線の波形が類似する粉体は、油剤との相性、即ち分散特性が類似していると考えられる。そこで、実施例1、並びに比較例1及び2の化粧料用粉末材料の吸油量を、JIS K 6217-4「カーボンブラックのオイル吸収量の求め方」に準拠してアブソープトメータを用いて測定し、測定時のトルク曲線の波形の比較により、化粧料用粉末材料の油剤への分散特性を評価した。トルク曲線は、具体的には、混合室に化粧料用粉末材料50gをはかりとり、混合室内で回転翼による撹拌中の化粧料用粉末材料に油剤を一定の速度で滴下し、このとき回転翼にかかるトルクを測定することによって作成した。油剤は、エステル系油剤であるトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、炭化水素系油剤である炭素数9~12のアルカン、及びシリコーン系油剤であるジメチコンオイルを用いた。
【0069】
図2は、エステル系油剤を用いた吸油量測定でのトルク曲線であり、図3は、炭化水素系油剤を用いた吸油量測定でのトルク曲線であり、図4は、シリコーン系油剤を用いた吸油量測定でのトルク曲線である。実施例1の化粧料用粉末材料は、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤の何れの油剤を用いた場合にも、比較例1の化粧料用粉末材料とトルク曲線の波形が類似しており、特に、エステル系油剤、及びシリコーン系油剤を用いた場合、比較例1の化粧料用粉末材料とトルク曲線の波形が極めて近いものとなった。本発明の化粧料用粉末材料は、シリコーン系油剤、炭化水素系油剤、及びエステル系油剤への分散特性が、従来の多くの製品で使用されていたイソプロピルトリイソステアロイルチタネートで表面処理された化粧料用粉末材料と類似することが確認された。
【0070】
一方、表面処理剤としてPHSAを用いた比較例2の化粧料用粉末材料は、シリコーン系油剤を用いた場合、比較例1の化粧料用粉末材料とトルク曲線の波形が全く異なるものとなり、さらに、比較例2の化粧料用粉末材料での粘性抵抗トルクの最大値は、比較例1の化粧料用粉末材料での粘性抵抗トルクの最大値の約10倍と非常に大きくなった。このように、シリコーン系油剤への分散特性について、比較例2の化粧料用粉末材料は、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートで表面処理された化粧料用粉末材料と大きく相違することが確認された。
【0071】
<油剤分散性評価試験2>
一般に、化粧料用粉体の表面処理においては、得られる化粧料用粉末材料中に含有される表面処理剤(エステル化合物)の量が適切に設定されることが好ましい。エステル化合物の含有量が小さすぎれば、十分な効果を発揮できない虞がある。一方、エステル化合物の含有量が大きすぎれば、表面処理工程後、化粧料用粉末材料が粉末の状態で凝集し、粉末化粧料(パウダーファンデーション、アイシャドー、ほほ紅等)への利用が、感触面や製造工程面(混色できない)等の観点から困難になるおそれがある。そこで、化粧料用粉末材料中のエステル化合物の最適な含有量を調べるため、DG4ISAの濃度が異なる実施例13、14、18、19、20、及び21について、上述した油剤分散性評価試験1と同様にして、油剤分散性評価試験2を行った。結果を図5に示す。なお、図5には、上述した油剤分散性評価試験1での実施例1(2.0質量%)の結果を併せて示す。
【0072】
図5は、油剤分散性評価試験2の結果を示すグラフである。なお、比較例7のように未処理(表面処理剤が添加されていない)の化粧料用粉末材料は、その分散体中の濃度が本試験で用いられる程度の濃度(60質量%)である場合には、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、スクワラン、及びジメチコンオイルに対して分散することができず、ペーストを得ることができなかった。よって、未処理の化粧料用粉末材料は、粘度を測定することができなかった。一方、0.1質量%のエステル化合物を含有する化粧料用粉末材料では、ペーストを得ることができ、粘度を測定することが可能であった。その結果、0.1質量%以上のエステル化合物を含有する化粧料用粉末材料では、表面処理の効果を奏することが確認された。また、エステル化合物の含有量が大きい程、分散体の粘度が小さく、分散性が良好であることが確認された。一方、11質量%以上のエステル化合物を含有する化粧料用粉末材料では、油剤に対する分散性は十分に良好であったが、化粧料用粉末材料が粉末の状態で凝集し、粉末化粧料(パウダーファンデーション、アイシャドー、ほほ紅等)への利用が、感触面や製造工程面(混色できない)等の観点から困難になる傾向にあった。従って、化粧料用粉末材料中のエステル化合物の含有量は、0.1~10%が好ましいことが確認された。
【0073】
<撥水性試験>
化粧料用粉体を表面処理する際、熱処理工程は、重要な工程である。熱処理工程における処理温度が低すぎる場合には、十分な撥水性や分散性が得られない虞がある。一方、処理温度が高すぎる場合には、表面処理剤の分解や揮発、変色が生じ易くなる。上述した通り、撥水性は、接触角で表される。接触角は、タブレット状に打錠した化粧料用粉末材料と、滴下した水滴とで形成される角度であり、その測定値は、撥水性の程度を示す。従って、化粧料用粉末材料の接触角が大きくなるほど、その撥水性は高くなる。そこで、撥水性試験として、異なる処理温度で熱処理した実施例14、15、16、及び17の化粧料用粉末材料、並びに未処理の(表面処理されておらず、よって熱処理されていない)比較例7の化粧料用粉末材料の接触角を、以下のように測定した。まず、適量の化粧料用粉末を鋳型に詰め、10MPaの圧縮力で打錠することによって、接触角測定用のタブレットを作製した。作製したタブレットを接触角測定装置(接触角計LSE-B100、ニック社製)に設置し、シリンジを用いて水滴をタブレット上に滴下し、水滴とタブレットとの間に形成される接触角(°)を測定した。結果を図6に示す。
【0074】
図6は、撥水性試験の結果を示すグラフである。未処理の比較例7では、水滴が化粧料用粉末材料に染み込んでしまい、その表面に水滴が存在しなかったため、接触角は生じなかった。図6より明らかなように、処理温度が70℃未満では、十分な撥水性が得られ難い傾向にあった。一方、処理温度が70~150℃では、十分な撥水性が得られた。なお、処理温度が150℃超では、DG4ISAの揮発、分解が生じる傾向にあった。よって、処理温度は、70~150℃以下が好ましいことが確認された。
【0075】
<化粧料>
〔実施例22及び23、比較例8及び9〕
下記の製法を用いて表1示す処方で実施例22及び23、並びに比較例8及び9の化粧料(W/O型リキッドファンデーション)を得た。なお、各成分の配合量の単位は質量%とする。
【0076】
(W/O型リキッドファンデーションの製法)
先ず、粉体成分である成分Bを混合し、これをミキサーを用いて均一になるまでよく撹拌した。次に、油性成分である成分Aを混合し、これを80℃に加温し、ディスパーを用いて均一になるまでよく撹拌混合した。このディスパーによる撹拌下の成分Aの混合物に、成分Bの混合物を徐々に添加しながら、50℃まで徐冷した。水性成分である成分Cを混合し、これを80℃に加温して均一に溶解させた後、50℃まで徐冷した。最後に、ディスパーによる撹拌下において、50℃まで徐冷した成分A及びBの混合物中に、50℃まで徐冷した成分Cの混合物を徐々に添加することで乳化させた。この乳化物を室温まで冷却してW/O型リキッドファンデーションを得た。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例22及び23、並びに比較例8及び9の化粧料を、夫々室温及び45℃の環境下で3週間保管した。保管後の化粧料の外観を目視により観察することで、化粧料の安定性を評価した。
【0079】
実施例22及び23の化粧料は、室温及び45℃の何れの環境下で保管したものにおいても、外観の変化は見られなかった。本発明の化粧料は、優れた安定性を有することが確認された。
【0080】
一方、比較例8の化粧料は、室温及び45℃の何れの環境下で保管したものにおいても、リキッドファンデーションの表面に赤い筋が生じていた。これは、表面処理剤として用いたイソプロピルトリイソステアロイルチタネート自体の色が発色したためと考えられる。比較例9の化粧料は、45℃の環境下で保管したものでは、実施例22及び23、並びに比較例8の化粧料と比較して、リキッドファンデーションの表面の色が濃くなっていた。この比較例9の化粧料を肌に塗布したところ、色変わりが生じた。
【0081】
さらに、実施例22及び23、並びに比較例8及び9の各化粧料について、女性パネラー10名を使用して、使用感に関する官能評価試験を実施した。官能評価試験は、実際に女性パネラーが夫々の化粧料を肌上に塗布した後に、「使用感」、「発色の良さ」、及び「伸び」の3項目に関するアンケートに答える形式で実施した。アンケートでは、各項目に1点から5点までの間の点数をつけてもらい、全パネラーの平均点を結果として表した。評価基準は以下の通りとした。以下に示すように、点数が高い程、評価が優れていることを示す。結果を表2に示す。
1点:化粧料として許容できない。
2点:化粧料として許容できるが、好ましくはない。
3点:化粧料として許容できる。
4点:化粧料として良好である。
5点:化粧料として非常に良好である。
【0082】
【表2】
【0083】
表2より明らかなように、実施例22及び23の化粧料では、比較例8と同等以上の使用感、発色の良さ、伸びを示した。また、比較例9の化粧料と比較すると、実施例22及び23の化粧料の評価は、非常に高く、本発明における化粧料用粉末材料は、メイクアップ化粧料への利用に好適であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の化粧料用粉末材料は、化粧料等に利用可能であり、特に、顔料を配合したファンデーション、アイシャドー、アイブロー、ほほ紅等のメイクアップ化粧料への利用に適する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6